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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】二次電池、絶縁部材及び正極リード
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/586 20210101AFI20230120BHJP
   H01M 50/595 20210101ALI20230120BHJP
   H01M 50/533 20210101ALI20230120BHJP
   H01M 50/534 20210101ALI20230120BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20230120BHJP
   H01M 50/131 20210101ALI20230120BHJP
   H01M 50/133 20210101ALI20230120BHJP
   H01M 50/134 20210101ALI20230120BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20230120BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20230120BHJP
   H01M 50/591 20210101ALI20230120BHJP
【FI】
H01M50/586
H01M50/595
H01M50/533
H01M50/534
H01M50/107
H01M50/131
H01M50/133
H01M50/134
H01M10/04 W
H01M4/04 A
H01M50/591 101
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019558074
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2018040428
(87)【国際公開番号】W WO2019111597
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2017233737
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017234057
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉井 一洋
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-135169(JP,A)
【文献】特開2004-311282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/586
H01M 50/595
H01M 50/533
H01M 50/534
H01M 50/107
H01M 50/131
H01M 50/133
H01M 50/134
H01M 10/04
H01M 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、前記正極及び前記負極を収容する電池ケース、前記正極と電気的に接続される正極リード、前記正極リードの一部を覆う絶縁テープを有する二次電池であって、
前記正極は、正極集電体、前記正極集電体上に形成された正極活物質層を有し、
前記正極集電体は、前記正極集電体上の前記正極活物質層の長手方向中央部に、前記正極活物質層が形成されていない露出部を有し、
前記正極リードは、前記露出部に接続されている一端部、前記一端部から前記正極集電体の周縁部外側に延出している延出部を有し、
前記正極リードの前記一端部の外表面には、絶縁層が配置され、前記絶縁層は、絶縁テープにより覆われ、
前記絶縁テープは、前記露出部と前記正極活物質層との境界部を覆っている、二次電池。
【請求項2】
前記絶縁層は、前記正極リードの前記一端部の外表面及び前記露出部上に配置されている、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記一端部は平板状であり、前記一端部の外表面は、前記一端部が前記露出部に接触している面に対向する一主面と、一対の側面とを有し、
前記絶縁層は前記一主面及び前記一対の側面に配置されている、請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記絶縁層は、無機材料を含み、前記絶縁層中の前記無機材料の目付け量は、0.5~10mg/cmの範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記無機材料の平均粒径は、0.05~2μmの範囲である、請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記絶縁層は、バインダーを含む、請求項4又は5に記載の二次電池。
【請求項7】
前記無機材料は、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムのうちの少なくともいずれか1つを含む請求項4~6のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記一端部の外表面に配置されている前記絶縁層は、前記一端部と非接着である、請求項4に記載の二次電池。
【請求項9】
前記一端部の外表面に配置されている前記絶縁層は、前記一端部に接着されている、請求項1に記載の二次電池。
【請求項10】
前記電池ケースは、開口部を有するケース本体部と、前記開口部を封口する封口体とを備え、
前記正極リードは、前記延出部より先端側で前記電池ケースに接続されている他端部を有し、
前記正極リードの前記他端部は前記封口体に接続され、前記他端部には絶縁層が形成されていない、請求項1に記載の二次電池。
【請求項11】
前記絶縁層は、酸化皮膜、リン酸塩皮膜のうち少なくともいずれか1つであり、
前記絶縁層の突き刺し破断強度は、1N以上3.7N以下である、請求項1または10に記載の二次電池。
【請求項12】
前記正極リードは、アルミニウム又はアルミニウムを主体とする合金を含み、
前記酸化膜は、陽極酸化皮膜を含む、請求項11に記載の二次電池。
【請求項13】
