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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230120BHJP
   B62D 5/065 20060101ALI20230120BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230120BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20230120BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230120BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/065 B
B62D113:00
B62D117:00
B62D119:00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019006753
(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公開番号】P2020114721
(43)【公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】519193460
【氏名又は名称】クノールブレムゼステアリングシステムジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】松村 達雄
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-009682(JP,A)
【文献】特開2005-254843(JP,A)
【文献】特開平05-069843(JP,A)
【文献】特開2006-246601(JP,A)
【文献】特開2006-224750(JP,A)
【文献】特開2002-308127(JP,A)
【文献】特開平06-344934(JP,A)
【文献】特開平07-010022(JP,A)
【文献】特開2003-137110(JP,A)
【文献】特開2003-312512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/00-5/32
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング装置であって、
操舵機構と、パワーシリンダと、ロータリバルブとトルクセンサと、電動モータと、減速機と、コントローラとを備え、
操舵機構は、操舵軸と、伝達機構を備え、前記操舵軸は、第1軸と、第2軸と、第3軸からなり、前記第1軸と前記第2軸の間に設けられた第1トーションバーと、前記第2軸と前記第3軸の間に設けられた第2トーションバーを備え、前記伝達機構は、前記操舵軸の回転を操舵輪に伝達可能であり、
パワーシリンダは、パワーシリンダ本体部と、ピストンと、第1液室と、第2液室を備え、前記伝達機構に対し操舵輪を操舵させる操舵力を付与可能であり、前記ピストンは、前記パワーシリンダ本体部の内部に設けられ、前記パワーシリンダ本体部の内部空間を前記第1液室と前記第2液室に分割しており、
前記ロータリバルブは、前記第2トーションバーの捩れに応じて外部から供給される作動液を前記第1液室と前記第2液室に選択的に供給し、
前記トルクセンサは、前記第1トーションバーの捩れ量に応じて前記操舵機構に生じる操舵トルクを検出し、該操舵トルクに関する信号である操舵トルク信号を出力し、
前記電動モータは、ステータコイルと、ロータと、モータ出力軸を備え、該モータ出力軸に回転力を付与し、
前記減速機は、前記モータ出力軸と前記第2軸の間に設けられ、前記モータ出力軸の回転速度を減速して前記第2軸に対し前記電動モータの回転力を伝達し、
前記コントローラは、補正制御信号生成部と、操舵指令信号生成部を備え、前記補正制御信号生成部は、前記モータ出力軸が回転するときに生じる前記電動モータの振動成分または回転負荷成分、もしくは前記減速機が駆動するときに生じる前記減速機の振動成分または回転負荷成分を抑制するように補正制御信号を生成し、前記操舵指令信号生成部は、前記補正制御信号に基づき、前記電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成し、
前記補正制御信号生成部は、前記操舵トルク信号のうち、第1の所定周波数より高い周波数成分に基づき、前記補正制御信号を生成することを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
ステアリング装置であって、
操舵機構と、パワーシリンダと、ロータリバルブとトルクセンサと、電動モータと、減速機と、コントローラとを備え、
操舵機構は、操舵軸と、伝達機構を備え、前記操舵軸は、第1軸と、第2軸と、第3軸からなり、前記第1軸と前記第2軸の間に設けられた第1トーションバーと、前記第2軸と前記第3軸の間に設けられた第2トーションバーを備え、前記伝達機構は、前記操舵軸の回転を操舵輪に伝達可能であり、
パワーシリンダは、パワーシリンダ本体部と、ピストンと、第1液室と、第2液室を備え、前記伝達機構に対し操舵輪を操舵させる操舵力を付与可能であり、前記ピストンは、前記パワーシリンダ本体部の内部に設けられ、前記パワーシリンダ本体部の内部空間を前記第1液室と前記第2液室に分割しており、
前記ロータリバルブは、前記第2トーションバーの捩れに応じて外部から供給される作動液を前記第1液室と前記第2液室に選択的に供給し、
