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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】染毛料組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/41 20060101AFI20230120BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20230120BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20230120BHJP
   A61Q 5/10 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
A61K8/41
A61K8/49
A61K8/55
A61Q5/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018244924
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020105103
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】間嶋 康夫
【審査官】寺▲崎▼ 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206483(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180515(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180513(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0055094(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)塩基性橙31、3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノール及び4-アミノ-3-ニトロフェノールからなる群より選ばれる1種又は2種以上、成分(B)塩基性茶16、HC青2、HC青15及びHC青16からなる群より選ばれる1種又は2種以上の染料を含有し、成分(A)及び成分(B)の含有量が、下記式1、2を満たし成分(A)及び成分(B)以外の染料を含有しない染毛料組成物。
式1
{2.7×(A1)+4.5×(A2)+2.9×(A3)}/{2.0×(B1)+0.4×(B2)+8.6×(B3)+19×(B4)}=0.27~5.62
式2
{(A1)+(A2)+(A3)+(B1)+(B2)+(B3)+(B4)}=1.1~1.4
ここで、(A1)は塩基性橙31の含有量(重量%)、(A2)は3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノールの含有量(重量%)、(A3)は4-アミノ-3-ニトロフェノールの含有量(重量%)、(B1)は塩基性茶16の含有量(重量%)、(B2)はHC青2の含有量(重量%)、(B3)はHC青15の含有量(重量%)、(B4)はHC青16の含有量(重量%)を表す。
【請求項2】
請求項1記載の染毛料組成物を用い、ブリーチ剤と連続的にあるいは同時に染毛したり、染毛後に酸化染毛剤やブリーチ剤を使用しても染毛色の色調変化を抑制させることのできる染毛方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリーチ剤と連続的にあるいは同時に染毛したり、染毛後に酸化染毛剤やブリーチ剤を使用したときに、染毛色の色調変化を抑制する半永久染毛料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪染毛料には、永久染毛剤である酸化染毛剤、半永久染毛料であるカラートリートメントやヘアマニキュア、一時染毛料であるヘアマスカラ等がある。
【0003】
酸化染毛剤は、一般に酸化染料とアルカリ剤を含む1剤と、過酸化水素を含む2剤から構成される。酸化染毛剤の染毛メカニズムは、1剤中の酸化染料が2剤中の過酸化水素によって酸化されることによって発色するものである。また、2剤中の過酸化水素は、毛髪のメラニンを酸化分解し、毛髪を脱色させる働きも有する。
【0004】
酸化染毛剤には、アレルギー性接触皮膚炎の原因となりやすい酸化染料が使用されているため、アレルギーを発症してしまったり、アレルギー発症を避けたい消費者にとっては使用を避けたいものである。
【0005】
