(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】杭の施工管理方法、杭の施工管理システム、及び杭の施工管理システムを構成する携帯端末
(51)【国際特許分類】
E02D 13/06 20060101AFI20230119BHJP
E02D 13/04 20060101ALI20230119BHJP
E02D 7/20 20060101ALI20230119BHJP
E02D 5/28 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
E02D13/06
E02D13/04
E02D7/20
E02D5/28
(21)【出願番号】P 2019056271
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】長濱 温子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀一
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-53689(JP,A)
【文献】特開2008-121219(JP,A)
【文献】特開昭63-180814(JP,A)
【文献】特開昭63-149516(JP,A)
【文献】特開昭61-2012(JP,A)
【文献】特開平9-184164(JP,A)
【文献】特開2009-293319(JP,A)
【文献】特開平5-125729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 13/06
E02D 13/04
E02D 7/20
E02D 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭の上端がベースマシンのリーダーに沿って降下するオーガーに取り付けられ、該リーダーの下方に取り付けられている環状の振れ止め部材に前記鋼管杭が挿通されながら地盤に回転圧入される杭打ち機により、鋼管杭を施工する際に用いられる、杭の施工管理方法であって、
電子コンパスを用いて、杭伏図を構成するX軸もしくはY軸のN極からの角度θ1を計測するA工程と、
前記振れ止め部材の上、もしくは、地面の上にターゲットを固定し、前記鋼管杭の打設芯と該ターゲットを繋ぐ直線のN極からの角度θ2を計測し、
N極からの前記電子コンパスの設置角度θ3を計測し、前記鋼管杭の打設芯と前記ターゲットを繋ぐ直線と前記電子コンパスの設置角度との相対角度を求めるB工程と、を有し、前記A工程と前記B工程により、前記杭伏図を構成するX軸もしくはY軸とN極の角度のキャリブレーションと、前記ターゲットと前記電子コンパスの設置角度のキャリブレーションを行うキャリブレーション工程と、
前記直線の角度θ2と前記設置角度θ3の相対角度θ3-θ2を一定に維持しながら、施工対象である各鋼管杭の周囲に固定される前記ターゲットの固定位置(X
A、Y
A)を計測器により計測し、前記鋼管杭の周囲に設置された前記電子コンパスのN極からの設置角度ωと、前記キャリブレーション工程にて特定されている角度θ1、前記相対角度θ3-θ2、予め測定しておいた前記ターゲットの固定位置と前記打設芯までの距離r、を用いて、鋼管杭の杭芯位置を以下の式(A)により特定する杭芯位置特定工程と、を有することを特徴とする、杭の施工管理方法。
【数1】
【請求項2】
鋼管杭の上端がベースマシンのリーダーに沿って降下するオーガーに取り付けられ、該リーダーの下方に取り付けられている環状の振れ止め部材に前記鋼管杭が挿通されながら地盤に回転圧入される杭打ち機により、鋼管杭を施工する際に用いられる、杭の施工管理システムであって、
前記振れ止め部材の上、前記鋼管杭の周囲の地盤の上のいずれかに設置されているターゲットと、
前記ターゲットの位置を計測する計測器と、
杭伏図データを構成するX軸もしくはY軸のN極からの角度を少なくとも計測する電子コンパスと、
前記ベースマシンのオペレータもしくは施工管理者の有する携帯端末と、を有し、
前記携帯端末は、
前記計測器から送信される前記ターゲットの位置に関する位置データと、前記電子コンパスから送信される角度データとを受信する受信部と、
前記位置データ、前記角度データ、及び前記杭伏図データが格納される格納部と、
前記位置データと前記角度データに基づいて、前記鋼管杭の杭芯位置を演算する演算部と、を備えていることを特徴とする、杭の施工管理システム。
【請求項3】
環状の治具を有し、該治具は二つの半割り治具を相互に接合することにより形成され、
前記二つの半割り治具のいずれか一方に前記ターゲットが固定され、
環状の前記治具の内側面には、鋼管杭に対して当接自在なローラが取り付けられており、
前記治具は前記振れ止め部材の上に、該振れ止め部材に対して相対移動自在に載置されていることを特徴とする、請求項2に記載の杭の施工管理システム。
【請求項4】
環状の治具を有し、該治具は二つの半割り治具を相互に接合することにより形成され、
前記半割り治具のいずれか一方に前記ターゲットが固定され、
環状の前記治具の内側面には、鋼管杭に対して当接自在なローラが取り付けられており、
前記治具は前記鋼管杭の周囲の地盤の上に載置されていることを特徴とする、請求項2に記載の杭の施工管理システム。
【請求項5】
前記治具の上面には、上方に突出して、前記ターゲットが固定される二つ以上のターゲット固定ピンが取り付けられ、そのうち、前記計測器から計測可能な位置にある一つの該ターゲット固定ピンが選定され、前記ターゲットが固定されていることを特徴とする、請求項3又は4に記載の杭の施工管理システム。
【請求項6】
前記振れ止め部材の上面には、上方に突出して、前記治具が固定される四つ以上の治具固定ピンが取り付けられ、
前記治具には、前記四つ以上の治具固定ピンにそれぞれ対応して該治具固定ピンよりも大寸法のピン孔が開設され、
前記ピン孔に対して前記治具固定ピンがクリアランスを有した状態で挿通されていることを特徴とする、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の杭の施工管理システム。
【請求項7】
前記格納部には、
前記杭伏図データを構成するX軸もしくはY軸のN極からの角度θ1、
前記鋼管杭の打設芯と前記ターゲットを繋ぐ直線の角度θ2、
N極からの前記電子コンパスの角度θ3、
施工対象である各鋼管杭の周囲に固定される前記ターゲットの固定位置(X
