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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】膜電極接合体および燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20230120BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230120BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M8/10 101
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019067642
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020167059
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石本 仁
(72)【発明者】
【氏名】南浦 武史
(72)【発明者】
【氏名】井村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 良文
(72)【発明者】
【氏名】川島 勉
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-085929(JP,A)
【文献】特開2006-100133(JP,A)
【文献】特開2009-117248(JP,A)
【文献】特開2011-124237(JP,A)
【文献】国際公開第2011/030489(WO,A1)
【文献】特開2007-273269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面と他方の面にそれぞれ積層される一対の触媒層と、
前記一対の触媒層の一方の前記電解質膜と反対側の面、および、前記一対の触媒層の他方の前記電解質膜と反対側の面にそれぞれ積層される一対のガス拡散層と、を備え、
前記一対の触媒層の一方は、触媒粒子Aと、第1導電性材料を含み、
前記一対のガス拡散層のうち、前記一方の触媒層と接触するガス拡散層は、第2導電性材料を含み、
前記第1導電性材料は、第1粒子状導電部材と、第1繊維状導電部材と、を含み、
前記第2導電性材料は、第2粒子状導電部材および第2繊維状導電部材のうち少なくとも前記第2繊維状導電部材を含み、
前記第1繊維状導電部材および第2繊維状導電部材の長さが0.2μm以上20μm以下であり(ただし、前記第1繊維状導電部材および前記第2繊維状導電部材がコイル形状を有する場合を除く)、
前記第2導電性材料に占める前記第2繊維状導電部材の質量基準の含有量Kが、前記第1導電性材料に占める前記第1繊維状導電部材の質量基準の含有量Kよりも大きい、燃料電池の膜電極接合体。
【請求項2】
前記第2繊維状導電部材の繊維長の前記第1繊維状導電部材の繊維長に対する比、および/または、前記第2繊維状導電部材の繊維径の前記第1繊維状導電部材の繊維径に対する比は、0.5~2.0の範囲にある、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記第1繊維状導電部材と前記第2繊維状導電部材とが、同種の材料を含む、請求項1または2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記第2導電性材料に占める前記第2繊維状導電部材の含有量Kは、60質量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記一方の触媒層が、前記燃料電池のカソードを構成する、請求項1~4のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記一対の触媒層の他方は、触媒粒子Bと、第3導電性材料を含み、
前記第3導電性材料は、第3粒子状導電部材と、第3繊維状導電部材とを含む、請求項5に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記含有量Kに対する、前記第3導電性材料に占める前記第3繊維状導電部材の質量基準の含有量Kの比K/Kは、0.5≦K/K≦2.0の範囲にある、請求項6に記載の膜電極接合体。
【請求項8】
前記含有量Kが、前記第3導電性材料に占める前記第3繊維状導電部材の質量基準の含有量Kよりも大きい、請求項6または7に記載の膜電極接合体。
【請求項9】
前記他方の触媒層と接触する前記ガス拡散層は、第4導電性材料を含み、
前記第4導電性材料は、第4粒子状導電部材および第4繊維状導電部材のうち少なくとも前記第4繊維状導電部材を含み、
前記第4導電性材料に占める前記第4繊維状導電部材の質量基準の含有量Kが、前記第3導電性材料に占める前記第3繊維状導電部材の質量基準の含有量Kよりも大きい、請求項6~8のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項10】
前記他方の触媒層と接触する前記ガス拡散層は、第4導電性材料を含み、
前記第4導電性材料は、第4繊維状導電部材を含まないか、または前記第4導電性材料に占める前記第4繊維状導電部材の質量基準の含有量Kが、前記含有量Kよりも小さい、請求項6~8の何れか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項11】
前記第1繊維状導電部材および第2繊維状導電部材は、内部に中空の空間を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の膜電極接合体を備えた燃料電池。
