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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】冷蔵保存庫およびその電場形成方法
(51)【国際特許分類】
   F25D 23/00 20060101AFI20230120BHJP
【FI】
F25D23/00 302Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022567777
(86)(22)【出願日】2022-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2022029962
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2021127953
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520114203
【氏名又は名称】株式会社スーリヤ
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(74)【代理人】
【識別番号】100097157
【弁理士】
【氏名又は名称】桂木 雄二
(72)【発明者】
【氏名】石黒 光一
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-106152(JP,A)
【文献】特開2013-169194(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0028404(KR,A)
【文献】実開昭55-31115(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25D 1/00 ~ 31/00
A23L 3/32
B65D 88/00 ~ 88/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
庫内に電場を形成するための平面電極部材を有する冷蔵保存庫であって、
前記庫内の一壁面にそれぞれ所定位置に配置され、それぞれが前記庫内の異なる空間に電場を形成可能な複数の平面電極部材と、
前記各平面電極部材に前記電場を形成するための高電圧を供給する高圧電源と、
前記高圧電源と前記複数の平面電極部材とを選択的に接続する複数の高圧接続スイッチと、
前記複数の高圧接続スイッチの各々が閉状態となる持続時間及び周期をそれぞれ任意に設定可能であり、前記複数の平面電極部材の少なくとも一部に対応する高圧接続スイッチの開閉を設定された前記持続時間及び周期に従って制御する接続制御部と、
を備え、
前記複数の平面電極部材、及び前記平面電極部材のそれぞれに接続された前記複数の高圧接続スイッチは、前記高圧電源に並列的に接続された
ことを特徴とする冷蔵保存庫。
【請求項2】
前記接続制御部はさらに前記複数の平面電極部材の全部あるいは一部を選択し、選択された平面電極部材に対して、前記設定された持続時間に従って前記複数の高圧接続スイッチの開閉を制御することを特徴とする請求項1に記載の冷蔵保存庫。
【請求項3】
前記接続制御部は、前記複数の平面電極部材に対して所定の順序で前記持続時間ごとに高電圧を順次印加するように前記複数の高圧接続スイッチを制御することを特徴とする請求項1または2に記載の冷蔵保存庫。
【請求項4】
庫内に電場を形成するための平面電極部材を有する冷蔵保存庫の電場形成方法であって、
前記冷蔵保存庫が、前記庫内の一壁面にそれぞれ所定位置に配置され、それぞれが前記庫内の異なる空間に電場を形成可能な複数の平面電極部材と、前記各平面電極部材に前記電場を形成するための高電圧を供給する高圧電源と、前記高圧電源と前記複数の平面電極部材とを選択的に接続する複数の高圧接続スイッチと、前記複数の高圧接続スイッチの開閉を制御する接続制御部と、を有し、
前記複数の平面電極部材、及び前記平面電極部材のそれぞれに接続された前記複数の高圧接続スイッチは、前記高圧電源に並列的に接続され、
前記接続制御部は、前記複数の高圧接続スイッチの各々が閉状態となる持続時間及び周期をそれぞれ任意に設定可能であり、
前記接続制御部は、前記複数の平面電極部材の少なくとも一部に対応する高圧接続スイッチの開閉を前記設定された持続時間及び周期に従って制御することで前記平面電極部材により所望の電場を前記庫内に形成する