A、Y
A)、
前記ターゲットの固定位置と前記打設芯までの距離r、
前記鋼管杭の周囲に設置された前記電子コンパスのN極からの設置角度ω、が格納されており、
前記演算部では、鋼管杭の杭芯位置を以下の式(A)により特定することを特徴とする、請求項2乃至6のいずれか一項に記載の杭の施工管理システム。
【数1】
【請求項8】
鋼管杭の上端がベースマシンのリーダーに沿って降下するオーガーに取り付けられ、該リーダーの下方に取り付けられている環状の振れ止め部材に前記鋼管杭が挿通されながら地盤に回転圧入される杭打ち機により、鋼管杭を施工する際に用いられる、杭の施工管理システムを構成する携帯端末であって、
前記杭の施工管理システムは、前記振れ止め部材の上、もしくは前記鋼管杭の周囲の地盤の上に固定されているターゲットと、該ターゲットの位置を計測する計測器と、杭伏図データを構成するX軸もしくはY軸のN極からの角度を少なくとも計測する電子コンパスと、を備えており、
前記携帯端末は、
前記計測器から送信される前記ターゲットの位置に関する位置データと、前記電子コンパスから送信される角度データとを受信する受信部と、
前記位置データ、前記角度データ、及び前記杭伏図データが格納される格納部と、
前記位置データと前記角度データに基づいて、前記鋼管杭の杭芯位置を演算する演算部と、
前記演算部による演算結果を表示する表示部と、を備えていることを特徴とする、杭の施工管理システムを構成する携帯端末。
【請求項9】
前記表示部には、平面座標系が表示され、該平面座標系において許容杭芯誤差範囲が表示されるとともに、前記演算部にて演算された杭芯の位置が表示されることを特徴とする、請求項8に記載の杭の施工管理システムを構成する携帯端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭の施工管理方法、杭の施工管理システム、及び杭の施工管理システムを構成する携帯端末に関する。
【背景技術】
【0002】
杭基礎の施工に当たり、杭打ち機を用いて、例えば鋼管の先端に螺旋翼が設けられている鋼管杭を地盤に回転圧入することにより、鋼管杭を地中に埋設する鋼管回転圧入工法が適用される。場所打ち杭工法では産業廃棄物となる掘削土が発生するが、鋼管回転圧入工法ではこの産業廃棄物の発生が解消でき、さらには、低騒音かつ低振動での施工が可能であることから環境影響への負荷が少ない。また、建物の規模に応じた杭径の鋼管杭を用いることにより、戸建て住宅等の小規模建物からマンション等の大規模建物まで、様々な規模の建物の杭基礎への適用が可能である。
【0003】
上記する鋼管杭を地盤に回転圧入する際の施工管理システムとして、鋼管の上端近傍にターゲットを取り付け、トータルステーションを用いてターゲットの自動追尾を行うことによりターゲットの位置情報を取得する、回転式鋼管打設施工管理システムが提案されている。この回転式鋼管打設施工管理システムは、ターゲットの位置情報に基づいて鋼管芯座標を算出し、算出された鋼管芯座標を記憶部に記憶する情報処理装置をさらに有している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、鋼管杭の回転圧入施工の初期段階においては、鋼管杭の上端部と地盤との距離が離れていることから、上端部の杭芯位置と、地盤に近い箇所での杭芯位置とが必ずしも一致していない場合が往々にしてある。従って、施工対象の鋼管杭が地盤の正しい位置に圧入されていることを確認するには、鋼管杭の上端部よりも、むしろ地盤に近い場所での杭芯位置(もしくは杭の打設芯位置)を把握することが肝要である。この点、上記する特許文献1に記載の施工管理システムでは、鋼管杭自体にターゲットを取り付けていることから、杭打ち機を構成する各構成要素等とターゲットとの干渉を回避するために、ターゲットを鋼管杭の上端部に設けざるを得ない。そのため、鋼管杭の上端部近傍に取り付けられているターゲットの位置情報をトータルステーションにより取得することから、鋼管杭の正しい施工位置を管理する点においては改善の余地がある。
【0005】
そこで、地盤の近傍における鋼管杭の杭芯位置を得ることのできる施工管理システムが提案されている。より具体的には、鋼管杭の上端を保持して、鋼管杭を回転させながら地盤に圧入する駆動部と、地盤の近傍で鋼管杭を保持する振れ止め部材と、を備える杭打ち機による鋼管杭の打設施工を管理する施工管理システムである。この施工管理システムは、振れ止め部材の上に設けられ、鋼管杭を周回する第2レールが形成されたレール部材と、鋼管杭の回転に伴い、第2レールに沿って摺動する第2磁石と、第2磁石に取り付けられたプリズムと、プリズムの位置を計測する計測器と、計測器により計測されるプリズムの複数の位置に基づいて、鋼管杭の杭芯位置を演算する演算部とを備えている。
【0006】
第1レールには第1磁石が摺動可能に設けられ、第1磁石は、鋼管杭の回転に追従して第1レールに沿って摺動するようになっている。一方、第2レールには、第1規制部材と第2規制部材が設けられており、第1規制部材と第2規制部材とにより区切られた範囲が第2磁石の摺動範囲とされ、この摺動範囲に第2磁石が配置されている。さらに、この摺動範囲に計測器を対向配置することにより、施工管理システムが形成される。
【0007】
上記する施工管理システムにおいて、第2磁石と第1磁石とは、互いに異なる磁極を有している。鋼管杭の回転に伴い、鋼管杭に磁気吸引された第1磁石が鋼管杭と同方向に摺動し、第1磁石が第2磁石の摺動範囲に到達すると、第1磁石に磁気吸引された第2磁石が摺動範囲内を摺動し、この摺動する第2磁石に取り付けられているプリズムの位置を計測器にて計測する。この施工管理システムによれば、第2磁石に取り付けられているプリズムを、第1規制部材と第2規制部材の間の摺動範囲にて往復させる際に、計測器からプリズムを見た際に、当該プリズムが鋼管杭に隠れることがないことから、計測器はプリズムの位置を常時計測することができる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5546416号公報
