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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】ジェットファン
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/52 20060101AFI20230120BHJP
   F04D 19/02 20060101ALI20230120BHJP
   F04D 29/66 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
F04D29/52 D
F04D19/02
F04D29/52 E
F04D29/66 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019029148
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020133528
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】塚本 和寛
(72)【発明者】
【氏名】栗原 隆行
(72)【発明者】
【氏名】沖原 崇
(72)【発明者】
【氏名】西岡 卓宏
(72)【発明者】
【氏名】内山 毅
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-099097(JP,A)
【文献】特開2004-027858(JP,A)
【文献】特開平01-177500(JP,A)
【文献】特開平06-280792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/52
F04D 19/02
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシング内に設置された電動機と、
前記電動機の下部を支える支持部と、
二つの軸流ファンと、を備え、
前記電動機は、前記二つの軸流ファンの間に配置され、前記二つの軸流ファンを一つの回転軸により駆動する構成を有し、
前記二つの軸流ファンはそれぞれ、ハブ部と複数の動翼とを有し、
前記電動機及び前記二つの軸流ファンは、2つのボスの間に配置され、
前記ボスは、3本のステーにより支えられ、
前記ステーは、前記軸流ファンの前記動翼が達する最も高い部位の位相を基準として、前記軸流ファンの回転方向に180度から270度までの領域以外の領域に配置されている、ジェットファン。
【請求項2】
前記3本のステーは、前記回転方向に不等間隔に配置されている、請求項1記載のジェットファン。
【請求項3】
前記二つの軸流ファンのうち、送風方向上流側のものと送風方向下流側のものとは、回転方向に位相が一致している、請求項1記載のジェットファン。
【請求項4】
記二つの軸流ファンのうち、送風方向上流側のものと送風方向下流側のものとは、回転方向に位相のずれを有する、請求項1記載のジェットファン。
【請求項5】
前記位相のずれは、絶対値で15度以上である、請求項4記載のジェットファン。
【請求項6】
前記二つの軸流ファンのそれぞれが有する動翼の枚数は、4枚以下である、請求項4記載のジェットファン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二段の軸流ファンを備えたジェットファンに関する。
【背景技術】
【0002】
ジェットファンは、主に自動車用トンネルの換気用としてトンネルの天井に設けられている。ジェットファンは、天井に取り付けられる筒型のケーシング内に同軸に設置された両軸のモータと、モータの回転軸の両端に設けられた二段式の軸流ファンなどを備えたものが一般的である。
【0003】
この種のジェットファンは、モータに連動して軸流ファンを回転させると、ケーシングの開口から空気を吸い込み、反対側の開口から吐出する。これにより、トンネル内の換気を行う。換気の必要な方向は、トンネル内を通過する自動車の交通量、吹き抜ける自然風の向きや、トンネル内で発生した火災等に応じて変化するため、この変化に応じてジェットファンのモータを正転または逆転することにより、送風方向が順方向、逆方向に切り換えられる。
【0004】
このような送風方向を切り換え可能なジェットファンは、トンネル内の設置台数を減らすために、ジェットファン1台あたりの最大吐出風速を更に引き上げることが求められている。しかし、吐出風速を増大させると、騒音が増大するおそれがある。
【0005】
騒音を低減するために、これまでに様々な検討がなされている。
【0006】
特許文献1には、正逆転時どちらであっても同じ吹出風速を必要とするジェットファンにおいて、動翼同士の干渉騒音を低減させるために、各羽根車の動翼を異なる枚数にし、かつ動翼の多い方の枚数が少ない方の枚数の自然数倍以外とし、それぞれの羽根車で動翼の取付間隔を一定とする構成としたものが開示されている。
