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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230120BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02P27/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019237387
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021106473
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】松岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】名和 政道
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-308256(JP,A)
【文献】特開2014-233178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス幅変調信号によりスイッチング素子がスイッチングすることで電源から供給される直流電力を交流電力に変換して電動機を駆動するインバータ回路と、
前記電動機の回転数及び前記電動機に流れる電流を用いて算出される電圧指令値と搬送波との比較結果に応じて前記パルス幅変調信号を出力する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記電動機の回転数が回転数閾値よりも大きな高回転である場合で、かつ、前記電源の電圧に対する電圧指令値の割合を示す変調率が過変調領域以上である場合、前記搬送波の周波数を上げる
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機の制御装置であって、
前記制御回路は、前記電動機の回転数が回転数閾値よりも大きな高回転である場合で、かつ、前記変調率が1よりも大きな変調率閾値よりも大きな場合、前記搬送波の周波数を上げる
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電動機の制御装置であって、
前記制御回路は、前記電動機の回転数または前記電動機に流れる電流の変動率が大きくなるほど、前記回転数閾値を小さくする
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の制御装置として、電動機の一定の制御性を確保するために、電動機の回転数が高回転である場合、搬送波の周波数を上げるものがある。関連する技術として、特許文献1がある。
【0003】
ところで、搬送波の周波数が上がると、電動機を駆動するインバータ回路に備えられるスイッチング素子のスイッチング回数が増加するため、スイッチング損失が増加し、インバータ回路の効率が低下してしまう。
【0004】
そのため、上記制御装置では、電動機の回転数が高回転である場合、搬送波の周波数が上がるため、インバータ回路の効率低下が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-146380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面に係る目的は、電動機の制御装置において、電動機の一定の制御性を確保しつつ、インバータ回路の効率低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一つの形態である電動機の制御装置は、パルス幅変調信号によりスイッチング素子がスイッチングすることで電源から供給される直流電力を交流電力に変換して電動機を駆動するインバータ回路と、電動機の回転数及び電動機に流れる電流を用いて算出される電圧指令値と搬送波との比較結果に応じてパルス幅変調信号を出力する制御回路とを備える。
【0008】
制御回路は、電動機の回転数が回転数閾値よりも大きな高回転である場合で、かつ、電源の電圧に対する電圧指令値の割合を示す変調率が過変調領域以上である場合、搬送波の周波数を上げる。
【0009】
このように、電動機の回転数が高回転である場合で、かつ、変調率が過変調領域以上である場合、搬送波の周波数を上げることにより、パルス幅変調信号と搬送波との単位時間あたりの比較回数が少なくなり難くなるため、実際のパルス幅変調信号と理想的なパルス幅変調信号との乖離が大きくなり難くすることができ、電動機の制御性が低下することを抑制することができる。また、電動機の回転数が高回転である場合で、かつ、変調率が過変調領域より小さい場合、搬送波の周波数が上がらない構成であるが、電動機の回転数が高回転であっても、変調率が過変調領域より小さい場合、パルス幅変調信号と搬送波との単位時間あたりの比較回数が少なくなり難くなるため、実際のパルス幅変調信号と理想的なパルス幅変調信号との乖離が大きくなり難くなり、電動機の制御性が低下することが抑制される。また、電動機の回転数が高回転である場合で、かつ、変調率が過変調領域より小さい場合、搬送波の周波数が上がらない構成であるため、スイッチング素子のスイッチング回数の増加を抑制しスイッチング素子のスイッチング損失の増加を抑制することができ、インバータ回路の効率低下を抑制することができる。すなわち、電動機の一定の制御性を確保しつつ、インバータ回路の効率低下を抑制することができる。
【0010】
制御回路は、電動機の回転数が回転数閾値よりも大きな高回転である場合で、かつ、変調率が1よりも大きな変調率閾値よりも大きな場合、搬送波の周波数を上げるように構成してもよい。
【0011】
