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特許7213710複合焼結体、半導体製造装置部材および複合焼結体の製造方法
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  • 特許-複合焼結体、半導体製造装置部材および複合焼結体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】複合焼結体、半導体製造装置部材および複合焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/582 20060101AFI20230120BHJP
   C04B 35/443 20060101ALI20230120BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
C04B35/582
C04B35/443
H01L21/302 101G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019021966
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2019167288
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/011775
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】八木 援
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/056914(WO,A1)
【文献】特開2010-248054(JP,A)
【文献】特開昭63-156073(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054806(WO,A1)
【文献】特開2002-220282(JP,A)
【文献】特開2000-044345(JP,A)
【文献】特開平10-330150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合焼結体であって、
構成結晶相として、窒化アルミニウムと、スピネルと、を含み、
前記構成結晶相として、窒化アルミニウム、スピネルおよび窒化ジルコニウム以外を含まず、
開気孔率は、0.1%未満であり、
相対密度は99.5%以上であり、
前記複合焼結体における前記窒化アルミニウムおよび前記スピネルの合計含有率は、95重量%以上かつ100重量%以下であり、
前記複合焼結体における前記スピネルの含有率は、15重量%以上かつ70重量%以下であり、
前記複合焼結体における構成結晶相としての酸化マグネシウムの含有率は0重量%であり、
前記スピネルの格子定数は、8.075オングストローム以上であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の複合焼結体であって、
前記窒化アルミニウムにマグネシウムが固溶していることを特徴とする複合焼結体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合焼結体であって、
100重量%の窒化アルミニウムを含む焼結体のプラズマエッチングレートを1とした場合、前記複合焼結体のプラズマエッチングレートは0.5以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の複合焼結体であって、
700℃における体積抵抗率は7.0x10Ω・cm以上であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の複合焼結体であって、
600℃における熱伝導率は15W/m・K以上であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項6】
半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材であって、
請求項1ないしのいずれか1つに記載の複合焼結体を用いて作製されていることを特徴とする半導体製造装置部材。
【請求項7】
請求項に記載の半導体製造装置部材であって、
前記複合焼結体を用いて作製され、上面に半導体基板が載置される板状の本体部と、
前記本体部の内部に配置される抵抗発熱体と、
前記本体部の内部にて前記抵抗発熱体と前記本体部の前記上面との間に配置される内部電極と、
を備えることを特徴とする半導体製造装置部材。
【請求項8】
複合焼結体の製造方法であって、
a)窒化アルミニウムと、マグネシウムおよびアルミニウムを含む添加物と、を混合した混合粉末を所定形状の成形体に成形する工程と、
b)前記成形体をホットプレス焼成して窒化アルミニウムおよびスピネルを含む複合焼結体を生成する工程と、
を備え、
前記a)工程において、前記混合粉末における前記窒化アルミニウムおよび前記添加物の合計含有率は、95重量%以上かつ100重量%以下であり、
前記混合粉末は、
酸化マグネシウム換算で5重量%以上かつ18重量%以下のマグネシウムと、
酸化アルミニウム換算で10重量%以上かつ44重量%以下のアルミニウムと、
を含み、
前記b)工程にて生成された前記複合焼結体は、
構成結晶相として、窒化アルミニウムと、スピネルと、を含み、
前記構成結晶相として、窒化アルミニウム、スピネルおよび窒化ジルコニウム以外を含まず、
開気孔率は、0.1%未満であり、
相対密度は99.5%以上であり、
前記複合焼結体における前記窒化アルミニウムおよび前記スピネルの合計含有率は、95重量%以上かつ100重量%以下であり、
前記複合焼結体における前記スピネルの含有率は、15重量%以上かつ70重量%以下であり、
前記複合焼結体における構成結晶相としての酸化マグネシウムの含有率は0重量%であり、
前記スピネルの格子定数は、8.075オングストローム以上であることを特徴とする複合焼結体の製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の複合焼結体の製造方法であって、
前記添加物は、スピネルおよび酸化マグネシウムを含むことを特徴とする複合焼結体の製造方法。
【請求項10】
請求項またはに記載の複合焼結体の製造方法であって、