ことを特徴とする冷蔵保存庫の電場形成方法。
【請求項5】
前記持続時間又は前記周期は、すべての高圧接続スイッチが開状態となるインターバルが前記周期内に含まれるように設定され、
前記接続制御部は、前記複数の平面電極部材の少なくとも一部に対応する高圧接続スイッチの開閉を設定された前記持続時間、インターバル、及び周期に従って制御する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の冷蔵保存庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電場内で食品などを冷蔵保存することで鮮度を長期間維持することができる冷蔵保存庫に係り、特に冷蔵保存庫内の電場形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫内に形成された電場空間に食品を保存すると食品の分子が電場により振動し、冷蔵室内の温度を氷点下数度程度にまで下げても非凍結状態を維持することができる。この現象を利用して食品の鮮度を長期間に渡って維持する冷蔵保存庫がこれまでに種々提案されている(特許文献1、2および3)。
【0003】
特に特許文献3には、比較的大型の冷蔵保存庫内に複数の対電極を設け、1台の電圧発生装置と複数の対電極との間の電気的接続を切替スイッチにより順次切り替える装置構成が開示されている。特許文献3によれば、切替スイッチによりたとえば数秒間隔で電気的接続を順次切り替えることで、比較的大型の冷蔵保存庫であっても複数の電圧発生装置を備える必要がなくなり、消費電力の低減を達成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-215074号公報
【文献】特許第3862085号公報
【文献】特開2020-106152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した冷蔵庫内に電場空間を形成するために、庫内の電極にはたとえば2500V~7000V程度の高電圧が印加される。このために、特許文献3に開示された冷蔵保存庫に用いられる切替スイッチは、高電圧を数秒間隔で順次切り替える動作に耐えうるスペックが要求される。このような切替スイッチとしては、通常、高度に絶縁され、接点が接触抵抗の低い長寿命の材料で構成された電磁リレーが使用される。
【0006】
しかしながら、このような電磁リレーは一般に高価であるから、できるだけ長期間使用することが望ましいが、特許文献3のように数秒程度の間隔で切り替える動作ではリレーの頻繁な接点開閉が発生し十分な長寿命を達成できない。
【0007】
また保存庫内の対象物を非凍結状態に維持するには、対象物が載置された空間に、常時ではなくとも、ある程度の周期で電場を形成する必要があり、電場の持続時間や電場形成周期は非凍結状態を維持するための重要なパラメータである。特許文献1-3では、断続的な電場形成における電場持続時間および電場形成周期について認識されておらず、安定的な非凍結状態を維持する手段を提供していない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、比較的大型の冷蔵保存庫において、電場を順次形成する接続切替の頻度抑制と非凍結状態の安定化とを共に達成できる冷蔵保存庫およびその電極駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による冷蔵保存庫は、庫内に電場を形成するための平面電極部材を有する冷蔵保存庫であって、前記庫内の一壁面にそれぞれ所定位置に配置された複数の平面電極部材と、前記各平面電極部材に前記電場を形成するための高電圧を供給する高圧電源と、前記高圧電源と前記複数の平面電極部材とを選択的に接続する複数の高圧接続スイッチと、前記複数の高圧接続スイッチの各々が閉状態となる持続時間及び周期を設定可能であり、前記複数の平面電極部材の少なくとも一部に対応する高圧接続スイッチの開閉を設定された前記持続時間及び周期に従って制御する接続制御部と、を備え、前記複数の平面電極部材、及び前記平面電極部材のそれぞれに接続された前記複数の高圧接続スイッチは、前記高圧電源に並列的に接続され、前記接続時間は、設定された前記周期で前記電場形成が繰り返されることで前記冷蔵保存庫内の対象物が凍結しない長さのうち、前記高圧接続スイッチの開閉回数ができるだけ少なくなる時間の長さに設定されたことを特徴とする。