前記トルクセンサは、前記第1トーションバーの捩れ量に応じて前記操舵機構に生じる操舵トルクを検出し、該操舵トルクに関する信号である操舵トルク信号を出力し、
前記電動モータは、ステータコイルと、ロータと、モータ出力軸を備え、該モータ出力軸に回転力を付与し、
前記減速機は、前記モータ出力軸と前記第2軸の間に設けられ、前記モータ出力軸の回転速度を減速して前記第2軸に対し前記電動モータの回転力を伝達し、
前記コントローラは、補正制御信号生成部と、操舵指令信号生成部を備え、前記補正制御信号生成部は、前記モータ出力軸が回転するときに生じる前記電動モータの振動成分または回転負荷成分、もしくは前記減速機が駆動するときに生じる前記減速機の振動成分または回転負荷成分を抑制するように補正制御信号を生成し、前記操舵指令信号生成部は、前記補正制御信号に基づき、前記電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成し、
前記電動モータは、更に、モータ回転角センサを含み、
前記モータ回転角センサは、前記ロータの回転角を検出し、前記ロータの回転角に関する信号であるモータ回転角信号を出力し、
前記補正制御信号生成部は、前記モータ回転角信号に基づき、前記補正制御信号を生成することを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項に記載のステアリング装置であって、
前記補正制御信号生成部は、前記モータ回転角信号から生成され前記ロータの回転速度に関する信号であるモータ回転数に基づき、前記補正制御信号を生成することを特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項に記載のステアリング装置であって、
前記補正制御信号生成部は、前記モータ回転数が高いほど、前記補正制御信号の値が小さくなるように前記補正制御信号を補正することを特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
ステアリング装置であって、
操舵機構と、パワーシリンダと、ロータリバルブとトルクセンサと、電動モータと、減速機と、コントローラとを備え、
操舵機構は、操舵軸と、伝達機構を備え、前記操舵軸は、第1軸と、第2軸と、第3軸からなり、前記第1軸と前記第2軸の間に設けられた第1トーションバーと、前記第2軸と前記第3軸の間に設けられた第2トーションバーを備え、前記伝達機構は、前記操舵軸の回転を操舵輪に伝達可能であり、
パワーシリンダは、パワーシリンダ本体部と、ピストンと、第1液室と、第2液室を備え、前記伝達機構に対し操舵輪を操舵させる操舵力を付与可能であり、前記ピストンは、前記パワーシリンダ本体部の内部に設けられ、前記パワーシリンダ本体部の内部空間を前記第1液室と前記第2液室に分割しており、
前記ロータリバルブは、前記第2トーションバーの捩れに応じて外部から供給される作動液を前記第1液室と前記第2液室に選択的に供給し、
前記トルクセンサは、前記第1トーションバーの捩れ量に応じて前記操舵機構に生じる操舵トルクを検出し、該操舵トルクに関する信号である操舵トルク信号を出力し、
前記電動モータは、ステータコイルと、ロータと、モータ出力軸を備え、該モータ出力軸に回転力を付与し、
前記減速機は、前記モータ出力軸と前記第2軸の間に設けられ、前記モータ出力軸の回転速度を減速して前記第2軸に対し前記電動モータの回転力を伝達し、
前記コントローラは、補正制御信号生成部と、操舵指令信号生成部を備え、前記補正制御信号生成部は、前記モータ出力軸が回転するときに生じる前記電動モータの振動成分または回転負荷成分、もしくは前記減速機が駆動するときに生じる前記減速機の振動成分または回転負荷成分を抑制するように補正制御信号を生成し、前記操舵指令信号生成部は、前記補正制御信号に基づき、前記電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成し、
前記補正制御信号生成部は、補正制御信号補正部を含み、
前記補正制御信号補正部は、車両の運転状況に基づき、前記補正制御信号を補正することを特徴とするステアリング装置。
【請求項6】
請求項に記載のステアリング装置であって、
前記操舵指令信号生成部が、前記車両を走行路の幅方向における所定範囲に導くように前記電動モータを駆動制御するレーンキープ制御のために前記操舵指令信号を生成しているとき、または前記車両が決定した走行ルートに応じて前記電動モータを駆動制御する自動操向制御のために前記操舵指令信号を生成しているときは、前記レーンキープ制御または前記自動操向制御の実施状況に応じて、前記補正制御信号を補正することを特徴とするステアリング装置。
【請求項7】
請求項に記載のステアリング装置であって、
前記操舵指令信号生成部が、前記レーンキープ制御のために前記操舵指令信号を生成しているとき、前記補正制御信号補正部は、前記補正制御信号が零となるように前記補正制御信号を補正することを特徴とするステアリング装置。
【請求項8】
請求項に記載のステアリング装置であって、
更に、操舵角センサを備え、
前記操舵角センサは、前記第1軸の回転角を検出し、前記第1軸の回転角に関する信号である操舵角信号を出力可能であり、
前記補正制御信号補正部は、前記操舵角信号から生成され、前記第1軸の回転速度に関する信号である操舵角速度信号、または前記第1軸の回転加速度に関する信号である操舵角加速度信号と、前記操舵トルク信号に基づき、前記補正制御信号を補正することを特徴とするステアリング装置。
【請求項9】
請求項に記載のステアリング装置であって、
前記補正制御信号補正部は、環境温度または前記電動モータの温度に基づき、前記補正制御信号を補正することを特徴とするステアリング装置。
【請求項10】
ステアリング装置であって、
