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▶ ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】低温焼成フッ素重合体コーティング
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/18 20060101AFI20230120BHJP
   C09D 127/20 20060101ALI20230120BHJP
   C09D 7/45 20180101ALI20230120BHJP
   C08F 214/28 20060101ALI20230120BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230120BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20230120BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20230120BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
C09D127/18
C09D127/20
C09D7/45
C08F214/28
B05D7/24 302L
B05D3/02 Z
B05D3/00 E
B32B15/082 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019519330
(86)(22)【出願日】2017-10-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 US2017054794
(87)【国際公開番号】W WO2018071218
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-08-14
(31)【優先権主張番号】62/407,160
(32)【優先日】2016-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515269383
【氏名又は名称】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イン ワン
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-238205(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147790(WO,A1)
【文献】特表2013-538706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,C08F,B05D,B32B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素重合体1コートコーティングであって、高温耐性高分子バインダーと、ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と、結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量ポリテトラフルオロエチレンとを含む、フッ素重合体1コートコーティング。
【請求項2】
前記低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、ASTM D 4591の方法により、融点が約250℃以下である、請求項1に記載のフッ素重合体1コートコーティング。
【請求項3】
前記低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、ASTM D 4591の方法により、融点が約240℃以下である、請求項1に記載のフッ素重合体1コートコーティング。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、融点が、前記高分子バインダーの融点より約40℃低い温度から前記高分子バインダーの融点より約25℃高い温度の範囲にある、請求項1に記載のフッ素重合体1コートコーティング。
【請求項5】
前記低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、ASTM D 1238により、温度が297℃、かつ、荷重が2,060gで測定する場合に、メルトフローレートが約20~約60である、請求項1に記載のフッ素重合体1コートコーティング。
【請求項6】
約25~約50重量パーセントの前記高分子バインダーと、約50~約75重量パーセントの前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体および前記ポリテトラフルオロエチレンとを含み、前記重量パーセントは、前記高分子バインダー、前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び、前記ポリテトラフルオロエチレンの乾燥重量の合計に基づく、請求項1に記載のフッ素重合体1コートコーティング。
【請求項7】
前記フッ素重合体は、約20~約60重量パーセントの前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と、約40~約80重量パーセントの前記ポリテトラフルオロエチレンとを含み、前記重量パーセントは、前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び、前記ポリテトラフルオロエチレンの乾燥重量の合計に基づく、請求項1に記載のフッ素重合体1コートコーティング。