【請求項13】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面と他方の面にそれぞれ積層される一対の触媒層と、
前記一対の触媒層の一方の前記電解質膜と反対側の面、および、前記一対の触媒層の他方の前記電解質膜と反対側の面にそれぞれ積層される一対のガス拡散層と、を備え、
前記一対の触媒層の一方は、触媒粒子Aと、第1導電性材料を含み、
前記一対のガス拡散層のうち、前記一方の触媒層と接触するガス拡散層は、第2導電性材料を含み、
前記第1導電性材料は、第1粒子状導電部材と、第1繊維状導電部材と、を含み、
前記第2導電性材料は、第2粒子状導電部材および第2繊維状導電部材のうち少なくとも前記第2繊維状導電部材を含み、
前記第2導電性材料に占める前記第2繊維状導電部材の質量基準の含有量K が、前記第1導電性材料に占める前記第1繊維状導電部材の質量基準の含有量K よりも大きく、
前記一方の触媒層が、前記燃料電池のカソードを構成し、
前記一対の触媒層の他方は、触媒粒子Bと、第3導電性材料を含み、
前記第3導電性材料は、第3粒子状導電部材と、第3繊維状導電部材とを含み、
前記他方の触媒層と接触する前記ガス拡散層は、第4導電性材料を含み、
前記第4導電性材料は、第4繊維状導電部材を含まないか、または前記第4導電性材料に占める前記第4繊維状導電部材の質量基準の含有量K が、前記含有量K よりも小さい、燃料電池の膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、例えば、電解質膜およびそれを挟む一対の電極を有する膜電極接合体を備える。一対の電極は、それぞれ、電解質膜側から順に、触媒層およびガス拡散層を備える。
【0003】
ガス拡散層の構成として、特許文献1には、フッ素樹脂と、ホウ素修飾カーボンと、繊維状炭素を含み、ホウ素修飾カーボン100質量部に対して繊維状炭素を5~50重量部含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-141783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、燃料電池の利用分野が拡大している一方、要求される性能も高いものが求められている。
しかしながら、上記のガス拡散層の構成では、触媒層との密着性や、排水性が十分とはいえず、高い発電性能を有する燃料電池を実現する上で限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の面と他方の面にそれぞれ積層される一対の触媒層と、前記一対の触媒層の一方の前記電解質膜と反対側の面、および、前記一対の触媒層の他方の前記電解質膜と反対側の面にそれぞれ積層される一対のガス拡散層と、を備え、前記一対の触媒層の一方は、触媒粒子Aと、第1導電性材料を含み、前記一対のガス拡散層のうち、前記一方の触媒層と接触するガス拡散層は、第2導電性材料を含み、前記第1導電性材料は、第1粒子状導電部材と、第1繊維状導電部材と、を含み、前記第2導電性材料は、第2粒子状導電部材および第2繊維状導電部材のうち少なくとも前記第2繊維状導電部材を含み、前記第2導電性材料に占める前記第2繊維状導電部材の質量基準の含有量Kが、前記第1導電性材料に占める前記第1繊維状導電部材の質量基準の含有量Kよりも大きい、燃料電池の膜電極接合体に関する。
【0007】
本開示の他の局面は、上記膜電極接合体を備えた燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態に係る燃料電池の単セルの構造を模式的に示す断面図である。
図2】膜電極接合体の一部を構成する第1触媒層と第1ガス拡散層の内部を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態に係る燃料電池は、電解質膜と、電解質膜の一方の面と他方の面にそれぞれ積層される一対の触媒層と、一対の触媒層の一方の電解質膜と反対側の面、および、一対の触媒層の他方の電解質膜と反対側の面にそれぞれ積層される一対のガス拡散層と、を備えた膜電極接合体(以下、「MEA」ともいう)を有する。一対の触媒層のうち一方は、カソードに設けられるカソード触媒層であり、他方はアノードに設けられるアノード触媒層である。以下において、一対のガス拡散層のうち、アノード触媒層に積層される方を「アノード側ガス拡散層」と、カソード触媒層に積層される方を「カソード側ガス拡散層」と、それぞれ称する。
【0011】
燃料電池は、例えば、カソード側ガス拡散層と接触する導電性のカソードセパレータと、アノード側ガス拡散層と接触する導電性のアノードセパレータとを、さらに有し得る。MEAと一対のセパレータにより、1つのセルが構成され得る。カソードセパレータとアノードセパレータとが隣接するように複数セルを積層することで、セル同士が直列接続されたスタックが形成され得る。
【0012】
一対の触媒層の一方は、触媒粒子Aと、第1導電性材料を含む。一対のガス拡散層のうち、上記一方の触媒層と接触するガス拡散層は、第2導電性材料を含む。第1導電性材料は、第1粒子状導電部材と、第1繊維状導電部材と、を含む。第2導電性材料は、少なくとも第2繊維状導電部材を含む。第2導電性材料は、さらに、第2粒子状導電部材を含んでいてもよい。第1導電性材料および第2導電性材料は、下記の条件1を満たすように構成される。
【0013】
(条件1)
第2導電性材料に占める第2繊維状導電部材の質量基準の含有量Kが、第1導電性材料に占める第1繊維状導電部材の質量基準の含有量Kよりも大きい。
【0014】
