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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】球状炭素化物の合成方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/318 20170101AFI20230120BHJP
   C01B 32/348 20170101ALI20230120BHJP
【FI】
C01B32/318
C01B32/348
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018205264
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020070210
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-08-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)開催日:平成30年 2月27日 (2)集会名、開催場所:平成29年度 国立大学法人山梨大学 工学部 応用化学科 卒業論文発表会、国立大学法人山梨大学(山梨県甲府市武田四丁目4番37号)
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592037907
【氏名又は名称】株式会社デイ・シイ
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 尚哉
(72)【発明者】
【氏名】阪根 英人
(72)【発明者】
【氏名】須崎 一定
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104445138(CN,A)
【文献】国際公開第2017/094163(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/318
C01B 32/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度が0.005g/mLから0.06g/mLのカルボキシメチルセルロースナトリウムの水溶液を、攪拌しないで150~250℃の温度で4時間以上水熱合成し、水熱合成により得られた固体残留物を600℃以上の温度で炭素化することを特徴とする球状炭素化物の合成方法。
【請求項2】
請求項1記載の球状炭素化物の合成方法において、前記水熱合成時の前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの水溶液の濃度が0.02g/mL以上であることを特徴とする球状炭素化物の合成方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の球状炭素化物の合成方法において、前記水熱合成を24時間以上行うことを特徴とする球状炭素化物の合成方法。
【請求項4】
請求項3記載の球状炭素化物の合成方法において、前記水熱合成の温度を180~220℃とすることを特徴とする球状炭素化物の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体や吸着材料として用いることができる球状炭素化物の合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素小球体は高密度であるにもかかわらず高比表面積であり、電気熱の良伝導体という特徴があり、種々の触媒担体や吸着材料への応用転換が期待できる。
【0003】
特許文献1には、複数の硬化樹脂粒子を、それらの接点部分においてバインダー樹脂により互いに連結させて、硬化樹脂成形体を形成し、そして硬化樹脂成形体を炭素化させることを含む、多孔質炭素成形体の製造方法が記載されており、球形の熱硬化体樹脂を炭素化した後に賦活処理して多孔質にした多孔質球形炭素体が開示されている。
【0004】
この他、特許文献2には、鉄化合物ともみ殻を混合して鉄化合物を含浸させる工程と窒素ガス雰囲気下で熱処理する工程を経て二酸化炭素ガス雰囲気下で熱処理する工程を含む磁性活性炭の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-130188号公報
【文献】特開2017-031025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の発明では、多孔質にするため熱硬化性樹脂を炭素化してから賦活による2段階の処理が必要なため手間とコストがかかる。
【0007】
特許文献2記載の発明も磁性活性炭の製造において、2段階の処理が必要である。
【0008】
このような背景において、炭素化と細孔の賦活を1段階で得られる多孔性を持つ微粒の球状炭素化物を簡便に得る方法が要望されていた。
【0009】
本発明は、上述のような課題の解決を図ったものであり、糖類の一種で分子構造中にNaイオンを含むカルボキシメチルセルロースを用いて、従来よりも簡便に炭素小球体を製造することができる球状炭素化物の合成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の球状炭素化物の合成方法は、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を水熱合成し、水熱合成により得られた固体残留物を炭素化することを特徴とするものである。
