IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社エフコンサルタントの特許一覧

<>
  • 特許-被覆構造体 図1
  • 特許-被覆構造体 図2
  • 特許-被覆構造体 図3
  • 特許-被覆構造体 図4
  • 特許-被覆構造体 図5
  • 特許-被覆構造体 図6
  • 特許-被覆構造体 図7
  • 特許-被覆構造体 図8
  • 特許-被覆構造体 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】被覆構造体
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20230119BHJP
【FI】
E04B1/94 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018233334
(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2019108789
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2017242484
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510114125
【氏名又は名称】株式会社エフコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】田中 康典
(72)【発明者】
【氏名】軽賀 英人
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223203(JP,A)
【文献】特開2017-159483(JP,A)
【文献】特開2017-109428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
B32B 1/00-43/00
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨と、熱発泡性シートを有する被覆構造体であって、
前記熱発泡性シートは、熱発泡層と、前記熱発泡層の一方の面側に無機繊維織物を有し、
前記無機繊維織物は、経糸及び緯糸の織密度がいずれも10本/25mm以上60本/25mm以下であり、
前記無機繊維織物は、前記熱発泡層に半埋設または全埋設するように設けられたものであり、
前記熱発泡性シートは、前記熱発泡層の前記一方の面が前記鉄骨側に向いて、該鉄骨の周囲を覆う様に設けられていることを特徴とする被覆構造体。
【請求項2】
構造材の下方に固定されたH型またはI型の鉄骨と、熱発泡性シートを有する被覆構造体であって、
前記熱発泡性シートは、熱発泡層と、前記熱発泡層の一方の面側に無機繊維織物を有し、
前記無機繊維織物は、経糸及び緯糸の織密度がいずれも10本/25mm以上60本/25mm以下であり、
前記無機繊維織物は、前記熱発泡層に半埋設または全埋設するように設けられたものであり、
前記熱発泡性シートは、前記熱発泡層の前記一方の面が前記鉄骨側に向いて、該鉄骨の周囲を覆う様に設けられていることを特徴とする被覆構造体。
【請求項3】
前記無機繊維織物は、経糸及び緯糸がいずれも20TEX以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の被覆構造体。
【請求項4】
前記無機繊維織物は、平織りに製織された無機繊維織物であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の被覆構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な被覆構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物、土木構築物等の構造物が火災等によって高温に晒された場合には、柱、梁等を構成する鉄骨の物理的強度が急激に低下するという問題がある。これに対し、鉄骨に耐熱保護性を有する被覆材を被覆し、火災時の鉄骨の温度上昇を遅延させて、鉄骨の物理的強度の低下を抑制する被覆構造が知られている。
【0003】
上記被覆構造としては、例えば、セメント等の無機質バインダーに、無機質繊維状物質、軽量骨材、結晶水含有無機質粉体等を適宜混合した混合組成物を鉄骨表面に厚付けした湿式被覆構造が知られている。また、上記湿式被覆構造に代えて、無機繊維混合マット、ロックウール、耐火ボード、熱発泡性シート等の乾式材料による乾式被覆構造も知られている。乾式被覆構造は、湿式被覆構造に比べて施工性、仕上がり性に優れるため好適である。
【0004】
