(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】耐力壁
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20230119BHJP
【FI】
E04B2/56 605E
E04B2/56 605D
(21)【出願番号】P 2018245638
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡尾 健二
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-300663(JP,A)
【文献】特開2003-293445(JP,A)
【文献】特開昭63-184639(JP,A)
【文献】特開平11-043996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/24
E04B 1/58
E04B 2/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる一対の柱と、
前記一対の柱が対向する方向に延びる上下のランナーと、
前記上下のランナーに取り付けられ上下方向に延びるスタッド
と、を備える耐力壁であって、
前記スタッドは、
前記上下のランナーに取り付けられ上下方向に延びる二本の外側スタッドと、
予め相対的に短尺にモジュール化された内側スタッドと
、有し、
二本の前記外側スタッドの間に間隔をおいて複数の前記内側スタッドが配設
され、
複数の前記内側スタッドのうちの少なくとも1つは、前記外側スタッドの長手方向の端部に配置されていることを特徴とする、耐力壁。
、耐力壁。
【請求項2】
上下方向に延びる一対の柱と、
前記一対の柱が対向する方向に延びる上下のランナーと、
前記上下のランナーに取り付けられ上下方向に延びるスタッドと、
前記スタッドに固定される一対の内装材と、を備える耐力壁であって、
前記スタッドは、
前記上下のランナーに取り付けられ上下方向に延びる2本の外側スタッドと、
予め相対的に短尺にモジュール化された内側スタッドと、有し、
二本の前記外側スタッドの間に間隔をおいて複数の前記内側スタッドが配設され、
一組の前記スタッドは、前記耐力壁の厚み方向に相互にずれて配置され、
前記耐力壁の厚み方向に対向する前記一対の内装材は、互いに異なる前記スタッドに固定されていることを特徴とする、耐力壁。
【請求項3】
上下にある前記内側スタッドの間の前記間隔に挿通されて前記柱に取り付けられているブレースもしくは横桟と、を有することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の耐力壁。
【請求項4】
前記耐力壁の幅寸法と高さ寸法が規定される寸法情報記号、前記スタッドの本数、各スタッドにおける前記内側スタッドの数と設置位置が規定されるスタッド情報記号もしくはスタッド情報図面が紐付けされていることを特徴とする、請求項
1~3
の何れか一項に記載の耐力壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐力壁に関する。
【背景技術】
【0002】
戸建て住宅や集合住宅等の建物において、ブレース等の耐力要素が壁の下地材の内部(下地材の厚み内)に通された下地構造が適用される場合がある。この種の下地構造を有する耐力壁では、耐力要素と下地材との干渉を避けるべく、二本の溝形鋼のウエブの背面同士を当接させてスタッドを形成し、スタッドの耐力要素と干渉する部位に挿通孔を開設して耐力要素を挿通させる下地材が適用される場合がある。また、階高相当の高さを有する二本の外側スタッドと、二本の外側スタッドの間に配設される複数の短尺の内側スタッドとの三層構造のスタッドが適用される場合もある。この三層構造のスタッドによれば、中央に複数の短尺の内側スタッドが耐力要素を避ける位置に配設されることにより、下地材の内側に耐力要素を通すことが可能になる。
【0003】
