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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】ステータの検査方法及び検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/52 20200101AFI20230120BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20230120BHJP
   G01R 31/72 20200101ALI20230120BHJP
【FI】
G01R31/52
G01N27/04 Z
G01R31/72
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019165211
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2020060555
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2018190557
(32)【優先日】2018-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 健介
(72)【発明者】
【氏名】安谷屋 拓
(72)【発明者】
【氏名】平野 泰三
(72)【発明者】
【氏名】杉本 亘
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-202339(JP,A)
【文献】特開2004-347609(JP,A)
【文献】特開昭62-180282(JP,A)
【文献】特開2011-058864(JP,A)
【文献】特開2005-274234(JP,A)
【文献】特開2000-177612(JP,A)
【文献】特開平01-141376(JP,A)
【文献】特開2010-249802(JP,A)
【文献】特開2009-121432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/50-31/74、
31/12-31/20、
31/327-31/34、
H01F 41/00-41/04、
41/08、
41/10、
H02K 5/00、
11/00-11/40、
15/00-15/02、
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査室内において、電気伝導性を有する検査液に絶縁被覆導線からなるコイルを有するステータを浸漬し、前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査方法であって、
前記ステータは、前記コイルと、前記コイルから延出された前記絶縁被覆導線からなるリードと、前記リードが電気的に接続されるターミナルと、前記ターミナルを収容するクラスタブロックと、前記クラスタブロックの内外を連通する均圧通路とを有し、
前記検査室内に密閉状態で前記ステータを収納する収納工程と、
前記収納工程後、前記検査室内を減圧する減圧工程と、
前記減圧工程後、前記検査液を前記検査室内に供給し、前記検査液に前記ステータを浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程後、前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査工程とを備えていることを特徴とするステータの検査方法。
【請求項2】
検査室内において、電気伝導性を有する検査液に絶縁被覆導線からなるコイルを有するステータを浸漬し、前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査方法であって、
前記ステータは、前記コイルと、前記コイルから延出された前記絶縁被覆導線からなるリードと、前記リードが電気的に接続されるターミナルと、前記ターミナルを収容するクラスタブロックと、前記クラスタブロックの内外を連通する均圧通路とを有し、
前記検査室内に密閉状態で前記ステータを収納する収納工程と、
前記収納工程後、前記検査室内を減圧する減圧工程と、
前記減圧工程後、前記検査液に前記ステータを浸漬する浸漬工程と
前記浸漬工程後、前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査工程とを備え、
前記ステータは、前記クラスタブロックを貫通しつつ前記リードを収容するチューブを有するとともに、前記チューブと前記クラスタブロックとの間が封止され、前記均圧通路が前記チューブと前記リードとの間に形成されることを特徴とするステータの検査方法。
【請求項3】
前記チューブは前記リードとの間隙を小さくするように形成されている請求項2記載のステータの検査方法。
【請求項4】
