IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニック デバイスSUNX株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-石英ガラスの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】石英ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20230119BHJP
【FI】
C03B20/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019048373
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2019172562
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2018064310
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000106221
【氏名又は名称】パナソニック デバイスSUNX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 裕正
(72)【発明者】
【氏名】浅田 浩貴
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-145633(JP,A)
【文献】特開平04-002625(JP,A)
【文献】特開2003-252634(JP,A)
【文献】特開2018-035018(JP,A)
【文献】特開平04-219333(JP,A)
【文献】特開昭61-232239(JP,A)
【文献】特開2001-199733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 20/00
C01B 33/141
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粉末と水のみを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を加熱処理して石英ガラスを得る加熱処理工程とを含み、
前記シリカ粉末が平均一次粒子径50nmであり、前記水を、前記シリカ粉末10質量部に対して6.09質量部以上6.21質量部以下の割合で混合する、石英ガラスの製造方法。
【請求項2】
シリカ粉末と水のみを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を加熱処理して石英ガラスを得る加熱処理工程とを含み、
前記混合工程が、前記シリカ粉末と前記水とを減圧下で混合する工程を含み、
前記シリカ粉末が平均一次粒子径50nmであり、
前記混合工程完了後の前記混合物が、前記水を、前記シリカ粉末10質量部に対して5.32質量部以上5.67質量部以下の割合で含有する、石英ガラスの製造方法。
【請求項3】
シリカ粉末と水のみを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を加熱処理して石英ガラスを得る加熱処理工程とを含み、
前記混合工程が、前記シリカ粉末と前記水とを真空状態で混合する工程を含み、
前記シリカ粉末が平均一次粒子径50nmであり、
前記混合工程完了後の前記混合物が、前記水を、前記シリカ粉末10質量部に対して5.32質量部以上5.67質量部以下の割合で含有する、石英ガラスの製造方法。
【請求項4】
シリカ粉末と水のみを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を加熱処理して石英ガラスを得る加熱処理工程と、を含み、
前記シリカ粉末が平均一次粒子径22nmであり、前記水を、前記シリカ粉末10質量部に対して13質量部以上15質量部以下の割合で混合する、石英ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、石英ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粉とバインダーとを混練し、成形して得られた成形体に脱脂処理、純化処理を施した後、ガラス化して石英ガラスを製造する方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-2548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような製造方法は、成形体に脱脂処理を施してバインダー成分を除去する工程が必要になるなど、工程数が多く複雑になりがちであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示される石英ガラスの製造方法は、シリカ粉末と水のみを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を加熱処理して石英ガラスを得る加熱処理工程とを含む。このような方法によれば、成形体に脱脂処理を施してバインダー成分を除去する工程が不要となり、製造工程を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0006】
本明細書によって開示される石英ガラスの製造方法によれば、簡易な工程で石英ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】加熱処理工程における加熱条件の温度プロファイルの一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態の石英ガラスの製造方法は、シリカ粉末と水のみを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を加熱処理して石英ガラスを得る加熱処理工程とを含む。
【0009】