前記リン酸塩皮膜は、リン酸クロメート皮膜又はリン酸亜鉛皮膜を含む、請求項11に記載の二次電池。
【請求項14】
前記絶縁層の厚みは、2~30μmの範囲である、請求項1および10~13のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項15】
前記絶縁層の突き刺し強度は、前記絶縁テープの突き刺し強度より高い、請求項1および10~14のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項16】
前記正極及び前記負極がセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体をさらに備え、
前記正極活物質層、前記正極リードおよび前記絶縁テープは、前記セパレータを介して前記負極と対向して配置され、
前記絶縁層は、前記絶縁テープと前記セパレータを介して前記負極と対向して配置される、請求項1~15のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項17】
前記絶縁層は、1MΩ以上の電気抵抗を有する、請求項1~15のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池、絶縁部材及び正極リードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、絶縁テープを用いて正極あるいは負極の絶縁性を向上させたリチウム二次電池が提案されている。
【0003】
特許文献1には、集電体とリードとが接触する部分での集電体の切れを抑制するリチウム二次電池が記載されている。
【0004】
図7は、特許文献1に記載されたリチウム二次電池の正極の構成図であり、図7(A)は集電体の一主面側から観察した部分上面図、図7(B)は図7(A)における線L1―L1に沿った断面図である。
【0005】
図7に示すように、正極集電体40Aの一主面側に配置される絶縁テープ44は、正極合材層40Bが形成されていない両面未塗布部40bにおける正極集電体露出面40a、正極集電体露出面40a上の正極リード42、正極リード42の下端部分と正極集電体露出面40aとの間に介在される保護層46を覆っている。この絶縁テープ44は、例えば、電池の異常時にセパレータ等が裂け、正極と負極とが接触した場合の電池の発熱を防ぐためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-89856号公報
【発明の概要】
【0007】
しかし、正極リード42を覆う絶縁テープ44上に異物が付着し、異物等により絶縁テープ44が破断すると、例えば、正極リード42と負極との間で内部短絡が発生して、電池温度が上昇する場合がある。
【0008】
本開示の目的は、異物によって正極リードを覆う絶縁テープが破断した際の電池温度の上昇を抑制することが可能な二次電池、絶縁部材及び正極リードを提供することにある。
【0009】
本開示の一態様に係る二次電池は、正極、負極、正極及び負極を収容する電池ケース、正極と電気的に接続される正極リード、正極リードの一部を覆う絶縁テープを有する二次電池である。正極は、正極集電体、正極集電体上に形成された正極活物質層を有する。正極集電体は、正極活物質層が形成されていない露出部を有する。正極リードは、露出部に接続されている一端部、一端部から正極集電体の周縁部外側に延出している延出部を有する。正極リードの一端部の外表面には、絶縁層が配置され、絶縁層は、絶縁テープにより覆われる。
【0010】
本開示の一態様に係る絶縁部材は、正極及び負極を収容する電池ケースと正極とを電気的に接続する正極リードの一部を覆う絶縁部材であって、有機材料を主体とする基材層及び基材層上に設けられる粘着層を有する絶縁テープと、絶縁テープの粘着層上に設けられる絶縁層とを有する。
【0011】
本開示の一態様に係る正極リードは、正極リードの表面に絶縁層が形成される。
【0012】
本開示によれば、異物によって正極リードを覆う絶縁テープが破断した際の電池温度の上昇を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る二次電池の断面図である。
図2】正極の一主面側から観察した部分上面図である。
図3図2における線L1-L1に沿った断面図(第1実施形態)である。
図4】第1実施形態に係る絶縁層及び絶縁テープの配置方法の一例を示す図である。
図5】第1実施形態に係る絶縁層及び絶縁テープの配置方法の他の一例を示す図である。
図6図2における線L1-L1に沿った断面図(第2実施形態)である。
図7】特許文献1に記載されたリチウム二次電池の正極の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示の一態様である二次電池の一例について説明する。以下の実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法比率などは、現物と異なる場合がある。
【0015】
図1は、実施形態に係る二次電池の断面図である。図1に示す二次電池10は、リチウムイオン二次電池の一例である。実施形態に係る二次電池は、リチウムイオン二次電池に限定されるものではなく、アルカリ系二次電池等の他の二次電池でもよい。
【0016】
図1に示す二次電池10は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の電極体14と、電解質と、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19と、正極リード20及び負極リード21と、正極リード20の一部を覆う絶縁テープ(不図示)と、上記これらの部材を収容する電池ケース15とを備える。なお、負極リード21を覆う絶縁部材を備えていてもよい。
【0017】
電極体14は、巻回型に限定されるものではなく、例えば、正極及び負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型等、他の形態が適用されてもよい。
【0018】
電池ケース15は、例えば、開口部を有する有底円筒形状のケース本体16と、ケース本体16の開口部を封口する封口体17とを備える。電池ケース15は、ケース本体16と封口体17との間に設けられるガスケット28を備えることが望ましく、これにより、電池内部の密閉性が確保される。電池ケース15としては、円筒形に限定されるものではなく、例えば、角形、ラミネート型等でもよい。