また、近年、居室空間のデザインの多様化により、構造物を構成する梁を化粧梁として露出させることにより、室内空間を広く見せたり、装飾性を付与する要望がたかまっており、乾式被覆構造として、熱発泡性シート等が多く採用されつつある。このような熱発泡性シートとして、例えば、特許文献1には、耐火材料の少なくとも片面に、アルミニウム箔及び無機繊維クロスからなる積層シートを積層させた被覆材を、アルミニウム箔が最表面に位置するように設けた鉄骨被覆構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-161435号公報
【0006】
しかしながら、特許文献1の被覆材は、少なくとも3層の積層体であり、その実施態様として上記積層シートを両面に積層した5層の積層体であることが記載されており、被覆材の構成が複雑であり、その被覆構造も複雑となる。また、特許文献1では、火災の炎等に晒された場合に、脱落等を防止するために最表面(外側)に特定アルミニウム箔等の補強材層を積層することが必須であり、仕上がり外観が制限されてしまうおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、鉄骨構造物を構成する鉄骨を覆う様に設けられた熱発泡性シートによる被覆構造体に関し、比較的簡素な構造で美観性に優れた仕上がりを有するとともに、炭化断熱層の脱落等を防止して安定した耐熱保護性を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、特定の熱発泡性シートを、鉄骨周囲を覆う様に固定した被覆構造体に想到し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の被覆構造体は、下記の特徴を有するものである。
1.鉄骨と、熱発泡性シートを有する被覆構造体であって、
前記熱発泡性シートは、熱発泡層と、前記熱発泡層の一方の面側に無機繊維織物を有し、
前記無機繊維織物は、経糸及び緯糸の織密度がいずれも10本/25mm以上60本/25mm以下であり、
前記無機繊維織物は、前記熱発泡層に半埋設または全埋設するように設けられたものであり、
前記熱発泡性シートは、前記熱発泡層の前記一方の面が前記鉄骨側に向いて、該鉄骨の周囲を覆う様に設けられていることを特徴とする被覆構造体。
2.構造材の下方に固定されたH型またはI型の鉄骨と、熱発泡性シートを有する被覆構造体であって、
前記熱発泡性シートは、熱発泡層と、前記熱発泡層の一方の面側に無機繊維織物を有し、
前記無機繊維織物は、経糸及び緯糸の織密度がいずれも10本/25mm以上60本/25mm以下であり、
前記無機繊維織物は、前記熱発泡層に半埋設または全埋設するように設けられたものであり、
前記熱発泡性シートは、前記熱発泡層の前記一方の面が前記鉄骨側に向いて、該鉄骨の周囲を覆う様に設けられていることを特徴とする被覆構造体。
3.前記無機繊維織物は、経糸及び緯糸がいずれも20TEX以上であることを特徴とする1.または2.に記載の被覆構造体。
4.前記無機繊維織物は、平織りに製織された無機繊維織物であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の被覆構造体。

【発明の効果】
【0010】
本発明では、鉄骨構造物を構成する鉄骨が、特定の熱発泡性シートの使用によって比較的簡素な構造で美観性に優れた仕上がりを有するとともに、火災等によって高温に晒された場合に、炭化断熱層の脱落等を防止して安定した耐熱保護性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明被覆構造体の一例を示す(I)断面図、(II)斜視図である。
図2】本発明被覆構造体の一例を示す(I)断面図、(II)斜視図である。
図3】本発明で用いる鉄骨の一例を示す断面図である。
図4】本発明で用いる熱発泡性シートの一例を示す断面図である。
図5】本発明被覆構造体の一例を示す側面図である。
図6】本発明被覆構造体の一例を示す側面図である。
図7】本発明被覆構造体の一例を示す側面図である。
図8】本発明で用いる鉄骨の一例を示す断面図である。
図9】本発明被覆構造体の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0012】
1.構造材(床材)
2.H型鉄骨
2a.上フランジ
2b.下フランジ
2c.ウェブ
2d.エッジ部
21.I型鉄骨
21a.上フランジ
21b.下フランジ
21c.ウェブ
21d.エッジ部
3.熱発泡性シート
3a.熱発泡層
3b.無機繊維織物
4.空気層
5.固定部材
6.熱発泡性テープ
A.重なり部
B.突き合わせ部
L.長手方向
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