複数の平面電極部材に対して庫内の電場を形成するための高電圧を印加する持続時間を設定することができるために、庫内の冷蔵対象物を凍結させることなく高圧接続スイッチの開閉回数を抑制することが可能となる。これにより比較的大型の冷蔵保存庫において、電場を順次形成する接続切替の頻度抑制と非凍結状態の安定化とを共に達成することができる。
本発明の一態様によれば、前記接続制御部はさらに前記複数の平面電極部材の全部あるいは一部を選択し、選択された平面電極部材に対して、前記設定された持続時間に従って前記複数の高圧接続スイッチの開閉を制御することができる。複数の平面電極部材の全部あるいは一部に対して選択的に高電圧を持続時間に従って印加できるので、庫内の所望位置の空間に電場を形成することが可能となる。
本発明の一態様によれば、前記接続制御部は、前記複数の平面電極部材に対して所定の順序で前記持続時間ごとに高電圧を順次印加するように前記複数の高圧接続スイッチを制御することができる。持続時間を設定することで、庫内の冷蔵対象物を凍結させることなく高圧接続スイッチの開閉回数を抑制することができる。
上記目的を達成するために、本発明の一態様による冷蔵保存庫の電場形成方法は、庫内に電場を形成するための平面電極部材を有する冷蔵保存庫の電場形成方法であって、前記冷蔵保存庫が、前記庫内の一壁面にそれぞれ所定位置に配置された複数の平面電極部材と、前記各平面電極部材に前記電場を形成するための高電圧を供給する高圧電源と、前記高圧電源と前記複数の平面電極部材とを選択的に接続する複数の高圧接続スイッチと、前記複数の高圧接続スイッチの開閉を制御する接続制御部と、を有し、前記複数の平面電極部材、及び前記平面電極部材のそれぞれに接続された前記複数の高圧接続スイッチは、前記高圧電源に並列的に接続され、前記接続制御部は、前記複数の高圧接続スイッチの各々が閉状態となる持続時間及び周期を設定可能であり、前記接続時間は、設定された前記周期で前記電場形成が繰り返されることで前記冷蔵保存庫内の対象物が凍結しない長さのうち、前記高圧接続スイッチの開閉回数ができるだけ少なくなる時間の長さに設定され、前記接続制御部は、前記複数の平面電極部材の少なくとも一部に対応する高圧接続スイッチの開閉を前記設定された持続時間及び周期に従って制御することで前記平面電極部材により所望の電場を前記庫内に形成することを特徴とする。
複数の平面電極部材に対して庫内の電場を形成するための高電圧を設定された持続時間に従って順次印加することができ、庫内の冷蔵対象物を凍結させることなく高圧接続スイッチの開閉回数を抑制することができ、比較的大型の冷蔵保存庫において、電場を順次形成する接続切替の頻度抑制と非凍結状態の安定化とを共に達成することができる。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明によれば、比較的大型の冷蔵保存庫において、電場を順次形成する接続切替の頻度抑制と非凍結状態の安定化とを共に達成できる冷蔵保存庫を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態による冷蔵保存庫の回路構成を概略的に示すブロック図である。
図2】本実施形態における高圧パネルおよび高圧接続スイッチの構成を模式的に示す図である。
図3】本発明の第1実施例による冷蔵保存庫の回路構成を概略的に示すブロック図である。
図4】本発明の第2実施例による冷蔵保存庫の回路構成を概略的に示すブロック図である。
図5】本発明の第2実施例による冷蔵保存庫の高圧パネルアレイの駆動例を示す図である。
図6】本発明の第3実施例による冷蔵保存庫の高圧パネルアレイの配置例を示す図である。
図7】本発明に使用される高圧パネルの外観の一例を示す斜視図である。
図8図8A図7に例示する高圧パネルの正面図、図8BはI-I線断面図、図8Cは背面図である。
図9図9A図7に例示する高圧パネルにおける平面電極部材の正面図、図9BはII-II線断面図である。
図10図7に例示する高圧パネルの構成を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素は単なる例示であり、構成要素の形状、寸法およびそれらの間の比率等は本発明を説明するためのものであって本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0013】
1.実施形態
