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特許7213555神経学的状態の予防および治療のためのカスパーゼ1の阻害およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】神経学的状態の予防および治療のためのカスパーゼ1の阻害およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4025 20060101AFI20230120BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230120BHJP
   C07D 405/12 20060101ALN20230120BHJP
【FI】
A61K31/4025
A61K45/00
A61P25/00
A61P25/28
C07D405/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019555521
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 CA2017051548
(87)【国際公開番号】W WO2018112626
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】62/438,529
(32)【優先日】2016-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/579,936
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522156162
【氏名又は名称】シーエーエスピー-エイド インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルブラン,アンドレア
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0148766(US,A1)
【文献】特表2003-534320(JP,A)
【文献】European Journal of Neuroscience,2005年,22,1751-1756
【文献】Cell Death and Disease,2013年,4,e975
【文献】Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,2007年,321,509-516
【文献】Nature,2013年,493,674-678
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4025
A61P 25/28
C07D 405/12
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カスパーゼ1阻害剤を含み、前記カスパーゼ1阻害剤がVX-765またはその薬学的に許容される塩である、対象における認知障害の進行の後退において使用するための、組成物。
【請求項2】
前記認知障害が軽度認知障害である、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記認知障害が主観的認知障害である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記認知障害が年齢依存性認知障害である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記認知障害が、記憶障害、顔または場所を認識できないこと、質問を繰り返すこと、学習困難、判断困難、気分または行動の変化、視覚的問題、および日常生活の作業の実行困難の1つまたは複数を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記認知障害が記憶障害を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記記憶障害が、エピソード記憶、意味記憶、空間記憶、および作業記憶の1以上の障害を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記対象が、年齢依存性認知障害を指し示す神経心理学的プロファイルを有する、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記対象が、認知障害に関連する脳における神経炎症を患っている、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記対象がヒトである、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
認知障害の後退に用いられる、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記認知障害が記憶障害である、請求項1~11に記載の組成物。
【請求項13】
前記記憶障害が、エピソード記憶、意味記憶、空間記憶、および作業記憶の1以上の障害を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
対象における認知障害の進行の後退において使用するための、カスパーゼ1阻害剤、または前記カスパーゼ1阻害剤および薬学的に許容される担体を含む組成物を含み、
前記カスパーゼ1阻害剤がVX-765またはその薬学的に許容される塩である、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年12月23日に出願された米国仮出願第62/438,529号および2017年11月1日に出願された米国仮出願第62/579,936号の優先権を主張し、これらの仮出願は参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、神経学的状態、例えば神経変性疾患または認知障害の予防および治療に関し、より具体的には、カスパーゼ1阻害に基づくそのような予防および治療に関する。
【背景技術】
【0003】
神経変性疾患は世界中で数百万人に影響しており、人口集団が増加的に高齢となっていく中でますます目に付くものとなってきている。特にアルツハイマー病(AD)は、高齢の対象において非常によく見られ、記憶喪失および他の認知機能の進行性の低下により特徴付けられる。疾患の神経病理学としては、神経原線維変化の蓄積、β-アミロイド含有プラーク、ジストロフィー性神経突起、ならびにシナプスおよびニューロンの喪失が挙げられる(Selkoe, D. et al., 1999, Alzheimer's Disease, 2nd Ed., Terry R. et al., eds. pg. 293-310. Philadelphia: Lippincott, Williams and Wilkins)。
【0004】
世界保健機関によれば、アルツハイマー病が主要な原因である認知症は、世界中で4750万人の個体に影響し、追加的に770万の症例が毎年診断されている。ADの症状の治療のために限られた数の薬理剤のみが同定されている。今日、これらのうちで最も目に付くものは、脳において活性のコリンエステラーゼ阻害剤であるガランタミン、リバスチグミン、およびドネペジル塩酸塩、ならびにN-メチル-D-アスパラギン酸グルタミン酸受容体を標的化するメマンチンである。これらの薬物は疾患の進行を緩慢化させる効果が低い。さらには、ADの発生または進行の遮断に効果的な化合物は確立されていない。
【0005】
認知障害は、米国単独で1600万人より多くに影響している。認知障害を患う人々は、記憶、新たな事の学習、集中、または日常的な決定に困難を抱える。認知障害はいずれかの1病態により引き起こされるものではなく、特定の年齢群に限定されない。重篤度は、認知機能の変化に気付き始めることがあるがまだ日常の活動を行うことができることがある低いレベルから、物事の意味または重要性を理解する能力および話すまたは書く能力の喪失に繋がる結果、独立して生活することが不可能となり得る重篤なレベルに及ぶ。
【0006】
したがって、神経学的状態、例えば神経変性疾患または認知障害の治療のための新規の組成物および方法の必要性が存在する。
【0007】
本明細書は多数の文献を参照、それらの内容は参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、概して、神経学的状態、例えば神経変性疾患または認知障害の予防および治療に関し、より具体的には、カスパーゼ1阻害に基づくそのような予防および治療に関する。
【0010】
一態様では、本発明は、対象において神経学的状態(例えば、神経変性疾患)を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、または治療する方法であって、対象にカスパーゼ1阻害剤を投与することを含む、方法に関する。
【0011】
本発明はまた、対象において神経学的状態(例えば、神経変性疾患)を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、または治療するための、カスパーゼ1阻害剤の使用に関する。
【0012】
本発明はまた、対象において神経学的状態(例えば、神経変性疾患)を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、または治療するための医薬の調製のための、カスパーゼ1阻害剤の使用に関する。
【0013】
本発明はまた、対象における神経学的状態(例えば、神経変性疾患)の予防、その発症の遅延もしくはその重篤度の低減、その進行の予防もしくは後退、または治療において使用するためのカスパーゼ1阻害剤に関する。
【0014】
本発明はまた、対象における神経学的状態(例えば、神経変性疾患)の予防、その発症の遅延もしくはその重篤度の低減、その進行の予防もしくは後退、または治療において使用するための、カスパーゼ1阻害剤、またはカスパーゼ1阻害剤および薬学的に許容される担体を含む組成物を含む、キットに関する。
【0015】
さらなる態様では、本発明はまた、対象において認知障害を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、または治療する方法であって、対象にカスパーゼ1阻害剤を投与することを含む、方法に関する。
【0016】
本発明はまた、対象において認知障害を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、または治療するための、カスパーゼ1阻害剤の使用に関する。
【0017】
本発明はまた、対象において認知障害を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、または治療するための医薬の調製のための、カスパーゼ1阻害剤の使用に関する。
【0018】
本発明はまた、対象における認知障害の予防、その発症の遅延もしくはその重篤度の低減、その進行の予防もしくは後退、または治療において使用するためのカスパーゼ1阻害剤に関する。
【0019】
本発明はまた、対象における認知障害の予防、その発症の遅延もしくはその重篤度の低減、その進行の予防もしくは後退、または治療において使用するための、カスパーゼ1阻害剤、またはカスパーゼ1阻害剤および薬学的に許容される担体を含む組成物を含む、キットに関する。
【0020】
一実施形態では、カスパーゼ1阻害剤は、式I:
【化1】

(式中、
は、
【化2】

であり、
およびRは一緒になって環を形成し、前記環は、
【化3】

であり、
各環において、任意の水素原子は独立してRにより置換されていてもよく、かつ、同じ原子に結合した2つの水素原子の任意のセットは独立してカルボニルにより置換されていてもよく、
およびRにより形成される環が、
【化4】

である場合、
はRC(O)-であり、かつ
はフェニル、チオフェン、またはピリジンであり、各環はRから独立して選択される最大5つの基により置換されていてもよく、かつ、フェニル、チオフェン、またはピリジン上の少なくとも1つの位置はR10により置換されており、
およびRにより形成される環が、
【化5】

である場合、
はRC(O)-、HC(O)、RSO-、ROC(O)、(RNC(O)、(R)(H)NC(O)、RC(O)C(O)-、R-、(RNC(O)C(O)、(R)(H)NC(O)C(O)、またはROC(O)C(O)-であり、かつ
はC1~12の脂肪族基、C3~10の脂環式基、C6~10のアリール、5~10員のヘテロシクリル、5~10員のヘテロアリール、(C3~10の脂環式基)-(C1~12の脂肪族基)-、(C6~10のアリール)-(C1~12の脂肪族基)-、(5~10員のヘテロシクリル)-(C1~12の脂肪族基)-、または(5~10員のヘテロアリール)-(C1~12の脂肪族基)-であり、または、同じ原子に結合した2つのR基はその原子と共に3~10員の芳香環または非芳香環を形成し、任意の環はC6~10のアリール、5~10員のヘテロアリール、C3~10のシクロアルキル、または5~10員のヘテロシクリルに縮合していてもよく、最大3つの脂肪族炭素原子は、O、N、NR11、S、SO、およびSOから選択される基により置換されていてもよく、RはR12から独立して選択される最大6つの置換基により置換されており、
はH、C1~12の脂肪族基、C3~10の脂環式基、C6~10のアリール、5~10員のヘテロシクリル、5~10員のヘテロアリール、(C3~10のシクロアルキル)-(C1~12の脂肪族基)-、シクロアルケニル-(C1~12の脂肪族基)-、(C6~10のアリール)-(C1~12の脂肪族基)-、(5~10員のヘテロシクリル)-(C1~12の脂肪族基)-、または(5~10員のヘテロアリール)-(C1~12の脂肪族基)-であり、任意の水素原子は独立してR12により置換されていてもよく、かつ、同じ原子に結合した2つの水素原子の任意のセットは独立してカルボニルにより置換されていてもよく、
は-C(R13)(R14)(R15)、C6~10のアリール、5~10員のヘテロアリール、またはC3~7のシクロアルキルであり、
はハロゲン、-OR11、-NO-CN-CF、-OCF、-R11、1,2-メチレンジオキシ、1,2-エチレンジオキシ、-N(R11、-SR11、-SOR11、-SO11-SON(R11、-SO11,-C(O)R11、-C(O)C(O)R11、-C(O)C(O)OR11、-C(O)C(O)N(R11、-C(O)CHC(O)R11、-C(S)R11、-C(S)OR11、-C(O)OR11、-OC(O)R11、-C(O)N(R11、-OC(O)N(R11、-C(S)N(R11、-(CH0~2NHC(O)R11、-N(R11)N(R11)COR11、-N(R11)N(R11)C(O)OR11、-N(R11)N(R11)CON(R11、-N(R11)SO11、-N(R11)SON(R11、-N(R11)C(O)OR11、-N(R11)C(O)R11、-N(R11)C(S)R11、-N(R11)C(O)N(R11、-N(R11)C(S)N(R11-N(COR11)COR11、-N(OR11)R11、-C(=NH)N(R11、-C(O)N(OR11)R11、-C(=NOR11)R11、-OP(O)(OR11、-P(O)(R11、-P(O)(OR11、または-P(O)(H)(OR11)であり、
およびR12はそれぞれ独立してハロゲン、-OR11、-NO,-CN、-CF、-OCF、-R11、1,2-メチレンジオキシ、1,2-エチレンジオキシ、-N(R11、-SR11、-SOR11、-SO11、-SON(R11-SO11、-C(O)R11、-C(O)C(O)R11、-C(O)C(O)OR11、-C(O)C(O)N(R11、-C(O)CHC(O)R11、-C(S)R11、-C(S)OR11、-C(O)OR11、-OC(O)R11、-C(O)N(R11、-OC(O)N(R11、-C(S)N(R11、-(CH0~2NHC(O)R11、-N(R11)N(R11)COR11、-N(R11)N(R11)C(O)OR11、-N(R11)N(R11)CON(R11、-N(R11)SO11、-N(R11)SON(R11、-N(R11)C(O)OR11、-N(R11)C(O)R11、-N(R11)C(S)R11、-N(R11)C(O)N(R11、-N(R11)C(S)N(R11、-N(COR11)COR11、-N(OR11)R11、-C(=NH)N(R11、-C(O)N(OR11)R11、-C(=NOR11)R11、-OP(O)(OR11、-P(O)(R11、-P(O)(OR11、または-P(O)(H)(OR11)であり、
10はハロゲン、-OR17、-NO-CN-CF-OCF、-R17、または-SR11であり、R10は5つ以下の直鎖原子を有し、
11は水素、C1~12の脂肪族基、C3~10の脂環式基、C6~10のアリール、5~10員のヘテロシクリル、5~10員のヘテロアリール、(C3~10の脂環式基)-(C1~12の脂肪族基)-、(C6~10のアリール)-(C1~12の脂肪族基)-、(5~10員のヘテロシクリル)-(C1~12の脂肪族基)-、またはヘテロアリール-(C1~12の脂肪族基)-であり、任意の水素原子は独立してR18により置換されていてもよく、かつ、同じ原子に結合した2つの水素原子の任意のセットは独立してカルボニルにより置換されていてもよく、
13はHまたはC1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルであり、
14はHまたはC1~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルであり、
15は-CF、-C3~7のシクロアルキル、C6~10のアリール、5~10員のヘテロアリール、複素環、またはC1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルであり、アルキルの各炭素原子は独立してR16により置換されていてもよく、
またはR13およびR15は、それらが結合する炭素原子と一緒になって3~10員の脂環式基を形成し、
16はハロゲン、-OR17、-NO、-CN、-CF-OCF、-R17、または-SR17であり、R17はC1~4の脂肪族基であり、
17はC1~4の脂肪族基であり、かつ
18は-OR17、-NO、-CN、-CF、-OCF、-R17、1,2-メチレンジオキシ、1,2-エチレンジオキシ、-N(R17、-SR17、-SOR17、-SO17-SON(R17-SO17、-C(O)R17、-C(O)C(O)R17、-C(O)C(O)OR17、-C(O)C(O)N(R17、-C(O)CHC(O)R17-C(S)R17、-C(S)OR17、-C(O)OR17、-OC(O)R17、-C(O)N(R17、-OC(O)N(R17、-C(S)N(R17、-(CH0~2NHC(O)R17、-N(R17)N(R17)COR17、-N(R17)N(R17)C(O)OR17、-N(R17)N(R17)CON(R17、-N(R17)SO17、-N(R17)SON(R17、-N(R17)C(O)OR17、-N(R17)C(O)R17、-N(R17)C(S)R17、-N(R17)C(O)N(R17、-N(R17)C(S)N(R17、-N(COR17)COR17、-N(OR17)R17、-C(=NH)N(R17、-C(O)N(OR17)R17、-C(=NOR17)R17、-OP(O)(OR17、-P(O)(R17、-P(O)(OR17、または-P(O)(H)(OR17)であり、R17は水素、C1~12の脂肪族基、C3~10の脂環式基、C6~10のアリール、5~10員のヘテロシクリル、5~10員のヘテロアリール、(C3~10の脂環式基)-(C1~12の脂肪族基)、(C6~10のアリール)-(C1~12の脂肪族基)-、(5~10員のヘテロシクリル)-(C1~12の脂肪族基)-、またはヘテロアリール-(C1~12の脂肪族基)-である)
を有する化合物、またはその単一の立体異性体、立体異性体の混合物、もしくは薬学的に許容される塩である。
【0021】
一実施形態では、カスパーゼ1阻害剤は、式II:
【化6】

