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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】ポリマーエマルションの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/06 20060101AFI20230119BHJP
   C08F 2/22 20060101ALI20230119BHJP
   C08F 8/44 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C08F20/06
C08F2/22
C08F8/44
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018214500
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020083905
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100142295
【弁理士】
【氏名又は名称】深海 明子
(72)【発明者】
【氏名】野場 将宏
(72)【発明者】
【氏名】宮本 勝史
(72)【発明者】
【氏名】大庭 千尋
(72)【発明者】
【氏名】神舘 隆史
(72)【発明者】
【氏名】松井 芳明
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-170854(JP,A)
【文献】特開昭63-228069(JP,A)
【文献】特開平05-185074(JP,A)
【文献】特開2006-008581(JP,A)
【文献】特開2011-037727(JP,A)
【文献】特開2007-98678(JP,A)
【文献】特開2006-008561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/06
C08F 2/22
C08F 8/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸系モノマーを含む重合性単量体及び重合開始剤を含有する水系組成物中で、ソープフリー乳化重合法により重合性単量体を重合する工程を有するポリマーエマルションの製造方法であって、
重合開始剤が過硫酸塩を含有し、
(メタ)アクリル酸系モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、及びこれらの塩から選択される少なくとも1つと、(メタ)アクリル酸エステルとを含有し、
(メタ)アクリル酸エステルが下記一般式(1)で表され、
【化1】

(式(1)中、R は水素原子又はメチル基を示し、R は炭素数1以上24以下の鎖状脂肪族基、炭素数5以上24以下の環状脂肪族基、炭素数6以上24以下のアリール基、又は炭素数7以上24以下のアラルキル基を示し、R は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示す。n1は0以上30以下の整数である。)
重合性単量体中、上記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルの合計量が85質量%以上であり、
重合開始後にアルカリ剤を添加する工程を有し、
アルカリ剤を添加時の重合性単量体の転化率が50%以上99.9%以下である、
ポリマーエマルションの製造方法。
【請求項2】
アルカリ剤を添加後の水系組成物のpHが3以上である、請求項1に記載のポリマーエマルションの製造方法。
【請求項3】
重合性単量体の全量を添加終了後にアルカリ剤を添加する、請求項1又は2に記載のポリマーエマルションの製造方法。
【請求項4】
重合性単量体の全量及びアルカリ剤を添加後、更に熟成工程を有する、請求項1~のいずれかに記載のポリマーエマルションの製造方法。
【請求項5】
アルカリ剤を添加時の水系組成物のpHが2.6以上である、請求項1~のいずれかに記載のポリマーエマルションの製造方法。
【請求項6】
重合時の水系組成物のpHが2.6以上である、請求項1~のいずれかに記載のポリマーエマルションの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーエマルションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐水性や耐油性あるいは耐摩耗性に優れ、化粧持続性の高い化粧料を得るために、皮膜形成性ポリマーを配合した化粧料が知られており、皮膜形成性ポリマーとしてアクリル系ポリマー等が配合されている。
特許文献1には、重合時に乳化剤を使用しないソープフリー乳化重合を用いる、被膜形成性ポリマーを用いた化粧料が開示されている。
特許文献2には、粒径が均一に分散し、塗膜外観に優れ、貯蔵安定性、浸透性、塗工性、耐水性、引張強度及び耐摩耗性に優れたアクリル酸エステルエマルジョンの無乳化剤重合方法を提供することを目的として、純水40~60wt%と、炭素-炭素二重結合の重合性官能基を有するカルボン酸単量体(A)2~9wt%と、メタクリル酸アルキルエステル又はアクリル酸アルキルエステル単量体(B)40~50wt%とからなる反応系を0.2~2.0wt%の無機アルカリ溶液でpHが9.0~13.0範囲内に調整し、そして、硫酸塩の過酸化物開始剤0.2~1.0wt%で乳化重合し、反応終期に、得られた水性樹脂エマルジョンのpHを有機アミン化合物で7.0~9.5に調整する、アクリル酸エステルエマルションの無乳化剤重合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-8581号公報
【文献】特開2012-87283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2の記載のポリマーの製造方法によれば、界面活性剤等の乳化剤を用いないため、得られたポリマーを配合した製品で乳化剤の影響を受けないという利点を有している。一方で、ポリマーの製造時に、ポリマー粒子を安定化する乳化剤がないため、凝集物が生成しやすいという欠点を有している。
本発明は、(メタ)アクリル酸系モノマーを含む重合性単量体をソープフリー乳化重合法により重合するポリマーエマルションの製造方法において、凝集物の発生が抑制されたポリマーエマルションの製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、重合性単量体の転化率が特定の範囲において、アルカリ剤を添加することによって、凝集物の発生が抑制されることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の〔1〕を提供する。
