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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】機械式時計の振動子
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/04 20060101AFI20230119BHJP
   G04B 15/14 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
G04B17/04
G04B15/14 B
G04B15/14 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020563887
(86)(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 NL2019050044
(87)【国際公開番号】W WO2019156552
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】2020384
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】520294217
【氏名又は名称】フレクシャス メカニズムス イー ペー ベー. ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユプマ、ヴォウト ヨハネス ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーケ、シブレン レナード
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-538122(JP,A)
【文献】特表2019-508702(JP,A)
【文献】特開2016-118548(JP,A)
【文献】特開2017-67770(JP,A)
【文献】特開2016-153789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/04-17/10
G04B 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械式時計の振動子(100)であって、支持台(2)を有し、その支持台(2)に少なくとも2つの揺動する重錘(11、12、13)が懸架されており、それぞれの重錘(11、12、13)は少なくとも1つのフレキシブルな部材(21、31;22、32;23、33)により個別に支持台(2)に懸架されており、その少なくとも2つの揺動する重錘(11、12,13)は、これら少なくとも2つの重錘(11、12、13)の間に直接的なねじり剛性を有した接続を行う少なくとも2つの平行で可撓性を有する梁(41-48)により相互に接続されており、その少なくとも2つの重錘(11、12、13)のうちの第1の重錘(11)と、その第1の重錘(11)を支持台(2)に接続する少なくとも1つのフレキシブルな部材(21または31)とは、少なくとも2つの重錘(11、12、13)のうちの第2の重錘(12)と、その第2の重錘(12)を支持台(2)に接続する少なくとも1つのフレキシブルな部材(22または32)とに対して、実質的に鏡像対称であり、前記鏡像対称は振動子(100)の中心を通る対称線(A)に関するものであることを特徴とする機械式時計の振動子。
【請求項2】
機械式時計の振動子(100)であって、支持台(2)を有し、その支持台(2)に少なくとも2つの揺動する重錘(11、12、13)が懸架されており、それぞれの重錘(11、12、13)は少なくとも1つのフレキシブルな部材(21、31;22、32;23、33)により個別に支持台(2)に懸架されており、その少なくとも2つの揺動する重錘(11、12,13)は、これら少なくとも2つの重錘(11、12、13)の間に直接的なねじり剛性を有した接続を行う少なくとも2つの平行で可撓性を有する梁(41-48)により相互に接続されており、その2つの平行で可撓性を有する梁(41-48)が、振動子(100)の全円もしくは半円の回転に対してのみ回転対称である構成のものにおいて、
それぞれの重錘(11、12、13)を個別に支持台(2)に懸架させる少なくとも1つのフレキシブルな部材(21、31;22、32)と、少なくとも2つの揺動する重錘(11、12)の間に直接的なねじり剛性を有した接続を行う少なくとも2つの平行で可撓性を有する梁(41-44)とに、剛な部分(21a、31a;22a、32a;41a-44a)が設けられていることを特徴とする機械式時計の振動子。
【請求項3】
2つの平行で可撓性を有する梁(41-48)が、振動子(100)の全円もしくは半円の回転に対してのみ回転対称であることを特徴とする請求項1記載の機械式時計の振動子。
【請求項4】
