(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】PGMの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/02 20060101AFI20230120BHJP
C22B 5/10 20060101ALI20230120BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20230120BHJP
【FI】
C22B11/02 ZAB
C22B5/10
B09B3/40
(21)【出願番号】P 2018209761
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】菅原 圭一
(72)【発明者】
【氏名】八ッ橋 広光
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-317423(JP,A)
【文献】特開昭55-077995(JP,A)
【文献】特開2004-275866(JP,A)
【文献】特開2012-167306(JP,A)
【文献】特開2017-197786(JP,A)
【文献】特開平06-281365(JP,A)
【文献】特開2018-003063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PGMを含有する被処理物と、Cuおよび/またはCu
2Oと、フラックスと、C(炭素)含有材料とを電気炉に入れて加熱し、これら
を溶融して溶融スラグ層と電気炉メタル層とを形成した後に
電気炉メタル抽出時の1~3時間前に、前記電気炉の加熱を停止し、
前記溶融スラグを抽出し、PGMを含有する電気炉メタルを抽出して得る還元溶錬工程と、
前記電気炉メタルを酸化炉に移して酸化溶融し、Cu
2Oスラグ層とPGM合金層とを形成した後に、Cu
2Oスラグを抽出し、PGMが濃縮されたPGM合金を得る酸化溶錬工程と、を行うPGMの回収方法であって、
前記還元溶錬工程における溶融スラグ抽出時に、前記電気炉の炉頂温度を900℃以上1200℃以下に制御することを特徴とするPGMの回収方法。
【請求項2】
前記還元溶錬工程において、前記PGMを含有する被処理物量に対して、質量換算で0.3倍以上1.0倍以下の前記Cuおよび/またはCu
2Oを投入することを特徴とする
請求項1に記載のPGMの回収方法。
【請求項3】
前記Cu
2Oとして、前記Cu
2Oスラグを用いることを特徴とする
請求項1または2に記載のPGMの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族元素(本発明において「PGM」と記載する場合がある。)を含有する各種の部材、例えば、使用済みの自動車排ガス浄化用触媒、使用済みの電子基板やリードフレーム、使用済みの石油化学系触媒等を被処理物とし、当該PGMを含有する被処理物からのPGMの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、使用済みの自動車排ガス浄化用触媒のように、PGMを含有する各種の部材を被処理物とし、当該PGMを含有する被処理物からPGMを回収する方法が提案されている。例えば、本発明出願人は、PGMを含有する被処理物を銅源材料と共に加熱溶融し、生成した溶融メタル中にPGMを吸収させる、効率の良いPGMの乾式回収法を開示している(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に係るPGMの乾式回収法においては、PGMを含有する被処理物と、酸化銅を含有する銅源材料とを、フラックス成分および還元剤と共に密閉型の電気炉に装填して溶融する。そして、生成した酸化物主体の溶融スラグ層の下方に沈降した溶融メタル中に、PGMを濃縮させてこれを回収する(本発明において「還元溶錬」と記載する場合がある)。一方、銅含有量が低下した前記溶融スラグを前記電気炉から排出し、また前記銅源材料として一定粒径を有する粒状銅源材料を用いる、という構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上述の成果に満足することなく、PGMを含有する被処理物からのさらに高効率なPGM回収方法について研究を行なった。