前記検査工程は、前記ステータから検出される吸収電流における時間と抵抗値との変化特性を平準化する補正回路を介して行う請求項1乃至3のいずれか1項記載のステータの検査方法。
【請求項5】
前記浸漬工程と前記検査工程との間に、前記検査室内を大気に開放する大気開放工程を行う請求項1乃至4のいずれか1項記載のステータの検査方法。
【請求項6】
絶縁被覆導線からなるコイルと、前記コイルから延出された前記絶縁被覆導線からなるリードと、前記リードが電気的に接続されるターミナルと、前記ターミナルを収容するクラスタブロックと、前記クラスタブロックの内外を連通する均圧通路とを有するステータの検査システムであって、
内部に密閉状態で前記ステータを収納可能であり、電気伝導性を有する検査液に前記ステータを浸漬可能な検査室が形成された検査容器と、
前記検査室と減圧通路によって連通し、前記検査室を減圧可能な減圧装置と、
前記検査室と液体供給通路によって連通し、前記検査液を貯留する液体タンクと、
前記減圧通路を開閉可能な第1開閉弁と、
前記液体供給通路を開閉可能な第2開閉弁と、
少なくとも前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁を制御する制御装置と、
前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査装置とを備え、
前記制御装置は、前記ステータが収納された前記検査室内に前記検査液がない状態で、前記第2開閉弁を閉じるとともに前記第1開閉弁を開き、
前記検査室が所定の真空度になった時点で、前記第1開閉弁を閉じるとともに前記第2開閉弁を開いて前記検査液を前記検査室内に供給し、
前記検査室内で前記ステータが前記検査液に浸漬された時点で、前記第2開閉弁を閉じ、かつ前記検査装置を作動させることを特徴とするステータの検査システム。
【請求項7】
前記ステータは電動圧縮機に搭載されるモータの一部であり、
前記検査容器の一部は前記モータを収容するための前記電動圧縮機のモータハウジングであり、
前記モータハウジングには、前記モータハウジングを貫通するとともに、一端が前記ターミナルと電気的に接続され、他端が前記検査装置と電気的に接続される通電ピンと、前記通電ピンと前記モータハウジングとの間隙を封止する封止部材とが設けられている請求項6記載のステータの検査システム。
【請求項8】
前記検査装置は、前記ステータから検出される吸収電流における時間と抵抗値との変化特性を平準化する補正回路を有している請求項6又は7記載のステータの検査システム。
【請求項9】
前記検査室内を大気開放可能な大気開放弁を備え、
前記制御装置は、前記検査室内で前記ステータが前記検査液に浸漬された時点で、前記第2開閉弁を閉じた後、前記大気開放弁により前記検査室内を大気開放し、前記検査装置を作動させる請求項6乃至8のいずれか1項記載のステータの検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータの検査方法及び検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等を構成するステータはコイルを有し、コイルは絶縁被覆導線からなっている。絶縁被覆導線の具体例は、導線としての銅線にエナメルからなる絶縁層が被覆されたエナメル線である。絶縁被覆導線の絶縁層にピンホール、傷等の目視不能な欠陥があると、電気伝導性のある雰囲気でコイルに短絡を生じ、モータ等の本来の機能が損なわれてしまう。
【0003】
特許文献1には、このようなステータの検査に供し得る減圧加熱槽が開示されている。この減圧加熱槽によってステータの良否の検査を行なう場合、まず検査室を有する検査容器を用意し、電気伝導性を有する検査液を検査室内に供給する。特許文献1では、検査液として、水を採用している。そして、検査室内にステータを収納し、検査液にステータを浸漬する。この後、検査室内を減圧し、コイルを含むステータの内部に存在する空気を気泡として排除する。そして、絶縁抵抗値や漏れ電流量を測定することにより、ステータからの検査液を介した漏電を検査する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭60-15658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ステータは例えば車両用電動圧縮機のモータ部に採用される。この場合、ステータは、コイルやコアばかりでなく、コイルから延出された絶縁被覆導線からなるリードと電気的に接続されるターミナルと、ターミナルを収容するクラスタブロックとを有し得る。このようなステータは、使用時において、コイルのみならずクラスタブロックまで冷凍機油と液冷媒との混合液で満たされるため、この状態における漏電を防止する対策として、クラスタブロックが封止される必要がある。
【0006】
一方、このようなステータでは、完全な封止を行なうと、使用時にクラスタブロックの内外で圧力差が生じ、クラスタブロック、ひいては例えば車両用電動圧縮機の耐久性が懸念される。このため、このようなステータにおいては、クラスタブロックの内外を均等な圧力とする均圧通路が必要となる。
