(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】ペロブスカイト化合物及びこれを用いた光変換素子
(51)【国際特許分類】
C07C 211/62 20060101AFI20230120BHJP
C07F 7/22 20060101ALI20230120BHJP
C07F 7/30 20060101ALI20230120BHJP
H10K 30/50 20230101ALI20230120BHJP
【FI】
C07C211/62 CSP
C07F7/22 V
C07F7/30 Z
H01L31/04 112Z
(21)【出願番号】P 2019564770
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(86)【国際出願番号】 JP2019000798
(87)【国際公開番号】W WO2019139153
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2018004523
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、独立行政法人科学技術振興機構 未来社会創造事業「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域 研究題目「SnからなるPbフリーペロブスカイト太陽電池の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 修二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 望
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105218594(CN,A)
【文献】国際公開第2015/151535(WO,A1)
【文献】J. Am. Chem. Soc.,2017年,139(23),8038-8043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
H01L
C07F
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABX
3(Aはカチオン、Bは金属、Xはハロゲンを示し、A、B及びXは、それぞれ複数の元素から構成されてもよい。)からなる化合物であって、
Bが、Sn
及びGeからなり、
BにおけるSnと
Geとの元素構成割合が、Snが70~99.5%であると共に、
Geが0.5~30%であることを特徴とするペロブスカイト化合物。
【請求項2】
BにおけるSnとGeとの元素構成割合が、Snが80~99%であると共に、Geが1~20%であることを特徴とする請求項
1記載のペロブスカイト化合物。
【請求項3】
Aが、有機アミン又はアルカリ金属であることを特徴とする請求項1
または2記載のペロブスカイト化合物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか記載のペロブスカイト化合物を含有する光吸収層を有することを特徴とする光電変換素子。
【請求項5】
前記光吸収層が、正孔輸送層及び電子輸送層の間に設けられていることを特徴とする請求項
4記載の光電変換素子。
【請求項6】
請求項
4または5記載の光電変換素子を備えることを特徴とする太陽電池。
【請求項7】
請求項
4または5記載の光電変換素子を備えることを特徴とする光センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト化合物及びこれを用いた光変換素子、並びに光変換素子を備えた太陽電池及び光センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペロブスカイト化合物は、光変換効率が極めて高いことから、注目を集めている。このペロブスカイト化合物を含むペロブスカイト太陽電池は、従来の固体型色素増感太陽電池の色素担持に代えて、ペロブスカイト化合物の層を形成し、固体のホール移送層を形成することで、従来の色素を用いた液体の電解質を用いるよりも高い変換効率を達成できるという大きな特徴を有している。
【0003】
このようなペロブスカイト太陽電池におけるペロブスカイト化合物の層の形成は、鋳型層としてチタニア多孔質膜などを用いて、この鋳型層に、有機溶媒へ溶解させたペロブスカイト化合物をスピンコートすることにより、結晶性の異なるペロブスカイト薄膜を形成することにより行われるのが一般的である。
【0004】