〔1〕 (メタ)アクリル酸系モノマーを含む重合性単量体及び重合開始剤を含有する水系組成物中で、ソープフリー乳化重合法により重合性単量体を重合する工程を有するポリマーエマルションの製造方法であって、重合開始後にアルカリ剤を添加する工程を有し、アルカリ剤を添加時の重合性単量体の転化率が50%以上99.9%以下である、ポリマーエマルションの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、(メタ)アクリル酸系モノマーを含む重合性単量体をソープフリー乳化重合法により重合するポリマーエマルションの製造方法において、凝集物の発生が抑制されたポリマーエマルションの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[ポリマーエマルションの製造方法]
本発明のポリマーエマルションの製造方法は、(メタ)アクリル酸系モノマーを含む重合性単量体及び重合開始剤を含有する水系組成物中で、ソープフリー乳化重合法により重合性単量体を重合する工程を有するポリマーエマルションの製造方法であって、重合開始後にアルカリ剤を添加する工程を有し、アルカリ剤を添加時の重合性単量体の転化率が50%以上99.9%以下であることを特徴とする。
(メタ)アクリル酸系モノマーを含む重合性単量体をソープフリー乳化重合法により重合して、ポリマーエマルションを製造すると、凝集物が発生する場合がある。本発明者等は、凝集物について詳細に検討した結果、凝集物は微粒子の集合体であり、凝集物を構成する微粒子の粒子径は、ソープフリー乳化重合で得られるポリマーエマルション中のポリマーの粒子径と同程度であった。発明者等は、このような知見から、上記の凝集は、ソープフリー乳化重合の反応後期に進行した可能性が高いと考えた。凝集の原因については必ずしも明らかではないが、上述のように反応後期に凝集が進行していると考えられることから、重合開始剤の分解により、反応液のpHが低下し、これによって、ポリマー表面の静電反発力が低下するために、凝集が進行していると推定した。特に、重合開始剤として過硫酸塩を使用した場合には、重合開始剤の分解により硫酸根が生成するため、反応液のpHが低下するものと考えられる。また、(メタ)アクリル酸系モノマーとして、(メタ)アクリル酸を含有する場合には、反応液のpHの低下に伴い、ポリマー中のカルボキシ基同士の静電反発力が低下するために、ポリマーの水系組成物(反応液)中での安定性が低下し、凝集が発生するものと推定される。
発明者等は、反応液のpHの低下を抑制することで、凝集の発生が抑制されるのではないかと考え、ある程度重合が進行した状態でアルカリ剤を添加したところ、上述のような凝集の発生が顕著に抑制された。これは、アルカリ剤の添加によって、反応液のpHの低下が抑制され、ポリマー表面の静電反発力が維持された結果、凝集が抑制されたものと推定される。
【0008】
なお、本発明において、「凝集物」とは、4.75mmを超える粒子を意味し、具体的には、目開き4.75mmの篩にて篩分けをした際に、篩に残留する成分を意味する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
(重合性単量体)
本発明のポリマーエマルションの製造方法に使用される重合性単量体(以下、「モノマー」ともいう。)は、(メタ)アクリル酸系モノマーを含有する。
<(メタ)アクリル酸系モノマー>
本発明において、(メタ)アクリル酸系モノマーとは、メタクリル酸及びその塩、アクリル酸及びその塩、メタクリル酸エステル、並びにアクリル酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1つを意味する。
なお、(メタ)アクリル酸は、メタクリル酸又はアクリル酸を意味し、(メタ)アクリル酸エステル等についても同様である。
【0010】
本発明において、(メタ)アクリル酸系モノマーとして、ソープフリー乳化重合における反応性の観点から、(メタ)アクリル酸及びその塩(以下、モノマー(A)ともいう。)、及び(メタ)アクリル酸エステル(以下、モノマー(B)ともいう。)を含有することが好ましい。
-(メタ)アクリル酸及びその塩(モノマー(A))-
(メタ)アクリル酸系モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、及びこれらの塩から選択される少なくとも1つを含有することが好ましく、アクリル酸及びその塩から選択される少なくとも1つを含有することがより好ましく、アクリル酸を含有することが更に好ましい。
なお、アクリル酸、メタクリル酸が塩である場合の対イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン、エタノールアミン等の第1~3級のアルキルアミンのプロトン付加イオン、第4級アルキルアンモニウムイオン等のアンモニウムイオン等が挙げられ、これらの中では入手容易性の観点から、好ましくはアルカリ金属イオン、より好ましくはカリウムイオン、ナトリウムイオン、更に好ましくはナトリウムイオンである。
【0011】
重合性単量体におけるモノマー(A)の含有量は、ソープフリー乳化重合の反応性及びポリマーエマルションの安定性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0012】
-(メタ)アクリル酸エステル-
本発明において、重合性単量体として、(メタ)アクリル酸エステルを含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0013】
【化1】

式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数1以上24以下の鎖状脂肪族基、炭素数5以上24以下の環状脂肪族基、炭素数6以上24以下のアリール基、又は炭素数7以上24以下のアラルキル基を示し、Rは炭素数2以上4以下のアルキレン基を示す。n1は0以上30以下の整数である。
【0014】
式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数1以上24以下の鎖状脂肪族基、炭素数5以上24以下の環状脂肪族基、炭素数6以上24以下のアリール基、又は炭素数7以上24以下のアラルキル基を示す。鎖状脂肪族基は、直鎖状脂肪族基、分岐鎖状脂肪族基のいずれでもよい。
は、好ましくは炭素数1以上24以下の鎖状脂肪族基、より好ましくは炭素数1以上24以下のアルキル基、更に好ましくは炭素数1以上12以下のアルキル基、より更に好ましくは炭素数1以上8以下のアルキル基、より更に好ましくは炭素数1以上6以下のアルキル基である。
は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、エチレン基又はプロピレン基であることが好ましく、n1が2以上のとき、複数存在するRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
n1は0以上10以下の整数が好ましく、0がより好ましい。
【0015】
