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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20230119BHJP
【FI】
B05D1/36 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018241498
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2020099888
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】西村 彰寛
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/135090(WO,A1)
【文献】特開2012-045478(JP,A)
【文献】特開2006-224024(JP,A)
【文献】特開2011-147916(JP,A)
【文献】国際公開第2006/009219(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/156032(WO,A1)
【文献】特開2010-029765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物表面に対して、水性中塗り塗料組成物(A)を塗装して未硬化の水性中塗り塗膜を形成する、中塗り塗装工程、
前記未硬化の水性中塗り塗膜上に、第1水性ベース塗料組成物(B)を塗装して未硬化の第1水性ベース塗膜を形成する、第1水性ベース塗装工程、
前記未硬化の第1水性ベース塗膜上に、鱗片状光輝顔料を含む第2水性ベース塗料組成物(C)を塗装して未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する、第2水性ベース塗装工程、
前記未硬化の第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料組成物(D)を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する、クリヤー塗装工程、および、
前記工程で得られた未硬化の水性中塗り塗膜、未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して、複層塗膜を形成する、硬化工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、
前記第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVmB(質量%)、および、前記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsB(質量%)が、下記式
1.2 ≦ NVmB/NVsB
を満たし、
前記固形分濃度NVmB(質量%)、および、前記第2水性ベース塗料組成物(C)を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsC(質量%)が、下記式
NVmB(質量%) - NVsC(質量%) ≧ 20(質量%)
を満たし、
前記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NV sB (質量%)が20質量%以上40質量%以下であり、および、
前記第2水性ベース塗料組成物(C)を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NV sC (質量%)が10質量%以上25質量%以下である、
複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における粘度ηmBが270Pa・s以上である、
請求項1に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における粘度ηsBが30~300Pa・sの範囲内である、
請求項1または2に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記第1水性ベース塗装工程における未硬化の水性中塗り塗膜の固形分濃度NVmA(質量%)が80質量%以上である、
請求項1~いずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記第2水性ベース塗組成物(C)に含まれる鱗片状光輝顔料の量は、第2水性ベース塗料組成物(C)の樹脂固形分100質量部に対して20~40質量部の範囲内である、請求項1~いずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鱗片状光輝顔料を含む塗膜を含む複層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体などの被塗物の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜を順次形成して、被塗物を保護すると同時に美しい外観および優れた意匠を付与している。このような複数の塗膜の形成方法としては、導電性に優れた被塗物上に電着塗膜などの下塗り塗膜を形成し、その上に、中塗り塗膜そして上塗り塗膜を順次形成する方法が一般的である。これらの塗膜において、特に塗膜の外観および意匠を大きく左右するのは、ベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜である。特に自動車において、車体上に形成されるベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜の外観および意匠は、極めて重要である。
【0003】
ベース塗膜は、いわゆるソリッドカラーといわれる、鱗片状顔料を含まない塗膜と、光輝感を有する、鱗片状顔料を含む塗膜とに大別することができる。近年、消費者においては、光輝感を有する、鱗片状顔料を含む塗膜が好まれる傾向にある。光輝感を有するベース塗膜に含まれる鱗片状顔料は、光を反射するかまたは干渉光を生み出し、これにより塗膜に光輝感が与えられることとなる。
【0004】
鱗片状顔料を含む塗料組成物を用いて良好な光輝感を得るためには、硬化塗膜中に含まれる鱗片状顔料の配向が、被塗物の表面形状に沿った状態になるように制御する必要がある。鱗片状顔料の配向状態が、塗膜における光の反射または干渉光の発現に大きく影響するためである。
【0005】
例えば特開平11-80620号公報(特許文献1)には、金属片である鱗片状顔料を含む塗料組成物が記載されている。このような塗料組成物は、多量の水および有機溶媒を含むことによって、形成された塗膜中において、鱗片状顔料が、被塗物の表面形状に沿った状態で配向することとなる。水性塗料組成物を塗装することによって形成された未硬化の塗膜においては一般に、鱗片状顔料の配向はランダムな状態となっている。次いで加熱することによって、未硬化塗膜中に含まれる溶媒が徐々に揮発するに従って塗膜の厚みは薄くなる。そして塗膜の厚みが薄くなるに従い、鱗片状顔料の傾きが緩やかになり、その結果、被塗物の表面形状に沿った状態で鱗片状顔料が配向するようになる。このように特許文献1の塗料組成物においては、塗料組成物中に含まれる溶媒を多量揮発させることによって、未硬化塗膜を体積収縮させ、これにより鱗片状顔料の配向をコントロールしている。
【0006】
特開2012-45478号公報(特許文献2)は、光輝性顔料が配向された上層塗膜と、下層塗膜とを有し、上層塗料の塗料固形分が5~15質量%の範囲内である、光輝性複層塗膜が記載される。この特許文献2の[0062]段落は「本発明の光輝性複層塗膜1の形成方法では、塗料固形分濃度が低い熱硬化性の第1水性ベース塗料を使用することにより、より高い彩度の複層塗膜を得ることができる。熱硬化性の第1水性ベース塗料中の塗料固形分濃度が低い場合、水性媒体の含有量が高くなるため、以下で説明するプレヒート工程又は焼付工程における水性媒体の揮散に伴い、未硬化の塗膜12は膜厚方向に向かって顕著に収縮する。・・・未硬化の塗膜(第1ベース塗膜12)が膜厚方向に向かって収縮すると、膜厚方向すなわち下層の塗膜表面方向に向かって、未硬化塗膜(第1ベース塗膜12)に含有される光輝性顔料15等の塗料成分を配向させる力が作用する。」と記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-80620号公報
【文献】特開2012-45478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1および2に示されるように、塗料組成物中に含まれる樹脂固形分濃度または塗料固形分濃度を低くすることによって、光輝性顔料の配向性を高めることが、従来から検討されている。一方で、塗料組成物中の樹脂固形分濃度または塗料固形分濃度を単に下げるのみでは、未硬化塗膜中に含まれる多量の溶媒を揮発させる必要があるため、焼き付け硬化時に必要となるエネルギー量が大きくなる傾向がある。そのため、省エネルギー化およびCO排出量削減といった要請に応じることが困難となるという技術的課題がある。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、その目的とするところは、鱗片状光輝顔料を含む塗膜を含む複層塗膜の形成において、光輝顔料の配向性を高める新たな手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
被塗物表面に対して、水性中塗り塗料組成物(A)を塗装して未硬化の水性中塗り塗膜を形成する、中塗り塗装工程、
上記未硬化の水性中塗り塗膜上に、第1水性ベース塗料組成物(B)を塗装して未硬化の第1水性ベース塗膜を形成する、第1水性ベース塗装工程、
上記未硬化の第1水性ベース塗膜上に、鱗片状光輝顔料を含む第2水性ベース塗料組成物(C)を塗装して未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する、第2水性ベース塗装工程、
上記未硬化の第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料組成物(D)を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する、クリヤー塗装工程、および、
上記工程で得られた未硬化の水性中塗り塗膜、未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して、複層塗膜を形成する、硬化工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、
上記第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVmB(質量%)、および、上記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsB(質量%)が、下記式
1.2 ≦ NVmB/NVsB
を満たし、かつ、
上記固形分濃度NVmB(質量%)、および、上記第2水性ベース塗料組成物(C)を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsC(質量%)が、下記式
NVmB(質量%) - NVsC(質量%) ≧ 20(質量%)