【請求項8】
フッ素重合体1コートコーティング形成用組成物であって、溶媒と、高温耐性高分子バインダーと、ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と、結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量ポリテトラフルオロエチレンとを含む、組成物。
【請求項9】
界面活性剤を更に含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
基材上にフッ素重合体1コートコーティングを形成するプロセスであって、
i)溶媒と、高温耐性高分子バインダーと、ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と、結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量ポリテトラフルオロエチレンとを含むコーティング組成物を基材の表面に塗布するステップと、
ii)前記基材上の前記コーティング組成物から前記溶媒を除去するステップと、
iii)前記高分子バインダー、及び、前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体を溶融するのに十分な温度で、前記基材の前記コーティング組成物を加熱するステップと、
iv)前記高分子バインダーと前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体の融点より低い温度まで前記コーティング組成物を冷却して、前記フッ素重合体1コートコーティングを前記基材上に形成するステップとを含む、プロセス。
【請求項11】
前記基材が、ニチノールを含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
コーティング組成物を有する1コートコーティングされた基材であって、前記コーティング組成物が、高温耐性高分子バインダーと、ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と、結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量ポリテトラフルオロエチレンとを含む、1コートコーティングされた基材。
【請求項13】
前記基材がニチノールを含む、請求項12に記載の1コートコーティングされた基材。
【請求項14】
前記コーティングの乾燥被覆厚さは、約0.00254mm(0.1ミル)~約0.0102mm(0.4ミル)である、請求項12に記載の1コートコーティングされた基材。
【請求項15】
前記コーティングは、静摩擦係数が約0.2以下であり、動摩擦係数が約0.17以下であり、前記摩擦係数は、ASTM D 1894の方法で測定される、請求項12に記載の1コートコーティングされた基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦係数が低い低温焼成フッ素重合体コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロポリマー樹脂は、耐熱性及び耐薬品性だけでなく、その表面エネルギーの低さに由来する低摩擦係数と非粘着性でも知られている。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、パーフルオロポリマーの中で、摩擦係数が最も低く、それ故、こびりつき防止表面として広い用途が見られる。しかし、PTFEは、分子量が極めて高いことにより、溶融流動可能でも、製造可能でもなく、しかも、融点が他のパーフルオロポリマーよりも比較的高い(約326℃)ことにより、処理が困難で、コストがかかる。フッ素化エチレンプロピレン(FEP、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)は、望ましく溶融流動可能、かつ、溶融加工可能であり、更に、融点が低いので(最大260℃)、製造の融通が利く。しかし、FEPは、摩擦係数がPTFEよりも比較的高いので、FEP表面を有する物品は、PTFEでコーティングされた物品表面ほどに低い摩擦係数とこびりつき防止特性を提供しない。
【0003】
このようなこびりつき防止特性により、使用時に、パーフルオロポリマーコーティングが基材から分離、又は、剥離しないよう、パーフルオロポリマーを市販の基材に接着することも困難である。基材へと良好に接着できるのと同様、パーフルオロポリマーへと良好に接着できる様々な「プライマー」、又は、「バインダー」高分子があり、大抵の場合、こうした高分子のプライマー層は、基材上に堆積されてから、このプライマー層上にパーフルオロポリマー層を堆積し、接着する。同分野では、このような組み合わせ積層コーティングは、「2コートコーティング」として知られ、このコーティングは、プライマー高分子により基材へと良好に接着し、更に、1層の高分子層を他方に接着する。プライマー層が好ましくない場合、「1コート」コーティングを使用しても良い。1コートコーティングは、パーフルオロポリマーとこうしたバインダー高分子とが混和した物理混合物である組成物の単一コーティングを含む。固有の材料とそれらの相対量は、基材、並びに、所望する最終的なコーティングの有用性、及び、特性を考慮して決められる。