前記添加物は、酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムを含むことを特徴とする複合焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合焼結体、半導体製造装置部材および複合焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板の製造装置において、サセプターにより支持された半導体基板に対して、処理ガスを励起して生成されたプラズマによる成膜やエッチング等のプラズマ処理が施されている。
【0003】
例えば、特許第4641569号公報(特許文献1)に記載されているサセプターでは、窒化アルミニウム質焼結体により形成された耐食性部材の内部に、抵抗発熱体および電極が埋設されている。当該耐食性部材は、プラズマ耐食性の向上および高抵抗化を図るために、窒化アルミニウムに酸化マグネシウムを0.1重量%~10重量%加えてホットプレス焼成することにより形成される。また、当該耐食性部材には、高い熱伝導率も求められる。
【0004】
また、特開2002-220282号公報(特許文献2)では、窒化アルミニウムに希土類化合物およびMgAlを加えて焼成することにより、熱伝導率および体積抵抗率が高い窒化アルミニウム焼結体を得る技術が提案されている。文献2では、窒化アルミニウムに対する酸化イットリウム(Y)およびMgAlの添加量を変更した実施例および比較例が開示されており、実施例中においてMgAlの添加量が最も多い実施例5では、窒化アルミニウム100重量部および酸化イットリウム(Y)5重量部に対して、MgAlが15重量部添加されている。換言すれば、実施例5の窒化アルミニウム焼結体におけるMgAlの含有率は、12.5重量%である。
【0005】
特開平5-190255号公報(特許文献3)では、窒化アルミニウム製点火プラグ用絶縁碍子において、粒界相による熱間絶縁抵抗の改良を目的として、焼結前にマグネシウムが添加される。焼結体に対するマグネシウムの含有率は、0.001~0.3重量%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4641569号公報
【文献】特開2002-220282号公報
【文献】特開平5-190255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の耐食性部材において、プラズマ耐食性を向上させるために酸化マグネシウムの添加量を増大させると、酸化マグネシウムの添加量が5重量%以上の範囲において、700℃における体積抵抗率が低下する。耐食性部材の体積抵抗率が低いと、耐食性部材内部の抵抗発熱体と電極との間でリーク電流が生じ、半導体基板の加熱温度や半導体基板に付与されるプラズマの制御が乱れるおそれがある。
【0008】
また、特許文献2では、比較例1として、窒化アルミニウム焼結体におけるMgAlの含有率が16重量%のものが挙げられており、MgAlの含有率がこのように高くなると、緻密な焼結体が得らず、熱伝導率も低くなると記載されている。ちなみに、比較例1における窒化アルミニウム焼結体の相対密度は98.9%と低く、上述の実施例5における窒化アルミニウム焼結体の相対密度も99.1%と高くない。特許文献3では、マグネシウム化合物は焼結過程で昇華しやすい点、および、焼結体に対するマグネシウムの含有率が0.3重量%を超えると、マグネシウム化合物の昇華により焼結体に気孔が生じて電気特性が悪化する点が記載されている。
【0009】
本発明は、複合焼結体に向けられており、高いプラズマ耐食性、高い体積抵抗率、および、高い熱伝導率を有する高密度の複合焼結体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好ましい一の形態に係る複合焼結体は、構成結晶相として、窒化アルミニウムと、スピネルと、を含み、前記構成結晶相として、窒化アルミニウム、スピネルおよび窒化ジルコニウム以外を含まない。前記複合焼結体の開気孔率は、0.1%未満である。前記複合焼結体の相対密度は99.5%以上である。前記複合焼結体における前記窒化アルミニウムおよび前記スピネルの合計含有率は、95重量%以上かつ100重量%以下である。前記複合焼結体における前記スピネルの含有率は、15重量%以上かつ70重量%以下である。前記複合焼結体における構成結晶相としての酸化マグネシウムの含有率は0重量%である。前記スピネルの格子定数は、8.075オングストローム以上である。本発明によれば、高いプラズマ耐食性、高い体積抵抗率、および、高い熱伝導率を有する高密度の複合焼結体を提供することができる。
【0013】
好ましくは、前記窒化アルミニウムにマグネシウムが固溶している。
【0014】
好ましくは、100重量%の窒化アルミニウムを含む焼結体のプラズマエッチングレートを1とした場合、前記複合焼結体のプラズマエッチングレートは0.5以下である。
【0015】
好ましくは、前記複合焼結体の700℃における体積抵抗率は7.0x10Ω・cm以上である。
【0016】
好ましくは、前記複合焼結体の600℃における熱伝導率は15W/m・K以上である。
【0017】
本発明は、半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る半導体製造装置部材は、上述の複合焼結体を用いて作製されている。本発明によれば、高いプラズマ耐食性、高い体積抵抗率、および、高い熱伝導率を有する高密度の半導体製造装置部材を提供することができる。
【0018】
好ましくは、前記半導体製造装置部材は、前記複合焼結体を用いて作製され、上面に半導体基板が載置される板状の本体部と、前記本体部の内部に配置される抵抗発熱体と、前記本体部の内部にて前記抵抗発熱体と前記本体部の前記上面との間に配置される内部電極と、を備える。
【0019】
本発明は、複合焼結体の製造方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る複合焼結体の製造方法は、a)窒化アルミニウムと、マグネシウムおよびアルミニウムを含む添加物と、を混合した混合粉末を所定形状の成形体に成形する工程と、b)前記成形体をホットプレス焼成して窒化アルミニウムおよびスピネルを含む複合焼結体を生成する工程と、を備える。前記a)工程において、前記混合粉末における前記窒化アルミニウムおよび前記添加物の合計含有率は、95重量%以上かつ100重量%以下である。前記混合粉末は、酸化マグネシウム換算で6重量%以上かつ18重量%以下のマグネシウムと、酸化アルミニウム換算で10重量%以上かつ44重量%以下のアルミニウムと、を含む。前記b)工程にて生成された前記複合焼結体は、構成結晶相として、窒化アルミニウムと、スピネルと、を含み、前記構成結晶相として、窒化アルミニウム、スピネルおよび窒化ジルコニウム以外を含まない。前記複合焼結体の開気孔率は、0.1%未満である。前記複合焼結体の相対密度は99.5%以上である。前記複合焼結体における前記窒化アルミニウムおよび前記スピネルの合計含有率は、95重量%以上かつ100重量%以下である。前記複合焼結体における前記スピネルの含有率は、15重量%以上かつ70重量%以下である。前記複合焼結体における構成結晶相としての酸化マグネシウムの含有率は0重量%である。前記スピネルの格子定数は、8.075オングストローム以上である。本発明によれば、高いプラズマ耐食性、高い体積抵抗率、および、高い熱伝導率を有する高密度の複合焼結体を容易に製造することができる。
