(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】射出成形品成形用の金型装置、射出成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/33 20060101AFI20230120BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20230120BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
B29C45/33
B29C45/17
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2019042159
(22)【出願日】2019-03-08
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000219705
【氏名又は名称】東海興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】平澤 一雄
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-181734(JP,A)
【文献】特開2011-255537(JP,A)
【文献】特開2007-007898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 - 33/76
B29C 45/00 - 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂製の被覆樹脂の内部にインサート材が埋設され、かつ前記インサート材の一部が外部に露出している射出成形品を製造するための金型装置であって、
互いに接離可能であり、型閉め時に前記熱可塑性樹脂が射出されるキャビティを形成する第1型及び第2型と、
前記第1型及び前記第2型の少なくとも一方に設けられ、型開閉方向に対して交差する方向に進退可能であり、成形時に前記インサート材に圧接するとともに前記キャビティの一部を形成し、少なくともその先端部が型開閉方向に変位可能であるスライド型と、
前記第1型及び前記第2型の対向する部位のうち前記スライド型が設けられていない部位において、前記スライド型の前記先端部に対応する位置に設けられ型開閉方向に変位可能で型閉め時に前記先端部を型開閉方向に押圧して変位させる押さえ部材と
を備え
るとともに、
前記インサート材は、前記型開閉方向に対向して配置される第1面と、前記型開閉方向に対向しないで配置される第2面とを有し、
前記型閉じ時において、前記スライド型は前記第2面に圧接し、前記押さえ部材は前記第1面に圧接する
ことを特徴とする射出成形用金型装置。
【請求項2】
前記スライド型は、型開閉方向に対して交差する方向に進退する一方で型開閉方向に沿って変位不能な本体部と、前記本体部に対して摺動可能に支持され、型開閉方向に変位可能な前記先端部とを有することを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型装置。
【請求項3】
前記スライド型を複数備えるとともに、共通の前記押さえ部材が複数の前記スライド型の前記先端部を押圧して変位させることを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形用金型装置。
【請求項4】
前記インサート材の前記第2面は湾曲部分を有するとともに、その湾曲部分に対して前記スライド型が圧接することを特徴とする請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の射出成形用金型装置。
【請求項5】
熱可塑性樹脂製の被覆樹脂の内部にインサート材が埋設され、かつ前記インサート材の一部が外部に露出している射出成形品を製造するための金型装置であって、互いに接離可能であり、型閉め時に前記熱可塑性樹脂が射出されるキャビティを形成する第1型及び第2型と、前記第1型及び前記第2型の少なくとも一方に設けられ、型開閉方向に対して交差する方向に進退可能であり、成形時に前記インサート材に圧接するとともに前記キャビティの一部を形成し、少なくともその先端部が型開閉方向に変位可能であるスライド型と、前記第1型及び前記第2型の対向する部位のうち前記スライド型が設けられていない部位において前記スライド型の前記先端部に対応する位置に設けられ型開閉方向に変位可能で型閉め時に前記先端部を型開閉方向に押圧して変位させる押さえ部材とを備え
るとともに、前記インサート材は、前記型開閉方向に対向して配置される第1面と、前記型開閉方向に対向しないで配置される第2面とを有し、前記型閉じ時において、前記スライド型は前記第2面に圧接し、前記押さえ部材は前記第1面に圧接する射出成形用金型装置を用いた、射出成形品の製造方法であって、
前記第1型及び前記第2型を開いた状態で前記第1型及び前記第2型の間に前記インサート材を載置する第1工程と、