【0019】
ケース本体16は、例えば、側面部の一部が内側に張出した、封口体17を支持する張り出し部22を有する。張り出し部22は、ケース本体16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0020】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁体25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば、円板形状又はリング形状を有し、絶縁体25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁体25が介在している。内部短絡等による発熱で内圧が上昇すると、例えば下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0021】
正極リード20は、後述するように、一端部(不図示)、延出部20b、他端部20cを有し、一端部が正極11に接続され、一端部から延出している延出部20bが絶縁板18の貫通孔を通って封口体17へ延び、延出部20bより先端に位置する他端部20cが封口体17のフィルタ23の下面に接続されている。これにより、フィルタ23と電気的に接続されているキャップ27が正極端子となる。負極リード21は、その一端が負極12に接続され、負極12から絶縁板19の外側を通って、その他端がケース本体16の底部内面に接続されている。これにより、ケース本体16が負極端子となる。なお、正極リード20及び負極リード21それぞれの他端の接続箇所は逆でもよく、例えば、正極リード20の他端がケース本体16に接続され、負極リード21の他端が封口体17のフィルタ23の下面に接続されてもよい。なお、図1の正極リード20は電池ケース15と接続するための他端部20cを有するが、電池ケース15と接続しない形態の電池(例えば、角型やラミネート型等)の場合には、正極リード20は電池ケース15と接続する他端部20cを有していない。
【0022】
以下、図1および図2を参照しながら、正極11、正極リード20、負極12、電解質、セパレータ13について説明する。図2では、絶縁テープ30を透過図として一点鎖線で示している。
【0023】
正極11は、正極集電体32と、正極集電体32上に形成された正極活物質層34を備えている。正極集電体32には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等が用いられる。正極活物質層34は、正極活物質を含む。また、正極活物質層34は、正極活物質の他に、導電剤及び結着剤を含むことが好適である。
【0024】
正極活物質層34に含まれる正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられ、具体的にはコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物等を用いることができ、これらのリチウム遷移金属複合酸化物にAl、Ti、Zr、Nb、B、W、Mg、Mo等を添加してもよい。
【0025】
正極活物質層34に含まれる導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
正極活物質層34に含まれる結着剤としては、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。例えば、フッ素系高分子としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等、ゴム系高分子としてエチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
正極集電体32は、正極活物質層34が形成されていない露出部32aを有する。なお、図2に示す露出部32aは、正極集電体32の長手方向中央部に形成されている。但し、露出部32aは正極集電体32のいずれの箇所に形成されていてもよく、例えば、正極集電体32の長手方向端部に形成されていてもよい。
【0028】
正極リード20は、正極集電体32の露出部32aに接続されている一端部20a、一端部20aから正極集電体32の周縁部32b外側に延出している延出部20bを備えている。また、図2では不図示であるが、正極リード20は、延出部20bより先端側に他端部20c(図1参照)を有し、前述したように、封口体17のフィルタ23に接続されている。正極リード20の一端部20aと正極集電体32の露出部32aの接続方法、正極リード20の他端部20cと封口体17の接続方法は電気的な接続が担保されていれば特に制限されるものではなく、例えば、超音波溶接等が挙げられる。
【0029】
正極リード20の素材は、アルミニウム、チタン等の金属等、特に制限されるものではない。
【0030】
負極12は、負極集電体と、負極集電体上に形成される負極活物質層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、負極活物質の他に、増粘剤、結着剤を含むことが好適である。
【0031】
負極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な炭素材料を用いることができ、黒鉛の他に、難黒鉛性炭素、易黒鉛性炭素、繊維状炭素、コークス及びカーボンブラック等を用いることができる。さらに、非炭素系材料として、シリコン、スズ及びこれらを主とする合金や酸化物を用いることができる。
【0032】
結着剤としては、正極の場合と同様にPTFE等を用いることもできるが、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。
【0033】
電解質は、溶媒と、溶媒に溶解した電解質塩とを含む。電解質は、液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質でもあってもよい。溶媒は、例えば、カーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類及びこれらの2種以上の混合溶媒等の非水溶媒が好適であるが、水系溶媒であってもよい。
【0034】