(メタ)アクリル酸系モノマーのうち、前記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルの中でも、ポリマーエマルションの製造におけるソープフリー乳化重合の容易性、モノマーの入手性及び経済性の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。アルキルの炭素数は、好ましくは1以上24以下、より好ましくは1以上12以下、更に好ましくは1以上8以下、より更に好ましくは1以上6以下である。
【0016】
モノマー(B)としては、ポリマーエマルションの製造における乳化重合の容易性、入手性及び経済性の観点から、メタクリル酸エステル(b1)及びアクリル酸エステル(b2)を含有することが更に好ましい。
【0017】
≪メタクリル酸エステル(b1)≫
メタクリル酸エステル(b1)としては、前記式(1)においてRがメチル基である化合物が好ましい。中でも、ポリマーエマルションの製造におけるソープフリー乳化重合の容易性、入手性及び経済性の観点から、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数は、好ましくは1以上24以下、より好ましくは1以上12以下、更に好ましくは1以上8以下、より更に好ましくは1以上6以下、より更に好ましくは1以上4以下である。
【0018】
メタクリル酸エステル(b1)の具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸n-デシル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、及びメタクリル酸イソボルニル等が挙げられる。
これらのうち、ポリマーエマルションの製造におけるソープフリー乳化重合の容易性、モノマーの入手性及び経済性の観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸n-デシル、メタクリル酸イソデシル、及びメタクリル酸ラウリルよりなる群から選ばれる1種以上が好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、及びメタクリル酸イソオクチルよりなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、及びメタクリル酸n-ヘキシルよりなる群から選ばれる1種以上が更に好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、及びメタクリル酸n-ブチルよりなる群から選ばれる1種以上がより更に好ましく、メタクリル酸メチルがより更に好ましい。
【0019】
≪アクリル酸エステル(b2)≫
アクリル酸エステル(b2)としては、前記式(1)においてRが水素原子である化合物が好ましい。中でも、ポリマーエマルションの製造におけるソープフリー乳化重合の容易性、入手性及び経済性の観点から、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数は、好ましくは1以上24以下、より好ましくは1以上12以下、更に好ましくは1以上8以下、より更に好ましくは1以上6以下、より更に好ましくは1以上4以下である。
【0020】
アクリル酸エステル(b2)の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸n-デシル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、及びアクリル酸イソボルニル等が挙げられる。
これらのうち、ポリマーエマルションの製造におけるソープフリー乳化重合の容易性、モノマーの入手性及び経済性の観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸n-デシル、アクリル酸イソデシル、及びアクリル酸ラウリルよりなる群から選ばれる1種以上が好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、及びアクリル酸イソオクチルよりなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、及びアクリル酸n-ヘキシルよりなる群から選ばれる1種以上が更に好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、及びアクリル酸n-ブチルよりなる群から選ばれる1種以上がより更に好ましく、アクリル酸n-ブチルがより更に好ましい。
【0021】
モノマー(B)としてメタクリル酸エステル(b1)とアクリル酸エステル(b2)とを併用する場合、その質量比(b1)/(b2)は、好ましくは5/95以上99/1以下、より好ましくは10/90以上95/5以下、更に好ましくは20/80以上90/10以下、より更に好ましくは30/70以上85/15以下、より更に好ましくは40/60以上80/20以下である。この範囲であると、ポリマーエマルションの製造容易性及びポリマーエマルションの安定性に優れる。
【0022】
また、重合性単量体中のモノマー(B)の合計量は、ポリマーエマルションの製造における乳化重合の容易性の観点から、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98.5質量%以下、更に好ましくは98質量%以下である。
【0023】
本発明において、重合性単量体中の(メタ)アクリル酸系モノマーの含有量は、ポリマーエマルションの製造における乳化重合の容易性の観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0024】
<その他のモノマー>
本発明において、重合性単量体として、(メタ)アクリル酸系モノマーに加えて、その他のモノマーを含有していてもよい。
その他のモノマーとしては、その他の疎水性モノマー、及びその他のイオン性親水性モノマーが例示される。なお、上述したモノマー(B)は、疎水性モノマーであることが好ましく、疎水性モノマーとは、イオン性親水性基を有さないモノマーであり、上述したモノマー(A)は、イオン性親水性モノマーであり、イオン性親水性モノマーは、イオン性基を有するモノマーを意味し、イオン性基としてはアニオン性基及びカチオン性基のいずれを有していてもよいが、ポリマーエマルションの製造の容易性の観点から、アニオン性基が好ましい。アニオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、及びそれらの塩などが例示され、カルボキシ基、スルホン酸基、及びそれらの塩が好ましい。
【0025】
その他の疎水性モノマーとしては、スチレン及びその誘導体、ビニルエステル化合物が例示される。
スチレン及びその誘導体としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルスチレン、ブチルスチレン、t-ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。上記の中でも、ポリマーエマルションの製造における乳化重合の容易性、モノマーの入手性及び経済性の観点から、スチレンが好ましい。