【0007】
非特許文献1には、2段ジェットファンにおける翼列騒音の発生機構に基づく騒音スペクトル予測に関する実験的検討の結果、主要な騒音発生機構は、電動機支持部の後流とその下流側にある動翼列との干渉である、という結論が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-12391号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】高津恭・他2名、ジェットファンにおける翼列発生騒音の予測に関する実験的研究、ターボ機械、33巻6号(2005)、358-364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のジェットファンは、動翼同士の干渉騒音に着目したものであり、動翼以外の構成部品が騒音の発生に与える影響について考慮したものではない。
【0011】
非特許文献1においては、騒音の原因の一つとして、電動機支持部にも着目している。
【0012】
直列に配置された二段の軸流ファンを備え、送風方向を正・逆方向に切り換え可能なジェットファンは、動翼及び電動機支持部以外にも、気流の抵抗となって騒音の原因になり得る部品(構成要素)を有している。
【0013】
本発明の目的は、二段の軸流ファンを備えたジェットファンにおいて、流れ場に配置された構成要素により生じる気流の乱れが原因となる圧力変動を抑制し、この圧力変動により発生する騒音を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のジェットファンは、ケーシングと、ケーシング内に設置された電動機と、電動機を支える支持部と、二つの軸流ファンと、を備え、電動機は、二つの軸流ファンの間に配置され、二つの軸流ファンを一つの回転軸により駆動する構成を有し、二つの軸流ファンはそれぞれ、ハブ部と複数の動翼とを有し、電動機及び二つの軸流ファンは、2つのボスの間に配置され、ボスは、複数のステーにより支えられ、支持部に衝突した気流に起因する乱れを含む流れは、複数のステーの間を通過するように構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、二段の軸流ファンを備えたジェットファンにおいて、流れ場に配置された構成要素により生じる気流の乱れが原因となる圧力変動を抑制し、この圧力変動により発生する騒音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ケーシング内に設置されたジェットファンの本体を示す側面図である。
図2図1の複数の動翼の列及び動翼の回転に伴って発生する気流のベクトルを示す模式図である。
図3】従来のジェットファンが有するステーの配置を示す背面図である。
図4図3のジェットファンの内部における圧力変動の分布を示す流体解析結果である。
図5】実施例1のジェットファンが有するステーの配置を示す背面図である。
図6A】従来のジェットファンにおける羽根車の配置を示す模式構成図である。
図6B】実施例2のジェットファンにおける羽根車の配置を示す模式構成図である。
図7図6Bの動翼配置を有するジェットファンにおける圧力変動の分布を示す流体解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、二段の軸流ファンを備えたジェットファンの高風速化及び低騒音化に関する。
【0018】
本発明者は、種々の検討を行った結果、ジェットファンのケーシング内に設置された部品のうち、騒音の原因になり得る可能性が高い部品は、ボス部を固定するステーであり、特に、ステーの一部において流れ場に生じる圧力変動が最も大きいことを見出した。すなわち、二段目の軸流ファン(羽根車)の下流に設けられたステーの一部である。ボスは、中空に浮かせることはできないため、ステーによりケーシングの内壁に固定しなければならない。
【0019】
ステーには、一段目の羽根車の回転により動翼から押し出された気流が螺旋状に流れ、電動機支持部(モータ台)の脚部付近を通過し、二段目の羽根車の動翼により加速され、衝突する。上記の圧力変動は、騒音の原因と推察される。
【0020】
このような圧力変動は、一段目の羽根車からのウェークがモータ台の脚部に衝突して生じる流れの変動と、二段目の羽根車のウェークとが干渉することで生じた乱れの大きい流れがステーに衝突することで発生する。
【0021】
ステーにおける圧力変動を抑制するための手段としては、次の2つが考えられる。
【0022】
(1)乱れの大きい流れが生じる領域にステーを設けないことである。すなわち、電動機支持部に衝突した気流に起因する乱れを含む流れが二つの軸流ファンのうち送風方向下流側のものを通過し、更に下流にあるボスの周囲を通過する際に、その流れが通過する領域以外の領域にステーを配置する。これにより、ステーで大きな圧力変動が生じないようにし、騒音を低減することができる。
