(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】グリセリドの形態におけるn-3脂肪酸の酵素的濃縮
(51)【国際特許分類】
C12P 7/6427 20220101AFI20230119BHJP
C12P 7/6432 20220101ALI20230119BHJP
C12P 7/6434 20220101ALI20230119BHJP
C12P 7/6472 20220101ALI20230119BHJP
C12N 9/20 20060101ALI20230119BHJP
C12N 11/08 20200101ALI20230119BHJP
【FI】
C12P7/6427
C12P7/6432
C12P7/6434
C12P7/6472
C12N9/20
C12N11/08
(21)【出願番号】P 2019533073
(86)(22)【出願日】2017-12-19
(86)【国際出願番号】 IL2017051362
(87)【国際公開番号】W WO2018116297
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-18
(32)【優先日】2016-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509192802
【氏名又は名称】トランス バイオ - ディーゼル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バシェール、ソービ
(72)【発明者】
【氏名】エグバリエ、アーマド
(72)【発明者】
【氏名】マスリ、ラメス
【審査官】原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04897352(US,A)
【文献】中国特許出願公開第104694526(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
C12N
C12M
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)約5%~約60%w/wのn-3PUFA部分含量を有する油であって、前記n-3PUFA部分が前記油中に含有される遊離酸として、またはグリセリドおよび/もしくは極性脂質のアシル基として存在する油を用意するステップと;
(b)前記油に、前記油の0.2~10%w/wの量で水またはアルカリ性水性緩衝液を添加して、pH約5~約9の混合物を得るステップと;
(c)ステップ(b)で得られた前記混合物にリパーゼを添加
して、混合物を得るステップであって、前記リパーゼがポリマー樹脂支持体上に固定化され
てリパーゼ調製物を形成し、
前記樹脂が交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメインを含み、ここで
前記疎水性ドメインが架橋したジビニルベンゼン(DVB)モノマーで構成され、かつ、
前記温和な親水性ドメインがメタクリル酸メチルエステルで構成され、
前記リパーゼが飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸またはその脂肪酸アシル基に対して高い選択性を示し、前記油を同時または連続的にエステル交換および/またはエステル化することができるステップと;
(d)アルキルアルコールまたはアルコールドナー、ここで
該アルキルアルコールはエタノール又はメタノールであり、または該アルコールドナーはジエチルもしくはジメチルカーボネートのいずれかである、を用意し、前記アルコールまたはアルコールドナーを、ステップ(c)で得られた前記油と前記
リパーゼ調製物の前記混合物に段階的に添加して、前記油、前記リパーゼ調製物、前記水またはアルカリ性水性緩衝液および前記アルコール又はアルコールドナーを含む反応系を形成し(前記油は前記アルコール又はアルコールドナーと反応する)、前記反応を、前記反応系に使用される油の、少なくとも40重量%の前記油の脂肪酸エチルエステル(FAEE)および脂肪酸メチルエステル(FAME)、10重量%未満の遊離脂肪酸(FFA)および約15重量%~約60重量%のグリセリドへの転換率に到達させるステップと;
(e)前記反応系から前記
リパーゼ調製物を除去することによって前記反応を停止させ、引き続いて蒸発させて、過剰なアルコールおよび水を除去して、FAEE、FAME、FFAならびにモノ-、ジ-およびトリ-グリセリドの混合物を含む生成物を得るステップと;
(f)ステップ(e)で得られた前記生成物から前記脂肪酸エチルおよびメチルエステルおよび遊離脂肪酸を分子蒸留、短行程または薄膜蒸留のうちのいずれか1つで留去することによって前記FAEE、FAMEおよびFFAから前記グリセリドを単離して、FAEE、FAMEおよびFFAを含む留出物ならびにグリセリド混合物を含む残渣を得るステップであって、前記
グリセリド混合物が前記油と比較して高いオメガ-3脂肪酸含量を含有し、回収率が60%より高いステップと
を含む、グリセリドとしてのn-3多価不飽和脂肪酸(n-3PUFA)を濃縮するための酵素的方法。
【請求項2】
前記ステップ(e)で得られる生成物が更に極性脂質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)約5%~約60%w/wのn-3多価不飽和脂肪酸を含む油を用意するステップであって、前記n-3脂肪酸が前記油中のグリセリドもしくは極性脂質のグリセロール骨格に結合した脂肪酸アシル基として、および/または遊離脂肪酸として存在し、前記油が遊離またはエステル化飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸も含むステップと;
(b)前記油に、前記油の0.2~10%w/wの量で水またはアルカリ性水性緩衝液を添加して、pH約5~約9の混合物を得るステップと;
(c)ステップ(b)で得られた前記混合物にリパーゼを添加
して、混合物を得るステップであって、前記リパーゼがポリマー樹脂支持体上に固定化され
てリパーゼ調製物を形成し、前記樹脂が交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメインを含み、ここで該疎水性ドメインは架橋したジビニルベンゼン(DVB)モノマーで構成され、該温和な親水性ドメインはメタクリル酸メチルエステルで構成され、前記リパーゼが飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸またはその脂肪酸アシル基に対して高い選択性を示し、前記油を同時または連続的にエステル交換および/またはエステル化することができるステップと;
(d)エタノール又はメタノールのいずれか一つであるアルキルアルコールまたはジエチルカーボネート又はジメチルカーボネートのいずれか一つであるアルコールドナーを用意し、前記アルコールまたはアルコールドナーを、ステップ(c)で得られた前記油と前記
リパーゼ調製物の前記混合物に段階的に添加して、前記油、前記水または水性アルカリ性緩衝液、前記リパーゼ調製物および前記アルコールを含む反応系を形成し(前記油は前記アルコールと反応する)、前記反応を、前記反応系に使用される油の、少なくとも40重量%の前記油の脂肪酸エチルエステル(FAEE)および脂肪酸メチルエステル(FAME)、10重量%未満の遊離脂肪酸(FFA)および約15重量%~約60重量%のグリセリドへの転換率に到達させるステップと;
(e)前記反応系から前記
リパーゼ調製物を除去することによって前記反応を停止させ、引き続いて前記反応物を蒸発させて過剰なアルコールおよび水を除去して、FAEE、FAME、FFAならびにモノ-、ジ-およびトリ-グリセリドの混合物を含む生成物を得るステップと;
(f)ステップ(e)で得られた前記生成物から前記脂肪酸エチルおよびメチルエステルおよび遊離脂肪酸を分子蒸留、短行程または薄膜蒸留のうちのいずれか1つで留去することによって前記FAEE、FAMEおよびFFAから前記グリセリ
ドを単離して、FAEE、FAMEおよびFFAを含む留出物ならびにグリセリド混合物を含む残渣を得るステップであって、前記グリセリド混合物が前記油と比較して高いオメガ-3脂肪酸含量を含有し、回収率が60%より高いステップと
を含む、約30%~約80%w/w、又は約50%~80%w/w、又は約50%~70%w/w、のn-3多価不飽和脂肪酸部分を有するグリセリドの混合物を調製する方法。
【請求項4】
前記ステップ(e)で得られる生成物が更に極性脂質を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記油が、魚油または藻油、真菌油、またはn-3脂肪酸を含有する適切な油性物質のいずれか一つである食用油である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記n-3脂肪酸部分がDHA、DPAおよびEPA部分のうちのいずれか1つ、ならびにそれらの少なくとも2つの任意の混合物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、サーモミセス・ラヌギノス(Thermomyces lanuginose)、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種、バークホルデリア属(Burkholderia)種またはクロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)のいずれか1つに由来する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記疎水
性ドメインと前記温和な親水性ドメインとの間の重量比が、それぞれ約10:0.1~約1:10である、請求項2から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(f)で得られた前記グリセリド混合物を、反応混合物中でその遊離形態にある、またはポリマー樹脂支持体上に固定化された適切なリパーゼ、ここで該リパーゼは、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)由来のリパーゼであってよい、の存在下で、(i)n-3遊離脂肪酸濃縮物、または(ii)n-3脂肪酸短鎖アルキルエステル濃縮物の少なくとも1つと反応させて、前記反応混合物からの過剰な脂肪酸エチルエステルおよび/または脂肪酸、ならびにエタノールおよび/または水副産物の蒸留後に60%超の、60%超のn-3脂肪酸を含有するトリグリセリドを含むグリセリド混合物を得る、請求項2から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(a)約5%~約60%w/wの、DHA、DPAおよびEPAのうちのいずれか1つ、ならびにそれらの少なくとも2つの任意の混合物である、n-3多価不飽和脂肪酸を含む油を用意するステップであって、前記n-3脂肪酸が前記油中のグリセリドのグリセロール骨格に結合した脂肪酸アシル基として、ならびに/または遊離脂肪酸として存在し、前記油が遊離またはエステル化飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸も含むステップと;
(b)前記油に、前記油の0.2~10%w/wの量で水またはアルカリ性水性緩衝液を添加して、pH約5~約9の混合物を得るステップと;
(c)ステップ(b)で得られた前記混合物にシュードモナス属(Pseudomonas)種リパーゼ(PSリパーゼ)調製物を添加
して、混合物を得るステップであって、前記PSリパーゼが、ポリマー支持体1g当たり5000ユニットより高い前記PSリパーゼの充填量でポリマー樹脂支持体上に固定化され
てPSリパーゼ調製物を形成し、前記樹脂が交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメインを含み、ここで該疎水性ドメインは架橋したジビニルベンゼン(DVB)モノマーで構成され、該温和な親水性ドメインはメタクリル酸メチルエステルで構成され、前記
PSリパー
ゼが、その遊離形態でまたはグリセロールもしくは極性脂質に結合している場合に飽和、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸に対して高い選択性を示し、前記脂肪酸を同時または連続的にエステル交換/エステル化することができるステップと;
(d)エタノール又はメタノールを用意し、前記エタノール又はメタノールを、ステップ(c)で得られた前記油、前記水またはアルカリ性水性緩衝液および前記
PSリパーゼ調製物の前記混合物に段階的に添加、して、前記油、前記
PSリパーゼ調製物、前記水または水性緩衝液および前記
エタノール又はメタノールを含む反応系を形成し(前記油は前記
エタノール又はメタノールと反応する)、前記反応を、約70%の前記油の脂肪酸アルキルエステルへの転換率に到達させるステップと;
(e)前記
PSリパーゼ調製物を除去することによって前記反応を停止させ
て得られた、遊離脂肪酸副産物および過剰なエタノール又はメタノールに加えて、脂肪酸エチルエステル(FAEE)又はメチルエステル(FAME)、モノ-、ジ-および残留トリ-グリセリドを含有す
る反応混合物の有機上相/画分を回収するステップと;
(f)ステップ(e)で得られた前記有機相を、ポリマー樹脂支持体上に固定化されたサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼ(TL
リパーゼ)
調製物の存在下で、エタノール又はメタノール、と反応させ(前記樹脂は交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメインを含み、ここで該疎水性ドメインは架橋したジビニルベンゼン(DVB)モノマーで構成され、該温和な親水性ドメインはメタクリル酸メチルエステルで構成される)、前記反応を、前記油中少なくとも97%w/w、少なくとも98%w/w、少なくとも99%w/wおよび最大100%の、脂肪酸アシル基がそのエチルエステル又はメチルエステル、に転換されるまで継続させるステップと;
(g)
ステップ(f)で得られた反応混合物から前記
TLリパーゼ調製物を除去することによって前記反応を停止させ、引き続い
て蒸発させて、過剰なエタノール及びメタノールおよび水を除去するステップと;
(h)分別蒸留によって
ステップ(g)で得られた反応混合物から前記n-3多価不飽和脂肪酸エタノール及びメタノールエステル濃縮物を単離するステップと
を含む、n-3脂肪酸エチル又はメチルエステルを酵素的に調製する方法。
【請求項11】
前記ステップ(a)で得られる生成物が更に極性脂質を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記疎水
性ドメインと前記温和な親水性ドメインとの間の重量比が、それぞれ約10:0.1~約1:10である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記PSリパーゼ調製物および前記TLリパーゼ調製物が、同じバッチの各前記PSリパーゼ調製物およびTLリパーゼ調製物を使用して少なくとも20反応サイクルにわたってそれらの触媒活性の少なくとも70%を維持する、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(h)で得られた前記単離された3-n多価不飽和脂肪酸エチル及びメチルエステルを、前記エステルの前記n-3脂肪酸アシル部分をグリセロールとエステル交換することができるリパーゼの存在下で、グリセロールとさらに反応させ(前記リパーゼは適切なポリマー樹脂支持体上に固定化され、ここで前記樹脂が交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメインを含み、
前記疎水性ドメインが架橋したジビニルベンゼンモノマーで構成され、かつ、前記温和な親水性ドメインがメタクリル酸メチルエステルで構成され、
前記反応系は前記単離された3-n多価不飽和脂肪酸エステル1重量当たり最大約1%の水を含む)、未反応グリセロールの除去および過剰な脂肪酸/脂肪酸エチル及びメチルエステル、および副産物としてのエタノール、メタノール、および/または水の蒸留後に、全形成グリセリドの50%超のトリグリセリドを含むグリセリドの混合物が形成されるまで、前記反応を進行させる、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記エステルの前記n-3脂肪酸アシル部分をグリセロールとエステル交換することができるリパーゼが、カンジダ・アンタークティカB(CALB)由来である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記n-3脂肪酸が遊離形態で、またはモノ-、ジ-もしくはトリグリセリドの脂肪酸部分として、魚油および油性油、の極性脂質として存在する、請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
