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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】金属張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20230120BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
B32B15/08 J
H05K1/03 630H
H05K1/03 610M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020553864
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2019042051
(87)【国際公開番号】W WO2020090688
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018203324
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 雅也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 義則
(72)【発明者】
【氏名】古森 清孝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 広明
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/114262(WO,A1)
【文献】特開2011-230308(JP,A)
【文献】特開2010-221694(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154811(WO,A1)
【文献】福地 亮,新井 英太,伝送損失低減への銅箔からのアプローチ,エレクトロニクス実装学会誌,2015年,Vol.18, No5,第319-323頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマーを含有する絶縁層と、
前記絶縁層に重なる金属箔と、を備える金属張積層板であって、
前記金属箔は銅箔であり、前記金属箔における前記絶縁層と重なる面の、前記金属張積層板の断面から求められる粗さ曲線から算出される輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、10μm以上45μm以下であり、
前記金属張積層板の板厚精度が、±20%未満であり、
前記金属箔の、前記絶縁層からの引き剥がし強度は、0.8N/mm以上である、
金属張積層板を製造する方法において、
前記液晶ポリマーを含有する絶縁フィルムと、前記絶縁フィルムに重ねられている前記金属箔とを含む積層物を、ダブルベルトプレス方式で熱プレスすることを含み、
前記積層物を熱プレスするときの、最高加熱温度は、前記絶縁フィルムの融点より5℃低い温度以上、前記融点より20℃高い温度以下であり、前記最高加熱温度が維持される時間は20秒以上120秒以下である、
金属張積層板の製造方法。
【請求項2】
前記粗さ曲線から算出される十点平均粗さ(Rzjis)は、0.5μm以上3μm以下である、
請求項1に記載の金属張積層板の製造方法
【請求項3】
前記断面に現れる、前記金属箔と前記絶縁層との間の空隙の個数は、前記金属箔と前記絶縁層とが対向する方向と直交する方向の長さ10μm当たり、3個以下である、
請求項1又は2に記載の金属張積層板の製造方法
【請求項4】
板厚精度が、±10%以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属張積層板の製造方法
【請求項5】
IPC-TM650 No.2.2.4に規定される寸法変化率が±0.1%以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の金属張積層板の製造方法
【請求項6】