【0020】
好ましくは、前記添加物は、スピネルおよび酸化マグネシウムを含む。
【0021】
好ましくは、前記添加物は、酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムを含む。
【0022】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高いプラズマ耐食性、高い体積抵抗率、および、高い熱伝導率を有する高密度の複合焼結体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一の実施の形態に係るサセプター1の断面図である。
図2】複合焼結体の製造の流れを示す図である。
図3】比較例の複合焼結体のX線回折パターンである。
図4】実施例の複合焼結体のX線回折パターンである。
図5】比較例の複合焼結体の元素マッピング像である。
図6】実施例の複合焼結体の元素マッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るサセプター1の断面図である。サセプター1は、半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材である。サセプター1は、略円板状の半導体基板9(以下、単に「基板9」と呼ぶ。)を、図1中の下側から保持する。以下の説明では、図1中の上側および下側を、単に「上側」および「下側」と呼ぶ。また、図1中の上下方向を、単に「上下方向」と呼ぶ。図1中の上下方向は、サセプター1が半導体製造装置に設置される際の実際の上下方向と必ずしも一致する必要はない。
【0026】
サセプター1は、本体部21と、抵抗発熱体22と、内部電極23とを備える。本体部21は、後述する複合焼結体を用いて作成された略板状(例えば、略円板状)の部材である。本体部21の上面211上には基板9が載置される。抵抗発熱体22および内部電極23は、本体部21の内部に配置(すなわち、埋設)される。本体部21の内部において、抵抗発熱体22は、内部電極23と本体部21の下面212との間に配置される。換言すれば、内部電極23は、抵抗発熱体22と本体部21の上面211との間に配置される。
【0027】
抵抗発熱体22は、例えば、コイル状に巻回された金属線により形成される。抵抗発熱体22は、平面視において、本体部21の略全面に亘る略同心円状のパターンにて配線された連続する部材である。半導体製造装置では、図示省略の電力供給源から抵抗発熱体22に電力が供給されることにより、抵抗発熱体22が発熱し、本体部21の温度が上昇する。これにより、本体部21の上面211上に載置された基板9が所定の温度に加熱される。抵抗発熱体22は、基板9を加熱するためのヒーター電極である。
【0028】
内部電極23は、例えば、金属製の略円板状の部材である。内部電極23は、例えば、プラズマ処理用のRF電極(すなわち、高周波電極)である。半導体製造装置では、図示省略の高周波電力供給源から内部電極23に高周波電力が供給される。これにより、サセプター1と、サセプター1の上方に配置された上部電極との間の処理空間において、処理ガスが励起されてプラズマが生成される。そして、当該プラズマにより基板9上に成膜やエッチング等のプラズマ処理が施される。
【0029】
抵抗発熱体22および内部電極23は、比較的高い融点を有する金属により形成されることが好ましい。当該金属として、例えば、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、レニウム(Re)、ハフニウム(Hf)、または、これらの合金が用いられる。
【0030】
サセプター1の本体部21は、窒化アルミニウム(AlN)と、スピネル(MgAl)とを含む複合焼結体を用いて作製される。以下の説明では、本体部21の全体が当該複合焼結体を用いて作製されるものとして説明する。
【0031】
本体部21を構成する複合焼結体(以下、単に「複合焼結体」と呼ぶ。)の主相は、上述のAlNおよびMgAlである。具体的には、複合焼結体におけるAlNおよびMgAlの合計含有率は、95重量%~100重量%であり、好ましくは98重量%~100重量%である。また、複合焼結体におけるMgAlの含有率は、15重量%~70重量%であり、好ましくは20重量%~60重量%であり、より好ましくは25重量%~50重量%である。複合焼結体におけるAlNの含有率は、25重量%~85重量%であり、好ましくは35重量%~80重量%であり、より好ましくは45重量%~75重量%である。
【0032】
当該複合焼結体に含まれるMgAlの格子定数は、8.075オングストローム以上であることが好ましい。複合焼結体では、好ましくは、AlNにマグネシウム(Mg)が固溶している。複合焼結体は、好ましくは、酸化マグネシウム(MgO)結晶相を実質的に含まない。換言すれば、複合焼結体におけるMgO結晶相の含有率は、実質的に0重量%であることが好ましい。
【0033】
複合焼結体の開気孔率は、0.1%未満であり、好ましくは0.05%未満である。複合焼結体の相対密度は、99.5%以上であり、好ましくは99.7%以上である。700℃における複合焼結体の体積抵抗率は、好ましくは7.0x10Ω・cm以上であり、より好ましくは1.0x10Ω・cm以上であり、さらに好ましくは3.0x10Ω・cm以上である。当該体積抵抗率の上限は特には限定されないが、典型的には、当該体積抵抗率は1.0x1010Ω・cm以下である。600℃における複合焼結体の熱伝導率は、好ましくは15W/m・K以上であり、より好ましくは20W/m・K以上であり、さらに好ましくは30W/m・K以上である。当該熱伝導率の上限は特には限定されないが、典型的には、当該熱伝導率は50W/m・K以下である。
【0034】