【0007】
しかしながら、クラスタブロックに均圧通路を繋げたステータの良否を検査するために上記従来の検査方法を採用する場合、クラスタブロックも検査液に浸漬させた後で検査室内を減圧することとなる。この場合、均圧通路はクラスタブロックの絶縁性を損なわないよう細長い形状であるため、十分な減圧時間を費やさなければ、検査液をクラスタブロック内及び均圧通路内に浸透させることができない。また、クラスタブロック内に空気が残った状態で検査を行うと、正確な良否の検査を行えない。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ステータがクラスタブロックを有し、かつ均圧通路が形成された場合であっても、ステータの良否を高い検査精度、短時間かつ安定した時間で行なうことができるステータの検査方法及び検査システムを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のステータの検査方法は、検査室内において、電気伝導性を有する検査液に絶縁被覆導線からなるコイルを有するステータを浸漬し、前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査方法であって、
前記ステータは、前記コイルと、前記コイルから延出された前記絶縁被覆導線からなるリードと、前記リードが電気的に接続されるターミナルと、前記ターミナルを収容するクラスタブロックと、前記クラスタブロックの内外を連通する均圧通路とを有し、
前記検査室内に密閉状態で前記ステータを収納する収納工程と、
前記収納工程後、前記検査室内を減圧する減圧工程と、
前記減圧工程後、前記検査液を前記検査室内に供給し、前記検査液に前記ステータを浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程後、前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査工程とを備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明の検査方法では、ステータがコイルの他、ターミナル及びクラスタブロックを有している。また、絶縁性を損なわない程度にクラスタブロックの内外を連通する均圧通路が形成されている。
【0011】
このステータの良否を検査するために本発明の検査方法を採用する場合、収納工程の後で減圧工程を行なうため、検査室は、ステータは収納されているが、検査液がない状態で減圧されることとなる。このため、クラスタブロック内及び均圧通路内も迅速に減圧される。そして、浸漬工程を行なうことにより、検査液を供給するだけでクラスタブロック内及び均圧通路内まで検査液を迅速に浸透させることができる。
【0012】
このため、検査工程において、コイルのみならず、均圧通路やクラスタブロックにおける封止部の絶縁性の正確な良否の検査が可能である。
【0013】
したがって、本発明のステータの検査方法によれば、ステータがクラスタブロックを有し、かつ均圧通路が形成された場合であっても、ステータの良否を高い検査精度、短時間かつ安定した時間で行なうことができる。
【0014】
また、このステータでは、均圧通路によってクラスタブロックの内外の圧力差を緩和可能であるため、クラスタブロック、ひいては例えば車両用電動圧縮機が優れた耐久性を発揮する。
【0015】
本発明の別のステータの検査方法は、検査室内において、電気伝導性を有する検査液に絶縁被覆導線からなるコイルを有するステータを浸漬し、前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査方法であって、
前記ステータは、前記コイルと、前記コイルから延出された前記絶縁被覆導線からなるリードと、前記リードが電気的に接続されるターミナルと、前記ターミナルを収容するクラスタブロックと、前記クラスタブロックの内外を連通する均圧通路とを有し、
前記検査室内に密閉状態で前記ステータを収納する収納工程と、
前記収納工程後、前記検査室内を減圧する減圧工程と、
前記減圧工程後、前記検査液に前記ステータを浸漬する浸漬工程と
前記浸漬工程後、前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査工程とを備え、
ステータは、クラスタブロックを貫通しつつリードを収容するチューブを有するとともに、チューブとクラスタブロックとの間が封止され、均圧通路がチューブとリードとの間に形成されることを特徴とする。このようなチューブは高い絶縁性を保ちつつ、均圧通路を形成することができる。
【0016】
チューブはリードとの間隙を小さくするように形成されていることが好ましい。この場合、チューブとリードとの間隙に形成された均圧通路の絶縁性が向上する。
【0017】