の化合物、またはその単一の立体異性体、立体異性体の混合物、もしくは薬学的に許容される塩である。
【0022】
一実施形態では、カスパーゼ1阻害剤はVX-765またはその薬学的に許容される塩である。
【0023】
一実施形態では、神経変性疾患はアルツハイマー病(AD)である。
【0024】
実施形態では、方法、使用およびキットは、神経学的状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD))に関連する認知障害、例えば記憶障害の後退または予防のためのものである。
【0025】
実施形態では、方法、使用およびキットは、神経学的状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD))に関連するΑβ(例えば、Αβ42)の産生、形成、凝集および/または沈着の予防、後退、および/または減少のためのものである。一実施形態では、Αβ(例えば、Αβ42)の産生、形成、凝集および/または沈着のそのような予防、後退、および/または減少は、APPレベルを減少させることなく起こる。
【0026】
実施形態では、方法、使用およびキットは、神経学的状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD))に関連する認知障害、例えば記憶障害の進行を後退させまたは予防するため、すなわち、そのような認知障害が進行して認知障害が悪化することを後退させまたは予防するためのものである。
【0027】
一実施形態では、対象は神経学的状態(例えば、神経変性疾患)の兆候が現れる前の対象である。一実施形態では、対象は主観的認知障害を患っている。一実施形態では、対象は軽度認知障害を患っている。一実施形態では、対象は、
(a)脳における増加したアミロイドおよびタウ病理、
(b)萎縮した海馬、
(c)神経変性疾患への進行を指し示すアミロイド、タウおよび/または炎症性バイオマーカープロファイル、
(d)年齢依存性認知障害またはアルツハイマー病を指し示す神経心理学的プロファイル、
(e)年齢依存性認知障害またはアルツハイマー病を指し示す他の神経イメージングまたは生化学的(血液、CSF)バイオマーカー、または
(f)(a)~(e)のいずれかの組合せ
を有する。
【0028】
一実施形態では、対象は、認知障害に関連する脳における神経炎症を患っている。
【0029】
一実施形態では、対象は家族性アルツハイマー病に関連する遺伝子変異を有する。
【0030】
一実施形態では、認知障害は軽度認知障害である。
【0031】
一実施形態では、認知障害は主観的認知障害である。
【0032】
一実施形態では、認知障害は年齢依存性認知障害である。
【0033】
一実施形態では、認知障害は、記憶障害、顔または場所を認識できないこと、質問を繰り返すこと、学習困難、判断困難、気分または行動の変化、視覚的問題、および日常生活の作業の実行困難の1つまたは複数を含む。
【0034】
一実施形態では、対象は年齢依存性認知障害を指し示す神経心理学的プロファイルを有する。
【0035】
一実施形態では、対象は、認知障害に関連する脳における神経炎症を患っている。
【0036】
一実施形態では、対象は哺乳動物であり、さらなる実施形態では、ヒトである。
【0037】
一実施形態では、カスパーゼ1阻害剤は、カスパーゼ1阻害剤および薬学的に許容される担体を含む組成物中に含まれる。
【0038】
本発明の他の目的、利点および特徴は、添付の図面を参照して例としてのみ与えられる本発明の特定の実施形態の以下の非限定的な説明を読めばより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】指し示した通りに腹腔内(IP)注射によりビヒクルまたは50mg/KgのVX-765で処置した同腹の野生型(WT)およびJ20マウス(処置群)に対する新規物体認識試験。前曝露:2つの非新規物体を有するNORボックスへの前曝露、非新規(familiar):1つの非新規物体および1つの新規物体を用いる試験の間の非新規物体への接触回数、新規:新規物体への接触回数。使用したマウスの数を棒中に指し示す。群当たり1匹のマウスを屠殺した後、ウォッシュアウトして薬物の効率を検証した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
図2】処置群における小膠細胞Iba1、星状膠細胞GFAP、シナプトフィジン、および抗Αβ40抗体での免疫組織化学(n=8のWT、n=4のJ20+VX-765、n=5のJ20+Veh)。Iba1は分画/分断法(fractionator/dissector method)を使用して定量化し、単一のニューロンを計数することはできないのでGFAPはデンシトメトリーにより定量化し、Il-1βおよびΑβ38,40,42はMSD ELISAにより定量化した。分散分析およびダネットの評価は、Iba1についてWTからの統計的差異を示す。Il-1βおよびAβについてのMSD ELISA(n=1+分散)をpg/mLで示す。シナプトフィジンレベルの定量は進行中である。
図3】処置した兆候が現れる前のJ20マウス(予防群)からのNORおよびオープンフィールド。NOR:二元配置分散分析(チューキーの多重比較、OF:一元配置分散分析、ダネットの多重比較(J20+ビヒクル)。
図4】小膠細胞Iba-1、星状膠細胞GFAP、およびシナプスシナプトフィジン抗体を用いる4ヶ月齢のマウス海馬(予防群)の免疫染色。
図5】ウォッシュアウト前の処置マウス群におけるAPPのC末端(C11)およびΑβ(6E10)領域に対するウエスタンブロット。
図6】アガロース染色ゲルは、APP、Casp6、Casp1および対照としてのHprtl(処置群)のRT-PCRからのアンプリコンを示す。
図7】VX-765はヒトCNSのニューロン変性を予防する(実施例8を参照)。
図8-1】VX-765処置はJ20マウスにおいて認知機能を回復させる。(a)実験パラダイム。腹腔内にビヒクル注射した野生型(WT+ビヒクル;n=13)およびJ20マウス(J20+ビヒクル:n=9)、ならびにVX-765注射J20マウス(J20+VX-765:n=9)の行動を5つの異なる時点に評価した:処置前のベースライン(ベースラインの非処置のJ20を一緒にグループ化した;n=18)、VX-765またはビヒクルの3回のIP注射/週の後(処置1)、2週にわたる6回の追加の注射後(処置2)、4週のウォッシュアウト期間後、および1週間内の追加の3回の注射後(処置3)。処置3の後に8ヶ月齢でマウスを屠殺した。(b)NOR識別指数(処置メイン効果、F(2,20)=85.8、p<0.0001;時間メイン効果、F(4,80)=4.188、p=0.0039;処置×時間相互作用、F(8,80)=3.599、p=0013、二元配置反復測定分散分析、J20+ビヒクルに対して比較したダネットの事後解析)、(c)オープンフィールドタスクの間に移動した距離。データを二元配置反復測定分散分析により解析した(処置メイン効果、F(2,19)=11.47、p=0.0005;処置×時間相互作用、F(8,76)=5.69、p<0.0001、二元配置反復測定分散分析、J20+ビヒクルに対して比較したダネットの事後解析)。(d~i)バーンズ迷路解析。学習習得(d、g)、プローブ試験の初期潜時および誤り(e、h)、および標的穴の選好性(f、i);処置2(d~f)およびウォッシュアウト(g~i)の後のプローブの間に標的穴の右へ+1から+9または左へ-1から-9と標識された各穴の突いた回数。プローブ試験を解析した(処置2初期潜時、F(2,52)=5.879、p=0.0050;処置2初期誤り、F(2,52)=9.998、p=0.0002;ウォッシュアウト初期潜時、F(2,22)=4.076、p=0.0312;ウォッシュアウト初期誤り、F(2,22)=10.84、p=0.0005、分散分析、チューキーの事後解析)。*p<0.05、***p<0.001、****p<0.0001。
図8-2】同上。
図9】VX-765はJ20マウスにおいて認知機能を用量依存的に回復させる。(a)処置1(F(3,24)=20.42、p<0.0001、分散分析、0mg/kgでのJ20と比較したダネットの事後解析)、処置2(F(3,23)=12.83、p<0.0001、分散分析、0mg/kgでのJ20と比較したダネットの事後解析)、ウォッシュアウト、および処置3(F(3,23)=8.828、p=0.0004、分散分析、0mg/kgでのJ20と比較したダネットの事後解析)におけるVX-765用量応答後のNOR識別指数。なお、50mg/kgの用量は同時に行わず、比較目的のためにのみここに設けた。それにもかかわらず、識別指数は実験(b~g)、バーンズ迷路の処置2(b~d)およびウォッシュアウト(e~g)、学習習得(b、e)、プローブ試験(c、f)、および標的穴の選好性(d、g)で安定であった。T2初期誤りについて、F(2、14)=5.69、p=0.0155、分散分析、J20+ビヒクルに対して比較したダネットの事後解析。*p<0.05、***p<0.001、****p<0.0001。
図10-1】VX-765はJ20マウスにおいて神経炎症を後退させる。(a)海馬の網状分子区画および皮質のS1におけるIba-1陽性小膠細胞の免疫ヒストグラフ(スケールバー=50μm)。(b)錐体細胞層から網状分子層への海馬(F(2、11)=58、p<0.0001)および皮質(F(2、11)=39.95、p<0.0001、分散分析、J20+ビヒクルに対して比較したダネットの事後解析、***p<0.001)におけるWT+ビヒクル(n=6)、J20+ビヒクル(n=5)、およびJ20+VX-765(n=4)についてのIba-1小膠細胞の立体解析学的定量化。(c)形態学的小膠細胞サブタイプ1(黒(一番下)の棒)、2(ライトグレーの棒)、3(ダークグレーの棒)および4(黒(一番上)の棒)の平均パーセンテージ分布。(d)5ヶ月齢の前処置したJ20ならびに8ヶ月齢の処置したWTおよびJ20におけるELISAにより測定したIl1-βのpg/mgレベル。(e)星状膠細胞のGFAP免疫ヒストグラフ。
図10-2】同上。
図11-1】VX-765はJ20マウスにおいてΑβの進行を予防する。(a)抗F2576抗血清を用いる前処置した5ヶ月齢のJ20(ベースライン)および8ヶ月齢のビヒクルまたはVX-765処置WTまたはJ20マウスの海馬の網状分子層およびS1皮質のΑβ免疫ヒストグラフ(スケールバー=50μm)。(b)錐体細胞層から網状分子層までの海馬(p=0.0029)および皮質(p=0.0314、対応のないt検定)におけるΑβ免疫染色密度をJ20+ビヒクル(n=5)マウスとJ20+VX-765(n=4)マウスとの間で比較する定量的解析。(c)前処置した5ヶ月齢のJ20、8ヶ月齢のビヒクルまたはVX-765処置J20マウスの海馬における総Αβ(Αβ38+Αβ40+Αβ42)レベルに対するRIPA可溶性Αβ42を比較する定量的解析(F(2,9)=6.614、p=0.0171、分散分析、チューキーの事後解析、*p<0.05)。WTマウスの脳からはELISAシグナルは得られなかった。(d)pg/mgの脳組織中のELISAにより測定されたRIPA可溶性の総Αβ。(e、f)pg/mgの脳組織中のELISAにより測定された総Αβ(Αβ38+Αβ40+Αβ42)に対するギ酸可溶性Αβ42(e)および総Αβ(f)レベル。J20+ビヒクルとJ20+VX-765との差異を評価するためにスチューデントt検定を使用した。pg/mgの脳組織中のELISAにより測定された(g、h、i)RIPA可溶性および(j、k、l)ギ酸可溶性のΑβ38、Αβ40、およびΑβ42。海馬および皮質中の(m)APP mRNAおよびタンパク質レベルならびに(n)インスリン分解酵素(IDE)およびネプリライシンのmRNAレベル(o)。
図11-2】同上。
図11-3】同上。
図12】VX-765はJ20マウスにおいてシナプトフィジン免疫組織染色の喪失を後退させる。(a)前処置した5ヶ月齢のJ20および8ヶ月齢のビヒクルまたはVX-765処置WTまたはJ20マウス海馬および皮質からの免疫組織学的な顕微鏡写真。(b)海馬(F(2,9)=7.974、p=0.0102、分散分析、チューキーの事後解析、*p<0.05)および皮質におけるシナプトフィジン免疫染色密度をWT+ビヒクル(n=4)、J20+ビヒクル(n=4)、およびJ20+VX-765(n=4)間で比較する定量的解析。(c)ビヒクルまたはVX-765処置J20マウスの海馬における有意に変化したシナプスタンパク質のmRNAレベル。クラスカル・ウォリス(Kruskall-Wallis)はWT+ビヒクル、J20+ビヒクルおよびJ20+VX間の有意差を示す。
図13-1】VX-765は、APPまたは血清枯渇媒介性の神経突起ビーズ状変性(beading)からCNS初代ヒトニューロン(HPN)を保護する。(a)VX-765の用量を増加させるMTTアッセイ。(b)正常なニューロンにおけるEGFPの均一な分布およびAPPをトランスフェクトしたニューロンにおける神経突起ビーズ状変性を示す蛍光顕微鏡写真。(c)ストレッサーの1時間前および連続的に(前処置)またはストレッサーの48時間後(ビーズ状変性後処置)に25もしくは50μΜのVX-765または5μΜのZ-YVAD-fmk Casp1ペプチド阻害剤で処置した、APPをトランスフェクトしたまたは血清を枯渇させたニューロンにおけるビーズ状変性のパーセンテージ。前処置は、APPWTトランスフェクション(処置メイン効果F(4,10)=10.17、p=0.0015;時間メイン効果F(2,20)=93.32、p<0.0001;処置×時間相互作用F(8,20)=6.736、p=0.0003、二元配置反復測定分散分析、APPWT+DMSOと比較したダネットの事後解析)および血清枯渇(処置メイン効果F(4,10)=10.2、p=0.0015;時間メイン効果F(2,20)=37.65、p<0.0001、二元配置反復測定分散分析、血清-+DMSOと比較したダネットの事後解析)の後に主な効果を示した。ビーズ状変性後処置は、APPWTトランスフェクション(時間メイン効果F(4,40)=102.7、p<0.0001、二元配置反復測定分散分析、APPWT+DMSOと比較したダネットの事後解析)および血清枯渇(処置メイン効果F(4,23)=14.12、p<0.0001;時間メイン効果F(4,23)=24.35、p<0.0001、二元配置分散分析、血清-+DMSOと比較したダネットの事後解析)の後に主な効果を示した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。(d~e)分泌されたHPNまたは細胞のΑβ42/総Αβ38+40+42(d)(F(3,4)=12.73、p=0.0163、分散分析、血清+DMSOと比較したダネットの事後解析、*p<0.05)、および(e)非処置(+S)、血清枯渇(-S)、または25もしくは50μMのVX-765で処置した血清を枯渇させたヒトニューロンから分泌されたIl-1β、IFN-γ、TNF-α、およびIl-6のレベル。
