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特許7213436応力特性測定方法、応力特性測定装置および応力特性測定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】応力特性測定方法、応力特性測定装置および応力特性測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20230120BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230120BHJP
   G01N 25/20 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
G01L1/00 G
G01M99/00 Z
G01N25/20 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021505521
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2019048746
(87)【国際公開番号】W WO2020183830
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2019042704
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】入江 庸介
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/198702(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/141294(WO,A1)
【文献】特開2017-36978(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0029840(US,A1)
【文献】特開2008-232708(JP,A)
【文献】特開2000-249638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00- 1/26
G01L 5/00- 5/28
G01N25/00-25/72
G01M99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に発生する応力の特性を測定する方法であって、
第1撮像装置から、前記構造物の表面の温度に応じた、互いに撮像時刻の異なる複数の熱画像を取得するステップと、
前記複数の熱画像のそれぞれに対応する応力分布画像を生成するステップと、
それぞれの前記応力分布画像において、応力勾配が所定値より小さい第1部分の応力値と、応力集中している複数の第2部分のそれぞれの応力値とを取得するステップと、
取得された前記第1部分の前記応力値と前記複数の第2部分のそれぞれの前記応力値とを用いて、前記構造物の部分における応力の相関特性を導出するステップと、を有し、
前記相関特性は、前記第1部分の応力値と前記第2部分の応力値を比較したものである、
応力特性測定方法。
【請求項2】
前記相関特性は、異なる振動毎に、前記第1部分の応力値と前記第2部分の応力値を比較したものを結ぶ直線の傾きである、
請求項1に記載の応力測定判定方法。
【請求項3】
第2撮像装置あるいはセンサにより、前記構造物の配置場所に生じる振動の発生を検知するステップ、を更に有し、
前記複数の熱画像を生成するステップでは、
前記構造物の前記配置場所において前記振動の発生が検知される度に、前記複数の熱画像を生成する、
請求項1に記載の応力特性測定方法。
【請求項4】
前記相関特性を導出するステップでは、
振幅が異なる前記振動の発生が少なくとも3回検知され、それぞれの前記振動の発生の検知に基づいて生成された前記応力分布画像ごとに選択された前記第1部分の応力値と前記複数の第2部分のそれぞれの応力値とを用いて、前記相関特性を導出する、
請求項に記載の応力特性測定方法。
【請求項5】
前記応力値を取得するステップでは、
それぞれの前記応力分布画像において、前記複数の第2部分は同一箇所である、
請求項1に記載の応力特性測定方法。
【請求項6】
前記相関特性の導出結果に基づいて、前記構造物の状況を判定するステップ、を更に有する、
請求項1に記載の応力特性測定方法。
【請求項7】
前記構造物の状況の判定結果に基づいて、前記構造物に対する対応策を提示するステップ、を更に有する、
請求項に記載の応力特性測定方法。
【請求項8】
構造物に発生する応力の特性を測定する応力特性測定装置であって、
第1撮像装置から、前記構造物の表面の温度に応じた、互いに撮像時刻の異なる複数の熱画像を取得する通信部と、
前記複数の熱画像のそれぞれに対応する応力分布画像を生成する生成部と、
それぞれの前記応力分布画像において、応力勾配が所定値より小さい第1部分の応力値と、応力集中している複数の第2部分のそれぞれの応力値とを取得する選択部と、
取得された前記第1部分の前記応力値と前記複数の第2部分のそれぞれの前記応力値とを用いて、前記構造物の部分における応力の相関特性を導出する演算部と、を備え
前記相関特性は、前記第1部分の応力値と前記第2部分の応力値を比較したものである、
応力特性測定装置。
【請求項9】
構造物に発生する応力の特性を測定する応力特性測定装置と、
第1撮像装置と、を備え、
前記応力特性測定装置は、
前記第1撮像装置から、前記構造物の表面の温度に応じた、互いに撮像時刻の異なる複数の熱画像を取得し、
前記複数の熱画像のそれぞれに対応する応力分布画像を生成し、
それぞれの前記応力分布画像において、応力勾配が所定値より小さい第1部分の応力値と、応力集中している複数の第2部分のそれぞれの応力値とを取得し、
取得された前記第1部分の応力値と前記複数の第2部分のそれぞれの応力値とを用いて、前記構造物の部分における応力の相関特性を導出し、
前記相関特性は、前記第1部分の応力値と前記第2部分の応力値を比較したものである、
応力特性測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、応力特性測定方法、応力特性測定装置および応力特性測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2つの支持部とそれぞれの支持部との間に設けられた梁部とを有する構造物において移動体が移動することによって構造物に発生する応力分布を測定する方法が開示されている。この方法は、第1撮影部により移動体を撮影しまたは構造物に取り付けられた識別表示物を移動体から撮影して第1画像データを生成するステップと、第1画像データに基づいて移動体が構造物の支持部の間を移動する移動期間を求めるステップと、第2撮影部により構造物の梁部の表面を撮影して第2画像データを生成するステップと、熱画像データにおける移動期間に対応する第2画像データ群に基づいて温度変化量を求めるステップと、温度変化量に基づいて応力変化量を算出し、応力変化量に基づいて応力分布を求めるステップとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/141294号