n-3脂肪酸部分、特にEPAおよびDHAが濃縮されたグリセリドを含む組成物が開示される。n-3多価不飽和脂肪酸濃縮グリセリドを製造するための、ワンポットまたはマルチステップ多酵素触媒反応であり得る、開示される組成物を調製するための酵素的方法も開示される。
【背景技術】
【0002】
ここに開示される主題の背景として関連があると考えられる参考文献を以下に参照する。上に列挙される刊行物において参照されている刊行物もまたその全体が参照される。本明細書における上記の参考文献の承認は、これらがここに開示される主題の特許性に何らかの形で関連することを意味すると解釈されるべきではない。
【0003】
背景
概要
多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、2つ以上の二重結合を含む長鎖脂肪酸の群を表す。PUFAは、n-3(ω-3またはオメガ-3)脂肪酸およびn-6(ω-3またはオメガ-6)脂肪酸の2つの主要なグループに細分される。n-3脂肪酸群には、必須脂肪酸α-リノレン酸(ALA、18:3n-3)およびその長鎖代謝産物、すなわち、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)およびDPA(ドコサペンタエン酸)が含まれる一方で、n-6脂肪酸群には、とりわけ、アラキドン酸(ARA)およびリノール酸が含まれる。
【0004】
オメガ-3脂肪酸は動植物界の至る所に存在する。微生物、特に藻類、真菌および細菌は、この種の脂肪酸が最も豊富な種と考えられている。これらの脂肪酸は、典型的には貯蔵油トリグリセリド中に、またエステル、リン脂質、エーテル、糖脂質、スフィンゴ脂質およびリポタンパク質の脂肪酸アシル基の形態で膜脂質中に存在する。遊離脂肪酸および短鎖脂肪酸アルキルエステル、例えば脂肪酸エチルエステルは酸化および分解をより受けやすいので、PUFA部分のトリグリセリドへの組み込みがこれらの脂肪酸を貯蔵するための最も好ましい形態である。また、脂肪酸部分のトリグリセリドへの組み込みは、それらが遊離形態に容易に加水分解可能であり、それが食品、栄養補助食品および医薬品に使用されると消化系に容易に吸収されるために好ましい[Christensen,M.S.ら、Am.J.Clin.Nutr.1995、61:56]。
n-3脂肪酸の濃縮および分離方法
【0005】
天然源からn-3脂肪酸およびその誘導体(メチルまたはエチルエステル、トリグリセリドおよびアミド)を濃縮、分離および回収するために、様々な方法が別々にまたは組み合わせて適用されてきた。これらの方法には、主として低温での分別結晶、分子蒸留、尿素付加物結晶化、静止層クロマトグラフィー、およびまたリパーゼの使用が含まれる。これらの濃縮方法は、通常、脂肪酸の不飽和度および炭素鎖長も利用し、これらは共に、様々な溶媒への溶解度、結晶化、融点および蒸発点、極性および化学反応性に関する種々の物理的および化学的特性を示すことにつながる。
リパーゼ触媒反応によるn-3脂肪酸の濃縮
リパーゼは、水性系中のトリアシルグリセロール分子中のエステル結合に作用して遊離脂肪酸、部分グリセリドおよびグリセロールを生じる加水分解酵素として定義される。微水性有機系では、この群の酵素は逆加水分解反応を触媒することができる[Medina,A.R.ら、J.Biotechnology、1999、70:379;Shimada,Y.ら、J.Biosci.Bioeng.、2001、91(6):529]。一般に、リパーゼはそれらの位置特異性に従って2つのクラス、すなわちランダムリパーゼと1,3-位置特異的リパーゼに分類される。多くの場合、リパーゼは、脂肪酸の飽和度、脂肪酸アシル基の鎖長、脂肪酸の炭素鎖上の二重結合の位置、および炭素鎖上の二重結合の幾何学(シス/トランス)に関連して様々な基質活性を露出する。
【0006】
PUFA含有油のリパーゼ触媒加水分解
一定のリパーゼは、トリグリセリド基質の脂肪酸残基の種類に対する選択性を発現する。例えば、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)およびカンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)由来のリパーゼは、トリグリセリド中の飽和およびモノ不飽和脂肪酸残基に対してより高い選択性を有することが知られている酵素である。このような方法では、ある程度の油の加水分解を達成した後、有機層と水層を分離する。その後、有機相中の遊離脂肪酸を分子蒸留によって除去してグリセリドの形態におけるn-3脂肪酸の濃縮物を得る[米国特許出願公開第2004/0033571号明細書]。カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)由来のリパーゼによるマグロ魚油の加水分解により、44.1%のn-3脂肪酸(18.5%のEPA、17.3%のDHAおよび3.62%のDPA)を含有するグリセリド混合物が得られたことが報告されている。より高いn-3脂肪酸含量、例えば最大70%のn-3脂肪酸を得るために、第1段階で得られた濃縮物に第2段階のリパーゼによる加水分解を適用することができる。また、複数の加水分解段階がn-3脂肪酸の回収率を低下させる可能性があることも報告されている。
【0007】
遊離脂肪酸のリパーゼ触媒選択的エステル化
いくつかのリパーゼが、種々の遊離脂肪酸の混合物とアルコールのエステル化反応において、脂肪酸の種類に関して異なる特異性を有することが確認されている。このような方法は、遊離脂肪酸を得るために化学的に、例えば苛性ソーダを用いた、またはランダムで非選択的なリパーゼを用いた油の加水分解、および一定の種類の脂肪酸に対する選好性を有するリパーゼを使用した、短鎖アルコールによる第1の段階で得られた遊離脂肪酸の選択的エステル化の二段階で行われる[Shimada,Y.ら、(2001)同上;米国特許6159523号明細書]。
【0008】
この種の二段階酵素法は、n-3脂肪酸の濃縮ならびに個々の脂肪酸の濃縮に使用されてきた。例えば、EPA(14%)およびDHA(15%)を含有する化学または酵素加水分解によって得られる遊離脂肪酸加水分解物をエタノールで直接エステル化してEPAおよびDHAエチルエステルを得た。反応は、典型的には、飽和、モノ-およびジ-不飽和脂肪酸、ならびにある程度EPAに対して高い選択性を有する、ムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)リパーゼ(MML)などのリパーゼによって触媒される。例えば、遊離脂肪酸の脂肪酸エチルエステルへの転換率が約70%に到達し、未エステル化脂肪酸が一般により高濃度のDHAを含有していたら、反応を停止することができる。この方法に従って、それぞれ73%および10%の回収率で49%のDHAおよび6%のEPAを含有するn-3脂肪酸濃縮物が得られた[Watanabe,Y.ら、J.Bioscience and Bioengineering.1999、88(6):622;米国特許出願公開第2006/0148047号明細書]。
【0009】
PUFA含有油のリパーゼ触媒アルコール分解
一定のリパーゼは有機媒体中でアルコール分解活性を有する。この種の反応では、トリグリセリドまたはn-ヘキサノールなどの中鎖脂肪アルコールを有する脂肪酸のエステルを、エタノールまたは他の短鎖アルコールと直接反応させる。この種の反応において使用される可能性のあるリパーゼは、ある種の脂肪酸または脂肪酸アシル基に対する選択性を有するものである[Watanabeら、同上;米国特許出願公開第2005/0233427号明細書、米国特許出願公開第2006/0148047号明細書;Shimadaら、同上]。アルコール分解反応を通したn-3脂肪酸の濃縮には、通常2つの方法が使用される:
a.第1の段階で、魚油脂肪酸のエチルエステルを調製するためのアルカリ触媒または非特異的リパーゼによる魚油トリグリセリドの完全なアルコール分解が行われる二段階アルコール分解反応。この反応は、典型的には、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)由来のリパーゼによって触媒される。第2の段階で、得られた魚油脂肪酸エチルエステルを、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)リパーゼなどのn-3脂肪酸に対して低い選択性を有するリパーゼを使用して、n-ヘキサノールなどの長鎖アルコールでエステル交換して、低いn-3脂肪酸アシル基含量を有する脂肪酸ヘキシルエステルおよび高いn-3脂肪酸アシル基含量を有する未反応脂肪酸エチルエステルを形成する。反応混合物を、n-3脂肪酸エチルエステルが濃縮された画分を得るために分別蒸留で処理することができる。真空下で触媒としてNovozym 435(固定化カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)リパーゼB、Novozymes、デンマーク)を使用し、65℃まで加熱することによって、n-3脂肪酸が濃縮された脂肪酸エチルエステルの画分をグリセロールでエステル交換して、n-3脂肪酸が濃縮されたトリグリセリドを形成することができる。
b.n-3脂肪酸が濃縮されたグリセリドおよびエステル交換反応の副産物としての低いn-3脂肪酸含量を有する脂肪酸アルキルエステルを形成するためのn-3脂肪酸アシル基に対して低い選択性を有するリパーゼを使用した魚油とエタノールなどの短鎖アルコールの一段階アルコール分解反応。この方法は、典型的には40~60%のn-3脂肪酸を有するグリセリドをもたらし、n-3脂肪酸の回収率は典型的には50~70%の範囲であるが、n-3脂肪酸の残りは副生成物中に現れる。
【0010】
PUFA含有油のリパーゼ触媒アシドリシス反応
研究業績によって、植物油と大部分は遊離脂肪酸またはそのエチルエステルであるn-3脂肪酸の豊富な供給源のリパーゼ触媒エステル交換が記載されている。リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)由来のリパーゼ(Novozymes製のLipozyme RM IM)が、これらの研究で使用される一般的な酵素である。この酵素は1,3-位置活性を示すので、達成され得る最終生成物中のPUFAの最高含量は66%である[Jennings,B.およびAkoh,C.C.、J.Am.Oil.Chem.Soc.1999、76(10):1133]。
【0011】
個々のn-3脂肪酸またはその混合物を含有する酵素的に調製された純粋なトリグリセリドもまた報告されている。この方法は、Novozym 435(いずれかの国における登録商標)(Novozymes、デンマーク)を使用して、n-3脂肪酸アシル基を含有するグリセロールまたは部分グリセリドを純粋なn-3脂肪酸またはその混合物と反応させることに基づいている。特に医薬用途のための、90%超の含量でn-3脂肪酸を含有するトリグリセリドの様々な調製物がこの方法に従って調製されている[米国特許第5604119号明細書]。
【発明の概要】
【0012】
第1の態様では、本開示は、(a)約5%~約60%w/wのn-3PUFA部分含量を有する油であって、n-3PUFA部分が前記油中に含有される遊離酸として、またはグリセリドおよび/もしくは極性脂質のアシル基として存在する油を用意するステップと;(b)前記油に、前記油の0.2~10%w/wの量で水またはアルカリ性水性緩衝液を添加して、pH約5~約9の混合物を得るステップと;(c)ステップ(b)で得られた混合物にリパーゼを添加するステップであって、前記リパーゼが適切なポリマー支持体上に固定化され、前記リパーゼが飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸またはその脂肪酸アシル基に対して高い選択性を示し、前記油を同時または連続的にエステル交換、加水分解および/またはエステル化することができるステップと;(d)アルキルアルコールまたはアルコールドナー、具体的には短鎖アルキルアルコールまたはアルコールドナーを用意し、前記アルコールまたはアルコールドナーを、ステップ(c)で得られた前記油と前記酵素調製物の混合物に添加、具体的には段階的に添加して、前記油、前記リパーゼ調製物、前記水または水性アルカリ性緩衝液および前記アルコールを含む反応系を形成し(前記油は前記アルコールと反応する)、前記反応を、反応系に使用される油の、少なくとも40重量%の前記油の脂肪酸アルキルエステル(FAEE)、10重量%未満の遊離脂肪酸(FFA)および約15重量%~約60重量%のグリセリドへの転換率に到達させるステップと;(e)前記反応系から前記反応媒体を除去することによって反応を停止させて、FAEE、FFAならびにモノ-、ジ-およびトリ-グリセリドの混合物、ならびに場合により極性脂質を含む生成物を得るステップと;(f)ステップ(f)で得られた生成物から前記脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸を留去することによって前記FAEEおよびFFAから前記グリセリドを単離して、FAEEおよびFFAを含む留出物ならびにグリセリド混合物および場合により極性脂質を含む残渣を得るステップであって、前記混合物が前記油と比較して高いオメガ-3脂肪酸含量を含有し、回収率が60%より高いステップとを含む、グリセリドとしてのn-3多価不飽和脂肪酸(n-3PUFA)を濃縮するための酵素的方法を提供する。
【0013】
前記油の0.2~10%w/wの量で添加される前記水またはアルカリ性水性緩衝液は、具体的には前記油の最大0.2%、0.5%、0.75%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%、5.0%、6.0%、6.5%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%および最大10%w/wの量で添加することができる。
【0014】
反応系のpHは、前記水または水性アルカリ性緩衝液を添加して約5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5または9.0に調整することができる。
【0015】
前記ステップ(d)で、反応系に使用される油の、少なくとも40重量%、具体的には少なくとも45重量%、または少なくとも50重量%および最大70重量%の前記油の脂肪酸アルキルエステル(FAEE)、10重量%未満、具体的には2~8重量%の遊離脂肪酸(FFA)および約15重量%~約60重量%、具体的には約15重量%、20重量%、25重量%~約30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%または60重量%のグリセリドへの転換率を達成するまで、反応を進行させることができる。
【0016】
本開示の前記第1の態様の方法のステップ(f)で得られるグリセリド混合物を含み、場合により極性脂質を含む生成物は、前記油と比較して高いオメガ-3脂肪酸含量を含有し、回収率は60%より高い、例えば、62%、65%、68%、70%、75%またはそれより高い。
【0017】
前記第1の態様の方法の具体的な実施形態では、ステップ(f)で反応生成物から留去された脂肪酸アルキルエステルと遊離脂肪酸の混合物が、前記油中に存在する全n-3脂肪酸のうちの40%未満のn-3脂肪酸部分、具体的には40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満およびそれ未満を含む。
【0018】
本開示の前記第1の態様の前記方法では、前記アルコールが、具体的にはエタノールまたはメタノールのいずれか1つであり得、前記短鎖アルキルアルコールドナーがジメチルまたはジエチルカーボナートのいずれか1つであり得る。
【0019】
本開示の前記第1の態様の前記方法では、前記蒸留が分子蒸留、短行程または薄膜蒸留のうちのいずれか1つである。
【0020】
本開示の前記第1の態様の前記方法では、前記n-3脂肪酸部分がDHA、DPAおよびEPA部分のうちのいずれか1つ、ならびにそれらの少なくとも2つの任意の混合物である。
【0021】
本開示の前記第1の態様の前記方法では、前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種、バークホルデリア属(Burkholderia)種、サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)またはクロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)のいずれか1つに由来し、具体的には前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種またはサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginose)のいずれか1つに由来する。