少なくとも2つの重錘(11、12)が、2組の、2つの平行で可撓性を有する梁(41-48)により互いに接続されており、この2組は、直列に配置されていることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の機械式時計の振動子。
【請求項5】
2組の、2つの平行で可撓性を有する梁(41-48)は、同じ長さとされていることを特徴とする請求項4記載の機械式時計の振動子。
【請求項6】
少なくとも1つの重錘(11、12、13)が、それぞれ2つのフレキシブルな部材(21、31;22、32;23、33)により個別に支持台(2)に懸架されていることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載の機械式時計の振動子。
【請求項7】
振動子(100)におけるすべての重錘(11、12、13)が、2つのフレキシブルな部材(21、31;22、32;23、33)によって個別に支持台(2)に懸架されていることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載の機械式時計の振動子。
【請求項8】
重錘の数がnであるとした場合に、すべての重錘(11、12、13)には少なくともn-1組の相互の接続があり、それぞれの相互の接続の組は、少なくとも2つの平行で可撓性を有する梁(41-48)を備えていることを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項記載の機械式時計の振動子。
【請求項9】
少なくとも2つの重錘(11、12、13)のうちの第1の重錘(11)およびその第1の重錘(11)を支持台(2)に接続する2つのフレキシブルな部材(21、31)と、少なくとも2つの重錘(11、12、13)のうちの第2の重錘(12)およびその第2の重錘(12)を支持台(2)に接続する2つのフレキシブルな部材(22、32)とが、互いに直交する対称線(A、B)に関して鏡像対称であることを特徴とする請求項3から8までのいずれか1項記載の機械式時計の振動子。
【請求項10】
それぞれの重錘(11、12、13)を個別に支持台(2)に懸架させる少なくとも1つのフレキシブルな部材(21、31;22、32)と、少なくとも2つの揺動する重錘(11、12)の間に直接的なねじり剛性を有した接続を行う少なくとも2つの平行で可撓性を有する梁(41-44)とに、剛な部分(21a、31a;22a、32a;41a-44a)が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項3から9までのいずれか1項記載の機械式時計の振動子
【請求項11】
少なくとも2つの揺動する重錘(11、12)に、支持台(2)に対する揺動する重錘(11、12)の変位を制限する第1の機械式のストッパ(11a、12a)が設けられていることを特徴とする請求項1から10までのいずれか1項記載の機械式時計の振動子。
【請求項12】
少なくとも2つの揺動する重錘(11、12)における互いに対する変位を制限する第2の機械式のストッパ(11b、12b)が設けられていることを特徴とする請求項1から11までのいずれか1項記載の機械式時計の振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式時計の振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式時計の振動子は、国際公開第2016/062889号明細書、国際公開第2017/068538号明細書、ヨーロッパ特許第2273323号明細書、ヨーロッパ特許第3035126号明細書、ヨーロッパ特許第3035127号明細書により知られており、以下に数例のみを挙げる。
【0003】
国際公開第2016/062889号明細書は、ガンギ車と、少なくとも2本の揺動腕を備えた振動子と、その揺動腕と剛に接合されたアンクルであって、ガンギ車の歯と直接接触することで、揺動する上記の振動子の交番周期を維持し、かつガンギ車をそれぞれの交番揺動によって進行回転させる2つの部材を備えた前記のアンクルとにより構成される、機械式時計ムーブメントの調速部を開示している。この国際公開第2016/062889号明細書における揺動式の複数の重錘は、幾何学的に相互に連結されておらず、このことは、衝撃と、加速と、姿勢変化との少なくともいずれかが同時もしくは独立して加えられた場合に、それら重錘の振動振幅と位相とは、その同期を維持できず、結果として時間管理の精度を低下させることを意味する。
【0004】