本発明の被覆構造体は、鉄骨と、熱発泡性シートを有する被覆構造体であって、鉄骨の周囲を覆うように特定の熱発泡性シートが設けられていることを特徴とするものでる。鉄骨としては、特に限定されず、例えば、角型、丸型、H型、I型等の鉄骨鋼材が挙げられ、これらは構造物を構成する柱、梁、等として使用されるものである。これら鉄骨の周囲を覆うように熱発泡性シートが設けられた態様としては、例えば、鉄骨に直接(密着して)被覆する態様、空気層を介して被覆する態様等が挙げられる。本発明の被覆構造体は、鉄骨の周囲を、空気層を介して熱発泡性シートが覆うように被覆する態様が好適であり、さらには、H型、I型等の鉄骨の場合により好適なものである。以下、本発明の被覆構造体として好適な、構造材の下方に固定されたH型またはI型の鉄骨と、熱発泡性シートを有する被覆構造体を例として、詳細に説明する。
【0015】
本発明の被覆構造体の一例を図1に示す。
図1は、本発明被覆構造体の一例を示す(I)断面図、(II)斜視図である。図1では、構造材1の下方に設けられたH型鉄骨2と、熱発泡性シート3とを有し、構造材1に接した面(上フランジ2a上面)を除くH型鉄骨2の周囲を、熱発泡性シート3が覆う様に設けられ、熱発泡性シート3の両端部が構造材1に固定部材5によって固定されている。これにより、H型鉄骨2の周囲を、空気層4を介して熱発泡性シート3が覆った被膜構造体が得られる。なお、H型鉄骨2の下フランジ2bは、図1(Ia)のように熱発泡性シート3が密着する(接する)ように設けられても、図1(Ib)のように空気層4を介して熱発泡性シート3が覆う様に設けられてもよい。
【0016】
図2は、本発明被覆構造体の別の一例を示す(I)断面図、(II)斜視図である。図2では、構造材1の下方に設けられたH型鉄骨2と、熱発泡性シート3とを有し、構造材1に接した面(上フランジ2a上面)を除くH型鉄骨2の周囲を、熱発泡性シート3が覆う様に設けられ、熱発泡性シート3の両端部がH型鉄骨2の上フランジ2aのエッジ部2dに固定部材5によって固定されている。なお、H型鉄骨2の下フランジ2bは、図2(Ia)のように熱発泡性シート3が密着する(接する)ように設けられても、図2(Ib)のように空気層4を介して熱発泡性シート3が覆う様に設けられてもよい。
【0017】
図1図2に示す本発明の被覆構造体では、H型鉄骨2の周囲を覆う熱発泡性シート3が、熱発泡層3aと無機繊維織物3bが積層されたものであり、無機繊維織物3bがH型鉄骨2側(内側)に向くように固定される。火災等によって高温に晒された場合、H型鉄骨2の周囲を覆う様に設けられた熱発泡性シート3は、発泡し炭化断熱層を形成する。本発明では、熱発泡性シート3が特定の無機繊維織物3bを有することにより、この炭化断熱層を形成する過程、及び形成後において、炭化断熱層の脱落等を防止して均一な炭化断熱層を形成し、安定した耐熱保護性を得ることができる。
【0018】
以下、本発明の被覆構造体の構成について具体的に説明する。
本発明の構造材1としては、鉄骨が設置可能な公知のものであればよく、建物の床や天井等が挙げられ、好ましくは耐熱性を有するもの、例えば、ALC板、PC板、デッキプレート、デッキプレートコンクリート等が挙げられる。
【0019】
図3に、本発明で用いるH型鉄骨の断面図を示す。本発明のH型鉄骨2は、上記構造材1を支える梁として機能するものであり、上記構造材1と直接または接続部材等を介してボルト、溶接等の固定手段により固定されるものである。本発明のH型鉄骨2としては、図3のように断面がH字型であり、上フランジ2aと下フランジ2bを板状のウェブ2cにより連結して形成された態様のものが使用される。H型鉄骨は、フランジ幅が広く、フランジ内外面が平行なものである。また、本発明において、上フランジのエッジ部2dとは、上フランジの両端部付近のことをいう。なお、本発明では、構造材1に接する方を上フランジ、その反対側を下フランジという。
【0020】
図4に、本発明の熱発泡性シート3の断面図を示す。本発明の熱発泡性シート3は、火災等により周囲温度が上昇してシート温度が所定の発泡温度(好ましくは180℃以上、より好ましくは200~400℃)に達すると発泡し、その温度領域において炭化断熱層を形成するものである。熱発泡性シート3は、熱発泡層3aと無機繊維織物3bが積層された積層体であり、2層タイプの積層体とすることができるものである。
【0021】
熱発泡層3aとしては、構成成分として樹脂成分、難燃剤、発泡剤、炭化剤、及び充填剤を含有するものが好適である。これらの各成分は、火災発生時において、相互の複合作用によりシートの膨張、炭化断熱層形成、不燃性ガスの発生等の機能を発現することにより、優れた断熱性、耐熱保護性を発揮することができる。
【0022】