【発明の概要】
【0004】
本開示は、構造物が配置された実際の現場環境下において発生する構造物の箇所ごとの応力比較に供する応力特性を高精度かつ利便性良く測定する応力特性測定方法、応力特性測定装置および応力特性測定システムを提供する。
【0005】
本開示は、構造物に発生する応力の特性を測定する方法であって、第1撮像装置から、前記構造物の表面の温度に応じた、互いに撮像時刻の異なる複数の熱画像を取得するステップと、前記複数の熱画像のそれぞれに対応する応力分布画像を生成するステップと、それぞれの前記応力分布画像において、応力勾配が所定値より小さい第1部分の応力値と、応力集中している複数の第2部分のそれぞれの応力値とを取得するステップと、取得された前記第1部分の前記応力値と前記複数の第2部分のそれぞれの前記応力値とを用いて、前記構造物の部分における応力の相関特性を導出するステップと、を有する、応力特性測定方法を提供する。
【0006】
また、本開示は、構造物に発生する応力の特性を測定する応力特性測定装置であって、第1撮像装置から、前記構造物の表面の温度に応じた、互いに撮像時刻の異なる複数の熱画像を取得する通信部と、前記複数の熱画像のそれぞれに対応する応力分布画像を生成する生成部と、それぞれの前記応力分布画像において、応力勾配が所定値より小さい第1部分の応力値と、応力集中している複数の第2部分のそれぞれの応力値とを取得する選択部と、取得された前記第1部分の前記応力値と前記複数の第2部分のそれぞれの前記応力値とを用いて、前記構造物の部分における応力の相関特性を導出する演算部と、を備える、応力特性測定装置を提供する。
【0007】
また、本開示は、構造物に発生する応力の特性を測定する応力特性測定装置と、第1撮像装置とを含む応力特性測定システムを提供する。前記応力特性測定装置は、前記第1撮像装置から、前記構造物の表面の温度に応じた、互いに撮像時刻の異なる複数の熱画像を取得し、前記複数の熱画像のそれぞれに対応する応力分布画像を生成し、それぞれの前記応力分布画像において、応力勾配が所定値より小さい第1部分の応力値と、応力集中している複数の第2部分のそれぞれの応力値とを取得し、取得された前記第1部分の前記応力値と前記複数の第2部分のそれぞれの前記応力値とを用いて、前記構造物の部分における応力の相関特性を導出する。
【0008】
本開示によれば、構造物が配置された実際の現場環境下において発生する構造物の箇所ごとの応力比較に供する応力特性を高精度かつ利便性良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】駅のホームに複数の構内スピーカがそれぞれ配置された様子の一例を示す状況描写図
図2】構内スピーカが天井の梁部に対して支持金具を介して固定された様子の一例を示す要部拡大図
図3】構内スピーカの固定状況を正面視および側面視で示す状況描写図
図4】実施の形態1に係る応力特性測定システムの構成例を示すブロック図
図5】第1条件の振動発生時の梁部と支持金具との接続部分の応力分布例を示す図
図6】第2条件の振動発生時の梁部と支持金具との接続部分の応力分布例を示す図
図7】第3条件の振動発生時の梁部と支持金具との接続部分の応力分布例を示す図
図8】第4条件の振動発生時の梁部と支持金具との接続部分の応力分布例を示す図
図9】第5条件の振動発生時の梁部と支持金具との接続部分の応力分布例を示す図
図10】梁部と支持金具との接続部分における複数の位置のそれぞれごとの応力分布特性例の説明図
図11】実施の形態1に係る応力特性測定装置の動作手順を示すフローチャート
図12】実施の形態1に係る応力特性測定装置の動作手順を示すフローチャート
図13】応力測定に用いられる従来の試験片の外観を平面視および斜視で示す状況描写図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示に至った経緯)
図13は、応力測定に用いられる従来の試験片SMP1の外観を平面視および斜視で示す状況描写図である。荷重を受ける構造物として、試験片SMP1のように直方体(例えば長さ140mm(=70mm×2)、幅15mm(=7.5mm×2)、厚さ3mm)の長手方向1辺の中央部において幅方向の双方にそれぞれ切欠きNCH1が設けられた部材を想定してみる。なお、図13に示されている寸法はあくまで一例であり、その寸法に限定されない。
【0011】
このような試験片SMP1に荷重がかけられた際の応力分布では、切欠きNCH1の部分Pt1に最大応力がかかり、切欠きNCH1から長手方向の端部までの略中間位置の部分Pt2では平均応力がかかる。これは、試験片SMP1のように、構造物において穴あるいは切欠き等の断面形状の変化がある部分では、その周辺で応力が局所的に増大する(つまり、応力集中する)ためである。応力集中の度合いは断面形状によって変化し、断面形状の変化が著しいほど応力は大きくなる傾向がある。なお、図13において、RAは切欠きNCH1の底の曲率半径を示し、dは切欠きNCH1の深さを示し、Kは最小断面の幅の半分の長さを示す。
【0012】
一方、上述の切欠き等の特異な形状を有さない一般的な構造物が実際に配置された現場環境において、周囲の様々な発生要因に基づく大きさの異なる振動のそれぞれによって応力集中する部分を形状等から外観的に推察することはできる。しかし、大きさの異なる振動がそれぞれ発生した場合に、構造物にどの程度の応力がかかるのかを箇所ごとに比較して判別することが困難であった。言い換えると、大きさの異なる振動がそれぞれ発生したとしても、例えば構造物における応力集中し易い箇所、応力集中し難い箇所を含むそれぞれの箇所ごとの応力特性の比較ができず、構造物においてどの箇所が他の箇所より応力がかかりやすいかを判断するための客観的な指標が得られなかった。
【0013】
なお、特許文献1では、橋梁上の道路における所定の測定区間(例えば、橋梁上の道路の隣接する2つの橋脚間の区間)を車両重量が既知な試験用の車両が走行する時において熱画像データが測定され、この熱画像データに基づいて応力分布が求められ、前回の試験車両で発生した応力値と設計の計算値との比較がなされる。しかし、このような測定が行われるためには、車両の走行が少ない深夜等の限られた時間帯に絞られるため、測定の利便性が良好ではなかった。
