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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】無音域を生成するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20230119BHJP
【FI】
G10K11/178 120
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018140970
(22)【出願日】2018-07-27
(65)【公開番号】P2019028466
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/069189
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(73)【特許権者】
【識別番号】504147933
【氏名又は名称】ハーマン ベッカー オートモーティブ システムズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ニコス ザフェイロポウロス
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-195089(JP,A)
【文献】特表平11-512194(JP,A)
【文献】特表2017-514360(JP,A)
【文献】Jacob Bean et al.,"Hybrid Feedforward-Feedback Noise Control Using Virtual Sensors",NOISE-CON 2016 Conference Paper,米国,Institute of Noise Control Engineering (INCE-USA),2016年06月13日,NOISE-CON 2016
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
聴取位置に無音域を生成するシステムであって、
前記聴取位置に隣接して配置されて、音響信号に対応する音を放射するように構成されるスピーカと、
前記聴取位置に隣接して配置されて、ノイズ源によって1次経路を介して前記聴取位置に放射されるノイズと、前記スピーカによって前記聴取位置に2次経路を介して放射される前記音とを拾い上げるように構成され、対応するエラー信号を生成するように構成されるエラーマイクロフォンと、
前記聴取位置の上に配置される複数のアレイマイクロフォンを備えて、ノイズ源によって1次経路を介して前記聴取位置に放射されるノイズと、前記スピーカによって2次経路を介して放射される前記音とを拾い上げるように構成され、対応するアレイ信号を生成するように構成されるマイクロフォンアレイと、
前記ノイズ源によって生成されるノイズを表すノイズ信号を受信し、制御可能なノイズ低減伝達関数で前記ノイズ信号をフィルタリングするように構成されて、前記スピーカに供給される前記音響信号を生成するノイズ制御装置とを備え、
前記ノイズ制御装置が、前記ノイズ信号及び仮想エラー信号に基づいて前記ノイズ低減伝達関数を制御するようにさらに構成され、かつ前記エラー信号と、グリーン関数マトリクスでフィルタリングされた前記ノイズ信号とに基づいて前記仮想エラー信号を生成するように構成され、前記グリーン関数マトリクスが、前記アレイ信号によって制御されるように構成される、前記システム。
【請求項2】
前記ノイズ制御装置が、前記仮想エラー信号を生成するために、前記エラー信号から、グリーン関数マトリクスでフィルタリングされた前記ノイズ信号を減算するようにさらに構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ノイズ制御装置が、前記ノイズ信号及び仮想エラー信号に基づいて、最小二乗平均方式に従って前記ノイズ低減伝達関数を制御するようにさらに構成される、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記ノイズ制御装置が、前記ノイズ低減伝達関数の制御に使用される前に、前記2次経路の伝達関数をモデル化する伝達関数を用いて前記ノイズ信号をフィルタリングするようにさらに構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記ノイズ制御装置が、前記グリーン関数マトリクスでフィルタリングされる前に、前記2次経路の伝達関数をモデル化する伝達関数を用いて前記ノイズ信号をフィルタリングするようにさらに構成される、請求項1~4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
