(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】消しゴム用組成物
(51)【国際特許分類】
B43L 19/00 20060101AFI20230120BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20230120BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20230120BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20230120BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230120BHJP
【FI】
B43L19/00 B
C08L53/02
C08L23/08
C08L91/00
C08K3/013
(21)【出願番号】P 2018156197
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000505
【氏名又は名称】アロン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】伊達 憲昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和也
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-050938(JP,A)
【文献】特開2005-089529(JP,A)
【文献】特開2004-244540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 19/00 - 19/04
C08L 53/00 - 53/02
C08L 23/00 - 23/32
C08K 3/00 - 3/40
C08L 91/00 - 91/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系熱可塑性エラストマーAと、該スチレン系熱可塑性エラストマーA 100質量部に対して、酢酸ビニル単位の含有量が
10質量%以下であり、190℃、荷重21.18Nでのメルトマスフローレイトが100g/10min以下であるエチレン-酢酸ビニル共重合体B 5~100質量部と、非芳香族系ゴム用軟化剤C 5~150質量部と、無機充填剤D 30~300質量部とを含有し、A硬度が80以下である、消しゴム用組成物。
【請求項2】
スチレン系熱可塑性エラストマーAの重量平均分子量が200,000以上である、請求項1記載の消しゴム用組成物。
【請求項3】
非芳香族系ゴム用軟化剤Cが、パラフィンオイルとナフテンオイルから選択される少なくとも1種を含有する、請求項1又は2記載の消しゴム用組成物。
【請求項4】
非芳香族系ゴム用軟化剤Cが、40℃での動粘度が異なる少なくとも2種を含有する、請求項1~3いずれか記載の消しゴム用組成物。
【請求項5】
スチレン系熱可塑性エラストマーAが、ジブロック構造のブロック共重合体を1~40質量%含有する、請求項1~
4いずれか記載の消しゴム用組成物。
【請求項6】
請求項1~
5いずれか記載の消しゴム用組成物からなる消しゴム成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消しゴム用組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
消しゴム用の組成物としては、古くから天然ゴムを原料とするものが知られているが、近年は消字性や消しカスのまとまり性等に優れるポリ塩化ビニルを原料とするものが、プラスチック消しゴムと呼ばれて主流になっている。しかしながら、プラスチック消しゴムには可塑剤が含まれるため、消しゴムが接触したプラスチック製品に可塑剤が移行し、接触したプラスチック製品を侵してしまうという本質的な欠点を有する。そのため、塩化ビニル以外の熱可塑性エラストマーを原料とするものが種々検討されている。
【0003】
特許文献1には、エチレン-酢酸ビニル共重合体と、ポリオレフィン系エラストマーと充填剤と可塑剤とより少なくともなる消しゴムが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、少なくともA-B-Aのトリブロック構造を有するスチレン系ブロック共重合体と、シングルサイト触媒にて重合されたポリエチレン又はそれを主体とする共重合体と、非芳香族系ゴム用軟化剤と、無機充填剤とを含む字消し用熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-334289号公報