本実施形態では、互いに接触する触媒層およびガス拡散層は、いずれも導電性材料として粒子状導電部材と繊維状導電部材とを含み得る。ただし、ガス拡散層に含まれる導電性材料(第2導電性材料)については、粒子状導電部材(第2粒子状導電部材)を含まず、繊維状導電部材(第2繊維状導電部材)のみで構成されていてもよい。条件1は、アノードまたはカソードの少なくとも何れか一方において、互いに接触する触媒層およびガス拡散層のうち、ガス拡散層に含まれる第2繊維状導電部材の第2導電性材料に占める質量基準の含有量Kが、触媒層に含まれる第1繊維状導電部材の第1導電性材料に占める質量基準の含有量Kよりも大きいことを意味する。これにより、ガス拡散性を高めることができる。また、触媒層で生成され、もしくは触媒層に付着した水がガス拡散層を介して外部に排出され易くなり、ガス拡散経路が水分で塞がれること(すなわち、フラッディング)が抑制され得る。
【0015】
第1繊維状導電部材と第2繊維状導電部材とは、ともに同種の材料であってもよく、少なくとも一部に同種の材料を含んでいてもよい。ここで、第1繊維状導電部材と第2繊維状導電部材とが同種の材料であるとは、略同じ材料を主成分とする原料から出発して、略同じ製造工程を経て得られるものを意味する。例えば、第1繊維状導電部材が気相成長炭素繊維を含む場合、第2繊維状導電部材も気相成長炭素繊維を含むこと、あるいは、第1繊維状導電部材がカーボンナノチューブを含む場合、第2繊維状導電部材もカーボンナノチューブを含むことを意味する。この場合、第1繊維状導電部材と第2繊維状導電部材とは、多くの共通または類似する物性を有する。よって、互いに接触する触媒層およびガス拡散層の双方に含まれる繊維状導電部材の物性を類似させることで、水の排出効率を一層向上させることができる。
【0016】
しかしながら、製造工程が略同一であっても、例えば原料に含まれる不純物、あるいは、処理温度または処理時間などの製造工程における仔細な条件の相違により、第1繊維状導電部材と第2繊維状導電部材とは、構造において若干の差異を有し得る。例えば、繊維状導電部材に含まれる不純物、繊維状導電部材の繊維径および繊維長、繊維の形態(直線状であるか、折れ曲がっているか)などが、第1繊維状導電部材と第2繊維状導電部材との間で相違することがあり得る。このような場合も、第1繊維状導電部材と第2繊維状導電部材とは、同種の材料であるといえる。
【0017】
繊維状導電部材の物性を類似させ、水の排出効率を高める観点から、第2繊維状導電部材の繊維長の第1繊維状導電部材の繊維長に対する比は、第1繊維状導電部材と第2繊維状導電部材とが同種の材料であるか否かに拘わらず、0.5~2.0の範囲にあってもよい。ここで、繊維長は、後に定義される平均繊維長を意味する。上記繊維長に対する比は、0.95~1.05の範囲にあってもよい。
【0018】
繊維状導電部材の物性を類似させ、水の排出効率を高める観点から、第2繊維状導電部材の繊維径の第1繊維状導電部材の繊維径に対する比は、第1繊維状導電部材と第2繊維状導電部材とが同種の材料であるか否かに拘わらず、0.5~2.0の範囲にあってもよい。ここで、繊維径とは、後に定義される平均繊維径を意味する。上記繊維径に対する比は、0.95~1.05の範囲にあってもよい。
【0019】
第2導電性材料に占める第2繊維状導電部材の含有量Kは、例えば、60質量%以上である。Kは、70質量%以上、もしくは80質量%以上であってもよい。これに対し、第1導電性材料に占める第1繊維状導電部材の含有量Kは、例えば、20~50質量%であり、Kと比較して十分小さい。
【0020】
第2導電材料に占める第2繊維状導電部材の含有量の上限Kは、限定されるものではないが、100質量%以下であり、90質量%以下であってもよい。
【0021】
第2導電材料に占める第2繊維状導電部材の含有量Kは、例えば、60質量%~90質量%であってもよい。
【0022】
一方の触媒層が、燃料電池のカソードを構成していてもよい。すなわち、上記条件1を満たす触媒層およびガス拡散層は、カソード触媒層およびカソード側ガス拡散層であってもよい。
【0023】
電解質膜としてプロトン伝導性の高分子電解質膜を用いる燃料電池では、電解質膜のプロトン伝導性を高めるため、燃料ガスまたは酸化性ガスに水蒸気を加えて加湿したうえで、触媒層に供給することが通常行われる。しかしながら、水蒸気の一部が凝縮し、水が触媒層およびガス拡散層に付着し、ガスの拡散経路を塞ぐことがある。さらに、燃料電池の発電時において、カソードでは水が生成されるため、カソード側は、アノード側よりも水がガス拡散経路を塞ぎ易く、水を排出する必要性が高い。
カソード触媒層およびカソード側ガス拡散層が上記条件1を満たすことで、水の排出をより効果的に行うことができる。加えて、生成水がガス拡散経路を塞ぐことが抑制され、反応に必要なガスが触媒まで拡散し易くなる。この結果、反応効率が向上し、燃料電池の性能を高め易い。
【0024】
カソード触媒層に加えて、アノード触媒層も、導電性材料として粒子状導電部材と繊維状導電部材を含んでいてもよい。この場合、一対の触媒層のうち他方の触媒層は、触媒粒子Bと、第3導電性材料とを含む。第3導電性材料は、第3粒子状導電部材と、第3繊維状導電部材とを含む。
【0025】
アノード触媒層が第3繊維状導電部材を含む場合、第3導電性材料に占める第3繊維状導電部材の質量基準の含有量Kは、カソード触媒層における第1繊維状導電部材の含有量Kと同程度であってもよい。例えば、含有量Kに対する含有量Kの比K/Kは、0.5≦K/K≦2.0の範囲にあってもよく、0.9≦K/K≦1.1の範囲にあってもよい。
【0026】
アノード触媒層が第3繊維状導電部材を含む場合、カソード側ガス拡散層における第2繊維状導電部材の含有量Kは、第3導電性材料に占める第3繊維状導電部材の質量基準の含有量Kよりも大きくてもよい。カソード側ガス拡散層に含まれる繊維状導電部材の含有量を、アノード触媒層に含まれる繊維状導電部材の含有量より大きくすることで、カソード触媒層で生じる生成水が、過剰にアノード触媒層側へ逆拡散することを抑制できる。これにより、生成水のカソード側ガス拡散層への拡散と、アノード触媒層側への逆拡散とが適正に制御され、カソード触媒層の乾燥が抑制され得る。