【0023】
(2)乱れの大きい流れを生じさせないことである。すなわち、乱れの大きい流れの発生を防ぐためには、一段目の羽根車と二段目の羽根車とで生じるウェークの干渉を防ぐことを狙って、一段目の羽根車と二段目の羽根車との位相をずらすことが効果的であると考えられる。これにより、乱れの大きい流れの発生を防止し、ステーで生じる大きな圧力変動を抑制し、騒音を低減することができる。
【0024】
ジェットファンの騒音を低減することができれば、トンネル内の騒音を低減することができる。
【0025】
上記(1)について具体的な手段は、次のとおりである。
【0026】
ステーは、軸流ファンの動翼が達する最も高い部位の位相を基準として、軸流ファンの回転方向に180度から270度までの領域以外の領域に配置することが望ましい。
【0027】
複数のステーは、軸流ファンの回転方向に不等間隔に配置してもよい。
【0028】
二つの軸流ファンのうち、送風方向上流側のものと送風方向下流側のものとは、回転方向に位相が一致していてもよい。
【0029】
上記(2)について具体的な手段は、次のとおりである。
【0030】
二つの軸流ファンのうち、送風方向上流側のものと送風方向下流側のものとは、回転方向に位相のずれを有するように構成することが望ましい。
【0031】
位相のずれは、絶対値で15度以上であることが望ましい。
【0032】
二つの軸流ファンのそれぞれが有する動翼の枚数が4枚以下である場合に、特に効果的である。
【0033】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0034】
図1は、ケーシング内に設置されたジェットファンの本体を側面から見た構成を示したものである。なお、図中左側には、ジェットファンの正面図も示している。
【0035】
本図に示すジェットファン100は、自動車用のトンネル内などに設置されるものであり、送風方向を順方向(A方向)と逆方向(B方向)とに切り換え可能に構成されている。
【0036】
具体的には、ジェットファン100は、筒形のケーシング1と、ケーシング1内に同軸に配設されたモータ2(電動機)と、モータ2を支えるモータ台3(電動機支持部)と、モータ2の回転軸の両側に取り付けられた軸流ファン31、32と、を備えている。
【0037】
ケーシング1は、両端部に開口が形成された円筒形状又は角筒形状を有する。ケーシング1は、例えば、トンネルの天井に取り付けられる。また、ケーシング1は、吸音材、多孔板などで構成されたサイレンサ部を内部に有する。
【0038】
一段目の軸流ファン31は、モータ2の回転軸に軸設された軸心筒部としてのハブ部11と、ハブ部11の外表面からケーシング1の内面側に向けて張り出した複数の動翼31Aと、を有する。動翼31Aのそれぞれは、その厚さ方向に反りが形成されている。
【0039】
二段目の軸流ファン32も、一段目の軸流ファン31と同様に、ハブ部12と、動翼32Aと、を有する。
【0040】
従来のジェットファン100の場合は、2つの動翼31A、32Aは、ハブ部11、12の周方向に対する取り付け角の位相が同じになるように配置されている。すなわち、モータ2の回転軸方向に見たとき、動翼31A、32Aは、重なるように見える位相に配置されている。また、一段目の軸流ファン31と二段目の軸流ファン32とでは、動翼31Aの横断面の形状が動翼32Aの横断面の形状に対してハブ部11、12の半径方向を軸として180度回転した向きになるように取り付けられている。すなわち、動翼31A、32Aの厚さ方向の反りは、反対方向に向けられている。
【0041】
このように動翼31A、32Aを配置することにより、送風方向を反転させた場合であっても、方向だけが異なる同様の流量を有する気流を発生させることができる。
【0042】
軸流ファン31、32は、ハブ部11、12と複数の動翼31A、32Aを有する羽根車である。ハブ部11、12は、ケーシング1の中心軸と同じ中心軸を有する略円筒形状を有する。
【0043】
軸流ファン31から見て、モータ2の側とは反対側であるケーシング1の開口の側には、ボス13が設けられている。同様に、軸流ファン32から見て、モータ2の側とは反対側であるケーシング1の開口の側には、ボス14が設けられている。ボス13、14は、ケーシング1の中心軸方向に頂点を有する膨らんだ湾曲面を有する。したがって、ボス13、14のそれぞれの頂点は、互いに反対方向に配置されている。ボス13の外側面部は、ハブ部11の外表面と滑らかな曲面を形成するように、それぞれの端部が一致するように設置されている。ボス14の外側面部も、ハブ部12の外表面との関係が同様になるように設置されている。ボス13、14はそれぞれ、補強部材としてのステー15a、15bを介して、ケーシング1の内面に支持されている。
【0044】