ビニルエステル化合物としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、デカン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の、アルキル基又はアルケニル基を有するビニルエステル化合物が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、ポリマーエマルションの製造における乳化重合の容易性、モノマーの入手性及び経済性の観点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0026】
その他のモノマーとしてのアニオン性親水性モノマー又はその塩の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、スチレンカルボン酸等のカルボキシ基を有するビニル化合物又はその塩;2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホン酸等のスルホン酸基を有するビニル化合物又はその塩;ビニルホスホン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルリン酸等のリン酸基を有するビニル化合物又はその塩;等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。
その他のモノマーとしてのカチオン性親水性モノマー又はその塩としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミド、及びそれらの塩又は4級塩;ジアリルメチルアミン、ジアリルアミン等のジアリルアミン化合物、及びそれらの塩又は4級塩;等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
(重合開始剤)
本発明のポリマーエマルションの製造方法において、水系組成物は、重合開始剤を含有する。
なお、本発明において、ソープフリー乳化重合を行う重合反応系としては、(メタ)アクリル酸系モノマーを含む重合性単量体の重合を行う観点から、ラジカル重合反応であることが好ましい。
ソープフリー乳化重合を行う観点から、重合開始剤としては、水溶性のラジカル重合開始剤が好ましい。経済性の観点及びソープフリー乳化重合の容易性の観点から、重合開始剤が過硫酸塩を含有することがより好ましく、重合開始剤が過硫酸塩であることが更に好ましく、重合開始剤が過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸カリウムよりなる群から選ばれる1種以上であることがより更に好ましく、重合開始剤が過硫酸アンモニウムであることがより更に好ましい。
ラジカル重合開始剤の使用量は、重合性単量体の種類及び濃度、ラジカル重合開始剤の種類、重合温度等により適宜選択できるが、通常、全重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上10質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上5質量部以下である。
【0028】
(その他の成分)
本発明において、水系組成物は、(メタ)アクリル酸系モノマーを含む重合性単量体及び重合開始剤を含有するが、必要に応じて他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、連鎖移動剤が例示され、例えば、イソプロピルアルコール;n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸、メルカプトエタノール等のメルカプト化合物が例示される。
【0029】
(水系組成物)
本発明において、水系組成物は、上述した重合性単量体及び重合開始剤を含有する。なお、水系組成物は、反応液と同義である。水系組成物中の固形分濃度は、特に限定されないが、重合後の得られるポリマーエマルション中のポリマー濃度は、ソープフリー乳化重合の容易性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、より更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。上述のポリマー濃度となるように、重合性単量体の添加量を調整することが好ましい。
【0030】
なお、上記水系組成物において、溶媒として水を使用するが、低級アルコールなどの水混和性溶媒を使用してもよい。溶媒中の水混和性溶媒の使用量としては、溶媒全体の好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下であり、0質量%であってもよい。
ここで、水混和性溶媒としては、エタノール、2-プロパノール等の炭素数1~6のアルコール;エチレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール等の多価アルコール;重量平均分子量30,000未満、好ましくは10,000未満のポリエチレングリコール;重量平均分子量5,000未満、好ましくは1,000未満のポリプロピレングリコールが例示される。これらの中でも、2-プロパノールが好ましく例示される。
【0031】
(アルカリ剤)
本発明のポリマーエマルションの製造方法は、重合開始後、重合終了前にアルカリ剤を添加する工程を有する。使用するアルカリ剤としては、無機アルカリ剤であってもよく、有機アルカリ剤であってもよく、特に限定されない。
無機アルカリ剤の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、セスキ珪酸ナトリウム等のアルカリ金属の珪酸塩、リン酸三ナトリウム等のアルカリ金属のリン酸塩、炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、ホウ酸ナトリウム等のアルカリ金属のホウ酸塩等を用いることができる。
有機アルカリ剤としては、例えば、ヒドロキシアルキルアミン、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。ヒドロキシアルキルアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルジプロパノールアミン、及びアミノエチルエタノールアミン等が挙げられる。第四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、及びコリン等が挙げられる。
これらの中でも、pH調整の容易性、入手容易性、経済性等の観点から、無機アルカリ剤が好ましく、アルカリ金属の水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる1種以上であることが更に好ましい。