ところで、色素増感太陽電池、有機太陽電池、ペロブスカイト太陽電池は、代表的なプリンタブル太陽電池である。従来のペロブスカイト太陽電池は、光吸収層としてハロゲン化Pbペロブスカイト層を有しており、このハロゲン化Pbペロブスカイト太陽電池は、セル面積は小さいものの、光電変換効率が20%を超えるものが報告されている(非特許文献1)。この変換効率は市販されている無機系太陽電池に迫る効率である。また、口頭による発表ではあるが、1cm2のセル面積による公式光電変換効率として15%のものが報告されている。
【0005】
一般にハロゲン化ペロブスカイト化合物として、CH3NH3PbI3が用いられている。このハロゲン化ペロブスカイト化合物の光吸収スペクトル端は800nmである。さらに900nmまで光電変換できれば、開放電圧を低下させずに効率を向上させることができる。例えば、ペロブスカイト太陽電池の理論解放電圧からの電圧ロスを0.3Vとし、可視光から900nm間での光をFF:0.7,IPCE(Incident Photon to Current Efficiency):0.8の条件で光電変換できると仮定すると、20.4%の変換効率が得られることになる。
しかし、従来のCH3NH3PbI3のようなPbを含有するペロブスカイト太陽電池は、環境リスクが高いことから、Pbを含有しないPbフリーのペロブスカイト太陽電池の開発が望まれている。
【0006】
現在、このPbフリーのペロブスカイト太陽電池としては、ハロゲン化Snペロブスカイト化合物を用いたハロゲン化Snペロブスカイト太陽電池が知られている。このハロゲン化Snペロブスカイト化合物は、1200nmを超える光吸収スペクトルを持っていることが知られているが、その詳細な物性については明らかにされていない。また、このハロゲン化Snペロブスカイト化合物を用いた太陽電池の光電変換効率も十分ではなく、光電変換効率の向上が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】M. Saliba, T. Matsui,; J.Y. Seo, K. Domanski, J.P. Correa-Baena, M.K. Nazeeruddin, S.M. Zakeeruddin, W.Tress, A. Abate, A. Hagfeldt and M Gratzel. Cesium-containing triple cation perovskite solar cells: improved stability, reproducibility and high efficiency. Energy Environ. Sci., 2016, 9, pp. 1989-1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、光電変換効率の向上した、Pbフリーのハロゲン化Snペロブスカイト化合物、及びこれを用いた太陽電池等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような問題点に鑑み、種々の検討を行った結果、ABX3(A:カチオン、B:金属、X:ハロゲン)からなるペロブスカイト化合物において、金属BとしてSn及びGeを含む構成とすることにより、金属BがSn単独の場合に比して、飛躍的に光電変換効率を向上させることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1] ABX3(Aはカチオン、Bは金属、Xはハロゲンを示し、A、B及びXは、それぞれ複数の元素から構成されてもよい。)からなる化合物であって、
Bが、Snと、Sn及びPbを除く周期律表12、13、14、15及び16属の金属の少なくとも1種とを含むことを特徴とするペロブスカイト化合物。
[2] Bが、Sn及びGeを含むことを特徴とする[1]記載のペロブスカイト化合物。
[3] Bが、Sn及びGeからなることを特徴とする[2]記載のペロブスカイト化合物。
[4] BにおけるSnとその他の金属との元素構成割合が、Snが70~99.5%であると共に、その他の金属が0.5~30%であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか記載のペロブスカイト化合物。
[5] BにおけるSnとGeとの元素構成割合が、Snが70~99.5%であると共に、Geが0.5~30%であることを特徴とする[2]又は[3]記載のペロブスカイト化合物。
[6] BにおけるSnとGeとの元素構成割合が、Snが80~99%であると共に、Geが1~20%であることを特徴とする[5]記載のペロブスカイト化合物。
