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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】応力発光計測装置及び応力発光計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/70 20060101AFI20230120BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
G01N21/70
G01L1/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019005420
(22)【出願日】2019-01-16
(65)【公開番号】P2020112514
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 史郎
(74)【代理人】
【識別番号】100148655
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 淳一
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄貴
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-075477(JP,A)
【文献】特開2016-180637(JP,A)
【文献】特開2012-229934(JP,A)
【文献】特開2018-163083(JP,A)
【文献】特開2010-190865(JP,A)
【文献】特開平11-345315(JP,A)
【文献】特開2018-119834(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0267107(US,A1)
【文献】特開平05-215696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62-G01N 21/958
G01B 11/00-G01B 11/30
G01L 1/00-G01L 1/26
G06T 1/00
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力発光体を含む応力発光塗料に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にし、前記応力発光体に加えられる応力に応じた応力発光を計測する応力発光計測装置であって、
前記応力発光塗料に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にする励起光照射部と、
前記応力発光塗料の応力発光画像を撮像する撮像部と、
前記励起光照射部によって励起された励起エネルギーを算出する励起エネルギー算出部と、
応力発光に伴う応力発光エネルギーを算出する応力発光エネルギー算出部と、
前記励起エネルギーから応力発光毎に前記応力発光エネルギーを減算した残り励起エネルギーの分布履歴を更新する残り励起エネルギー更新部と、
前記残り励起エネルギーの分布履歴をもとに応力発光量を補正した補正応力発光画像を生成する画像補正部と
を備えたことを特徴とする応力発光計測装置。
【請求項2】
前記応力発光塗料には特徴点を有した微小凹凸パターンが施され、
前記応力発光の計測前に前記応力発光塗料の計測前画像を取得して微分画像を生成する微分画像生成部と、
前記微分画像内の微小凹凸パターンを用いた画像マッチングによって前記応力発光塗料上の応力発光部位の位置合わせを行う位置合わせ部と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の応力発光計測装置。
【請求項3】
前記残り励起エネルギー更新部は、時間経過及び/又は計測温度をもとに残り励起エネルギーを補正することを特徴とする請求項1又は2に記載の応力発光計測装置。
【請求項4】
応力発光体を含む応力発光塗料に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にし、前記応力発光体に加えられる応力に応じた応力発光を計測する応力発光計測方法であって、
前記応力発光塗料に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にする励起光照射ステップと、
前記励起光照射ステップによって励起された励起エネルギーを算出する励起エネルギー算出ステップと、
前記応力発光塗料の応力発光画像を撮像する撮像ステップと、
応力発光に伴う応力発光エネルギーを算出する応力発光エネルギー算出ステップと、
前記励起エネルギーから応力発光毎に前記応力発光エネルギーを減算した残り励起エネルギーの分布履歴を更新する残り励起エネルギー更新ステップと、
前記残り励起エネルギーの分布履歴をもとに応力発光量を補正した補正応力発光画像を生成する画像補正ステップと
を含むことを特徴とする応力発光計測方法。
