特許 7213113 キャッチタンク

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2023-01-18

(45)【発行日】2023-01-26

(54)【発明の名称】キャッチタンク

(51)【国際特許分類】

   F16H 57/04 20100101AFI20230119BHJP

   F16H 57/027 20120101ALI20230119BHJP

【ＦＩ】

F16H57/04 J

F16H57/027

【請求項の数】 9

(21)【出願番号】P 2019052124

(22)【出願日】2019-03-20

(65)【公開番号】P2020153438

(43)【公開日】2020-09-24

【審査請求日】2022-02-07

(73)【特許権者】

【識別番号】000005348

【氏名又は名称】株式会社ＳＵＢＡＲＵ

(74)【代理人】

【識別番号】110002066

【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】王 桐

【審査官】畔津 圭介

(56)【参考文献】

【文献】特開平１０－３２５４５７（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００７－２６３２３９（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１７－１２５５３６（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００９－１９７９１８（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｆ１６Ｈ ５７／０４

Ｆ１６Ｈ ５７／０２７

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

車両に搭載される駆動ユニットに設けられ、前記駆動ユニット内で循環するオイルを一時的に貯留するキャッチタンクであって、
オイル流入口が形成される第１壁部と、オイル流出口が形成される第２壁部と、を備えるタンク本体と、
前記タンク本体内に設けられて一対のオイル室を区画し、前記オイル室を互いに連通させるオイル通路部が形成される仕切板と、
を有し、
前記第１壁部と前記第２壁部との少なくとも何れか一方に、前記タンク本体のオイルレベルよりも上方に位置する本体側貫通孔が形成され、
前記仕切板に、前記タンク本体のオイルレベルよりも上方に位置する板側貫通孔が形成される、
キャッチタンク。

【請求項2】

請求項１に記載のキャッチタンクにおいて、
前記第１壁部と前記第２壁部との少なくとも何れか一方と、これに対向する前記仕切板とにおいて、前記本体側貫通孔の中心と前記板側貫通孔の中心とは互いにずれる、
キャッチタンク。

【請求項3】

請求項１または２に記載のキャッチタンクにおいて、
前記タンク本体内には、前記仕切板を含む複数の仕切板が設けられ、
前記複数の仕切板のそれぞれには、前記オイル通路部および前記板側貫通孔が形成される、
キャッチタンク。

【請求項4】

請求項３に記載のキャッチタンクにおいて、
前記複数の仕切板のうち対向する一対の仕切板において、前記板側貫通孔の中心は互いにずれる、
キャッチタンク。

【請求項5】

請求項１～４の何れか１項に記載のキャッチタンクにおいて、
前記第１壁部と前記第２壁部との少なくとも何れか一方には、複数の前記本体側貫通孔が形成される、
キャッチタンク。

【請求項6】

請求項１～５の何れか１項に記載のキャッチタンクにおいて、
前記仕切板には、複数の前記板側貫通孔が形成される、
キャッチタンク。

【請求項7】

請求項１～６の何れか１項に記載のキャッチタンクにおいて、
前記第１壁部と前記第２壁部とのうち、前記本体側貫通孔は前記第１壁部のみに形成される、
キャッチタンク。

【請求項8】

請求項１～７の何れか１項に記載のキャッチタンクにおいて、
前記タンク本体のオイルレベルよりも上方に、前記タンク本体には外部に連通するブリーザ孔が形成される、
キャッチタンク。

【請求項9】

請求項１～６の何れか１項に記載のキャッチタンクにおいて、
前記第１壁部と前記第２壁部とのうち、前記本体側貫通孔は前記第１壁部のみに形成され、
前記タンク本体のオイルレベルよりも上方に、前記タンク本体には外部に連通するブリーザ孔が形成され、
前記ブリーザ孔は、前記第２壁部に隣接するオイル室に開口する、
キャッチタンク。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、駆動ユニットに設けられるキャッチタンクに関する。

【背景技術】

【0002】

自動車等の車両には、デファレンシャルユニットやトランスミッション等の駆動ユニットが設けられている（特許文献１および２参照）。また、駆動ユニットには、オイルによって潤滑される複数のギア等が組み込まれている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【文献】特開２００９－１９７９１８号公報