型閉じの途中で前記スライド型を前進させて前記インサート材に圧接させるとともに、前記押さえ部材によって前記スライド型の前記先端部を押圧する第2工程と、
前記第1型及び前記第2型により前記インサート材を固定するとともに、前記インサート材と前記第1型、前記第2型及び前記スライド型とによって、前記キャビティを形成する第3工程と、
前記キャビティ内に溶融した前記熱可塑性樹脂を射出して充填し、前記インサート材の一部を前記熱可塑性樹脂で一体的に被覆する第4工程と
を含むことを特徴とする射出成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート材の一部が被覆樹脂の外部に露出している射出成形品を製造するときに用いる射出成形品用金型装置、及び当該金型装置を用いた射出成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形品を製造する方法の一種として、金型装置を用いたインサート成形法がよく知られている。インサート成形法で製造される射出成形品は、熱可塑性樹脂製の被覆樹脂の内部にインサート材が埋設された構造を有している。インサート成形法により製造される射出成形品の製品例としては、モーター、アクチュエーター、電磁弁、昇圧装置などの電気部品を挙げることができる。これらの製品では、通電によって熱が発生しやすいため、その熱を外部に逃がす目的でインサート材の一部を外部に露出させる部位を設けることがある。
【0003】
この種の射出成形品を製造するための金型装置としては、対向して配置された上型及び下型の間にスライド型を設けた構造の金型装置が従来提案されている(例えば特許文献1を参照)。この金型装置における上型及び下型は、互いに接離可能であり、型閉め時に熱可塑性樹脂が射出されるキャビティを形成するように構成されている。下型に設けられたスライド型は、インサート部材の露出部を形成するためのものであって、金型の開閉方向に対して直交する方向に進退可能な構造となっている。また、このスライド型は、キャビティの一部を形成するとともに、先端部が型開閉方向に変位可能な構造となっている。このような金型装置を用いたインサート成形法では、まず上型及び下型の間にインサート材を載置して型閉じするとともに、型閉じの途中でスライド型を前進させてインサート材に圧接させる。このとき、上型、下型及びスライド型によりインサート材が固定され、かつインサート材と上記各型とによりキャビティが形成される。次に、キャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂を射出して充填することにより、インサート材の一部を熱可塑性樹脂で一体的に被覆してなる射出成形品が製造されるようになっている。そしてこの金型装置の場合、インサート材の寸法や形状に多少バラツキがあったとしても、スライド型によってインサート材のバラツキが吸収され、露出部におけるバリの発生が防止されることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の金型装置の場合、スライド型を用いたとしても、インサート材における一方向のバラツキ(即ちスライド型が圧接している面の方向のバラツキ)しか吸収することができなかった。そのため、異なる2方向にバラつくインサート材の露出部にバリを発生させることなく、インサート成形することができないという不具合があった。
【0006】
また、この不具合を解消する方法としては、金型装置と別体で形成された樹脂部材(スペーサ)を用い、この樹脂部材をインサート材の表面に接触配置した状態でインサート成形することでバリの発生を防止する方法が従来提案されている。そしてこの方法によれば、例えばインサート材における連続した2面にわたる露出部を形成したい場合であっても、露出部にバリを発生させることなく、成形を行うことが可能であると考えられている。
【0007】
ところが、この方法の場合、樹脂部材を別体で作製する必要があるほか、樹脂部材を型内の所定位置にセットする作業が要求されることから、射出成形品の製造コストが増大しやすくなるという欠点がある。また、射出成形時に別体が破損したり位置ずれしたりするという不具合が発生するおそれがあるため、製品の歩留まりが悪化し、ひいてはコストの増大につながるという懸念もある。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、2面にわたって連続する露出部を有する射出成形品の製造において、コスト増大を回避しつつ各面の露出部にバリを発生させずにインサート成形することができる射出成形品成形用の金型装置、射出成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、熱可塑性樹脂製の被覆樹脂の内部にインサート材が埋設され、かつ前記インサート材の一部が外部に露出している射出成形品を製造するための金型装置であって、互いに接離可能であり、型閉め時に前記熱可塑性樹脂が射出されるキャビティを形成する第1型及び第2型と、前記第1型及び前記第2型の少なくとも