次に、図2を参照しつつ上述の複合焼結体(すなわち、サセプター1の本体部21)の製造方法について説明する。複合焼結体を製造する際には、まず、AlNと添加物とを混合した混合粉末を得る。当該添加物は、マグネシウム(Mg)およびアルミニウム(Al)を含む。そして、当該混合粉末を所定形状の成形体に成形する(ステップS11)。例えば、ステップS11では、AlNおよび添加物の粉末が、有機溶媒中で湿式混合されることによりスラリーとされる。続いて、当該スラリーが乾燥されて混合粉末(すなわち、調合粉末)とされ、当該混合粉末が上記成形体に成形される。また、AlNおよび添加物の粉末は、湿式混合ではなく、乾式混合により混合されてもよい。
【0035】
当該混合粉末は、例えば、ホットプレスダイスに充填されることにより、所定形状の成形体に成形される。成形体の形状が板状である場合には、混合粉末は一軸加圧成形用の金型等に充填されることにより成形されてもよい。当該成形体の成形は、形状を保持できるのであれば、他の様々な方法により行われてもよい。また、前述のスラリーのように、流動性のある状態のままモールドに流し込んだ後に溶媒成分を除去し、所定形状の成形体としてもよい。ステップS11で成形される成形体は、例えば、本体部21と略同形状の略円板状である。
【0036】
ステップS11において、上記混合粉末におけるAlNおよび添加物の合計含有率は、95重量%~100重量%である。上記混合粉末は、MgO換算で5重量%~18重量%のMgと、酸化アルミニウム(Al)換算で10重量%~44重量%のAlと、を含む。当該添加物は、例えば、MgAlおよびMgOを含む。あるいは、添加物は、MgOおよびAlを含んでいてもよい。添加物は、MgAl、MgOおよびAlを含んでいてもよい。
【0037】
ステップS11において成形体が得られると、当該成形体がホットプレス焼成され、AlNおよびMgAlを含む上述の複合焼結体が生成される(ステップS12)。ステップS12では、ホットプレスダイス(例えば、カーボン治具)に成形体が配置されて加熱および加圧されることにより、複合焼結体が得られる。成形体の焼成は、例えば真空雰囲気下または非酸化性雰囲気下で行われる。ホットプレス時の加熱温度、プレス圧力および焼成時間は、適宜決定されてよい。ホットプレス時の加熱温度の最高温度は、好ましくは1650℃~1800℃である。
【0038】
ステップS12では、ホットプレスダイスの密閉性が高いため、MgAl中のMgOが還元されてMgが生成されることが抑制される。これにより、還元されたMg(沸点1091℃)が揮発して複合焼結体に気孔が生成されることが抑制される。その結果、高密度の複合焼結体(すなわち、緻密な複合焼結体)を得ることができる。
【0039】
上述の添加物がMgAlおよびMgOを含んでおり、Alを含んでいない場合、ステップS12のホットプレス焼成において、添加物中のMgOと、AlNの粉末に不可避的に不純物として含まれているAl(すなわち、AlNの粉末表面に生じる酸化膜等であり、以下、「不純物Al」とも呼ぶ。)とが反応し、MgAlが生成される。したがって、添加物中のMgOの物質量は、AlNの粉末に不純物として含まれるAlの物質量と略同じであることが好ましい。添加物中のMgOの物質量が不純物Alの物質量よりも大きい場合、不純物Alと反応しなかったMgOが、ステップS12にて生成される複合焼結体内に残存する。
【0040】
添加物がMgOおよびAlを含んでおり、MgAlを含んでいない場合、ステップS12のホットプレス焼成において、添加物中のMgOと、添加物中のAl、および、AlN中の不純物Alとが反応し、MgAlが生成される。したがって、添加物中のMgOの物質量は、添加物中のAlの物質量および不純物Alの物質量の合計と、略同じであることが好ましい。添加物中のMgOの物質量が、添加物中のAlおよび不純物Alの合計物質量よりも大きい場合、Alと反応しなかったMgOが、ステップS12にて生成される複合焼結体内に残存する。添加物がMgAl、MgOおよびAlを含んでいる場合においても同様である。
【0041】
抵抗発熱体22および内部電極23は、例えば、ステップS11と並行して上記成形体の内部に金属材料が埋設され、ステップS12において当該金属材料が成形体と共に焼成されることにより、本体部21の内部に生成されてもよい。あるいは、抵抗発熱体22および内部電極23は、ステップS11~S12により生成された2つの複合焼結体の間に挟まれることにより、当該2つの複合焼結体により形成される本体部21の内部に配置されてもよい。抵抗発熱体22および内部電極23の生成および配置は、様々な方法により行われてよい。
【0042】
次に、表1~表3を参照しつつ本発明に係る複合焼結体の実施例1~19、および、当該複合焼結体と比較するための比較例1~11の複合焼結体について説明する。表1では、複合焼結体の原料組成および焼成温度を示す。当該原料組成では、AlN100重量部に対する他の原料の重量部(すなわち、AlN原料に対する重量比)を示す。
【0043】
表1に示すように、比較例1では、AlNのみを原料としており、MgO、MgAlおよびAl等の添加物は原料に含まれていない。比較例2~5は、AlNおよびMgOのみを原料としており、MgAlおよびAlは原料に含まれていない。
【0044】
実施例1~12,18~19および比較例6~11では、原料がMgAlを含む。実施例18および比較例6では、原料はAlNおよびMgAlを含み、MgOおよびAlは含まない。実施例1~12,19および比較例7~11では、原料はAlN、MgOおよびMgAlを含み、Alは含まない。実施例1~4および比較例6~9と、実施例5~8,18~19および比較例10と、実施例9~12および比較例11とでは、焼成温度がそれぞれ異なる。実施例13~17では、原料はAlN、MgOおよびAlを含み、MgAlは含まない。実施例14~17では、原料に含まれるAlは、Alの粉末を添加したものではなく、原料に含まれるAlNを大気中で熱処理(例えば、900℃)して酸化させることにより得た。実施例15~17では、後述するボールミルによる混合時等に混入する可能性のある不純物である酸化ジルコニウム(ZrO)の影響を検証するために、少量のZrO粉末を当該不純物とは別に原料に添加している。
【0045】
<原料粉末>
原料として利用したAlNは、平均粒径1.3μm、酸素含有量0.8重量%の市販のAlN粉末である。原料として利用したMgOは、平均粒径1.2μm、純度99.9%以上の市販のMgO粉末である。原料として利用したAlは、平均粒径0.2μm、純度99.9%以上の市販のAl粉末である。原料として利用したZrOは、比表面積15m/g、純度99.9%以上の市販のZrO粉末である。
【0046】