このように、電動機の回転数が高回転である場合で、かつ、変調率が1よりも大きな変調率閾値よりも大きな場合、搬送波の周波数を上げる構成であるため、電動機の回転数が高回転である場合で、かつ、変調率が過変調領域以上である場合、搬送波の周波数を上げる構成に比べて、搬送波の周波数が上がる機会を少なくすることができる。そのため、スイッチング素子のスイッチング回数の増加をさらに抑制しスイッチング素子のスイッチング損失の増加をさらに抑制することができ、インバータ回路の効率低下をさらに抑制することができる。
【0012】
制御回路は、電動機の回転数または電動機に流れる電流の変動率が大きくなるほど、回転数閾値を小さくするように構成してもよい。
【0013】
これにより、電動機の回転数または電動機に流れる電流の変動率が比較的大きくなることで、電動機の回転数または電動機に流れる電流の誤差が比較的大きくなり、電圧指令値の算出精度が低下しても、実際のパルス幅変調信号と理想的なパルス幅変調信号との乖離が大きくなることを抑制することができるため、電動機の制御性が低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電動機の制御装置において、電動機の一定の制御性を確保しつつ、インバータ回路の効率低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
図2】座標変換部の動作の一例を示すフローチャートである。
図3】U相電圧指令値、搬送波、及びパルス幅変調信号の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
図1は、実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
【0017】
図1に示す制御装置1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される電動機Mを駆動するための制御装置であって、インバータ回路2と、制御回路3とを備える。なお、電動機Mは、回転子の位相θ(電気角)を検出し、その検出した位相θを制御回路3に出力する電気角検出部Sp(レゾルバなど)を備えているものとする。
【0018】
インバータ回路2は、電源Pから供給される直流電力を交流電力に変換して電動機Mを駆動するものであって、電圧センサSvと、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など)と、電流センサSi1、Si2とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端が電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端が電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSi1を介して電動機MのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSi2を介して電動機MのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電動機MのW相の入力端子に接続されている。なお、スイッチング素子SW1~SW6を特に区別しない場合、単に、スイッチング素子SWとする。
【0019】
電圧センサSvは、電源Pの電圧Vinを検出し、その検出した電圧Vinを制御回路3に送る。
【0020】
コンデンサCは、電圧Vinを平滑する。
スイッチング素子SW1は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S1がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S1がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW2は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S2がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S2がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW3は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S3がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S3がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW4は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S4がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S4がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW5は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S5がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S5がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW6は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S6がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S6がローレベルであるときオフする。なお、搬送波は、三角波、ノコギリ波(鋸歯状波)、逆ノコギリ波などとする。また、パルス幅変調信号S1~S6を特に区別しない場合、単に、パルス幅変調信号Sとする。
【0021】