【文献】特開2018-53689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の施工管理システムでは、鋼管杭の回転に伴って当該鋼管杭と同方向に第1磁石を摺動させるとともに、第1磁石の摺動に伴って、当該第1磁石と同方向にプリズムが取り付けられている第2磁石を、第1規制部材と第2規制部材の間の摺動範囲において摺動させることから、第1磁石や第2磁石が摺動するレールを含む治具の構成が複雑になり易い。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、複雑な治具を有することなく、地盤の近傍において鋼管杭の杭芯位置を精度よく特定しながら鋼管杭の施工管理を行うことのできる、杭の施工管理方法、杭の施工管理システム、及び杭の施工管理システムを構成する携帯端末を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による杭の施工管理方法の一態様は、
鋼管杭の上端がベースマシンのリーダーに沿って降下するオーガーに取り付けられ、該リーダーの下方に取り付けられている環状の振れ止め部材に前記鋼管杭が挿通されながら地盤に回転圧入される杭打ち機により、鋼管杭を施工する際に用いられる、杭の施工管理方法であって、
電子コンパスを用いて、杭伏図を構成するX軸もしくはY軸のN極からの角度θ1を計測するA工程と、
前記振れ止め部材の上、もしくは、地面の上にターゲットを固定し、前記鋼管杭の打設芯と該ターゲットを繋ぐ直線のN極からの角度θ2を計測し、
N極からの前記電子コンパスの設置角度θ3を計測し、前記鋼管杭の打設芯と前記ターゲットを繋ぐ直線と前記電子コンパスの設置角度との相対角度を求めるB工程と、を有し、前記A工程と前記B工程により、前記杭伏図を構成するX軸もしくはY軸とN極の角度のキャリブレーションと、前記ターゲットと前記電子コンパスの設置角度のキャリブレーションを行うキャリブレーション工程と、
前記直線の角度θ2と前記設置角度θ3の相対角度θ3-θ2を一定に維持しながら、施工対象である各鋼管杭の周囲に固定される前記ターゲットの固定位置(XA、YA)を計測器により計測し、前記鋼管杭の周囲に設置された前記電子コンパスのN極からの設置角度ωと、前記キャリブレーション工程にて特定されている角度θ1、前記相対角度θ3-θ2、予め測定しておいた前記ターゲットの固定位置と前記打設芯までの距離r、を用いて、鋼管杭の杭芯位置を以下の式(A)により特定する杭芯位置特定工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
【0013】
ここで、「計測器」は、ターゲットをレンズにて視準し、角度と距離を同時に計測する一般的なトータルステーションであってもよいし、トータルステーションがターゲットを自動的に視準する自動追尾機能を備えている、自動追尾型のトータルステーションであってもよい。また、「ターゲット」としては、反射プリズム等のプリズムが挙げられる。
【0014】
また、本発明による杭の施工管理システムの一態様は、
鋼管杭の上端がベースマシンのリーダーに沿って降下するオーガーに取り付けられ、該リーダーの下方に取り付けられている環状の振れ止め部材に前記鋼管杭が挿通されながら地盤に回転圧入される杭打ち機により、鋼管杭を施工する際に用いられる、杭の施工管理システムであって、
前記振れ止め部材の上、前記鋼管杭の周囲の地盤の上のいずれかに設置されているターゲットと、
前記ターゲットの位置を計測する計測器と、
杭伏図データを構成するX軸もしくはY軸のN極からの角度を少なくとも計測する電子コンパスと、
前記ベースマシンのオペレータもしくは施工管理者の有する携帯端末と、を有し、
前記携帯端末は、
前記計測器から送信される前記ターゲットの位置に関する位置データと、前記電子コンパスから送信される角度データとを受信する受信部と、
前記位置データ、前記角度データ、及び前記杭伏図データが格納される格納部と、
前記位置データと前記角度データに基づいて、前記鋼管杭の杭芯位置を演算する演算部と、を備えていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、振れ止め部材の上、もしくは鋼管杭の周囲の地盤の上にターゲットが設置され、このターゲットが計測器にて計測されるとともに、少なくとも杭伏図データを構成するX軸もしくはY軸のN極からの角度を電子コンパスにて計測する施工管理システムであることから、複雑な治具を必要としないシステムとなる。また、地盤の近傍にある振れ止め部材の上、もしくは地盤の上にあるターゲットの位置に関する計測データに基づいて、携帯端末にて鋼管杭の杭芯位置が演算されることから、回転圧入されている鋼管杭の杭芯位置を精度よく特定することができる。ここで、携帯端末は、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピュータなどを含んでいる。
【0016】
また、本発明による杭の施工管理システムの他の態様は、環状の治具を有し、該治具は二つの半割り治具を相互に接合することにより形成され、
前記二つの半割り治具のいずれか一方に前記ターゲットが固定され、
環状の前記治具の内側面には、鋼管杭に対して当接自在なローラが取り付けられており、
前記治具は前記振れ止め部材の上に、該振れ止め部材に対して相対移動自在に載置されていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、振れ止め部材の上にターゲットが固定されている形態において、半割り治具が相互に接合されることにより形成される環状の治具の上にターゲットが固定され、治具の内側面においてローラが鋼管杭に当接自在に取り付けられていることにより、ターゲットが固定されている治具を回転姿勢の鋼管杭から縁切りしながら、鋼管杭の杭芯と環状の治具の中心を可及的に揃えることができる。例えば、振れ止め部材とその中を貫通する鋼管杭との間には、一般に10mm乃至20mm程度のクリアランスがある。そのため、振れ止め部材の上にターゲットを直接載置した場合、このクリアランスの中で移動し得る鋼管杭の杭芯と、振れ止め部材の中心との間には、このクリアランスに起因する誤差が生じ得る。そして、この鋼管杭の杭芯と振れ止め部材の中心の間の誤差は、携帯端末において計測データに基づいて演算される杭芯位置の精度に影響し得る。そこで、治具の内側面に鋼管杭に当接自在な複数のローラを取り付けておき、治具(のローラ)と鋼管杭の間のクリアランスを、0mm(複数のローラが全て鋼管杭に当接している状態)からせいぜい1,2mm程度とすることにより、治具と鋼管杭の間のクリアランスに起因する誤差を少なくすることができ、携帯端末において演算される杭芯位置の精度を向上させることができる。
