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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】発熱体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 7/03 20060101AFI20230119BHJP
   C09K 5/18 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
A61F7/08 334X
C09K5/18 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019097986
(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2020191972
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 大樹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 和俊
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕史
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-073415(JP,A)
【文献】特開2013-070945(JP,A)
【文献】特開2012-239930(JP,A)
【文献】特開平09-206649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/03
C09K 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被酸化性金属を含む発熱組成物と、基材シートとを含む発熱体の製造方法であって、
塗工ヘッドを用いて、前記基材シートの一面に、前記被酸化性金属を含有し且つ粘度が500mPa・s以上18000mPa・s以下である塗料を塗工する塗工工程を具備し、
前記塗工ヘッドは、前記塗料が導入される複数の導入口と、前記塗料が吐出される吐出口と、前記複数の導入口に対応させて設けられ、前記塗料が送液される方向と交差する方向の長さが前記導入口から前記吐出口に向かって拡大する複数の流路とを有しており、
前記塗料は、該塗料を貯蔵する貯蔵タンクと前記塗工ヘッドとの間に配された移送ポンプを用いて該塗工ヘッドに導入され
前記移送ポンプは、前記複数の導入口毎に配され、該移送ポンプによって前記複数の導入口毎に前記塗料の搬送量が調整可能になされており、
前記塗工ヘッドは、前記複数の流路それぞれの出口として、前記吐出口を複数有しており、
前記塗料が送液される方向と直交する方向を直交方向としたとき、
複数の前記吐出口の各幅は、複数の該吐出口に亘る最大長さに対して35%以上49%以下であり、
前記直交方向における複数の前記吐出口間の離間距離は、複数の該吐出口に亘る最大長さに対して1%以上30%以下であり、且つ0.5mm以上10mm以下であり、
複数の前記吐出口それぞれから前記塗料を吐出して、前記基材シートの一面上に、帯状の小塗工部を複数列形成した後、該小塗工部の端部どうしが接触して、1本の帯状の塗工部を形成する、発熱体の製造方法。
【請求項2】
前記小塗工部どうしは自然に濡れ広がって、1本の帯状の塗工部を形成する、請求項に記載の発熱体の製造方法。
【請求項3】
前記基材シートの一面に前記塗料を塗工した後、該塗料の上から他のシートを貼り合わせる貼り合わせ工程を具備し、
前記小塗工部どうしが、前記他のシートの貼り合わせにより広がって、1本の帯状の塗工部を形成する、請求項1又は2に記載の発熱体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の製造方法により得られた発熱体を用いて発熱具を製造する、発熱具の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨てカイロ等の発熱具に用いられる発熱体の製造方法として、被酸化性金属を含む塗料を基材シートに塗工して、積層構造を有する発熱体を得る方法が知られている。例えば、本出願人は、先に、塗料を、所定の構成を具備する分散機によって分散した後、塗工ヘッドに供給して該塗料を基材シートの一面に塗工する、発熱体の製造方法を提案した(特許文献1)。また、本出願人は、先に、第1の塗料を塗工した後、該塗料の上に第1の吸水性を有する粒子を添加して第1層を形成する第1形成工程と、該第1層の上に第2の塗料を塗工して第2層を形成する第2形成工程とを備える発熱体の製造方法を提案した(特許文献2)。
【0003】
