(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】電気化学セルおよびセルスタック
(51)【国際特許分類】
C25B 13/02 20060101AFI20230120BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230120BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230120BHJP
C25B 9/70 20210101ALI20230120BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20230120BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20230120BHJP
C25B 11/02 20210101ALI20230120BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20230120BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230120BHJP
【FI】
C25B13/02 302
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/70
C25B15/08 302
C25B15/00 302
C25B11/02 301
H01M8/0273
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019037417
(22)【出願日】2019-03-01
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2018197348
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 伸一
(72)【発明者】
【氏名】小池 佳代
(72)【発明者】
【氏名】藤井 克司
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴代
(72)【発明者】
【氏名】和田 智之
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-213027(JP,A)
【文献】特表2013-537262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00- 9/77
C25B 11/00- 11/097
C25B 13/00- 15/08
H01M 8/00- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極を含む第1ユニットと、第2電極を含む第2ユニットと、電解質膜および触媒担持電極とを含み、前記第1電極と前記第2電極の間に前記電解質膜および前記触媒担持電極が挟まれた電気化学セルであって、
前記第1ユニットは、嵌合凹部と、前記嵌合凹部の底面に設けられた第1凹部とを含み、前記第1電極は前記第1凹部に設けられており、
前記第2ユニットは、
前記嵌合凹部の深さ以上の高さを有し前記嵌合凹部と嵌合する嵌合凸部と、前記嵌合凸部の上面に設けられた第2凹部とを含み、前記第2電極は前記第2に凹部に設けられており、
前記嵌合凹部と前記嵌合凸部が嵌合されて
おり、
前記第1電極の表面と前記第2電極の表面の間隔は、無荷重状態の前記電解質膜および前記触媒担持電極の厚さよりも、小さい、
ことを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記嵌合凹部の底面と前記嵌合凸部の上面は、直接または絶縁シートを介して接触している、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記第1ユニットおよび前記第2ユニットのいずれかには、前記電解質膜および前記触媒担持電極と外部とを連通する2つの流体通路が設けられており、
一方の流体通路が、他方の流体通路よりも径が大きい、
請求項1
または2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
水および酸素を排出する流体通路が、水を供給する流体通路よりも径が大きい、
請求項
3に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記第1電極と前記第2電極の表面には、溝が設けられている、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記第1電極と前記第2電極の表面には、粗面加工が施されている、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記第1ユニットは、前記第1電極と電気的に接続し、前記嵌合凹部が設けられた面と反対側の面から側面まで延びる第1外部電極を有し、
