(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの評価方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/02 20060101AFI20230119BHJP
G02C 7/06 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
G02C7/02
G02C7/06
(21)【出願番号】P 2018246717
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】祁 華
(72)【発明者】
【氏名】内谷 隆博
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0131567(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104678572(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0306192(US,A1)
【文献】特開2000-107129(JP,A)
【文献】特開2017-10031(JP,A)
【文献】国際公開第2018/026697(WO,A1)
【文献】特開2000-186978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
A61B 3/00- 3/18
G01M11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側の面と眼球側の面とのうち少なくとも一方の面に凸部を複数有する眼鏡レンズの評価方法であって、
前記眼鏡レンズの所定の評価領域に対して光線追跡を行った際に、前記所定の評価領域内の複数の前記凸部の各々を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aでの光線数を基に、前記眼鏡レンズを評価する
評価方法であって、
前記凸部を複数有する面の表面形状データを得る工程と、
前記表面形状データから得られるレンズモデルに対して光線追跡を行い、前記所定の評価領域内の複数の前記凸部の各々を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aと、前記所定の評価領域内の複数の前記凸部以外の部分を通過した光線が収束する位置であって複数の前記焦点位置Aよりも眼球側寄りである焦点位置Bとを特定する工程と、
前記焦点位置Aでの光線数の合計と、前記焦点位置Bでの光線数と、を求める工程と、
求めた光線数に基づいて眼鏡レンズを評価する工程と、
を有する、眼鏡レンズの評価方法。
【請求項2】
前記光線追跡にて得られる、前記眼鏡レンズからの光線の出射部分の座標とベクトルから、複数の前記焦点位置Aを特定する、請求項1に記載の眼鏡レンズの評価方法。
【請求項3】
前記所定の評価領域は、
直径2~6mmである瞳孔径の大きさであり且つ複数存在する、請求項1または2に記載の眼鏡レンズの評価方法。
【請求項4】
前記所定の評価領域に対して光線追跡を行った際の全光線数から、前記所定の評価領域内の複数の前記凸部の各々を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aでの光線数の合計と、前記所定の評価領域内の複数の前記凸部以外の部分を通過した光線が収束する位置であって複数の前記焦点位置Aよりも眼球側寄りである焦点位置Bでの光線数と、を差し引いて得られる迷光の光線数を基に、前記眼鏡レンズを評価する、請求項1~3のいずれかに記載の眼鏡レンズの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの評価方法および眼鏡レンズに関し、特に近視進行抑制レンズの評価方法および近視進行抑制レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(米国出願公開第2017/131567号)には、近視等の屈折異常の進行を抑制する眼鏡レンズが記載されている。具体的には、眼鏡レンズの物体側の面である凸面に対し、例えば、直径1mm程度の球形状の微小凸部を形成している。眼鏡レンズでは、通常、物体側の面から入射した平行光線を眼球側の面から出射させて装用者の網膜上(本明細書においては所定の位置B)に焦点を結ぶ。この位置Bのことを焦点位置Bと称する。その一方、微小凸部を通過した光は、眼鏡レンズに入射した光線を所定の位置Bよりも物体側寄りの複数の位置Aにて焦点を結ぶ。この位置Aのことを焦点位置Aと称する。微小凸部により与えられるデフォーカスパワーにより、近視の進行が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な眼鏡レンズと同様、特許文献1に記載の眼鏡レンズも性能を評価する必要がある。評価項目としては、例えば、焦点位置Aおよび焦点位置Bにて焦点が正しく結ばれるのか否かが挙げられる。
【0005】
従来の眼鏡レンズであれば市販のレンズメータを使用することにより眼鏡レンズ上の焦点位置を把握することができる。しかしながら、仮に、特許文献1に記載の眼鏡レンズをレンズメータにセットしたとしても、特許文献1に記載の眼鏡レンズだと微小凸部の直径が1mm程度である。そのため、焦点位置を把握することが不可能ないし極めて困難である。そもそも微小凸部が複数存在するため、市販のレンズメータでは、焦点位置を把握することが不可能ないし極めて困難である。
【0006】
波面センサを使用することも選択肢としては有り得る。但し、特許文献1に記載の眼鏡レンズの微小凸部は複数存在するため、連続面が測定対象となる波面センサを使用することは不可能ないし極めて困難である。
【0007】
本発明の一実施例は、物体側の面と眼球側の面とのうち少なくとも一方の面に凸部を複数有する眼鏡レンズの性能評価を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は課題を解決すべく鋭意検討を行った。そして、眼鏡レンズに対して光線追跡法を使用することにより複数の焦点位置Aを見出し、その結果、少なくとも複数の焦点位置Aでの光線数に基づき、凸部を複数有する眼鏡レンズの性能評価を行うという知見を得た。
【0009】
本発明は、この知見を基に案出されたものである。
本発明の第1の態様は、
物体側の面と眼球側の面とのうち少なくとも一方の面に凸部を複数有する眼鏡レンズの評価方法であって、
眼鏡レンズの所定の評価領域に対して光線追跡を行った際に、所定の評価領域内の複数の凸部の各々を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aでの光線数を基に、眼鏡レンズを評価する、眼鏡レンズの評価方法である。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
光線追跡にて得られる、眼鏡レンズからの光線の出射部分の座標とベクトルから、複数の焦点位置Aを特定する。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の態様であって、
所定の評価領域は、瞳孔径の大きさであり且つ複数存在する。
【0012】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の態様であって、