【文献】特開平11-349735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、エチレン-酢酸ビニル共重合体については「硬い割りには消字性も悪くない」という記載のみで、酢酸ビニル単位含有量によって多様な特性を選択できるエチレン-酢酸ビニル共重合体のうち、どのようなものを用いたときに、消しゴムとしてどのような効果が生じるのかについては知られていない。
【0007】
特許文献2では、比較例としてエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いた場合には、成形性や消しカスのまとまり性が劣ることが指摘されている。比較例で用いられた三井デュポン・ポリケミカル(株)製のエチレン-酢酸ビニル共重合体 エバフレックス EV-40X、及びEV-260の酢酸ビニル単位含有量は、EV-40Xが41質量%、EV-260が28質量%と、いずれも酢酸ビニル単位含有量の高いものであり、酢酸ビニル単位含有量が20質量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いた場合に、異質な効果が生じることは知られていない。
【0008】
一方で、従来の消しゴムの形状が基本的に直方体であって、成形方法に大きな制約がなかったのに対して、近年では角の多い複雑な形状や、スーパーカー消しゴム等の意匠性のある消しゴムが流行するようになり、消しゴム用組成物の成形性への要求が高度になってきている。成形性を高めるための最も簡易な方法は、ゴム用軟化剤を多量に添加して組成物の溶融流動性を上げることであるが、オイルブリードの問題が起きやすく、また消しゴムとしての字消し性能の低下も避けられないことから、意匠性の高い消しゴムは字消し性能が満足できるものではないというのが風評となっており、成形性と字消し性能を同時に満足する消しゴム用組成物が求められる。
【0009】
本発明の課題は、字消し性能と成形性とを高いレベルで両立することができる消しゴム用組成物及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
〔1〕 スチレン系熱可塑性エラストマーAと、該スチレン系熱可塑性エラストマーA 100質量部に対して、酢酸ビニル単位の含有量が20質量%以下であり、190℃、荷重21.18Nでのメルトマスフローレイトが100g/10min以下であるエチレン-酢酸ビニル共重合体B 5~100質量部と、非芳香族系ゴム用軟化剤C 5~150質量部とを含有する、消しゴム用組成物、並びに
〔2〕 前記〔1〕記載の消しゴム用組成物からなる消しゴム成形体
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の消しゴム用組成物は、成形性に優れるうえに、字消し性能にも優れるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の消しゴム用組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマーAと、エチレン-酢酸ビニル共重合体Bと、非芳香族系ゴム用軟化剤Cとを含有するものであるが、エチレン-酢酸ビニル共重合体Bが、酢酸ビニル単位の含有量(以下、酢酸ビニル含有量という)が20質量%以下と少ないものである点に1つの特徴を有する。
【0013】
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、EVA樹脂として知られるもので、エチレン単量体単位と酢酸ビニル単量体単位とからなる共重合体であり、酢酸ビニル含有量に応じて特性が大きく異なるものである。酢酸ビニル単位の含有量の多いものは結晶性の表れやすいエチレン単量体単位が少ないために柔軟性に優れる傾向があることから、消しゴム用組成物にエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いる試みでは、酢酸ビニル含有量の多いエチレン-酢酸ビニル共重合体が用いられるのが普通であり、あえて酢酸ビニル含有量の少ないエチレン-酢酸ビニル共重合体が用いられることはなかった。しかしながら、酢酸ビニル含有量の多いエチレン-酢酸ビニル共重合体はプロセスオイル(ゴム用軟化剤)との親和性に劣るという側面もあり、本発明の組成物のように、高い成形性を得るためにプロセスオイルを必須とする組成物では、オイルブリードが起きやすくなるという問題がある。
【0014】
また、エチレン-酢酸ビニル共重合体として、酢酸ビニル含有量は同じでも、分子量を低くすることによって樹脂の溶融流動性を高くしたものも知られているが、樹脂単体での溶融流動性は高くても、スチレン系熱可塑性エラストマーAとの相溶性がよくないために、成形時に成分の分離流動がおきて金型表面付近にエチレン-酢酸ビニル共重合体成分リッチのスキン層ができてしまうという問題が起きる。このスキン層は、成形体の表面上に部分的なグロスとなって現れ、部分的に消字性が悪くなるだけでなく、意匠性のある成形体では意図しない部分にグロスが現れるために商品価値を落とすことになる。
