(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20230119BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20230119BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20230119BHJP
C04B 35/195 20060101ALI20230119BHJP
C04B 35/478 20060101ALI20230119BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
B01D39/20 D
B01D46/00 302
C04B38/00 303Z
C04B35/195
C04B35/478
F01N3/022 C
(21)【出願番号】P 2018193593
(22)【出願日】2018-10-12
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄也
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098835(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/098834(WO,A1)
【文献】特開2006-272318(JP,A)
【文献】特開2003-049641(JP,A)
【文献】国際公開第2005/097446(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/20
B01D 46/00
C04B 38/00
C04B 35/195
C04B 35/478
F01N 3/022
B01J 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスの流路となる複数のセルを区画形成する多孔質のセル隔壁と、排ガス入口側の端面が開口され且つ排ガス出口側の端面が封じられている排ガス導入セルと、排ガス出口側の端面が開口され且つ排ガス入口側の端面が封じられている排ガス排出セルとを備えたハニカム構造体であって、
前記排ガス導入セル及び前記排ガス排出セルは、前記排ガス導入セル及び前記排ガス排出セルの長手方向に垂直な断面形状が一定である内部領域と、前記排ガス導入セル及び前記排ガス排出セルの長手方向に垂直な断面形状が端面に近づくに従って拡大又は縮小されている端部領域とからなり、
前記端面におけるセル隔壁の厚さは、前記内部領域におけるセル隔壁の厚さの50%以上90%未満であ
り、
前記端部領域のセルの長手方向の長さは、1~10mmであり、
前記端面におけるセル隔壁の厚さは、0.1~0.3mmであることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
前記内部領域におけるセルの長手方向に垂直な断面形状は、四角形である請求項
1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記ハニカム構造体は、外周に外周壁を有する一のハニカム焼成体により構成されている請求項
1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記ハニカム焼成体は、コージェライト、又は、チタン酸アルミニウムからなる請求項
3に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記セル隔壁の気孔率は、35~65%である請求項1~
4のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記セル隔壁に含まれる気孔の平均気孔径は、5~30μmである請求項1~
5のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、スス等のパティキュレート(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境または人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、CO、HCまたはNOx等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境または人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、内燃機関と連結されることにより排ガス中のPMを捕集したり、排ガスに含まれるCO、HCまたはNOx等の排ガス中の有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、チタン酸アルミニウム、コージェライト、炭化ケイ素等の多孔質セラミックからなるハニカム構造体が種々提案されている。