前記第2ユニットは、前記第2電極と電気的に接続し、前記嵌合凸部が設けられた面と反対側の面から側面まで延びる第2外部電極を有する、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記第1ユニットおよび前記第2ユニットは、流体を供給または排出するための流体通路を側面に有しており、
前記第1外部電極および前記第2外部電極は、前記流体通路が設けられた側面とは異なる側面に設けられている、
請求項
7に記載の電気化学セル。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか1項に記載の電気化学セルを複数有し、
複数の電気化学セルが電気的に直列または並列に接続されている、
セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルおよびセルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーを水素燃料として貯蔵する水素貯蔵システムの需要がますます高まっている。水素貯蔵システムは、余剰電力を用いて水電解セルで水の電気分解を行って水素の形でエネルギーを貯蔵し、電力不足時には貯蔵水素を燃料電池セルで発電して不足電力を補う。
【0003】
電気化学セル(水電解セルおよび燃料電池セル)には、効率的かつ安定な水素分解および発電が求められる。しかしながら、特に水電解セルでは、金属電極と触媒担持電極あるいは触媒担持電極と固体電解質に接触ムラがあると、電力集中(高電圧印加)につながり電極が劣化してしまう。
【0004】
従来の電気化学セルでは、アノードユニットとカソードユニットの締め付けは4~6箇所程度のネジ締めによって行われている。ネジ締めによって抑え付け圧を均一化することは容易ではなく、上述したような電極劣化が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような従来技術の課題を考慮し、本発明は、効率的かつ安定な反応が可能な電気化学セルおよびセルスタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る電気化学セルは以下の構成を有する。すなわち、本発明の一態様は、第1電極を含む第1ユニットと、第2電極を含む第2ユニットと、触媒担持電極と、電解質膜とを含み、前記第1電極と前記第2電極の間に前記触媒担持電極および前記電解質膜が挟まれた電気化学セルである。本態様において、前記第1ユニットは、嵌合凹部と、前記嵌合凹部の底面に設けられた第1凹部とを含み、前記第1電極は前記第1凹部に設けられており、前記第2ユニットは、前記嵌合凹部と嵌合する嵌合凸部と、前記嵌合凸部の上面に設けられた第2凹部とを含み、前記第2電極は前記第2に凹部に設けられており、前記嵌合凹部と前記嵌合凸部が嵌合されている。
【0008】
このようにインロー構造を採用することで、電極と前記電解質膜および前記触媒担持電極の接触ムラを抑制できる。これにより、本態様に係る電気化学セルは、効率的かつ安定な反応を実現できる。また、インロー構造を採用しているので、組み立てが容易であるという利点もある。
【0009】
本態様において、前記嵌合凹部の底面と前記嵌合凸部の上面は、直接または絶縁シートを介して接触していてもよい。これのように、嵌合凹部の底面と嵌合凸部の上面の接触により、第1電極・電解質膜および前記触媒担持電極・第2電極の接触が規定されるので、接触ムラを抑制できる。
【0010】
本態様において、前記第1電極の表面と前記第2電極の表面の間隔は、無荷重状態の前記電解質膜および前記触媒担持電極の厚さよりも、小さいことが好ましい。電解質膜および触媒担持電極は第1電極および第2電極により挟まれて第1電極および第2電極と均一に接触する。
【0011】
本態様において、前記第1ユニットおよび前記第2ユニットのいずれかには、前記電解質膜および前記触媒担持電極と外部とを連通する2つの流体通路が設けられており、一方の流体通路が、他方の流体通路よりも径が大きくてもよい。例えば、水および酸素を排出する流体通路が、水を供給する流体通路よりも径が大きいことが好ましい。流体通路の径が大きいほど流速は遅くなるので、発生した酸素ガスをより確実に排出することができる。
【0012】
本態様において、前記第1電極と前記第2電極の表面には、溝または穴が設けられていてもよい。この溝は、例えば、蛇行した溝、直線の溝、直交した溝、もしくはこれらの組み合わせとすることができる。これにより、水やガスの効率的な供給および排出が可能となる。
【0013】
本態様において、前記第1電極と前記第2電極の表面には、粗面加工が施されていてもよい。粗面加工により電極と触媒担持電極の接触面積が増加するので、抵抗を下げることができる。
【0014】