【請求項5】
前記応力発光塗料には特徴点を有した微小凹凸パターンが施され、
前記応力発光の計測前に前記応力発光塗料の計測前画像を取得して微分画像を生成する微分画像生成ステップと、
前記微分画像内の微小凹凸パターンを用いた画像マッチングによって前記応力発光塗料上の応力発光部位の位置合わせを行う位置合わせステップと
を含むことを特徴とする請求項4に記載の応力発光計測方法。
【請求項6】
前記残り励起エネルギー更新ステップは、時間経過及び/又は計測温度をもとに残り励起エネルギーを補正することを特徴とする請求項4又は5に記載の応力発光計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起光をオフとした状態で応力発光が複数回発生した場合であっても精度の高い応力計測を行うことができる応力発光計測装置及び応力発光計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、計測対象の残留応力や応力集中などによる破壊を検知又は予測するために、応力分布が計測されることが多い。一般的に、応力分布の計測手法として、(1)計測対象にひずみゲージを貼り付けてひずみ量を電気的に検出する手法A、(2)赤外線カメラを用いて計測対象の振動に対する発熱作用又は吸熱作用を計測して応力分布を求める手法B、(3)計測対象の表面にランダム模様を付与して複数カメラで撮像し、応力変動を求めるデジタル画像相関法Cなどが知られている。
【0003】
ところが、上記の手法Aは、ひずみゲージは貼り付けのための手間がかかるとともに計測部位が限られるという問題がある。また、上記の手法Bは、赤外線カメラは測定範囲が限られ、繰り返し加振が必要になるという問題がある。さらに、上記のデジタル画像相関法Cは、事前に表面模様の準備が必要になるという問題がある。
【0004】
このため、非接触かつ広範囲に一括で応力計測するために、応力発光体を表面に付与した計測対象からの応力発光を撮像することにより、計測対象の応力分布を非接触で計測する技術が注目されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-119834号公報
【文献】特開2010-190865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、応力発光を行わせるためには応力発光塗料に励起光を照射して応力発光体に励起エネルギーを充填させる必要がある。一方、励起光の照射中には、応力発光と、即時に発生する蛍光と、遅れて発光する燐光の3種の光が混ざっている。応力発光は、応力を加えたときに発生する応力発光物質特有の光であり、中心波長は、例えば、530nmのブロードな光である。蛍光は、励起光を照射したときに即時に放射され、緩和寿命が極めて短い光であり、中心波長は、例えば、530nmのブロードな光である。また、燐光は、励起光を照射し終わってオフにした後も、しばらく残留している蛍光部分(いわゆる蓄光成分)であり、指数関数的に減少し、中心波長は、例えば、530nmのブロードな光である。したがって、励起光の照射中に発光する3種の光は発光波長が近いため、応力発光と他の蛍光及び燐光とを区別できず、応力測定を行うことが困難である。このため、応力測定を行う場合、励起光の照射をオフにした状態で応力測定を行う必要がある。
【0007】
しかしながら、応力発光塗料を用いた応力計測では、励起光をオフとした状態で、同じ位置で応力発光が複数回、発生した場合、応力発光の発生に伴って、励起エネルギーの充填率が低い状態になるため、応力に起因する応力発光の発光感度が低下する。この結果、同じ応力が複数回発生しても異なる応力発光量を検出するため、応力発光計測に伴う応力計測の精度が低いという課題が生ずる。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、励起光をオフとした状態で応力発光が複数回発生した場合であっても精度の高い応力計測を行うことができる応力発光計測装置及び応力発光計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、応力発光体を含む応力発光塗料に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にし、前記応力発光体に加えられる応力に応じた応力発光を計測する応力発光計測装置であって、前記応力発光塗料に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にする励起光照射部と、前記応力発光塗料の応力発光画像を撮像する撮像部と、前記励起光照射部によって励起された励起エネルギーを算出する励起エネルギー算出部と、応力発光に伴う応力発光エネルギーを算出する応力発光エネルギー算出部と、前記励起エネルギーから応力発光毎に前記応力発光エネルギーを減算した残り励起エネルギーの分布履歴を更新する残り励起エネルギー更新部と、前記残り励起エネルギーの分布履歴をもとに応力発光量を補正した補正応力発光画像を生成する画像補正部と