即ち、本発明が解決しようとする課題は、PGMを含有する被処理物からの高効率なPGM回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決する為、本発明者らは、PGMを含有する被処理物からのPGM回収方法について、還元溶錬工程を初めとする各工程を詳細に検討した。そして、当該検討の結果、従来の技術に係る還元溶錬工程においては、電気炉内に溶けきらない被処理物が残留する場合があることを知見した。そして、炉内に溶けきらない被処理物が残留する場合、PGMが溶融スラグ側へ移動してしまい、PGMの回収率が低下することを知見した。
【0007】
本発明者らは、従来技術において炉内に溶けきらない被処理物が残留する原因を研究した結果、電気炉内の温度設定において課題があることに想到した。
従来、還元溶錬工程における電気炉内の温度設定は、エネルギーコストの上昇や電気炉壁の劣化を抑制する観点から、電気炉内が過剰に高温になることを避けるように設定されていた。また、従来技術における電気炉内の温度測定は、熱電対や赤外線高温計を電気炉壁外部に設置し、間接的に炉内温度を測定することがあった。
本発明者らの検討によれば、当該電気炉壁外部からの間接的温度測定では、上述した電気炉内の温度を参照・制御しながらの還元溶錬工程を実施するには、測定精度に不足があると考えられた。
【0008】
即ち、PGMの回収率を向上させるには、還元溶錬工程における電気炉内温度を上昇させて、被処理物の十分な溶融を実現すればよいと考えられた。しかし、炉内温度を、単純に上昇させることは、エネルギーコストの上昇や、電気炉内部の炉壁の劣化促進につながるものである。
【0009】
ここで本発明者らはさらに研究を行い、電気炉の炉頂温度を測定し、当該測定された電気炉の炉頂温度によって、電気炉の温度制御を行いながら還元溶錬工程を行う構成に想到した。そして、当該構成を用いながら、電気炉の炉頂温度と、炉内の溶融物の溶け残り解消や炉壁の劣化抑制との関係を研究した。その結果、本発明者らは、エネルギーコストの上昇や炉壁の劣化を抑制しながら、炉内の溶融物の溶け残りが解消できることに想到した。
【0010】
具体的には、電気炉の炉頂温度を、温度低下により被処理物の溶け残りが増加し始める温度より20℃以上高めに制御しながら還元溶錬工程を行うことにより、炉内の溶融物の溶け残りが解消できることを知見した。さらに具体的には、PGMを含有する被処理物と、Cuおよび/またはCu2Oと、フラックスと、C(炭素)含有材料とを電気炉に入れて還元溶錬し、これら全てを溶融して溶融スラグ層と電気炉メタル層とを形成した後の溶融スラグ層抽出時に、前記電気炉の炉頂温度を900℃以上1200℃以下に制御することで、炉内の溶融物の溶け残り解消と、炉壁の劣化抑制とを実現できることを知見し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
PGMを含有する被処理物と、Cuおよび/またはCu2Oと、フラックスと、C(炭素)含有材料とを電気炉に入れて加熱し、これらを溶融して溶融スラグ層と電気炉メタル層とを形成した後に前記溶融スラグを抽出し、PGMを含有する電気炉メタルを抽出して得る還元溶錬工程と、
前記電気炉メタルを酸化炉に移して酸化溶融し、Cu2Oスラグ層とPGM合金層とを形成した後に、Cu2Oスラグを抽出し、PGMが濃縮されたPGM合金を得る酸化溶錬工程と、を行うPGMの回収方法であって、
前記還元溶錬工程における溶融スラグ抽出時に、前記電気炉の炉頂温度を900℃以上1200℃以下に制御することを特徴とするPGMの回収方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気炉の炉頂温度を制御することにより、PGMを含有する被処理物から高効率にPGM合金を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るPGMの回収方法の工程フロー図である。
【
図2】実施例および比較例に係る炉頂の温度推移のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るPGMの回収方法について図面を参照しながら、[1]還元溶錬、[2]酸化溶錬、[3]従来の技術に係る還元溶錬の課題、[4]本発明に係る還元溶錬、[5]本発明に係る酸化溶錬、および[6]本発明に係るPGM回収方法例、の順に説明する。
図1は、本発明に係るPGMの回収方法例の工程フロー図である。
【0015】
[1]還元溶錬
図1に示すように、PGMを含有する被処理物(2)である、例えばセラミックス製自動車触媒の粉砕物と、抽出剤(3)であるCuおよび/またはCu
2Oと、フラックス(1)であるCaOおよび/またはSiO
2と、そして還元剤(4)であるC(炭素)含有材料とを、電気炉(5)内に装填する。そして電気炉(5)内の電極に通電し、前記装填物を加熱し溶融させる。