【0022】
本開示の前記第1の態様の前記方法では、前記リパーゼが、疎水性多孔質ポリマー樹脂支持体、具体的には疎水性脂肪族または芳香族樹脂支持体上に固定化され、特に疎水性芳香族樹脂が架橋ジビニルベンゼン(DVB)またはスチレンまたは架橋スチレン-DVBである。
【0023】
本開示の前記第1の態様の前記方法の実施形態では、ステップ(f)で得られた前記グリセリド混合物を、真空下および温度30~80℃で、反応混合物中適切なリパーゼ、具体的にはその遊離形態のまたはポリマー樹脂支持体上に固定化されたカンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)由来のリパーゼの存在下で、(i)n-3FFA濃縮物、または(ii)n-3脂肪酸短鎖アルキルエステル濃縮物の少なくとも1つとさらに反応させて、反応混合物からの過剰な脂肪酸エチルエステルおよび/または脂肪酸、ならびにアルコールおよび/または水副産物の蒸留後に60%超、具体的には約65%超、約70%超および最大約100%の、60%超のn-3脂肪酸を含有するトリグリセリドを含むグリセリド混合物を得ることができる。
【0024】
本開示の前記第1の態様の前記方法では、前記油が食用油、具体的には魚油または藻油、真菌油、またはn-3脂肪酸を含有する適切な油性物質であり得る。
【0025】
第2の態様では、本開示は、油源のエステル交換、エステル化および加水分解を含むリパーゼ触媒反応のグリセリド生成物中のn-3脂肪酸含量が有意に増加する一方で、反応の副産物(エタノール脂肪酸エチルエステルを使用した場合、主に遊離脂肪酸および脂肪酸アルキルエステル)中で減少するように、一定のn-3脂肪酸に対するリパーゼの選択性を低下させる方法を提供する。本発明によるリパーゼの選択性の変化は、以下に、具体的には本発明の第3の態様の説明に記載される、疎水性ドメインと親水性ドメインの両方を有する特定の「混合」支持体樹脂上にリパーゼを固定化することによって達成される。
【0026】
第3の態様では、本開示は、(a)リパーゼを適切な緩衝液に溶解してリパーゼ溶液を得るステップと;(b)適量の微孔性ポリマー樹脂を前記リパーゼ溶液に添加して混合物を得るステップであって、前記微孔性ポリマー樹脂は交互の疎水性モノマードメインと親水性、具体的には温和な親水性モノマードメインを含むステップと;(c)ステップ(b)の得られた混合物を、混合/振盪しながら適切な時間、適切な温度で維持し、それによって前記リパーゼを前記微孔性ポリマー樹脂上に固定化するステップと;(d)前記樹脂上に固定化された得られたリパーゼを濾別して固定化リパーゼ調製物を得るステップと;(e)場合により固定化リパーゼ調製物を適当な溶媒で洗浄するステップと;(f)洗浄した固定化リパーゼ調製物を5%w/w未満の水のレベルまで乾燥させるステップとを含む、微孔性ポリマー樹脂上にリパーゼを固定化する方法を提供する。
【0027】
前記リパーゼ固定化方法では、前記樹脂が、交互の疎水性ドメインと親水性ドメイン、具体的には疎水性脂肪族または芳香族モノマーで構成される疎水性ドメインとアクリル酸またはメタクリル酸エステルで構成される温和な親水性ドメインを有する巨大網状多孔質ポリマー、例えばメタクリル酸メチルと架橋したジビニルベンゼンであり得る。
【0028】
前記リパーゼ固定化方法では、前記疎水性ドメインと前記温和な親水性ドメインとの間の重量比が、それぞれ約10:0.1~約1:10、より具体的にはそれぞれ10-99%~90-1%である。
【0029】
前記リパーゼ固定化方法では、交互の疎水性ドメインと親水性ドメインを有する前記巨大網状多孔質ポリマーが、メタクリル酸メチルと架橋したジビニルベンゼンであり得、ジビニルベンゼンドメインとメタクリル酸メチルドメインの比率がそれぞれ10-99~90-1である。
【0030】
前記リパーゼ固定化方法では、前記リパーゼが、遊離脂肪酸としてまたは脂肪酸アシル基の形態の飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸のエステル交換/エステル化/加水分解に対する高い選択性、ならびに遊離脂肪酸としてまたは脂肪酸アシル基としてのn-3脂肪酸のエステル交換/エステル化/加水分解に対する低い選択性を有するリパーゼであり得る。具体的には、前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)、バークホルデリア属(Burkholderia)種、サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)またはクロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)のいずれか1つに由来するリパーゼであり得る。
【0031】
前記リパーゼ固定化方法では、前記適切な温度が10~50℃であり得、前記適切な時間が約0.5~48時間、具体的には約6時間であり得、固定化リパーゼ調製物を洗浄するのに適した前記溶媒がアセトンまたは水であり得、前記乾燥がデシケーターまたは凍結乾燥器中で行われ得る。
【0032】
前記リパーゼ固定化方法では、得られた固定化リパーゼ調製物を、5%w/w未満、具体的には2%w/w未満、より具体的には1.5%w/w未満、特に1%w/w未満の含水量まで乾燥させることができる。
【0033】
前記リパーゼ固定化方法では、エステル交換(transesterification)、エステル交換(interesterification)、エステル化または加水分解反応のいずれにおいても、グリセリドまたはアルキルエステルのように遊離形態またはエステル化形態であり得るn-3脂肪酸に対する前記リパーゼの選択性が調節される、具体的には、前記リパーゼの触媒活性を維持しながら、前記活性が低下される。n-3脂肪酸は、遊離形態で、またはモノ-、ジ-もしくはトリグリセリドの脂肪酸部分として、または油、具体的には食用油、より具体的には魚油、真菌油もしくはn-3脂肪酸を含有する食用油性物質の極性脂質として存在することができる。
【0034】
前記固定化方法によって調製されたリパーゼは、同じバッチの固定化酵素を使用して、少なくとも10回の反応サイクルにわたってその触媒活性の少なくとも70%を保持することができる。
【0035】
第4の態様では、本開示は、微孔性ポリマー樹脂支持体上に固定化されたリパーゼを含む固定化リパーゼ調製物であって、前記巨大網状多孔質ポリマー樹脂は混合の疎水性ドメインと温和な親水性ドメインを含み、前記疎水性ドメインは疎水性脂肪族または芳香族モノマーで構成され、前記親水性ドメインは温和な親水性モノマー、具体的にはアクリル酸もしくはメタクリル酸エステル、またはこれらの任意の組み合わせで構成される調製物を提供する。
【0036】
本開示による固定化リパーゼ調製物では、交互の疎水性ドメインと親水性ドメインを有する前記巨大網状多孔質ポリマーが、メタクリル酸メチルと架橋したジビニルベンゼンであり得、ジビニルベンゼンドメインとメタクリル酸メチルドメインの比がそれぞれ10-99%~90-1%、例えば、限定されないが、10-98%~90-2%である。
【0037】
本開示による固定化リパーゼ調製物は、遊離脂肪酸としてまたは脂肪酸アシル基の形態の飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸のエステル交換/エステル化/加水分解に対する高い選択性、ならびに遊離脂肪酸としてまたは脂肪酸アシル基としてのn-3脂肪酸のエステル交換/エステル化/加水分解に対する低い選択性を有するリパーゼを示すことができる。
【0038】
本開示による固定化リパーゼ調製物はカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種、バークホルデリア属(Burkholderia)種、サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)またはクロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)のいずれか1つに由来するリパーゼであり得る。
【0039】
本開示による固定化リパーゼ調製物は、少なくとも10回の反応サイクルにわたってその触媒活性の少なくとも70%を保持することができる。
【0040】
第5の態様では、本開示は、(a)具体的には約5%~約60%w/wのn-3多価不飽和脂肪酸を含む油を用意するステップであって、前記n-3脂肪酸が前記油中のグリセリドおよび/もしくは極性脂質のグリセロール骨格に結合した脂肪酸アシル基として、ならびに/または遊離脂肪酸として存在し、前記油が遊離またはエステル化飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸も含むステップと;(b)前記油に、前記油の0.2~10%w/wの量で水またはアルカリ性水性緩衝液を添加して、pH約5~約9の混合物を得るステップと;(c)ステップ(b)で得られた混合物にリパーゼを添加するステップであって、前記リパーゼがポリマー樹脂支持体上に固定化され、前記樹脂が交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメイン、具体的には疎水性脂肪族または芳香族モノマーで構成される疎水性ドメインとアクリルおよび/またはメタクリル酸エステルで構成される温和な親水性ドメインを含み、前記リパーゼが飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸またはその脂肪酸アシル基に対して高い選択性を示し、前記油を同時または連続的にエステル交換、加水分解および/またはエステル化することができるステップと;(d)アルキルアルコールまたはアルコールドナー、具体的には短鎖アルキルアルコールまたはアルコールドナーを用意し、前記アルコールまたはアルコールドナーを、ステップ(c)で得られた前記油と前記酵素調製物の混合物に添加、具体的には段階的に添加して、前記油、前記リパーゼ調製物および前記アルコールを含む反応系を形成し(前記油は前記アルコールと反応する)、前記反応を、反応系に使用される油の、少なくとも40重量%の前記油の脂肪酸アルキルエステル(FAEE)、10重量%未満の遊離脂肪酸(FFA)および約15重量%~約60重量%のグリセリドへの転換率に到達させるステップと;(e)前記反応系から前記反応媒体を除去することによって反応を停止させて、FAEE、FFAならびにモノ-、ジ-およびトリ-グリセリドの混合物、ならびに場合により極性脂質を含む生成物を得るステップと;(f)ステップ(f)で得られた生成物から前記脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸を留去することによって前記FAEEおよびFFAから前記グリセリド混合物を単離して、FAEEおよびFFAを含む留出物ならびにグリセリド混合物を含む残渣を得るステップであって、前記グリセリド混合物が場合により極性脂質をさらに含み、前記油と比較して高いオメガ-3脂肪酸含量を含有し、オメガ-3脂肪酸の回収率が60%より高いステップとを含む、約30%~約80%w/w、具体的には約50%~80%w/w、より具体的には約50%~70%w/w、より具体的には約30%、35%、40%、45%または50%~約70%、72%、75%、78%または80%のn-3多価不飽和脂肪酸部分を有するグリセリドの混合物を調製する方法を提供する。
【0041】
本開示の前記第5の態様の方法では、前記水またはアルカリ性水性緩衝液を、前記油の0.2~10%w/wの量で添加することができ、具体的には前記油の最大0.2%、0.5%、0.75%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%、5.0%、6.0%、6.5%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%および最大10%w/wの量で添加することができ、反応系のpHを、前記水またはアルカリ性水性緩衝液の添加によって約5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5または9.0に調整することができる。
【0042】
本開示の前記第5の態様の方法の前記ステップ(d)で、反応系に使用される油の、少なくとも40重量%、具体的には少なくとも45重量%、または少なくとも50重量%および最大70重量%の前記油の脂肪酸アルキルエステル(FAEE)、10重量%未満、具体的には2~8重量%の遊離脂肪酸(FFA)および約15重量%~約60重量%、具体的には約15重量%、20重量%、25重量%~約30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%または60重量%のグリセリドへの転換率を達成するまで、反応を進行させることができる。
【0043】
本開示の前記第5の態様の前記方法では、ステップ(f)で得られるグリセリド混合物を含み、場合により極性脂質を含む生成物が、前記油と比較して高いオメガ-3脂肪酸含量を含有し、回収率が60%より高い、例えば、62%、65%、68%、70%、75%またはそれより高い。
【0044】
本開示の前記第5の態様の前記方法では、ステップ(f)で反応生成物から留去された脂肪酸アルキルエステルと遊離脂肪酸の混合物が、前記油中に存在する全n-3脂肪酸のうちの40%未満のn-3脂肪酸部分、具体的には40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満およびそれ未満を含む。
【0045】
本開示の前記第5の態様の前記方法では、前記油が食用油、具体的には魚油または藻油、真菌油、またはn-3脂肪酸を含有する適切な油性物質であり得る。
【0046】
本開示の前記第5の態様の前記方法では、前記アルコールが、具体的にはエタノールまたはメタノールのいずれか1つであり得、前記短鎖アルキルアルコールドナーがジメチルまたはジエチルカーボナートのいずれか1つであり得る。
【0047】
本開示の前記第5の態様の前記方法では、前記蒸留が分子蒸留、短行程または薄膜蒸留のうちのいずれか1つである。
【0048】
本開示の前記第5の態様の前記方法では、前記n-3脂肪酸部分がDHA、DPAおよびEPA部分のうちのいずれか1つ、ならびにそれらの少なくとも2つの任意の混合物である。
【0049】
本開示の前記第5の態様の前記方法では、前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種、バークホルデリア属(Burkholderia)種、サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)またはクロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)のいずれか1つに由来し、具体的には前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種またはサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginose)のいずれか1つに由来する。
【0050】
本開示の前記第5の態様の前記方法では、前記疎水性芳香族モノマーがジビニルベンゼン(DVB)および/またはスチレンであり、場合により前記温和な親水性モノマーがアクリル酸もしくはメタクリル酸エステル、または組み合わせたアクリル/メタクリル酸エステルである。前記疎水性モノマーと前記温和な親水性モノマーとの間の重量比は、それぞれ約10:0.1~約1:10、より具体的にはそれぞれ10-99%~90-1%であり得る。
【0051】
本開示の前記第5の態様の前記方法の実施形態では、ステップ(f)で得られた前記グリセリド混合物を、真空下および温度30~80℃で、反応混合物中適切なリパーゼ、具体的にはその遊離形態のまたはポリマー樹脂支持体上に固定化されたカンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)由来のリパーゼの存在下で、(i)n-3FFA濃縮物、または(ii)n-3脂肪酸短鎖アルキルエステル濃縮物の少なくとも1つとさらに反応させて、反応混合物からの過剰な脂肪酸エチルエステルおよび/または脂肪酸、ならびにアルコールおよび/または水副産物の蒸留後に60%超、具体的には約65%超、約70%超および最大約100%の、60%超のn-3脂肪酸を含有するトリグリセリドを含むグリセリド混合物を得ることができる。
【0052】