【0018】
また、本発明による杭の施工管理システムの他の態様は、環状の治具を有し、該治具は二つの半割り治具を相互に接合することにより形成され、
前記半割り治具のいずれか一方に前記ターゲットが固定され、
環状の前記治具の内側面には、鋼管杭に対して当接自在なローラが取り付けられており、
前記治具は前記鋼管杭の周囲の地盤の上に載置されていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、地盤の上に載置されている治具の上にターゲットが固定されている形態において、二つの半割り治具が相互に接合されることにより形成される環状の治具の内側面においてローラが鋼管杭に当接自在に取り付けられていることにより、ターゲットが固定されている治具を回転姿勢の鋼管杭から縁切りしながら、鋼管杭の杭芯と環状の治具の中心を可及的に揃えることができる。そのため、上記する振れ止め部材の上にターゲットが固定されている形態と同様に、治具と鋼管杭の間のクリアランスに起因する誤差を少なくすることができ、携帯端末において演算される杭芯位置の精度を向上させることができる。
【0020】
また、本発明による杭の施工管理システムの他の態様において、前記治具の上面には、上方に突出して、前記ターゲットが固定される二つ以上のターゲット固定ピンが取り付けられ、そのうち、前記計測器から計測可能な位置にある一つの該ターゲット固定ピンが選定され、前記ターゲットが固定されていることを特徴とする
本態様によれば、治具の上面に複数のターゲット固定ピンが取り付けられ、計測器から計測可能な位置にあるターゲット固定ピンが選定されてターゲットが固定されることにより、計測器の設置場所に対応しながら、ターゲットを計測器にて確実に視準することができる。
【0021】
また、本発明による杭の施工管理システムの他の態様において、前記振れ止め部材の上面には、上方に突出して、前記治具が固定される四つ以上の治具固定ピンが取り付けられ、
前記治具には、前記四つ以上の治具固定ピンにそれぞれ対応して該治具固定ピンよりも大寸法のピン孔が開設され、
前記ピン孔に対して前記治具固定ピンがクリアランスを有した状態で挿通されていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、治具の有するピン孔に対して、振れ止め部材の有する治具固定ピンがクリアランスをもった状態で挿通されて、振れ止め部材の上に治具が載置されていることにより、回転圧入される鋼管杭の水平変位に対して治具を追随させることができ、結果として、治具に固定されているターゲットを追随させることができる。また、振れ止め部材は一般に、回動軸を介して回動自在に取り付けられている二つの半割り部材により形成されている。この二つの半割り部材の双方の上面に少なくとも二つずつ(合計で少なくとも四つ)の治具固定ピンを取り付けておき、治具を形成する二つの半割り治具には、二つ以上の治具固定ピンに対応する位置に二つ以上のピン孔を開設しておく。半割り治具が少なくとも二つの治具固定ピンにて振れ止め部材(を構成する半割り部材)に固定されることにより、振れ止め部材に対して半割り治具の相対位置を大きく変化させることなく(ピン孔と治具固定ピンの間のクリアランスでの相対変位のみ)、半割り治具を位置決めすることができる。そして、振れ止め部材を構成する半割り部材同士を繋ぐピンを外して、回動軸を中心に半割り部材を回動させて開き、鋼管杭から振れ止め部材を取り外す際には、半割り部材と同様に半割り治具も開いて治具が二つに分割される。
【0023】
また、本発明による杭の施工管理システムの他の態様において、前記格納部には、
前記杭伏図データを構成するX軸もしくはY軸のN極からの角度θ1、
前記鋼管杭の打設芯と前記ターゲットを繋ぐ直線の角度θ2、
N極からの前記電子コンパスの角度θ3、
施工対象である各鋼管杭の周囲に固定される前記ターゲットの固定位置(X
A、Y
A)、
前記ターゲットの固定位置と前記打設芯までの距離r、
前記鋼管杭の周囲に設置された前記電子コンパスのN極からの設置角度ω、が格納されており、
前記演算部では、鋼管杭の杭芯位置を以下の式(A)により特定することを特徴とする。
【数1】
【0024】
本態様によれば、計測器によるターゲットの計測と電子コンパスを併用することにより、複雑な治具を必要とすることなく、回転圧入されている鋼管杭の杭芯位置を精度よく特定することができる。
【0025】
また、本発明による杭の施工管理システムを構成する携帯端末の一態様は、
鋼管杭の上端がベースマシンのリーダーに沿って降下するオーガーに取り付けられ、該リーダーの下方に取り付けられている環状の振れ止め部材に前記鋼管杭が挿通されながら地盤に回転圧入される杭打ち機により、鋼管杭を施工する際に用いられる、杭の施工管理システムを構成する携帯端末であって、
前記杭の施工管理システムは、前記振れ止め部材の上、もしくは前記鋼管杭の周囲の地盤の上に固定されているターゲットと、該ターゲットの位置を計測する計測器と、杭伏図データを構成するX軸もしくはY軸のN極からの角度を少なくとも計測する電子コンパスと、を備えており、
前記携帯端末は、
前記計測器から送信される前記ターゲットの位置に関する位置データと、前記電子コンパスから送信される角度データとを受信する受信部と、
前記位置データ、前記角度データ、及び前記杭伏図データが格納される格納部と、
前記位置データと前記角度データに基づいて、前記鋼管杭の杭芯位置を演算する演算部と、
前記演算部による演算結果を表示する表示部と、を備えていることを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、携帯端末の有する表示部において、演算部にて演算された鋼管杭の杭芯位置を確認することができる。例えば、ベースマシンの操縦席に携帯端末が載置され、杭打ち機のオペレータは、表示部に表示されている演算結果を確認しながら鋼管杭の回転圧入を行うことができる。
【0027】