電解質塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LICFSO及びこれらの2種以上の混合物等を用いることができる。溶媒に対する電解質塩の溶解量は、例えば0.5~2.0mol/Lである。
【0035】
セパレータ13には、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【0036】
<第1実施形態>
図3は、図2における線L1-L1に沿った断面図である。正極リード20の一部を覆う絶縁部材は、後述する絶縁テープ30及び絶縁層36を有する。
【0037】
図3に示すように、絶縁層36は、正極リード20の一端部20aの外表面上に配置されている。また、絶縁層36は、正極集電体32の露出部32a上に配置されていることが好ましい。ここで、正極リード20の一端部20aの外表面とは、正極集電体32の露出部32aと接触する部分を除く表面である。すなわち、正極リード20が図2に示すような平板状である場合、一端部20aの外表面は、正極集電体32の露出部32aと接触する面と対向する一主面と、互いに対向する一対の側面とから構成される。なお、正極リード20の形状は平板状に限定されるものではなく、円柱状等でもよい。
【0038】
図3に示すように、絶縁層36は、正極リード20の一端部20aの一主面及び一対の側面に配置されていることが好ましいが、正極リード20の一端部20aの外表面全部又は一部に配置されていればよい。すなわち、平板状の正極リード20では、絶縁層36は、一端部20aの一主面の一部又は全部に配置されていてもよいし、一対の側面の一部又は全部に配置されていてもよいし、或いは、一端部20aの一主面及び一対の側面の一部又は全部に配置されていてもよい。絶縁層36は、正極リード20の一端部20aにおいて、正極集電体32の露出部32aと接触する面に形成されていてもよいが、この場合、正極リード20と正極集電体32との接触抵抗が増加し、電池性能が低下する場合がある。したがって、絶縁層36は、正極リード20の一端部20aにおいて、正極集電体32の露出部32aと接触する面には配置されていないことが好ましい。
【0039】
絶縁層36は、正極リード20上に自然に形成される自然酸化皮膜より高い電気抵抗を有するものである。絶縁層36は、例えば、1MΩ以上の電気抵抗を有することが好ましく、10MΩ以上の電気抵抗を有することがより好ましい。
【0040】
絶縁層36は、絶縁性を有する材料等から構成されるものであれば、材料は特に限定されるものではないが、無機材料を含むことが好ましい。また、絶縁層36の機械的強度や接着性等の点で、結着剤を含むことが好ましい。
【0041】
絶縁層36に含まれる無機材料は、例えば、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属フッ化物及び金属炭化物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0042】
絶縁層36に含まれる結着剤は、例えばNMPや水等の溶媒に溶解し、正極中で化学的に安定な物質が好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリイソブチレン、ポリイソプレン等が挙げられる。
【0043】
図2および図3に示すように、絶縁テープ30は、正極11の一主面側及び他主面側の両方に配置されているが、正極リード20が配置されている正極11の一主面側に配置されていればよい。一主面側に配置されている絶縁テープ30は、正極リード20の一端部20aの外表面上に配置されている絶縁層36を覆っている。また、一主面側に配置されている絶縁テープ36は、正極集電体32の露出部32a上に配置されている絶縁層36、露出部32aと正極活物質層34との境界部を覆っていることが好ましい。また、他主面側に配置されている絶縁テープ30は、露出部32a、露出部32aと正極活物質層34との境界部を覆っている。
【0044】
絶縁テープ30は、例えば、基材層と、基材層上の粘着層とを含む。基材層は、例えば、有機材料を主体とした層であり、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PI(ポリイミド)、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等が挙げられる。粘着層は、絶縁層36や露出部32a等に接着する層であり、例えば、ゴム系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂等の粘着剤で構成されることが好ましい。
【0045】
図4は、絶縁層及び絶縁テープの配置方法の一例を示す図である。まず、無機粒子、結着剤等を含むスラリーを、正極リード20の一端部20aの外表面及び露出部32a上に塗布し、一端部20aの外表面及び露出部32a上に絶縁層36を配置する(図4(A)参照)。次に、基材層30a及び基材層30a上の粘着層30bを有する絶縁テープ30を準備し、絶縁テープ30の粘着層30bを絶縁層36側に向けて、絶縁テープ30を絶縁層36上に貼り付ける(図4(B)参照)。このような手順による絶縁層36は、一端部20a及び露出部32aに接着した状態である。
【0046】
図5は、絶縁層及び絶縁テープの配置方法の他の一例を示す図である。まず、基材層30a及び基材層30a上の粘着層30bを有する絶縁テープ30の粘着層30b上に、無機粒子、結着剤等を含む絶縁層36を形成し、絶縁部材39を作製する。(図5(A)参照)。次に、絶縁部材39の絶縁層36が一端部20aの外表面及び露出部32a上に配置されるように、絶縁部材39を貼り付ける(図5(B)参照)。このような手順による絶縁層36は、一端部20a及び露出部32aと非接着の状態である。
【0047】
このように、正極集電体32の露出部32aに接続された正極リード20の一端部20aの外表面に絶縁層36を配置し、その絶縁層36を絶縁テープ30で覆うことにより、電池内に混入した異物が絶縁テープ30を突き破り、絶縁テープ30が破断しても、絶縁層36が配置された正極リード20が露出するため、正極リード20と負極12との間での内部短絡が抑えられる。仮に、異物が絶縁層36を貫通して正極リード20に達し、正極リード20と負極12との間で内部短絡が発生した場合でも、異物の周囲に存在する絶縁層36は、大きな短絡抵抗として作用するため、内部短絡による電池の発熱が抑えられ、電池温度の上昇が抑制される。
