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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】車両用防振ゴムの塗装方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/02 20060101AFI20230119BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
B05D3/02 Z
B05D7/00 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018233217
(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2020093218
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祐一
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-266369(JP,A)
【文献】特開2006-130384(JP,A)
【文献】特開2007-275720(JP,A)
【文献】特開2001-271859(JP,A)
【文献】特開2016-186371(JP,A)
【文献】特開2002-263548(JP,A)
【文献】特開2009-263631(JP,A)
【文献】国際公開第2012/019777(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 3/02
B05D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用防振ゴムの外表面に露出している金具に水性塗料を塗布する塗料塗布工程と、
誘導加熱により前記金具を加熱して前記金具に塗布された前記水性塗料を乾燥させる塗料乾燥工程と、
を有しており、
前記誘導加熱により前記金具を加熱するときに、前記金具のうち塗装されない非塗装部の温度を放射温度計によって計測し、前記金具の温度が所定の上限値を超過していないか監視する車両用防振ゴムの塗装方法。
【請求項2】
前記水性塗料の塗布に先だって、誘導加熱により前記金具を加熱して予熱する予熱工程をさらに有している、
請求項1に記載の車両用防振ゴムの塗装方法。
【請求項3】
前記予熱工程における前記金具の予熱温度及び前記塗料乾燥工程における前記金具の乾燥温度は、前記水性塗料の沸点より低く、
前記予熱温度は、前記乾燥温度よりも高い、
請求項2に記載の車両用防振ゴムの塗装方法。
【請求項4】
前記予熱工程の時間と、前記塗料塗布工程の時間と、前記塗料乾燥工程の時間とが、概ね同一に設定されている、
請求項2に記載の車両用防振ゴムの塗装方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1つに記載の車両用防振ゴムの塗装方法によって、車両用防振ゴムに塗装する工程を含む、車両用防振ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用防振ゴムの塗装方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用防振ゴム(例えば液封エンジンマウントゴム等)は、振動源とこれを支持する支持部材との間に介設されて、振動源を支持部材に対して弾性的に支持するように構成されている。一般に、車両用防振ゴムは、金属製の取付金具を備えており、振動源及び支持部材に対して取付金具を介して取り付けられている。取付金具は防錆のため、塗装装置によって塗装される場合がある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
従来、車両用防振ゴムの取付金具に防錆塗装をする場合、まず蒸気オーブン内で車両用防振ゴムの全体を加熱して、取付金具の温度を予熱し、次いで、予熱された取付金具に有機溶剤型塗料を塗布し、最後に、蒸気オーブン内で車両用防振ゴムの全体を加熱して、取付金具に塗布された有機溶剤型塗料を乾燥させている。
【0004】
取付金具を予熱する方法として、引用文献1には、防振構造体の金属基材を誘導加熱により加熱して予熱した後、該金属基材に、熱防振ゴム本体を、硬化性樹脂接着材が塗布された被接着面において圧着させて、接着固定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-271859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
誘導加熱により加熱することで、車両用防振ゴムのうち金属製である取付金具を効率的に昇温させて予熱することができる。しかしながら、取付金具に塗布された有機溶剤型塗料に対しては、揮発した溶剤が発火する虞があるため、取付金具に塗布された有機溶剤型塗料を乾燥させるために、誘導加熱を採用することはできない。