ヘアマニキュアは、主に酸性染料によって染毛するもので、アレルギー発症のリスクは低いものの、地肌が染まりやすいため、手や頭皮に付着しないように使用するのは難しく、気軽に継続使用できるものではない。
【0006】
カラートリートメントは、主に塩基性染料とHC染料によって染毛するもので、永久染毛剤ほどの染色性はないが、継続使用することで徐々に染毛色を濃くしていくことができ、数日から数週間染毛色を維持することができる。また、簡便で日常使用しやすいことから、無理なく染毛の間隔を短くすることができ、既染部と新生部の境目を目立ちにくくできる。
【0007】
カラートリートメントやヘアマニキュアは、染料の毛髪への吸着や浸透によって染毛するのみで、毛髪のメラニンを分解して脱色する働きを有しないため、明るい染毛色にはなりにくい。したがって、明るい染毛色を望む消費者は、カラートリートメントやヘアマニキュアによる染毛時や染毛後にブリーチ剤によって脱色する必要がある。
【0008】
しかしながら、カラートリートメントやヘアマニキュアによる染毛では、染毛時や染毛後にブリーチ剤を使用すると、染毛色の色調が例えば褐色から緑褐色に変化してしまうという問題があった。
【0009】
特に、カラートリートメントによる染毛を白髪染めの目的で日常行っていると、次に酸化染毛剤を使用して染めたときに、カラートリートメントによる既染部の染毛色が緑褐色に変化し、酸化染毛剤による新生部の染毛色と異なる色調になってしまうという問題もあった。
【0010】
このような染毛色の色調変化を抑えるために、これまでにいくつかの技術が提案されてきた。
【0011】
例えば、特定の酸性染料を特定の含有量や比率にて含有させることにより、演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下においても自然に美しく見える色味に染色することができる染毛料組成物(特許文献1)、染毛に重要な染料として標準的に使用されてきた塩基性青99が、このような変色の傾向が大きいため、この染料の代わりに塩基性青75を含有することを特徴とする染毛料組成物(特許文献2)等の技術が提案されてきた。しかしながら、酸性染料を含有するヘアマニキュアは、手や頭皮が染まりやすいという課題が残ったままであるし、塩基性染料を用いるカラートリートメントは、影響の大きい染料の使用を避けるという方法に過ぎず、染毛色の色調や発色の程度が不十分なものが多く、根本解決に至っていない。
【0012】
半永久染毛料を酸化染毛剤やブリーチ剤と連続使用すると、染毛色の色調が変化することは知られていたものの、その対処法は変色の少ないことを経験的に知ることができた染料を選択する手段にとどまっている。これまでに、変色した際の色調が補色となる染料同士を併用することで、変色を抑える技術は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2011-157290号公報
【文献】特許第5981317号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ブリーチ剤と連続的にあるいは同時に染毛したり、染毛後に酸化染毛剤やブリーチ剤を使用したときに起こる染毛色の色調変化を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明は、成分(A)塩基性橙31、3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノール及び4-アミノ-3-ニトロフェノールからなる群より選ばれる1種又は2種以上と、成分(B)塩基性茶16、HC青2、HC青15及びHC青16からなる群より選ばれる1種又は2種以上の染料を、下記式1を満たす重量比で含有する染毛料組成物を提供するものである。
式1
{2.7×(A1)+4.5×(A2)+2.9×(A3)}/{2.0×(B1)+0.4×(B2)+8.6×(B3)+19×(B4)}=0.06~17
ここで、(A1)は塩基性橙31の含有量(重量%)、(A2)は3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノールの含有量(重量%)、(A3)は4-アミノ-3-ニトロフェノールの含有量(重量%)、(B1)は塩基性茶16の含有量(重量%)、(B2)はHC青2の含有量(重量%)、(B3)はHC青15の含有量(重量%)、(B4)はHC青16の含有量(重量%)を表す。
【0016】
また、本発明は成分(A)及び成分(B)の含有量が、下記式2を満たす染毛料組成物を提供するものである。
式2
{(A1)+(A2)+(A3)+(B1)+(B2)+(B3)+(B4)}≧0.1
