(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】産業車両のハブユニットシール構造
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3232 20160101AFI20230120BHJP
B66F 9/06 20060101ALI20230120BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20230120BHJP
F16C 19/54 20060101ALI20230120BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20230120BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20230120BHJP
B60B 35/18 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
B66F9/06
F16C19/16
F16C19/54
F16C33/78 D
B60B35/02 Z
B60B35/18 B
(21)【出願番号】P 2020004795
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】丸田 裕己
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-84911(JP,A)
【文献】実開平4-35901(JP,U)
【文献】特開2014-55651(JP,A)
【文献】特開2007-9938(JP,A)
【文献】特開2009-210018(JP,A)
【文献】特開2012-47297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204 - 15/3236
F16C 33/72 - 33/82
F16C 19/00 - 19/56
33/30 - 33/66
B66F 9/00 - 11/04
B60B 21/00 - 31/06
35/00 - 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸が挿通され、前記車軸を回転可能に支持するアクスルハウジングと、
前記車軸と連結されるとともに、前記アクスルハウジングの外周面に軸受を介して回転可能に支持されるハブと、
前記アクスルハウジングと前記ハブとの間に介在されるシール部材と、を備え、
前記シール部材は、前記外周面に圧入されたブッシュに支持されている産業車両のハブユニットシール構造において、
前記アクスルハウジングは、
前記外周面において前記軸受が装着される軸受外周面と、
前記軸受外周面の軸方向の内側に形成され、前記軸受外周面よりも大径であって前記ブッシュが圧入されるブッシュ外周面と、
前記ブッシュ外周面の軸方向の内側に形成され、前記ブッシュ外周面から径方向の外側へ向けて延在する第1段差面と、
前記軸受外周面と前記ブッシュ外周面との間に形成される第2段差面と、を有し、
前記ブッシュの軸方向の長さは、前記第1段差面と前記第2段差面との間の距離よりも小さく設定されており、
前記ブッシュの軸方向における内側となる内端面と前記第1段差面との間に間隙を有することを特徴とする産業車両のハブユニットシール構造。
【請求項2】
車軸が挿通され、前記車軸を回転可能に支持するアクスルハウジングと、
前記車軸と連結されるとともに、前記アクスルハウジングの外周面に軸受を介して回転可能に支持されるハブと、
前記アクスルハウジングと前記ハブとの間に介在されるシール部材と、を備え、
前記シール部材は、前記外周面に圧入されたブッシュに支持されている産業車両のハブユニットシール構造において、
前記アクスルハウジングは、
前記外周面において前記軸受が装着される軸受外周面と、
前記軸受外周面の軸方向の内側に形成され、前記軸受外周面よりも大径であって前記ブッシュが圧入されるブッシュ外周面と、
前記ブッシュ外周面の軸方向の内側に形成され、前記軸受外周面から径方向の外側へ向けて延在する段差面と、を有し、
前記ブッシュは、
前記外周面と締まり嵌めされる内周面を有する締嵌部と、
前記締嵌部より軸方向内側に設けられ、前記締嵌部より薄肉の薄肉部と、を有することを特徴とする産業車両のハブユニットシール構造。
【請求項3】
前記薄肉部は、前記ブッシュの全周にわたって備えられていることを特徴とする請求項2記載の産業車両のハブユニットシール構造。
【請求項4】
