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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】スリット形成部材、および遮蔽物
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20230120BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20230120BHJP
   B60R 19/52 20060101ALI20230120BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
G10K11/16 110
E04B1/82 B
B60R19/52 K
G10K11/172
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019041242
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2020144246
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】富田 直
(72)【発明者】
【氏名】表 竜二
(72)【発明者】
【氏名】西垣 英一
(72)【発明者】
【氏名】青山 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山田 敦
(72)【発明者】
【氏名】長草 善孝
(72)【発明者】
【氏名】久保田 和樹
【審査官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-168137(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147105(WO,A1)
【文献】特開2007-185993(JP,A)
【文献】特開2005-290722(JP,A)
【文献】特開平10-011069(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0053496(US,A1)
【文献】特開2006-072197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00-13/00
B60R 19/00-19/56
21/00-21/13
21/34-21/38
E04B 1/62- 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源からの音を遮蔽可能な部材であって、前記音を透過可能な細隙を形成するスリット形成部材であって、
棒状に形成されると共に、その側面に、前記音源に対して開口する溝が形成されており、
前記スリット形成部材の長手方向に垂直な断面の断面形状は、
第1辺部と、前記第1辺部に略平行に配置された第2辺部と、前記第1辺部と前記第2辺部と略垂直に、前記第1辺部の先端と前記第2辺部の先端とを接続する第3辺部と、から成る略コの字形状であり、
前記第1辺部の長さが前記第2辺部の長さと等しい場合より前記音源の主周波数成分の透過音圧を低減するように、前記第1辺部の長さと前記第2辺部の長さが互いに異なっている、
スリット形成部材。
【請求項2】
請求項1に記載のスリット形成部材であって、
前記第1辺部と前記第2辺部の長さの比は、前記音源の主周波数成分の透過音圧を最小化する比である、
スリット形成部材。
【請求項3】
複数のスリット形成部材によって細隙が形成され、音源からの音を遮蔽可能な遮蔽物であって、
前記複数のスリット形成部材は、
それぞれ、
棒状に形成されると共に、前記音源に対して開口する溝が形成されており、
前記スリット形成部材の長手方向に垂直な断面の断面形状は、
第1辺部と、前記第1辺部に略平行に配置された第2辺部と、前記第1辺部と前記第2辺部と略垂直に、前記第1辺部の先端と前記第2辺部の先端とを接続する第3辺部と、から成る略コの字形状であり、
前記第1辺部の長さが前記第2辺部の長さと等しい場合より前記音源の主周波数成分の透過音圧を低減するように、前記第1辺部の長さと前記第2辺部の長さが互いに異なっている、
遮蔽物。
【請求項4】
請求項3に記載の遮蔽物であって、