[7] Aが、有機アミン又はアルカリ金属であることを特徴とする[1]~[6]のいずれか記載のペロブスカイト化合物。
【0011】
[8] [1]~[7]のいずれか記載のペロブスカイト化合物を含有する光吸収層を有することを特徴とする光電変換素子。
[9] [6]記載のペロブスカイト化合物を含有する光吸収層を有することを特徴とする光電変換素子。
[10] 光吸収層が、正孔輸送層及び電子輸送層の間に設けられていることを特徴とする[8]又は[9]記載の光電変換素子。
[11] [8]~[10]のいずれか記載の光電変換素子を備えることを特徴とする太陽電池。
[12] [8]~[10]のいずれか記載の光電変換素子を備えることを特徴とする光センサ。
【発明の効果】
【0012】
本発明のペロブスカイト化合物は、光電変換効率が高く、太陽電池や光センサに応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の光電変換素子(一例)の概略図である。
【
図2】実施例1で作製した光電変換素子の概略図である。
【
図3】実施例1で作製した光電変換素子の電圧-電流密度曲線を示す図である。
【
図4】実施例2で作製した光電変換素子の概略図である。
【
図5】実施例2で作製した光電変換素子の変換効率(左上)、開放電圧(中央上)、短絡電流密度(右上)、曲線因子(左下)、直列抵抗(中央下)、並列抵抗(右下)を示す図である。
【
図6】実施例3で作製した光電変換素子を空気中に放置した場合の光電変換効率の変化を示す図である。
【
図7】実施例4で作製した光電変換素子のペロブスカイト層(光吸収層)の高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)による断面元素プロファイル分析結果を示すグラフである。
【
図8】実施例5で作製したペロブスカイト化合物からなる層の表面の状態を原子間力顕微鏡(Atmic Force Microscope: AFM)により観察した結果を示す図である。
【
図9】実施例5で作製したペロブスカイト化合物からなる層の表面粗さを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ペロブスカイト化合物]
本発明のペロブスカイト化合物は、ABX3(A:カチオン、B:金属、X:ハロゲン)からなる化合物であって、Bが、Snと、Sn及びPbを除く周期律表12、13、14、15及び16属の金属の少なくとも1種とを含むことを特徴とする。なお、A、B及びXは、それぞれ、1種の元素であってもよく、複数の元素から構成されてもよい。ペロブスカイト化合物は、A-B-X3で表したときに、体心に金属B、各頂点にカチオンA、面心にハロゲンXが配置された立方晶系の構造を有する。
【0015】
本発明のペロブスカイト化合物は、環境リスクの高いPbを含まず、光電変換効率が高い。また、空気中で放置した場合にも光電変換効率を維持することができ、空気中での安定性が高い。したがって、太陽電池、光センサ等における光電変換素子の材料として好適である。具体的に、本発明のペロブスカイト化合物は、光を吸収して電荷(正孔及び電子)に変える光吸収層等に適用することができる。
【0016】
本発明のペロブスカイト化合物における金属Bは、上記のように、Snと特定の他の金属を含むものである。他の金属としては、具体的に、Zn、Ga、Ge、As、Cd、In、Sb、Te等を挙げることができるが、Geが特に好ましい。すなわち、金属Bは、Sn及びGeを含むことが好ましく、この2種からなることが好ましい。
【0017】
金属BにおけるSn及び他の金属の元素構成割合としては、本発明の効果の奏する範囲で適宜調整することができ、Snは、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましく、92%以上であることが最も好ましい。また、他の金属(特にGe)は、0.5%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましい。具体的には、Snが70~99.5%であると共に、他の金属が0.5~30%であることが好ましく、Snが80~99%であると共に、他の金属が1~20%であることがより好ましく、Snが85~99%であると共に、他の金属が1~15%であることがさらに好ましく、Snが90~97%であると共に、他の金属が3~10%であることが特に好ましく、Snが92~97%であると共に、他の金属が3~8%であることが最も好ましい。
【0018】