【0004】
パーフルオロポリマーコーティングの使用が更に困難となるのは、ある種の高分子と金属基材は許容温度曝露限界が低いことによる。こうした基材がパーフルオロポリマーコーティングからの利点を享受できる用途では、基材の許容温度曝露の下限により熱プロセスを用いたパーフルオロポリマーコーティングを施したこうした基材やその物品のコーティングは難しくなり、結果コストが増えるか、あるいは、コーティングが不可能となる。パーフルオロポリマーの融点が基材の許容温度曝露限界以上の場合、このような溶融パーフルオロポリマーによる基材のコーティング、又は、パーフルオロポリマー粒子による基材のコーティングを施してから(例えば、溶液コーティング、又は、粉体コーティング技術による)、パーフルオロポリマーの融点以上でパーフルオロポリマーコーティングを焼成すると、基材を修復不能に損傷させる恐れがある。ここで、「焼成(baking)」、及び、「焼成温度(baking temperature)」とは、溶融、溶融流動、及び、溶融パーフルオロポリマーの混合の際、パーフルオロポリマー粒子が融合して均一で連続的なコーティングになる温度でのコーティングの処理を称する。
【0005】
一例として、ニッケルチタン合金(ニチノール)は、それぞれ約50原子パーセント(ニッケル約55重量パーセント)を含有するニッケルとチタンの単純な二元混合物である。ニチノールは、曝露温度がアニーリング温度、又は、時効温度未満の場合、恒久的な温度誘起冶金学的変化に対して安定である。多くのニチノール合金の場合、時効温度は、200℃~500℃である。ニチノールの時効温度がパーフルオロポリマーの融点を下回り得る場合、従来の溶融処理法(例えば、溶融押出、粉体塗装後のパーフルオロポリマー融点以上の温度での焼成)は利用できず、結果として、ニチノール表面を連続的な低摩擦係数のパーフルオロポリマーコーディングで被覆することは困難である。融点がパーフルオロポリマーの融点以下の類似のコーティング高分子にも、同じ課題がある。
【0006】
医療分野で使用される物品を製造する際に直面する特定の問題としては、ワイヤ(例えば、心臓カテーテルガイドワイヤ等の医療用ワイヤ)の表面摩擦特性を改善するためのニチノールワイヤなどへのパーフルオロポリマーのコーティング、あるいは、医療専門家が、ワイヤの色やワイヤのパターン化された外部デザインのみを使用して、他の医療用ワイヤを特定し、互いに区別できるよう、医療用ワイヤの表面層として色素を含有するパーフルオロポリマーの使用が、ある。パーフルオロポリマーコーティングは、パーフルオロポリマーコーティング融点以上の温度で焼成した後でのみ、優れた表面摩擦特性を示すことが一般的である。このような訳で、通常、製造プロセス中では、パーフルオロポリマーでコーティングされたこのような医療用ガイドワイヤは、焼成温度がパーフルオロポリマーの融点以上で一定の時間をかけて、焼成処理を受ける。しかしながら、このような方法には、パーフルオロポリマーコーティングされた医療ガイドワイヤを焼成した場合、ニチノールワイヤの物理的特性(例えば、弾性率)が悪影響を受けるという問題がある。更に、こうしたパーフルオロポリマーコーティングされた医療用ガイドワイヤを焼成すると、パーフルオロポリマーが着色色素を新たに含有する場合、色素の色が薄まるか、あるいは、所望ではない色の変化が起こり、結果として、着色された外側ジャケットを有する所望の医療ガイドワイヤが製造されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
許容温度曝露限界が比較的低い何らかの高分子と金属基材の、均一で連続したコーティングを可能とする焼成温度の低い低摩擦係数フッ素重合体1コートコーティングが、産業的に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一実施形態として、フッ素重合体コーティングを提供することで、焼成温度の低い低摩擦係数フッ素重合体1コートコーティングの需要を解決するものであり、このフッ素重合体コーティングは、i)高温耐性高分子バインダー(本明細書では、「ポリマーバインダー」とも称する)と、ii)ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(本明細書では、「FEP」とも称する)と、iii)結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量ポリテトラフルオロエチレン(本明細書では、「PTFE」とも称する)とを、含む。本発明の別の態様は、感温性基材(例えば、ニチノール)の所望の物理的特性(例えば、弾性率)を維持しつつ、パーフルオロポリマーの優れた低表面摩擦特性を有する医療用ワイヤと、医療用ワイヤの製造方法を提供することである。本発明の別の態様は、感温性基材(例えば、ニチノール)の所望の物理的特性(例えば、弾性率)を維持し、同時に、パーフルオロポリマーに含まれる色素の色を損なわずに、パーフルオロポリマーの優れた低表面摩擦特性を有する着色医療用ワイヤと、着色医療用ワイヤの製造方法を提供することである。
【0009】
本発明のフッ素重合体コーティングは、一実施形態では、FEPの融点と等しい焼成温度を有する。一実施形態において、FEPは、ASTM D 4591の方法に従って、約255℃以下、好ましくは、240℃以下の融点である。
【0010】