所定の評価領域に対して光線追跡を行った際の全光線数から、所定の評価領域内の複数の凸部の各々を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aでの光線数の合計と、所定の評価領域内の複数の凸部以外の部分を通過した光線が収束する位置であって複数の焦点位置Aよりも眼球側寄りである焦点位置Bでの光線数と、を差し引いて得られる迷光の光線数を基に、眼鏡レンズを評価する。
【0013】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様に記載の態様であって、
凸部を複数有する面の表面形状データを得る工程と、
表面形状データから得られるレンズモデルに対して光線追跡を行い、所定の評価領域内の複数の凸部の各々を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aと、所定の評価領域内の複数の凸部以外の部分を通過した光線が収束する位置であって複数の焦点位置Aよりも眼球側寄りである焦点位置Bとを特定する工程と、
焦点位置Aでの光線数の合計と、焦点位置Bでの光線数と、を求める工程と、
求めた光線数に基づいて眼鏡レンズを評価する工程と、
を有する。
【0014】
本発明の第6の態様は、
物体側の面と眼球側の面とのうち少なくとも一方の面に凸部を複数有する眼鏡レンズであって、
直径2~6mmである任意の所定の評価領域内の凸部の各々に対応する焦点位置Aでのデフォーカス値の平均と、所定の評価領域内の複数の凸部以外の部分を通過した光線が収束する位置であって複数の焦点位置Aよりも眼球側寄りである焦点位置Bでのフォーカス値との差で表されるデフォーカスパワーが、予定されたデフォーカスパワーに対して±0.5D以内であり、
眼鏡レンズに対して光線追跡を行った際の、焦点位置Aに収束する光線数の合計Pと、焦点位置Bに収束する光線数Qとの比が4:6~6:4を満たす、眼鏡レンズ。
【0015】
本発明の別の態様は、第6の態様に記載の態様であって、
眼鏡レンズに対して光線追跡を行った際の、所定の評価領域内を通過する全光線数に対する迷光の光線数の割合が20%以下である。
【0016】
本発明の別の態様は、
物体側の面と眼球側の面とのうち少なくとも一方の面に凸部を複数有する眼鏡レンズであって、
直径2~6mmである任意の所定の評価領域内の凸部の各々に対応する焦点位置Aでのデフォーカス値の平均と、所定の評価領域内の複数の凸部以外の部分を通過した光線が収束する位置であって複数の焦点位置Aよりも眼球側寄りである焦点位置Bでのフォーカス値との差で表されるデフォーカスパワーが、予定されたデフォーカスパワーに対して±0.5D以内である、眼鏡レンズである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施例によれば、物体側の面と眼球側の面とのうち少なくとも一方の面に凸部を複数有する眼鏡レンズの性能評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一態様における評価対象の眼鏡レンズの形状を示す正面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す眼鏡レンズの構成例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す眼鏡レンズを透過する光の経路を示す概略断面図(その1)である。
【
図4】
図4は、
図1に示す眼鏡レンズを透過する光の経路を示す概略断面図(その2)である。
【
図5】
図5は、本発明の一態様に係る評価方法の手順の概要を示すフロー図である。
【
図6】
図6は、
図1中の所定の評価領域E1を拡大した様子を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一態様において、光線が集光する位置を特定する方法を説明するための説明図である。
【
図8】
図8は、
図5の評価方法におけるクラスタ分析の具体的な手順を示すフロー図である。
【
図9】
図9は、本発明の一態様に係る評価方法によるデータ分類および基準形状データ抽出の具体例を模式的に示す説明図である。
【
図10】
図10は、光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図(その1)である。
【
図11】
図11は、光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図(その2)である。
【
図12】
図12は、光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図(その3)である。
【
図13】
図13は、光線が集光する位置を特定する方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一態様について述べる。以下における図面に基づく説明は例示であって、本発明は例示された態様に限定されるものではない。
【0020】
[本発明の一態様に係る眼鏡レンズの評価方法]
本発明の一態様に係る眼鏡レンズの評価方法は、以下の通りである。
「物体側の面と眼球側の面とのうち少なくとも一方の面に凸部を複数有する眼鏡レンズの評価方法であって、
眼鏡レンズの所定の評価領域に対して光線追跡を行った際に、所定の評価領域内の複数の凸部の各々を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aでの光線数を基に、眼鏡レンズを評価する、眼鏡レンズの評価方法。」
【0021】
特許文献1に記載の眼鏡レンズだと、市販のレンズメータでは、焦点位置を把握することが不可能ないし極めて困難であった。ところが本発明の一態様によれば、眼鏡レンズにおいて凸部を有する部分を含む所定の評価領域に対して光線追跡法を使用することにより複数の焦点位置Aを特定可能となり、しかも凸部を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aでの光線数も求めることが可能となる。
【0022】
その結果、本発明の一態様ならば、物体側の面と眼球側の面とのうち少なくとも一方の面に凸部を複数有する眼鏡レンズの性能評価が可能となる。
【0023】
[本発明の一態様に係る眼鏡レンズの評価方法の詳細]
以下、本発明の一態様の更なる具体例、好適例および変形例について説明する。
【0024】
(1)眼鏡レンズの構成
(眼鏡レンズの全体構成)
図1は、本発明の一態様における評価対象の眼鏡レンズの形状を示す正面図である。
【0025】
図1に示すように、眼鏡レンズ1は、レンズ中心の近傍に規則的に配列された複数の凸部6を有する。凸部6については、詳細を後述する。
【0026】
図2は、
図1に示す眼鏡レンズの構成例を示す断面図である。
【0027】
図2に示すように、眼鏡レンズ1は、物体側の面3と眼球側の面4とを有する。「物体側の面」は、眼鏡レンズ1を備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面である。「眼球側の面」は、その反対、すなわち眼鏡レンズ1を備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面である。本発明の一態様において、物体側の面3は凸面であり、眼球側の面4は凹面である。つまり、本発明の一態様における眼鏡レンズ1は、メニスカスレンズである。
【0028】
また、眼鏡レンズ1は、レンズ基材2と、レンズ基材2の凸面側および凹面側のそれぞれに形成されたハードコート膜8と、各ハードコート膜8のそれぞれの表面に形成された反射防止膜(AR膜)10と、を備えて構成されている。なお、眼鏡レンズ1は、ハードコート膜8および反射防止膜10に加えて、さらに他の膜が形成されてもよい。