前記液晶ポリマーの融点が、300℃以上345℃以下である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の金属張積層板の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属張積層板、及び金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フレキシブルプリント配線板用積層板(金属張積層板)が開示されている。この金属張積層板は、その製造時に、絶縁フィルムと金属箔とを重ねて熱圧成形されている。これにより、絶縁フィルムが金属箔に溶着することで、絶縁フィルムからなる絶縁層と金属箔とが密着している。
【0003】
しかし、特許文献1の場合、絶縁層と金属箔との密着強度(金属箔の、絶縁層からの引き剥がし強度)を高めるために、絶縁フィルムに金属箔を溶着させる際の加熱温度を高めたり、加圧力を強くしたりすることが求められやすい。このため、最終生成物である金属張積層板は良好な板厚精度を得にくい可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-221694号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の目的は、良好な板厚精度と、良好な引き剥がし強度とを有する金属張積層板の製造方法を提供することである。
【0006】
本開示の一態様は、液晶ポリマーを含有する絶縁層と、前記絶縁層に重なる金属箔と、を備える金属張積層板である。前記金属箔における前記絶縁層と重なる面の、前記金属張積層板の断面から求められる粗さ曲線から算出される輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、10μm以上65μm以下であり、前記金属張積層板の板厚精度が、±20%未満である。前記金属箔の、前記絶縁層からの引き剥がし強度は、0.8N/mm以上である。
【0007】
本開示の一態様の金属張積層板の製造方法は、前記金属張積層板を製造する方法である。前記製造方法は、前記液晶ポリマーを含有する絶縁フィルムと、前記絶縁フィルムに重ねられている前記金属箔とを含む積層物を、ダブルベルトプレス方式で熱プレスすることを含む。
【0008】
本開示によれば、良好な板厚精度と、良好な引き剥がし強度とを有する金属張積層板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る金属張積層板の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、上記実施形態に係る金属張積層板の一部分を示す断面写真である。
図3図3は、上記実施形態に係る金属張積層板の説明図である。
図4図4は、比較例2に係る金属張積層板の一部分を示す断面写真である。
図5図5は、一実施形態に係る金属張積層板の製造方法の説明図である。
図6図6は、上記製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を実施するための形態を説明する。
【0011】
<金属張積層板>
まず、一実施形態に係る金属張積層板1を図1図4を参照して説明する。
【0012】
金属張積層板1は、図1のように、絶縁層21と、金属箔3とを備える。絶縁層21は、液晶ポリマーを含有する。金属箔3は、絶縁層21に重なっている。金属箔3の、絶縁層21からの引き剥がし強度は、0.8N/mm以上であり、金属張積層板1の板厚精度は、±20%未満である。
【0013】
板厚精度が±20%未満であるとは、具体的には、金属張積層板1の平均厚みがTである場合、最大厚みがT×1.20未満であり、かつ最小厚みがT×0.8よりも大きいことである。これにより、金属張積層板1は、安定した厚みを得ることができ、かつ金属張積層板1から作製されるプリント配線板は良好な高周波伝送特性を得ることができる。金属張積層板1の板厚精度は、好ましくは、±10%以下、すなわち最大厚みがT×1.10未満であり、かつ最小厚みがT×0.9よりも大きい。
【0014】
金属張積層板1の、最大厚み、及び最小厚みは、例えば下記の方法で得られる。まず、金属張積層板1の任意の10箇所において、各箇所の金属張積層板1の厚みを測定する。そして、10箇所の厚みのうちの最大値及び最小値が、それぞれ最大厚み及び最小厚みとなる。また、10箇所の厚みから平均値を算出することで、金属張積層板1の平均厚みが得られる。金属張積層板1の平均厚みは、好ましくは、25μm以上300μm以下である。
【0015】