原料として利用したMgAlは、次に示す方法で作製したMgAl粉末である。MgAl粉末を作製する際には、まず、上述の市販のMgO粉末(平均粒径1.2μm、純度99.9%以上)と、上述の市販のAl粉末(平均粒径0.2μm、純度99.9%以上)とを、等物質量(すなわち、等mol量)で秤量し、ボールミルにて4時間、湿式混合した。当該湿式混合で利用した溶媒は、イソプロピルアルコール(IPA)である。また、ボールミルのボールは、ZrO製である。続いて、湿式混合により得られたスラリーを窒素(N)雰囲気下で乾燥させ、100メッシュ篩により整粒した。
【0047】
次に、整粒後の粉末を大気中において1300℃にて熱処理してMgAl合成粉末を生成し、当該合成粉末をボールミルにて6時間、湿式粉砕した。当該湿式粉砕で利用した溶媒はIPAである。また、ボールミルのボールは、ZrO製である。そして、湿式粉砕により得られたスラリーをN雰囲気下で乾燥させ、100メッシュ篩により整粒して、原料となるMgAl粉末を得た。当該MgAl粉末の平均粒径は0.2μmであった。
【0048】
<混合粉末>
上記原料粉末を表1に示す重量%となるように秤量し、ボールミルにて20時間、湿式混合した。当該湿式混合で利用した溶媒は、IPAである。また、ボールミルのボールは、ZrO製である。そして、湿式混合により得られたスラリーをN雰囲気下で乾燥させ、100メッシュ篩により整粒して、原料となる混合粉末を得た。当該混合粉末において、ZrO製ボールに起因する不純物であるZrOの含有率は、0.5~1.5重量%であった。
【0049】
<成形>
上記混合粉末を、100~150kgf/cmの圧力で一軸加圧成形し、φ50mm、厚さ20mm程度の円板状成形体を作成し、ホットプレスダイスに収納した。成形圧力は特に制限はなく、形状が保持できるのであれば様々に変更されてよい。混合粉末は、未成形の粉の状態で、ホットプレスダイスに充填されてもよい。
【0050】
<焼成>
上記成形体をホットプレス法により焼成した。プレス圧力は、200kgf/cmとした。加熱時の最高温度は1650℃~1800℃であり、最高温度での保持時間は8時間とした。最高温度で8時間保持した後、1200℃まで300℃/hにて冷却して焼成を完了した。焼成雰囲気は、室温~1000℃の間は真空雰囲気とし、1000℃到達後にNガスを1.5気圧(0.152MPa)分導入した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
<評価>
上述の焼成によって得られた複合焼結体を各種評価用に加工し、表2~表3に記載の評価を行った。
【0055】
複合焼結体の構成相については、複合焼結体を乳鉢で粉砕して内部標準試料であるケイ素(Si)粉末を添加混合した粉末に対して、X線回折(XRD:X-ray diffraction)装置により結晶相を同定した。測定条件はCuKα,40kV,40mA,2θ=20~80°とし、封入管式X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製 D8-ADVANCE)を使用した。測定のステップ幅は0.02°とした。
【0056】
複合焼結体におけるMgAlの含有率は、構成相の各重量比率が既知の混合物のX線回折パターンから、検量線を用いて導出した以下の式1により算出した。
【0057】
(式1)
MgAlの量(重量%)=(1.0×MgAlの(311)面ピーク強度)/(1.0×AlNの(100)面ピーク強度+1.0×MgAlの(311)面ピーク強度+0.22×ZrNの(200)面ピーク強度+1.8×MgOの(200)面ピーク強度)×100。
【0058】
同様の方法により算出した実施例1~19および比較例6~11の複合焼結体におけるMgOの含有率は、0重量%~2重量%であった。なお、含有率0重量%とは、XRDにて縦軸を平方根スケールとしても結晶相のメーンピークが見られないことを言う。例えば、後述する図4において、2θ=43°付近のMgOのメーンピークは見られないため、MgO結晶相の含有率は0重量%である、と判断できる。また、同様の方法により算出した実施例1~14,18~19および比較例6~11(すなわち、ZrOの粉末を意図的には添加していない実施例)の複合焼結体における窒化ジルコニウム(ZrN)の含有率は、0.5重量%~1.5重量%であった。当該ZrNは、ボールミルのボールに起因する不純物(いわゆる、玉石コンタミ)であるZrOが焼成により窒化したものである。
【0059】
MgAlの格子定数は、ソフトウェア(ブルカー・エイエックスエス株式会社製 TOPAS)を用いたWPPD法(粉末パターンフィッティング法)により算出した。
【0060】
開気孔率および嵩密度は、純水を媒体としたアルキメデス法により測定した。
【0061】
相対密度は、嵩密度を理論密度で除算した値の百分率である。理論密度は、上述の方法(式1参照)により算出した含有率(重量%)と、各結晶相の理論密度とに基づいて求めた。AlNの理論密度は3.26(g/cm)であり、MgAlの理論密度は3.58(g/cm)であり、ZrNの理論密度は7.29(g/cm)であり、MgOの理論密度は3.56(g/cm)である。
【0062】
体積抵抗率は、「JIS C2141」に準じた方法により、真空雰囲気下にて測定した。試験片形状は、φ50mmx1mmとした。主電極の直径は20mmである。ガード電極の内径および外径はそれぞれ、30mmおよび40mmである。印加電極の直径45mmである。主電極、ガード電極および印加電極は、Ag(銀)で形成した。印加電圧は500V/mmとした。電圧印加から1分後の電流値を読み取り、当該電流値から体積抵抗率を算出した。表2では、室温、600℃および700℃のそれぞれにおける体積抵抗率を示す。
【0063】
エッチングレートは、以下の条件で各実施例および各比較例の複合焼結体に所定時間のプラズマエッチングを施し、複合焼結体上におけるエッチングの深さを、比較例1の焼結体上におけるエッチングの深さで除算して求めた。これにより、比較例1の焼結体のプラズマエッチングレートを1とした場合の複合焼結体のプラズマエッチングレート(以下、「相対エッチングレート」と呼ぶ。)が求められる。相対エッチングレートが小さい方が、プラズマ耐食性が高い。複合焼結体の相対エッチングレートは、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.35以下である。
【0064】