国際公開第2017/068538号明細書は機械式時計のムーブメントを調整する振動子について公開しており、その振動子は、ガンギ車と、振動子の時間基準を形成する共振器とにより構成され、その共振器は重錘を含み、この重錘は少なくとも2つの揺動する要素によりその揺動が維持されている。前記重錘は少なくとも1つのアンクル部を含み、そのアンクル部は、少なくとも1つの重錘と剛に接続されているとともに、共振器の揺動を維持し、そして揺動のそれぞれの交番によってガンギ車に回転運動をさせるために、ガンギ車と直接かみ合うようにされている。この国際公開第2017/068538号明細書の装置の欠点は、可撓性を有するもしくは弾性を有する2つのサスペンションによりグランドと接続された場合に、面外方向の衝撃(すなわち、作用面に対し垂直方向への衝撃)によって大きな影響を受ける点にある。曲げを受ける2つの部材を有するそのような装置の重心を安定させることはできない。仮に曲げを受ける3つ以上の部材にて接続されていたとすれば、その装置が大きな変形に晒された状態で等時性(すなわち、時間管理の正確性)を維持することはできない。
【0005】
ヨーロッパ特許第2273323号明細書は振動子を公開しており、その振動子は時計の枠と締結するように設計された締結部と、枠および締結部を相互に接続する多数の弾性体とにより構成されており、それぞれの前記弾性体は、連続に配置されかつそれぞれが互いに枠により接続された2つの戻り部にて構成され、少なくともいくつかの前記弾性体は枠に対して自由に懸架されている。ヨーロッパ特許第2273323号明細書の振動子は、複数の自由度を持つ複数のフレキシブルな部材を連続的に有しており、このため耐衝撃性が低いと考えられる。さらに、この公知の振動子は、複数の面にその特徴が配置されるように製造されており、それが製作と組立の難度を高めている。
【0006】
ヨーロッパ特許第3035126号明細書は、振動錘を備えた時計用共振器を開示している。前記共振器は時計に固定することができ、前記錘は平行面内において互いの距離で延長する交差式の弾性条により懸架されており、前記共振器は少なくとも2つの錘が対称に揺動する音叉方式である。この土台となる2つの曲げを受ける部材を備えている公知の装置は、面外方向に対する衝撃(すなわち作用面に垂直な方向への衝撃)の耐性が低いであろうと思われる。さらに、この振動子は、複数の面にその特徴が配置されるように製造されており、それが製作と組立の難度を高めている。
【0007】
ヨーロッパ特許第3035127号明細書は、音叉型の共振器を備えた時計用振動子を公開しており、その振動子は、曲げを受ける部材と共に振動子内に設けられる接続部品に固定された少なくとも2つの可動式の揺動部品を備えており、それぞれの可動式の部品は仮想のピボット軸に関して揺動し、可動式の部品の重心は静止位置で仮想のピボット軸と一致し、前記少なくとも1つの可動式の部品におけるフレキシブルな部材は、交差する弾性条にて形成されている。この公知の装置では、揺動する複数の重錘は幾何学的に相互に接続されておらず、それらの重錘が衝撃を受けた場合、加速を受けた場合、そしてそれらと同時もしくは個別に姿勢の変化した場合に、それらの位相を維持することができず、究極的には時間管理精度の低下を起こす。さらに、この公知の振動子は、複数の面にその特徴が配置されるように製造されており、それが製作と組立の難度を高めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、振動子のさまざま姿勢による重力変化の影響に対し、高い耐性を備えた機械式時計の振動子を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、高い耐衝撃性を備えた機械式時計の振動子を提供することをもう1つの目的とする。
【0010】
本発明は、先行技術の振動子よりも可能な限り小さな機械式時計の振動子を提供することを、さらなるもう1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以降の明細書の開示から明らかになるところの、本発明のこれらと他の目的は、添付の1つもしくは複数の請求項の機械式時計の振動子により提供される。
【0012】
本発明の第1の態様では、機械式時計の振動子は支持台を有し、その支持台に少なくとも2つの揺動する重錘が懸架されており、それぞれの重錘は少なくとも1つのフレキシブルな部材によって個別に支持台に懸架されており、その少なくとも2つの揺動する重錘は、これら少なくとも2つの重錘の間に直接的なねじり剛性を有した接続を行う少なくとも2つの平行で可撓性を有する梁によって相互に接続されている。少なくとも2つの重錘のうちの第1の重錘と、その第1の重錘を支持台に接続する少なくとも1つのフレキシブルな部材とは、少なくとも2つの重錘のうちの第2の重錘と、その第2の重錘を支持台に接続する少なくも1つのフレキシブルな部材とに対して、実質的に鏡像対称である。その鏡像対称は、振動子の中央を通る対称線に関するものである。上記における「実質的に」という語は、重錘の重量またはその形状と、重錘と支持台との接続を行うところの可撓性を有する部材の姿勢とに起因する、意図されたおよび意図されていない不確かさが、本発明の範囲に含まれることを意味する。工学的観点からは、公称値の最大10%までの不確さは、本発明の範囲からの逸脱はないとして許容される。可撓性を有する部材の姿勢については、360°の全円に対する10%の姿勢誤差までが、発明の範囲から逸脱はないとして許容される。もちろん、完全な鏡像対称であるとともに、複数の重錘の重量と形状とがまったく同一であることが、最良である。