【0048】
絶縁層36は、正極リード20の一端部20aの外表面に配置されていればよいが、前述したように露出部32aの一部又は全部に配置されていることが好ましい。これにより、電池内に混入した異物が露出部32aと接触し難くなり、電池の内部短絡の発生がより抑制される。
【0049】
絶縁層36の厚みは、例えば、2~30μmの範囲であることが好ましい。絶縁層36の厚みを2μm以上とすることで、2μm未満の場合と比較して、異物によって絶縁テープ30が破断した際の内部短絡の発生又は電池温度の上昇が抑制される。厚みが30μmを超える絶縁層36は、所定の大きさのケース本体16に電極体14を納めるために他の構成部材の容積を減らす必要がある場合がある。
【0050】
絶縁層36中の無機材料は、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化珪素、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ニッケル等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化マグネシウム、窒化ケイ素等の金属窒化物、フッ化アルミニウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の金属フッ化物、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン等の金属炭化物等が挙げられる。無機材料は、電解質に対する化学的安定性等の点から、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムのうちの少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。
【0051】
絶縁層36中の無機材料の目付け量は、0.5~10mg/cmであることが好ましい。無機材料の目付け量が0.5mg/cm以上の場合、0.5mg/cm未満の場合と比較して、内部短絡による電池温度の上昇が抑制される。無機材料の目付け量が10mg/cmを超える絶縁層36は、コストが増加する場合があるため、望ましくない。
【0052】
無機材料の平均粒径は、内部短絡による電池温度の上昇をより抑制することが可能である点等から、0.05~2.0μmの範囲であることが好ましい。ここで、平均粒径とは、レーザ回折法によって測定される体積平均粒径であって、粒子径分布において体積積算値が50%となるメジアン径を意味する。平均粒径は、例えば、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製)を用いて測定できる。
【0053】
絶縁テープ30は、正極リード20の一端部20a上に配置されている絶縁層36を覆っていればよいが、さらに、露出部32a上に配置されている絶縁層36を覆っていることが好ましく、露出部32aと正極活物質層34との境界部の一部又は全部を覆っていることがより好ましい。これにより、電池内に混入した異物が露出部32aや境界部と接触し難くなり、電池の内部短絡の発生がより抑制される。さらに、絶縁テープ30は正極リード20の延出部20bの一部又は全体を覆っていてもよい。これにより、正極リード20と他の部材との接触により電池性能の低下が抑制される。
【0054】
絶縁テープ30の厚みは特に制限されるものではないが、例えば、10~40μmの範囲が好ましい。絶縁テープ30の厚みが10μm未満であると、電池内に混入した異物により破断し易くなる。また、絶縁テープ30の厚みが40μm超であると、所定の大きさのケース本体16に電極体14を納めるために他の構成部材の容積を減らす必要がある場合がある。
【0055】
<実施例A1>
正極活物質としてLiNi0.88Co0.09Al0.03で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を100重量部と、アセチレンブラック(AB)を1重量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を1重量部とを混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて、正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、乾燥させた。これを所定の電極サイズに切り取り、ローラーを用いて圧延し、正極集電体の両面に正極活物質層が形成された正極を作製した。正極の長手方向の略中央部に、正極活物質層が形成されておらず、正極集電体が露出した露出部(幅6mm)を形成した。形成した露出部に、厚さ150μm、幅3.5mmのアルミニウム製正極リードを超音波溶接で接合した。
【0056】
NMPに、95重量部の酸化アルミニウム(平均粒径2μm)及び5重量部のPVDFを分散させたスラリーをPETフィルム上に塗布・乾燥し、絶縁層を形成した。形成した絶縁層の酸化アルミニウムの目付け量は、0.5mg/cmであった。
【0057】
幅11mm、厚さ25μmのポリイミドフィルムからなる基材層にアクリル粘着剤からなる粘着層(厚さ7μm)を形成した絶縁テープを準備した。絶縁テープの粘着層に、PETフィルム上に形成した絶縁層を貼り付けた後、PETフィルムを剥がし、粘着層に絶縁層(幅7mm)を転写し、絶縁部材を作製した。
【0058】
正極リードの一端部の外表面及び露出部上に、絶縁部材の絶縁層が配置されるように絶縁部材を貼り付けた。すなわち、正極リードの一端部の外表面及び露出部上に配置された絶縁層は、絶縁テープにより覆われている。
【0059】
次に、負極集電体を薄板の銅箔とし、黒鉛端末と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、結着剤としてのスチレンーブタジエンゴム(SBR)とを、それぞれの質量比で98:1:1の割合で水に分散させて負極合剤スラリーを作成して集電体の両面に塗布し、乾燥させてロールプレスにより所定厚さとなるように圧縮した。負極の長手方向の端部に、負極活物質層が形成されておらず、負極集電体が露出した露出部を形成し、当該露出部にニッケルの負極リードを超音波溶接で接合した。
【0060】