また、本発明による杭の施工管理システムを構成する携帯端末の他の態様において、前記表示部には、平面座標系が表示され、該平面座標系において許容杭芯誤差範囲が表示されるとともに、前記演算部にて演算された杭芯の位置が表示されることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、表示部に平面座標系(例えばX-Y平面座標)が表示され、この平面座標系において、許容杭芯誤差範囲が表示されるとともに、演算部にて演算された杭芯の位置が表示されることにより、杭打ち機のオペレータや施工管理者は、特定された杭芯が許容杭芯誤差範囲内にあることを確認しながら鋼管杭の施工を継続することができる。また、杭芯が許容杭芯誤差範囲から外れそうな場合には、回転圧入方向を臨機に調整することができる。さらに、杭芯が許容杭芯誤差範囲から外れている場合には、施工を速やかに中断して、正しい位置において鋼管杭の再打設を行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から理解できるように、本発明の杭の施工管理方法、杭の施工管理システム、及び杭の施工管理システムを構成する携帯端末によれば、複雑な治具を有することなく、地盤の近傍において鋼管杭の杭芯位置を精度よく特定しながら鋼管杭の施工管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施形態に係る杭の施工管理システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図2】鋼管杭の下方の周囲に、振れ止め部材、ターゲット、及び電子コンパスが設置される前の状況を示す斜視図である。
【
図3】鋼管杭の下方の周囲に、振れ止め部材、ターゲット、及び電子コンパスが設置された状況を示す斜視図である。
【
図4】鋼管杭の下方の周囲に、振れ止め部材、治具、ターゲット、及び電子コンパスが設置される前の状況を示す斜視図である。
【
図5】鋼管杭の下方の周囲に、振れ止め部材、治具、ターゲット、及び電子コンパスが設置された状況を示す斜視図である。
【
図7】実施形態に係る杭の施工管理システムの有する携帯端末のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図9】キャリブレーション工程を説明する図であって、(a)は、杭伏図の軸(Y軸)とN極との角度θ1を説明する図であり、(b)は、鋼管杭の打設芯及びターゲットを通る直線とN極との角度θ2と、N極からの電子コンパスの設置角度θ3を説明する図であり、(c)は、θ1、θ2、及びθ3をまとめて説明する図である。
【
図10】杭芯位置特定工程を説明する図であって、(a)は、打設中の鋼管杭の周囲にあるターゲットの位置と、θ3-θ2とθ1により設定されるω'とを説明する図であり、(b)は、N極からの電子コンパスの設置角度ωを説明する図である。
【
図11】実施形態に係る杭の施工管理方法の一例のフロー図である。
【
図12】携帯端末の表示部における表示内容の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態に係る杭の施工管理システムと、杭の施工管理システムを構成する携帯端末、及び杭の施工管理方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0032】
[実施形態に係る杭の施工管理システム]
はじめに、
図1乃至
図6を参照して、実施形態に係る杭の施工管理システムの一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る杭の施工管理システムの全体構成の一例を示す図である。また、
図2と
図3はそれぞれ、鋼管杭の下方の周囲に、振れ止め部材、ターゲット、及び電子コンパスが設置される前の状況を示す斜視図と、振れ止め部材、ターゲット、及び電子コンパスが設置された状況を示す斜視図である。また、
図4と
図5はそれぞれ、鋼管杭の下方の周囲に、振れ止め部材、治具、ターゲット、及び電子コンパスが設置される前の状況を示す斜視図と、振れ止め部材、治具、ターゲット、及び電子コンパスが設置された状況を示す斜視図である。さらに、
図6は、
図5のIV-IV矢視図である。
【0033】
杭の施工管理システム500は、鋼管杭Pの周囲であって、かつ地盤に近い位置(地盤上を含む)に設置されているターゲット100と、電子コンパス150と、ターゲット100をレンズで視準してターゲット100までの距離や角度を計測する計測器200と、携帯端末300とを有し、携帯端末300は、鋼管杭Pを地盤Gに回転圧入する杭打ち機90を構成するベースマシン10に搭載されている。計測器200及び電子コンパス150と携帯端末300は、インターネットやLAN(Local Area Network)等に代表されるネットワーク400を介して通信可能となっている。計測器200にて取得されたターゲット100の位置座標に関する計測データや、電子コンパス150にて取得された各種角度に関する計測データは、ネットワーク400を介して携帯端末300に送信される。
【0034】
杭打ち機90は、ベースマシン10と、ベースマシン10により支持されるリーダー20と、リーダー20に沿って降下するオーガー30と、リーダー20の下方の地盤近傍の位置に装着されている振れ止め部材50とを有する。オーガー30の下端にあるキャップ40に鋼管杭Pの上端が把持され、鋼管杭Pの下方が振れ止め部材50の中空内に遊嵌された後、オーガー30をY1方向に回転させながらリーダー20に沿ってY2方向に降下させることにより、鋼管杭Pは、地盤G内においてY3方向に回転しながらY4方向に圧入される。尚、図示例の鋼管杭Pはその先端に螺旋翼P1を有しているが、鋼管杭Pの側面にも螺旋翼を有する形態など、様々な形態の鋼管杭が施工対象となる。
【0035】
図1に示すように、ターゲット100と電子コンパス150は振れ止め部材50の上に固定されている。計測器200は、例えば自動追尾型のトータルステーションであり、ターゲット100に対してそれぞれX1方向に光波を照射し、ターゲット100にて反射する光波を計測することにより、ターゲット100との間の距離や鉛直角度、水平角度を取得して、ターゲット100の位置座標を算出する。
【0036】
トータルステーション200は、コンピュータを内蔵するとともに、外部の機器(図示例の携帯端末300等)との通信を可能とする通信インターフェイスを有している(いずれも図示せず)。トータルステーション200は、位置座標が既知の既知点の上に設置され、当該既知点の座標情報がコンピュータに入力されてもよいし、位置座標が既知の一つもしくは複数の既知点の位置座標を計測してその座標情報がコンピュータに入力されてもよく、コンピュータに格納されている既知点の位置座標を参照し、ターゲット100に関する計測データに基づいてその位置座標を算出する。