一方に設けられ、型開閉方向に対して交差する方向に進退可能であり、成形時に前記インサート材に圧接するとともに前記キャビティの一部を形成し、少なくともその先端部が型開閉方向に変位可能であるスライド型と、前記第1型及び前記第2型の対向する部位のうち前記スライド型が設けられていない部位において、前記スライド型の前記先端部に対応する位置に設けられ型開閉方向に変位可能で型閉め時に前記先端部を型開閉方向に押圧して変位させる押さえ部材とを備えるとともに、前記インサート材は、前記型開閉方向に対向して配置される第1面と、前記型開閉方向に対向しないで配置される第2面とを有し、前記型閉じ時において、前記スライド型は前記第2面に圧接し、前記押さえ部材は前記第1面に圧接することを特徴とする射出成形用金型装置をその要旨とする。
【0010】
従って、手段1に記載の発明によると、押さえ部材によってスライド型が自身のスライド方向とは異なる方向(型開閉方向)においてインサート材に合わせて変位するため、スライド型と押さえ部材とによってインサート材のそれぞれ異なる方向へのバラツキが吸収される。このため、インサート材における連続した2面にわたる露出部にバリを発生させることなく、成形を行うことができる。また、バリ発生防止のために型内に別体の樹脂部材をセットする必要もないため、コストの増大を抑制できるとともに、別体の樹脂部材を破損するといった懸念も解消される。しかも、インサート材は、型開閉方向に対向して配置される第1面と、型開閉方向に対向しないで配置される第2面とを有し、型閉じ時において、スライド型は第2面に圧接し、押さえ部材は第1面に圧接する構成であるため、インサート材における異なる方向へのバラツキの吸収代が大きくなる。
【0011】
手段2に記載の発明は、手段1において、前記スライド型は、型開閉方向に対して交差する方向に進退する一方で型開閉方向に沿って変位不能な本体部と、前記本体部に対して摺動可能に支持され、型開閉方向に変位可能な前記先端部とを有することをその要旨とする。
【0012】
従って、手段2に記載の発明によると、本体部に支持された先端部のみが変位する構造としたことにより、押さえ部材によって先端部をより小さい力で動かすことができる。
【0013】
手段3に記載の発明は、手段1または2において、前記スライド型を複数備えるとともに、共通の前記押さえ部材が複数の前記スライド型の前記先端部を押圧して変位させることをその要旨とする。
【0014】
従って、手段3に記載の発明によると、複数のスライド型の先端部を複数の押さえ部によって個々に押圧する構造に比較して、型構造を簡素化することができる。また、複数のスライド型の先端部の変位を同期させることができる。
【0017】
手段4に記載の発明は、手段1乃至3のいずれか1項において、前記インサート材の前記第2面は湾曲部分を有するとともに、その湾曲部分に対して前記スライド型が圧接することをその要旨とする。
【0018】
従って、手段4に記載の発明によると、第2面に湾曲部分があるインサート材を用いた場合でも、湾曲部分におけるバリの発生を防止することができる。
【0019】
手段5に記載の発明は、熱可塑性樹脂製の被覆樹脂の内部にインサート材が埋設され、かつ前記インサート材の一部が外部に露出している射出成形品を製造するための金型装置であって、互いに接離可能であり、型閉め時に前記熱可塑性樹脂が射出されるキャビティを形成する第1型及び第2型と、前記第1型及び前記第2型の少なくとも一方に設けられ、型開閉方向に対して交差する方向に進退可能であり、成形時に前記インサート材に圧接するとともに前記キャビティの一部を形成し、少なくともその先端部が型開閉方向に変位可能であるスライド型と、前記第1型及び前記第2型の対向する部位のうち前記スライド型が設けられていない部位において前記スライド型の前記先端部に対応する位置に設けられ型開閉方向に変位可能で型閉め時に前記先端部を型開閉方向に押圧して変位させる押さえ部材とを備えるとともに、前記インサート材は、前記型開閉方向に対向して配置される第1面と、前記型開閉方向に対向しないで配置される第2面とを有し、前記型閉じ時において、前記スライド型は前記第2面に圧接し、前記押さえ部材は前記第1面に圧接する射出成形用金型装置を用いた、射出成形品の製造方法であって、前記第1型及び前記第2型を開いた状態で前記第1型及び前記第2型の間に前記インサート材を載置する第1工程と、型閉じの途中で前記スライド型を前進させて前記インサート材に圧接させるとともに、前記押さえ部材によって前記スライド型の前記先端部を押圧する第2工程と、前記第1型及び前記第2型により前記インサート材を固定するとともに、前記インサート材と前記第1型、前記第2型及び前記スライド型とによって、前記キャビティを形成する第3工程と、前記キャビティ内に溶融した前記熱可塑性樹脂を射出して充填し、前記インサート材の一部を前記熱可塑性樹脂で一体的に被覆する第4工程とを含むことを特徴とする射出成形品の製造方法をその要旨とする。
【0020】