また、本発明のステータの検査システムは、絶縁被覆導線からなるコイルと、前記コイルから延出された前記絶縁被覆導線からなるリードと、前記リードが電気的に接続されるターミナルと、前記ターミナルを収容するクラスタブロックと、前記クラスタブロックの内外を連通する均圧通路とを有するステータの検査システムであって、
内部に密閉状態で前記ステータを収納可能であり、電気伝導性を有する検査液に前記ステータを浸漬可能な検査室が形成された検査容器と、
前記検査室と減圧通路によって連通し、前記検査室を減圧可能な減圧装置と、
前記検査室と液体供給通路によって連通し、前記検査液を貯留する液体タンクと、
前記減圧通路を開閉可能な第1開閉弁と、
前記液体供給通路を開閉可能な第2開閉弁と、
少なくとも前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁を制御する制御装置と、
前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査装置とを備え、
前記制御装置は、前記ステータが収納された前記検査室内に前記検査液がない状態で、前記第2開閉弁を閉じるとともに前記第1開閉弁を開き、
前記検査室が所定の真空度になった時点で、前記第1開閉弁を閉じるとともに前記第2開閉弁を開いて前記検査液を前記検査室内に供給し、
前記検査室内で前記ステータが前記検査液に浸漬された時点で、前記第2開閉弁を閉じ、かつ前記検査装置を作動させることを特徴とする。
【0018】
本発明の検査システムでは、制御装置は、ステータが収納された検査室内に検査液がない状態で、第2開閉弁を閉じるとともに第1開閉弁を開く。このため、検査室には液体タンクから検査液が供給されず、検査室は減圧装置によって減圧される。このため、クラスタブロック内及び均圧通路内も迅速に減圧される。
【0019】
そして、制御装置は、検査室が所定の真空度になった時点で、第1開閉弁を閉じるとともに第2開閉弁を開く。このため、検査室は所定の真空度に維持され、検査室に液体タンクから検査液が供給される。このため、クラスタブロック内及び均圧通路内まで検査液を迅速に浸透させることができる。
【0020】
次いで、制御装置は、検査室内でステータが検査液に浸漬された時点で、第2開閉弁を閉じ、かつ検査装置を作動させる。このため、検査室への検査液の供給が停止され、ステータの良否が検査される。この際、クラスタブロックと均圧通路以外の部分(例えばコイルなど)における短絡の有無も判断でき、正確な良否の検査が可能となる。
【0021】
したがって、本発明のステータの検査システムによれば、ステータがクラスタブロックを有し、かつ均圧通路が形成された場合であっても、ステータの良否を高い検査精度、短時間かつ安定した時間で行なうことができる。
【0022】
ステータは電動圧縮機に搭載されるモータの一部であり得る。検査容器の一部はモータを収容するための電動圧縮機のモータハウジングであり得る。そして、モータハウジングには、モータハウジングを貫通するとともに、一端がターミナルと電気的に接続され、他端が検査装置と電気的に接続される通電ピンと、通電ピンとモータハウジングとの間隙を封止する封止部材とが設けられていることが好ましい。この場合、ターミナルと検査装置との電気的な接続が容易であるとともに、検査液が通電ピンと接触してこの部分で短絡が生じることを容易に防止することができる。
【0023】
本発明のステータの検査方法では、浸漬工程と検査工程との間に、検査室内を大気に開放する大気開放工程を行うことが好ましい。
【0024】
本発明のステータの検査システムは、検査室内を大気開放可能な大気開放弁を備えていることが好ましい。そして、制御装置は、検査室内でステータが検査液に浸漬された時点で、第2開閉弁を閉じた後、大気開放弁により検査室内を大気開放し、検査装置を作動させることが好ましい。
【0025】
この場合、減圧下で検査液が含有する僅かな気泡について、検査液に大気圧を作用させて検査液から排除することができるため、減圧下で検査工程を行うよりも高い検査精度を確保できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のステータの検査方法や検査システムによれば、ステータがクラスタブロックを有し、かつ均圧通路が形成された場合であっても、ステータの良否を高い検査精度、短時間かつ安定した時間で行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施例の検査方法及び検査システムによる工程表である。
図2図2は、実施例の検査システムを示し、収納工程時の模式断面図である。
図3図3は、実施例の検査システムに係り、モータハウジング等の断面図である。
図4図4は、実施例の検査システムに係り、クラスタブロック等の一部拡大断面図である。
図5図5は、ステータと検査装置とを示す模式図である。
図6図6は、実施例の検査システムを示し、減圧工程時の模式断面図である。
図7図7は、実施例の検査システムを示し、浸漬工程、大気開放工程及び検査工程時の模式断面図である。