【0029】
(レンズ基材)
レンズ基材2は、例えば、チオウレタン、アリル、アクリル、エピチオ等の熱硬化性樹脂材料によって形成されている。なお、レンズ基材2を構成する樹脂材料としては、所望の屈折度が得られる他の樹脂材料を選択してもよい。また、樹脂材料ではなく、無機ガラス製のレンズ基材としてもよい。
【0030】
本発明の一態様においては、レンズ基材2の物体側の面3(凸面)には、当該面から物体側に向けて突出するように、複数の凸部6aが形成されている。各凸部6aは、レンズ基材2の物体側の面3とは異なる曲率の曲面によって構成されている。このような凸部6aが形成されていることで、レンズ基材2の物体側の面3には、平面視したときに、レンズ中心の周囲に周方向および軸方向に等間隔に、略円形状の凸部6aが島状に(すなわち、互いに隣接することなく離間した状態で)配置されることになる。なお、レンズ基材2の物体側の面4(凹面)に複数の凸部6aを形成しても構わない。また、両面すなわち凸面および凹面に複数の凸部6aを形成しても構わない。説明の便宜上、以降、物体側の面3(凸面)に複数の凸部6aを形成する場合を例示する。
【0031】
(ハードコート膜)
ハードコート膜8は、例えば、熱可塑性樹脂またはUV硬化性樹脂を用いて形成されている。ハードコート膜8は、ハードコート液にレンズ基材2を浸漬させる方法や、スピンコート等を使用することにより、形成することができる。このようなハードコート膜8の被覆によって、眼鏡レンズ1の耐久性向上が図れるようになる。
【0032】
(反射防止膜)
反射防止膜10は、例えば、ZrO2、MgF2、Al2O3等の反射防止剤を真空蒸着により成膜することにより、形成されている。このような反射防止膜10の被覆によって、眼鏡レンズ1を透した像の視認性向上が図れるようになる。
【0033】
(物体側の面形状)
上述したように、レンズ基材2の物体側の面3には、複数の凸部6aが形成されている。したがって、その面3をハードコート膜8および反射防止膜10によって被覆すると、レンズ基材2における凸部6aに倣って、ハードコート膜8および反射防止膜10によっても複数の凸部6bが形成されることになる。つまり、眼鏡レンズ1の物体側の面3(凸面)には、当該面3から物体側に向けて突出するように、凸部6aおよび凸部6bによって構成される凸部6が配置されることになる。
【0034】
凸部6は、レンズ基材2の凸部6aに倣ったものなので、当該凸部6aと同様に、レンズ中心の周囲に周方向および軸方向に等間隔で、すなわちレンズ中心の近傍に規則的に配列された状態で、島状に配置される。なお、特許文献1の
図11や本願
図1に記載のように、レンズ中心の光軸が通過する箇所に凸部6を設けてもよいし、特許文献1の
図1に記載のように、光軸が通過する箇所には凸部6を設けない領域を確保してもよい。
【0035】
各々の凸部6は、例えば、以下のように構成される。凸部6の直径は、0.8~2.0mm程度が好適である。凸部6の突出高さ(突出量)は、0.1~10μm程度、好ましくは0.7~0.9μm程度が好適である。凸部6の曲率は、50~250mmR、好ましくは86mmR程度の球面状が好適である。このような構成により、凸部6の屈折力は、凸部6が形成されていない領域の屈折力よりも、2.0~5.0ディオプター程度大きくなるように設定される。
【0036】
(光学特性)
以上のような構成の眼鏡レンズ1では、物体側の面3に凸部6を有することで、以下のような光学特性が実現され、その結果として眼鏡装用者の近視等の屈折異常の進行を抑制することができる。
【0037】
図3は、
図1に示す眼鏡レンズを透過する光の経路を示す概略断面図(その1)である。
【0038】
図3に示すように、眼鏡レンズ1において、凸部6が形成されていない領域(以下「ベース領域」という。)の物体側の面3に入射した光は、眼球側の面4から出射した後、眼球20の網膜20a上に焦点を結ぶ。つまり、眼鏡レンズ1を透過する光線は、原則的には、眼鏡装用者の網膜20a上に焦点を結ぶ。換言すると、眼鏡レンズ1のベース領域は、所定の位置Bである網膜20a上に焦点を結ぶように、眼鏡装用者の処方に応じて曲率が設定されている。
【0039】
図4は、
図1に示す眼鏡レンズを透過する光の経路を示す概略断面図(その2)である。
【0040】
その一方で、
図4に示すように、眼鏡レンズ1において、凸部6に入射した光は、眼球側の面4から出射した後、眼球20の網膜20aよりも物体側寄りの位置で焦点を結ぶ。つまり、凸部6は、眼球側の面4から出射する光を、焦点位置Bよりも物体側寄りの位置Aに収束させる。この焦点位置Aは、複数の凸部6の各々に応じて、位置A
1、A
2、A
3、・・・A
N(Nは凸部6の総数)として存在する。
【0041】
このように、眼鏡レンズ1は、原則として物体側の面3から入射した光線を眼球側の面4から出射させて所定の位置Bに収束させる。その一方で、眼鏡レンズ1は、凸部6が配置された部分においては、所定の位置Aよりも物体側寄りの位置A(A1、A2、A3、・・・AN)に光線を収束させる。つまり、眼鏡レンズ1は、眼鏡装用者の処方を実現するための光線収束機能とは別の、物体側寄りの位置Aへの光線収束機能を有する。このような光学特性を有することで、眼鏡レンズ1は、眼鏡装用者の近視等の屈折異常の進行を抑制する効果(以下「近視進行抑制効果」という。)を発揮させることができる。
【0042】
(2)評価手順
次に、上述した構成の眼鏡レンズ1の表面形状を評価する手順、すなわち本発明の一態様に係る眼鏡レンズの評価方法の手順の一例について、具体的に説明する。
【0043】
本発明の一態様においては、主に以下の工程を備える。
・凸部を複数有する面の表面形状データを得る工程
・表面形状データから得られるレンズモデルに対して光線追跡を行い、所定の評価領域内の複数の凸部の各々を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aと、所定の評価領域内の複数の凸部以外の部分を通過した光線が収束する位置であって複数の焦点位置Aよりも眼球側寄りである焦点位置Bとを特定する工程
・焦点位置Aでの光線数の合計と、焦点位置Bでの光線数と、を求める工程
・求めた光線数に基づいて眼鏡レンズを評価する工程
以下、各工程およびそれらの工程にさらに別の工程を加えた一態様を説明する。なお、説明の順番としては、まずは各工程の概略を説明することにより評価方法全体について説明し、その後、別途詳述が必要な工程についてはその後に説明する。
【0044】
図5は、本発明の一態様に係る評価方法の手順の概要を示すフロー図である。
【0045】
(1.生データ(三次元データ)の取得)
図5に示すように、眼鏡レンズ1の物体側の面3の表面形状の評価にあたっては、先ず、第1の工程として、評価対象となる眼鏡レンズ1における物体側の面3の表面形状を測定して、その表面形状の三次元データの取得を行う(ステップ1、以下ステップを「S」と略す。)。三次元データの取得は、公知の三次元測定機を用いて行えばよい。これにより、物体側の面3の表面形状について、XY座標上を等ピッチでZ座標が測定されたXYZ座標値データが生データ(三次元データ)として得られる。
【0046】
(2.閾値の決定)
三次元データを取得したら、続いて、第2の工程として、後述する各データ群への分類に必要となる閾値の決定を行う(S2)。閾値の決定は、取得した三次元データから導出することによって行う。
【0047】