従って、手段5に記載の発明によると、第2工程にて、型閉じする途中でスライド型がインサート材に圧接するときに押さえ部材によってスライド型の先端部が押圧される結果、スライド型が自身のスライド方向とは異なる方向(型開閉方向)においてインサート材に合わせて変位する。このため、スライド型と押さえ部材とによってインサート材のそれぞれ異なる方向へのバラツキが吸収される。続く第3工程にて型閉めを完了させると、バラツキが吸収された状態が保持されつつインサート材がスライド不能に固定されるとともに、キャビティが形成された状態となる。そして第4工程にて、キャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂を射出して充填することにより、インサート材における連続した2面にわたる露出部にバリを発生させることなく、それ以外の部分を熱可塑性樹脂で一体的に被覆することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳述したように、請求項1~5に記載の発明によると、2面にわたって連続する露出部を有する射出成形品の製造において、コスト増大を回避しつつ各面の露出部にバリを発生させずにインサート成形することができる射出成形品成形用の金型装置、射出成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明を具体化した第1実施形態の金型装置を用いて製造される射出成形品を示す概略斜視図。
【
図2】第1実施形態の金型装置の下型の部分平面図。
【
図3】第1実施形態の金型装置のA-A線断面図(要部縦断面図)。
【
図6】本発明を具体化した第2実施形態の金型装置を用いて製造される射出成形品を示す概略斜視図。
【
図7】第2実施形態の金型装置の下型の部分平面図。
【
図8】第2実施形態の金型装置のB-B線断面図(要部縦断面図)。
【
図11】本発明を具体化した第3実施形態の金型装置を用いて製造される射出成形品を示す概略斜視図。
【
図13】(a)は本発明を具体化した第4実施形態の金型装置を用いて製造される射出成形品を示す正面図、(b)はそのC-C線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施形態]
以下、本発明を具体化した一実施形態の射出成形品成形用の金型装置を
図1~
図5に基づき詳細に説明する。
【0024】
図1には、本実施形態の金型装置11を用いて製造される射出成形品1が示されている。この射出成形品1は、射出成形法の一種であるインサート成形法を経て製造されるインサート成形品であり、熱可塑性樹脂製の被覆樹脂3の内部にインサート材2を埋設した略立方体状の構造物である。被覆樹脂3の形成材料である熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えばPPS樹脂やPBT樹脂などが使用される。これら樹脂材料には、熱膨張係数を低減するためにガラス繊維やガラス粒等のような無機物がフィラーとして添加されていてもよい。インサート材2としては、被覆樹脂3で用いた樹脂材料とは異なる材料であらかじめ形成された構造物であれば、特に材質や形状等を限定されることなく、任意のものを選択することができる。本実施形態においては、多数枚の矩形環状の金属板(コア片)を積層した状態で互いに接着固定してなる積層コアをインサート材2として用いているが、例えば、丸線や平角線を巻回したコイルや、圧粉磁心、バスバー等の金属製の構造物や、セラミックス、樹脂からなるスペーサ等の構造物であってもよい。
図1におけるインサート材2において、上方または下方を向いている面を第1面S1とし、それらの面とは直交する位置関係にある面を第2面S2と定義する。積層コアであるインサート材2を微視的に見た場合、第1面S1における寸法や形状のバラつきに比べて、第2面S2における寸法や形状のバラつきのほうが大きい。これは、各コア片の端面の位置が完全には一定してはおらず、端面に細かい凹凸が生じているからである。
【0025】
図1に示されるように、このインサート材2は、大部分が被覆樹脂3で覆われているが、インサート材2の一部を外部に露出させる部位(露出部4)を2箇所有している。本実施形態における各露出部4は、
図1の上下方向に沿って帯状に延びた形状を有している。これらの露出部4は、インサート材2において連続した2つの面(第1面S1及び第2面S2)にわたって形成されている。
【0026】
次に、上記構造の射出成形品1を製造するための金型装置11について説明する。
図2は、この金型装置11の下型30の部分平面図であり、
図3はそのA-A線断面図(要部縦断面図)である。なお、これら図において、D1を付した双頭矢印は、型開閉方向D1を示している。D2を付した双頭矢印は、型開閉方向D1に直交する方向のうち、後述するスライド型41の進退方向D2を示している。
【0027】
図2、
図3に示されるように、この金型装置11は、上型20(第1型)、下型30(第2型)、スライド型41、押さえ部材51を備えている。
【0028】