聴取者の位置を検出して、検出された前記位置に従って前記グリーン関数マトリクスを制御するように構成される位置検出器をさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記スピーカ及び前記エラーマイクロフォンのうちの少なくとも1つがヘッドレストに配置される、請求項1~6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
聴取位置に無音域を生成する方法であって、
前記聴取位置に隣接して配置されるスピーカを用いて、音響信号に対応する音を放射することと、
前記聴取位置に隣接して配置されるエラーマイクロフォンを用いて、ノイズ源によって1次経路を介して前記聴取位置に放射されるノイズと、前記スピーカによって前記聴取位置に2次経路を介して放射される前記音とを拾い上げて、対応するエラー信号を生成することと、
前記聴取位置の上に配置される複数のアレイマイクロフォンを備えたマイクロフォンアレイを用いて、ノイズ源によって1次経路を介して前記聴取位置に放射されるノイズと、前記スピーカによって2次経路を介して前記聴取位置に放射される前記音とを拾い上げて、対応するアレイ信号を生成することと、
前記ノイズ源によって生成されるノイズを表すノイズ信号を受信すること、及び制御可能なノイズ低減伝達関数で前記ノイズ信号をフィルタリングすることによってノイズを制御して、前記スピーカに供給される前記音響信号を生成することとを含み、
ノイズを制御することが、前記ノイズ信号及び仮想エラー信号に基づいて前記ノイズ低減伝達関数を制御すること、及び前記エラー信号と、グリーン関数マトリクスでフィルタリングされた前記ノイズ信号とに基づいて前記仮想エラー信号を生成することをさらに含み、前記グリーン関数マトリクスが、前記アレイ信号によって制御されるように構成される、前記方法。
【請求項9】
ノイズを制御することが、前記仮想エラー信号を生成するために、前記エラー信号から、グリーン関数マトリクスでフィルタリングされた前記ノイズ信号を減算することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ノイズを制御することが、前記ノイズ信号及び仮想エラー信号に基づいて、最小二乗平均方式に従って前記ノイズ低減伝達関数を制御することをさらに含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
ノイズを制御することが、前記ノイズ低減伝達関数を制御することに使用される前に、前記2次経路の伝達関数をモデル化する伝達関数を用いて前記ノイズ信号をフィルタリングすることをさらに含む、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ノイズを制御することが、前記グリーン関数マトリクスでフィルタリングされる前に、前記2次経路の伝達関数をモデル化する伝達関数を用いて前記ノイズ信号をフィルタリングすることをさらに含む、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
聴取者の位置を検出して、検出された前記位置に従って前記グリーン関数マトリクスを制御することをさらに含む、請求項8~12のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
1.技術分野
本開示は、無音域を生成するシステム及び方法(全般に「システム」と称される)に関する。
【0002】
2.従来の技術
例えば、無音域を生成するシステムなどのユーザ関連用途において使用される場合、マイクロフォンは、優れた音響特性を提供するために、ユーザの頭部に可能な限り近接して配置されるべきである。しかしながら、例えば乗り物の内部などの多くの環境では、頭部の近くにマイクロフォンを配置することがほとんどできないか、あるいは配置することさえまったくできない。したがっていくつかの用途では、マイクロフォンは、可撓性アーム、ヒンジ式ホルダ、剛性支柱、旋回可能もしくは伸長可能な翼状のもの、またはその種の他のものに取り付けられ、ユーザの方向に延びているが、そのような装置は不便であり、特に車両衝突の場合にユーザの負傷という重大なリスクを負う可能性がある。利便性及び安全性を悪化させることなく、音響特性を向上させることが望まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