を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記の発明において、前記応力発光塗料には特徴点を有した微小凹凸パターンが施され、前記応力発光の計測前に前記応力発光塗料の計測前画像を取得して微分画像を生成する微分画像生成部と、前記微分画像内の微小凹凸パターンを用いた画像マッチングによって前記応力発光塗料上の応力発光部位の位置合わせを行う位置合わせ部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記の発明において、前記残り励起エネルギー更新部は、時間経過及び/又は計測温度をもとに残り励起エネルギーを補正することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、応力発光体を含む応力発光塗料に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にし、前記応力発光体に加えられる応力に応じた応力発光を計測する応力発光計測方法であって、前記応力発光塗料に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にする励起光照射ステップと、前記励起光照射ステップによって励起された励起エネルギーを算出する励起エネルギー算出ステップと、前記応力発光塗料の応力発光画像を撮像する撮像ステップと、応力発光に伴う応力発光エネルギーを算出する応力発光エネルギー算出ステップと、前記励起エネルギーから応力発光毎に前記応力発光エネルギーを減算した残り励起エネルギーの分布履歴を更新する残り励起エネルギー更新ステップと、前記残り励起エネルギーの分布履歴をもとに応力発光量を補正した補正応力発光画像を生成する画像補正ステップとを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、前記応力発光塗料には特徴点を有した微小凹凸パターンが施され、前記応力発光の計測前に前記応力発光塗料の計測前画像を取得して微分画像を生成する微分画像生成ステップと、前記微分画像内の微小凹凸パターンを用いた画像マッチングによって前記応力発光塗料上の応力発光部位の位置合わせを行う位置合わせステップとを含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の発明において、前記残り励起エネルギー更新ステップは、時間経過及び/又は計測温度をもとに残り励起エネルギーを補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、励起光をオフとした状態で応力発光が複数回発生した場合であっても精度の高い応力計測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本実施の形態に係る応力発光計測装置の構成を示す図である。
図2図2は、残り励起エネルギーと応力発光量との関係を示す説明図である。
図3図3は、応力と残り励起エネルギーと応力発光量との関係を示す図である。
図4図4は、応力発光エネルギー算出部による応力発光エネルギーの算出例を示す図である。
図5図5は、残り励起エネルギー更新部が更新する残り励起エネルギーの分布履歴の一例を示す図である。
図6図6は、制御部による応力発光計測処理手順を示すフローチャートである。
図7図7は、本実施の形態の変形例1に係る応力発光計測装置の構成を示す図である。
図8図8は、画像の位置合わせ処理の一例を示す図である。
図9図9は、変形例1の制御部による画像の位置合わせ処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態に係る応力発光計測装置及び応力発光計測方法について説明する。
【0018】
<装置構成>
図1は、本実施の形態に係る応力発光計測装置1の構成を示す図である。図1に示した応力発光計測装置1は、例えば外部からの力Pが加わることによって発生した応力Sにより金属疲労が生じる計測対象部材101の表面に、応力発光体が含まれる応力発光塗料2が塗布されている。
【0019】
計測対象部材101に発生する応力Sは、不定な任意の時間で発生する。応力発光計測装置1は、応力発光体を含む応力発光塗料2に励起光L0を照射して応力発光体を励起状態にし、応力発光体に発生する応力Sに応じた応力発光L2を計測する。なお、応力発光体が励起状態にあると、応力発光L2とは無関係に蛍光及び燐光として自然放出する自然放出光L1を発光する。
【0020】
応力発光体は、外部からの機械刺激により発光する発光材料である。機械刺激の種類としては摩擦、衝撃、圧縮、引っ張り、ねじりなどがあり、かかる機械刺激により応力発光体に応力が発生する。応力発光体は、例えば、粒子径の制御が可能な粉末状のセラミックス微粒子であり、ユーロピウムをドープし構造制御したアルミン酸ストロンチウム(SrAl2O4:Eu)、遷移金属や希土類をドープした硫化亜鉛(ZnS:Mn)、チタン酸バリウム・カルシウム((Ba,Ca)TiO3:Pr)、アルミン酸カルシウム・イットリウム(CaYAl3O7:Ce)などである。なお、上記の応力発光体は、紫外線を励起光として可視光を発光するものであるが、紫外線や近赤外線を発光するものであってもよい。