スイッチング素子Sw1~SW6がそれぞれオン、オフすることで、電源Pから出力される直流の電圧Vinが、互いに位相が120度ずつ異なる交流電圧Vu、Vv、Vwに変換される。そして、交流電圧Vuが電動機MのU相の入力端子に印加され、交流電圧Vvが電動機MのV相の入力端子に印加され、交流電圧Vwが電動機MのW相の入力端子に印加されることで、電動機Mに互いに位相が120度ずつ異なる交流電流Iu、Iv、Iwが流れ、電動機Mの回転子が回転する。
【0022】
電流センサSi1は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのU相に流れる交流電流Iuを検出して制御回路3に出力する。また、電流センサSi2は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのV相に流れる交流電流Ivを検出して制御回路3に出力する。
【0023】
制御回路3は、ドライブ回路4と、演算部5と、記憶部6とを備える。なお、記憶部6は、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)などにより構成され、後述する、電動機Mの回転数ωと電動機Mのトルクとが互いに対応付けられている情報D1、電動機Mのトルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが互いに対応付けられている情報D2、目標位相θvとU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*とが互いに対応付けられている情報D3、回転数ωと変調率mと搬送波の周波数fとが互いに対応付けられている情報D4などを記憶しているものとする。
【0024】
ドライブ回路4は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、演算部5から出力されるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*と搬送波とを比較し、その比較結果に応じたパルス幅変調信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。なお、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*を特に区別しない場合、単に、電圧指令値V*とする。
【0025】
例えば、ドライブ回路4は、U相電圧指令値Vu*が搬送波以上である場合、ハイレベルのパルス幅変調信号S1を出力するとともにローレベルのパルス幅変調信号S2を出力し、U相電圧指令値Vu*が搬送波より小さい場合、ローレベルのパルス幅変調信号S1を出力するとともにハイレベルのパルス幅変調信号S2を出力する。また、ドライブ回路4は、V相電圧指令値Vv*が搬送波以上である場合、ハイレベルのパルス幅変調信号S3を出力するとともにローレベルのパルス幅変調信号S4を出力し、V相電圧指令値Vv*が搬送波より小さい場合、ローレベルのパルス幅変調信号S3を出力するとともにハイレベルのパルス幅変調信号S4を出力する。また、ドライブ回路4は、W相電圧指令値Vw*が搬送波以上である場合、ハイレベルのパルス幅変調信号S5を出力するとともにローレベルのパルス幅変調信号S6を出力し、W相電圧指令値Vw*が搬送波より小さい場合、ローレベルのパルス幅変調信号S5を出力するとともにハイレベルのパルス幅変調信号S6を出力する。
【0026】
なお、ドライブ回路4は、変調率mがパルス幅変調領域である場合(例えば、0<変調率m≦1)、回転子の1周期において、U相電圧指令値Vu*が搬送波の最小値に近づくほど、デューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S1を出力するとともにデューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S2を出力し、U相電圧指令値Vu*が搬送波の最大値に近づくほど、デューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S1を出力するとともにデューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S2を出力する。
【0027】
また、ドライブ回路4は、変調率mがパルス幅変調領域である場合、回転子の1周期において、V相電圧指令値Vv*が搬送波の最小値に近づくほど、デューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S3を出力するとともにデューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S4を出力し、V相電圧指令値Vv*が搬送波の最大値に近づくほど、デューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S3を出力するとともにデューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S4を出力する。
【0028】
また、ドライブ回路4は、変調率mがパルス幅変調領域である場合、回転子の1周期において、W相電圧指令値Vw*が搬送波の最小値に近づくほど、デューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S5を出力するとともにデューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S6を出力し、W相電圧指令値Vw*が搬送波の最大値に近づくほど、デューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S5を出力するとともにデューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S6を出力する。
【0029】