【0004】
また、これらのハニカムフィルタでは、内燃機関の燃費を改善し、圧力損失の上昇に起因する運転時のトラブル等をなくすために、圧力損失の低いハニカム構造体からなるフィルタが種々提案されている。
【0005】
特許文献1には、一端面で開放されて他端面で閉じられた複数の第1流路、及び、前記一端面で閉じられて前記他端面で開放された複数の第2流路を有し、各前記第1流路及び各前記第2流路の断面積がそれぞれ軸方向に一定である中央隔壁と、前記中央隔壁から前記他端面に向かって、各前記第1流路の断面積が縮小され、かつ、各前記第2流路の断面積が拡大される、他端側傾斜隔壁と、を備えるハニカム構造体であって、前記他端側傾斜隔壁の軸方向長さは4mm以上であるハニカム構造体が開示されている。
【0006】
特許文献1では、上記ハニカム構造体における他端側傾斜隔壁の厚さは、中央隔壁の厚さの±10%以内、もしくは、0.9倍以上が推奨されている。
特許文献1によれば、このような構成とすることにより、圧力損失を低下することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたハニカム構造体では、上記他端側傾斜隔壁の厚さが充分に薄くなっていないため、圧力損失の低減が充分でなく、要求される圧力損失の低減の期待に充分応えることができないという問題があった。
その理由としては、特許文献1の
図2等に示されているように、中央隔壁における隔壁の断面形状が六角形であるので、他端側傾斜隔壁を形成する際、機械的強度を低下させず、端面における隔壁を充分に薄くすることが難しかったためと考えられる。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、圧縮強度を低下させることなく、圧力損失を充分に低減させることが可能なハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のハニカム構造体は、排ガスの流路となる複数のセルを区画形成する多孔質のセル隔壁と、排ガス入口側の端面が開口され且つ排ガス出口側の端面が封じられている排ガス導入セルと、排ガス出口側の端面が開口され且つ排ガス入口側の端面が封じられている排ガス排出セルとを備えたハニカム構造体であって、
上記排ガス導入セル及び上記排ガス排出セルは、上記排ガス導入セル及び上記排ガス排出セルの長手方向に垂直な断面形状が一定である内部領域と、上記排ガス導入セル及び上記排ガス排出セルの長手方向に垂直な断面形状が端面に近づくに従って拡大又は縮小されている端部領域とからなり、
上記端面におけるセル隔壁の厚さは、上記内部領域におけるセル隔壁の厚さの50%以上90%未満であることを特徴とする。
【0011】
なお、上記排ガス導入セルの排ガス出口側の端面及び上記排ガス排出セルの排ガス入口側の端面が封じられているとは、上記した端面を含む部分が封止剤を充填することにより目封じされているのではなく、上記端部領域において、セルの長手方向に垂直な断面形状が端面に近づくに従って縮小され、端面において上記断面の面積が0となり、閉じられていることをいう。
また、上記端面におけるセル隔壁の厚さを測定する際、測定位置は、上記端面の各セルの中心領域とする。
【0012】
本発明のハニカム構造体における排ガス導入セルの端部領域及び排ガス排出セルの端部領域では、上記排ガス導入セル及び上記排ガス排出セルの長手方向に垂直な断面形状が端面に近づくに従って拡大又は縮小されており、上記端面におけるセル隔壁の厚さは、上記内部領域におけるセル隔壁の厚さの50%以上90%未満であるので、圧縮強度が低下することはなく、ハニカム構造体を製造する際、及び、排ガスがセル内部へ導入される際に、ハニカム構造体に欠損が発生するのを防止することができる。
【0013】
また、本発明のハニカム構造体では、上記端部領域において、上記排ガス導入セル及び上記排ガス排出セルの長手方向に垂直な断面形状が端面に近づくに従って拡大又は縮小されており、排ガス入口側及び出口側の端面で開口率が高くなっているので、排ガスがハニカム構造体に流入する際及び排ガス構造体から流出する際の抵抗が小さくなり、圧力損失を充分に低減させることができる。