第6の態様では、本開示は、(a)具体的には約5%~約60%w/wのn-3多価不飽和脂肪酸を含む油を用意するステップであって、前記n-3脂肪酸が前記油中のグリセリドおよび場合により極性脂質のグリセロール骨格に結合した脂肪酸アシル基として、ならびに/または遊離脂肪酸として存在し、前記油が遊離またはエステル化飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸も含むステップと;(b)前記油に、前記油の0.2~10%w/wの量で水またはアルカリ性水性緩衝液を添加して、pH約5~約9の混合物を得るステップと;(c)ステップ(b)で得られた混合物にシュードモナス属(Pseudomonas)種リパーゼ(PSリパーゼ)調製物を添加するステップであって、前記PSリパーゼが、具体的にはポリマー支持体1g当たり10000ユニットより高い前記PSリパーゼの高充填量でポリマー樹脂支持体上に固定化され、前記樹脂が交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメイン、具体的には疎水性脂肪族または芳香族モノマーで構成される疎水性ドメインとアクリルおよび/またはメタクリル酸エステルで構成される温和な親水性ドメインを含み、前記PSリパーゼが、その遊離形態でまたはグリセロールもしくは極性脂質に結合している場合に飽和、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸に対して高い選択性を示し、前記脂肪酸を同時または連続的にエステル交換/エステル化/加水分解することができるステップと;(d)短鎖アルキルアルコール、具体的にはエタノールを用意し、前記アルコールを、ステップ(c)で得られた前記油と前記酵素調製物の混合物に添加、具体的には段階的に添加して、前記油、前記リパーゼ調製物、前記水または水性緩衝液および前記アルコールを含む反応系を形成し(前記油は前記アルコールと反応する)、前記反応を、約70%の前記油の脂肪酸アルキルエステルおよび10%未満のFFAへの転換率に到達させるステップと;(e)前記第1のリパーゼ調製物を除去することによって反応を停止させ、遊離脂肪酸副産物および過剰なアルコールに加えて、脂肪酸アルキルエステル(FAEE)、モノ-、ジ-および残留トリ-グリセリドを含有する反応混合物の有機上相/画分を回収するステップと;(f)ステップ(e)で得られた前記有機相を、ポリマー樹脂支持体上に固定化されたサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼ(TL)の存在下で、短鎖アルキルアルコール、具体的にはエタノールと反応させ(前記樹脂は交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメイン、具体的には疎水性脂肪族または芳香族モノマーで構成される疎水性ドメインとアクリルおよび/またはメタクリル酸エステルで構成される温和な親水性ドメインを含む)、反応を、前記油中少なくとも97%の転換率、具体的には98%、99%および最大100%の脂肪酸アシル基がその低級アルキルエステル、具体的にはエチルエステルに転換されるまで継続させるステップと;(g)反応混合物から前記リパーゼ調製物を除去することによって反応を停止させるステップと;(h)分別蒸留によって反応混合物から前記n-3多価不飽和脂肪酸アルキルエステル濃縮物を単離するステップとを含む、n-3脂肪酸短鎖アルキルエステル、具体的にはn-3脂肪酸エチルエステルを酵素的に調製する方法を提供する。
【0053】
本開示の前記第6の態様の方法では、前記PSリパーゼと前記TLリパーゼの両方のための前記樹脂支持体が、交互の架橋ジビニルベンゼンモノマー、架橋スチレンモノマーまたは架橋スチレンおよびジビニルベンゼンモノマーで構成される疎水性ドメインとアクリル酸および/またはメタクリル酸エステルで構成される前記温和な親水性ドメインを含む。
【0054】
本開示の前記第6の態様の方法では、前記PSリパーゼを、前記支持体1g当たり約5000~約50000ユニット、具体的には前記支持体1g当たり約15000~30000ユニット、より具体的には前記支持体1g当たり約20000~25000の充填量で前記ポリマー樹脂支持体上に固定化することができる。
【0055】
本開示の前記第6の態様の方法では、前記疎水性樹脂ドメインと前記温和な親水性ドメインとの間の重量比が、それぞれ約10:0.1~約1:10であり得る。より具体的には、前記疎水性樹脂ドメインと前記温和な親水性ドメインとの間の重量比が、それぞれ10-99%~90-1%であり得る。
【0056】
本開示の前記第6の態様の方法では、前記PSリパーゼ調製物および前記TLリパーゼ調製物が、同じバッチの各前記PSリパーゼ調製物およびTLリパーゼ調製物を使用して少なくとも20反応サイクルにわたってそれらの触媒活性の少なくとも70%を維持する。
【0057】
本開示の前記第6の態様の方法では、前記有機上相/画分を、比重分離、遠心分離、またはグリセロール/水吸着樹脂を充填したカラムに反応混合物を通過させることのいずれかによって回収することができる。
【0058】
本開示の前記第6の態様の方法の実施形態では、ステップ(h)で得られた単離された3-n多価不飽和脂肪酸アルキルエステル濃縮物、具体的にはエチルエステルを、前記アルキルエステル濃縮物のn-3脂肪酸アシル部分をグリセロールとエステル交換することができるリパーゼ、具体的にはカンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)由来のリパーゼの存在下で、グリセロールとさらに反応させ(前記リパーゼは場合により適切なポリマー樹脂支持体上に固定化され、反応系は前記単離された3-n多価不飽和脂肪酸アルキルエステル濃縮物1重量当たり最大約1%の水を含む)、未反応グリセロールの除去および過剰な脂肪酸/脂肪酸アルキルエステル、および副産物としてのアルキルアルコール、具体的にはエタノールおよび/または水の蒸留後に、全形成グリセリドの50%超のトリグリセリドを含むグリセリドの混合物が形成されるまで、反応を進行させることができる。
【0059】
本開示の前記第6の態様の方法では、前記リパーゼが固定化されているポリマー樹脂支持体が、交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメイン、具体的には疎水性脂肪族または芳香族モノマー、具体的にはジビニルベンゼンおよび/またはスチレンで構成される疎水性ドメインとアクリルおよび/またはメタクリル酸エステルで構成される温和な親水性ドメインを含むことができる。
【0060】
本開示の前記第6の態様の方法では、前記油中のn-3脂肪酸部分がDHA、DPAおよびEPA部分のうちのいずれか1つ、ならびにそれらの少なくとも2つの任意の混合物であり得る。前記n-3脂肪酸は遊離形態で、またはモノ-、ジ-もしくはトリグリセリドの脂肪酸部分として、または油、具体的には魚油および油性油の極性脂質として存在することができる。
【0061】
本明細書に開示される主題をよりよく理解し、それを実際にどのように行うことができるかを例示するために、添付の図面を参照しながら、単なる非限定的な例として実施形態をここで説明する。
なお、下記[1]から[45]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
(a)約5%~約60%w/wのn-3PUFA部分含量を有する油であって、前記n-3PUFA部分が前記油中に含有される遊離酸として、またはグリセリドおよび/もしくは極性脂質のアシル基として存在する油を用意するステップと;
(b)前記油に、前記油の0.2~10%w/wの量で水またはアルカリ性水性緩衝液を添加して、pH約5~約9の混合物を得るステップと;
(c)ステップ(b)で得られた前記混合物にリパーゼを添加するステップであって、前記リパーゼが適切なポリマー支持体上に固定化され、前記リパーゼが飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸またはその脂肪酸アシル基に対して高い選択性を示し、前記油を同時または連続的にエステル交換、加水分解および/またはエステル化することができるステップと;
(d)アルキルアルコールまたはアルコールドナー、特に短鎖アルキルアルコールまたはアルコールドナー、を用意し、前記アルコールまたはアルコールドナーを、ステップ(c)で得られた前記油と前記酵素調製物の前記混合物に添加、特に段階的に添加、して、前記油、前記リパーゼ調製物、前記水またはアルカリ性水性緩衝液および前記アルコールを含む反応系を形成し(前記油は前記アルコールと反応する)、前記反応を、前記反応系に使用される油の、少なくとも40重量%の前記油の脂肪酸アルキルエステル(FAEE)、10重量%未満の遊離脂肪酸(FFA)および約15重量%~約60重量%のグリセリドへの転換率に到達させるステップと;
(e)前記反応系から前記反応媒体を除去することによって前記反応を停止させ、引き続いて蒸発、特にフラッシュ蒸発、させて、過剰なアルコールおよび水を除去して、FAEE、FFAならびにモノ-、ジ-およびトリ-グリセリドの混合物、ならびに場合により極性脂質を含む生成物を得るステップと;
(f)ステップ(e)で得られた前記生成物から前記脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸を留去することによって前記FAEEおよびFFAから前記グリセリドを単離して、FAEEおよびFFAを含む留出物ならびにグリセリド混合物および場合により極性脂質を含む残渣を得るステップであって、前記混合物が前記油と比較して高いオメガ-3脂肪酸含量を含有し、回収率が60%より高いステップと
を含む、グリセリドとしてのn-3多価不飽和脂肪酸(n-3PUFA)を濃縮するための酵素的方法。
[2]
前記反応生成物から留去された脂肪酸アルキルエステルと遊離脂肪酸の前記混合物が、前記油中に存在する全n-3脂肪酸のうちの40%未満のn-3脂肪酸部分を含む、[1]に記載の方法。
[3]
前記アルコールがエタノールまたはメタノールのいずれか1つであり、前記短鎖アルキルアルコールドナーがアルコールドナーがジメチルまたはジエチルカーボナートのいずれか1つである、[1]または[2]に記載の方法。
[4]
前記蒸留が分子蒸留、短行程または薄膜蒸留のうちのいずれか1つである、[1]から[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]
前記n-3脂肪酸部分がDHA、DPAおよびEPA部分のうちのいずれか1つ、ならびにそれらの少なくとも2つの任意の混合物である、[1]から[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]
前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種、バークホルデリア属(Burkholderia)種、サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)またはクロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)のいずれか1つに由来し、特に前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種またはサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginose)のいずれか1つに由来する、[1]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]
前記リパーゼが、疎水性多孔質ポリマー樹脂支持体、特に疎水性脂肪族または芳香族樹脂支持体、上に固定化され、特に疎水性芳香族樹脂が架橋ジビニルベンゼン(DVB)またはスチレンまたは架橋スチレン-DVBである、[1]から[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8]
ステップ(f)で得られた前記グリセリド混合物を、真空下および温度30~80℃で、反応混合物中適切なリパーゼ、特にその遊離形態のまたはポリマー樹脂支持体上に固定化されたカンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)由来のリパーゼ、の存在下で、(i)n-3FFA濃縮物、または(ii)n-3脂肪酸短鎖アルキルエステル濃縮物の少なくとも1つとさらに反応させて、前記反応混合物からの過剰な脂肪酸エチルエステルおよび/または脂肪酸、ならびにアルコールおよび/または水副産物の蒸留後に60%超の、60%超のn-3脂肪酸を含有するトリグリセリドを含むグリセリド混合物を得る、[1]から[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9]
前記油が食用油、特に魚油または藻油、真菌油、またはn-3脂肪酸を含有する適切な油性物質、である、[1]から[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10]
(a)特に約5%~約60%w/wの、n-3多価不飽和脂肪酸を含む油を用意するステップであって、前記n-3脂肪酸が前記油中のグリセリドもしくは極性脂質のグリセロール骨格に結合した脂肪酸アシル基として、および/または遊離脂肪酸として存在し、前記油が遊離またはエステル化飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸も含むステップと;
(b)前記油に、前記油の0.2~10%w/wの量で水またはアルカリ性水性緩衝液を添加して、pH約5~約9の混合物を得るステップと;
(c)ステップ(b)で得られた前記混合物にリパーゼを添加するステップであって、前記リパーゼがポリマー樹脂支持体上に固定化され、前記樹脂が交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメイン、特に疎水性脂肪族または芳香族モノマーで構成される疎水性ドメインとアクリルおよび/またはメタクリル酸エステルで構成される温和な親水性ドメイン、を含み、前記リパーゼが飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸またはその脂肪酸アシル基に対して高い選択性を示し、前記油を同時または連続的にエステル交換、加水分解および/またはエステル化することができるステップと;
(d)アルキルアルコールまたはアルコールドナー、特に短鎖アルキルアルコールまたはアルコールドナー、を用意し、前記アルコールまたはアルコールドナーを、ステップ(c)で得られた前記油と前記酵素調製物の前記混合物に添加、特に段階的に添加、して、前記油、前記水または水性アルカリ性緩衝液、前記リパーゼ調製物および前記アルコールを含む反応系を形成し(前記油は前記アルコールと反応する)、前記反応を、前記反応系に使用される油の、少なくとも40重量%の前記油の脂肪酸アルキルエステル(FAEE)、10重量%未満の遊離脂肪酸(FFA)および約15重量%~約60重量%のグリセリドへの転換率に到達させるステップと;
(e)前記反応系から前記反応媒体を除去することによって前記反応を停止させ、引き続いて前記反応物を蒸発、特にフラッシュ蒸発、させて過剰なアルコールおよび水を除去して、FAEE、FFAならびにモノ-、ジ-およびトリ-グリセリドの混合物、ならびに場合により極性脂質を含む生成物を得るステップと;
(f)ステップ(e)で得られた前記生成物から前記脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸を留去することによって前記FAEEおよびFFAから前記グリセリド混合物を単離して、FAEEおよびFFAを含む留出物ならびにグリセリド混合物を含む残渣を得るステップであって、前記グリセリド混合物が場合により極性脂質をさらに含み、前記油と比較して高いオメガ-3脂肪酸含量を含有し、回収率が60%より高いステップと
を含む、約30%~約80%w/w、特に約50%~80%w/w、より具体的には約50%~70%w/w、のn-3多価不飽和脂肪酸部分を有するグリセリドの混合物を調製する方法。
[11]
前記油が食用油、特に魚油または藻油、真菌油、またはn-3脂肪酸、を含有する適切な油性物質である、[10]に記載の方法。
[12]
前記反応生成物から留去された脂肪酸アルキルエステルと遊離脂肪酸の前記混合物が、供給原料中に存在する全n-3脂肪酸のうちの40%未満のn-3脂肪酸部分を含む、[10]または[11]に記載の方法。
[13]
前記アルコールがエタノールまたはメタノールのいずれか1つであり、前記短鎖アルキルアルコールドナーがアルコールドナーがジメチルまたはジエチルカーボナートのいずれか1つである、[10]から[12]のいずれか一項に記載の方法。
[14]
前記蒸留が分子蒸留、短行程または薄膜蒸留のうちのいずれか1つである、[10]から[13]のいずれか一項に記載の方法。
[15]
前記n-3脂肪酸部分がDHA、DPAおよびEPA部分のうちのいずれか1つ、ならびにそれらの少なくとも2つの任意の混合物である、[10]から[14]のいずれか一項に記載の方法。
[16]