を満たす、
複層塗膜形成方法。
[2]
上記第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における粘度ηmBが270Pa・s以上である、上記複層塗膜形成方法。
[3]
上記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsB(質量%)が20質量%以上40質量%以下であり、および、
上記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における粘度ηsBが30~300Pa・sの範囲内である、上記複層塗膜形成方法。
[4]
上記第2水性ベース塗料組成物(C)を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsC(質量%)が、10質量%以上25質量%以下である、上記複層塗膜形成方法。
[5]
上記第1水性ベース塗装工程における未硬化の水性中塗り塗膜の固形分濃度NVmA(質量%)が80質量%以上である、上記複層塗膜形成方法。
[6]
上記第2水性ベース塗組成物(C)に含まれる鱗片状光輝顔料の量は、第2水性ベース塗料組成物(C)の樹脂固形分100質量部に対して20~40質量部の範囲内である、上記複層塗膜形成方法。
【発明の効果】
【0011】
上記複層塗膜形成方法によれば、鱗片状光輝顔料を含む第2水性ベース塗膜において、鱗片状光輝顔料の配向性を高めることができる。上記複層塗膜形成方法によって形成される複層塗膜は、光輝顔料の配向ムラが低減されており、塗膜外観が良好である特徴がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記複層塗膜形成方法は、下記工程:
被塗物表面に対して、水性中塗り塗料組成物(A)を塗装して未硬化の水性中塗り塗膜を形成する、中塗り塗装工程、
前記未硬化の水性中塗り塗膜上に、第1水性ベース塗料組成物(B)を塗装して未硬化の第1水性ベース塗膜を形成する、第1水性ベース塗装工程、
前記未硬化の第1水性ベース塗膜上に、鱗片状光輝顔料を含む第2水性ベース塗料組成物(C)を塗装して未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する、第2水性ベース塗装工程、
前記未硬化の第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料組成物(D)を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する、クリヤー塗装工程、および、
前記工程で得られた未硬化の水性中塗り塗膜、未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して、複層塗膜を形成する、硬化工程、
を包含する方法である。以下、各塗料組成物について記載する。
【0013】
水性中塗り塗料組成物(A)
上記水性中塗り塗料組成物(A)は、水分散性樹脂、硬化剤、そして必要に応じた顔料、添加剤などを含む。
【0014】
水分散性樹脂
水性中塗り塗料組成物(A)の水分散性樹脂は、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。
【0015】
アクリル樹脂は、例えば(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)および水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)を含むモノマー混合物を乳化重合して得ることができるアクリル樹脂エマルションであってよい。アクリル樹脂はまた、上記モノマー混合物を溶液重合し、得られた重合物を水性媒体中に分散させることによって得られるアクリル樹脂ディスパージョンであってもよい。
【0016】
上記モノマー混合物が(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)を含むことによって、アクリル樹脂エマルションの主骨格が良好に構成される利点がある。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。なお本明細書において(メタ)アクリルは、アクリルおよびメタクリルを意味する。
【0017】
上記酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)の酸基は、カルボキシル基、スルホン酸基及びリン酸基等から選ばれることが好ましい。特に好ましい酸基は、分散安定性向上および硬化反応促進機能の観点から、カルボキシル基である。上記モノマー混合物が、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)を含むことによって、得られるアクリル樹脂エマルションの保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性を向上させ、塗膜形成時におけるメラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応を促進することができる利点がある。
【0018】
酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)の1例であるカルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーの具体例として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等が挙げられる。酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)の1例であるスルホン酸基含有エチレン性不飽和モノマーの具体例として、例えば、p-ビニルベンゼンスルホン酸、p-アクリルアミドプロパンスルホン酸、t-ブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)の1例であるリン酸基含有エチレン性不飽和モノマーの具体例として、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸モノエステル、2-ヒドロキシプロピルメタクリレートのリン酸モノエステル等のライトエステルPM(共栄社化学製)等が挙げられる。
【0019】
上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性アクリルモノマー等が挙げられる。
【0020】
上記ε-カプロラクトン変性アクリルモノマーの具体例としては、ダイセル化学工業(株)製の「プラクセルFA-1」、「プラクセルFA-2」、「プラクセルFA-3」、「プラクセルFA-4」、「プラクセルFA-5」、「プラクセルFM-1」、「プラクセルFM-2」、「プラクセルFM-3」、「プラクセルFM-4」及び「プラクセルFM-5」等が挙げられる。
【0021】
上記モノマー混合物が、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)を含むことによって、水酸基に基づく親水性がアクリル樹脂エマルションに付与され、塗料組成物の作業性および凍結に対する安定性を向上させることができ、また、メラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応性が付与されるなどの利点がある。
【0022】
モノマー混合物は、上記モノマーに加えて、他の成分を含んでもよい。他の成分として、例えば、スチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーなどが挙げられる。スチレン系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
【0023】
モノマー混合物はまた、カルボニル基含有エチレン性不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー、種々の多官能ビニルモノマー等の架橋性モノマーを含んでよい。例えばモノマー混合物が架橋性モノマーを含むことによって、得られるアクリル樹脂エマルションに対して自己架橋性を付与することができる利点がある。
【0024】
アクリル樹脂エマルションの調製において、乳化重合は、上記モノマー混合物を、水性媒体中で、ラジカル重合開始剤及び乳化剤の存在下で、攪拌条件下で加熱することによって行うことができる。反応温度は例えば30~100℃程であってよい。反応時間は、反応スケールおよび反応温度に応じて適宜選択することができ、例えば1~10時間程であってよい。乳化重合では、例えば、水と乳化剤を仕込んだ反応容器に対して、モノマー混合物またはモノマープレ乳化液を、一括で加えてもよく、また暫時滴下してもよい。このような手順を適宜選択することによって、反応温度を調節することができる。
【0025】
上記ラジカル重合開始剤として、アクリル樹脂の乳化重合で用いられる公知の開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤は具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を、水溶液の状態で用いることができる。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤とが組み合わされた、いわゆるレドックス系開始剤を、水溶液の状態で用いることもできる。
【0026】
上記乳化剤としては、例えば、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩又は硫酸塩部分エステルなどの親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物から選ばれるアニオン系又は非イオン系の乳化剤を用いることができる。このうちアニオン乳化剤としては、アルキルフェノール類又は高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アルキル又はアリルスルホナートのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩などが挙げられる。また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルなどが挙げられる。またこれら一般汎用のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、アクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系などの基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤なども、適宜用いることができる。
【0027】
乳化重合において、メルカプタン系化合物や低級アルコールなどの分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)などを、必要に応じて用いることができる。これらの助剤を用いることによって、乳化重合を好適に進行させることができる利点があり、また、塗膜の円滑かつ均一な形成を促進して基材への密着性を向上させることができる利点がある。
【0028】