また、金属箔3における絶縁層21と重なる面の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、10μm以上65μm以下である。輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、金属張積層板1の任意の断面に現れる、金属箔3の、絶縁層21と接する面の形状から、導出される。この断面は、金属箔3と絶縁層21とが重なる方向と平行であり、かつ金属箔3と絶縁層21とが重なる方向と直交する方向の長さが10μmである。
【0016】
具体的には、まず図2に示すような、金属張積層板1の長さbが10μmの断面の画像を得る。この断面に現れる金属箔3の、絶縁層21と接する面の形状から、図3のような粗さ曲線cを求める。粗さ曲線cは、図2の断面において、例えば金属箔3と絶縁層21とが対向する方向と直交する方向と平行な、断面に沿った仮想直線を、金属箔3の断面における絶縁層21と接する面に向けて垂直投影させた場合に、断面に現れる投影線である。この粗さ曲線cから輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)を、JIS B 0601:2001に準拠して算出する。なお、図3に示される長さaは、図2の長さbと同様、10μmである。
【0017】
輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以上であることで、絶縁層21と金属箔3とが噛み合いやすくなり、これにより、絶縁層21と金属箔3との密着性(引き剥がし強度)が大きくなりやすい。また、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が65μm以下であることで、絶縁層21と金属箔3との間で空隙が生じにくくなる。このため、空隙による密着性低下が生じ難く、かつ金属張積層板1は良好な板厚精度を得やすい。しかも、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以上65μm以下であることで、金属張積層板1から作製されるプリント配線板は良好な高周波伝送特性を得やすくなる。
【0018】
本実施形態に係る金属張積層板1では、図3のような粗さ曲線cから算出される十点平均粗さ(Rzjis)は、好ましくは、0.5μm以上3μm以下である。この場合、絶縁層21と金属箔3とが更に噛み合いやすくなり、かつ絶縁層21と金属箔3との間で空隙が更に生じにくい。このため、絶縁層21と金属箔3との密着性(引き剥がし強度)が更に大きくなりやすい。十点平均粗さ(Rzjis)は、JIS B 0601:2001に準拠して算出される。
【0019】
また、金属張積層板1では、低い寸法変化率が得られる。この寸法変化率は、IPC-TM650 No.2.2.4のC法に準拠して算出される。このようにして得られる寸法変化率は、好ましくは、±0.1%以下である。このような低い寸法変化率は、絶縁層21の内部応力が軽減されていることに起因する。このため、金属張積層板1から作製されるプリント配線板(第一配線板という)に、絶縁層と導体配線とを備える別のプリント配線板(第二配線板という)を積層して多層のプリント配線板を作製する場合、第一配線板における導体配線と第二配線板における導体配線との間でズレが生じにくくなる。これにより、多層プリント配線板に導体配線間を接続するスルーホールを作製する場合のスルーホールと導体配線との間の位置ズレも生じにくくなる。
【0020】
本実施形態では、金属箔3は、金属張積層板1に利用できる金属製のフィルムであればよい。金属箔3は、例えば銅箔である。また、金属箔3の厚みは、例えば6μm以上70μm以下である。
【0021】
金属箔3が銅箔である場合、銅箔の例は、電解銅箔、及び圧延銅箔を含む。
【0022】
また、絶縁層21は、上記の通り、液晶ポリマーを含有する。液晶ポリマーの融点は、好ましくは、300℃以上345℃以下である。液晶ポリマーの融点は、例えば後述の絶縁フィルム2の融点を示差走査熱量測定法(Differential scanning calorimetry(DSC))で測定することにより得られる。
【0023】
液晶ポリマーの例は、ポリアリレート系液晶ポリマー、全芳香族ポリエステル、半剛直性芳香族ポリエステル、ポリエステルアミド、芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物を原料とする共重合体、芳香族又は脂肪族ジカルボン酸を原料とする共重合体、芳香族ヒドロキシカルボン酸を原料とする共重合体、芳香族ジアミンを原料とする共重合体、及び芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸を原料とする共重合体を含む。液晶ポリマーは、上記化合物のうちの少なくとも1つを含有する。