操舵機構と、パワーシリンダと、ロータリバルブとトルクセンサと、電動モータと、減速機と、コントローラとを備え、
操舵機構は、操舵軸と、伝達機構を備え、前記操舵軸は、第1軸と、第2軸と、第3軸からなり、前記第1軸と前記第2軸の間に設けられた第1トーションバーと、前記第2軸と前記第3軸の間に設けられた第2トーションバーを備え、前記伝達機構は、前記操舵軸の回転を操舵輪に伝達可能であり、
パワーシリンダは、パワーシリンダ本体部と、ピストンと、第1液室と、第2液室を備え、前記伝達機構に対し操舵輪を操舵させる操舵力を付与可能であり、前記ピストンは、前記パワーシリンダ本体部の内部に設けられ、前記パワーシリンダ本体部の内部空間を前記第1液室と前記第2液室に分割しており、
前記ロータリバルブは、前記第2トーションバーの捩れに応じて外部から供給される作動液を前記第1液室と前記第2液室に選択的に供給し、
前記トルクセンサは、前記第1トーションバーの捩れ量に応じて前記操舵機構に生じる操舵トルクを検出し、該操舵トルクに関する信号である操舵トルク信号を出力し、
前記電動モータは、ステータコイルと、ロータと、モータ出力軸を備え、該モータ出力軸に回転力を付与し、
前記減速機は、前記モータ出力軸と前記第2軸の間に設けられ、前記モータ出力軸の回転速度を減速して前記第2軸に対し前記電動モータの回転力を伝達し、
前記コントローラは、補正制御信号生成部と、操舵指令信号生成部を備え、前記補正制御信号生成部は、前記モータ出力軸が回転するときに生じる前記電動モータの振動成分または回転負荷成分、もしくは前記減速機が駆動するときに生じる前記減速機の振動成分または回転負荷成分を抑制するように補正制御信号を生成し、前記操舵指令信号生成部は、前記補正制御信号に基づき、前記電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成し、
前記操舵指令信号生成部が、車両が決定した走行ルートに応じて前記電動モータを駆動制御する自動操向制御のために前記操舵指令信号を生成しているときは、前記補正制御信号を零とすることを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者のステアリング操作を補助するパワーステアリング装置には、電動モータによって操舵補助力を発生させる電動パワーステアリング装置と、油圧ポンプによって操舵補助力を発生させる油圧式パワーステアリング装置が知られている。
【0003】
本技術分野の背景技術として、特許文献1がある。特許文献1には、通常時は油圧式パワーステアリング装置のみを働かせ、油圧式パワーステアリング装置に故障が発生したときには、電動パワーステアリング装置を働かせることができるようになる車両用操舵装置を提供することを目的に、油圧式パワーステアリング装置が正常に働いている場合に電動モータが駆動されないようにするために、操舵トルク検出手段によって検出される操舵トルクの絶対値が所定値より大きいときにのみ、電動モータを駆動させるように構成する車両用操舵装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-9682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、油圧式パワーステアリング装置が正常に働いている場合には電動モータが駆動されないようにしている。しかしながら、ステアリング軸には、油圧式パワーステアリング装置と電動パワーステアリング装置の電動モータが物理的に接続されているために、電動モータが駆動されずに電動モータによる操舵アシストがオフであっても、電動モータの持つトルクリプル分や、フリクションにより、通常の油圧式パワーステアリングに対し、操舵感が悪化するという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、電動パワーステアリング装置と油圧式パワーステアリング装置を併用したシステムにおいて、モータの持つトルクリプル分やフリクションによる操舵感の悪化を軽減するステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記背景技術に鑑み、その一例を挙げるならば、ステアリング装置であって、操舵機構と、パワーシリンダと、ロータリバルブとトルクセンサと、電動モータと、減速機と、コントローラとを備え、コントローラは、補正制御信号生成部と、操舵指令信号生成部を備え、補正制御信号生成部は、電動モータの振動成分または回転負荷成分、もしくは減速機が駆動するときに生じる減速機の振動成分または回転負荷成分を抑制するように補正制御信号を生成し、操舵指令信号生成部は、補正制御信号に基づき、電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成するように構成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電動パワーステアリング装置と油圧式パワーステアリング装置を併用したシステムにおいて、モータの持つトルクリプル分やフリクションによる操舵感の悪化を軽減するステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1における車両用ステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
図2】実施例1におけるECUの概略機能構成図である。
図3】実施例1における効果を説明するための図である。
図4】実施例2におけるECUの概略機能構成図である。
図5】実施例3におけるECUの概略機能構成図である。
図6】実施例4におけるECUの概略機能構成図である。