本態様において、前記第1ユニットは、前記第1電極と電気的に接続し、前記嵌合凹部が設けられた面と反対側の面から側面まで延びる第1外部電極を有し、前記第2ユニットは、前記第2電極と電気的に接続し、前記嵌合凸部が設けられた面と反対側の面から側面まで延びる第2外部電極を有してもよい。このように外部電極がユニットの側面まで延びていることで、電源供給のための配線が容易となる。
【0015】
本態様において、前記第1ユニットおよび前記第2ユニットは、流体を供給または排出するための流体通路を側面に有しており、前記第1外部電極および前記第2外部電極は、前記流体通路が設けられた側面とは異なる側面に設けられていてもよい。このように流体通路と外部電極が異なる側面に設けられることで、配線や配管が容易となる。
【0016】
本発明の第2の態様は、上記態様の電気化学セルを複数有し、複数の電気化学セルが電気的に直列または並列に接続されているセルスタックである。
【0017】
本態様に係るセルスタックは、単セルの集合体であるため、故障や劣化したセルの特定が容易であるとともに、故障や劣化したセルのみを交換することも可能である。また、独立した単セルの集合体であるためスタックの形状を自由に決定でき、使用状況に応じた適切な形状のセルスタックを提供可能である。
【0018】
また、水を供給する配給管から分岐して電気化学セルに水を供給することにより、流量や発電量を一定にすることもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、効率的かつ安定な反応が可能な電気化学セルおよびセルスタックを提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は水電解セルスタックの構成説明図である。
【
図3】
図3Aはアノードユニットの表面側の斜視図であり、
図3Bはアノードユニットの裏面側の斜視図である。
【
図4】
図4A~
図4Cは、それぞれアノードユニットの側面図、正面図、断面図である。
【
図5】
図5Aはカソードユニットの表面側の斜視図であり、
図5Bはカソードユニットの裏面側の斜視図である。
【
図6】
図6A~
図6Cは、それぞれカソードユニットの側面図、正面図、断面図である。
【
図7】
図7は、アノードユニットとカソードユニットの嵌合を説明する図である。
【
図8】
図8は、金属電極表面に加工を施さない場合、粗面加工を施した場合、十字溝を設けた場合のそれぞれについての水電解性能の評価結果を示す図である。
【
図9】
図9は、測定順序による影響を評価するために、加工を施していない金属電極を用いて行った2回の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0022】
(全体構成)
本実施形態は、電力を使用して水を電気分解する水電解セルスタックである。本実施形態では、例えば、太陽光・風力・水力・地熱等の再生可能エネルギーに基づく電力を使用して水を電気分解することを想定している。しかしながら、本実施形態は、化石燃料や原子力等に基づく電力を使用してもよい。
【0023】
図1は、本実施形態に係る水電解セルスタック1(以下、単にスタック1ともいう)の構成説明図である。スタック1は、複数の水電解セル2(単セル)が積層された集合体である。ただし、後述するように個々の水電解セル2は独立した構造を有するので、スタック1は必ずしも水電解セル2を積層する必要はなく、スタック形状は自由に決定できる。また、
図1では3個の水電解セル2を含むセルスタック1を示しているが、水電解セル2の数は任意であってよい。
【0024】
水電解セル2は、アノードユニット10とカソードユニッド20を含んで構成される。アノードユニット10とカソードユニット20には直流電源(不図示)から電力が供給され、アノードユニット10の電極が陽極(酸素発生極)、カソードユニット20の電極が陰極(水素発生極)に設定される。
【0025】
それぞれの水電解セル2のアノードユニット10には共通の供給管3から分岐した多岐管により水が供給され、陽極で発生した酸素は水とともに酸素取出管4から取り出される。また、カソードユニットの陰極で発生した水素は水素取出管5から取り出されて、水素貯蔵部(不図示)に導かれる。
【0026】
水電解セル2の構造についてより詳細に説明する。
図2Aは水電解セル2の分解図であり、
図2Bは水電解セル2の組立図である。
図3Aはアノードユニット10の表面(組み立て時の内側)の斜視図であり、
図3Bはアノードユニット10の裏面(組み立て時の外側)の斜視図である。
図4A~4Cはアノードユニット10の側面図、正面図、断面図である。
図5Aはカソードユニット20の表面(組み立て時の内側)の斜視図であり、
図5Bはカソードユニット20の裏面(組み立て時の外側)の斜視図である。
図6A~6Cは
カソードユニット20の側面図、正面図、断面図である。
【0027】
図2A,2Bに示すように、水電解セル2は、アノードユニット10とカソードユニット20の間に、絶縁シート40a、金属メッシュ50a、膜電極構造体(MEA)30、金属メッシュ50b、絶縁シート40bが挟まれた構造を有する。アノードユニット10とカソードユニット20は、ボルト63とナット61,62により固定される。