前記薄肉部は、前記ブッシュの周方向において一部に備えられていることを特徴とする請求項2記載の産業車両のハブユニットシール構造。
【請求項5】
前記薄肉部の内周面は、前記ブッシュの周方向に延在する溝を備えていることを特徴とする請求項2~4のいずれか一項記載の産業車両のハブユニットシール構造。
【請求項6】
前記ブッシュは、前記アクスルハウジングの材料よりも熱膨張係数の高い材料により形成されていることを特徴とする請求項2~4のいずれか一項記載の産業車両のハブユニットシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、産業車両のハブユニットシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
産業車両のハブユニットシール構造に関係する従来の技術として、例えば、特許文献1に開示された車軸装置が知られている。特許文献1の車軸装置には、アクスルハウジングにハブアウタベアリングを介してホイールハブが回転自在に内嵌され、アクスルハウジングとホイールハブとの間にハブアウタベアリングよりも外側でハブオイルシールが設けられている。さらに、車軸装置には、ホイールハブにオイルシール保持体が外嵌され、オイルシール保持体とアクスルハウジングとの間にハブオイルシールが介装され、ハブオイルシールの内径は、ベアリングの外径より大に設定されている。タップ孔が保持体に設けられており、オイルシールをベアリングとともにホイールハブから取り外すことができる。
【0003】
また、別の従来技術としては、例えば、
図9に示す産業車両のハブユニットシール構造(以下、単に「ハブユニットシール構造」と表記する)が知られている。
図9に示すハブユニットシール構造は、アクスルハウジング201と、アクスルハウジングの外周面に軸受203を介して回転可能に支持されるハブ202と、アクスルハウジング201とハブ202との間に介在されるシール部材204と、を備えている。ハブ202は軸心Pを有する車軸205と接続されている。シール部材204は、アクスルハウジング201の外周面206に圧入されたブッシュ207に支持されている。圧入されたブッシュ207はアクスルハウジング201の段差面208に突き当たっている。ブッシュ207の内周面には、Oリング210を装着する環状溝209が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実願平02-79040号(実開平04-35901号)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された車軸装置は、オイルシールをベアリングとともにホイールハブから取り外すためには、タップ孔を保持体に設ける必要がある。また、保持体の径方向の厚さを抑制できない構造であり、スペースの制約を受けるハブユニットでは採用が困難である。
【0006】
図9のハブユニットシール構造では、ブッシュがアクスルハウジングに圧入により固定される。ブッシュの圧入時に、例えば、Oリングが環状溝からはみ出る等の不具合があるとブッシュを交換する必要がある。しかしながら、ブッシュが段差面に突き当たっている状態では、ブッシュの外周面には取り外しのための工具が係止可能な部位が存在せず、ブッシュの取り外しが非常に困難となる。ブッシュの外周面に係止し易い凹部を設けることが考えられるが、シール部材の密着度が凹部によって妨げられるという問題が生じる。また、ブッシュの軸方向の長さを大きくしてブッシュの外周面に係止し易い凹部を設けることは、軸方向のスペースの制約を受ける場合には不可能である。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、圧入によりアクスルハウジングに固定されたブッシュの取り外しが容易な産業車両のハブユニットシール構造の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、車軸が挿通され、前記車軸を回転可能に支持するアクスルハウジングと、前記車軸と連結されるとともに、前記アクスルハウジングの外周面に軸受を介して回転可能に支持されるハブと、前記アクスルハウジングと前記ハブとの間に介在されるシール部材と、を備え、前記シール部材は、前記外周面に圧入されたブッシュに支持されている産業車両のハブユニットシール構造において、前記アクスルハウジングは、前記外周面において前記軸受が装着される軸受外周面と、前記軸受外周面の軸方向の内側に形成され、前記軸受外周面よりも大径であって前記ブッシュが圧入されるブッシュ外周面と、前記ブッシュ外周面の軸方向の内側に形成され、前記ブッシュ外周面から径方向の外側へ向けて延在する第1段差面と、前記軸受外周面と前記ブッシュ外周面との間に形成される第2段差面と、を有し、前記ブッシュの軸方向の長さは、前記第1段差面と前記第2段差面との間の距離よりも小さく設定されており、前記ブッシュの軸方向における内側となる内端面と前記第1段差面との間に間隙を有することを特徴とする。