【文献】特開平７－２８０１８１号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

ところで、駆動ユニットにおいてはギア等が回転して音を発生させることから、駆動ユニットから発せられる音を下げることが求められている。

【0005】

本発明の目的は、駆動ユニットから発せられる音を下げることにある。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本発明のキャッチタンクは、車両に搭載される駆動ユニットに設けられ、前記駆動ユニット内で循環するオイルを一時的に貯留するキャッチタンクであって、オイル流入口が形成される第１壁部と、オイル流出口が形成される第２壁部と、を備えるタンク本体と、前記タンク本体内に設けられて一対のオイル室を区画し、前記オイル室を互いに連通させるオイル通路部が形成される仕切板と、を有し、前記第１壁部と前記第２壁部との少なくとも何れか一方に、前記タンク本体のオイルレベルよりも上方に位置する本体側貫通孔が形成され、前記仕切板に、前記タンク本体のオイルレベルよりも上方に位置する板側貫通孔が形成される。

【発明の効果】

【0007】

本発明によれば、第１壁部と第２壁部との少なくとも何れか一方に、タンク本体のオイルレベルよりも上方に位置する本体側貫通孔が形成され、仕切板に、タンク本体のオイルレベルよりも上方に位置する板側貫通孔が形成される。これにより、タンク本体内で空気振動を減衰させることができ、駆動ユニットから発せられる音を下げることができる。

【図面の簡単な説明】

【0008】

【図1】車両に搭載される駆動ユニットの構成例を示す図である。

【図2】図１のＡ－Ａ線に沿ってモータケースの端面を示す図である。

【図3】本発明の一実施の形態であるキャッチタンクを示す斜視図である。

【図4】本発明の一実施の形態であるキャッチタンクを示す斜視図である。

【図5】（Ａ）および（Ｂ）は、図３の矢印Ａ方向から入口側壁部および仕切板を示した図である。

【図6】駆動ユニット内のオイル流れを示す図である。

【図7】車両走行時のキャッチタンクを示す斜視図である。

【図8】本発明の他の実施形態であるキャッチタンクを備えた駆動ユニットの構成例を示す図である。

【図9】キャッチタンクの一部を切り欠いて示した斜視図である。

【図10】本発明の他の実施形態であるキャッチタンクの一部を切り欠いて示した斜視図である。

【図11】本発明の他の実施形態であるキャッチタンクの一部を切り欠いて示した斜視図である。

【発明を実施するための形態】

【0009】

以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。

【0010】

［駆動ユニット］
図１は自動車等の車両に搭載される駆動ユニット１０の構成例を示す図である。この駆動ユニット１０を用いることにより、図示しない左右の車輪を駆動することができる。

【0011】

図１に示すように、駆動ユニット１０は、モータケース１１内の電動モータ１２からなるモータ部１３と、ギアケース１４内の減速ギア列１５，１６およびデファレンシャル機構１７からなる減速部１８と、を有している。減速部１８を構成するギアケース１４には、電動モータ１２のロータ２０に連結される中空のモータ軸２１と、モータ軸２１に平行に配置される中間軸２２と、中間軸２２に平行に配置されるデフケース２３と、が収容されている。なお、モータ軸２１とデフケース２３とは、同軸上に配置されている。

【0012】

モータ軸２１には駆動ギア１５ａが設けられており、中間軸２２には駆動ギア１５ａに噛み合って減速ギア列１５を構成する従動ギア１５ｂが設けられている。また、中間軸２２には駆動ギア１６ａが設けられており、デフケース２３には駆動ギア１６ａに噛み合って減速ギア列１６を構成する従動ギア１６ｂが設けられている。つまり、電動モータ１２のロータ２０とデファレンシャル機構１７のデフケース２３とは、２段の減速ギア列１５，１６を介して連結されている。

【0013】

また、デファレンシャル機構１７は、デフケース２３に収容されるピニオン３０と、ピニオン３０を介して噛み合う一対のサイドギア３１，３２と、を有している。一方のサイドギア３１には出力軸３３およびジョイント３４を介してドライブ軸３５が連結されており、このドライブ軸３５には図示しない車輪が連結される。同様に、他方のサイドギア３２には出力軸３６およびジョイント３７を介してドライブ軸３８が連結されており、このドライブ軸３８には図示しない車輪が連結される。なお、デファレンシャル機構１７から延びる出力軸３６は、電動モータ１２の中央を貫通するように中空のモータ軸２１内に配置されている。

【0014】

［キャッチタンク］
駆動ユニット１０に設けられるキャッチタンク４０について説明する。図２は図１のＡ－Ａ線に沿ってモータケース１１の端面を示す図である。図３および図４は本発明の一実施の形態であるキャッチタンク４０を示す斜視図である。なお、図４にはキャッチタンク４０がその一部を切り欠いた状態で示されている。