【0028】
(アノードユニット)
アノードユニット10の本体101は、例えば、アクリル樹脂製であり、正方形板状である。本体101の材料は特に限定されず、アクリル樹脂以外の絶縁材料であってもよく、導電性材料であっても他の導電性部材との間に絶縁材を挟めばよい。また、本体101の形状は正方形に限定されず、任意の形状であって構わない。本体101の表面には、円形状の嵌合凹部102が設けられ、嵌合凹部102の底面102aにはさらに、正方形状の凹部103(第1凹部)が設けられている。なお、嵌合凹部102の形状は嵌合凸部202と対応した形状であれば、円形状以外であってもよい。
【0029】
凹部103には、MEA30に電力を供給するための金属電極104が設けられている。金属電極104の材料は、導電性や耐腐食性を有すれば特に制限はなく、例えば、チタン、ニッケル、SUS(ステンレス鋼)等を使用できる。なお、電極は必ずしも金属製である必要はなく、導電性および耐腐食性があれば、グラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブなどのカーボン(黒鉛)電極あるいはその他の半導体電極を採用することもできる。金属電極104の表面には粗面加工が施されたり、蛇行した溝や直交した溝や直線の溝や穴などの少なくともいずれかが設けられたりしてもよい。金属電極104の基部104aは、外部電極105と接触しており、本体101の裏面側から外部電極105とともにネジ106によって本体101に固定されている。金属電極104の基部104aには、Oリング104bが設けられてシーリングが施されている。外部電極105は、本体101の裏面から側面に延びる電極である。外部電極105は直流電源に接続される。
【0030】
本体101の側面のうち、外部電極105が設けられる面とは異なる側面に、水の供給管3と接続する継ぎ手107が設けられる。継ぎ手107を介して供給される水は、流体通路108および開口109を通って凹部103に流入する。また、継ぎ手107と反対側の側面には継ぎ手110が設けられる。水電解の際に陽極で発生した酸素(および水)は、開口112および流体通路111を介して、継ぎ手110から酸素取出管4に排出される。このように凹部103の空間は、開口109・流体通路108・継ぎ手107と開口112・流体通路111・継ぎ手110を介して外部に連通する。
【0031】
ここで、水供給用の流体通路108および開口109の径は、水および酸素排出用の流体通路111および開口112の径よりも小さく設定される。流体通路の径が小さいほど流体の流速が早くなるので、水電解の際に発生した酸素がより確実に、開口112の方に流れるようにできる。
【0032】
(カソードユニット)
カソードユニット20の本体201は、例えば、アクリル樹脂製であり、正方形板状である。本体201の材料は特に限定されず、アクリル樹脂以外の絶縁材料であってもよく、導電性材料であっても他の導電性部材との間に絶縁材を挟めばよい。また、本体201の形状は正方形に限定されず、任意の形状であって構わない。本体201の表面には、アノードユニット10の嵌合凹部102と嵌合する円形状の嵌合凸部202が設けられる。嵌合凸部202の上面202aには、正方形状の凹部203(第2凹部)が設けられている。なお、嵌合凸部202の形状は嵌合凹部102と対応した形状であれば、円形状以外であってもよい。
【0033】
凹部203には、MEA30に電力を供給するための金属電極204が設けられている。金属電極204の材料は、導電性や耐腐食性を有すれば特に制限はなく、例えば、チタン、ニッケル、SUS(ステンレス鋼)等を使用できる。なお、電極は必ずしも金属製である必要はなく、導電性および耐腐食性があれば、グラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブなどのカーボン(黒鉛)電極あるいはその他の半導体電極を採用することもできる。金属電極204の表面には粗面加工が施されたり、蛇行した溝や直交した溝や直線の溝や穴などの少なくともいずれかが設けられたりしてもよい。金属電極204の基部204aは、外部電極205と接触しており、本体201の裏面側から外部電極205とともにネジ206によって本体201に固定されている。金属電極204の基部204aには、Oリング204bが設けられてシーリングが施されている。外部電極205は、本体201の裏面から側面に延びる電極である。外部電極205は直流電源に接続される。
【0034】
本体201の側面のうち、外部電極205が設けられる面とは異なる側面に、水電解の際に発生する水素を取り出すための継ぎ手207が設けられる。水素は、開口209および流体通路208を介して、継ぎ手207から外部に排出される。このように凹部203の空間は、開口209・流体通路208・継ぎ手207を介して外部に連通する。なお、水素とともに水の一部も、MEA30の間のイオン交換膜を通って、開口209・流体通路208・継ぎ手207を介して外部に排出される。