【0014】
以下の実施の形態では、構造物が配置された実際の現場環境下において発生する構造物の箇所ごとの応力比較に供する応力特性を高精度かつ利便性良く測定する応力特性測定方法、応力特性測定装置および応力特性測定システムの例を説明する。
【0015】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係る応力特性測定方法、応力特性測定装置および応力特性測定システムの構成および作用を具体的に開示した実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0016】
以下、実施の形態1に係る応力特性測定方法は、次の処理(ステップ)を実行する。具体的には、応力特性測定方法は、構造物(例えば駅のホームの天井に固定するように配置された構内スピーカの支持金具)に発生する応力の特性を測定する。応力特性測定方法は、赤外線カメラ(第1撮像装置の一例)から、構造物の表面の温度に応じた、互いに撮像時刻の異なる複数の熱画像を取得し、複数の熱画像のそれぞれに対応する応力分布画像を生成する。また、応力特性測定方法は、それぞれの応力分布画像において、応力勾配が所定値より小さい第1部分の応力値と、応力集中している複数の第2部分のそれぞれの応力値とを取得し、取得された第1部分の応力値と複数の第2部分のそれぞれの応力値とを用いて、構造物の部分における応力の相関特性を導出して出力する。
【0017】
上述したように、以下の説明において、構造物の一例として、駅のホームの天井に固定するように配置された構内スピーカの支持金具(図1参照)を例示するが、構造物はこのような支持金具に限定されない(後述参照)。
【0018】
<測定対象となる構造物の配置例>
図1は、駅STAのホームに複数の構内スピーカSPK1,SPK2がそれぞれ配置された様子の一例を示す状況描写図である。図2は、構内スピーカSPK1が天井の梁部JST1に対して支持金具SPT1(スピーカ締結金具)を介して固定された様子の一例を示す要部拡大図である。図3は、構内スピーカSPK1の固定状況を正面視および側面視で示す状況描写図である。
【0019】
図1に示されるように、駅STAのホームには、下り方向の列車TR1と上り方向の列車TR2とがそれぞれ通過している。以下の説明を分かり易くするために、図1に示される駅STAは、普通種別(各停)の列車のみが停車する駅とする。乗客等へのアナウンス音声を出力するための構内スピーカSPK1,SPK2が、それぞれホームの天井から吊り下げて固定されている。また、列車TR1の通過検知あるいはホームでの乗客監視のために、列車TR1を画角内に含むように可視光カメラ10がホームの天井から吊り下げられている。なお、図1には図示が省略されているが、列車TR2の通過検知あるいはホームでの乗客監視のために、列車TR2を画角内に含むように可視光カメラがホームの天井から吊り下げられている。
【0020】
図2に示されるように、構内スピーカSPK1は、ホームの天井の梁部JST1に3つのボルトV1,V2,V3のそれぞれによって螺着された支持金具SPT1を介して吊り下げて固定されている。言い換えると、3つのボルトV1~V3のそれぞれは、構内スピーカSPK1の支持金具SPT1を梁部JST1に螺着している。ところが、駅STAのホームを列車(例えば列車TR1)が通過する時、その通過する列車の種別(例えば、回送、急行、特急)あるいは本数等によって、それぞれのタイミングごとに振幅(大きさ)の異なる振動が発生する。このような場合、構内スピーカSPK1を支持する支持金具SPT1(構造物の一例)には、その振動に伴って振動の大きさに応じた応力が発生することになる。なお、説明を分かり易くするために、駅STAのホームを通過する時、急行列車の通過速度と特急列車の通過速度とは異なるとし、前者より後者の方が速いとする。言い換えれば、急行列車の通過時より、特急列車の通過時の方が、支持金具SPT1にはより大きな応力がかかる。
【0021】
実施の形態1に係る応力特性測定方法では、応力特性測定システム100は、駅STAのホームにおいて列車の通過時の状況によって大きさが変動する振動による構造物(例えば支持金具SPT1)の応力特性を測定するため、赤外線カメラ20を用いた構造物の表面の熱画像を生成する(図3参照)。例えば、図3の側面視および正面視のそれぞれに示されるように、構内スピーカSPK1の筐体上面にミラーMRR1が配置される。赤外線カメラ20は、ミラーMRR1に映る構造物の鏡像(具体的には、3つのボルトV1~V3のそれぞれにより梁部JST1に固定された支持金具SPT1の鏡像)を撮影(撮像)することで、構造物(例えば3つのボルトV1~V3が含まれる支持金具SPT1)の熱画像を生成する。
【0022】
<応力特性測定システムの構成>
図4は、実施の形態1に係る応力特性測定システム100の構成例を示すブロック図である。応力特性測定システム100は、例えば駅STAのホームを列車が通過する際に、それぞれの通過時の状況によって生じる振動の大きさ(振幅)に応じて、ホームの天井から吊り下げられた構内スピーカを支持するための支持金具SPT1(構造物の一例)に発生する応力の特性を測定する。応力特性測定システム100は、可視光カメラ10と、赤外線カメラ20と、応力特性測定装置30とを含む構成である。
【0023】
第2撮像装置の一例としての可視光カメラ10は、例えば駅STAのホームの天井から吊り下げられて配置される(図1参照)。可視光カメラ10は、設置時に固定された画角(例えば列車TR1あるいは列車TR1の通過をやり過ごす乗客を含む画角)において所定のフレームレート(例えば60fps)で撮影して、被写体の可視画像のデータを生成して応力特性測定装置30に送る。
【0024】
第1撮像装置の一例としての赤外線カメラ20は、例えば駅STAのホームの天井から吊り下げられて配置される(図3参照)。赤外線カメラ20は、設置時に固定された画角(例えば3つのボルトV1~V3を含む支持金具SPT1を被写体として撮影可能な画角、図3参照)において所定のフレームレート(例えば60fps)で撮影して、被写体の熱画像のデータを生成して応力特性測定装置30に送る。
【0025】
応力特性測定装置30は、可視光カメラ10からの可視画像のデータあるいはセンサ40からのセンシング結果のデータに基づいて、構造物(例えば3つのボルトV1~V3を含む支持金具SPT1)の熱画像の撮影開始から撮影終了までの撮影期間を特定する。また、その撮影期間において撮影された被写体の熱画像のデータに基づいて、構造物(3つのボルトV1~V3を含む支持金具SPT1)に発生する応力分布および応力特性を測定する。応力特性測定装置30は、応力分布および応力特性のそれぞれのデータを、インターネット2を介してサーバ(図示略)等に送信する。