図13-2】同上。
図14-1】VX-765およびVRT-043198の選択性および血液脳透過性。(a~b)ヒトCasp1~10に対するVX-765(a)およびVRT-043198(b)のIC50。(c~d)マウスCasp1およびCasp11に対するVX-765(c)およびVRT-043198(d)のIC50。(e)3匹の野生型および4匹のJ20マウスの脳皮質および海馬ならびに血漿におけるVX-765およびVRT-043198の血液脳関門透過性および存在。脳レベル対血漿レベルの比が算出される。
図14-2】同上。
図15-1】ビヒクル処置WTおよびJ20マウスならびに50mg/kgのVX-765処置J20マウスの行動評価。図1aに記載される通りに処置前(ベースライン)、処置1、2、ウォッシュアウト、および処置3における(a)動いた時間の%(処置メイン効果、F(2,28)=10.89、p=0.0003;時間メイン効果、F(3,84)=6.644、p=0.0004、二元配置反復測定分散分析、J20+ビヒクルに対して比較したダネットの事後解析、**p<0.01、***p<0.001)および辺縁部にいた時間の%(b)。(c)各試験セッションにおいて各個々のマウスについての非新規または新規物体への接触回数は全てのマウス群において一貫した行動を示した。前曝露は2つの同一物体を用いたマウス成績を指し示し、非新規および新規は試験の間のそれぞれ非新規物体および新規物体への接触回数を指し示す。(d)個々のビヒクル処置WTおよびJ20マウスならびにVX-765処置マウスのオープンフィールドタスクにおける移動距離により実証された過活動性。(e)Y迷路装置における変化の%は、処置1およびウォッシュアウトの後にのみ群間の差異を示す(二元配置反復測定分散分析、J20+ビヒクルに対して比較したダネットの事後解析、*p<0.05、**p<0.01)。
図15-2】同上。
図15-3】同上。
図15-4】同上。
図16-1】ビヒクル、または25もしくは10mg/kgのVX-765処置J20マウスの行動評価。ビヒクル(0)、25または10mg/kgのVX-765処置マウスの(a)動いた時間の%および(b)辺縁部にいた時間の%。(c)処置1の前(ベースライン)ならびにビヒクル(0)、25または10mg/kgのVX-765処置の後の処置1、処置2、ウォッシュアウト、および処置3の後の各個々のマウスについての非新規および新規物体のNOR接触回数。2匹のマウス(J20+ビヒクル、J20+VX-765、10mg/kg)は行動試験の間に応答せず、解析から除外した。(d~e)処置1、処置2(F(2,14)=4.106、p=0.0395、分散分析、J20+ビヒクルに対して比較したダネットの事後解析)、ウォッシュアウト、および処置3においてビヒクル(0)、25または10mg/kgのVX-765処置マウスにおいてオープンフィールドタスク(d)での移動距離により測定された過活動性。(e)オープンフィールドタスクにおける各個々のマウスの過活動性。2匹のマウス(J20+ビヒクル、J20+10mg/kgのVX-765)は処置2の後に応答せず、解析から除外した。
図16-2】同上。
図17】Casp1ヌルバックグラウンドでのJ20マウスの行動評価。Casp1遺伝子を有する(Casp1+)および有しない(Casp1-)WT/WT(J20-)またはJ20/WT(J20+)マウスの(a)動いた時間の%、(b)辺縁部にいた時間の%、(c)移動距離(F(3,17)=10.86、p=0.0003、分散分析、J20と比較したダネットの事後解析、**p<0.01、***p<0.001、(d)NOR識別指数(F(3,17)=10.02、p=0.0005、分散分析、J20と比較したダネットの事後解析、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)、および(e)Y迷路における変化の%、(f)8ヶ月齢のビヒクル処置J20、J20/Casp1-/-、およびVX-765処置(T3)マウスの海馬におけるIba1免疫陽性染色。
図18】ビヒクル処置WTおよびJ20マウスならびにVX-765処置J20マウスにおけるサイトカインのELISA測定。(a)T3後のマウスにおけるIl-1βの血漿レベル。(b)ビヒクル処置WTおよびJ20ならびにVX-765処置J20の脳の海馬および皮質におけるサイトカインレベル。(c)ビヒクル処置WT(n=6)およびJ20(n=5)ならびにVX-765処置J20(n=4)の脳の海馬(F(2,12)=5.234、p=0.0232、分散分析、WT+ビヒクルと比較したダネットの事後解析、*p<0.05)および皮質におけるGFAP免疫染色密度。(d)ビヒクル処置WTおよびJ20ならびにVX-765処置J20の脳の海馬および皮質におけるGFAPのウエスタンブロットおよび定量的解析。
図19】マウスの海馬または皮質においてチオフラビンSまたは抗Aβ1-40F25276抗血清で染色したΑβ。(a)8ヶ月齢のビヒクル処置WTおよびJ20ならびにVX-765処置J20の脳の海馬および皮質(T3後)における抗Αβ免疫染色とチオフラビンS染色Αβとの比較。(b)8ヶ月齢のビヒクル処置J20、J20/Casp1-/-、およびVX-765処置(T3)マウスの海馬における抗Αβ F25276免疫陽性染色。(c)8ヶ月齢のビヒクル処置J20、J20/Casp1-/-、およびVX-765処置(T3)マウスの海馬におけるΑβおよびIba1免疫陽性沈着物のより高倍率像。
図20】VX-765により阻害される経路を説明するための構成の図解。APPSw/Ind導入遺伝子がΑβレベルを増加させ、次にそれが小膠細胞の活性化を通じて炎症を生成すると考えられる(左パネル)。特定の理論に縛られないが、本明細書に記載される結果は、APPSw/lnd導入遺伝子が最初に炎症を誘導し、次にΑβの増加に繋がるとするモデルに合致する(右パネル)。Casp1を阻害することにより、VX-765は炎症およびその後のΑβの蓄積を遮断する。
図21】J20マウスにおける過活動性を評価するためのオープンフィールド評価。2ヶ月齢のマウスを1ヶ月間ビヒクル(WTおよびJ20)または50mg/kgのVX-765(J20)で処置した(3回の注射/週×4週=12回の注射)。移動距離(a)、四半分に入った回数(b)、および動いた時間の%(c)を測定することにより過活動性を評価し、辺縁部で過ごした時間の%(d)により不安を評価した。
図22】J20マウスにおけるエピソード記憶を評価するための新規物体認識行動アッセイ。2ヶ月齢のマウスを1ヶ月間ビヒクル(WTおよびJ20)または50mg/kgのVX-765(J20)で処置した(3回の注射/週×4週=12回の注射)。(a)研究を実行した方法の図式的描写。(b)識別指数は、新規物体への接触回数から非新規物体への接触回数を引いたものを両物体についての総接触回数により割ったものを指し示す。J20+ビヒクルに対するダネットの比較を伴う二元配置分散分析(F(2,240)=75.62、p<0.0001)。*p<0.05、****p<0.0001。(c)異なる時点に試験したマウスの各群におけるNORに障害があるマウスの%。
図23】J20マウスにおける空間記憶を評価するためのバーンズ迷路。バーンズ迷路は(a~c)12週(6ヶ月齢)および(d~f)20週(8ヶ月齢)のウォッシュアウト時に試験した。(a、d)4日にわたる脱出口を見付ける学習(秒)。(b、e)脱出口に到達するまでの初期潜時および脱出口を発見するための初期誤り。(b)において一元配置分散分析(F(2,29)=5.948、p=0.0068)、(e)において一元配置分散分析(F(2,22)=7.2545、p=0.0038)の後にダネットの事後解析、*p<0.05、**p<0.01。(c、f)プローブ試験:ハッチ穴を遮断した時のバーンズ迷路の20個の穴のそれぞれについての突いた回数。Tはトレーニングの間にハッチが接近可能な標的穴を指し示す。
図24-1】抗アミロイドベータペプチド1~40抗血清での8ヶ月齢(20週のウォッシュアウト)のマウスの脳の免疫染色(a)。全ての切片を一緒かつDako免疫測定装置を用いて自動的に免疫染色し、抗ウサギHRPおよびジアミノベンジジンを用いて免疫反応性を明らかにした。(b)マウスが4、5、6、7、および8ヶ月の時のVX-765のそれぞれ4、8、12、16、および20週のウォッシュアウトでのアミロイド染色の免疫陽性密度の定量。(c)RIPA可溶性およびギ酸可溶性の海馬および皮質組織のタンパク質抽出物のELISA分析。
図24-2】同上。
図25a】異なる時点のウォッシュアウトにおけるマウスの脳海馬のIba1免疫陽性染色(a、b)。全ての切片を一緒かつDako免疫測定装置を用いて自動的に免疫染色し、Iba1免疫陽性ニューロンの数を立体解析学的に計数した。統計学は図10bに記載の通りに行った。(c)図10cに記載の通りのIba1免疫陽性小膠細胞のサブタイプの解析。
図25b】同上。
図25c】同上。
図26a】異なる時点のウォッシュアウトにおけるマウスの脳の海馬におけるGFAP免疫陽性染色(a、b)。全ての切片を一緒かつDako免疫測定装置を用いて自動的に免疫染色した。GFAP免疫陽性星状細胞の定量は上記の通りに行った。
図26b】同上。
図27】異なる時点のウォッシュアウトにおけるマウスの脳の海馬におけるシナプトフィジン免疫陽性染色。全ての切片を一緒かつDako免疫測定装置を用いて自動的に免疫染色した。
図28a】VX-765でのJ20マウスの予防的処置(実施例14を参照)。データは各群内の個々のマウスのNOR成績を示す。
図28b】同上。
図28c】同上。
【0040】
発明の開示
本発明は、カスパーゼ1阻害に基づいて、神経学的状態(例えば、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病(AD))を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、または治療することに関する。本発明はまた、カスパーゼ1阻害に基づいて、認知障害を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、または治療することに関する。実施形態では、本明細書に記載される方法、使用およびキットは、発症を遅延させ、重篤度を低減させ、または、一部の場合には神経学的状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD))に関連し得る、認知障害、例えば記憶障害を後退させるためのものである。
【0041】
カスパーゼ1(Casp1、インターロイキン1変換酵素またはICEとしても公知;EC 3.4.22.36;総説については、Caspase-1: the inflammasome and beyond. Sollberger G. et al. Innate Immun. 20(2): 115-25 (2014)を参照)は、免疫機能において重大な役割を有するサイトカインであるIL-1βおよびIL-18のタンパク質分解活性化(それらの前駆体を切断して成熟ペプチドをもたらす)に関与するプロテアーゼである。カスパーゼ1は、切断されて2つのサブユニット、p20およびp10を産生するチモーゲンとして存在し、活性酵素は、それぞれがp20およびp10サブユニットを含有する2つのヘテロ二量体のヘテロ四量体である。さらに、様々なカスパーゼ1アイソフォームが存在する(例えば、Uniprot-P29466を参照)。
【0042】
カスパーゼ1阻害剤
本明細書で使用される場合、「カスパーゼ1阻害剤」は、カスパーゼ1の発現および/または活性を直接的または間接的に阻害する任意の化合物または組成物を指す。そのように限定されないが、カスパーゼ1の発現および/または活性をモジュレ―トする候補化合物は、様々な方法およびアッセイを使用して試験される。それは、分子、例えば、そのように限定されないが、siRNA、アンチセンス分子、タンパク質、ペプチド、小分子、抗体などを含む。
【0043】
本明細書で使用される場合、カスパーゼ1の発現および/または活性の「阻害」または「減少」は、参照カスパーゼ1の発現および/または活性(例えば、カスパーゼ1阻害剤で処理する前の対象の細胞または組織中のカスパーゼ1の発現および/または活性の測定値)と比較して少なくとも5%のカスパーゼ1の発現レベルまたは活性レベルの低減を指す。一実施形態では、カスパーゼ1の発現レベルまたは活性レベルの低減は、少なくとも10%低く、さらなる実施形態では、少なくとも15%低く、さらなる実施形態では、少なくとも20%低く、さらなる実施形態では、少なくとも30%低く、さらなる実施形態では、少なくとも40%低く、さらなる実施形態では、少なくとも50%低く、さらなる実施形態では、少なくとも60%低く、さらなる実施形態では、少なくとも70%低く、さらなる実施形態では、少なくとも80%低く、さらなる実施形態では、少なくとも90%低く、さらなる実施形態では、100%低い(完全な阻害)。
【0044】
好ましくは、カスパーゼ1阻害剤は、低いレベルの細胞毒性を有する化合物である。
一実施形態では、カスパーゼ1阻害剤は、その活性代謝物に変換されるプロドラッグの形態で投与するためのものである。
【0045】
カスパーゼ1の様々な阻害剤が公知であり(例えば、米国特許第9,352,010号明細書および米国特許第7,417,029号明細書を参照)、研究のために市販されているが、臨床的に現在使用されているものはない。
【0046】
例えば、カスパーゼ1阻害剤としては、プラルナカサン(VX-740)、IDN-6556およびVX-765が挙げられる。
【0047】
ペプチドベースのカスパーゼ1阻害剤としては、Ac-YVAD-cmk(Ac-Tyr-Val-Ala-Asp-クロロメチルケトン)、Ac-WEHD-CHO(N-アセチル-Trp-Glu-His-Asp-al)、およびZ-VAD-FMK(Z-Val-Ala-Aspフルオロメチルケトン)が挙げられる。
【0048】
一実施形態では、カスパーゼ1阻害剤は、式I:
【化7】