前記遮蔽物は、車両のフロントグリルである、遮蔽物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細隙を形成するスリット形成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和設備等の内部に配置された音源からの音を遮蔽して、騒音を抑制する技術が検討されている。例えば、特許文献1では、スリット状の開口部を有する共鳴器が設けられた遮音ルーバーによって、ルーバー透過音を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-53708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術において、音響の伝搬経路に配される共鳴器は、断面形状が複雑であるため、形成が困難になる可能性があった。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、より簡易な形状で遮音効果を発現できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の一形態によれば、音源からの音を遮蔽可能な部材であって、前記音を透過可能な細隙を形成するスリット形成部材が提供される。このスリット形成部材は、棒状に形成されると共に、その側面に、前記音源に対して開口する溝が形成されており、前記スリット形成部材の長手方向に垂直な断面の断面形状は、第1辺部と、前記第1辺部に略平行に配置された第2辺部と、前記第1辺部と前記第2辺部と略垂直に、前記第1辺部の先端と前記第2辺部の先端とを接続する第3辺部と、から成る略コの字形状であり、前記第1辺部の長さが前記第2辺部の長さと等しい場合より前記音源の主周波数成分の透過音圧を低減するように、前記第1辺部の長さと前記第2辺部の長さが互いに異なっている。この形態のスリット形成部材によれば、第1辺部の長さが第2辺部の長さと異なっており、第1辺部の第2辺部の長さが同じ場合より主音源の主周波数成分の透過音圧を低減できる。例えば、第1辺部の第2辺部の長さが同じでは透過音圧の低減効果があまり得られない場合に、第1辺部と第2辺部の長さを違えることにより、他の構成を変えず、音源の主周波数成分の透過音圧を低減することができる。また、断面形状が略コの字形状であり、形成しやすい簡易な形状で、遮音効果を発現することができる。
上記形態のスリット形成部材であって、前記第1辺部と前記第2辺部の長さの比は、前記音源の主周波数成分の透過音圧を最小化する比であってもよい。このようにすると、音源の主周波数成分に応じて、適切に、音を遮蔽することができる。
本発明の他の形態によれば、複数のスリット形成部材によって細隙が形成され、音源からの音を遮蔽可能な遮蔽物が提供される。前記複数のスリット形成部材は、それぞれ、棒状に形成されると共に、前記音源に対して開口する溝が形成されており、前記スリット形成部材の長手方向に垂直な断面の断面形状は、第1辺部と、前記第1辺部に略平行に配置された第2辺部と、前記第1辺部と前記第2辺部と略垂直に、前記第1辺部の先端と前記第2辺部の先端とを接続する第3辺部と、から成る略コの字形状であり、前記第1辺部の長さが前記第2辺部の長さと等しい場合より前記音源の主周波数成分の透過音圧を低減するように、前記第1辺部の長さと前記第2辺部の長さが互いに異なっている。この構成によれば、第1辺部と第2辺部の長さを違えることにより、他の構成を変えず、音源の主周波数成分の透過音圧を、第1辺部と第2辺部の長さが同じ場合より、低減することができる。また、断面形状が略コの字形状であり、形成しやすい簡易な形状で、遮音効果を発現することができる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、音源からの音を遮蔽可能な部材であって、前記音を透過可能な細隙を形成するスリット形成部材が提供される。このスリット形成部材は、棒状に形成されると共に、その側面に、前記音源に対して開口する溝が形成されている。
【0008】
この構成によれば、スリット形成部材の側面に、音源に対して開口する溝が形成されている。そのため、1/4波長の共鳴が発生する音響的なソフトな壁を形成することができる。音響的な壁により音源からの音を反射することができ、透過音圧を低減させることができる。
【0009】
(2)上記形態のスリット形成部材であって、前記スリット形成部材の切断面は、第1辺部と、前記第1辺部に略平行に配置された第2辺部と、前記第1辺部と前記第2辺部と略垂直に、前記第1辺部の先端と前記第2辺部の先端とを接続する第3辺部と、から成る断面形状を有してもよい。このようにしても、形成しやすい簡易な形状で、遮音効果を発現することができる。
【0010】
(3)上記形態のスリット形成部材であって、前記断面形状は、前記第1辺部と前記第2辺部の長さの比が、前記音源の主周波数成分を遮蔽可能な比になるように、決定されていてもよい。このようにすると、音源の主周波数成分に応じて、適切に、音を遮蔽することができる。
【0011】