【0011】
カルボキシメチルセルロースナトリウムと水からオートクレーブ内で水熱合成をすることによって、固体残留物(水熱チャー)を得る。水熱チャーは、表面が滑らかな1~数μm程度の球体の凝集物である。得られた水熱チャーを非酸化雰囲気で炭素化することにより球状炭素化物を得る。
【0012】
本発明において、水熱合成時のカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩の水溶液の濃度が0.005g/mLから0.06g/mLであることが望ましい。
【0013】
カルボキシメチルセルロースナトリウムと水の混合比が大きくなるほど、水熱チャーの収率が増加する。図1の近似線(点線)で示されるように、カルボキシメチルセルロースナトリウムと水の混合比が0.06g/mL~0.08g/mL近傍で水熱チャーの析出量が飽和となる。
【0014】
カルボキシメチルセルロースナトリウムと水の混合比が小さすぎた場合、水熱チャーの収率が低下する。また、核成長するための濃度が不十分なため1~数μm程度の球体の生成が困難となる。カルボキシメチルセルロースナトリウムと水の混合比は、図1の近似線(点線)より0.005g/mLあるいは0.01g/mL以上が好ましく、さらに0.02g/mL以上がより好ましい。
【0015】
本発明の球状炭素化物の合成方法では、水熱合成時にカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩の水溶液を撹拌しなくてもよい。
【0016】
水熱処理時に撹拌操作を行っても同一混合比ならびに処理時間ではチャー生成量は変化せず、撹拌の優位差は示さなかった。一方、水熱チャーの形態特性には撹拌操作の有無で僅かに変化が現れ、撹拌速度が大きくなる程、形状がいびつで粒子どうしが連結したものが多く観察された。乱流域の強制撹拌により、チャーの粒子成長・凝集に不均一(異方的)が生じるものと考えられる。
【0017】
本発明において、得られた水熱チャーを炭素化させる温度は600℃以上であることが望ましい。
【0018】
水熱合成の時間は限定されないが、4時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましい。水熱合成の時間が短い場合水熱チャーの収率は小さくなる。水熱合成の時間が長い方が水熱チャーの収率は大きくなるが、時間が長すぎた場合は水熱チャーの回収効率が悪くなる。水熱処理時の温度は、150~250℃が好ましく、180~220℃がより好ましい。
【0019】
炭素化後はチャー形態をそのまま反映した球状炭素体が得られる。炭素化処理により、炭素の微細構造の発達によって結晶子間の空隙が細孔となって発達することが伺える。炭素化の温度は600℃以上が好ましく、900℃以上がより好ましい。
【0020】
900℃以上で炭素化すると著しくミクロ孔性が増加する。カルボキシメチルセルロースナトリウムを水熱処理せず、そのまま炭素化するとNa2CO3と炭素の複合体が得られ、その炭酸塩の融点以上(約890℃)で細孔発達が起こることから、水熱チャー中のナトリウム分が同様に炭素のガス化を引き起こして微細孔を誘導させるものと推測される。
【0021】
一般にセルロース誘導体は,そのまま炭素化すると約500m2/gのミクロ孔性炭素体に転換されるが、水熱処理を経ることで、球状の賦形が可能となり、さらに1000m2/gの細孔を付与できる。
【発明の効果】
【0022】
カルボキシメチルセルロースナトリウムはセルロース誘導体の中でも安価に大量生産されているものであるため、本発明によって、球状炭素化物を簡便かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】CMC-Naの仕込み濃度に対して得られた水熱チャーの回収収率の関係を示すグラフである。
図2】各処理時間および仕込み量における水熱チャーの形態を走査型電子顕微鏡で観察したSEM画像である。
図3】炭素化温度600℃にした場合の各処理時間および仕込み量における炭素体の形態を走査型電子顕微鏡で観察したSEM画像である。
図4】炭素化温度900℃にした場合の各処理時間および仕込み量における炭素体の形態を走査型電子顕微鏡で観察したSEM画像である。
図5】10.0g/180mLの混合比で24時間処理した場合の水熱チャーおよび各炭素体の等温吸着線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例としての実験について説明する。
【0025】
1.固体残留物(水熱チャー)の合成
(1) 反応時間・仕込み量の影響
カルボキシメチルセルロースナトリウム(日本製紙株式会社製、エーテル化度(DS値) 0.7、Na含有量 7.5 wt%;以下CMC-Naと表記) 1.0g、5g、10g、14.4gをそれぞれオートクレーブ内に量り採り、処理溶液(蒸留水)180mLを加え密封し、撹拌子回転速度150RPMの条件下180℃で4または24時間保持した。したがって、180mLの処理溶液(蒸留水)に1.0g、5g、10g、14.4gのCMC-Naを溶かした試料の仕込み濃度は、それぞれ1.0g/180mL=0.0056g/mL、5g/180mL=0.0278g/mL、10g/180mL=0.0556g/mL、14.4g/180mL=0.08g/mLである。
【0026】