【0009】
本発明では、ブッシュの軸方向における内側となる内端面と第1段差面との間に間隙を有し、ブッシュの軸方向における外側となる外端面が第2段差面と同一面である。このため、アクスルハウジングに圧入されたブッシュを取り外す必要がある場合、ブッシュの軸方向における内側となる内端面と第2段差面との間に間隙に取り外しのための工具を挿入することができる。その結果、ブッシュを取り外しが容易となる。
【0010】
また、本発明は、車軸が挿通され、前記車軸を回転可能に支持するアクスルハウジングと、前記車軸と連結されるとともに、前記アクスルハウジングの外周面に軸受を介して回転可能に支持されるハブと、前記アクスルハウジングと前記ハブとの間に介在されるシール部材と、を備え、前記シール部材は、前記外周面に圧入されたブッシュに支持されている産業車両のハブユニットシール構造において、前記アクスルハウジングは、前記外周面において前記軸受が装着される軸受外周面と、前記軸受外周面の軸方向の内側に形成され、前記軸受外周面よりも大径であって前記ブッシュが圧入されるブッシュ外周面と、前記ブッシュ外周面の軸方向の内側に形成され、前記軸受外周面から径方向の外側へ向けて延在する段差面と、を有し、前記ブッシュは、前記外周面と締まり嵌めされる内周面を有する締嵌部と、前記締嵌部より軸方向内側に設けられ、前記締嵌部より薄肉の薄肉部と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明では、ブッシュは、外周面と締まり嵌めされる内周面を有する締嵌部と、締嵌部より軸方向内側に設けられ、締嵌部より径方向の肉厚を薄くした薄肉部と、を有する。このため、アクスルハウジングに圧入されたブッシュを取り外す必要がある場合、薄肉部に工具を当てて薄肉部を変形させることで工具が挿入される凹部を形成することができる。凹部に工具を挿入することで、ブッシュの取り外しが容易となる。
【0012】
また、上記の産業車両のハブユニットシール構造において、前記薄肉部は、前記ブッシュの全周にわたって備えられている構成としてもよい。
この場合、薄肉部はブッシュの全周にわたって備えられているので、薄肉部を探す必要が無く、ブッシュにおいて段差面に近い部位に工具を当てれば、薄肉部を変形させ、凹部を形成することができる。
【0013】
また、上記の産業車両のハブユニットシール構造において、前記薄肉部は、前記ブッシュの周方向において一部に備えられている構成としてもよい。
この場合、薄肉部は、ブッシュの周方向において一部に備えられているので、薄肉部がブッシュの全周にわたって備えられている場合と比較すると、ブッシュの強度を高めることができる。
【0014】
また、上記の産業車両のハブユニットシール構造において、前記薄肉部の内周面は、前記ブッシュの周方向に延在する内周溝を備えている構成としてもよい。
この場合、薄肉部の内周面において周方向に延在する内周溝は、薄肉部に径方向の外力が加わったときに、薄肉部を変形し易くすることができる。
【0015】
また、上記の産業車両のハブユニットシール構造において、前記ブッシュは、前記アクスルハウジングの材料よりも熱膨張係数の高い材料により形成されている構成としてもよい。
この場合、ブッシュはアクスルハウジングの材料よりも熱膨張係数の高い材料により形成されているので、アクスルハウジングに圧入されたブッシュを取り外す必要がある場合、ブッシュを加熱することにより圧入による締結力が低減される。その結果、凹部に工具を挿入することと相まってよりブッシュを取り外しし易くなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、圧入によりアクスルハウジングに固定されたブッシュの取り外しが容易な産業車両のハブユニットシール構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施形態に係るフォークリフトのハブユニットを示す縦断面図である。
【
図2】フォークリフトのハブユニットシール構造の要部を示す縦断面図である。
【
図3】シール部材をアクスルハウジングから取り外す作業の説明図である。
【
図4】第2の実施形態に係るフォークリフトのハブユニットを示す縦断面図である。
【
図5】フォークリフトのハブユニットシール構造の要部を示す縦断面図である。
【