樹脂成分としては、例えば、ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂が使用できる。また、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質も使用することができる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂等が好適に使用される。
【0023】
難燃剤としては、一般に火災時に脱水冷却効果、不燃性ガス発生効果、熱可塑性樹脂の炭化促進効果等の少なくとも1つの効果を発揮し、樹脂成分の燃焼を抑制する作用を有するものである。本発明で用いる難燃剤としては、このような作用を有する限り特に制限されず、公知の難燃剤が使用できる。例えば、有機リン系化合物、塩素化合物、アンチモン化合物、リン化合物、ホウ素化合物等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらは、未被覆品、被覆処理品のいずれであってもよい。これらの中では、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン化合物が好適に使用される。
【0024】
難燃剤の混合比率は、樹脂成分100重量部(固形分)に対し、好ましくは50~1000重量部、より好ましくは100~800重量部、さらに好ましくは200~600重量部である。本発明では、このように難燃剤が比較的高比率で含まれることにより、耐熱保護性において良好な性能を得ることができる。
【0025】
発泡剤としては、一般に、火災時に不燃性ガスを発生させて、炭化していく熱可塑性樹脂及び炭化剤を発泡させ、気孔を有する炭化断熱層を形成させる作用を有するものである。発泡剤は、このような作用を有する限り特に制限されず、公知の発泡剤が使用できる。例えば、メラミン及びその誘導体、ジシアンジアミド及びその誘導体、アゾジカーボンアミド、尿素、チオ尿素等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。これらの中では、メラミン、ジシアンジアミド、アゾジカーボンアミド等が好適に使用される。
【0026】
発泡剤の混合比率は、樹脂成分100重量部(固形分)に対し、好ましくは5~500重量部、より好ましくは30~200重量部、さらに好ましくは40~150重量部である。このような範囲であることにより、優れた発泡性を発揮し、断熱性、耐熱保護性において良好な性能を得ることができる。
【0027】
炭化剤としては、一般に、火災時に熱可塑性樹脂の炭化とともにそれ自体も脱水炭化していくことにより、断熱性に優れた厚みのある炭化断熱層を形成する作用を有するものである。本発明で用いる炭化剤としては、このような作用を有する限り特に制限されず、公知の炭化剤が使用できる。例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;デンプン、カゼイン等が挙げられる。炭化剤は、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。この中で、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が好適に使用される。
【0028】
炭化剤の混合比率は、樹脂成分100重量部(固形分)に対し、好ましくは5~600重量部、より好ましくは20~300重量部、さらに好ましくは40~150重量部である。このような範囲であることにより、脱水冷却効果と炭化断熱層形成作用を発揮し、断熱性、耐熱保護性において良好な性能を得ることができる。
【0029】
充填剤としては、一般に炭化断熱層の強度を維持する作用を有するものである。充填剤としては、このような作用を有する限り特に制限されず、公知の充填剤が使用できる。例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム等の炭酸塩;二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物;シリカ、粘土、タルク、クレー、カオリン、ケイソウ土、シラス、マイカ、ワラストナイト、珪砂、珪石、石英、ヒル石、アルミナ、フライアッシュ等の無機粉末等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することもできる。また、上記充填剤の形状としては、特に限定されないが、例えば、球状、粒状、板状、棒状、リン片状、針状、繊維状等が挙げられる。
【0030】
充填剤の配合比率は、樹脂成分100重量部(固形分)に対し、好ましくは10~300重量部、より好ましくは20~250重量部、さらに好ましくは50~160重量部である。このような範囲であることにより、炭化断熱層の強度を維持することができ、耐熱保護性において良好な性能を得ることができる。
【0031】