図7】実施例5におけるECUの概略機能構成図である。
図8】実施例6におけるECUの概略機能構成図である。
図9】実施例7におけるECUのフリクション補償機能部の概略機能構成図である。
図10】実施例8におけるECUのフリクション補償機能部の概略機能構成図である。
図11】実施例9におけるECUの概略機能構成図である。
図12】実施例10におけるECUのフリクション補償機能部の概略機能構成図である。
図13】実施例11におけるECUの概略機能構成図である。
図14】実施例12におけるECUのフリクション補償機能部の概略機能構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は本実施例における車両用ステアリング装置の概略構成を示す模式図である。図1において、車両用ステアリング装置1は、主として、ステアリング2、操舵軸を構成する第1軸3、第2軸4、第3軸5、ステアリング2の回転に連動して操舵輪7を操舵する機構である伝達機構6、電動パワーステアリング装置8、油圧式パワーステアリング装置9で構成されている。
【0012】
操舵軸の第1軸3と第2軸4とは、第1のトーションバー82を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。また、操舵軸の第2軸4と第3軸5とは、第2のトーションバー92を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。
【0013】
操舵軸と第1トーションバーと第2トーションバーと伝達機構で、操舵機構を構成している。
【0014】
伝達機構6は、例えば、ラックアンドピニオン式ステアリングであれば、ラックバー、ピ二オン軸等で構成される。また、ボールねじを用いるインテグラル式ステアリングであれば、ボールねじ、ラック、セクタギア、ピットマンアーム等で構成される。
【0015】
操舵軸の第1軸3の周囲には、トルクセンサ81が設けられている。トルクセンサ81は、第1軸3及び第2軸4の相対回転変位量に基づいて、ステアリング2に与えられた操舵トルクを検出する。すなわち、トルクセンサ81は、第1のトーションバー82のねじれの方向および大きさに基づいて、操舵トルクを検出する。検出された操舵トルクは、電動モータを制御するコントローラであるECU(Electronic Control Unit)83に入力される。
【0016】
電動パワーステアリング装置8は、第1のトーションバー82と、トルクセンサ81と、ECU83と、電動モータ84と、減速機85とを含む。電動モータ84は、ステータコイルと、ロータと、モータ出力軸を備え、モータ出力軸に回転力を付与し、操舵補助力を発生するものである。減速機85は、モータ出力軸と第2軸4の間に設けられ、モータ出力軸の回転速度を減速して第2軸4に対し電動モータ84の回転力を伝達し、電動モータ84の出力トルクを第2軸4に伝達するものである。
【0017】
油圧式パワーステアリング装置9は、第2のトーションバー92と、ロータリバルブ91と、パワーシリンダ93と、油圧ポンプ97とを含む。パワーシリンダ93は、パワーシリンダ本体部と、ピストン94と、第1液室95と、第2液室96を備え、伝達機構6に対し操舵輪7を操舵させる操舵力を付与可能である。ピストン94は、パワーシリンダ本体部の内部に設けられ、パワーシリンダ本体部の内部空間を第1液室95と第2液室96に分割している。これらの第1液室95と第2液室96は、それぞれ、油路を介して、ロータリバルブ91に接続されている。
【0018】
ロータリバルブ91は、リザーバタンク96および油圧ポンプ97を通る油循環路の途中に装着されている。油圧ポンプ97は、リザーバタンク96に貯留されている作動液をくみ出してロータリバルブ91に供給する。ロータリバルブ91は、第2のトーションバー92のねじれの方向および大きさに基づいて、油圧ポンプ97からパワーシリンダ93への作動液の供給を制御する。すなわち、第2のトーションバー92に一方の方向のねじれが発生したときには、ロータリバルブ91は、パワーシリンダ93の第1液室95、第2液室96のうちの一方に作動液を供給するとともに、他方の作動液をリザーバタンク96に戻す。また、第2のトーションバー92に他方の方向のねじれが発生したときには、パワーシリンダ93の第1液室95、第2液室96のうちの他方に作動液を供給するとともに、一方の作動液をリザーバタンク96に戻す。
【0019】
このように、ロータリバルブ91は、第2トーションバー92の捩れに応じて外部から供給される作動液を第1液室95と第2液室96に選択的に供給する。これにより、ピストン94が車幅方向に移動することで、パワーシリンダ93に操舵補助力が作用する。
【0020】
図2に、本実施例におけるECUの概略機能構成図を示す。ECU83は、マイコン100と、マイコン100によって制御され電動モータ84に電力を供給する駆動回路101と、電動モータ84に流れるモータ電流を検出する電流センサ102とを備えている。また、マイコン100は、CPUおよびメモリを備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能する。
【0021】
図2においては、マイコン100として機能構成図を示しており、補正制御信号生成部200と、操舵指令信号生成部300を備える。
【0022】
補正制御信号生成部200は、フリクション補償部201とトルクリプル対策部202と、それぞれの出力を加算する加算部206を有する。
【0023】
フリクション補償部201は、操舵角速度に対して電動モータの出力軸が回転するときや減速機が駆動するときに生じる回転負荷成分(フリクション分)のトルクを補償する。
【0024】