一実施形態では、コーティングのFEP成分は、融点が、高分子バインダーの融点より約40℃低い温度から高分子バインダーの融点より約25℃高い温度の範囲にある。
【0011】
一実施形態では、コーティングのFEPは、2,060グラムの重量を適用して297℃で測定する場合、ASTM D 1238に基づいて、メルトフローレートが約20~約60である。
【0012】
別の実施形態では、フッ素重合体コーティングは、約25~約50重量パーセントの高分子バインダー、約50~約75重量パーセントのFEP及びPTFEを含み、この重量パーセントは、高分子バインダー、FEP、及び、PTFEの合成乾燥重量に基づく。一実施形態では、フッ素重合体コーティングは、約30~約50重量パーセントの高分子バインダー、約50~約70重量パーセントのFEP及びPTFEを含み、この重量パーセントは、高分子バインダー、FEP、及び、PTFEの合成乾燥重量に基づく。別の実施形態では、フッ素重合体コーティングは、約25~約45重量パーセントの高分子バインダー、約55~約75重量パーセントのFEP及びPTFEを含み、この重量パーセントは、高分子バインダー、FEP、及び、PTFEの合成乾燥重量に基づく。
【0013】
一実施形態では、コーティングのフッ素重合体は、約20~約60重量パーセントのFEPと、約40~約80重量パーセントのPTFEとを含み、この重量パーセントは、FEP、及び、PTFEの合成乾燥重量に基づく。
【0014】
本発明の別の態様は、フッ素重合体コーティング形成用組成物であり、この組成物は、溶媒と、高温耐性高分子バインダーと、ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と、結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量ポリテトラフルオロエチレンとを、含む。
【0015】
本発明の別の態様は、フッ素重合体コーティングを基材上に形成するプロセスであり、このプロセスは、i)溶媒と、高温耐性高分子バインダーと、ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と、結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量ポリテトラフルオロエチレンとを含むコーティング組成物を基材の表面に塗布するステップと、ii)基材上のコーティング組成物から溶媒を除去するステップと、iii)高分子バインダー、及び、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体を溶融するのに十分な温度で、基材に堆積したコーティング組成物を加熱するステップと、iv)高分子バインダーとテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体の融点より低い温度までコーティング組成物を冷却して、フッ素重合体コーティングを基材上に形成するステップとを、含む。
【0016】
本発明の別の態様は、コーティング組成物を有するコーティングされた基材であり、このコーティング組成物は、高温耐性高分子バインダーと、ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と、結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量ポリテトラフルオロエチレンとを含む。
【0017】
一実施形態では、基材は、ニッケル/チタン合金(ニチノール)である。
【0018】
一実施形態では、得られたフッ素重合体コーティングの乾燥被覆厚さは、約0.1~約0.4ミルである。
【0019】
一実施形態において、コーティングされた基材のフッ素重合体コーティングは、静摩擦係数が約0.2以下であり、動摩擦係数が約0.17以下であり、摩擦係数は、ASTM D 1894の方法で測定される。一実施形態において、コーティングされた基材のフッ素重合体コーティングは、静摩擦係数が約0.2以下であり、動摩擦係数が約0.14以下であり、摩擦係数は、ASTM D 1894の方法で測定される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のコーティング組成物の高温耐性高分子バインダーは、加熱溶融時に膜形成され、熱的に安定であり、持続使用温度が少なくとも約140℃である高分子を含む。この成分は、こびりつき防止仕上げ、フルオロポリマー含有層の基材への、とりわけ、金属基材への接着、並びに、層内及びその一部としての膜形成用の塗布用途で、よく知られている。本発明のパーフルオロポリマーは、それ自体が、基材に殆ど、又は、全く接着しない。概ね、バインダーは、非フッ素系であり、金属やプラスチックなどの多くの市販の基材に強く接着し、更に、本発明のパーフルオロポリマーにも強力に接着する。好ましいバインダーは、溶媒に溶けるものであり、いくつかの実施形態では、水と混和する溶媒であることが望ましい。
【0021】