【0014】
本発明のハニカム構造体において、上記端面におけるセル隔壁の厚さが、上記内部領域におけるセル隔壁の厚さの50%未満であると、圧縮強度が低下してしまい、排ガスがセル内部へ導入される際に、ハニカム構造体に欠損が発生し易くなる。一方、上記端面におけるセル隔壁の厚さが、上記内部領域におけるセル隔壁の厚さの90%以上であると、セル隔壁の厚さが厚くなり、圧力損失を充分に低減させることが難しくなる。
【0015】
本発明のハニカム構造体では、上記端部領域のセルの長手方向の長さは、1~10mmであることが望ましい。
本発明のハニカム構造体において、上記端部領域のセルの長手方向の長さが、1~10mmであると、排ガス入口側において、排ガスがセル内部に導入される抵抗、及び、排ガス出口側において、排ガスがセル内部より排出される抵抗をより小さくできるため、圧力損失をさらに低減させることができる。
【0016】
本発明のハニカム構造体において、上記端部領域のセルの長手方向の長さが、1mm未満であると、排ガス入口側において、セル内部への排ガスを導入する際の抵抗が大きくなり、排ガス出口側において、排ガスが排出される際の抵抗が大きくなるため、圧力損失を充分に低減できなくなり、一方、上記端部領域のセルの長手方向の長さが、10mmを超えると、そのような構造のハニカム構造体の製造が難しくなる。
【0017】
本発明のハニカム構造体では、上記端面におけるセル隔壁の厚さは、0.1~0.3mmであることが望ましい。
本発明のハニカム構造体において、上記端面におけるセル隔壁の厚さが、0.1~0.3mmであると、圧縮強度を低下させることなく、セル隔壁の厚さを充分に薄くすることができるので、圧力損失を充分に低減させることができる。
【0018】
本発明のハニカム構造体において、上記端面におけるセル隔壁の厚さが、0.1mm未満であると、セル隔壁の厚さが薄すぎることとなり、圧縮強度を低下させてしまう。一方、セル隔壁の厚さが0.3mmを超えると、セル隔壁の厚さが厚すぎるため、圧力損失を充分に低減させることが難しくなる。
【0019】
本発明のハニカム構造体において、上記内部領域におけるセルの長手方向に垂直な断面形状は、四角形であることが望ましい。
本発明のハニカム構造体において、上記内部領域におけるセルの長手方向に垂直な断面形状が、四角形であると、ハニカム構造体を製造する際、上記端部領域において、セルの長手方向に垂直な断面形状を、端面に近づくに従って拡大又は縮小させ易く、圧力損失が充分に低いハニカム構造体の実現が可能となる。
【0020】
本発明のハニカム構造体では、上記ハニカム構造体は、外周に外周壁を有する一のハニカム焼成体により構成されていることが望ましい。
本発明のハニカム構造体においては、接着剤を用いて多数のハニカムセグメントを組み合わせたハニカム構造体に比べて、接着層がない分、端面における開口率を高くできるため、圧力損失の低減効果がより発揮できる。
【0021】
本発明のハニカム構造体では、上記ハニカム焼成体は、コージェライト、又は、チタン酸アルミニウムからなることが望ましい。
本発明のハニカム構造体において、上記ハニカム焼成体が、コージェライト、又は、チタン酸アルミニウムからなると、上記セラミックは、熱膨張率の低い材料であるので、再生時等において大きな熱応力が発生した場合であっても、クラック等の発生しにくいハニカム構造体となる。
【0022】
本発明のハニカム構造体では、上記セル隔壁の気孔率は、35~65%であることが望ましい。
本発明のハニカム構造体において、上記セル隔壁の気孔率が、35~65%であると、セル隔壁は、排ガス中のPMを良好に捕集することができ、かつ、セル隔壁に起因する圧力損失の上昇を抑制することができる。従って、圧力損失をさらに低減させることができる。
【0023】
セル隔壁の気孔率が35%未満では、セル隔壁の気孔の割合が小さすぎるため、排ガスがセル隔壁を通過しにくくなり、排ガスがセル隔壁を通過する際の圧力損失が大きくなる。一方、セル隔壁の気孔率が65%を超えると、セル隔壁の機械的特性が低く、再生時等において、クラックが発生し易くなる。
【0024】
本発明のハニカム構造体では、上記セル隔壁に含まれる気孔の平均気孔径は、5~30μmであることが望ましい。
【0025】
本発明のハニカム構造体において、上記セル隔壁に含まれる気孔の平均気孔径が、5~30μmであると、圧力損失の増加を抑制しながら、高い捕集効率でPMを捕集することができる。
【0026】