図6】シール部材をアクスルハウジングから取り外す作業の説明図である。
【
図7】第2の実施形態の変形例1に係るブッシュの説明図であり、(a)はブッシュの要部後面図であり、(b)は(a)のA-A線矢視図であり、(c)は(a)のB-B線矢視図である。
【
図8】第2の実施形態の変形例2に係るブッシュの説明図であり、(a)はブッシュの縦断面図であり、(b)は凹部が形成された状態のブッシュの縦断面図である。
【
図9】従来のフォークリフトのハブユニットシール構造の要部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る産業車両のハブユニットシール構造について図面を参照して説明する。本実施形態では、産業車両としてのフォークリフトのハブユニットシール構造について説明する。
【0019】
図1に示すように、フォークリフトのハブユニット10は、アクスルハウジング11と、車軸12と、ハブ13と、アウタベアリング14と、インナベアリング15と、オイルシール16と、ブッシュ17と、を備えている。本実施形態のフォークリフトのハブユニットシール構造は、ハブ13と、アウタベアリング14と、インナベアリング15と、オイルシール16と、ブッシュ17と、を備える。
【0020】
アクスルハウジング11は円筒状であってフォークリフトの車幅方向に延在する鋳鉄製のハウジングである。アクスルハウジング11におけるフォークリフトの車幅方向における中心側となる内側の端部20は、車体(図示せず)に固定されている。アクスルハウジング11の内側の端部20と反対側となる外側の端部21は、車幅方向の外側へ向けて突出している。アクスルハウジング11には、車軸12を挿通する車軸挿通孔22を有している。車軸挿通孔22の軸心P方向は車幅方向と一致する。なお、説明の便宜上、車軸12の一部を省略して図示している。
【0021】
アクスルハウジング11は、車幅方向において外周径の異なる複数の外周面を備えている。具体的には、アクスルハウジング11は、車幅方向において内側から外側へ向けて順に、第1外周面23、第2外周面24、第3外周面25および第4外周面26を有する。第1外周面23の外周径は、第2外周面24、第3外周面25および第4外周面26よりも大きい。第2外周面24の外周径は、第3外周面25および第4外周面26の外周径よりも大きい。第3外周面25の外周径は、第4外周面26の外周径よりも大きい。第2外周面24はブッシュ17が圧入されるブッシュ外周面に相当し、インナベアリング15が装着される第3外周面25は軸受外周面に相当する。
【0022】
第1外周面23と第2外周面24との間には、軸心P方向と直交する段差面27が形成されている。第2外周面24の段差面27との間には面取りされた面取り面28が形成されている。段差面27はブッシュ外周面の軸方向の内側に形成され、軸受外周面から径方向の外側へ向けて延在する第2段差面に相当する。第2外周面24と第3外周面25との間には、軸心P方向と直交する段差面29が形成されている。段差面29は軸受外周面とブッシュ外周面との間に形成される第1段差面に相当する。第3外周面25と第4外周面26との間には、軸心P方向と直交する段差面31が形成されている。第1外周面23には、オイルシール16への紐状物の巻き込みを防止するための環状の規制板30が備えられている。
【0023】
車軸12は、走行用駆動源である電動モータ(図示せず)の駆動力の伝達を受けて回転する。車軸12はアクスルハウジング11の車軸挿通孔22に挿通される軸本体部32と、軸本体部32の車幅方向の外側の端部に設けられたフランジ部33と、を有する。軸本体部32の車幅方向の中心側の端部(図示せず)は、減速機構(図示せず)と接続されている。フランジ部33は、車軸挿通孔22から車幅方向の外側へ突出しており、車軸本体部より径方向の外側へ延在するフランジ部33の外周部は、次に説明するハブ13と接続されている。
【0024】
ハブ13は、筒状のハブ本体34と、ハブ本体34の車幅方向の内側の端部にて径方向の外周側へ延在するフランジ体35と、を備えているほか、アクスルハウジング11が挿通される挿通孔36を有する。挿通孔36を形成するハブ内周壁は、車幅方向において内周径の異なる複数の内周面を備えている。具体的には、ハブ13は、車幅方向における内側から外側へ向けて順に、第1内周面37、第2内周面38、第3内周面39、第4内周面40および第5内周面41を有している。
【0025】