また、トルクリプル対策部202は、電動モータの出力軸が回転するときや減速機が駆動するときに生じる振動成分(トルクリプル分)を抑える。具体的には、トルクリプル対策部202は、変動成分(モータの回転加速度)を抽出するHPF203と、抽出した変動成分にモータ回転角速度補正係数Kを掛ける演算部204、及び、逆数演算を行う逆数演算部205を備える。なお、モータ回転角速度補正係数Kはあらかじめ理論値で設定してもよいし、実験により求めてもよい。
【0025】
これにより、補正制御信号生成部200は、入力された操舵角速度に対して、モータ出力軸が回転するときに生じる電動モータの振動成分(トルクリプル分)または回転負荷成分(フリクション分)、もしくは減速機が駆動するときに生じる減速機の振動成分(トルクリプル分)または回転負荷成分(フリクション分)を抑制するように補正制御信号であるモータトルク指令を生成する。
【0026】
操舵指令信号生成部300は、上記補正制御信号に基づき、電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成する。この、操舵指令信号生成部300は、従来のモータトルク指令に対する電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成する生成部であるが、以下にその概要を説明する。
【0027】
操舵指令信号生成部300は、電流指令演算部301と、電流偏差演算部302と、PI制御部303と、2相3相変換部304と、PWM変換部305と、3相2相変換部306と、角度-速度算出処理部307とを有する。
【0028】
角度-速度算出処理部307は、モータ回転角センサ107の出力信号に基づいて、モータ回転角からモータ回転数を算出する。電流指令演算部301は、dq座標系の座標軸に流すべき電流値をd軸電流目標値およびq軸電流目標値として設定する。電流指令演算部301によって設定されたd軸電流目標値およびq軸電流目標値は、電流偏差演算部302に与えられる。電流センサ102は、電動モータ84のU相モータ電流、V相モータ電流を検出する。電流センサ102によって検出された検出電流は、3相2相変換部306に与えられる。
【0029】
3相2相変換部306は、電流センサ102によって検出されるUVW座標系の3相検出電流を、dq座標系の2相検出電流(d軸電流、q軸電流)に座標変換する。この座標変換には、モータ回転角センサ107によって算出されたモータ回転角が用いられる。電流偏差演算部302は、電流指令演算部301によって設定されたd軸電流目標値およびq軸電流目標値と、3相2相変換部306から与えられる2相検出電流との偏差を演算する。これらの偏差は、PI制御部303に与えられる。PI制御部303は、電流偏差演算部302によって演算された電流偏差に対するPI演算を行なうことにより、電動モータ84に印加すべき二相電圧指令値(d軸電圧指令値およびq軸電圧指令値)を生成する。この二相電圧指令値は、2相3相変換部304に与えられる。
【0030】
2相3相変換部304は、二相電圧指令値を三相電圧指令値(U相電圧指令値VU*、V相電圧指令値VV*およびW相電圧指令値VW*からなる)に座標変換する。この座標変換には、モータ回転角センサ107によって算出されたモータ回転角が用いられる。この三相電圧指令値は、PWM変換部305に与えられる。PWM変換部305は、U相電圧指令値VU*、V相電圧指令値VV*およびW相電圧指令値VW*にそれぞれ対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号およびW相PWM制御信号を生成し、駆動回路101に供給する。
【0031】
駆動回路101は、U相、V相およびW相に対応した三相インバータ回路からなる。このインバータ回路を構成するパワー素子がPWM変換部305から与えられるPWM制御信号、すなわち、電動モータを駆動制御する操舵指令信号によって制御されることにより、三相電圧指令値に相当する電圧が電動モータ84の各相のステータ巻線に印加される。
【0032】
電流偏差演算部302およびPI制御部303は、電流フィードバック制御を構成しており、これによって、電動モータ84に流れるモータ電流が、電流指令演算部301によって設定された二相電流目標値に近づくように制御される。
【0033】
このように、前記コントローラは、補正制御信号生成部と、操舵指令信号生成部を備え、補正制御信号生成部は、モータ出力軸が回転するときに生じる電動モータの振動成分または回転負荷成分、もしくは減速機が駆動するときに生じる減速機の振動成分または回転負荷成分を抑制するように補正制御信号を生成し、操舵指令信号生成部は、補正制御信号に基づき、電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成する。
【0034】
図3は本実施例における効果を説明するための図である。図3は、電動パワーステアリング装置と油圧式パワーステアリング装置を併用したシステムにおいて、横軸は操舵角、縦軸は操舵トルクを示す。
【0035】
破線が、本実施例による補正制御信号生成部がなく、従来の操舵指令信号生成部によりモータトルク指令に対する電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成した場合を示す。破線のように、電動モータが回転、または減速機が駆動するときに生じる振動成分や、フリクション等の回転負荷成分の存在により長丸で示すように操舵トルクが変動する。
【0036】
