(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】みりん類、みりん類の製造方法、並びに、加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/08 20060101AFI20230119BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20230119BHJP
【FI】
C12G3/08 102
A23L5/00 H
(21)【出願番号】P 2021180926
(22)【出願日】2021-11-05
(62)【分割の表示】P 2017207246の分割
【原出願日】2017-10-26
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2016210663
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】畑 千嘉子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼倉 裕
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆之
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-252125(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157381(WO,A1)
【文献】醸協,2011年,Vol.106, No.9,pp.578-586
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 3/08
A23L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロテン含量が20μg/L以上であり、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量が10mg/L以上であり、かつシクロテン含量/色調が0.02以上であることを特徴とするみりん類。
【請求項2】
前記シクロテン含量が50μg/L以上であることを特徴とする請求項1に記載のみりん類。
【請求項3】
前記5-ヒドロキシメチルフルフラール含量が12mg/L以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のみりん類。
【請求項4】
前記シクロテン含量/色調が0.03以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のみりん類。
【請求項5】
原料の少なくとも一部に米麹の加熱処理物を用いたものであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のみりん類。
【請求項6】
前記みりん類がみりんであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のみりん類。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のみりん類を食材に接触させることによって加工食品を得ることを特徴とする加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、みりん類、みりん類の製造方法、並びに、加工食品の製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、特定量以上のシクロテンを含有するみりん類、米麹の加熱処理物を用いるみりん類の製造方法、並びに、該みりん類で食材を処理する加工食品の製造方法に関する。本発明のみりん類は、特徴的な香味や新たな調理機能を備えたものである。
【背景技術】
【0002】
みりんには、原材料として、もち米、米麹、醸造アルコール、糖類を用いた「本みりん」や、もち米、米麹、醸造アルコールを用いた「純米本みりん」などがあり、いずれも自然な甘みと旨みを有している。一方、消費者の多様な嗜好や要望に対応すべく、特徴的な香味や新たな調理機能を備えたみりん類の開発が求められている。例えば、いわゆる先味と後味を併せ持つ、換言すれば甘さの厚みや持続性が増強されたみりん類を開発することは、非常に有用である。
【0003】
シクロテンは、分子式C6H8O2で示されるCAS登録番号80-71-7の物質であり、メチルシクロペンテノロン、マプルラクトンとも呼ばれる。シクロテンはコーヒーやカラメルなどの香り成分であり、甘く焦げた臭い(甘焦げ臭)を有する。シクロテンは、古くから食品香料として珍重され、インスタントコーヒー、チョコレート、パン、ケーキなどの食品、飼料添加物、衣料用洗剤、たばこなどに広く用いられている(非特許文献1)。
【0004】