本発明の例示的な高分子バインダーは、(1)ポリスルホンであって、一実施形態では、ガラス転移温度が約185℃、持続最高使用温度が約140~160℃の非晶質熱可塑性高分子であるポリスルホンと、(2)ポリエーテルスルホン(PES)であって、一実施形態では、ガラス転移温度が約230℃、持続最高使用温度が約170~190℃の非晶質熱可塑性高分子であるポリエーテルスルホン(PES)と、(3)ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、及び/又は、ポリアミドイミドに転換するポリアミック酸であって、これらのイミドはコーティングを加熱するための熱をかけた際に架橋し、更に一実施形態では、これらは持続最高使用温度が250℃を超える、ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミック酸と、(4)ポリフェニレンスルフィドであって、一実施形態では、とりわけ、ガラス転移温度が約126℃、持続最高使用温度が約218℃のポリフェニレンスルフィドのうち、1つ以上を含む。こうした高分子バインダーは全て、持続利用範囲の温度内、及び、それ以下の温度で熱的に安定、かつ、寸法的に安定であり、更に、耐摩耗性でもある。これらの高分子は、金属やプラスチックなどの多くの市販の基材に強く接着する。
【0022】
当業者であれば、本発明の実施において、高分子バインダーが全て同じ溶媒に溶ければ、高温耐性高分子バインダー混合物を使用できることを認識しているであろう。
【0023】
高温耐性高分子バインダーは、市販されている。
【0024】
本発明の低温溶融テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)と、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)との一部が結晶化した共重合体であり、適宜、少量のペルハロゲン化コモノマーも更に含む。また、こうしたテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン(TFE/HFP)は、当分野と本明細書では、フッ素化エチレンプロピレン共重合体、又は、「FEP」とも称する。このTFE/HFP共重合体において、HFP含有量は、通常、約6~27重量パーセント、好ましくは、約8~20重量パーセント、より好ましくは、10~18重量パーセントである。一実施形態において、TFE/HFP共重合体は、特性を改質するための一定量のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)コモノマーを含む。一実施形態では、これは、TFE/HFP/PAVE共重合体であり、PAVEアルキル基は、1~4個の炭素原子を含む。好ましいPAVE単量体は、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、及び、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が挙げられる。一実施形態では、TFE/HFP/PAVE共重合体は、HFP含有量が約6~27重量パーセント、好ましくは、8~20重量パーセントであり、PAVE含有量が約0.2~5重量パーセント、好ましくは、1~3重量パーセントであり、共重合体の残りの部分は、TFEであり、これで共重合体の100重量パーセントとなる。TFE/HFP共重合体は、一部が結晶性であり、つまり、これらはエラストマーではない。部分的に、結晶性とは、高分子がある程度の結晶性を有し、更に、ASTM D 4591に従って測定される検出可能な融点、及び、少なくとも約3J/gの融解吸熱で特徴付けられることを意味する。
【0025】
本発明の低融点TFE/HFP共重合体は、約180℃~255℃未満の範囲で、好ましくは、約180℃~約235℃の範囲で融点(Tm)を有する。一実施形態では、本発明の低融点TFE/HFP共重合体は、Tmが約250℃以下である。別の実施形態では、Tmは、約240℃以下である。TFE/HFP共重合体の融点は、ASTM D 4591の方法で測定される。
【0026】
本発明の低融点TFE/HFP共重合体は、温度297℃と荷重2,060gにおいてASTM D-1238の方法で測定すると、メルトフローレートが20~60グラム/10分である。
【0027】
一実施形態において、TFE/HFP共重合体は、Tm値が高分子バインダーの融点に近くなるように選択される。この範囲は、高分子バインダーの融点より40℃低い温度から高分子バインダーの融点より25℃高い温度まで、好ましくは、高分子バインダーの融点より30℃低い温度から高分子バインダーの融点より15℃高い温度まで、より好ましくは、高分子バインダーの融点より20℃低い温度から高分子バインダーの融点より5℃高い温度までである。
【0028】
本発明で有用な低融点TFE/HFP共重合体の製造は、当技術分野で知られるとおりである。例えば、融点が255℃を超える従来の市販FEPよりもHFP含有量が高く、融点が低いTFEとHFPとの共重合体の製造を開示する米国特許第5,266,639号、及び、米国特許第5,374,683号を、参照により本明細書で援用する。
【0029】
本発明の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、少量、好ましくは、1重量パーセント以下のコモノマー、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フルオロアルキルエチレン、又は、クロロトリフルオロエチレンを含有するテトラフルオロエチレンホモポリマー、又は、改質PTFEである。この低分子量のPTFEは、約50J/g以上の結晶化熱を伴う高い結晶化度によって特徴付けられる。一般的な結晶化の範囲は、約50~約90J/gである。低分子量のPTFEは、連鎖移動剤を使用して、テトラフルオロエチレンの重合から直接製造できる。これはまた、「成形粉」とも知られる種類の高分子量PTFE(更に、「粒状」PTFE又は「微粉末」PTFEとも知られている)、あるいは、そこから製造される成形体を照射、又は、熱分解することでも製造できる。照射により製造される低分子量PTFEが、好ましい。「低分子量」という語句は、PTFEに適用する場合、例えば、約35J/g未満の非常に低い結晶化熱を特徴とする、極めて高い分子量の成形粉PTFE又は微粉末PTFEと対照的に使用される。一般に、結晶化熱は、低分子量PTFE(ASTM D 5675のように、微細粉末と称する場合もある)を特徴付けるために使用される。結晶化熱が約50J/g未満のPTFE、例えば、PTFE「成形粉」、又は、「微粉末」は、本発明の組成物では、良好な構成成分ではない。