このようにボス13、14を設置することにより、ケーシング1の内部を通過する気流に対して作用する抵抗を小さくすることができ、気流の乱れも抑制することができる。
【0045】
複数の動翼31A、32Aは、ハブ部11、12の胴部表面に周方向に間隔をあけて立設された複数のブレードである。一般に、動翼31A、32Aは、周方向に等間隔に設けられる。
【0046】
ボス13、14を固定するステー15a、15bは、一般的にそれぞれのボスに3~6本程度設けられ、ケーシング1の内面に、周方向に等間隔に取り付けられる。
【0047】
この構成は、一段目の軸流ファン31も二段目の軸流ファン32も基本的に同様である。これは、順方向、逆方向で同一の性能を要求されるためである。
【0048】
モータ2は、ケーシング1の内面にモータ台3を介して固定されている。モータ2は、軸流ファン31、32を同時に回転させる。また、モータ2は、制御指令に応じて回転軸を正転又は逆転する機能を有する。例えば、モータ2は、回転軸を時計回りに回転させるとともに、制御指令に応じて回転軸を反時計まわりに回転させる。
【0049】
このように構成されたジェットファン100においては、モータ2を駆動すると、それに連動して軸流ファン31、32の双方が順方向又は逆方向に回転する。軸流ファン31、32が回転することにより、ケーシング1の開口から、例えばトンネル内の空気が吸い込まれ、吸い込まれた空気が反対側の開口から吐出される。これによって、例えば、トンネル内に充満する自動車からの排気ガスを換気し、運転者の視界を確保することができる。また、火災等に起因して生じる有害ガスをトンネル外へ排出することができる。
【0050】
図2は、図1の複数の動翼の列及び動翼の回転に伴って発生する気流のベクトル(送風方向)を模式的に示したものである。図中、上半分は送風方向がA方向の場合、下半分は送風方向がB方向の場合を示している。
【0051】
そこで、本図の上半分の記載を用いて、送風方向がA方向の場合について説明する。
【0052】
本図の上半分において、軸流ファン31は、動翼31a、31b、31cを有し、軸流ファン32は、動翼32a、32b、32cを有する。軸流ファン31、32は、図示していない一つの電動機により、ベクトルUの方向に回転する。便宜上、軸流ファン31、32のそれぞれが有する複数の動翼のうち、それぞれ3つだけを表している。
【0053】
動翼31a、31b、31cは、ハブ部の周方向に対してそれぞれ傾斜して取り付けられている。動翼32a、32b、32cも同様である。動翼31a、31b、31cのそれぞれは、厚さ方向の同じ方向に反りが形成されている。動翼32a、32b、32cは、動翼31a、31b、31cとは反対の向きに反りが形成されている。すなわち、動翼31a、31b、31c、32a、32b、32cのそれぞれは、圧力面と負圧面とが非対称の形状となっている。ベクトルV、V、V、Vは、静止系から見た気流の向きである。ベクトルW、W、W、Wは、回転する動翼から見た気流の向きである。
【0054】
よって、動翼31a、31b、31cは、送風方向がA方向であるときに主として作用するが、その際は、動翼32a、32b、32cは、送風抵抗となる。同様に、動翼32a、32b、32cは、送風方向がB方向であるときに主として作用する。したがって、A方向及びB方向の双方向において所定の吐出風速を確保するために、動翼31a、31b、31cに代表される軸流ファン31と、動翼32a、32b、32cに代表される軸流ファン32とは、回転対称に配置している。
【0055】
ここで、図1及び2を用いて、ケーシング1内の気流の流れを説明する。
【0056】
例えば、A方向に送風する際は、動翼31a、31b、31cの上流に設けられたボス13及びそのボス13を支えるステーの周囲を経た流れが、動翼31a、31b、31cへと流入する。動翼31a、31b、31cを経た流れは、軸流ファン31の回転方向と同一方向の周方向成分を有する。よって、気流は、概略ベクトルV、Vの方向に進む。そして、その方向を保った状態で動翼32a、32b、32cへと流入する。動翼32a、32b、32cを経た流れは、引き続き軸流ファン31の回転方向と同一方向の周方向成分の影響を残した状態で、動翼32a、32b、32cの下流にあるボス14を固定するステー15a、15bに衝突する。
【0057】
このステー15a、15bに衝突する流れ場は、周方向に均一な分布とはならない。その理由としては、二段目に相当する軸流ファン32の上流に設けられたモータ2を支えるモータ台3の存在があるためである。モータ台3は、モータ2を重力から支えるため、通常は下側に設けられる。これはすなわち、軸流ファン31、32の回転方向(周方向)に対し、流路が不均一となることを意味する。このモータ2の影響により、流れ場が周方向に不均一となる。
【0058】
図3は、従来のジェットファンが有するステーの配置を示す背面図である。
【0059】