【0026】
センサ40は、例えば駅STAのホームの天井から吊り下げられて配置される(図示略)。センサ40は、例えば設置時に設定されたホーム上の所定エリア(例えば、列車TR1がホームに入線して存在する位置)内へ照射する赤外線の反射有無に基づいて、所定間隔ごとに列車TR1のホームへの入線の有無のセンシングを行い、そのセンシング結果のデータを生成して応力特性測定装置30に送る。
【0027】
以下、応力特性測定装置30の構成を詳細に説明する。
【0028】
応力特性測定装置30は、第1の通信部31と、第2の通信部32と、第3の通信部33と、メモリ34と、プロセッサ35と、表示部36と、操作部37と、第4の通信部38とを含む構成である。
【0029】
第1の通信部31は、例えばUSB(Universal Serial Bus)、HDMI(High-Definition Multimedia Interface)(登録商標)等の通信インターフェースで構成される。第1の通信部31は、可視光カメラ10から、所定のフレームレートで撮影された被写体の可視画像のデータを順次に入力する入力部である。
【0030】
第2の通信部32は、例えばUSB、HDMI(登録商標)等の通信インターフェースで構成される。第2の通信部32は、赤外線カメラ20から、所定のフレームレートで撮影された被写体の熱画像のデータを順次に入力する入力部である。また、第2の通信部32は、赤外線カメラ20の撮影開始および撮影終了等の動作に関する制御情報をプロセッサ35から受信し、その受信された制御情報を赤外線カメラ20に送信する。
【0031】
第3の通信部33は、例えばIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11、3G(第3世代移動通信方式)、4G(第4世代移動通信方式)、5G(第5世代移動通信方式)等の通信規格に準拠した無線通信インターフェースで構成される。第3の通信部33は、プロセッサ35とインターネット2とを接続する。
【0032】
メモリ34は、例えばRAM(Random Access Memory)とROM(Read Only Memory)を用いて構成され、応力特性測定装置30の動作の実行に必要なプログラム、さらには、動作中に生成されたデータあるいは情報を一時的に保存する。RAMは、例えばプロセッサ35の動作時に使用されるワークメモリである。ROMは、例えばプロセッサ35を制御するためのプログラムを予め記憶する。
【0033】
また、メモリ34は、物理的構成として上述したRAMおよびROMの他に、例えばHDD(Hard Disk Drive)あるいはSSD(Solid State Drive)で構成される記録媒体を有してよい。メモリ34は、可視光カメラ10で撮影され、第1の通信部31を介して受信された被写体の可視画像のデータを格納する。また、メモリ34は、赤外線カメラ20で撮影され、第2の通信部32を介して受信された被写体の熱画像のデータを格納する。また、メモリ34は、後述する操作部37から入力される基準値であって、赤外線カメラ20が熱画像の撮影を開始、終了するタイミングをプロセッサ35が特定するために必要な基準値を格納する。
【0034】
また、メモリ34は、プロセッサ35により導出される構造物中のポイント(箇所)における応力特性(傾き、図10参照)とそのポイント(箇所)における危険度情報との対応関係を示す危険度提示テーブル(図示略)を格納する。この危険度提示テーブルは、応力特性測定システム100の実運用開始前に既定の設計情報として予め規定されている。更に、メモリ34は、危険度情報と構造物に対する改善策(例えば補修、修繕等の技術的な対応方法)との関係を示す改善策提示テーブル(図示略)を格納する。この改善策提示テーブルは、応力特性測定システム100の実運用開始前に既定の設計情報として予め規定されているが、必要に応じてユーザの操作部37を用いた操作によって適宜、追加、変更、削除等の更新がなされても構わない。
【0035】
プロセッサ35は、例えばCPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)もしくはFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いて構成される。プロセッサ35は、応力特性測定装置30の制御部として機能し、応力特性測定装置30の各部の動作を全体的に統括するための制御処理、応力特性測定装置30の各部との間のデータの入出力処理、データの演算処理およびデータの記憶処理を行う。プロセッサ35は、メモリ34に記憶されたプログラムに従って動作する。
【0036】
例えば、プロセッサ35は、赤外線カメラ20の撮影開始および撮影終了等の動作を制御する。プロセッサ35は、可視光カメラ10からの可視画像のデータあるいはセンサ40からのセンシング結果のデータに基づいて、赤外線カメラ20が熱画像の撮影を開始あるいは終了するタイミングを特定する。プロセッサ35は、この特定されたタイミングに基づいて赤外線カメラ20により撮影された熱画像のデータに基づいて、構造物(例えば3つのボルトV1~V3を含む支持金具SPT1)に発生する応力分布を測定する。
【0037】
熱画像のデータから応力分布を求める方法は、例えば次の方法である。
【0038】
(1)プロセッサ35は、赤外線カメラ20から送られた熱画像のデータを取得すると、その熱画像の画素ごとに温度の時間変化量を温度変化量として求める。例えば、プロセッサ35は、熱画像のデータをフーリエ変換することによって温度変化量を求める。
【0039】
(2)プロセッサ35は、求められた温度変化量に基づいて応力分布を求める。具体的には、プロセッサ35は、温度変化量に基づいて、熱画像の画素ごとに応力の時間変化量を応力変化量として求める。例えばプロセッサ35は、熱弾性効果を示す数式(1)を用いて、温度変化量ΔTから応力変化量Δδを算出する。
【0040】
【数1】
【0041】
数式(1)において、Kは熱弾性係数であり、K=α/(ρCp)である。Tは構造物(例えば3つのボルトV1~V3を含む支持金具SPT1)の絶対温度である。αは構造物の線膨張係数であり、ρは構造物の密度であり、Cpは応力一定の下での比熱である。プロセッサ35は、熱画像を構成する全ての画素ごとの応力変化量に基づいて、応力分布を求めることで、応力分布画像を生成する。プロセッサ35は、生成部の一例である。
【0042】
また、プロセッサ35は、この測定された複数の応力分布の画像(具体的には、複数の大きさ(振幅)が異なる振動がそれぞれ発生した時に撮影された、個々の熱画像に基づく応力分布の画像(図5図9参照))を用いて、構造物の応力特性(図10参照)を生成する。プロセッサ35は、それぞれの振動が発生した時に測定された構造物の応力分布の画像のデータあるいは構造物の応力特性のデータを、インターネット2を介して外部のサーバ等に送信する。