カチオンAとしては、アルカリ金属、有機アミンを挙げることができ、有機アミンが好ましい。アルカリ金属としては、セシウムが好ましい。有機アミンとしては、例えば1級、2級、3級、又は4級の有機アンモニウム化合物を挙げることができ、Nを含有するヘテロ環、又は炭素環を有していてもよい。具体的に、メチルアンモニウム(MA)、ホルムアミジニウム(FA:NH2CH=NH2+)、エチレンジアンモニウム(EA)、ピラジニウム、2-フェニルエチルアンモニウム(PEA)、ベンジルアミン(Benzylamine)、4-フルオロアニリン(4‐Fluoroaniline)、4-フルオロベンジルアミン(4‐Fluorobenzylamine)、4-フルオロフェネチルアミン(4‐Fluorophenethylamine)、フェネチルアンモニウム(Phenethylammonium)等を挙げることができ、2種以上を組み合わせてもよい。これらの中でも、吸収波長幅が広い3次元構造の点から、メチルアンモニウム(MA)、ホルムアミジニウム(FA)が好ましく、これらの組合せが特に好ましい。
【0019】
ハロゲンXとしては、F、Cl、Br、I等を挙げることができ、2種以上を組み合わせてもよい。これらの中でも、キャリア易動度の大きさの点から、Iが好ましい。
【0020】
本発明のペロブスカイト化合物(ABX3)は、例えば、AX及びBX2を有機溶媒に溶解させて成膜することにより製造することができる。AB1B2X3のペロブスカイト化合物を調製する場合は、例えば、AX及びB1X2を有機溶媒に溶解させたAB1X3前駆体溶液と、AX及びB2X2を有機溶媒に溶解させたAB2X3前駆体溶液とを所定割合で混合して成膜することにより製造することができる。
【0021】
有機溶媒としては、前駆体物質を溶解できれば特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド(DMA)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセチルアセトン、tert-ブチルピリジン、ジメチルエチレン尿素(DMI)、ジメチルプロピレン尿素(DMU)、テトラメチル尿素(TMU)等を挙げることができ、2種以上を組み合わせてもよい。これらの中でも、溶解度の大きさの点から、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましい。
【0022】
前駆体溶液の成膜方法は、特に限定されず、真空蒸着法等の気相蒸着法であっても、塗布法であってもよいが、短時間で容易に成膜が行えることから、塗布法が好ましい。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、スピンコート法、オフセット法、スプレーコート法、印刷法等の従来公知の塗布方法を挙げることができる。これらの中でも、薄膜均一性と緻密な多結晶構造の点から、スピンコート法が好ましい。
【0023】
本発明のペロブスカイト化合物は、光電変換素子の光吸収層の材料として好適に用いることができる。すなわち、本発明の光電変換素子は、上記ペロブスカイト化合物を含有する光吸収層を有する。
【0024】
本発明の光電変換素子は、基板上に設けられた第1電極及び第2電極と、第1電極及び第2電極の間に設けられた光吸収層とを少なくとも備えたものであれば特に制限されるものではなく、光吸収層の他に1以上の機能層を有していてもよい。機能層としては、例えば、正孔輸送層、電子輸送層、正孔ブロッキング層、電子ブロッキング層、バッファ層等を挙げることができる。
【0025】
ここで、
図1に、本発明の光電変換素子の一例を示す。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る光電変換素子1は、下から、基板11、第1電極12、正孔輸送層13、光吸収層14、電子輸送層15、及び第2電極16の順に積層されている。この光電変換素子1においては、第1電極12が正孔を回収する正極として機能し、第2電極16が電子を回収する負極として機能する。
【0026】
一方、本発明の光電変換素子は、正孔輸送層13と電子輸送層15が
図1に示す位置関係とは逆の位置である逆型素子であってもよい。すなわち、基板11、第1電極12、電子輸送層15、光吸収層14、正孔輸送層13、及び第2電極16が、この順に積層されていてもよい。この場合、第1電極12が電子を回収する負極として機能し、第2電極16が正孔を回収する正極として機能する。
【0027】
以下、光電変換素子(順型素子)の各部材について説明する。
【0028】
(基板)
