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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】表面改質基材の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/00 20060101AFI20230120BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20230120BHJP
   C08F 4/00 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
G01N21/00 Z
C08F2/00 C
C08F4/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021093404
(22)【出願日】2021-06-03
(62)【分割の表示】P 2018175031の分割
【原出願日】2018-09-19
(65)【公開番号】P2021130828
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2021-07-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 (ACCEL) 「濃厚ポリマーブラシのレジリエンシー強化とトライボロジー応用」、委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506076891
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】田儀 陽一
(72)【発明者】
【氏名】榊原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】辻井 敬亘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 淳
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-521652(JP,A)
【文献】国際公開第2017/171071(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00- 4/82
G01N 21/00- 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100~1,000MPaの圧力条件下、重合開始基が結合した基材の共存下で、ラジカル重合性蛍光色素を含むモノマーを表面開始ラジカル重合又は表面開始リビングラジカル重合し、前記基材の表面に結合した蛍光性ポリマーからなる膜厚100nm以上の蛍光性ポリマー層を形成する工程を有する表面改質基材の製造方法によって製造される表面改質基材の前記蛍光性ポリマー層に紫外線を照射して発生させた蛍光により、前記蛍光性ポリマー層の欠陥の有無及び程度を確認する工程を有する表面改質基材の検査方法。
【請求項2】
前記重合開始基が、下記一般式(1)又は(2)で表される請求項1に記載の表面改質基材の検査方法。
(前記一般式(1)中、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示し、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アシル基、カルボキシ基、エステル基、又はアミド基を示し、Rは、アルキル基、アリール基、シアノ基、アシル基、カルボキシ基、エステル基、又はアミド基を示し、「*」は結合位置を示す)
(前記一般式(2)中、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示し、Yは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアシル基を示し、Rは、アルキル基、アリール基、又はアシル基を示し、「*」は結合位置を示す)
【請求項3】
前記製造方法が、さらに、ハロゲン化第4級アンモニウム塩、ハロゲン化第4級ホスホニウム塩、及びハロゲン化アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の塩の共存下で、表面開始ラジカル重合又は表面開始リビングラジカル重合する請求項1又は2に記載の表面改質基材の検査方法。
【請求項4】
前記ラジカル重合性蛍光色素が、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーである請求項1~のいずれか一項に記載の表面改質基材の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質基材の製造方法、その製造方法により製造される表面改質基材、及びその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の改質方法として、その末端に基材と吸着又は反応しうる基を有するポリマーを基材に作用させることで、物理的又は化学的に結合したポリマー層を基材表面に形成する方法が知られている。また、基材表面に付与した重合性基を起点としてモノマーを重合させることで、基材表面からグラフトしたポリマー層を形成する方法も知られている。
【0003】