【0024】
絶縁層21は、フィラー等の添加剤を更に含有してもよい。また、絶縁層21は、液晶ポリマーのみを含有してもよい。
【0025】
また、本実施形態に係る金属張積層板1では、図2のような断面に現れる、金属箔3と絶縁層21との間の空隙の個数は、好ましくは、金属箔3と絶縁層21とが対向する方向と直交する方向の長さ10μm当たり、3個以下である。この場合、絶縁層21と金属箔3との噛み合いが向上し、絶縁層21と金属箔3との密着性(引き剥がし強度)を向上させることができる。絶縁層21と金属箔3との間に現れる空隙の個数は、少ないほど好ましく、0個であることが特に好ましい。なお、空隙は、図4のような絶縁層21と金属箔3との境界にある空隙23である。
【0026】
本実施形態に係る金属張積層板1は、例えば、ダブルベルトプレス方式で製造される。
【0027】
<金属張積層板の製造方法>
次に、一実施形態に係る金属張積層板1の製造方法を図5及び図6を参照して説明する。
【0028】
本製造方法は、金属張積層板1を製造する方法である。このため、本実施形態は、金属張積層板1の説明を参照できる。
【0029】
本製造方法は、準備工程と、成形工程とを含む。
【0030】
準備工程は、絶縁フィルム2と、金属箔3とを用意する工程である。金属箔3における、絶縁フィルム2に重ねられる面(以下、接触面という)のJIS B 0601:2001に規定される十点平均粗さ(Rzjis)は、好ましくは0.5μm以上3μm以下である。このような十点平均粗さ(Rzjis)の接触面を有する金属箔3を金属張積層板1の製造に用いることで、金属張積層板1の断面における金属箔3の、絶縁層21と接する面の形状から求めた、図3のような粗さ曲線cから算出される十点平均粗さ(Rzjis)を得ることができる。また、十点平均粗さ(Rzjis)は、1.0μm以上2.5μm以下であってもよい。
【0031】
接触面の、JIS B 0601:2001に規定される輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が、10μm以上65μm以下であることが好ましく、20μm以上65μm以下であることが更に好ましい。このような平均長さ(RSm)の接触面を有する金属箔3を金属張積層板1の製造に用いることで、金属張積層板1の断面における金属箔3の、絶縁層21と接する面の形状から求めた、図3のような粗さ曲線cから算出される輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)を得ることができる。
【0032】
接触面の粗さは、例えば金属箔3の表面に対して適宜の粗化処理を施すことで調整される。また、金属箔3が電解銅箔である場合には、電解銅箔の製造時に形成される電解銅箔のマット面を、上記のような粗さを有するようにして、このマット面を接触面としてもよい。
【0033】
絶縁フィルム2は、液晶ポリマーを含有する。このような絶縁フィルム2の融点は、好ましくは、300℃以上345℃以下である。絶縁フィルム2の融点は、例えば示差走査熱量測定法(Differential scanning calorimetry(DSC))で測定することにより得られ得る。また、絶縁フィルム2の厚みは、任意に選択されるが、例えば12.5μm以上200μm以下である。
【0034】
絶縁フィルム2は、フィラー等の添加剤を更に含有してもよい。また、絶縁フィルム2は、液晶ポリマーのみを含有してもよい。絶縁フィルム2が添加剤を含有する場合、絶縁フィルム2の融点と液晶ポリマー(液晶ポリマーのみを含有する絶縁フィルム)の融点とは、好ましくは、同じである。
【0035】
また、準備工程中、絶縁フィルム2及び金属箔3は、それぞれ一旦巻き取られてロール状に形成される。そして、ロール状の絶縁フィルム2は後述の繰出機5に設置され、ロール状の金属箔3は後述の繰出機6に設置される。
【0036】
本実施形態では、準備工程後、成形工程が行われる。
【0037】
成形工程は、絶縁フィルム2と、絶縁フィルム2に重ねられている金属箔3とを含む積層物から金属張積層板を形成する工程であって、図5のような金属張積層板製造放置(以下、製造装置という)で行われる。
【0038】