【0030】
本発明のフッ素重合体コーティング組成物は、高分子バインダーと、パーフルオロポリマーとを含む。パーフルオロポリマーは、低融点TFE/HFP共重合体と、低分子量PTFEとを含む。高分子バインダーは、コーティングと基材との所望程度の接着を可能とするのに十分な量で組成物中に存在するが、パーフルオロポリマーがコーティングにもたらす特性、特に、低摩擦係数に悪影響を与えるほどではない。
【0031】
一実施形態では、このコーティング組成物は、高分子バインダーを約20~約60重量パーセント、パーフルオロポリマーを約40~約80重量パーセント含む。別の実施形態では、このコーティング組成物は、高分子バインダーを約30~約50重量パーセント、パーフルオロポリマーを約50~約70重量パーセント含む。ここで定義される重量パーセントは、高分子バインダーとパーフルオロポリマー(TFE/HFP共重合体、及び、低分子量PTFE)の合成乾燥重量に基づく。
【0032】
このフッ素重合体コーティング組成物は、パーフルオロポリマーである、低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び、低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む。コーティング組成物の摩擦係数は、ポリテトラフルオロエチレンの量を最大化することによって、望ましく最小化される。しかしながら、パーフルオロポリマーとしてポリテトラフルオロエチレンのみを含有するコーティング組成物は、粗さが望ましくなく、厚さと組成においてばらつきもある。本発明のコーティング組成物における低融点TFE/HFP共重合体を高分子バインダー、及び、低分子量PTFEと併用すると、滑らかで、厚さと組成が均一で、しかも、摩擦係数が低いコーティングが得られる。
【0033】
一実施形態では、この結果は、約10~約60重量パーセントのテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と、約40~約90重量パーセントのポリテトラフルオロエチレンとを含む本発明のコーティング組成物で実現され、この重量パーセントは、パーフルオロポリマーである、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び、ポリテトラフルオロエチレンの合成乾燥重量に基づいて規定される。別の実施形態では、この結果は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体を約20~約50重量パーセント、ポリテトラフルオロエチレンを約50~約80重量パーセント含む本発明のコーティング組成物で実現される。別の実施形態では、この結果は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体を約20~約60重量パーセント、ポリテトラフルオロエチレンを約40~約80重量パーセント含む本発明のコーティング組成物で実現される。
【0034】
本発明のフッ素重合体コーティングは、単一コーティング(1コートコーティング)として、又は、多層コーティング系の層として有用である。フッ素重合体コーティングは、種々の実用化している粉体塗装法の1つで乾燥粉末を堆積するか、あるいは、適宜必要であれば、適切な界面活性剤、又は、粘度調整剤を使用して、適切な溶媒中で成分を懸濁させて、公知の市販の湿式塗装法により、組成物を基材上で堆積するいずれかの方法で、単離された乾燥組成物から製造できる。
【0035】
別の実施形態において、テトラフルオロエチレン/パーフルオロオレフィン共重合体、及び、高温耐性高分子バインダーの凝集粒子の破砕性顆粒を生成するため、米国特許第6,518,349号におけるFelixらの教示に従って、高温耐性高分子バインダーと合わせた低融点テトラフルオロエチレン/パーフルオロオレフィン共重合体の1次粒子の分散液を噴霧乾燥することでフッ素重合体組成物を、噴霧粉末へと製造できる。破砕性とは、相当な粒子の変形を引き起こすことなく、顆粒がより小さな粒径(粉砕された)に縮小され得ることを意味する。噴霧乾燥法で形成された高分子と成分との混合物は、粉末形成後に個々の組成物の粉末を混合する従来型機械式方法で形成されたものよりも、より均一である。噴霧乾燥で形成された多成分粉末は、静電印加中に分離しないので、基材上により均一なコーティングが得られる。
【0036】