食品の分野におけるシクロテンの利用技術としては、例えば、特許文献1、特許文献2に開示されたものがある。特許文献1には、甘味に優れたキャンディ組成物及びそれを用いたキャンディが開示されている。特許文献2には、香りが強化されたコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物及びその製造方法が開示されている。しかし、みりんを含む酒類の分野において、シクロテンに着目した商品設計はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-340650号公報
【文献】特開2014-30396号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】佐藤菊正、鈴木茂、「シクロテンの合成」、有機合成化学協会誌、1967年、第25巻、第1号、p.2-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記現状に鑑み、本発明は、特徴的な香味や新たな調理機能を備えた新規のみりん類とその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来のみりんと比べて、先味と後味を併せ持ったみりん類を開発すべく鋭意検討を行った。その結果、原料の少なくとも一部に米麹の加熱処理物を用いることにより、シクロテンを特定量以上含有し、先味と後味を併せ持った新規な酒質のみりん類を得ることに成功した。
【0009】
上記した知見に基づいて提供される本発明の1つの様相は、シクロテン含量が20μg/L以上であり、かつシクロテン含量/色調が0.02以上であることを特徴とするみりん類である。
【0010】
本様相のみりん類は、シクロテンの含量が特定量以上である。そのため、先味と後味を併せ持ち、甘さの厚みや持続性が増強された新規な酒質のみりん類となる。さらに本様相のみりん類はシクロテン含量/色調が0.02以上であるので、色調を一定値以下とすれば、高いシクロテン含量を有しつつ、従来の本みりんと同様に色調にも優れたものとなる。
【0011】
「みりん類」とは、みりん及び発酵調味料を指す。
「みりん」とは、酒税法でいう混成酒類の中のみりんのことであり、例えば以下に掲げる酒類でアルコール分が15度(15v/v%)未満のもの(エキス分が40度以上のものその他政令で定めるものに限る。)である。
(1)米及び米こうじにしょうちゅう又はアルコールを加えて、こしたもの。
(2)米、米こうじ及びしょうちゅう又はアルコールにみりんその他政令で定める物品を加えて、こしたもの。
(3)みりんにしょうちゅう又はアルコールを加えたもの。
(4)みりんにみりんかすを加えて、こしたもの。
【0012】
「発酵調味料」とは、酒類の不可飲処置による免税措置に基づいて食塩を添加して発酵・熟成することを基本とし、これに糖質原料、麹、変性アルコールなど目的に応じた副原料を添加して製造したものである。
【0013】
「色調」とは、波長430nmにおける光路長10mmのセルで測定した吸光度に1000を乗じた値を指す。
「シクロテン含量/色調」とは、シクロテン含量(μg/L)を色調で除した値を指す。
【0014】
好ましくは、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量が10mg/L以上である。
【0015】
5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は、分子式C6H6O3で示されるCAS登録番号67-47-0の物質であり、5-ヒドロキシメチルフラン-2-カルボアルデヒド、5-(ヒドロキシメチル)-2-フルアルデヒドとも呼ばれる。5-ヒドロキシメチルフルフラールは、牛乳、フルーツジュース、蜂蜜などの食品を加熱すると微量ながら生成することが知られている。そして本様相のみりん類は、シクロテンの含量が特定量以上であることに加えて、5-ヒドロキシメチルフルフラールの含量が特定量以上である。かかる構成により、先味と後味を併せ持ち、甘さの厚みや持続性がより増強された新規な酒質のみりん類となる。また、本様相においてもシクロテン含量/色調が0.02以上であるので、色調を一定値以下とすれば、高いシクロテン含量と高い5-ヒドロキシメチルフルフラール含量を有しつつ、従来の本みりんと同様に色調にも優れたものとなる。
【0016】
好ましくは、前記みりん類は、原料の少なくとも一部に米麹の加熱処理物を用いたものである。
【0017】
好ましくは、前記みりん類がみりんである。
【0018】
かかる構成により、先味と後味を併せ持ち、甘さの厚みや持続性が増強されたみりんを提供することができる。
【0019】
本発明の他の様相は、原料の少なくとも一部に、米麹を70~140℃で加熱して得られる第一米麹加熱処理物と、米麹を160~300℃で加熱して得られる第二米麹加熱処理物とを用い、シクロテン含量が20μg/L以上であり、かつシクロテン含量/色調が0.02以上であるみりん類を製造することを特徴とするみりん類の製造方法である。