可動型である下型30は、本体部分であるベース31を主体として構成され、付勢手段34を備えている。ベース31は図示しない射出成形機の可動盤に対して取り付けられている。ベース31の内面32側には収容凹部35が設けられており、付勢手段34はその収容凹部35内に収容されている。本実施形態における付勢手段34は、具体的にはコイルばねの先端部に転動体であるボールを設けたボールプランジャであるが、図示の便宜上概念的に描かれている。ベース31の内面32側における略中央部はワーク載置領域となっており、そこにはワークであるインサート材2が載置されるようになっている。ワーク載置領域における複数個所には、インサート材2の下側の第1面S1を支持するための支持凸部33が突設されている。なお、支持凸部33の高さは基本的に被覆樹脂3の厚さに相当するものとなっている。
【0029】
固定型である上型20は、本体部分であるベース21を主体として構成されている。このベース21は図示しない射出成形機の固定盤に対して取り付けられている。上型20は下型30の上方に配置されており、ベース21の内面22とベース31の内面32とは対向した状態となっている。本実施形態の金型装置11の場合、下型30を型開閉方向D1に駆動することにより、上型20及び下型30を互いに接近・離間させることが可能となっている。なお、
図3には型閉めする前の型開き状態が示されている。
【0030】
下型30を構成するベース31の内面32上においてワーク載置領域の外側となる位置には図示しないガイドレールが設けられており、そのガイドレール上にはスライド型41が設けられている。なお、本実施形態のスライド型41は下型30に設けられているが、例えば上型20に設けられていてもよく、あるいは上型20及び下型30の両方に設けられていてもよい。スライド型41の基端面にはコイルばね等の付勢手段42が配設されおり、その付勢手段42を介してスライド型41と図示しないスライド型駆動手段とが連結されている。本実施形態では、上型20の内面22から突出する図示しないアンギュラカムがスライド型駆動手段としての役割を果たしている。このアンギュラカムは、型閉め動作に伴ってスライド型41全体を前進方向に押し出し、型開き動作に伴ってスライド型41全体を後退方向に引き戻すように構成されている。従って、スライド型41は型開閉方向D1に対して直交する進退方向D2、即ち
図2、
図3の左右方向に沿って前進または後退することが可能となっている。このスライド型41は、成形時にインサート材2の第2面S2に圧接するとともに、上型20のベース21及び下型30のベース31とともにキャビティ5の一部を形成するようになっている。
【0031】
また、本実施形態のスライド型41の下面側には付勢手段34としてのボールプランジャが配設されており、スライド型41にはコイルばねによる上向きの付勢力が常時作用している。このため、スライド型41は全体的に型開閉方向D1に変位可能な構成を備えている。なお、本実施形態では付勢手段34は、スライド型41における先端部41a寄りの位置に配設されている。
【0032】
そのほか、
図2に示されるように、ベース31の内面32上においてワーク載置領域及びスライド型41以外の領域には、ワーク載置領域を取り囲むように複数の固定コマ38が配設されている。これらの固定コマ38にも支持凸部33が設けられている。
【0033】
上型20を構成するベース21の内面22側の所定箇所、具体的には下型30におけるワーク載置領域の外周部に対向する箇所には、収容凹部53が設けられている。この収容凹部53内には、コイルばね等の付勢手段52を介して押さえ部材51が収容されている。つまり、この押さえ部材51は、上型20及び下型30の対向する部位(内面22及び内面32)のうちスライド型41が設けられていない部位において、スライド型41の先端部41aに対応する位置に設けられていると把握できる。上記の押さえ部材51には、コイルばね52による下向きの付勢力が常時作用している。収容凹部53から突出している押さえ部材51の下端面は平坦面となっている。押さえ部材51の下端面の約半分の領域はインサート材2における上側の第1面S1に圧接可能であり、残りの約半分の領域はスライド型41の先端部41aの上面に圧接可能である。従って、型閉め時にはスライド型41が押さえ部材51により押圧されることにより、型開閉方向D1(
図3の下方向)に変位するように構成されている。
【0034】
なお、本実施形態においては、押さえ部材51を下方向に付勢するコイルばね(付勢手段52)の荷重Aと、スライド型41を上方向に付勢するコイルばね(付勢手段34としてのボールプランジャ)の荷重Bとの関係が、A>Bとなるように設定されている。つまり、押さえ部材51の付勢力のほうがボールプランジャの付勢力よりも勝っている。
【0035】
次に、上記のように構成された射出成形用金型装置11を用いた射出成形品1の製造手順について説明する。
【0036】
まず第1工程では、