【0007】
また、従来方法のように、蒸気オーブン等で、取付金具に塗布された塗料を乾燥させる場合には、取付金具のみならず車両用防振ゴムの全体が加熱されることになるため、エネルギを要すると共に時間を要する。また、塗膜の外表面から乾燥するため、内部が最後に冷える際に収縮等する結果、塗膜のうち先に乾燥しやすい表面側に割れ等が生じる場合がある。
【0008】
したがって、車両用防振ゴムの塗装方法において、取付金具に塗布された塗料を、割れ等を抑制しながら効率的に乾燥させる点で、車両用防振ゴムの塗装方法を改良する余地がある。
【0009】
本発明は、車両用防振ゴムに備えた取付金具に塗布された塗料を効率的に乾燥させることができる、車両用防振ゴムの塗装方法及び車両用防振ゴムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
車両用防振ゴムの外表面に露出している金具に水性塗料を塗布する塗料塗布工程と、
誘導加熱により前記金具を加熱して前記金具に塗布された前記水性塗料を乾燥させる塗料乾燥工程と、
を有しており、
前記誘導加熱により前記金具を加熱するときに、前記金具のうち塗装されない非塗装部の温度を放射温度計によって計測し、前記金具の温度が所定の上限値を超過していないか監視する車両用防振ゴムの塗装方法を提供する。
【0011】
本発明によれば、誘導加熱によって、車両用防振ゴムのうち金具を所望の温度に短時間で昇温させることができるので、車両用防振ゴム全体を加熱する場合に比して、金具を効率的に加熱できる。さらに、金具に塗布された水性塗料を、塗膜の厚み方向における金具側(内面側)から乾燥させることができるので、表面側から乾燥させる場合に比して、塗膜を、割れ等を抑制しつつ効率的に乾燥させやすい。しかも、塗料として水性塗料を採用することで、加熱手段として誘導加熱を使用した際の塗料の発火を防止できる。
また、金具の非塗装部の温度を計測することによって、被計測部の面性状のバラツキ等の影響を除外して、金具の温度が所望の温度に昇温されていることを正確に安定して監視できる。例えば、誘導加熱により金具が異常に昇温されていることを検出しやすく、水性塗料が過熱されることを防止できる。
【0012】
好ましくは、前記水性塗料の塗布に先だって、誘導加熱により前記金具を加熱して予熱する予熱工程をさらに有している。
【0013】
本構成によれば、誘導加熱によって、車両用防振ゴムのうち金具を所望の温度に短時間で昇温させることができるので、車両用防振ゴム全体を加熱する場合に比して、金具を効率的に予熱できる。
【0014】
また、好ましくは、前記予熱工程における前記金具の予熱温度及び前記塗料乾燥工程における前記金具の乾燥温度は、前記水性塗料の沸点より低く、
前記予熱温度は、前記乾燥温度よりも高い。
【0015】
本構成によれば、金具に塗布される水性塗料の沸騰が抑制されるので、膨れ、割れ等のない緻密な塗膜を金具の表面に形成できる。また、予熱温度に加熱された金具は、水性塗料を例えばスプレーにより塗布した際に、塗料の気化熱によって温度が低下するため、乾燥温度よりも高く設定できる。これによって、水性塗料を、沸騰を抑制させつつ、より高温状態の金具に塗布することができるので、金具に塗布された水性塗料の乾燥を促進できる。
【0018】
また、好ましくは、前記予熱工程の時間と、前記塗料塗布工程の時間と、前記塗料乾燥工程の時間とが、概ね同一に設定されている。
【0019】
本構成によれば、車両用防振マウントを、予熱工程、塗料塗布工程、塗料乾燥工程の各工程に、1個ずつ順に常寸送りで搬送することができるので、効率的に塗装できる。
【0020】
また、本発明の他の態様は、
上記いずれか1つに記載の車両用防振ゴムの塗装方法を含む、車両用防振ゴムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、車両用防振ゴムに備えた取付金具に塗布された塗料を効率的に乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】車両用防振ゴムの縦断面図。
図2】車両用防振ゴムの組立工程を説明する図。
図3】車両用防振ゴムの塗装工程を説明する図。
図4】塗装ラインにおける液封マウントゴムの流れを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0024】
図1は、車両用防振ゴムの一例として、液体封入式エンジンマウントゴム50(以下、液封マウントゴム50と称する)を示している。液封マウントゴム50は、不図示のエンジンと車体フレームとの間に介設されて、エンジンを車体フレームに対して弾性的に支持するものであり、エンジンに取り付けられるボス金具51と、車体フレームに取り付けられる外筒金具52と、ボス金具51と外筒金具52との間に介設されたゴム部材からなる弾性基体53とを備えている。
【0025】