セル隔壁に含まれる気孔の平均気孔径が5μm未満であると、気孔が小さすぎるため、排ガスがセル隔壁を透過する際の圧力損失が大きくなる。一方、セル隔壁に含まれる気孔の平均気孔径が30μmを超えると、気孔径が大きくなりすぎるので、PMの捕集効率が低下してしまう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1(a)は、本発明のハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)におけるA-A線断面図であり、
図1(c)は、一方の端面側から見た端面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示したハニカム構造体の端面の近傍を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3(a)は、未封止ハニカム成形体を模式的に示す斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示した未封止ハニカム成形体のB-B線断面図である。
【
図4】
図4は、未封止ハニカム成形体の再成形工程の様子を模式的に示す説明図である。
【
図5】
図5は、未封止ハニカム成形体の再成形工程の様子を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、圧力損失測定方法を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、実施例1~2及び比較例1~2で得られたA軸圧縮強度と端面におけるセル隔壁の厚さとの関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1~2及び比較例1~2で得られた圧力損失と端面におけるセル隔壁の厚さとの関係を示すグラフである。
【0028】
(発明の詳細な説明)
[ハニカム構造体]
まず、本発明のハニカム構造体について説明する。
【0029】
本発明のハニカム構造体は、排ガスの流路となる複数のセルを区画形成する多孔質のセル隔壁と、排ガス入口側の端面が開口され且つ排ガス出口側の端面が封じられている排ガス導入セルと、排ガス出口側の端面が開口され且つ排ガス入口側の端面が封じられている排ガス排出セルとを備えたハニカム構造体であって、上記排ガス導入セル及び上記排ガス排出セルは、上記排ガス導入セル及び上記排ガス排出セルの長手方向に垂直な断面形状が一定である内部領域と、上記排ガス導入セル及び上記排ガス排出セルの長手方向に垂直な断面形状が端面に近づくに従って拡大又は縮小されている端部領域とからなり、上記端面におけるセル隔壁の厚さは、上記内部領域におけるセル隔壁の厚さの50%以上90%未満であることを特徴とする。
【0030】
図1(a)は、本発明のハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)におけるA-A線断面図であり、
図1(c)は、一方の端面側から見た端面図である。
図1(a)及び
図1(b)に示すハニカム構造体10は、排ガスの流路となる複数のセル12、13を区画形成する多孔質のセル隔壁11と、排ガス入口側の端面10aが開口され且つ排ガス出口側の端面10bが封じられている排ガス導入セル12と、排ガス出口側の端面10bが開口され且つ排ガス入口側の端面10aが封じられている排ガス排出セル13とを備え、排ガス導入セル12及び排ガス排出セル13は、排ガス導入セル12及び排ガス排出セル13の長手方向に垂直な断面形状が一定である内部領域10Bと、排ガス導入セル12及び排ガス排出セル13の長手方向に垂直な断面形状が端面に近づくに従って拡大され、又は、縮小され、封じられている端部領域10A、10Cとからなる。
図1(a)及び
図1(b)に示すように、ハニカム構造体10が単一のハニカム焼成体からなる場合、ハニカム焼成体はハニカム構造体でもある。
【0031】
図2は、
図1に示したハニカム構造体の端面の近傍を模式的に示す断面図である。
本発明のハニカム構造体10では、端面10aにおけるセル隔壁11の厚さd
1は、内部領域10Bにおけるセル隔壁11の厚さd
2の50%以上90%未満である。
【0032】
本発明のハニカム構造体では、端面におけるセル隔壁の厚さが、内部領域におけるセル隔壁の厚さの50%以上90%未満であるので、圧縮強度が低下することはなく、ハニカム構造体を製造する際、及び、排ガスがセル内部へ導入される際に、ハニカム構造体に欠損が発生するのを防止することができる。