上記する三層構造のスタッドの施工方法を概説すると、およそ以下の通りである。すなわち、施工現場において、柱や梁等の構造躯体が組み付けられ、構面内にブレース等の耐力要素が取り付けられた後、耐力要素と干渉しないようにして耐力壁を構成するスタッドの取り付けが行われる。施工現場では、一方の外側スタッドを構面に取り付けた後、この外側スタッドのうち、耐力要素と干渉しない位置において、複数の内側スタッドをビス等で固定する。次いで、一方の外側スタッドに固定された複数の内側スタッドに対して、他方の外側スタッドをビス等で固定することにより、耐力要素が内側に通された三層構造のスタッドが施工される。この際、内側スタッドは、現場に搬入されている長尺のスタッドを所定長さに採寸し、切断する現場加工により製作されている。この現場加工にはビス孔等の孔開け加工も含まれており、これら切断加工や孔開け加工は火の粉の発生を伴う比較的危険な作業であるとともに、加工手間のかかる現場加工となる。尚、上記するように二本の溝形鋼のウエブの背面同士を当接させて形成されるスタッドにおいても、耐力要素が挿通される挿通孔の孔開け加工は現場にて行われることから、同様の課題を有する。
【0004】
建物の高さ(階高)や幅に応じて耐力要素であるブレースの角度が変化し、スタッドにおいてブレースが通過する高さ位置が変化する。例えば、三階建ての住宅においては、一階乃至三階のそれぞれにおいて階高が異なる場合も往々にしてあり、また、多様な梁成の梁が存在することから、上下の梁間の高さは多様に変化し、従って、一つの建物においても耐力壁の高さや柱に対するブレースの取り付け位置は様々に変化する。さらに、耐力壁の幅も、0.5P(1Pは例えば910mm)、1P,1.5P,2P等と様々な形態がある。さらに、耐力壁が壁際に設置される場合と壁の途中の開口をかわした位置に設置される場合で、耐力壁の左右の柱が一本のシングル柱の形態と二本のダブル柱の形態等があり、これら様々な要因によって耐力壁の幅が異なる。このように様々な要因に基づいて耐力壁の高さと幅が異なることにより、ブレースの角度が変化し、上記するようにスタッドにおいてブレースが通過する高さ位置が変化することになる。
【0005】
一方で、一定の強度を有する三層構造のスタッドを形成するべく、短尺の内側スタッドの空き間隔は所定の間隔以内に設定される必要がある。従って、建物の各部位の耐力壁ごとに、内側スタッドの取り付け位置も、取り付けられる数も変化することになり、現場での切断加工や孔開け加工による製作と相俟って、下地材の施工に多大な手間を要するという課題があった。
【0006】
ここで、ブレースを備えた耐力壁に関し、互いに平行に傾斜して配置される二本以上の第1斜材と、第1の斜材と逆方向に傾斜して二本以上の第1の斜材に交叉するように配置される互いに平行な二本以上の第2斜材とを有し、全ての第1斜材が耐力壁の壁面に平行な同一面上に配置され、全ての第2斜材が第1の斜材よりも屋内側に設けられている耐力壁が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の耐力壁においても、上記するように、耐力壁の下地材を構成するスタッドを二本の溝形鋼のウエブの背面同士を当接させることにより形成し、スタッドのブレースと干渉する位置に挿通孔が開設され、挿通孔にブレース(ここでは斜材)が挿通される構成が適用されている。そして、特許文献1には具体的な記載はないものの、上記するように、施工現場において、スタッドのブレースと干渉する位置に挿通孔が孔開け加工されることが十分に想定され、上記するように階高と幅が異なる様々な寸法の耐力壁ごとに固有の位置に現場における孔開け加工を行う必要があることから、下地材の施工に多大な手間を要するといった上記課題を内包するものとなり得る。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、現場における加工手間を不要としたスタッドと、このスタッドを有する耐力壁下地材と、この耐力壁下地材を有する耐力壁を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明によるスタッドの一態様は、
耐力壁を形成するスタッドであって、
予め相対的に短尺にモジュール化された内側スタッドと、
相対的に長尺な二本の外側スタッドと、を有し、