聴取位置に無音域を生成するシステムは、聴取位置に隣接して配置されて、音響信号に対応する音を放射するように構成されるスピーカと、聴取位置に隣接して配置されて、ノイズ源によって1次経路を介して聴取位置に放射されるノイズと、スピーカによって聴取位置に2次経路を介して放射される音とを拾い上げるように構成され、対応するエラー信号を生成するように構成されるエラーマイクロフォンとを備える。本システムは、聴取位置の上に配置される複数のアレイマイクロフォンを備えて、ノイズ源によって1次経路を介して聴取位置に放射されるノイズと、スピーカによって2次経路を介して放射される音とを拾い上げるように構成され、対応するアレイマイクロフォン信号を生成するように構成されるマイクロフォンアレイをさらに備える。本システムは、ノイズ源によって生成されるノイズを表すノイズ信号を受信し、制御可能なノイズ低減伝達関数でノイズ信号をフィルタリングするように構成されて、スピーカに供給される音響信号を生成するノイズ制御装置をさらに備える。ノイズ制御装置は、ノイズ信号及び仮想エラー信号に基づいてノイズ低減伝達関数を制御するようにさらに構成され、かつエラー信号と、グリーン関数マトリクスでフィルタリングされたノイズ信号とに基づいて仮想エラー信号を生成するように構成され、グリーン関数マトリクスが、アレイ信号に依存して制御されるように構成される。
【0004】
聴取位置に無音域を生成する方法は、聴取位置に隣接して配置されるスピーカを用いて、音響信号に対応する音を放射することと、聴取域に隣接して配置されるエラーマイクロフォンを用いて、ノイズ源によって1次経路を介して聴取位置に放射されるノイズと、スピーカによって聴取位置に2次経路を介して放射される音とを拾い上げて、対応するエラー信号を生成することとを含む。本方法は、聴取位置の上に配置される複数のアレイマイクロフォンを備えたマイクロフォンアレイを用いて、ノイズ源によって1次経路を介して聴取位置に放射されるノイズと、スピーカによって2次経路を介して放射される音とを拾い上げて、対応するアレイマイクロフォン信号を生成することをさらに含む。本方法は、ノイズ源によって生成されるノイズを表すノイズ信号を受信すること、及び制御可能なノイズ低減伝達関数でノイズ信号をフィルタリングすることによってノイズを制御して、スピーカに供給される音響信号を生成することをさらに含む。ノイズを制御することは、ノイズ信号及び仮想エラー信号に基づいてノイズ低減伝達関数を制御すること、及びエラー信号と、グリーン関数マトリクスでフィルタリングされたノイズ信号とに基づいて仮想エラー信号を生成することをさらに含み、グリーン関数マトリクスが、アレイ信号に依存して制御されるように構成される。
【0005】
他のシステム、方法、特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び添付の図面の検討の上で、当業者には明らかであろうし、または明らかになるであろう。そのような追加のシステム、方法、特徴及び利点の全ては、この説明に含まれ、本発明の範囲内であり、添付の特許請求の範囲によって保護されることが意図される。
例えば、本願は以下の項目を提供する。
(項目1)
聴取位置に無音域を生成するシステムであって、
上記聴取位置に隣接して配置されて、音響信号に対応する音を放射するように構成されるスピーカと、
上記聴取位置に隣接して配置されて、ノイズ源によって1次経路を介して上記聴取位置に放射されるノイズと、上記スピーカによって上記聴取位置に2次経路を介して放射される上記音とを拾い上げるように構成され、対応するエラー信号を生成するように構成されるエラーマイクロフォンと、
上記聴取位置の上に配置される複数のアレイマイクロフォンを備えて、ノイズ源によって1次経路を介して上記聴取位置に放射されるノイズと、上記スピーカによって2次経路を介して放射される上記音とを拾い上げるように構成され、対応するアレイ信号を生成するように構成されるマイクロフォンアレイと、
上記ノイズ源によって生成されるノイズを表すノイズ信号を受信し、制御可能なノイズ低減伝達関数で上記ノイズ信号をフィルタリングするように構成されて、上記スピーカに供給される上記音響信号を生成するノイズ制御装置とを備え、
上記ノイズ制御装置が、上記ノイズ信号及び仮想エラー信号に基づいて上記ノイズ低減伝達関数を制御するようにさらに構成され、かつ上記エラー信号と、グリーン関数マトリクスでフィルタリングされた上記ノイズ信号とに基づいて上記仮想エラー信号を生成するように構成され、上記グリーン関数マトリクスが、上記アレイ信号によって制御されるように構成される、上記システム。