図8図8は、実施例の検査システムと、比較例の検査システムとにおいて、時間と絶縁抵抗値との変化特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。実施例では、車両用電動圧縮機のモータ部に採用されるステータ1(図2、3、6、7参照)の良否を検査する。
【0029】
実施例の検査方法は、図1に示すように、収納工程S1、減圧工程S2、浸漬工程S3及び検査工程S5を実行する。この際、実施例の検査システムを用いる。この検査システムは、検査容器3と、真空ポンプ5と、液体タンク7と、第1開閉弁9と、第2開閉弁16と、制御装置13と、検査装置15とを備えている。
【0030】
検査容器3は、図2及び図3に示すように、モータハウジング3aと、蓋体3bとからなる。モータハウジング3aは車両用電動圧縮機の外郭の一部をなすものである。このモータハウジング3aは、上方に開口3dを有して有底筒状をなしている。モータハウジング3aのモータ室3c内には、ステータ1が焼き嵌めによって固定されている。モータハウジング3aの側壁の下端には外部とモータ室3cとを連通する吸入口3eが形成されている。モータ室3cが本発明の検査室とされる。
【0031】
蓋体3bは樹脂製である。蓋体3bは、モータハウジング3aの開口3dに上方から嵌合されて開口3dを閉塞し、モータ室3cを密閉可能である。モータ室3cは、図2に示す検査液17が液体タンク7から供給されることにより、ステータ1を浸漬可能になっている。検査液17としては、一定の電気伝導率に調整された水、フッ素系不活性液体と導電性液体との混合液、食塩水等を採用することができる。
【0032】
蓋体3bには、モータ室3c内に連通する液体供給通路8b、減圧通路19b及び大気開放通路20が設けられている。液体供給通路8bは液体タンク7と接続された液体供給通路8aと接続されるようになっており、減圧通路19bは真空ポンプ5と接続された減圧通路19aと接続されるようになっている。大気開放通路20はモータ室3cと大気とを連通しており、途中には大気開放弁21が設けられている。また、蓋体3bには、モータ室3cの圧力を検知可能な圧力センサ25が設けられている。
【0033】
ステータ1は、図3及び図4に示すように、コイル1a、コア1b、クラスタブロック1c、チューブ1d、ターミナル1e及び封止部材1f、1gを有している。
【0034】
コイル1aは銅線にエナメルからなる絶縁層が被覆されたエナメル線からなっている。コア1bは複数のスロットを有し、各スロットにコイル1aが設けられている。クラスタブロック1cは、モータハウジング3a内に保持されている。クラスタブロック1cは樹脂製であり、内部に3本の通路を有している。
【0035】
図4に示すように、コイル1aから延出されたエナメル線からなる2本ずつ3組のリード1iは、クラスタブロック1cの手前で樹脂製のチューブ1d内にそれぞれ挿通されている。各チューブ1dはクラスタブロック1cの各通路内でそれぞれターミナル1eに保持され、各チューブ1d内のリード1iの銅線はターミナル1eに電気的に接続されている。
【0036】
各ターミナル1eには通電ピン29が挿通されている。各通電ピン29は、モータハウジング3aの外側において、電動圧縮機駆動用のインバータと接続されるためのものである。
【0037】
封止部材1fとクラスタブロック1cとの間は樹脂製のシール剤によって封止されている。こうして、このステータ1では、チューブ1dとリード1iとの間隙のみが均圧通路となっている。封止部材1gは、3本の通電ピン29を挿通させるモータハウジング3aの通孔3fに嵌合され、各通電ピン29を封止できるようになっている。
【0038】
図2に示すように、検査容器3は、モータハウジング3aの吸入口3eに連通する第1回収路10aによってろ過装置12に連通されている。ろ過装置12は第2回収路10bによって液体タンク7に連通している。第1回収路10a及び第2回収路10bには、図示しない液送ポンプが設けられている。
【0039】
液体タンク7は、検査容器3のモータ室3cから回収した検査液17を真空状態で貯留している。液体タンク7内には、検査液17の温度を調整するヒータ7aが設けられている。液体供給通路8a、8bは、液体タンク7の底部とモータ室3cとを連通している。液体供給通路8aには第2開閉弁16が設けられている。
【0040】
第1回収路10aには、吸入口3eを開いてモータ室3cと第1回収路10a内とを連通できるとともに、吸入口3eを閉じてモータ室3cを密閉できる電磁開閉装置14が設けられている。
【0041】
実施例の検査システムは、各検査容器3に減圧通路19a、19bによって接続される真空ポンプ5も備えている。減圧通路19aには、第1開閉弁9が設けられている。真空ポンプ5は変圧装置としての減圧装置に相当し、減圧通路19a、19bは変圧通路に相当する。真空ポンプ5は第1開閉弁9が開いておれば、モータ室3cを所定の真空度以上に減圧可能である。
【0042】