本図においては、ステー15a、15b、15cの3つが軸流ファンの回転方向に等間隔すなわち120度間隔で配置されている。
【0060】
モータ台3は、モータの下側に設けられている。このため、モータの下方においては、モータ台3の影響を受けた流れが生じる。この領域の流れは、二段目の軸流ファンの動翼を経て、その下流のステー15aの付近を通過し、その一部は、ステー15aに衝突する。モータ台3の影響を受けた流れは、螺旋状に旋回するためである。すなわち、軸流ファンの回転方向と同一方向の成分を有し、モータ台3の下方から軸流ファンの回転方向に変位する。
【0061】
モータ台3の影響を受けた流れは、構造物の影響を受け、大きな変動成分を有する。すなわち、同一の位置座標において局所的に流速の経時変化が大きい流れである。この大きな変動成分を有する流れが構造物に衝突すると、その箇所で大きな圧力変動・流速変動を生じる。
【0062】
図4は、従来のジェットファンの内部における圧力変動の分布を流体解析によって得た結果を示したものである。
【0063】
本図においては、二段目の軸流ファンの下流におけるケーシング1、ボス14及びステー15aの壁面上における圧力変動の分布の一例を示している。本構造においては、ボス14を支えるステーは、図3に示す配置であり、3本が周方向に等間隔に設けられている。
【0064】
図4に示すように、3本あるステーのうちステー15aのみで大きな圧力変動を生じている。ステー15aは、モータ台3の影響を受けた流れが軸流ファンの回転方向に移動し到達する位置に設置されているためである。領域51Lは、特に圧力変動が大きい部分を囲んで示したものである。領域51Lは、ステー15aがボス14に接続されている部位に近い部分である。なお、ボス14の裏側にあるステーは、本図においては見える位置にはないが、ステー15aのような圧力変動は生じていない。
【0065】
この圧力変動は、ジェットファンのケーシング1の内部において最も大きいものであり、騒音の発生原因となっていると考えられる。
【0066】
図5は、本実施例のジェットファンが有するステーの配置を示す背面図である。
【0067】
本図に示すように、ステー15p、15q、15rは、周方向に等しくない間隔を設けて配置されている。ここで、ステー15qの位相は、0度であり、軸流ファンの動翼が達する最も高い部位の位相に対応している。図中の軸流ファンの回転方向における角度は、ステー15qの位相を基準としている。
【0068】
図中、180度から270度までの範囲には、ステーを設けていない。
【0069】
これは、図4に示すステー15aの位置には、モータ台3の影響を受けた流れが通過するためである。これにより、ステーに衝突して大きな圧力変動を生じさせることを防止することができる。
【0070】
なお、図5においては、ステー15p、15q、15rを周方向に等しくない間隔(不等間隔)で配置したが、周方向に等しい間隔(等間隔)、すなわち、ステー15p、15q、15rを120度間隔で配置し、かつ、ステー15p、15q、15rを軸流ファンの回転方向に30度~60度移動した位置に配置してもよい。これにより、図中180度から270度までの範囲にステーを設けない構成とすることができる。
【0071】
現行のジェットファンの場合、所定の運転条件では、モータ台3の影響を受けた流れは、図中の180度から270度までの領域を通過する。この領域は、羽根車の羽根の反り角や回転数、風速に応じて変化するが、この範囲内にステー15p、15q、15rを設けなければ、モータ台3の影響を受けた流れがステー15p、15q、15rに衝突することはない。
【0072】
これにより、騒音の発生源となり得るステー15p、15q、15rの表面で生じる圧力変動の抑制が可能となり、騒音の低減が可能となる。
【0073】
なお、上述の説明においては、図中180度から270度までの範囲としたが、本発明は、これに限定されるものではない。ステー15p、15q、15rは、モータ台3の影響を受けた流れが軸流ファンの回転方向に移動し到達する位置を避けて設置すればよい。軸流ファンの回転速度等も考慮し、気流のうち圧力変動が大きい部分がステー15p、15q、15rに衝突しないように、すなわち気流のうち圧力変動が大きい部分がステー15p、15q、15rの間隙を通過するように、ステー15p、15q、15rを配置すればよい。
【実施例2】
【0074】
別の実施例である実施例2も、実施例1と同様に、二段目の軸流ファンの下流のステーで生じる大きな圧力変動を抑えることを目的としている。
【0075】
一段目の軸流ファンを通過した流れは、その動翼の後流域において大きな流速成分を有する。この大きな流速の流れが一段目の軸流ファンの下流のモータ台に衝突すると、大きな乱れを生じる。この乱れがそのまま二段目の軸流ファンの動翼に到達すると、その動翼を経て更に大きな乱れを含む流れとなり、その下流のステーに衝突する。