【0013】
前述の特徴の組み合わせにより、本発明の機械式時計の振動子は、その振動子のさまざまな姿勢により発生しうる重力の影響に対して、高い耐性を有するものとなる。
【0014】
本発明の第2の態様は、単独で、もしくは前記した本発明の第1の態様による特徴と組み合わせて、もしくは以降に論じられる特徴のいずれかと組み合わせての適用が可能であるが、この第2の態様では、機械式時計の振動子は支持台を有する。その支持台に、少なくとも2つの揺動する重錘が懸架されており、それぞれの重錘は、少なくとも1つのフレキシブルな部材によって個別に支持台に懸架されている。その少なくとも2つの揺動する重錘は、これら少なくとも2つの重錘の間に直接的にねじり剛性を有した接続を行う少なくとも2つの平行で可撓性を有する梁によって相互に接続されており、その2つの平行で可撓性を有する梁は、振動子の全円の回転もしくは半円の回転に対してのみ回転対称となる。ウィキペディアでは、生物学において放射状対称としても知られる回転対称を、ある形状を部分回転させた後に元と同じ形状に見える特性と定義している。物体の回転対称性の程度は、同物体が同じように見えるところの、異なる方向の数である。本発明の「振動子の全円の回転もしくは半円の回転についてのみ回転対称」という特徴とは、すなわち振動子が元の形状もしくはそれが0°の回転すなわちまだ回転していない状態に見えるようになるには、全円である360°の回転、もしくは180°の回転をさせる必要があることを意味する。前記特徴の組み合わせによって、振動子の小形化、そして製造の低価格化を実現できる。または、言い換えると、例えば振動子において揺動する重錘の円周内部に含まれるガンギ車のような他の特徴のための、空間を提供する。振動子の小形化が可能になるため、質量が低減することで、振動子に、より高いエネルギ効率、もしくは少ないエネルギ消費と、より高い耐久性とを、より高い衝撃耐性と共に、付与することもできる。
【0015】
以下の特徴は、前記第1の態様にもとづく本発明の機械的な振動子と、もしくは前記第2の態様にもとづく本発明の機械的な振動子と、組み合わせて適用することができる。ここで説明するすべての特徴は、一緒に適用することもできる。
【0016】
少なくとも2つの重錘は、2組の、2つの平行で可撓性を有する梁により、相互に接続されていることが好適であり、その2組の梁は直列に配置され、そしてその2組の梁の長さが等しいことが好適である。それぞれの個別の、可撓性を有する梁の組は、それぞれの組の可撓性を有する梁の2つの端部の間で、対応する変形を行うことができる。2組の可撓性を有する梁は直列に配置されているので、1組の可撓性を有する梁の2つの端部は、面方向にわたって2つの並進方向に移動できる。しかし、その2つの端部の間の回転は回避される。これらの2組の平行で可撓性を有する梁を2つの重錘の間に取り付けることにより、2つの重錘の間で位相差がゼロで振幅が等しい振動が幾何学的に保証される。これは、振動子の重心の安定性を維持し、また振動子の耐衝撃性を促進するのに役立つ。
【0017】
好適な実施形態では、少なくとも1つの重錘は、2つのフレキシブルな部材により個別に懸架される。これによっても、振動子の耐衝撃性が向上する。好ましくは、振動子のすべての重錘が、2つのフレキシブルな部材によって個別に支持台に懸架され、それによって振動子の耐衝撃性がさらに高められる。
【0018】
重錘の個数がnである実施形態では、重錘どうしの間における少なくともn-1組の相互接続によってすべての重錘が互いに接続されており、そのときに、各組の相互接続が、少なくとも2つの平行なフレキシブルな部材や可撓性を有する梁にて構成されていることが好ましい。これにより、重錘の回転が相互に完全に拘束される。
【0019】
少なくとも2つの重錘のうちの第1の重錘およびその第1の重錘を支持台に接続する2つのフレキシブルな部材と、少なくとも2つの重錘のうちの第2の重錘およびその第2の重錘を支持台に接続する2つのフレキシブルな部材とが、互いに直交する対称線に関して鏡像対称である実施形態によって、本発明の目的のうちの少なくともいくつを達成することが促進される。
【0020】
それぞれの重錘を個別に支持台に懸架させる少なくとも1つのフレキシブルな部材と、少なくとも2つの揺動する重錘の間に直接的なねじり剛性を有した接続を行う少なくとも2つの平行で可撓性を有する梁とに、剛な部分が設けられていることが好適である。この特徴は、フレキシブルな部材と可撓性を有する梁とにおける挫屈が発生する部位の耐衝撃性の度合を高める。
【0021】
少なくとも2つの揺動する重錘に、支持台に対する揺動する重錘の変位を制限する第1の機械式のストッパが設けられていることで、耐衝撃性がより高くなる。
【0022】
これに関連して、少なくとも2つの揺動する重錘に、その揺動する重錘における互いに対する変位を制限する第2の機械式のストッパが設けられていることがさらに有益である。
【0023】