図3に示されるように、上型20及び下型30を開いた状態で上型20及び下型30の間にインサート材2を載置する。具体的には、下型30におけるベース31のワーク載置領域にインサート材2を載置する。このとき、インサート材2の第1面S1をベース31の内面32に対して平行に配置(型開閉方向D1を向くように配置)する。一方、インサート材2の第2面S2をベース31の内面32に対して垂直に配置(型開閉方向D1に直交する方向を向くように配置)する。つまり、寸法や形状のバラつきを有する第2面S2をスライド型41の前端面に対向させるようにして配置する。
【0037】
続く第2工程では、
図4に示されるように、下型30を上方に駆動させることで上型20及び下型30の型閉じを開始する。また、このような型閉じ動作の途中でスライド型41を前進させて、インサート材2の第2面S2にスライド型41の前端面を圧接させる。スライド型41による上記圧接の結果、インサート材2における第2面S2方向の寸法や形状のバラツキが吸収される。また、スライド型41の先端部41aの上面に当接している押さえ部材51によって、スライド型41が下方に押圧される。この場合、押さえ部材51の下端面がインサート材2における上側の第1面S1に圧接することにより、押さえ部材51のそれ以上の下方への移動が規制される。その結果、スライド型41の上面の位置がインサート材2の上側の第1面S1の位置と等しくなった状態で、スライド型41の高さが保持される。そして、押さえ部材51による上記圧接の結果、インサート材2における第1面S1方向の寸法や形状のバラツキが吸収される。よって、インサート材2のうち、後に露出部4となるべき箇所に対して、スライド型41及び押さえ部材51が密着して隙間がない状態となり、界面に溶融した熱可塑性樹脂が入り込まない状態となる。
【0038】
第3工程を経て型閉じ動作が完了した状態になると、上型20及び下型30により挟持されることでインサート材2が固定される。その結果、上記の2方向へのバラツキが吸収された状態を保持しつつインサート材2がずれることなく固定される。そして、インサート材2と上型20、下型30及びスライド型41とにより、後に露出部4となるべき箇所を除くようにしてキャビティ5が形成される。
【0039】
続く第4工程では、
図5に示されるように、キャビティ5内に溶融した熱可塑性樹脂を射出してキャビティ5を充填することにより、インサート材2における連続した2面にわたる露出部4にバリを発生させることなく、それ以外の部分を熱可塑性樹脂で一体的に被覆することができる。以上の一連の工程を経ることにより、所望とする
図1の射出成形品1を製造することができる。
【0040】
そして、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0041】
(1)本実施形態の射出成形用金型装置11及びそれを用いた製造方法によると、上述したように、押さえ部材51によってスライド型41が自身のスライド方向(即ち進退方向D2)とは異なる方向(型開閉方向D1)にも変位する。それゆえ、スライド型41と押さえ部材51とによって、インサート材2のそれぞれ異なる方向への寸法や形状のバラツキが吸収される。このため、インサート材2における連続した2面にわたる露出部4にバリを発生させることなく、成形を行うことができる。また、バリ発生防止のために型内に別体の樹脂部材をセットする必要がなくなるため、コストの増大を抑制できるとともに、別体の樹脂部材を破損するといった懸念も解消される。以上のように、本実施形態によれば、コスト増大を回避しつつ、露出部4にバリのない良質な射出成形品1を製造することができる。
【0042】
[第2の実施形態]
以下、本発明を具体化した第2実施形態の射出成形品成形用の金型装置11Aを
図6~
図10に基づき詳細に説明する。なお、本実施形態では第1実施形態と異なる部分について詳細に説明する一方、共通する部分については同じ部材番号を付すものとして詳細な説明は省略する。
【0043】
図6には、本実施形態の金型装置11Aを用いて製造される射出成形品1Aが示されている。このインサート材2も大部分が被覆樹脂3で覆われており、インサート材2の一部を外部に露出させる部位(露出部4)を2箇所有している。本実施形態における各露出部4は、インサート材2において連続した2面にわたって形成されているが、第1実施形態のときよりも広範囲に及んでいる。なお、射出成形品1Aにおいては、インサート材2の第2面S2における湾曲部分W1についても外部に露出している。
【0044】
次に、上記構造の射出成形品1Aを製造するための金型装置11Aについて説明する。
図7は、この金型装置11Aの下型30の部分平面図であり、
図8はそのB-B線断面図(要部縦断面図)である。
【0045】
本実施形態の金型装置11Aは、第1実施形態のスライド型41とは構造の異なるスライド型45を一対備えている。これらのスライド型45は、本体部44と、それよりも小さいサイズの先端部43という2つの部材によって構成されている。先端部43の前端面、つまりインサート材2に圧接する面には、上記湾曲部分W1に対応した凹状湾曲面43aが形成されている。よって、成形時にはインサート材2の湾曲部分W1に先端部43の凹状湾曲面43aが密着しうるようになっている。なお、一対のスライド型45の間には、先端面が第2面S2に当接する固定型としてのリジッドスライド47が配設されている。