水熱処理後、装置のヒーターと撹拌を止め、室温になるまで放冷し、生成物を回収した。回収した生成物は大量の蒸留水で洗浄・ろ過し、60℃の乾燥機で乾燥させ水熱チャーを得た。なお、一般に水熱処理時の温度は、150~250℃が好ましく、180~220℃がより好ましいが、本実験ではより最適な180℃とした。
【0027】
(2) 撹拌の影響
CMC10.0gをオートクレーブ内に量り採り、処理溶液180mLを加え密封し、回転速度0RPM、150RPM、400RPMの条件下180℃で24時間保持した。回転速度150RPMが層流、回転速度400RPMが乱流条件に相当する。水熱処理後の水熱チャーを得る条件は前項と同様とした。
【0028】
(3) 水熱チャーの回収収率
図1に撹拌速度150rpmの水熱処理における、CMC-Naの仕込み濃度(CMC-Na/精製水の混合率:g/mL)に対する得られた水熱チャーの回収収率(チャー収率:wt%)の関係を処理時間別に示した。
【0029】
処理時間が4時間、24時間のいずれの場合においても黒色または茶色に呈色したチャーが得られ、そのチャー収率はCMC-Naの仕込み量が大きくなるほど増加し、4時間では約16wt%、24時間では約25wt%に達することが分かった。
【0030】
0.0278g/mLのCMC-Na/精製水の混合率の時に、チャーの析出量が飽和に近い量まで達し、さらに処理時間を24時間と十分に長くすることで原料CMC-Naから約25%のチャーが回収できた。
無撹拌の時と同様にチャー収率は約23wt%であった。また、チャー外観、質感などもほとんど変わらず、チャー生成に及ぼす撹拌の影響はないことが示唆された。
【0031】
(4) 水熱チャーの形状観察
水熱チャーの形状観察は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-6500F)を用いて行った。測定試料は、カーボンテープを用いて試料台に載せ、スパッタコーター(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 E-1030型日立イオンスパッター)を用いて40~100秒間Au蒸着処理後、SEM観察を行った(図2)。なお、水熱チャーの回収収率が高い水熱処理時間24時間の試料で行った。なお、図2はCMC-Naの仕込み量が1.0g、5g、10gでの水熱チャーの形状観察結果を示している。
【0032】
図2から仕込み量が高くなるほど1μmほどの球状チャーが明瞭となり、その凝集物が生成していることが分かる。1.0g/180mLで生成した水熱チャーは20μmの大きな一塊のチャーとなった。十分なCMC仕込み量では、高い仕込み量と長い処理時間によってより均質なチャーが生成したと考えられる。
【0033】
一方、撹拌速度の違いでは、無撹拌の場合、粒子形状の整った1次粒子の凝集体が得られたことが分かる。撹拌速度を大きくすると、チャー1次粒子と凝集体の形や大きさがいびつな物が多い。静的(無撹拌)な条件の時に、より均一な粒径サイズの1次粒子で構成されたチャー凝集物が得られることが判明した。
【0034】
2.球状炭素化物の生成
(1) 炭素体の生成方法
水熱チャーを横型管状炉にて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/min条件で、600℃及び900℃の温度で1時間加熱保持処理することで炭素化した。
【0035】
(2) 炭素体の形状観察
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JSM-6500F)を用いて行った。測定試料は、カーボンテープを用いて試料台に載せ、スパッタコーター(株式会社日立ハイテクノロジーズ製E-1030型日立イオンスパッター)を用いて40-100秒間Au蒸着処理後、SEM観察を行った。
【0036】
炭素化温度が600℃の場合を図3に、900℃の場合を図4に各炭素体のSEM画像を示した。600℃、900℃いずれの炭素体も炭素化前の水熱チャーの球状形態を維持し、炭素体となったことが分かる。得られた炭素体に表面はいずれも滑らかであった。なお、図3図4は、CMC-Naの仕込み量が5g、10gの炭素体の形状観察結果を示している。
【0037】
(3) 細孔特性評価
炭素体の細孔特性は、細孔分析測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製 BELSORP-mini)を用いて-196℃におけるN2吸着等温線を測定することで評価した。試料の前処理として、300℃で24時間、アルゴン置換処理を行った。
【0038】
表1と表2に各炭素体のBET法とαs法を適用することにより算出した各炭素体の比表面積を示す。図5に10.0g/180mLの混合比で24時間処理した水熱チャーおよび各炭素体の等温吸着線を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1、表2より600℃、900℃のいずれの炭素体においても5.0g/180mL(処理時間24時間、150RPM)条件の炭素体が10.0gの各撹拌条件炭素体と比較して、BET法、αs法どちらにおいても高い値を示した。
【0042】
炭素化処理により、炭素の微細構造の発達によって結晶子間の空隙が細孔となって発達することが伺える。特に、900℃で炭素化すると著しくミクロ孔性が増加し、約1000m2/gの高比表面積を示すことが明らかとなった。このことは、900℃で炭素化することにより、一般の活性炭レベルの細孔特性を示していることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5