(項目2)
上記ノイズ制御装置が、上記仮想エラー信号を生成するために、上記エラー信号から、グリーン関数マトリクスでフィルタリングされた上記ノイズ信号を減算するようにさらに構成される、上記項目に記載のシステム。
(項目3)
上記ノイズ制御装置が、上記ノイズ信号及び仮想エラー信号に基づいて、最小二乗平均方式に従って上記ノイズ低減伝達関数を制御するようにさらに構成される、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目4)
上記ノイズ制御装置が、上記ノイズ低減伝達関数の制御に使用される前に、上記2次経路の伝達関数をモデル化する伝達関数を用いて上記ノイズ信号をフィルタリングするようにさらに構成される、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目5)
上記ノイズ制御装置が、上記グリーン関数マトリクスでフィルタリングされる前に、上記2次経路の伝達関数をモデル化する伝達関数を用いて上記ノイズ信号をフィルタリングするようにさらに構成される、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目6)
聴取者の位置を検出して、検出された上記位置に従って上記グリーン関数マトリクスを制御するように構成される位置検出器をさらに備える、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目7)
上記スピーカ及び上記エラーマイクロフォンのうちの少なくとも1つがヘッドレストに配置される、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目8)
聴取位置に無音域を生成する方法であって、
上記聴取位置に隣接して配置されるスピーカを用いて、音響信号に対応する音を放射することと、
上記聴取位置に隣接して配置されるエラーマイクロフォンを用いて、ノイズ源によって1次経路を介して上記聴取位置に放射されるノイズと、上記スピーカによって上記聴取位置に2次経路を介して放射される上記音とを拾い上げて、対応するエラー信号を生成することと、
上記聴取位置の上に配置される複数のアレイマイクロフォンを備えたマイクロフォンアレイを用いて、ノイズ源によって1次経路を介して上記聴取位置に放射されるノイズと、上記スピーカによって2次経路を介して上記聴取位置に放射される上記音とを拾い上げて、対応するアレイ信号を生成することと、
上記ノイズ源によって生成されるノイズを表すノイズ信号を受信すること、及び制御可能なノイズ低減伝達関数で上記ノイズ信号をフィルタリングすることによってノイズを制御して、上記スピーカに供給される上記音響信号を生成することとを含み、
ノイズを制御することが、上記ノイズ信号及び仮想エラー信号に基づいて上記ノイズ低減伝達関数を制御すること、及び上記エラー信号と、グリーン関数マトリクスでフィルタリングされた上記ノイズ信号とに基づいて上記仮想エラー信号を生成することをさらに含み、上記グリーン関数マトリクスが、上記アレイ信号によって制御されるように構成される、上記方法。
(項目9)
ノイズを制御することが、上記仮想エラー信号を生成するために、上記エラー信号から、グリーン関数マトリクスでフィルタリングされた上記ノイズ信号を減算することをさらに含む、上記項目に記載の方法。
(項目10)
ノイズを制御することが、上記ノイズ信号及び仮想エラー信号に基づいて、最小二乗平均方式に従って上記ノイズ低減伝達関数を制御することをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
ノイズを制御することが、上記ノイズ低減伝達関数を制御することに使用される前に、上記2次経路の伝達関数をモデル化する伝達関数を用いて上記ノイズ信号をフィルタリングすることをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
ノイズを制御することが、上記グリーン関数マトリクスでフィルタリングされる前に、上記2次経路の伝達関数をモデル化する伝達関数を用いて上記ノイズ信号をフィルタリングすることをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