【0021】
図1に示した応力発光計測装置1は、励起光L0である紫外線を応力発光塗料2に照射する励起光照射部20と、応力発光塗料2の発光を撮像する撮像部30と、装置本体10とを有する。
【0022】
装置本体10は、入出力部11、記憶部12及び制御部13を有し、励起光照射部20及び撮像部30に接続される。入出力部11は、各種操作入力及び表示出力等を行うタッチパネル式ディスプレイなどの入出力インターフェースである。
【0023】
記憶部12は、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ又はハードディスク装置等の二次記憶媒体等からなる記憶デバイスであり、応力発光画像データD1と、応力発光後の残り励起エネルギーの分布履歴データD2と、分布履歴データD2をもとに応力発光画像を補正した補正応力発光画像データD3とを記憶する。
【0024】
制御部13は、応力発光計測装置1を全体制御する制御部であり、励起エネルギー算出部14、応力発光エネルギー算出部15、残り励起エネルギー更新部16及び画像補正部17を有する。実際には、これらの機能部に対応するプログラムを図示しないROMや不揮発性メモリに記憶しておき、これらのプログラムをCPU(Central Processing Unit)にロードして実行することにより、励起エネルギー算出部14、応力発光エネルギー算出部15、残り励起エネルギー更新部16及び画像補正部17にそれぞれ対応するプロセスを実行させることになる。
【0025】
励起エネルギー算出部14は、励起光照射部20によって励起された励起エネルギーを算出する。励起エネルギーは、照射光量と照射時間との積、あるいは照射光量の時間積分で求められる。なお、励起エネルギーには、飽和励起エネルギー量があるため、飽和励起エネルギーに達した場合には、励起光を照射し続けても飽和励起エネルギー以上にはならない。
【0026】
応力発光エネルギー算出部15は、応力発光に伴う応力発光エネルギーを算出する。応力発光エネルギーは、応力発光量と発光時間との積、あるいは応力発光量の時間積分で求められる。
【0027】
残り励起エネルギー更新部16は、励起エネルギー算出部14が算出した励起エネルギーから応力発光毎に算出された応力発光エネルギーを減算した残り励起エネルギーの分布履歴を更新する。
【0028】
画像補正部17は、残りエネルギーの分布履歴をもとに応力発光量を補正した補正応力発光画像を生成する。
【0029】
<残り励起エネルギーと応力発光量との関係>
次に、残り励起エネルギーと応力発光量との関係について説明する。
【0030】
まず、上記のように、自然放出光L1は、応力発光体が励起状態にあると、応力発光L2とは無関係に蛍光及び燐光を自然放出する。蛍光は、励起光L0から吸収した励起状態のエネルギーの一部を熱として放出し、残りの励起状態のエネルギーを光として放出するものであり、励起光よりも長波長側にシフトした光、例えば緑色の可視光として放出される。一方、燐光は、異なるエネルギー準位間の項間交差が起こり、すぐに基底状態に戻れず、蛍光に比してゆっくりと発光し続ける。例えば、蛍光は10-6~10-3秒で発光し、燐光は10-3~10秒で発光する。これに対し、応力Sに起因する応力発光L2は、励起状態のエネルギーの一部を熱として放出し、蛍光及び燐光のエネルギー準位に近く、かつ、異なる特定のエネルギー準位に遷移し、応力Sが発生した場合、この遷移した特定のエネルギー準位から基底状態に遷移することによって、例えば緑色の可視光として発光する。なお、応力発光の特定のエネルギー準位のエネルギー充填率は、励起光L0の強さに比例する。
【0031】
図2(a)に示すように、時点t0~t1の間で励起光L0が照射されると、励起エネルギー(残り励起エネルギー)は、Emとなる。この励起エネルギーは、励起エネルギー算出部14によって算出される。その後、時点t2からは、応力発光に寄与する励起エネルギーE2と自然放出光の励起エネルギーE2とが加算される状態となり、励起エネルギーE1は、自然放出光の放出に伴って指数関数的に減少する。一方、励起エネルギーE2は、応力発光が生じない限り、ほぼ同じ励起エネルギーの状態を維持する。したがって、応力発光が発生しない場合、励起エネルギーE2は、残り励起エネルギーとなり、残りエネルギー値はEaとなる。
【0032】
ここで、図2(b)に示すように、時点t2で応力発光が生じると、図2(a)に示すように、残り励起エネルギー値Eaは、応力発光量Laに応じた応力発光エネルギー値が減算された残り励起エネルギー値Ebに減少する。さらに、時点t3で応力発光が生じると、残り励起エネルギー値Ebは、応力発光量Lbに応じた応力発光エネルギー値Ecに減少する。
【0033】