【0027】
アノード側ガス拡散層には、公知のガス拡散層の構成を用いてもよく、例えばカーボンクロスあるいはカーボンペーパー等を用いてもよい。アノード側ガス拡散層は、導電性材料(第4導電性材料)を含み得るが、繊維状導電部材(第4繊維状導電部材)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。上述の通り、アノード側では、カソード側ほど高い排水性は必要とされない。むしろ、アノード側では、高いプロトン拡散性が必要とされる。この点で、第4導電性材料が第4繊維状導電部材を含む場合であっても、第4導電性材料に占める第4繊維状導電部材の質量基準の含有量Kは、カソード側ガス拡散層における第2繊維状導電部材の上記含有量Kよりも小さくてもよい。
【0028】
しかしながら、アノード側においてガス拡散性を高め、高湿度の運転条件において排水性を高める観点から、アノード触媒層およびアノード側ガス拡散層が上記条件1を満たすように、アノードガス拡散層における繊維状導電部材の含有量を増加させてもよい。
【0029】
カソード触媒層とカソード側ガス拡散層の組み合わせと、アノード触媒層およびアノード側ガス拡散層の組み合わせの両方が、上記条件1を満たしていてもよい。すなわち、他方の触媒層と接触するガス拡散層は、第4導電性材料を含み、第4導電性材料は、第4粒子状導電部材および第4繊維状導電部材のうち少なくとも第4繊維状導電部材を含み、第4導電性材料に占める第4繊維状導電部材の質量基準の含有量が、第3導電性材料に占める第3繊維状導電部材の質量基準の含有量よりも大きいものであってもよい。
【0030】
以下、本実施形態に係る燃料電池の構造の一例を、図1を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係る燃料電池に配置される単セルの構造を模式的に示す断面図である。通常、複数の単セルは積層されて、セルスタックとして燃料電池に配置される。図1では、便宜上、1つの単セルを示している。
【0031】
単セル200は、電解質膜110と、電解質膜110を挟むように配置された第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bと、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bをそれぞれ介して、電解質膜110を挟むように配置された第1ガス拡散層130Aおよび第2ガス拡散層130Bと、を有する膜電極接合体100を備える。また、単セル200は、膜電極接合体100を挟む第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bを備える。第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bのうちの一方はアノードとして機能し、他方は、カソードとして機能する。電解質膜110は、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bより一回り大きいため、電解質膜110の周縁部は、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bからはみ出している。電解質膜110の周縁部は、一対のシール部材250A、250Bで挟持されている。
【0032】
第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bのいずれか一方は、アノード触媒層であり、他方はカソード触媒層である。ここでは、第1触媒層120Aをカソード触媒層とし、第2触媒層120Bをアノード触媒層とする。この場合、第1ガス拡散層130Aがカソード側ガス拡散層に相当し、第2ガス拡散層130Bがアノード側ガス拡散層に相当する。
【0033】
図2は、図1の膜電極接合体100を拡大し、膜電極接合体100の一部を構成する第1触媒層120Aおよび第1ガス拡散層130Aの内部を模式的に示す図である。第1触媒層120Aは、第1粒子状導電部材121および第1繊維状導電部材122を、導電性材料として含む。第1粒子状導電部材121には、触媒粒子が担持されている。第1ガス拡散層130Aは、第2粒子状導電部材131および第2繊維状導電部材132を、導電性材料として含む。第1ガス拡散層130Aにおいて、第2粒子状導電部材131と第2繊維状導電部材132の合計に占める第2繊維状導電部材132の質量基準の含有量Kは、第1触媒層120Aにおいて、第1粒子状導電部材121と第1繊維状導電部材122の合計に占める第1繊維状導電部材の質量基準の含有量Kよりも大きい。
【0034】
(ガス拡散層)
第1ガス拡散層130A(カソード側ガス拡散層)および第2ガス拡散層130B(アノード側ガス拡散層)は、基材層を有する構造でもよく、基材層を有さない構造でもよい。基材層を有さない構造がより好ましい。基材層を有さない構造としては、導電性材料と高分子樹脂から形成される微多孔質シートを用いることができる。基材層を有する構造としては、例えば、基材層と、その触媒層側に設けられた微多孔層とを有する構造体が挙げられる。基材層には、カーボンクロスやカーボンペーパー等の導電性多孔質シートが用いられる。微多孔層には、フッ素樹脂等の撥水性樹脂と、導電性炭素材料と、プロトン伝導性樹脂(高分子電解質)との混合物等が用いられる。
【0035】