【0015】

図１および図２に示すように、モータ部１３を構成するモータケース１１には、電動モータ１２のステータ４１およびロータ２０を収容するモータ収容部４２と、モータ収容部４２の上方に配置されるキャッチタンク４０と、が形成されている。図３に示すように、キャッチタンク４０は、入口側壁部４３、出口側壁部４４、天壁部４５、側壁部４６および底壁部４７からなるタンク本体４８を有している。入口側壁部（第１壁部）４３の下部には、複数のインレット（オイル流入口）４３ａが形成されており、入口側壁部４３の上部には、複数の本体側貫通孔４３ｂが形成されている。また、出口側壁部（第２壁部）４４の下部には、１つのアウトレット（オイル流出口）４４ａが形成されている。さらに、タンク本体４８の天壁部４５には、後述するオイルレベルＯＬよりも上方に位置し、かつ外部に連通するブリーザ孔４９が形成されている。なお、入口側壁部４３および出口側壁部４４の上部とは、後述するタンク本体４８のオイルレベルＯＬよりも上方の部位であり、入口側壁部４３および出口側壁部４４の下部とは、タンク本体４８のオイルレベルＯＬよりも下方の部位である。

【0016】

図４に示すように、キャッチタンク４０のタンク本体４８には、２枚の仕切板５０，５１によって３つのオイル室５２～５４が区画されている。つまり、タンク本体４８内に仕切板５０を設けることによって、タンク本体４８内には一対のオイル室５２，５３が区画されており、タンク本体４８内に仕切板５１を設けることによって、タンク本体４８内には一対のオイル室５３，５４が区画されている。また、仕切板５０の下部には、複数のオイル通路部５０ａが形成されており、仕切板５０の上部には、複数の板側貫通孔５０ｂが形成されている。さらに、仕切板５１の下部には、複数のオイル通路部５１ａが形成されており、仕切板５１の上部には、複数の板側貫通孔５１ｂが形成されている。なお、仕切板５０，５１の上部とは、タンク本体４８のオイルレベルＯＬよりも上方の部位であり、仕切板５０，５１の下部とは、タンク本体４８のオイルレベルＯＬよりも下方の部位である。

【0017】

ここで、図５（Ａ）および（Ｂ）は、図３の矢印Ａ方向から入口側壁部４３および仕切板５０，５１を示した図である。図５（Ａ）には入口側壁部４３と仕切板５０とが重ねて示されており、図５（Ｂ）には仕切板５０と仕切板５１とが重ねて示されている。また、図５には、入口側壁部４３のインレット４３ａおよび本体側貫通孔４３ｂが実線で示されており、仕切板５０のオイル通路部５０ａおよび板側貫通孔５０ｂが破線で示されており、仕切板５１のオイル通路部５１ａおよび板側貫通孔５１ｂが一点鎖線で示されている。

【0018】

図５（Ａ）に示すように、入口側壁部４３に形成される本体側貫通孔４３ｂの中心Ｃ１ｂと、仕切板５０に形成される板側貫通孔５０ｂの中心Ｃ２ｂとは、互いにずれている。つまり、入口側壁部４３とこれに対向する仕切板５０とにおいて、本体側貫通孔４３ｂの中心Ｃ１ｂと板側貫通孔５０ｂの中心Ｃ２ｂとは互いにずれている。換言すれば、入口側壁部４３や仕切板５０に対する直交方向において、本体側貫通孔４３ｂと板側貫通孔５０ｂとの少なくとも一部は重なっていない。また、入口側壁部４３に形成されるインレット４３ａの中心Ｃ１ａと、仕切板５０に形成されるオイル通路部５０ａの中心Ｃ２ａとは、互いにずれている。つまり、入口側壁部４３とこれに対向する仕切板５０とにおいて、インレット４３ａの中心Ｃ１ａとオイル通路部５０ａの中心Ｃ２ａとは互いにずれている。換言すれば、入口側壁部４３や仕切板５０に対する直交方向において、インレット４３ａとオイル通路部５０ａとの少なくとも一部は重なっていない。