第1内周面37の内周径は最も大きく、第2内周面38の内周径は第1内周面37の次に大きい。第3内周面39は、第2内周面38の次に内周径が大きく、第5内周面41は、第3内周面39の次に内周径が大きい。第4内周面40の内周径は最も小さい。第1内周面37と第2内周面38との間には、径方向の内側へ延在する第1段差面42が形成されている。第2内周面38と第3内周面39との間には、第2段差面43が形成されている。第3内周面39と第4内周面40との間には、第3段差面44が形成されている。第4内周面40と第5内周面41との間には、第4段差面45が形成されている。
図2に示すように、第1内周面37には、オイルシール16の抜け止めのためのリング部材47が装着される装着溝46が形成されている。
【0026】
ハブ13のフランジ体35にはボルト孔48が形成されている。ボルト孔48は、車輪(図示せず)をハブ13に取り付けるためのハブボルト49を挿通する。ハブ13の挿通孔36にはアクスルハウジング11が挿通され、ハブ13は、挿通孔36にてハブ13とアクスルハウジング11との間に介在されているアウタベアリング14およびインナベアリング15によりアクスルハウジング11に対して回転可能に支持される。
【0027】
次に、アウタベアリング14およびインナベアリング15について説明する。アウタベアリング14は、挿通孔36において車幅方向の外側に介在され、インナベアリング15は、挿通孔36において車幅方向においてアウタベアリング14よりも内側に介在されている。
【0028】
軸受としてのアウタベアリング14は、テーパローラベアリングであり、インナレース51、アウタレース52、転動体(ころ)53および保持器54を有している。転動体53は保持器54によってインナレース51に保持されている。インナレース51は、アウタレース52に対して着脱可能である。アウタレース52は、ハブ13の挿通孔36に圧入され、第5内周面41と当接してハブ13に保持される。アウタレース52の内側の端面は第3段差面44に当接している。外側から内側へ向かうにつれて転動体53の軸心が径方向の中心へ向かうように、アウタベアリング14は装着されている。インナレース51は、すきまばめによってアクスルハウジング11の第3外周面25に装着されている。インナレース51の外側の端面である外側端面はワッシャ55と当接する。アクスルハウジング11には抜け止め用のナット56が装着されており、ワッシャ55の抜け止めが図られている。
【0029】
軸受としてのインナベアリング15は、テーパローラベアリングであり、インナレース57、アウタレース58、転動体(ころ)59および保持器60を有している。転動体59は保持器60によってインナレース57に保持されている。インナレース57は、アウタレース58に対して着脱可能である。アウタレース58は、ハブ13の挿通孔36に圧入され、第3内周面39と当接してハブ13に保持される。
図1、
図2に示すように、アウタレース58の外側の端面は第3段差面44に当接している。外側から内側へ向かうにつれて転動体59の軸心が径方向の中心から遠ざかるように、インナベアリング15は装着されている。インナレース57は、アクスルハウジング11の第3外周面25に装着されている。インナレース57の内側の端面は、段差面29に当接している。
【0030】
次に、オイルシール16について説明する。オイルシール16は、車幅方向においてインナベアリング15の内側に設けられる。
図2に示すように、オイルシール16は、金属環61と金属環61を覆う弾性体62と、ガータスプリング63と、を有する。金属環61の断面はL字状である。弾性体62は可撓性を有するゴム系材料(例えば、フッ素ゴム)により形成されており、弾性体62の内周側にはシールリップ部64および一対のダストリップ部65が備えられている。
【0031】
シールリップ部64はブッシュ17と当接して液密性を保つための部位であり、ダストリップ部65は、ブッシュ17と当接してシールリップ部64への異物進入を防止するための部位である。ガータスプリング63は、シールリップ部64の締め付け力を付与するようにシールリップ部64の外周側に備えられている。オイルシール16は、車幅方向においてハブ13より内側に設けられた湿式ブレーキ(図示せず)の潤滑油が車幅方向の外側(インナベアリング15側)へ漏洩することを防止する。オイルシール16は、ハブ13の第1内周面37に形成された装着溝46に装着されるリング部材47により抜け止めが図られている。
【0032】
図1、
図2に示すように、ブッシュ17は、アクスルハウジング11に装着され、オイルシール16を支持して密封性を確保するための筒状の部材である。ブッシュ17は炭素クロム軸受鋼材により形成されている。炭素クロム軸受鋼材の熱膨張係数はアクスルハウジング11の材料である鋳鉄の熱膨張係数よりも大きい。
【0033】