【0015】
そこで、本発明者らが検討した結果、消しゴム用組成物に用いるエチレン-酢酸ビニル共重合体の選択に際しては、酢酸ビニル含有量と溶融流動性の二つの視点が相乗的に影響を与えることを見出し、エチレン-酢酸ビニル共重合体が、酢酸ビニル含有量が20質量%以下で、かつ190℃におけるメルトマスフローレイトが100g/10min以下の両方の条件を満たすものである場合に、スキン層によるグロスやオイルブリードを抑制することができ、さらに、字消し性能も良好であることを見出した。
【0016】
エチレン-酢酸ビニル共重合体Bにおける酢酸ビニル含有量は、柔軟性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、また、溶融流動性及びスチレン系熱可塑性エラストマーA及び非芳香族系ゴム用軟化剤Cとの親和性の観点から、20質量%以下であり、好ましくは18質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
【0017】
また、エチレン-酢酸ビニル共重合体Bの190℃、荷重21.18Nでのメルトマスフローレイトは、成形性(金型充填性)の観点から、好ましくは1g/10min以上、より好ましくは3g/10min以上であり、さらに好ましくは5g/10min以上であり、また、成形性(オイルブリード及びスキン層の防止)の観点から、100g/10min以下であり、好ましくは80g/10min以下、より好ましくは50g/10min以下、さらに好ましくは30g/10min以下である。メルトマスフローレイト(MFR)は、分子量とも関係しており、MFRが大きいほど、分子量が大きく、MFRが小さいほど、分子量が小さい傾向がある。
【0018】
エチレン-酢酸ビニル共重合体Bの含有量は、スチレン系熱可塑性エラストマーA 100質量部に対して、溶融流動性及び摩消性の観点から、5質量部以上であり、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、また、柔軟性及びオイルブリード抑制の観点から、100質量部以下であり、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。
【0019】
本発明の組成物中のエチレン-酢酸ビニル共重合体Bの含有量は、好ましくは3~45質量%、より好ましくは4~40質量%、さらに好ましくは5~35質量%である。
【0020】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン-酢酸ビニル共重合体Bに加えて、酢酸ビニル含有量が20質量%を超える及び/又はメルトマスフローレイトが100g/10minを超えるエチレン-酢酸ビニル共重合体を含有していてもよい。特に、酢酸ビニル含有量が20質量%を超えるエチレン-酢酸ビニル共重合体は、消字性の向上に有効であるが、エチレン-酢酸ビニル共重合体B以外のエチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量は、質量比で、エチレン-酢酸ビニル共重合体Bの2/3以下が好ましく、1/3以下がより好ましい。
【0021】
スチレン系熱可塑性エラストマーAは、柔軟性と成形性の観点から、硬い部分(ハードセグメント)と柔らかい部分(ソフトセグメント)とから構成されていることが好ましく、ハードセグメントとしてスチレン系単量体からなる重合体のブロック単位(s1)と、ソフトセグメントとして共役ジエン化合物からなる重合体のブロック単位(b1)とを有するブロック共重合体(Z1)であることがより好ましい。
【0022】
ブロック単位(s1)を構成するスチレン系単量体としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。
【0023】
ブロック共重合体(Z1)におけるスチレン系単量体単位の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体Bとの相溶性を保ちつつ柔軟性を向上させる観点から、好ましくは20~60質量%、より好ましくは25~50質量%である。
【0024】
ブロック単位(b1)を構成する共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。
【0025】