乳化重合としては、一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法など、いずれの重合法も適宜選択することができる。
【0029】
得られたアクリル樹脂エマルションに対して、塩基性化合物を添加して、カルボン酸の一部又は全量を中和してもよい。中和することによって、アクリル樹脂エマルションの安定性を向上させることができる利点がある。塩基性化合物として、例えば、アンモニア、各種アミン類、アルカリ金属などを用いることができる。
【0030】
このようにしてアクリル樹脂エマルションを調製することができる。得られたアクリル樹脂エマルションの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば50,000~5,000,000の範囲内であるのが好ましく、50,000~200,000の範囲内であるのがより好ましい。アクリル樹脂エマルションの固形分酸価は1~80mgKOH/gの範囲内であるのが好ましく、2~70mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましく、3~60mgKOH/gの範囲内であるのがさらに好ましい。アクリル樹脂エマルションの固形分水酸基価は、50~120mgKOH/gの範囲内であるのが好ましく、50~100mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。アクリル樹脂エマルションの重量平均分子量、固形分酸価および固形分水酸基価などが上記範囲内であることによって、塗料安定性、塗装作業性および得られる塗膜物性などを良好な状態で確保することができる利点がある。
【0031】
アクリル樹脂ディスパージョンは、例えば、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)および水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)を含むモノマー混合物を、無溶媒又は適当な有機溶媒の存在下において重合反応を行い、水中に滴下、混合し、必要に応じて過剰な溶媒を除去することによって調製することができる。
【0032】
重合反応において、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤として例えば、ラジカル重合開始剤として当技術分野において用いられる開始剤を使用することができる。重合開始剤の具体例として、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシド及びクメンハイドロパーオキシド等の有機過酸化物、アゾビスシアノ吉草酸及びアゾイソブチロニトリル等の有機アゾ化合物等が挙げられる。
【0033】
重合反応は、例えば80~140℃の温度で行うことができる。重合反応時間は、重合温度及び反応スケールに応じて適宜選択することができ、例えば1~8時間で行うことができる。重合反応は、当業者に通常行われる操作で行うことができる。例えば、加熱した有機溶媒中に、エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物及び重合開始剤を滴下することにより重合を行うことができる。重合に用いることができる有機溶媒は、特に限定されないが、沸点が60~250℃程度のものが好ましい。好適に用いることができる有機溶媒として、例えば、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、メチルエーテルアセテートのような非水溶性有機溶媒;及びテトラヒドロフラン、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、ジオキサン、メチルエチルケトン、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、2-メトキシプロパノール、2-ブトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルジグリコール、N-メチルピロリドン、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートのような水溶性有機溶媒が挙げられる。
【0034】
重合により得られたアクリル樹脂に中和剤を加えて、アクリル樹脂に含まれる酸基の少なくとも一部を中和してもよい。この工程により、アクリル樹脂に対して水分散性を良好に付与することができる。中和剤は水分散性樹脂組成物を調製する際にその中に含まれる酸基を中和するために一般的に用いられているものであれば特に限定されない。例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びジメチルエタノールアミンのような有機アミン、及び水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムのような無機塩基類が挙げられる。これら中和剤は単独で使用してもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0035】
必要に応じて中和したアクリル樹脂に対して水を混合するか、又は水中にアクリル樹脂を混合することにより、アクリル樹脂ディスパージョンを調製することができる。アクリル樹脂ディスパージョンの調製において、必要に応じて、中和剤の添加前又は水分散後に、過剰な有機溶媒を除去してもよい。
【0036】
このようにしてアクリル樹脂ディスパージョンを調製することができる。得られたアクリル樹脂ディスパージョンは、特に限定されるものではないが、固形分水酸基価が5~200mgKOH/gの範囲内であるのが好ましく、固形分酸価が5~100mgKOH/gの範囲内であるのが好ましく、そして重量平均分子量が50,000~5,000,000の範囲内であるのが好ましい。アクリル樹脂ディスパージョンの固形分水酸基価、固形分酸価および重量平均分子量などが上記範囲内であることによって、塗料安定性、塗装作業性および得られる塗膜物性などを良好な状態で確保することができる利点がある。
【0037】
水性中塗り塗料組成物(A)の水分散性樹脂は、ポリエステル樹脂を含んでもよい。水分散性樹脂として用いることができるポリエステル樹脂は、一般的には、多価アルコール成分と多塩基酸成分とを、上記水酸基およびカルボキシル基についての要件を満たすよう縮合することによって、調製することができる。
【0038】
上記多価アルコール成分の例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチルペンタンジオールなどのヒドロキシカルボン酸成分を挙げることができる。
【0039】
上記多塩基酸成分の例としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸などの芳香族多価カルボン酸および酸無水物;ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、1,4-および1,3-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族多価カルボン酸および無水物;無水マレイン酸、フマル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバチン酸などの脂肪族多価カルボン酸および無水物などの多塩基酸成分およびそれらの無水物などを挙げることができる。必要に応じて安息香酸またはt-ブチル安息香酸などの一塩基酸を併用してもよい。
【0040】
また、反応成分として、更に、1価アルコール、カージュラE(商品名:シエル化学製)などのモノエポキサイド化合物、およびラクトン類(β-プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン、ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-カプロラクトンなど)を併用してもよい。
【0041】
上記成分に加えてヒマシ油、脱水ヒマシ油などの脂肪酸、およびこれらの脂肪酸のうち1種、または2種以上の混合物である油成分を、上記酸成分およびアルコール成分に加えてもよい。また、アクリル樹脂、ビニル樹脂などをグラフト化したり、ポリイソシアネート化合物を反応させたりすることも、上記水酸基およびカルボキシル基についての要件を満たしていれば可能である。
【0042】
このようにして得られるポリエステル樹脂の数平均分子量は、500~20,000であるのが好ましく、1,500~10,000であるのがより好ましい。数平均分子量が500未満であるとポリエステル樹脂を水分散させた時の貯蔵安定性が低下するおそれがある。また数平均分子量が20,000を超えると、ポリエステル樹脂の粘度が上がるため、塗料組成物にした場合の固形分濃度が下がり、塗装作業性が低下するおそれがある。
【0043】
また、上記ポリエステル樹脂のガラス転移点は、-20~80℃であることが好ましい。上記ガラス転移点が-20℃未満である場合、得られる塗膜の硬度が低下するおそれがあり、80℃を超える場合、下地隠蔽性が低下する恐れがある。ガラス転移点は0~60℃であるのがより好ましい。ポリエステル樹脂のガラス転移点は、ポリエステル樹脂の調製に用いたモノマーの種類および量から計算によって求めることができる。また、ポリエステル樹脂のガラス転移点を、示差走査型熱量計(DSC)によって測定してもよい。
【0044】
このようにして得られるポリエステル樹脂は、先に挙げた塩基性化合物などで中和するのが好ましい。
【0045】
水性中塗り塗料組成物(A)は、必要によりその他の樹脂成分を含んでいてもよい。その他の樹脂成分として、特に限定されるものではなく、水溶性アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの樹脂成分が挙げられる。
【0046】
水性中塗り塗料組成物(A)中に含まれる水分散性樹脂の含有量は、水性中塗り塗料組成物(A)の樹脂固形分に対して30~80質量%であるのが好ましく、50~80質量%であるのがより好ましい。なお本明細書において樹脂固形分とは、上記水分散性樹脂、硬化剤およびその他の樹脂成分などの塗膜形成樹脂成分の総固形分量を意味する。
【0047】
例えば、水性中塗り塗料組成物(A)に含まれる水分散性樹脂として、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂の混合物を用いる場合は、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂の比率は、アクリル樹脂/ポリエステル樹脂=7/1~0.5/1の範囲内であるのが好ましく、6/1~1/1の範囲であるのがさらに好ましい。
【0048】
硬化剤
水性中塗り塗料組成物(A)の硬化剤は、上記水分散性樹脂を硬化させる成分である。硬化剤として例えば、ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂などを用いることができる。硬化剤として、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤でブロックした、ブロックイソシアネート化合物を用いることもできる。
【0049】