【0019】

また、図５（Ｂ）に示すように、仕切板５０に形成される板側貫通孔５０ｂの中心Ｃ２ｂと、仕切板５１に形成される板側貫通孔５１ｂの中心Ｃ３ｂとは、互いにずれている。つまり、仕切板５０とこれに対向する仕切板５１とにおいて、板側貫通孔５０ｂの中心Ｃ２ｂと板側貫通孔５１ｂの中心Ｃ３ｂとは互いにずれている。換言すれば、仕切板５０や仕切板５１に対する直交方向において、板側貫通孔５０ｂと板側貫通孔５１ｂとの少なくとも一部は重なっていない。また、仕切板５０に形成されるオイル通路部５０ａの中心Ｃ２ａと、仕切板５１に形成されるオイル通路部５１ａの中心Ｃ３ａとは、互いにずれている。つまり、仕切板５０とこれに対向する仕切板５１とにおいて、オイル通路部５０ａの中心Ｃ２ａとオイル通路部５１ａの中心Ｃ３ａとは互いにずれている。換言すれば、仕切板５０や仕切板５１に対する直交方向において、オイル通路部５０ａとオイル通路部５１ａとの少なくとも一部は重なっていない。

【0020】

［オイル循環経路］
続いて、駆動ユニット１０内を循環するオイル流れについて説明する。図６は駆動ユニット１０内のオイル流れを示す図である。

【0021】

図６に示すように、モータケース１１やギアケース１４の下部には、駆動ユニット１０内の各摺動部を潤滑するためのオイルＸが貯留されている。駆動ユニット１０内の減速ギア列１５，１６が回転すると、矢印Ｘ１，Ｘ２で示すように、減速ギア列１５，１６によってオイルＸが上方に掻き上げられ、ギアケース１４内に設けられる軸受等の摺動部にオイルＸが供給される。また、減速ギア列１５，１６によって掻き上げられたオイルＸの一部は、矢印Ｘ３で示すように、モータケース１１側のキャッチタンク４０に供給される。

【0022】

前述したように、入口側壁部４３の下部にはインレット４３ａが形成されるため、キャッチタンク４０に向かうオイルＸは、入口側壁部４３のインレット４３ａからキャッチタンク４０内のオイル室５２に流れ込む。また、仕切板５０，５１の下部にはオイル通路部が形成されるため、オイルＸはオイル室５２からオイル室５３を経てオイル室５４に供給される。そして、オイル室５４内のオイルＸは、出口側壁部４４のアウトレット４４ａから自重で流れ出し、矢印Ｘ４で示すように、モータ軸２１や出力軸３６を支持する軸受５５，５６に供給される。つまり、キャッチタンク４０には駆動ユニット１０内で循環するオイルＸが一時的に貯留され、キャッチタンク４０からモータ軸２１や出力軸３６を支持する軸受５５，５６にオイルＸが供給される。

【0023】

このように、ギアケース１４側からキャッチタンク４０にオイルＸを流すことにより、ギアケース１４から離れた軸受５５，５６にオイルＸを供給することができる。つまり、モータ軸２１や出力軸３６を支持する軸受５５，５６に対し、減速ギア列１５，１６等からオイルＸを直に供給することは困難であるが、キャッチタンク４０を用いることで軸受５５，５６にオイルＸを供給することができる。しかも、キャッチタンク４０には所定量のオイルＸが溜められるため、軸受５５，５６に対してオイルＸを安定供給することができる。

【0024】

また、タンク本体４８の油面高さであるオイルレベルＯＬは、車速つまり減速ギア列１５，１６の回転速度によって変化する。つまり、減速ギア列１５，１６の回転速度が低い場合には、減速ギア列１５，１６によるオイルＸの掻き上げ量が減少し、タンク本体４８に流入するオイル量が減少するため、タンク本体４８のオイルレベルＯＬは低下する。一方、減速ギア列１５，１６の回転速度が高い場合には、減速ギア列１５，１６によるオイルＸの掻き上げ量が増加し、タンク本体４８に流入するオイル量が増加するため、タンク本体４８のオイルレベルＯＬは上昇する。本明細書において、入口側壁部４３、出口側壁部４４および仕切板５０，５１の上部や下部を区画するオイルレベルＯＬ、つまり各図に示したオイルレベルＯＬとは、設計上、最も油面が上昇したときのオイルレベルＯＬである。