さらに詳しくは、高さ閾値の決定にあたり、負荷曲線グラフの縦軸に、形状除去後の形状の高さデータの最小値から最大値までをとり、その間を細かく分割し一定ピッチで目盛る。そして、各目盛りが指す高さ位置に対し、形状除去後の形状の各高さデータが高い位置にある比率を求め、その比率を負荷曲線グラフの横軸にプロットし、各プロット点を繋いで負荷曲線(ベアリング曲線)とする。このように、縦軸に高さ、横軸に比率をとったグラフにおいて、負荷曲線(ベアリング曲線)の横軸50%から60%の間に位置する点と70%から80%の間に位置する点とを直線で結び、その直線と縦軸とが交わる高さ目盛りの値を、高さ閾値(すなわち、三次元データから導出した閾値)として決定する。
【0048】
なお、閾値決定は、上述したようなベアリング曲線を活用した計算手法の他に、例えば、形状除去後の形状の高さデータ最小値と最大値との中間高さ、例えば最小値と最大値との距離の最小から20~40%高さ程度の位置を経験データに基づき決めて高さ閾値とする、といった手法を用いることも可能である。
【0049】
(3.各データ群への分類)
閾値を決定した後は、次いで、第3の工程として、その閾値を用いつつ、取得した三次元データに対するクラスタ分析を行って、その三次元データについて各データ群への分類を行う(S3)。分類される各データ群には、少なくとも凸部6に関するデータ群とベース領域に関するデータ群とが含まれ、好ましくはこれらに加えて詳細を後述する境界近傍領域に関するデータ群が含まれている。
【0050】
本発明の一態様においては、凸部6に関するデータ群とベース領域に関するデータ群とを含む複数の箇所の各々を所定の評価領域として設定する場合を例示する。なお、所定の評価領域の形状には特に限定は無く、既存の光線追跡法で使用する光線径であって瞳孔径に相当する大きさの直径2~6mmの平面視円形であってもよいし、瞳孔径に相当する大きさの矩形であってもよい。つまり、この平面視円形もこの矩形も、瞳孔径の大きさを備えてもよい。また、各所定の評価領域の径および形状の少なくともいずれかが互いに異なっていてもよい。
【0051】
所定の評価領域を複数設定する際に、眼鏡レンズの面における凸部を有する部分全体を含むよう、所定の評価領域を複数設けても構わない。ただ、その場合、多くの時間と手間がかかる。そのため、所定の評価領域を数箇所(例:2~6箇所)設け、その数箇所のみにて後述の(10.焦点位置の評価)(11.迷光の評価)(12.有効光線数の評価)等を行ってもよい。例えば、
図1に示すように、水平方向に光軸を挟んで光軸近傍に所定の評価領域を2箇所E1、E2を設け、垂直方向に光軸を挟んで2箇所よりも光軸から離れた距離に所定の評価領域を2箇所E3、E4を設け、この合計4箇所にて後述の評価を行ってもよい。但し、所定の評価領域の位置には特に限定は無く、任意の位置でよい。
【0052】
なお、クラスタ分析を活用した各データ群への分類の具体的な手順については、詳細を後述する。
【0053】
(4.データ群毎のフィッティングによる基準形状データの抽出)
各データ群への分類を行った後は、次に、第4の工程として、分類したデータ群毎にカーブフィッティングを行って、これにより得られた曲面形状データを組み合わせて、眼鏡レンズの物体側の面3についての基準形状データを抽出する(S4)。カーブフィッティングは、分類したデータ群のそれぞれについて個別に行う。具体的には、各凸部6に関するデータ群と、ベース領域に関するデータ群とについて、例えば最小二乗法で球面近似を行う。これにより、各凸部6とベース領域とのそれぞれについて、近似球面を表す曲面形状データが個別に得られる。そして、このようにして得られた個別の曲面形状データを組み合わせて、一つの面形状についての形状データとする。これにより、眼鏡レンズの物体側の面3について、粗さやダレ等の誤差成分を除去した形状(すなわち、基準となる形状)に関する形状データが、基準形状データとして抽出されることになる。
【0054】
ここまでの工程をまとめると以下の構成となる。
物体側に向けて突出する複数の凸状領域を物体側の面に有する眼鏡レンズについて、当該眼鏡レンズにおける物体側の面の表面形状を測定して当該表面形状の三次元データを取得する工程と、
三次元データに対するクラスタ分析を行って、複数の凸状領域のそれぞれに関するデータ群と凸状領域が形成されていない領域であるベース領域に関するデータ群とを分類する工程と、
分類したデータ群毎にカーブフィッティングを行って得られた曲面形状データを組み合わせて、眼鏡レンズの物体側の面についての基準形状データを抽出する工程と、
を備える。
【0055】
この構成に対し、以下の構成を加えてもよい。
凸状領域に関するデータ群と、ベース領域に関するデータ群とを、三次元データから導出された閾値に基づいて分類する。
閾値は、三次元データを最小二乗法で近似し、その近似結果についてのベアリング曲線を活用して決定したものである。
後述の(クラスタ分析の詳細)に記載のk平均法を利用して、複数の凸状領域のそれぞれに関するデータ群の分類を行う。
三次元データを各データ群に分類する工程では、後述の(クラスタ分析の詳細)に記載のように、三次元データを、凸状領域に関するデータ群と、ベース領域に関するデータ群と、凸状領域とベース領域との間の遷移領域である境界近傍領域に関するデータ群と、に分類する。
【0056】
(5.表面形状データの作成)
第5の工程として、抽出された基準形状データから表面形状データを作成する(S5)。一具体例を挙げると、XYZ座標値データである基準形状データに対し、例えばスプライン補間を行うことにより曲面としての表面形状データを作成してもよい。
【0057】
(6.眼鏡レンズのモデルの設定)
本工程である第6の工程では、光線追跡法による測定を行うための眼鏡レンズのモデル(レンズモデル)を設定する(S6)。このレンズモデルも実物の眼鏡レンズもまとめて「眼鏡レンズ」ともいい、レンズモデルのことを単に「表面形状データ」ともいう。
【0058】
具体的には、第5の工程で作成した物体側の面3(凸面)の表面形状データの反対面(凹面)に、任意の表面形状データを配置する。例えば、物体側の面3と眼球側の面4を光が透過したときに所定の処方値(球面度数S、乱視度数C、乱視軸Ax、プリズムΔ)を実現できるような形状の表面形状データを設定し、物体側の面3と眼球側の面4との間の距離(レンズ厚さ)および傾きを設定する。なお、反対面(凹面)の形状は球面と仮定してもよいし、トーリック面と仮定してもよい。このような反対面(凹面)の表面形状データならびに該距離および傾きは、コンピュータシミュレーションにより得ることが可能である。
【0059】
本発明の一態様においては、実物の眼鏡レンズ以外にも、実物の眼鏡レンズから第1~第5の工程および本工程である第6の工程により得られるレンズモデルに対して光線追跡法による測定が可能であることに大きな特徴の一つがある。
【0060】
実物の眼鏡レンズを使用する場合、眼球モデル(眼軸長等)を作成する必要がある。また、眼鏡フレームの前傾角やあおり角、PD(瞳孔間距離)、CVD(眼鏡レンズの眼球側の面4の頂点と角膜頂点との間の頂点間距離)等を設定する必要がある。そのため、実物の眼鏡レンズを使用する場合、多くの労力が必要となる。その一方、本発明の一態様のようにレンズモデルを作成してこれを使用する場合、そのような労力が不要になる。その結果、眼鏡レンズの評価方法を効率良く実施することが可能となる。
【0061】
(7.光線追跡にて光線が入射する部分の定義)
第7の工程では、レンズモデルに対する光線追跡にて入射する光線を、複数の凸部6に入射する光線と、ベース領域に入射する光線とに2分割する(S7)。この2分割においては、(4.データ群毎のフィッティングによる基準形状データの抽出)にて、各凸部6とベース領域とのそれぞれについて個別に得られた、近似球面を表す曲面形状データを利用する。この各曲面形状データにより、複数の凸部6に入射する光線と、ベース領域に入射する光線とを区別できる。