【0046】
本体部44の前端面には、
図8の上下方向に沿って延びる断面略T字状の係合部46aが突設されている。一方、先端部43の後端面には、同じく
図8の上下方向に沿って延びる蟻溝状の被係合部46bが形成されている。そして、本体部44の係合部46aは、先端部43の被係合部46bに対して摺動可能に係合している。また、付勢手段34は先端部43の下方位置に配設されており、先端部43に対して常時上向きの付勢力を作用させている。一方、押さえ部材51の下端面の約半分の領域はインサート材2における上側の第1面S1に圧接可能であり、残りの約半分の領域はスライド型41の先端部43の上面に圧接可能である。従って、型閉め時にはスライド型45の先端部43のみが押さえ部材51により押圧されることによって、先端部43が型開閉方向D1(
図8の下方向)に変位するように構成されている。これに対し、本体部44は、型開閉方向D1に対して交差する方向(即ち進退方向D2)に進退する一方で、型開閉方向D1に沿って変位しないように構成されている。
【0047】
図7に示されるように、この押さえ部材51は、幅広い形状を有しており、離間して並列に配置された一対の先端部43の両方に対して圧接するように構成されている。即ち、スライド型45を2つ備える本実施形態においては、共通の押さえ部材51が2つのスライド型における先端部43を押圧して、同時に同じ方向に変位させるようになっている。
【0048】
次に、上記のように構成された射出成形用金型装置11Aを用いた射出成形品1Aの製造手順について説明する。
【0049】
まず第1工程では、
図8に示されるように、上型20及び下型30を開いた状態で上型20及び下型30の間にインサート材2を載置する。続く第2工程では、
図9に示されるように型閉じを開始する。このような型閉じ動作の途中でスライド型45を前進させて、インサート材2の第2面S2にスライド型45の前端面を圧接する。正確には、第2面S2の湾曲部分W1に、先端部43の凹状湾曲面43aを圧接させる。スライド型45による上記圧接の結果、インサート材2における第2面S2方向の寸法や形状のバラツキが吸収される。また、各先端部43の上面に当接している押さえ部材51によって、各先端部43が下方に押圧される。この場合、押さえ部材51の下端面がインサート材2における上側の第1面S1に圧接することにより、押さえ部材51のそれ以上の下方への移動が規制される。その結果、各先端部43の上面の位置がインサート材2の上側の第1面S1の位置と等しくなった状態で、各先端部43の高さ位置が保持される。そして、押さえ部材51による上記圧接の結果、インサート材2における第1面S1方向の寸法や形状のバラツキが吸収される。よって、インサート材2のうち、後に露出部4となるべき箇所に対して、スライド型45及び押さえ部材51が密着して隙間がない状態となり、界面に溶融した熱可塑性樹脂が入り込まない状態となる。
【0050】
第3工程を経て型閉じ動作が完了した状態になると、上型20及び下型30により挟持されることでインサート材2が固定される。その結果、上記の2方向へのバラツキが吸収された状態を保持しつつインサート材2がずれることなく固定される。そして、インサート材2と上型20、下型30及びスライド型45とにより、後に露出部4となるべき箇所を除くようにしてキャビティ5が形成される。
【0051】
続く第4工程では、キャビティ5内に溶融した熱可塑性樹脂を射出してキャビティ5を充填することにより、インサート材2における連続した2面にわたる露出部4にバリを発生させることなく、それ以外の部分を熱可塑性樹脂で一体的に被覆することができる。以上の一連の工程を経ることにより、所望とする
図6の射出成形品1Aを比較的容易に製造することができる。
【0052】
そして、本実施形態によれば、上記第1実施形態にて挙げた効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0053】
(1)本実施形態では、進退方向D2に進退する一方で型開閉方向D1に沿って変位不能な本体部44と、本体部44に対して摺動可能に支持され、型開閉方向D1に変位可能な先端部43とを有するスライド型45を用いている。また、先端部43は本体部44よりも小さく形成されているため、可動部分である先端部43が軽量になる。このように本体部44に支持された軽量の先端部43のみを変位させる構造としたことで、押さえ部材51によって先端部43をより小さい力で動かすことが可能となる。ゆえに、押さえ部材51にそれほど大きな付勢力を与える必要がなく、型構造の簡素化を達成しやすくなる。
【0054】
(2)本実施形態では、共通の押さえ部材51が2つのスライド型45の各先端部43を押圧して変位させる構成を採用している。このため、複数のスライド型45の各先端部43を複数の押さえ部材51によって個々に押圧する構造に比較して、型構造を簡素化することができる。また、複数のスライド型45の各先端部43の変位を同期させることができる。