ブロック共重合体(Z1)は、少なくともその一部を水素添加したものであってもよく、水素添加によって不飽和結合が減少し、耐熱性及び機械的特性が向上するが、消しゴム用途では消しカスのまとまり性の観点から、水素添加率はむしろ低い方が好ましく、50%以下が好ましく、より好ましくは水素添加しないものである。本発明において、水素添加率は、ブロック共重合体中の共役ジエン化合物に由来する炭素-炭素二重結合の含有量を、水素添加の前後において、1H-NMRスペクトルによって測定し、該測定値から求めることができる。
【0026】
本発明において、スチレン系熱可塑性エラストマーAは、中折れ防止性の観点から、〔ブロック単位(s1)-ブロック単位(b1)-ブロック単位(s1)〕型のトリブロック共重合体または、〔ブロック単位(s1)-ブロック単位(b1)〕n(n=2以上の整数)のマルチブロック共重合体等が好ましいが、消字性と消しカスのまとまり性の観点から、〔ブロック単位(s1)-ブロック単位(b1)〕型のジブロック共重合体を含むことがより好ましい。
【0027】
ジブロック共重合体の重量平均分子量は、消字性と消しカスのまとまり性の観点から、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下である。また、べたつき感の観点から、好ましくは30,000以上、より好ましくは50,000以上である。
【0028】
スチレン系熱可塑性エラストマーA中のジブロック共重合体の含有量は、消字性と消しカスのまとまり性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、また、耐熱性とべたつき感の観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。スチレン系熱可塑性エラストマーA中のジブロック共重合体の含有量は、例えば製造方法からも推定することができる。ジブロック体しか生成しない製法でジブロック体を得て、混合する場合にはその混合量により、また、ブロック共重合体の多くが、ソフトセグメントを単独重合したものに、順次接続するハードセグメントを重合させる方法で製造されるが、その際には中間生成物の構造分析と、得られたものの分子量測定とからソフトセグメント、ジブロック体、トリブロック体等の量比を推算することができる。
【0029】
スチレン系熱可塑性エラストマーAの重量平均分子量は、耐オイルブリード性の観点から、好ましくは50,000以上、より好ましくは100,000以上、さらに好ましくは200,000以上であり、また、成形性の観点から、好ましくは600,000以下、より好ましくは500,000以下である。複数のブロック共重合体からなる場合は、各ブロック共重合体の重量平均分子量の加重平均値が上記範囲内に入ることが好ましい。
【0030】
スチレン系熱可塑性エラストマーAの190℃、荷重5kgでのメルトマスフローレイトは、消字性の観点から、好ましくは40g/10min以下、より好ましくは30g/10min以下、さらに好ましくは20g/10min以下である。
【0031】
本発明の組成物中のスチレン系熱可塑性エラストマーAの含有量は、好ましくは10~70質量%、より好ましくは15~60質量%、さらに好ましくは20~50質量%である。
【0032】
非芳香族ゴム用軟化剤Cとしては、パラフィンオイル、ナフテンオイル、流動パラフィン等が挙げられるが、これらのなかでは、スチレン系熱可塑性エラストマーAとの親和性が良好で、ブリードが起きにくいという観点から、パラフィンオイル及びナフテンオイルが好ましく、パラフィンオイルがより好ましい。
【0033】
非芳香族ゴム用軟化剤Cの40℃での動粘度は、加熱溶融時の揮発を防ぎ、耐ブリード性を向上する観点から、好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは20mm2/s以上であり、また、取扱いが容易であることから、好ましくは500mm2/s以下、より好ましくは300mm2/s以下、より好ましくは150mm2/s以下である。
【0034】
非芳香族ゴム用軟化剤Cは、柔軟性とべたつき防止の観点から、40℃での動粘度が異なる少なくとも2種を含むことが好ましい。これらの組み合わせは、パラフィンオイル同志又はナフテンオイル同志であっても、パラフィンオイルとナフテンオイルの併用であってもよい。40℃での動粘度の差は、好ましくは10mm2/s以上であり、より好ましくは20~400mm2/s、さらに好ましくは40~150mm2/sである。
【0035】
動粘度の異なる2種の非芳香族ゴム用軟化剤を併用する場合の質量比(動粘度が低い方の軟化剤/動粘度が高い方の軟化剤)は、好ましくは10/90~90/10、より好ましくは20/80~80/20、さらに好ましくは30/70~70/30である。
【0036】