【0033】
また、本発明のハニカム構造体では、上記端部領域において、上記排ガス導入セル及び上記排ガス排出セルの長手方向に垂直な断面形状が端面に近づくに従って拡大又は縮小されており、排ガス入口側及び出口側の端面で開口率が高くなっているので、排ガスがハニカム構造体に流入する際及び排ガス構造体から流出する際の抵抗が小さくなり、圧力損失を充分に低減させることができる。
【0034】
本発明のハニカム構造体において、端部領域のセルの長手方向の長さは、1~10mmであることが望ましい。
本発明のハニカム構造体において、上記端部領域のセルの長手方向の長さが、1~10mmであると、排ガス入口側において、排ガスがセル内部に導入される抵抗、及び、排ガス出口側において、排ガスがセル内部より排出される抵抗をより小さくできるため、圧力損失をさらに低減させることができる。
【0035】
本発明のハニカム構造体において、端面におけるセル隔壁の厚さは、0.1~0.3mmであることが望ましく、内部領域におけるセル隔壁の厚さは、0.12~0.4mmであることが望ましい。
本発明のハニカム構造体において、上記端面におけるセル隔壁の厚さが、0.1~0.3mmであると、圧縮強度を低下させることなく、セル隔壁の厚さを充分に薄くすることができるので、圧力損失を充分に低減させることができる。
なお、端面におけるセル隔壁の厚さは、セルの中心部におけるセル隔壁の幅を任意の10点測定し、その平均値とする。
【0036】
本発明のハニカム構造体の形状としては、円柱状に限定されず、角柱状、楕円柱状、長円柱状、丸面取りされている角柱状(例えば、丸面取りされている三角柱状)等が挙げられる。
【0037】
本発明のハニカム構造体において、内部領域におけるセルの長手方向に垂直な断面形状は、四角形に限定されず、三角形、六角形、八角形であってもよいが、四角形であることが望ましい。
【0038】
本発明のハニカム構造体において、ハニカム焼成体の長手方向に垂直な断面のセルの密度は、31~155個/cm2(200~1000個/inch2)であることが望ましい。
【0039】
本発明のハニカム構造体において、ハニカム焼成体の外周面に外周コート層が形成されている場合、外周コート層の厚さは、0.1~2.0mmであることが望ましい。
【0040】
本発明のハニカム構造体は、外周に外周壁を有する一のハニカム焼成体により構成されていてもよいし、複数個のハニカム焼成体を備えていてもよく、複数個のハニカム焼成体が接着剤により結合されていてもよいが、外周に外周壁を有する一のハニカム焼成体により構成されていることが望ましい。
【0041】
本発明のハニカム構造体を構成する材料は、特に限定されず、例えば、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物セラミック、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等の窒化物セラミック、アルミナ、ジルコニア、コージェライト、ムライト、チタン酸アルミニウム等の酸化物セラミック、ケイ素含有炭化ケイ素等が挙げられるが、ハニカム構造体が外周に外周壁を有する一のハニカム焼成体により構成されている場合には、コージェライト、又は、チタン酸アルミニウムが好ましい。
【0042】
上記ハニカム焼成体が、コージェライト、又は、チタン酸アルミニウムからなると、上記セラミックは、熱膨張率の低い材料であるので、再生時等において大きな熱応力が発生した場合であっても、クラック等の発生しにくいハニカム構造体となるからである。
【0043】
本発明のハニカム構造体では、上記セル隔壁の気孔率は、35~65%であることが望ましい。
本発明のハニカム構造体において、上記セル隔壁の気孔率が、35~65%であると、セル隔壁は、排ガス中のPMを良好に捕集することができ、かつ、セル隔壁に起因する圧力損失の上昇を抑制することができる。従って、圧力損失をさらに低減させることができる。
【0044】
本発明のハニカム構造体において、上記セル隔壁に含まれる気孔の平均気孔径は、5~30μmであることが望ましい。
【0045】
本発明のハニカム構造体において、上記セル隔壁に含まれる気孔の平均気孔径が、5~30μmであると、圧力損失の増加を抑制しながら、高い捕集効率でPMを捕集することができる。
本発明のハニカム構造体において、気孔率および平均気孔径は、水銀圧入法にて接触角を130°、表面張力を485mN/mの条件で測定する。
【0046】