混合工程においては、シリカ粉末と水のみを混合し、バインダーを混合しない。バインダーを用いないことによって、成形体からバインダー成分を除去する脱脂工程を省略することができ、製造工程が簡素化される。用いられるシリカ粉末の平均一次粒子径は、7nm以上100nm以下であることが好ましく、7nm以上50nm以下であることがより好ましく、22nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、50nmであることが最も好ましい。さらに、シリカ粉末の平均一次粒子径が50nmである場合に、水を、シリカ粉末10質量部に対して6.09質量部以上6.21質量部以下の割合で混合することが好ましい。
【0010】
また、混合工程は、シリカ粉末と水とを減圧下で混合する工程を含むことが好ましく、シリカ粉末と水とを真空状態で混合する工程を含むことがさらに好ましい。減圧下または真空状態での混合は、例えば、シリカ粉末と水とを、真空撹拌機を用いて攪拌することにより行うことができる。これにより、脱泡しつつ混合を行うことができるので、気泡が入らない良好な成形体を得ることができる。この場合には、混合工程完了後の混合物が、水を、シリカ粉末10質量部に対して5.32質量部以上5.67質量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0011】
成形工程においては、例えばシリコーン型または金型を使用した注型成形を行うことができる。あるいは、金型を用いてプレス成形を行っても良い。
また、石英ガラスが光学部材である場合には、光学部材の形状に対応する形状を有する型を用いて成形を行うことが好ましい。これにより、所望の光学部材の形状を有する成形体を得て、これを加熱処理するだけで光学部材を得ることができるので、石英ガラスの塊から削りや研磨でレンズ部材の形状を作りだす場合と比較して、製造工程が簡素となる。
【0012】
加熱処理工程は、ガラス化のために、例えば成形体を不活性ガス雰囲気中、または真空状態、更には大気中で、900℃~1400℃の温度領域で加熱することにより行うことができる。特に、加熱処理を不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。石英ガラスの表面が、大気中の不純物との反応によって変質することを回避できるためである。
【0013】
加熱処理工程が、第1の昇温速度で所定温度まで昇温させる第1昇温工程と、第1昇温工程の後に、第1の昇温速度よりも緩やかな第2の昇温速度で昇温させる第2の昇温工程とを含むことが好ましい。第1昇温工程では、比較的早い昇温速度で昇温することで、成形体に含まれる水を加熱除去する。第2昇温工程では、比較的緩やかな昇温速度で昇温してシリカを徐々に収縮させることで、急激な加熱によるヒビや割れの発生を回避して、良好な石英ガラスを得ることができる。
より具体的には、上記の第1昇温工程における「所定温度」が900℃以上1000℃以下であり、第1の昇温速度が、10℃/min以上15℃/min以下であり、第2の昇温速度が3℃/minであることが好ましい。
なお、第1昇温工程と第2昇温工程との間に、上記所定温度で所定時間(例えば30分~60分)保持する保持工程を設けてもよく、保持工程を設けなくても構わない。
【0014】
<試験例>
[使用材料]
シリカ粉末として、株式会社トクヤマ製 「シルフィル NSS-3N(平均一次粒子径 0.12μm)」、「レオロシール QS-09(平均一次粒子径 22nm)」、「レオロシール CP-102(平均一次粒子径 12nm)」、「レオロシール QS-30(平均一次粒子径 7nm)」を使用した。
【0015】
[試験方法]
1.試験例1~7
各シリカ粉末を純水と混合して混合物を得た。混合する際には、真空状態での攪拌を行って混合物を得た(混合工程)。より具体的には、スターラーのない自転・公転攪拌器(攪拌機)を用い、真空状態で攪拌を行った。この攪拌により得られた混合物を、すぐに、光学レンズに対応する形状を有するシリコーン型に注入する注型成形を行って、常温状態で3日以上放置して乾燥し、φ10mmの成形体を得た(成形工程)。
なお、各試験例において、シリカ粉末の平均一次粒子径、およびシリカ粉末と純水との混合比は、表1に示すとおりである。表1において、シリカ粉末と純水との混合比は、質量比(重量比)である。
【0016】
得られた成形体を加熱炉内にセットし、ヘリウム雰囲気中で、以下の昇温条件で加熱を行い、ガラス化を行った(加熱処理工程;図1参照)。
まず、室温から900℃まで、昇温速度10℃/minで昇温し(第1昇温工程)、900℃で60分保持した。次に、900℃から1300℃まで、昇温速度3℃/minで昇温し(第2昇温工程)、1300℃で30分保持した。この後、室温まで冷却して、石英ガラスを得た。
【0017】
2.試験例8
加熱を真空状態で行い、第2昇温工程において1400℃まで昇温した他は、試験例6と同様にして石英ガラスを得た。
【0018】
3.試験例9
加熱を大気中で行い、第2昇温工程において1315℃まで昇温した他は、試験例6と同様にして石英ガラスを得た。
【0019】
【表1】
【0020】
[結果]
表1において、透明な石英ガラスを得られなかったものを×、透明な石英ガラスを得られたものを○、光学部材としても使用可能な品質の透明な石英ガラスを得られたものを◎として示した。なお、光学部材とは、光学レンズの他、保護ガラス(ウィンドウ)や屈折板等のレンズ以外の光学特性を有する部材を含む。
【0021】
平均一次粒子径0.12μm(120nm)のシリカ粉末を用い、シリカ粉末:純水=1:1で混合した試験例7では、成形工程において混合物が固まらず、成形体を得ることができなかった。
【0022】
平均一次粒子径7nm~22nmのシリカ粉末を用い、シリカ粉末:純水=2:3または1:2とした試験例1~試験例6においては、石英ガラスを得ることができた。特に、平均一次粒子径22nmのシリカ粉末を用いた場合には、いずれの混合比でも光学部材としても使用可能な品質の石英ガラスを得ることができた。また、シリカ粉末:純水=1:2とした場合には、シリカ粉末の平均一次粒子径が7nmまたは12nmであっても、光学部材としても使用可能な品質の石英ガラスを得ることができた。さらに、平均一次粒子径22nmのシリカ粉末を用い、シリカ粉末:純水=2:3とした試験例6、8、9では、加熱条件を変えても、光学部材としても使用可能な品質の石英ガラスを得ることができた。