特許文献1及び2は、被酸化性金属を含む塗料を塗工する技術を開示するものであるが、被酸化性金属のような固形粒子を含まない流動体か、該固形粒子の含有量が低い流動体を塗工する技術が知られている。例えば、本出願人は、先に、別の流路から供給し、且つそれらを合流させた後、複数のホットメルト粘着剤が実質的に混ざらない状態で、1つのダイコータの吐出口から吐出させて、担体にホットメルト粘着剤を多層状に塗工する、ホットメルト粘着剤の塗工方法を提案した(特許文献3)。また、特許文献4には、分岐路を有する分岐ブロックを複数備えた塗布ノズルを用いた塗布方法が記載されている。同文献には、前記塗布ノズルが、複数の分岐ブロックと幅広に形成された吐出口との間に、内部が各分岐路と連通する細管を複数本設けてなる管部を有し、同一段に設けられた分岐路の長さが等しく、吐出口の端面の短手方向の長さが細管の内径より長く構成され、細管が吐出口の幅方向に略等間隔に配設されていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-016226号公報
【文献】特開2018-130377号公報
【文献】特開平05-245938号公報
【文献】特開2012-239930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被酸化性金属は、発熱体の発熱特性を発現させる上で必要な成分であるが、塗料中の被酸化性金属の含有量を多くすると、基材シートに塗工した際に塗料の均一性が低下することがあり、これにより発熱体に発熱ムラや発熱効率の低下が生じる虞があった。しかし、塗料を均一に塗布するために、塗料中の被酸化性金属の含有量を少なくすると、発熱体の単位面積当たりの発熱量が減少し、優れた発熱特性を得ることが困難となる。
【0006】
したがって、本発明の課題は、被酸化性金属を含有する塗料を均一に塗工できる発熱体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被酸化性金属を含む発熱組成物と、基材シートとを含む発熱体の製造方法であって、塗工ヘッドを用いて、前記基材シートの一面に、前記被酸化性金属を含有する塗料を塗工する塗工工程を具備し、前記塗工ヘッドは、前記塗料が導入される複数の導入口と、前記塗料が吐出される吐出口と、前記複数の導入口に対応させて設けられ、前記塗料が送液される方向と交差する方向の長さが前記導入口から前記吐出口に向かって拡大する複数の流路とを有しており、前記塗料は、前記吐出口から吐出される際又は吐出された後に合流して、1本の帯状の塗工部を形成する、発熱体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被酸化性金属を含有する塗料を均一に塗工でき、発熱特性に優れる発熱体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明に好適に用いられる製造装置を示す模式図である。
図2図2は、図1に示す塗工ヘッドを示す平面図である。
図3図3は、図2に示す塗工ヘッドによって塗工部を形成する様子を示す斜視図である。
図4図4は、本発明に係る塗工ヘッドの別の実施形態を示す平面図である。
図5図5は、図4に示す塗工ヘッドによって小塗工部を形成する様子を示す図3相当図である。
図6図6は、他のシートの貼り合わせによって塗工部を形成する様子を一部破断して示す図3相当図である。
図7図7は、図1に示す製造装置によって製造された発熱体の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を、その好ましい実施態様である第1実施態様に基づき、図面を参照しながら説明する。本発明は、被酸化性金属を含む発熱組成物と、基材シートとを含む発熱体の製造方法である。発熱組成物は、被酸化性金属を含み、該被酸化性金属の酸化反応に発熱特性を発現するものである。
【0011】
本発明の発熱体1は、例えば図1に示す製造装置10によって好適に製造することができる。図1に示す製造装置10は、塗工部形成部20、シート積層部50に大別される。
【0012】
図1に示すように、製造装置10は、塗工部形成部20を備えている。塗工部形成部20は、原反ロール(不図示)から繰り出された基材シート2を搬送方向Rへ案内するガイドロール62及び受けロール61と、後述する塗料Sを貯蔵する貯蔵タンク21と、塗料Sを基材シート2の一面に塗布する塗工ヘッド30と、貯蔵タンク21から塗工ヘッド30に塗料Sを供給する供給路27とを備えている。また、塗工部形成部20は、貯蔵タンク21と塗工ヘッド30との間に配された移送ポンプ22を備えている。
【0013】