また、ドライブ回路4は、変調率mがパルス幅変調領域より高い過変調領域である場合(例えば、1<変調率m<1.27)、回転子の1周期のうちの一部の位相(例えば、60度)において、U相電圧指令値Vu*が搬送波の最小値と同じになる場合、デューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S1を出力するとともにデューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S2を出力し、U相電圧指令値Vu*が搬送波の最大値と同じになる場合、デューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S1を出力するとともにデューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S2を出力する。また、ドライブ回路4は、回転子の1周期のうちの残りの位相において、U相電圧指令値Vu*が搬送波の最小値に近づくほど、デューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S1を出力するとともにデューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S2を出力し、U相変調波Vu*が搬送波の最大値に近づくほど、デューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S1を出力するとともにデューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S2を出力する。
【0030】
また、ドライブ回路4は、変調率mが過変調領域である場合、回転子の1周期のうちの一部の位相(例えば、60度)において、V相電圧指令値Vv*が搬送波の最小値と同じになる場合、デューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S3を出力するとともにデューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S4を出力し、V相電圧指令値Vv*が搬送波の最大値と同じになる場合、デューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S3を出力するとともにデューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S4を出力する。また、ドライブ回路4は、回転子の1周期のうちの残りの位相において、V相電圧指令値Vv*が搬送波の最小値に近づくほど、デューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S3を出力するとともにデューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S4を出力し、V相変調波Vv*が搬送波の最大値に近づくほど、デューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S3を出力するとともにデューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S4を出力する。
【0031】
また、ドライブ回路4は、変調率mが過変調領域である場合、回転子の1周期のうちの一部の位相(例えば、60度)において、W相電圧指令値Vw*が搬送波の最小値と同じになる場合、デューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S5を出力するとともにデューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S6を出力し、W相電圧指令値Vw*が搬送波の最大値と同じになる場合、デューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S5を出力するとともにデューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S6を出力する。また、ドライブ回路4は、回転子の1周期のうちの残りの位相において、W相電圧指令値Vw*が搬送波の最小値に近づくほど、デューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S5を出力するとともにデューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S6を出力し、W相変調波Vw*が搬送波の最大値に近づくほど、デューティ比が大きくなるパルス幅変調信号S5を出力するとともにデューティ比が小さくなるパルス幅変調信号S6を出力する。
【0032】
また、ドライブ回路4は、変調率mが過変調領域より高い矩形波領域である場合(例えば、1.27≦変調率m)、回転子の1周期において、U相電圧指令値Vu*が搬送波の最小値と同じになる場合、デューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S1を出力するとともにデューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S2を出力し、U相電圧指令値Vu*が搬送波の最大値と同じになる場合、デューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S1を出力するとともにデューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S2を出力する。
【0033】