図1において、冷蔵保存庫300は筐体301からなり、その一内壁面に複数の高圧パネルPが必要な枚数だけ必要な範囲に任意の形態で配列されている。筐体301は縦La、横Lb、高さHの直方体形状を有する導体から構成されているものとする。本実施形態では、説明を簡略化するために、m×n枚の高圧パネルP11~Pmnが配列されて高圧パネルアレイ100を形成しているものとする。言うまでもなく、高圧パネルPの枚数および配置形態は任意であり、どの高圧パネルPが筐体301内のどの位置にあるかが決定されておればよく、本実施形態のようなマトリクス形状に限定されるものではない。
【0014】
なお、詳しくは後述するが、各高圧パネルPには2枚の平面電極部材201a、201bが設けられ、それぞれ別個にあるいは共通に高電圧が印加され、筐体301が接地されているものとする。以下、平面電極部材201a、201bを区別しない場合には、「平面電極部材201」と表記するものとする。高圧パネルPの構成も本実施形態に限定されるものではなく、各高圧パネルPに1枚の平面電極部材201が設けられた構成であってもよい。
【0015】
高圧電源401は高圧ケーブルを通して高圧接続スイッチ402に接続され、高圧接続スイッチ402は接続制御部403の制御に従って高圧電源401と各平面電極部材201との接続を所望の長さおよび所望のパターンで切り替えることができる。詳しくは後述するが、高圧接続スイッチ402は、任意の位置に設置された高圧パネルPの平面電極201に対して高電圧(たとえば2500~7000V)を印加することができる。高電圧が印加された平面電極部材201の前方の空間には所定の電場Eが形成され、この電場E内に食品等を配置することで、上述したように冷蔵保存庫内の温度を氷点下数度程度に下げても非凍結状態を維持することができ、食品の鮮度を長期間に渡って維持することができる。
【0016】
図2に例示するように、冷蔵保存庫300の庫内は床面302、側壁面303および天井面304を有し、高圧パネルP11~Pmnが天井面304に配置されているものとする。任意の高圧パネルPij(i=1~m、j=1~n)における二枚の平面電極部材201aおよび201bはそれぞれ高圧ケーブルで接続部404および405、高圧接続スイッチ402のスイッチSW1およびSW2を通して高圧電源401に接続されている。接続制御部403は所定パターンに従って高圧接続スイッチ402のスイッチSW1およびSW2のオン(ON)-オフ(OFF)制御を行う。すなわち高圧接続スイッチ402のスイッチSW1のみを閉じれば平面電極部材201aだけに高電圧が印加され、スイッチSW2のみを閉じれば平面電極部材201bだけに高電圧が印加され、スイッチSW1およびSW2の両方を閉じれば平面電極部材201aおよび201bの両方に高電圧が印加される。なお、接続部405において各高圧パネルPの二枚の平面電極部材201aおよび201bが電気的に接続され、一枚の平面電極部材を構成することもできる。他の高圧パネルについても同様である。
【0017】
2.実施例
2.1)第1実施例
以下、筐体301の一内壁面である天井面304に6枚の高圧パネルPが配列され、高圧パネルアレイ100が構成されているものとする。上述したように各高圧パネルPには2枚の平面電極部材201a、201bが設けられているが、ここでは2枚の平面電極部材201a、201bが接続され、各高圧パネルPが1枚の平面電極部材201を形成しているものとする。したがって、6枚の高圧パネルPの平面電極部材201が電磁リレーを用いたスイッチによりそれぞれ選択され得る。これ以外に、各高圧パネルPの2枚の平面電極部材がそれぞれ電磁リレーを用いたスイッチにより選択されてもよい。
【0018】
図3に例示するように、高圧接続スイッチ402には、6枚の高圧パネルPにそれぞれ対応する電磁リレーRL~RLが設けられている。電磁リレーRL~RLの共通端子は接続部404の対応する端子にそれぞれ接続され、接続部404は高圧パネルP側の接続部405と着脱可能に連結される。接続部404および405が連結すると、電磁リレーRL~RLのそれぞれの共通端子が接続部404および405を通して対応する高圧パネルPの平面電極部材201に接続される。電磁リレーRL~RLの常開端子は高圧電源401に共通に接続されている。すなわち、図3に図示されているように、6枚の高圧パネルP、及び各高圧パネルPに対応する電磁リレーRL~RLは、高電圧電源401に並列的に接続される。したがって、たとえば電磁リレーRLのコイル端子に電流を流す(励磁する)ことで接点が閉じ(閉状態)、対応する高圧パネルPの平面電極部材201に高圧電源401から高電圧が印加される。他の電磁リレーRL~RLについても同様である。以下、電磁リレーの接点が閉じた状態をON(閉)状態、開いた状態をOFF(開)状態という。このような高圧接続スイッチ402の各電磁リレーRLは接続制御部403によりそれぞれON-OFF制御される。