図2に示すように、ブッシュ17は、外周面66と、内周面67と、外端面68と、内端面69と、環状溝70と、テーパ面71と、を有している。外周面66は、オイルシール16のシールリップ部64およびダストリップ部65が当接する面である。外周面66の殆どは一定の外径に設定されているが、外周面66の外端面68付近では外径が僅かに小さくなっている。
【0034】
内周面67は、アクスルハウジング11の第2外周面24と圧接される面である。外端面68は、ブッシュ17が第2外周面24に圧入により固定された状態で軸方向の外側に位置し、内端面69はブッシュ17が第2外周面24に圧入により固定された状態で軸方向の内側に位置する。
【0035】
環状溝70は、Oリング72を装着するための内周面67に設けられた溝である。Oリング72は内周面67と第2外周面24との間から潤滑油の漏洩を防止するためのシール部材である。テーパ面71は、内端面69から内周面67に向けて傾斜する面であり、テーパ面71の内径は内端面69から内周面67に向うにつれて小さくなるように設定されている。このため、ブッシュ17が第2外周面24に圧入により固定された状態では、テーパ面71によってブッシュ17が面取り面28と干渉しない。
【0036】
ブッシュ17の軸方向の長さ(外端面68と内端面69との間の長さ)は、段差面27と段差面29との間の距離よりも小さく設定されている。このため、外端面68と段差面29が面一となるようにブッシュ17が第2外周面24に圧入により固定された状態では、内端面69と段差面27との間に間隙Gが形成される。間隙Gは、第2外周面24に圧入により固定されたブッシュ17を取り外す場合に、ドライバ等の取り外し用の工具を挿入することが可能な間隙として機能する。したがって、間隙Gは取り外し用の工具が挿入可能な距離が設定されていればよい。
【0037】
次に、本実施形態に係るハブユニットシール構造の組み付け作業について説明する。まず、作業者は、Oリング72が環状溝70に装着されたブッシュ17をアクスルハウジング11の第2外周面24に圧入により固定する。このとき、ブッシュ17の外端面68とアクスルハウジング11の段差面29が面一となるようにブッシュ17を圧入すると、圧入されたブッシュ17の内端面69と段差面27との間に間隙Gが形成される。
【0038】
次に、作業者は、インナベアリング15のインナレース57をアクスルハウジング11の第3外周面25に装着し、アウタレース58およびオイルシール16が装着されたハブ13をアクスルハウジング11にインナベアリング15を介して支持させる。次に、作業者は、アウタベアリング14のアウタレース52をハブ13の第5内周面41に装着し、アウタベアリング14のインナレース51をアクスルハウジング11の第4外周面26に装着する。そして、作業者は、ワッシャ55をアウタレース52に当接させ、ナット56を締結する。次に、車軸12をハブ13に固定し、ハブ13の固定によってハブユニット10の組み付けが完了する。
【0039】
ところで、ブッシュ17はアクスルハウジング11に圧入により固定されるが、ブッシュ17の圧入時に、例えば、Oリング72が環状溝70からはみ出る等の不具合があると圧入されたブッシュ17およびOリング72を交換する必要がある。ブッシュ17およびOリング72を交換する場合には、
図3(a)、
図3(b)に示すように、作業者は間隙Gにドライバ等の取り外し用の工具Tを挿入し、てこの原理を利用する等してブッシュ17をスライドさせる。そして、ブッシュ17をアクスルハウジング11から取り外し、取り外されたブッシュ17およびOリング72は廃棄し、新しいブッシュ17およびOリング72に交換する。なお、ブッシュ17は炭素クロム軸受鋼材により形成されている。炭素クロム軸受鋼材の熱膨張係数はアクスルハウジング11の材料である鋳鉄の熱膨張係数よりも大きいため、ブッシュ17の取り外し作業の際に、ブッシュ17を加熱すれば、加熱しない場合と比較するとブッシュ17をより取り外し易くなる。
【0040】
本実施形態に係るハブユニットシール構造は、以下の作用効果を奏する。
(1)ブッシュ17の外端面68が第1段差面42と同一面であり、ブッシュ17の内端面69と第2段差面43との間に間隙Gを有する。このため、アクスルハウジング11に圧入されたブッシュ17を取り外す必要がある場合、ブッシュ17の内端面69と段差面27との間隙Gに取り外しのための工具Tを挿入することができる。その結果、ブッシュ17を取り外しが容易となる。また、ブッシュ17の外端面68が段差面29と同一面となるようにブッシュ17を圧入すれば、ブッシュ17の内端面69と段差面27との間隙Gを設けることができる。
【0041】