聴取者の位置を検出して、検出された上記位置に従って上記グリーン関数マトリクスを制御することをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(摘要)
聴取位置に無音域を生成するシステムは、聴取位置に隣接して配置されて、音響信号に対応する音を放射するように構成されるスピーカと、聴取位置に隣接して配置されて、ノイズ源によって1次経路を介して聴取位置に放射されるノイズと、スピーカによって聴取位置に2次経路を介して放射される音とを拾い上げるように構成され、対応するエラー信号を生成するように構成されるエラーマイクロフォンとを備える。本システムは、聴取位置の上に配置される複数のアレイマイクロフォンを備えて、ノイズ源によって1次経路を介して聴取位置に放射されるノイズと、スピーカによって2次経路を介して放射される音とを拾い上げるように構成され、対応するアレイマイクロフォン信号を生成するように構成されるマイクロフォンアレイをさらに備える。
【0006】
本開示は、添付の図面の非限定的な実施形態の以下の説明を読むことによって、よりよく理解され得る。図面中、同様の要素は同様の参照番号でもって参照される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ヘッドレストの前面にマイクロフォンとスピーカが並んで組み込まれた例示的なヘッドレスト装置の概略図である。
図2】ノイズ制御装置に実装されて、図1に示すヘッドレスト装置に関して適用できる例示的なアクティブノイズ制御構成を示すブロック図である。
図3】ノイズ制御装置に実装されて、図1に示すヘッドレスト装置に関して適用できる別の例示的なアクティブノイズ制御構成を示すブロック図である。
図4】実際の頭部の位置の優先的な位置からの偏りを伴う、図1に示された例示的なヘッドレスト装置の概略図である。
図5】ノイズ制御装置に実装されて、図1に示すヘッドレスト装置に関して適用できる別の例示的なアクティブノイズ制御構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、例示的なヘッドレスト101、例えば車室に配置された座席のヘッドレストの断面図における上面図である。ヘッドレスト101は、カバーと、ヘッドレスト本体102を構成する1つ以上の構造要素とを有してもよい。ヘッドレスト101は、シートの上部(図示せず)と係合して、シートに組み込まれた機構を介して上下に移動し得る1対の支柱(図示せず)を備えることもある。ヘッドレスト本体102は、聴取者の頭部104を支持することができる前面103を有し、それによって聴取者の耳107及び108の優先的な位置105及び106を設定する。聴取位置と称されることもある優先的な位置は、意図された使用の間中のほとんどの時間(>50%)、それぞれの耳がある領域である。
【0009】
ヘッドレスト本体102の前面103には、最大感度(入力音圧に対する出力信号パラメータの比)の向きのいくつか(≧1)のマイクロフォン109が組み込まれており、それらの最大感度の向きが、聴取者の耳107及び108の優先的な位置105及び106とそれぞれ交差し得る。優先的な位置105及び106または聴取者の耳107及び108の周囲には、それぞれ、静寂域(ノイズの少ない領域またはノイズの無い領域)が確立され得る。ヘッドレスト101は、ヘッドレスト本体102に組み込まれたいくつか(≧1)のスピーカ110をさらに備える。スピーカ110は、それぞれ例えば聴取者の頭部104の向きに最大音圧を放射する主要な送信方向を有し得る。
【0010】
聴取者の頭部104の上、例えば車内の天井の裏張りに配置されたマイクロフォン111のアレイは、ヘッドレスト101の周囲に発生する背景ノイズを拾い上げて(例えば、計測して)、フィードバックする。マイクロフォン111のアレイによって出力される信号(本明細書でアレイ信号a(n)と称される)は、ヘッドレスト101に埋め込まれたスピーカ110に与えられる1つ以上の音響信号y(n)と、ヘッドレスト101に埋め込まれたマイクロフォン109からの1つ以上のエラー信号e(n)に結合される。仮想アレイ信号、すなわち、聴取者の頭部104の上の仮想マイクロフォン位置にある仮想マイクロフォンからの信号は、ヘッドレスト101のマイクロフォン109からの1つ以上のエラー信号e(n)に基づいて、処理装置、制御装置またはハードウェア回路のうちの少なくとも1つによって実行される専用のアルゴリズムまたは手順を介して生成されてもよい。仮想アレイ信号は、対応する仮想マイクロフォン位置で発生するノイズを表している。仮想アレイ信号、したがって仮想マイクロフォン位置を生成するアルゴリズムまたは手順は、個別の制御フィルタの振幅特性及び位相特性を適応させることによって、それが頭部の動きを補償するように、完全な適応型であってもよい。これらの制御フィルタは、フィードフォワードもしくはフィードバックまたはそれらの組合せであり得るノイズ制御構成を有した単一または複数チャネルのアクティブノイズ制御(ANC)処理装置112に実装される。仮想マイクロフォン位置は、マイクロフォンが物理的には存在しないが、結果として生じる感度特性が、それらが存在したかのようになる位置である。