当該プラズマエッチングでは、複合焼結体を鏡面研磨してチャンバ内に設置し、ICP(Inductively Coupled Plasma)方式の高周波プラズマ環境下に24時間曝露させた。チャンバ内には、塩素(Cl)ガスを流量300ml/minにて供給し、Nガスを流量100ml/minにて供給した。チャンバ内圧は、0.1Torr(約13.3Pa)とした。プラズマ生成用の供給電力は800Wとした。複合焼結体の上面の一部にはマスクを設けており、プラズマエッチング後における複合焼結体のマスク面と、曝露面(すなわち、マスクが設けられていない面)との段差を、エッチングの深さとして得た。
【0065】
熱伝導率は、複合焼結体の比熱および熱拡散率をそれぞれ、真空中における示差走査熱量法(DSC)およびレーザーフラッシュ法により測定し、比熱、熱拡散率および嵩密度を乗算することにより算出した。表2では、室温および600℃のそれぞれにおける熱伝導率を示す。
【0066】
<比較例1~5>
比較例1~5の焼成温度は1800℃である。比較例1の焼結体の構成相は、AlN単相であった。700℃における体積抵抗率は、1.0×10Ω・cm未満と低い。比較例2の焼結体の構成相も、AlN単相であった。原料として添加したMgOは、AlN粒内に固溶した状態として含まれるが、Mgの量が少ないため、700℃における体積抵抗率は、1.0×10Ω・cm未満と低い。
【0067】
比較例3~5の焼結体の構成相は、AlNおよびMgOである。原料として添加したMgOは、AlN粒内に固溶した状態、および、MgOとして含まれる。比較例3では、700℃における体積抵抗率は1.0×10Ω・cm以上であるが、エッチングレートが0.5よりも大きく、プラズマ耐食性が低い。一方、比較例4~5では、エッチングレートは0.5以下であるが、700℃における体積抵抗率が1.0×10Ω・cm未満である。比較例5では、700℃における体積抵抗率は、7.0×10Ω・cm未満である。
【0068】
<比較例6~8>
比較例6~8では、原料中のMgAlの量は同じであり、MgOの量は互いに異なる。また、比較例6~8の焼成温度は1800℃である。比較例6では、原料にMgOが含まれておらず、複合焼結体の構成相は、AlN、MgAlおよびZrNであった。MgAlの含有率は、15重量%未満であった。ZrNは、上述のように、ボールミルのボールに起因する不純物ZrOが、焼成により窒化したものである。ZrNは微量であるため、複合焼結体の特性に対する実質的な影響はない。実施例1~14および比較例7~11においても同様である。
【0069】
比較例7のMgOは、焼成により、比較例1~5と同様にAlNに固溶するのに加え、不純物Alと反応してMgAlとなった。このため、比較例7の複合焼結体の構成相は、AlN、MgAlおよびZrNであった。比較例8では、比較例7よりもMgOが多いため、複合焼結体中にMgOが残存した。比較例8の複合焼結体の構成相は、AlN、MgAl、MgOおよびZrNであった。比較例7~8のMgAlの含有率は、15重量%未満であった。
【0070】
比較例6~8では、700℃における体積抵抗率は7.0×10Ω・cm以上であり、相対エッチングレートは0.5以下であり、600℃における熱伝導率は30W/m・K以上であった。比較例7では、700℃における体積抵抗率は1.0×10Ω・cm以上であった。比較例7では、比較例6よりも原料中のMgOが多いため、複合焼結体中のAlNへのMgの固溶も多くなり、体積抵抗率が高くなったと考えられる。
【0071】
比較例6のMgAlの格子定数は8.071Å(オングストローム)であり、理論値(すなわち、MgAl中のMgOおよびAlの物質量の比が1:1である場合の格子定数)である8.083Åよりも小さい。したがって、比較例6のMgAlは、MgOの比率が比較的小さいMgAlである。一方、比較例7のMgAlの格子定数は8.084Åであり、理論値と略同じである。このため、比較例7の複合焼結体の体積抵抗率は、比較例6よりも高くなったと考えられる。また、比較例6では、複合焼結体中のMg成分がMgAlを構成するために使用され、AlNへのMgの固溶が比較例7よりも少なくなったと考えられる。これによっても、比較例7の体積抵抗率が比較例6よりも高くなったと考えられる。
【0072】
<実施例1~4および比較例9>
実施例1~4および比較例9では、原料中のMgOの量は比較例7と同じであり、MgAlの量は互いに異なる。また、実施例1~4および比較例9の焼成温度は1800℃である。実施例1~4および比較例9の複合焼結体の構成相は、比較例7と同様に、AlN、MgAlおよびZrNであった。実施例1~4のMgAlの含有率は、15重量%以上であった。比較例9のMgAlの含有率は、15重量%未満であった。
【0073】
実施例1~4では、700℃における体積抵抗率は1.0×10Ω・cm以上であり、相対エッチングレートは0.5以下であり、600℃における熱伝導率は15W/m・K以上であった。実施例1~2では、600℃における熱伝導率は30W/m・K以上であった。実施例3~4では、相対エッチングレートは0.35以下であった。実施例1~4の相対密度は、99.5%以上(詳細には、99.7%以上)であった。
【0074】
<実施例5~8および比較例10>
実施例5~8および比較例10では、原料中のMgOの量は比較例7と同じであり、MgAlの量は互いに異なる。実施例5~8および比較例10の原料中のMgAlの量はそれぞれ、実施例1~4および比較例9の原料中のMgAlの量と同じである。また、実施例5~8および比較例10の焼成温度は1700℃である。実施例5~8および比較例10の複合焼結体の構成相は、比較例7と同様に、AlN、MgAlおよびZrNであった。実施例5~8のMgAlの含有率は、15重量%以上であった。比較例10のMgAlの含有率は、15重量%未満であった。
【0075】
実施例5~8では、700℃における体積抵抗率は1.0×10Ω・cm以上であり、相対エッチングレートは0.5以下であり、600℃における熱伝導率は15W/m・K以上であった。実施例5~6では、600℃における熱伝導率は30W/m・K以上であった。実施例7~8では、相対エッチングレートは0.35以下であった。実施例5~8の相対密度は、99.5%以上(詳細には、99.7%以上)であった。
【0076】
<実施例9~12および比較例11>
実施例9~12および比較例11では、原料中のMgOの量は比較例7と同じであり、MgAlの量は互いに異なる。9~12および比較例11の原料中のMgAlの量はそれぞれ、実施例1~4および比較例9の原料中のMgAlの量と同じである。また、実施例9~12および比較例11の焼成温度は1650℃である。実施例9~12および比較例11の複合焼結体の構成相は、比較例7と同様に、AlN、MgAlおよびZrNであった。実施例9~12のMgAlの含有率は、15重量%以上であった。比較例11のMgAlの含有率は、15重量%未満であった。