(2)ブッシュ17はアクスルハウジング11の材料よりも熱膨張係数の高い材料により形成されているので、アクスルハウジング11に圧入されたブッシュ17を取り外す必要がある場合、ブッシュ17を加熱することにより圧入による締結力が低減される。その結果、間隙Gに工具Tを挿入することと相まってブッシュ17はより取り外しし易くなる。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るハブユニットシール構造について説明する。本実施形態では、ブッシュの構成が第1の実施形態と相違する。本実施形態では、第1の実施形態と同じ構成については、第1の実施形態の説明を援用し、共通の符号を用いる。
【0043】
図4、
図5に示すように、本実施形態のハブユニット80のブッシュ81は、アクスルハウジング11に装着され、オイルシール16を支持して密封性を確保するための筒状の部材である。ブッシュ17は炭素クロム軸受鋼材により形成されている。炭素クロム軸受鋼材の熱膨張係数はアクスルハウジング11の材料である鋳鉄の熱膨張係数よりも大きい。
【0044】
図5に示すように、ブッシュ81は、外周面82と、圧入内周面83Aを有する締嵌部83と、外端面84と、内端面85と、環状溝86と、テーパ面87Aを有するテーパ部87と、薄肉内周面88と、薄肉部89と、を有している。外周面82は、オイルシール16のシールリップ部64およびダストリップ部65が当接する面である。外周面82の殆どは一定の外径に設定されているが、外周面82の外端面68付近では外径が僅かに小さくなっている。
【0045】
締嵌部83は、圧入内周面83Aを有している。圧入内周面83Aは、アクスルハウジング11の第2外周面24と締まり嵌めされる面である。外端面84は、ブッシュ17が第2外周面24に圧入により固定された状態で外側に位置し、内端面85はブッシュ17が第2外周面24に圧入により固定された状態で内側に位置する。
【0046】
環状溝86は、Oリング72を装着するための圧入内周面83Aに設けられた溝である。テーパ部87はテーパ面87Aを有する。テーパ面87Aは、締嵌部83から薄肉内周面88に向けて傾斜する面であり、テーパ面87Aの内径は圧入内周面83Aから薄肉内周面88に向うにつれて小さくなるように設定されている。つまり、テーパ面87Aは、締嵌部83の軸方向における内端面85から段差面27へ向かうにつれて内径が大きくなる。薄肉内周面88はテーパ面87Aの外側縁から外端面84の間に形成される内周面である。
【0047】
薄肉部89は外周面82の一部と、薄肉内周面88と、外端面84とにより区画される部位である。つまり、薄肉部89は、締嵌部83およびテーパ部87よりも大きな内径の薄肉内周面88を有し、径方向の肉厚を薄くした部位である。薄肉部89は、ブッシュ81の全周にわたって備えられている。
【0048】
薄肉内周面88のテーパ部87に近い端部には、内周溝90が形成されている。ブッシュ81が第2外周面24に圧入により固定された状態では、テーパ面87Aおよび薄肉内周面88によってブッシュ81が面取り面28と干渉しない。
【0049】
ブッシュ81の軸方向の長さ(外端面84と内端面85との間の長さ)は、段差面27と段差面29との間の距離と同じに設定されている。このため、外端面84と段差面29が面一となるようにブッシュ81が第2外周面24に圧入により固定された状態では、内端面85は段差面27に当接する。したがって、ブッシュ81と段差面27との間に間隙は存在しない。
【0050】
本実施形態では、ブッシュ81を交換する場合には、
図6(a)、
図6(b)に示すように、作業者は間隙Gにドライバ等の取り外し用の工具Tを薄肉部89に当てて荷重を与え、薄肉部89を変形させて凹部Rを形成する。凹部Rを形成した後は、工具Tを凹部Rに挿入し、てこの原理を利用する等してブッシュ81をスライドさせ、ブッシュ81をアクスルハウジング11から取り外す。取り外されたブッシュ81およびOリング72は廃棄し、新しいブッシュ81およびOリング72を交換する。なお、ブッシュ81の取り外し作業の際に、ブッシュ81を加熱すれば、加熱しない場合と比較するとブッシュ17を取り外し易くなる。
【0051】
本実施形態に係るハブユニットシール構造は、以下の作用効果を奏する。