本発明の熱発泡層3aは、上記成分に加えて更に繊維物質を含むものが好適である。繊維物質が含まれることにより、炭化断熱層の脱落等を防止し、炭化断熱層の形状を保持する効果等が高まる。この作用機構は、以下に限定されるものではないが、繊維物質が熱発泡層3aに積層された無機繊維織物3bに絡みながら炭化断熱層が形成されるため、炭化断熱層の脱落等を防止し、無機繊維織物3b表面に均一な炭化断熱層が形成すると考えられる。その結果、安定した耐熱保護性を得ることができる。
【0032】
繊維物質としては、例えば、ロックウール、ガラス繊維、シリカ-アルミナ繊維、セラミック繊維、チタン酸カリウム繊維等の無機繊維、カーボン繊維、パルプ繊維、ポリプロピレン繊維、ビニル繊維、アラミド繊維等の有機繊維が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することもできる。この中でも、耐熱性を有する無機繊維やカーボン繊維が好ましく、特に、ロックウール、ガラス繊維等が好適に使用される。また、繊維長は、好ましくは1~30mm、より好ましくは2~20mmである。
【0033】
繊維物質の混合比率は、樹脂成分100重量部(固形分)に対して、好ましくは0.1~50重量部、より好ましくは0.5~30重量部である。
【0034】
また、熱発泡層3aには、上記構成成分に加え、必要に応じ、シート製造時に各種添加剤を含むこともできる。添加剤としては、本発明の効果を著しく阻害しないものであればよく、例えば、顔料、湿潤剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、希釈溶媒等が挙げられる。
【0035】
熱発泡層3aの厚みは、適用部位等により適宜設定すれば良いが、好ましくは0.2~10mm程度、より好ましく0.3~6mm程度である。
【0036】
無機繊維織物3bは、上記熱発泡層3aの一方の面側に積層されるものであり、当該無機繊維織物3bが鉄骨側に向いて施工される。無機繊維織物3bと熱発泡層3a積層の態様としては、例えば、
(I)接触[図4(I)]:無機繊維織物3bと熱発泡層3aが接触した態様、
(II)半埋設[図4(II)]:無機繊維織物3bの熱発泡層3a側の面は埋設、反対側の面は露出した態様、
(III)全埋設[図4III)]:無機繊維織物3bが熱発泡層3aに埋設した態様、
等が挙げられる。本発明では、上記(II)(III)の場合、炭化断熱層の脱落防止効果をいっそう高めることができ、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0037】
このような無機繊維織物3bとしては、経糸及び緯糸の織密度がいずれも10本/25mm以上60本/25mm以下(好ましくは11本/25mm以上40本/25mm以下)である。このような場合、無機繊維織物3bと熱発泡層3aを積層する際に無機繊維織物3bの開口部に熱発泡層3aが充填されやすく、図4(II)、(III)の態様の熱発泡性シート3を効率的に得ることができる。このような熱発泡性シート3が火災等によって高温に晒された場合、無機繊維織物3bの開口部付近において無機繊維織物3bに絡むように炭化断熱層が形成され、その結果、炭化断熱層の脱落等を防止して安定した耐熱保護性を得ることができる。
【0038】
また、無機繊維織物3bは、経糸及び緯糸の番手がいずれも20TEX以上(より好ましくは25TEX以上500TEX以下、さらに好ましくは30TEX以上300TEX以下)であることが好ましい。このような場合、火災等によって高温に晒された場合に、上記熱発泡層3aを鉄骨の外側方向へ効率的に発泡させることができるため、均一な炭化断熱層を形成することができるとともに、炭化断熱層の脱落等をいっそう防止し、安定した耐熱保護性を得ることができる。なお、本発明における無機繊維織物3bの織密度、経糸・緯糸の番手は、JIS R 3420に定める規定の方法で測定されたものである。
【0039】
本発明の無機繊維織物3bの組織としては、特に限定されないが、例えば、平織り、朱子織り、綾織り、からみ織り、模紗織り、ななこ織り等が挙げられる。本発明では、平織りが好適である。平織りに製織された無機繊維織物は、目ずれ等が少なく、均一な厚みの熱発泡性シート3を安定して形成することができる。さらに、火災等によって高温に晒された場合には、均一な炭化断熱層を形成するとともに、炭化断熱層の脱落等をいっそう防止し、その結果、本発明の効果を高めることができる。
【0040】
無機繊維織物3bを構成する無機繊維としては、特に限定されないが、例えば、ロックウール、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、カーボン繊維、炭化珪素繊維等、また鉄、銅等の金属細線が挙げられる。本発明では、ガラス繊維が好適である。また、無機繊維は、何らかの表面処理が施されたものであっても良い。さらに、繊維の断面形状は、特に限定されず、例えば、円形、多角形、扁平形状等いずれのものも使用できる。このような無機繊維織物3bの厚みは、適宜設定すれば良いが、好ましくは0.1~5mm程度、より好ましく0.3~2mm程度である。