【0020】
本様相はみりん類の製造方法に係るものである。本様相では、原料の少なくとも一部に、米麹を70~140℃で加熱して得られる第一米麹加熱処理物と、米麹を160~300℃で加熱して得られる第二米麹加熱処理物とを用いる。そして、シクロテン含量が20μg/L以上であり、かつシクロテン含量/色調が0.02以上であるみりん類を得る。本様相によれば、先味と後味を併せ持ち、甘さの厚みや持続性が増強された新規な酒質のみりん類を得ることができる。
【0021】
好ましくは、前記みりん類の5-ヒドロキシメチルフルフラール含量が10mg/L以上である。
【0022】
好ましくは、前記第一米麹加熱処理物が、米麹を70~140℃で1分~10時間加熱して得られるものであり、前記第二米麹加熱処理物が、米麹を160~300℃で1秒~1時間加熱して得られるものである。
【0023】
本発明の他の様相は、上記のみりん類を食材に接触させることによって加工食品を得ることを特徴とする加工食品の製造方法である。
【0024】
本発明の他の様相は、上記のみりん類の製造方法によって得られたみりん類を食材に接触させることによって加工食品を得ることを特徴とする加工食品の製造方法である。
【0025】
本様相は加工食品の製造方法に係るものであり、上記のみりん類又は上記の方法によって得られたみりん類を食材に接触させることによって加工食品を得るものである。本様相によれば、前記みりん類が有する特性に基づく高品質の加工食品が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明のみりん類は、先味と後味を併せ持ち、甘さの厚みや持続性が増強された新規な酒質を有する。
【0027】
本発明のみりん類の製造方法によれば、先味と後味を併せ持ち、甘さの厚みや持続性が増強された新規な酒質を有するみりん類を製造することができる。
【0028】
本発明の加工食品の製造方法によれば、前記みりん類が有する特性に基づく高品質の加工食品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。
【0030】
本発明のみりん類は、特定量以上のシクロテンを含有し、かつ特定値以上のシクロテン含量/色調を有する。「みりん類」とはみりん及び発酵調味料を指す。
【0031】
上記シクロテン含量は20μg/L以上であり、好ましくは50μg/L以上、より好ましくは60μg/L以上、さらに好ましくは80μg/L以上である。シクロテン含量の上限は特になく、シクロテン含量が多くても品質を大きく損なうことはない。例えば、シクロテン含量が10mg/Lであっても官能的に問題はない。
【0032】
上述したように、「色調」とは、波長430nmにおける光路長10mmのセルで測定した吸光度に1000を乗じた値を指す。「シクロテン含量/色調」とは、シクロテン含量(μg/L)を色調で除した値を指す。本発明のみりん類は、シクロテン含量/色調が0.02以上であり、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.06以上である。シクロテン含量/色調の上限は特になく、色調を例えば3000以下となるようにみりんで希釈すれば、シクロテン含量/色調の値が大きくても品質や色調を大きく損なうことはない。例えば、シクロテン含量/色調が0.5であっても、みりん類の見た目(外観)が損なわれることはない。
【0033】
好ましい実施形態では、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量が10mg/L以上である。すなわち、シクロテン含量が20μg/L以上であり、シクロテン含量/色調が0.02以上であり、かつ5-ヒドロキシメチルフルフラール含量が10mg/L以上である。
【0034】
上記5-ヒドロキシメチルフルフラール含量は、好ましくは12mg/L以上、より好ましくは15mg/L以上、さらに好ましくは20mg/L以上である。5-ヒドロキシメチルフルフラール含量の上限は特になく、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量が多くても品質を大きく損なうことはない。例えば、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量が750mg/Lであっても官能的に問題はない。
【0035】