ボス金具51には上下方向に延びる雌ねじ部54が設けられており、ここに不図示のボルトによりエンジン側の部材に取り付けられるように構成されている。外筒金具52は、金属製の円筒部材であり液封マウントゴム50の外表面に露出しており、上記車体フレームに取り付けられる。
【0026】
弾性基体53は、下端部53aにボス金具51が加硫接着されており、上端部53bに外筒金具52がカシメにより固定されている。上端部53bは、外径が下端部53aより大きく、この内側には、上方に開口した液室55が画定されている。液室55の上端の開口部55aには、ダイヤフラム56が設けられている。
【0027】
液室55は、ダイヤフラム56によって密閉状態に構成されており、水、エチレングリコール、シリコンオイル等の液体が封入されている。液室55は、仕切り部材57によって上側の第1室55bと下側の第2室55cとに上下に仕切られており、これらは仕切り部材57に形成された不図示のオリフィス流路を介して互いに連通している。すなわち、液室55に封入された液体は、第1室55bから第2室55cへ又はこの逆方向へ、互いに流動可能に構成されている。
【0028】
次に、液封マウントゴム50を製造する製造方法について説明する。まず、図2を参照して、液封マウントゴム50の組立工程について説明する。図2(a)に示すマウントワーク載置工程31において、弾性基体53にボス金具51が加硫されたマウントワーク50Wが準備され、マウントワーク50Wが、液室55の開口部55aが上方に開口する姿勢で組立台37の上に載置される。
【0029】
次に、図2(b)に示す液体注入工程32において、液体Wが液室55に所定量注入される。そして、図2(c)に示す仕切り部材組付工程33において、仕切り部材57が液室55に組み込まれる。さらに、図2(d)に示すダイヤフラム組付工程34において、ダイヤフラム56が液室55の開口部55aに組み付けられる。
【0030】
次に、図2(e)に示す外筒金具組付工程35において、外筒金具52がマウントワーク50Wの上端部の外周に嵌挿される。最後に、図2(f)に示す液室封止工程36において、外筒金具52を径方向内側にカシメてダイヤフラム56を液室55の開口部55aに固定することによって、液室55に液体Wを封止する。これによって、液封マウントゴム50が組み立てられる。
【0031】
次に、図3を参照して、液封マウントゴム50の外筒金具52の外表面を塗装する塗装方法について説明する。外筒金具52は、有機溶剤型塗料ではなく、水性塗料Pで塗装される。本発明において、水性塗料Pは、有機溶剤型塗料と対比される用語であって、一般に、水又は水を主成分とする媒体(水性媒体)に、塗膜形成樹脂、顔料等を分散及び/又は溶解させた塗料を意味する。また、水性塗料Pは、防錆性能に優れた成分を含有しており、防錆水性塗料である。外筒金具52に水性塗料Pを塗布することによって、外筒金具52における防錆性能が向上する。水性塗料Pの沸点は、100度以下である。
【0032】
なお、液封マウントゴム50は、外筒金具52のうち、上側に位置する略2/3の範囲が塗装される塗装部52aとして構成され、残りの下側に位置する略1/3の範囲が塗装されない非塗装部52bとして構成される。本実施形態では、塗装部52aは、外筒金具52のうち径方向内側にカシメられている部分に相当している。
【0033】
まず、図3(a)に示す予熱工程41において、液封マウントゴム50の外筒金具52が、水性塗料Pの塗布に先だって、予熱装置10によって予熱される。外筒金具52を、予熱しておくことで、後続する塗料塗布工程42で外筒金具52に塗布された水性塗料Pの乾燥を早めることができる。予熱温度は、外筒金具52の表面温度が、水性塗料Pを塗布した際に、該水性塗料Pが沸騰しない温度に設定されており、例えば80度以上90度以下に設定されている。
【0034】
予熱装置10は、電磁誘導加熱により外筒金具52を加熱するものである。具体的には、予熱装置10は、上下方向に延びている円筒状のコイルパイプ11と、コイルパイプ11の外周部に巻き付けられたコイル12と、コイルパイプ11及びコイル12を外周側から保持する保持部材13と、保持部材13に設けられており、外筒金具52の表面温度を計測する温度計測器14とを有している。
【0035】
コイルパイプ11は、樹脂製部材であり、径方向内側に誘導加熱により加熱される、被加熱部材として、磁性材(例えば鉄鋼系材料)からなる外筒金具52が配置されるようになっている。また、樹脂製のコイルパイプ11によって、コイル12に被加熱部材が直接に接触することが防止されている。
【0036】
コイル12は、導線(例えば銅製)であって、両端部に不図示の交流電源が接続されている。コイル12に交流電源から高周波電流を流すことによって生じる磁界により、コイルパイプ11の内側に配置された被加熱部材に渦電流が流れて発熱する。コイル12は、外筒金具52のうち塗装部52aに対応する高さ位置に設けられている。
【0037】