基材レスのガス拡散層は、例えば、導電性材料(第2導電性材料)と高分子樹脂とを含む。高分子樹脂としては、後述する撥水性のフッ素樹脂等を用い得る。高分子樹脂は、導電性材料と高分子樹脂との合計100質量部に対して、10~40質量部が好ましい。導電性材料は、繊維状導電部材(第2繊維状導電部材)を含む。導電性材料は、さらに粒子状導電部材(第2粒子状導電部材)を含んでいてもよい。
【0036】
粒子状導電部材および繊維状導電部材としては、触媒層において後述する材料を用いることができる。水の排出効率を高める点で、ガス拡散層に用いられる繊維状導電部材(第2繊維状導電部材)は、ガス拡散層と接触する触媒層に用いられる繊維状導電部材(第1繊維状導電部材)と同種の材料であってもよい。互いに接触する触媒層およびガス拡散層に含まれる繊維状導電部材の物性を類似させることで、水の排出効率が向上する。
【0037】
導電性材料には、粒子状導電部材と繊維状導電部材とを含ませてもよく、更に板状材料を含ませてもよい。板状材料は、ガス拡散層の面方向(厚み方向に垂直な方向)に沿って配向するように、ガス拡散層内に設けられ得る。板状材料は、ガス拡散層の面方向へのガス拡散性を高める作用を奏する。板状材料は、巨視的に見ると粒子状であるが、微視的に見ると板状粒子で構成されている。板状材料の具体例としては、鱗片状黒鉛、黒鉛化ポリイミドフィルム粉砕物、グラフェンなどが挙げられる。中でも、黒鉛化ポリイミドフィルム粉砕物やグラフェンは、ガス拡散層の面方向に配向しやすく、ガス拡散層を薄く形成するのに有利であり、かつガス拡散層の面方向におけるガス拡散性を高めるのに適している。
【0038】
第1ガス拡散層130Aおよび/または第2ガス拡散層130Bにおいて、導電性材料(第2導電性材料)に占める繊維状導電部材(第2繊維状導電部材)の含有量は、ガス拡散層に接触する触媒層に含まれる導電性材料(第1導電性材料)との関係で、上記条件1を満たすように設定され得る。第1ガス拡散層130A(カソード側ガス拡散層)と第1触媒層120A(カソード触媒層)との組み合わせ、および、第2ガス拡散層130B(アノード側ガス拡散層)と第2触媒層120B(アノード触媒層)との組み合わせの少なくとも何れか一方が、上記条件1を満たしていればよい。図2の例では、第1ガス拡散層130Aと第1触媒層120Aとの組み合わせが、上記条件1を満たしている。発電で生成される水を排出され易くして、生成水によりガス拡散経路が塞がれるのを抑制し、反応ガスの触媒層への拡散性を高める観点からは、少なくとも第1ガス拡散層130A(カソード側ガス拡散層)と第1触媒層120A(カソード触媒層)との組み合わせが、上記条件1を満たしているとよい。
【0039】
高分子樹脂は、導電性材料同士を結着するバインダとしての機能を有する。ガス拡散層内の細孔での水の滞留を抑制する観点から、高分子樹脂の50質量%以上、更には90質量%以上が撥水性を有するフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVdF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが挙げられる。中でも、耐熱性、撥水性、耐薬品性の観点から、フッ素樹脂はPTFEであることが好ましい。
【0040】
ガス拡散層は、例えば、以下のようにして作製される。
まず、導電性材料と、高分子樹脂と、界面活性剤と、分散媒とを含む混合物を調製する。混合装置には、混練機もしくはミキサーを用いればよい。このとき、混合装置に、導電性材料、界面活性剤および分散媒を投入して導電性材料を分散媒に均一に分散させた後、高分子樹脂を添加して更に分散させることが好ましい。高分子樹脂には、適度なせん断力を付与して、高分子樹脂をフィブリル化させることが好ましい。分散媒としては、例えば、水、アルコール、グリコール類が挙げられる。界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。
【0041】
次に、得られた混合物を押し出し成形などの成形方法でシートに成形する。得られたシートを更に圧延してもよい。圧延には、ロールプレス機を使用することができる。ロールプレスの条件は、特に限定されないが、線圧0.001ton/cm~4ton/cmで圧延することで強度の高いガス拡散層を得やすくなる。
【0042】
次に、シートを焼成して界面活性剤および分散媒が除去された焼成シートとする。焼成温度は、高分子樹脂が劣化せず、かつ界面活性剤や分散媒が分解もしくは揮発する温度であればよい。高分子樹脂としてPTFEを用いる場合、焼成温度は310~340℃が好ましい。焼成雰囲気は、不活性雰囲気であればよく、例えば窒素、アルゴンなどの雰囲気や、減圧雰囲気が好ましい。界面活性剤および分散媒は、その大半がシートから除去されればよく、必ずしも完全に除去する必要はない。
【0043】
(触媒層)
第1触媒層120A(カソード触媒層)は、例えば、導電性材料(第1導電性材料)と、触媒粒子と、プロトン伝導性樹脂を含む。触媒粒子は、導電性材料に担持されている。導電性材料は、粒子状導電部材(第1粒子状導電部材)を含む。導電性材料は、さらに繊維状導電部材(第1繊維状導電部材)を含んでいてもよい。繊維状導電部材を含ませることで、触媒層のガス拡散性を高めることができる。
【0044】
第2触媒層120B(アノード触媒層)は、第1触媒層120A(カソード触媒層)と同様、導電性材料と、導電性材料に担持される触媒粒子と、プロトン導電性樹脂と、を含み得る。また、導電性材料は、粒子状導電部材を含み、さらに繊維状導電部材を含み得る。
【0045】