【0062】
(8.各凸部への入射光線の収束位置(焦点位置)の特定)
本工程である第8の工程では、表面形状データに対して光線追跡を行い、各々の凸部を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aと、凸部以外の部分を通過した光線が収束する位置であって複数の焦点位置Aよりも眼球側寄りである焦点位置Bとを特定する(S8、S9)。具体的には以下の手順で行う。
【0063】
まず、光線追跡処理を行うべき箇所は、眼鏡レンズに設定された所定の評価領域である。本発明の一態様においては、
図1に示す所定の評価領域E1~E4のうちの一つE1に対して光線追跡処理を行う場合を例示する。
【0064】
図6は、
図1中の所定の評価領域E1を拡大した様子を示す図である。
【0065】
図6に示すように、所定の評価領域E1内には複数個の凸部6が存在する。具体的には、所定の評価領域E1内に、3個の凸部61~63が丸ごと存在し、9個の凸部64~72は一部のみが存在する。
【0066】
光線追跡処理により、レンズモデルの任意の面から見て無限遠の点光源から均等分布した複数の平行光線を出射し、レンズモデルを通過した光線による輝度分布を表すPSF(Point spread function:点広がり関数)が得られる。PSFは点光源から発射した多数の光線を追跡し、任意の面上のスポットの密度を計算することで得られる。そして、複数の任意の面のPSFを比較して、複数の任意の面の内、最も光線が集光する位置(面)を特定する。なお、光線の直径は瞳孔径に基づいて設定すればよく、例えば4φとしても良い。その上で、所定の評価領域内の複数の凸部の各々を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aを特定する。
【0067】
なお、焦点位置Aの特定の際(更には後述の(11.迷光の評価)で記載の光線数の評価の際)に、3個の凸部61~63に加え、所定の評価領域E1内に一部のみが存在する凸部64~72も使用しても構わない。本発明の一態様においては、所定の評価領域内に丸ごと存在する3個の凸部61~63を採用する場合を例示する。
【0068】
図7は、本発明の一態様において、光線が集光する位置を特定する方法を説明するための説明図である。
【0069】
(7.光線追跡にて光線が入射する部分の定義)により、一つの所定の評価領域内の複数の凸部6に入射する光線と、ベース領域に入射する光線とは区別できる。そして、複数の凸部6のうち一つの凸部61に入射した各光線が交わる三次元座標(交点座標)が、別の凸部62、63においても得られれば、交点座標が固まって配置された箇所を焦点位置A(A1、A2、A3)とみなすことが可能となる。
【0070】
光線追跡処理により、複数の凸部6の各々に入射した光線であってレンズモデルからの光線の出射部分の座標と出射部分からのベクトルは把握可能である。そこで、該座標と該ベクトルを用い、交点座標の平均値を求める。各交点座標の、交点座標からの平均値からの残差が小さいということは、光線が、各凸部6に応じた各箇所にて密になっていることを意味する。この考えに基づき、交点座標からの平均値からの残差が最小となる箇所(本態様においては眼球側の面4(凹面)の頂点からの光軸方向の距離f(=1/D(デフォーカス値:単位はディオプター))だけ離れた箇所)を特定する。
【0071】
光軸方向(物体側から眼球側に向かう方向)をx方向とし、水平(左右)方向をy方向年、天地(上下)方向をz方向とする。
一つの凸部61を通過したうえでのレンズモデルからの光線の出射部分の座標を(y0,z0)とする。
一つの凸部61を通過したうえでのレンズモデルからの光線の出射部分からのベクトルを(Cx,Cy,Cz)とする。
一つの凸部61を通過した光線同士の交点座標を(yD,zD)とする。
【0072】
交点座標(y
D,z
D)は以下の(式1)(式2)にて表現される。
【数1】
【0073】
眼球側の面4(凹面)の頂点から交点座標(y
D,z
D)に向かう水平面からの角度は、以下の(式3)(式4)にて表現される。なお、αはy軸方向から見た時の角度であり、βはz軸方向から見た時の角度である。
【数2】
【0074】
交点座標(y
D,z
D)の平均値は、以下の(式5)(式6)にて表現される。
【数3】
【0075】
そして、複数の焦点位置Aの特定に際し、各交点座標の、交点座標からの平均値からの最小の残差を求めるべく、最小二乗法を用いる。以下、その具体的な態様を示す。
【0076】
各交点座標の、交点座標からの平均値からの残差は、以下の(式7)にて表現される。
【数4】
【0077】
そして、(式7)にて残差が最小となるときのDは、以下の(式8)にて表現される。
【数5】
【0078】
(式7)から、以下の(式9)が得られる。
【数6】
Dが求まるということは、眼球側の面4(凹面)の頂点からの光軸方向の距離fが求まるということを意味する。その結果、一つの凸部61を通過した光線の焦点位置A
1が特定される。
この手法により、他の凸部62、63における光線の焦点位置A
2、A
3も特定される。
【0079】
なお、ベース領域における光線が密になっている箇所(焦点位置B)も光線追跡処理で特定してもよいし、公知のレンズメータ等で特定してもよい。眼球側の面4(凹面)の頂点からこの箇所までの光軸方向の距離はf’(=1/D’(フォーカス値:単位はディオプター))で表される。
【0080】
(9.ベース領域への入射光線の収束位置(焦点位置)の特定)
本工程である第9の工程において、Dを求めた手法により、ベース領域における光線の焦点位置Bも特定される(S9)。その際に距離fは、距離f’(=1/D(フォーカス値:単位はディオプター))と読み替える。
【0081】
(10.焦点位置の評価)
第10の工程として、焦点位置の評価を行う(S10)。一具体例としては、複数の凸部6の各々に対応する焦点位置Aでのデフォーカス値の平均と、焦点位置Bでのフォーカス値との差で表されるデフォーカスパワーが、予定されたデフォーカスパワーに比べて所定の公差内であるかどうかを評価する。
【0082】
なお、所定の公差としては、例えば±0.1mm(±0.5ディオプター)以内であれば許容範囲内であると判定する。
【0083】
また、予定されたデフォーカスパワーとは、眼鏡レンズの装用者に応じてどの程度の近視進行抑制効果を付与するかによって予め決定される。あくまで一例であるが、予定されたデフォーカスパワーは2.0~5.0D(より詳しくは3.0~4.0D)の範囲内の値である。その場合、言い方を変えると、焦点位置Aでのデフォーカス値の平均と、焦点位置Bでのフォーカス値との差で表されるデフォーカスパワーは1.5~5.5D(より詳しくは2.5~4.5D、更に詳しくは3.0~4.0D)の範囲内の値である。
【0084】
(11.迷光の評価)
第11の工程として、迷光の評価を行う(S11)。一具体例としては、所定の評価領域に対して光線追跡を行った際の全光線数から、所定の評価領域内の複数の凸部の各々を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aでの光線数の合計と、所定の評価領域内の複数の凸部以外の部分を通過した光線が収束する位置であって複数の焦点位置Aよりも眼球側寄りである焦点位置Bでの光線数と、を差し引いて得られる迷光の光線数を基に、眼鏡レンズを評価する。
【0085】
焦点位置A、Bに集まる光線とは、焦点位置A、Bを含む像面上の光線の通過点が、焦点位置A、Bから所定距離範囲以内(例えば、視角1分以内)にある光線のことを指すと定義してもよい。