【0055】
(3)本実施形態では、インサート材2の第2面S2が湾曲部分W1を有しており、その湾曲部分W1に対して、スライド型45の先端部43に形成された凹状湾曲面43aが圧接するようになっている。このため、第2面S2に湾曲部分W1があるインサート材2を用いて、そこに露出部4を形成したい場合でも、湾曲部分W1におけるバリの発生を防止することができる。
【0056】
[第3の実施形態]
以下、本発明を具体化した一実施形態の射出成形品成形用の金型装置を
図11~
図12に基づき詳細に説明する。なお、本実施形態では上記実施形態と異なる部分について詳細に説明する一方、共通する部分については同じ部材番号を付すものとして詳細な説明は省略する。
【0057】
図11には、本実施形態の金型装置11Cを用いて製造される射出成形品1Cが示されている。この射出成形品1Cは円柱状を呈している。インサート材2としては多数枚の円環状のコア片を積層してなる積層コアが用いられている。この射出成形品1Cは、連続した2面にわたって形成された露出部4を1箇所のみ有している。なお、この露出部4は、インサート材2における第2面S2をインサート材2の上下方向の全長にわたって露出させているのではなく、その上半分だけを露出させている。
【0058】
図12に示されるように、本実施形態の金型装置11Cにおいても、本体部44と、本体部44に対して摺動可能に支持された先端部43とを有するスライド型45を用いている。ただし、先端部43の上下方向の寸法が、本体部44の上下方向の寸法の半分程度に形成されている。一方、下型30を構成するベース31の内面32には、先端部43の位置に対応して先端部支持段部71が突設されている。この先端部支持段部71の上面側には収容凹部35が設けられており、付勢手段34はその収容凹部35内に収容されている。なお、先端部支持段部71の側面は成形時にキャビティ5の一部を形成するようになっている。従って、このような構成の金型装置11Cによれば、
図11に示すような露出部4を有する射出成形品1Cを比較的容易に製造することができる。
【0059】
[第4の実施形態]
以下、本発明を具体化した一実施形態の射出成形品成形用の金型装置を
図13~
図14に基づき詳細に説明する。なお、本実施形態では上記実施形態と異なる部分について詳細に説明する一方、共通する部分については同じ部材番号を付すものとして詳細な説明は省略する。
【0060】
図13(a)及び(b)には、本実施形態の金型装置11Dを用いて製造される射出成形品1Dが示されている。この射出成形品1Dにおけるインサート材2としては、略L字状に屈曲したバスバーが用いられている。この射出成形品1Dは、連続した2面にわたって形成された露出部4を3箇所有している。
図14に示す金型装置11Dは、上記第4実施形態のものと同じく、本体部44に対して先端部43を摺動可能に支持させた構造のスライド型45を備えている。また、先端部43の先端面には、バスバーの有する湾曲部分W1に対応して下向きの凹状湾曲面43aが3箇所形成されている。従って、このような構成の金型装置11Dによれば、
図13(a)及び(b)に示すような露出部4を有する射出成形品1Dを比較的容易に製造することができる。
【0061】
なお、本発明の各実施の形態は発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変更することができる。
【0062】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0063】
(1)前記スライド型及び前記押さえ部材は、付勢手段としてのばねの付勢力により駆動されること。この構成によると、動力が要らず比較的簡素な構造で駆動させることができ、型構造を簡素化することができる。
(2)前記本体部は係合部を有し、前記先端部は蟻溝状の被係合部を有し、前記係合部が前記被係合部に対して摺動可能に係合していること。この構成によると、簡素な構造で先端部を所定方向に沿ってスムーズに変位させることができる。
(3)前記先端部は、前記本体部よりも小さく形成されること。この構成によると、先端部が軽量になることで、押さえ部材によって先端部をいっそう小さい力で動かすことができる。
(4)前記押さえ部材を付勢するばねの荷重Aと、前記スライド型を付勢するばねの荷重Bとの関係が、A>Bであること。
(5)前記押さえ部材は、前記先端部及び前記インサート材の前記第1面の両方に対して当接すること。
【符号の説明】
【0064】
1、1A、1C、1D…射出成形品
11、11A、11C、11D…射出成形用金型装置
2…インサート材
3…被覆樹脂
5…キャビティ
20…第1型としての上型
30…第2型としての下型
41、45…スライド型
41a、43…スライド型の先端部
43a…凹状湾曲面
44…本体部
51…押さえ部材
D1…型開閉方向
S1…第1面
S2…第2面
W1…湾曲部分