本発明のみりん類の原料として用いる米麹としては特に限定されず、例えば黄麹、白麹、黒麹のいずれでもよい。黄麹であれば、例えば、麹菌としてアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、及びアスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)からなる群より選ばれた少なくとも1種を用いた米麹を採用することができる。白麹であれば、例えば、麹菌としてアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、及び/又はアスペルギルス・シロウサミ(Aspergillus usamii mutant shirousamii)を用いた米麹を採用することができる。さらに黒麹であれば、例えば、黒麹菌であるアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)やアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)を用いた米麹を採用することができる。米麹の形態についても特に限定はなく、乾燥品、冷蔵品、冷凍品等のいずれでもよい。また必要に応じて、細断、粉砕、磨砕などの処理を行ってもよい。加熱処理前に液化酵素や糖化酵素などで酵素処理を行ってもよい。
【0036】
本発明のみりん類を製造する方法としては特に限定されず、従来のみりんや発酵調味料の製法を基礎として、使用原料や製造条件を工夫することにより製造することができる。例えば、みりんの場合には、酒税法に則ったみりんの製造方法であれば特に限定はない。一般的なみりんの製造方法は、まず、搗精、洗米等の原料処理を行い、麹などを添加して仕込醪となし、糖化・熟成する。次に、糖化・熟成を終えた醪を圧搾機で上槽して搾汁液と粕に分離する。最後に、得られた搾汁液に対して精製工程で火入れし、滓下げして清澄な製品みりんとなる。ここでいう原料処理には、精白、洗米、浸漬、水切り、蒸煮、放冷の各工程があるが、更に掛原料の液化及び/又は糖化工程も含んでいる。原料として、米、米麹、醸造用アルコール又は焼酎以外に、デンプン部分加水分解物を使用してもよい。また、必要に応じて酵素製剤を掛原料の処理の液化及び/又は糖化工程並びに醪へ添加してもよい。
【0037】
発酵調味料の場合も同様である。一般的なみりんタイプの発酵調味料の製造方法は、まず、掛原料、麹、酵母を添加して醪とし、食塩を添加して糖化・発酵を行い、更に米麹、糖質原料を添加して熟成させ、圧搾ろ過して搾汁液と粕を得る。そして、この搾汁液、又は搾汁液を精製して発酵調味料を得る。
本発明のみりんを、酒類の不可飲処置による免税措置に基づいた発酵調味料とすることもできる。
【0038】
本発明のみりん類を製造する際には、原料の少なくとも一部に加熱処理した米麹を使用することが好ましく、加熱条件が異なる2種の米麹加熱処理物を用いることが特に好ましい。例えば、原料の少なくとも一部に、米麹を70~140℃で加熱して得られる「第一米麹加熱処理物」と、米麹を160~300℃で加熱して得られる「第二米麹加熱処理物」を用いることが好ましい。
【0039】
第一米麹加熱処理物を得る際の加熱温度としては、通常は70~140℃、好ましくは90~140℃、より好ましくは100~130℃である。加熱時間としては、採用する加熱温度によって適宜選択すればよいが、例えば加熱温度が70~140℃であれば、通常は1分~10時間、好ましくは10分~5時間、より好ましくは30分~5時間である。
【0040】
第二米麹加熱処理物を得る際の加熱温度としては、通常は160~300℃、好ましくは180~280℃、より好ましくは180~250℃である。加熱時間としては、採用する加熱温度によって適宜選択すればよいが、例えば加熱温度が160~300℃であれば、通常は1秒~1時間、好ましくは5秒~1時間、より好ましくは10秒~1時間である。
【0041】
加熱処理の手法としては、焙炒法等の乾燥熱風による直接加熱法、熱源から隔壁を通して加熱する間接加熱法、加圧して加熱する加圧加熱法、等が挙げられる。直接加熱法の例としては焙炒法以外に気流乾燥や噴霧乾燥が挙げられる。間接加熱法の例としてはドラム乾燥が挙げられる。加圧加熱法の例としては圧力式焼成釜を用いる方法や押出成形に用いるエクストルーダー法が挙げられる。さらに乾き飽和水蒸気を更に加熱して飽和蒸気温度を超える温度に上昇させた状態の水蒸気である過熱蒸気を用いる過熱蒸気処理も採用できる。
【0042】
原料の少なくとも一部に米麹の上記加熱処理物を用いることにより、シクロテン含量が1mg/Lであるみりん類を製造できることは確認済みである。さらに、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量が500mg/Lであるみりん類を製造できることは確認済みである。
【0043】
本発明のみりん類の製造方法は、例えば、米麹を70~140℃で加熱して第一米麹加熱処理物を得る第一工程と、米麹を160~300℃で加熱して第二米麹加熱処理物を得る第二工程と、原料の少なくとも一部に前記第一米麹加熱処理物と前記第二米麹加熱処理物を用いて、シクロテン含量が20μg/L以上であり、かつシクロテン含量/色調が0.02以上であるみりん類を製造する第三工程とを包含する。ここで、第一工程と第二工程の順序は任意である。