導電性材料が粒子状導電部材および繊維状導電部材の両方を含む場合、触媒粒子は、粒子状導電部材に担持されているとよい。繊維状導電部材に担持される触媒粒子の量が少ないほど、繊維状導電部材の撥水性が高くなる。よって、排水性が向上し易く、ガス拡散性が向上し易い。排水性を高める観点からは、触媒粒子は、繊維状導電部材に実質的に担持されていなくてもよい。換言すると、触媒粒子は、粒子状導電部材にのみ担持されていてもよい。ここで、触媒粒子が繊維状導電部材に実質的に担持されていないとは、繊維状導電部材に担持された触媒粒子と繊維状導電部材との合計100質量部に対して、繊維状導電部材に担持された触媒粒子の割合が0.5質量部以下であることをいう。
【0046】
第1触媒層120Aおよび/または第2触媒層120Bにおいて、導電性材料(第1導電性材料)に占める繊維状導電部材(第1繊維状導電部材)の含有量は、触媒層に接触するガス拡散層に含まれる導電性材料(第2導電性材料)との関係で、上記条件1を満たすように設定され得る。
【0047】
アノード触媒層は、カソード触媒層ほど高い酸化性の環境にさらされることはないが、反応で水が生成されないため、カソード触媒層よりも低湿の環境になり易い。この結果として、プロトン伝導性が低下し易い。カソード触媒層よりも高いプロトン伝導性が得られるように、粒子状導電部材、繊維状導電部材、および、プロトン導電性樹脂の各組成および含有割合は変更され得る。
【0048】
(繊維状導電部材)
繊維状導電部材としては、例えば、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の繊維状炭素材料が挙げられる。繊維状導電部材の直径(繊維径)Dについては、特に限定されないが、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下であり、更に好ましくは10nm以上170nm以下である。この場合、触媒層中に占める繊維状導電部材の体積割合を小さくしながら、ガス経路を十分に確保することができ、ガス拡散性を高めることができる。繊維状導電部材の直径Dは、触媒層から繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの直径を平均化することにより求められる。直径は、繊維状導電部材の長さ方向に垂直な方向の長さである。
【0049】
繊維状導電部材の長さ(繊維長)Lについても、特に限定されないが、好ましくは0.2μm以上20μm以下であり、より好ましくは0.2μm以上10μm以下であるとよい。この場合、繊維状導電部材の少なくとも一部が触媒層の厚み方向に沿って配向し、ガス拡散経路を確保しやすい。繊維状導電部材の長さLは、平均繊維長さであり、触媒層から繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの繊維状導電部材の繊維長さを平均化することにより、求められる。なお、上記の繊維状導電部材の繊維長さとは、略直線状の繊維状導電部材の場合、繊維状導電部材の一端と、その他端とを直線で結んだときのその直線の長さを意味する。
【0050】
繊維状導電部材は、内部に中空の空間(中空部)を有していてもよい。この場合、触媒層内において、繊維状導電部材の長さ方向の両端のそれぞれが開口していてもよい。繊維状導電部材の長さ方向の両端のそれぞれが開口しているとは、当該開口により中空部と外部とが連通していることを意味する。すなわち、繊維状導電部材の両端の開口は、電解質膜およびガス拡散層のいずれによっても塞がれておらず、ガスが両端から出入り可能である。
中空部を有する繊維状導電部材の側壁には、中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられてもよい。貫通孔の少なくとも一部を塞ぐように、触媒粒子を繊維状導電部材の側壁に配し、固定化することができる。貫通孔の少なくとも一部を塞ぐように側壁に担持された触媒粒子は、反応ガスとの接触がより効率的に行われ、触媒層の反応効率を大幅に高められる。
【0051】
(粒子状導電部材)
粒子状導電部材としては特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、球状黒鉛、活性炭などが挙げられる。なかでも、導電性が高く、細孔容積が大きい点で、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが挙げられる。その粒径(あるいは、複数の連結した一次粒子で構成されたストラクチャーの長さ)は特に限定されず、従来、燃料電池の触媒層に用いられるものを使用することができる。
【0052】
(触媒粒子)
触媒粒子としては特に限定されないが、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Os、Ir、ランタノイド系列元素やアクチノイド系列の元素の中から選ばれる合金や単体といった触媒金属が挙げられる。例えば、アノードに用いられる触媒粒子としては、Pt、Pt-Ru合金等が挙げられる。カソードに用いられる触媒粒子としては、Pt、Pt-Co合金等が挙げられる。触媒粒子の少なくとも一部は、粒子状導電部材に担持されている。触媒粒子は、ガスへの接触部位が確保される特定の導電部材に担持されていてもよい。触媒粒子がガスに接触し易くなり、ガスの酸化反応あるいは還元反応の効率が高まるためである。
【0053】
触媒粒子の固定化の観点から、触媒粒子の直径Xは、好ましくは1nm以上10nm以下であり、より好ましくは2nm以上5nm以下である。Xが1nm以上である場合、触媒粒子による触媒効果が十分に得られる。Xが10nm以下である場合、触媒粒子を繊維状導電部材の側壁に担持させ易い。
【0054】
触媒粒子の直径Xは、以下のようにして求められる。
触媒層のTEM画像で観察される任意の1個の触媒粒子について、当該粒子を球状と見なした際の粒径を算出する。これを、TEM画像で観察される100~300個の触媒粒子に対して行い、それぞれの粒径を算出する。これらの粒径の平均値を触媒粒子の直径Xとする。