時点t2,t3での応力発光は、同じ応力Saが発生しているのにもかかわらず、応力発光量La,Lbとなり、異なる応力発光量となっている。これは、応力発光量が残り励起エネルギーE2の大きさに依存するからである。
【0034】
すなわち、図3に示すように、応力Sに対する応力発光量L2は、残り励起エネルギーの大小関係に依存する。なお、応力Sは歪み量に対して線形関係を有するので、応力Sは歪み量であってもよい。図3において、応力発光量L2は、下限値S0以上の応力Sの発生によって応力発光し、応力発光量L2は、応力Sが大きくなるに従って大きな値となるが、この関係は、残り励起エネルギーの大小関係に依存し、残り励起エネルギーが大きい場合には応力発光量L2が大きく、残り励起エネルギーが小さい場合には応力発光量L2は小さくなる。
【0035】
例えば、応力Saが発生した場合、関数fEaで示す残り励起エネルギーの場合、応力発光量Laの応力発光が発生するが、関数fEbで示す、少ない残り励起エネルギーの場合、応力発光量Laよりも小さい応力発光量Lbの応力発光が発生する。
【0036】
したがって、同じ応力Saが発生しているのにもかかわらず、残り励起エネルギーの大小関係で異なる応力発光量La,Lbの応力発光が発生することになり、応力発光計測の精度が低くなる。特に、同じ応力発光塗料2上の位置で2段階以上、複数の応力発光が発生した場合、残り励起エネルギーが減少するため、応力発光計測の精度が低くなる。
【0037】
そこで、残り励起エネルギー更新部16は、応力発光が発生した場合に、残り励起エネルギーの分布履歴を更新しておき、画像補正部17は、応力発光が発生した場合、現在の残り励起エネルギーをもとに、基準の残り励起エネルギーEaのときに同じ応力が発生した場合の応力発光量に補正し、補正した補正応力発光画像を生成する。なお、残り励起エネルギーの履歴は、応力発光塗料2に対応した分布履歴であり、応力発光塗料2の位置毎に残り励起エネルギーが履歴として記憶される。
【0038】
これにより、残り励起エネルギーが変化しても、常に発生した応力に応じた応力発光量の応力発光画像を得ることができる。なお、基準の残り励起エネルギーは、任意であるが、大きい値であることが好ましい。また、基準の残り励起エネルギーは、励起エネルギーが充填された場合であっても変更しない。
【0039】
図4は、応力発光エネルギー算出部15による応力発光エネルギーの算出例を示す図である。図4に示すように、応力発光エネルギー算出部15は、応力発光量Lxに応力発光時間ΔTを乗算して応力発光量L2を求める。なお、応力発光量Lxの時間積分であってもよい。
【0040】
図5は、残り励起エネルギー更新部16が更新する残り励起エネルギーの分布履歴の一例を示す図である。図5に示すように、残り励起エネルギーがEaとなっている領域は、励起光照射後に応力発光が生じていない領域である。また、残り励起エネルギーがEbとなっている領域は、励起光照射後に1回の応力発光が生じた領域である。さらに、残り励起エネルギーがEcとなっている領域は、励起光照射後に2回の応力発光が生じた領域である。なお、励起光照射による励起エネルギーが再充填された場合にも残り励起エネルギーの分布履歴は更新される。この場合、残り励起エネルギーは増大することになる。
【0041】
<応力発光計測処理>
次に、制御部13による応力発光計測処理手順について説明する。図6は、制御部13による応力発光計測処理手順を示すフローチャートである。図6に示すように、まず、励起エネルギー算出部14は、励起光照射部20から励起光L0が照射されると(ステップS101)、励起エネルギーを算出する(ステップS102)。
【0042】
その後、応力発光エネルギー算出部15は、応力発光に伴う応力発光画像が取得されると(ステップS103)、応力発光エネルギーを算出する(ステップS104)。その後、残り励起エネルギー更新部16は、応力発光に伴って残り励起エネルギーから応力発光エネルギーを減算した残り励起エネルギーの分布履歴を更新する(ステップS105)。
【0043】
その後、画像補正部17は、残り励起エネルギーの分布履歴をもとに応力発光量を補正した補正応力発光画像を生成する(ステップS106)。そして、制御部13は、現在の残り励起エネルギーが所定値以上であるか否かを判定する(ステップS107)。所定値とは、例えば、応力発光が可能な残り励起エネルギーの下限値である。
【0044】
現在の残り励起エネルギーが所定値以上であるならば(ステップS107;Yes)、ステップS103に移行して応力発光計測を継続する。一方、現在の残り励起エネルギーが所定値以上でないならば(ステップS107;No)、さらに計測終了か否かを判定する(ステップS108)。計測終了でないならば(ステップS108;No)、ステップS101に移行して残り励起エネルギーを再充填し、上述した処理を繰り返す。一方、計測終了ならば(ステップS108;Yes)、本処理を終了する。
【0045】
<変形例1>
次に、応力発光計測装置1の変形例1について説明する。上記の実施の形態では、応力発光塗料2が移動しないことを前提としていたが、本変形例1では、応力発光塗料2が移動する場合であっても、移動しない場合と同様の補正応力発光画像が得られるようにしている。