アルカリ剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
アルカリ剤の添加方法は特に限定されないが、アルカリ剤を水溶液とし、該水溶液を添加することが、局所的なpHの上昇を抑制する観点から好ましい。
【0032】
(製造方法)
<重合工程>
本発明のポリマーエマルションの製造方法は、(メタ)アクリル酸系モノマーを含む重合性単量体及び重合開始剤を含有する水系組成物中で、重合性単量体をソープフリー乳化重合法により重合する工程(以下、重合工程ともいう。)を有する。
ここで、ソープフリー乳化重合法とは、界面活性剤、高分子型乳化剤(ノニオン性、アニオン性、カチオン性)、反応型界面活性剤等の乳化剤を実質的に含有しない反応液中で乳化重合を行う方法である。本発明において、乳化剤を実質的に含有しないとは、水系組成物中の乳化剤の含有量が0.1質量%以下であることを意味し、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下であり、0質量%であってもよく、更に好ましくは0質量%である。
ソープフリー乳化重合法により重合することにより、乳化剤の残留によるポリマーエマルションの品質への影響が低減され、乳化剤の影響が顕著に低減されたポリマーエマルションが得られる。
【0033】
ここで、重合工程において、重合性単量体は、重合開始前に水系組成物に全量を添加しておいてもよく、また、逐次又は連続で添加してもよい。
これらの中でも、重合を進行させる観点から、重合性単量体を逐次又は連続で添加することが好ましい。
重合性単量体の添加時間は、重合性単量体の種類、重合開始剤の種類及び量、並びに重合する反応液の量等により適宜設定すればよいが、所望の反応性を得る観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上であり、そして、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは6時間以下である。
【0034】
また、重合工程において、重合開始剤は重合開始前に全量を添加しておいてもよく、重合開始後に追添加してもよい。また、逐次又は連続で添加してもよく、特に限定されない。
これらの中でも、乳化重合の容易性の観点から、重合開始前に重合開始剤の全量を水系組成物に添加しておくか、又は重合開始前に重合開始剤の一部を添加しておき、重合性単量体の全量を水系組成物に添加後に、更に残りの重合開始剤を追添加することが好ましく、重合開始前に重合開始剤の全量を水系組成物に添加しておくことがより好ましい。
【0035】
重合工程における重合温度は、重合性単量体の種類、重合開始剤の種類及び量等により適宜設定すればよいが、反応液である水系組成物が含有する水の沸点以下が好ましく、また、ソープフリー乳化重合の容易性及び凝集物の発生を抑制する観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは65℃以上であり、そして好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
【0036】
<アルカリ剤添加工程>
本発明において、重合開始後にアルカリ剤を添加する工程(以下、「アルカリ剤添加工程」ともいう。)を有し、アルカリ剤を添加時の重合性単量体の転化率は50%以上99.9%以下である。すなわち、アルカリ剤の添加は、重合工程中に行われる。
重合開始前にアルカリ剤を添加した場合や、重合工程の初期、すなわち、添加率が50%未満の段階においてアルカリ剤を添加した場合には、その理由は十分に明らかではないものの、凝集物の発生を十分に抑制することが困難である。これは、初期段階でアルカリ剤を添加すると、親水性イオン性モノマーが塩となって乳化重合が進行しにくくなることなどが影響していると考えられる。
アルカリ剤を添加時の重合性単量体の全体としての転化率は、凝集物の発生を抑制する抑制する観点から、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、より更に好ましくは90%以上、より更に好ましくは95%以上であり、そして、99.9%以下、好ましくは99.8%以下、より好ましくは99.8%以下、更に好ましくは99.7%以下、より更に好ましくは99.5%以下である。
なお、重合性単量体の転化率は、アルカリ添加時の各モノマー反応率から算出される。具体的には、アルカリ剤を添加時の反応液である水系組成物中のそれぞれのモノマー濃度を測定することで未反応のモノマー量を算出し、モノマーの総添加量で除することで各モノマー反応率を求めることができる。なお、未反応のモノマー量は添加前のモノマー量も含めて計算する。
重合性単量体が1種類の場合は、モノマー反応率が、モノマーの転化率となり、複数種の重合性単量体を使用する場合には、各モノマー反応率を各重合性単量体の使用量で重みをつけた加重平均値である。具体的には、実施例に記載する方法で求めることができる。
また、アルカリ剤を添加時に、全モノマーが反応液に添加されていない場合には、転化率は、反応液に添加していないモノマーも考慮して算出される。
【0037】
アルカリ剤添加時の反応液の温度は、重合工程中にアルカリ剤を添加する観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは65℃以上であり、そして好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
【0038】
アルカリ剤は、水系組成物中のいずれかのモノマー濃度が50ppm以上で添加することが好ましく、全てのモノマー濃度が50ppm以上で添加することが好ましい。なお、通常の条件下では、転化率が50%以上99.9%以下では、水系組成物中のいずれかのモノマー濃度は50ppm以上である。ただし、一定量のモノマーを添加し、完全に重合を行ってから、更にモノマーを追添加するような場合には、水系組成物中のモノマー濃度が50ppm未満となる場合があり、そのような状態でアルカリ剤を添加することは、凝集物の発生を効果的に抑制する観点からは好ましいものではない。
アルカリ剤を添加時の水系組成物中のいずれかのモノマーの濃度は、より好ましくは100ppm以上、更に好ましくは150ppm以上、より更に好ましくは200ppm以上、より更に好ましくは300ppm以上、より更に好ましくは400ppm以上である。
また、アルカリ添加時の水系組成物中の全てのモノマーの濃度が、より好ましくは100ppm以上、更に好ましくは150ppm以上、より更に好ましくは180ppm以上、より更に好ましくは250ppm以上である。
アルカリ剤を添加時の水系組成物中のモノマー濃度の上限は特に限定されないが、転化率との関係から、好ましくは10,000ppm以下、より好ましくは5,000ppm以下、更に好ましくは3,000ppm以下、より更に好ましくは1,000ppm以下である。