近年、1990年代に発展したリビングラジカル重合の技術を利用して基板上に高密度にグラフトされる、いわゆる「濃厚ポリマーブラシ」が研究されている。この濃厚ポリマーブラシでは、高分子鎖が1~4nm間隔の高密度で基板上にグラフトされる。このような濃厚ポリマーブラシにより基材表面を改質し、低摩擦性、タンパク質吸着抑制、サイズ排除特性、親水性、撥水性等などの特徴を付与することができる(例えば、特許文献1及び2、非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-133434号公報
【文献】特開2010-261001号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Adv.Polym.Sci.,2006,197,1-45
【文献】J.Am.Chem.Soc.,2005,127,15843-15847
【文献】Polym.Chem.,2012,3,148-153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、基材表面に形成されるポリマー層は、その厚さがナノ~ミクロンサイズと薄く、しかも透明であることが多い。したがって、ポリマー層の厚さを測定するには、原子間力顕微鏡やエリプソメトリーなどを使用する必要があるため、解析に手間と時間がかかるといった課題がある。また、ポリマー層の一部につけた傷を電子顕微鏡などで観察して、ポリマー層の厚さを測定する方法もあるが、この方法ではポリマー層の一部の厚さしか測定することができない。また、表面処理基材は工業的に大量生産される工業部品であることから、一定の品質が保たれていることを確認するには全量検査する必要がある。しかし、上記の厚さの測定方法等では全量検査に対応することは困難である。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、傷や欠損等の欠陥の有無や程度を容易に確認することが可能なポリマー層をその表面に備えた表面改質基材の製造方法を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の製造方法によって製造される、傷や欠損等の欠陥の有無や程度を容易に確認することが可能なポリマー層をその表面に備えた表面改質基材を提供することにある。さらに、本発明の課題とするところは、上記の表面改質基材の検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す表面改質基材の製造方法が提供される。
[1]100~1,000MPaの圧力条件下、重合開始基が結合した基材の共存下で、ラジカル重合性蛍光色素を含むモノマーを表面開始ラジカル重合又は表面開始リビングラジカル重合し、前記基材の表面に結合した蛍光性ポリマーからなる膜厚100nm以上の蛍光性ポリマー層を形成する工程を有する表面改質基材の製造方法。
[2]さらに、前記重合開始基と同一の開始基を有する開始基モノマーの共存下で表面開始ラジカル重合又は表面開始リビングラジカル重合して、前記蛍光性ポリマー層に含まれない遊離ポリマーを形成し、形成した前記遊離ポリマーの分子量から、前記蛍光性ポリマーの分子量を推測する前記[1]に記載の表面改質基材の製造方法。
[3]前記重合開始基が、下記一般式(1)又は(2)で表される前記[1]又は[2]に記載の表面改質基材の製造方法。
【0009】
(前記一般式(1)中、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示し、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アシル基、カルボキシ基、エステル基、又はアミド基を示し、Rは、アルキル基、アリール基、シアノ基、アシル基、カルボキシ基、エステル基、又はアミド基を示し、「*」は結合位置を示す)
【0010】
(前記一般式(2)中、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示し、Yは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアシル基を示し、Rは、アルキル基、アリール基、又はアシル基を示し、「*」は結合位置を示す)
【0011】
[4]さらに、ハロゲン化第4級アンモニウム塩、ハロゲン化第4級ホスホニウム塩、及びハロゲン化アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の塩の共存下で、表面開始ラジカル重合又は表面開始リビングラジカル重合する前記[1]~[3]のいずれかに記載の表面改質基材の製造方法。
[5]前記ラジカル重合性蛍光色素が、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーである前記[1]~[4]のいずれかに記載の表面改質基材の製造方法。
【0012】
また、本発明によれば、以下に示す表面改質基材が提供される。
[6]前記[1]及び[3]~[5]のいずれかに記載の製造方法によって製造される表面改質基材。
【0013】
さらに、本発明によれば、以下に示す表面改質基材の検査方法が提供される。