温度計測器14は、非接触型の温度計であって、本実施形態では放射温度計が採用されている。放射温度計とは、物体から放射される赤外線や可視光線等の熱放射の強度を測定して被計測物の温度を計測するものである。なお、被計測物の面性状によって放射される熱放射が異なり得る。温度計測器14は、コイル12の下方において、コイルパイプ11及び保持部材13を径方向に貫通して、外筒金具52の非塗装部52bに対応する高さに位置しており、非塗装部52bの表面温度を計測する。
【0038】
温度計測器14は、被計測部の温度が、所定の上限値を超過していないか監視する。本実施形態では、温度計測器14は、液封マウントゴム50の外筒金具52の表面温度が100度を超えていないか監視している。
【0039】
また、保持部材13に不図示の冷却ファンから送風が供給されて、コイルパイプ11及びコイル12が冷却されるようになっている。
【0040】
次に、図3(b)に示す塗料塗布工程42には、液封マウントゴム50を支持するマウント支持部45と塗装スプレー46とを有する塗装装置1が設けられている。マウント支持部45は、液封マウントゴム50を、長手方向を上下方向に向けて外筒金具52が上方に位置する姿勢で下方から支持し、液封マウントゴム50の長手方向に延びる中心軸周りに回転するように構成されている。
【0041】
塗装スプレー46は、マウント支持部45により支持され回転する液封マウントゴム50の、外筒金具52のうち塗装部52aに対して水性塗料Pを噴射して塗布する。
【0042】
最後に、図3(c)に示す塗料乾燥工程43において、液封マウントゴム50は、乾燥装置20において、外筒金具52が加熱されて、水性塗料Pの乾燥が促進される。これによって、液封マウントゴム50が製造される。
【0043】
乾燥装置20は、予熱装置10と同様に、電磁誘導加熱により被加熱部材を加熱して、乾燥させるものである。乾燥装置20は、予熱装置10と同様に、円筒状のコイルパイプ21と、コイル22と、保持部材23と、温度計測器24とを有しており、それぞれ予熱装置10と同様であるため詳細説明を省略する。なお、乾燥装置20における、乾燥温度は、外筒金具52に塗布された水性塗料Pが沸騰しない温度に設定されており、予熱温度よりも低く、例えば70度以上80度以下に設定されている。
【0044】
図4に、塗装工程40の各工程41~43が実施される塗装ライン2における、液封マウントゴム50の流れを示している。塗装ライン2は、液封マウントゴム50が図4において左から右へ搬送される搬送コンベア3を有している。搬送コンベア3上には、搬送方向上流側から順に、予熱装置10、塗装装置1、及び乾燥装置20が配置されている。
【0045】
本実施形態では、各工程のサイクルタイムを概ね等しくするため、他の工程に比して時間を要する塗料乾燥工程43が、第1塗料乾燥工程43Aと第2塗料乾燥工程43Bとに2つに分割されており、乾燥装置20はそれぞれ対応する、搬送方向上流側に位置する第1乾燥装置20Aと、この下流側に位置する第2乾燥装置20Bとにより構成されている。液封マウントゴム50は、予熱装置10、塗装装置1、及び第1及び第2乾燥装置20A,20Bに常寸送りで搬送されると共に、それぞれにおいて位置決めされて予熱工程41、塗料塗布工程42、及び塗料乾燥工程43が同時に実施される。
【0046】
これによって、予熱工程41、塗料塗布工程42、第1及び第2塗料乾燥工程43A,43Bが、概ね同一のサイクルタイムで実施されるので、各工程における待ち時間の発生を抑制しつつ液封マウントゴム50を常寸送りで搬送することができ、液封マウントゴム50を効率的に塗装できる。
【0047】
また、予熱装置10、塗装装置1、第1及び第2乾燥装置20A,20Bは、上下方向に昇降可能に構成されており、下降した位置でそれぞれの工程が実施され、上方に退避した位置で液封マウントゴム50が次工程へ搬送されるようになっている。
【0048】
図4(a)には、予熱装置10、塗装装置1、第1及び第2乾燥装置20A,20Bが下降しており、各工程41~43が実施されている状況が示されている。このとき、予熱装置10においては、液封マウントゴム50の外筒金具52が、誘導加熱により加熱されて、80度以上90度以下の予熱温度に昇温される。このとき、温度計測器14により、外筒金具52の表面温度が監視されており、温度異常(例えば、異常昇温)が検出されるようになっている。
【0049】
また、塗装装置1においては、予熱された外筒金具52の塗装部52aに対して塗装スプレー46により水性塗料Pが噴射されて塗装される。このとき、外筒金具52は、80度以上90度以下の予熱温度に予熱されているが、水性塗料Pの噴射による気化熱により50度~60度程度に温度が低下する。
【0050】