そのうえで「光線数」とは、焦点位置AまたはBに集まる光線の本数のことを指す。
【0086】
「焦点位置Aでの光線数」とは、一つの所定の評価領域内における複数の凸部6の各々に対応する焦点位置A
1、A
2、A
3、・・・A
nにおける、光分布中心(交点座標の平均値)から一定範囲内(例えば視角1分以内)にある光線の本数のことを指す。「焦点位置Aでの光線数」のことをデフォーカス光線数とも称する。なお、本発明の一態様における所定の評価領域E1だとn=3である。また、凸部6のサイズが(1)眼鏡レンズの構成(物体側の面形状)に記載の通りであって、所定の評価領域の径が瞳孔径(例:直径2~6mm)の場合はnの最大値は、一例としては7である(例えば
図1中の所定の評価領域E3)。
【0087】
つまり、「焦点位置Aでの光線数の合計」とは、一つの所定の評価領域内における複数の凸部6の各々に対応する焦点位置A1、A2、A3、・・・Anにおける、光分布中心から一定範囲内にある光線の本数の合計のことを指す。
【0088】
同様に、「焦点位置Bでの光線数」とは、一つの所定の評価領域内におけるベース領域に対応する焦点位置Bにおける、光分布中心(交点座標の平均値)から一定範囲内(例えば視角1分以内)にある光線の本数のことを指す。「焦点位置Bでの光線数」のことをフォーカス光線数とも称する。
【0089】
そして「迷光の光線数」とは、一つの所定の評価領域内に対して光線追跡を行った際の全光線数から、複数の焦点位置Aでの光線数の合計と、焦点位置Bでの光線数と、を差し引いて得られる光線数のことを指す。
【0090】
なお、前段落の迷光の光線数の求め方は、一つの所定の評価領域に対してのものである。複数の所定の評価領域を設ける場合、複数の所定の評価領域に対して光線追跡処理を行うことになる。その場合、複数の所定の評価領域の各々における「焦点位置Aでの光線数」「焦点位置Bでの光線数」を合計したうえで、複数の所定の評価領域の各々に対して光線追跡を行った際の全光線数から、複数の焦点位置Aでの光線数の合計と、焦点位置Bでの光線数と、を差し引いて得られる光線数が、「迷光の光線数」となる。
【0091】
つまり、本発明の一態様においては、一つの所定の評価領域内における「焦点位置Aでの光線数」「焦点位置Bでの光線数」「迷光の光線数」を評価する場合も本発明の技術的思想に含まれる。そして、光線追跡を行った全ての所定の評価領域内における「焦点位置Aでの光線数」「焦点位置Bでの光線数」「迷光の光線数」を評価する場合も本発明の技術的思想に含まれる。
【0092】
以下、焦点位置A1、A2、A3、・・・Anすなわち焦点位置Aと表現する場合は、一つの所定の評価領域内における評価(一例としてnの最大値は7)の場合も含むし、全ての所定の評価領域内における評価(nは各所定の評価領域内に存在する凸部6の合計数)の場合も含む。
【0093】
この迷光の光線数が少ないほど、眼鏡レンズの性能は良好であると評価できる。評価手法には制限は無く、例えば、全光線数に対する迷光の光線数の割合から迷光率(%)を求め、望小特性で評価することが挙げられる。また、所定の公差上限内(例えば20%以下、好適には10%以下)であるかどうかで評価することも挙げられる。
【0094】
(12.有効光線数の評価)
第12の工程では、第11の工程とは逆に、有効光線数の評価を行う。一具体例としては、各凸部6を通過して焦点位置A1、A2、A3、・・・Anにて収束する光線(有効光線)数の合計Pと、ベース領域を通過して焦点位置Bにて収束する有効光線数Qと、を求め、光線数比を得る(S12)。この光線数比が、所定の公差(例えばP:Q=4:6~6:4)を満たすかどうかで評価してもよい。なお、P:Qの光線数比でなくとも、全光線数に対する焦点位置Aの光線数の百分率を基に評価してもよい。いずれの場合も、焦点位置Aでの光線数を基に眼鏡レンズを評価することに含まれる。
【0095】
なお、第11の工程および第12の工程を共に行ってもよいし、片方のみを行ってもよい。いずれにせよ、求めた光線数に基づいて眼鏡レンズを評価していることに変わりはない。さらに言うと、求めた光線数において、凸部6を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aでの光線数の合計さえ得られれば最低限の眼鏡レンズの評価は可能である。
【0096】
(3)眼鏡レンズ
眼鏡レンズ1については、(2)表面形状の評価手順に記載の手法にて、迷光の光線数および迷光率が特定される。迷光率が20%以下、好適には10%以下であるように眼鏡レンズ1が構成されていることが、所望の光学特性を有して近視進行抑制効果を発揮させる上では好ましい。また、(複数の焦点位置Aでの光線数の合計P):(焦点位置Bでの光線数Q)が、4:6~6:4であるのが好ましい。
【0097】
(4)眼鏡レンズの製造方法
次に、上述した構成の眼鏡レンズ1の製造方法について説明する。
【0098】
眼鏡レンズ1の製造にあたっては、まず、レンズ基材2を、注型重合等の公知の成形法により成形する。例えば、複数の凹部が備わった成形面を有する成形型を用い、注型重合による成形を行うことにより、少なくとも一方の表面に凸部6を有するレンズ基材2が得られる。
そして、レンズ基材2を得たら、次いで、そのレンズ基材2の表面に、ハードコート膜8を成膜する。ハードコート膜8は、ハードコート液にレンズ基材2を浸漬させる方法や、スピンコート等を使用することにより、形成することができる。
ハードコート膜8を成膜したら、さらに、そのハードコート膜8の表面に、反射防止膜10を成膜する。反射防止膜10は、反射防止剤を真空蒸着により成膜することにより、形成することができる。
このような手順の製造方法により、物体側に向けて突出する複数の凸部6を物体側の面3に有する眼鏡レンズ1が得られる。
【0099】
ところで、本発明の一態様における製造方法は、上述した手順の評価方法を含む。すなわち、上述した各工程を経て迷光率を求める。そして、迷光率を求めた結果を反映させて、眼鏡レンズ1の製造を行う。
【0100】
具体的には、例えば、サンプルとなるテストレンズを作成後、そのテストレンズについての迷光率を求め、迷光率が許容範囲から外れていれば、ハードコート膜8または反射防止膜10の成膜条件を変更して、再度テストレンズを作成する。迷光率が許容範囲内であれば、テストレンズと同じ条件で、製品版となる眼鏡レンズ1を作成する。このように、迷光率を求めた結果を反映させて作成を行えば、迷光率が許容範囲内にある眼鏡レンズ1が得られるようになる。
【0101】
なお、ここでは、テストレンズを利用して迷光率を反映させる場合を例に挙げたが、これに限定されることはない。例えば、物体側の面3に対する修正加工が可能であれば、迷光率が許容範囲から外れている場合に、修正加工を行って許容範囲内に収まるようにすることで、迷光率を反映させるようにしてもよい。
【0102】
(5)表面形状の評価手順内の所定の工程についての詳細
(2)表面形状の評価手順においては、各工程の概略を説明することにより評価方法全体を説明した。以下、別途詳述が必要な工程について説明する。
【0103】
(クラスタ分析の詳細)
第3の工程におけるクラスタ分析を活用した各データ群への分類について、具体的な手順を説明する。
【0104】
図8は、
図5の評価方法におけるクラスタ分析の具体的な手順を示すフロー図である。
【0105】