(4)本発明の他の形態によれば、複数のスリット形成部材によって細隙が形成され、音源からの音を遮蔽可能な遮蔽物が提供される。前記複数のスリット形成部材は、それぞれ、棒状に形成されると共に、前記音源に対して開口する溝が形成されている。この構成によれば、1/4波長の共鳴が発生する音響的なソフトな壁でスリットの開口を覆うことができる。そのため、形成しやすい簡易な形状で、遮音効果を発現することができる。
【0012】
(5)上記形態の遮蔽物であって、前記遮蔽物は、車両のフロントグリルであってもよい。このようにすると、車両の内部の音源(エンジン、ラジエータファン等)からの音を適切に遮蔽することができる。
【0013】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、スリット形成部材を備える装置、スリット形成部材を備える空気調和設備、遮蔽物を備える装置、遮蔽物を備える車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の車両のフロントグリルを概念的に示す説明図である。
図2】スリット形成部材の断面形状を概念的に示す説明図である。
図3】スリット形成部材の遮音効果の評価方法を概念的に示す説明図である。
図4】スリット透過音圧の周波数特性を示す図である。
図5】スリット形成部材を用いた場合の音圧レベルの分布状態を示す図である。
図6】比較例のスリット形成部材の音圧レベルの分布状態を示す図である。
図7】フロントグリルのスリット透過音圧の周波数特性を示す図である。
図8】各周波数の音圧レベルの分布状態を示す図である。
図9】スリット形成部材の断面形状と周波数特性の関係を示す図である。
図10】断面形状に対応する音圧レベルの分布状態を示す図である。
図11】スリット透過音圧の周波数特性を示す図である。
図12】周波数の音圧レベルの分布状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の一実施形態の車両のフロントグリルFGと音源としてのホーンHN1、HN2を概念的に示す説明図である。図1では、車両の外(前方)から、車両の前面を視認した様子を図示している。図1に示すように、フロントグリルFGは、3本のスリット形成部材G1、G2、G3を備え、これによりスリットS1、S2、S3、S4が形成されている。3本のスリット形成部材G1、G2、G3は、同一の形状である。ホーンHN1、HN2は、車両の内部であって、フロントグリルFGのスリットS1~S4の裏側(後方)に配置されている。ホーンHN1、HN2は、同一のホーンであって、ホーンHN1、HN2から放射される音の主周波数成分は同一である。以下の説明において、ホーンHN1、HN2を区別しないときには、単に「ホーンHN」と称し、スリット形成部材G1、G2、G3を区別しないときには、単に「スリット形成部材G」と称し、スリットS1、S2、S3、S4を区別しないときには、単に「スリットS」と称する。図1において、紙面右方向をX軸プラス方向、紙面裏側に向かう方向(車両の後方に向かう方向)をY軸プラス方向、紙面上方向(高さ方向)をZ軸プラス方向とした。
【0016】
ホーンHNから放射される音は、スリット形成部材Gによって遮蔽されつつ、スリットSを介して放射される。すなわち、スリット形成部材Gは、スリットSを透過する音の透過音圧を低減させる。
【0017】
図2は、スリット形成部材Gの断面形状を概念的に示す説明図である。スリット形成部材Gは、四角棒の側面に溝Mが形成された形状に形成されており、断面略コの字形状に形成されている。詳しくは、スリット形成部材Gの断面形状は、第1辺部10と、第1辺部10に略平行に配置された第2辺部20と、第1辺部10と第2辺部20と略垂直に第1辺部10の先端と第2辺部20の先端とを接続する第3辺部30と、を備え、ホーンHNに対して開口する断面形状である。本実施形態では、第1辺部10の長さWuと第2辺部の長さWlは同一である。なお、コの字形状は、溝型鋼(チャンネル)形状とも言われる。
【0018】
以下に、図3~8を用いて、本実施形態のスリット形成部材Gの遮音効果について比較例と比較して説明する。
図3は、本実施形態のスリット形成部材Gの遮音効果の評価方法を概念的に示す説明図である。図3(A)は、本実施形態のスリット形成部材Gについて示し、図3(B)は比較例のスリット形成部材GPについて示す。スリット形成部材GPは、中実の四角柱状に形成されており、断面形状が長方形状に形成されている。後述する透過音圧レベルの周波数特性および音圧レベルの分布図は、図3に示すように、スリット形成部材Gを挟んで音源と反対側に配置された評価点における音圧レベルについて算出している。後に詳述するように、本実施形態のスリット形成部材Gによれば、比較例のスリット形成部材GPより、透過音圧を低減させることができる。
【0019】