【0016】
すると、電気炉(5)内において、酸化物(CaO-SiO2-Al2O3)を主体とする溶融スラグ(7)層の下方に、Cu合金である電気炉メタル(6)が沈降する。このとき、当該下方に沈降した電気炉メタル(6)中にはPGMが濃縮している。この後、Cu含有量が3.0質量%以下にまで低下した溶融スラグ(7)を、当該電気炉(5)から抽出し排出する。
【0017】
即ち、本発明において「電気炉メタル(6)」とは、被処理物(2)の粉砕物と還元剤(4)とフラックス(1)と抽出剤(3)とを、電気炉(5)で溶融した後に、生成した溶融スラグ(7)を抽出し排出して得られる、PGMを含有する銅合金主体の溶湯を示す。
【0018】
以上説明した、被処理物(2)の粉砕物他の電気炉(5)装填物を溶融した後、溶融スラグ(7)を抽出分離して排出し、電気炉メタル(6)を得るまでの工程が「還元溶錬」であり、鉄鋼製錬において高炉で酸化鉄の鉱石を還元して銑鉄を得るのと類似の手法である。
【0019】
[2]酸化溶錬
還元溶錬にて得られたPGMが濃縮した電気炉メタル(6)を電気炉(5)から抽出し、溶融状態のまま酸化炉(9)に移し替え、さらに、空気および/または酸素を吹き込んで酸化する。すると電気炉メタル(6)は、酸化物主体のCu2Oスラグ(11)層と、PGMがさらに濃縮したPGM合金(10)層とに層分離する。
【0020】
即ち、本発明において「PGM合金(10)」とは、酸化炉にて、電気炉メタル(6)へ空気および/または酸素を吹き込んで酸化した後に、生成したCu2Oスラグを抜き出して得られる、銅とPGMとを主成分として含む合金物質を示す。
【0021】
このPGM合金(10)層の湯面上に生成したCu2Oスラグ(11)層を酸化炉(9)外に排出した後、再び、空気および/または酸素を吹き込んで、酸化物主体のCu2Oスラグ(11)層と、PGMがさらに濃縮したPGM合金(10)層とに層分離させる。そして、PGM合金(10)層の湯面上に生成したCu2Oスラグ(11)層を、再び酸化炉(9)外に排出する。
【0022】
そして、以上説明した酸化炉(9)における酸化処理と、Cu2Oスラグ(11)層の排出処理とを繰り返すことにより、PGM合金(10)層中におけるPGM含有量をさらに濃縮させる。
【0023】
以上説明した、酸化炉(9)内において、濃縮されたPGMを含有するPGM合金(10)を得るまでの工程が「酸化溶錬工程」であり、鉄鋼製錬において銑鉄中の炭素,ケイ素,リンなどの不純物を酸化して除去するのと類似の工程である。
【0024】
[3]従来の技術に係る還元溶錬の課題
従来の技術に係る還元溶錬工程においては、電気炉内の電気炉メタル(6)層と溶融スラグ(7)層との状態を目視しながら、電気炉(5)における電極の電力調整を行うことで、温度制御をしていた。すると、被処理物(2)の溶け残りが発生する場合があることが知見された。そして本発明者らは、当該溶け残りが発生するとPGMが溶融スラグ(7)層へ移動してしまい、PGMの回収率が低下することを知見した。
【0025】
上述の知見と、エネルギーコストの上昇や電気炉(5)の炉壁の劣化を抑制する観点とから、本発明者らは電気炉(5)の炉内温度の把握とその制御の重要性に想到した。
しかしながら、電気炉(5)内には、被処理物(2)、溶融スラグ(7)層、および、電気炉メタル(6)層等が存在し、かつ高温であることから、炉内温度の直接的で正確な測温は困難であった。
そこで、電気炉(5)の外壁側より測温が行われていたが、当該炉壁は、当該炉壁の劣化を抑制する観点から冷却手段を備えており、炉内温度の正確な測温は困難であった。
【0026】
[4]本発明に係る還元溶錬
ここで、本発明者らは研究の結果、電気炉(5)の炉頂温度を測温することにより、間接的ながら炉内温度の把握が可能になることに想到した。
尚、本発明に係る「炉頂」とは、電気炉(5)の炉頂部上面にある、被処理物(2)等の投入用の蓋部分のことである。
そして炉頂温度の測温は、蓋部の形状を円型としたとき、当該円の中心部を中心とする円周上の1点と、当該点と反対側の円周上1点の2ヵ所に温度計を設けたり、当該円周上に等間隔にて、複数の温度計を設ければよいことも判明した。
炉頂に設置する当該温度計としては、熱電対や赤外線センサー等が使用できる。
【0027】
本発明者らは、還元溶錬工程において測定された炉頂温度を参照し、電気炉(5)における電極の電力調整を行うことによる電気炉(5)の最適な温度制御について検討した。その結果、炉頂温度を、温度低下により被処理物の溶け残りが増加し始める温度より20℃以上高めに制御することで、被処理物(2)の溶け残りの発生を解消できることに想到した。