【0077】
実施例9~12では、700℃における体積抵抗率は1.0×10Ω・cm以上であり、相対エッチングレートは0.5以下であり、600℃における熱伝導率は15W/m・K以上であった。実施例9~10では、600℃における熱伝導率は30W/m・K以上であった。実施例11~12では、相対エッチングレートは0.35以下であった。実施例9~12の相対密度は、99.5%以上(詳細には、99.7%以上)であった。
【0078】
<実施例13~17>
実施例13~17では、実質的な原料中のMgOおよびAlの量は同じである。表1中のZrOの量は、上述のボールミルのボールに起因する不純物ZrOとは別に原料に添加されたZrOの量である。上述のように、実施例13では、上記市販のAl粉末が原料に添加されており、実施例14~17では、原料のAlNを大気下900℃で一部酸化させて生成したAlが原料に含まれている。また、実施例13~17の焼成温度は1700℃である。
【0079】
実施例13~17のMgOの物質量は、原料に添加された上記Al、および、AlNの粉末に不可避的に不純物として含まれているAl(すなわち、不純物Al)の合計物質量よりも多く、焼成によりAlNに固溶するのに加え、Alと反応してMgAlとなった。このため、実施例13~17の複合焼結体の構成相は、AlN、MgAlおよびZrNであった。実施例13~17のMgAlの含有率は、15重量%以上であった。
【0080】
実施例13~17では、700℃における体積抵抗率は1.0×10Ω・cm以上であり、相対エッチングレートは0.5以下であり、600℃における熱伝導率は15W/m・K以上であった。実施例13~17の相対密度は、99.5%以上(詳細には、99.7%以上)であった。実施例13~14から、添加物はMgAlに限らず、AlとMgOとの混合物でもよく、さらにAlは原料AlNを酸化させることにより生成されてもよいことがわかる。また、実施例14~17から、原料中に0.5~2.0重量部のZrOを添加した場合であっても、生成される複合焼結体の特性に与える影響はほとんどないことが分かる。
【0081】
<実施例18~19>
実施例18~19では、原料中のMgAlの量は実施例7と同じであり、MgOの量は実施例7よりも少ない。また、実施例18~19の焼成温度は、実施例7と同様に1700℃である。実施例18~19の複合焼結体の構成相は、実施例7と同様に、AlN、MgAlおよびZrNであった。実施例18~19のMgAlの含有率は、15重量%以上であった。
【0082】
実施例18~19では、700℃における体積抵抗率は、1.0×10Ω・cm以上であり、詳細には、1.0×10Ω・cm以上であった。実施例18~19では、相対エッチングレートは0.35以下であり、600℃における熱伝導率は20W/m・K以上であった。実施例18~19の相対密度は、99.5%以上(詳細には、99.7%以上)であった。
【0083】
実施例19では、原料に添加されたMgOの物質量は、AlNの粉末に不可避的に不純物として含まれているAl(すなわち、不純物Al)の物質量よりも少ない。また、実施例18では、原料に添加されたMgOの物質量は、0である。しかしながら、実施例18~19では、比較例6とは異なり、原料に添加されたMgAlの物質量が比較的多いため、複合焼結体の特性に対する不純物Alの影響が小さいと考えられる。したがって、複合焼結体に含まれるMgAlの格子定数は、理論値である8.083Åからほとんど変化せず、複合焼結体の体積抵抗率は、比較例6に比べて低下しなかったと考えられる。
【0084】
<実施例1~19>
実施例1~19の複合焼結体におけるMgAlの含有率は、15重量%~70重量%であった。また、実施例1~19の複合焼結体の開気孔率は、0.05%未満であった。実施例1~19の複合焼結体の相対密度は、99.5%以上(詳細には、99.7%以上)であった。
【0085】
<構成相の比較>
図3および図4はそれぞれ、比較例4および実施例2の複合焼結体について、構成相を上記X線回折装置により同定した際のX線回折パターンを示す。比較例4では、2θ=32°、35°および49°近傍において、非晶質による散乱光に対応するハローが現れている。当該非晶質は、原料中のAlNと余剰MgO(すなわち、AlNに固溶しないMgO)とが焼成により反応して生成されたMgAlON等と考えられる。比較例4の複合焼結体では、当該非晶質を含むことにより体積抵抗率および熱伝導率の低下が生じていると考えられる。一方、実施例2では、比較例4のようなハローは現れておらず、Mg成分は安定なMgAl結晶相として複合焼結体中に存在している。このため、実施例2の複合焼結体では、高い体積抵抗率および熱伝導率が実現されると考えられる。
【0086】
図5および図6はそれぞれ、比較例3および実施例6の複合焼結体について、FE-EPMA(電界放出型電子線マイクロアナライザ)により得たMgの元素マッピング像(倍率3000倍)である。元素マッピング像は、濃度に応じて、赤・橙・黄・黄緑・緑・青・藍に色分けされており、赤が最も高濃度、藍が最も低濃度、黒はゼロを表す。しかし、図5および図6はモノクロで表示されているため、以下に図5および図6の本来の色について説明する。図5の比較例3では、地色が藍色~青色であり、1つの点状の部分が黄緑色~赤色であった。当該点状の部分はMgOに対応し、地色の部分はAlNに固溶したMgに対応する。図6の実施例6では、地色が藍色~青色であり、複数の島状の部分が黄緑色~赤色であった。当該複数の島状の部分はMgAlに対応し、地色の部分はAlNに固溶したMgに対応する。
【0087】
以上に説明したように、上述の複合焼結体は、AlNと、MgAlとを備える。複合焼結体の開気孔率は、0.1%未満である。複合焼結体の相対密度は、99.5%以上である。複合焼結体におけるAlNおよびMgAlの合計含有率は、95重量%以上かつ100重量%以下である。複合焼結体におけるMgAlの含有率は、15重量%以上かつ70重量%以下である。このように、当該複合焼結体では、MgAlの高い含有率(15重量%以上)と、高い相対密度(99.5%以上)とを両立させることができる。これにより、高いプラズマ耐食性、高い体積抵抗率、および、高い熱伝導率を有する高密度の複合焼結体を提供することができる。
【0088】
具体的には、100重量%のAlNを含む焼結体(すなわち、AlNからなる焼結体)のプラズマエッチングレートを1とした場合、上記複合焼結体のプラズマエッチングレート(すなわち、相対エッチングレート)は0.5以下であることが好ましい。これにより、複合焼結体において、高いプラズマ耐食性を実現することができる。当該相対エッチングレートは、より好ましくは0.35以下である。