前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種、バークホルデリア属(Burkholderia)種、サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)またはクロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)のいずれか1つに由来し、特に前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種またはサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginose)のいずれか1つに由来する、[10]から[15]のいずれか一項に記載の方法。
[17]
前記疎水性芳香族モノマーがジビニルベンゼン(DVB)および/またはスチレンであり、場合により前記温和な親水性モノマーがアクリル酸もしくはメタクリル酸エステル、または組み合わせたアクリル/メタクリル酸エステルである、[10]から[16]のいずれか一項に記載の方法。
[18]
前記疎水性樹脂ドメインと前記温和な親水性ドメインとの間の重量比が、それぞれ約10:0.1~約1:10である、[10]から[17]のいずれか一項に記載の方法。
[19]
ステップ(f)で得られた前記グリセリド混合物を、反応混合物中適切なリパーゼ、特にその遊離形態のまたはポリマー樹脂支持体上に固定化されたカンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)由来のリパーゼ、の存在下で、(i)n-3遊離脂肪酸濃縮物、または(ii)n-3脂肪酸短鎖アルキルエステル濃縮物の少なくとも1つと反応させて、前記反応混合物からの過剰な脂肪酸エチルエステルおよび/または脂肪酸、ならびにエタノールおよび/または水副産物の蒸留後に60%超の、60%超のn-3脂肪酸を含有するトリグリセリドを含むグリセリド混合物を得る、[10]から[18]のいずれか一項に記載の方法。
[20]
(a)特に約5%~約60%w/wの、n-3多価不飽和脂肪酸を含む油を用意するステップであって、前記n-3脂肪酸が前記油中のグリセリドおよび場合により極性脂質のグリセロール骨格に結合した脂肪酸アシル基として、ならびに/または遊離脂肪酸として存在し、前記油が遊離またはエステル化飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸も含むステップと;
(b)前記油に、前記油の0.2~10%w/wの量で水またはアルカリ性水性緩衝液を添加して、pH約5~約9の混合物を得るステップと;
(c)ステップ(b)で得られた前記混合物にシュードモナス属(Pseudomonas)種リパーゼ(PSリパーゼ)調製物を添加するステップであって、前記PSリパーゼが、特にポリマー支持体1g当たり10000ユニットより高い前記PSリパーゼの、高充填量でポリマー樹脂支持体上に固定化され、前記樹脂が交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメイン、特に疎水性脂肪族または芳香族モノマーで構成される疎水性ドメインとアクリルおよび/またはメタクリル酸エステルで構成される温和な親水性ドメイン、を含み、前記リパーゼPSが、その遊離形態でまたはグリセロールもしくは極性脂質に結合している場合に飽和、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸に対して高い選択性を示し、前記脂肪酸を同時または連続的にエステル交換/エステル化することができるステップと;
(d)短鎖アルキルアルコール、特にエタノール、を用意し、前記アルコールを、ステップ(c)で得られた前記油、前記水またはアルカリ性水性緩衝液および前記酵素調製物の前記混合物に添加、特に段階的に添加、して、前記油、前記リパーゼ調製物、前記水または水性緩衝液および前記アルコールを含む反応系を形成し(前記油は前記アルコールと反応する)、前記反応を、約70%の前記油の脂肪酸アルキルエステルへの転換率に到達させるステップと;
(e)前記第1のリパーゼ調製物を除去することによって前記反応を停止させ、遊離脂肪酸副産物および過剰なアルコールに加えて、脂肪酸アルキルエステル(FAEE)、モノ-、ジ-および残留トリ-グリセリドを含有する前記反応混合物の有機上相/画分を回収するステップと;
(f)ステップ(e)で得られた前記有機相を、ポリマー樹脂支持体上に固定化されたサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼ(TL)の存在下で、短鎖アルキルアルコール、特にエタノール、と反応させ(前記樹脂は交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメイン、特に疎水性脂肪族または芳香族モノマーで構成される疎水性ドメインとアクリルおよび/またはメタクリル酸エステルで構成される温和な親水性ドメイン、を含む)、前記反応を、前記油中少なくとも97%w/w、特に98%w/w、99%w/wおよび最大100%の、脂肪酸アシル基がその低級アルキルエステル、特にエチルエステル、に転換されるまで継続させるステップと;
(g)前記反応混合物から前記リパーゼ調製物を除去することによって前記反応を停止させ、引き続いて前記反応媒体を蒸発、特にフラッシュ蒸発、させて、過剰なアルコールおよび水を除去するステップと;
(h)分別蒸留によって前記反応混合物から前記n-3多価不飽和脂肪酸アルキルエステル濃縮物を単離するステップと
を含む、n-3脂肪酸短鎖アルキルエステル、特にn-3脂肪酸エチルエステル、を酵素的に調製する方法。
[21]
前記PSリパーゼと前記TLリパーゼの両方のための前記樹脂支持体が、交互の架橋ジビニルベンゼンモノマー、架橋スチレンモノマーまたは架橋スチレンおよびジビニルベンゼンモノマーで構成される疎水性ドメインとアクリル酸および/またはメタクリル酸エステルで構成される前記温和な親水性ドメインを含む、[20]に記載の方法。
[22]
前記PSリパーゼを、前記支持体1g当たり約5000~約50000ユニット、特に前記支持体1g当たり約15000~30000ユニット、より具体的には前記支持体1g当たり約20000~25000、の充填量で前記ポリマー樹脂支持体上に固定化する、[20]または[21]に記載の方法。
[23]
前記疎水性樹脂ドメインと前記温和な親水性ドメインとの間の重量比が、それぞれ約10:0.1~約1:10である、[20]から[22]のいずれか一項に記載の方法。
[24]
前記PSリパーゼ調製物および前記TLリパーゼ調製物が、同じバッチの各前記PSリパーゼ調製物およびTLリパーゼ調製物を使用して少なくとも20反応サイクルにわたってそれらの触媒活性の少なくとも70%を維持する、[20]から[23]のいずれか一項に記載の方法。
[25]
前記有機上相/画分を、比重分離、遠心分離、またはグリセロール/水吸着樹脂を充填したカラムに前記反応混合物を通過させることのいずれかによって回収する、[20]から[24]のいずれか一項に記載の方法。
[26]
ステップ(h)で得られた前記単離された3-n多価不飽和脂肪酸アルキルエステル、特にエチルエステル、を、前記アルキルエステルの前記n-3脂肪酸アシル部分をグリセロールとエステル交換することができるリパーゼ、特にカンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)由来のリパーゼ、の存在下で、グリセロールとさらに反応させ(前記リパーゼは場合により適切なポリマー樹脂支持体上に固定化され、前記反応系は前記単離された3-n多価不飽和脂肪酸アルキルエステル1重量当たり最大約1%の水を含む)、未反応グリセロールの除去および過剰な脂肪酸/脂肪酸アルキルエステル、および副産物としてのアルキルアルコール、特にエタノール、および/または水の蒸留後に、全形成グリセリドの50%超のトリグリセリドを含むグリセリドの混合物が形成されるまで、前記反応を進行させる、[20]から[25]のいずれか一項に記載の方法。
[27]
前記ポリマー樹脂支持体、前記樹脂が交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメイン、特に疎水性脂肪族または芳香族モノマー、特にジビニルベンゼンおよび/またはスチレンで構成される疎水性ドメインとアクリルおよび/またはメタクリル酸エステルで構成される温和な親水性ドメイン、を含む、[26]に記載の方法。
[28]
前記油中前記n-3脂肪酸部分がDHA、DPAおよびEPA部分のうちのいずれか1つ、ならびにそれらの少なくとも2つの任意の混合物である、[20]から[27]のいずれか一項に記載の方法。
[29]
前記n-3脂肪酸が遊離形態で、またはモノ-、ジ-もしくはトリグリセリドの脂肪酸部分として、または油、特に魚油および油性油、の極性脂質として存在する、[20]から[28]のいずれか一項に記載の方法。
[30]
(a)リパーゼを適切な緩衝液に溶解してリパーゼ溶液を得るステップと;
(b)適量の微孔性ポリマー樹脂を前記リパーゼ溶液に添加して混合物を得るステップであって、前記微孔性ポリマー樹脂は交互の疎水性モノマードメインと親水性、特に温和な親水性モノマーの、ドメインを含むステップと;
(c)ステップ(b)の前記得られた混合物を、混合/振盪しながら適切な時間、適切な温度で維持し、それによって前記リパーゼを前記微孔性ポリマー樹脂上に固定化するステップと;
(d)前記樹脂上に固定化された前記得られたリパーゼを濾別して固定化リパーゼ調製物を得るステップと;
(e)場合により前記固定化リパーゼ調製物を適当な溶媒で洗浄するステップと;
(f)前記洗浄した固定化リパーゼ調製物を5%w/w未満の水のレベルまで乾燥させるステップと
を含む、微孔性ポリマー樹脂上にリパーゼを固定化する方法。
[31]
前記樹脂が、交互の疎水性ドメインと親水性ドメイン、特に疎水性脂肪族または芳香族モノマーで構成される疎水性ドメインとアクリルまたはメタクリル酸エステルで構成される温和な親水性ドメイン、を有する巨大網状多孔質ポリマー、例えばメタクリル酸メチルと架橋したジビニルベンゼンである、[30]に記載の方法。
[32]
前記疎水性ドメインと前記温和な親水性ドメインとの間の重量比が、それぞれ約10:0.1~約1:10である、[30]または[31]に記載の方法。
[33]
交互の疎水性ドメインと親水性ドメインを有する前記巨大網状多孔質ポリマーが、メタクリル酸メチルと架橋したジビニルベンゼンであり、ジビニルベンゼンドメインとメタクリル酸メチルドメインの比がそれぞれ10-99~90-1である、[32]に記載の方法。
[34]
前記リパーゼが、遊離脂肪酸としてまたは脂肪酸アシル基の形態の飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸のエステル交換/エステル化/加水分解に対する高い選択性、ならびに遊離脂肪酸としてまたは脂肪酸アシル基としてのn-3脂肪酸のエステル交換/エステル化/加水分解に対する低い選択性を有する、[30]から[33]のいずれか一項に記載の方法。
[35]
前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)、バークホルデリア属(Burkholderia)種、サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)またはクロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)のいずれか1つに由来するリパーゼである、[30]から[34]のいずれか一項に記載の方法。
[36]
前記適切な温度が10~50℃であり、前記適切な時間が約0.5~48時間、特に約6時間であり、前記固定化リパーゼ調製物を洗浄するのに適した前記溶媒がアセトンまたは水であり、前記乾燥がデシケーターまたは凍結乾燥器中である、[30]から[35]のいずれか一項に記載の方法。
[37]
前記固定化リパーゼ調製物を、5%w/w未満、特に2%w/w未満、より具体的には1.5%w/w未満、とりわけ1%w/w未満、の含水量まで乾燥させる、[30]から[36]のいずれか一項に記載の方法。
[38]
エステル交換(transesterification)、エステル交換(interesterification)、エステル化または加水分解反応のいずれにおいても、グリセリドまたはアルキルエステルのように遊離形態またはエステル化形態であり得るn-3脂肪酸に対する前記リパーゼの選択性が調節される、特に、前記リパーゼの触媒活性を維持しながら、前記活性が低下される、[30]から[37]のいずれか一項に記載の方法。
[39]
前記n-3脂肪酸が、遊離形態で、またはモノ-、ジ-もしくはトリグリセリドの脂肪酸部分として、または油、特に食用油、より具体的には魚油、真菌油もしくはn-3脂肪酸を含有する食用油性物質の極性脂質として存在する、[38]に記載の方法。
[40]
前記固定化リパーゼが、少なくとも10回の反応サイクルにわたってその触媒活性の少なくとも70%を保持する、[30]から[39]のいずれか一項に記載の方法。
[41]
微孔性ポリマー樹脂支持体上に固定化されたリパーゼを含む固定化リパーゼ調製物であって、前記巨大網状多孔質ポリマー樹脂は混合の疎水性ドメインと温和な親水性ドメインを含み、前記疎水性ドメインは疎水性脂肪族または芳香族モノマーで構成され、前記親水性ドメインは温和な親水性モノマー、特にアクリル酸もしくはメタクリル酸エステル、またはこれらの任意の組み合わせで構成される、固定化リパーゼ調製物。
[42]
交互の疎水性ドメインと親水性ドメインを有する前記巨大網状多孔質ポリマーが、メタクリル酸メチルと架橋したジビニルベンゼンであり、ジビニルベンゼンドメインとメタクリル酸メチルドメインの比がそれぞれ10-99%~90-1%である、[41]に記載の固定化リパーゼ調製物。
[43]
前記リパーゼが、遊離脂肪酸としてまたは脂肪酸アシル基の形態の飽和脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸のエステル交換/エステル化/加水分解に対する高い選択性、ならびに遊離脂肪酸としてまたは脂肪酸アシル基としてのn-3脂肪酸のエステル交換/エステル化/加水分解に対する低い選択性を有する、[41]または[42]に記載の固定化リパーゼ調製物。
[44]
前記リパーゼがカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種、バークホルデリア属(Burkholderia)種、サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)またはクロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)のいずれか1つに由来するリパーゼである、[41]から[43]のいずれか一項に記載の固定化リパーゼ調製物。
[45]
少なくとも10回の反応サイクルにわたってその触媒活性の少なくとも70%を保持する、[41]から[44]のいずれか一項に記載の固定化リパーゼ調製物。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】同じバッチの固定化リパーゼ調製物を繰り返し使用した、4回目の反応サイクルにおける、精製魚油とエタノールのエステル交換における、固定化されたサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼ(Lipozyme TL 100L、Novozymes、デンマーク)調製物(リパーゼはそれぞれジビニルベンゼン(DVB)およびメタクリル酸メチル(MMA)を種々の比率で含む様々なポリマー樹脂に固定化されている)の触媒活性プロファイルを示す図である。リパーゼ調製物は粉末形態で使用した。反応条件は表1に詳述する。
【0063】
【
図2】35回の連続反応サイクルで、同じバッチの固定化リパーゼ調製物を使用した、固定化されたサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼ(Lipozyme TL 100L)調製物(リパーゼはそれぞれ交互のDVBドメインとMMAドメインを種々の比率で含む様々なポリマー樹脂に固定化されている)を使用した6時間の反応後の精製魚油とエタノールのエステル交換/エステル化転換率を示す図である。リパーゼ調製物は粉末形態で使用した。反応条件は表1に詳述する。
【0064】
【
図3】35回の連続反応サイクルで、同じバッチの固定化リパーゼ調製物を使用した、固定化されたシュードモナス属(Pseudomonas)種リパーゼ(Lipase PS Amano)調製物(リパーゼはそれぞれ交互のDVBドメインとMMAドメインを種々の比率で含む様々なポリマー樹脂に固定化されている)を使用した精製魚油とエタノールのエステル交換/エステル化転換率を示す図である。リパーゼ調製物は粉末形態で使用した。反応条件は表1に詳述する。