【0017】
また、本発明は、(A)塩基性橙31、3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノール及び4-アミノ-3-ニトロフェノールからなる群より選ばれる1種又は2種以上と、(B)塩基性茶16、HC青2、HC青15及びHC青16からなる群より選ばれる1種又は2種以上の染料を含有する染毛料によって、ブリーチ剤と連続的にあるいは同時に染毛したり、染毛後に酸化染毛剤やブリーチ剤を使用したときに、演色性の悪い照明下においても染毛色の色調変化を抑制する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の染毛料組成物は、ブリーチ剤と連続的にあるいは同時に本発明の染毛料組成物によって染毛したり、本発明の染毛料組成物によって染毛した後に酸化染毛剤やブリーチ剤を使用したときに起こる染毛色の色調変化を抑制するものである。演色性の悪い照明下においても色調変化が小さく、髪色が緑味を帯びることなく自然な色調に保つことができる。
【0019】
本発明の染毛料組成物に含有する染料の総量が多い場合は、1回の染毛と、1回の酸化染毛剤やブリーチ剤の使用で、染毛色の色調変化を抑える本発明の効果を発現することができる。また、染料の総量が少ない場合は、繰り返し使用することで染料が毛髪に蓄積して染色性が高まり、その後の酸化染毛剤やブリーチ剤の使用において、染毛色の色調変化を抑える本発明の効果を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1の染毛料組成物によって染色した人毛白髪毛束(左)と、実施例1の染毛料組成物によって染色した後にブリーチ剤によって脱色した人毛白髪毛束(右)を、演色性の良いLED灯下で撮影した写真。
【0021】
図2】実施例1の染毛料組成物によって染色した人毛白髪毛束(左)と、実施例1の染毛料組成物によって染色した後にブリーチ剤によって脱色した人毛白髪毛束(右)を、演色性の悪い蛍光灯下で撮影した写真。
【0022】
図3】比較例1の染毛料組成物によって染色した人毛白髪毛束(左)と、比較例1の染毛料組成物によって染色した後にブリーチ剤によって脱色した人毛白髪毛束(右)を、演色性の良いLED灯下で撮影した写真。
【0023】
図4】比較例1の染毛料組成物によって染色した人毛白髪毛束(左)と、比較例1の染毛料組成物によって染色した後にブリーチ剤によって脱色した人毛白髪毛束(右)を、演色性の悪い蛍光灯下で撮影した写真。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明における塩基性橙31は、INCI名(International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook、第16版、第1巻、2016年):Basic Orange 31で表わされ、化合物名:2-[(4-aminophenyl)azo]-1,3-dimethyl-1H-imidazolium chlorideで表わされる橙色系の塩基性染料(CAS番号:97404-02-9)である。
【0025】
本発明における3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノールは、INCI名:3-Nitro-p-Hydroxyethylaminophenolで表わされ、化合物名4-[(2-hydroxyethyl)amino]-3-nitrophenolで表わされる橙色系のHC染料(CAS番号:65235-31-6)である。
【0026】
本発明における4-アミノ-3-ニトロフェノールは、INCI名:4-Amino-3-nitrophenolで表わされ、化合物名:4-amino-3-nitrophenolで表わされる橙色系のHC染料(CAS番号:610-81-1)である。
【0027】
本発明における塩基性茶16は、INCI名:Basic Brown 16で表わされ、化合物名:8-[(4-Aminophenyl)azo]-7-hydroxy-N,N,N-trimethyl-2-naphthalenaminiumchlorideで表わされる茶色系の塩基性染料(CAS番号:26381-41-9)である。
【0028】
本発明におけるHC青2は、INCI名:HC Blue No.2で表わされ、化合物名:2,2’-{[4-(2-hydroxyethyl)amino-3-nitrophenyl]imino}bisethanolで表される青色系のHC染料(CAS番号:33229-34-4)である。
【0029】