塗工部形成部20に備えられている貯蔵タンク21は、そのタンク21内に塗料Sが蓄えられている。貯蔵タンク21内の塗料Sは、撹拌翼21aによって撹拌されて均一化されている。撹拌翼21aは、シャフト21bを介してモータ等の回転駆動源21cに接続されている。貯蔵タンク21の底部には供給路27の一端が接続されている。供給路27の他端は塗工ヘッド30に接続されている。
【0014】
本実施態様の塗工部形成部20は、分散機を備えていないが、塗料Sの分散性を向上させる観点から、分散機を備えていてもよい。分散機は、例えば貯蔵タンク21と塗工ヘッド30との間に配置することができる。分散機としては、塗料Sを吸引する液室と、ステーターの内部で攪拌ローターが回転する機構とを有するものを用いることができる。当該分散機は、液室内において攪拌ローターの中心部から径方向外方に向かう流れを発生させて、貯蔵タンク21から供給路を介して液室内に塗料Sを吸引することができる。このような分散機としては、例えば特許文献1に記載の分散機が挙げられる。
移送ポンプ22は、塗工ヘッド30に供給する塗料Sの流量を調整する。具体的には、貯蔵タンク21から供給路27を流れる塗料Sの供給速度が調整でき、塗工ヘッド30への塗料Sの供給量を調整することが可能となる。
【0015】
塗工部形成部20は、塗工ヘッド30を備えている。塗工ヘッド30は、供給路27を介して貯蔵タンク21から供給された流動性を有する塗料Sを、受けロール61によって支持されている帯状の基材シート2の一面上に塗布して、塗工部3を形成する。塗工ヘッド30は、基材シート2の幅方向中央域に塗料Sを塗工可能に構成されている。基材シート2の幅方向は、該基材シート2の長手方向と直交する方向であり、且つ搬送方向Rに直交する方向である。塗工ヘッド30の構成については、後に詳述する。
【0016】
製造装置10には、図1に示すように、シート積層部50が備えられている。シート積層部50は、原反ロール(不図示)から繰り出された帯状の貼り合わせシート5を下流へ案内するガイドロール63,65と、塗工部3が形成された基材シート2を搬送方向Rへ案内するガイドロール64を備えている。貼り合わせシート5は、塗工部3上に配されるように搬送される。
【0017】
塗工ヘッド30の構造について、図2を用いて詳述する。本実施態様の塗工ヘッド30aは、塗料Sが導入される複数の導入口32と、塗料Sが吐出される吐出口38と、これら複数の導入口32に対応させて設けられた複数の流路35とを有している。本実施態様の塗工ヘッド30aは、ダイコートヘッドである。当該塗工ヘッド30aは、2つの導入口32a,32bと、2つの吐出口38a、38bとを有し、互いに対応する導入口及び吐出口間それぞれに流路35a,35bを有している。換言すると、本実施態様の塗工ヘッド30aは、第1導入口32a及び第1吐出口38aに対応する第1流路35aと、第2導入口32b及び第2吐出口38bに対応する第2流路35bとを有している。
【0018】
本実施態様の塗工ヘッド30aは、第1ブロック36及び第2ブロック37で構成されており、この順で塗料Sの送液方向Dに沿って配されている。これらブロック36,37はそれぞれ、塗料Sの送液方向Dに延びる空間を有しており、これら空間が同方向Dに沿って連通していることにより各流路35a,35bが形成されている。具体的には、第1流路35aは、第1ブロック36及び第2ブロック37が有する各空間が連通することにより形成されており、第1導入口32a及び第1吐出口38aと連通している。第2流路35bは、第1ブロック36及び第2ブロック37が有する各空間が連通することにより形成されており、第2導入口32b及び第2吐出口38bと連通している。
【0019】
複数の流路35a,35bそれぞれは、塗料Sが送液される方向Dと交差する方向の長さが導入口32a,32bから吐出口38a,38bに向かって拡大している部分を有する。以下、各流路の前記交差する方向(幅方向)の長さを、流路の幅ともいう。複数の流路は、それぞれの幅方向が塗工ヘッドの横断面において一直線状に並んでいることが好ましい。また、流路の幅方向は、塗料Sが送液される方向Dと直交していることが好ましい。本実施態様の第1流路35aは、図2に示す塗工ヘッド30の平面視において、第1ブロック36における該流路35aの幅が一定であるが、第2ブロック37における該流路35aの幅が、塗料Sの送液方向Dに向かって漸次拡大している。具体的には、第2ブロック37において第1流路35aは、直交方向Eの両側縁が互いに離れるように幅が拡大する領域を有している。「直交方向E」は、塗料Sが送液される送液方向Dと直交する方向であり、基材シート2の長手方向と直交する幅方向と一致する。第2流路35bも、塗工ヘッド30の平面視において、第1流路35aと同じ形態で幅が拡大している。以上のように、塗料Sの送液方向Dに沿って流路の幅が拡大している領域を幅拡大領域ともいう。
吐出口38a,38bは、直交方向Eに長い形状を有していることが好ましい。このような吐出口としては、直交方向Eに長いスリット状のものが挙げられる。