非芳香族ゴム用軟化剤Cの含有量は、スチレン系熱可塑性エラストマーA 100質量部に対して、組成物の柔軟性を高め、各種配合成分の分散性を向上する観点から、5質量部以上であり、好ましくは20質量部以上であり、また、オイルブリードにより生じるベタツキの抑制観点から、150質量部以下であり、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。
【0037】
本発明の組成物中の非芳香族ゴム用軟化剤Cの含有量は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~45質量%、さらに好ましくは15~40質量%である。
【0038】
本発明の組成物は、消字性の観点から、さらに、充填剤Dを含有することが好ましい。
【0039】
充填剤Dとしては、無機充填剤が好ましく、具体例としては、炭酸カルシウム、シリカ、ケイ石、クレイ、タルク、アルミナ、ジルコニア、ガラス等が挙げられ、これらの中では、炭酸カルシウム、タルク、及び合成シリカが好ましく、炭酸カルシウムがより好ましい。炭酸カルシウムとしては、化学合成で製造される軽質炭酸カルシウムや、天然の鉱石を粉砕分級して製造する重質炭酸カルシウム、貝殻等を原料とする天然物由来のもの等が知られているが、本発明において特に好ましいのは重質天然カルシウムであり、各種粒径のものが市販されている。
【0040】
充填剤Dの粒度分布は、遠心沈降式の粒度分布測定器による測定することができ、体積基準のメジアン径(D50)を代表値として用いることができる。充填剤Dのメジアン径は、消字性と消しカスのまとまり性の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下であり、また、分散性の観点から、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは1μm以上である。
【0041】
充填剤Dの含有量は、スチレン系熱可塑性エラストマーA 100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上であり、また、好ましくは300質量部以下、より好ましくは250質量部以下、さらに好ましくは200質量部以下である。
【0042】
本発明の組成物中の充填剤Dの含有量は、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~65質量%、さらに好ましくは30~60質量%である。
【0043】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを含有していてもよい。
【0044】
また、本発明の消しゴム用組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック、有機顔料、無機顔料、染料、無機充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、香料等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0045】
本発明の消しゴム用組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマーA、エチレン-酢酸ビニル共重合体B、及び非芳香族系ゴム用軟化剤Cと、必要に応じて、充填剤D、その他添加剤等を含む原料を混合し、冷却により固化させて得られる。
【0046】
本発明でいう「混合」とは、各種成分が良好に混合される方法であれば特に限定されず、各種成分を溶解可能な有機溶媒中に溶解させて混合してもよいし、溶融混練によって混合してもよいが、原料の混合は、原料が溶融する条件下で行うことが好ましい。
【0047】
溶融混練する場合には、一般的な押出機を用いることができ、混練状態の向上のため、二軸の押出機を使用することが好ましい。押出機への供給は、予めヘンシェルミキサー等の混合装置を用いて各種成分を混合したものを一つのホッパーから供してもよいし、二つのホッパーにそれぞれの成分を仕込みホッパー下のスクリュー等で定量しながら供してもよい。
【0048】
消しゴム用組成物を構成する原料を混合して得られる生成物は、用途に応じて、ペレット、シート等の形状とすることができる。例えば、押出機によって溶融混練してストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって円柱状や米粒状等のペレットに切断される。得られたペレットは、通常、射出成形、押出成形によって所定のシート状成形品や成形品とする。また、溶融混練物をルーダー等でペレットにし成形加工原料とすることもできる。
【0049】