これに対して、実線は、本実施例による補正制御信号生成部で補正制御信号を生成し、その補正制御信号に基づき電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成した場合を示す。実線のように、本実施例によれば、波線に比べて操舵トルクの変動がなく、また、油圧式パワーステアリング装置のみのシステムと同様の特性となる。このように、油圧式パワーステアリング装置の操舵補助のみのステアリング装置に比べ操舵フィーリングが悪化することを抑制することができる。
【0037】
以上のように、本実施例によれば、電動パワーステアリング装置と油圧式パワーステアリング装置を併用したシステムにおいて、電動モータが回転または減速機が駆動するときに生じる振動成分や、フリクション等の回転負荷成分を抑制するように、電動モータを駆動制御することで、油圧式パワーステアリング装置による操舵補助のみのステアリング装置に比べ操舵フィーリングが悪化することを抑制することができる。
【実施例2】
【0038】
図4は、本実施例におけるECUの概略機能構成図を示す。図4において、図2と同じ機能は同じ符号を付し、その説明は省略する。なお、駆動回路101、電流センサ102、操舵指令信号生成部300は、図2と同様であり、簡略表示している。
【0039】
本実施例における補正制御信号生成部200は、フリクション補償とトルク変動対策のための補正トルク算出部207を有する。すなわち、補正トルク算出部207は、操舵トルク信号を入力として補正トルクを算出し、図4に示すように、 操舵トルク信号に対して電動モータの出力軸が回転するときや減速機が駆動するときに生じる回転負荷成分(フリクション分)のトルク補償分と、電動モータの出力軸が回転するときや減速機が駆動するときに生じる振動成分(トルクリプル分)を抑えるための傾きをもった特性を持つ。
【0040】
操舵トルク信号は、トルクセンサ81から得られ、トルクセンサ81は、第1のトーションバー82の微少な捩じれに基づき操舵トルク信号を出力可能である。よって、本実施例によれば、電動モータや減速機に起因する振動や回転負荷成分の検出精度が高く、緻密な補正制御信号による補償制御を行うことができる。
【実施例3】
【0041】
図5は、本実施例におけるECUの概略機能構成図を示す。図5において、図2と同じ機能は同じ符号を付し、その説明は省略する。なお、駆動回路101、電流センサ102、操舵指令信号生成部300は、図2と同様であり、簡略表示している。
【0042】
本実施例における補正制御信号生成部200は、フリクション補償部208とトルクリプル対策部209と、それぞれの出力を加減算する加減算部212を有する。
【0043】
フリクション補償部208は、操舵トルクを入力として、電動モータの出力軸が回転するときや減速機が駆動するときに生じる回転負荷成分(フリクション分)のトルクを補償する。
【0044】
また、トルクリプル対策部209は、電動モータの出力軸が回転するときや減速機が駆動するときに生じる振動成分(トルクリプル分)を抑える。具体的には、トルクリプル対策部209は、操舵トルクを入力として、トルク信号のAC成分を抽出するBPF210と、抽出したAC成分に補正ゲインを掛ける補正ゲイン部211を備える。
【0045】
これにより、補正制御信号生成部200は、入力された操舵トルクに対して、モータ出力軸が回転するときに生じる電動モータの振動成分(トルクリプル分)または回転負荷成分(フリクション分)、もしくは減速機が駆動するときに生じる減速機の振動成分(トルクリプル分)または回転負荷成分(フリクション分)を抑制するように補正制御信号であるモータトルク指令を生成する。
【0046】
以上のように、本実施例によれば、BPF210の通過帯域の下限周波数を、除去すべき振動成分の周波数の下限値付近に設定することにより、振動成分を効果的に抑制することができる。
【実施例4】
【0047】
図6は、本実施例におけるECUの概略機能構成図を示す。図6において、図5と同じ機能は同じ符号を付し、その説明は省略する。図6においては、実施例3の図5における補正制御信号生成部200に、さらに、トルクリプル補償部213と、加算部216を有した点で異なる。
【0048】
すなわち、トルクリプル補償部213は、モータ回転角を入力とし、モータ回転角に対する回転角依存のトルクを発生する回転角依存トルク補償部214と、逆数演算を行う逆数演算部215を備える。
【0049】
本実施例によれば、モータの回転角に応じて生じる振動成分や回転負荷成分をアクティブに低減することができる。
【0050】
なお、本実施例では実施例3にトルクリプル補償部213を組合せた例について説明したが、他の実施例と組み合わせてもよい。また、トルクリプル補償部213を単独で使用し、その補正後トルク指令により、操舵指令信号生成部300で、電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成してもよい。
【実施例5】
【0051】
図7は、本実施例におけるECUの概略機能構成図を示す。図7において、図2と同じ機能は同じ符号を付し、その説明は省略する。図7においては、実施例1の図2における補正制御信号生成部200に、さらに、回転数補償成分演算部217と、掛け算部218を有した点で異なる。
【0052】
すなわち、回転数補償成分演算部217は、モータ回転数を入力とし、モータ回転数、すなわちモータ回転速度に応じた振動成分を低減するための補償ゲインを演算する。そして、フリクション補償部201とトルクリプル対策部202との出力を加算した加算部206の出力に、回転数補償成分演算部217の出力を掛け算部218で掛け合わせることで、補正後のトルク指令を得る。なお、入力であるモータ回転数の代わりに操舵角速度を入力してもよい。
【0053】
以上のように、本実施例によれば、モータの回転速度応じた振動成分を低減することができる。