(式中、
は、
【化8】

であり、
およびRは一緒になって環を形成し、前記環は、
【化9】

であり、
各環において、任意の水素原子は独立してRにより置換されていてもよく、かつ、同じ原子に結合した2つの水素原子の任意のセットは独立してカルボニルにより置換されていてもよく、
およびRにより形成される環が、
【化10】

である場合、
はRC(O)-であり、かつ
はフェニル、チオフェン、またはピリジンであり、各環はRから独立して選択される最大5つの基により置換されていてもよく、かつ、フェニル、チオフェン、またはピリジン上の少なくとも1つの位置はR10により置換されており、
およびRにより形成される環が、
【化11】

である場合、
はRC(O)-、HC(O)、RSO-、ROC(O)、(RNC(O)、(R)(H)NC(O)、RC(O)C(O)-、R-、(RNC(O)C(O)、(R)(H)NC(O)C(O)、またはROC(O)C(O)-であり、かつ
はC1~12の脂肪族基、C3~10の脂環式基、C6~10のアリール、5~10員のヘテロシクリル、5~10員のヘテロアリール、(C3~10の脂環式基)-(C1~12の脂肪族基)-、(C6~10のアリール)-(C1~12の脂肪族基)-、(5~10員のヘテロシクリル)-(C1~12の脂肪族基)-、または(5~10員のヘテロアリール)-(C1~12の脂肪族基)-であり、または、同じ原子に結合した2つのR基はその原子と共に3~10員の芳香環または非芳香環を形成し、任意の環はC6~10のアリール、5~10員のヘテロアリール、C3~10のシクロアルキル、または5~10員のヘテロシクリルに縮合していてもよく、最大3つの脂肪族炭素原子は、O、N、NR11、S、SO、およびS0から選択される基により置換されていてもよく、RはR12から独立して選択される最大6つの置換基により置換されており、
はH、C1~12の脂肪族基、C3~10の脂環式基、C6~10のアリール、5~10員のヘテロシクリル、5~10員のヘテロアリール、(C3~10のシクロアルキル)-(C1~12の脂肪族基)-、シクロアルケニル-(C1~12の脂肪族基)-、(C6~10のアリール)-(C1~12の脂肪族基)-、(5~10員のヘテロシクリル)-(C1~12の脂肪族基)-、または(5~10員のヘテロアリール)-(C1~12の脂肪族基)-であり、任意の水素原子は独立してR12により置換されていてもよく、かつ、同じ原子に結合した2つの水素原子の任意のセットは独立してカルボニルにより置換されていてもよく、
は-C(R13)(R14)(R15)、C6~10のアリール、5~10員のヘテロアリール、またはC3~7のシクロアルキルであり、
はハロゲン、-OR11、-NO-CN-CF、-OCF、-R11、1,2-メチレンジオキシ、1,2-エチレンジオキシ、-N(R11、-SR11、-SOR11、-SO11-SON(R11、-SO11、-C(O)R11、-C(O)C(O)R11、-C(O)C(O)OR11、-C(O)C(O)N(R11、-C(O)CHC(O)R11、-C(S)R11、-C(S)OR11、-C(O)OR11、-OC(O)R11、-C(O)N(R11、-OC(O)N(R11、-C(S)N(R11、-(CH0~2NHC(O)R11、-N(R11)N(R11)COR11、-N(R11)N(R11)C(O)OR11、-N(R11)N(R11)CON(R11、-N(R11)SO11、-N(R11)SON(R11、-N(R11)C(O)OR11、-N(R11)C(O)R11、-N(R11)C(S)R11、-N(R11)C(O)N(R11、-N(R11)C(S)N(R11-N(COR11)COR11、-N(OR11)R11、-C(=NH)N(R11、-C(O)N(OR11)R11、-C(=NOR11)R11、-OP(O)(OR11、-P(O)(R11、-P(O)(OR11、または-P(O)(H)(OR11)であり、
およびR12はそれぞれ独立してハロゲン、-OR11、-NO、-CN、-CF、-OCF、-R11、1,2-メチレンジオキシ、1,2-エチレンジオキシ、-N(R11、-SR11、-SOR11、-SO11、-SON(R11-SO11、-C(O)R11、-C(O)C(O)R11、-C(O)C(O)OR11、-C(O)C(O)N(R11、-C(O)CHC(O)R11、-C(S)R11、-C(S)OR11、-C(O)OR11、-OC(O)R11、-C(O)N(R11、-OC(O)N(R11、-C(S)N(R11、-(CH0~2NHC(O)R11、-N(R11)N(R11)COR11、-N(R11)N(R11)C(O)OR11、-N(R11)N(R11)CON(R11、-N(R11)SO11、-N(R11)SON(R11、-N(R11)C(O)OR11、-N(R11)C(O)R11、-N(R11)C(S)R11、-N(R11)C(O)N(R11、-N(R11)C(S)N(R11、-N(COR11)COR11、-N(OR11)R11、-C(=NH)N(R11、-C(O)N(OR11)R11、-C(=NOR11)R11、-OP(O)(OR11、-P(O)(R11、-P(O)(OR11、または-P(O)(H)(OR11)であり、
10はハロゲン、-OR17、-NO-CN-CF-OCF、-R17、または-SR11であり、R10は5つ以下の直鎖原子を有し、
11は水素、C1~12の脂肪族基、C3~10の脂環式基、C6~10のアリール、5~10員のヘテロシクリル、5~10員のヘテロアリール、(C3~10の脂環式基)-(C1~12の脂肪族基)-、(C6~10のアリール)-(C1~12の脂肪族基)-、(5~10員のヘテロシクリル)-(C1~12の脂肪族基)-、またはヘテロアリール-(C1~12の脂肪族基)-であり、任意の水素原子は独立してR18により置換されていてもよく、かつ、同じ原子に結合した2つの水素原子の任意のセットは独立してカルボニルにより置換されていてもよく、
13はHまたはC1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルであり、
14はHまたはC1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルであり、
15は-CF、-C3~7のシクロアルキル、C6~10のアリール、5~10員のヘテロアリール、複素環、またはC1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルであり、アルキルの各炭素原子は独立してR16により置換されていてもよく、
またはR13およびR15は、それらが結合する炭素原子と一緒になって3~10員の脂環式基を形成し、
16はハロゲン、-OR17、-NO、-CN、-CF-OCF、-R17、または-SR17であり、R17はC1~4の脂肪族基であり、
17はC1~4の脂肪族基であり、かつ
18は-OR17、-NO、-CN、-CF、-OCF、-R17、1,2-メチレンジオキシ、1,2-エチレンジオキシ、-N(R17、-SR17、-SOR17、-SO17-SON(R17-SO17、-C(O)R17、-C(O)C(O)R17、-C(O)C(O)OR17、-C(O)C(O)N(R17、-C(O)CHC(O)R17-C(S)R17、-C(S)OR17、-C(O)OR17、-OC(O)R17、-C(O)N(R17、-OC(O)N(R17、-C(S)N(R17、-(CH0~2NHC(O)R17、-N(R17)N(R17)COR17、-N(R17)N(R17)C(O)OR17、-N(R17)N(R17)CON(R17、-N(R17)SO17、-N(R17)SON(R17、-N(R17)C(O)OR17、-N(R17)C(O)R17、-N(R17)C(S)R17、-N(R17)C(O)N(R17、-N(R17)C(S)N(R17、-N(COR17)COR17、-N(OR17)R17、-C(=NH)N(R17、-C(O)N(OR17)R17、-C(=NOR17)R17、-OP(O)(OR17、-P(O)(R17、-P(O)(OR17、または-P(O)(H)(OR17)であり、R17は水素、C1~12の脂肪族基、C3~10の脂環式基、C6~10のアリール、5~10員のヘテロシクリル、5~10員のヘテロアリール、(C3~10の脂環式基)-(C1~12の脂肪族基)、(C6~10のアリール)-(C1~12の脂肪族基)-、(5~10員のヘテロシクリル)-(C1~12の脂肪族基)-、またはヘテロアリール-(C1~12の脂肪族基)-である)
を有する化合物、またはその単一の立体異性体、立体異性体の混合物、もしくは薬学的に許容される塩である。
【0049】
一実施形態では、カスパーゼ1阻害剤は、式II:
【化12】

またはその単一の立体異性体、立体異性体の混合物、もしくは薬学的に許容される塩である。
【0050】
一実施形態では、カスパーゼ1阻害剤はVX-765またはその薬学的に許容される塩である。VX-765(例えば、参考文献1および国際公開第2011/094426号パンフレットを参照)、または(S)-1-((S)-2-{[1-(4-アミノ-3-クロロ-フェニル)-メタノイル]-アミノ}-3,3-ジメチル-ブタノイル)-ピロリジン-2-カルボン酸((2R,3S)-2-エトキシ-5-オキソ-テトラヒドロ-フラン-3-イル)-アミドは以下の構造:
【化13】

を有する。
【0051】
VX-765は、5-エトキシジヒドロフラン-2(3H)-1部分のエステラーゼ切断を介してその活性代謝物VRT-043198に変換されるプロドラッグである。VRT-043198には2つの互変異性体として閉環形態および開環形態があり、これらは相互変換する。
【0052】
VRT-043198の閉環形態、または(2S)-1-((S)-2-(4-アミノ-3-クロロベンズアミド)-3,3-ジメチルブタノイル)-N-((3S)-2-ヒドロキシ-5-オキソテトラヒドロフラン-3-イル)ピロリジン-2-カルボキサミドは以下の構造:
【化14】

を有する。
【0053】
VRT-043198の開環形態、または(S)-3-((S)-1-((S)-2-(4-アミノ-3-クロロベンズアミド)-3,3-ジメチルブタノイル)ピロリジン-2-カルボキサミド)-4-オキソ酪酸は以下の構造:
【化15】