【0037】
次に、振れ止め部材50の上に設置されるターゲット及び電子コンパスの二種類の設置態様について説明する。
図2及び
図3は、そのうちの一種の設置態様について説明する図である。
【0038】
図2に示すように、振れ止め部材50は、平面視が半ドーナツ状の二つの半割り部材51を有し、それぞれの半割り部材51は、回動軸54を介してリーダー固定部59に回動自在に取り付けられている。それぞれの半割り部材51は、その端部において上下に二つのチャック53を有しており、鋼管杭Pが二つの半割り部材51の内部に収容された後、回動軸54を介して半割り部材51を鋼管杭P側へX2方向に回動させると、双方のチャック53が上下に揃うとともに双方のチャック53の有する貫通孔が上下方向に連通するようになっている。この連通した貫通孔に対してチャックピン55をX3方向に差し込むことにより、
図3に示すように、中央にある中空に鋼管杭Pが遊嵌されている振れ止め部材50が形成される。
【0039】
図2に戻り、それぞれの半割り部材51の上面52の二箇所には、マグネチックスタンド61が取り付けられ、マグネチックスタンド61には、ターゲット固定ピン60が上方に延出する態様で固定されている。
【0040】
ターゲット固定ピン60には、ターゲット100の有するソケット104と電子コンパス150の有するソケット152がそれぞれ、上方からX4方向とX4'方向に装着されるようになっている。ここで、図示例のターゲット100は、複数のプリズム102を備えた全方位型のターゲットであり、水準器(図示せず)を内蔵している。また、図示例の電子コンパス150は、二軸タイプと三軸タイプのいずれであってもよい。二軸タイプは、二つの磁気センサを組み合わせて前後方向と左右方向の地磁気を検出する形態であり、三軸タイプは、前後方向と左右方向の二つの磁気センサに加えて、上下方向の地磁気を検出する第三の地磁気センサを有する形態である。
【0041】
図3に示すように、振れ止め部材50の上面52には、計四つのターゲット固定ピン60が取り付けられており、その中で、計測器200からターゲット100を計測可能な一つのターゲット固定ピン60が選定され、ターゲット100が装着されている。また、残りのターゲット固定ピン60のいずれか一つに対して、電子コンパス150が装着されている。尚、ターゲット固定ピン60は振れ止め部材50の上面52に溶接されてもよいし、他の固定態様にて固定されてもよい。また、ターゲット固定ピン60は少なくとも二つ以上であればよく、四つ以外の数のターゲット固定ピン60が適用されてもよい。
【0042】
また、以下で詳説するように、実施形態に係る杭の施工管理方法は、キャリブレーション工程と杭芯位置特定工程を有し、キャリブレーション工程において、杭伏図の軸(例えばY軸)とN極との角度θ1、鋼管杭Pの打設芯及びターゲット100を通る直線とN極との角度θ2、及び、N極からの電子コンパス150の設置角度θ3が計測され、θ3-θ2が設定される。そして、杭芯位置特定工程では、複数の鋼管杭Pの回転圧入施工の際にそれぞれの鋼管杭Pの杭芯位置を特定しながら施工管理が行われるが、この際、キャリブレーション工程にて設定されているθ3-θ2が維持されるようにして鋼管杭Pの周囲にターゲット100と電子コンパス150が設置される。すなわち、キャリブレーション工程と杭芯位置特定工程において、ターゲット100の固定位置は、
図1,3等で示すように可及的に地盤に近い位置に設定されるが、電子コンパス150の設置位置は、ターゲット100の固定位置と同様に地盤に近い位置の他、ベースマシン10の操縦席や、操縦席に搭載されている携帯端末300に内蔵されていてもよい。
図1,3等に示すように振れ止め部材50の上面52にターゲット100と電子コンパス150が設置される場合は、自ずとθ3-θ2が一定となることが保証されるが、操縦席等に電子コンパス150が設置される場合は、振れ止め部材50と操縦席が同様な動きとなり、結果としてθ3-θ2が一定となるようにベースマシン10が操作される必要がある。
【0043】
図4及び
図5は、振れ止め部材50の上に設置されるターゲット及び電子コンパスの他の設置態様について説明する図である。
【0044】
図4に示すように、それぞれの半割り部材51の上面52の二箇所には、マグネチックスタンド61が取り付けられ、マグネチックスタンド61には、治具固定ピン62が上方に延出する態様で固定されている。
【0045】
そして、半割り部材51と同様に平面視が半ドーナツ状の二つの半割り治具71が、二つのマグネチックスタンド61の上に載置される。より具体的には、半割り治具71は、少なくとも治具固定ピン62に対応する位置にピン孔72を有しており、各ピン孔72に対して対応する治具固定ピン62が挿通されることにより、二つのマグネチックスタンド61の上に半割り治具71がX5方向に載置される。
【0046】
このように、半割り治具71が少なくとも二つの治具固定ピン62を介して振れ止め部材50を構成する半割り部材51に固定されることにより、半割り治具71を、振れ止め部材50に対して大きく移動させることなく位置決めすることができる。図示例においては、半割り治具71が二つの治具固定ピン62により固定される形態であるが、半割り治具71が三つ以上のピン孔72を有し、三つ以上の治具固定ピン62を介して半割り部材51に半割り治具71が固定される形態であってもよい。
【0047】
半割り治具71の上面の二箇所には、ターゲット固定ピン60Aが上方に延出する態様で固定されており、ターゲット固定ピン60Aに対して、ターゲット100の有するソケット104と電子コンパス150の有するソケット152がそれぞれ、上方からX6方向とX6'方向に装着されるようになっている。
【0048】
また、半割り治具71の内側面75には、鋼管杭Pに対して当接自在な二つのローラ73が回動自在に取り付けられている。
【0049】
半割り部材51を鋼管杭P側へX2方向に回動させ、チャックピン55をX3方向に差し込むことにより、
図5に示すように、中央の中空に鋼管杭Pが遊嵌された振れ止め部材50が形成されとともに、二つの半割り治具71の端部同士も相互に当接して、環状の治具70が形成される。尚、振れ止め部材50を鋼管杭Pから取り外す際には、
図2に示すように二つの半割り部材51を回動させて振れ止め部材50を開放する。この振れ止め部材50を開放した際に、治具70も同時に二つの半割り治具71に分割されることになる。