(3)ブッシュ81は、外周面82と締まり嵌めされる圧入内周面83Aを有する締嵌部83と、締嵌部83の軸方向における内側端から段差面27へ向かうにつれて内径が大きくなるテーパ面87Aを有するテーパ部87と、テーパ部87から軸方向内側へ延びる薄肉部89と、を有する。このため、アクスルハウジング11に圧入されたブッシュ81を取り外す必要がある場合、薄肉部89に工具Tを当てて薄肉部89を変形させることで工具Tが挿入される凹部Rを形成する。凹部Rに工具Tを挿入することで、ブッシュ81を取り外しが容易となる。したがって、ブッシュ81と段差面27との間に間隙は存在しない場合でも、ブッシュ81を取り外し易くすることができる。なお、薄肉部89は変形によって破断してもよい。
【0052】
(4)薄肉部89は、ブッシュ81の全周にわたって備えられているので、薄肉部89を探す必要が無く、段差面27に近いブッシュ81における内端面85付近の部位に工具Tを当てれば、薄肉部89を変形させることができる。
【0053】
(5)薄肉部89の薄肉内周面88は、周方向に延在する内周溝90を備えている。このため、内周溝90は、薄肉部89に径方向の外力が加わったときに、薄肉部89を変形し易くすることができる。
【0054】
(6)ブッシュ81は、アクスルハウジング11の材料よりも熱膨張係数の高い材料により形成されている。このため、アクスルハウジング11に圧入されたブッシュ81を取り外す必要がある場合、ブッシュ81を加熱することにより圧入による締結力が低減される。その結果、凹部Rに工具Tを挿入することと相まってブッシュ81をより取り外しし易くなる。また、加熱よって薄肉部89が変形し易くなる。
【0055】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0056】
○ 第1の実施形態ではブッシュ17の外端面68が第1段差面42と同一面としたが、ブッシュ17の外端面68は第1段差面42と同一面でなくてもよい。その場合、ブッシュ17を圧入する際に、ブッシュ17の内端面69と段差面27との間隙Gを設けるように、目視等をしながら圧入する必要がある。
○ 上記の第2の実施形態では、ブッシュの周方向にわたって薄肉部を形成したが、これに限らない。例えば、
図7(a)~
図7(c)に示す変形例1のように、ブッシュ101の周方向において一部に薄肉部102が備えられるようにしてもよい。
図7(a)では薄肉部102が1個しか図示されないが、複数の薄肉部102が周方向に形成されている。薄肉部102は薄肉内周面88に相当する薄肉内周面103を有し、圧入内周面83Aと薄肉内周面103との間には第1テーパ面104が形成されており、薄肉内周面103には内周溝105が備えられている。周方向における薄肉部102以外の部位では圧入内周面83Aと内端面85とを繋ぐ第2テーパ面106が設けられている。ブッシュ101を取り外す際には、薄肉部102に工具Tを当てて、薄肉部102を変形させて第2の実施形態と同様の凹部Rを形成すればよい。変形例1によれば、周方向にわたって薄肉部が形成されたブッシュと比較して、ブッシュ101の強度を向上させることができる。
○ 上記の第2の実施形態では、薄肉部はブッシュにおいてテーパ面の端部と内端面との間に設けられたが、この限りではない。例えば、
図8に示す変形例2のブッシュ111としてもよい。ブッシュ111は、圧入内周面83Aから内端面85との間にテーパ面112が形成されており、テーパ面112には周方向にわたって溝113が形成されている。溝113が形成されている部位が薄肉部114である。ブッシュ111を取り外す際には、薄肉部114よりも内端面85側の部位に工具Tを当てて、当該部材を変形させて第2の実施形態と同様の凹部Rを形成すればよい。
○ 上記の第2の実施形態(変形例を含む)では、薄肉部が内周溝を備えるとしたが、内周溝は必須の要件ではなく、内周溝を備えないブッシュであってもよい。
○ 上記の実施形態では、ブッシュがアクスルハウジングの材料よりも熱膨張係数の高い材料により形成されているとしたが、この限りではない。ブッシュはアクスルハウジングの材料よりも熱膨張係数の高い材料により形成なくてもよい。また、ブッシュを取り外しときにブッシュを加熱するとしたが、ブッシュの加熱は必須でない。
【符号の説明】
【0057】
10、80 ハブユニット
11 アクスルハウジング
12、205 車軸
13、202 ハブ
14 アウタベアリング
15 インナベアリング
16 オイルシール
17、81、101、111、207 ブッシュ
24 第2外周面(ブッシュ外周面)
25 第3外周面(軸受外周面)
27 段差面(第1段差面)
29 段差面(第2段差面)
66、82 外周面(ブッシュ)
67 内周面(ブッシュ)
68、84 外側端(ブッシュ)
69、85 内側端(ブッシュ)
83 締嵌部
83A 圧入内周面(ブッシュ)
88、103 薄肉内周面
89、92、102、114 薄肉部
90、105 内周溝
P 軸心
R 凹部
T 工具