【0019】
接続制御部403は、高圧接続スイッチ402の電磁リレーRL~RLのON-OFF順序を制御するスイッチ制御部410と、電磁リレーがON状態を持続する時間の長さ(閉持続時間TON)および周期(T)を任意に設定するためのONタイマ411と、を有する。このような機能を有する接続制御部403は、コンピュータのプロセッサ上でプログラムを実行することにより実現することができる。
【0020】
本実施例によれば電磁リレーRL~RLは所定の順序で順次選択され得る。電磁リレーRL~RLがTON時間ごとに順次励磁され、電磁リレーRLまで終了すると、最初の電磁リレーRLに戻り、以下同様の順序で励磁されることで、6枚の高圧パネルPの平面電極部材201に同様の順序で高電圧が順次印加される。
【0021】
電磁リレーを励磁してON状態が持続するTON時間と、各電磁リレーが次にON状態になるまでの期間(周期T)はONタイマ411により設定される。ただし、本実施例ではT=6×TONである。TON時間は、その時間の間に平面電極部材201に高電圧が印加され、それによって対象物の環境に電場が形成される時間的な長さである。TON時間は、周期Tで電場形成が繰り返されることで冷蔵保存庫300内の全ての対象物が凍結しない長さのうち、電磁リレーの接点開閉回数ができるだけ少なくなる時間の長さに設定され得る。TON時間が長すぎると、電界内にある対象物は凍結しないが、その他の対象物は凍結してしまう可能性が高くなる。逆にTON時間が短すぎると、電磁リレーの接点のON-OFF動作が頻繁になることでリレーの寿命が短くなる。さらにTON時間が短いと電界内にある時間が短いために全ての対象物が凍結してしまう可能性がある。このように、冷蔵保存庫300の大きさ、冷凍能力等に依存して、庫内の対象物を凍結することなく、しかも電磁リレーの寿命を長くする最適なTON時間が存在する。ONタイマ411を用いて最適なTON時間を設定することができる。一例として冷蔵保存庫300の筐体301が20フィートコンテナである場合、TON時間を約3分に設定することで最適な非凍結状態を維持することができた。
【0022】
上述した例では、2枚の平面電極部材201を有する高圧パネルP毎に高電圧を印加するように高圧接続スイッチ402を制御するが、これに限定されるものではなく、たとえば各高圧パネルPの2枚の平面電極部材201a,201bを別々に制御することもでき、その場合は2×6枚の平面電極部材201に1個ずつシーケンシャルに高電圧が印加される。なお、2枚の高圧パネル(すなわち4枚の平面電極部材)単位で、あるいはそれ以上の枚数の平面電極部材単位で、スイッチ制御部410が対応する電磁リレーRLを順次励磁することも可能である。なお、高圧パネルPあるいは各平面電極部材201に高電圧を所定の順序で順次印加する方法だけでなく、ランダムに印加する方法も採用可能である。また、複数の電磁リレーRLが高電圧電源401に並列的に接続され、かつ閉持続時間TONおよび周期Tを任意に設定できるので、すべての電磁リレーRLが励磁されない時間(インターバル)を挟んで、各電磁リレーRLを順次又はランダムに励磁されるように、閉持続時間TONおよび周期Tを設定することも可能である。インターバルを設けることで、複数の電磁リレーRLの閉持続時間TONおよび周期Tを、各電磁リレーRLに接続されたパネルPの位置などに応じて最適に設定でき、また消費電力を抑えることができる。また、複数の電磁リレーRLから選択された2以上の電磁リレーを同時に励磁している時間(重複時間)を挟んで、各電磁リレーRLを順次又はランダムに励磁されるように、閉持続時間TONおよび周期Tを設定することも可能である。重複時間を設けることで、複数の電磁リレーRLの閉持続時間TONおよび周期Tを、各電磁リレーRLに接続されたパネルPの位置などに応じて最適に設定できる。
【0023】
2.2)第2実施例