[7]前記[6]に記載の表面改質基材の前記蛍光性ポリマー層に紫外線を照射して発生させた蛍光により、前記蛍光性ポリマー層の状態を確認する工程を有する表面改質基材の検査方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、傷や欠損等の欠陥の有無や程度を容易に確認することが可能なポリマー層をその表面に備えた表面改質基材の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記の製造方法によって製造される、傷や欠損等の欠陥の有無や程度を容易に確認することが可能なポリマー層をその表面に備えた表面改質基材を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記の表面改質基材の検査方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<表面改質基材及びその製造方法>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の表面改質基材の製造方法は、常圧~1,000MPaの圧力条件下、重合開始基が結合した基材の共存下で、ラジカル重合性蛍光色素を含むモノマーを表面開始ラジカル重合又は表面開始リビングラジカル重合し、前記基材の表面に結合した蛍光性ポリマーからなる蛍光性ポリマー層を形成する工程(重合工程)を有する。また、本発明の表面改質基材は、上記の製造方法によって製造されるものである。以下、本発明の表面改質基材及びその製造方法の詳細について説明する。
【0016】
従来、基材の表面からビニル系ポリマーをグラフトさせて表面改質する方法が知られている。基材表面にポリマーをグラフトさせる方法としては、例えば、基材表面からポリマーを重合させる、いわゆる表面開始重合方法がある。表面開始重合方法としては、基材表面に放射線等を照射して発生させたラジカルから重合を開始する方法;基材表面に導入したアゾ基や過酸化物基を有する化合物から重合を開始する方法;などがある。これに対して、本発明の表面改質基材の製造方法では、ラジカルを発生させる基である重合開始基がその表面に結合した基材を使用し、この重合開始基からラジカル重合又はリビングラジカル重合してポリマーをグラフトさせ、基材の表面にポリマー層を形成する。
【0017】
(基材)
基材の種類は特に限定されず、天然物、人工物、無機部材、有機部材のいずれであっても用いることができる。また、塊状物、粉末、シート、フィルム、ペレット、板などのさまざまな形状の基材を用いることができる。なかでも、重合溶液に耐えうる基材を用いることが好ましい。基材の具体例としては、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、セラミックス、木材、ケイ素化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、セルロース、ガラス等のフィルム、繊維、シートなどを挙げることができる。
【0018】
基材には表面処理を施してもよい。表面処理としては、シランカップリング処理、シリカコート処理、シリカアルミナ処理などの無機処理;プラズマ処理、紫外線照射処理、オゾン酸化処理、放射線処理、X線処理、電子線処理、レーザー処理などの洗浄・活性化処理などを挙げることができる。
【0019】
(重合開始基)
重合開始基としては、通常の(リビング)ラジカル重合で用いられる開始基を用いることができる。リビングラジカル重合としては、ニトロキサイド化合物を開始化合物として熱解離させてラジカルを発生させるNMP法;ハロゲン基を有する化合物を開始化合物として、銅やルテニウムの金属錯体を触媒として酸化還元で行う原子移動ラジカル重合(ATRP法);ジチオエステル基を有する化合物を使用する可逆的付加開裂型連鎖移動重合(RAFT法);有機テルルを開始化合物とするTERP法;ヨウ素基を有する化合物を開始化合物とし、触媒としてヨウ素をラジカルとして引き抜くことができる有機化合物を触媒として行う可逆的移動触媒重合(RTCP法);ハロゲン基を有する化合物を開始化合物として、触媒としてハロゲン化第4級アンモニウム塩等を使用して重合する可逆的触媒媒介重合(RCMP法);ハロゲン交換重合;などがある。これらの重合法で用いられる開始基をその表面に導入した基材を使用し、その開始基を起点として(リビング)ラジカル重合することで、基材の表面に蛍光性ポリマーが結合(グラフト)した蛍光性ポリマー層を形成することができる。
【0020】
ニトロキサイド化合物を使用するNMP法、有機テルル化合物を使用するTERP法、及びジチオエステル基を有する化合物を使用するRAFT法の場合、開始化合物は特殊であり、コスト的にもさほど有利であるとは言えない。このため、下記一般式(1)又は(2)で表される重合開始基を用いることが好ましい。一般式(1)又は(2)中のXがラジカルとして脱離するとともに、生成した炭素ラジカルにしてモノマーが挿入されて重合する。これにより、開始基を末端とするポリマーが形成される。
【0021】
(前記一般式(1)中、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示し、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アシル基、カルボキシ基、エステル基、又はアミド基を示し、Rは、アルキル基、アリール基、シアノ基、アシル基、カルボキシ基、エステル基、又はアミド基を示し、「*」は結合位置を示す)
【0022】