【0020】
塗工ヘッド30aには、複数の供給路27が接続されており、複数の流路35それぞれは、互いに異なる供給路27と連通している。具体的には、第1流路35aは第1供給路27aと接続されており、第2流路35bは第2供給路27bと接続されている。これら各供給路27a,27bにおいて、貯蔵タンク21と塗工ヘッド30aとの間には、移送ポンプ22a,22bが配されている。即ち、本実施態様の塗工部形成部20は、貯蔵タンク21から塗工ヘッド30aへ塗料Sを供給する複数の供給路27と、該供給路27それぞれに配された複数の移送ポンプ22とを備えている。
【0021】
次に、製造装置10を用いた本発明の発熱体の好適な製造方法を説明する。まず、被酸化性金属、炭素材料及び水を含有する塗料Sを貯蔵タンク21に充填する。塗料Sは、他の撹拌装置(図示せず)を用いてあらかじめ調製したものを貯蔵タンク21に充填してもよく、貯蔵タンク21内に被酸化性金属、炭素材料及び水を入れて撹拌混合することで調製してもよい。塗料Sは高い水分量を有していることに起因して、流動性を有し、スラリー状となっている。塗料Sの成分の沈殿等を抑制し、均一性を維持する観点から、塗料Sはその供給時に撹拌されていることが好ましい。
【0022】
塗料Sは、貯蔵タンク21から供給路27を介し、塗工ヘッド30に送液される。後述する塗料Sの均一塗工性をより向上させる観点から、塗料Sは、複数の供給路27それぞれに配された移送ポンプ22を用いて送液されることが好ましい。換言すれば、塗料Sは、貯蔵タンク21と塗工ヘッド30との間に配された移送ポンプ22を用いて塗工ヘッド30に導入されることが好ましい。
塗料Sは、被酸化性金属の粒子等が凝集した凝集物が発生することがある。凝集物による詰まりの発生を効果的に抑制して、安定して塗料Sを塗工する観点から、塗料Sは、分散機を用いて分散された後、塗工ヘッド30に導入されることが好ましい。
【0023】
本製造方法は、塗工ヘッド30を用いて、基材シート2の一面に、塗料Sを塗工する塗工工程を具備する。本実施態様においては、原反ロール(不図示)から繰り出された基材シート2が受けロール61の周面に位置している状態で、塗工ヘッド30を用いて塗料Sを基材シート2の一面上に塗工する。また、塗料Sは、貯蔵タンク21から各供給路27a,27bを介して塗工ヘッド30に連続的に供給されており、基材シート2が搬送方向Rに搬送されていくにつれて、塗料Sが、基材シート2上にその搬送方向Rに沿って且つ連続的に塗工される。
【0024】
本工程において、塗料Sは、吐出口38から吐出される際又は吐出された後に合流する。本実施態様においては、塗料Sは、吐出口38から吐出される際に合流する。具体的には、第1吐出口38aと第2吐出口38bとが直交方向Eに隣接しているので、別々の流路35a,35bで送液された塗料Sが、これら吐出口38a,38bからの吐出時に合流する。「吐出口38から吐出される際に合流する」とは、異なる流路で送液された塗料Sが吐出口38近傍で合流することを意味する。このような形態には、例えば、異なる流路に対応する吐出口38どうしが直交方向Eに隣接する形態や、異なる流路35が単一の吐出口38に連通しており、該吐出口38近傍でこれら流路35が合流する合流部が形成されている形態が含まれる。「吐出された後に合流する」形態は、後述する第2及び第3実施態様にて説明する。
【0025】
合流した塗料Sは、1本の帯状の塗工部3を形成する。本実施態様においては、図3に示すように、合流した塗料Sが基材シート2の一面上に配され、帯状の塗工部3を形成する。塗料Sは、図3に示すように、吐出時に1本の帯状に塗工されるが、後述する第2及び第3実施態様のように、吐出時に複数本の帯状に塗工されてもよい。図3では、塗工工程と貼り合わせ工程を図示している。
【0026】
以上のように、本製造方法では、塗工工程において幅拡大領域を有する流路35を複数備える塗工ヘッド30を用いる。塗工工程では、複数の流路35で塗料Sを搬送するので、直交方向Eにおける被酸化性金属の分布を流路毎に精度よく制御でき、各流路35が幅拡大領域を有するので、塗料Sにおける被酸化性金属の含有量が多くても、直交方向Eに塗料Sを広げ易い。その結果、合流した塗料Sで形成される1本の塗工部3全体に被酸化性金属を均一に分布させることができる。このように塗料Sを均一に塗工する効果を均一塗工効果ともいう。本製造方法によって得られる発熱体は、塗料中の被酸化性金属の含有量が多い場合であっても、発熱体中に均一に被酸化性金属を分布させることができる。そのため、発熱体の単位面積当たりの発熱量にムラが生じ難く且つ優れた発熱特性が得られる。
【0027】
塗料Sの均一塗工性をより向上させる観点から、塗工ヘッド30における流路35の寸法等は以下の範囲内であることが好ましい。