そして、露出部上の負極リード及び露出部を絶縁テープで被覆した。絶縁テープは、厚さ25μmのポリプロピレンフィルムからなる基材層にゴム系樹脂からなる粘着層を形成したものである。
【0061】
作製した正極及び負極を、セパレータを介して渦巻き状に巻回することにより巻回型の電極体を作製した。セパレータにはポリエチレン製の微多孔膜の片面にポリアミドとアルミナのフィラーを分散させた耐熱層を形成したものを用いた。
【0062】
外径18mm、高さ65mmの有底円筒形状のケース本体に、上記電極体を収容した。この際、正極リードの他端部を封口体に溶接し、また、負極リードの他端をケース本体に溶接した。そして、ケース本体に、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で3:3:4となるように混合した混合溶媒に、LiPFを1mol/Lとなるように添加した非水電解液を注入した後、ガスケット及び封口体によりケース本体の開口部を封口して18650型の円筒形の非水電解質二次電池を作製した。
【0063】
<実施例A2>
絶縁層の酸化アルミニウムの目付け量を2.5mg/cmとしたこと以外は、実施例A1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0064】
<実施例A3>
絶縁層の酸化アルミニウムの目付け量を10mg/cmとしたこと以外は、実施例A1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0065】
<実施例A4>
絶縁層の酸化アルミニウムの平均粒径を0.5μmとしたこと以外は、実施例A1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0066】
<実施例A5>
絶縁層の酸化アルミニウムの平均粒径を0.5μmとしたこと、絶縁層の酸化アルミニウムの目付け量を2.5mg/cmとしたこと以外は、実施例A1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0067】
<実施例A6>
絶縁層の酸化アルミニウムの平均粒径を0.5μmとしたこと、絶縁層の酸化アルミニウムの目付け量を10mg/cmとしたこと以外は、実施例A1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0068】
<実施例A7>
絶縁層の酸化アルミニウムの平均粒径を0.05μmとしたこと以外は、実施例A1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0069】
<実施例A8>
絶縁層の酸化アルミニウムの平均粒径を0.05μmとしたこと、絶縁層の酸化アルミニウムの目付け量を2.5mg/cmとしたこと以外は、実施例A1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0070】
<実施例A9>
絶縁層の酸化アルミニウムの平均粒径を0.05μmとしたこと、絶縁層の酸化アルミニウムの目付け量を10mg/cmとしたこと以外は、実施例A1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0071】
<実施例A10>
NMPに、95重量部の酸化アルミニウム(平均粒径1μm)及び5重量部のPVDFを分散させたスラリーを、正極リードの一端部の外表面及び露出部に塗布・乾燥し、絶縁層を形成した。形成した絶縁層の酸化アルミニウムの目付け量は、1mg/cmであった。形成した絶縁層を覆うように絶縁テープを貼り付けた。絶縁テープは、幅11mm、厚さ25μmのポリイミドフィルムからなる基材層にアクリル粘着剤からなる粘着層(厚さ7μm)を形成したものである。
【0072】
<比較例1>
正極リードの一端部の外表面及び露出部に絶縁層を配置しなかったこと以外は、実施例A1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0073】
各実施例及び比較例の非水電解質二次電池について、異物短絡時の電池温度を測定した。異物短絡時の電池温度は、絶縁テープの上に異物(ニッケル小片)を仕込み、JIS C 8714に従い、強制的に短絡させた時の電池の側部の温度を熱電対で測定した時の最高到達温度である。表1に各実施例及び比較例の結果を示す。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例A1~A2及び比較例1では、異物混入による内部短絡が発生した。しかし、正極リードの一端部の外表面に絶縁層を配置し、その絶縁層を絶縁テープで被覆した実施例A1~A2は、正極リードの一端部の外表面に絶縁層を配置せずに、単に絶縁テープで覆った比較例より、内部短絡時の電池温度が著しく低下し、電池温度の上昇が抑制された。また、実施例A3~A10は、実施例A1,A2より、電池温度の上昇が抑制されたが、特に、実施例A6,A8,A9,A10は、内部短絡自体起こらず、電池温度の上昇が見られなかった。
【0076】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について説明したが、第1実施形態と重複する説明は、適宜、省略した。図6に示すように、正極リード20の一端部20aの外表面には絶縁層46が形成されている。
【0077】
図6では、絶縁層46が、正極リード20の一端部20aの一主面に形成されているが、これに制限されるものではなく、正極リード20の一端部20aの外表面全部又は一部に形成されていればよい。すなわち、平板状の正極リード20では、絶縁層46は、一端部20aの一主面の一部又は全部に形成されていてもよいし、一対の側面の一部又は全部に形成されていてもよいし、或いは、一端部20aの一主面及び一対の側面の一部又は全部に形成されていてもよい。
【0078】
絶縁層46は、正極リード20上に自然に形成される自然酸化皮膜とは異なるものであり、自然酸化皮膜より高い電気抵抗を有する。絶縁層46は、例えば、1MΩ以上の電気抵抗を有することが好ましく、10MΩ以上の電気抵抗を有することがより好ましい。絶縁層46は、例えば、陽極酸化皮膜等の酸化皮膜、リン酸塩皮膜、クロメート皮膜(クロム酸塩皮膜)、スズ酸塩皮膜、フッ化物皮膜等が挙げられるが、絶縁性、緻密性等の点で、陽極酸化皮膜等の酸化皮膜、リン酸塩皮膜が好ましい。
【0079】