【0050】
図5及び
図6に示すように、ピン孔72は治具固定ピン62よりも大寸法に設定されている。従って、ピン孔72と治具固定ピン62との間には一定のクリアランスs1が形成される。このように、ピン孔72と治具固定ピン62との間にクリアランスs1を有した状態で治具70が振れ止め部材50の上に載置されることにより、治具70は、振れ止め部材50に対して僅かに相対移動自在に位置決めされる。そのため、回転圧入される鋼管杭Pの水平変位に対して治具70を追随させることができ、結果として、治具70に固定されているターゲット100を追随させることが可能になる。
【0051】
また、治具70の内側面75において複数のローラ73が鋼管杭Pに当接自在に取り付けられていることにより、ターゲット100が固定されている治具70を回転姿勢の鋼管杭Pから縁切りしながら、鋼管杭Pの杭芯と環状の治具の中心を可及的に揃えることができる。
【0052】
ここで、
図6に示すように、振れ止め部材50の中を貫通する鋼管杭Pとの間には一般に、10mm乃至20mm程度のクリアランスs2がある。そのため、振れ止め部材50の上にターゲット100を直接載置した場合、このクリアランスs2の中で移動し得る鋼管杭Pの杭芯と、振れ止め部材50の中心との間には、このクリアランスs2に起因する誤差が生じ得る。そして、この鋼管杭Pの杭芯と振れ止め部材50の中心の間の誤差は、携帯端末300において計測データに基づいて演算される杭芯位置の精度に影響し得る。そこで、治具70の内側面75から鋼管杭P側に回転自在に張り出す複数のローラ73が取り付けられていることにより、ローラ73と鋼管杭Pの間のクリアランスs3を、0mm(複数のローラ73が全て鋼管杭Pに当接している状態)からせいぜい1,2mm程度とする。このことにより、治具70と鋼管杭Pの間のクリアランスに起因する誤差を少なくすることができ、携帯端末300において演算される杭芯位置の精度を向上させることができる。
【0053】
鋼管杭Pの回転圧入の全般に亘り、トータルステーション200ではターゲット100の位置座標が随時計測され、ターゲット100に関する計測データは、ネットワーク400を介して、ベースマシン10の操縦席に載置されている携帯端末300に随時送信される。携帯端末300では、以下で詳説する方法により、回転圧入される鋼管杭Pの杭芯位置が随時演算され、表示されるようになっている。杭打ち機のオペレータは、携帯端末300に表示されている演算結果を確認しながら、鋼管杭Pの回転圧入を行うことができる。尚、携帯端末300は、図示例のようにベースマシン10の操縦席に載置されている形態の他にも、施工管理をしている施工管理者が携帯端末を有し、施工管理者が携帯端末に表示されている演算結果を確認してもよいし、オペレータと施工管理者の双方が携帯端末を有していてそれぞれが携帯端末に表示されている演算結果を確認してもよい。
【0054】
図示する杭の施工管理システム500によれば、複雑な治具を有することなく、地盤Gの近傍において鋼管杭Pの杭芯位置を精度よく特定しながら、鋼管杭Pの施工管理を行うことができる。
【0055】
尚、図示する杭の施工管理システム500では、振れ止め部材50の上、もしくは振れ止め部材50の上の治具70の上に固定されているターゲット100をトータルステーション200にて視準するシステムであるが、ターゲット100は、例えば、鋼管杭の周囲の地盤の上に固定されてもよいし、鋼管杭の周囲の地盤の上に治具70が載置され、治具70の上面にあるターゲット固定ピン60Aに固定されてもよい。
【0056】
[実施形態に係る杭の施工管理システムを構成する携帯端末、及び杭の施工管理方法]
次に、
図7乃至
図12を参照して、実施形態に係る杭の施工管理システムを構成する携帯端末の一例と、杭の施工管理方法の一例について説明する。ここで、
図7は、実施形態に係る杭の施工管理システムの有する携帯端末のハードウェア構成の一例を示す図であり、
図8は、携帯端末の機能構成の一例を示す図である。また、
図9は、キャリブレーション工程を説明する図であって、
図9(a)は、杭伏図の軸(Y軸)とN極との角度θ1を説明する図であり、
図9(b)は、鋼管杭の打設芯及びターゲットを通る直線とN極との角度θ2と、N極からの電子コンパスの設置角度θ3を説明する図であり、
図9(c)は、θ1、θ2、及びθ3をまとめて説明する図である。また、
図10は、杭芯位置特定工程を説明する図であって、
図10(a)は、打設中の鋼管杭の周囲にあるターゲットの位置と、θ3-θ2とθ1により設定されるω'とを説明する図であり、
図10(b)は、N極からの電子コンパスの設置角度ωを説明する図である。また、
図11は、実施形態に係る杭の施工管理方法の一例のフロー図である。さらに、
図12は、携帯端末の表示部における表示内容の一例を示す図である。
【0057】
携帯端末300は、スマートフォンやタブレット、パーソナルコンピュータなどにより形成されるが、
図12には、タブレットにより形成される携帯端末300を示している。
【0058】
図7に示すように、携帯端末300は、CPU(Central Processing Unit)302、RAM(Random Access Memory)304、ROM(Read Only Memory)306、無線通信装置308、表示装置310、及び入力装置312を有し、それらがシステムバス314にてデータ通信可能に接続されている。
【0059】
ROM306には、各種のプログラムやプログラムによって利用されるデータ等が記憶されている。RAM304は、ROM306に記憶されているプログラムをロードするための記憶領域や、ロードされたプログラムのワーク領域として用いられる。CPU302は、RAM304にロードされたプログラムを処理することにより、各種の機能を実現する。例えば、計測器200から送信されてきたターゲット100に関する計測データと、電子コンパス150から送信されてきた各種の角度データとを用いて、鋼管杭の杭芯位置を演算し、演算結果を表示する制御を実行する。尚、その他、携帯端末300にインストールされたプログラム等を記憶する補助記憶装置(図示せず)を有していてもよい。
【0060】