【0089】
複合焼結体の700℃における体積抵抗率は、7.0×10Ω・cm以上であることが好ましい。これにより、複合焼結体を介した電流のリークを防止または抑制することができる。当該体積抵抗率は、より好ましくは1.0x10Ω・cm以上であり、さらに好ましくは3.0x10Ω・cm以上である。
【0090】
複合焼結体の600℃における熱伝導率は、15W/m・K以上であることが好ましい。これにより、複合焼結体を介した基板9の加熱を効率良く、かつ、場所による温度ばらつきを小さく抑制して行うことができる。当該熱伝導率は、より好ましくは20W/m・K以上であり、さらに好ましくは30W/m・K以上である。
【0091】
上述のように、複合焼結体における構成結晶相としてのMgOの含有率は、実質的に0重量%であることが好ましい。上述の比較例8と他の実施例からも分かるように、これにより、複合焼結体におけるMgOの含有率が0重量%よりも大きい場合に比べて、複合焼結体の体積抵抗率を高くすることができる。
【0092】
複合焼結体では、MgAlの格子定数は、8.075Å以上であることが好ましい。このように、MgAl中のMgOの比率を高くすることにより、上述の比較例6と他の実施例からも分かるように、複合焼結体の体積抵抗率を高くすることができる。
【0093】
複合焼結体では、AlNにMgが固溶していることが好ましい。これにより、複合焼結体の体積抵抗率を高くすることができる。
【0094】
上述のように、複合焼結体は、高いプラズマ耐食性、高い体積抵抗率、および、高い熱伝導率を有するため、半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材に適している。複合焼結体は、特に、ハイパワーエッチング装置等の高出力半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材に適している。当該複合焼結体を用いて作成される半導体製造装置部材の好適な一例として、上述のサセプター1が挙げられる。サセプター1は、上述のように、複合焼結体を用いて作成された本体部21と、本体部21の内部に配置される抵抗発熱体22および内部電極23とを備える。
【0095】
上述のように、複合焼結体の製造方法は、AlNと、MgおよびAlを含む添加物と、を混合した混合粉末を所定形状の成形体に成形する工程(ステップS11)と、当該成形体をホットプレス焼成してAlNおよびMgAlを含む複合焼結体を生成する工程(ステップS12)とを備える。ステップS11において、混合粉末におけるAlNおよび添加物の合計含有率は、95重量%以上かつ100重量%以下である。また、混合粉末は、MgO換算で5重量%~18重量%のMgと、Al換算で10重量%~44重量%のAlと、を含む。これにより、高いプラズマ耐食性、高い体積抵抗率、および、高い熱伝導率を有する複合焼結体を好適に製造することができる。また、上述のように、高密閉性のホットプレスダイスを用いてホットプレス焼成を行うことにより、Mgの揮発を抑制し、高密度の複合焼結体を好適に製造することができる。
【0096】
上述のように、ステップS11において、添加物はMgAlおよびMgOを含むことが好ましい。実施例1~12,19からも分かるように、これにより、上述の複合焼結体を容易に製造することができる。
【0097】
また、ステップS11において、添加物はMgOおよびAlを含むことが好ましい。実施例13~17からも分かるように、この場合も、上述の複合焼結体を容易に製造することができる。
【0098】
上述の複合焼結体、半導体製造装置部材、および、複合焼結体の製造では様々な変形が可能である。
【0099】
本発明の関連技術では、上述の複合焼結体における構成結晶相としてのMgOの含有率は、0重量%よりも大きくてもよい。
【0100】
本発明の関連技術では、複合焼結体中のMgAlの格子定数は、8.075Å未満であってもよい。
【0101】
複合焼結体では、AlNにMgは固溶していなくてもよい。
【0102】
100重量%のAlNを含む焼結体のプラズマエッチングレートを1とした場合、上述の複合焼結体のプラズマエッチングレートは0.5よりも大きくてもよい。
【0103】
複合焼結体の700℃における体積抵抗率は、7.0x10Ω・cm未満であってもよい。
【0104】
複合焼結体の600℃における熱伝導率は、15W/m・K未満であってもよい。
【0105】
複合焼結体の製造方法では、上記添加物は必ずしもMgOを含んでいる必要はなく、添加物におけるMgOの含有率は、実質的に0重量%であってもよい。
【0106】
サセプター1では、抵抗発熱体22および内部電極23のうち一方のみが設けられてもよい。内部電極23は、静電チャック用の電極であってもよい。あるいは、サセプター1では、プラズマ処理用のRF電極である内部電極23に加えて、静電チャック用の電極も本体部21の内部に配置されてもよい。
【0107】
サセプター1では、本体部21の下面212の中央部から下方に延びる略柱状のシャフト部が設けられてもよい。
【0108】
サセプター1では、本体部21の一部(例えば、本体部21の上面211のみ、または、本体部21の表面全体のみ)が、上述の複合焼結体により作製されていてもよい。この場合、本体部21の他の部分は、当該複合焼結体とは異なる材料(例えば、MgAlを実質的に含んでいないAlN焼結体)により形成される。
【0109】
上述の複合焼結体は、サセプター1以外にも、半導体製造装置に設けられる他の半導体製造装置部材(例えば、リング、ドーム等)の作製に用いられてよい。また、当該複合焼結体により半導体製造装置以外の装置にて使用される部材が作製されてもよい。例えば、複合焼結体は、半導体基板以外の基板を支持するサセプターの作製に用いられてもよく、対象物を加熱するセラミックヒーターの作製に用いられてもよい。
【0110】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0111】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、半導体製造装置に関する分野、例えば、半導体基板を支持するサセプターの製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0113】
1 サセプター
9 基板
21 本体部
22 抵抗発熱体
23 内部電極
211 (本体部の)上面
S11~S12 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6