また、ドライブ回路4は、変調率mが矩形波領域である場合、回転子の1周期において、V相電圧指令値Vv*が搬送波の最小値と同じになる場合、デューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S3を出力するとともにデューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S4を出力し、V相電圧指令値Vv*が搬送波の最大値と同じになる場合、デューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S3を出力するとともにデューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S4を出力する。
【0034】
また、ドライブ回路4は、変調率mが矩形波領域である場合、回転子の1周期において、W相電圧指令値Vw*が搬送波の最小値と同じになる場合、デューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S5を出力するとともにデューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S6を出力し、W相電圧指令値Vw*が搬送波の最大値と同じになる場合、デューティ比が100[%]であるパルス幅変調信号S5を出力するとともにデューティ比が0[%]であるパルス幅変調信号S6を出力する。
【0035】
演算部5は、マイクロコンピュータなどにより構成され、回転数演算部7と、減算部8と、トルク制御部9と、トルク/電流指令値変換部10と、座標変換部11と、減算部12と、減算部13と、電流制御部14と、座標変換部15とを備える。例えば、マイクロコンピュータが記憶部6に記憶されているプログラムを実行することにより、回転数演算部7、減算部8、トルク制御部9、トルク/電流指令値変換部10、座標変換部11、減算部12、減算部13、電流制御部14、及び座標変換部15が実現される。
【0036】
回転数演算部7は、電気角検出部Spにより検出される位相θを用いて、電動機Mの回転数ωを演算する。例えば、回転数演算部7は、位相θを所定時間(演算部5の動作クロックなど)で除算することにより回転数ωを求める。
【0037】
減算部8は、外部から入力される回転数指令値ω*と回転数演算部7から出力される回転数ωとの差Δωを算出する。
【0038】
トルク制御部9は、減算部8から出力される差Δωを用いて、トルク指令値T*を求める。例えば、トルク制御部9は、記憶部6に記憶されている、電動機Mの回転数ωと電動機Mのトルクとが互いに対応付けられている情報D1を参照して、差Δωに相当する回転数ωに対応するトルクを、トルク指令値T*として求める。
【0039】
トルク/電流指令値変換部10は、トルク制御部9から出力されるトルク指令値T*を、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に変換する。例えば、トルク/電流指令値変換部10は、記憶部6に記憶されている、電動機Mのトルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが互いに対応付けられている情報D2を参照して、トルク指令値T*に相当するトルクに対応するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を求める。
【0040】
座標変換部11は、電流センサSi1により検出される交流電流Iu及び電流センサSi2により検出される交流電流Ivを用いて、電動機MのW相に流れる交流電流Iwを求める。なお、電流センサSi1、Si2により検出される電流は、交流電流Iu、Ivの組み合わせに限定されず、交流電流Iv、Iwの組み合わせ、または、交流電流Iu、Iwの組み合わせでもよい。電流センサSi1、Si2により交流電流Iv、Iwが検出される場合、座標変換部11は、交流電流Iv、Iwを用いて、交流電流Iuを求める。また、電流センサSi1、Si2により交流電流Iu、Iwが検出される場合、座標変換部11は、交流電流Iu、Iwを用いて、交流電流Ivを求める。
【0041】
また、座標変換部11は、電気角検出部Spにより検出される位相θを用いて、交流電流Iu、Iv、Iwをd軸電流Id(弱め界磁を発生させるための電流成分)及びq軸電流Iq(トルクを発生させるための電流成分)に変換する。例えば、座標変換部11は、下記式1に示す変換行列C1を用いて、交流電流Iu、Iv、Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0042】
【数1】
【0043】
なお、インバータ回路2において、電流センサSi1、Si2の他に、電動機MのW相に流れる交流電流Iwを検出する電流センサSi3をさらに備える場合、座標変換部11は、電気角検出部Spにより検出される位相θを用いて、電流センサSi1~Si3により検出される交流電流Iu、Iv、Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換するように構成してもよい。
【0044】
減算部12は、トルク/電流指令値変換部10から出力されるd軸電流指令値Id*と、座標変換部11から出力されるd軸電流Idとの差ΔIdを算出する。
【0045】
減算部13は、トルク/電流指令値変換部10から出力されるq軸電流指令値Iq*と、座標変換部11から出力されるq軸電流Iqとの差ΔIqを算出する。
【0046】
電流制御部14は、減算部12から出力される差ΔId及び減算部13から出力される差ΔIqを用いたPI(Proportional Integral)制御により、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。例えば、電流制御部14は、下記式2を用いてd軸電圧指令値Vd*を算出するとともに、下記式3を用いてq軸電圧指令値Vq*を算出する。なお、KpはPI制御の比例項の定数とし、KiはPI制御の積分項の定数とし、Lqは電動機Mを構成するコイルのq軸インダクタンスとし、Ldは電動機Mを構成するコイルのd軸インダクタンスとし、ωは電動機Mの回転子の回転数とし、Keは誘起電圧定数とする。
【0047】