二本の前記外側スタッドの間に間隔をおいて複数の前記内側スタッドが配設されていることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、二本の外側スタッドと、これらの間に配設される短尺の複数の内側スタッドとにより形成されるスタッドにおいて、内側スタッドが予め工場等で製作され、かつモジュール化されていることにより、現場での内側スタッドの切断加工等を不要にでき、スタッドの施工手間を大幅に改善することができる。ここで、「予め」とは、工場等において、内側スタッドが所定の長さに予め切断加工され、さらに、ビス等の固定手段のための挿通孔の孔開け加工がなされていることを意味する。すなわち、現場における内側スタッドの切断加工や孔開け加工は一切不要である。尚、階高相当の外側スタッドは現場にて切断加工等が不要であることから、外側スタッドも同様に予め工場等で製作されている。
【0012】
また、「モジュール化」とは、内側スタッドの長さが一律に設定されることを意味しており、例えば100mmの長さ、150mmの長さ等に一律に設定される。建物の各階において、高さや幅が異なる様々な寸法形状の耐力壁が存在する場合においても、三層構造のスタッドを構成する短尺な内側スタッドがモジュール化されていることにより、現場における内側スタッドの取り付けの際の煩雑さが大幅に解消される。
【0013】
例えば、1.5P幅の耐力壁は例えば三本のスタッドを有し、2P幅の耐力壁は例えば四本のスタッドを有するが、スタッドごとにブレース等の耐力要素と干渉する位置が異なることから、スタッドごとにブレースと干渉しない位置であって、かつ空き間隔が例えば500mm乃至800程度の範囲に収まるようにして複数の内側スタッドが二本の外側スタッドの間に取り付けられる。2500mm程度の階高の耐力壁を構成するスタッドにおいては、例えば高さ100mmにモジュール化されている内側スタッドが五つ乃至八つ程度適用できる。
【0014】
また、本発明による耐力壁下地材の一態様は、
上下のランナーと、
前記上下のランナーに取り付けられている前記スタッドと、を有していることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、予め工場等で製作され、モジュール化されている内側スタッドを有する三層構造のスタッドが上下のランナーに取り付けられていることにより、施工性に優れた耐力壁下地材となる。耐力壁は、左右にあるシングルもしくはダブルの柱と、左右の柱の頭部同士及び下部同士が接合される梁や土台等を有するが、上下のランナーは、例えば左右の柱の内側にある左右端のスタッドに跨る長さを有しており、上下のランナーが上下の梁等に固定される。
【0016】
また、本発明による耐力壁の一態様は、
前記耐力壁下地材と、
前記耐力壁下地材の左右にある柱と、
上下にある前記内側スタッドの間の前記間隔に挿通されて前記柱に取り付けられているブレースもしくは横桟と、を有することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、予め工場等でモジュール化されている内側スタッドを有する三層構造のスタッドが上下のランナーに取り付けられている耐力壁下地材の厚み内にブレース等の耐力要素が配設され、耐力要素が左右の柱に取り付けられていることにより、施工性に優れた耐力壁となる。ここで、耐力要素は、ブレースと横桟のいずれか一方により形成される。
【0018】
また、本発明による耐力壁の他の態様は、前記耐力壁の幅寸法と高さ寸法が規定される寸法情報記号、前記スタッドの本数、各スタッドにおける前記内側スタッドの数と設置位置が規定されるスタッド情報記号もしくはスタッド情報図面が紐付けされていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、耐力壁の寸法情報や耐力壁を構成するスタッド情報が情報記号もしくは情報図面として紐付けされていることにより、施工現場において誰でも情報記号や情報図面に基づいて耐力壁を容易に施工することができる。耐力壁の幅寸法と高さ寸法が規定される寸法情報記号と、耐力壁に配設されるスタッドの数や位置に関するスタッド情報記号もしくはスタッド情報図面により、耐力要素であるブレースの長さや傾きと、スタッドがブレースと干渉しない内側スタッド設置領域とが設定できる。
【0020】