本発明におけるHC青15は、INCI名:HC Blue No.15で表わされ、化合物名:4-[(2,6-dichlorophenyl)(4-imino-3,5-dimethylcyclohexa-2,5-dien-1-ylidene)methyl]-2,6-xylidine phosphateで表わされる青色系のHC染料(CAS番号:74578-10-2)である。
【0030】
本発明におけるHC青16は、INCI名:HC Blue No.16で表わされ、化合物名:1,3-bis(2,4-diaminophenoxy)propane tetrahydrochlorideで表わされる青色系のHC染料(CAS番号:74918-21-1)である。
【0031】
本発明における成分(A)塩基性橙31、3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノール、4-アミノ-3-ニトロフェノール、成分(B)塩基性茶16、HC青2、HC青15、HC青16は、染毛料組成物に通常用いられるものであれば良く、市販品を用いることができる。
【0032】
本発明の染毛料組成物は、演色性の悪い照明下において赤味が弱くなりやすいために染毛色が緑味を帯びて見えやすい成分(B)塩基性茶16、HC青2、HC青15及びHC青16からなる群より選ばれる1種又は2種以上と、演色性の悪い照明下において赤味を強くすることができ、染毛色が緑味を帯びることを抑えられる成分(A)塩基性橙31、3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノール及び4-アミノ-3-ニトロフェノールからなる群より選ばれる1種又は2種以上を請求項1の式1に規定した比率で含有する。
【0033】
各染料について、染料1種を含有する染毛料組成物で染色した人毛毛束と、染毛料組成物にブリーチ剤を混合して染色した人毛毛束を、演色性の良いLED灯下と演色性の悪い蛍光灯下で観察し比較した。その結果、ブリーチ剤を使用しないで染毛料組成物で染色した人毛毛束は照明の違いによる色調変化がほとんどなかった。ブリーチ剤を使用して染色した人毛毛束は、演色性の良いLED灯下ではブリーチ剤を混合しなかった場合と比べて色調変化がほとんどなかったが、演色性の悪い蛍光灯下では、色調変化が大きかった。さらに、各光源下で、ブリーチ剤を混合して染色した人毛毛束の色調を色差計(株式会社パパラボ製2次元色彩計RC-300)にて計測し、L色空間の値として「L値」、「a値」、「b値」を求めた。その結果、演色性の良いLED灯下での「a値(LED)」と比べ演色性の悪い蛍光灯下での「a値(蛍光灯)」が小さくなり、緑味を増す染料が多い中、「a値(蛍光灯)」が大きくなり、赤味を増す染料が存在した。
【0034】
具体的には、塩基性橙31、3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノール、4-アミノ-3-ニトロフェノール、塩基性茶16、HC青2、HC青15、HC青16の各染料1種を含有する染毛料組成物を調製した。これらの染毛料組成物を用いて染毛した人毛毛束(白髪100%)と、これらの染毛料組成物及びアンモニア水8重量%を含有するブリーチ剤第1剤及び過酸化水素水6重量%を含有するブリーチ剤第2剤とを等量混合して染毛した人毛毛束(白髪100%)を、演色性の良いLED灯下と、演色性の悪い蛍光灯下で撮影し、得られた画像の色調を色差計にて計測し、「L値」、「a値」、「b値」を求めた。いずれの染料の場合も、ブリーチ剤を使用しないで染色した場合の人毛毛束の「a値(LED)」と「a値(蛍光灯)」にはほとんど差がなかった。一方、ブリーチ剤を使用して染色した場合の人毛毛束では、塩基性茶16、HC青2、HC青15、HC青16の4種は、「a値(LED)」と比べて「a値(蛍光灯)」が小さくなり、塩基性橙31、3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノール、4-アミノ-3-ニトロフェノールの3種は「a値(LED)」と比べて「a値(蛍光灯)」が大きくなった。ここで、「a値(LED)」は演色性の良いLED灯下で撮影した色調の「a値」を表わし、「a値(蛍光灯)」は演色性の悪い蛍光灯下で撮影した色調の「a値」を表す。
【0035】
また、ブリーチ剤を使用して染色した場合の「a値(LED)」と「a値(蛍光灯)」の変化量を染毛料組成物中の染料の含有量で割ることで、染料毎に単位重量当たりの「a値」の変化量を求めた。「a値」の変化量が負の値になる染料と、変化量が正の値になる染料を各種組み合わせた染毛料組成物を調製し、染毛色を確認したところ、染毛料組成物の「a値」の合計の変化量が小さいものほど、ブリーチ剤を使用して染毛した場合に発生する照明の違いによる色調変化が小さかった。