【0025】

［キャッチタンクの消音機能］
以下、キャッチタンク４０の消音機能について説明する。図７は車両走行時のキャッチタンク４０を示す斜視図である。図７にハッチングで示すように、車両走行時にはキャッチタンク４０にオイルＸが流入するため、キャッチタンク４０の下部はオイルＸで満たされる一方、キャッチタンク４０の上部は空気で満たされた状態である。ここで、入口側壁部４３の上部には本体側貫通孔４３ｂが形成され、仕切板５０，５１の上部には板側貫通孔５０ｂ，５１ｂが形成されるため、各オイル室５２～５４の上部は互いに連通した状態である。

【0026】

また、車両走行時には、減速ギア列１５，１６やデファレンシャル機構１７が回転することから、ギアの噛み合い等によってギアケース１４内の空気は振動する。この空気振動つまり音波は、駆動ユニット１０から音を発生させる要因であるが、前述したように、キャッチタンク４０の上部には空気で満たされた空間が設けられている。つまり、ギアケース１４内で発生した音波は、入口側壁部４３の本体側貫通孔４３ｂからオイル室５２に伝達され、オイル室５２内で反響しながら減衰する（矢印Ｆａ）。また、オイル室５２内に伝達された音波は、仕切板５０の板側貫通孔５０ｂからオイル室５３に伝達され、オイル室５３内で反響しながら減衰する（矢印Ｆｂ）。さらに、オイル室５３内に伝達された音波は、仕切板５１の板側貫通孔５１ｂからオイル室５４に伝達され、オイル室５４内で反響しながら減衰する（矢印Ｆｃ）。

【0027】

このように、各オイル室５２～５４において音波を減衰させることができるため、ギアケース１４内で発生した音を下げることができる。しかも、入口側壁部４３とこれに対向する仕切板５０とにおいて、本体側貫通孔４３ｂの中心と板側貫通孔５０ｂの中心とは互いにずれている。これにより、オイル室５２に伝達された音波が、本体側貫通孔４３ｂや板側貫通孔５０ｂから直に抜けることを抑制することができ、音波を入口側壁部４３や仕切板５０等に当てて積極的に減衰させることができる。また、仕切板５０とこれに対向する仕切板５１とにおいて、板側貫通孔５０ｂの中心と板側貫通孔５１ｂの中心とは互いにずれている。これにより、オイル室５３に伝達された音波が、板側貫通孔５０ｂ，５１ｂから直に抜けることを抑制することができ、音波を仕切板５０，５１等に当てて積極的に減衰させることができる。

【0028】

なお、前述したように、減速ギア列１５，１６の回転速度が低い低車速時には、タンク本体４８のオイルレベルＯＬが低下することから、入口側壁部４３のインレット４３ａおよび仕切板５０，５１のオイル通路部５０ａ，５１ａの一部が露出してしまう虞がある。この場合であっても、入口側壁部４３とこれに対向する仕切板５０とにおいて、インレット４３ａの中心とオイル通路部５０ａの中心とは互いにずれており、仕切板５０とこれに対向する仕切板５１とにおいて、オイル通路部５０ａの中心とオイル通路部５１ａの中心とは互いにずれている。つまり、オイル室５２に伝達された音波が、インレット４３ａやオイル通路部５０ａから直に抜けることを抑制することができ、オイル室５３に伝達された音波が、オイル通路部５０ａ，５１ａから直に抜けることを抑制することができる。これにより、音波を入口側壁部４３や仕切板５０，５１等に当てて積極的に減衰させることができる。

【0029】

また、車両走行時には電動モータ１２も駆動されることになるが、電動モータ１２の上方にはキャッチタンク４０が設けられるため、電動モータ１２から発せられる空気振動である音波についても、キャッチタンク４０によって減衰させることができる。特に、駆動ユニット１０は車両下部に設けられることから、電動モータ１２の上方に配置されるキャッチタンク４０によって音波を減衰させることにより、駆動ユニット１０の上方つまり車室に向かう音を下げることができる。

【0030】

［キャッチタンクのブリーザ機能］
図１および図７に示すように、タンク本体４８の天壁部４５には、オイル室５４に開口するブリーザ孔４９が形成されている。このように、タンク本体４８にブリーザ孔４９を設けることにより、ギアケース１４と外部とをブリーザ孔４９を介して連通させることができる。これにより、ギアケース１４内の圧力が上昇した場合には、ブリーザ孔４９から外部に空気を放出することができる一方、ギアケース１４内の圧力が低下した場合には、ブリーザ孔４９から外部の空気を取り込むことができ、ギアケース１４内つまり駆動ユニット１０内の圧力を大気圧に調整することができる。なお、ブリーザ孔４９には、異物等が入ることを防止するため、図示しないホース等が接続されている。