製造装置は、絶縁フィルム2を繰り出す繰出機5と、金属箔3を繰り出す繰出機6と、金属張積層板1を巻き取る巻取機8と、繰出機5、6及び巻取機8の間にあるダブルベルトプレス装置7とを備える。
【0039】
ダブルベルトプレス装置7は、一対のエンドレスベルト4と、ドラム9と、一対の熱圧装置10とを備える。一対のエンドレスベルト4は、その間に上記の積層物を挟むようにして上下に配置されている。一対のエンドレスベルト4のうち、一方のエンドレスベルト4は二つのドラム9の間に掛け回されており、他方のエンドレスベルト4は二つのドラム9の間に掛け回されている。一対の熱圧装置10は、その間にエンドレスベルト4、4と積層物とを挟むようにして設けられている。そして、熱圧装置10は、エンドレスベルト4を介して積層物を熱プレスする。熱圧装置10は、例えば液圧プレートを含む。液圧プレートは、加熱された液体の液圧によってエンドレスベルト4を介して積層物を熱プレスするように構成されている。
【0040】
エンドレスベルト4は、具体的に限定されないが、例えば金属製である。
【0041】
また、上下に対向する一対のドラム9は、積層物を巻取機8に向かって送り出すように回転する。この回転に合わせて、一対のエンドレスベルト4は回転する。
【0042】
成形工程中、繰出機5は、絶縁フィルム2をロール状に巻かれた状態を保持し、かつ絶縁フィルム2をダブルベルトプレス装置7へ連続的に供給する。繰出機6は、金属箔3をロール状に巻かれた状態を保持し、かつ金属箔3をダブルベルトプレス装置7へ連続的に供給する。そして、繰出機5、6と、ダブルベルトプレス装置7との間で絶縁フィルム2と、絶縁フィルム2に重ねられている金属箔3とを含む積層物が形成され、この積層物を、ダブルベルトプレス方式で熱プレスする。ダブルベルトプレス方式は、ダブルベルトプレス装置7で行われる。
【0043】
成形工程にダブルベルトプレス方式を採用することで、一対のエンドレスベルト4を介して、積層物の加圧面全体に均一な圧力が加えられる。これにより、絶縁フィルム2に加えられる圧力にバラツキが生じにくくなり、成形工程後に得られる金属張積層板1の絶縁層21に内部応力が生じにくくなる。このため、金属張積層板1の寸法変化率が低く安定しやすい。
【0044】
積層物を熱プレスする際、例えば、ダブルベルトプレス装置7に近づくにつれて積層物が加熱される。次に積層物は、ドラム9を通過する際に更に加熱され、熱圧装置10を通過しながらエンドレスベルト4を介して熱プレスされ、かつ最高加熱温度まで加熱される。そして熱プレスされた積層物はドラム9を通過して熱圧装置10から離れるに従って、冷却される。
【0045】
エンドレスベルト4を介して熱圧装置10により積層物を熱プレスするときの最高加熱温度は、好ましくは、絶縁フィルム2の融点より5℃低い温度以上、絶縁フィルム2の融点より20℃高い温度以下である。この場合、得られる金属張積層板1の、絶縁層21と金属箔3との間で空隙が生じにくくなり、絶縁層21と金属箔3とで高い密着強度(引き剥がし強度)を得ることができる。これに加えて、金属張積層板1は良好な板厚精度を得ることができる。この板厚精度により、金属張積層板1は良好な高周波伝送特性を得やすくなる。また、最高加熱温度が維持される時間は、好ましくは、20秒以上120秒以下である。この場合、得られる金属張積層板1の、絶縁層21と金属箔3との間で空隙が生じにくくなり、絶縁層21と金属箔3とで高い密着性を得ることができる。これに加えて、金属張積層板1は良好な板厚精度を得ることができる。この板厚精度により、金属張積層板1は高周波伝送特性を得やすくなる。
【0046】
積層物を熱プレスするときの圧力は、好ましくは、2MPa以上5MPa以下であることが好ましい。この場合、得られる金属張積層板1の、絶縁層21と金属箔3と間で空隙が生じにくくなり、絶縁層21と金属箔3とで高い密着性を得ることができる。また、上記の圧力は、4.0MPa未満であってもよく、3.5MPa以下であってもよい。
【0047】
また、成形工程中、絶縁フィルム2に不均一な圧力が加わると、得られる金属張積層板1の板厚精度が低下し、これにより高周波伝送特性が低下する傾向がある。そこで、ダブルベルトプレス装置7で熱プレスすることで絶縁フィルム2に均一な圧力をかけることができる。これにより、金属張積層板1の板厚精度を向上させることができ、金属張積層板1は良好な高周波伝送特性を得ることができる。
【0048】
本実施形態では、ダブルベルトプレス装置7から連続的に送り出された金属張積層板1は、巻取機8でロール状に巻き取られる。