【0011】
図1に示す装置のアクティブノイズ制御(ANC)処理装置112に実装され得る例示的な単一チャネルフィードフォワードアクティブノイズ制御構成が、図2に示される。ノイズ源(図示せず)からのノイズx(n)は、伝達関数P(z)を有する1次経路201を介して、ノイズx(n)がノイズ信号d(n)としてエラーマイクロフォン(図示せず)によって拾い上げられる聴取位置に音響的に伝送される。エラーマイクロフォンは、図1に関連して上に述べた装置におけるマイクロフォン109に類似していてもよい。エラーマイクロフォンは、スピーカ(図示せず)で生じて、聴取位置でのスピーカからの音を表す音響信号y(n)を形成するために、伝達関数S(z)を有する2次経路202を介して聴取位置に伝送される音を拾い上げることもあり得る。スピーカは、図1に関連して上に述べた装置におけるスピーカ110と類似していてもよい。音響信号y(n)によって表される、スピーカから伝送される音と、ノイズ信号d(n)によって表される、ノイズ源から伝送されるノイズとが聴取位置において重ね合わされる(例えば、加えられる)ので、加算器203は、ノイズ信号d(n)と音響信号y(n)の和と、このようにスピーカ及びノイズ源からの音が聴取位置で互いに干渉するときに生じる音とを表すエラー信号e(n)を形成するマイクロフォンを表す。
【0012】
制御可能な伝達関数W(z)を有するフィルタ204は、スピーカ、及びしたがって2次経路202の上流と、ノイズ源の下流に接続される。フィルタ204の伝達関数W(z)は、仮想エラー信号e(n)及びフィルタリングされたノイズ信号x’(n)に基づいて、既知の最小二乗平均(LMS)アルゴリズムに従って動作し得る適応型フィルタ制御装置によって制御される。示されている例では、適応型フィルタ制御装置は、フィルタリングされたノイズ信号x’(n)を仮想エラー信号e(n)と乗算する乗算器206に過ぎない。フィルタリングされたノイズ信号x’(n)は、伝達関数
【数1】
を有するフィルタ205によってフィルタリングされた後のノイズ信号x(n)である。伝達関数
【数2】
は、2次経路202の伝達関数S(z)の推定値である。仮想エラー信号e(n)は、エラー信号e(n)と、フィルタリングされたノイズ信号x’(n)との間の差に基づいて、減算器207によって形成される。フィルタリングされたノイズ信号x’(n)は、グリーンマトリクスG、すなわちグリーン関数gの行列である(フィルタ)マトリクス208によってフィルタリングされたノイズ信号x(n)である。数学では、グリーン関数は、指定された初期条件または境界条件を用いて、変域上で定義される非同時線形微分方程式のインパルス応答である。線形演算子の問題に対する重ね合わせ原理によって、その変域上の任意の関数を持つグリーン関数の畳み込みは、この任意の関数の同時微分方程式の解である。
【0013】
フィルタ204の伝達関数W(z)は、聴取位置において、音響信号y(n)がノイズ信号d(n)の位相と逆位相の波形を有するように、すなわち、音響信号y(n)によって表されるスピーカから伝送される音が、ノイズ信号d(n)によって表されるノイズ源から伝送されるノイズと破壊的に重ね合わされるように、制御される。上述の関係によれば、周波数領域においてW(z)=-P(z)/S(z)及び
【数3】
である。
【0014】
フィルタ204、フィルタ205及びフィルタ制御装置206は、単一チャネルのフィードフォワード制御によるfiltered-x最小二乗平均(FxLMS)制御構成で構成されるが、多数のノイズ信号及び/またはスピーカ及び/またはマイクロフォンを有するマルチチャネル構成を含む他の制御構成も同様に適用できる。このfiltered-x最小二乗平均制御構成は、以下のように時間領域で記述することができる。
w(n+1)=w(n)+μ・x’(n)・e(n)
ここで、時間領域におけるw(n)及びw(n+1)は、周波数領域におけるW(z)に対応し、n+1は、時間nにおける離散点に続く時間における離散点であり、μは、図1に示される例示的なシステムにおいて簡略化のために1に設定される刻み幅である。