前の2つの段落で述べたように、相対運動を機械的にブロックすると、フレキシブル部材と可撓性を有する梁との応力が減少して、破損のリスクが減少する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】本発明の時計の振動子の第1の実施形態の平面図である。
図1B】本発明の時計の振動子の第1の実施形態の立体図である。
図2A】本発明の時計の振動子の第2の実施形態の平面図である。
図2B】本発明の時計の振動子の第2の実施形態の立体図である。
図3A】本発明の時計の振動子の第3の実施形態の平面図である。
図3B】本発明の時計の振動子の第3の実施形態の立体図である。
図4】本発明の時計の振動子の第4の実施形態の平面図である。
図5】本発明の時計の振動子の第5の実施形態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
特許請求の範囲を限定しないところの、本発明の時計の振動子のいくつかの例示的な実施形態の図面を参照して、以下において本発明を詳細に説明する。
【0026】
図において、同じ参照番号がある場合、それらは同一の部材を示す。
【0027】
まず、図1A、1B、2A、2Bは異なる2通りの実施形態を示し、ここでは振動子100は、薄いフレキシブルな部材21、31、22、32により支持台2に弾性的に懸架された2つの重錘11、12を有する。
【0028】
図1A、1B、2A、2Bの両方の実施形態について、振動子100の支持台2には、振動子100と時計における他の部品との接続を可能とするねじ穴61、62が設けられている。
【0029】
重錘11、12が揺動しているとき、これらの重錘11、12の爪51、52が交互にガンギ車53の開放と停止を行い、ガンギ車53を段階的に回転させる。振動子100は、ガンギ車53から入力されるエネルギによってその揺動運動が維持される。
【0030】
図1A、1Bと、図2Aおよび2Bとに示される実施形態の違いは、図1Aおよび図1Bの実施形態では支持台2が振動子100の中心に配置されるが、図2Aおよび図2Bの実施形態では、支持台2は振動子100の外周側に配置される点である。
【0031】
重錘11、12は、それぞれ2つのフレキシブルな部材21、31および22、32を使用して支持台2と個別に接続されるように示されており、これは振動子100に最適な耐衝撃性を提供する最も好ましい実施形態を意味するものであるが、本発明の範囲内においては、重錘11、12のそれぞれが1つのフレキシブルな部材で支持台2に個別に接続されることで十分である。その例を挙げると、重錘11には、フレキシブルな部材21のみまたはフレキシブルな部材31のみを適用するだけで十分であり、そして重錘12については、フレキシブルな部材22のみ、もしくはフレキシブルな部材32のみを適用するだけで十分である。
【0032】
本発明の第1の態様によれば、少なくとも2つの重錘のうちの第1の重錘11およびこの第1の重錘11と支持台2とを接続する少なくとも1つのフレキシブルな部材21、31と、少なくとも2つの重錘のうちの第2の重錘12およびこの第2の重錘12と支持台2とを接続する少なくとも1つのフレキシブルな部材22、32とが、互いに鏡像対称であることが必須である。ここで前記鏡像対称は、振動子100の中心を通る対称線Aとの関係において適用される。これは、例えば本発明の振動子100の姿勢変化によるその揺動周波数への重力の影響に対して、高い耐性を付与する。
【0033】
図1A、1B、および図2Aおよび2Bに示される実施形態のように、それぞれが2つのフレキシブルな部材21、31および22、32を使用して支持台2と接続される重錘11、12が備えられていた場合に、少なくとも2つの重錘のうちの第1の重錘11およびその第1の重錘11の支持台2への接続を行う2つのフレキシブルな部材21、31と、少なくとも2つの重錘のうちの第2の重錘12およびその第2の重錘12の支持台2への接続を行う2つのフレキシブルな部材22、32とは、2本の互いに直交する対称線A、Bに関して鏡像対称であることが好適である。これにより、本発明の振動子100が異なる姿勢により受ける重力の影響性がさらに低くなるように改善がなされる。
【0034】
図1A図1B、および図2A図2Bの両方の実施形態では、これらの実施形態の重錘のすべてである2つの重錘11、12が、それぞれ同じ長さの2組の2つの平行で可撓性を有する梁41、42と43、44とにより相互に接続されていることが好適であることがさらに示されている。可撓性を有する梁41、42および可撓性を有する梁43、44の、それぞれ独立した組は、各組の可撓性を有する梁における2つの端部の間での対応する変形のみを行うことができる。なぜなら、2組の可撓性を有する梁が連続して配置されているので、2組の可撓性を有する梁の2つの端部は、その2つの端部の回転を除く、平面にわたる2つの並進方向へ動くことができるためである。
【0035】