【0039】
アルカリ剤は、重合開始後、重合終了前に添加され、好ましくは、重合性単量体の全量を添加終了後であって、かつ、重合性単量体の転化率が50%以上99.9%以下であるタイミングで、アルカリ剤を添加する。
アルカリ剤の添加は、凝集物の発生を抑制する観点から、重合性単量体の全量を添加後、好ましくは1時間以内、より好ましくは45分以内、更に好ましくは30分以内、より更に好ましくは15分以内、より更に好ましくは10分以内であり、好ましくは0分以上、より好ましくは1分以上、更に好ましくは3分以上である。
【0040】
アルカリ剤を添加後の水系組成物のpHは、凝集物の発生を効果的に抑制する観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5.5以上、より更に好ましくは7以上、より更に好ましくは8以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは9.5以下、更に好ましくは9以下、より更に好ましくは8.5以下である。
なお、本発明において、重合性単量体として親水性イオン性モノマーを含有することが好ましく、上述したように、該親水性イオン性モノマーとして、アクリル酸及びメタクリル酸が好ましく、アクリル酸がより好ましい。なお、アルカリ剤添加後のpHとは、添加1分後に測定したpH値である。
ここで、アクリル酸のpKaは4.25であり、親水性イオン性モノマーとしてアクリル酸を使用する場合には、アクリル酸のpKa以上のpHとなるようにアルカリ剤を添加することも好ましい。従って、特にアクリル酸を使用する場合には、アルカリ剤を添加後の水系組成物のpHが上述の範囲であることが好ましい。
【0041】
発明者等が検討した結果、その詳細な機構な不明であるものの、重合中又は重合後の水系組成物のpHが2.6未満となると、凝集物が発生する傾向にある。従って、凝集物の発生を抑制する観点から、アルカリ剤を添加前の水系組成物のpHは、好ましくは2.6以上、より好ましくは2.7以上、更に好ましくは2.8以上、より更に好ましくは2.9以上である。また、その上限は特に限定されないが、アルカリ剤の添加によって凝集物の発生を抑制する観点から、好ましくは7以下、好ましくは6以下、更に好ましくは5以下、より更に好ましくは4以下、より更に好ましくは3以下である。
また、上述した通り、水系組成物のpHが2.6未満となると、凝集物の発生する傾向にあることから、重合工程の全工程において、水系組成物のpHが好ましくは2.6以上、より好ましくは2.7以上、更に好ましくは2.8以上、より更に好ましくは2.9以上である。
【0042】
<熟成工程>
本発明のポリマーエマルションの製造方法は、重合性単量体を添加後、更に重合を進めることを目的として、熟成工程を有することが好ましい。熟成工程において、残存モノマーの更なる低減、及びポリマーの高分子量化が進行する。
熟成工程における熟成温度としては、重合をより進行させる観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは65℃以上であり、そして好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。熟成工程における熟成温度は、好ましくは重合温度以上重合温度+20以下、より好ましくは重合温度以上重合温度+15℃以下、更に好ましくは重合温度以上重合温度+10℃以下である。
熟成工程の時間は特に限定されないが、残存モノマーの低減の観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上、より更に好ましくは2.5時間以上であり、そして、生産効率の観点から、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは6時間以下、より更に好ましくは4.5時間以下である。
【0043】
本発明において、熟成工程を経て得られたポリマーエマルションは、そのまま使用してもよく、また、異物除去、洗浄、分離、乾燥等の各工程を経て使用してもよく、特に限定されない。
なお、本発明において、ポリマーエマルション中の異物、例えば凝集粒子等を除去する工程を有することが好ましく、ポリマーエマルション中の異物の除去方法としては、スリット目開きが250μm以下のかき取り式濾過機を使用する方法が好ましい。
ここで、かき取り式濾過機とは、異物を金網等で捕捉し、金網に捕捉された固形分を、上下するディスクにより下部へかき落とし、底部にあるドレインから排出する濾過機、又は金網等のろ過面に堆積した異物をスクレーパの回転により下部へかき落とし、底部にあるドレインから排出する濾過機である。
上記濾過機の目開きは、異物を効果的に除去する観点、及び生産性の観点から、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下であり、そして、好ましくは15μm以上、より好ましくは50μm以上である。
かき取り式濾過としては、イートンフィルトレーション株式会社製のかきとり式ディスククリーニングフィルター DCFシリーズ、株式会社荒井鉄工所製のW-CELLフィルター装置が例示される。
【0044】
本発明により得られたポリマーエマルション中のポリマー粒子の平均粒子径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは200nm以上、より更に好ましくは300nm以上であり、そして、好ましくは1,500nm以下、より好ましくは1,000nm以下、更に好ましくは800nm以下、より更に好ましくは600nm以下である。
ポリマーエマルションの平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置、例えば、LA-910(株式会社堀場製作所製)を用い、屈折率1.2で測定できる。測定は、イオン交換水を分散媒として、調製したポリマーエマルションを分散させて、レーザーの透過率が75~90%において粒度分布の測定を行う。
【0045】
本発明により得られるポリマーエマルションは、種々の用途に使用することができる。ポリマーエマルションを構成するポリマーを、各種の製品、例えば、ファンデーション、紫外線防止剤等の化粧料、粘着剤、インク、等の各種用途へ応用することが好ましい。
【実施例
【0046】
以下の実施例において、「%」は「質量%」を意味する。
実施例1~5、比較例1、2は下記原料を使用した。
・メタクリル酸メチル(MMA)、三菱ガス化学株式会社製
・アクリル酸n-ブチル(BA)、東亞合成株式会社製
・80%アクリル酸(AA)、東亞合成株式会社製
・過硫酸アンモニウム(APS)、三菱ガス化学株式会社製
・48%水酸化ナトリウム水溶液、南海化学株式会社製
【0047】
[測定方法]
<pHの測定>
サンプルを25℃まで冷却した後、株式会社堀場製作所のpHメーターのF-52にてpHを測定した。
【0048】