リン酸塩皮膜は、例えば、アルミニウム又はアルミニウムを主体とする合金を含む正極リード20をリン酸塩溶液中に所定時間浸漬することにより形成される。溶液中に浸漬した後の正極リード20は、例えば30℃~50℃の範囲で乾燥処理することが望ましい。リン酸塩溶液は、例えば、絶縁性、緻密性の高い絶縁層46が得られる等の点で、リン酸、無水クロム酸及びフッ化物を含む溶液、又はリン酸、第1リン酸亜鉛及びフッ化物を含む溶液を用いることが好ましい。正極リード20をリン酸、無水クロム酸及びフッ化物を含む溶液に浸漬させることで、リン酸クロメート皮膜(具体的組成は、例えば、Al、CrPO等である)が形成される。また、正極リード20をリン酸、第1リン酸亜鉛及びフッ化物を含む溶液に浸漬させることで、リン酸亜鉛皮膜(具体的組成は、例えば、Zn(PO、AlPO等である)が形成される。
【0080】
陽極酸化皮膜は、例えば、JIS H 9500、JIS H 9501に規定される方法により形成される。例えば、アルミニウム又はアルミニウムを主体とする合金を含む正極リード20を、20%硫酸溶液中に浸漬させ、20Vの印加電圧で陽極酸化することで、陽極酸化皮膜(アルマイト)が形成される。当該陽極酸化皮膜の具体的組成は、例えば、酸化アルミニウム等である。溶液は、硫酸に限定されず、例えば、リン酸、シュウ酸等でもよい。
【0081】
陽極酸化皮膜以外の酸化皮膜としては、例えば、ベーマイト皮膜等が挙げられる。これらの酸化皮膜は、例えば水熱処理等により形成される。酸化皮膜の中では、絶縁性、緻密性の高い酸化皮膜が得られる点で、陽極酸化皮膜が好ましい。
【0082】
絶縁皮膜36は、陽極酸化皮膜等の酸化皮膜やリン酸塩皮膜等の単層構造でもよいし、陽極酸化皮膜等の酸化皮膜及びリン酸塩皮膜等を積層した積層構造でもよい。
【0083】
図2および図6に示す絶縁テープ30は、正極11の一主面側及び他主面側の両方に配置されているが、正極リード20が配置されている正極11の一主面側に配置されていればよい。一主面側に配置されている絶縁テープ30は、正極リード20の一端部20a上に形成されている絶縁層46、露出部32a、露出部32aと正極活物質層34との境界部を覆っている。また、他主面側に配置されている絶縁テープ30は、露出部32a、露出部32aと正極活物質層34との境界部を覆っている。
【0084】
絶縁テープ30は、少なくとも基材層から構成されていればよく、粘着層は必須の構成要素ではない。粘着層を設けない絶縁テープを用いる場合には、例えば、貼り付け部位に粘着剤を塗布し、その上に絶縁テープを貼り付ければよい。
【0085】
このように、正極集電体32の露出部32aに接続された正極リード20の一端部20aの外表面に絶縁層46を形成し、その絶縁層46を絶縁テープ30で覆うことにより、電池内に混入した異物が絶縁テープ30を突き破り、絶縁テープ30が破断しても、絶縁層46が形成された正極リード20が露出するため、正極リード20と負極12との間での内部短絡が抑えられる。仮に、異物が絶縁層46を貫通して正極リード20に達し、正極リード20と負極12との間で内部短絡が発生した場合でも、異物の周囲に存在する絶縁層46は、大きな短絡抵抗として作用するため、内部短絡による電池の発熱が抑えられ、電池温度の上昇が抑制される。
【0086】
絶縁層46は、正極リード20の一端部20aの外表面に形成されていればよいが、さらに正極リード20の延出部20bに形成されていることが好ましい。これにより、正極リード20と他の部材との接触による導通が抑制され、電池性能の低下が抑えられる。絶縁層46は、延出部20bの一部に形成されていても、全体に形成されていてもよい。
【0087】
絶縁層46は、正極リード20の他端部20c(図1参照)に形成されていてもよいが、正極リード20の他端部20cに絶縁層46が形成されていると、図1に示す封口体17との接触抵抗が増加し、電池性能が低下する場合がある。したがって、絶縁層466は、正極リード20の他端部20cに形成されていないことが好ましい。
【0088】
絶縁層46の厚みは、例えば、2~30μmの範囲であることが好ましい。絶縁層46の厚みを2μm以上とすることで、2μm未満の場合と比較して、異物によって絶縁テープ30が破断した際の内部短絡の発生又は電池温度の上昇が抑制される。厚みが30μmを超える絶縁層は、皮膜形成に掛かる時間やコストが増加するため、望ましくない。
【0089】
絶縁層46の突き刺し破断強度は、絶縁テープ30の突き刺し破断強度より高いことが好ましい。これにより、電池の内部短絡の発生を効果的に抑制することが可能となる。突き刺し破断強度の測定方法は、実施例の欄で説明する。
【0090】
絶縁テープ30は、正極リード20の一端部20a上に形成されている絶縁層46を覆っていればよいが、さらに、露出部32aの一部又は全部、露出部32aと正極活物質層34との境界部の一部又は全部を覆っていることが望ましい。これにより、電池内に混入した異物が露出部32aや境界部と接触し難くなり、電池の内部短絡の発生がより抑制される。さらに、絶縁テープ30は正極リード20の延出部20bの一部又は全体を覆っていてもよい。これにより、正極リード20と他の部材との接触による内部短絡が抑制される。
【0091】
<実施例B1>
正極活物質としてLiNi0.88Co0.09Al0.03で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を100重量部と、アセチレンブラック(AB)を1重量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を1重量部とを混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて、正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、乾燥させた。これを所定の電極サイズに切り取り、ローラーを用いて圧延し、正極集電体の両面に正極活物質層が形成された正極を作製した。正極の長手方向の略中央部に、正極活物質層が形成されておらず、正極集電体が露出した露出部を形成した。
【0092】
厚さ150μm、幅3.5mmのアルミニウム製正極リードを所定の長さに裁断した。この正極リードにおいて、正極集電体の露出部及び封口体に溶接する部分をマスキングした後、20%硫酸溶液中に浸漬し、印加電圧20Vで陽極酸化し、正極リード上に、厚さ2μmの陽極酸化皮膜を形成した。