【0076】
従来のジェットファンでは、図2に示すように、一段目の軸流ファン31と二段目の軸流ファン32とは、180度反転して設けられている。すなわち、回転軸方向には、見かけ上は動翼が並んで設けられており、軸流ファンの回転方向には位相が一致していると捉えることができる。
【0077】
図6Aは、従来のジェットファンにおける二段の軸流ファン(羽根車)の配置を模式的に示したものである。
【0078】
本図に示すように、一段目の軸流ファン131と二段目の軸流ファン132とをA方向に見た場合に、動翼131aと動翼132aとが重なって見えるように配置され、動翼131bと動翼132bとが重なって見えるように配置されている。
【0079】
これに対して、図6Bは、本実施例のジェットファンにおける二段の軸流ファン(羽根車)の配置を模式的に示したものである。
【0080】
本図においては、一段目の軸流ファン131と二段目の軸流ファン132とをA方向に見た場合に、動翼131aと動翼132aとが重ならないように、動翼132aの位相をずらしている。言い換えると、A方向に見た場合に、動翼131aと動翼131bとの間に動翼132bが見えるように、一段目の軸流ファン131と二段目の軸流ファン132とを配置する。
【0081】
位相をずらすことにより、モータ台に流れが衝突することで生じた大きな乱れが二段目の軸流ファン132の動翼132aとは干渉せずに通過するため、二段目の軸流ファン132の動翼132aの下流で生じる大きな変動を抑えることが可能となる。この大きな変動を抑えることは、ステー15a(図3)の表面で生じる大きな圧力変動を抑えることと同義である。よって、従来のステー15a(図3)の配置であっても、ステーが原因で生じる騒音を抑制することが可能となる。
【0082】
図6Bにおいては、動翼132bが動翼131aと動翼131bとのちょうど中間の角度(翼間の中央)になるように配置されている。言い換えると、一段目の軸流ファン131と二段目の軸流ファン132とは、それぞれ4枚の動翼を有し、45度だけ位相(角度)がずれた状態となっている。位相のずれは、この角度が最も望ましい。なお、本発明は、本図に示す例に限定されるものではなく、軸流ファンのそれぞれの羽根枚数(動翼)が4枚の場合、位相のずれは、15度から75度(=90度-15度)までの範囲であることが望ましい。言い換えると、動翼の位相のずれは、二段の軸流ファンにおいて絶対値で15度以上が望ましい。なお、位相のずれは、20度から70度までの範囲であることが更に望ましく、30度から60度までの範囲であることが特に望ましい。
【0083】
また、位相のずれは、羽根枚数が6枚の場合、30度が最も望ましいが、15度から45度までの範囲であることが望ましく、25度から35度までの範囲であることが更に望ましい。羽根枚数が8枚の場合、22.5度が最も望ましいが、15度から30度までの範囲であることが望ましく、20度から25度までの範囲であることが更に望ましい。
【0084】
この位相をずらす効果は、羽根枚数が少ないときほど効果的である。我々の検討では、羽根枚数4枚で45度位相をずらした場合に、騒音低減の効果が最も大きかった。
【0085】
図7は、図6Bの動翼配置を有するジェットファンのステーにおいて生じる圧力変動の分布を流体解析によって得た結果を示したものである。
【0086】
本図においては、二段目の軸流ファンの下流のケーシング1、ボス14及びステー15pの表面における圧力変動の分布を示している。ステー15pは、図4のステー15aと同じ位置に設置されている。図7の領域51Sは、図4の領域51Lに対応する部分を囲んで示したものである。領域51Sは、ステー15pの他の部分よりも圧力変動が若干大きくなっている。領域51Sを図4の領域51Lと比べると、圧力変動が25%軽減していることがわかる。
【0087】
上述の実施例1及び2においては、ステーを平板状で3枚としているが、ステーの形状は、種々考えることができ、周方向に傾斜させてもいいし、円柱形状、流れの上流側に1つの稜を有する三角柱状などとしてもよい。
【0088】
以上説明した構造により、ジェットファンにおいて低騒音化を実現することができる。
【0089】
本発明は、トンネル換気用のジェットファンを想定した構造ではあるが、類似構造を有する多段のファンにも適用可能な技術である。
【符号の説明】
【0090】
1:ケーシング、2:モータ、3:モータ台、11、12:ハブ部、13、14:ボス、15a、15b、15c、15p、15q、15r:ステー、31、32:軸流ファン、31A、31a、31b、31c、32A:32a、32b、32c:動翼、51L、51S:領域、100:ジェットファン、131:一段目の軸流ファン、132:二段目の軸流ファン、131a、131b、132a、132b:動翼。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7