を有する。
【0054】
本明細書で使用される場合、「アルキル」または接頭語「アルカ」(alk)は、置換されていてもよい直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素基を指す。直鎖または分岐鎖のアルキル基の例としては、メチル、トリフルオロメチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-ブチル、2-メチル-1-プロピル、2-メチル-2-プロピル、1-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、2-メチル-1-ブチル、3-メチル-1-ブチル、2-メチル-3-ブチル、2,2-ジメチル-1-プロピル、1-ヘキシル、2-ヘキシル、3-ヘキシル、2-メチル-1-ペンチル、3-メチル-1-ペンチル、4-メチル-1-ペンチル、2-メチル-2-ペンチル、3-メチル-2-ペンチル、4-メチル-2-ペンチル、2,2-ジメチル-1-ブチル、3,3-ジメチル-1-ブチル、2-エチル-1-ブチル、1-ヘプチル、および1-オクチルが挙げられるがこれらに限定されない。置換されているアルキルは、1つまたは複数(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または7つ)の置換基、例えば、ハロゲン、-NH、-NH(C~C12のアルキル)、-N(C~C12のアルキル)、-OH、-O-(C~C12のアルキル)、もしくはC~C10のアリール基、例えばフェニルもしくはナフチル基、または本明細書に記載される任意の他の置換基で置換されていてもよい。一実施形態では、アルキル基は、1~12個の炭素、さらなる実施形態では、1~8個、1~6個または1~3個の炭素を含有する。
【0055】
本明細書で使用される場合、「アリール」は、置換されていてもよい単環式または多環式の構造であって、全ての環が、縮合して一緒になっているか(例えば、ナフタレン)または連結されて一緒になっており(例えば、ビフェニル)、かつ炭素原子により形成された芳香族であるものを指す。例示的なアリール基としては、フェニル、ナフチル、およびビフェニルが挙げられる。アリール基が置換されている場合、置換基は、本明細書に記載される任意の置換基を含むことができる。一実施形態では、アリールは、6~15個の炭素(C~C15のアリール)、さらなる実施形態では、6~10個の炭素(C~C10のアリール)を含む。
【0056】
本明細書で使用される場合、「ヘテロアリール」または「複素環式芳香族」は、1つまたは複数の炭素原子がヘテロ原子、例えばN、O、またはSにより置換されたアリールを指す。一実施形態では、ヘテロアリールは5~10員である。
【0057】
本明細書で使用される場合、「シクロアルキル」は、置換されていてもよい、脂肪族の、飽和または不飽和の単環式または多環式(例えば、二環式または三環式)の炭化水素環系を指す。多環式シクロアルキルは、線状であってよく、縮合されていてよく、架橋されていてよく、またはスピロ環状であってよい。一実施形態では、シクロアルキルは、3~12個の炭素原子(C~C12のシクロアルキル)、さらなる実施形態では、3~10個の炭素原子(C~C10のシクロアルキル)、さらなる実施形態では、3~7個の炭素原子(C~Cのシクロアルキル)を含有する。
【0058】
本明細書で使用される場合、「アルケニル」は、置換されていてもよい不飽和の、直鎖または分岐鎖の炭化水素基であって、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含有するものを指す。一実施形態では、アルケニルは、2~8個の炭素原子「C~Cのアルケニル」、さらなる実施形態では、2~6個または2~4個の炭素原子を含む。
【0059】
本明細書で使用される場合、「アルキニル」は、置換されていてもよい不飽和の、直鎖または分岐鎖の炭化水素基であって、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含有するものを指す。一実施形態では、アルキニルは、2~8個の炭素原子「C~Cのアルキニル」、さらなる実施形態では、2~6個、または2~4個の炭素原子を含む。
【0060】
本明細書で使用される場合、「ハロゲン」は-F、-Cl、-Br、または-Iを指す。
【0061】
本明細書で使用される場合、「複素環」または「ヘテロシクリル」は、置換されていてもよい芳香族または脂肪族の単環式または二環式の環系であって、1つまたは複数の炭素原子およびヘテロ原子(例えば、1つ、2つ、3つ、または4つのヘテロ原子)、例えば酸素、窒素、および硫黄を含むものである。脂肪族複素環は1つまたは複数の二重結合を有してよい。二重結合の例としては、炭素-炭素二重結合(C=C)、炭素-窒素二重結合(C=N)、および窒素-窒素二重結合(N=N)が挙げられる。3~9員の複素環の例としては、アジリジニル、オキシラニル、チイラニル、アジリニル、ジアジリジニル、ジアジリニル、オキサジリジニル、アゼチジニル、アゼチジノニル、オキセタニル、チエタニル、ジアジナニル、ピペリジニル、テトラヒドロピリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、アゼピニルまたはその任意の部分的もしくは全体的に飽和した誘導体、ジアゼピニルまたはその任意の部分的もしくは全体的に飽和した誘導体、ピロリル、オキサジニル、チアジニル、ジアジニル、トリアジニル、テトラジニル、イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、テトラゾリル、インドリル、イソキノリニル、キノリニル、キナゾリニル、ピロリジニル、プリニル、イソキサゾリル、ベンズイソキサゾリル、フラニル、フラザニル、ピリジニル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、チアゾリル、ベンズチアゾリル(benzthiazolyl)、チオフェニル、ピラゾリル、トリアゾリル、ベンゾジアゾリル、ベンゾトリアロリル、ピリミジニル、イソインドリル、およびインダゾリルが挙げられるがこれらに限定されない。複素環が置換されている場合、置換基は本明細書に記載される任意の置換基を含むことができる。実施形態では、複素環は3~10員、5~10員または3~9員の複素環である。
【0062】
本明細書で使用される場合、「芳香族」は、共役した(4n+2)個のπ電子(nは1、2、または3である)を有するシクロ環系を指す。
【0063】
本明細書に記載される任意の基は置換されていてもよいし、非置換であってもよい。置換されている場合、それらは化合物の所望の活性に負に影響しない任意の所望の(1つまたは複数の)置換基を有してよい。好ましい置換基の例は、本明細書に開示される例示的な化合物および実施形態に見られるものの他に、ハロゲン(クロロ、ヨード、ブロモ、またはフルオロ);C1~12のアルキル;C1~6のアルキル;C2~6のアルケニル;C2~6のアルキニル;ヒドロキシル;C1~6のアルコキシル;アミノ(一級、二級、または三級);ニトロ;チオール;チオエーテル;イミン;シアノ;アミド;カルバモイル;ホスホナト;ホスフィン;リン(V)含有基;カルボキシル;チオカルボニル;スルホニル;スルホンアミド;ケトン;アルデヒド;エステル;オキソ;ハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル);単環式もしくは縮合もしくは非縮合の多環式であってよいシクロアルキル(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシル)、または単環式もしくは縮合もしくは非縮合の多環式であってよい脂肪族複素環(例えば、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、またはチアジニル);および芳香族炭素環または複素環の、単環式または縮合もしくは非縮合の多環式(例えば、フェニル、ナフチル、ピロリル、インドリル、フラニル、チオフェニル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、ピリジニル、キノリニル、イソキノリニル、アクリジニル、ピラジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾチオフェニル、またはベンゾフラニル)などの置換基である。特定の置換基としては、ベンジルオキシ;-N(CH;O-アルキル(O-CH);O-アリール;アリール;アリール-低級アルキル;-COCH;-OCHCH;メトキシ;-CONH;-OCHCONH;-SONH;-OCHF;-CF;および-OCFが挙げられる。置換されている基は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または8つの置換基を有してよい。これらの置換基は、本明細書に列記される置換基でさらに置換されていてもよい。置換基はまた、縮合環構造または架橋、例えば-OCHO-により置換されていてもよい。他の実施形態では、これらの置換基はさらに置換されていない。
【0064】
一実施形態では、神経変性疾患はアルツハイマー病である。アルツハイマー病(AD)は、主にΑβ原線維から構成される、アミロイド(Αβ)プラークとして公知の脳におけるタンパク質の異常な沈着物の蓄積により引き起こされると考えられる神経学的疾患である。プラーク中のベータアミロイドペプチドの産生および蓄積の増加は神経細胞死に繋がり、それがADの発生および進行に寄与する。プラークの生成に主に関与するタンパク質としては、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、ベータおよびガンマセクレターゼが挙げられる。プレセニリンIはガンマセクレターゼ複合体の部分である。
【0065】
酵素βおよびγセクレターゼによるAPPの逐次的な切断は、プラーク中に凝集する傾向を有する38~42(例えば、38、40または42)アミノ酸のΑβペプチドの放出に繋がる。
【0066】
特にΑβ42ペプチドはそのような凝集の高い傾向を有し、したがってADにおけるプラーク形成の開始の中心となると考えられている。
【0067】
ADを定義する他の病理としては、神経原線維変化(ニューロン内;高リン酸化タウタンパク質から作られる)、ニューロピルスレッド(変性性神経突起であり、これも高リン酸化タウを含有する)、およびシナプスの変性または喪失が挙げられる。最近、海馬および皮質の萎縮がAD病理の初期事象として加えられ、これはMRIにより同定される。
【0068】
一実施形態では、認知障害は軽度認知障害である。さらなる実施形態では、認知障害は主観的認知障害である。さらなる実施形態では、認知障害は年齢依存性認知障害である。さらなる実施形態では、認知障害は記憶障害を含む。さらなる実施形態では、対象は、年齢依存性認知障害を指し示す神経心理学的プロファイルを有する。さらなる実施形態では、対象は、認知障害に関連する脳における神経炎症を患っている。
【0069】
本発明はまた、対象における神経学的状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD))の予防、その発症の遅延もしくはその重篤度の低減、その進行の予防もしくは後退、または治療において使用するための、カスパーゼ1阻害剤、またはカスパーゼ1阻害剤および薬学的に許容される担体を含む組成物を含む、キットに関する。本発明はまた、対象における認知障害の予防、その発症の遅延もしくはその重篤度の低減、その進行の予防もしくは後退、または治療において使用するための、カスパーゼ1阻害剤、またはカスパーゼ1阻害剤および薬学的に許容される担体を含む組成物を含む、キットに関する。そのようなキットの構成および構築は当業者に従来公知である。そのようなキットは、例えば、剤もしくは剤の組合せまたは組成物を含有するための容器(例えば、注射器および/またはバイアルおよび/またはアンプル)、治療剤および/または組成物および/または希釈剤を投与するための他の装置を含んでよい。キットは、使用説明書をさらに含んでもよい。使用説明書は、剤および希釈剤をどのように混合して医薬配合物を形成させるべきかを記載したものであってよい。使用説明書はまた、結果として生じた医薬配合物を対象にどのように投与すべきかを記載したものであってもよい。一実施形態では、上記のキットは、対象において神経学的状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD))を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、もしくは治療するため、または認知障害を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、もしくは治療するための使用説明書を含む。
【0070】
本明細書で使用される「進行」は、疾患または状態(例えば、神経学的状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD)、認知障害など)の経時的な進展または悪化を指す。
【0071】
一実施形態では、対象は、神経学的状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD))の兆候が現れる前の対象である。本明細書で使用される「兆候が現れる前」は、知覚可能かつ測定可能な神経機能(例えば、記憶などの認知能力)の低下を患っているが、神経学的状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD))に特徴的なより著しいまたは重篤な症状を示さない対象を指す。例えば、そのような対象は、その年齢について通常期待されるよりも乏しい認知能力を呈するが、それ以外に神経学的状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD))の診断を確定的なものとする明確な症状を示さない。低い認知性能としては、エピソード記憶、意味記憶、空間記憶、および作業記憶が挙げられるがこれらに限定されない。ADの場合、兆候が現れる前または無症候性はまた、知覚可能な認知障害の非存在下での脳におけるAD病理の存在を定義する。これは、弧発性および家族性の両方の形態のADにおいて起こることがある。実施形態では、対象は、(a)脳における増加したアミロイドおよびタウ病理、(b)萎縮した海馬、および/または(c)神経学的状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD))への進行を指し示すアミロイド、タウおよび/または炎症性バイオマーカープロファイルを有する。アミロイドは、例えばPETイメージングによりまたはCSFのより低いレベルにより検出することができ、タウは、PETまたはCSF中の総タウと比較したリン酸化タウのレベルの増加により検出することができ、CSF中の総タウの増加もまた疾患に関連する[Jack CR Jr., et al., An unbiased descriptive classification scheme for Alzheimer disease biomarkers. Neurology 87(5): 539-47 (2016)を参照]。萎縮は磁気共鳴イメージングにより認識することができる。CSFまたは末梢血単核細胞中のサイトカイン、ケモカイン、または補体因子の異常なレベルもまたバイオマーカーと考えられる;Milan Fiala and Robert Veerhuis, Biomarkers of inflammation and amyloid-β phagocytosis in patients at risk of Alzheimer disease, Experimental Gerontology 45(1): 57-63 (2010)。