図4は、スリット透過音圧の周波数特性を示す図である。図3に示すように、音波の入力位置からスリット形成部材の前面までの距離、スリット形成部材Gの前面から透過音圧の評価点までの距離、スリット形成部材Gとスリット形成部材Gとの間の高さ方向の距離、スリット形成部材Gの本数等を設定し、数値計算モデルを生成する。音源からの音の音圧は、全周波数帯域に渡って、同じとして数値計算モデルを生成している。透過音圧の評価点の位置は、適宜設定可能であるが、外部の音場の反射位置から離れた位置に設定するのが好ましい。透過音圧の周波数特性は、スリット形成部材Gの断面形状を規定する変数を定め、有限要素法を用いて、下記(式1)を用いて、スリット形成部材Gを備えるフロントグリルFGを介してスリットS1~S4から放射される音の透過音圧を算出することによって生成される。算出された透過音圧は音圧レベルに変換されている。なお、有限要素法を用いた透過音圧の算出は、M.J. Crocker, Handbook of acoustics, John Wiley & Sons, 1998.(pp.149-156のACOUSTIC MODELING:FINITE ELEMENT METHODの章)に記載された方法を用いることができる。
【0020】
p=c22p ・・・(式1)
ここで、pは音圧[Pa]、cは音速[km/h]であり、音速cは、下記(式2)によって求められる。
c=(K/ρ)1/2 ・・・(式2)
ここで、Kは体積弾性率[N/m2]、ρは密度[kg/m3]である。
【0021】
フロントグリルFGを介して放射される音は、空気を伝搬する音と、フロントグリルFGを伝搬する音を含むものの、フロントグリルFGを伝搬する音は微小であるため、本実施形態では、Kおよびρとして、空気の体積弾性率および空気の密度を用いている。
【0022】
図4では、本実施形態のフロントグリルFGを用いた場合の透過音圧レベルを実線、比較例のフロントグリルを用いた場合の透過音圧レベルを破線で示している。図4に示すように、本実施形態のフロントグリルFGを用いることにより、ほぼ全ての周波数帯域において、比較例より透過音圧を低減させることができる。また、本実施形態のフロントグリルFGを用いると、周波数f3において、ディップが現れる。すなわち、本実施形態のフロントグリルFGによれば、周波数f3の音について、著しい遮音効果を得ることができる。一方、比較例のフロントグリルを用いた場合は、全周波数帯域に亘って、音圧レベルの著しい低下が見られない。
【0023】
図5は、本実施形態のスリット形成部材Gを用いた場合の音圧レベルの分布状態を示す図である。図6は、比較例のスリット形成部材GPを用いた場合の音圧レベルの分布状態を示す図である。図5,6では、周波数f3についての計算結果を示している。図5に示すように、本実施形態のフロントグリルFGを用いると、スリットSを音響的な壁が覆い、音響的な壁より先(紙面左方向)の領域への音波の伝搬を著しく阻害することができる。一方、比較例のフロントグリルを用いる場合には、音響的な壁が形成されず、透過音圧をほとんど低減させることができない。すなわち、本実施形態のスリット形成部材Gを用いると、スリットSを音響的な壁が覆い、透過音圧を著しく低減させることができる。
【0024】
図7は、本実施形態のフロントグリルFGのスリット透過音圧の周波数特性を示す図である。図8は、各周波数の音圧レベルの分布状態を示す図である。図8では、図7に示す周波数f1~f5について図示している。周波数f1~f4については、音響的な壁がスリットを覆った結果、透過音圧レベルが低下している。周波数f5については、音響的な壁はスリットを覆ってはいないものの、スリット形成部材Gの開口部を覆うように音響的な壁が形成されていることにより、音の反射が生じ、透過音圧が低減されている。
【0025】
以上説明したように、本実施形態のフロントグリルFGによれば、複数のスリット形成部材Gを備えるため、スリットSを音響的な壁で覆うことができ、透過音圧を低減させることができる。すなわち、簡易な形状のスリット形成部材Gによって遮音効果を発現することができる。スリット形成部材Gの形状が簡易であるため、フロントグリルFGを容易に製造することができる。
【0026】
また、本実施形態のスリット形成部材Gによれば、比較例のスリット形成部材GPと比べて、軽量化することができる。すなわち、本実施形態のスリット形成部材Gによれば、軽量化と遮音性能向上を同時に達成することができる。
【0027】
次に、スリット形成部材Gの断面形状において、第1辺部の長さWuと第2辺部の長さWlの比を変更することにより、ディップ周波数を変更する例について説明する。以下に説明する例では、上記のフロントグリルFGのスリット形成部材Gにおいて、第1辺部の長さWuと第2辺部の長さWlの比を変更した以外は、上記と同じである。ここで、スリット形成部材の断面形状における第3辺部の長さH(高さH)と、第2辺部の長さWl(下部の長さ)を変更せず、第1辺部の長さWu(上部の長さ)のみを変更している。