【0049】
このようにして製造された金属張積層板1は、プリント配線板の製造に利用できる。例えば金属張積層板1が有する金属箔3に任意の配線加工を施すことで、プリント配線板を製造できる。このプリント配線板に、更に絶縁層と導体配線とを適宜の手法で追加することで、プリント配線板を多層化することもできる。
【0050】
絶縁層の材料は、絶縁層21と同じであってもよく、又は絶縁層21と異なっていてもよい。
【0051】
金属層の材料は、金属箔3と同じであってもよく、又は金属箔3と異なっていてもよい。
【0052】
<変形例>
上記実施形態では、金属張積層板1は、両面金属張積層板であるが、片面金属張積層板であってもよい。片面金属張積層板を製造する際、2つの繰出機6のうち一方の繰出機6から剥離シートを絶縁フィルム2と重ねてダブルベルトプレス装置7に供給される。剥離シートは、絶縁層21との離型性を有していれば、任意のシート材であってもよい。剥離シートは、例えば、離型性と耐熱性との両方が得られる、ポリイミド樹脂、及びテトラフルオロエチレン樹脂等の樹脂材料から形成される。
【実施例
【0053】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。
【0054】
〔実施例、及び比較例〕
各実施例、及び比較例は、次の材料を用いて行われた。
【0055】
<金属箔3>
・金属箔A:福田金属箔粉工業社製「TP4-S」(銅箔)。
・金属箔B:古河電工社製「F2WS」(銅箔)。
・金属箔C:三井金属鉱業製「3EC-VLP」(銅箔)。
・金属箔D:三井金属鉱業製「TQ-M7-VSP」(銅箔)。
・金属箔E:JX金属(株)製「BHFX-P92C-HA-V2」(銅箔)。
【0056】
<絶縁フィルム2>
・絶縁フィルムA:株式会社クラレ製「ベクスターCT-Z」。
・絶縁フィルムB:株式会社クラレ製「ベクスターCT-Q」。
【0057】
[実施例1]
図5に示す構造を有する金属張積層板製造装置を用いて、2つの金属箔Aの粗面の間に絶縁フィルムAを挟んで積層物を作製し、この積層物をダブルベルトプレス方式で熱プレスすることで、金属張積層板を製造した。積層物の熱プレス時の圧力は3.5MPaであり、最高加熱温度は335℃であり、最高加熱温度が維持される時間は30秒であった。
【0058】
[実施例2]
金属箔Aの代わりに、金属箔Bを用いた以外は、実施例1と同様の方法で金属張積層板1を製造した。
【0059】
[実施例3]
絶縁フィルムAの代わりに、絶縁フィルムBを用い、3.5MPaの圧力のもと、310℃の最高加熱温度を50秒間維持させて積層物を熱プレスした以外は、実施例1と同様の方法で金属張積層板1を製造した。
【0060】
[実施例4]
2つの金属箔Cの粗面の間に絶縁フィルムBを挟んで積層物を作製した。次に、この積層物をダブルベルトプレス方式で表1に示す条件で熱プレスして両面金属張積層板(金属張積層板1)を製造した。
【0061】
[実施例5]
2つの金属箔Dの粗面の間に絶縁フィルムBを挟んで積層物を作製した。次に、この積層物をダブルベルトプレス方式で表1に示す条件で熱プレスして両面金属張積層板(金属張積層板1)を製造した。
【0062】
[実施例6]
2つの金属箔Eの粗面の間に絶縁フィルムBを挟んで積層物を作製した。次に、この積層物をダブルベルトプレス方式で表1に示す条件で熱プレスして両面金属張積層板(金属張積層板1)を製造した。
【0063】
[比較例1]
2つの金属箔Aの粗面の間に絶縁フィルムAを挟んで積層物を作製した。次に、後掲の表1に示す条件で、積層物を2つの成形盤の間で熱プレスして両面金属張積層板(金属張積層板1)を製造した。
【0064】
[比較例2]
2つの金属箔Bの粗面の間に絶縁フィルムBを挟んで積層物を作製した。次に、後掲の表1に示す条件で、積層物を2つの成形盤の間で熱プレスして両面金属張積層板(金属張積層板1)を製造した。
【0065】
[比較例3]
2つの金属箔Aの粗面の間に絶縁フィルムAを挟んで積層物を作製した。次に、後掲の表1に示す条件で、積層物を2つのロールの間で熱プレスして両面金属張積層板(金属張積層板1)を製造した。
【0066】
[比較例4]
2つの金属箔Bの粗面の間に絶縁フィルムBを挟んで積層物を作製した。次に、後掲の表1に示す条件で、積層物を2つのロールの間で熱プレスして両面金属張積層板(金属張積層板1)を製造した。
【0067】
[比較例5]