【0044】
本発明では、第一米麹加熱処理物と第二米麹加熱処理物に加えて、他の加熱条件からなる別の米麹加熱処理物をさらに使用してもよい。
【0045】
一方、所望のシクロテン含量を得るために、シクロテン自体を原料の一部に用いてもよい。例えば、みりん類の製造過程でシクロテンを添加してもよい。この際、上記した米麹の加熱処理物と併用してもよい。5-ヒドロキシメチルフルフラールについても同様である。
【0046】
なお、上記した「先味」とは、口腔内に含んでから2秒以内に感じるものであり、「後味」とは、4秒以降にも感じるものである。「先味」、「後味」とは別に、2~4秒で感じるものは「中味」である。「先味」は比較的単純な味で後に残らないが、「後味」は持続性がある。甘さの厚みや持続性があると濃厚と感じる。本発明のみりん類は「甘さ」と「濃厚さ」を併せ持っている。
「先味」と「後味」の例を挙げると、味認識装置(味覚センサー)SA402B〔(株)インテリジェントセンサーテクノロジー製〕による測定項目では、酸味、苦味雑味、渋味刺激、旨味、塩味が「先味」に相当し、苦味、渋味、旨味コクが「後味」に相当する。
【0047】
本発明のみりん類の形態としては特に限定はなく、液状だけでなく、例えば、粉末状、顆粒状、錠剤状、乳液状、ペースト状等に調製してもよい。必要に応じて、食塩などを添加することもできる。
【0048】
本発明の加工食品の製造方法は、本発明のみりん類を食材に接触させることによって、加工食品を得ることを特徴とする。この場合のみりん類の使用量についても特に限定はなく、例えば使用するみりん類のシクロテン含量や5-ヒドロキシメチルフルフラール含量に応じて適宜設定すればよい。
【0049】
前記食材としては特に限定はないが、例えば、菓子類、惣菜類等への使用が挙げられる。惣菜類は、穀類、イモ類、種実類、豆類、獣鳥鯨肉類、魚介類、卵類、野菜類、キノコ類、藻類、及びこれらの混合物を調理したものである。ここでいう調理の方法は、焼く、煎る、炒める、揚げる、蒸す、茹でる、煮るなど、いずれの方法においても好適に使用できる。また、醤油、味噌、酢、だし汁等、他の調味料と混合して使用しても好適に調理効果を得ることができる。使用方法に特に限定はなく、煮汁に入れてそのまま煮る、調理品表面へまぶす等、一般のみりん類で使用する方法と同様に用いればよい。
獣鳥鯨肉類は、食用できる肉であれば特に限定はなく、例えば、牛、豚、馬、羊、山羊、鹿、猪、熊、鶏、アヒル、七面鳥、雉、鴨、鯨などが挙げられる。同様に、魚介類は、食用できる魚介類であれば特に限定はなく、魚類及び貝類などの水中にすむ水産動物が例として挙げられる。さらに、エビ、カニなどの節足動物、イカ、タコなどの軟体動物、クラゲなどの腔腸動物、ウニ、ナマコなどの棘皮動物、ホヤなどの原索動物なども対象となる。
【0050】
本発明のみりん類は、和食のみならず洋食、中華料理にも使用することができる。すなわち、味の深みを増し、コクと甘みを付与することができるので、例えば、カレーやハンバーグのソース、鶏のてり焼き、チャーハンなどへの使用が好適である。
また本発明のみりん類は、玉子焼きなどに用いられる静菌剤特有の不快臭、えぐ味のマスキングにも有効である。
【0051】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
粳米105gを常法により洗米、浸漬、蒸きょうし、放冷後に黄麹菌を繁殖させて米麹を得た。得られた米麹のうち15gを120℃で3時間の加熱処理に供し、米麹の加熱処理物(米麹加熱処理物A、第一米麹加熱処理物)を得た。また、得られた米麹のうち30gを180℃で20分間の加熱処理に供し、米麹の加熱処理物(米麹加熱処理物B、第二米麹加熱処理物)を得た。一方で、もち米745gを常法により洗米、浸漬、蒸きょうし、掛米を得た。
【0053】
米麹60gに、米麹加熱処理物A、米麹加熱処理物B、掛米、95v/v%エタノール240mL、および水を適当量加え、総量を1,500mLの醪とし、30℃で30日間糖化・熟成を行い、醪を圧搾して精製し、みりんを得た(実施例1)。
対照として、粳米105gを用いて常法により製麹して得られる米麹に、もち米745gを用いて常法により調製した掛米、95v/v%エタノール240mL、および水を適当量加え、総量を1,500mLの醪とし、30℃で30日間糖化・熟成を行い、醪を圧搾して精製し、みりんを得た(比較例1)。
【0054】
各みりんについて、シクロテン含量と色調を測定し、シクロテン含量/色調を算出した。シクロテン含量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定し、色調は、分光光度計を用いて波長430nmにおける光路長10mmのセルで測定した吸光度に1000を乗じた値とした。その結果、実施例1のみりん中のシクロテン含量は326μg/Lであった。また、色調は935であり、シクロテン含量/色調は0.35であった。また、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量は156mg/Lであった。