d軸電圧指令値Vd*=Kp×差ΔId+Ki×∫(差ΔId)-ωLqIq
・・・式2
q軸電圧指令値Vq*=Kp×差ΔIq+Ki×∫(差ΔIq)+ωLdId+ωKe ・・・式3
【0048】
座標変換部15は、電圧センサSvにより検出される電圧Vin及び電気角検出部Spにより検出される位相θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。例えば、座標変換部15は、下記式4に示す変換行列C2を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。
【0049】
【数2】
【0050】
または、座標変換部15は、下記式5の計算結果を、位相差δとする。
【0051】
δ=tan-1(-Vq*/Vd*) ・・・式5
【0052】
次に、座標変換部15は、位相差δと、位相θとの加算結果を、目標位相θvとする。
【0053】
そして、座標変換部15は、記憶部6に記憶されている、目標位相θvとU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*とが互いに対応付けられている情報D3を参照して、目標位相θvに対応するU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*を求める。
【0054】
また、座標変換部15は、電源Pの電圧Vinに対する電圧指令値の割合を示す変調率mを算出する。例えば、座標変換部15は、下記式6の計算結果を、変調率mとする。
【0055】
【数3】
【0056】
また、座標変換部15は、電動機Mの回転数ω及び変調率mを用いて、搬送波の周波数fを設定し、その周波数fをドライブ回路4に出力する。ドライブ回路4は、座標変換部15から出力されるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*と座標変換部15から出力される周波数fの搬送波との比較結果に応じたパルス幅変調信号S1~S6を出力する。
【0057】
図2は、座標変換部15の動作の一例を示すフローチャートである。
まず、座標変換部15は、電動機Mの回転数ωが回転数閾値よりも大きな高回転であるか否かを判断する(ステップS11)。
【0058】
なお、回転数閾値は、交流電流Iu、Iv、Iwの波形や電動機Mの駆動時に発生する音などに基づいて設定されるものとする。
【0059】
また、座標変換部15は、回転数ωの変動率(回転数ωに対する回転数ωの変動幅の割合)が大きくなるほど、回転数閾値を小さくしてもよい。また、座標変換部15は、電動機Mに流れる電流の変動率(d軸電流Id及びq軸電流Iqに含まれる高調波の振幅値、または、交流電流Iu、Iv、Iwに含まれる高調波の振幅値)が大きくなるほど、回転数閾値を小さくしてもよい。これにより、電動機Mの回転数ωまたは電動機Mに流れる電流の変動率が比較的大きくなることで、回転数ωまたは電動機Mに流れる電流の誤差が比較的大きくなり、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*の算出精度が低下しても、実際のパルス幅変調信号Sと理想的なパルス幅変調信号Sとの乖離が大きくなることを抑制することができるため、電動機Mの制御性が低下することを抑制することができる。
【0060】
また、座標変換部15は、回転数ωが回転数閾値以下である場合、すなわち、回転数ωが高回転でない場合(ステップS11:No)、搬送波の周波数fとして周波数f1を設定する(ステップS12)。
【0061】
また、座標変換部15は、回転数ωが高回転である場合で(ステップS11:Yes)、かつ、変調率mが過変調領域より小さい場合、すなわち、変調率mがパルス幅変調領域である場合(ステップS13:No)、搬送波の周波数fとして周波数f1を設定する(ステップS12)。
【0062】
また、座標変換部15は、回転数ωが高回転である場合で(ステップS11:Yes)、かつ、変調率mが過変調領域以上である場合(ステップS13:Yes)、搬送波の周波数fとして周波数f2を設定する(ステップS14)。例えば、周波数f2は、周波数f1の2倍または3倍の周波数とする。
【0063】
このように、回転数ωが高回転である場合で、かつ、変調率mが過変調領域以上である場合、搬送波の周波数fを上げることにより、パルス幅変調信号Sと搬送波との単位時間あたりの比較回数が少なくなり難くなるため、実際のパルス幅変調信号Sと理想的なパルス幅変調信号Sとの乖離が大きくなり難くすることができ、電動機Mの制御性が低下することを抑制することができる。また、回転数ωが高回転である場合で、かつ、変調率mが過変調領域より小さい場合、搬送波の周波数fが上がらない構成であるが、回転数ωが高回転であっても、変調率mが過変調領域より小さい場合、パルス幅変調信号Sと搬送波との単位時間あたりの比較回数が少なくなり難くなるため、実際のパルス幅変調信号Sと理想的なパルス幅変調信号Sとの乖離が大きくなり難くなり、電動機Mの制御性が低下することが抑制される。また、回転数ωが高回転である場合で、かつ、変調率mが過変調領域より小さい場合、搬送波の周波数fが上がらない構成であるため、スイッチング素子SWのスイッチング回数の増加を抑制しスイッチング素子SWのスイッチング損失の増加を抑制することができ、インバータ回路2の効率低下を抑制することができる。すなわち、電動機Mの一定の制御性を確保しつつ、インバータ回路2の効率低下を抑制することができる。
【0064】
なお、座標変換部15は、回転数ωが高回転である場合で、かつ、変調率mが1よりも大きな変調率閾値(例えば、1.22)以下である場合、搬送波の周波数fとして周波数f1を設定し、回転数ωが高回転である場合で、かつ、変調率mが変調率閾値よりも大きな場合、搬送波の周波数fとして周波数f2を設定するように構成してもよい。変調率閾値は得られる効果と制御負荷とのバランスに応じて適宜定める。
【0065】