一般式(1)中、Xが結合している炭素原子は第3級炭素原子又は第4級炭素原子である。R及びRの少なくとも1つはアルキル基以外の基であることが好ましい。すなわち、R及びRの少なくとも1つがアルキル基以外の電子供与性基であると、Xが脱離しやすくなる。なかでも、Xが第4級炭素原子に結合していると、ラジカルを発生させるのにより好ましい。
【0023】
(前記一般式(2)中、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示し、Yは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアシル基を示し、Rは、アルキル基、アリール基、又はアシル基を示し、「*」は結合位置を示す)
【0024】
一般式(2)中、Xが結合している炭素原子は第3級炭素原子又は第4級炭素原子である。エステル基又はアミド基が電子供与性基であるので、R及びRのいずれもがアルキル基であってもよい。また、Xが第4級炭素原子に結合していると、ラジカルを発生させるのにより好ましい。
【0025】
重合開始基を基材の表面に導入する(結合させる)方法としては、例えば、重合開始基を有する化合物を、塗布、蒸着、転写、電着、ラミネート、単層膜形成などの方法で基材に付与する方法を挙げることができる。なかでも、重合開始基及び基材と反応する基を有する化合物や;重合開始基を有するポリマーを基材に付与することが好ましい。重合開始基を有するポリマーとしては、三次元架橋構造を有するポリマーや、基材と反応する基をさらに有するポリマーが好ましい。基材と反応する基を有する化合物やポリマーを基材に付与することで、基材表面に重合開始基を基材表面に強固に導入することができる。
【0026】
反応性基は、基材の種類にあわせて適宜選択すればよい。例えば、シリコン基板、金属、金属酸化物、水酸基を有する無機化合物等を基材として用いる場合には、アルコキシシリル基、エポキシ基などが反応性基として好ましい。また、セルロースなどの水酸基を有する有機化合物を基材として用いる場合には、酸ハロゲン化物、酸無水物、イソシアネート基などが反応性基として好ましい。
【0027】
重合性基を有するポリマーとしては、下記一般式(3)で表されるモノマーと、(メタ)アクリロシロキシプロピルトリメチルシリルや(メタ)アクリロイロキシプロピルトリエトキシシリルなどのアルコキシシリル基を有するモノマーと、を含むモノマー成分を重合して得られるポリマー(ポリマータイプの処理剤)を用いることが好ましい。
【0028】
【0029】
また、重合開始基を有する化合物としては、下記式(4)で表される、重合開始基及び基材と反応する基(アルコキシシリル基)を有する化合物を用いることが好ましい。
【0030】
【0031】
(ラジカル重合性蛍光色素)
ラジカル重合性蛍光色素は、不飽和結合等を含むラジカル重合性基を有する蛍光色素である。このようなラジカル重合性蛍光色素を含むモノマーを重合することで、基材の表面に結合した蛍光性ポリマーからなる蛍光性ポリマー層を形成することができる。ラジカル重合性蛍光色素としては、メロシアニン系蛍光色素、ペリレン系蛍光色素、アクリジン系蛍光色素、ルシフェリン系蛍光色素、ピラニン系蛍光色素、スチルベン系蛍光色素、ローダミ系蛍光色素、クマリン系蛍光色素、アゾ系蛍光色素、ピラン系蛍光色素、ピロメテン系蛍光色素、フルオレセイン系蛍光色素、ウンベリフェロン系蛍光色素などの有機系色素;ユウロピウム系色素などの無機系色素;を挙げることができる。
【0032】
ラジカル重合性蛍光色素のより具体的な例としては、下記一般式(5)~(11)(Rは水素原子又はメチル基を示す)で表される(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーを挙げることができる。また、下記一般式(5)~(11)中のRは、メチル基であることが好ましい。
【0033】
【0034】
重合させるモノマーの全てをラジカル重合性蛍光色素としてもよいが、濃度消光等により発光しにくくなったり、嵩高いモノマーであるために反応せずに残存したりする場合がある。また、ラジカル重合性色素は発光強度が高いため、使用量が少なくても強く発光する。このため、全モノマー中のラジカル重合性蛍光色素の量は、0.01~10質量%とすることが好ましく、0.1~5質量%とすることがさらに好ましい。
【0035】
(ラジカル重合性蛍光色素以外のモノマー)
ラジカル重合性蛍光色素以外のモノマー(その他のモノマー)としては、ラジカル重合しうる従来公知のモノマーをいずれも用いることができ、形成しようとする蛍光性ポリマー層の特性に合わせて適宜選択して用いればよい。なかでも、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマー((メタ)アクリレート系モノマー)を用いることが好ましく、(メタクリロイルオキシ基を有するモノマー(メタクリレート系モノマー)を用いることがさらに好ましい。
【0036】
(重合方法)