次に、本発明のハニカム構造体の製造方法について説明する。
以下においては、チタン酸アルミニウムからなるハニカム構造体の製造方法を例にとって説明するが、本発明の製造対象は、チタン酸アルミニウムに限定されるものではない。
(混合工程)
まず、アルミナ粉末及びチタニア粉末にマグネシア粉末、シリカ粉末等の添加剤を添加し、混合することにより混合粉末を得る。
【0047】
上記混合粉末において、シリカとマグネシアは、焼成助剤としての役割もあるが、焼成助剤としては、シリカとマグネシアの他に、Y、La、Na、K、Ca、Sr、Baの酸化物が用いられていてもよい。これらの混合粉末に以下の添加剤を必要により添加して原料組成物を得る。成形助剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコールが挙げられる。有機バインダとしては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース等の親水性有機高分子が挙げられる。分散媒としては、水のみからなる分散媒、又は、50体積%以上の水と有機溶剤とからなる分散媒が挙げられる。有機溶剤としては、ベンゼン、メタノール等のアルコールが挙げられる。造孔剤としては、微小中空球体であるバルーン、球状アクリル粒子、グラファイト、デンプンが挙げられる。バルーンとしては、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュ(FA)バルーン、ムライトバルーンが挙げられる。
【0048】
また、原料組成物中には、その他の成分が更に含有されていてもよい。その他の成分としては、たとえば、可塑剤、分散剤、潤滑剤が挙げられる。可塑剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系化合物が挙げられる。分散剤としては、たとえば、ソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。潤滑剤としては、たとえば、グリセリンが挙げられる。
【0049】
(成形工程)
成形工程は、混合工程により得られた原料組成物を成形して未封止ハニカム成形体を作製する工程である。未封止ハニカム成形体は、たとえば、原料組成物を押出金型を用いて押出成形することにより作製することができる。すなわち、未封止ハニカム成形体は、ハニカム構造体の筒状の外周壁と隔壁となる部分を構成する壁部を一度に押出成形することにより作製する。また、押出成形では、ハニカム構造体の一部の形状に対応する成形体を成形してもよい。すなわち、ハニカム構造体の一部の形状に対応する成形体を成形し、それら成形体を組み合わせることによってハニカム構造体と同一形状を有するハニカム成形体を作製してもよい。
【0050】
図3(a)は、上記成形工程により作製された未封止ハニカム成形体を模式的に示す斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示した未封止ハニカム成形体のB-B線断面図である。
【0051】
図3(a)及び(b)に示すように、上記成形工程により、セル22、23の長手方向に垂直な断面形状が四角で、端面20a′、20b′におけるセル22、23の形状も全く同じ四角形状で、セル22、23を隔てるセル隔壁21を有し、全体が円柱形状の未封止ハニカム成形体20′が作製される。
【0052】
(再成形工程)
この後、テーパー冶具を用い、未封止ハニカム成形体20′に対し、ハニカム構造体の端部領域に相当する部分を形成するための再成形を行い、排ガス導入セル及び排ガス排出セルとなるセル22、23の長手方向に垂直な断面形状が端面に近づくに従って拡大され、又は、縮小され、封じられた形状の封止ハニカム成形体とする。
【0053】
図4は、未封止ハニカム成形体の再成形工程の様子を模式的に示す説明図であり、
図5は、未封止ハニカム成形体の再成形工程の様子を模式的に示す断面図である。
図4及び
図5に示すように、支持部33と支持部33上に固定された基台部31と基台部31上に形成された多数の四角錐形状の先端部32とを備えたテーパー冶具30を用い、先端部32の四角錐を構成する4つの平面32bの境界部である角部32cがハニカム成形体20′の端面20a′におけるセル隔壁21の四角を構成する一の辺21aの真ん中に当接するように配置し、ハニカム成形体20′の中央部分に向かってテーパー冶具30を押し込む。
【0054】