より詳細には、耐力壁を構成する左右の柱の仕様(柱の断面寸法、シングル柱かダブル柱かについて等)を含む耐力壁の寸法情報記号により、耐力要素の仕様が設定される。柱がシングル柱とダブル柱のいずれであるかは、耐力壁の設置場所、すなわち、壁際に設置されるか、壁の内側の開口部をかわした位置に設置されるか等により変化し得る。例えば、建物の各階の伏図や間取り図等と、適用され得る複数種の耐力壁を網羅した凡例集とが纏められた図面が存在しており、この図面の中にスタッド情報図面が含まれ得る。そして、伏図等に記載される各壁のうち、耐力壁が設置される位置において、適用される耐力壁を特定するセット記号(スタッド情報記号の一例)が記載されている。複数種のセット記号に対応する耐力壁が凡例集に記載されており、各セット記号に対応する耐力壁の凡例図には、耐力壁の寸法が示され、さらに、耐力壁を構成する外側スタッドや内側スタッド、ランナー等の本数や設置位置、ブレース等の耐力要素等の仕様が記載されている(これらはいずれも、スタッド情報記号もしくはスタッド情報図面の一例)。尚、外側スタッドや内側スタッドに、各部材にて形成される耐力壁のセット記号が印字等されていてもよい。また、工場出荷時に、セット記号ごとに構成部材が纏められて出荷されてもよいし、工場出荷時に、セット記号ごとの納品書が各セット記号の構成部材に添付されてもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上の説明から理解できるように、本発明のスタッド、耐力壁下地材及び耐力壁によれば、現場における加工手間を不要としたスタッドと、このスタッドを有する耐力壁下地材と、この耐力壁下地材を有する耐力壁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係るスタッドと耐力壁下地材を含む耐力壁の一例の分解斜視図である。
【
図2】(a)はスタッドの一般部を取り出した斜視図であり、(b)はスタッドのランナー取り付け箇所を取り出した斜視図である。
【
図3】
図2(a)のIII方向矢視図であって、スタッドを上方から見た平面図であり、内装材を共に示した図である。
【
図4】実施形態に係るスタッドと耐力壁下地材を含む耐力壁の一例の正面図であって、内側スタッドの取り付け範囲を説明する図である。
【
図5】耐力壁のセット記号が付された住宅の二階の間取り図の一例を示す図である。
【
図6】耐力壁の凡例集の一例の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係るスタッドと耐力壁下地材と耐力壁について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0024】
[実施形態に係るスタッド、耐力壁下地材及び耐力壁]
図1乃至
図6を参照して、実施形態に係るスタッド、耐力壁下地材及び耐力壁の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係るスタッドと耐力壁下地材を含む耐力壁の一例の分解斜視図である。また、
図2(a)はスタッドの一般部を取り出した斜視図であり、
図2(b)はスタッドのランナー取り付け箇所を取り出した斜視図である。また、
図3は、
図2(a)のIII方向矢視図であって、スタッドを上方から見た平面図であり、内装材を共に示した図である。さらに、
図4は、実施形態に係るスタッドと耐力壁下地材を含む耐力壁の一例の正面図であって、内側スタッドの取り付け範囲を説明する図である。
【0025】
図1に示す耐力壁60は、四本のスタッド10と上下のランナー20とにより形成される耐力壁下地材30と、耐力壁下地材30の左右にある二組のダブル柱40と、耐力壁下地材30の厚みの内側を通るようにして左右のダブル柱40に対して対角線状に取り付けられている二本のブレース50と、により構成される。図示する耐力壁60は、例えば、2階建てもしくは3階建てで軽量鉄骨製の戸建て住宅や集合住宅の外壁もしくは内壁の構面に配設される。例えば2階床のH形鋼により形成される上方の梁70と、土台を形成する同様にH形鋼からなる下方の梁80(
図4参照)に対して、左右のダブル柱40がボルト接合等されることにより、構面に耐力壁60が取り付けられる。尚、柱40は、ダブル柱以外にもシングル柱であってもよく、耐力壁60を形成する耐力要素は、ブレース50以外にも梯子型耐力壁を形成する横桟等であってもよい。