【0043】
表示部36は、例えば液晶ディスプレイあるいは有機EL(Electroluminescence)ディスプレイで構成され、プロセッサ35で測定された応力分布の画像のデータあるいは応力特性のデータを、例えば色情報あるいは諧調情報として表示する。
【0044】
操作部37は、例えばキーボード、タッチパネル、ボタン等で構成される。操作部37は、赤外線カメラ20が熱画像の撮影を開始、終了するタイミングを検出するために必要な基準値を設定する際にユーザにより操作される。
【0045】
第4の通信部38は、例えばIEEE802.11、3G(第3世代移動通信方式)、4G(第4世代移動通信方式)、5G(第5世代移動通信方式)等の通信規格に準拠した無線通信インターフェースで構成される。第4の通信部38は、センサ40とプロセッサ35とを接続する。
【0046】
次に、実施の形態1に係る応力特性測定装置30において生成される応力分布の画像と応力特性とのデータ例について、図5図10をそれぞれ参照して説明する。
【0047】
図5は、第1条件の振動発生時の梁部JST1と支持金具SPT1との接続部分の応力分布例を示す図である。図6は、第2条件の振動発生時の梁部JST1と支持金具SPT1との接続部分の応力分布例を示す図である。図7は、第3条件の振動発生時の梁部JST1と支持金具SPT1との接続部分の応力分布例を示す図である。図8は、第4条件の振動発生時の梁部JST1と支持金具SPT1との接続部分の応力分布例を示す図である。図9は、第5条件の振動発生時の梁部JST1と支持金具SPT1との接続部分の応力分布例を示す図である。図10は、梁部JST1と支持金具SPT1との接続部分における複数の位置のそれぞれの応力分布特性例の説明図である。
【0048】
図10に示されるように、実施の形態1に係る応力特性測定装置30は、複数の大きさ(振幅)が異なる振動がそれぞれ発生した時に撮影された熱画像に基づいて生成した複数枚の応力分布の画像内において、それぞれの画像に映る構造物中の4つの異なるポイント(具体的には、ポイントA,B,C,D)の応力値(画素値)を抽出する。実施の形態1では、構造物に複数の大きさ(振幅)が異なる振動がそれぞれ発生する条件として、第1条件~第5条件を例示する。応力特性測定装置30は、第1条件~第5条件のそれぞれの振動発生条件を満たす振動が発生した時に得られた、複数枚の応力分布の画像のデータから、振動発生条件ごとのポイントA~Dのそれぞれの応力値を用いて、応力特性を導出する(図10参照)。
【0049】
例えば図5に示されるように、応力分布の画像CPG1は、第1条件の振動発生時に赤外線カメラ20により撮影された接続部分(上述参照)の熱画像に基づいて生成される。ここで、第1条件の振動は、実施の形態1において例示する5つの条件(第1条件~第5条件)の中で構造物(例えば3つのボルトV1~V3を含む支持金具SPT1)に発生する振動の大きさ(振幅)が最も小さい振動である。例えば、第1条件の振動は、図1に示す駅STAのホームを下り方向(上り方向でも可)の回送種別の列車TR1(列車TR2)が通過し終えるまでに発生する振動である。なお、ここでは説明を分かり易くするために、駅STAのホームを通過する時の通過速度は、回送種別の列車、急行種別の列車、特急種別の列車の順に速いとしている。図5に示される画像CPG1によれば、3つのボルトV1~V3のうち中央のボルトV2付近のポイントD(第1部分、平坦部の一例)では応力値が最小値であり、両端のボルトV1,V3付近のポイントA,B,C(第2部分の一例)ではそれぞれの応力値がポイントDの応力値に比べて極大値(最大値)となっている。
【0050】
例えば図6に示されるように、応力分布の画像CPG2は、第2条件の振動発生時に赤外線カメラ20により撮影された接続部分(上述参照)の熱画像に基づいて生成される。ここで、第2条件の振動は、実施の形態1において例示する5つの条件(第1条件~第5条件)の中で構造物(例えば3つのボルトV1~V3を含む支持金具SPT1)に発生する振動の大きさ(振幅)が第2番目に小さい振動である。例えば、第2条件の振動は、図1に示す駅STAのホームを下り方向(上り方向でも可)の急行種別の列車TR1(列車TR2)が通過し終えるまでに発生する振動である。図6に示される画像CPG2によれば、3つのボルトV1~V3のうち中央のボルトV2付近のポイントD(平坦部の一例)では応力値が最小値であり、両端のボルトV1,V3付近のポイントA,B,Cではそれぞれの応力値がポイントDの応力値に比べて極大値(最大値)となっている。また、図6に示される画像CPG2において、ポイントA,B,Cのそれぞれの応力値は、図5に示される画像CPG1中のポイントA,B,Cのそれぞれの応力値と比較して大きくなっている。
【0051】
例えば図7に示されるように、応力分布の画像CPG3は、第3条件の振動発生時に赤外線カメラ20により撮影された接続部分(上述参照)の熱画像に基づいて生成される。ここで、第3条件の振動は、実施の形態1において例示する5つの条件(第1条件~第5条件)の中で構造物(例えば3つのボルトV1~V3を含む支持金具SPT1)に発生する振動の大きさ(振幅)が第3番目に小さい振動である。例えば、第3条件の振動は、図1に示す駅STAのホームを下り方向(上り方向でも可)の特急種別の列車TR1(列車TR2)が通過し終えるまでに発生する振動である。図7に示される画像CPG3によれば、3つのボルトV1~V3のうち中央のボルトV2付近のポイントD(平坦部の一例)では応力値が最小値であり、両端のボルトV1,V3付近のポイントA,B,Cではそれぞれの応力値がポイントDの応力値に比べて極大値(最大値)となっている。また、図7に示される画像CPG3において、ポイントA,B,Cのそれぞれの応力値は、図6に示される画像CPG2中のポイントA,B,Cのそれぞれの応力値と比較して大きくなっている。
【0052】
例えば図8に示されるように、応力分布の画像CPG4は、第4条件の振動発生時に赤外線カメラ20により撮影された接続部分(上述参照)の熱画像に基づいて生成される。ここで、第4条件の振動は、実施の形態1において例示する5つの条件(第1条件~第5条件)の中で構造物(例えば3つのボルトV1~V3を含む支持金具SPT1)に発生する振動の大きさ(振幅)が第2番目に大きい振動である。例えば、第4条件の振動は、図1に示す駅STAのホームを下り方向および上り方向の急行種別の列車TR1,TR2のそれぞれが同時あるいはほぼ同時に通過し終えるまでに発生する振動である。図8に示される画像CPG4によれば、3つのボルトV1~V3のうち中央のボルトV2付近のポイントD(平坦部の一例)では応力値が最小値であり、両端のボルトV1,V3付近のポイントA,B,Cのうち特にポイントA,Cではそれぞれの応力値がポイントDの応力値に比べて極大値(最大値)となっている。また、図8に示される画像CPG4において、ポイントA,B,Cのそれぞれの応力値は、図7に示される画像CPG3中のポイントA,B,Cのそれぞれの応力値と比較して大きくなっている。