上述した第1および第2実施例では全ての高圧パネルあるいは平面電極部材201が順次選択されて高電圧が印加されるが、本発明はこれに限定されるものではなく、高圧パネルアレイ100あるいは全ての平面電極部材201の所望の部分領域だけを選択し、庫内で局所的に電場を形成することもできる。すなわち、高圧パネルアレイ100の部分領域の平面電極部材201が上述した第1実施例と同様に順次選択されてもよい。
【0024】
図4に例示するように、高圧パネルアレイ100、高圧電源401、高圧接続スイッチ402、および接続部404、405は、上記第1実施例と同様の構成を有する。従って、同様の機能を有する部材には同一参照番号あるいは同一参照符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0025】
第2実施例における接続制御部403aは、高圧パネルアレイ100のどの領域の平面電極部材を選択して高電圧を印加するかを制御するスイッチ制御部410aと、一つの平面電極部材201に高電圧が印加されるON時間の長さ(TON)および周期(T)を任意に設定するためのONタイマ411と、を有する。このような機能を有する接続制御部403aは、コンピュータのプロセッサ上でプログラムを実行することにより実現することができる。
【0026】
図4に示す例では、高圧パネルアレイ100のうち部分アレイ100aが選択されたものとする。スイッチ制御部410aは、選択された部分アレイ100aの平面電極部材201に対して高電圧を順次印加するように高圧接続スイッチ402の対応する電磁リレーを制御し、これによって高圧電源401からの高電圧が部分アレイ100aの平面電極部材201に順次印加される。
【0027】
部分アレイ100aの各平面電極部材201に高電圧が印加される時間の長さTONは、第1と同様に、電場形成が繰り返されることで冷蔵保存庫300内のターゲットとする対象物が凍結しない長さのうち、電磁リレーの接点開閉回数ができるだけ少なくなる時間の長さに設定される。したがって、冷蔵保存庫300内のターゲット対象物が載置された空間の大きさ、冷凍能力等に依存して最適なTON時間が存在し、その最適解をONタイマ411により設定することができる。
【0028】
また、高電圧は高圧パネルPを単位とするだけでなく、1個の平面電極部材201を単位とすることもできる。また2枚の高圧パネル(すなわち4枚の平面電極部材)単位で、あるいはそれ以上の枚数の平面電極部材を単位とすることも可能である。
【0029】
図5に例示するように、上述したように本発明の第2実施例によれば、冷蔵保存庫300内の天井面304に設けられた高圧パネルアレイ100のうち部分アレイ100aのみが選択される。これにより部分アレイ100aを構成する複数の平面電極部材201のみに上述したように高電圧が順次印加され、それにより形成される電場空間内に冷蔵対象物Mを置くことで凍結を防止できる。
【0030】
2.3)第3実施例
上述した第1および第2実施例では冷蔵保存庫300の1つの内壁面に高圧パネルPを配置しているが、これに限定されるものではなく、複数の内壁面に配置しても良い。以下、冷蔵保存庫300の複数の側壁面303に高圧パネルPを配置した第3実施例について説明する。
【0031】
図6に例示するように、本発明の第3実施例による冷蔵保存庫300は対向する側壁面303aおよび303bにそれぞれ高圧パネルアレイ100aおよび100bが設けられている。ここでは、高圧パネルアレイ100aの複数の高圧パネルPあるいは平面電極部材201に対して個別に高電圧が印加され、高圧パネルアレイ100bは共通に高圧電源401に接続されている。高圧パネルアレイ100aの各高圧パネルPあるいは平面電極部材201に高電圧を順次印加する回路構成、すなわち高圧接続スイッチ402、接続制御部403および高圧電源401は、上述した第1、第2実施例と同様であるから説明は省略する。
【0032】
このように冷蔵保存庫300の対向する側壁面303a,303bに高圧パネルアレイ100a,100bを配置した構成でも上述した本発明の第1実施例および第2実施例を適用可能である。なお、本発明による冷蔵保存庫300は、天井面304あるいは側壁面303に高圧パネルアレイ100を設置する構成に限定されるものではなく、床面302に設置することもできる。
【0033】
2.4)効果