【0035】
(電極の表面加工)
アノードユニット10の金属電極104およびカソードユニットの金属電極204の表面のいずれか一方または両方に、溝を設けたり粗面(砂面)加工を施したりしてもよい。溝は、例えば、蛇行した溝、直交した溝、ストライプ状の溝とすることができる。粗面加工は、例えば、サンドブラスト加工により設ければよい。金属電極104と金属電極204の両方に加工を施す場合、両方の電極に同じ加工を施してもよいし、異なる加工を施してもよい。金属電極104,204に表面加工を施すことで、電極にて発生した気体を効率的に排出することができ、電極での反応を阻害しない。これにより、セルの水電解性能が向上する。
【0036】
(MEA:膜電極構造体)
MEA30は、電解質層(電解質膜)を触媒担持電極で挟んだ構造を有する。電解質層は、イオン透過性であり、具体的にはイオン交換膜で構成される。本実施形態では、水電解で使用される公知のイオン交換膜を使用すればよい。イオン交換膜の具体例として、例えば、イオン交換基を導入したパーフルオロカーボン樹脂等の固体高分子電解質膜が挙げられる。触媒担持電極は、電解質層と接触する側の少なくとも表面部に水電解触媒を含む電極である。水電解触媒は任意の公知のものを使用すればよく、その一例として、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、およびこれら金属の合金や酸化物等が挙げられる。
【0037】
(絶縁シート)
絶縁シート40a,40bは絶縁性および柔軟性がある材料(たとえば、シリコーン)であり、それぞれ嵌合凹部102の底面102aおよび嵌合凸部202の上面202aと略同一の形状、すなわち金属電極104,204に対応する開口を有する円形状のシートである。絶縁シート40a,40bは、電解反応部(凹部103と凹部203によって形成される空間)をシールするシール材として機能する。絶縁シート40a、40bの厚さは例えば、0.1mm~0.3mmである。なお、筐体が絶縁性の場合、絶縁シート40a,40bは省略してもよい。
【0038】
(金属メッシュ)
金属メッシュ50a,50bは、金属電極104,204と触媒担持電極に挟まれる。
金属メッシュ50a,50bは、例えば、SUS製の20~100メッシュである。金属電極104,204と触媒担持電極の間の導電性が確保できる場合は、金属メッシュ50a,50bは省略してもよい。
【0039】
(アノードユニットとカソードユニットの嵌合)
次に、
図7を参照して、アノードユニット10とカソードユニット20の嵌合、および金属電極104と金属電極204によるMEA30の挟持について説明する。
【0040】
アノードユニット10の嵌合凹部102とカソードユニット20の嵌合凸部202は嵌合して、嵌合凹部102の底面102aと嵌合凸部202の上面202aは、絶縁シート40a,40bを介して接触する。そのため、嵌合凸部202の高さ(T2’)は嵌合凹部102の深さ(T2)以上であることが望ましい。このように、嵌合凹部102と嵌合凸部202の面によりアノードユニット10とカソードユニット20の接触、さらには金属電極104と金属電極204の位置が規定されるため、金属電極104,204とMEA30の抑え付け圧を一定にでき、接触ムラを抑制できる。
【0041】
金属電極104,204の表面部の厚さは、凹部103,203の深さよりも小さい。したがって、アノードユニット10とカソードユニット20を組み立てた状態で、金属電極104と金属電極204の表面には間隔T1がある。この間隔T1は、MEA30の触媒担持電極と金属メッシュ50a,50bの厚さの合計(ここでの厚さは無荷重時のもの)よりも小さくなるようにする。したがって、組み立て時にMEA30の触媒担持電極に対して金属電極104,204が均一な圧力で接触する。本実施形態において、例えば、金属電極104,204の表面部の厚さが2mm、凹部103,203の深さが2.4mm、MEA30の触媒担持電極の厚さ(無荷重時)が0.8~1.0mm、金属メッシュ50a,50bの厚さが各々0.1mmである。
【0042】
組み立て時における嵌合凹部102の底面102aと嵌合凸部202の上面202aの間の間隔T3は、絶縁シート40a,40bの厚さと等しい。絶縁シート40a,40bを省略する場合には、間隔T3はゼロである。本実施形態では、嵌合凸部202の高さ(T2’)は嵌合凹部102の深さ(T2)以上であるため、組み立て時における嵌合凹部102の上端部と嵌合凸部202の下端部の間の間隔T4は、T4≧T3(≧0)という関係を満たす。
【0043】
本実施形態において、アノードユニット10の外部電極105とカソードユニット20の外部電極205は、同じ向きの側面に位置するように組み立てられる。そして、継ぎ手107,110,207は、外部電極105,205とは異なる向きの側面に位置する。したがって、配線や配管の接続が容易となる。なお、アノードユニット10とカソードユニット20は、必ずしもこのような向きに組み立てられる必要はなく、必要に応じて任意の向きに組み立てられてもよい。