ポリイソシアネート化合物として、水分散性のものそして疎水性のものなどが挙げられる。疎水性のポリイソシアネート化合物として、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート(MXDI)などの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添MDIなどの脂環式ジイソシアネート;これらのジイソシアネート化合物を不揮発性化し、毒性を低くした形態の化合物;これらのジイソシアネート化合物のビューレット体、ウレトジオン体、イソシアヌレート体またはアロハネート体などのアダクト体;比較的低分子のウレタンプレポリマー;などのポリイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0050】
水分散性のポリイソシアネート化合物として、上記ポリイソシアネート化合物に親水性基を導入したもの、および、界面活性剤を混合乳化させて、いわゆる自己乳化させたものを挙げることができる。
【0051】
上記親水性基として、カルボキシル基およびスルホン酸基などのアニオン性基、第三級アミノ基などのカチオン性基およびポリオキシアルキレン基などのノニオン性基が挙げられる。これらの中で、得られる塗膜の耐水性を考慮すると、上記親水性基はノニオン性基であることが好ましい。具体的なノニオン性基として、親水性が高いポリオキシエチレン基が好ましい。
【0052】
上記ポリイソシアネート化合物と界面活性剤とを混合し乳化させた、自己乳化ポリイソシアネート化合物の調製に好適に用いられる界面活性剤として、例えば、カルボキシル基およびスルホン酸基などのアニオン性基を有するアニオン界面活性剤、第三級アミノ基などのカチオン性基を有するカチオン界面活性剤、およびポリオキシアルキレン基などのノニオン性基を有するノニオン界面活性剤が挙げられる。これらの中で、得られる塗膜の耐水性を考慮すると、ノニオン界面活性剤を用いるのがより好ましい。
【0053】
水分散性を有するポリイソシアネート化合物として、市販品を用いてもよい。市販されているものとしては、アクアネート100、アクアネート110、アクアネート200およびアクアネート210(東ソー社製)、バイヒジュールTPLS-2032、SUB-イソシアネートL801、バイヒジュールVPLS-2319、バイヒジュール3100、VPLS-2336およびVPLS-2150/1、バイヒジュール305、バイヒジュールXP-2655(住化バイエルウレタン社製)、タケネートWD-720、タケネートWD-725およびタケネートWD-220(三井武田ケミカル社製)、レザミンD-56(大日精化工業社製)などが挙げられる。
【0054】
上記ポリイソシアネート化合物として、水分散性を有するものを用いるのがより好ましい。なお、ポリイソシアネート化合物として、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
上記ブロックイソシアネート化合物は、上記ポリイソシアネート化合物が有するイソシアネート基の一部の基または全ての基を、ブロック剤によってブロックすることによって調製することができる。ブロック剤として、例えば、活性メチレン基を有する化合物、ケトン化合物またはカプロラクタム化合物などを用いることができる。このようなブロックイソシアネート化合物は、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生し、これにより硬化剤として機能することとなる。
【0056】
上記活性メチレン基を有する化合物としては、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、マロン酸エチルなどの活性メチレン化合物が挙げられる。ケトン化合物として、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。カプロラクタム化合物として、例えば、ε-カプロラクタムなどが挙げられる。これらの中でも、上記ポリイソシアネート化合物に、活性メチレン化合物またはケトン化合物を付加反応させたブロックイソシアネート化合物がより好ましく用いられる。
【0057】
ブロックイソシアネート化合物として市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、旭化成社製のデュラネート(ブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート)シリーズ、より具体的には、例えば、活性メチレン型ブロックイソシアネートである、デュラネートMF-K60Xなど、および、バイエル社製のスミジュールBL3175、デスモジュールBL3272MPA、デスモジュールBL3475 BA/SN、デスモジュールBL3575/1 MPA/SN、デスモジュールBL4265 SN、デスモジュールBL5375 MPA/SN、デスモジュールVP LS2078/2などが挙げられる。
【0058】
上記硬化剤は、必要に応じてメラミン樹脂を含んでもよい。メラミン樹脂は、メラミンなどのアミノ化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド化合物との縮合体に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコールを用いて変性させることによって得られる縮合体である。このようなメラミン樹脂の具体例として、例えば、完全アルキル型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、メチロール基型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、イミノ型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂、イミノ基型メチル化メラミン樹脂を挙げることができる。
【0059】
メラミン樹脂として市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、サイメル232、サイメル232S、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル266、サイメル267、サイメル285などの完全アルキル型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;サイメル272などのメチロール基型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;サイメル202、サイメル207、サイメル212、サイメル253、サイメル254などのイミノ型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;サイメル300、サイメル301、サイメル303、サイメル350などの完全アルキル型メチル化メラミン樹脂;サイメル325、サイメル327、サイメル703、サイメル712、サイメル254、サイメル253、サイメル212、サイメル1128などのイミノ基型メチル化メラミン樹脂(以上、オルネクスジャパン社製)、ユーバン20SE60(三井化学社製、ブチルエーテル化メラミン樹脂)などが挙げられる。
【0060】
硬化剤として、上記ポリイソシアネート化合物およびメラミン樹脂以外の成分(例えばカルボジイミド化合物)などを必要に応じて用いることができる。
【0061】
本発明における水性中塗り塗料組成物(A)中に含まれる硬化剤の含有量は、水性中塗り塗料組成物(A)の樹脂固形分に対して5~55質量%であるのが好ましく、10~45質量%であるのがより好ましい。
【0062】
他の成分および調製方法
上記水性中塗り塗料組成物(A)は、上記水分散性樹脂および硬化剤以外に、必要に応じて、顔料、硬化触媒、表面調整剤、消泡剤、顔料分散剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、各種溶媒(水性溶媒、有機溶媒)などを含有することができる。
【0063】
上記顔料として、例えば、着色顔料、体質顔料、光輝顔料などが挙げられる。着色顔料として、例えば、有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などが挙げられ、無機系では、黄色酸化鉄、ニッケルチタンイエロー、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンなどが挙げられる。体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどが挙げられる。光輝顔料として、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウムなどの金属または合金などの無着色または着色された金属製光輝顔料、および、干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料などが挙げられる。
【0064】
上記水性中塗り塗料組成物(A)が顔料を含む場合は、顔料分散ペーストなどの分散剤を用いて、顔料を予め分散させた顔料分散ペーストの状態で、塗料組成物を調製するのが好ましい。
【0065】
上記水性中塗り塗料組成物(A)が顔料を含む場合の含有量は、塗料組成物中の全顔料濃度(PWC)として、水性中塗り塗料組成物(A)の樹脂固形分質量100質量部に対して、下限0.1質量部、上限50質量部の範囲内であることが好ましい。
【0066】
上記水性中塗り塗料組成物の樹脂固形分濃度は、塗装条件によって異なるが、一般的には、15~60質量%に設定することが好ましい。
【0067】
上記水性中塗り塗料組成物(A)の調製方法は、特に限定されるものではなく、上記水分散性樹脂、硬化剤、そして必要に応じた各種成分および顔料などを、ディスパー、ホモジナイザー、ニーダーなどを用いて混練・分散するなどの当業者において通常用いられる方法で調製することができる。
【0068】
第1水性ベース塗料組成物(B)
上記第1水性ベース塗料組成物(B)は、水分散性樹脂、硬化剤、そして必要に応じた顔料、添加剤などを含む。
【0069】
第1水性ベース塗料組成物(B)の水分散性樹脂として、上記水性中塗り塗料組成物(A)で用いることができるアクリル樹脂、ポリエステル樹脂などを用いることができる。第1水性ベース塗料組成物(B)の水分散性樹脂は、上記アクリル樹脂エマルションを含むのが好ましい。アクリル樹脂エマルションは、上記モノマー混合物を乳化重合して調製することができる。
【0070】
第1水性ベース塗料組成物(B)の水分散性樹脂が好ましく含むアクリル樹脂エマルションの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば50,000~5,000,000の範囲内であるのが好ましく、50,000~200,000の範囲内であるのがより好ましい。アクリル樹脂エマルションの固形分酸価は1~80mgKOH/gの範囲内であるのが好ましく、2~70mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましく、3~60mgKOH/gの範囲内であるのがさらに好ましい。アクリル樹脂エマルションの固形分水酸基価は、50~120mgKOH/gの範囲内であるのが好ましく、50~100mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。アクリル樹脂エマルションの重量平均分子量、固形分酸価および固形分水酸基価などが上記範囲内であることによって、塗料安定性、塗装作業性および得られる塗膜物性などを良好な状態で確保することができる利点がある。