上述したように、本発明の第1~第3実施例によれば、高圧パネルアレイ100を構成する平面電極部材201の全部あるいは一部に対して高電圧を順次印加することができる。その際、ONタイマ411を用いて高電圧印加時間の長さTONを最適値に、すなわち電場形成が繰り返されることで冷蔵保存庫300内のターゲットとする対象物が凍結しない長さのうち電磁リレーの接点開閉回数ができるだけ少なくなる時間の長さに、設定され得る。こうして、比較的大型の冷蔵保存庫において、電場を順次形成する接続切替の頻度抑制と非凍結状態の安定化とを共に達成可能となる。
【0034】
3.高圧パネルの例
上述した実施例では種々の形態の高圧パネルPを用いることができる。以下、上記実施例で使用可能な高圧パネルPの一例を説明する。
【0035】
図7を参照すると、上記実施例で使用される高圧パネルPijは長さL、幅W、厚さDの枠部材101のなかに2枚の平面電極部材201a、201b(以下、適宜まとめて「平面電極部材201」と記す。)が固定され、枠部材101の前面を保護シート102で覆った構造を有する。言うまでもなく図7に示す構成は一例であり、長さL1、幅W、厚さDの枠部材を単独で使用しても良いし、図示するように2個を連結させて使用しても良い。一例として、長さLは2m前後、幅Wは1m前後、厚さDは6cm前後であり、長さL1は95~97cmである。たとえば、使用される冷蔵保存庫300が20フィートのコンテナであれば、高圧パネルPijは長さL=2035mm、幅W=940mm、厚さD=60mmであり、この高圧パネルを合計8枚使用することができる。
【0036】
なお、図7の紙面手前が電場形成側(あるいは表側)、紙面奥が冷蔵保存庫の壁面側(あるいは裏側)となる。以下、高圧パネルPijの詳細な構成を説明する。
【0037】
図8において、枠部材101の枠内に2枚の平面電極部材201が固定され、平面電極部材201の表側に断熱樹脂板202が固定され、その上に枠部材101の全面を保護シート102が覆っている。枠部材101は例えば繊維強化プラスチック(FRP)等を用いて成形される。断熱樹脂板202は例えば板状に成形された発泡ポリウレタンからなり、その優れた断熱性により冷蔵保存庫内の低温環境から平面電極部材201を保護する。断熱樹脂板202の厚さt1は所定の断熱効果が得られる程度であればよく、ここでは発泡ポリウレタンを用いて15mm程度である。
【0038】
保護シート102は冷蔵保存庫内の水滴、結露あるいは消毒液を用いた洗浄等から平面電極部材201を保護するために設けられており、たとえばポリカーボネート(PC)からなり厚さt2は約1mmである。平面電極部材201は枠部材101の裏面(壁面)から所定距離dだけ離れた位置に裏面と平行になるように適当な固定手段(タッピングビス等)により固定される。なお所定距離dは45~50mm程度であり、ここではd=46mmである。以下、平面電極部材201について詳述する。
【0039】
図9において、平面電極部材201は長さL2、幅W2の矩形状を有し、高電圧を印加するためのリード線220を有する矩形状の平面電極210と、平面電極210より各辺の長さが長い2枚の矩形状の樹脂板210aおよび210bとからなる。詳しくは、平面電極210を樹脂板210aおよび210bの中心付近に挟んで圧着し、これによってリード線220が露出した状態で平面電極210が樹脂板210aおよび210b内に閉じ込められ、平面電極210の外周から外側の樹脂板外周部211が形成される。なお一例として、長さL2は90~93cm、幅W2は90cm前後である。
【0040】
平面電極210は樹脂板210内に封じ込められることで外部に露出することがなく、平面電極部材201として極めて取り扱いが容易になる。また樹脂で覆われているために外部環境の影響を受けにくくなり、高圧パネルの信頼性を向上させる。
【0041】
樹脂板外周部211には複数の貫通孔212が設けられ、これらの貫通孔212にタッピングビス113を通して平面電極部材201を枠部材101に固定する。平面電極210を樹脂板210aおよび210bに挟んで圧着するだけで、固定するための樹脂板外周部211を同時に形成することができる。この圧着工程で貫通孔212を同時に形成することも可能である。ここでは貫通孔212が樹脂板外周部211の四隅および各辺の中央部に形成されている。なお、平面電極210は軽量で機械的および化学的に丈夫なステンレスメッシュで構成されることが望ましい。本実施形態では平面電極201の厚さは約0.5mmである。また平面電極210を樹脂板210aおよび210bに挟んで圧着して形成された平面電極部剤201の厚さt3はたとえば3mm程度である。樹脂板201aおよび201bにはたとえばABS樹脂を用いることができる。