重合工程では、上記のラジカル重合性蛍光色素を含むモノマーをラジカル重合又はリビングラジカル重合する。また、一般式(1)又は(2)で表される基などのハロゲン原子を有する基を重合開始基とする場合、従来公知の金属錯体を用いる原子移動ラジカル重合によってモノマーを重合することが好ましい。金属錯体としては、塩化銅、臭化銅と、ジノニルビピリジン、トリジメチルアミノエチルアミン、ペンタメチルジエチレントリアミンなどのポリアミンとの錯体や;ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム;などを挙げることができる。原子移動ラジカル重合は、バルク重合であってもよく、有機溶剤などを用いる溶液重合であってもよい。有機溶剤としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤、エーテル系溶剤、アミド系溶剤、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、尿素系溶剤、イオン液体などを用いることができる。
【0037】
原子移動ラジカル重合では重金属を用いるため、着色や環境への負荷を考慮する必要があるとともに、反応系から除去する必要もある。このため、重金属を用いない汎用の有機化合物の存在下で重合することが好ましい。具体的には、ハロゲン化第4級アンモニウム塩、ハロゲン化第4級ホスホニウム塩、及びハロゲン化アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の塩の共存下で、ラジカル重合性蛍光色素と(メタ)アクリレート系モノマーを含むモノマーを重合することが好ましい。これにより、市販の安価な有機材料や無機塩で重合することができる。また、金属を除去する必要がないため、環境に対する負荷を減ずることができるとともに、工程を簡略化することもできる。
【0038】
重合開始基中のX(ハロゲン)がラジカルとして脱離するとともに、Xの脱離とともに生成した炭素ラジカルにモノマーが挿入されて重合が進行する。その際、上記の特定の塩を共存させることで、ハロゲンラジカルの引き抜き又はハロゲン交換が生じ、生成した炭素ラジカルからモノマーの重合が進行して蛍光性ポリマーが形成される。
【0039】
ハロゲン化第4級アンモニウム塩としては、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラオクチルアンモニウム、塩化ノニルピリジニウム、塩化コリンなどを挙げることができる。ハロゲン化第4級ホスホニウム塩としては、塩化テトラフェニルホスホニウム、臭化メチルトリブチルホスホニウム、ヨウ化テトラブチルホスホニウムなどを挙げることができる。ハロゲン化アルカリ金属塩としては、臭化リチウム、ヨウ化カリウムなどを挙げることができる。
【0040】
塩としては、ヨウ化物塩を用いることが好ましい。ヨウ化物塩を用いることで、リビングラジカル重合が進行し、分子量分布がより狭いポリマーを得ることができる。また、ヨウ化第4級アンモニウム塩、ヨウ化第4級ホスホニウム塩、及びヨウ化アルカリ金属塩などの重合溶液に溶解しうる塩を用いることが好ましく、ヨウ化第4級アンモニウム塩を用いることがさらに好ましい。ヨウ化第4級アンモニウム塩としては、ヨウ化ベンジルテトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラオクチルアンモニウム、ヨウ化ドデシルトリメチルアンモニウム、ヨウ化オクタデシルトリメチルアンモニウム、ヨウ化トリオクダデシルメチルアンモニウムなどを挙げることができる。
【0041】
活性度を高めるとともに、より濃厚で高分子量のポリマーを得る観点から、重合開始基に対する塩の量は当モル以上とすることが好ましく、10倍モル以上とすることがさらに好ましく、100倍モル以上としてもよい。
【0042】
この第4級塩やハロゲン化物塩を使用する方法において、その重合条件は特に限定されない。従来公知の条件で行われる。好ましくは、温度は60℃以上、溶媒として有機溶媒を使用することが好ましい。溶媒としては、従来公知の溶媒が使用でき、特に限定されない。その溶剤は前記した従来公知の有機溶剤が使用できるが、好ましくは、塩を溶解する溶剤を使用することがよく、アルコール系、グリコール系、アミド系、尿素系、スルホキシド系、イオン液体などの極性が高い有機溶剤が好ましい。
【0043】
重合工程では、常圧~1,000MPaの圧力条件下、好ましくは100~1,000MPa、さらに好ましくは200~800MPa、特に好ましくは300~600MPaの圧力条件下で重合する。具体的には、モノマー及び基材を入れた重合容器の全体に、水などの媒体を介して均一に圧力を付与しながら重合する。圧力を付与した状態でラジカル重合することで、停止反応を抑制し、より高分子量の蛍光性ポリマーを形成することができる。
【0044】
圧力を付与した状態、好ましくは100MPa以上の圧力条件下でラジカル重合することで、停止反応を抑制し、より高分子量の蛍光性ポリマーを形成することができる。なお、1,000MPa超の圧力に耐えうる容器や装置を用意するのは困難であり、実用的ではない。形成される蛍光性ポリマーの分子量が大きくなるに伴い、基材表面に形成される蛍光性ポリマー層の膜厚が厚くなる。蛍光性ポリマー層の膜厚を厚くすることで、基材表面をこれまでにない特性を示すように改質することができる。蛍光性ポリマー層の膜厚は、例えば、数nmから数μmとすることができ、好ましくは10nm以上、さらに好ましくは100nm以上とすることができる。
【0045】