【0072】
軽度認知障害(MCI)は、認知能力、例えば記憶および思考能力のわずかだが知覚可能かつ測定可能な低下として最も一般的に定義される総称である。MCIを有する人は、加齢から通常予測されるより大きい認知能力のそのような低下を経験するが(すなわち、その年齢の正常より悪い)、神経学的状態の他のより重篤な症状、例えば認知症などのADを示さない。MCIは、ADの増加したリスク因子と考えられる。
【0073】
主観的認知障害は、MCIの診断のために充分な低下ではない、認知能力、例えば記憶および思考能力のわずかだが知覚可能な低下として最も一般的に定義される総称である。主観的認知障害を有する人は、認知能力の差異に気付くが、それ以外には日常的な活動において通常通りに機能することが可能である。
【0074】
年齢依存性認知障害は、加齢と共に進行する認知能力の低下である。
【0075】
記憶障害/喪失に加えて、認知障害の他の症状としては、顔または場所を認識できないこと、質問を繰り返すこと、学習困難、判断困難、気分または行動の変化、視覚的問題、日常生活の作業(例えば、支払い、レシピに従う、食料品の買い物)の実行困難が挙げられる。
【0076】
一実施形態では、対象は、早期発症家族性アルツハイマー病(EOFAD)などの家族性ADに関連する遺伝子変異を有する。3つの遺伝子がEOFADの素因に関連付けられている:プレセニリン1(PS1)、プレセニリン2(PS2)、およびアミロイド前駆体タンパク質遺伝子(APP)。これらの遺伝子の全ては、アミロイド前駆体タンパク質のプロセシングに影響し、毒性ベータアミロイド(Αβ42)の生成を増加させ、それがADにおけるプラークを生成させる。これらの遺伝子の3つ全ては、常染色体顕性遺伝子として遺伝する。
【0077】
本発明は、カスパーゼ1阻害剤を含む(医薬)組成物をさらに提供する。そのような組成物は、本明細書に記載される方法および使用、例えば、神経変性疾患を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、もしくは治療するため、または認知障害を予防し、その発症を遅延させもしくはその重篤度を低減させ、その進行を予防しもしくは後退させ、もしくは治療するための方法および使用において使用することができる。
【0078】
活性成分(例えば、カスパーゼ1阻害剤、例えば、式IもしくはIIを有する化合物、またはその単一の立体異性体、立体異性体の混合物、もしくは薬学的に許容される塩、例えばVX-765、またはその薬学的に許容される塩)に加えて、医薬組成物は、好適な薬学的に許容される担体または賦形剤を含有してよい。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」または「賦形剤」は、生理学的に適合性であり、かつ薬学的に使用できる、任意のおよび全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。賦形剤が希釈剤として働く場合、それは、活性成分のビヒクル、担体または媒体として作用する、固体、半固体、または液体材料であり得る。したがって、組成物は、錠剤、丸剤、散剤、ロゼンジ、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル、懸濁液、エマルション、溶液、シロップ、エアゾール(固体としてまたは液体培地中)、例えば最大10質量%の活性化合物を含有する軟膏、軟および硬ゼラチンカプセル、坐剤、滅菌注射溶液、および滅菌包装粉末の形態であり得る(Remington: The Science and Practice of Pharmacy by Alfonso R. Gennaro, 2003, 21th edition, Mack Publishing Companyを参照)。実施形態では、担体は、神経内、非経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、舌下または経口投与のために好適なものであってよい。
【0079】
好適な賦形剤の一部の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、レシチン、ホスファチジルコリン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップおよびメチルセルロースが挙げられる。配合物は、潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油;湿潤剤;乳化剤および懸濁化剤;保存剤、例えば、メチルおよびプロピルヒドロキシベンゾエート;甘味剤;および香味剤を追加的に含むことができる。本発明の組成物は、当該技術分野において公知の手順を用いることにより患者への投与の後に活性成分の迅速な持続または遅延放出を提供するように配合することができる。
【0080】
本発明において使用するために好適な医薬組成物は、意図する目的(例えば、疾患を予防しかつ/または改善しかつ/または阻害すること)を達成するために有効な量で活性成分が含有された組成を含む。効果的な用量の決定は、充分に当業者の能力の範囲内である。任意の化合物について、治療的に効果的な用量は、最初に細胞培養アッセイ(例えば、細胞株)または動物モデル、通常、マウス、ウサギ、イヌもしくはブタのいずれかにおいて推定することができる。動物モデルを使用して適切な濃度範囲および投与経路を決定してもよい。次にそのような情報を使用して、ヒトでの投与のために有用な用量および経路を決定することができる。効果的な用量または量は、特定の疾患または状態(例えば、神経変性疾患(例えば、AD))を治療するために充分な1つまたは複数の活性成分、例えばカスパーゼ1阻害剤の量を指す。治療効果および毒性は、細胞培養物または実験動物において標準的な薬学的手順、例えばED50(集団の50%において治療効果がある用量)およびLD50(集団の50%に対して致死的な用量)により決定されてよい。治療効果と毒性効果との用量比は治療指数であり、比LD50/ED50として表すことができる。大きい治療指数を呈する医薬組成物が好ましい。細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトでの使用のための投与量の範囲の配合において使用される。そのような組成物中に含有される投与量は、好ましくは、ほとんどまたは全く毒性を有しないED50を含む循環濃度の範囲内である。投与量は、用いる投与剤形、患者の感受性、および投与経路に応じてこの範囲内で変化する。正確な投与量は、治療を必要とする対象に関する要因を考慮して医師により決定される。投与量および投与は、充分なレベルの活性部分を提供するようにまたは所望の効果を維持するように調整される。考慮され得る要因としては、病態の重篤度、対象の全般的健康、対象の年齢、体重、および性別、食事、投与の時間および頻度、薬物の組合せ、反応感受性、および療法への忍容性/応答が挙げられる。特定の投与量および送達の方法に関するガイダンスは文献に提供されており、当該技術分野の実施者に一般に利用可能である。実施形態では、(一実施形態では、1日当たり)約0.01~約100mg/kg体重の活性成分(例えば、カスパーゼ1阻害剤、例えば、式IもしくはIIを有する化合物、またはその単一の立体異性体、立体異性体の混合物、もしくは薬学的に許容される塩、例えばVX-765、またはその薬学的に許容される塩)の投与量を使用することができる。さらなる実施形態では、約0.5~約75mg/kg体重の投与量を使用することができる。さらなる実施形態では、約1~約50mg/kg体重の投与量を使用することができる。さらなる実施形態では、約10~約50mg/kg体重、さらなる実施形態では、約10、約25または約50mg/kg体重の投与量を使用することができる。
【0081】
一実施形態では、本明細書に記載される活性成分(例えば、カスパーゼ1阻害剤、例えば、式IもしくはIIを有する化合物、またはその単一の立体異性体、立体異性体の混合物、もしくは薬学的に許容される塩、例えばVX-765、またはその薬学的に許容される塩)は、CNS組織またはCNSニューロンと接触するように投与されるまたは投与されるためのものである。本明細書で使用される場合、「中枢神経系」またはCNSは、脳および脊髄を含む神経系の部分である。対照的に、「末梢神経系」またはPNSは、脳および脊髄以外の神経系の部分である。一実施形態では、CNS組織は、大脳皮質であり、さらなる実施形態では、海馬である。そのため、実施形態では、本明細書に記載される活性成分(例えば、カスパーゼ1阻害剤、例えば、式IもしくはIIを有する化合物、またはその単一の立体異性体、立体異性体の混合物、もしくは薬学的に許容される塩、例えばVX-765、またはその薬学的に許容される塩)は、直接的な頭蓋内注射または髄腔内注射または脳脊髄液への注射を介してin vivoでCNS細胞を治療するために投与することができる。あるいは、本明細書に記載される活性成分(例えば、カスパーゼ1阻害剤、例えば、式IもしくはIIを有する化合物、またはその単一の立体異性体、立体異性体の混合物、もしくは薬学的に許容される塩、例えばVX-765、またはその薬学的に許容される塩)は、血液脳関門を越えてCNSに入ることができる形態で(またはin vivoでそのような形態に変換される)全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、または経口)することができる。
【0082】
「治療有効量」は、所望の治療結果を達成するために必要な投与量および期間として効果的な量を指す。「予防有効量」は、所望の予防結果、例えば、上記の状態の発症または進行を予防しまたはその速度を阻害することを達成するために必要な投与量および期間として効果的な量を指す。予防有効量は、治療有効量について上記される通りに決定することができる。
【0083】
本明細書で使用される場合、「対象」または「患者」という用語は交換可能に使用され、任意の動物、例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類動物を含む哺乳動物を意味するために使用される。一実施形態では、上記の対象は哺乳動物である。さらなる実施形態では、上記の対象はヒトである。
【発明を実施するための形態】
【0084】
本発明を以下の非限定的な例によりさらに詳細に説明する。
【実施例
【0085】
実施例1:試験薬物
本明細書に記載される研究において使用される化合物は、VX-765とも称される(S)-1-((S)-2-{[1-(4-アミノ-3-クロロ-フェニル)-メタノイル]-アミノ}-3,3-ジメチル-ブタノイル)-ピロリジン-2-カルボン酸((2R,3S)-2-エトキシ-5-オキソ-テトラヒドロ-フラン-3-イル)-アミドである。VX-765は以下の構造を有する。
【化16】
【0086】
実施例2:材料および方法
実験の設計:5ヶ月齢の症候性マウスの処置。50mg/KgのVX-765またはビヒクルを注射した20(症状の全発症)週齢のJ20および同腹のWT対照に対して研究を開始した。20週齢のマウスを、「VX-765はJ20マウスにおいてエピソード記憶障害を後退させる」のセクションのパラダイムにしたがって処置した。
【0087】
実験の設計:2ヶ月齢の兆候が現れる前のマウスの予防。50mg/KgのVX-765またはビヒクルを注射した8(兆候が現れる前)週齢のJ20および同腹のWT対照に対して研究を行った。8週齢のマウスに4週(週当たり3回の注射)にわたって注射をし、16週齢時およびその後マウスが8ヶ月齢に達するまで4週毎に記憶障害についてモニターした。VX-765はJ20マウスにおいて少なくとも5ヶ月認知障害の発症を遅延させる。
【0088】
マウスの行動に対するVX-765の効果。不安および過活動性をオープンフィールドパラダイムで、エピソード記憶をNORで、空間記憶をバーンズ迷路で、短期または長期作業記憶をY迷路で処置の前および後にモニターした。NOR、バーンズおよびY迷路について反復測定が許容される2~4
【0089】
AD様病理を評価するために、免疫組織化学解析を行って、冠状脳切片(coronal brain sections)でのアミロイド沈着(抗Αβ F25276)5、6、小膠細胞(Iba1)活性化、アストログリオーシス(GFAP)、シナプトフィジンタンパク質レベルを検出した。マルチプレックスMSD ELISAを使用して、Αβレベルならびに38、40、および42サブタイプ、およびIl-1βの脳レベルを評価した。RT-PCRを使用してヒトAPPSw/lndのレベルを評価した。
【0090】
実施例3:VX-765はJ20マウスにおいてエピソード記憶障害を後退させる
J20および同腹のWTマウス(20週)を最初に、新規物体認識(NOR)ならびにオープンフィールドパラダイムにおける不安および過活動性によりエピソード記憶障害について試験した。処置の前に(処置前)、WTマウス(n=6)は通常通り行動したが、J20(n=8)は、予想の通り、NOR試験において障害を示した(図1:処置前)。水中で調製した25%のCremophore中の予め決定された用量の50mg/Kg(マウス1g当たり0.01μl)のVX-765、またはビヒクルのみを用いてマウスに48時間毎に3回の注射を与え、最後の注射の48時間後に再試験を行った。ビヒクル注射WTマウスは正常なNOR行動を保持したが、ビヒクル注射J20は欠陥のあるままであり、VX-765注射J20マウスは正常に戻った。注射を2週間、週当たり3回の注射(注射間に48時間の間隔および週間に3日の間隔)で続け、マウスを再試験した。WTおよびVX-765注射J20マウスは通常通りの行動を続けたが、ビヒクル注射J20はNOR障害を保持した。次に、4週のウォッシュアウト期間にわたって薬物を除去したところ、以前にVX-765を注射したJ20マウスにおいてNOR障害が再び現れ、ビヒクル注射J20マウスにおいては異常なままであった。次に、マウスに3回の注射を48時間毎に再び注射したところ、VX-765注射はNOR障害を減弱させたが、ビヒクル注射J20マウスはNOR障害を保持した。J20マウスはオープンフィールドパラダイムにおいて過活動性を示し、それは3週間の処置の後にようやく減弱された。いずれのマウスも接触走性により不安を示さなかった(図示せず)。
【0091】
実施例4:VX-765腹腔内注射は脳小膠細胞活性化、シナプトフィジンのIl-1β喪失、およびΑβ42産生を予防する