【0015】
仮想エラー信号eは、フィルタマトリクス208、すなわち、以下のように頭部の周りの空間的2次経路効果を補償するフィルタの行列でノイズ信号x(n)をフィルタリングすることによって生成される。
=e-g・x’(n)
ここで、gはグリーン関数を表し、一方でGはグリーンマトリクス、例えば、頭部の周りに無音の球を作り出すために、一方のスピーカ(複数可)と他方のスピーカ(複数可)との間、スピーカ(複数可)と、ヘッドレストマイクロフォン(複数可)との間、聴取者の頭部の上のマイクロフォンアレイとの間、及び任意の他の隣接した位置のマイクロフォンとの間の全ての可能な2次経路伝達関数を計測することによって伝達関数が決定されるフィルタマトリクスを表す。
【0016】
図3を参照すると、図2に関連して上に述べたシステムは、代替としてノイズ信号x(n)が、それに応じて適応されたグリーンマトリクスGを用いて、それに応じて適応されたフィルタマトリクス208に直接入力されるように、今度は
=e-g・x(n)
であるように、変更されてもよい。
【0017】
一旦、全ての可能な2次経路伝達関数から(フィルタ)マトリクス208のグリーンマトリクスGが決定されると、ノイズ低減は、ヘッドレスト101のマイクロフォン109のところではなく、聴取者の頭部104の周りで最大化される。マイクロフォン109は、アクティブノイズ制御のための実際の1つ以上のエラー信号e(n)を決定するために使用される。マイクロフォン111のアレイは、仮想アレイ信号a(n)を生成するために使用されるアレイ信号a(n)を形成する。
【0018】
仮想アレイ信号a(n)は、代替的または追加的に、頭部の動きを計算に入れること、及びいくつかの頭部位置の変化を初期頭部位置(頭部の公称位置)から減算することによって生成してもよい。再び図1を参照すると、乗員の頭部104は、優先的な位置にあり得ることが示されており、このことは優先的な位置からの偏りがヘッドレスト101の中心から0°であることを意味する。例えば2次経路行列として統合される1つ以上の2次経路は、2次経路行列に影響を及ぼす頭部の動きを補償するために、優先的な位置(0°の偏りを有する)、及び、図4に示すように、他の多くの可能な頭部の位置(Φ°の偏りを有する)で計測される。その計測により、FxLMSアルゴリズムまたは手順は、頭部の動きを補償するために、結果として静寂域を拡大するために、変更されてもよい。
【0019】
聴取者の頭部の実際の位置は、1つ以上の光学センサまたは音響センサを介して、任意に決定されてもよい。図4に示す構成では、互いに垂直に配置された2つのカメラ401及び402が、適切なビデオ処理アルゴリズムまたは手順(図示せず)に関連して使用される。したがって、仮想アレイ位置とマイクロフォン(複数可)109の位置との間のグリーン関数が計測され得る。この関数は、仮想エラー信号eを予測するために、ノイズ制御アルゴリズムまたは手順に組み込まれてもよい。仮想エラー信号eは、推定されたグリーン関数の行列を用いて生成されるが、フィルタリングされたノイズ信号(複数可)x’及び仮想ノイズ信号x’は、実際の2次経路及び仮想の2次経路で生成され得る。
【0020】
図5を参照すると、変更されたノイズ制御構成は、制御可能な伝達関数W(z)を有して、伝達関数S(z)の2次経路202の上流に接続されるフィルタ204と、2次経路202の下流に配置される、ヘッドレスト101内のマイクロフォン109(の内の1つ)を表す加算器203とを備える。加算器203は、適応型フィルタ制御装置501に直接供給されるとともに、フィルタリングされた仮想エラー信号e’(n)を適応型フィルタ制御装置501に出力する推定されたグリーン
【数4】
マトリクス502によってフィルタリングされるエラー信号e(n)を形成する。適応型フィルタ制御装置501は、推定された伝達関数
【数5】
を有するフィルタ205によってフィルタリングされたノイズ信号x(n)であるノイズ信号x’(n)、すなわち2次経路202の伝達関数S(z)の推定値と、推定された仮想伝達関数
【数6】
を有するフィルタ503によってフィルタリングされたノイズ信号x(n)であるノイズ信号x’(v)とをさらに受信する。推定された仮想伝達関数
【数7】
は、フィルタ204によって出力された信号を、仮想マイクロフォンを表す加算器505に転送する仮想の2次経路504の仮想伝達関数S(z)の推定値である。加算器505は、加算器203からグリーンマトリクス506でフィルタリングされたエラー信号e(n)も受信して、仮想エラー信号e(n)を形成する。