<モノマー濃度の測定>
(1)アクリル酸及びメタクリル酸メチル
試料0.4gを精密に量り、アセトニトリル/水混液(1:1)を加えて正確に20mLとし、十分に振り混ぜ、十分な抽出を行った。その後、毎分3000回転で20分間遠心分離し、上澄み液を分取し、この液の一部を孔径0.45μm以下のメンブランフィルターでろ過し、初めのろ液10滴を除き、試料溶液とした。試料溶液10μLを各々正確にとり、次の条件で液体クロマトグラフィーにより測定した。
(試験条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんした。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:水/アセトニトリル混液(9:1)に0.1v/v%になるようにリン酸を加えた。
流量:毎分1.0mL
【0049】
(2)アクリル酸-n-ブチル
(1)で得られた試料溶液10μLを各々正確にとり、次の条件で液体クロマトグラフィーにより測定した。
(試験条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんした。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:アセトニトリル/水混液(1:1)に0.1v/v%になるようにリン酸を加えた。
流量:毎分1.0mL
【0050】
<凝集物量の測定>
反応終了後の液を株式会社飯田製作所製のステンレスふるい、目開き4.75mmを通して4.75mmを超える凝集物を回収した。また、撹拌翼に付着した凝集物をヘラ等により剥がした後に目開き4.75mmを通して4.75mmを超える凝集物を回収した。続いて、これらの凝集物を50℃、30Torr以下の圧力にて12時間以上乾燥させた後、凝集物の質量を測定した。凝集物量の割合は上記凝集物量を仕込みモノマーの質量で割った値とする。
【0051】
<平均粒径の測定>
株式会社堀場製作所のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(粒度分布) LA-960を用いてメジアン径を測定した。具体的な条件は下記の通りで行った。
(試験条件)
測定セル:フローセル
相対屈折率:1.20
透過率:70~90%
【0052】
実施例1
槽径700mmの反応槽、翼径630mmのアンカー翼を用いて検討を行った。まず、イオン交換水を147.9kg充填した。次に、20kPaまでの減圧と、窒素にて常圧に戻す操作とを3回繰り返すことにより窒素置換を行った。以降の操作は、撹拌速度44rpm、窒素流入速度5L/minにて行った。
窒素置換後、昇温して70℃に到達後、APS水溶液(APS 0.25kg、イオン交換水 3.5kg)を投入した。APS水溶液を投入後、MMA/BA/80%AA混合液(MMA 34.5kg、BA 14.7kg、80%AA 1.9kg)を一定の速度にて3時間かけて供給した。モノマー滴下終了5分後に、アルカリ剤として、水酸化ナトリウム水溶液(48%水酸化ナトリウム 0.60kg、イオン交換水 6.78kg)を投入した。アルカリ剤添加後、70℃の温度にて1時間、更に75℃の温度にて3時間熟成反応を行った。熟成後のポリマーの平均粒径は363.3nmであった。
水酸化ナトリウム水溶液を投入直前のpHは2.97であり、MMA、BA、AAの各モノマー濃度は、699ppm、863ppm、377ppmであり、各モノマー反応率は、99.59%、98.81%、94.97%であった。また、水酸化ナトリウム水溶液投入後のpHは8.40であった。重合性単量体の転化率は、アルカリ剤添加時の各モノマーの反応率と各モノマーの配合質量比を乗じた値の合計値(加重平均値)として、以下のように算出した。
99.59%×0.68+98.81%×0.29+94.97%×0.03=99.23%
なお、モノマー配合質量比(合計を1とする)は、MMA0.68/BA0.29/AA0.03であり、以下同じである。
反応終了後、反応終了液を4.75mmの篩を通液させて凝集物量を把握したが、4.75mmを超える凝集物は観察されなかった。また、反応槽や撹拌翼に4.75mmを超える凝集・付着物は観察されなかった。
【0053】
実施例2
槽径700mmの反応槽、翼径630mmのアンカー翼を用いて検討を行った。まず、イオン交換水を147.9kg充填した。次に、20kPaまでの減圧と、窒素にて常圧に戻す操作とを3回繰り返すことにより窒素置換を行った。以降の操作は、撹拌速度44rpm、窒素流入速度5L/minにて行った。
窒素置換後、昇温して70℃に到達後、APS水溶液(APS 0.25kg、イオン交換水 3.5kg)を投入した。APS水溶液を投入後、MMA/BA/80%AA混合液(MMA 34.5kg、BA 14.7kg、80%AA 1.9kg)を一定の速度にて4時間かけて供給した。モノマー滴下終了5分後に、アルカリ剤として、水酸化ナトリウム水溶液(48%水酸化ナトリウム 0.60kg、イオン交換水 6.78kg)を投入した。アルカリ剤添加後、75℃の温度にて3時間熟成した。熟成後のポリマーの平均粒径は359.6nmであった。
水酸化ナトリウム水溶液を投入直前のpHは2.90であり、MMA、BA、AAの各モノマー濃度は685ppm、641ppm、487ppmであった。また、水酸化ナトリウム水溶液投入後のpHは8.38であった。
反応終了後、反応終了液を4.75mmの篩を通液させて凝集物量を把握したが、4.75mmを超える凝集物は観察されなかった。また、反応槽や撹拌翼に4.75mmを超える凝集・付着物は観察されなかった。
【0054】
実施例3
槽径700mmの反応槽、翼径630mmのアンカー翼を用いて検討を行った。まず、イオン交換水を147.9kg充填した。次に、20kPaまでの減圧と、窒素にて常圧に戻す操作とを3回繰り返すことにより窒素置換を行った。以降の操作は、撹拌速度44rpm、窒素流入速度5L/minにて行った。
窒素置換後、昇温して70℃に到達後、APS水溶液(APS 0.25kg、イオン交換水 3.5kg)を投入した。APS水溶液を投入後、MMA/BA/80%AA混合液(MMA 34.5kg、BA 14.7kg、80%AA 1.9kg)を一定の速度にて4時間かけて供給した。モノマー滴下終了15分後、アルカリ剤として、水酸化ナトリウム水溶液(48%水酸化ナトリウム 0.60kg、イオン交換水 6.78kg)を投入した。アルカリ剤添加後、75℃の温度にて2時間45分熟成した。熟成後のポリマーの平均粒径は358.4nmであった。
水酸化ナトリウム水溶液を投入直前のpHは2.88であり、MMA、BA、AAの各モノマー濃度は409ppm、569ppm、510ppmであった。また、水酸化ナトリウム水溶液投入後のpHは8.34であった。
反応終了後、反応終了液を4.75mmの篩を通液させて凝集物量を把握したが、4.75mmを超える凝集物は観察されなかった。また、反応槽や撹拌翼に4.75mmを超える凝集・付着物は観察されなかった。