【0036】
即ち、ブリーチ剤を使用した場合に「a値(LED)」と比べて「a値(蛍光灯)」が小さくなる染料と、ブリーチ剤を使用した場合に「a値(LED)」と比べて「a値(蛍光灯)」が大きくなる染料を組み合わせて調色を行った染毛料組成物を用いることで、ブリーチ剤を使用しても光源による色調の変化を抑えることができることを見出した。
【0037】
更に、各染料について求めた単位重量当たりの「a値」の変化量を係数として、染料混合物である染毛料組成物について各染料の「a値」の変化量を求め、変化量が小さくなるように染料を混合すると、ブリーチ剤を使用して染毛した場合に発生する照明の違いによる色調変化を小さくできることを見出した。
【0038】
即ち、各染料について求めた単位重量当たりの「a値」の変化量を係数として、染料混合物である染毛料組成物について、「a値」の変化量が負の値になる染料と、「a値」の変化量が正の値になる染料とでそれぞれの変化量を合計したとき、負の変化量と正の変化量の差が小さいときほど、ブリーチ剤を使用して染毛した場合に発生する照明の違いによる色調変化を小さくできた。
【0039】
一方、各染料について求めた単位重量当たりの「a値」の変化量を係数として、染料混合物である染毛料組成物について、「a値」の変化量が負の値になる染料と、「a値」の変化量が正の値になる染料とでそれぞれの変化量を合計したとき、負の変化量と正の変化量の差が大きいときでも、絶対値が小さいほうの変化を目視にて識別できる場合には、本発明の効果が確認できた。
【0040】
一般的に、色差dE=20は6級の色差と呼ばれ、色名レベルの色の違いがあり、異なる色と識別される色差である。同様に、色差dE=1.2は2級(実用色差a)の色差と呼ばれ、色の違いを認識できるとされている色差である。「a値」の変化についてのみ考慮しても、変化量が20あれば異なる色と識別でき、変化量が1.2あれば色の違いを認識できることを示している。
【0041】
即ち、「a値」の負の変化量と「a値」の正の変化量との比の値が、1.2/20~20/1.2の範囲内、即ち0.06~17の範囲にあれば、本発明の課題である、ブリーチ剤と連続的にあるいは同時に染毛したり、染毛後に酸化染毛剤やブリーチ剤を使用したときに起こる染毛色の色調変化を抑制することができる。
【0042】
染料の総量によっては1回の使用での染色性が小さい場合もあるが、繰り返し使用することで染料が蓄積して染色性が高まり、その後の酸化染毛剤やブリーチ剤の使用において、染毛色の色調変化を抑える本発明の効果を発現することができるため、本発明の染毛料組成物に含有する染料の総量が少ない場合でも本発明の効果を発揮することができるが、本発明の染毛料組成物に含有している染料の総量が少ないと、毛髪への染料の蓄積が十分でない状態で酸化染毛剤やブリーチ剤を使用する場合には、演色性の悪い照明下で染毛色が緑味を帯びる問題も起こりにくいため、本発明の効果を感じにくい。このため、成分(A)及び成分(B)の含有量の総量は0.1重量%以上であることが好ましい。
【0043】
さらに、本発明の染毛料組成物中には、他の成分として例えば油脂類、ロウ類、炭化水素類、多価アルコール類、アミド類、シリコーン類、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性高分子、両性高分子、非イオン性高分子、アミノ酸類、ビタミン類、キレート剤、防腐剤、安定化剤、酸化防止剤、植物抽出物、色素、香料、顔料、紫外線吸収剤等を含有することができる。
【0044】
本発明の染毛料組成物の剤型は特に限定されることは無く、例えば乳液状、クリーム状、ペースト状のほか、粉末状、液状等どのような剤型も採用することができる。
【0045】
本発明の染毛料組成物は1剤単独で効果を発揮できるものであるが、使用方法は単独使用に限定されるものではなく、本発明の染毛料組成物をアルカリ剤や還元剤を含有する第2剤と使用時に混合してから毛髪に塗布したり、本発明の染毛料組成物を毛髪に塗布してから第2剤を塗布したり、第2剤を毛髪に塗布してから本発明の染毛料組成物を塗布する使用方法でも、本発明の効果を発揮することができる。
【実施例
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。尚、含有量については、他に指定の無い限り重量%を示す。
【0047】
表1、表2に挙げた組成のクリームタイプの染毛料組成物を常法により調製した。(実施例1~13、比較例1~8)
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1に示した染毛料組成物を用いて、以下の方法にて、人毛毛束を染色した。