基板は、光を透過させるような透明又は半透明なものであれば特に制限はなく、例えば、ガラス、プラスチック、石英等を挙げることができる。プラスチックとしては、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン等を挙げることができる。
【0029】
(第1電極(正極))
第1電極は、透明又は半透明なものであれば特に制限はなく、導電性無機化合物、導電性金属酸化物、導電性高分子及びこれらの混合物を材料として用いることができる。このような第1電極の材料としては、具体的に、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、酸化チタン(TiO2)等の金属酸化物や、導電性高分子を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(第2電極(負極))
第2電極は、第1電極で例示した材料の他、金属、合金、炭素材料およびこれらの混合物を用いることができる。このような第2電極の材料としては、具体的に、金、銀、白金、銅、アルミニウム、チタン等を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
(光吸収層)
光吸収層は、上記本発明のペロブスカイト化合物を含有する。この光吸収層は、基板側から光が照射されると、層中のペロブスカイト化合物が光励起して空間的に分離した電荷キャリア(正孔及び電子)を生成する。これら電荷キャリアのうち正孔は正孔輸送層側に拡散して第1電極へ取り出され、電子は電子輸送層側に拡散して第2電極へ取り出され、第1電極及び第2電極間に電位差(起電力)が生じる。なお、光吸収層の厚さとしては、10~1000nmであることが好ましく、100~500nmであることがより好ましく、200~400nmであることがさらに好ましい。
本発明のペロブスカイト化合物を含有する光吸収層は、層の表面側(特に正孔輸送層側)にGeが偏在する(
図7参照)。したがって、正孔輸送層や電子輸送層への電荷注入が促進される。また、ピンホールの少ない平坦な膜となる(
図8及び9参照)。さらに、正孔輸送層(PEDOT:PSS(親水性キャリア層))による酸化を防止することができる。
【0032】
(正孔輸送層)
正孔輸送層は、光吸収層から注入された正孔を第1電極側に輸送する機能を有する材料を用いることができる。このような正孔輸送層の材料としては、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホネート)(PEDOT:PSS)、NiO、V2O5、MoO3等を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、正孔輸送層は、単層又は複数層から構成されてもよいし、正孔注入や電子ブロックの機能を有していてもよい。
【0033】
(電子輸送層)
電子輸送層は、光吸収層から注入された電子を第2電極側へ輸送する機能を有する材料を用いることができる。このような電子輸送層の材料としては、例えば、C60フラーレン、高次フラーレン、バソクプロイン(BCP)等を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、電子輸送層は、単層又は複数層から構成されてもよいし、正孔ブロックやバッファの機能を有していてもよい。
【0034】
本発明の光電変換素子は、太陽光等の光を基板側から照射すると、光吸収層に含まれるペロブスカイト化合物が励起されて電荷キャリア(正孔及び電子)を発生し、正孔は正極に取り出され、電子は負極に取り出され、正極と負極の間に起電力が生じる。起電力が生じた正極と負極の間を導体で接続することにより、正極から負極に流れる電流を得ることができる。したがって、本発明の光電変換素子は、太陽電池、光センサ等に適用することができる。
【0035】
本発明の光電変換素子は、従来のSn単独のペロブスカイト化合物を用いた光電変換素子に比べて光電変換効率が高く、またPbを含まないことから、安全な光電変換素子である。また、空気中放置による光電変換効率の低下を抑制することができる。本発明の光電変換素子は、単一の素子として用いることもできるが、複数の素子を積層してタンデム型として用いることもできる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
本発明のペロブスカイト化合物CH3NH3SnGeI3(MASnGeI3)を用いた光電変換素子を作製し、その特性を評価した。
【0038】
<ペロブスカイト膜の調製>
ペロブスカイト膜の堆積は、窒素パージしたグローブボックス内で行った。