【0053】
例えば図9に示されるように、応力分布の画像CPG5は、第5条件の振動発生時に赤外線カメラ20により撮影された接続部分(上述参照)の熱画像に基づいて生成される。ここで、第5条件の振動は、実施の形態1において例示する5つの条件(第1条件~第5条件)の中で構造物(例えば3つのボルトV1~V3を含む支持金具SPT1)に発生する振動の大きさ(振幅)が最も大きい振動である。例えば、第5条件の振動は、図1に示す駅STAのホームを下り方向および上り方向の特急種別の列車TR1,TR2のそれぞれが同時あるいはほぼ同時に通過し終えるまでに発生する振動である。図9に示される画像CPG5によれば、3つのボルトV1~V3のうち中央のボルトV2付近のポイントD(平坦部の一例)では応力値が最小値であり、両端のボルトV1,V3付近のポイントA,B,Cのうち特にポイントA,Cではそれぞれの応力値がポイントDの応力値に比べて極大値(最大値)となっている。また、図9に示される画像CPG5において、ポイントA,B,Cのそれぞれの応力値は、図8に示される画像CPG4中のポイントA,B,Cのそれぞれの応力値と比較して大きくなっている。
【0054】
このように、実施の形態1に係る応力特性測定装置30は、図5図9のそれぞれに示される振動が発生した時に得られた、複数枚の応力分布の画像のデータから、振動発生条件ごとのポイントA~Dのそれぞれの応力値を用いて、応力特性を導出する(図10参照)。図10において、応力特性グラフの横軸は、応力分布の画像(例えば画像CPG1~5)のポイントD等の平坦部における応力[MPa]を示す。また、応力特性グラフの縦軸は、応力分布の画像(例えば画像CPG1~5)のポイントA,B,C等の応力集中し易いポイントにおける応力[MPa]を示す。ポイントA,B,Cは、支持金具SPT1が梁部JST1から吊り下げられた状態で構内スピーカSPK1の筐体を支持する箇所であるため、振動の発生によってポイントDに比べて応力が集中し易い箇所であると言える。
【0055】
応力特性測定装置30は、第1条件の振動が発生した時の応力分布の画像CPG1のデータに基づいて、その画像中の画素値の中で応力勾配の少ない(極小の)ポイント(例えばポイントD)を選択するとともに、画素値の中で応力勾配が大きい上位複数個(例えば3箇所)のポイント(例えばポイントA,B.C)を選択する。プロセッサ35は、選択部の一例である。応力特性測定装置30は、第1条件の振動発生に対応するポイントDの応力値P1Dと、第1条件の振動発生に対応するポイントA,B,Cのそれぞれの応力値P1A,P1B,P1Cとの組を応力特性グラフにプロットする。
【0056】
次に、応力特性測定装置30は、第2条件の振動が発生した時の応力分布の画像CPG2のデータに基づいて、第1条件の振動が発生した時の応力分布の画像において選択された構造物中のポイントA,B,C,Dと同一のポイントA,B,C,Dでの応力値P2A,P2B,P2C.P2Dの組を選択する。応力特性測定装置30は、その選択された応力値P2A,P2B,P2C.P2Dを応力特性グラフにプロットする。
【0057】
同様にして、応力特性測定装置30は、第3条件~第5条件のそれぞれの振動が発生した時の応力分布の画像CPG3~5のデータに基づいて、第1条件の振動が発生した時の応力分布の画像において選択された構造物中のポイントA,B,C,Dと同一のポイントA,B,C,Dでの応力値(P3A,P3B,P3C.P3D)の組,応力値(P4A,P4B,P4C.P4D)の組,応力値(P5A,P5B,P5C.P5D)の組を選択する。応力特性測定装置30は、その選択された応力値(P3A,P3B,P3C.P3D)の組,応力値(P4A,P4B,P4C.P4D)の組,応力値(P5A,P5B,P5C.P5D)の組を応力特性グラフにプロットする。
【0058】
応力特性測定装置30は、構造物中の平坦部(言い換えると、振動の大きさ(振幅)が変わっても応力勾配の変化量が少ないポイント)であるポイントD以外のポイントA,B,Cにおいて、振動の大きさ(振幅)と受ける応力値との相関(傾き)を演算する。具体的には、応力特性測定装置30は、ポイントAにおける振動の大きさ(振幅)に基づく応力値の特性を、例えば一次関数の直線CVAでフィッティングした時の傾きとして導出する。同様に、応力特性測定装置30は、ポイントB,Cのそれぞれにおける振動の大きさ(振幅)に基づく応力値の特性を、例えば一次関数の直線CVB,CVCのそれぞれでフィッティングした時の傾きとして導出する。これにより、応力特性測定装置30は、大きさ(振幅)が異なる複数の振動が異なるタイミングで構造物にかかった時にそれぞれ得られた、複数の応力分布の画像を用いることで、その構造物中の応力集中し易い箇所が振動の大きさ(振幅)によってどのような特性で応力を受けるかを定量的に導出できる。
【0059】
<応力特性測定システムの動作>
次に、実施の形態1に係る応力特性測定システム100の動作手順について、図11および図12を参照して説明する。図11および図12は、実施の形態1に係る応力特性測定装置30の動作手順を示すフローチャートである。図11および図12において、各種の処理は主に応力特性測定装置30のプロセッサ35により実行される。
【0060】
図11において、初期設定として、可視光カメラ10からの撮像画像あるいはセンサ40からのセンシング結果のデータに基づいて検知される基準点の位置(つまり基準値)が、操作部37を用いるユーザの操作により設定される(St1)。
【0061】
ここで、基準点の位置は、赤外線カメラ20により熱画像の撮影が開始される時のホーム上の位置と、赤外線カメラ20により熱画像の撮影が終了される時のホーム上の位置とを含んでよい。熱画像の撮影が開始される時のホーム上の位置は、可視光カメラ10の画角内あるいはセンサ40のセンシング領域内の端部(例えば右端あるいは左端)であり、例えば列車の先頭車両が画角内あるいはセンシング領域内において最初に出現する位置である。一方、熱画像の撮影が終了される時のホーム上の位置は、可視光カメラ10の画角内あるいはセンサ40のセンシング領域内の端部(例えば左端あるいは右端)であり、例えば列車の最後方車両が画角内あるいはセンシング領域内において最後に出現する位置である。
【0062】