【0042】
次に図10を参照しながら枠部材101に平面電極部材201および断熱樹脂板202を取り付ける方法の一例を説明する。
【0043】
図10に模式的に示すように、枠部材101の内壁110に囲まれた矩形状の裏側開口部は同じく矩形状の平面電極部材201を収容可能な面積を有する。さらに内壁110には枠部材101の裏面111から距離dだけ離れた位置に平面電極部材201を固定するための内側突出部112が形成されている。内側突出部112は枠部材101の内壁110の全周に設けられ、その矩形の表側開口部には後述するように断熱樹脂板202がはめ込まれる。
【0044】
平面電極部材201は枠部材101の内壁110に沿って裏側から内側突出部112上に載置され、樹脂板外周部211の貫通孔212を通してタッピングビス113により内側突出部112に固定される。これにより平面電極部材201を裏面111から所定距離dだけ離れた位置に確実に固定することが可能になる。平面電極210には高電圧が印加されるので平面電極部材201には脱落しない確実な固定が必要である。ここではタッピングビス113を内側突出部112の樹脂内にねじ込むことで平面電極部材201を簡単、軽量でかつ確実に固定する方法を例示したが、脱落しない確実な固定手段であればよく、たとえば内側突出部112を貫通したボルトナットを用いることもできる。
【0045】
こうして平面電極部材201が枠部材101の内側に固定されると、その上に表側開口部を通して断熱樹脂板202が重ねて配置される。断熱樹脂板202は、たとえば枠部材101の内側突出部112に凹部を形成し、そこにはめ込まれて固定されても良い。最後に断熱樹脂板202の上を含む枠部材101の全面を保護シート102で覆う。
【0046】
上述したように高圧パネル10を構成することで、平面電極部材201が容易かつ確実に枠部材101に取り付け可能となり、さらに断熱樹脂板202および保護シート102により庫内の低温環境や洗浄時の消毒剤の影響から保護される。なお言うまでもなく、枠部材101、保護シート102、断熱樹脂板202、および樹脂板210a、210bは合成樹脂等の絶縁材料で形成される。
【0047】
上述したように、高圧パネルPijは枠部材101内に平面電極部材201および断熱樹脂板202を取り付けた簡単な構造であり、上述したように製造が極めて容易である。また軽量であるから高圧パネルPijを容易に移動させることができる。高圧パネルPijを一壁面に配置するだけで平面電極210を所望の位置に容易に設置することができるので、冷蔵保存庫300内の必要な空間に必要な電場Eを容易に形成することができる。
【0048】
高圧パネルPijを一壁面に配列した冷蔵保存庫300は、食品用の冷蔵保管庫に限らず、食品以外にも動物の血液や臓器あるいは微生物等、鮮度を長期間維持する必要があるものの冷蔵保管庫であれば、どのようなものにも適用することができる。
【0049】
なお既に述べたように、本実施例で使用される高圧パネルPは図7図10の構成に限定されない。平面電極部材201として結露防止手段を設けたアルミニウム製の平板を高圧パネルPとして使用してもよいし、アルミニウム製の板をそのまま高圧パネルとして使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は冷蔵庫、冷蔵コンテナ等の比較的大型の冷蔵保存庫内の電場形成に用いることができる。
【要約】
本発明の課題は、比較的大型の冷蔵保存庫において、電場を順次形成する接続切替の頻度抑制と非凍結状態の安定化とを共に達成できる冷蔵保存庫およびその電極駆動方法を提供することである。
庫内に電場を形成するための平面電極部材を有する冷蔵保存庫は、庫内の一壁面にそれぞれ所定位置に配置された複数の平面電極部材(201)と、各平面電極部材に電場を形成するための高電圧を供給する高圧電源(401)と、高圧電源と複数の平面電極部材とを選択的に接続する複数の高圧接続スイッチ(402)と、前記複数の高圧接続スイッチの各々が閉状態となる持続時間を設定可能であり、前記複数の平面電極部材の少なくとも一部に対応する高圧接続スイッチの開閉を前記設定された持続時間に従って制御する接続制御部(403)と、を備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10