【0041】
熱発泡性シート3の製造方法としては、上記熱発泡層3aと上記無機繊維織物3bが積層可能な方法であれば特に限定されないが、例えば、
・型枠内に、熱発泡層3aの構成成分の混合組成物を流し込み、さらに無機繊維織物3bを積層し、乾燥後に脱型する方法、
・熱発泡層3aの構成成分の混合組成物を調製後、無機繊維織物3bに塗付して積層する方法、
・熱発泡層3aの構成成分をニーダー等によって混練した混練物を調製後、当該混練物を無機繊維織物3bに積層し、圧延ローラー等によってシート状に加工する方法、
等が挙げられる。
【0042】
本発明の固定部材5は、特に限定されないが、例えば、ワッシャー(ビス)、タッカー、溶接ピン、ボルト、タッピングねじ等の止め具が使用できる。また、これらの材質としては、金属製等の不燃性のものが好ましい。
【0043】
本発明の被覆構造体は、例えば、構造材1の下方に固定されたH型鉄骨2の周囲を覆う様に、熱発泡性シート3の無機繊維織物3bをH型鉄骨2側(内側)に向け被覆し、熱発泡性シート3の端部を構造材1及び/またはH型鉄骨2の上フランジエッジ2dに固定部材5で固定する工程を含む方法によって形成することができる。
【0044】
熱発泡性シート3の端部を構造材1及び/またはH型鉄骨2の上フランジエッジ2dに固定部材5で固定する場合、固定部材5の間隔は、熱発泡性シート3を保持できれば特に限定されず、また固定部材5の種類によって適宜設定すればよいが、好ましくは50~300mm(より好ましくは80~200mm)の間隔で設置する。
【0045】
また、H型鉄骨2の長手方向(L)に複数の熱発泡性シート3を設ける場合は、図5に示すように、該熱発泡性シート3同士は重なり部を有するように被覆(図5(I))しても、突き合わせて被覆(図5(II))してもよい。また、熱発泡性シート3同士重なり部Aを有するように被覆する場合、重なり部Aの熱発泡性シート3同士は固定されていることが好ましく、例えば、重なり部Aの内側の熱発泡性シート31表面と外側の熱発泡性シート32裏面を接着剤等で固定(図6(I))、及び/または内側の熱発泡性シート31の表面に外側の熱発泡性シート32の端部を熱発泡性テープ6等で貼着して固定(図6(II))することが好ましい。また、熱発泡性シート3同士を突き合わせて被覆する場合、突き合わせ部Bには、熱発泡性テープ6を貼着することが好ましい(図7)。さらに、本発明の被覆構造では、上記のようにH型鉄骨2の下フランジ2bを覆う熱発泡性シート3が接着剤を介して固定されてもよい。
【0046】
本発明の被覆構造体は、熱発泡性シート3を2枚以上積層して使用することができる。熱発泡性シート3を2枚以上積層する場合は、予め接着剤等で積層した熱発泡性シートを用いることもできるが、上記工程を繰り返し行えばよい。
【0047】
本発明の被覆構造体は、上記熱発泡性シート3の熱発泡層3aが外側を向いて設けられたものである。その外観は、例えば、白色のフラットな仕上がりにすることができ、美観性に優れたものである。また、必要に応じて、熱発泡層3aの構成成分として、顔料や艶調整剤等を含むことにより、所望の色相、光沢度、質感等の仕上がりに調整することができる。
【0048】
また、本発明の被覆構造体は、耐熱保護性のためにアルミニウム箔等の補強材層を外側に設ける必要はなく、必要に応じて、さらに上記熱発泡性シート3の上(熱発泡層3aの外側)に化粧層を有することもできる。これにより、さらに美観性を高めることができ、耐水性、耐候性等を高めることもできる。化粧層としては、例えば、上塗材、シート(またはフィルム)材料等が使用できる、これらは透明層であっても着色層(模様層)であってもよい。具体的に、上塗材は、公知のコーティング材を塗付することによって形成することができ、例えばアクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、フッ素樹脂系等のコーティング材を用いることができる。上塗材の塗付は、公知の塗付方法によれば良く、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等の塗装器具を使用することができる。また、シート(またはフィルム)材料としては、例えば、公知の各種樹脂シートを貼着することができる。
【0049】
本発明は、上述のH型鉄骨同様にI型鉄骨にも適用可能である。
【0050】
図8は、本発明で用いるI型鉄骨の断面図を示す。本発明のI型鉄骨21としては、断面がI字型であり、上フランジ21aと下フランジ21bを板状のウェブ21cにより連結して形成された態様のものが使用される。I型鉄骨21は、通常、フランジ内側に勾配がつけられている。