【0071】
第1水性ベース塗料組成物(B)の硬化剤、そして必要に応じた顔料、添加剤として、上記水性中塗り塗料組成物(A)で用いることができる硬化剤、顔料、添加剤などを好適に用いることができる。また第1水性ベース塗料組成物(B)の調製は、上記水性中塗り塗料組成物(A)の調製と同様にして行うことができる。
【0072】
上記水第1水性ベース塗料組成物(B)の塗料固形分濃度は、5~45質量%の範囲内であるのが好ましく、10~40質量%の範囲内であるのがより好ましい。
【0073】
上記第1水性ベース塗料組成物(B)は顔料を含むのが好ましい。顔料として、上記着色顔料、体質顔料、光輝顔料などが挙げられる。第1水性ベース塗料組成物(B)が顔料を含む場合の含有量は、塗料組成物中の全顔料濃度(PWC)として、第1水性ベース塗料(B)の樹脂固形分質量100質量部に対して、下限0.1質量部、上限50質量部の範囲内であることが好ましい。
【0074】
上記第1水性ベース塗料組成物(B)は、23℃における塗料粘度が、300mPa・s以上2000mPa・s以下に調整されるのが好ましい。塗料粘度を上記範囲内に調整することによって、塗装作業性が良好となり、また塗膜性状を良好に確保することができる利点がある。
【0075】
上記塗料組成物の23℃における塗料粘度は、B型粘度計(例えばTOKIMEC社製)を用いて、JIS K5601に準拠して測定することができる。
【0076】
第2水性ベース塗料組成物(C)
上記第2水性ベース塗料組成物(C)は、鱗片状光輝顔料、水分散性樹脂、硬化剤、そして必要に応じた他の顔料、添加剤などを含む。水分散性樹脂、硬化剤、添加剤として、上記第1水性ベース塗料組成物と同様のものを用いることができる。
【0077】
上記第2水性ベース塗料組成物(C)は、鱗片状光輝顔料を含む。鱗片状光輝顔料として、例えば、平均粒径(D50)が2~50μmであり、かつ厚さが0.1~5μmであるものが好ましい。また、平均粒径が5~35μmの範囲のものが光輝感に優れ、さらに好適に用いられる。鱗片状光輝顔料の具体例として、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウムなどの金属または合金などの金属製鱗片状光輝顔料およびその混合物が挙げられる。この他に干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料などもこの中に含めるものとする。これらの鱗片状光輝顔料は、必要に応じた着色がなされていてもよい。
【0078】
鱗片状光輝顔料の平均粒径は、レーザー回折散乱法によって測定した体積基準粒度分布のメジアン径を意味する。また、鱗片状光輝顔料の厚さは、鱗片状光輝顔料を含む塗膜断面を顕微鏡にて観察し、鱗片状光輝顔料の厚さを、画像処理ソフトを使用して測定し、100個以上の測定値の平均値として定義するものとする。
【0079】
上記第2水性ベース塗組成物(C)に含まれる鱗片状光輝顔料の量は、第2水性ベース塗料組成物(C)の樹脂固形分100質量部に対して20~40質量部の範囲内であるのが好ましい。第2水性ベース塗組成物(C)に含まれる鱗片状光輝顔料の量が上記範囲内であることは、一般的な光輝性顔料含有塗料組成物と比較して、鱗片状光輝顔料の含有量が高い傾向にある。そして上記複層塗膜形成方法においては、鱗片状光輝顔料の含有量が、樹脂固形分100質量部に対して20~40質量部の範囲のように含有量が高いにも関わらず、鱗片状光輝顔料の配向を良好な状態に制御することができる特徴がある。
【0080】
第2水性ベース塗料組成物(C)は、第1水性ベース塗料組成物(B)と同様の手順により調製することができる。第2水性ベース塗組成物(C)に含まれる鱗片状光輝顔料は、鱗片状光輝顔料を含む光輝顔料ペーストを予め調製した状態で、塗料組成物を調製するのが好ましい。光輝顔料ペーストの調製は、当業者において通常用いられる撹拌手法を用いて調製することができる。
【0081】
上記第2水性ベース塗組成物(C)は、上記鱗片状光輝顔料に加えてその他の顔料を含んでもよい。その他の顔料として、着色顔料および体質顔料が挙げられる。着色顔料および体質顔料として、例えば上記水性中塗り塗料組成物(A)で挙げられた顔料などを好適に用いることができる。
【0082】
上記第2水性ベース塗組成物(C)がその他の顔料を含む場合における顔料濃度(PWC)は、質量割合で5~50%であるのが好ましい。
【0083】
上記第2水性ベース塗組成物(C)は、23℃における塗料粘度が、300mPa・s以上2000mPa・s以下に調整されるのが好ましい。塗料粘度を上記範囲内に調整することによって、塗装作業性が良好となり、また塗膜性状を良好に確保することができる利点がある。塗料粘度の測定は、第1水性ベース塗料組成物(B)の塗料粘度の測定と同様に行うことができる。
【0084】
クリヤー塗料組成物(D)
クリヤー塗料組成物(D)は、特に限定されず、塗膜形成樹脂および必要に応じた硬化剤などを含有するクリヤー塗料組成物を用いることができる。更に下地の意匠性を妨げない程度であれば着色成分を含有することもできる。このクリヤー塗料組成物(D)の形態としては、溶剤型、水性型および粉体型のものを挙げることができる。
【0085】
溶剤型クリヤー塗料組成物(D)の好ましい例として、透明性あるいは耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0086】
水性型クリヤー塗料組成物(D)の例として、上記溶剤型クリヤー塗料組成物の例として挙げたものに含有される塗膜形成樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含むものが挙げられる。この中和は重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0087】
粉体型クリヤー塗料組成物として、熱可塑性および熱硬化性粉体塗料のような通常用いられる粉体塗料を用いることができる。良好な物性の塗膜が得られるため、熱硬化性粉体塗料が好ましい。熱硬化性粉体塗料の具体的なものとしては、エポキシ系、アクリル系およびポリエステル系の粉体クリヤー塗料組成物などが挙げられるが、耐候性が良好なアクリル系粉体クリヤー塗料組成物が特に好ましい。
【0088】
クリヤー塗料組成物(D)は、粘性制御剤を含んでもよい。粘性制御剤として、例えば、上述の水性塗料組成物についての記載で挙げたものを用いることができる。クリヤー塗料組成物はさらに、必要に応じた硬化触媒、表面調整剤などを含むことができる。
【0089】
複層塗膜形成方法
上記複層塗膜形成方法は、下記工程:
被塗物表面に対して、水性中塗り塗料組成物(A)を塗装して未硬化の水性中塗り塗膜を形成する、中塗り塗装工程、
前記未硬化の水性中塗り塗膜上に、第1水性ベース塗料組成物(B)を塗装して未硬化の第1水性ベース塗膜を形成する、第1水性ベース塗装工程、
前記未硬化の第1水性ベース塗膜上に、鱗片状光輝顔料を含む第2水性ベース塗料組成物(C)を塗装して未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する、第2水性ベース塗装工程、
前記未硬化の第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料組成物(D)を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する、クリヤー塗装工程、および、
前記工程で得られた未硬化の水性中塗り塗膜、未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して、複層塗膜を形成する、硬化工程、
を包含する方法である。そして上記方法においては、
上記第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVmB(質量%)、および、前記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsB(質量%)が、下記式
1.2 ≦ NVmB/NVsB
を満たし、かつ、
上記固形分濃度NVmB(質量%)、および、上記第2水性ベース塗料組成物(C)を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsC(質量%)が、下記式
NVmB(質量%) - NVsC(質量%) ≧ 20(質量%)
を満たす、
ことを特徴とする。
【0090】
本明細書において、塗膜の固形分濃度および粘度を塗装後1分の時点において測定する理由は、「塗装後1分」という時間が、塗装によって形成された塗膜の固形分濃度および粘度を測定する操作において最短の時間であること、そして、塗装後の時間が経過すればするほど、塗膜中の溶媒が大気中へ拡散するなどといった影響が現れるため、塗料組成物の組成に由来する固形分濃度および粘度、そして、塗膜形成方法の工程に由来する固形分濃度および粘度を対比するには、塗装後最短の時間で測定する場合が、最も効果的であること、による。
【0091】
被塗物
上記塗装において用いることができる被塗物は、特に限定されず、例えば、金属基材、プラスチック基材およびその発泡体などが挙げられる。
【0092】
金属基材として、例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛などの金属およびこれらの金属を含む合金などが挙げられる。金属基材として具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体および自動車車体用の部品などが挙げられる。このような金属基材は、予め電着塗膜が形成されているのがより好ましい。また電着塗膜形成前に、必要に応じた化成処理(例えばリン酸亜鉛化成処理、ジルコニウム化成処理など)が行われていてもよい。
【0093】
プラスチック基材として、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。プラスチック基材として具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブなどの自動車部品などが挙げられる。これらのプラスチック基材は、純水および/または中性洗剤で洗浄されたものが好ましい。また、静電塗装を可能にするためのプライマー塗装が施されていてもよい。
【0094】
中塗り塗装工程
まず、上記水性中塗り塗料組成物(A)を、被塗物表面に対して塗装して未硬化の水性中塗り塗膜を形成する。
水性中塗り塗料組成物(A)の塗装において通常用いられる塗装方法として、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装または1ステージ塗装、あるいは、エアー静電スプレー塗装と、メタリックベルと言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法などの、自動車車体の塗装分野において一般的に用いられる方法が挙げられる。これらの塗装方法は、得られる塗膜の塗膜外観が良好であるという利点がある。形成される水性中塗り塗膜の膜厚は、乾燥膜厚として例えば10~100μmであるのが好ましく、15~80μmであるのがより好ましい。