次いで、第1及び第2乾燥装置20A,20Bにおいて、液封マウントゴム50は外筒金具52が誘導加熱により加熱されて、70度以上80度以下の乾燥温度に昇温される。このとき、温度計測器24により、外筒金具52の表面温度が監視されており、温度異常が検出されるようになっている。なお、温度計測器24は、外筒金具52のうち非塗装部52bの表面温度を計測するものである。非塗装部52bは、塗膜が形成されておらず面性状の変化がないので、放射温度計である温度計測器24によって外筒金具52の温度を正確に安定して計測できる。
【0051】
予熱時には、後続する塗料塗布工程42において気化熱により温度が低下することを考慮して、水性塗料Pを沸騰させない範囲で80度以上90度以下に設定している。一方で、乾燥時には、塗料乾燥工程43における誘導加熱による急激な昇温を考慮しても水性塗料Pが沸騰しないように、予熱温度よりも低く70度以上80度以下に設定している。
【0052】
各工程41~43が終了すると、図4(b)に示すように、予熱装置10、塗装装置1、第1及び第2乾燥装置20A,20Bが上方へ退避する。次いで、図4(c)に示すように、各工程41~43に位置する液封マウントゴム50が搬送コンベア3により常寸送りで、搬送方向下流側の次工程に搬送される。次いで、図4(d)に示すように、予熱装置10、塗装装置1、第1及び第2乾燥装置20A,20Bが下降する。以降、図4(a)~図4(d)に示す一連の流れが繰り返される。
【0053】
上記説明した液封マウントゴム50の塗装方法によれば、次のような効果が得られる。
【0054】
(1)塗料乾燥工程43において、誘導加熱によって、液封マウントゴム50のうち外筒金具52を所望の温度に短時間で昇温させることができるので、液封マウントゴム50全体を加熱する場合に比して、外筒金具52を効率的に加熱できる。さらに、誘導加熱により昇温させた外筒金具52によって、ここに塗布された水性塗料Pを乾燥させる。すなわち、水性塗料Pを、塗膜の厚み方向における外筒金具52側(内面側)から乾燥させることができるので、塗膜の表面側から乾燥させる場合に比して、塗膜を、割れ等を抑制しつつ乾燥させやすい。
【0055】
しかも、塗料として水性塗料Pを採用することで、加熱手段として誘導加熱を使用した際の塗料の発火を防止できる。
【0056】
(2)また、予熱工程41にも、誘導加熱を採用することによって、液封マウントゴム50のうち外筒金具52を所望の温度に短時間で昇温させることができるので、液封マウントゴム50全体を加熱する場合に比して、外筒金具52を効率的に予熱できる。
【0057】
(3)予熱温度及び乾燥温度は、水性塗料Pが沸騰しない温度に設定されているので、金具に塗布される水性塗料の沸騰が抑制され、膨れ、割れ等のない緻密な塗膜を金具の表面に形成できる。
【0058】
また、予熱温度は乾燥温度よりも高いが、予熱温度に加熱された外筒金具52は、水性塗料Pを塗装スプレー46により塗布した際に、水性塗料Pの気化熱によって温度が低下するため、乾燥温度よりも高く設定できる。これによって、水性塗料Pを、沸騰を抑制させつつ、より高温状態の外筒金具52に塗布することができるので、外筒金具52に塗布された水性塗料Pの乾燥を促進できる。
【0059】
(4)外筒金具52の非塗装部52bの温度を計測することによって、塗装部52aのような面性状の変化の影響を除外することができ、外筒金具52の温度が所望の温度に昇温されていることを正確に安定して監視できる。例えば、誘導加熱により外筒金具52が異常に昇温されていることを検出しやすく、水性塗料Pが過熱されることを防止できる。
【0060】
(5)塗装ライン2は、予熱工程41、塗料塗布工程42、第1及び第2塗料乾燥工程43A,43Bが、それぞれ略同一のサイクルタイムに設定されているので、液封マウントゴム50を、予熱工程41、塗料塗布工程42、第1及び第2塗料乾燥工程43A,43Bの各工程に、1個ずつ順に常寸送りで搬送することができる。これによって、液封マウントゴム50を効率的に塗装できる。
【0061】
上記実施形態では、液封マウントゴムを例にとって説明したが、これに限らない。すなわち、一方の部材を他方の部材に対して弾性的に支持するマウント部材のうち、外表面に露出している金具に対して塗装する場合に、本発明を適用できる。車両用防振ゴムに適用することができ、例えば、エンジンマウントの他にも、車体フレームとボディとの間に介設されるボディマウントや、トランスミッションと車体フレームとの間に介設されるトランスミッションマウントにも適用できる。また、液室が形成されておらずこのため液体が封止されていない、総ゴムタイプのマウント部材(但し取付金具は有する)にも適用できる。
【0062】
なお、本発明は、上記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 塗装装置
2 塗装ライン
10 予熱装置
12 コイル
14 温度計測器
20 乾燥装置
22 コイル
24 温度計測器
41 予熱工程
42 塗料塗布工程
43 塗料乾燥工程
46 塗装スプレー
50 液封マウントゴム
52 外筒金具
P 水性塗料
図1
図2
図3
図4