【0021】
本明細書に記載されるシステム及び方法は、例えば、専用の静寂域または音響域を生成するために、生活圏及び乗り物の内部などの多方面にわたる用途及び環境において使用されてもよい。一般的なノイズ制御と比べて、本明細書に記載されるシステム及び方法は、陸上にある乗り物における交通騒音制御や、あるいは燃焼機関により駆動される乗り物におけるエンジンの段での消去などの、特定の制御状況にも適用できる。
【0022】
実施形態の記述は、例示及び説明のために示されている。実施形態に対する適切な修正及び変形は、上記の説明に照らして実行されてもよく、または本方法を実施することによって獲得されてもよい。例えば、別段の記載がない限り、記載される方法の1つ以上は、適切な機器及び/または機器の組合せによって実行されてもよい。記載される関連する動作は、本明細書に記載される順序に加えて、並行して、及び/または同時に、様々な順序で実行されてもよい。記載されるシステムは本質的に例示的なものであり、追加の要素を含んでもよく、及び/または要素を省略してもよい。
【0023】
本出願において使用されるように、単数形で引用されて単語「a」または「an」が付された要素またはステップは、そのような除外が記載されていない限り、複数形の前記要素またはステップを除外しないものとして理解されるべきである。さらに、本開示の「1つの実施形態」または「1つの例」への言及は、列挙された特徴をも組み込む追加の実施形態の存在を排除するものとして解釈されることを意図していない。「第1の(first)」、「第2の(second)」、及び「第3の(third)」などという用語は、単に符号として使用され、それらの対象に数値的要件または特定の位置的順序を課すことを意図していない。
【0024】
本開示の実施形態は、全般に、複数の回路、電気機器、及び/または少なくとも1つの制御装置を提供する。回路、少なくとも1つの制御装置、ならびに他の電気機器及びそれぞれによってもたらされる機能性への全ての言及は、本明細書に例示及び記載されたもののみを包含することに限定されることを意図するものではない。開示される様々な回路(複数可)、制御装置(複数可)及び他の電気機器に特定の符号を割り当てる場合があるが、そのような符号は、様々な回路(複数可)、制御装置(複数可)及び他の電気機器の動作の範囲を限定することを意図するものではない。そのような回路(複数可)、制御装置(複数可)及び他の電気機器は、所望される特定の種類の電気的実装に基づく任意の方法で、互いに組み合わされてもよく、及び/または分離されてもよい。
【0025】
本明細書で開示される任意のシステムは、任意の数のマイクロプロセッサ、集積回路、メモリデバイス(例えば、FLASH、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、電気的プログラマブル読取り専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能プログラマブル読取り専用メモリ(EEPROM)、またはそれらの他の適切な変形物)及び本明細書に開示される動作(複数可)を実行するように互いに協働するソフトウェアを含んでもよい。さらに、開示される任意のシステムは、開示される任意の数の機能を実行するようにプログラムされ、非一時的なコンピュータ可読媒体に組み入れられるコンピュータプログラムを実行するために、任意の1つ以上のマイクロプロセッサを利用してもよい。さらに、本明細書で提供される任意の制御装置は、筐体及び種々の数のマイクロプロセッサ、集積回路、ならびにメモリデバイス(例えば、FLASH、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、電気的プログラマブル読取り専用メモリ(EPROM)、及び/または電気的消去可能PROM(EEPROM))を備える。
【0026】
本発明の様々な実施形態を説明したが、本発明の範囲内で、より多くの実施形態及び実施態様が可能であることは、当業者には明らかであろう。特に、当業者は、種々の実施形態に由来する様々な特徴の互換性を認識するであろう。これらの技法及びシステムは、特定の実施形態及び例に照らして開示されているが、これらの技法及びシステムは、具体的に開示された実施形態の範囲を超えて、他の実施形態及び/または使用法とそれらの明らかな変更にまで及び得ることが理解される。
図1
図2
図3
図4
図5