【0031】

また、ギアケース１４とブリーザ孔４９との間には、入口側壁部４３や仕切板５０，５１が設けられるため、入口側壁部４３や仕切板５０，５１によってオイルミストを補足することができる。すなわち、タンク本体４８にブリーザ孔４９を設けることにより、入口側壁部４３等によってオイルミストを補足することができるため、ブリーザ孔４９から外部に対するオイルミスト放出を抑制することができる。さらに、前述したように、タンク本体４８内の各オイル室５２～５４においては音波が減衰することから、ブリーザ孔４９に到達する音を下げることができる。すなわち、タンク本体４８にブリーザ孔４９を設けることにより、ブリーザ孔４９から外部に放出される音を下げることができる。

【0032】

特に、図示する例においては、外部に連通するブリーザ孔４９が、出口側壁部４４に隣接するオイル室５４に開口している。前述したように、オイル室５４に伝達される音波は、オイル室５２，５３を経て大きく減衰することから、ブリーザ孔４９から外部に放出される音を大きく下げることが可能である。なお、図示する例においては、ブリーザ孔４９がオイル室５４に開口しているが、これに限られることはなく、オイル室５３に開口するブリーザ孔４９を形成しても良く、オイル室５２に開口するブリーザ孔４９を形成しても良い。

【0033】

これまで説明したように、キャッチタンク４０には、オイル供給機能が設けられるだけでなく、消音機能やブリーザ機能が設けられている。このように、キャッチタンク４０の多機能化を図ることにより、消音機能やブリーザ機能を有する駆動ユニット１０の設計自由度を高めることができ、延いては駆動ユニット１０の小型化、軽量化、コスト低減等を達成することができる。

【0034】

［他の実施形態１］
前述したキャッチタンク４０においては、入口側壁部４３だけに本体側貫通孔４３ｂを形成しているが、これに限られることはなく、出口側壁部４４に本体側貫通孔を形成しても良い。ここで、図８は本発明の他の実施形態であるキャッチタンク６０を備えた駆動ユニット６１の構成例を示す図である。また、図９はキャッチタンク６０の一部を切り欠いて示した斜視図である。なお、図８において、図１に示す部材や部位と同様の部材や部位については、同一の符号を付してその説明を省略する。また、図９において、図４に示す部材や部位と同様の部材や部位については、同一の符号を付してその説明を省略する。

【0035】

図８に示すように、キャッチタンク６０のタンク本体６２には、アウトレット４４ａを備えた出口側壁部（第２壁部）６３が設けられている。また、出口側壁部６３の外側にはモータケース１１のケース壁部６４が配置されており、出口側壁部６３とケース壁部６４との間にはギアケース１４内やモータケース１１内に連通する空間が区画されている。このように、出口側壁部６３が外部に露出していないことから、図８および図９に示すように、出口側壁部６３の上部には複数の本体側貫通孔６５が形成されている。また、出口側壁部６３とこれに対向する仕切板５１とにおいて、本体側貫通孔６５の中心と板側貫通孔５１ｂの中心とは互いにずれている。換言すれば、出口側壁部６３や仕切板５１に対する直交方向において、本体側貫通孔６５と板側貫通孔５１ｂとの少なくとも一部は重なっていない。

【0036】

このように、出口側壁部６３に本体側貫通孔６５を形成することにより、出口側壁部６３からもオイル室５４に音波を取り込んで減衰させることができ、ギアケース１４内やモータケース１１内で発生した音を下げることができる。しかも、出口側壁部６３とこれに対向する仕切板５１とにおいて、本体側貫通孔６５の中心と板側貫通孔５１ｂの中心とは互いにずれている。これにより、オイル室５４に伝達された音波が、本体側貫通孔６５や板側貫通孔５１ｂから直に抜けることを抑制することができ、音波を出口側壁部６３や仕切板５１等に当てて積極的に減衰させることができる。

【0037】

なお、図４に示した例では、入口側壁部４３のみに本体側貫通孔４３ｂが形成されており、図９に示した例では、入口側壁部４３と出口側壁部６３との双方に本体側貫通孔４３ｂ，６５が形成されているが、これに限られることはなく、出口側壁部６３のみに本体側貫通孔６５を形成しても良い。