流路35の最大幅L3(図2参照)は、流路35の最小幅L1(図2参照)に対して好ましくは150%以上、より好ましくは200%以上であり、また好ましくは600%以下、より好ましくは500%以下であり、また好ましくは150%以上600%以下、より好ましくは200%以上500%以下である。流路35には導入口32及び吐出口38が含まれるものとし、流路35の幅は、塗工ヘッド30の平面視における直交方向Eの長さを意味する。
流路35の最小幅L1(図2参照)は、好ましくは7mm以上、より好ましくは10mm以上であり、また好ましくは25mm以下、より好ましくは20mm以下であり、また好ましくは7mm以上25mm以下、より好ましくは10mm以上20mm以下である。
流路35の最大幅L3(図2参照)は、好ましくは20mm以上、より好ましくは25mm以上であり、また好ましくは50mm以下、より好ましくは45mm以下であり、また好ましくは20mm以上50mm以下、より好ましくは25mm以上45mm以下である。
【0028】
塗料Sの均一塗工性をより向上させる観点から、移送ポンプ22は、複数の導入口32毎に配され、該移送ポンプ22によって複数の導入口32毎に塗料Sの搬送量が調整可能になされていることが好ましい。
【0029】
均一塗工効果をより確実に奏させる観点から、塗工部3の幅は、好ましくは20mm以上、より好ましくは35mm以上であり、また好ましくは150mm以下、より好ましくは100mm以下であり、また好ましくは20mm以上150mm以下、より好ましくは35mm以上100mm以下である。
【0030】
本実施態様の塗工ヘッド30aは、複数の流路35a,35b毎に吐出口38a,38bが形成されていたが、複数の流路35a,35bが単一の吐出口38を共有していてもよい。換言すれば、塗料Sの送液方向Dにおいて、吐出口38よりも導入口32側に複数の流路35が合流する合流部を有し、単一の吐出口38から塗料Sを吐出してもよい。この場合、合流部は、吐出口38から前記送液方向Dの導入口32側に好ましくは30mm以下、より好ましくは15mm以下に位置する。
【0031】
本製造方法は、基材シート2の一面に塗料Sを塗工した後、該塗料S、即ち塗工部3の上から他のシートを貼り合わせる、貼り合わせ工程を具備する。本実施態様においては、原反ロール(不図示)から繰り出された貼り合わせシート5を、基材シート2の塗工部3側に積層して、図7に示すような発熱体1を製造する。
本製造方法では、塗工工程後又は貼り合わせ工程後に、必要に応じて、塗工部3にニップロール等の圧着手段(図示せず)によって圧着を施すこともできるが、圧着手段による圧着を施さないことが好ましい。斯かる構成により、圧着手段に塗料S中の被酸化性金属が転写されて、塗料S中の被酸化性金属の含有量が減少することや、圧着によって塗工部における被酸化性金属の分布の均一性が損なわれることを抑制できる。
【0032】
図4には、本発明の発熱体の製造方法に用いられる塗工ヘッドの他の実施形態が示されている。後述する第2実施態様については、図1図3に示す第1実施態様と異なる構成部分を主として説明し、同様の構成部分は同一の符号を付して説明を省略する。特に説明しない構成部分は、第1実施態様についての説明が適宜適用される。
【0033】
第2実施態様において塗工ヘッド30bは、図4に示すように、複数の流路35それぞれの出口として、吐出口38a,38bを複数有している。塗工ヘッド30bは、複数の吐出口38a,38bが、互いに直交方向Eに離間して形成されているので、塗料Sを複数の帯状に塗工する。具体的には、図5に示すように、複数の吐出口38a,38bそれぞれから塗料Sを吐出して、基材シート2の一面上に、帯状の小塗工部3aを複数列形成する。
【0034】
本実施態様において、塗料Sは吐出された後に合流する。例えば、基材シート2の一面上に形成された複数列の小塗工部3aは、該小塗工部3aの端部どうしが接触して、1本の帯状の塗工部3を形成する。この場合、小塗工部3aどうしは、図5に示すように、自然に濡れ広がって、1本の帯状の塗工部3を形成してもよく、図6に示すように、他のシート5の貼り合わせにより広がって、1本の帯状の塗工部3を形成してもよい。他のシートは、前述した貼り合わせシート5である。図5及び図6に示すように、塗料Sは、吐出口38から吐出された後であって、基材シート2の一面上にて合流してもよい。図6に示す態様では、貼り合わせシート5の貼り合わせによって、小塗工部3aの塗料が基材シート2の幅方向に広がって、別の小塗工部3aの塗料と合流し、1本の帯状の塗工部3が形成されている。即ち、図6に示す一部破断部分のように、貼り合わせ工程後の貼り合わせシート5と基材シート2との間に1本の帯状の塗工部3が形成されている。