検査装置15は、図5に示すように、モータハウジング3aに接続された接続端子27と、ステータ1と接続される通電ピン29と接続された接続端子31と電気的に接続されている。コイル1aは三相からなり、Y結線されている。このため、接続端子31は、図4に示すように、クラスタブロック1c内の一つのターミナル1eと電気的に接続されている。検査装置15は、図5に示すように、抵抗計15aと、補正回路15bとを有している。
【0043】
補正回路15bは、抵抗計15a側の接続点P1と接続端子27側の接続点P2との間に設けられている。接続点P1には抵抗R1を有する導線L1が接続されている。導線L1には、抵抗R1より接続点P2側において、導線L2~L4が並列に接続されている。導線L2には抵抗R2が設けられている。導線L3には、抵抗R1側に位置するコンデンサC1と、接続点P2側に位置する抵抗R3とが設けられている。導線L4にはコンデンサC2が設けられている。抵抗計15aは、接続端子31と補正回路15bとの間の絶縁抵抗値を検出し、ステータ1からの検査液17を介した漏電を検査する。
【0044】
この検査システムは、制御装置13も備えている。制御装置13は、真空ポンプ5及び検査装置15と電気的に接続されている。また、モータハウジング3aは重量計33上に載置されている。制御装置13は重量計33及び圧力センサ25とも電気的に接続されている。また、第1、2開閉弁9、16、大気開放弁21及び電磁開閉装置14も制御装置13と電気的に接続されている。制御装置13はこれらを制御する。
【0045】
この検査システムによってステータ1の良否の検査を行なう。まず、図1及び図2に示すように、収納工程S1として、検査室としてのモータ室3c内にステータ1を収納する。この際、図3に示すように、ステータ1はモータハウジング3aのモータ室3c内に既に固定されている。図4に示すように、クラスタブロック1cに設けられた3本の通電ピン29は、モータハウジング3aに形成された通孔3f及び封止部材1gからモータハウジング3a外に突出されている。3本の通電ピン29の1本に接続端子31を接続する。
【0046】
この後、図6に示すように、蓋体3bを閉じる。この際、制御装置13は、モータ室3c内に検査液17がない状態で、第1開閉弁9及び第2開閉弁16を閉じている。また、制御装置13は、電磁開閉装置14を作動させ、吸入口3eを閉じている。
【0047】
次いで、図1及び図7に示すように、減圧工程S2として、制御装置13は、真空ポンプ5を作動するとともに、第1開閉弁9を開く。このため、モータ室3cには液体タンク7から検査液17が供給されず、モータ室3cは真空ポンプ5によって減圧される。このため、検査液17の成分が真空ポンプ5によって揮発することはない。また、検査液17を減圧しないことから、従来よりも短時間かつ安定した時間で所定の真空度を実現できる。
【0048】
制御装置13は、圧力センサ25からの信号によってモータ室3cが所定の真空度になったか否かを判断し、モータ室3cが所定の真空度になれば、図1及び図7に示すように、浸漬工程S3を実行する。この際、まず、制御装置13は、第1開閉弁9を閉じるとともに真空ポンプ5の作動を停止する。このため、モータ室3cは所定の真空度に維持される。
【0049】
この後、制御装置13は第2開閉弁16を開く。このため、モータ室3cに液体タンク7から検査液17が供給される。このため、検査液17がステータ1を浸漬し始める。この際、モータハウジング3aに設けられる蓋体3bに液体供給通路8a、8bが設けられているため、液体タンク7内の検査液17を容易にモータ室3cに供給することができる。また、ヒータ7aは液体タンク7内の検査液17を予め加熱している。このため、モータ室3c内において、ステータ1を焼き嵌めしているモータハウジング3aの温度と検査液17の温度とが早期に均温になり、絶縁抵抗値のバラツキを早期に無くしている。
【0050】
次いで、制御装置13は、重量計33からの信号によって検査液17がステータ1を浸漬したか否かを判断し、検査液17がステータ1を浸漬する量だけ供給されれば、第2開閉弁16を閉じる。このため、モータ室3cへの検査液17の供給が停止される。こうして、検査液17を真空状態で管理する。
【0051】
図1に示すように、浸漬工程S3後、制御装置13は大気開放弁21を開き、モータ室3c内を大気に開放する大気開放工程S4を行う。この際、減圧下で検査液17が含有する僅かな気泡について、検査液17に大気圧を作用させて検査液17から排除する。
【0052】
大気開放工程S4後、制御装置13は、まず、モータ室3c内の検査液17の電気伝導率を測定する。この電気伝導率が一定範囲内であれば、検査装置15を作動させ、検査工程S5を実行する。具体的には、抵抗計15aによって絶縁抵抗値を検出し、ステータ1からの検査液17を介した漏電を検査する。
【0053】