2つ重錘11、12の間に2組の平行で可撓性を有する梁41、42および43、44を取り付けることで、2つの重錘11、12の間でその振幅が等しく位相差がゼロとなる揺動を行うことが幾何学的に保証される。これは、振動子100の重心の安定性を維持する上で有益で、振動子の耐衝撃性を高める。
【0036】
本発明の第2の実施形態によれば、実施形態の図1A、1B、そして図2A、2Bにおける、平行で、可撓性を有する梁41-44は、振動子100の全円の回転もしくは半円の回転に対してのみ回転対称である。これにより、ガンギ車53と、揺動する爪51、52とに空間を提供する。前記空間はもちろん必要となれば他の特徴のために使用することもできる。
【0037】
本発明の振動子100の第3の実施形態が、図3A及び3Bに示されている。図1A図1Bと比較すると、図3A図3Bの振動子100には、追加の重錘13が設けられている。本発明の第1の態様にもとづく、重錘11および重錘12と、これら重錘11、重錘12を支持台2に接続するフレキシブルな接続についての鏡像対称性とに関する前記の説明は、図3A図3Bの形態にも適用される。正確には、図3A図3Bとにおいても、第1の重錘11と、第1の重錘11を支持台2へ接続する少なくとも1つのフレキシブルな部材21または31とは、第2の重錘12と、第2の重錘12を支持台2へ接続する少なくとも1つのフレキシブルな部材22または32とに対して鏡像対称である。ここで、前記の鏡像対称は、振動子100の中心を通る対称線Aに関して適用される。また、平行で、可撓性を有する梁41-48が、回転非対称であるとともに、振動子100の全円周の回転についてのみ回転対称性を有するという本発明の第2の実施形態も、この第3の実施形態に適用される。このため、繰り返しとなるが、この第3の実施形態においては、ガンギ車53と揺動する爪51、52のための空間が形成される。
【0038】
図3Aおよび図3Bに示される第3の実施形態と同様に、図4に示される第4の実施形態は、第1の重錘11と、第2の重錘12と、追加的な重錘13とを備える。この第4の実施形態を前述の実施形態と比較したときの違いは、重錘を相互に接続する別な方法を示している点であり、2つの平行で可撓性を有する梁41、42が2つの揺動する重錘11と13とを接続し、2つの平行で可撓性を有する梁47、48が2つの揺動する重錘12と13とを接続する。さらに、この実施形態における第1の例によれば、第1の重錘11と、第1の重錘11を支持台2に接続するフレキシブルな部材31とが、第2の重錘12と、第2の重錘12を支持台2に接続するフレキシブルな部材32とに対して、実質的に鏡像対称である。前記鏡像対称は、振動子100の中心を通る対称線Aとの関係において適用される。また、この実施形態における第2の例によれば、図3A、3Bの実施形態における平行で可撓性を有する梁41-48は、振動子100の全円または半円のみの回転に関して回転対称性を有する。
【0039】
最後に、面内方向の衝撃に対するロバスト性を高めた第5の実施形態が、図5に示されている。ここでは、重錘11と重錘12とをそれぞれ支持台2に懸架させる少なくとも1つのフレキシブルな部材21、31および22,32と、少なくとも2つの揺動する重錘11と12との間において直接的でねじり剛性を有する接続を行う少なくとも2つの平行で可撓性を有する梁41-44とに、剛な部分21a、31a;22a、32a;41a-44aが設けられる。これらの剛な部分は、フレキシブルな部材と可撓性を有する梁が挫屈作用を受けるときの耐衝撃性の度合を高める。
【0040】
少なくとも2つの揺動する重錘11、12には、支持台2に対するこれらの揺動する重錘11、12の変位を制限するように調整された第1の機械式のストッパ11a、12aが設けられており、またこれらの少なくとも2つの揺動する重錘11、12には、これらの揺動する重錘11、12における互いの変位を制限するように調整された第2の機械式のストッパ11b、12bが設けられている点が、さらに示されている。これらの互いの変位を機械的にブロックすることで、フレキシブルな部材と可撓性を有する梁とに作用する応力を低減するとともに、それらの損傷の恐れを低減する。本発明の振動子について、いくつかの例示的な実施形態を参照して説明したが、本発明はこれらの特定の実施形態に限定されない。これらの特定の実施形態は、本発明の範囲から逸脱することなしに、さらに多くの方法にて変化を加えることができる。したがって、ここに説明された例示的な実施形態は、この実施形態にしたがって添付の特許請求の範囲を厳密に解釈するために使用されるべきではない。一方で、これらの実施形態は、添付の特許請求の範囲をこれらの例示的な実施形態に限定することを意図せずに、同特許請求の範囲の文言を説明することのみを意図するものである。したがって、本発明の保護の範囲は、添付の特許請求の範囲にしたがってのみ解釈されるべきであり、特許請求の範囲における曖昧な可能性がある文言については、これらの例示的な実施形態を使用して解決されるものとする。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5