【0038】

［他の実施形態２］
前述したキャッチタンク４０においては、入口側壁部４３に複数の本体側貫通孔４３ｂおよびインレット４３ａを形成し、仕切板５０，５１に複数の板側貫通孔５０ｂ，５１ｂおよびオイル通路部５０ａ，５１ａを形成しているが、これに限られることはない。ここで、図１０は本発明の他の実施形態であるキャッチタンク７０の一部を切り欠いて示した斜視図である。なお、図１０において、図４に示す部材や部位と同様の部材や部位については、同一の符号を付してその説明を省略する。

【0039】

図１０に示すように、キャッチタンク７０のタンク本体７１には、入口側壁部（第１壁部）７２が設けられている。この入口側壁部７２の下部には１つのインレット（オイル流入口）７２ａが形成されており、入口側壁部７２の上部には１つの本体側貫通孔７２ｂが形成されている。また、タンク本体７１には、仕切板７３，７４が組み込まれている。この仕切板７３の下部には１つのオイル通路部７３ａが形成されており、仕切板７３の上部には１つの板側貫通孔７３ｂが形成されている。また、仕切板７４の下部には１つのオイル通路部７４ａが形成されており、仕切板７４の上部には１つの板側貫通孔７４ｂが形成されている。

【0040】

また、入口側壁部７２とこれに対向する仕切板７３とにおいて、本体側貫通孔７２ｂの中心と板側貫通孔７３ｂの中心とは互いにずれている。換言すれば、入口側壁部７２や仕切板７３に対する直交方向において、本体側貫通孔７２ｂと板側貫通孔７３ｂとの少なくとも一部は重なっていない。さらに、仕切板７３とこれに対向する仕切板７４とにおいて、板側貫通孔７３ｂの中心と板側貫通孔７４ｂの中心とは互いにずれている。換言すれば、仕切板７３や仕切板７４に対する直交方向において、板側貫通孔７３ｂと板側貫通孔７４ｂとの少なくとも一部は重なっていない。

【0041】

このように、入口側壁部７２に対して１つの本体側貫通孔７２ｂやインレット７２ａを形成し、仕切板７３，７４に対して１つの板側貫通孔７３ｂ，７４ｂやオイル通路部７３ａ，７４ａを形成した場合であっても、前述したキャッチタンク４０と同様に機能させることができ、本発明を有効に適用することが可能である。

【0042】

［他の実施形態３］
前述したキャッチタンク４０においては、入口側壁部４３に貫通孔であるインレット４３ａを形成し、仕切板５０，５１に貫通孔であるオイル通路部５０ａ，５１ａを形成しているが、これに限られることはない。ここで、図１１は本発明の他の実施形態であるキャッチタンク８０の一部を切り欠いて示した斜視図である。なお、図１１において、図４に示す部材や部位と同様の部材や部位については、同一の符号を付してその説明を省略する。

【0043】

図１１に示すように、キャッチタンク８０のタンク本体８１には、入口側壁部８２が設けられている。この入口側壁部８２の下部は切り欠かれており、入口側壁部８２の下方にはインレット８２ａが区画されている。つまり、入口側壁部８２の下部には切り欠きによってインレット８２ａが形成されている。また、タンク本体８１には、仕切板８３，８４が組み込まれている。この仕切板８３の下部は切り欠かれており、仕切板８３の下方にはオイル通路部８３ａが区画されている。つまり、仕切板８３の下部には切り欠きによってオイル通路部８３ａが形成されている。また、仕切板８４の下部は切り欠かれており、仕切板８４の下方にはオイル通路部８４ａが区画されている。つまり、仕切板８４の下部には切り欠きによってオイル通路部８４ａが形成されている。

【0044】

このように、入口側壁部８２に切り欠きによってインレット８２ａを形成し、仕切板８３，８４に切り欠きによってオイル通路部８３ａ，８４ａを形成した場合であっても、前述したキャッチタンク４０と同様に機能させることができ、本発明を有効に適用することが可能である。

【0045】

本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、電動モータ１２やデファレンシャル機構１７等を備えた駆動ユニット１０，６１に、本発明の一実施の形態であるキャッチタンク４０，６０，７０，８０を設けているが、これに限られることはなく、電動モータ１２やデファレンシャル機構１７等を備えていない駆動ユニットに、本発明の一実施の形態であるキャッチタンク４０，６０，７０，８０を設けても良い。また、駆動ユニットとしてのトランスミッションに、本発明の一実施の形態であるキャッチタンク４０，６０，７０，８０を設けても良い。