最後の行動解析の後、マウスを屠殺し、脳を組織学的検査に供した。WTマウスと比較して、J20ビヒクル注射マウスからの脳CA1は増加したIba1陽性小膠細胞を示し、それはVX-765注射J20マウスにおいて正常であった(図2)。GFAPはビヒクル処置J20において増加し、VX-765処置J20の皮質において低減したが、データは統計的有意性に達しなかった。抗F25276抗アミロイド(1~40)抗体での免疫組織化学は、J20脳における高レベルのアミロイド沈着物を示し、WTマウス対照の脳においてはそれを示さなかった。J20+VX-765処置マウスにおいて、脳のみがアミロイドプラークに類似する希少なアミロイド沈着物を保持した。RIPA抽出脳タンパク質のELISAにより、J20の皮質における増加したIl-1βおよびΑβ42レベルはVX-765により低減されたことが確認された。VX-765処置J20マウスにおける認知障害の後退は低減したIl-1βおよびΑβ42レベルならびに増加したシナプトフィジンレベルに関連することをこれらの結果は示す。したがって、J20の脳は、VX-765の12回の注射後に炎症、アミロイド蓄積、およびシナプス機能障害に関して迅速に正常に戻る。
【0092】
実施例5:VX-765での兆候が現れる前の処置はJ20のNOR障害および過活動性を遅延させる。
VX-765がJ20マウスにおいてAD様認知障害および病理の出現を遅延させることができるかどうかを決定するために、2ヶ月齢から開始してJ20マウスに週に3回、4週にわたって注射を行った。薬物を用いない1ヶ月後の4ヶ月齢時にNOR試験を開始し、その後8ヶ月齢まで毎月再試験を行った(図3)。ビヒクル注射WTおよびVX-765注射J20マウスはNORにおいて通常通り行動する一方、ビヒクル注射J20は4、5、および6ヶ月齢(それぞれ1、2、および3ヶ月のウォッシュアウト)時にNOR障害を示すことを結果は示す。7ヶ月齢(4ヶ月のウォッシュアウト)時に、6匹のVX-765注射マウスのうちの3匹がNOR障害を発症し、平均で、この群はNOR障害を示した。8ヶ月齢時に、3匹のマウスのうちの1匹のみがNOR障害を有し、平均で正常な行動の結果となる。なお、4、5、および6ヶ月時に群当たり2匹のマウスならびに7および8ヶ月に群当たり3匹のマウスを屠殺したので、確固とした結論のためにはより高齢の群の結果はより多くの実験データを必要とする。オープンフィールドにおいて、マウスは4ヶ月齢時に正常な行動を示したが、5ヶ月齢までに過活動性が戻った。
【0093】
実施例6:VX-765での兆候が現れる前の処置は4ヶ月齢のJ20マウスの脳において炎症およびシナプトフィジンの喪失を遅延させる
VX-765でのJ20マウスの前処置は小膠細胞のIba1陽性炎症を低減させ、またGFAPアストログリオーシスを低減させる可能性がある(図4)。ビヒクル処理と比較してVX-765処置J20マウスの脳においてシナプトフィジンレベルの顕著な保存があった。Αβのレベルは4ヶ月齢時に検出できなかった。
【0094】
実施例7:APPタンパク質レベルはVX-765処置により維持される
ウエスタンブロットにより、ビヒクル注射およびVX-765注射の両方のJ20マウスの前頭前皮質においてトランスジェニックAPPSw/lndはまだ過剰発現されたことが確認され、それにより、J20+VX-765マウスにおけるアミロイドレベルの減少の理由として処置によるAPP遺伝子発現の阻害の可能性が除外される(図5)。
【0095】
ヒトおよびマウスの脳においてNlrp1がCasp1を活性化させ、それがCasp6を活性化させることを我々は立証した。さらには、我々の事前の証拠は、J20の脳におけるCasp1およびCasp6 mRNAの増加およびJ20+VX-765におけるこれらの低減を示す(図6)。したがって、特定の理論に縛られないが、ヒトの年齢依存性認知障害およびアルツハイマー病に関連することを我々が発見したCasp1-Casp6神経変性経路がJ20マウスにおいて記憶障害および/または病理に寄与する可能性がこれにより生じる。
【0096】
実施例8:ニューロンのビーズ状変性の研究
方法
EGFP標識化ヒト初代ニューロンにAPPWTをトランスフェクトしたか、または血清を枯渇させた。2つの処理戦略を用いてニューロン変性に対するVX-765の効果を決定した:前処理戦略では、APPWTトランスフェクションまたは血清枯渇の1時間前に投与された時にVX-765はニューロン変性を遮断できるかどうかに注目し、後退処理戦略では、APPWTトランスフェクションまたは血清枯渇の48時間後に投与された時にVX-765は変性効果を後退させることができるかどうかに注目した。ビーズ状形態を示すニューロンをライブイメージングで計数し、処理の24~72時間後のeGFP+ニューロンの総数のパーセンテージとして測定した。非可逆的カスパーゼ1阻害剤YVAD-fmkを実験の陽性対照として使用した。3つの独立したニューロン調製物において実験当たり少なくとも100個のeGFP+ニューロンについて数を平均することにより結果を得た。結果を図7に示す。
【0097】
結果
図7の上部挿入図は、eGFPをトランスフェクトしたニューロンの例である。健常なニューロンにおいて、eGFPはその神経突起中に伸びる細胞体内に均一に分布した。ストレッサー(APPWTトランスフェクションまたは血清枯渇)の導入はeGFPの再分布を結果としてもたらし、神経突起内の紐でつながったビーズとして徐々に現れた(ビーズ状変性ニューロン)。
【0098】
VX-765前処理(N=3)
VX-765前処理は、DMSO処理したAPPWTをトランスフェクトしたニューロンと比較して、APPWTをトランスフェクトしたニューロンにおいてトランスフェクションの48時間および72時間後に神経突起ビーズ状変性の40%の低減を結果としてもたらした(図7、左上パネル)。VX-765誘導性の低減は、eGFPおよびYVADカスパーゼ1ペプチド阻害剤の両対照群と同等であった。血清枯渇はより持続性の応答を示した。EGFP+DMSOは、全ての時点にわたってAPPWT+DMSO群と比較して有意に低減した神経突起ビーズ状変性を示したが、X-765処理は72時間時に神経突起ビーズ状変性の低減において特に効果的であった(図7、左下パネル)。
【0099】
VX-765後退処理(N=3)
ストレッサー(APPWTまたは血清枯渇)の48時間後にVX-765を投与する後退処理戦略は、全ての処理群にわたって全体的により大きいパーセンテージのビーズ状変性ニューロンを結果としてもたらした。APPWTトランスフェクションは40~80%のビーズ状変性を結果としてもたらし、72~120時間でeGFP+DMSO群と比較して有意に増加した(図7、右上パネル)。VX-765処理は、120時間時(または処理の72時間後)にビーズ状変性を減少させることができた。カスパーゼ1ペプチド阻害剤YVADはいかなる時点においても神経突起ビーズ状変性を後退させることができなかった。血清枯渇(右下図)は、72~120時間で血清+対照群と比較して神経突起ビーズ状変性の有意な増加を結果としてもたらした。しかしながら、YVADおよびVX-765のいずれも神経突起ビーズ状変性を後退させることができなかった。
【0100】
実施例9:VX-765は症候性APPSw/IndJ20マウスにおいて認知障害および過活動性をレスキューする
VX-765は、ヒトCasp2~10と比べて組換えヒトCasp1を強くかつ特異的に阻害した(IC50 3.68nM)(図14a)。同様に、マウス組換えCasp1(IC50 52.1nM)は炎症性マウスCasp11と比較して強く阻害された(図14c)。代謝型VX-765プロドラッグVRT-043198は、ヒトCasp1に対して9.91nM、マウスCasp1に対して18nMのIC50を有した(図14bおよびd)。VX-765はWTおよびJ20マウスの血液脳関門を越え、VRT-043198に代謝され、海馬および皮質の両方において生理活性濃度に達した(図14e)。
【0101】
図8aに示されるように、8ヶ月齢でマウスを屠殺する前に、5ヶ月齢のマウスを、処置前(ベースライン)、50mg/KgのVX-765の週当たり3回の注射後(処置1;T1)、追加の2週間の注射後(処置2;T2)、処置なしの4週後(ウォッシュアウト;WO)、および週当たり3回のさらなる注射後(処置3;T3)に行動的および縦断的評価を行った。ベースラインにおいて、J20および同腹のWTマウスは正常な動機付け行動を示し(図15a)、不安を指し示す接触走性を呈しなかったが(図15b)、新規物体認識(NOR)エピソード(保持)記憶試験において強い障害を示した(図8b)。J20のNOR障害はVX-765のT1およびT2後に後退し、正常レベルの近くに達した。J20のNOR障害はWO期間後に再び現れ、T3後に再び消失した。結果は個々のマウスにわたって一貫していた(図15c)。オープンフィールドタスクにおいて移動距離により測定したJ20マウスの過活動性は、T2後に初めてVX-765により減弱し、WO後に再び現れ、T3後に再び有意に低減した(図8cおよび図15d)。4日のトレーニング期間中、3つの群にわたってT2においてバーンズ迷路空間記憶試験において有意な学習障害は観察されなかった(図8d)。しかしながら、プローブ試験中、初期潜時、初期誤り(図8e)および標的(T)脱出口を見付ける能力(図8f)はWT同腹子と比較してビヒクル注射J20において明確に障害があった。VX-765はJ20マウスにおいてこれらの空間記憶障害を取り除いた。WOの後、全てのマウスはバーンズ迷路のトレーニング期間中に良好に行動した(図8g)。ビヒクル注射J20マウスはそうでなかったが、VX-765注射J20マウスは初期潜時および誤りにおいて正常に見え、薬物なしでの1ヶ月の期間後でさえも空間記憶を保持したことを示唆した(図8h)。VX-765注射マウスはまた、標的ハッチを見付ける能力においてビヒクル注射J20マウスより良好に行動した(図8i)。Y迷路作業記憶タスクにおけるJ20マウスの成績は一貫して低かったが、WTまたは処置J20マウスと必ずしも統計的に異ならなかった(図15e)。
【0102】
VX-765を25および10mg/kgで投与して、VX-765に対するJ20の用量応答を評価した(図9)。マウスの全ての群は正常な動機付け(図16a)および接触走性(図16b)行動を示した。NOR識別指数はT1およびT2において25mg/kgの用量で正常となり、障害はWO後に再び現れ、T3で正常に戻り、これは50mg/Kgの用量での結果と類似した(図9aおよび図16c)。10mg/kgで処置したマウスはT2後に初めて正常なNOR行動を示し、効果はウォッシュアウトされ、T3後に再び現れた。J20の過活動性は25mg/kgでT2において有意でない改善を示したが、10mg/kgでは改善を示さなかった(図16dおよびe)。T2後に評価したバーンズ迷路において、トレーニングにおける有意差は観察されず(図9b)、J20は25および10mg/kgの両用量において初期潜時に障害があるままであった(図9c)。しかしながら、初期誤りは25mg/kgで減少し、両方の用量はプローブ試験中に脱出口を認識する能力が改善したマウスを示した(図9d)。ウォッシュアウト期間後、脱出口を見付けるマウスの潜時は最初により迅速であり、T2後に試験したナイーブマウスのそれと時間的に類似していた(図9e)。プローブ試験中に薬物を用いてまたは用いずに、初期潜時および誤りにおいて有意差は観察されなかった(図9f)。さらには、25mg/kgで処置したマウスは脱出口の位置を認識する能力を保持したが、10mg/kgで処置したマウスは保持しなかった(図9g)。合わせると、これらの結果は、J20のエピソードおよび空間記憶障害を後退させるVX-765の用量応答効果を実証する。
【0103】
J20マウスにおいて正常な認知を再確立するVX-765の効果がCasp1阻害によることを確認するために、Casp1ヌルバックグラウンド(J20/Casp1-/-)でJ20マウスを生成し、VX-765 T3後のJ20マウスの年齢に対応する8ヶ月齢時に行動を評価した。5ヶ月齢のJ20マウスと類似して、8ヶ月齢のJ20は正常な移動活性を示し、不安を欠き(図17aおよびb)、過活動性であり(図17c)、強いNOR障害を有した(図17d)。J20/Casp1-/-マウスは過活動性を保持したが(図17c)、NOR(図17d)およびY迷路(図17e)において通常通りに行動した。合わせると、これらの結果は、VX-765はJ20マウスにおいてCasp1を阻害することによりエピソードおよび空間記憶障害を後退させることを指し示す。
【0104】
実施例10:VX-765はJ20マウスにおいて神経炎症を後退させる
ビヒクル処置J20マウスの海馬および皮質において増加したIba-1陽性小膠細胞が観察されたが、VX-765処置J20の海馬のCA1放線層においてWTのレベルまで低減した(図10a)。VX-765処置の海馬におけるIba1陽性小膠細胞は前処置した5ヶ月齢のJ20マウスの脳のそれより低く、この領域におけるVX-765処置による炎症の後退を指し示した(J20のベースライン;図10a)。全体的に、海馬CA1領域の錐体細胞層から網状分子層までで測定されたIba1+小膠細胞の数はVX-765処置後に正常に戻った(図10b)。しかしながら、Iba1陽性小膠細胞は、海馬のCA1網状分子層および歯状回領域においていまだに著明であり、残存しているΑβプラークに関連した(図17f)。Casp1の阻害を介する小膠細胞活性化の低減がJ20/Casp1-/-海馬において確認された(図17f)。しかしながら、VX-765処置脳におけるよりもJ20/Casp1-/-脳において、特に海馬の網状分子層および歯状回領域に、より活性化された小膠細胞が残存した。形態学的に測定37した小膠細胞活性化は、ビヒクル処置J20におけるよりもVX-765処置J20の海馬および皮質において、より休止状態の、より低い活性化の小膠細胞を指し示した(図10c)。WTと比較して、海馬のIl-1βはJ20において増加し、VX-765処置後に低減した(図10d)。皮質または血漿のIl-1βレベルに変化は見られなかったが、VX-765処置の皮質はIl-1βの低減の傾向があった(図10dおよび図18a)。他の炎症性タンパク質レベルに有意差は観察されなかったが、TNF-α、KC-GRO、およびIFN-γはビヒクル処置J20においてわずかに上昇し、VX-765処置J20において正常となった(図18b)。ELISAアッセイはプロおよび成熟Il-1βの両方を測定し、Casp1阻害は成熟Il-1βおよび他のサイトカインの放出を妨害し、それによりそれらの迅速なターンオーバーを防止することを考慮することは重要である。J20マウスの皮質および海馬において増加したGFAPアストログリオーシスもまたVX-765処置でほぼWTのレベルに戻った(図10eならびに図18cおよびd)。VX-765処置はJ20の脳において小膠細胞および星状膠細胞の両方の活性化を後退させたことをこれらの結果は指し示す。
【0105】
実施例11:VX-765はJ20マウスの脳において可溶性および沈着Αβの蓄積を予防する