【発明を実施するための形態】
【0065】
多価不飽和脂肪酸(PUFA)、特にn-3多価不飽和脂肪酸(本明細書で互換的に使用される、n-3PUFAまたはn-3脂肪酸)、特にDHA、DPAおよびEPAについて油を濃縮するための新規な方法およびプロセスが本明細書で提供される。
【0066】
その主成分がトリ-、ジ-またはモノ-グリセリドおよびそれらの少なくとも2つの任意の混合物であり、高レベルのn-3多価不飽和脂肪酸アシル部分がグリセロール骨格に結合している、n-3多価不飽和脂肪酸が濃縮されたグリセリドの組成物、およびn-3多価不飽和脂肪酸濃縮物が本明細書でさらに提供される。
【0067】
ここに開示される方法は、以下に詳述される、トリグリセリドまたは部分グリセリドの形態のn-3多価不飽和脂肪酸について油、具体的にはそれだけに限らないが、魚油を濃縮するために、固定化された形態のリパーゼを含む種々のリパーゼ調製物を使用する。ここに開示される方法は、上記の従来の方法と比較した代替案を提供する。
【0068】
回収率が改善した、典型的には出発材料中のn-3脂肪酸の初期含量の60%w/w超を有する、n-3多価不飽和脂肪酸について油を濃縮するため、特にグリセリドの全脂肪酸部分のうちの40%w/w超がn-3脂肪酸部分であるグリセリドの形態のn-3多価不飽和脂肪酸濃縮物を得るために、リパーゼ触媒反応と分子蒸留の種々の異なる組み合わせを使用するプロセスおよび方法が本明細書で提供される。
【0069】
第1の態様では、本開示は、本明細書に開示される、基質特異性および選択性を有するリパーゼまたはリパーゼの混合物を含む固定化リパーゼ調製物を使用した、n-3脂肪酸の供給源としての油と短鎖アルコールまたはアルコール供給源との間の反応を提供し、高いn-3多価不飽和脂肪酸含量のグリセリドの製造、ならびに反応の脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸副産物中の低いn-3多価不飽和脂肪酸含量を可能にし、それによってn-3PUFAについて油源を濃縮する。
【0070】
第2の態様では、本開示はまた、油源のエステル交換、エステル化および加水分解を含むリパーゼ触媒反応のグリセリド生成物中のn-3脂肪酸含量が有意に増加する一方で、反応の副産物(エタノール脂肪酸エチルエステルを使用した場合、主に遊離脂肪酸および脂肪酸アルキルエステル)中で減少するように、一定のn-3脂肪酸に対するリパーゼの選択性を低下させる方法を提供する。本発明によるリパーゼの選択性の変化は、以下に記載される、疎水性ドメインと親水性ドメインの両方を有する特定の「混合」支持体樹脂上にリパーゼを固定化することによって達成される。
【0071】
したがって、第3の態様では、本開示は、疎水性ポリマー(本明細書を通して任意の数の連結モノマー)で構成される疎水性ドメインと親水性ポリマーで構成される温和な親水性ドメイン(本明細書を通して任意の数の連結モノマー)の両方を含む微孔性ポリマー樹脂上にリパーゼを固定化する方法を提供する。本明細書で使用される「温和な」という用語によって、形成された混合樹脂上で、隣接ポリマー鎖間に水素結合を生じさせることができないエステル基を有するモノマーを含む親水性ポリマー伸長またはセグメントが意味される。本明細書で提供されるこのような「混合」疎水性-親水性樹脂上に固定化されたリパーゼは、飽和脂肪酸、ならびにある程度遊離脂肪酸の形態またはグリセリドの脂肪酸アシル基の形態の一定のモノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸に対する増加したエステル交換/エステル化活性、ならびに遊離脂肪酸または脂肪酸アシル基の形態のn-3脂肪酸のエステル交換/エステル化に対する低い選択性をもたらし得る。このポリマー樹脂支持体の「ドメイン」はまた、本明細書では「セグメント」または「伸長」、すなわち疎水性ポリマーの伸長/セグメントとも呼ばれ、本質的に温和な親水性ポリマーの伸長/セグメントと交互である。本明細書で提供されるポリマー支持体は、交互の親水性ドメインと疎水性ドメインを含む(そして「混合支持体」または「混合樹脂」とも呼ばれることもある)。例えば、「混合」ポリマー支持体は、交互の疎水性脂肪族または芳香族ドメインで構成されるドメインとアクリル酸もしくはメタクリル酸エステルドメイン、またはこれらの任意の混合物などの温和な親水性ドメインで構成されるドメインを有する支持体であり得る。温和な親水性ドメインは、異なるまたは同一の長さ(異なる数のモノマー)であり得、疎水性ドメインも異なるまたは同一の長さ(異なる数のモノマー)であり得る。本開示では、アクリル酸またはメタクリル酸エステルと架橋したジビニルベンゼンを含む巨大網状多孔質ポリマー支持体の使用が、混合支持体の非限定的な例として提示される。上記のように、「温和な親水性ポリマーで構成されるドメイン」または「疎水性ポリマーで構成されるドメイン」に言及する場合、任意の長さ/数の連結した、具体的には架橋した温和な親水性モノマー、または疎水性モノマーを意味し、伸長が従来の「ポリマー」長である必要はなく、1つおよび/または少数のモノマー(例えば、オリゴマー中)から多数のモノマー(例えば、ポリマー中)までを含むことができることが理解される。
【0072】
第4の態様では、リパーゼが微孔性ポリマー樹脂支持体上に固定化されているリパーゼ調製物であって、樹脂が上記の疎水性ドメインと温和な親水性ドメインを有する調製物が本明細書で提供される。このポリマー支持体は、交互の温和な親水性ドメインと疎水性ドメインを含む(そして「混合支持体」または「混合樹脂」とも呼ばれることもある)。
【0073】
本開示の前記第3および第4の態様において、ならびに全体を通して、混合ポリマー支持体は、交互の疎水性脂肪族または芳香族連結モノマーのドメインと温和な親水性アクリル酸またはメタクリル酸エステル連結モノマーのドメインを有するポリマー樹脂であり得る。混合樹脂中の温和な親水性ドメインは、異なるまたは同一の長さ(異なる数のモノマー)であり得、混合樹脂中の疎水性ドメインも異なるまたは同一の長さ(異なる数のモノマー)であり得る。混合支持体上にリパーゼを固定化する方法の具体的な実施形態および混合支持体上に固定化されたリパーゼの具体的な実施形態では、リパーゼ固定化支持体が、アクリル酸またはメタクリル酸エステル(MMA)と架橋したジビニルベンゼン(DVB)(またはジビニルベンゼンとスチレンの異なる比率の混合物)の交互のドメインを含む巨大網状多孔質ポリマー支持体である。混合支持体上に固定化された開示されるリパーゼ調製物は、遊離リパーゼまたは親水性もしくは疎水性支持体などの他の支持体上に固定化されたリパーゼと比較して、飽和脂肪酸、ならびにある程度遊離脂肪酸の形態または脂肪酸アシル基の形態のモノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸に対する増加したエステル交換/エステル化活性、ならびに遊離脂肪酸または脂肪酸アシル基の形態のn-3脂肪酸のエステル交換/エステル化に対する低い選択性を示す。
【0074】
「ポリマー支持体」、「ポリマーマトリックス」、「固定化支持体」、「ポリマー基板」、「樹脂支持体」、「樹脂マトリックス」、「固定化樹脂」、「樹脂基板」、「ポリマー担体」などの用語は、本明細書で互換的に使用され、酵素、具体的にはリパーゼを化学的または物理的に固定化することができる固体または半固体のポリマー/樹脂体を指す。
【0075】
酵素、具体的にはリパーゼを固定化するためのポリマー支持体の成分として本明細書で使用される「ポリマードメイン」または「ポリマーセグメント」または「ポリマー断片」または「ポリマー伸長」などの用語は、このようなポリマー支持体の一部を意味すると解釈されるべきである。
【0076】
第5の態様では、本開示は、出発油源と比較して高いn-3脂肪酸含量のグリセリド、および酵素反応の脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸副産物中の低下したn-3脂肪酸含量をもたらす、開示される「混合」疎水性-親水性支持体(樹脂)上に固定化されたリパーゼを使用した、n-3脂肪酸の供給源としての油と短鎖アルコールまたはアルコールドナーとの間の反応を本質的に含む、n-3PUFAについて油を酵素的に濃縮する方法を提供する。
【0077】
例えば、この態様によると、5%~60%w/w、具体的には10%~30%w/w以上の多価不飽和脂肪酸、特にDHA、DPAおよびEPAを含有する油を濃縮する方法が以下のステップを含む:
(a)疎水性-親水性ドメインを有するポリマー樹脂上に固定化された、特に飽和、ならびにある程度モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸またはそれらのアシル部分に対して高い選択性のリパーゼを使用して、アルコールまたはアルコールドナーによりn-3脂肪酸を含有する油を同時または連続的にエステル交換/エステル化および加水分解するステップ;および
(b)固定化リパーゼ調製物を除去し、出発材料中の全n-3脂肪酸の50%未満のn-3脂肪酸を含有する形成された脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸から、出発材料中全n-3脂肪酸の50%w/wより高いn-3脂肪酸を含有する形成されたグリセリドを単離して、n-3脂肪酸が濃縮されたグリセリド画分を得るステップ。
【0078】
本開示の全ての態様において、前記エステル交換反応は、一段階直接エステル交換反応であり得る、または加水分解反応と引き続く形成された遊離脂肪酸のアルコールによる連続エステル化を通して達成され得ることに留意されたい。エステル化はまた、短鎖アルコールによる反応媒体中に存在する任意の遊離脂肪酸のエステル化でもあり得る。
【0079】
第6の態様では、本開示は、上および以下の例に詳述される、脂肪酸アルキルエステル、具体的には脂肪酸エチルエステルを調製するための全酵素的二段階法を提供した。一般に、この方法は、n-3多価不飽和脂肪酸を含む油を、pH約5~9で、水またはアルカリ性水性緩衝液の存在下で、およびシュードモナス属(Pseudomonas)種リパーゼ(PSリパーゼ)調製物の存在下で、短鎖アルキルアルコール、具体的にはエタノールと反応させる、n-3脂肪酸短鎖アルキルエステル、具体的にはn-3脂肪酸エチルエステルの酵素的調製であって、前記PSリパーゼは、具体的にはポリマー支持体1g当たり10000ユニットより高い前記PSリパーゼの高充填量でポリマー樹脂支持体上に固定化され、前記支持体は本開示による混合ポリマー支持体である調製を提供する。約70%の前記油の脂肪酸アルキルエステルおよび10%未満のFFAへの転換率が達成されるまで反応を進行させ、次いで、前記PSリパーゼ調製物を除去することによって停止させ、遊離脂肪酸副産物および過剰なアルコールに加えて、脂肪酸アルキルエステル(FAEE)、モノ-、ジ-および残留トリ-グリセリドを含有する反応混合物の有機上相/画分を回収する。第2のステップで、前記有機相を、本開示による混合ポリマー樹脂支持体上に固定化されたサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼ(TL)の存在下で、短鎖アルキルアルコール、具体的にはエタノールと反応させ、前記油中の脂肪酸アシル基の少なくとも97%w/w、具体的には98%w/w、99%w/wおよび最大100%がその低級アルキルエステル、具体的にはエチルエステルに転換されるまで、反応を継続させる。次いで、反応混合物から前記リパーゼ調製物を除去することによって、反応を停止させ、得られたn-3多価不飽和脂肪酸アルキルエステル濃縮物を分別蒸留によって反応混合物から単離する。以下の例6に示されるように、この方法では、PSリパーゼ調製物およびTLリパーゼ調製物が共に、同じバッチの各前記PSリパーゼ調製物およびTLリパーゼ調製物を使用して少なくとも20反応サイクルにわたってそれらの触媒活性の少なくとも70%を維持した。
【0080】
開示される方法/反応の全ての態様の実施形態で、n-3PUFAが濃縮されたグリセリド画分が、反応混合物を分子/薄膜蒸留で処理して、脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸に富む画分を除去することによって反応混合物から単離することができ、これにより、蒸留後、n-3PUFAが濃縮されたグリセリド画分は、n-3PUFAについて少なくとも60%w/wの回収率でモノ-、ジ-およびトリ-グリセリドの混合物を含む。
【0081】
開示される方法/反応の全ての態様の実施形態で、得られた単離された濃縮グリセリド画分を、場合により、例えば、カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)リパーゼB、または遊離脂肪酸中もしくは脂肪酸アシル基の不飽和度に対する選好性も炭素鎖長に対する選好性も有さない脂肪酸のエステル化を触媒する同様の活性の他の酵素調製物の存在下で、n-3PUFA濃縮物(主に遊離脂肪酸の)、またはn-3PUFA短鎖アルキルエステルとさらに酵素反応させることができる。酵素を、その遊離形態でまたはポリマー樹脂上に固定化して使用して、それぞれ、主にn-3脂肪酸がさらに濃縮された、典型的には60%w/w超のトリグリセリド、および反応の副産物としての水またはアルコールを含む混合物を得ることができる。反応混合物から酵素を除去し、その後水および/またはアルコールならびに任意の未反応脂肪酸または脂肪酸アルキルエステルをそれぞれ蒸留した後、60%w/w超のn-3脂肪族部分を含有する、主にトリグリセリドを含む、混合物を得る。
【0082】
一定のリパーゼは、例えば使用される油の初期n-3脂肪酸含量の70%w/w未満のグリセリド画分中のn-3脂肪酸部分の回収率をもたらすことができ、n-3脂肪酸部分の残りは副産物脂肪酸アルキルエステル混合物および加水分解副産物、すなわち遊離脂肪酸混合物にエステル交換される。このようなリパーゼを使用する場合、開示される方法/反応の全ての態様の実施形態では、反応混合物を以下のステップで処理することができる:
a.反応混合物から酵素を除去し、引き続いて反応混合物からアルコールおよび水副産物を除去するために、蒸発、具体的にはフラッシュ蒸発させるステップ;
b.場合により、反応成分(グリセリド)と脂肪酸アルキルエステルまたは遊離脂肪酸の濃縮物との間のワンポット選択的エステル化、エステル交換(transesterification)およびエステル交換(interesterification)を触媒してトリグリセリドの形態のn-3脂肪酸含量が高いグリセリドを得るために、得られた反応混合物を、その遊離または固定化形態の第2のリパーゼで処理するステップ;
c.酵素を除去し、過剰な脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸を除去するために、分子/薄膜蒸留で反応混合物を処理して、n-3脂肪酸部分含量が60%より高い、グリセリド混合物、主にトリグリセリドを含む残渣を得るステップ。
【0083】
本開示の全ての態様および実施形態では、種々の反応および方法に使用される油が食用油、例えば魚油または藻油、真菌油、またはn-3脂肪酸を含有する任意の他の適切な油性物質であり得る。
【0084】
本開示の全ての態様および実施形態では、アルコールがアルキルアルコール、例えば、それだけに限らないが、短鎖アルキルアルコールであり得る。本明細書で使用される「短鎖アルキルアルコール」とは、C1~C6-アルキルアルコール、具体的にはC1~C4-アルキルアルコール、例えばメタノールおよびエタノールを意味する。本明細書で使用される「短鎖アルコールドナー」とは、モノ短鎖アルキルエステル、例えば、酢酸メチルもしくは酢酸エチル、またはジ-短鎖-アルキルカーボナート、例えばジメチル-もしくはジエチルカーボナートを意味する。
【0085】
本明細書に開示される種々の反応および方法、または存在する場合はそれらの異なる段階で使用されるリパーゼは、例えばカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)、カンジダ・アンタークティカB(Candida antarctica B)(CALB)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、コウジカビ(Aspergillus oryzae)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種、バークホルデリア属(Burkholderia)種、ヒューミコラ・インソレンス(Humicola insolens)、サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)またはクロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)のいずれかに由来し得る。酵素の混合物の使用が企図される。