【0055】
(プロトン伝導性樹脂)
プロトン伝導性樹脂としては特に限定されないが、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子、炭化水素系高分子等が例示される。なかでも、耐熱性と化学的安定性に優れる点で、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子等が好ましい。パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子としては、例えばNafion(登録商標)が挙げられる。プロトン伝導性樹脂は、粒子状導電部材、繊維状導電部材、および/または、触媒粒子の少なくとも一部を被覆している。
【0056】
プロトン伝導性樹脂は、導電性材料とプロトン伝導性樹脂との合計100質量部に対して、25~65質量部、含まれていることが好ましい。
【0057】
触媒層の厚みは、燃料電池の小型化、および、プロトン抵抗を低く維持し、高出力を得る観点から、可能な限り薄いことが望ましい。一方で、強度の観点から、過度に薄くないことが好ましい。一般に、繊維状導電部材の配合割合が多くなると、触媒層の厚みは厚くなり易い。
【0058】
カソード触媒層の厚みTは、例えば、4μm以上15μm以下である。アノード触媒層の厚みTは、例えば、2μm以上12μm以下である。触媒層の厚みTおよびTは、平均厚みであり、触媒層の断面における任意の10箇所について、一方の主面から他方の主面まで、触媒層の厚み方向に沿った直線を引いたときの距離を平均化することにより、求められる。
【0059】
触媒層における繊維状導電部材の配合割合については、アノード触媒層およびカソード触媒層ともに、繊維状導電部材が、質量基準で粒子状導電部材に対して20%以上含まれていることにより、ガス拡散性を高めることができる。一方で、繊維状導電部材の配合量を高めると、触媒層の膜厚が厚くなり易く、プロトン移動抵抗が増大し易くなる。また、触媒層にクラックが生じ易くなる。プロトン移動抵抗の増大を抑制し、クラックを抑制する観点から、繊維状導電部材の配合量は、カソード触媒層および/またはアノード触媒層において、質量基準で粒子状導電部材に対して50%以下であってもよい。
【0060】
触媒層は、例えば、以下のようにして作製される。
まず、触媒粒子および粒子状導電部材を、分散媒(例えば、水、エタノール、プロパノール等)中で混合する。次いで、得られた分散液を撹拌しながら、プロトン伝導性樹脂および繊維状炭素材料を順次添加して、触媒分散液を得る。プロトン伝導性樹脂は、2回以上に分けて添加してもよい。この場合、プロトン伝導性樹脂の2回目以降の添加は、繊維状炭素材料と共に行ってもよい。その後、得られた触媒分散液を、電解質膜または適当な転写用基材シートの表面に均一な厚さで塗布し、乾燥させることにより、触媒層が得られる。
【0061】
塗布法としては、慣用の塗布方法、例えば、スプレー法、スクリーン印刷法、および、ブレードコーター、ナイフコーター、グラビアコーターなどの各種コーターを利用するコーティング法等が挙げられる。転写用基材シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンなどの平滑表面を有するシートを用いることが好ましい。転写用基材シートを用いる場合、得られた触媒層は、後述する電解質膜またはガス拡散層に転写される。
【0062】
触媒層の電解質膜またはガス拡散層への転写は、触媒層の転写用基材シートに対向していた面を、電解質膜またはガス拡散層に当接させることにより行われる。触媒層の平滑な面を電解質膜またはガス拡散層に当接させることにより、触媒層との界面抵抗が減少し、燃料電池の性能が向上する。電解質層に直接、触媒分散液を塗布してもよい。
【0063】
(電解質膜)
電解質膜110として、高分子電解質膜が好ましく用いられる。高分子電解質膜の材料としては、プロトン伝導性樹脂として例示した高分子電解質が挙げられる。電解質膜の厚みは、例えば5~30μmである。
【0064】
(セパレータ)
第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bは、気密性、電子伝導性および電気化学的安定性を有すればよく、その材質は特に限定されない。このような材質としては、炭素材料、金属材料等が好ましい。金属材料には、カーボンを被覆してもよい。例えば、金属板を所定形状に打ち抜き、表面処理を施すことにより、第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bが得られる。
【0065】
本実施形態においては、第1セパレータ240Aの第1ガス拡散層130Aと当接する側の面には、ガス流路260Aが形成されている。一方、第2セパレータ240Bの第2ガス拡散層130Bと当接する側の面には、ガス流路260Bが形成されている。ガス流路の形状は特に限定されず、ストレート型、サーペンタイン型等に形成すればよい。
【0066】
(シール部材)
シール部材250A、250Bは、弾性を有する材料であり、ガス流路260A、260Bから燃料および/または酸化剤がリークすることを防止している。シール部材250A、250Bは、例えば、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bの周縁部をループ状に取り囲むような枠状の形状を有する。シール部材250A、250Bとしては、それぞれ、公知の材質および公知の構成を採用できる。
【0067】
以下、本開示を実施例に基づいて、更に詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例]