【0095】
なお本明細書における「乾燥膜厚」は、塗料分野において通常用いられる意味で用いられており、「ウェット膜厚(未乾燥膜厚)」に対する意味を有する。具体的には、塗料組成物を塗装した後に加熱硬化させて得られた硬化塗膜の膜厚を意味する。
【0096】
上記方法においては、水性中塗り塗料組成物(A)を被塗物に塗装した後、第1水性ベース塗料組成物を塗装する前に、加熱又は送風することによってプレヒート(予備乾燥)させるのが好ましい。本明細書において「プレヒート」とは、塗装した塗料組成物を、硬化が生じない程度の温度、時間等の条件下で加熱乾燥させることを意味する。プレヒートを行うことによって、以下に詳述する第1水性ベース塗装工程における未硬化の水性中塗り塗膜の固形分濃度NVmAを効果的に高めることができ、そしてこれにより、以下に詳述する「第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVmB(質量%)」を効果的に高めることができる利点がある。
【0097】
第1水性ベース塗装工程
第1水性ベース塗装工程は、上記で得られた未硬化の水性中塗り塗膜上に、第1水性ベース塗料組成物(B)を塗装して未硬化の第1水性ベース塗膜を形成する。
第1水性ベース塗料組成物(B)の塗装において通常用いられる塗装方法として、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装または1ステージ塗装、あるいは、エアー静電スプレー塗装と、メタリックベルと言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法などの、自動車車体の塗装分野において一般的に用いられる方法が挙げられる。これらの塗装方法は、得られる塗膜の塗膜外観が良好であるという利点がある。形成される第1水性ベース塗膜の膜厚は、乾燥膜厚として例えば1~50μmであるのが好ましく、3~30μmであるのがより好ましい。
【0098】
上記複層塗膜形成方法においては、上記第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVmB(質量%)、および、上記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsB(質量%)が、下記式
1.2 ≦ NVmB/NVsB
を満たすことを条件とする。上記NVmB/NVsBの数値の上限値は、特に制限されるものではないが、例えば5.0である態様が挙げられる。上限値は例えば3.0であってもよく、2.5であってもよい。
【0099】
上記複層塗膜形成方法における「第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVmB(質量%)」は、第1水性ベース塗装工程において、未硬化の水性中塗り塗膜上に第1水性ベース塗料組成物(B)を塗装し、この塗装から1分経過した後、水性中塗り塗膜上に存在する、塗装された第1水性ベース塗料組成物を取り出し、固形分濃度を測定することによって測定される。上記複層塗膜形成方法における「第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVmB(質量%)」は、塗料組成物の組成に由来する固形分濃度というよりはむしろ、塗膜形成方法の工程に由来する固形分濃度ということができる。
【0100】
次に、上記複層塗膜形成方法における「上記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsB(質量%)」は、上記第1水性ベース塗料組成物(B)を、未硬化の水性中塗り塗膜上ではなく、樹脂基材などの水分吸収性を有しない基材上に単独で塗装して形成された未硬化の塗膜における、塗装後1分時点の固形分濃度を意味する。この「塗装後1分における固形分濃度NVsB(質量%)」は、塗料組成物の組成に由来する固形分濃度ということができる。
上記固形分濃度NVsB(質量%)は、20質量%以上40質量%以下であるのが好ましい。固形分濃度NVsBが上記範囲内であることによって、塗装によって形成される塗膜の外観が良好となる利点がある。
【0101】
上記複層塗膜形成方法において、上記第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVmB(質量%)、および、上記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsB(質量%)が、下記式
1.2 ≦ NVmB/NVsB
を満たすことは、第1水性ベース塗装工程で、未硬化の水性中塗り塗膜上に形成された、未硬化の第1水性ベース塗膜の塗装後1分における固形分濃度NVmBが、上記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の塗装後1分における固形分濃度NVsBと比較して、1.2倍以上固形分濃度が高くなることを意味する。これらの固形分濃度はいずれも、塗装後に固形分濃度を測定するまでの時間は同じである。異なる点は、上記第1水性ベース塗料組成物(B)を塗装する対象である。第1水性ベース塗装工程で、未硬化の水性中塗り塗膜上に形成された、未硬化の第1水性ベース塗膜の塗装後1分における固形分濃度NVmBが、上記固形分濃度NVsBと比較して高くなる理由は、未硬化の水性中塗り塗膜上に形成された未硬化の第1水性ベース塗膜においては、塗料組成物中に含まれる水性溶媒などの溶媒成分が、未硬化の水性中塗り塗膜に移行するためと考えられる。
【0102】
本明細書において、塗膜の固形分濃度は、JIS K5601に従い測定される。具体的には、未硬化の塗膜を1g秤取り、JIS K5601に準拠した規定条件(125℃、60分間)で加熱した後の残渣の質量の、元の質量に対する百分率(加熱残分)を求めて、得られた数値を、塗膜の固形分濃度とする。
【0103】
上記第1水性ベース塗装工程における未硬化の水性中塗り塗膜の固形分濃度NVmA(質量%)は、80質量%以上であるのが好ましい。水性中塗り塗膜の固形分濃度NVmA(質量%)を80質量%以上に調整する手法として、例えば、水性中塗り塗料組成物(A)を塗装した後にプレヒートを行うなどが挙げられる。
【0104】
上記第1水性ベース塗料組成物(B)を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における粘度ηsBが30~300Pa・sの範囲内であるのが好ましい。また、上記第1水性ベース塗装工程で、未硬化の水性中塗り塗膜上に形成された、未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における粘度ηmBが270Pa・s以上であるのが好ましい。上記粘度ηmBが上記範囲内であることによって、次の第2水性ベース塗装工程において、第1水性ベース塗膜の塗膜形状を良好に保持することができる利点がある。また、上記粘度ηsBが上記範囲内であることによって、第1水性ベース塗料組成物(B)の塗装作業性を良好な状態に確保することができる利点がある。
【0105】
未硬化の第1水性ベース塗膜の粘度の測定は、粘弾性測定装置を用いて測定することができる。より具体的には、粘弾性測定装置であるDiscovery-HR3レオメーター(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、温度20℃においてせん断速度を1000sec-1から0.01sec-1まで変化させたときの0.1sec-1で測定した時の粘度として測定することができる。
【0106】
第2水性ベース塗装工程
第2水性ベース塗装工程は、上記未硬化の第1水性ベース塗膜上に、鱗片状光輝顔料を含む第2水性ベース塗料組成物(C)を塗装して未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する工程である。第2水性ベース塗料組成物(C)の塗装は、上記第1水性ベース塗料組成物の塗装と同様に行うことができる。形成される第2水性ベース塗膜の膜厚は、乾燥膜厚として例えば1~40μmであるのが好ましく、2~30μmであるのがより好ましい。
【0107】
上記複層塗膜形成方法においては、上記第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVmB(質量%)、および、上記第2水性ベース塗料組成物(C)を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsC(質量%)が、下記式
NVmB(質量%) - NVsC(質量%) ≧ 20(質量%)
を満たすことを条件とする。
【0108】
上記複層塗膜形成方法における「第2水性ベース塗料組成物(C)を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsC(質量%)」は、第1水性ベース塗料組成物に関する固形分濃度NVsBと同様である。そのため、この固形分濃度NVsCは、塗料組成物の組成に由来する固形分濃度ということができる。そして上記複層塗膜形成方法において、上記第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVmB(質量%)、および、上記第2水性ベース塗料組成物(C)を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsC(質量%)が、下記式
NVmB(質量%) - NVsC(質量%) ≧ 20(質量%)
を満たすことは、上記複層塗膜形成方法の第2水性ベース塗装工程において、未硬化の第1水性ベース塗膜の固形分濃度が、塗装される第2水性ベース塗料組成物の固形分濃度と比較して十分に高いことを意味する。未硬化の第1水性ベース塗膜の固形分濃度が、塗装される第2水性ベース塗料組成物の固形分濃度と比較して十分に高いことによって、第2水性ベース塗料組成物を塗装した際に、第2水性ベース塗料組成物中に含まれる水性溶媒などの溶媒成分が、未硬化の第1水性ベース塗膜に良好に移行すると考えられる。そしてこの移行により、第2水性ベース塗料組成物(C)中に含まれる鱗片状光輝顔料の配向が良好な状態となり、光輝顔料の配向ムラを低減することができる利点がある。
【0109】
上記複層塗膜形成方法において、上記第2水性ベース塗料組成物(C)を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsC(質量%)が、10質量%以上25質量%以下であるのが好ましい。この「第2水性ベース塗料組成物(C)を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NVsC(質量%)」は、上記第2水性ベース塗料組成物(C)を、未硬化の第1水性ベース塗膜上ではなく、樹脂基材などの水分吸収性を有しない基材上に単独で塗装して形成された未硬化の塗膜における、塗装後1分時点の固形分濃度を意味する。この「塗装後1分における固形分濃度NVsC(質量%)」は、塗料組成物の組成に由来する固形分濃度ということができる。
【0110】
上記固形分濃度NVsC(質量%)が10質量%以上25質量%以下である場合は、上記固形分濃度NVsBの好ましい範囲(20質量%以上40質量%以下)と比較して基本的には固形分濃度が低いことを意味する。さらに上記複層膜形成方法においては、
1.2 ≦ NVmB/NVsB