【0026】
各スタッド10は、上下の梁間の距離に相当する高さを有する二本の外側スタッド1と、二本の外側スタッド1の間に介在する複数の短尺な内側スタッド2とを有する。
図1は、四本のスタッド10のそれぞれの一方の外側スタッド1を分解して示している。外側スタッド1と内側スタッド2はいずれも軽量鉄骨の角スタッドにより形成されている。図示例の四本のスタッド10は、二本ずつが一組となって並設され、左右の柱40の側方にそれぞれ各組の二本のスタッド10が配設される。
【0027】
外側スタッド1は、工場において、各階における上下の梁間の距離に相当する長さに予め加工され、ドリルネジやナベドリルネジ、ビス等の固定手段が挿通されるネジ孔が所定箇所に予め加工されている部材であり、現場における切断加工や孔開け加工が不要な部材である。
【0028】
一方、内側スタッド2も、工場において予め高さ100mm等に一律にモジュール化されて切断加工され、ネジ孔が加工されている部材であり、外側スタッド1と同様に現場における切断加工や孔開け加工が不要な部材である。尚、図示例の内側スタッド2は、
図1中の拡大図に明りょうに示すように、二つの円形の孔が形成されている側面を有している。
【0029】
図1乃至
図3に示すように、一方の外側スタッド1に対して内側スタッド2はドリルネジ9により固定され、内側スタッド2に対して他方の外側スタッド1がナベドリルネジ8により固定される。そして、二本の外側スタッド1の間に複数の短尺の内側スタッド2が介在することにより、上下の位置関係にある内側スタッド2の間には複数の間隔12が形成される。この間隔12にブレース50が挿通されることにより、耐力壁下地材30の構成部材と干渉することなく、耐力壁下地材30の厚みt1(
図2(a)参照)内にブレース50を配設することができる。
【0030】
図1及び
図2(b)に示すように、スタッド10の下端近傍(及び上端近傍)の側面には、平鋼が略コの字状に曲げ加工されて形成されるランナースペーサー5がビス等により固定され、スタッド10とランナースペーサー5による全厚みt2を有するランナー20に嵌め込まれるようになっている。
【0031】
ブレース50は、平鋼51と、丸鋼を有するターンバックル52とが組み合わされ、さらに両端にボルト孔(図示せず)を有する平鋼53が溶接接合されて構成されており、ダブル柱40の上下の内側側面において構面内に張り出すように取り付けられているガセットプレート41に対して、平鋼53がボルト接合されることによりブレース50がダブル柱40に接合される。ブレース50がターンバックル52を有することから、ターンバックル52を伸縮させることによりブレース50の長さの調整が可能になり、平面寸法の異なる複数種の耐力壁に対して同種のブレース50を適用することができる。尚、ブレース40は図示例以外にも、ターンバックルのみからなる形態、平鋼や角形鋼管等のみからなる形態などがある。また、積層ゴムや、SN材(建築構造用圧延鋼材)、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材等の制振ダンパーが介在する形態であってもよい。また、所謂梯子型耐力壁においては、耐力要素として、降伏点の低い鋼材等から形成される複数の横桟が適用される。
【0032】
図3に示すように、一組のスタッド10は、耐力壁60の厚み方向であるX方向に相互にずれた状態で配設される。例えば、二つの住戸を隔てる界壁に対して、図示する耐力壁60が適用される場合、一方の住戸内の生活音に起因する振動が他方の住戸に伝播されないように、一組の三層構造のスタッド10の一方の外側スタッド1に対して一方の住戸の内装材90(石膏ボード等)をビス91等で固定し、三層構造のスタッド10の他方の外側スタッド1に対して他方の住戸の内装材90(石膏ボード等)をビス91等で固定する。このように、内装材90が固定されるスタッド10を異ならせることにより、住戸間の音の伝播を解消することができる。尚、
図3において、並設する三層構造のスタッド10のそれぞれには、上下関係にある内側スタッド2の間にある間隔12において
図1に示すブレース40が挿通される。
【0033】
図3は、スタッド10を含む耐力壁60が界壁である場合を例示して説明しているが、
図1及び