本発明の消しゴム用組成物のA硬度は、柔軟性の観点から、好ましくは90以下、より好ましくは80以下、さらに好ましくは70以下であり、また、ベタツキ抑制や実用性の観点から、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、さらに好ましくは50以上である。
【0050】
本発明の組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより、様々な形状の消しゴムに成形することができる。本発明の組成物を用いた消しゴムの製造に用いられる装置は、成形材料を溶融できる任意の成形機を用いることができる。例えば、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した原料の各種物性は、以下の方法により測定した。
【0052】
<成分A(スチレン系熱可塑性エラストマーA)>
〔スチレン系単量体単位の含有量〕
核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX-400)によって、プロトンNMR測定を行い、スチレンの特性基の定量を行うことによってスチレン及び/又はスチレン誘導体の含有量を決定する。他の単量体単位の含有量もプロトンNMR測定により求めることができる。
【0053】
〔重量平均分子量(Mw)〕
以下の測定条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0054】
測定装置
・ポンプ:JASCO(日本分光(株))製、PU-980
・カラムオーブン:昭和電工(株)製、AO-50
・検出器:日立製、RI(示差屈折計)検出器 L-3300
・カラム種類:昭和電工(株)製「K-805L(8.0×300mm)」及び「K-804L(8.0×300mm)」各1本を直列使用
・カラム温度:40℃
・ガードカラム:K-G(4.6×10mm)
・溶離液:クロロホルム
・溶離液流量:1.0ml/min
・試料濃度:約1mg/ml
・試料溶液ろ過:ポリテトラフルオロエチレン製0.45μm孔径ディスポーザブルフィルタ
・検量線用標準試料:昭和電工(株)製ポリスチレン
【0055】
〔メルトマスフローレイト(MFR)〕
ASTM D1238に準拠して、190℃、荷重5kgにおける値をg/10minの単位で表示する。
【0056】
<成分B(エチレン-酢酸ビニル共重合体)>
〔酢酸ビニル含有量及びメルトマスフローレイト(MFR)〕
JIS K6924-2 1997の「プラスチック-エチレン/酢酸ビニル(E/VAC) 成形用及び押出用材料-第2部:試験片の作り方及び諸性質の求め方」の附属書「エチレン・酢酸ビニル樹脂試験方法」に記載の方法に準拠して、測定する。メルトマスフローレイトは条件Dで規定される、試験温度190℃、荷重21.18Nにおける値をg/10minの単位で表示する。
【0057】
<成分C(非芳香族系ゴム用軟化剤)>
〔動粘度〕
JIS Z 8803に従って、40℃の温度で測定する。
【0058】
<成分D(充填剤)>
〔メジアン径(D50)〕
遠心沈降式粒度分布計((株)島津製作所製の「SA-CP3」により、体積基準のメジアン径を測定する。
【0059】
実施例1~10及び比較例1~6(実施例3は参考例である)
(1) 消しゴム用組成物(ペレット)の作製
表5、6に示す材料をドライブレンドした。その後、混合物を下記の条件で、押出機(連続式混練機)で溶融混練して、ストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって、直径3mm程度、厚さ3mm程度に切断し、ペレットを製造した。
【0060】
〔溶融混練条件〕
押出機:KZW32TW-60MG-NH((株)テクノベル製)
シリンダー温度:180~260℃
スクリュー回転数:200~650r/min
【0061】
実施例及び比較例で使用した表5、6に記載の原料の詳細は以下の通り。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
(2) 消しゴム成形体の作製
ペレットを、下記の条件で射出成形し、厚さ6mm×幅25mm×長さ125mmのシートを作製した。
【0067】
〔射出成形条件〕
射出成形機:100MSIII-10E(商品名、三菱重工業(株)製)
射出成形温度:160℃
射出圧力:30%
射出時間:3sec
金型温度:40℃
【0068】
得られたシートを用い、物性の測定及び成形性と字消し性能の評価を行った。結果を表5、6に示す。なお、MFRは、実施例1、2、比較例1、3のみ測定した。
【0069】
〔A硬度〕
シートを恒温恒湿室(温度23℃、相対湿度50%)に24時間以上静置し、シートの状態を安定させた。JIS K7215「プラスチックのデュロメータ硬さ試験法」に準じて、A硬度を測定した。
【0070】
〔スパイラルフロー〕