一方、比較例1のみりん中のシクロテン含量は、検出限界(10μg/L)以下であり、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量は4.8mg/Lであった。
【0055】
実施例1と比較例1のみりんについて、官能評価試験を行った。評価は3点識別法により8名のパネラーで2組のサンプルについて行った。
16回の判定回数のうち正解数が16であり、実施例1のみりんは、0.1%の危険率で有意差ありと判定された。その評価内容は、従来のみりんである比較例1に比べて、先味と後味があり、甘さの厚みがあって持続性が増強されている新規な酒質であるというものであった。
【実施例2】
【0056】
実施例1と比較例1のみりんを用いて、熟練したパネラー6名により、高野豆腐の含め煮を調理し、甘さの厚みや持続性の官能評価試験を行った。高野豆腐の含め煮は、湯戻しした高野豆腐2個を4つに切り、鍋にだし汁1カップ、みりん60mL、うすくち醤油30mL、塩小さじ1を配合した煮汁を煮立てて、そこに高野豆腐を入れ、落し蓋をして弱火で煮て調理した。評価方法は、比較例1と比べて、5点:甘さの厚みがあって持続性が増強されている、4点:甘さの厚みがあって持続性がやや増強されている、3点:比較例1と同じ、2点:甘さの厚みがやや少なく持続性もやや弱い、1点:甘さの厚みが少なく持続性も弱い、とした。結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
実施例1のみりんを使用した高野豆腐の含め煮(加工食品)は、甘さの厚みがあって持続性が増強されており、また味に深みがあるとの評価であった。
【実施例3】
【0059】
実施例1と同様の方法で米麹の加熱処理物を得た。
120℃で3時間の加熱処理を行った米麹加熱処理物Aと180℃で20分間の加熱処理を行った米麹加熱処理物Bをそれぞれ限外ろ過に供した。
米麹加熱処理物Aを5倍量の20v/v%エタノール水溶液に18時間浸漬し、0.45μmフィルターでろ過を行った。得られた溶液10mLを遠心濃縮チューブ「ビバスピン 20 VS2011 5000MWCO」(ザルトリウス・ジャパン株式会社製)で限外ろ過し、分子量5000までの画分を得た。濃縮液を蒸留水で10mLになるように調製し、「ビバスピン 20 VS2021 30000MWCO」(ザルトリウス・ジャパン株式会社製)で限外ろ過し、分子量5000~30000の画分を得た。さらに濃縮液を蒸留水で10mLになるように調製し、「ウルトラフィルターユニット USY-20」(アドバンテック東洋株式会社製)で限外ろ過し、分子量30000~200000の画分を得た。米麹加熱処理物Bについても同様に処理を行い、それぞれの分子量画分を得た。
【0060】
市販のみりんにそれぞれの分子量画分を2v/v%添加して甘さの厚みや持続性を確認した。その結果、米麹加熱処理物Aでは、分子量5000未満の画分に先味の甘さが増強されている効果が認められた。米麹加熱処理物Bでは、分子量10000未満の画分に先味の甘さがやや増強されており、分子量5000~30000と分子量30000~200000の画分に後味の甘さがかなり増強されている効果が認められた。
このように、特定の画分が甘さの増強に寄与していることが分かり、米麹加熱処理物Aと米麹加熱処理物Bを用いることにより、先味と後味を併せ持ち、甘さの厚みや持続性が増強された新規な酒質のみりんが得られることが分かった。
【実施例4】
【0061】
米麹の加熱処理の温度と時間を変えて、みりんの製造を行った。
粳米210gを常法により洗米、浸漬、蒸きょうし、放冷後に白麹菌を繁殖させて米麹を得た。得られた米麹のうち50gを120℃で1時間の加熱処理に供し、米麹の加熱処理物(米麹加熱処理物C、第一米麹加熱処理物)を得た。また、得られた米麹のうち100gを160℃で1時間の加熱処理に供し、米麹の加熱処理物(米麹加熱処理物D、第二米麹加熱処理物)を得た。仕込配合等の他の条件は実施例1と同様にして、みりんを得た(実施例4)。
対照として、比較例1と同様にしてみりんを得た(比較例4)。
【0062】
各みりんについて、シクロテン含量と色調を測定し、シクロテン含量/色調を算出した。その結果、実施例4のみりん中のシクロテン含量は1020μg/Lであった。また、色調は12980であり、シクロテン含量/色調は0.08であった。また、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量は424mg/Lであった。
一方、比較例4のみりん中のシクロテン含量は、検出限界(10μg/L)以下であり、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量は4.8mg/Lであった。
【0063】