重合容器としては、密閉可能であるとともに、高圧に耐えうる容器を用いることが好ましい。また、容器の内部に圧力が伝達される必要があるため、プラスチック製の軟質部分や伸縮部分などの、圧力で変形する部分を有する容器を用いることが好ましい。具体的には、ポリエチレン製の瓶、ペットボトル、レトルトパウチ、ブリスター容器など様々な容器を用いることができる。また、重合時の温度で変形しにくい、耐熱性を有する素材からなる容器が好ましい。さらに、重合用の溶剤等で侵されにくい、耐薬品性や耐溶剤性などの特性を有する素材からなる容器が好ましい。重合容器を構成する素材としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エンジニアプラスチック等を挙げることができる。また、重合時には、可能な限り、重合容器内に気体が入りこまないようにすることが好ましい。例えば、重合容器の容量の90%以上に重合溶液を仕込むことが好ましい。
【0046】
ラジカル重合性蛍光色素以外のモノマー(その他のモノマー)を適宜選択して用いることで、形成される蛍光性ポリマー層の特性を任意に設定することができる。例えば、その他のモノマーとしてフッ素系モノマーを用いることで、水や油をはじきやすい表面張力の低い蛍光性ポリマー層を形成することができる。また、その他のモノマーとしてポリエチレングリコール基やカルボキシ基などを有するモノマーを使用することで、当たった水蒸気が直ちに水滴となって曇りにくい親水性の蛍光性ポリマー層を形成することができる。さらに、タンパク等が付着しにくい生体適合性基材を製造することも可能である。また、形成された蛍光性ポリマー層を潤滑油等で膨潤させて潤滑膜とし、極低摩擦性のポリマー層とすることもできる。
【0047】
形成されるポリマー層は、後述するように、紫外線を照射することで蛍光を発する蛍光性ポリマー層であることから、紫外線の照射によってポリマー層における傷や欠損等の欠陥の有無や程度を容易に確認することができる。但し、ポリマー層における欠陥の有無や程度を確認することは可能である一方で、形成された蛍光性ポリマー層を構成する蛍光性ポリマーの分子量を検証することは容易であるとは言えない。そこで、本発明の製造方法では、重合開始基と同一の開始基を有する開始基モノマーの共存下で表面開始ラジカル重合又は表面開始リビングラジカル重合することが好ましい。すなわち、基材に結合せずにフリーで存在する開始基モノマーをラジカル重合することで、蛍光性ポリマー層に含まれない遊離ポリマーが形成される。そして、形成された遊離ポリマーの分子量を定法にしたがって測定することで、基材表面に形成された蛍光性ポリマー層を構成する蛍光性ポリマーの分子量を推測することができる。
【0048】
開始基モノマーとしては、基材に結合した重合開始基と同一の基を有する化合物を用いる。具体的には、下記式(12)~(14)で表される化合物を開始基モノマーとして用いることができる。
【0049】
【0050】
重合系中の開始基モノマーの量は、0.01質量%以下とすることが好ましく、0.001質量%以下とすることがさらに好ましい。開始基モノマーの量が多すぎると、重合系が高粘度化してしまい、得られる表面改質基材を取り出しにくくなることがある。また、基材表面に付着した、開始基モノマーから形成された遊離ポリマーを洗浄して除去するのに時間がかかる場合がある。なお、形成される遊離ポリマーの、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、通常、1,000~10,000,000であり、好ましくは100,000以上である。
【0051】
本発明の製造方法によれば、基材の表面特性を顕著に改質した表面改質基材を簡便に製造することができる。このため、本発明の製造方法は、医療用部材、電子材料、ディスプレイ材料、半導体材料、機械部品、摺動部材、電池材料などの様々な分野で用いられる各種の基材を製造する方法として有用である。さらに、紫外線照射により蛍光を発する蛍光性ポリマー層を有することから、ダミー防止、セキュリティー用途、意匠用途、及び潜在画像表現等に使用することができる。
【0052】
<表面改質基材の検査方法>
本発明の表面改質基材の検査方法は、上述の製造方法によって製造された表面改質基材の蛍光性ポリマー層に紫外線を照射して発生させた蛍光により、蛍光性ポリマー層の状態を確認する工程を有する。蛍光ポリマー層から発した蛍光を観察することで、基材表面がうまく改質されたか;基材表面の全体が改質されたか;すべての基材(全てのロット)の表面が改質されたか;等を確認することができる。すなわち、本発明の表面改質基材の検査方法は、製品を傷つけることなく検査することが可能な非破壊検査の一種である。
【0053】
紫外線を照射する装置としては、例えば、254nm、350~400nmなどの紫外線を発光する光源、ブラックライト、水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDライトなどを用いることができる。また、ハンディータイプの装置を使用して表面改質基材を個別に検査してもよいし、ベルトコンベア等の搬送手段に載せた複数の表面改質基材を機械的に連続して検査してもよい。さらには、蛍光顕微鏡を使用して、μmオーダー以下の傷や欠損等を確認することもできる。また、分光蛍光光度計や紫外可視分光光度計などの分光光度計などを使用することもできる。
【実施例
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0055】
<表面改質基材の製造(1)>
(参考例1)