応力特性測定装置30は、例えばメモリ34に格納されている駅STAの時刻表と可視光カメラ10からの撮像画像とに基づいて、その撮像画像に映り得る列車の種別を判別する(St2)。応力特性測定装置30は、可視光カメラ10からの撮像画像のデータあるいはセンサ40からのセンシング結果のデータを取得する(St3)。
【0063】
応力特性測定装置30は、ステップSt2の判別結果に基づいて、ステップSt3において取得された撮像画像に映る列車が駅STAを通過する種別の列車であって、かつステップSt1において設定された第1の基準点を通過したか否かを判定する(St4)。ここで、ステップSt4における第1の基準点は、赤外線カメラ20に熱画像の撮影を開始させるための基準点である。撮像画像に映る列車が駅STAを通過する種別の列車でない場合、あるいは撮像画像に映る列車が駅STAを通過する種別の列車であるが第1の基準点を未だ通過していない場合には(St4、NO)、撮像画像に映る列車が駅STAを通過する種別の列車であって、かつステップSt1において設定された第1の基準点を通過するまで応力特性測定装置30の処理は待機する。
【0064】
一方、応力特性測定装置30は、撮像画像に映る列車が駅STAを通過する種別の列車であって、かつステップSt1において設定された第1の基準点を通過したと判定した場合(St4、YES)、構造物の熱画像の撮影の開始を赤外線カメラ20に指示する(St5)。応力特性測定装置30は、ステップSt5の指示に基づいて赤外線カメラ20から送られた熱画像のデータを取得する(St6)。
【0065】
応力特性測定装置30は、ステップSt4において第1の基準点を通過した列車がステップSt1において設定された第2の基準点を通過したか否かを判定する(St7)。ここで、ステップSt7における第2の基準点は、赤外線カメラ20に熱画像の撮影を終了させるための基準点である。第1の基準点を通過した列車が第2の基準点を未だ通過していない場合には(St7、NO)、撮像画像に映る列車がステップSt1において設定された第2の基準点を通過するまで応力特性測定装置30の処理は待機する。
【0066】
一方、応力特性測定装置30は、撮像画像に映る列車がステップSt1において設定された第2の基準点を通過したと判定した場合(St7、YES)、構造物の熱画像の撮影の終了を赤外線カメラ20に指示する(St8)。応力特性測定装置30は、ステップSt5の指示に基づいて赤外線カメラ20から送られた熱画像のデータを取得する(St9)。また、応力特性測定装置30は、取得された熱画像のデータに基づいて、列車の通過に伴って構造物に発生した振動による温度変化量を導出する(St9)。
【0067】
図12において、応力特性測定装置30は、ステップSt9において導出された画素ごとの温度変化量に基づいて応力分布を求めることで、画素ごとに応力値を画素値として有する応力分布の画像を生成する(St10)。応力特性測定装置30は、ステップSt10において求められた応力分布の画像のデータから、画素値の中で応力勾配が大きい上位複数個(例えば3箇所)のポイント(例えばポイントA,B.C)の応力値を選択して取得する(St11)。または、応力特性測定装置30は、以前に選択された上位複数個のポイントと同一のポイントの応力値を選択して取得する(St11)。
【0068】
応力特性測定装置30は、ステップSt10において求められた応力分布の画像のデータから、画像中の画素値の中で応力勾配の少ない(極小の)ポイント(例えばポイントD)の応力値を選択して取得する(St12)。応力特性測定装置30は、ステップSt11,St12のそれぞれにおいて取得された応力集中し易い上位複数個のポイントの応力値と応力勾配の少ないポイントの応力値との組を応力特性グラフ(図10参照)にプロットする(St13)。
【0069】
応力特性測定装置30は、ステップSt13において所定数以上の組の応力値を応力特定グラフにプロットしたか否かを判定する(St14)。所定数以上の組の応力値が応力特定グラフにプロットされていない場合には(St14、NO)、応力特性測定装置30の処理はステップSt2に戻り、所定数以上の組の応力値を応力特定グラフにプロットされるまで応力特性測定装置30において、ステップSt2~ステップSt14までの処理が繰り返される。
【0070】
一方、応力特性測定装置30は、ステップSt13において所定数以上の組の応力値を応力特定グラフにプロットしたと判定した場合には(St14、YES)、応力特性グラフにプロットされた各ポイントの応力値の組のデータを用いて、ポイント(箇所)ごとの相関特性(具体的には、直線の傾き)を導出する(St15)。
【0071】
また、応力特性測定装置30は、ユーザの操作により応力特性グラフ中のいずれかの直線(例えば直線CVA)が選択されたことを検知すると、ステップSt15において導出された傾きの情報とメモリ34に格納されている危険度提示テーブル(上述参照)とを用いて、その選択された直線の傾きに対応した構造物中のポイント(箇所)における危険度を特定する。応力特性測定装置30は、その危険度を既定個のランクの中でランク分けしてその結果を表示部36に表示する(St16)。
【0072】
更に、応力特性測定装置30は、ステップSt16において特定された危険度の情報とメモリ34に格納されている改善策提示テーブル(上述参照)とを用いて、危険度に対応した構造物中のポイント(箇所)における改善策(対応方法)を表示部36に表示する(St17)。
【0073】
以上により、実施の形態1に係る応力特性測定システム100において、応力特性測定装置30は、構造物(例えば3つのボルトV1~V3を含む支持金具SPT1)に発生する応力の特性を測定する。応力特性測定装置30は、赤外線カメラ20から、構造物の表面の温度に応じた、互いに撮像時刻の異なる複数の熱画像を取得する第2の通信部32と、複数の熱画像のそれぞれに対応する応力分布画像を生成するプロセッサ35と、を備える。プロセッサ35は、それぞれの応力分布画像において、応力勾配が所定値より小さいポイントD(第1部分)の応力値と、応力集中しているポイントA,B,C(複数の第2部分)のそれぞれの応力値とを取得し、取得されたポイントDの応力値とポイントA,B,Cのそれぞれの応力値とを用いて、構造物の部分(例えばポイントA,B,Cのうち少なくとも1つ)の応力の相関特性を導出して出力する。
【0074】