【0086】
「酵素選択性」、「酵素特異性」および「酵素選好性」という用語は、本明細書で互換的に使用される。
【0087】
本開示の全ての態様および実施形態では、記載される反応および方法に使用されるリパーゼが遊離であり得る、またはこれが微孔性ポリマー樹脂上に固定化され得る。例えば、特に本開示の前記第1の態様では、微孔性ポリマー樹脂が、脂肪族または芳香族基を含む疎水性微孔性有機ポリマー樹脂、例えば架橋ジビニルベンゼンまたは架橋スチレンおよびジビニルベンゼンであり得る。いくつかの特定の態様および実施形態、例えば本開示の前記第2、第3、第4、第5または第6の態様では、リパーゼが、本明細書に開示される交互の疎水性-親水性ドメインを一般に有する「混合」微孔性ポリマー樹脂上に固定化される。メタクリル酸エステルが架橋したジビニルベンゼンでできた巨大網状多孔質ポリマー支持体が、本明細書に開示される方法の実施形態に使用することができる混合支持体の一例である。これらのポリマー支持体は、連結した脂肪族または芳香族モノマーの疎水性ドメインおよび連結した親水性アクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーの親水性ドメインなどの、その交互の疎水性ドメインと温和な親水性ドメインを特徴とする。「連結した」を指す場合、これは特に「架橋した」を意味する。温和な親水性モノマーにはアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルが含まれる一方、疎水性モノマーにはジビニルベンゼン、スチレンおよびプロピレンが含まれる。本明細書に開示され、例示される具体的な組み合わせは、交互の伸長の、様々な比率のジビニルベンゼンとメタクリル酸メチルモノマーを含むポリマーである。
【0088】
本開示の実験節に提示されるように、本明細書に開示される「混合」支持体上に固定化されたリパーゼを使用した、グリセリド生成物中の脂肪酸部分の形態のn-3脂肪酸の回収率は、有意に増加する。さらに、リパーゼを開示される混合支持体上に固定化する場合、これは、遊離形態または脂肪酸アシル部分(例えば、脂肪酸アルキルエステルならびにモノ-、ジ-およびトリ-グリセリドならびに極性脂質)としての、種々の種類の脂肪酸、飽和、不飽和または多価不飽和脂肪酸に対する選好性に関する特有の触媒特性を示す。遊離の固定化されていない形態における、または他の支持体上に固定化された場合のその選択性と比較したリパーゼ調製物の選択性もまた有意に改善される。
【0089】
本明細書に開示されるエステル交換/エステル化反応および方法に使用されるリパーゼは、DHAおよびEPAに対する様々な選択性を有することができ、最終生成物中の遊離脂肪酸ならびに脂肪酸アルキルエステルおよびグリセリド(モノ-、ジーおよびトリ-グリセリド)中の脂肪酸アシル基の形態のEPA:DHAの比率を事前設計することができる。例えば、最終グリセリド生成物中の高いDHA濃度が望ましい場合には、サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)[TL]リパーゼが選択される一方で、最終グリセリド生成物中の高いEPAおよびDHA含量が望ましい場合には、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種リパーゼ(Lipase QLM(商標))またはカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)リパーゼ[CALA]を使用することができる。したがって、本開示によると、EPAとDHAとの間の一定の所定の比率を含む最終的な一貫したグリセリド生成物を得るために、一定の公知のEPA:DHA比率を含む様々な酵素系を使用して得られたグリセリド混合物を最終グリセリド生成物に使用して、最終グリセリド生成物中特定の所望のEPA:DHA比率を得ることができる。
【0090】
なおさらに、様々なn-3脂肪酸間の比率が予め決定されている、n-3脂肪酸が実質的にそれらのグリセリド形態の、すなわちモノ-、ジ-および/またはトリグリセリドの脂肪酸部分としてのEPA、DHAおよびDPAであるn-3脂肪酸濃縮物が本明細書で開示される。これらの濃縮物は、食品および栄養補助食品中の栄養食品成分として、または食品添加物として、または医薬品製剤中の成分として有用である。このような添加剤または医薬組成物は、液体形態、または投与単位形態、例えばn-3脂肪酸濃縮グリセリド混合物を含有するゼラチンカプセルで提供することができる。
【0091】
グリセリド混合物は、トリグリセリド、ジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを含む任意の混合物である。グリセリド混合物中のトリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドの間の比率は予め設計することができる。
【0092】
許容され、本明細書で使用される多価不飽和脂肪酸は、その炭素鎖中に4個以上の二重結合を有する脂肪酸である。
【0093】
オメガ-3脂肪酸、ω-3脂肪酸、n-3脂肪酸、オメガ-3PUFA、ω-3PUFAおよびn-3PUFAという用語は、本明細書で互換的に使用される。
【0094】
脂肪酸アシル、または脂肪酸アシル基、または脂肪酸残基または脂肪酸部分という用語は、本明細書で互換的に使用され、一般に、例えばグリセリドおよび/もしくは極性脂質のグリセロール骨格に結合した、または脂肪酸アルキルエステルの酸部分としての結合脂肪酸部分を指す。
【0095】
本開示を通して、特に指示しない限り、百分率でn-3脂肪酸または脂肪酸部分のレベルに言及する場合、これらは重量パーセントであり、脂肪酸の総重量のうちのn-3脂肪酸部分の重量分率を表す。このような百分率は、互換的にx%またはx%w/wまたはx%w/wとして示される。
【0096】
本明細書に開示されるn-3濃縮法のいくつかの実施形態では、水および生体触媒、具体的には上記の疎水性ドメインと温和な親水性ドメインで構成されるポリマー樹脂(混合支持体)上に固定化されたリパーゼの存在下で、5%~60%、例えば10%~35%のn-3脂肪酸を含む油と短鎖アルコールまたはアルコールドナーを反応させるステップを含む方法が提供される。以下により詳細に記載されるように、その固定化のために、生体触媒(リパーゼ)は、特に飽和脂肪酸、ならびにある程度モノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸の、同時または任意の順序で連続的に起こり得るエステル交換/エステル化反応に対する増加した活性、ならびにn-3脂肪酸に対する低下したエステル交換/エステル化活性を示す。反応を停止させたら、固定化リパーゼ調製物を除去し、引き続いて反応媒体を蒸発、具体的にはフラッシュ蒸発させて、水および過剰なアルコールを除去し、反応中に形成された脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸を含む画分の蒸留を介して、n-3脂肪酸が濃縮されたグリセリドの画分を得る。蒸留は、例えば、分子蒸留または薄膜蒸留であり得る。単離されたグリセリド画分は、出発油材料中に存在するn-3多価不飽和脂肪酸の60%超を含む。n-3脂肪酸が濃縮されたこの単離されたグリセリド画分を、場合により、エステル交換/エステル化活性を有する遊離または固定化酵素、例えばカンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)リパーゼBの存在下で、n-3遊離脂肪酸濃縮物またはn-3脂肪酸短鎖アルキルエステル濃縮物でさらにエステル化/エステル交換して、主に60%超のn-3脂肪酸を含むトリグリセリド混合物、ならびに副産物としての水および短鎖アルコールをそれぞれ形成することができる。n-3脂肪酸がさらに濃縮されたこのトリグリセリド画分は、反応混合物から形成された水/アルコールならびに残留する過剰の遊離脂肪酸および/または脂肪酸アルキルエステルを蒸留することによって得ることができる。除去された酵素は再生利用可能であり、多数の反応サイクルにわたって再使用することができる。
【0097】
酵素反応に言及する場合の「連続的に」および「順次」という用語は、本明細書で互換的に使用される。
【0098】
本開示の方法および反応の全ての態様および実施形態では、固定化酵素を、複数のバッチで、または固定床、充填床、流動床および撹拌槽型反応器で連続的に使用することができる。
【0099】
理論によって拘束されないが、上に詳述される交互の疎水性-親水性ドメインを含む、具体的な態様および実施形態におけるリパーゼが固定化される本明細書で定義される混合ポリマー樹脂支持体の性質により、酵素は、遊離形態の場合、または疎水性もしくは親水性の特性を有する他の種類のポリマー支持体樹脂上に固定化されている場合のその活性部位の空洞と比較して活性部位空洞が小さい新しいお気に入りの構造に適合することが示唆される。より小さな活性部位空洞は、遊離形態のまたは異なるポリマー樹脂上に固定化された場合のその活性と比較して、ラウリン酸、ミリスチン酸またはパルミチン酸アシル基などの短鎖脂肪酸、ならびにある程度オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸などのモノ-、ジ-またはトリ-不飽和脂肪酸に対するリパーゼのエステル交換/エステル化活性速度の増加、ならびにその遊離脂肪酸形態のまたは脂肪酸アシル部分としてのDPA、EPAおよびDHAなどの長鎖脂肪酸アシル基に対する低下したエステル交換/エステル化活性をもたらし得る。したがって、本開示は、本明細書に開示される混合ポリマー支持体上にこのようなリパーゼを固定化することによって、リパーゼの様々な種類の脂肪酸アシル基に対する選択性を変化させる手段を提供することができる。
【0100】
ここに開示される方法および組成物の全てで、グリセリド混合物またはグリセリド濃縮物中のn-3脂肪酸の最終濃度(レベル)を、出発n-3脂肪酸濃縮物に応じて、また酵素供給源に応じて事前設計することもできる。
【0101】
さらに、言及されるように、本開示の方法を、EPAおよびDHAに対して異なる特異性を示すリパーゼを使用することによって、最終濃縮物中に所定の比のEPA:DHAを生じるように適合させることができる。この特徴により、意図した用途に従って、食品および栄養補助食品業界用の種々のブレンドおよび混合物に使用することができる「コスチュームメード(costume-made)」EPA/DHA脂肪酸濃縮物の調製が可能になる。一般に、本開示に従って製造される濃縮物中のEPA:DHA部分の重量比は、約0.01:2~5:1およびそれらの間の任意の下位値に及び得る。
【0102】
本明細書で使用する場合、「約」という用語は、温度、圧力、濃度、収率、濃度等などのパラメータの具体的に言及される値から±10%の偏差を包含することを意味する。
【0103】
数値範囲を本明細書で指示する場合はいつでも、これは指示される範囲内の任意の引用数字(分数または整数)を含むことを意図する。第1の指示数と第2の指示数「間に及ぶ/間の範囲」および第1の指示数「から」第2の指示数「までに及ぶ/までの範囲」という句は本明細書で互換的に使用され、第1の指示数および第2の指示数ならびにそれらの間の全ての分数および整数を含むことを意図する。種々の実施形態を所与の範囲を使用することによって説明する場合、その範囲は単に便宜上および簡潔さのためにそのように与えられるものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈されるべきではないことに留意すべきである。したがって、範囲の説明は、その範囲内の全ての可能な部分範囲ならびに個々の数値を具体的に開示しているとみなされるべきである。
【0104】
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。例えば、「式(I)の化合物」という用語は、独立に、その混合物を含む式(I)の複数の化合物を含み得る。
【0105】
本明細書およびそれに続く特許請求の範囲を通して、文脈上別段の意味を要しない限り、「含む(comprise)」という単語、ならびに「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」などの変形は、任意の整数もしくはステップまたは整数およびステップの群を除外することを意味しないことを意味するのではなく、明記される整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を含むことを意味することが理解される。
【0106】
明確にするために別々の実施形態の文脈で説明されている本発明の一定の特徴を、単一の実施形態で組み合わせて提供してもよいことが理解される。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で説明されている本発明の種々の特徴を、別々にもしくは任意の適切な部分的組み合わせで、または本発明の任意の他の記載される実施形態で適切に提供してもよい。種々の実施形態の文脈で記載される一定の特徴は、実施形態がそれらの要素なしでは実施不能でない限り、それらの実施形態の本質的な特徴とみなされるべきではない。
【0107】
以下の例は、本発明の態様を非限定的に実施する際に本発明者らによって使用された技術の代表例である。これらの技術は開示される方法および組成物を実施するための具体的な実施形態の例示であるが、当業者であれば、本開示に照らして、意図した本発明の範囲から逸脱することなく多数の修正を行うことができることを認識するだろう。
【0108】
例
例1-固定化リパーゼの調製
この研究におけるリパーゼは、遊離形態で、または微孔性シリカ、種々の程度の親水性および疎水性特性のポリマー吸着剤を含む様々な支持体上、ならびにイオン交換樹脂上に固定化して使用した。以下は、この研究で試験した様々なリパーゼの固定化に使用した支持体のリストである。
【0109】
酵素固定化手順は以下の通りであり得る:
指定される様々な適切な供給源に由来するリパーゼ(10000ユニットのリパーゼ)を0.1MおよびpH7のリン酸緩衝液(10ml)に溶解した。100~1500ミクロンの範囲の粒径分布を有するビーズ形態、または粉末形態(100ミクロン未満)の酵素支持体(2g)を酵素溶液に導入した。混合物を室温で4~12時間振盪した。支持体上に固定化された酵素を溶液から濾別した。場合により、濾過した酵素を冷アセトンで洗浄し、次いで、デシケーターまたは凍結乾燥器中で5%未満の固定化酵素調製物の含水量まで乾燥させた。
【0110】
この研究で使用したリパーゼは、様々な供給源:カンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)およびB(CALB)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス属(Pseudomonas)種、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種、バークホルデリア属(Burkholderia)種およびサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)に由来するリパーゼであった。
【0111】
一例として、CALAを、固定化リパーゼ調製物を形成するための様々な疎水性-親水性特性を有する以下に列挙される種々の支持体上に固定化した:
1.疎水性特性を有する活性炭(Sigma)
2.疎水性特性を有する架橋スチレン-ジビニルベンゼン(Amberlite(いずれかの国における登録商標)XAD 1600N、Rohm&Haas、またはLewatit(いずれかの国における登録商標)VP OC 1064 MD PH、Lanxess、ドイツ)
3.別個の(交互の)疎水性ドメインと温和な親水性ドメインを含むメタクリル酸メチルと架橋したジビニルベンゼン
4.親水性特性を有する架橋フェノールホルムアルデヒド重縮合樹脂-弱塩基性陰イオン交換体(Duolite(いずれかの国における登録商標)A568、Rohm&Haas)
5.親水性特性を有するメタクリル酸ポリマー(Amberlite(いずれかの国における登録商標)XAD7HP、Rohm&Haas)
6.親水性特性を有するシリカゲル60(Sigma-Aldrich、CAS番号112926-00-8)
【0112】
例2
グリセリドの形態のn-3脂肪酸濃縮物の調製