【実施例6】
【0054】
図8は、本実施例におけるECUの概略機能構成図を示す。図8において、実施例4の図6と同じ機能は同じ符号を付し、その説明は省略する。図8において、図6と異なる点は、フリクション補償部208の入力に、操舵トルクのDC成分を抽出するLPF219を有する点である。これにより、LPF219の通過帯域の上限周波数を、除去すべきフリクション成分の周波数の下限値付近に設定することにより、トルクセンサ81から得られる操舵トルク信号のノイズ成分を除去でき、フリクション成分を効果的に抑制することができる。
【0055】
なお、実施例3のBPF210の通過帯域の下限周波数に対し、LPF219の通過帯域の上限周波数は、より低い周波数が設定されている。
【0056】
また、本実施例では実施例4にLPF219を付加した例について説明したが、他の実施例と組み合わせてもよい。また、LPF219とフリクション補償部208でのフリクション補償機能部を単独で使用し、その補正後トルク指令により、操舵指令信号生成部300で、電動モータを駆動制御する操舵指令信号を生成してもよい。
【実施例7】
【0057】
図9は、本実施例におけるECUのフリクション補償機能部の概略機能構成図を示す。本実施例では、図9に示すように、図8のLPF219とフリクション補償部208でのフリクション補償機能部に対して、補正制御信号補正部220と掛け算部221を有した点を特徴とする。すなわち、補正制御信号補正部220は運転状況に応じてトルク補償量を変える機能を有し、補正制御信号補正部220で求めた補正ゲインを掛け算部221で掛け合わせることで、フリクション補償による補正後のトルク指令を得る。
【0058】
本実施例では、運転状況として、レーンキープアシスト指令を行なった場合を想定し、レーンキープアシストモータの駆動指令を入力とし、補正制御信号補正部220で駆動指令に応じて補正ゲインを制御する。具体的には、駆動指令が所定値を超えレーンキープ制御に影響を与えるような場合、補正ゲインを小さくして補正制御信号の値が小さくなるように補正する。この理由は、レーンキープアシスト指令でモータを駆動した場合、操舵トルクによるフリクション補償をすると、操舵トルクを検出するトーションバーが、ハンドル慣性等の影響でねじれ、結果、補正トルク指令がレーンキープアシスト指令のトルクを低下させるように作用してしまう干渉が起こるためであり、これを避けるためである。なお、直進走行中であれば、補正制御信号の補正を行わないように、駆動指令がゼロ近辺では補正ゲインを1とする。
【0059】
なお、運転状況として、車両が決定した走行ルートに応じて電動モータを駆動制御する自動操向制御のために操舵指令信号を生成しているときでもよく、上記と同様に、補正制御信号の補正の仕方を自動操向制御の実施状況に応じて変えることにより、最適な補正制御を行うことができる。
【0060】
このように、本実施例では、振動や回転負荷の発生具合や、振動、回転負荷の抑制制御の必要性等は、車両の運転状況に応じて変化するため、この変化に応じて補正制御信号を補正することで、最適な補正制御を行うことができる。
【0061】
なお、本実施例におけるフリクション補償機能部は単独で使用してもよいし、他の実施例と組み合わせてもよい。
【実施例8】
【0062】
図10は、本実施例におけるECUのフリクション補償機能部の概略機能構成図を示す。本実施例では、図10に示すように、図8のLPF219とフリクション補償部208でのフリクション補償機能部に対して、自動操向制御の有無により切り替える切替えスイッチ222を有した点を特徴とする。すなわち、切替えスイッチ222は車両が決定した走行ルートに応じて電動モータを駆動制御する自動操向制御のために操舵指令信号を生成しているときは、フリクション補償部208からの出力に換えて、フリクション補償による補正後のトルク指令を零とするように切り替える。
【0063】
これにより、本実施例では、フリクション補償による補正後のトルク指令が自動操向制御に与える影響を最小限にすることができる。
【実施例9】
【0064】
図11は、本実施例におけるECUの概略機能構成図を示す。図11において、図2と同じ機能は同じ符号を付し、その説明は省略する。図11においては、実施例1の図2における補正制御信号生成部200に、さらに、回転数補償ゲイン演算部223と、掛け算部218を有した点で異なる。
【0065】
すなわち、回転数補償ゲイン演算部223は、モータ回転角センサから生成されるモータ回転角信号から算出されるモータ回転数を入力とし、モータ回転数が高いほど、補正制御信号の値が小さくなるように補償ゲインを小さくする。なお、入力であるモータ回転数の代わりに操舵角速度を入力してもよい。
【0066】
これにより、本実施例では、モータ回転速度、延いては、ステアリングホイールの操作速度が速いほど、振動成分を感じ難くなるため、この回転速度の上昇に応じて補正制御信号の値を小さくすることで、より自然な操舵フィーリングとすることができる。
【実施例10】
【0067】
図12は、本実施例におけるECUのフリクション補償機能部の概略機能構成図を示す。本実施例では、図12に示すように、図8のLPF219とフリクション補償部208でのフリクション補償機能部に対して、レーンキープ制御判断部224と切替えスイッチ225を有した点を特徴とする。すなわち、レーンキープ制御判断部224は、レーンキープアシスト制御指令とレーンキープモータ駆動指令を入力とし、レーンキープアシスト制御指令を受けても、実際にモータ駆動指令であるレーンキープモータ駆動指令を受け付けた場合に制御状態と判断する。そして、制御状態の場合は、切替えスイッチ225をフリクション補償部208からの出力に換えて、フリクション補償による補正後のトルク指令を零とするように切り替える。すなわち、レーンキープ中で、レーンキープアシストがないとき(モータ駆動指令がないとき)は、フリクション補償を実施する。レーンキープアシストあり(モータ駆動指令あり)のときはフリクション補償を実施しない。