【0028】
そして、温度以外は同一の条件で行う前記還元溶錬工程において、溶融スラグ(7)抽出のタイミングの炉頂温度を制御することを実施した。その結果、温度低下により被処理物の溶け残りが多くなり始める炉頂温度より120~420℃高い温度、さらに好ましくは150~400℃高い温度、一層好ましくは180~350℃高い温度に炉頂温度を設定することにより、PGMの溶融スラグ(7)層への移動を低減できることに想到した。
【0029】
さらに具体的には、電気炉(5)の炉頂温度を、溶融スラグ(7)の抽出、排出時に900℃以上1200℃以下に調整すればよいことに想到した。
これは、炉頂温度を900℃以上に調整することで被処理物の溶け残りを解消し、スラグ側へ移行するPGM量を抑制し、さらに炉頂温度を1200℃以下に調整することで、電気炉(5)の炉壁の劣化を抑制することになるからである。
【0030】
これに対し、従来の技術に係る還元溶錬を、電気炉(5)の炉頂温度の測定結果から評価してみると、炉頂温度は780~880℃である場合が多く、この温度設定が被処理物の溶け残りの原因であると考えられた。
【0031】
また、電気炉(5)の炉頂温度の測定から、当該還元溶錬工程において電気炉メタル(6)抽出時の1~3時間前に、電気炉(5)の加熱を停止することが好ましいことにも想到した。
当該時点での電気炉(5)の加熱停止により、溶融スラグ(7)を抽出し排出する時に、溶融物の温度が1300~1400℃になり得るからである。これにより、被処理物(2)の溶け残りを解消でき、溶融スラグ(7)側へのPGM移動を低減できるのでPGMの回収率が高まる。また、電気炉(5)内の温度が上がり過ぎて炉壁が劣化することを抑制することができる。
【0032】
尚、本発明に係る還元溶錬では、被処理物(2)に対して、質量換算で0.3倍以上1.0倍以下の抽出剤(3)を投入することが好ましい。これは抽出剤(3)が0.3倍以上投入されれば、溶融スラグ(7)のPGM含有率を抑制してPGMロスを低減することができるからである。一方、抽出剤(3)の投入が1.0倍以下であれば処理できる被処理物(2)量を担保できる為、効率的だからである。
【0033】
[5]本発明に係る酸化溶錬工程
本発明に係る酸化溶錬工程におけるCu2Oスラグ(11)とPGM合金(10)との間の白金、ロジウム、パラジウムの分配比は、還元溶錬工程における溶融スラグ(7)と電気炉メタル(6)間の分配比の値に比べ、100倍程度大きな値を示す。この為、電気炉メタル(6)中のPGMを濃縮する過程で発生するCu2Oスラグ(11)中へ、相当量のPGMが分配されてしまう。即ち、PGM合金(10)としてのPGMの回収率は抑制される。
【0034】
そこで、当該相当量のPGMが分配されたCu2Oスラグ(11)を、再び、以降実施される還元溶錬工程へ抽出剤(3)として繰り返し、投入することが好ましい。当該構成により、Cu2Oスラグ(11)中へ分配された相当量のPGMは、還元溶錬工程と酸化溶錬工程との系内を循環することになり、結果として高効率でPGMを回収できる。
【0035】
また、酸化溶錬工程の際に酸化物(8)を添加し、前記溶融した電気炉メタル(6)を撹拌した後、静置することが好ましい。これにより、Cu2Oスラグ(11)へのPGMの分配を低減することができる。
【0036】
[6]本発明に係るPGM回収方法例
本発明に係るPGMの回収工程について、一例を挙げながら説明する。
セラミックス製自動車触媒等のPGMを含有する被処理物(2)と、抽出剤(3)であるCuおよび/またはCu2Oと、フラックス(1)であるCaOおよび/またはSiO2と、そして還元剤(4)であるSiC等のC含有材料とを、電気炉(5)に装填して加熱する。このとき、電気炉(5)の炉頂温度の昇温速度から溶融スラグ(7)を抽出し排出するタイミングを決定し、その3時間前の炉頂温度が900℃以上1200℃以下になるように、電気炉(5)内の電極へ加える電力の調整を行う。
【0037】
その後、酸化物(CaO-SiO2-Al2O3)主体の溶融スラグ(7)層の下方にCu合金の溶融メタルを沈降させ、当該Cu合金中にPGMが濃縮した電気炉メタル(6)を得る。一方、Cu含有量が3.0質量%以下にまで低下した溶融スラグ(7)は当該電気炉から抽出し排出する。
【0038】