また、塗料Sは、吐出口38から吐出された後であって、基材シート2に到達する前に合流してもよい。この場合、塗料Sは吐出口38から基材シート2に達するまでの間に、複数の帯状から1本の帯状に変化する。
【0035】
図4に示すように、塗工ヘッド30bは、複数の吐出口38a,38bが、互いに直交方向Eに離間して形成されている場合、均一塗工効果をより確実に奏させる観点から、複数の吐出口38a,38bの寸法等は以下の範囲内であることが好ましい。
各吐出口38a,38bの幅L15,L16(図4参照)は、複数の吐出口38a,38bに亘る最大長さL10(図4参照)に対して好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上であり、また好ましくは49%以下、より好ましくは48%以下であり、また好ましくは35%以上49%以下、より好ましくは40%以上48%以下である。吐出口38a,38bの幅L15,L16は、塗工ヘッド30bの平面視における吐出口38a,38bの直交方向Eの長さである。複数の吐出口38a,38bに亘る最大長さL10は、塗工ヘッド30bの平面視における、直交方向Eにおいて離間距離が最大となる吐出口の側縁間の長さである。即ち、複数の吐出口38a,38bに亘る最大長さL10は、直交方向Eにおける吐出口38a,38b間の離間距離L13を含む。
直交方向Eにおける吐出口38a,38b間の離間距離L13(図4参照)は、複数の吐出口38a,38bに亘る最大長さL10(図4参照)に対して好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上であり、また好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下であり、また好ましくは1%以上30%以下、より好ましくは2%以上20%以下である。
直交方向Eにおける吐出口38a,38b間の離間距離L13(図4参照)は、好ましくは0.5mmより大きく、より好ましくは1mm以上であり、また好ましくは10mm以下、より好ましくは7mm以下であり、また好ましくは0.5mm以上10mm以下、より好ましくは1mm以上7mm以下である。
【0036】
均一塗工効果をより確実に奏させる観点から、小塗工部3aの幅は、好ましくは15mm以上、より好ましくは20mm以上であり、また好ましくは150mm以下、より好ましくは80mm以下であり、また好ましくは15mm以上150mm以下、より好ましくは20mm以上80mm以下である。
【0037】
以上の製造方法により製造された発熱体1は、図7に示すように、基材シート2と貼り合わせシート5との間に塗料Sからなる塗工部3が配された構造となっている。各シート2,5の構成材料としては、当該技術分野において従来用いられてきたものと同様のものを用いることができ、例えば、合成樹脂フィルム等の不透気性材料、不織布や紙等の繊維シートからなる透気性材料、あるいは該不透気性材料と該繊維シートとのラミネート等が挙げられる。また、各シート2,5は吸水性を有していてもよいこのようなシートとしては、例えば親水性繊維を含む繊維シート、吸水性ポリマーの粒子及び親水性繊維を含む繊維シート等が挙げられる。各シート2,5は同じ材料で構成されていてもよく、異なる材料から構成されていてもよい。酸化反応に起因した発熱体の発熱持続性の観点から、各シート2,5のうち、少なくとも一方のシートは透気性を有していることが好ましい。
【0038】
各シート2,5の坪量は、好ましくは10g/m以上、より好ましくは20g/m以上であり、また好ましくは3000g/m以下、より好ましくは2000g/m以下である。発熱特性をより向上させる観点から、発熱体1における塗料Sの坪量は、好ましくは10g/m以上、より好ましくは20g/m以上であり、また好ましくは3000g/m以下、より好ましくは2500g/m以下である。
【0039】
本発明によって製造された発熱体1は、これをそのままの状態で、又は発熱体1の全体を、通気性を有する多孔性シートなどの包材で被覆又は封入された状態で、使い捨てカイロなどの発熱具として使用することができる。本発明が適用可能な発熱具は、人体に直接適用されるか、又は衣類に適用されて、人体の加温に好適に用いられる。人体における適用部位としては例えば肩、首、顔、目、腰、肘、膝、太腿、下腿、腹、下腹部、手、足裏等が挙げられる。また、本発明が適用可能な発熱具は、人体の他に、各種の物品に適用されてその加温や保温等にも好適に用いられる。また、発熱具を適用部位に固定するために、包材の外面に公知の粘着剤が塗工されていてもよい。
【0040】