【0046】

図４に示した例では、タンク本体４８に２枚の仕切板５０，５１を組み込んでいるが、これに限られることはなく、タンク本体４８に仕切板を１枚だけ組み込んでも良く、タンク本体４８に３枚以上の仕切板を組み込んでも良い。また、図４に示した例では、入口側壁部４３の下部にインレット４３ａが形成されているが、これに限られることはなく、入口側壁部４３の上部にインレット４３ａが形成されていても良い。

【0047】

図４に示した例では、出口側壁部４４に１つのアウトレット４４ａを形成しているが、これに限られることはなく、出口側壁部４４に複数のアウトレット４４ａを形成しても良い。また、図４に示した例では、出口側壁部４４にアウトレット４４ａを形成しているが、これに限られることはなく、出口側壁部４４の下部に連なる底壁部４７や側壁部４６にアウトレット４４ａを形成しても良い。この場合には、出口側壁部４４およびこれに連なる底壁部４７や側壁部４６によって、第２壁部が構成されることになる。

【0048】

図４に示した例では、インレット４３ａ、本体側貫通孔４３ｂ、アウトレット４４ａ、オイル通路部５０ａ，５１ａおよび板側貫通孔５０ｂ，５１ｂが、円形の貫通孔として形成されているが、これに限られることはなく、円形以外に形成されていても良い。また、図４に示した例では、タンク本体４８にブリーザ孔４９を形成しているが、これに限られることはなく、タンク本体４８からブリーザ孔４９を削減しても良い。このように、ブリーザ孔４９を削減した場合であっても、前述したキャッチタンク４０の消音機能を維持することが可能である。

【0049】

図５（Ａ）に示した例では、本体側貫通孔４３ｂの中心Ｃ１ｂと板側貫通孔５０ｂの中心Ｃ２ｂとの全てが互いにずれているが、これに限られることはなく、本体側貫通孔４３ｂの中心Ｃ１ｂと板側貫通孔の中心Ｃ２ｂとの少なくとも一部が互いにずれていれば良い。また、図５（Ｂ）に示した例では、板側貫通孔５０ｂの中心Ｃ２ｂと板側貫通孔５１ｂの中心Ｃ３ｂとの全てが互いにずれているが、これに限られることはなく、板側貫通孔５０ｂの中心Ｃ２ｂと板側貫通孔５１ｂの中心Ｃ３ｂとの少なくとも一部が互いにずれていれば良い。

【0050】

図５（Ａ）および（Ｂ）に示した例では、インレット４３ａ、本体側貫通孔４３ｂ、アウトレット４４ａ、オイル通路部５０ａ，５１ａおよび板側貫通孔５０ｂ，５１ｂが、オイルレベルＯＬから外れているが、これに限られることはない。例えば、インレット４３ａ、本体側貫通孔４３ｂ、アウトレット４４ａ、オイル通路部５０ａ，５１ａおよび板側貫通孔５０ｂ，５１ｂについて、その一部がオイルレベルＯＬに重なって形成されていても良い。

【符号の説明】

【0051】

１０ 駆動ユニット
４０ キャッチタンク
４３ 入口側壁部（第１壁部）
４３ａ インレット（オイル流入口）
４３ｂ 本体側貫通孔
４４ 出口側壁部（第２壁部）
４４ａ アウトレット（オイル流出口）
４８ タンク本体
４９ ブリーザ孔
５０ 仕切板
５０ａ オイル通路部
５０ｂ 板側貫通孔
５１ 仕切板
５１ａ オイル通路部
５１ｂ 板側貫通孔
５２ オイル室
５３ オイル室
５４ オイル室
６０ キャッチタンク
６１ 駆動ユニット
６２ タンク本体
６３ 出口側壁部（第２壁部）
６５ 本体側貫通孔
７０ キャッチタンク
７１ タンク本体
７２ 入口側壁部（第１壁部）
７２ａ インレット（オイル流入口）
７２ｂ 本体側貫通孔
７３ 仕切板
７３ａ オイル通路部
７３ｂ 板側貫通孔
７４ 仕切板
７４ａ オイル通路部
７４ｂ 板側貫通孔
８０ キャッチタンク
８１ タンク本体
８２ 入口側壁部（第１壁部）
８２ａ インレット（オイル流入口）
８３ 仕切板
８３ａ オイル通路部
８４ 仕切板
８４ａ オイル通路部
ＯＬ オイルレベル
Ｃ１ｂ 中心
Ｃ２ｂ 中心
Ｃ３ｂ 中心

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】