そして、PGMが濃縮した電気炉メタル(6)を抽出し、溶融状態のまま酸化炉(9)に移し替える。溶融した電気炉メタル(6)を酸化溶錬する際、上述した酸化物(8)としてSiO2、CaO、Na2Oから選択される1種以上を添加できる。電気炉メタル(6)へSiO2等の酸化物(8)を添加する際は、添加量の全量を一挙に添加するのではなく、少量ずつ添加することが好ましい。これは電気炉メタル(6)へ、添加する酸化物(8)の全量を一挙に添加すると、溶融している電気炉メタル(6)の溶体温度が低下し、添加された酸化物(8)が溶解出来なくなる為である。従って、酸化物(8)の添加時間は、溶融している電気炉メタル(6)量にも依るが、20分間以上かけて添加することが好ましい。
【0039】
酸化物(8)添加後に電気炉メタル(6)を撹拌し、酸化物(8)を溶解させるが、溶体の撹拌方法としては、空気および/または酸素によるエアレーションが好ましい。
【0040】
酸化物(8)が溶解後、溶体を静置する。このとき、酸化炉(9)内の溶融物の中心近傍が1200~1500℃になっていると推察できる。そして、酸化物主体のCu2Oスラグ(11)層と、PGMがさらに濃縮したPGM合金(10)層とに分離し、PGM合金(10)を得る。得られたPGM合金(10)から、適宜な回収方法(主に、湿式法)により、PGMを得る。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
実施例1に係る還元溶錬工程においては、電気炉中へ、フラックスとしてCaOを5000kg、SiO2を100kg、被処理物としてセラミック製自動車触媒の粉砕物を8500kg、還元剤としてSiCを600kg、抽出剤として前回工程から繰り返されたCu2Oスラグを、被処理物に対して質量比で0.6倍量の5100kg投入した。
【0042】
溶融スラグを抽出し排出するタイミングに合わせて、電気炉の炉頂温度の昇温速度を制御し、溶融スラグを抽出するときの炉頂温度が1000℃になるように電極へ加える電力を調整した。また、溶融スラグを抽出し排出する2時間前に通電を停止した。尚、前回工程から繰り返されたCu2OスラグによりCu量が充当されたので、抽出剤として新たな金属Cuは投入しなかった。
【0043】
実施例1に係る炉頂の温度推移を、
図2のグラフに実線で示す。
尚、炉頂温度は、炉頂にある上蓋の4ヵ所に穿孔し、それぞれに熱電対を設けて測定したものの平均値である。
【0044】
上述の還元溶錬工程で生成した溶融スラグであるCaO-SiO2-Al2O3スラグを、電気炉から抽出し排出した。溶融スラグ温度は1455℃であった。そして、電気炉メタルを電気炉から抽出し、酸化炉へ投入した。
次に、酸化炉へ、Cu2Oスラグ質量に対して5質量%に相当するSiO2を酸化剤として添加した。このとき電気炉メタルである溶体の急激な降温を回避する為、SiO2は全量を一挙に投入するのではなく、20分間かけて除々に添加した。
【0045】
SiO2の投入完了後、溶体を2時間エアレーションして撹拌し、SiO2を溶体に溶解させた。エアレーションには空気と酸素との混合気体を使用し、酸素濃度20質量%で50Nm3/hの速度で吹込みを行った。
エアレーション終了後、溶融した溶体を静置し生成したPGM合金を回収した。
一方、生成したCuO2スラグを採取し、次回工程の還元溶錬工程へ繰り返した。
【0046】
尚、電気炉から排出した溶融スラグ中のPGMロス率をICPにて定量分析したところ0.06質量%であり、非常に小さい値であることが判明した。
【0047】
(比較例1)
還元溶錬工程において電極へ加える電力量を一定とし、溶融スラグを抽出し排出するときの炉頂温度が850℃になるようにした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
生成したPGM合金を回収し、CuO2スラグを採取した。採取されたCuO2スラグは、次回工程の還元溶錬工程へ繰り返した。
【0048】
比較例1に係る炉頂の温度推移を、
図2のグラフに破線で示す。
【0049】
電気炉から排出した溶融スラグ中のPGMロス率をICPにて定量分析しところ0.78質量%であり、実施例1に比較して大きな値であることが判明した。
【0050】
(比較例2)
還元溶錬工程において電極へ加える電力量を一定とし、溶融スラグを抽出し排出するときの炉頂温度を、実施例1で説明した炉頂温度より下げた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
すると、溶融スラグの排出時の0時間前、1時間前、2時間前における炉頂温度が780℃以下になると、被処理物の溶け残りが多く発生することが判明した。
【0051】
(まとめ)
以上、説明した実施例および比較例の結果より、本発明の方法によれば、PGMを含有する被処理物から高効率にPGM合金を回収することができることが判明した。