図4に示す耐力壁60は、界壁以外にも、間仕切壁等の内壁の他、外壁に適用されてもよい。
【0034】
図1及び
図4に示すように、上下のランナー20は、四本の中で左右端にあるスタッド10に跨る長さを有しており、上下のランナー20に対して四本のスタッド10が取り付けられることにより、軽量鉄骨からなる耐力壁下地材30が形成される。ここで、ランナー20は、軽量鉄骨の溝形鋼により形成される。尚、上下のランナーは、四本の中で左右端にあるスタッド10に跨る長さの途中位置において切断され、この途中位置にある干渉部材(図示せず)との干渉を回避できる形態であってもよい。
【0035】
また、
図4に示すように、階高をL1、階高L1と梁成L2の差分からなる耐力壁高さをL3、左右のダブル柱40の外側の角スタッドの芯間幅をB1、芯間幅B1とダブル柱40の3/4幅とガセットプレート41等の幅の差分である左右の各組のスタッド10の芯間幅をB2とする。これら耐力壁60の幅寸法と高さ寸法が規定される寸法情報に基づいて、二本のブレース50の角度や各ブレース50が各スタッド10を通過する位置(高さレベル)が設定される。例えば、B1を1P幅(1Pは例えば910mm)とし、B2を0.5P幅とし、L1を2500mm乃至2600mmの範囲内に設定できる。
【0036】
図4に示すように、耐力壁60の平面寸法が設定され、各ブレース50が各スタッド10を通過する位置(高さレベル)が設定されることにより、各スタッド10において、ブレース50と干渉しない内側スタッド2の設置範囲が、上から順に、t3、t4及びt5の範囲として特定される。
【0037】
特定された内側スタッド設置範囲において、複数の内側スタッド2を配設し、外側スタッド1に固定する。ここで、上下関係にある内側スタッド2間の空きの間隔12を、例えば500mm乃至800程度の範囲に収まるように設定することにより、所要の剛性を有するスタッド10が形成される。図示例では、スタッド10の上下端と、中央の二箇所の計四箇所に内側スタッド2が配設されている。
【0038】
上記するように、内側スタッド2は、予め工場において高さ100mm等に一律にモジュール化されて切断加工がなされ、ネジ孔が予め加工されている部材である。そのため、現場において長尺の角スタッドを採寸して切断加工する等の現場加工を不要にでき、内側スタッドを現場加工した後に外側スタッドに固定する施工方法に比べて、スタッドの施工手間を大幅に改善することができる。また、建物の各階において、高さや幅が異なる様々な寸法形状の耐力壁60が存在する場合において、三層構造のスタッド10を構成する短尺な内側スタッド2が高さ100mm等に一律にモジュール化されていることにより、現場における内側スタッド2の取り付けの際の煩雑さが大幅に解消される。
【0039】
次に、
図5及び
図6をさらに参照して、耐力壁60の寸法情報記号、スタッド10の本数やスタッド10における内側スタッド2の数と設置位置等が規定されるスタッド情報記号もしくはスタッド情報図面が、耐力壁60やスタッド10等に紐付けされていることについて説明する。ここで、
図5は、耐力壁のセット記号が付された住宅の二階の間取り図の一例を示す図であり、
図6は、耐力壁の凡例集の一例の一部を示す図である。
【0040】
図5は、施工図面のうち、例えば二階の間取り図を示している。この施工図面には、各階の間取り図の他、基礎伏図や屋根伏図を含む各階の伏図等が含まれ、さらに、施工対象の建物に適用される耐力壁の一覧が纏められた、
図6にその一部が示される耐力壁の凡例集が含まれる。
【0041】
図5に示すように、例えば間取り図において、内壁や外壁に配設される各耐力壁の種類ごとにセット記号が割り振られている。
図5には、内壁の一部のセット記号のみを示している。
図5に示す一例のセット記号は、[KSS045-2F-2400-910-WW]、[KSS045-2F-2400-910-SW]である。ここで、[KSS045]は板厚0.45mmの軽鉄スタッドを使用することを意味しており、[2F]は2階に使用することを意味している。また、[2400]は天井高さ(耐力壁高さ)(mm)を意味しており、[910]は耐力壁の幅(mm)を意味している。さらに、[WW]は左右の柱がいずれもダブル柱であることを意味しており、[SW]は左右の柱の一方がシングル柱であり、他方がダブル柱であることを意味している。柱がシングル柱とダブル柱のいずれであるかは、耐力壁の設置場所、すなわち、壁際に設置されるか、壁の内側の開口部をかわした位置に設置されるか等により変化し得る。例えば、壁際に設置される耐力壁は、左右の一方もしくは双方の柱にダブル柱が適用される。