を満たすことを条件とすることにより、第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の固形分濃度NVmBの方が、第1水性ベース塗料組成物を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の固形分濃度NVsBより高い。従って、第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の固形分濃度NVmBと、第2水性ベース塗料組成物(C)を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の固形分濃度NVsCとの間では、固形分濃度差が有意に大きくなる。これにより、第2水性ベース塗料組成物中に含まれる水性溶媒などの溶媒成分が、未硬化の第1水性ベース塗膜に良好に移行し、第2水性ベース塗料組成物(C)中に含まれる鱗片状光輝顔料の配向が良好な状態となり、光輝顔料の配向ムラを効果的に低減させることができ、得られる複層塗膜の外観が良好となる利点がある。
【0111】
クリヤー塗装工程
クリヤー塗装工程は、上記より得られた未硬化の第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料組成物(D)を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程である。クリヤー塗料組成物(D)の塗装は、塗料組成物の形態に応じた、通常用いられる方法によって塗装することができる。上記ベース塗膜に対して、クリヤー塗料組成物を塗装する方法の具体例として、例えば、マイクロベルと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機による塗装方法を挙げることができる。
【0112】
上記クリヤー塗料組成物(D)を塗装することによって形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に10~80μm程度が好ましく、20~60μm程度であることがより好ましい。乾燥膜厚が上記範囲内であることによって、下地の凹凸隠蔽性が良好となり、また塗装作業性を良好に確保することができる利点がある。
【0113】
硬化工程
硬化工程は、上記工程で得られた未硬化の水性中塗り塗膜、未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して、複層塗膜を形成する工程である。加熱硬化条件として、例えば、80~180℃に設定されていることが好ましく、120~160℃に設定されていることが更に好ましい。加熱時間は加熱温度に応じて任意に設定することができ、例えば加熱温度120℃~160℃である場合は、加熱時間は10~40分であるのが好ましい。
【0114】
上記より形成される複層塗膜の膜厚は、例えば20~300μmの範囲内であり、30~250μmの範囲内であることが好ましい。
【0115】
上記方法により形成される複層塗膜は、第2水性ベース塗膜に含まれる鱗片状光輝顔料の配向性が高く、光輝顔料の配向ムラが低減されており、塗膜外観が良好である。より詳しくは、複層塗膜形成方法において、塗装工程で形成される第1水性ベース塗膜の固形分濃度、そして第1水性ベース塗料組成物および第2水性ベース塗料組成物自体により形成される塗膜の固形分濃度を特定範囲内に制御することによって、第2水性ベース塗膜に含まれる鱗片状光輝顔料の配向性が向上し、塗膜外観が良好となる。
【実施例
【0116】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0117】
製造例1 アクリル樹脂エマルションの製造
反応容器に脱イオン水330gを加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。ついで、アクリル酸11.25部、アクリル酸n-ブチル139部、メタクリル酸メチル75部、メタクリル酸n-ブチル187部、メタクリル酸2-エチルヘキシル75部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル150部、スチレン112部、チオカルコール20(n-ドデシルメルカプタン、花王社製、有効成分100%)11.2部、およびラテムルPD-104(乳化剤、花王社製、有効成分20%)74.3部、および脱イオン水300部からなるモノマー乳化物のうち3%分と、過硫酸アンモニウム2.63部、および脱イオン水90部からなる開始剤溶液の30%分とを、15分間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、同温度で15分間熟成を行った。
さらに、残りのモノマー乳化物と開始剤溶液とを180分間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
次いで、40℃まで冷却し、200メッシュフィルターで濾過し、平均粒子径200nm、樹脂固形分49質量%、固形分酸価15mgKOH/g、水酸基価85mgKOH/gのアクリル樹脂エマルションを得た。
【0118】
製造例2 ポリエステル水分散体の製造
撹拌機、窒素導入管、温度制御装置、コンデンサー、デカンターを備えた反応容器に、トリメチロールプロパン250部、アジピン酸824部、シクロヘキサンジカルボン酸635部を加え、180℃に昇温して、水が留出しなくなるまで縮合反応を行った。60℃まで冷却した後、無水フタル酸120部を加え、140℃まで昇温して、これを60分間保ち、GPC測定による数平均分子量2,000のポリエステル樹脂を得た。ジメチルアミノエタノール59部(樹脂が有する酸価の80%相当(中和率80%))を80℃で加え、さらに脱イオン水1920部を投入、攪拌することによって、樹脂固形分45質量%のポリエステル水分散体を得た。このポリエステル水分散体の樹脂固形分換算での水酸基価は90mgKOH/g、酸価は35mgKOH/gであった。
【0119】
製造例3 着色顔料ペーストの製造
市販の分散剤「Disperbyk 190」(ビックケミー社製)9.2部、イオン交換水17.8部、ルチル型二酸化チタン73.0部を予備混合した後、ペイントコンディショナー中でビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで混合分散し、ビーズ媒体を濾過にて取り除いて着色顔料ペーストを得た。
【0120】
製造例4 水性中塗り塗料組成物(A)の製造
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション100部(樹脂固形分49質量%)および製造例2で得られたポリエステル水分散体80部(樹脂固形分45質量%)を撹拌した。これに製造例3の着色顔料ペーストを137.7部配合し、ジメチルエタノールアミン(キシダ化学社製)0.01部でpHを8.0に調整し、アデカノールUH-814N(ウレタン会合型粘性剤、有効成分30%、ADEKA社製、商品名)1.0部を混合攪拌し、均一になるまで攪拌した。これに、バイヒジュール305(住化バイエルウレタン社製のエチレンオキサイド基を有するポリイソシアネート化合物、エチレンオキサイド含有量:20質量%、イソシアネート基含有量:16質量%)40.9部を加え、水性中塗り塗料組成物を得た。
【0121】
実施例1
第1水性ベース塗料組成物(B-1)の製造
製造例1のアクリル樹脂エマルション 130部、ジメチルアミノエタノール1.8部、サイメル327(混合アルキル化型メラミン樹脂、三井サイテック社製、固形分90質量%)を40部、アデカノールUH-814N(ウレタン会合型粘性剤、有効成分30%、ADEKA社製、商品名) 1.0部を均一分散し、脱イオン水で希釈して、塗料温度23℃、60rpmにおけるB型粘度計の測定値が615mPa・s、塗料固形分濃度22質量%である第1水性ベース塗料組成物を得た(B-1)。
【0122】
第2水性ベース塗料組成物(C-1)の製造
製造例1のアクリル樹脂エマルション 130部、ジメチルアミノエタノール1.8部、サイメル327(混合アルキル化型メラミン樹脂、三井サイテック社製、固形分90質量%)を40部、アルミニウムペースト 127.5部(鱗片状光輝顔料固形分25質量%)、アデカノールUH-814N(ウレタン会合型粘性剤、有効成分30%、ADEKA社製、商品名) 7.0部を均一分散し、脱イオン水で希釈して、塗料温度23℃、60rpmにおけるB型粘度計の測定値が806mPa・s、塗料固形分濃度16質量%である第2水性ベース塗料組成物を得た。
【0123】
複層塗膜形成
被塗物として、リン酸亜鉛化成処理したダル鋼板に、パワーニクス150(商品名、日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社製カチオン電着塗料)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間の加熱硬化後冷却して、鋼板基板を準備した。
得られた基板(被塗物)に、製造例4の水性中塗り塗料組成物(A)を、回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が20μmとなるように塗装し、80℃で5分間プレヒートを行った(中塗り塗装工程)。
得られた未硬化の水性中塗り塗膜の上に、上記第1水性ベース塗料組成物(B-1)を、回転霧化式静電塗装装置を用いて乾燥膜厚が12μmとなるように塗装し、80℃で3分間プレヒートを行った(第1水性ベース塗装工程)。
次いで、得られた未硬化の第1水性ベース塗膜の上に、上記第2水性ベース塗料組成物(C-1)を、回転霧化式静電塗装装置を用いて乾燥膜厚が6μmとなるように塗装し、80℃で3分間プレヒートを行った(第2水性ベース塗装工程)。
その後、クリヤー塗料組成物としてマックフロー-O-1810(日本ペイント・オートモーティブ社製溶剤型クリヤー塗料組成物)を、乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、7分間セッティングした。次いで、塗装板を加熱炉で140℃30分間加熱を行うことにより、複層塗膜を有する塗装試験板を得た。
【0124】
上記複層塗膜の形成において、各未硬化塗膜の固形分濃度は、以下の手順で測定した。測定結果を下記表に示す。
【0125】
第1水性ベース塗装工程における未硬化の水性中塗り塗膜の固形分濃度NV mA の測定
OHPシート(コクヨ社製PETシート、「VF―1101N」)を、第1水性ベース塗装工程における未硬化の水性中塗り塗膜の表面に対して、対向する方向から貼り合わせた。その後、ゆっくりOHPシートを引き剥がした。OHPシート上に付随して分離した、未硬化の水性中塗り塗膜を、へらを用いてかき取った。
かき取った未硬化の塗膜を1g秤取り、JIS K5601に準拠した、規定条件で加熱した後の残渣の質量の、元の質量に対する百分率(加熱残分)を求めて、得られた数値を塗膜の固形分濃度(質量%)とした。加熱条件は125℃で60分間加熱することによって行った。
【0126】
第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NV mB および粘度η mB
第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の表面に対して、上記OHPシートを、対向する方向から貼り合わせ、その後、シートを引き剥がした。ここまでの手順を、第1水性ベース塗料組成物を塗装してから1分以内に行った。