DMF(1773μL)およびDMSO(227μL)中にSnI2(596mg)、SnF2(25mg)およびMAI(64mg)を溶解することによって、MASnI3前駆体溶液を調製した。一方、MAGeI3前駆体溶液は、GeI2(131mg)およびMAI(16mg)をDMF(500μL)に溶解することによって調製した。最後に、MASnI3前駆体溶液およびMAGeI3前駆体溶液を4:1の体積比で混合することによって、MASnGeI3前駆体溶液を調製した。
【0039】
前駆体溶液を0.2μmフィルターで濾過し、基板(PEDOT:PSS)上に5000rpmで50秒間スピンコートした。スピンコーティングプロセスにおいては、ペロブスカイトの表面を平坦にするために、ペロブスカイト溶液が完全に乾く前に、逆溶剤(Anti-solvent)としてのトルエンを基板上に滴下した。
スピンコーティング終了後、ペロブスカイト膜を70℃のホットプレート上で10分間アニールした。作製されたペロブスカイト膜の組成は、MASnGeI3からなる。
【0040】
なお、比較として、実施例1で使用したMASnI3前駆体溶液を用いて、MASnI3ペロブスカイト膜(比較膜1)と、実施例1で使用したMAGeI3前駆体溶液を用いて、MAGeI3ペロブスカイト膜(比較膜2)を製造した。
【0041】
<光電変換素子の製造>
FTO被覆ガラス基板(日本板硝子株式会社、10Ω/sq)を、界面活性剤、脱イオン水、アセトン、およびイソプロピルアルコールでそれぞれ20分間超音波洗浄し、酸素プラズマで5分間処理した。
PEDOT:PSS水溶液を0.45μmフィルターで濾過し、500rpmで9秒間、4000rpmで60秒間FTO表面上にスピンコートし、次いで140℃で20分間アニールした(40~50nm)。
その後の処理は、窒素パージしたグローブボックス(O
2およびH
2Oの濃度をそれぞれ1.0および0.02ppm未満に維持した)中で行った。
調製したペロブスカイト膜をPEDOT:PSS基板上に堆積させて、さらにこのペロブスカイト層(100~200nm)の上に、C
60層(50nm)、BCP(8nm)及びAu層(100nm)を、活性領域が0.10cm
2のシャドーマスクを介して真空下で熱蒸着することによって、順次堆積させた。
図2に、作製された光電変換素子の構成の概略を示す。
【0042】
<性能試験>
作製したペロブスカイト層(光吸収層)を備えた光電変換素子の出力特性を調査した。具体的には、ソラーシュミレーター(分光計器株式会社製:CEP-2000SRR)を使用して、作製した光電変換素子の電圧-電流密度曲線を求め、さらに変換効率(%)を求めた。光電変換素子の変換効率(%)は、Jsc(A/cm
2)×Voc(V)×FF(%)の値を入射光強度で割ったものである。
図3に、光電変換素子の電圧-電流密度曲線を示す。
【0043】
実施例1におけるSn及びGeの組合せからなるMASnGeI3ペロブスカイト層を備えた光電変換素子の変換効率は5.31%であり、SnのみからなるMASnI3ペロブスカイト膜(比較膜1)単独の光電変換素子の2.23%や、GeのみからなるMAGeI3ペロブスカイト膜(比較膜2)単独の光電変換素子の0.01%と比較して、変換効率が飛躍的に向上した。
【0044】
[実施例2]
実施例1と同様に、本発明のペロブスカイト化合物NH2CH=NH2+CH3NH3SnGeI3(FAMASnGeI3)を用いた光電変換素子を作製し、その特性を評価した。本実施例では、Sn及びGeの組成割合を変化させ、その影響を調べた。
【0045】
<ペロブスカイト膜の調製>
ペロブスカイト膜の堆積は、窒素パージしたグローブボックス内で行った。
DMF(1773μL)およびDMSO(227μL)中にSnI2(596mg)、SnF2(25mg)およびFAI(206mg)、MAI(64mg)を溶解することによって、FAMASnI3前駆体溶液を調製した。一方、FAMAGeI3前駆体溶液は、GeI2(131mg)、FAI(52mg)およびMAI(16mg)をDMF(500μL)に溶解することによって調製した。最後に、FAMASnI3およびFAMAGeI3前駆体溶液を(1-x):xの体積比で混合することによって、FAMA (Sn)1-x (Ge)x I3(x = 0,0.05,0.1および0.2)溶液を調製した。
前駆体溶液を0.2μmフィルターで濾過し、基板(PEDOT:PSS)上に、5000rpmで50秒間スピンコートした。スピンコーティングプロセスにおいては、ペロブスカイトの表面を平坦にするために、ペロブスカイト溶液が完全に乾く前に、逆溶剤としてのトルエンを基板上に滴下した。