(1)カソード触媒層用の分散液の調製
触媒粒子(Pt-Co合金)を担持した粒子状導電部材(カーボンブラック)を適量の水に添加、撹拌して、分散させた。得られた分散液を撹拌しながら適量のエタノールを加えた後、触媒粒子を担持した上記粒子状導電部材100質量部に対して、繊維状導電部材(第1繊維状導電部材)(気相成長炭素繊維、平均直径150nm、平均繊維長10μm)35質量部、および、プロトン伝導性樹脂(パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子)100質量部を添加し、撹拌することにより、カソード触媒層用の触媒分散液を調製した。
【0069】
(2)アノード触媒層用の分散液の調製
触媒粒子(Pt)を担持した粒子状導電部材(カーボンブラック)を適量の水に添加、撹拌して、分散させた。得られた分散液を撹拌しながら適量のエタノールを加えた後、触媒粒子を担持した上記粒子状導電部材100質量部に対して、繊維状導電部材(第1繊維状導電部材)(気相成長炭素繊維、平均直径150nm、平均繊維長10μm)35質量部、および、プロトン伝導性樹脂(パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子)120質量部を添加し、撹拌することにより、アノード触媒層用の触媒分散液を調製した。
【0070】
(3)ガス拡散層の作製
粒子状導電性部材(カーボンブラック)、繊維状導電性部材(気相成長炭素繊維、平均直径150nm、平均繊維長10μm)、界面活性剤、および分散媒を攪拌装置に投入し、攪拌、混練して、材料を均一に分散させた。その後、さらに高分子樹脂としてPTFEを投入し、均一に分散させて混練物を得た。次に、混練物を押し出してシート状に引き伸ばして乾燥させた。得られたシートを310℃で焼成し、界面活性剤および分散媒を除去し、ガス拡散層を得た。
【0071】
ガス拡散層に占める粒子状導電性材料、繊維状導電性材料、および高分子樹脂の含有量は、それぞれ、粒子状導電性材料が5質量%~35質量%、繊維状導電性材料が35質量%~80質量%、高分子樹脂が10質量%~40質量%の範囲で調節された。これにより、導電性材料に占める繊維状導電部材の質量基準の含有量Kが異なる4種類のガス拡散層A1~A3およびB1を作製した。
【0072】
ガス拡散層A1、A2、A3およびB1において、導電性材料に占める繊維状導電部材の質量基準の含有量Kは、それぞれ、0.88、0.86、0.71および0.26とした。
【0073】
(4)単セルの作製
2枚のPETシートを準備し、スクリーン印刷法を用いて、一方のPETシートの平滑な表面に、得られたカソード触媒層用の触媒分散液を均一な厚さで塗布し、他方のPETシートの平滑な表面に、得られたアノード触媒層用の触媒分散液を均一な厚さで塗布した。その後、乾燥して、2つの触媒層を形成した。カソード触媒層の膜厚は6μmであり、アノード触媒層の膜厚は4.5μmであった。
【0074】
厚さ15μmの電解質膜の両方の主面に得られた触媒層をそれぞれ転写して、電解質膜の一方の表面にカソードを、他方の表面にアノードを形成した。その後、ガス拡散層を2枚準備し、2枚のうち一方をアノードに、他方をカソードに、それぞれ当接させ、膜電極接合体を作製した。膜電極接合体において、カソード触媒層およびアノード触媒層の導電性材料に占める繊維状導電部材の質量基準の含有量Kは、0.26とした。
【0075】
次に、アノードおよびカソードを囲むように枠状シール部材を配置した。ガス拡散層に接する部分にガス流路を有する一対のステンレス鋼製平板(セパレータ)で全体を挟持して、試験用単セルを完成させた。
【0076】
このようにして、ガス拡散層A1を用いる試験用単セルX1、ガス拡散層A2を用いる試験用単セルX2、ガス拡散層A3を用いる試験用単セルX3、および、ガス拡散層B1を用いる試験用単セルY1を作製し、それぞれについて性能を評価した。
【0077】
<評価>
単セルを80℃に加熱し、相対湿度100%の燃料ガスをアノードに、相対湿度100%の酸化剤ガス(空気)をカソードに供給した。燃料ガス、および、酸化剤ガスは、各電流密度において、セル入口ガス圧力40~120kPaに加圧して供給した。そして、電流が一定に流れるように負荷制御装置を制御し、アノードおよびカソードの電極面積に対する電流密度を変化させながら、単セルの電圧(初期電圧)を測定した。
【0078】
単セルX1~X3およびY1のそれぞれについて、最大出力密度Wmaxを評価した。表1に評価結果を示す。表1では、最大出力密度Wmaxについて、単セルY1における最大出力密度Wmaxの測定値を100とした相対値が示されている。ガス拡散層の導電性材料に占める繊維状導電部材の含有量Kを、触媒層の導電性材料に占める繊維状導電部材の含有量Kよりも大きくしたセルX1~X3では、KをKと同じとしたセルY1と比べて、最大出力密度が向上している。
【0079】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示に係る燃料電池は、定置型の家庭用コジェネレーションシステム用電源や、車両用電源として、好適に用いることができる。本開示は、高分子電解質型燃料電池への適用に好適であるが、これに限定されるものではなく、燃料電池一般に適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
100:膜電極接合体、110:電解質膜、120A:第1触媒層、120B:第2触媒層、130A:第1ガス拡散層、130B:第2ガス拡散層、200:燃料電池(単セル)、240A:第1セパレータ、240B:第2セパレータ、250A,250B:シール部材、260A,260B:ガス流路
図1
図2