【0068】
これにより、本実施例では、レーンキープ中において、レーンキープによるモータ駆動中は補正制御信号がレーンキープのための電動モータ制御に与える影響を最小限にでき、また、レーンキープによるモータ駆動中でないときは 補正制御が入り、操舵感を改善できる。
【実施例11】
【0069】
図13は、本実施例におけるECUの概略機能構成図を示す。図13において、図2と同じ機能は同じ符号を付し、その説明は省略する。図13においては、実施例1の図2における補正制御信号生成部200に、さらに、温度補償ゲイン演算部226と、掛け算部218を有した点で異なる。
【0070】
すなわち、温度補償ゲイン演算部226は、モータ温度を入力とし、モータ温度が高いときは、減速機に塗布されているグリスの粘性抵抗が低下し、回転負荷が低下するため、補償ゲイン小さくする。なお、入力であるモータ温度の代わりに環境温度を入力してもよい。
【0071】
本実施例によれば、モータ温度や環境温度が高いときは、減速機に塗布されているグリスの粘性抵抗が低下し、回転負荷が低下するため、補正制御信号の値を小さくする等の、温度に応じた補正制御信号の補正を行うことにより、最適な補正制御を行うことができる。
【実施例12】
【0072】
図14は、本実施例におけるECUのフリクション補償機能部の概略機能構成図を示す。本実施例では、図14に示すように、図8のLPF219とフリクション補償部208でのフリクション補償機能部に対して、フリクション補償部208での操舵トルクに対する補償トルク指令値U2を、操舵トルク、モータトルクに対する、操舵角速度、または操舵角加速度に基づき算出する点を特徴とする。すなわち、操舵角速度ゼロ時の操舵トルクとモータトルクを検知し、その状態での定時間内かつ、操舵角速度が出るまでの間の最大値を学習し、それを補償トルク指令値U2とする。
【0073】
具体的には、図14において、ハンドル軸/モータ軸のギア比を乗算する乗算機227により、操舵トルクによるモータ軸トルクを算出し、一方、算出したモータ軸トルクとモータトルク指令値とを加算器228により加算し、トータルのモータ軸トルクを算出する。
【0074】
一方、図1における車両用ステアリング装置1は、操舵角センサを備える。操舵角センサは、第1軸3の回転角を検出し、第1軸3の回転角に関する信号である操舵角信号を出力可能であり、操舵角信号から生成され第1軸3の回転速度に関する信号である操舵角速度信号を入力とし、切替えスイッチ229により操舵角速度信号がゼロの場合に加算器228の出力であるトータルのモータ軸トルクを出力し、操舵角速度信号がゼロでない場合にゼロを出力する。切替えスイッチ229の出力は、絶対値回路230により絶対値が算出され、絶対値回路230の出力をU1とすると、比較器231により、U1と、前回のU1の値であるU2を比較し、U1がU2よりも大きい場合は、記憶部232にU1をU2として記憶する。
【0075】
また、操舵角速度信号がゼロでなくある値をもった時点からタイマ235により時間を計測し、規定時間を経過したら“1”を出力する時間判断部236を有し、時間判断部236の出力と操舵角速度信号のAND演算を行うAND回路237を有する。これにより、AND回路237からは、操舵角速度信号がゼロでない時点から規定時間経過した場合に“1”が出力され、切替えスイッチ233により“1”の場合、比較器231の出力が選択され、操舵角速度がゼロではなく値が出るまでの間のモータ軸トルクの最大値を算出する。そして、それをフリクション補償部208での操舵トルクに対する補償トルク指令値U2とする。
【0076】
なお、操舵角速度信号に換えて、操舵角信号から生成され第1軸3の回転加速度に関する信号である操舵角加速度信号としてもよい。
【0077】
このように、ステアリング装置の経時劣化により、操舵トルク信号の値に対して操舵角速度が遅くなる傾向がある場合には、補正制御信号の値を大きくすることにより、この経時劣化に起因する操舵フィーリングの変化を抑制することができる。
【0078】
以上のように、本実施例によれば、経時劣化や、減速機の馴染み、積荷の積載量の変化、路面抵抗の変化等により変化する操舵応答性に応じたフリクションの変化を学習し、補正制御を行うことができる。
【0079】
以上実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1:車両用ステアリング装置、2:ステアリング、3:第1軸、4:第2軸、5:第3軸、6:伝達機構7:操舵輪、8:電動パワーステアリング装置、9:油圧式パワーステアリング装置、81:トルクセンサ、82:第1のトーションバー、83:ECU、84:電動モータ、85:減速機、91:ロータリバルブ、92:第2のトーションバー、93:パワーシリンダ、100:マイコン、101:駆動回路、102:電流センサ、107:モータ回転角センサ、200:補正制御信号生成部と、201、208:フリクション補償部、202、209:トルクリプル対策部、207:補正トルク算出部、213:トルクリプル補償部、217:回転数補償成分演算部、219:LPF、220:補正制御信号補正部、223:回転数補償ゲイン演算部、224:レーンキープ制御判断部、226:温度補償ゲイン演算部、231:比較器、300:操舵指令信号生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14