実施例4と比較例4のみりんについて、官能評価試験を行った。その結果、実施例4のみりんは、従来のみりんである比較例4のみりんに比べて、先味と後味があり、甘さの厚みがあって持続性がかなり増強されているという評価であった。
【実施例5】
【0064】
実施例4と比較例4のみりんを用いて、熟練したパネラー6名により、みたらし団子のたれを調製し、甘さの厚みや持続性の官能評価試験を行った。みたらし団子のたれは、鍋にみりん30mL、こいくち醤油15mL、果糖ぶどう糖液糖24g、水15mL、片栗粉大さじ1を加え、煮立てて調製した。評価方法は、比較例4と比べて、5点:甘さの厚みがあって持続性が増強されている、4点:甘さの厚みがあって持続性がやや増強されている、3点:比較例4と同じ、2点:甘さの厚みがやや少なく持続性もやや弱い、1点:甘さの厚みが少なく持続性も弱い、とした。結果を表2に示す。
【0065】
【0066】
実施例4のみりんを使用したみたらし団子のたれは、甘さの厚みがかなりあって持続性が増強されており、また味に深みがあるとの評価であった。
【実施例6】
【0067】
実施例1と同様の方法で米麹の加熱処理物を得た。一方で、もち米750gを常法により洗米、浸漬、蒸きょうし、掛米を得た。米麹60gに、米麹加熱処理物A5g、米麹加熱処理物B20g、前記掛米、95v/v%エタノール190mL、たん白加水分解物50g、食塩20g、および水を適当量加え、総量を1,500mLの醪とし、30℃で30日間糖化・熟成を行い、醪を圧搾して精製し、発酵調味料を得た(実施例6)。
対照として、米麹の加熱処理物を用いずに発酵調味料を製造した(比較例6)。
【0068】
実施例6と比較例6の発酵調味料について、官能評価試験を行った。その結果、実施例6の発酵調味料は、従来の発酵調味料である比較例6に比べて、先味と後味があり、甘さの厚みがあって持続性が増強されているという評価であった。
【実施例7】
【0069】
実施例4と比較例4のみりんを用いて、シクロテン含量23μg/L、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量23.2mg/L、色調468のみりんを得た(実施例7)。
シクロテン含量/色調は0.05となる。
【0070】
実施例7のみりんを用いて、熟練したパネラー6名により、オニオンコンソメスープを調製し、甘さの厚みや持続性の官能評価試験を行った。オニオンコンソメスープは、市販の粉末スープに所定量の水を加え、全体量の10v/v%となるように実施例7のみりんを添加し、煮立てて調製した。対照は、比較例4のみりんを添加して同様に調製するものとした。
その結果、実施例7のみりんを使用したオニオンコンソメスープは、甘さの厚みがかなりあって持続性が増強されており、また味に深みがあり、コクも増しているとの評価であった。
【実施例8】
【0071】
市販のみりんにシクロテンを添加して、実施例7と同じシクロテン含量となるみりんを得た(実施例8-1)。また、実施例8-1のみりんに、さらに5-ヒドロキシメチルフルフラールを添加して、実施例7と同じ5-ヒドロキシメチルフルフラール含量となるみりんを得た(実施例8-2)。さらに、実施例8-2のみりんに、実施例3の米麹加熱処理物Bから得られた分子量30000~200000の画分を、実施例7に含まれている量と同量となるように添加してみりんを得た(実施例8-3)。
【0072】
実施例8-1、実施例8-2、実施例8-3のみりんを用いて、熟練したパネラー6名により、トマトソースを調製し、甘さの厚みや持続性、コクの官能評価試験を行った。トマトソースは、市販のトマトソースに、全体量の10v/v%となるように実施例8-1、実施例8-2、実施例8-3のみりんを添加し、よくかき混ぜて調製した。
【0073】
その結果、実施例8-1のみりんを使用したトマトソースは、甘さの厚みがあって持続性が増強されているとの評価であった。実施例8-2のみりんを使用したトマトソースは、甘さの厚みがかなりあって持続性が増強されているとの評価であった。実施例8-3のみりんを使用したトマトソースは、甘さの厚みがかなりあって持続性が増強されており、また味に深みがあり、コクが格段に増しているとの評価であった。
【0074】
(参考例)
市販されているみりん(3種)のシクロテン含量、色調、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量を測定した。結果を表3に示す。
【0075】
【0076】
市販品Aは、一般的なみりんであり、シクロテン含量は不検出(検出限界10μg/L以下)、色調は100以下の黄金色であった。市販品Bと市販品Cは、長期熟成みりんであり、市販品Bのシクロテン含量は12μg/L、色調は1370の琥珀色、市販品Cのシクロテン含量は23μg/L、色調は5359の黒褐色であった。なお、5-ヒドロキシメチルフルフラール含量は、市販品Aで1.1mg/L、市販品Bで9.2mg/L、市販品Cで437mg/Lであった。