【0051】
図9では、構造材1に設けられたI型鉄骨21と、構造材1に接した面を除くI型鉄骨21の周囲を、空気層4を介して熱発泡性シート3の無機繊維織物3bがI型鉄骨21側に向くように、覆う様に設けられ、熱発泡性シート3の両端部が構造材1に固定部材5によって固定されている。
【0052】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0053】
(熱発泡性シートの製造)
・熱発泡性シート用混練物1
熱可塑性樹脂(アクリル樹脂)100重量部、メラミン90重量部、ジペンタエリスリトール90重量部、ポリリン酸アンモニウム320重量部、酸化チタン100重量部を主成分とする混合物を温度120℃に設定した加圧ニーダーで混練して熱発泡性シート用混練物1を調整した。
・熱発泡性シート用混練物2
熱可塑性樹脂(アクリル樹脂)100重量部、メラミン90重量部、ジペンタエリスリトール90重量部、ポリリン酸アンモニウム320重量部、酸化チタン100重量部、ガラス繊維(繊維径7μm、繊維長6mm)4重量部を主成分とする混合物を温度120℃に設定した加圧ニーダーで混練して熱発泡性シート用混練物2を調整した。
【0054】
・無機繊維織物1:ガラス繊維織物、平織り、経糸及び緯糸の織密度:16本/25mm、経糸及び緯糸の番手:70TEX
・無機繊維織物2:ガラス繊維織物、平織り、経糸の織密度:30本/25mm、緯糸の織密度:20本/25mm、経糸の番手:35TEX、緯糸の番手:70TEX
・無機繊維織物3:ガラス繊維織物、からみ織り、経糸の織密度:10×2本/25mm、緯糸の織密度:10本/25mm、経糸の番手:35TEX、緯糸の番手:70TEX
・無機繊維織物4:ガラス繊維織物、からみ織り、経糸の織密度:8×2本/25mm、緯糸の織密度:8本/25mm、経糸の番手:35TEX、緯糸の番手:70TEX
【0055】
表1に示す組み合わせで、無機繊維織物に熱発泡性シート用混練物を積層し圧延ローラーによってシート状に加工し、膜厚1.5mmの熱発泡性シート(450mm×1200mm)7種を作製した。
【0056】
(試験例1~7)
上記7種の熱発泡性シートを使用し、以下の評価を行った。
(評価1)
図2に示すように構造材(床板:ALC板)にH型鉄骨(H400×200×8×13mm、長さ1200mm)を設置した。図2(Ib)(II)に準じて、作製した熱発泡性シート3の無機繊維織物側がH型鉄骨側となるように熱発泡性シート3の一方の端部を固定部材(溶接スタッドピン:固定間隔X=120mm)で溶接して固定し、さらに、H型鉄骨の周囲を熱発泡性シートが覆う様に巻きつけ(熱発泡性シート同士の継ぎ目部分の重なり幅20mm)、熱発泡性シートのもう一方の端部も同様にして固定部材で固定したものを試験体とした。
作製した試験体につき、ISO834の標準加熱曲線に準じて1時間加熱試験を行ない、このときの鉄骨の温度(鋼材温度)を測定し、加熱試験後の炭化層の形状を評価した。各評価基準は以下の通りである。また、結果は表1に示す。
(鋼材温度)
AA:鋼材温度430℃未満
A:430℃以上470℃未満
B:470℃以上500℃未満
C:470℃以上500℃未満
D:550℃以上
(炭化断熱層の形状)
炭化断熱層の形状を目視にて確認した。評価基準は、炭化断熱層の脱落がなく、均一な炭化断熱層を形成したものを「AA」、炭化断熱層が脱落したものを「D」とする5段階評価(優:AA>A>B>C>D:劣)とした。
【0057】
【表1】
【0058】
試験例1~7のいずれも白色なフラットな外観を有する美観性に優れた仕上がりが得られた。また、上記加熱試験の結果、試験例1、2、4、5においては、炭化断熱層は脱落することなく、ほぼ均一な炭化断熱層が形成され、優れた耐熱保護性能を示した。特に、試験例4、5においては、無機繊維織物と炭化断熱層の密着性が高く、よりいっそう優れた耐火性能を示した。また、試験例3、6では、試験例1、2には及ばないものの炭化断熱層はほぼ脱落することなく、炭化断熱層が形成され耐熱保護性能を示した。一方、試験例7においては、炭化断熱層の一部が脱落し、所望の耐熱保護性能を得ることができなかった。
【0059】
(評価2)
試験例1において、熱発泡性シートを突き合わせて被覆し、図7に示すようにその突き合わせ部に熱発泡性テープを貼着した以外は、試験例1と同様にして試験体を作成し、ISO834の標準加熱曲線に準じて1時間加熱試験を行った。その結果、炭化断熱層は脱落することなく、ほぼ均一な炭化断熱層が形成され(評価:AA)、優れた耐熱保護性能(評価:AA)を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9