1cm×1cmサイズのシリコン基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄した後、チップクリーナー(バイオフォースナノサイエンス社製)を使用してUVオゾン照射し、シリコン基板の表面に水酸基を形成させて活性化した。エタノール100部、28%アンモニア水溶液10部、及び2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリメトキシシラン(BPM)1部を入れた容器に活性化したシリコン基板を12時間浸漬させた。取り出したシリコン基板を、乾燥機を使用し、80℃で10分間乾燥させた。
【0056】
ガラス製のサンプル瓶に、第一臭化銅0.0930部、ジノニルビピリジン0.6473部、メタクリル酸メチル(MMA)20.0240部、一般式(5)で表される化合物(R=メチル基、3”-メタクリロキシスピロベンゾ[c]-フラン[1,9”]キサンテン-3-オン、極大吸収波長341nm、蛍光色素-1)0.1部、アニソール20.0部、及びブロモイソ酪酸エチル(EBIB)の1.95%アニソール溶液0.01部を入れて均一化し、茶褐色の重合溶液を得た。
【0057】
得られた重合溶液10部及び上記のシリコン基板を三方コック付きのガラス製シュレンク管に入れた。アルゴンガスを30分間吹き込んだ後、三方コックを閉めて密閉し、アンプル管とした。このアンプル管を60℃の湯浴に入れ、6時間重合した。冷却後、アンプル管内の重合溶液の一部をサンプリングし、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするGPCにて測定したポリマーのポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は120,000であり、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)=PDI)は1.05であった。アンプル管から取り出したシリコン基板をTHFに12時間浸漬し、虹色干渉を示すポリマー層が形成された表面改質基材を得た。
【0058】
得られた表面改質基材に波長365nmの紫外線を照射し、表面のポリマー層が発光したことを確認した。また、ポリマー層に傷や欠陥などは見当たらなかった。以上より、得られた表面改質基材には、Mn12万のポリマーからなる塗膜欠損等のないポリマー層が形成されたことを確認した。エリプソメトリー(商品名「EC-400」、ジェー・エー・ウーラム社製)を使用して測定したポリマー層の膜厚は75nmであった。
【0059】
(比較例1)
蛍光色素-1を使用しないこと以外は前述の参考例1と同様にして、ポリマー層が形成された表面改質基材を得た。生成したポリマーのMnは165,000であり、PDIは1.06であった。また、形成されたポリマー層の膜厚は78.5nmであった。得られた表面改質基材に波長365nmの紫外線を照射したが、表面のポリマー層が発光することはなかった。このため、形成されたポリマー層に欠損等が生じていたか否かを確認することはできなかった。
【0060】
(実施例2)
参考例1で用いたものと同様のシリコン基板及び重合溶液を用意した。ポリエチレン製のサンプル瓶にシリコン基板を入れた後、サンプル瓶を重合溶液で充たして蓋をした。重合溶液が漏れないようにテープを巻くとともに、アルミパウチに入れて空気が入らないようにラミネートした。加圧媒体として水を入れた高圧装置(商品名「PV-400シリーズ」、シンコーポレーション社製)内にアルミパウチを入れ、60℃に加温するとともに、400MPaに加圧して4時間重合し、シリコン基板の表面にポリマー層が形成された表面改質基材を得た。生成したポリマーのMnは1,500,000であり、PDIは1.04であった。また、形成されたポリマー層の膜厚は750nmであった。得られた表面改質基材に波長365nmの紫外線を照射し、表面のポリマー層が発光したことを確認した。また、ポリマー層に傷や欠陥などは見当たらなかった。
【0061】
(実施例3)
炭化ケイ素製の基材(直径1cm、厚さ2mmの円板)を用意し、前述の参考例1と同様にして活性化させた。エタノール100部、28%アンモニア水溶液10部、及び2-アイオド-2-メチルプロピオニルオキシヘキシルトリエトキシシシラン(IHE)1部を入れた容器に活性化させた上記の基材を入れ、12時間浸漬させた後、取り出して送風乾燥した。
【0062】
ガラス製のサンプル瓶に、テトラブチルアンモニウムアイオダイド(TBAI)0.406部、MMA55.07部、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(MDMPA)55.07部、アイオド酪酸エチルの1.95%MDMPA溶液0.1部、及び一般式(11)で表される化合物(R=メチル基、9-(2-メタクリロイルオキシエトキシカルボニルフェニル)-3,6-ビス(ジエチルアミノ)キサンチリウムのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩、極大吸収波長552nm、蛍光色素-2)0.826部を入れて均一化し、赤色透明の重合溶液を得た。
【0063】