巾幅5mm、厚み3mm、最大流動長1200mmのスパイラル形状金型に、140℃、射出圧力70MPa、速度10mm/sで組成物を射出成型し、最大流動長(mm)を測定した。
【0071】
〔摩耗損失量〕
テーバー摩耗試験で、摩耗損失量を測定した。具体的には、シートを用い、JIS K 7204に準拠し、23℃、摩耗輪;H-22、回転速度;72r/min、回転回数;1,000回、荷重;1000gで摩耗損失量(mg)を測定した。摩耗損失量が多いほど摩消性に優れることを示す。
【0072】
〔MFR〕
ASTM D1238に準拠した方法により、140℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0073】
〔成形性〕
(1) グロス
グロスチェッカ((株)堀場製作所製、IG-410)を用いて、シートの表面のグロスを測定した。
【0074】
(2) ベタツキ
シートの表面を指触して、明らかなベタツキの有無を判断し、以下の評価基準に従って評価した。
<評価基準>
◎:表面はサラサラで、ベタツキは一切感じない。
○:指に追従してこないが、若干のベタツキを感じる。
×:指触した際に指に追従してくるレベル。
【0075】
(3) オイルブリード
シートを画用紙の上に置き、70℃で24時間放置した後、白色画用紙に油分のにじみがあるか否かを目視にて確認し、以下の評価基準に従って、評価した。
<評価基準>
◎:シミが全く認められない。
○:一見シミは認められないが、未使用の画用紙を当てて比較するとかろうじてシミがあることが判別できる。
×:明らかにシミが認められる。
【0076】
〔字消し性能〕
(1) 消字性
消しゴム試料を厚さ5mmの板状に切り、試験紙との接触部分を半径6mmの円弧に仕上げたものを試験片として用い、JIS-S6050に準拠した下記の方法により、消字性を評価した。
試験片を着色紙に対して垂直に、しかも着色線に対して直角になるように接触させ、試験片におもりとホルダの質量の和が0.5kgとなるようにおもりを載せ、150±10cm/minの速さで着色部を4往復摩消させた。摩消後の着色部を目視により観察し、以下の評価基準に従って、消字性を評価した。
<評価基準>
◎:完全に着色が消えていて非着色部との見分けがつかない。
○:一見して着色が認められないが、着色していない白紙の試験紙を試験片にあてて並べてみるとかろうじて見分けがつく。
△:かろうじて着色が残っていることが判別できる。
×:明らかに着色が残っている。
【0077】
(2) 消しカスのまとまり
JIS S60504.4に準拠した方法により、シートを切断して試験片を作製し、消去荷重500gfで10往復させて、下記式から、消しカスのまとまり率(%)を算出した。なお、1配合につき4回ずつ消しカスの重量を測定し、それらの平均値をとった。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
以上の結果より、比較例1~6と対比して、実施例1~10の消しゴム成形体は、成形性及び字消し性能がいずれも良好であることが分かる。
さらに、実施例1、2と比較例1、3の対比を表7に示す。
【0082】
【0083】
実施例1と2の結果から、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量が小さい場合、MFRが小さくても(高分子量)、スパイラルフローが大きく、高分子量のため適度な摩消性を維持することができることが分かる。
また、比較例1では、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量が小さくても、MFRが高すぎる(低分子量)のものは、組成物のMFRも大きくなるが、スパイラルフローはそれほど大きくならず、エチレン-酢酸ビニル共重合体成分リッチのスキン層が生成し、組成物金型接触面に貼りついて流れなくなり、貼りついた部分が成形体表面のグロスとなっている。さらに、低分子量のためオイル保持もできず、ベタツキが生じている。
一方、比較例3のように、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量が多く、MFR小さい(高分子量)と、組成物のスパイラルフローも小さい。また、酢酸ビニル含有量が多いためにオイルを保持できずベタツキが生じている。
このように、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量の大小によって、組成物のスパイラルフローへの影響が異なる傾向を示すという予想外の結果となっている。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の消しゴム用組成物は、成形体として消しゴムに用いられる他、その成形性を活かして美術品、文具、雑貨等にも好適に用いられる。