【0044】
(性能評価)
上述した構成の水電解セル2を作成して水電解性能の評価を行った。その結果を
図8に示す。ここでは、電極104,204に表面加工をしない場合、粗面加工を施した場合、十字溝を設けた場合のそれぞれについて評価を行った。粗面加工は、番手100のサンドブラストにより設けている。また、十字溝は、溝の幅2mm、溝の深さ0.2mm、溝の間隔4mmとしている。この評価ではPtC/IrOxの5層のMEAを利用しており、それぞれの評価には同じMEAを使用している。
【0045】
図8のうち、グラフ81は加工無しの場合、グラフ82は粗面加工の場合、グラフ83は十字溝の場合の電圧電流特性を示す。また、
図8には、それぞれの電極に水滴を垂らし
たときの様子も示している。
【0046】
図に示すように、電極表面に加工を施さない場合も十分に大きな電流が得られているが、粗面加工や十字溝を設けることで、大きな電流増加が達成できている。このように、電極表面の親水・疎水などが水電解性能に影響することが分かる。
【0047】
なお、
図8の実験は同じMEAを用いて、加工無し、粗面加工、十字溝の順番で測定を行っている。ここで、実験の順序による影響を考慮して、最後に再度加工無しの場合の測定を行った。
図9は、1回目と2回目の加工無しの電極を用いた場合の評価結果を示す。グラフ81が1回目の測定であり、グラフ84が2回目の測定である。このように、2回目の測定においてそれほど大きな電流増加は見られず、測定順序による影響は少ないことが分かる。すなわち、
図8に示す電流増加は、電極の表面加工によるものであることが分かる。
【0048】
(本実施形態の有利な効果)
本実施形態に係る水電解セル2は、アノードユニット10の嵌合凹部102とカソードユニット20の嵌合凸部202によるインロー構造により、これらのユニットの接触を規定している。したがって、金属電極104,204と触媒担持電極の間の抑え付け圧や、触媒担持電極と電解質層の間の抑え付け圧を一定とすることができる。接触ムラを抑制することで電力集中(高電圧印加)を回避でき、効率的な水素発生や電極の劣化抑制といった効果が得られる。
【0049】
また、インロー構造を採用しているので、例えば、アノードユニット10の表面側を上にして載置した状態で、MEA30や絶縁シート40a,40b等を載せ、さらにカソードユニット20を嵌合させることにより、水電解セル2が組み立てられる。このように、本実施形態に係る水電解セル2は組み立てが容易であるという利点がある。
【0050】
また、アノードユニット10において、水を供給する流体通路108や開口109の径が、酸素および水を排出する流体通路111や開口112の径よりも小さいため、流入する水の流速が、流出する水(および酸素)の流速よりも早くなる。したがって、水電解によって発生した酸素がより確実に排出され、電極に酸素が残留することを抑制できる。
【0051】
また、本実施形態に係る水電解セル2をスタックした水電解セルスタック1には次のような利点がある。第1に、個々の水電解セル2が独立しているので、個別に動作をモニタリングでき、故障や劣化したセルを特定ができる。また、セル単位で交換することもできる。第2に、水電解セル2が独立しているので、水電解セル2を必ずしも積層させる必要はなく、水電解セルスタック1の利用用途にあわせてスタック形状を自由に変えることができる。
【0052】
(変形例)
上記の実施形態では、アノードユニット10に嵌合凹部102が設けられカソードユニット20に嵌合凸部202が設けられているが、これとは逆に、アノードユニット10に嵌合凸部が設けられ、カソードユニット20に嵌合凹部が設けられてもよい。このような構成でも同様の効果が得られる。
【0053】
水電解セル2の形状は四角形であるが、これは丸形やその他の多角形形状であってもよく、その形状は特に限定されない。
【0054】
上記の実施形態は水電解セル(スタック)であるが、燃料電池セル(スタック)を同様の構造としてもよい。すなわち、本発明は、水電解セル(スタック)と燃料電池セル(ス
タック)のどちらにも適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1:水電解セルスタック 2:水電解セル
3:水供給管 4:酸素取出管 5:水素取出管
10:アノードユニット 20:カソードユニット
101:アノードユニット本体 102:嵌合凹部 103:凹部
104:金属電極 105:外部電極 106:ネジ
107:継ぎ手 108:流体通路 109:開口
110:継ぎ手 111:流体通路 112:開口
201:カソードユニット本体 202:嵌合凸部 203:凹部
204:金属電極 205:外部電極 206:ネジ
207:継ぎ手 208:流体通路 209:開口