本発明の発熱体の製造に用いられる塗料は、被酸化性金属を含む。本明細書における被酸化性金属とは、空気中の酸素と反応して酸化し、熱を発生する性質を有する金属を指す。被酸化性金属としては、例えば鉄、アルミニウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム、カルシウム等が挙げられ、これらのうち一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。取り扱い性、安全性、製造コスト及び保存安定性の観点から、被酸化性金属は鉄を主体として含んでいることが好ましく、酸化反応の反応性及び発熱組成物の流動性の確保の観点から、その形状は粒状又は粉状であることが好ましく、これらの利点を好適に得る観点から、粉状の鉄、つまり鉄粉を用いることが特に好ましい。鉄粉としては、例えば、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉などが挙げられる。
【0041】
鉄を主体として含んでいる被酸化性金属を用いた場合、被酸化性金属中の金属鉄分の含有量は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、またその上限は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。被酸化性金属中の金属鉄分の含有量がこのような範囲にあることで、発熱体の発熱特性をより確実に発揮することができる。被酸化性金属における金属鉄分の含有量は、例えばISO5416に規定される臭素-メタノール溶解法によって測定することができる。
【0042】
なお、被酸化性金属には、他の成分として、例えばシリカ(SiO)を3質量%以下程度、炭素(C)を15質量%以下程度、アルミナ(Al)を3質量%以下程度含有していてもよい。また被酸化性金属は、その製造時においても大気中の酸素と常温で反応して不可避的に酸化されているため、酸素(O)を10質量%以下程度含有しうる。これらの他の成分は、主として、被酸化性金属の製造工程において不可避的に混入するものである。
【0043】
発熱体の発熱特性をより向上させる観点から、塗料Sにおける被酸化性金属の含有量は、塗料100質量部に対して、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上であり、また好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下であり、また好ましくは40質量部以上70質量部以下、より好ましくは50質量部以上60質量部以下である。
【0044】
発熱組成物に含まれる被酸化性金属として粒状又は粉状のものを用いたときに、その平均粒子径は10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、またその上限は、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。具体的には、被酸化性金属の平均粒子径は10μm以上150μm以下であることが好ましく、20μm以上100μm以下であることがより好ましい。このような平均粒子径を有する被酸化性金属を発熱組成物に用いることによって、発熱体の発熱特性を向上させるとともに、発熱体の薄型化を図ることができる。
【0045】
被酸化性金属の平均粒子径としては、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定される体積基準のメジアン径を用いる。被酸化性金属として鉄粉を用いた場合には、例えば、株式会社堀場製作所製LA‐950V2を用い、標準の湿式循環セルを利用し、鉄粉の屈折率を実数部3.5、虚数部3.8iとし、分散媒として水を用い屈折率を1.33とし、循環速度を15に、撹拌を5にそれぞれ設定し、体積基準のメジアン径をもって、鉄粉の平均粒子径の測定結果とする方法が用いられる。
【0046】
塗料Sの均一塗工効果をより確実に奏させる観点から、塗料Sの粘度は、好ましくは500mPa・s以上、より好ましくは600mPa・s以上、さらに好ましくは800mPa・s以上、さらに一層好ましくは1000mPa・s以上であり、また好ましくは18000mPa・s以下、より好ましくは15000mPa・s以下、さらに好ましくは13000mPa・s以下、さらに一層好ましくは12000mPa・s以下であり、また好ましくは500mPa・s以上18000mPa・s以下、より好ましくは600mPa・s以上15000mPa・s以下、さらに好ましくは800mPa・s以上13000mPa・s以下、さらに一層好ましくは1000mPa・s以上12000mPa・s以下である。粘度は、東機産業株式会社製のB型粘度計TVB-10を用いて、ローターNo.4、6rpm、24℃、60秒間の測定条件で測定される。
【0047】