OHPシート上に付随して分離した、第1水性ベース塗料組成物塗装後1分時点における、未硬化の第1水性ベース塗膜の固形分濃度NVmB(質量%)を、上記と同様の手順により測定した。
【0127】
第1水性ベース塗装工程で形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における粘度ηmBは、粘弾性測定装置を用いて測定した。具体的には、粘弾性測定装置であるDiscovery-HR3レオメーター(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、温度20℃においてせん断速度を1000sec-1から0.01sec-1まで変化させたときの0.1sec-1で測定した時の粘度として測定した。
【0128】
第1水性ベース塗料組成物を単独で塗装して形成された未硬化の第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NV sB および粘度η sB
上記複層塗膜形成行程とは別に、第1水性ベース塗料組成物を、基材であるブリキ板の上に塗装した。
第1水性ベース塗料組成物塗装後1分時点における、未硬化の第1水性ベース塗膜の固形分濃度NVsB(質量%)を、上記と同様の手順により測定した。
また、上記第1水性ベース塗膜の、塗装後1分における粘度ηsBを、上記と同様の手順により測定した。
【0129】
第2水性ベース塗料組成物を単独で塗装して形成された未硬化の第2水性ベース塗膜の、塗装後1分における固形分濃度NV sC
上記複層塗膜形成行程とは別に、第2水性ベース塗料組成物を、基材であるブリキ板の上に塗装した。
第2水性ベース塗料組成物塗装後1分時点における、未硬化の第2水性ベース塗膜の固形分濃度NVsC(質量%)を、上記と同様の手順により測定した。
【0130】
実施例2、3、5、6、8~19、比較例1~6
第1水性ベース塗料組成物の塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第1水性ベース塗料組成物を調製した。そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0131】
実施例4、7、20
第1水性ベース塗料組成物の塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第1水性ベース塗料組成物を調製した。
また、第2水性ベース塗料組成物の塗料粘度、固形分濃度が下記表中に記載の値となるように増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により、第2水性ベース塗料組成物を調製した。
そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0132】
実施例21
第1水性ベース塗料組成物の製造において、製造例1のアクリル樹脂エマルションの量を200部に変更し、塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第1水性ベース塗料組成物を調製した。
そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0133】
実施例22
第1水性ベース塗料組成物の製造において、製造例1のアクリル樹脂エマルションの量を80部に変更し、塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第1水性ベース塗料組成物を調製した。
そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0134】
実施例23
第1水性ベース塗料組成物の製造において、サイメル327の量を80部に変更し、塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第1水性ベース塗料組成物を調製した。
そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0135】
実施例24
第1水性ベース塗料組成物の製造において、サイメル327の量を25部に変更し、塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第1水性ベース塗料組成物を調製した。
そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0136】
実施例25
第2水性ベース塗料組成物の製造において、製造例1のアクリル樹脂エマルションの量を200部に変更し、塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第2水性ベース塗料組成物を調製した。
そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0137】
実施例26
第2水性ベース塗料組成物の製造において、製造例1のアクリル樹脂エマルションの量を80部に変更し、塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第2水性ベース塗料組成物を調製した。
そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0138】
実施例27
第2水性ベース塗料組成物の製造において、サイメル327の量を80部に変更し、塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第2水性ベース塗料組成物を調製した。
そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0139】
実施例28
第2水性ベース塗料組成物の製造において、サイメル327の量を25部に変更し、塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第2水性ベース塗料組成物を調製した。
そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0140】
実施例29
第2水性ベース塗料組成物の製造において、アルミニウムペーストの量を80部に変更し、塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第2水性ベース塗料組成物を調製した。
そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0141】
実施例30
第2水性ベース塗料組成物の製造において、アルミニウムペーストの量を160部に変更し、塗料粘度、固形分濃度が、下記表中に記載の値となるように、増粘剤および水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様の手順により第2水性ベース塗料組成物を調製した。
そして中塗り塗装工程において、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、下記表に記載の条件でプレヒートを行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0142】
実施例31
第1水性ベース塗料組成物および第2水性ベース塗料組成物を、実施例3と同様にして調製した。
第1水性ベース塗装工程において、乾燥膜厚が18μmとなるように第1水性ベース塗料組成物を塗装したこと以外は、実施例3と同様の手順により、複層塗膜を形成した。
【0143】
実施例32
第1水性ベース塗料組成物の製造において、アルミニウムペースト 120部(鱗片状光輝性顔料固形分25質量%)をさらに加えたこと以外は、実施例3と同様の手順により、第1水性ベース塗料組成物を調製した。
得られた第1水性ベース塗料組成物を用いたこと以外は、実施例3と同様の手順により、複層塗膜を形成した。
【0144】
比較例7
中塗り塗装工程において水性中塗り塗料組成物を塗装した後、140℃で30分間加熱を行って塗膜を硬化させた後に、第1水性ベース塗料組成物を塗装したこと以外は、実施例1と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0145】
比較例8
中塗り塗装工程において水性中塗り塗料組成物を塗装した後、140℃で30分間加熱を行って塗膜を硬化させた後に、第1水性ベース塗料組成物を塗装したこと以外は、実施例8と同様の手順により複層塗膜を形成した。
【0146】
上記実施例および比較例で得られた複層塗膜を用いて、下記評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0147】
塗装ムラ評価
得られた複層塗膜の塗膜表面を、下記基準に基づき目視評価した。

○:塗膜全体が均一な色を有し、顕著な色ムラの発生がない
△:塗膜の一部に色ムラが見られるが実用上問題はない
×:塗膜に色ムラが顕著に発生している
【0148】
フリップフロップ性評価(FF性)
レーザー式メタリック感測定装置(商品名:アルコープLMR-200、関西ペイント社製)を用いて測定されるFF値をフリップフロップ性の指標として用いた。FF値が大きいほど、フリップフロップ性が強いことを示す。フリップフロップ性の評価は下記基準に従い、1.41以上を合格とする。

○:フリップフロップ値1.51以上
△:フリップフロップ値1.41以上、1.51未満
×:フリップフロップ値1.41未満
【0149】
なお、本発明において、「フリップフロップ性が強い」とは、メタリック塗膜を目視して、正面方向(塗面に対して直角)からは白く、かつキラキラとして光輝感にすぐれており、一方、斜め方向からでは光輝感は少なく色相がはっきりと見え、両者の明度差が大きいことを意味している。つまり、見る角度によってメタリック感が顕著に変化するメタリック塗膜を「フリップフロップ性が強い」と称し、意匠性が優れている。
【0150】
【表1】
【0151】
【表2】
【0152】
実施例の方法によって形成した複層塗膜はいずれも、塗装ムラ(色ムラ)が確認されず、またFF性も良好であった。
比較例1~2、4は、「NVmB(質量%)-NVsC(質量%)」の値が20%未満である例である。これらの例では塗装ムラ(色ムラ)が確認された。
比較例3、6は、「NVmB(質量%)-NVsC(質量%)」の値が20%未満であり、かつ、NVmB/NVsBの値が1.2未満である例である。これらの例でもまた、塗装ムラ(色ムラ)が確認された。
比較例5は、NVmB/NVsBの値が1.2未満である例である。これらの例でもまた、塗装ムラ(色ムラ)が確認された。
比較例7、8は、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、加熱硬化を行って硬化中塗り塗膜とした後に、第1水性ベース塗料組成物を塗装した例である。これらの例でもまた、塗装ムラ(色ムラ)が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0153】
上記複層塗膜形成方法によれば、鱗片状光輝顔料を含む第2水性ベース塗膜において、鱗片状光輝顔料の配向性を高めることができる。上記複層塗膜形成方法によって形成される複層塗膜は、光輝顔料の配向ムラが低減されており、塗膜外観が良好である特徴がある。