図8に示すように、第3の工程においては、取得した三次元データの中から、あるXYZ座標値データに注目し、そのXYZ座標値データにおけるZ座標値を抽出する(S301)。Z座標値の抽出にあたっては、例えば、周辺の座標点のZ座標値を利用した平滑化を行うことで、ノイズ成分の除去を行うようにしてもよい。また、Z座標値の抽出対象となる三次元データの範囲は、その三次元データに含まれるXYZ座標値データの全てであってもよいし、あるいは特定のトリミング範囲(例えば、一辺が所定の大きさの矩形範囲)内に限ってもよい。
【0106】
Z座標値を抽出したら、続いて、そのZ座標値を閾値(高さ閾値)と比較し、その閾値よりも大きいか否かを判断する(S302)。その結果、Z座標値が閾値を超えていなければ、相対的に突出していない位置に存在することになるので、そのXYZ座標値データについては、ベース面領域についてのものであると分類し、ベース面データを構成するデータ群に属する旨の識別フラグを紐付ける(S303)。一方、Z座標値が閾値を超えていれば、相対的に突出した位置に存在することになるので、そのXYZ座標値データについては、凸部6についてのものであると分類し、セグメントデータを構成するデータ群に属する旨の識別フラグを紐付ける(S304)。
【0107】
そして、セグメントデータを構成するデータ群に属するXYZ座標値データについては、さらに、複数の凸部6のうちのどの凸部に関するものであるかの分類を行う(S305)。複数の凸部(以下、凸部を「セグメント」ともいう。)6のそれぞれに関するデータ群の分類は、例えば、k平均法(K-means)を利用したクラスタリング(グループ分け)によって行う。
【0108】
具体的には、セグメントデータとして紐付けされたXYZ座標値データを一つ一つ見ていき、最初のXYZ座標値データを「第1のクラスタ」に登録して、そのグループ(データ群)に属するXYZ座標値データとする。第1のクラスタの中心座標点は、そのグループに属するXYZ座標値データが1つである状況下では、そのXYZ座標値データのXY座標点となる。そして、次のXYZ座標値データがあれば、そのXYZ座標値データのXY座標点と既に登録済みのクラスタの中心座標点との距離を求め、一番距離が近いクラスタに属するように登録する。ただし、求めた距離が予め定められた距離値以上である場合には、新たなクラスタ(例えば「第2のクラスタ」)を作成し、その新たなクラスタに属するように登録する。
【0109】
このような手順のクラスタリングによって、セグメントデータとして紐付けされたXYZ座標値データは、予め各凸部6の位置を明らかにしておくことを要することなく、どの凸部6に関するデータ群のものであるかが分類されることになる。
【0110】
どのクラスタに属するかを分類した後は、その分類されたクラスタ(すなわち、XYZ座標値データが追加されたクラスタ)について、そのクラスタに属する各XYZ座標値データのXY座標点の重心位置を計算する(S306)。そして、重心位置の計算結果を中心座標点とするように、そのクラスタの中心座標点を更新する。つまり、XYZ座標値データがどのクラスタに属するかを分類する度に、そのXYZ座標値データが追加されたクラスタについては、その中心座標点が更新されることになる。
【0111】
以上のような手順のデータ分類処理を、処理対象となるXYZ座標値データの全てについて終了するまで(S307)、それぞれのXYZ座標値データに対して繰り返し行う(S301~S307)。
【0112】
このようにして、セグメントデータとして紐付けされたXYZ座標値データに対するクラスタリングを行った後は、さらに、クラスタ毎に再クラスタリングを行って、凸部6とベース領域との間の遷移領域である境界近傍領域に関するデータ(以下「境界近傍データ」という。)を、それぞれのクラスタから分離する(S308)。
【0113】
具体的には、各クラスタの中心座標点から所定距離の範囲内(例えば、中心座標から半径0.45mmの範囲内)のXYZ座標値データを当該クラスタに属するデータとし、それ以外のXYZ座標値データについては当該クラスタから分離して境界近傍データとするように、再クラスタリングを行う。なぜならば、上述したような高さ閾値によって一律に分類したのでは、各凸部6の周囲のベース領域のうねり程度の違いによって、凸部6とベース領域とを上手く分類できない場合があり得るからである。これに対して、閾値によってベース面データとセグメントデータとを分類した上で、上述したクラスタリングによってセグメントデータを各クラスタにグループ分けし、それぞれのクラスタの中心座標点(例えば、重心位置)を求め、その中心座標点から所定距離の範囲内の領域のデータをセグメントデータとすれば、凸部6とベース領域とを適切かつ的確に分類することができる。
【0114】
以上のような手順の処理を経ることで、第3の工程で処理される三次元データは、各凸部6のそれぞれに関するセグメントデータについてのデータ群と、ベース領域に関するベース面データについてのデータ群と、凸部6とベース領域との間の遷移領域である境界近傍領域に関する境界近傍データについてのデータ群と、に分類されることになる。
【0115】
(データ分類および基準形状データ抽出の具体例)
ここで、第3の工程での各データ群への分類と、第4の工程での基準形状データの抽出とについて、具体例を挙げて説明する。
【0116】
図9は、本発明の一態様に係る評価方法によるデータ分類および基準形状データ抽出の具体例を模式的に示す説明図である。
【0117】
図9に示すように、生データ(三次元データ)を取得すると、眼鏡レンズ1の物体側の面3の表面形状についてのXYZ座標値データ(図中黒丸印参照)のデータ群が得られるので、そのデータ群から閾値(図中一点鎖線参照)を導出するとともに、その閾値を用いて、各XYZ座標値データをベース面データ(閾値を超えない高さ位置のもの)とセグメントデータ(閾値を超える高さ位置のもの)とに分類する。そして、セグメントデータについては、クラスタリングによって、どの凸部6に関するものであるか(すなわち、どのクラスタに属するものであるか)の分類を行う。さらには、再クラスタリングによって、各クラスタに属するXYZ座標値データのうち、中心座標から所定距離の範囲外のものを境界近傍データとして分離する。
【0118】
これにより、生データ(三次元データ)を構成する各XYZ座標値データは、各凸部6のそれぞれに関するセグメントデータと、ベース領域に関するベース面データと、境界近傍領域に関する境界近傍データと、のいずれかに分類される。
【0119】
データ分類の後は、続いて、分類したデータ群毎にカーブフィッティングを行う。具体的には、ベース面データについては、そのベース面データのみでカーブフィッティングを行って、ベース領域の近似球面を表す曲面形状データを得る。また、セグメントデータについては、各クラスタ別(すなわち、各凸部6別)に個別にカーブフィッティングを行って、各凸部6の近似球面を表す曲面形状データを得る。そして、それぞれの曲面形状データを個別に得たら、これらを組み合わせて一つの面形状についての形状データとすることで、眼鏡レンズの物体側の面3についての基準形状データ(図中実線参照)を抽出する。
【0120】
このように、分類したデータ群毎にカーブフィッティングを行って基準形状データを抽出すれば、例えば、三次元データにおいて境界近傍領域にダレが生じていても、基準形状データについては、そのダレの影響を排除することができる。つまり、基準形状データの抽出に際して、その抽出の適切化が図れる。
【0121】
(6)変形例等
以上に本発明の一態様を説明したが、上述した開示内容は、本発明の例示的な一態様を示すものである。すなわち、本発明の技術的範囲は、上述の例示的な一態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0122】