【0055】
実施例4
槽径700mmの反応槽、翼径630mmのアンカー翼を用いて検討を行った。まず、イオン交換水を147.9kg充填した。次に、20kPaまでの減圧と、窒素にて常圧に戻す操作とを3回繰り返すことにより窒素置換を行った。以降の操作は、撹拌速度44rpm、窒素流入速度5L/minにて行った。
窒素置換後、昇温して70℃に到達後、APS水溶液(APS 0.25kg、イオン交換水 3.5kg)を投入した。APS水溶液を投入後、MMA/BA/80%AA混合液(MMA 34.5kg、BA 14.7kg、80%AA 1.9kg)を一定の速度にて4時間かけて供給した。モノマー滴下終了30分後に、アルカリ剤として、水酸化ナトリウム水溶液(48%水酸化ナトリウム 0.60kg、イオン交換水 6.78kg)を投入した。アルカリ剤添加後、75℃の温度にて2時間30分熟成した。熟成後のポリマーの平均粒径は356.7nmであった。
水酸化ナトリウム水溶液を投入直前のpHは2.85であり、MMA、BA、AAの各モノマー濃度は212ppm、271ppm、199ppmであった。また、水酸化ナトリウム水溶液投入後のpHは8.40であった。
反応終了後、反応終了液を4.75mmの篩を通液させて凝集物量を把握したところ、4.75mmを超える凝集物量は0.25kgであり、仕込みモノマーに対して0.5%凝集物が生成した。また、反応槽や撹拌翼に4.75mmを超える凝集・付着物は観察されなかった。
【0056】
実施例5
槽径157mmの反応槽、翼径140mmのアンカー翼を用いて検討を行った。まず、イオン交換水を1,696g充填した。次に、20kPaまでの減圧と、窒素にて常圧に戻す操作とを3回繰り返すことにより窒素置換を行った。以降の操作は、撹拌速度120rpm、窒素流入速度200mL/minにて行った。
窒素置換後、昇温して70℃に到達後、APS水溶液(APS 2.86g、イオン交換水 28.6g)を投入した。APS水溶液を投入後、MMA/BA/80%AA混合液(MMA 388.6g、BA 165.7g、80%AA 21.4g)を一定の速度にて4時間かけて供給した。モノマー滴下開始後3時間の時点で、アルカリ剤として、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を41.6g投入した。
水酸化ナトリウム水溶液を投入直前のpHは2.94であり、MMA、BA、AAの各モノマー濃度は588ppm、680ppm、410ppmであった。また、水酸化ナトリウム水溶液投入後のpHは7.63であった。
モノマー滴下終了後、75℃の温度にて3時間熟成反応を行った。熟成後のポリマーの平均粒径は357.3nmであった。
反応終了後、反応終了液を4.75mmの篩を通液させて凝集物を回収した。更に反応槽や撹拌翼に付着した4.75mm以上の凝集物を回収した。4.75mmを超える凝集物量は1.3gであり、仕込みモノマーに対して0.2%凝集物が生成した。
【0057】
比較例1
槽径700mmの反応槽、翼径630mmのアンカー翼を用いて検討を行った。まず、イオン交換水を147.9kg充填した。次に、20kPaまでの減圧と、窒素にて常圧に戻す操作とを3回繰り返すことにより窒素置換を行った。以降の操作は、撹拌速度44rpm、窒素流入速度5L/minにて行った。
窒素置換後、昇温して70℃に到達後、APS水溶液(APS 0.25kg、イオン交換水 3.5kg)を投入した。APS水溶液を投入後、MMA/BA/80%AA混合液(MMA 34.5kg、BA 14.7kg、80%AA 1.9kg)を一定の速度にて4時間かけて供給した。モノマー滴下終了後、75℃の温度にて3時間熟成反応を行った。熟成後のポリマーの平均粒径は357.9nmであった。熟成反応後、40℃に冷却し、アルカリ剤として、水酸化ナトリウム水溶液(48%水酸化ナトリウム 0.60kg、イオン交換水6.78kg)を投入した。
水酸化ナトリウム水溶液を投入直前のpHは2.50、MMA、BA、AAの各モノマー濃度は32ppm、14ppm、10ppmであった。また、水酸化ナトリウム水溶液投入後のpHは8.40であった。
反応終了後、反応終了液を4.75mmの篩を通液させて凝集物量を把握したところ、4.75mmを超える凝集物量は0.51kgであり、仕込みモノマーに対して1.0%凝集物が生成した。
【0058】
比較例2
槽径157mmの反応槽、翼径140mmのアンカー翼を用いて検討を行った。まず、イオン交換水を1,696g、アルカリ剤として、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を41.6g充填した。水酸化ナトリウム水溶液を投入直前のpHは7.0、水酸化ナトリウム水溶液を投入直後のpHは12.79であった。
次に、20kPaまでの減圧と、窒素にて常圧に戻す操作とを3回繰り返すことにより窒素置換を行った。以降の操作は、撹拌速度120rpm、窒素流入速度200mL/minにて行った。
窒素置換後、昇温して70℃に到達後、APS水溶液(APS 2.86g、イオン交換水 28.6g)を投入した。APS水溶液を投入後、MMA/BA/80%AA混合液(MMA 388.6g、BA 165.7g、80%AA 21.4g)を一定の速度にて4時間かけて供給した。モノマー滴下終了後、75℃の温度にて3時間熟成反応を行った。熟成後のポリマーの平均粒径は149.7nmであった。
反応終了後、反応終了液を4.75mmの篩を通液させて凝集物を回収した。更に反応槽や撹拌翼に付着した4.75mm以上の凝集物を回収した。4.75mmを超える凝集物量は6.8gであり、仕込みモノマーに対して1.2%凝集物が生成した。
以上の結果を、以下の表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示されるように、本発明のポリマーエマルションの製造方法では、凝集物の発生が抑制された。これらの中でも、特にモノマー滴下終了から5分後にアルカリ剤を添加した実施例1及び2、並びにモノマー滴下終了から15分後にアルカリ剤を添加した実施例3では、顕著に凝集物の発生が抑制された。なお、モノマー滴下終了から30分後にアルカリ剤を添加した実施例4、及びモノマーの滴下終了1時間前にアルカリ剤を添加した実施例5では、若干の凝集物の発生を認めた(実施例4:0.5%、実施例5:0.2%)。
一方、アルカリ剤をモノマー滴下終了から3時間後に添加した比較例1では、1.0%の凝集物が発生した。また、モノマーの滴下開始前にアルカリ剤を添加した比較例2では、1.2%の凝集物が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリマーエマルションの製造方法によれば、凝集物の発生が抑制され、極めて効率的にポリマーエマルションを製造することができ、種々の用途に使用が期待されるポリマーのエマルションを、ソープフリー乳化重合で得られるため、乳化剤の影響が抑制され、種々の用途への応用が期待される。