【0042】
このように、施工図面において、各階の各部位において適用される耐力壁には、それぞれに固有のセット記号が割り振られ、表記されている。
【0043】
そして、
図6に示す耐力壁の凡例集には、各セット記号に対応する耐力壁の寸法情報(寸法情報記号)が図面と共に記載されており、内側スタッドの配設される高さ位置情報も記載されている。
図6に示す図面は、下方に耐力壁の正面図を示し、上方に耐力壁の平面図を示している。尚、図示を省略するが、
図1等に示す外側スタッド1や内側スタッド2、ランナー20、柱40等のそれぞれの複数箇所において、セット記号である[KSS045-2F-2400-910-WW]等を印字しておくのが好ましい。さらに、工場出荷時に、セット記号ごとに構成部材が纏められて出荷されてもよいし、工場出荷時に、セット記号ごとの納品書が各セット記号の構成部材に添付されてもよい。
【0044】
図6に示す凡例集において、耐力壁の寸法情報記号である図面の下方には、当該耐力壁の構成部材である、下地材の内訳とブレースの内訳がさらに記載されている。
図6に示す下地材内訳において、[[1]KKS045-2540-2476]は、一方の外側スタッドが板厚0.45mmの軽鉄スタッドにて製作され、断面寸法が25mm×40mmであり、高さ2476mmであることを示しており、さらにその右欄にセット本数が4本であることが記載されている。ここで、スタッドの断面寸法は、45mm×65mm(4565)や40mm×45mm(4045)等、様々な形態がある。また、スタッドの高さは、天井高が同じ場合でも上階の梁成の相違等によりスタッドの高さが相違し、天井高2400mmの場合でも、図示例の2476mm(H形鋼の高さ250mm)の他、2526mm(H形鋼の高さ200mm)、2740mm(上階のALC板下からの高さで梁がない箇所)等、様々な形態がある。
【0045】
図6において、[2]は他方の外側スタッドに関するスタッド情報であり、セット本数は同様に4本であることが記載されている。また、[3]は内側スタッドに関するスタッド情報であり、その中で[100]は内側スタッドの高さが100mmにモジュール化されていることを示しており、セット本数は16本である。また、[4]はランナーに関する情報であり、[KWR]は軽量スタッドのランナーであることを示しており、[080]は板厚が0.8mmであること、[40110]は溝形鋼であるC-110×40を使用すること、[540]はランナーの長さが540mmであることをそれぞれ示している。
【0046】
また、ブレース情報に関し、[H3MB2]は2階に適用されるブレースであることを示しており、[08V]はブレースの仕様を示している。
【0047】
このように、施工図面において各階の各部位に適用される耐力壁が施工図面にセット記号として示されていることにより、施工現場では、誰でも簡単に、しかも間違いなく、各階の各部位に施工されるべき耐力壁の形態を特定することができる。そして、例えば現場に納品された耐力壁の構成部材には対応する耐力壁のセット記号が印字され、納品書にもセット記号が付されていることにより、各耐力壁に対して適切な構成部材を使用して当該耐力壁を施工することができる。その際、施工図面には、間取り図や伏図等において各耐力壁のセット記号が記載され、凡例集には、各セット記号に対応した耐力壁の図面情報や構成部材の仕様及び使用本数等の情報が記載されて紐付けされていることにより、現場搬入された適切な部材を使用して各耐力壁を誰でも間違いなく施工することが可能になる。
【0048】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0049】
1:外側スタッド、2:内側スタッド、5:ランナースペーサー、10:スタッド、12:間隔、20:ランナー、30:耐力壁下地材、40:柱(ダブル柱)、50:ブレース(耐力要素)、51:平鋼、52:ターンバックル、60:耐力壁、70,80:梁、90:内装材(石膏ボード)