【0093】
陽極酸化皮膜の突き刺し破断強度は、1Nであった。陽極酸化皮膜の突き刺し破断強度は以下のようにして測定した。正極リード上の陽極酸化皮膜に、ステンレス製釘(直径3mm、先端角度35°)を押し付け、ステンレス製釘の加重を増加させながらステンレス製釘と正極リード間の電気抵抗を測定する。そして、絶縁破壊を示す電気抵抗が観測された時の加重を突き刺し破断強度とする。
【0094】
正極リードにおいて、陽極酸化皮膜が形成されていない部分を正極集電体の露出部に接触させ、超音波溶接により接合した。すなわち、正極リードは、露出部に接続されている一端部、正極集電体の周縁部外側に延出している延出部、延出部より先端側で封口体に接続される他端部を有し、一端部の外表面及び延出部に陽極酸化皮膜が形成されている正極リードとなる。
【0095】
次に、負極集電体を薄板の銅箔とし、黒鉛端末と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、結着剤としてのスチレンーブタジエンゴム(SBR)とを、それぞれの質量比で98:1:1の割合で水に分散させて負極合剤スラリーを作成して集電体の両面に塗布し、乾燥させてロールプレスにより所定厚さとなるように圧縮した。負極の長手方向の端部に、負極活物質層が形成されておらず、負極集電体が露出した露出部を形成し、当該露出部にニッケルの負極リードを超音波溶接で接合した。
【0096】
正極リードの一端部の外表面に形成された陽極酸化皮膜及び露出部を絶縁テープで被覆した。負極側も、露出部上の負極リード及び露出部を絶縁テープで被覆した。絶縁テープは、厚さ25μmのポリイミドフィルムからなる基材層と、ゴム系樹脂からなる粘着層とから構成されたものを用いた。
【0097】
絶縁テープの突き刺し破断強度は2Nであった。絶縁テープの突き刺し破断強度は以下のようにして測定した。厚さ150μmのアルミニウム板に貼り付けた絶縁テープに、ステンレス製釘(直径3mm、先端角度35°)を押し付け、ステンレス製釘の加重を増加させながら、ステンレス製釘とアルミニウム板の電気抵抗を測定する。そして、絶縁破壊を示す電気抵抗が観測された時の加重を突き刺し破断強度とする。
【0098】
作製した正極及び負極を、セパレータを介して渦巻き状に巻回することにより巻回型の電極体を作製した。セパレータにはポリエチレン製の微多孔膜の片面にポリアミドとアルミナのフィラーを分散させた耐熱層を形成したものを用いた。
【0099】
外径18mm、高さ65mmの有底円筒形状のケース本体に、上記電極体を収容した。この際、正極リードの他端部を封口体に溶接し、また、負極リードの他端をケース本体に溶接した。そして、ケース本体に、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で3:3:4となるように混合した混合溶媒に、LiPFを1mol/Lとなるように添加した非水電解液を注入した後、ガスケット及び封口体によりケース本体の開口部を封口して18650型の円筒形の非水電解質二次電池を作製した。
【0100】
<実施例B2>
陽極酸化処理の電気量を調節して、正極リード上に、厚さ10μmの陽極酸化皮膜を形成したこと以外は、実施例B1と同様に非水電解質二次電池を作製した。陽極酸化皮膜の突き刺し破断強度は、2Nであった。
【0101】
<実施例B3>
陽極酸化処理の電気量を調節して、正極リード上に、厚さ15μmの陽極酸化皮膜を形成したこと以外は、実施例B1と同様に非水電解質二次電池を作製した。陽極酸化皮膜の突き刺し破断強度は、2.7Nであった。
【0102】
<実施例B4>
陽極酸化処理の電気量を調節して、正極リード上に、厚さ20μmの陽極酸化皮膜を形成したこと以外は、実施例B1と同様に非水電解質二次電池を作製した。陽極酸化皮膜の突き刺し破断強度は、3.1Nであった。
【0103】
<実施例B5>
陽極酸化処理の電気量を調節して、正極リード上に、厚さ25μmの陽極酸化皮膜を形成したこと以外は、実施例B1と同様に非水電解質二次電池を作製した。陽極酸化皮膜の突き刺し破断強度は、3.5Nであった。
【0104】
<実施例B6>
陽極酸化処理の電気量を調節して、正極リード上に、厚さ30μmの陽極酸化皮膜を形成したこと以外は、実施例B1と同様に非水電解質二次電池を作製した。陽極酸化皮膜の突き刺し破断強度は、3.7Nであった。
【0105】
<比較例2>
正極リード上に陽極酸化皮膜を形成しなかったこと以外は、実施例B1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0106】
各実施例及び比較例の非水電解質二次電池について、異物短絡時の電池温度を測定した。異物短絡時の電池温度は、絶縁テープの上に異物(ニッケル小片)を仕込み、JIS C 8714に従い、強制的に短絡させた時の電池の側部の温度を熱電対で測定した時の最高到達温度である。表2に各実施例及び比較例の結果を示す。
【0107】
【表2】
【0108】
実施例B1~B2及び比較例2では、異物混入による内部短絡が発生した。しかし、正極リードの一端部の外表面に絶縁皮膜を形成し、その絶縁皮膜を絶縁テープで被覆した実施例B1~B2は、正極リードの一端部の外表面に絶縁皮膜を形成せずに、単に絶縁テープで覆った比較例2より、内部短絡時の電池温度が著しく低下し、電池温度の上昇が抑制された。また、正極リードの一端部の外表面に形成した絶縁皮膜の突き刺し破断強度を絶縁テープの突き刺し破断強度より高くした実施例B3~B6は、内部短絡自体起こらず、電池温度の上昇が見られなかった。
【符号の説明】
【0109】
10 二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
15 電池ケース
16 ケース本体
17 封口体
18,19 絶縁板
20 正極リード
20a 一端部
20b 延出部
20c 他端部
21 負極リード
22 張り出し部
23 フィルタ
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット
30 絶縁テープ
30a 基材層
30b 粘着層
32 正極集電体
32a 露出部
32b 周縁部
34 正極活物質層
36,46 絶縁層
39 絶縁部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7