【0023】
<さらに詳細に検討する試験例>
上記の試験結果を踏まえ、シリカ粉末の好適な平均一次粒子径、および、シリカ粉末と水との好適な混合比をさらに詳細に検討する試験を行った。
【0024】
[使用材料]
シリカ粉末として、以下のものを使用した。
・株式会社トクヤマ製「レオロシール」(平均一次粒子径:7nm、12nm、22nm)」
・株式会社トクヤマ製「シルフィル」(平均一次粒子径:125nm)
・堺化学工業株式会社製「Sciqas」(平均一次粒子径:50nm、100nm、400nm、700nm、1000nm)
【0025】
[試験方法]
4.試験例10
シリカ粉末の平均一次粒子径、およびシリカ粉末と純水との混合比を、下記表2に示すとおりとし、試験例1と同様の手順で石英ガラスを得た。表2において、シリカ粉末と純水との混合比は、質量比(重量比)である。
【0026】
5.試験例11
平均一次粒子径50nmのシリカ粉末を用いた。表3に示す混合比でシリカ粉末と純水とを混合して混合物を得た。具体的には、試験例1と同様の攪拌機を用い、まず、常圧での攪拌を5分間行った。次に、3分間の常圧での攪拌と、3分間の真空状態での攪拌とを、連続して行った。攪拌により得られた混合物を、試験例1と同様の手順で成形および加熱処理し、石英ガラスを得た。表3において、シリカ粉末と純水との混合比は、質量比(重量比)である。
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
[結果]
試験例10の結果を、表2に示した。表2において、透明な石英ガラスを得られたものを○、成形や透明度に課題があるが石英ガラスが得られたものを△、成形に課題があり石英ガラスを得られなかったものを×として示した。
【0030】
表2より、平均一次粒子径が7nm以上400nm以下の範囲内で、シリカ粉末と水との混合比を調整することにより、成形が可能な混合物を得ることができ、石英ガラスを製造できた。但し、平均粒子径が125nmおよび400nmのシリカ粉末を用いた場合には、シリカ粉末と水との混合が流動性の良い半透明なスラリーとならず、次の成形工程において注型が困難となったり、混合物が固まりにくく、成形体の表面に剥離が生じたりした。このため、シリカ粉末の平均一次粒子径が7nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましいと考えられた。
【0031】
また、平均一次粒子径が7nm以上50nm以下の範囲内で、シリカ粉末と水との混合比を調整することにより、光学部品として用いることのできる、透明な石英ガラスを得られた。
【0032】
また、平均一次粒子径が7nmの場合には、成形工程において混合物を型に注入し、乾燥している間に、亀裂が生じる場合があった。しかし、平均一次粒子径が22nm以上50nm以下の範囲内では、成形時に亀裂が生じることがなく、良好な成形体を得ることができた。特に、平均一次粒子径が50nmである場合に、シリカ粉末と水との混合比を適切に調整することで、加熱処理工程における成形体の収縮率を小さくし、所望の形状の石英ガラス(光学部材を含む)を得ることができた。
【0033】
シリカ粉末の平均一次粒子径を50nmとし、シリカ粉末と水との割合を詳細に検討した試験例11の結果を、表3に示した。表3において、成形工程における成形性が良好であり、加熱処理工程における収縮率(加熱処理工程により得られた石英ガラス(光学部材)の収縮率)が小さかったものをA、成形性や収縮率が中間程度であったものをB、成形性や収縮率に難があったものをCとして示した。
【0034】
シリカ粉末10質量部に対する水の混合比が6.16質量部であった場合に、得られた混合物が、成形工程における型への注入に最も適した粘度となっていた。また、加熱処理工程において収縮率が小さく、成形体の変形が小さかった。シリカ粉末10質量部に対する水の混合比が6.21質量部であった場合には、6.16質量部の場合と比較して、得られた混合物の粘度がやや低く、加熱処理工程において収縮率がやや大きくなった。シリカ粉末10質量部に対する水の混合比が混合工程完了後6.4質量部であった場合には、得られた混合物の粘度がさらに低く、加熱処理工程において収縮率がさらに大きくなった。シリカ粉末10質量部に対する水の混合比が6.15質量部および6.09であった場合には、6.16質量部の場合と比較して、得られた混合物の粘度がやや高く、成形工程における型への注入がやや難しくなった。シリカ粉末10質量部に対する水の混合比が6.05質量部であった場合には、混合物の粘度が高く、成形工程における型への注入が困難であった。以上より、シリカ粉末の平均一次粒子径を50nmとした場合に、シリカ粉末10質量部に対する水の混合比が6.09質量部以上6.21質量部以下であることがより好ましく、6.16質量部であることが最も好ましいと考えられた。
【0035】
なお、シリカ粉末10質量部に対する水の混合比が6.05質量部以上6.4質量部以下の範囲内で、加熱処理工程におけるガラス化には問題がなく、透明な石英ガラスを得ることができた。
【0036】
真空状態でシリカ粉末と水とを攪拌する工程において、水が蒸発するため、得られた混合物において、シリカ粉末に対する水の含有比は、混合開始時のシリカ粉末に対する水の混合比に比べて小さくなっていた。このため、混合物中のシリカ粉末に対する水の割合を、混合工程完了後の割合で管理することが、より好ましいと考えられた。試験例11において、混合工程完了後の、混合物中のシリカ粉末に対する水の含有比を表3に示した。表3より、シリカ粉末の平均一次粒子径を50nmとした場合に、混合工程完了後の、混合物中のシリカ粉末10重量部に対する水の含有比が5.32質量部以上5.67質量部以下であることがより好ましく、5.41質量部であることが最も好ましいと考えられた。
【0037】
なお、試験例11では、混合工程が真空状態でシリカ粉末と水とを攪拌する工程を含んでいたが、ある程度減圧された状態でシリカ粉末と水とを混合する工程を含んでいれば、水が蒸発するため、混合物中のシリカ粉末に対する水の割合を、混合工程完了後の割合で管理することが好ましいといえる。
図1