これにより、回転数ωが高回転である場合において、変調率mが過変調領域以上になっても、すぐには周波数fが上がらないようにすることができる。すなわち、回数数ωが高回転である場合で、かつ、変調率mが変調率閾値よりも大きな場合、搬送波の周波数fを上げる構成は、回転数ωが高回転である場合で、かつ、変調率mが過変調領域以上である場合、搬送波の周波数fを上げる構成に比べて、搬送波の周波数fが上がる機会を少なくすることができる。そのため、スイッチング素子SWのスイッチング回数の増加をさらに抑制しスイッチング素子SWのスイッチング損失の増加をさらに抑制することができ、インバータ回路2の効率低下をさらに抑制することができる。
【0066】
また、座標変換部15は、記憶部6に記憶されている、回転数ωと変調率mと周波数fとが互いに対応付けられている情報D4を参照して、回転数ω及び変調率mに対応する周波数fを設定するように構成してもよい。なお、情報D4では、回転数ω及び変調率mが高くなるほど、回転数ω及び変調率mに対応する周波数fが高くなるものとする。例えば、回転数ω1及び変調率m1に対応する周波数fを周波数f1とし、回転数ω2及び変調率m1に対応する周波数fを周波数f1とし、回転数ω1及び変調率m2に対応する周波数fを周波数f1とし、回転数ω2及び変調率m2に対応する周波数fを周波数f2とする。回転数ω1≦回転数閾値<回転数ω2、変調率m1≦1または変調率閾値<変調率m2、周波数f1<周波数f2。例えば、回転数ωが回転数ω1であり、変調率mが変調率m1である場合、または、回転数ωが回転数ω1であり、変調率mが変調率m2である場合、すなわち、回転数ωが高回転でない場合、周波数fとして周波数f1が設定される。また、回転数ωが回転数ω2であり、変調率mが変調率m1である場合、すなわち、回転数ωが高回転である場合で、かつ、変調率mが過変調領域より小さい場合または変調率mが変調率閾値以下である場合、周波数fとして周波数f1が設定される。また、回転数ωが回転数ω2である場合で、かつ、変調率mが変調率m2である場合、すなわち、回転数ωが高回転である場合で、かつ、変調率mが過変調領域以上である場合または変調率mが変調率閾値よりも大きい場合、周波数fとして周波数f2が設定される。
【0067】
図3は、U相電圧指令値、搬送波、及びパルス幅変調信号の一例を示す図である。なお、図3(a)及び図3(b)にそれぞれ示す2次元座標において、横軸は、目標位相θvを示し、縦軸は、電圧を示している。
【0068】
図3(a)の上側の2次元座標において、実線は回転数ωが高回転である場合の実際のU相電圧指令値Vu*(搬送波が最小値になるタイミング毎に座標変換部15により算出されるU相電圧指令値Vu*)を示し、破線は回転数ωが高回転である場合の理想的なU相電圧指令値Vu*を示し、一点鎖線は周波数f1の搬送波を示している。また、図3(a)の下側の2次元座標において、実線は図3(a)の上側の2次元座標に示す実際のU相電圧指令値Vu*と搬送波との比較結果である実際のパルス幅変調信号S1を示し、破線は図3(a)の上側の2次元座標に示す理想的なU相電圧指令値Vu*と搬送波との比較結果である理想的なパルス幅変調信号S1を示している。
【0069】
すなわち、図3(a)の下側の2次元座標は、回転数ωが高回転である場合で、かつ、変調率mが過変調領域より小さい場合または変調率mが変調率閾値以下である場合における、実際のパルス幅変調信号S1と理想的なパルス幅変調信号S1を示している。
【0070】
図3(a)に示すように、回転数ωが高回転であっても、変調率mが過変調領域より小さい場合または変調率mが変調率閾値以下である場合では、パルス幅変調信号S1と搬送波との単位時間あたりの比較回数が少なくなり難いため、電動機Mの制御性が低下することが抑制される。また、電動機Mが高回転である場合で、かつ、変調率mが過変調領域より小さい場合または変調率mが変調率閾値以下である場合、搬送波の周波数fとして周波数f1が設定されるため、スイッチング素子SWのスイッチング回数の増加を抑制しスイッチング素子SWのスイッチング損失の増加を抑制することができ、インバータ回路2の効率低下を抑制することができる。
【0071】
図3(b)の上側の2次元座標において、実線は回転数ωが高回転である場合の実際のU相電圧指令値Vu*を示し、破線は回転数ωが高回転である場合の理想的なU相電圧指令値Vu*を示し、一点鎖線は周波数f2の搬送波を示している。また、図3(b)の下側の2次元座標において、実線は図3(b)の上側の2次元座標に示す実際のU相電圧指令値Vu*と搬送波との比較結果である実際のパルス幅変調信号S1を示し、破線は図3(b)の上側の2次元座標に示す理想的なV相電圧指令値Vv*と搬送波との比較結果である理想的なパルス幅変調信号S1を示している。
【0072】
すなわち、図3(b)の下側の2次元座標は、電動機Mが高回転である場合で、かつ、変調率mが過変調領域以上である場合または変調率mが変調率閾値より大きい場合における、実際のパルス幅変調信号S1と理想的なパルス幅変調信号S1を示している。
【0073】
図3(b)に示すように、電動機Mが高回転である場合で、かつ、変調率mが過変調領域以上である場合または変調率mが変調率閾値より大きい場合、搬送波の周波数fとして周波数f2が設定されるため、パルス幅変調信号Sと搬送波との単位時間あたりの比較回数が少なくなり難くなるので、実際のパルス幅変調信号Sと理想的なパルス幅変調信号Sとの乖離が大きくなり難くなり、電動機Mの制御性が低下することを抑制することができる。
【0074】
なお、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 制御装置
2 インバータ回路
3 制御回路
4 ドライブ回路
5 演算部
6 記憶部
7 回転数演算部
8 減算部
9 トルク制御部
10 トルク/電流指令値変換部
11 座標変換部
12 減算部
13 減算部
14 電流制御部
15 座標変換部
図1
図2
図3