このとき、先端部32が押し込まれたセル22の端部領域に相当する部分は、セルの長手方向に垂直な断面形状が端面に近づくに従って拡大された形状となり、先端部32が押し込まれたセル22の上下左右に存在していたセル23の端部領域に相当する部分は、セル23の長手方向に垂直な断面形状が端面に近づくに従って縮小され、封じられた形状となる。また、端面から見た封止ハニカム成形体の形状は、
図1(c)に示すハニカム構造体10と同じく、端面10aにおけるセル12の四角が内部領域10Bのセル12の四角を45°回転した形状となる。
テーパー治具の先端部32の角度及び隣り合う先端部32同士の幅を調整することにより、端面におけるセル隔壁の厚さを調整することができる。
【0055】
この再成形工程により得られた封止ハニカム成形体は、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機、凍結乾燥機等の乾燥機を用い、100~150℃、大気雰囲気下で乾燥され、250~400℃、酸素濃度5容積%~大気雰囲気下で脱脂される。
【0056】
(焼成工程)
焼成工程は、再成形工程により得られた封止ハニカム成形体を1400~1600℃で焼成する工程である。この焼成工程では、アルミナの表面からチタニアとの反応が進行して、チタン酸アルミニウムの相が形成される。焼成は、公知の単独炉、いわゆるバッチ炉や、連続炉を用いて行うことができる。焼成温度は、1450~1550℃の範囲であることが好ましい。焼成時間は特に限定されないが、上記の焼成温度において1~20時間保持することが好ましく、1~10時間保持することがより好ましい。また、焼成工程は大気雰囲気下で行うことが好ましい。大気雰囲気に窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを混合することにより、酸素濃度を調整してもよい。
【0057】
上記した混合工程、成形工程、再成形工程、及び、焼成工程を経ることにより、本発明のハニカム構造体を製造することができる。
【実施例】
【0058】
以下、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
(実施例1)
まず、下記組成の原料組成物を調製した。
D50が0.6μmのチタニア微粉末:11.1重量%、D50が13.0μmのチタニア粗粉末:11.1重量%、D50が15.9μmのアルミナ粉末:30.4重量%、D50が1.1μmのシリカ粉末:2.8重量%、D50が3.8μmのマグネシア粉末:1.4重量%、D50が31.9μmのアクリル樹脂(造孔材):18.5重量%、メチルセルロース(有機バインダ):7.1重量%、成形助剤(エステル型ノニオン):4.7重量%、及び、イオン交換水(分散媒):12.9重量%からなる組成のものを混合機で混合し、原料組成物を調製した。
【0059】
調製した原料組成物を押出成形機に投入して押出成形を行うことにより、セルが封止されていない未封止ハニカム成形体20′を作製した。
【0060】
未封止ハニカム成形体20′を作製した後直ぐに、アルミ製のテーパー冶具30を用いて、再成形を行い、封止ハニカム成形体を作製した。テーパー冶具30としては、未封止ハニカム成形体20′の端面20aを形成するための先端部32同士の距離(
図5に示すV:谷幅)を0mmに設定し、先端部32の四角錐の平面32bと、基台部31の先端部32が形成されている先端部形成面31a(基台部設置面32a)に垂直な面と、の角度αを12.5°に設定した(
図4及び
図5参照)。
【0061】
この後、再成形工程を経て得られた封止ハニカム成形体を大気雰囲気下、1450℃で15時間保持して焼成することにより、ハニカム構造体を製造した。得られたハニカム構造体は、気孔率が57%、平均気孔径が17μm、大きさが34mm×34mm×100mm、外周壁の厚さ0.3mm、端面におけるセル隔壁の厚さ0.19mm、内部領域におけるセル隔壁の厚さ0.25mm、セルの数(セル密度)が300個/inch2で、四角柱形状であった。なお、気孔率及び平均気孔径の測定は、下記する方法により行った。
得られたハニカム構造体は、端面におけるセル隔壁の厚さは、内部領域におけるセル隔壁の厚さの76%であった。
【0062】
(実施例2)
先端部32同士の距離(
図5に示すV:谷幅)を0.13mmに設定したほかは、実施例1と同様にしてハニカム構造体を製造した。