増加した沈着チオフラビンS(図19a)および免疫陽性Αβレベルはビヒクル注射J20マウスの脳と比較してVX-765処置した海馬および皮質において実質的に低減した(図11a~b)。しかしながら、Αβ沈着物は完全には消失せず、前処置した5ヶ月齢のJ20マウスの脳において観察されたものと同等であった(図11a)。これらの残存したΑβ沈着物は海馬の網状分子層および歯状回領域に主に局在し、まれに皮質において沈着物があった(図19b)。Αβ沈着物がびまん性で現れ、海馬のほとんどを覆うJ20/Casp1-/-マウスの脳と比較して、VX-765処置後に残存した沈着物はより密であり、より少ない活性化小膠細胞を有した(図17f、図19bおよびc)。総Αβ38+40+42レベルに対するRIPA可溶性およびギ酸可溶性Αβ42もVX-765処置マウスの海馬および皮質(RIPA可溶性についてのみ)において低減し、5ヶ月齢の前処置したJ20の脳において測定されたものと同等であった(図11c、e)。RIPA可溶性の総Αβ(図11d)またはΑβ38図11g)は8ヶ月齢のビヒクルまたはVX-765処置J20マウスにおけるよりも5ヶ月齢の海馬において高かった一方、Αβ40レベルは全ての群において類似していた(図11h)。しかしながら、Αβ42はVX-765処置後の海馬において低減した(図11i)。ギ酸可溶性の総Αβは海馬および皮質において強く減少し(図11f)、Αβの3つ全てのサブタイプはVX-765 J20の海馬および皮質組織においてより少なかった(図11j~l)。可溶性または沈着Αβ42レベルの低減はJ20マウスにおけるAPP mRNAまたはタンパク質のレベルの減少によるものではなく、実際、APPレベルはVX-765処置の海馬および皮質において増加した(図11m)。インスリン分解酵素(IDE)のレベルまたはネプリライシンのmRNAレベルの有意な変化は観察されなかったのでΑβの分解の増加の可能性は低い(図11nおよびo)。合わせると、VX-765処置は、恐らく総Αβレベルに対するΑβ42の比を低減させることにより、J20の脳においてΑβの進行性の沈着を停止させたことをこれらの結果は指し示す。
【0106】
実施例12:VX-765はJ20マウスの脳において免疫組織化学によるシナプトフィジンの検出を正常化させる
5ヶ月齢時に、J20の海馬において免疫陽性シナプトフィジンレベルの有意な減少があった(図12a)。シナプトフィジンレベルは8ヶ月齢のビヒクル処置J20の海馬において低いままであったが、VX-765処置マウスの海馬において有意に増加し、正常レベルに戻った(図12aおよびb)。3匹のビヒクル処置および3匹のVX-765処置マウスの海馬における84個の異なるシナプス遺伝子mRNAレベルの測定は、シナプス機能に関与する4つの追加の遺伝子:Camk2a、Grin2b、Kif17、およびTNF-αのmRNAレベルにおける有意差を明らかにした(図12c)。TNFαタンパク質レベルはJ20マウスの海馬においてわずかに増加し、VX-765処置で正常に戻った(図18b)。これらの結果は、正常な認知への復帰を説明し得るいくつものシナプス成分に対するVX-765の正常化効果を指し示す。
【0107】
実施例13:VX-765はヒトCNSニューロン培養物において軸索変性を予防する
VX-765が神経変性からヒトニューロンを保護できるかどうかを決定するために、VX-765を初代ヒト胎児CNSニューロン培養物において評価した。72時間の25、50、100、または200μMのVX-765でのHPNの処理は毒性ではなかった(図13a)。EGFPはCNSヒト初代ニューロン(HPN)の細胞体および神経突起内で均一に分布した一方、APPWTの共発現は、神経変性を指し示すEGFP陽性ビーズ状変性を結果としてもたらした(図13b)。APPのトランスフェクションの前に1時間HPNをVX-765で前処置し、その後に処理を続けた。25および50μMの濃度でのVX-765処理はAPPWTをトランスフェクトしたニューロンにおいてトランスフェクションの48および72時間後に神経突起ビーズ状変性を予防し、これはCasp1 Z-YVAD-fmkペプチド阻害剤と類似していた(図13c)。同様に、VX-765は、より弱かったが、血清枯渇誘導性の神経突起ビーズ状変性から保護した。神経突起ビーズ状変性が可逆的かどうかを評価するために、APPWTトランスフェクションまたは血清枯渇の48時間後にVX-765を投与した。VX-765処理はAPPをトランスフェクトしたニューロンにおいて神経突起ビーズ状変性を後退させなかったが、さらなる神経突起ビーズ状変性を予防した。対照的に、YVAD-fmkはいずれの時点においても神経突起ビーズ状変性を後退させることも予防することもできなかった。in vivoで観察されたように、50μMのVX-765は、分泌および細胞Αβ42/総Αβレベルを低減させた。25μMの濃度は分泌Αβ42/総Αβレベルを低減させたが、細胞Αβ42/総Αβレベルを低減させなかった。Il-1β、IFN-γ、TNF-α、およびII-6のレベルもまた、両方の濃度のVX-765で低減されたが、異なるニューロン調製物間のばらつきは統計的に有意な結果よりもむしろ傾向を結果としてもたらした。VX-765はヒトニューロン変性を予防できることをこれらの結果は指し示す。
【0108】
VX-765の効果はエピソードおよび空間記憶障害に対して申し分なく迅速であり、これらはそれぞれ1(3回の注射)または3(9回の注射)週間の処置のみの後で正常化されることを本明細書に記載される研究の結果は示す。認知障害の後退には、小膠細胞および星状膠細胞の反応性およびシナプトフィジン免疫組織化学染色の正常化、4つの異なるシナプス成分の遺伝子発現の正常化、および脳における進行性のアミロイド病理の予防が付随する。
【0109】
VX-765処置マウスにおけるΑβレベルの低減は予想外であった。3ヶ月の期間にわたるわずか12回の処置の後に、RIPA可溶性の、免疫染色された、チオフラビンS陽性のΑβのレベルはビヒクル処置J20マウスにおけるよりもかなり低く、前処置した5ヶ月齢のJ20におけるレベルに類似したままであった。VX-765はΑβの進行性の蓄積および沈着を停止させることをこれらの結果は指し示す。VX-765は炎症性Casp1を阻害するので、Αβが炎症を推進するというより普及した見解とは対照的に、J20マウスモデルにおいて炎症がΑβの蓄積を推進していることを結果は指し示す(図20)。
【0110】
J20は家族性ADマウスモデルであるが、軽度認知障害ならびに弧発性ヒトADの初期および後期ステージにおけるNlrp1-Casp1-Casp6経路の存在は、本明細書に記載される処置が弧発性ADにおいても機能することを示唆する。
【0111】
ADに対する効率的な治療はニューロン変性を予防するための早期治療を必然的に伴う可能性がある。これを念頭に置いて、認知低下の発症のわずか1ヶ月後のマウスを治療することを選択した。アウトカムは予想外なことに良好であり、軽度認知障害の個体または臨床的に診断されたADの非常に早期の発症時にVX-765を治療のために使用し得ることを指し示す。
【0112】
実施例14:VX-765はJ20アミロイド前駆体タンパク質Swedish/Indiana ADマウスモデルにおいてアルツハイマー病(AD)関連行動および記憶障害ならびに病理を予防することができる
アルツハイマー病のマウス遺伝学的モデルにおける炎症の兆候が現れる前の阻害は記憶および行動障害、ならびにアルツハイマー病様の病理の進行を取り除くことができるかどうかを直接的に試験した。J20アミロイド前駆体タンパク質Swedish/Indiana変異体マウスを2ヶ月齢時に1ヶ月の期間にわたり50mg/Kgのカスパーゼ1阻害剤VX-765で処置した(図22a)。薬物を停止し、マウスがNOR障害を呈する齢である4ヶ月齢時(1ヶ月のウォッシュアウト)、およびその後マウスが8ヶ月齢に達するまで毎月、動物の行動を評価した。
【0113】
J20の過活動性をオープンフィールドを用いて評価した。4ヶ月齢時(4週のウォッシュアウト)に、ビヒクル処置J20マウスはビヒクル処置野生型(WT)マウスよりも移動距離(図21a)および四半分に入った回数(図21b)において有意な増加を有する。対照的に、VX-765処置J20マウスはビヒクル処置WTマウスのように行動する。しかしながら、過活動性に対するVX-765の予防的処置の有益な効果は8週のウォッシュアウト評価およびその後に失われる。さらには、VX-765は8週から20週のウォッシュアウト期間のアッセイ中にJ20において移動時間のより高い%を変化させなかった(図21c)。WTマウスが辺縁部にいる時間量がより少ないことにより、両方のJ20群において4週のウォッシュアウト時に接触走性により測定される不安が観察された(図21d)。その後、全ての群は辺縁部にいる同一の時間量を示した。J20マウスの過活動性は短期間にわたり取り除くことができるが持続しないことをこれらの結果は指し示す。症候性マウスの治療は過活動性を取り除くために3週間のVX-765処置を必要とするという我々の先行するデータにこれらの結果は合致する。
【0114】
新規物体認識(NOR)アッセイを用いてエピソード記憶を評価し、結果を識別指数として表した。ビヒクル処置J20は評価時点のそれぞれにおいてNORに強い障害がある(図22b)。対照的に、ビヒクル処置WTマウスは各時点において非常に良好に行動するが、20週のウォッシュアウトの時点において識別指数の減少があり、これは恐らく試験に対する慣れによる。平均で、VX-765処置J20マウスは各ウォッシュアウトの時点においてWTマウスのように行動する。16および20週のウォッシュアウト後にVX-765処置J20はより低い成績を呈するが、それらはまだビヒクル処置J20マウスより良好に行動している。個々のマウスを見ると、全ての群はNORに障害がある数匹のマウスを含有する(図28a~c)。しかしながら、障害のあるVX-765処置マウスのパーセンテージはビヒクル処置WTマウスと有意に異ならず(図22c)、これらの2つの群におけるNOR障害の増加はマウスがアッセイに慣れたことによる可能性があることを示唆する。VX-765による予防的処置はJ20マウスにおいてエピソード記憶障害の発症の遅延に高い効率を持つことをこれらの結果は指し示す。
【0115】
J20が空間記憶障害を獲得する年齢である6ヶ月齢時(12週のウォッシュアウトの時点)のマウスに対してバーンズ迷路を用いて空間記憶を評価した。マウスの3つ全ての群はトレーニングの4日目までタスクの学習において効率的であった(図23a)。プローブの日に、標的に到達するまでの初期潜時は群間で有意に異ならなかったが、VX-765処置J20マウスはより良好な成績の傾向があった(図23b)。しかしながら、標的への到達における初期誤りはビヒクル処置マウスと比較してビヒクル処置J20マウスにおいて有意に増加した。VX-765による予防的処置はこの障害を直した。さらには、VX-765処置J20マウスはビヒクル処置J20マウスと比較して標的区画を区別するより良好な能力を示した(図23c)。20週のウォッシュアウトの時点において第2のバーンズ迷路を行った。VX-765処置マウスは学習期に通常通り行動したが、ビヒクル処置J20マウスは学習の遅延を示した(図23d)。しかしながら、VX-765処置マウスにおいて初期潜時および初期誤りの改善の傾向があったが、これらは統計的有意性に達しなかった(図23e)。それにもかかわらず、VX-765処置マウスはプローブ試験における標的区画の同定においてビヒクル処置J20マウスより良好に行動した(図23f)。合わせると、VX-765での前処置は処置の5ヶ月後までエピソードおよび空間記憶障害の発症を有意に遅延させることができるが、過活動性症状を遅延させることはできないことをこれらの結果は指し示す。
【0116】
行動解析後、マウスを屠殺し、組織切片に対して免疫組織染色を行った。ビヒクル処置J20マウスの脳の海馬は神経突起中のアミロイドおよびプラーク様沈着物に対して多くの免疫染色を示す(図24a)。驚くべきことに、VX-765処置マウスの脳の海馬の少数は抗アミロイド抗血清に対して免疫陽性反応性をほぼ有しなかった。より少ない密なプラークおよびアミロイド沈着物があり、その大部分は海馬の網状分子層の区画に制限されている。しかしながら、他のVX-765処置(treatted)J20マウスの脳において、アミロイドのレベルは有意に減少しない。研究した全てのマウスのアミロイド染色の免疫陽性密度の定量は、16および20週のウォッシュアウトの時点においてVX-765処置マウスの海馬および皮質中にわずかに少ないアミロイドを指し示す(図24b)。海馬組織タンパク質抽出物のELISA分析はRIPA可溶性Αβ38、Αβ40、およびΑβ42、総Αβ、およびΑβ42/総Αβの大きな差異を検出しないが、16週のウォッシュアウトの時点においてこれらのΑβのより低いレベルの傾向がある(図24c)。20週のウォッシュアウトの時点においてビヒクル処置J20の海馬と比べてΑβ42/総Αβレベルはわずかに減少する(p≦0.070)。皮質組織RIPA可溶性タンパク質抽出物中のアミロイドレベルのいかなる測定に対してもVX-765処置は効果がない。ギ酸可溶性アミロイドは、概して、16週および20週のウォッシュアウトの時点において皮質におけるよりも海馬において高い。Αβ42/総ΑβレベルはVX-765処置J20の海馬における20週のウォッシュアウトの時点においてより低い(p≦0.05)。Αβ測定のいずれのギ酸可溶性皮質レベルもVX-765処置で低減しない。兆候が現れる前の1ヶ月のVX-765での処置はRIPA可溶性およびギ酸可溶性の凝集Αβ42の蓄積をわずかに低減させることをこれらの結果は指し示す。VX-765処置マウスにおいて認知は損なわれないままであったので、アミロイドはJ20マウスにおける認知障害に関与する可能性は低いことをこれらの結果は指し示す。
【0117】
活性化小膠細胞を明らかにするためのIba1陽性免疫染色は、VX-765での兆候が現れる前の処置はまたJ20の脳の海馬および皮質において小膠細胞の炎症が強く減少することを示す(図25aおよびb)。小膠細胞のサブタイプの解析は、VX-765は海馬および皮質の両方において12週のウォッシュアウトの時点まで休止状態の小膠細胞数(+)を回復させ、より活性化した小膠細胞(++、+++)を減少させることを指し示す(図25c)。その後、(++++)貪食小膠細胞の増加がVX-765処置で認められることを除いて、ビヒクル処置J20マウスの脳とVX-765処置J20マウスの脳との間で大きな差異はない。効果は薬物の20週間のウォッシュアウト後に維持される。星状細胞GFAP免疫染色について類似の結果が得られたが、差異はIba1についてほどは顕著でなく、統計的有意性に達していない(図26aおよびb)。
【0118】
シナプトフィジン免疫染色はビヒクル処置J20マウスの海馬において激しく低下する(図27)。シナプトフィジン免疫染色はVX-765処置の海馬において部分的に再確立される。
【0119】
合わせると、アルツハイマー病の記憶および行動障害ならびにアルツハイマー病様病理は、マウスが症状を示す前の50mg/kgのVX-765での1ヶ月の予防的処置により6ヶ月間強く低減できることをこれらの結果は指し示す。
【0120】
VX-765での定期的な治療はヒトにおいて認知障害および進行性のADの病理を予防できる可能性を前臨床の結果は指し示す。処置のマウスの年齢および時間のヒトの年齢への変換は、ヒトにおける3~4年の兆候が現れる前の処置は約10~15年間疾患の進行を予防できる可能性があることを指し示す。したがって、VX-765は、予防的処置として兆候が現れる前の高齢個体を処置するために使用することができる。
【0121】
本発明をその特定の実施形態により本明細書に上記したが、本発明は、添付の特許請求の範囲に定義される主題の発明の精神および性質から離れることなく改変することができる。特許請求の範囲において、「含む」という語はオープンエンドの用語として使用され、「含むが限定されない」という語句に実質的に相当する。単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを規定しない限り、複数への言及を包含する。
【0122】
参考文献
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