2つの金属箔Bの粗面の間に絶縁フィルムAを挟んで積層物を作製した。次に、後掲の表1に示す条件で、積層物をダブルベルトプレス方式で熱プレスして両面金属張積層板(金属張積層板1)を製造した。
【0068】
【表1】
【0069】
<評価>
{引き剥がし強度}
各実施例、及び比較例の金属張積層板1を用いて、テストピース(幅×長さ=10mm×150mm)を作製した。このテストピースを用いて、金属箔3の、絶縁層21からの引き剥がし強度を、JIS C 6481に準拠して測定した。
【0070】
{板厚精度}
各実施例、及び比較例の金属張積層板1の板厚精度を、次の手順で算出した。まず、金属張積層板1の任意の10箇所において、各箇所の金属張積層板1の厚みを測定した。そして、10箇所の厚みの平均値を算出することで、金属張積層板1の平均厚みを得た。また、10箇所の厚みのうちの最大値及び最小値を、それぞれ最大厚み及び最小厚みとした。次に、最大厚みと平均厚みとの差(d1)と、最小厚みと平均厚みとの差(d2)とを算出した。そして、平均厚みに対する差(d1)の比の値と、平均厚みに対する差(d2)の比の値とを算出することで、金属張積層板1の板厚精度が得られた。
【0071】
{寸法変化(寸法変化率)}
各実施例、及び比較例の金属張積層板1の寸法変化率は、IPC-TM650 No.2.2.4のC法に準拠して算出された。
【0072】
{断面写真}
実施例2の金属張積層板1の断面を走査型電子顕微鏡で撮影して、図2に示す写真を得た。また、比較例2の金属張積層板1の断面を走査型電子顕微鏡で撮影して、図4に示す写真を得た。図2及び図4に示される断面のうち、金属箔3と絶縁層21とが対向する方向と直交する方向の長さbは10μmであった。図2の写真から、絶縁層21と金属箔3との間に空隙はなかった。図4の写真から、絶縁層21と金属箔3との間に10個の空隙23があった。このようにして、各実施例及び比較例の金属張積層板1について、その10箇所の断面に形成された空隙の数を数えた。そして、各実施例及び比較例における空隙の総数を断面数(10箇所)で除することで、各金属張積層板1に形成された空隙の平均個数が得られた。
【0073】
{高周波伝送特性}
まず、各実施例及び比較例の金属張積層板1の両面に厚さ10μmのめっき層を更に形成することで、金属張積層板1の両面に金属箔3とめっき層とからなる金属層を形成した。次に、この金属層のうち、一方の金属層にエッチング処理を施すことで信号回路(マイクロストリップ線路)を作製し、他方の金属層をグランド回路とした。これにより、信号回路とグランド回路とを備えるテストピースを作製した。そして、25℃、40%RHの下、アジレント・テクノロジー株式会社のE5071Cを用いたプローブ法により、信号回路に高周波の電気信号を伝送させると共に、信号回路で生じる電気信号の伝送損失を測定した。次に、信号回路の配線長さが100mm当たりの伝送損失を高周波伝送特性として算出した。表1に、信号回路に入力される電気信号の周波数が20GHzである場合の高周波伝送特性を示す。
【0074】
<測定>
〔金属箔〕
{粗面の十点平均粗さ(Rzjis)}
金属張積層板1を作製する前の金属箔3の接触面の、JIS B 0601:2001に規定される十点平均粗さ(Rzjis)を測定した。
【0075】
{輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)}
金属張積層板1を作製する前の金属箔3の接触面の、JIS B 0601:2001に規定される輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)を測定した。
【0076】
〔金属張積層板〕
{金属張積層板の断面から求められる粗さ曲線から算出される十点平均粗さ(Rzjis)}
上記の各実施例及び比較例の断面写真から図3のような粗さ曲線cを作成した。そして、JIS B 0601:2001に準拠して、各実施例及び比較例の粗さ曲線cに基づく十点平均粗さ(Rzjis)を算出した。
【0077】
{輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)}
JIS B 0601:2001に準拠して、各実施例及び比較例の粗さ曲線に基づく輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)を算出した。
【符号の説明】
【0078】
1 金属張積層板
21 絶縁層
3 金属箔
図1
図2
図3
図4
図5
図6