【0051】
(カラートリートメントによる染毛)
実施例1~13、比較例1~9のクリームタイプの染毛料組成物1gを人毛白髪100%毛束(ビューラックス社製、長さ10cm、重さ1g)に塗布し、40℃で10分間放置した後水洗して染毛料組成物を十分に洗い流し、十分に乾燥させた。
【0052】
(ブリーチ剤による脱色)
上記に記載の染毛済みの人毛毛束に、アンモニア水8重量%を含有するブリーチ剤第1剤と、過酸化水素水6重量%を含有するブリーチ剤第2剤とを等量混合したブリーチ剤混合物1gを塗布し、40℃で10分間放置した後水洗して染毛料組成物を十分に洗い流し、十分に乾燥させた。
【0053】
試験1 染色性の評価
(試験方法)
表1、表2に示した組成の染毛料組成物を用いて1回染毛した人毛毛束を、専門パネル10名により目視観察を行い、染色性が高い、低いの2段階で評価し、以下の基準にて示した。
【0054】
(評価基準)
◎:9名又は10名が染色性が高いと評価した。
○:6名~8名が染色性が高いと評価した。
△:3名~5名が染色性が高いと評価した。
×:染色性が高いと評価した人が2名以下。
【0055】
試験4 演色性の評価
(試験方法)
表1、表2に示した組成の染毛料組成物を用いて1回又は3回繰り返し染毛した後ブリーチ剤によって脱色した人毛毛束を、演色性の良いLED灯下及び演色性の悪い蛍光灯下において、専門パネル10名により目視観察し、色調変化の程度が大きい、小さいの2段階で評価し、以下の基準にて示した。
【0056】
(評価基準)
◎:9名又は10名が光源による色調変化は小さいと評価した。
○:6名~8名が光源による色調変化は小さいと評価した。
△:3名~5名が光源による色調変化は小さいと評価した。
×:光源による色調変化は小さいと評価した人が2名以下。
【0057】
表1の実施例1~13に示したように、成分(A)から選ばれる1種以上と成分(B)から選ばれる1種以上を含有する染毛料組成物によって染毛した毛髪は、演色性の評価において、良好な結果を示した。一方、表2の比較例1~9に示したように、成分(A)を含有しない染毛料組成物によって染毛した場合や、成分(A)と成分(B)との含有量の差が大き過ぎる場合は、演色性の評価において、良好な結果が得られなかった。
【0058】
尚、代表例として、実施例1と比較例1の染毛料組成物を用いた演色性の評価結果を図1図4に示した。図1、2に示したように、実施例1の染毛料組成物によって染色した後ブリーチ剤によって脱色した場合は、演色性の良いLED灯下(図1、右)と演色性の悪い蛍光灯下(図2、右)の比較において色調変化は小さかった。一方、図3、4に示したように、比較例1の染毛料組成物によって染色した後ブリーチ剤によって脱色した場合は、演色性の良いLED灯下(図3、右)と比べて、演色性の悪い蛍光灯下(図4、右)の比較では、色調変化が大きかった。
【0059】
また、表1の実施例4~6及び表2の比較例2に示したように、成分(A)の含有量が成分(B)の含有量に対して少ない場合においても、演色性の評価において良好な結果が得られた。
【0060】
また、表1の実施例10、11及び表2の比較例6、7に示したように、成分(A)及び成分(B)の総量が少ない場合には、1回の染毛による染色性は低いために、演色性評価における色調の変化は目立ちにくく、成分(A)及び成分(B)を含有していることの効果を認識しにくかったが、繰り返し染毛した後の演色性の評価において、実施例10~11は良好な結果が得られた。
【0061】
その他の評価については示さないが、本発明の染毛料組成物による染毛と連続的なブリーチ剤による脱色処理だけでなく、本発明の染毛料組成物による染毛と同時にあるいは連続的に酸化染毛剤による染毛処理を行った場合にも、表1の実施例に示した染毛料組成物は、表2の比較例に示した染毛料組成物と比べて良好な結果が得られた。
【0062】
また、発明のその他の実施例は示さないが、表1の成分1~7記載の染料組成の粉末状染毛料組成物、液状染毛料組成物を調製し、同様の評価を行ったところ、いずれにおいても、脱色と連続的にあるいは同時に染毛したり、染毛後に脱色や酸化染毛剤による染毛を行ったときに染毛色の色調変化を抑制できる効果に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、ブリーチ剤と連続的にあるいは同時に染毛したり、染毛後に酸化染毛剤やブリーチ剤を使用したときに染毛色の色調変化が抑制される染毛料を提供できるため、既染部と新生部とを同時に染毛する際の既染部の色調変化を気にしないで、カラートリートメントと酸化染毛剤による染毛やブリーチ剤の使用を自由に選択できる。

図1
図2
図3
図4