遊離形態または例1による6種の異なる酵素支持体(1g)(以下の表1において「遊離」または支持体番号により示される)の各々の上に固定化されたカンジダ・アンタークティカA(Candida antarctica A)(CALA)由来のリパーゼ(15000ユニット、NovoCor AD L、Novozymes、デンマーク)を、混合または振盪することによって、精製魚油(10g)(FFA含量0.3%未満、n-3脂肪酸レベル30%、EPA18%およびDHA12%w/w)と接触させ、エタノール(2g)を、反応系(油-酵素混合物)に、それぞれ1時間間隔で3等量分ずつ添加した。反応混合物中の含水量を、反応媒体のpHが5~9の範囲となるように必要量の水またはアルカリ性水性緩衝液を添加することによって、油の3重量%に調整した。反応を30℃で行った。反応生成物を様々な時間間隔でガスクロマトグラフィーによって定量した。以下の表1、2および3は、様々な時間間隔で反応系中で生成されたエチルエステル画分中の脂肪酸エチルエステルの分布を示す。
【0113】
48時間撹拌した後、固定化リパーゼ調製物を濾別し(遊離リパーゼを使用したこの例および以下の例の全てで、調製物は反応終了時に沈殿した)、反応混合物をフラッシュ蒸発させて過剰の水およびアルコールを除去し、次いで、分別分子蒸留(Lab 3(商標)Centrifugal Distillation System、Myers(商標)、米国)によって10mTorrおよび120℃で留去して、脂肪酸エチルエステル(FAEE)および遊離脂肪酸(FFA)を除去して、出発材料中に存在する全n-3脂肪酸のうち60%超のn-3脂肪酸を含有する魚油グリセリドの画分を得た。最終グリセリド画分中のn-3脂肪酸の含量を、メタノール中14%三フッ化ホウ素溶液(Sigma-BF3/CH3OHの製品)の存在下でモノ-、ジ-およびトリ-グリセリドについて完全メチル化し、形成された脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィーによって分析することによって決定した。
【0114】
表1は、6時間の反応後の、CALAの様々な調製物を使用した、エステル交換/エステル化反応、精製魚油およびエタノールのFAEEへの転換の結果を提示している。
【0115】
反応条件:3%の水を含有する精製魚油(10g)および固定化リパーゼ調製物1g(またはその粗形態の同等のリパーゼユニット)を、反応系(油-酵素混合物)にそれぞれ1時間間隔で3等量分ずつ添加したエタノール(2g)と混合した。反応混合物を30℃でインキュベートし、300rpmで振盪した。
【表1】
【0116】
表2は、24時間の反応後の、CALAの様々な調製物を使用した、エステル交換/エステル化反応、精製魚油およびエタノールのFAEEへの転換の結果を提示している。反応条件は表1と同じであった。
【表2】
【0117】
表3は、30時間の反応後の、CALAの様々な調製物を使用した、エステル交換/エステル化反応、精製魚油およびエタノールのFAEEへの転換の結果を提示している。反応条件は表1と同じであった。
【表3】
【0118】
表1~3は、温和な疎水性ドメインと温和な親水性ドメインで構成されるポリマー樹脂上に固定化されたCALA(リパーゼ調製物番号3)が、その遊離形態または他の異なる支持体上に固定化された場合の同じリパーゼの活性と比較して、飽和ならびにモノ-、ジ-およびトリ-不飽和脂肪酸アシル基に対する選好性を増加させ、n-3脂肪酸アシル基に対する選好性を低下させたことを明確に示している。例えば、表1に見られるように、反応を進行させた6時間後に、リパーゼ調製物番号3を使用すると、FAEEの画分は、粗(固定化されていない)CALAの39.6%と比較して49.9%に増加した一方で、FAEE画分中のn-3脂肪酸部分のレベルは、粗CALAを使用した場合の15.9%w/wと比較して、7.3%w/wであり、n-3脂肪酸の大部分がグリセリド画分中に保持されており、n-3脂肪酸部分が高度に濃縮された油が得られたことを示している。
【0119】
例3
グリセリドの形態のn-3脂肪酸濃縮物の調製
例1のように遊離形態または様々な酵素支持体(1g)上に固定化されたアルカリゲネス属(Alcaligenes)種由来のリパーゼ(10000ユニット、リパーゼQLM(商標)、Meito Sangyo、日本)の様々な酵素調製物を、それぞれ、30%n-3脂肪酸を含有する0.3%(10g)未満のFFA含量の精製魚油と混合または振盪することによって接触させ、エタノール(2g)を反応系(油と酵素)に、それぞれ1時間間隔で3等量分ずつ添加した。反応混合物中の含水量を、反応媒体のpHが5~9の範囲となるように必要量の水またはアルカリ性水性緩衝液を添加することによって、油の2重量%に調整した。反応を30℃で行った。反応生成物を様々な時間間隔でガスクロマトグラフィーによって定量した。
【0120】
6時間撹拌した後、固定化リパーゼ調製物を濾別し、反応混合物をフラッシュ蒸発させて過剰のアルコールおよび水を除去し、次いで、分別分子蒸留によって留去して、脂肪酸エチルエステルおよび遊離脂肪酸を除去して、出発材料中に存在する全n-3脂肪酸に対して60%超の回収率でn-3脂肪酸を含有する魚油グリセリドの画分を得た。以下の表4は、魚油グリセリドの脂肪酸エチルエステルへの転換率、および6時間の反応後のエチルエステル画分中のn-3含量も示す。
【表4】
【0121】
表4に提示される結果は、親水性-疎水性ドメインを含むポリマー支持体上に固定化されたリパーゼが、エステル交換/エステル化反応系においてオメガ-3脂肪酸基に対して低下した選好性を示すという点で、表1~3に提示されるのと同様の傾向を示している。6時間の反応後の転換率は比較的低かったので、リパーゼQLM/4についてのオメガ-3/FAEEの低い比率は無視される。
【0122】
例4
グリセリドの形態のn-3脂肪酸濃縮物の調製
サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginose)由来のリパーゼ(Lipozyme TL 100L、Novozymes、デンマーク)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種由来のリパーゼ(Lipase QLM(商標)、Mieto Sangyo、日本)およびシュードモナス(Pseudomonas)由来のリパーゼ[Lipase PS、Amano Enzymes、日本]を、例1によりジビニルベンゼン(DVB)およびメタクリル酸メチル(MMA)で構成されるポリマー支持体(それぞれ10:1重量%の比率)上に別々に固定化した。リパーゼ調製物を、混合または振盪することによって、30%n-3脂肪酸を含有するFFA含量24%(10g)の粗魚油の混合物と接触させ、エタノール(2g)を反応系にそれぞれ1時間間隔で3等量分ずつ添加した。反応混合物中の含水量を、反応媒体のpHが5~9の範囲となるように必要量の水またはアルカリ性溶液を添加することによって、油の3重量%に調整した。反応を30℃で行った。反応生成物およびFFA値を様々な時間間隔でガスクロマトグラフィーによって定量した。
【0123】
以下の表5~7は、様々な酵素調製物を使用した、魚油グリセリドおよびFFAの脂肪酸エチルエステルへのエステル交換/エステル化および加水分解のプロファイルを示す。
【0124】
表5は、DVB/MMAポリマー樹脂上に固定化されたサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginose)リパーゼを使用した、魚油グリセリドおよびFFAのFAEEへのエステル交換/エステル化および加水分解のプロファイルを提示する。
【表5】
【0125】
表6は、DVB/MMAポリマー樹脂上に固定化されたシュードモナス属(Pseudomonas)種リパーゼを使用した、魚油グリセリドおよびFFAのFAEEへのエステル交換/エステル化および加水分解のプロファイルを提示する。反応条件は上記の通りであった。
【表6】
【0126】
表7は、DVB/MMAポリマー樹脂上に固定化されたアルカリゲネス属(Alcaligenes)種リパーゼを使用した、魚油グリセリドおよびFFAのFAEEへのエステル交換/エステル化および加水分解のプロファイルを提示する。反応条件は上記の通りであった。
【表7】
【0127】
表5~7に提示される結果は、固定化リパーゼが、油グリセリドと遊離脂肪酸のエステル交換/エステル化および加水分解反応を同時にまたは順次触媒して、24時間の反応後に、主に脂肪酸エチルエステルおよび典型的には10%より低い、低いFFA値をもたらすことを示している。
【0128】
例5
疎水性ドメインと温和な親水性ドメインを含むコポリマー上に固定化されたリパーゼ
この研究に使用されたポリマーおよびコポリマー支持体は、WangおよびYangによって報告された方法(Wang,Y.およびYang,W.、2004、Langmuir、第20巻、6225~6231頁)に従って合成した。種々の比率のジビニルベンゼンとメタクリル酸メチルを有する様々な支持体を合成し、蒸留水で洗浄し、凍結乾燥して水および残留有機溶媒を除去した。例1に記載される酵素固定化手順を種々の支持体組成物上の様々なリパーゼの調製に使用した。最終生成物、固定化リパーゼ調製物は、50ミクロン未満の粒径の不透明な粉末状物質であった。50ミクロン未満の粒径に粉砕したLewatit OC 1600(LanXess、ドイツ)を、製造業者によって指定されるようにDVBおよびMMAを含む対照樹脂支持体として使用した。
【0129】
図1は、同じバッチの生体触媒を繰り返し使用した、4回目の反応サイクルにおける、精製魚油とエタノールのエステル交換における、種々の比率のDVBとMMAの様々な樹脂上に固定化されたサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼ(Lipozyme TL 100L、Novozymes)の触媒活性プロファイルを示す。全てのリパーゼ調製物を粉末形態で使用した。反応条件については表1を参照されたい。
【0130】
図1に提示される結果は、温和な親水性モノマーの含量と比較して、疎水性モノマーの含量を増加させると(この例では、DVB(疎水性)とMMA(温和な親水性))、リパーゼエステル交換活性が改善されたことを示している。DVB/MMA間の比率がそれぞれ10:1の場合に、最高のリパーゼ活性が観察された。
【0131】
図2は、35回の連続反応サイクルで、同じバッチの固定化酵素ビーズを繰り返し使用した、様々な比率のDVB/MMAで構成される様々なポリマー支持体上に固定化されたサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼ(Lipozyme TL 100L)を使用した6時間の反応後の精製魚油とエタノールのエステル交換/エステル化転換率を示している。反応条件については例1を参照されたい。
【0132】
図3は、35回の連続反応サイクルで、同じバッチの固定化酵素ビーズを繰り返し使用した、様々な比率のDVB/MMAで構成される様々なポリマー支持体上に固定化されたシュードモナス属(Pseudomonas)種リパーゼ(Lipase PS Amano)を使用した精製魚油とエタノールのエステル交換/エステル化転換率を示している。
【0133】
例6
魚油の非選択的エステル交換/エステル化のための共にDVB-MMA混合ポリマー支持体上に固定化されたシュードモナス属(Pseudomonas)種リパーゼ、およびその後のサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼの使用による魚油の脂肪酸エチルエステルの調製
ポリマー支持体の単位重量当たり様々な量の酵素を含有する、魚油とエタノールとのエステル交換反応におけるオメガ-3脂肪酸アシル基に対するその低い選択性について先行技術で知られているリパーゼの様々な調製物を、この研究で、固定化形態で使用した。以下の表は、疎水性-温和な親水性の連続ポリマー支持体上に別々に固定化された様々な酵素濃度のシュードモナス属(Pseudomonas)種リパーゼ(Lipase PS Amano)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)種リパーゼ(リパーゼQLM(商標)、Meito Sangyo)およびサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼ(Lipozyme TL 100L)による6時間および24時間の反応後のエステル交換反応媒体の組成を示す。
【0134】
表8および9は、様々な酵素タンパク質充填量(酵素ユニット/1gポリマー支持体)でDVB-MMAポリマー支持体上に固定化された
シュードモナス属(Pseudomonas)種リパーゼ(リパーゼPS Amano)を使用した精製魚油とエタノールの6時間および24時間のエステル交換反応後に生成されたFAEE%の組成を提示する。
【表8】
【表9】
【0135】
表10および11は、様々な酵素タンパク質充填量(酵素ユニット/1gポリマー支持体)でDVB-MMAポリマー支持体上に固定化された
アルカリゲネス属(Alcaligenes)種リパーゼ(リパーゼQLM Amano)を使用した精製魚油とエタノールの6時間および24時間のエステル交換反応後に生成されたFAEE%の組成を提示する。
【表10】
【表11】
【0136】
表12および13は、様々な酵素タンパク質充填量(酵素ユニット/1gポリマー支持体)でDVB-MMAポリマー支持体上に固定化されたサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼ(Lipozyme TL 100L)を使用した精製魚油とエタノールの6時間および24時間のエステル交換反応後に生成されたFAEE%の組成を示す。
【表12】
【表13】
【0137】
表8~13に提示される結果は、ポリマー支持体上の酵素タンパク質の濃度を増加させると、シュードモナス属(Pseudomonas)種リパーゼが、EPAおよびDHAアシル基を含む全ての種類の脂肪酸アシル基をエステル交換し、24時間後に約95%の転換率に到達した一方、アルカリゲネス属(Alcaligenes)リパーゼ(リパーゼQLM Amano)およびサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼ(Lipase TL)は、ポリマー支持体上の酵素タンパク質充填量を増大させても、オメガ-3脂肪酸アシル基に対するその低い選択性を維持したことを示している。重要なことに、これらの結果は、シュードモナス属(Pseudomonas)種由来のリパーゼPSを、ポリマー支持体上高充填量のタンパク質で使用する場合に、オメガ-3脂肪酸アシル基含有油の非選択的エステル交換/エステル化に使用して、ほぼ完全な収率の脂肪酸アルキルエステル、特に脂肪酸エチルエステルを得ることができることを示している。驚くべきことに、シュードモナス属(Pseudomonas)リパーゼ(Lipase PS、Amano)を魚油とエタノールのエステル交換/エステル化に使用して、70%超の転換率に到達し、次いで、反応媒体の上部有機相を、反応混合物からグリセロールおよび水相を除去することによって回収し、ジビニルベンゼン/メタクリル酸メチルポリマー樹脂上に固定化されたサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginose)リパーゼの存在下でエタノールと再度反応させる二段階法を行うと、100%に近い転換率が達成された。両酵素のリサイクル性も二段階酵素エステル交換法で試験し、両リパーゼ調製物が少なくとも20回のサイクル後にその初期酵素活性の70%超を維持することが実証された。これらの結果は、シュードモナス(Pseudomonas)種由来のリパーゼの単独で、またはサーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)リパーゼなどの高いエステル交換/エステル化触媒活性および安定性を特徴とする他の種類のリパーゼと組み合わせた使用が、エステル化可能な脂肪酸の脂肪酸エチルエステルへの100%に近い転換率を得るために、オメガ-3油の従来の化学的エステル交換を全酵素的方法で置き換えるために工業的に極めて興味深いであろうことを示している。典型的には50~70%の範囲のオメガ-3脂肪酸濃縮物を得るために、脂肪酸エチルエステルへの100%転換を達成した後に、分別蒸留を方法の最後に使用することができる。
例7
多価不飽和脂肪酸濃縮トリグリセリドの調製
例2または3と同様にして得られた様々な比率のモノ-、ジ-およびトリ-グリセリドを含有する混合物(エチルエステルおよび遊離脂肪酸画分を留去した後)を、Novozym 435(Novozymes、デンマーク)、または適切なポリマー樹脂上に固定化されたCALBを使用して、遊離脂肪酸の形態またはFAEEの形態の80%のn-3脂肪酸濃縮物と反応させた。反応を真空下60℃で行って、反応系から形成した水またはエタノールを除去した。初期グリセリド画分中に存在していた部分グリセリドの70%超のトリグリセリドへの高い転換率に到達した後、固定化生体触媒を濾別した。生成物は典型的には、出発脂肪酸組成に応じて、60%超のレベルのn-3多価不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリドの全グリセリドの70%超を含んでいた。