【0046】
図7は、本実施の形態の変形例1に係る応力発光計測装置1の構成を示す図である。図7に示すように、本変形例1では、制御部13に、さらに微分画像生成部18及び位置合わせ部19を有する。なお、応力発光塗料2には特徴点を有した微小凹凸パターンが施されている。微小凹凸パターンは、塗料のぬりむらや、エンボス加工などによって生成されたものである。
【0047】
微分画像生成部18は、応力発光の計測前に応力発光塗料2の計測前画像を取得して微分画像を生成する。位置合わせ部19は、微分画像内の微小凹凸パターンを用いた画像マッチングによって応力発光塗料2上の応力発光部位の位置合わせを行う。位置合わせされた補正応力発光画像は、記憶部12の位置合わせ補正応力発光画像データD4として記憶される。
【0048】
<画像の位置合わせ処理の一例>
図8は、画像の位置合わせ処理の一例を示す図である。図8(a)に示すように、まず、微分画像生成部18は、応力発光の計測前に応力発光塗料2の計測前画像を取得して微分画像D10を生成する。微分画像D10には、微小凹凸パターンに応じてそれぞれ特徴点F1~F3を有するエッジパターンが生成されている。
【0049】
その後、図8(b)に示すように、応力発光画像D3aと、応力発光塗料2が図上、右に移動した応力発光画像D3bとが得られる。応力発光画像D3a,D3b上では、それぞれ領域40,41において応力発光している。ここで、応力発光画像D3a,D3b上でも特徴点F1~F3を有するエッジパターンを検出することができる。応力発光画像D3b上では、応力発光塗料2の移動に伴って、エッジパターンが移動しているとともに、領域41の発光部位も移動している。
【0050】
図8(c)に示すように、位置合わせ部19は、特徴点F1~F3を有するエッジパターンを有する微分画像D10を用いた画像マッチングを行って応力発光画像D3a,D3bの位置合わせを行う。この結果、位置合わせ補正応力発光画像データD4の領域40,41の発光部位は同じであることがわかる。
【0051】
<画像の位置合わせ処理>
次に、変形例1の制御部13による画像の位置合わせ処理について説明する。図9は、変形例1の制御部13による画像の位置合わせ処理手順を示すフローチャートである。なお、応力発光塗料2には、予め特徴点を有する微小凹凸パターンを形成しておく。図9に示すように、まず、微分画像生成部18は、応力発光の計測前に応力発光塗料2の計測前画像を取得する(ステップS201)。そして、微分画像生成部18は、計測前画像の微分画像を生成する(ステップS202)。
【0052】
その後、位置合わせ部19は、微分画像内の微小凹凸パターンを用いた画像マッチングによって応力発光塗料2上の応力発光部位の位置合わせを行って(ステップS203)、本処理を終了する。
【0053】
なお、残り励起エネルギー更新部16は、位置合わせ部19と同様に、残り励起エネルギーの分布履歴データD2と同様に残り励起エネルギーの分布履歴の位置合わせを行う。また、画像補正部17は、補正応力発光画像が位置合わせされた位置合わせ補正応力発光画像データD4を生成して記憶部12に記憶する。
【0054】
また、位置合わせ部19は、特徴点F1~F3の移動ベクトルを求めて画像の位置合わせを行ってよい。
【0055】
<変形例2>
応力発光に寄与する残り励起エネルギーは、応力発光しない限り減少しないことを前提として説明したが、比較的長い時間経過とともに減少する。また、温度の上昇に伴って減少する。したがって、残り励起エネルギーを時間経過及び/又は計測温度とともに補正することが好ましい。
【0056】
なお、上記の実施の形態及び変形例で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の応力発光計測装置及び応力発光計測方法は、励起光をオフとした状態で応力発光が複数回発生した場合であっても精度の高い応力計測を行う場合に有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 応力発光計測装置
2 応力発光塗料
10 装置本体
11 入出力部
12 記憶部
13 制御部
14 励起エネルギー算出部
15 応力発光エネルギー算出部
16 残り励起エネルギー更新部
17 画像補正部
18 微分画像生成部
19 位置合わせ部
20 励起光照射部
30 撮像部
40,41 領域
101 計測対象部材
D1 応力発光画像データ
D2 残り励起エネルギーの分布履歴データ
D3 補正応力発光画像データ
D3a,D3b 応力発光画像
D4 位置合わせ補正応力発光画像データ
D10 微分画像
E1.E2 残り励起エネルギー
L0 励起光
L1 自然放出光
L2 応力発光量
P 力
S,Sa 応力
S0 下限値
t0~t4 時点
F1~F3 特徴点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9