一実施形態において、本発明は、溶媒、高温耐性高分子バインダーと、ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点TFE/HFP共重合体と、結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量PTFEとを含むフッ素重合体コーティングを基材に塗布するための液体組成物を、含む。溶媒は、全般に、厚さが均一なコーティングを形成するよう制御された様式で、基材表面にフッ素重合体コーティング組成物の成分を送達可能とする液体である。フッ素重合体コーティングを基材に塗布するのに使用される組成物中の溶媒の量は、一般に、組成物の約50~約90重量パーセントであり、高分子バインダー、及び、パーフルオロポリマーの量は、全般に、約10~約50重量パーセント(固体ベース)、好ましくは、約15~約25重量パーセントである。この組成物の他の任意の成分には、約1~約5重量パーセントの水混和性助溶媒、約1~約10重量パーセントのアニオン性、又は、非イオン性界面活性剤、及び、10重量パーセント以下の色素が、含まれる。
【0037】
推奨実施形態では、溶媒は、水である。パーフルオロポリマー成分は、全般に、水中にパーフルオロポリマーを分散させた状態で市販されており、これは、扱いやすさと、環境管理の観点から、本発明の組成物で推奨される形態である。「分散」とは、高分子粒子が水性媒体中に安定して分散されて、この分散液を使用する間に粒子の沈降が起こらないことを意味する。これは、通常、0.2ミリメートル程度の小さなパーフルオロポリマー粒子、及び、分散液の製造者による水性分散液中の界面活性剤の使用によって、実現される。こうした分散液は、分散重合として知られるプロセスと、適宜、濃縮、及び/又は、界面活性剤の更なる添加するプロセスにより、直接得ることができる。
【0038】
一実施形態において、有機液体は、パーフルオロポリマーと高分子バインダーの密な混合を実現するための溶媒として使用される。バインダーはその特定流体で溶解するので、有機液体を選択できる。バインダーが液体中に溶解しない場合、バインダーは、細かく分割された粒子であり、液体中にパーフルオロポリマーと共に分散可能である。生成されたコーティング組成物は、有機液体中に分散されたパーフルオロポリマーと、所望の密な混合物を得るために微細粒子として液体中に分散されるか、あるいは、溶解されているかいずれかの、高分子バインダーとを含められる。有機液体の特性は、高分子バインダーの特性、及び、その溶液又は分散液が望ましいものであるかどうかで決まる。このような有機液体の例には、とりわけ、N-メチルピロリドン、ブチロラクトン、高沸点芳香族溶媒、アルコール、それらの混合物がある。有機液体の量は、特性のコーティング処理で望まれる流動特性で決まる。
【0039】
別の態様として、本発明は、フッ素重合体コーティングを基材上に形成するプロセスに関し、このプロセスは、i)溶媒と、高温耐性高分子バインダーと、ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点TFE/HFP共重合体と、結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量PTFEとを含むコーティング組成物を基材の表面に塗布するステップと、ii)基材上のコーティング組成物から溶媒を除去するステップと、iii)高分子バインダー、及び、TFE/HFP共重合体を溶融するのに十分な温度で、基材のコーティング組成物を加熱するステップと、iv)高分子バインダーとテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体の融点より低い温度までコーティング組成物を冷却して、フッ素重合体コーティングを基材上に形成するステップとを、含む。
【0040】
本発明のプロセスは、溶媒と、高温耐性高分子バインダー(バインダー)と、ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点TFE/HFP共重合体(FEP)と、結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量PTFE(PTFE)とを含むコーティング組成物を基材の表面に塗布するステップを、含む。所望により、適切な界面活性剤、又は、粘度調整剤を含む適切な溶媒中に組成物の乾燥粉末を懸濁させて、この組成物を湿式塗装法により堆積することで、高分子バインダー、FEP、PTFE成分を含むコーティング組成物を、基材に塗布できる。別の実施形態において、公知の従来法、例えば、高温フロック加工、静電噴霧、静電流動層、ロトライニングなどにより、成分の混合乾燥粉末を、乾燥状態で堆積できる。摩擦帯電噴霧やコロナ噴霧などの静電噴霧が、好ましい。
【0041】
本方法は、基材上にコーティングされた組成物から溶媒を除去するステップを、含む。これは、基材上のコーティング組成物からの溶媒を蒸発させるのに十分な時間をかけて、基材を放置することで実現できる。必要に応じて、気流や基材の加温を使用して、溶媒の蒸発を促進させる。
【0042】
本発明のプロセスは、高分子バインダー、及び、TFE/HFP共重合体を溶融するのに十分な温度で、基材のコーティング組成物を加熱する(焼成する)ステップを、含む。コーティングの焼成は、i)高温耐性高分子バインダー、及び、ii)低融点TFE/HFPを含む組成成分の粒子を溶融し、並びに、溶融した高分子と、溶融組成物の溶融流動を合わせ、全体に分散した低分子量のPTFE粒子を含む、均一で連続したコーティングとすることができるよう、十分な時間をかけて実施する。一実施形態では、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、融点が、高分子バインダーの融点より約40℃低い温度から高分子バインダーの融点より約25℃高い温度の範囲にある。焼成温度は、少なくともi)高温耐性高分子バインダーと、ii)低融点TFE/HFPの高い方の融点に略相当する。一実施形態において、焼成温度は、i)高温耐性高分子バインダーと、ii)低融点TFE/HFPの高い方の融点よりも略高い温度であり、焼成時間は、少なくとも約30分である。