スピンコーティング終了後、全てのペロブスカイト膜を70℃のホットプレート上で10分間アニールした。作製されたペロブスカイト膜の組成は、(FA)0.75 (MA)0.25 (Sn)1-x (Ge)x I3(x = 0,0.05,0.1,0.2 (Ge 0%, 5%, 10%, 20%))からなる。
【0046】
<光電変換素子の製造>
ITO被覆ガラス基板(日本板硝子株式会社、10Ω/sq)を、界面活性剤、脱イオン水、アセトン、およびイソプロピルアルコールでそれぞれ20分間超音波洗浄し、酸素プラズマで5分間処理した。
PEDOT:PSS水溶液を0.45μmフィルターで濾過し、500rpmで9秒間、4000rpmで60秒間ITO表面上にスピンコートし、次いで140℃で20分間アニールした(40~50nm)。
その後の処理は、窒素パージしたグローブボックス(O
2およびH
2Oの濃度をそれぞれ1.0および0.02ppm未満に維持した)中で行った。
調製したペロブスカイト膜をPEDOT:PSS基板上に堆積させて、さらにペロブスカイト層(100~200nm)上に、C60(50nm)、BCP(8nm)、Ag(70nm)およびAu(10nm)層を、活性領域が0.10cm
2のシャドーマスクを介して真空下で熱蒸着することによって、順次堆積させた。
図4に、作製された光電変換素子の構成の概略を示す。
【0047】
<性能試験>
作製した(FA)
0.75 (MA)
0.25 (Sn)
1-x (Ge)
x I
3で表わされるペロブスカイト化合物からなる層(光吸収層)を備えた光電変換素子の出力特性を調査した。具体的には、ソラーシュミレーター(分光計器株式会社製:CEP-2000SRR)を使用して、各Geの濃度における変換効率、開放電圧、短絡電流密度、曲線因子、直列抵抗、並列抵抗を求めた。その結果を
図5に示す。
【0048】
図5に示すように、開放電圧VocはGe0%が最も高かったが、開放電圧Voc以外の項目は、Ge5%が最も向上しており、Ge5%が最も光電変換効率が高いことが明らかとなった。
【0049】
[実施例3]
実施例2と同様に、本発明のペロブスカイト化合物(FA0.75MA0.25Sn0.95Ge.0.05I3)を用いた光電変換素子を作製した。
【0050】
<空気中放置による光電変換効率>
作製した光電変換素子を空気中に放置した場合の光電変換効率の変化を調査した。その結果を
図6に示す。
【0051】
図6に示すように、Geを含まないペロブスカイト化合物(FA
0.75MA
0.25SnI
3)を用いた光電変換素子は、60分間空気中に放置することにより、光電変換効率が10%程度まで減少した。これに対して、本発明のGeを含むペロブスカイト化合物(FA
0.75MA
0.25Sn
0.95Ge
.0.05I
3)を用いた光電変換素子は、60分経過後も、80%程度の光電変換効率を維持することが明らかとなった。
【0052】
[実施例4]
実施例2と同様に、本発明のペロブスカイト化合物(FA0.75MA0.25Sn0.95Ge.0.05I3)を用いた光電変換素子を作製した。
【0053】
<元素プロファイル分析>
作製した光電変換素子のペロブスカイト層(光吸収層)について、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)により、断面元素プロファイル分析を行った。その結果を
図7に示す。
【0054】
図7に示すように、ペロブスカイト層の両表面側にGeが偏在することが明らかとなった。特に、PEDOT:PSS層(正孔輸送層)側にGeが偏在していることがわかる。
【0055】
[実施例5]
(FA)
0.75 (MA)
0.25 (Sn)
1-x (Ge)
x I
3(x = 0,0.05,0.1,0.2 (Ge 0%, 5%, 10%, 20%))で表わされるペロブスカイト化合物からなる層をPEDOT:PSS基板上に堆積させた。ペロブスカイト層の表面の状態を原子間力顕微鏡(Atmic Force Microscope: AFM)により観察し、その表面粗さを測定した。その結果を
図8及び
図9に示す。
【0056】
図9に示すように、Geを添加することにより、表面粗さが小さくなり、Ge5%の場合が最も表面粗さが小さいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のペロブスカイト化合物を用いた光電変換素子は、光電変換効率が高く、太陽電池や光センサ等に用いることができることから、産業上有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 光電変換素子
11 基板
12 第1電極
13 正孔輸送層
14 光吸収層
15 電子輸送層
16 第2電極