こうして、この検査方法及び検査システムでは、収納工程S1の後で減圧工程S2を行なうため、モータ室3cは、ステータ1は収納されているが、検査液17がない状態で減圧されることとなる。このため、クラスタブロック1c内及び均圧通路内も迅速に減圧される。そして、浸漬工程S3を行なうことにより、検査液17を供給するだけでクラスタブロック1c内及び均圧通路内まで検査液17を迅速に浸透させることができる。
【0054】
さらに、この検査方法及び検査システムでは、浸漬工程S3と検査工程S5との間に大気開放工程S4を行っているため、減圧下で検査液17が含有する僅かな気泡も排除し、高い検査精度を確保できる。
【0055】
したがって、この検査方法及び検査システムによれば、ステータ1がクラスタブロック1cを有し、かつ均圧通路が形成された場合であっても、ステータ1の良否を高い検査精度、短時間かつ安定した時間で行なうことができる。
【0056】
また、このステータ1では、均圧通路によってクラスタブロック1cの内外の圧力差を緩和可能であるため、クラスタブロック1c、ひいては車両用電動圧縮機が優れた耐久性を発揮する。
【0057】
さらに、この実施例では、ステータ1が固定されたモータハウジング3aを検査容器3の一部として用いてるため、検査後に車両用電動圧縮機の組み付けを迅速に行なうことができる。
【0058】
検査装置15から補正回路15bのみを外し、他の構成は実施例と同一とした比較例の検査システムを構築し、実施例の検査方法と同様にステータ1の検査を行った。
【0059】
誘電体である検査液17に浸漬されたステータ1に直流電圧を印加すると、検査液17には、充電電流、吸収電流及び漏れ電流の総合計である合成漏れ電流が流れることが知られている。この合成漏れ電流は、吸収電流の変化に伴って減少するが、次第に緩やかな変化となり、吸収電流の影響がなくなるまで減少し、最終的に漏れ電流に収束する。
【0060】
実施例及び比較例の検査方法及び検査システムにおいて、合成漏れ電流の変化を絶縁抵抗値で表すと、図8が得られる。比較例の検査方法及び検査システムでは、0~Tc1の間に充電電流が流れ、Tc1~Tc2の間に吸収電流が流れ、Tc2以降に漏れ電流が流れている。一方、実施例の検査方法及び検査システムでは、0~Te1の間に充電電流が流れ、Te1~Te2の間に吸収電流が流れ、Te2以降に漏れ電流が流れている。このため、実施例と比較例とを比較すると、実施例におけるTe1~Te2であるΔTeIaは比較例におけるTc1~Tc2であるΔTcIaより長時間となっている。つまり、補正回路15bは、抵抗計15aと接続端子27との間を流れる吸収電流における時間と絶縁抵抗値との変化特性を平準化することができる。
【0061】
このため、比較例の検査方法及び検査システムでは、ΔTcIaという短時間に検出される絶縁抵抗値がバラつきやすく、信頼性が劣る。これに対し、実施例の検査方法及び検査システムでは、ΔTeIaという長時間に検出される絶縁抵抗値がバラつき難く、高い信頼性を発揮する。
【0062】
また、この絶縁抵抗値によるステータ1の良否の検査は、検査後のステータ1が圧縮機とされ、モータハウジング3a内に同じく誘電体である冷媒及び潤滑油が充満した際の圧縮機の安全性の評価にも繋がる。このため、実施例の検査方法及び検査システムによれば、検査で良品であったステータ1が圧縮機とされた場合の高い安全性を発揮することができる。
【0063】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0064】
例えば、実施例では、車両用電動圧縮機のモータ部に使用されるステータの良否を検査したが、本発明では、他のモータに使用されるステータやオルタネータ等に使用されるステータの良否を検査することも可能である。
【0065】
本実施例では、リードとチューブとの間を均圧通路としたが、クラスタブロックに直接均圧通路が形成されていてもよい。またチューブを設けずに、クラスタブロックに直接リードを通すための挿通孔を均圧通路としてもよい。
【0066】
液体タンク7と検査容器3との間に液送ポンプを設けてもよい。また、検査装置15は、接続端子27と通電ピン29との間の漏れ電流量を検出してステータ1の良否を検査することも可能である。ヒータ7aの代わりに検査液を温度調整する他の温調手段を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明はモータ等の生産設備に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
3…検査容器
3c…検査室(モータ室)
17…検査液
1a…コイル
1…ステータ
1i…リード
1d…チューブ
1eターミナル
1c…クラスタブロック
1f…封止部材
S1…収納工程
S2…減圧工程
S3…浸漬工程
S4…大気開放工程
S5…検査工程
15b…補正回路
1b…コア
19a、19b…減圧通路
5…減圧装置(真空ポンプ)
8a、8b…液体供給通路
7…液体タンク
9…第1開閉弁
16…第2開閉弁
13…制御装置
15…検査装置
21…大気開放弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8