これにより、応力特性測定装置30は、例えば構内スピーカSPK1を支持する支持金具SPT1等の構造物が配置された実際の現場環境下(例えば駅STAのホームの天井)であっても、赤外線カメラ20からの熱画像を基にして、ホームを列車が通過する度に発生する振動によってかかる構造物の応力を簡易に測定できる。また、応力特性測定装置30は、従来のひずみゲージを用いた応力測定とは異なり、ひずみゲージを接着するための面積を有さないような狭小の構造物であっても、赤外線カメラ20により撮影された熱画像から応力分布を簡易かつ利便性良く求めることができる。また、応力特性測定装置30は、構造物の箇所ごとの応力比較を支援するため、構造物にかかる大きさ(振幅)の異なる複数種類の振動に応じた複数の応力分布を得て、構造物中の応力集中し易い箇所における応力値と応力勾配の小さい平坦部の応力値とを用いて、応力の相関特性を高精度かつ利便性良く測定できる。この相関特性が把握可能となることで、応力特性測定装置30は、構造物中の応力集中し易い箇所のうちどの箇所が強い応力を受けているのか、どの箇所が構造物の特性として寿命が短く成り易いかを、ユーザに対して簡易に判別させることができる。
【0075】
また、応力特性測定システム100では、可視光カメラ10あるいはセンサ40は、構造物の配置場所(例えば駅STAのホームの天井)に生じる振動の発生(言い換えると、その振動を発生させるための要因となる事象)を検知する。この事象は、一例として、駅STAのホームに列車が通過することが該当する。赤外線カメラ20は、構造物の配置場所において振動の発生が検知される度に、応力特性測定装置30からの指示に応じて、熱画像を撮影して生成する。これにより、応力特性測定装置30は、構造物の箇所ごとの応力の高精度な相関特性を得るために必要なタイミングで、構造物にかかる応力分布画像を生成できる。
【0076】
また、応力特性測定システム100では、応力特性測定装置30は、振幅(大きさ)が異なる振動の発生が少なくとも3回検知され、それぞれの振動の発生の検知に基づいて生成された応力分布画像ごとに選択されたポイントDの応力値と応力集中し易いポイントA,B,Cのそれぞれの応力値とを用いて相関特性を導出する。これにより、応力特性測定装置30は、応力分布画像ごとに選択されたポイントDの応力値と応力集中し易いポイントA,B,Cのそれぞれの応力値との組のプロットから一次関数等で行うフィッティング精度を向上できるので、高精度な相関特性を導出できる。
【0077】
また、応力特性測定システム100では、応力特性測定装置30は、ポイントA,B,Cの応力値を取得する際、複数の応力分布画像のそれぞれにおいて、応力集中している複数の部分の中から同一箇所の応力値を取得する。これにより、応力特性測定装置30は、構造物中の振動に伴って受ける応力の変化度合いを同一箇所で比較し易くできるので、同一箇所の経時劣化の有無の確認等のユーザの判断を支援できる。
【0078】
また、応力特性測定システム100では、応力特性測定装置30は、相関特性の導出結果(例えばフィッティングに使用した一次関数の直線の傾き)に基づいて、構造物の状況を判定する。これにより、ユーザは、構造物中に応力集中し易い危険な箇所があるか否かを簡易に判断できる。
【0079】
また、応力特性測定システム100では、応力特性測定装置30は、構造物の状況の判定結果に基づいて、構造物に対する対応策を提示する。これにより、ユーザは、構造物中に存在する応力集中し易い箇所に対する技術的な対応策(例えば、修繕)を施せばよいか否かを簡易に判断できる。
【0080】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各種の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0081】
上述した実施の形態1では、構造物の一例として、駅STAのホームの天井に固定するように配置された構内スピーカSPK1の支持金具SPT1(図1参照)を例示したが、構造物はこの支持金具SPT1に限定されない。例えば、構造物は、列車の車体であってもよい。列車の車体は、走行中は振動を受けるとともに、通勤時間等の時間帯によって乗客数が異なったり特定の車両(号車)に乗客が偏在したりする可能性がある。このため、列車の車体にかかる応力分布画像から車体の箇所ごとの相関特性が得られるメリットは高い。
【0082】
また、構造物は、クレーン等の重機であってもよい。クレーン等の重機は、走行中は振動を受けるとともに、運搬対象となる土壌等の積載物の重量によって先端アーム部が受ける応力が異なる可能性がある。このため、クレーン等の重機の先端アーム部にかかる応力分布画像から先端アーム部の箇所ごとの相関特性が得られるメリットは高い。
【0083】
また、構造物は、高速道路を支持する橋脚間に設けられる橋梁であってもよい。橋梁は、その上を走行する車両(一般車両、トラック等)により振動を受けるとともに、橋梁の上を走行する車両の重量によって受ける応力が異なる可能性がある。このため、橋梁にかかる応力分布画像から橋梁の箇所ごとの相関特性が得られるメリットは高い。
【0084】
また、構造物は、支持金具SPT1を梁部JST1に螺着するためのボルトV1~V3等の締結部に限定されず、ボルトV1~V3の代わりに、例えば溶接に基づいて形成された締結部、あるいは接着に基づいて形成された接続部であってもよい。溶接あるいは接着のいずれにより形成された締結部であっても、実施の形態1に係るボルトV1~V3と同様に列車の通過に伴って振動を受けるため、同様に応力を受けるためである。
【0085】
また、実施の形態1において、構造物にかかる外部負荷による荷重は一定でない例(言い換えると、振動の大きさ(振幅)は一定でない)例を説明したが、その荷重は一定であってかつその振動の大きさ(振幅)は既知でなくても構わない。つまり、外部負荷による荷重が一定であって既知でない場合でも、実施の形態1に係る応力特性測定装置30は、同様に応力特性を測定(評価)できる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本開示は、構造物が配置された実際の現場環境下において発生する構造物の箇所ごとの応力比較に供する応力特性を高精度かつ利便性良く測定する応力特性測定方法、応力特性測定装置および応力特性測定システムとして有用である。
【符号の説明】
【0087】
2 インターネット
10 可視光カメラ
20 赤外線カメラ
30 応力特性測定装置
31 第1の通信部
32 第2の通信部
33 第3の通信部
34 メモリ
35 プロセッサ
36 表示部
37 操作部
38 第4の通信部
40 センサ
100 応力特性測定システム
CPG1,CPG2,CPG3,CPG4,CPG5 画像
P1A,P1B,P1C,P1D,P2A,P2B,P2C,P2D,P3A,P3B,P3C,P3D,P4A,P4B,P4C,P4D,P5A,P5B,P5C,P5D 応力値
SPK1,SPK2 構内スピーカ
SPT1 支持金具
V1,V2,V3 ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13