フッ素樹脂製のサンプル瓶に上記の基材を入れた後、サンプル瓶を重合溶液で充たしてシールし、アルミパウチに入れて空気が入らないようにラミネートした。高圧装置内にアルミパウチを入れ、85℃に加温するとともに、400MPaに加圧して6時間重合し、炭化ケイ素製の基材の表面にポリマー層が形成された表面改質基材を得た。生成したポリマーのMnは1,240,000であり、PDIは1.52であった。また、形成されたポリマー層の膜厚は620nmであった。GPCのUV吸収検出器で測定したポリマーのMnは1,270,000であり、PDIは1.43であった。得られた表面改質基材をTHFで洗浄した後、乾燥させた。ブラックライトの紫外線を照射し、表面のポリマー層が発光したことを確認した。また、ポリマー層に傷や欠陥などは見当たらなかった。表面改質基材をTHFに浸漬し、超音波洗浄した後、乾燥させた。紫外線を再度照射し、表面のポリマー層が発光したことを確認した。
【0064】
(実施例4)
IHEに代えてBPMを用いるとともに、アイオド酪酸エチルに代えてEBIBを用いたこと以外は、前述の実施例3と同様にして、炭化ケイ素製の基材の表面にポリマー層が形成された表面改質基材を得た。生成したポリマーのMnは1,620,000であり、PDIは2.88であった。また、形成されたポリマー層の膜厚は520nmであった。得られた表面改質基材をTHFで洗浄した後、乾燥させた。ブラックライトの紫外線を照射し、表面のポリマー層が発光したことを確認した。また、ポリマー層に傷や欠陥などは見当たらなかった。
【0065】
<開始化合物の合成>
(合成例1)
撹拌機、還流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた反応装置にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc)100部を入れて80℃に加温し、窒素ガスを吹き込んだ。別容器に、2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)エチルメタクリラート(BBEM)50部、メタクリロイロキシプロピルトリエトキシシリル(MOPS)50部、及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.5部を入れ、撹拌して均一なモノマー混合液を調製した。反応装置中にモノマー混合液の半量を添加した後、残りを2時間かけて滴下し、次いで、8時間重合してポリマー液を得た。ポリマー液の一部をサンプリングして測定した固形分は49.2%であり、ほとんどのモノマーが重合したことを確認した。ポリマー液中のポリマーのMnは23,000であり、PDIは2.51であった。得られたポリマー液にPGMAcを添加して希釈し、固形分15%である開始基ポリマー1溶液を得た。開始基ポリマー1溶液中の開始基ポリマー1は、所定の開始基及びアルコキシシリル基を有する、ポリマータイプの処理剤である。
【0066】
<表面改質基材の製造(2)>
(実施例5)
3cm×3cmサイズのガラス基板を用意し、前述の参考例1と同様に活性化させた。合成例1で調製した開始基ポリマー1溶液をガラス基板に2,000回転で30秒間スピンコートした後、90℃で90秒間、150℃で10分間焼き付けて硬化させ、塗膜を形成した。エリプソメトリーで測定した塗膜の膜厚は1.69μmであった。そして、塗膜を形成した上記のガラス基板を用いたこと以外は、前述の実施例4と同様にして、ガラス基板の表面にポリマー層が形成された表面改質基材を得た。生成したポリマーのMnは1,420,000であり、PDIは2.63であった。また、開始基ポリマー1溶液で形成した塗膜を含むポリマー層の膜厚は、1.97μmであった。すなわち、塗膜上に形成されたポリマー層の膜厚は280nmであった。得られた表面改質基材をTHFで洗浄した後、乾燥させた。紫外線を照射し、表面のポリマー層が赤色に発光したことを確認した。また、ポリマー層に傷や欠陥などは見当たらなかった。
【0067】
(実施例6)
1.5cm×1.5cm、厚さ2.5mmのSUS402製の金属板を12個用意し、前述の参考例1と同様に活性化させた後、BPMで表面処理した。金属板を3個収容可能なフッ素樹脂製のフォルダーを4セット用意し、これらのフォルダーにBPMで表面処理した金属板をセットした。フッ素樹脂製のサンプル瓶にフォルダーを装填してグローブボックスに入れ、さらに、参考例1で調製した重合溶液で充たしてシールし、アルミパウチに入れて空気が入らないようにラミネートした。実施例2で使用した高圧装置内にアルミパウチを入れ、60℃に加温するとともに、400MPaに加圧して6時間重合し、金属板の表面にポリマー層が形成された12個の表面改質基材を得た。生成したポリマーのMnは1,080,000であり、PDIは1.23であった。また、形成されたポリマー層の膜厚は、いずれも630nmであった。得られた表面改質基材をTHFで洗浄した後、乾燥させた。表面改質基材の外観はすべて同様に見え、問題ないことを確認した。次いで、紫外線を照射したところ、発光していない部分(傷)を有するポリマー層が形成されていた表面改質基材が1つあった。これにより、1つの表面改質基材(ロット)が不合格であると判断することができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の表面改質基材の製造方法によれば、自動車、航空機、電子機器、家電、電池部材、医療用材料、ディスプレイ材料などの部品の他、セキュリティー分野の部品や表示材料等の部品として用いられる基材を製造する方法として有用である。