得られたハニカム構造体は、端面におけるセル隔壁の厚さが0.21mmであったほかは、実施例1と同様であり、実施例2に係るハニカム構造体の端面におけるセル隔壁の厚さは、内部領域におけるセル隔壁の厚さの84%であった。また、端面におけるセル隔壁の厚さ以外のハニカム構造体における気孔率、平均気孔径、大きさ、外周壁の厚さ、内部領域におけるセル隔壁の厚さ、セルの数(セル密度)は、実施例1と同様であった。
【0063】
(比較例1)
先端部32同士の距離(
図5に示すV:谷幅)を0.39mmに設定したほかは、実施例1と同様にしてハニカム構造体を製造した。
得られたハニカム構造体は、端面におけるセル隔壁の厚さが0.28mmであったほかは、実施例1と同様であり、比較例1に係るハニカム構造体の端面におけるセル隔壁の厚さは、内部領域におけるセル隔壁の厚さの112%であった。また、端面におけるセル隔壁の厚さ以外のハニカム構造体における気孔率、平均気孔径、大きさ、外周壁の厚さ、内部領域におけるセル隔壁の厚さ、セルの数(セル密度)は、実施例1と同様であった。
【0064】
(比較例2)
先端部32同士の距離(
図5に示すV:谷幅)を0.52mmに設定したほかは、実施例1と同様にしてハニカム構造体を製造した。
得られたハニカム構造体は、端面におけるセル隔壁の厚さが0.36mmであったほかは、実施例1と同様であり、比較例2に係るハニカム構造体の端面におけるセル隔壁の厚さは、内部領域におけるセル隔壁の厚さの144%であった。また、端面におけるセル隔壁の厚さ以外のハニカム構造体における気孔率、平均気孔径、大きさ、外周壁の厚さ、内部領域におけるセル隔壁の厚さ、セルの数(セル密度)は、実施例1と同様であった。
【0065】
(評価試験)
実施例及び比較例のハニカム構造体の気孔率、平均気孔径、A軸圧縮強度、及び、圧力損失を測定した。
[気孔率及び平均気孔径]
実施例1~2及び比較例1~2で得られたハニカム構造体を10mm×10mm×10mmに切り出して、気孔測定用サンプルを準備した。気孔測定用サンプルを用いて、水銀圧入法によるポロシメーター(島津製作所社製、オートポアIII 9420)により気孔率及び平均気孔径を測定した。水銀圧入法にて接触角を130°、表面張力を485mN/mの条件とした。
【0066】
[A軸圧縮強度]
ハニカム構造体のA軸圧縮強度は、以下の方法により測定した。まず、A軸圧縮強度測定用サンプルとして、実施例1~2及び比較例1~2でのハニカム構造体から、端面を含み、セルと垂直な2平面を含む長さ30mmの立方体に切り出した。そして、A軸圧縮強度測定用サンプルのセルが試験台に対して垂直になるように設置し、セルの貫通方向に荷重を印加し、破壊荷重(サンプルが破壊した荷重)を測定した。この際、2本のA軸圧縮強度測定用サンプルについて破壊荷重を測定し、その平均値をA軸圧縮強度とした。A軸圧縮強度試験は、JIS R 1601を参考に、インストロン5582を用い、スピード1mm/minで行った。
図7は、実施例1~2及び比較例1~2で得られたA軸圧縮強度と端面におけるセル隔壁の厚さとの関係を示すグラフである。
【0067】
[圧力損失]
図6は、圧力損失測定方法を模式的に示す断面図である。
この圧力損失測定装置210は、送風機211の配管212に、実施例1~2及び比較例1~2で得られたハニカム構造体10を金属ケーシング213内に固定して配置し、ハニカム構造体10の前後の圧力を検出可能になるように圧力計214が取り付けられている。
ハニカム構造体10は、その排ガス入口側の端部が送風機211の配管212に近い側に配置される。すなわち、排ガス入口側の端部が開口されたセルにガスが流入するように配置される。
送風機211から300L/minのガスをハニカム構造体10に流通させた時の圧力損失をこのハニカム構造体の圧力損失(kPa)とした。
図8は、実施例1~2及び比較例1~2で得られた圧力損失と端面におけるセル隔壁の厚さとの関係を示すグラフである。
【0068】
図7に示すように、A軸圧縮強度は、セル隔壁の厚さが薄くなっても、低下しておらず、また、
図8に示す圧力損失の結果から明らかなように、端面におけるセル隔壁の厚さが、内部領域におけるセル隔壁の厚さの50%以上90%未満である場合に、圧力損失を低く保つことができる。
【符号の説明】
【0069】
10 ハニカム構造体
10a、10b 端面
10A、10C 端部領域
10B 内部領域
11 セル隔壁
12 排ガス導入セル
13 排ガス排出セル
20′ 未封止ハニカム成形体
20a′、20b′ 端面
21 セル隔壁
21a 一の辺
22、23 セル
30 テーパー冶具
31 基台部
31a 先端部形成面
32 先端部
32a 基台部設置面
32b 平面
32c 角部
33 支持部