表示装置310は、液晶ディスプレイ等からなり、たとえばタッチパネルの表示機能を担う。入力装置312は、表示装置310に対する接触体の接触を検出するセンサを有する電子部品である。接触体の接触の検出方式としては、静電方式や抵抗膜方式、光学方式などがある。この接触体として、オペレータ等の指や専用ペン等が挙げられる。無線通信装置308は、無線LAN又は移動体通信網等において通信を行う際に必要となる、アンテナ等の電子部品である。
【0061】
携帯端末300は、CPU302による制御により、
図8に示す受信部320、演算部330、表示部340、及び格納部350として機能する。
【0062】
鋼管杭Pの回転圧入の過程で、計測器200によりターゲット100に関する計測データ(計測器200により算出されたターゲット100の位置座標データを含む)と電子コンパス150により角度ω(
図10(b)参照)に関する計測データが随時取得され、受信部320には、計測器200と電子コンパス150から随時送信されるターゲット100と角度ωに関する計測データが随時受信される。受信された各計測データは、格納部350に随時格納される。
【0063】
格納部350には、施工対象の複数の鋼管杭Pの杭打設位置がX-Y座標系に示されている杭伏図データ(鋼管杭Pの設計杭芯(打設芯の一例)に関する位置座標データが含まれる)と、ターゲット100から鋼管杭Pの杭芯までの距離データ、及び、許容杭芯誤差データ(施工される鋼管杭の杭芯と設計杭芯との間で許容される誤差範囲に関するデータ)等が格納されている。ターゲット100から鋼管杭Pの杭芯までの距離データは、
図3に示すように一つのターゲット固定ピン60が選定され、ターゲット100が装着された後に計測され、計測データが格納部350に格納される。また、キャリブレーション工程と杭芯位置特定工程においては、各種の角度データが電子コンパス150にて計測され、計測データが格納部350に格納される。
【0064】
演算部330では、ターゲット100と各種の角度データに関する各計測データを格納部350から読み出し、回転圧入される鋼管杭Pの杭芯位置を随時演算する。演算部330における演算方法は、以下で説明する。
【0065】
次に、実施形態に係る杭の施工管理方法を、演算部330における演算方法とともに説明する。杭の施工管理方法は、キャリブレーション工程と杭芯位置特定工程を有し、杭芯位置特定工程では、演算部330における演算方法により、回転圧入される鋼管杭Pの杭芯位置を随時特定する。
【0066】
まず、
図9及び
図11を参照して、キャリブレーション工程において所定の角度を設定する方法について説明する。まず、
図9(a)と
図11に示すように、電子コンパス150を用いて、杭伏図データにおけるY軸のN極からの角度θ1が計測される(ステップS1、A工程)。施工現場では、測量用糸が張設されて杭伏図のX軸やY軸が特定されるようになっており、例えばこの測量用糸の上に電子コンパス150を設置することにより、例えば杭伏図のY軸の角度θ1が計測される。尚、杭伏図データにおけるX軸のN極からの角度が計測されてもよい。杭伏図データには、X-Y座標系における各格点において、鋼管杭Pの打設芯位置が設定されている。
【0067】
次に、
図9(b)及び
図11に示すように、振れ止め部材50の上面52の上に固定されているターゲット100と、鋼管杭Pの打設芯Oを繋ぐ直線L1のN極からの角度θ2を計測する(ステップS2)。さらに、電子コンパス150の設置方向線L2のN極からの設置角度θ3を計測し(ステップS3)、設置角度θ3と角度θ2の差分値であるθ3-θ2を設定する(以上、B工程)。
【0068】
上記するA工程とB工程により、杭伏図の軸(X軸もしくはY軸)とN極の角度のキャリブレーション、及び、ターゲット100と電子コンパス150の設置角度のキャリブレーションが終了する(キャリブレーション工程)。
【0069】
次に、
図10を参照して、杭芯位置特定工程において杭芯位置を特定する方法について説明する。各鋼管杭Pの施工中の杭芯の特定に際しては、キャリブレーション工程により特定されている相対角度θ3-θ2を一定に維持する。
図10(a)及び
図11に示すように、施工対象である鋼管杭Pの周囲に固定されるターゲット100の固定位置A(X
A、Y
A)を計測器200により計測するとともに、電子コンパス150のN極からの設置角度ωを計測する(ステップS4)。
【0070】
鋼管杭Pの周囲に設置された電子コンパス150のN極からの設置角度ωと、キャリブレーション工程にて特定されている角度θ1、相対角度θ3-θ2、予め測定しておいたターゲット100の固定位置と打設芯までの距離r、を用いて、鋼管杭Pの杭芯位置(XO,YO)を以下の式(1)により特定する(ステップS5)。
【0071】
【0072】
上記式(1)は携帯端末300の格納部350に格納されており、演算部330では、式(1)により、回転圧入される鋼管杭Pの杭芯位置が随時演算され、演算された杭芯位置は、表示部340に表示される。
【0073】
携帯端末300の表示部340では、
図12に示すように、鋼管杭Pの設計杭芯Oを座標中心とするX-Y座標系が表示され、さらに、許容杭芯誤差範囲が表示される。そして、演算部330にて演算された演算杭芯位置がX-Y座標系にプロットされる。
【0074】
杭打ち機90のオペレータや施工管理者は、特定された演算杭芯位置が許容杭芯誤差範囲内にあることを確認しながら鋼管杭Pの施工を継続することができる。また、演算杭芯位置が許容杭芯誤差範囲から外れそうな場合には、回転圧入方向を臨機に調整することができる。さらに、演算杭芯位置が許容杭芯誤差範囲から外れている場合には、施工を速やかに中断して、正しい位置において鋼管杭の再打設を行うことができる。
【0075】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0076】
10:ベースマシン、20:リーダー、30:オーガー、40:キャップ、50:振れ止め部材、51:半割り部材、52:上面、53:チャック、54:回動軸、55:チャックピン、59:リーダー固定部、60,60A:ターゲット固定ピン、61:マグネチックスタンド、62:治具固定ピン、70:治具、71:半割り治具、72:ピン孔、73:ローラ、90:杭打ち機、100:ターゲット、102:プリズム、104:ソケット、150:電子コンパス、152:ソケット、200:計測器(トータルステーション)、300:携帯端末、320:受信部、330:演算部、340:表示部、350:格納部、400:ネットワーク、500:杭の施工管理システム(施工管理システム)、G:地盤、P:鋼管杭、P1:螺旋翼