塗料Sは、水を含んでいてもよい。水は、被酸化性金属の酸化反応に用いられる他、発生する熱を適温に冷却する冷媒としても用いられる。塗料Sの流動性を確保して均一塗工効果をより向上させる観点から、塗料Sにおける水の含有量は、塗料Sにおける被酸化性金属100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは60質量部以上であり、また好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。
【0048】
塗料Sは、炭素材料を含んでいてもよい。発熱組成物に含有される炭素材料は、保水能、酸素保持能、酸素供給能、及び触媒能の少なくとも一つの機能を有するものであり、これらの機能を全て有しているものが好ましい。炭素材料としては、例えば活性炭、アセチレンブラック、黒鉛、グラファイト、石炭等が挙げられ、これらのうち一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、高い比表面積を有することに起因して、保水能、酸素保持能及び酸素供給能を十分に発揮できる観点から、炭素材料として活性炭を用いることが好ましい。炭素材料として用いられる活性炭は、例えばヤシ殻炭、木炭粉、ピート炭等の粉状物や粒状物が挙げられる。
【0049】
発熱体の発熱特性をより向上させる観点から、塗料Sにおける炭素材料の含有量は、塗料Sにおける被酸化性金属100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、また好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。炭素材料の含有量がこのような範囲であることによって、被酸化性金属の酸化反応効率を長時間維持させることができる。その結果、発熱体の発熱特性を十分に発揮させることができる。
【0050】
塗料Sには、被酸化性金属、炭素材料及び水の他に、必要に応じて他の添加剤を含有することもできる。添加剤としては、例えば、水分保持や酸素供給を目的とした反応促進剤や、発熱組成物の塗布性を良好にすることを目的とした増粘剤及び界面活性剤などが挙げられる。反応促進剤としては、例えばゼオライト、パーライト、バーミキュライト、シリカ、アルミナ、チタニア、おがくず等を含有させることができる。増粘剤としては、例えば水分を吸収し、稠度を増大させるか、又はチキソトロピー性を付与する物質が挙げられる。例えば、ベントナイト、ステアリン酸塩、ポリアクリル酸ソーダ等のポリアクリル酸塩;ゼラチン、トラガカントゴム、ローカストビーンガム、グアーガム、アラビアガム、アルギン酸ソーダ等のアルギン酸塩;ペクチン、カルボキシビニルボリマー、デキストリン、α化澱粉及び加工用澱粉などの澱粉系吸水剤;カラギーナン及び寒天などの多糖類系増粘剤;カルボキシメチルセルロース、酢酸エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体系増粘剤などを用いることができる。界面活性剤としては、例えば芳香族スルホン酸とホルマリンとの縮合物、又は特殊カルボン酸型高分子界面活性剤を主成分とする陰イオン性界面活性剤などを用いることができる。
【0051】
被酸化性金属の酸化反応効率を上げるとともに、被酸化性金属の酸化反応を持続させる観点から、発熱体1は、発熱組成物として塩を含有していることが好ましい。発熱組成物中に塩を含む場合には、水に溶解した状態となっている。塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄等の塩化物(ハロゲン化物の塩)や、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸塩、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物等が挙げられる。これらの塩は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
以上、本発明をその好ましい実施態様に基づき説明したが、本発明は前記実施態様に制限されない。例えば、第1実施態様では、図3に示すように、塗工ヘッド30は、基材シート2の幅方向中央域に塗料Sを塗工可能に構成されていたが、塗工ヘッド30は、基材シート2の幅方向全域に亘って塗料Sを塗工可能に構成されていてもよい。
また、塩を含有する発熱体を製造する場合、塗料Sに塩を加える工程を具備してもよい。斯かる工程としては、例えば、塗工部3を形成した後、該塗工部3に塩を散布する工程等が挙げられる。
【符号の説明】
【0053】
1 発熱体
2 基材シート
3 塗工部
3a 小塗工部
5 貼り合わせシート
10 製造装置
20 塗工部形成部
21 貯蔵タンク
30 塗工ヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7