【0028】
図9は、スリット形成部材の断面形状と周波数特性の関係を示す図である。図10は、スリット形成部材の各断面形状に対応する音圧レベルの分布状態を示す図である。図9、10では、スリット形成部材の断面形状において、第1辺部の長さWuと第2辺部の長さWlの比を違えた5種類のスリット形成部材を用いている。各スリット形成部材の第1辺部の長さWuは、以下の通りである。ここで、上記したスリット形成部材Gにおける第1辺部の長さをWu0(=Wl)とする。
第1スリット形成部材GA:Wu=Wu0+2ΔW
第2スリット形成部材GB:Wu=Wu0+ΔW
第3スリット形成部材G:Wu=Wu0
第4スリット形成部材GA:Wu=Wu0-ΔW
第5スリット形成部材GA:Wu=Wu0-2ΔW
ここで、ΔWは任意に設定可能である。
【0029】
図9に示すように、スリット形成部材の断面形状において、第1辺部の長さWuと第2辺部の長さWlの比を変更することによって、ディップ周波数を変更することができる。図10に示すように、各スリット形成部材において、音響的な壁がスリット開口部を覆うことによって、透過音圧を著しく低減させる効果を得ることができる。すなわち、断面形状が略コの字形状に形成されたスリット形成部材において、第1辺部と第2辺部の長さの比を変更することにより、透過音圧を最小化できる周波数を変更することができる。そのため、音源の主周波数に応じて、第1辺部と第2辺部の長さの比を決定することにより、所望の周波数を適切に遮蔽することができる。また、スリット形成部材Gの高さHを変更せず、透過音圧を最小化する周波数を変更することができるため、意匠の変更を不要とすることができる。
【0030】
最後に、一つのスリット形成部材Gを備える遮蔽物の例について説明する。
図11は、スリット透過音圧の周波数特性を示す図である。図11に示すように、スリット形成部材Gが一つの場合にも、透過音圧(音圧レベル)が大きく低減される周波数(f6)を得ることができる。
【0031】
図12は、周波数f6の音圧レベルの分布状態を示す図である。図12に示すように、スリット形成部材Gが一つの場合にも、音響的な壁がスリットを覆っている。これにより、透過音圧レベルを低減させることができる。このように、スリット形成部材Gが一つの場合にも、遮音効果を発現することができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態のスリット形成部材Gによれば、断面略コの字形状とという簡易な形状で、ほぼ全ての周波数帯域において、透過音圧を低減させることができる。また、スリット形成部材Gの断面形状において、第1部材と第2部材の長さの比を変更することにより、ディップ周波数を変更することができる。
【0033】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0034】
・上記実施形態において、断面形状が略コの字形状に形成されたスリット形成部材Gを例示したが、断面形状は、上記実施形態に限定されず、スリット形成部材は、棒状に形成されると共に、その側面に、音源に対して開口する溝が形成されていればよい。例えば、断面形状がU字形状、V字形状等であってもよい。また、上記実施形態において、第1辺部10と第3辺部30、および第2辺部20と第3辺部30とが、角に丸みを付けて接続されてもよい。また、スリット形成部材は、例えば、丸棒の側面に、上記実施形態と同様の溝Mが形成されていてもよい。
【0035】
・上記実施形態において、遮蔽物として、車両のフロントグリルFGを例示し、音源として車両のホーンHNを例示したが、遮蔽物および音源は、上記実施形態に限定されない。例えば、航空機、列車、船舶、建築物、空気調和設備等の内部に配置された音源から放出される音を遮蔽する遮蔽物であって、スリットが形成された遮蔽物に適用することができる。例えば、空気調和設備の吹き出し口のルーバーに適用することもできる。
【0036】
・上記実施形態において、フロントグリルFGが板状のスリット形成部材Gを3本備え、4つのスリットSが形成される例を示したが、フロントグリルFGの形状は、上記実施形態に限定されない。フロントグリルFGは、スリット形成部材Gを1本備えてもよいし、4本以上備えてもよい。
【0037】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0038】
10…第1辺部
20…第2辺部
30…第3辺部
FG…フロントグリル
G、G1、G2、G3、GA、GB、GD、GE、GP…スリット形成部材
HN、HN1、HN2…ホーン
S、S1、S2、S3、S4…スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12