例えば、本発明に係る評価方法およびその評価方法によって得られる迷光率の許容範囲については、被膜の有無を問わずに(すなわち、被膜されていない眼鏡レンズであっても)、適用することが可能である。
【0123】
本発明の一態様では、(3.各データ群への分類)において、クラスタ分析を活用した各データ群への分類を例示した。
その一方、複数の凸部6とベース領域との間の境界の情報を予め決定しておき、境界情報と整合するような生データを得るという手法もありうる。但し、この場合、(1.生データ(三次元データ)の取得)の際に、複数の凸部6およびベース領域の位置決めを正確に行う必要がある。
また、境界情報と整合するように生データを座標変換するという手法もありうる。但し、この場合、XY格子点上のZ高さで表される生データであっても、座標変換によりずれるおそれもある。
そのため、本発明の一態様で述べたクラスタ分析を活用した各データ群への分類を行うのが好ましい。
【0124】
本発明の一態様では、(7.光線追跡にて光線が入射する部分の定義)において、レンズモデルに対する光線追跡にて入射する光線を、複数の凸部6に入射する光線と、ベース領域に入射する光線とに2分割する場合を例示した。その一方、複数の凸部6とベース領域との間の境界近傍領域を新たに定義してもよい。
幸いなことに、(クラスタ分析の詳細)にて、各凸部6のそれぞれに関するセグメントデータについてのデータ群と、ベース領域に関するベース面データについてのデータ群と、凸部6とベース領域との間の遷移領域である境界近傍領域に関する境界近傍データについてのデータ群と、に分類可能である。
この境界近傍データについてのデータ群を使用し、レンズモデルに対する光線追跡にて入射する光線を、複数の凸部6に入射する光線と、ベース領域に入射する光線と、境界近傍領域に入射する光線と、で3分割しても構わない。
【0125】
本発明の一態様では、(8.各凸部への入射光線の収束位置(焦点位置)の特定)において、光線追跡にて得られる、眼鏡レンズからの光線の出射部分の座標とベクトルを使用し、その際に最小二乗法を使用する場合を例示した。その一方、この態様以外でも焦点位置Aおよび焦点位置Bを特定可能である。その別態様の手法を以下に例示する。
【0126】
図10~
図12は、光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図(その1~その3)である。
図13は、光線が集光する位置を特定する方法を示すフロー図である。
【0127】
まず、
図10に示すように、S801において、眼球モデル21の網膜20a上の0mm位置から、所定の距離(例えば、眼球の硝子体の厚みである16mm程度の位置)から網膜32Aまで所定の離間間隔Δd(例えば、0.1mm間隔
)で、測定面P1、1~P1、nを設定する。なお、離間間隔Δdは0.2mm間隔としてもよいし、眼軸の1/50としてもよい。
【0128】
次に、S802において、光線追跡処理を行い、各測定面P1、1~P1、nにおける光線の密度を計算する。光線の密度の計算は、例えば、各測定面に格子状のグリッドを設定しておき、各グリッドを通過する光線の数を計算すればよい。
【0129】
次に、S803において、凸部に入射した光線が最大密度となる測定面を特定するため、測定面P1、1~P1、nの中で上述の所定の距離から最初の極大密度の測定面P1、iを特定する。計算を省くため、測定面P1から光線の密度の計算を始めて、最初の極大値検出の後、測定面P1における値と最初の極大値との中間値程度まで光線の密度の計算値が低下したところで、本ステップの計算を打ち切ってもよい。
【0130】
次に、
図11に示すように、S804において、最大密度の測定面P1、iの前後の離間距離Δd/2の位置に測定面P2、1および測定面P2、2を設定する。そして、S805において、測定面P2、1および測定面P2、2における光線の密度を計算する。次に、S806において、測定面P2、1と、測定面P2、2と、測定面P1、iにおける最大密度の測定面を特定する。
【0131】
その後、S807において、離間距離が十分に小さくなるまで、S804~806と同様の工程を繰り返す。すなわち、
図12に示すように、直前に最大密度となった測定面(
図12ではP2,2)の前後に、直前の離間距離の半分の新たな離間距離(
図12ではΔd/4)の位置に新たな測定面(
図12ではP3、1およびP3、2)を設定する工程と、新たな測定面の光線の密度を計算する工程と、直前に最大密度となった測定面および新たな測定面の中で最大となった測定面を特定する工程とを繰り返す。
【0132】
別態様の手法をまとめると以下の構成となる。
眼鏡レンズの物体側の物体側面に、該物体側面から突出する微小な凸部が形成された眼鏡レンズの物体側面の形状を測定する形状測定ステップと、
測定した形状に基づく眼鏡レンズモデルと、眼球モデルとを含む実機仮想モデルを設定する実機仮想モデル設定ステップと、
実機仮想モデルに対して光線追跡計算を行い、眼球モデルの網膜の手前で光線が収束する実機収束位置を特定する実機収束位置特定ステップと、
を含む。
【0133】
この構成に対し、以下の構成を加えてもよい。
さらに、
設計情報に基づき設定された眼鏡レンズモデルと、眼球モデルとを含む設計モデルを設定する設計モデル設定ステップと、
設計モデルに対して光線追跡計算を行い、眼球モデルの網膜の手前で光線が収束する設計収束位置を特定する設計収束位置特定ステップと、を含む。
設計モデル設定ステップでは、
眼鏡レンズモデルとして、度数の入っていないレンズの物体側面に設計情報に基づく凸部が形成されたモデルを設定する。
【0134】
以上の工程により、光線が集光する位置を特定することができる。なお、この工程と、本発明の一態様である眼鏡レンズからの光線の出射部分の座標とベクトルを使用し且つその使用の際に最小二乗法を使用する手法とともに行ってもよい。例えば、
図13に示すフローにより、焦点位置A、Bの大体の位置を把握しておき、この大体の位置において、本発明の一態様の手法を行ってもよい。
【0135】
本発明の一態様では、眼鏡レンズに対して光線追跡を行った際に各々の凸部を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aでの光線数の合計を基に、眼鏡レンズを評価した。その一方、複数の焦点位置Aでの光線数の合計まで調べず、複数の焦点位置Aを特定する(すなわちデフォーカス値を特定する)ことにより眼鏡レンズを評価しても構わない。つまり、眼鏡レンズに対して光線追跡を行った際に各々の凸部を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aを基に、眼鏡レンズを評価しても構わない。
その際に、焦点位置Bでの光線数まで調べず、焦点位置Bを特定し(すなわちフォーカス値を特定し)、デフォーカス値とフォーカス値とを対比することにより眼鏡レンズを評価しても構わない。
【0136】
<総括>
以下、本開示の「眼鏡レンズの評価方法および眼鏡レンズ」について総括する。
本開示の一実施例は以下の通りである。
物体側の面と眼球側の面とのうち少なくとも一方の面に凸部を複数有する眼鏡レンズの評価方法であって、
眼鏡レンズの所定の評価領域に対して光線追跡を行った際に、所定の評価領域内の複数の凸部の各々の凸部を通過した光線が各々収束する複数の焦点位置Aでの光線数の合計を基に、眼鏡レンズを評価する、眼鏡レンズの評価方法。
【符号の説明】
【0137】
1…眼鏡レンズ、2…レンズ基材、3…物体側の面、4…眼球側の面、6,6a,6b,61~72…凸部、8…ハードコート膜、10…反射防止膜、20…眼球、20a…網膜、21…眼球モデル