【0043】
融点が250℃を超える一般的なFEPについては、滑らかなコーティング膜を得るために、その融点よりもはるかに高い温度か、又は、長い焼成時間が必要である。
【0044】
本発明の別の態様は、コーティング組成物を有するコーティングされた基材に関し、このコーティング組成物は、高温耐性高分子バインダーと、ASTM D 4591の方法による融点が255℃未満の低融点テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と、結晶化熱が少なくとも約50J/gの低分子量ポリテトラフルオロエチレンとを含む。
【0045】
任意の適切な基材をコーティングすることができるが、典型的な基材の例には、とりわけ、鋼、高炭素鋼、ステンレス鋼、アルミ化鋼、及び、アルミニウム、ニッケル又は、その合金、銅、銀等の金属が挙げられる。
【0046】
一実施形態では、本明細書において基材として、パーフルオロポリマーの融点を下回る、比較的低い許容可能温度曝露限界を有するこうしたいくつかの高分子と金属基材が、企図される。こうした基材がパーフルオロポリマーコーティングからの利点を享受できる用途では、基材の許容温度曝露の限界によりパーフルオロポリマーコーティングを施したこうした基材や、その物品のコーティングが難しくなり、結果コストが増えるか、あるいは、コーティングが不可能となる。パーフルオロポリマーの融点が基材の許容温度曝露限界以上の場合、このような溶融パーフルオロポリマーによる基材のコーティング、又は、パーフルオロポリマー粒子による基材のコーティングを施してから(例えば、溶液コーティング、あるいは、粉体コーティング技術による)、パーフルオロポリマーコーティングを焼成すると、基材を修復不能に損傷させる恐れがある。
【0047】
本発明の基材の一実施形態は、ニッケルチタン合金(ニチノール)、例えば、それぞれ約50原子パーセント(ニッケル約55重量パーセント)を含有するニッケルとチタンの単純な二元混合物である。ニチノールは、曝露温度がアニーリング温度、又は、時効温度未満の場合、恒久的な温度誘起冶金学的変化に対して安定である。本発明の一実施形態において、基材は、ニッケルチタン合金(ニチノール)であり、この合金は、260℃よりも高温で20~30分間さらしてはならず、そうでなければ、その機械的性質が悪影響を受けるはずである。コーティングされた基材の一実施形態において、基材は、ニチノールを含む。コーティングされた基材の一実施形態において、コーティングされた基材は、ニチノールの望ましい物理的特性(例えば、弾性率)を損なわずに、パーフルオロポリマーの低表面摩擦特性に優れた本発明のフッ素重合体コーティングを施したニチノール製医療用ワイヤを含む。コーティングされた基材の一実施形態において、コーティングされた基材は、ニチノールの望ましい物理的性質(例えば、弾性率)を損なわず、ニチノールワイヤのフッ素重合体コーティングに含まれる色素の色を維持しつつ、パーフルオロポリマーの低表面摩擦品質に優れた本発明のフッ素重合体コーティングを施した着色ニチノール製医療用ワイヤを、含む。
【0048】
コーティングされた基材の一実施形態では、コーティングの乾燥被覆厚さは、約0.1~約0.4ミルである。
【0049】
コーティングされた基材の一実施形態において、コーティングは、静摩擦係数が約0.2以下であり、動摩擦係数が約0.17以下であり、摩擦係数は、ASTM D 1894の方法で測定される。コーティングされた基材の一実施形態において、コーティングは、静摩擦係数が約0.2以下であり、動摩擦係数が約0.14以下であり、摩擦係数は、ASTM D 1894の方法で測定される。
【実施例
【0050】
試験方法
接着力を、煮沸後クロスハッチテープ付着性試験法(PWA-CH)で試験した。コーティングされたパネル上の基材に、コーティングを1,000個の正方形を有する18×18mmの格子に切断した。パネルを沸騰水に30分間さらした後、ASTM D3359「テープ試験による接着を測定するための標準試験法」の手順に従った。
【0051】
ASTM 1894の方法「プラスチックフィルムの静的及び動的摩擦係数、並びに、シートの摩擦係数に関する標準試験法」により、摩擦係数測定をコーティングされたフラットパネルで実施した。
【0052】
耐食性:耐食性を精確に試験するために、ISO 11070「滅菌処理使い捨て血管内カテーテルイントロデューサ腐食試験」の方法により、コーティングされたワイヤについて生理食塩水浸漬試験を実施した。コーティングされたワイヤを0.9%のNaCl溶液中に1時間浸漬し、眼に見える亀裂や、色の変化があるかどうか、肉眼で確認した。
【0053】
耐変色性試験:コーティングが焼成条件(温度と時間)下で十分に硬化しているかどうかを検証するために、IPAやMEKを染み込ませた綿布で、コーティングされたパネルやコーティングされたワイヤをこすることによって、IPAとMEK摩擦試験(ASTM D5402)を実施した。コーティングから布への色の放出から、コーティングの硬化が不十分であることが示された。
【0054】
材料-本実施例で使用される材料の幾つかに関する説明:
ポリアミック酸高分子-米国特許第4,014,834号の実施例1で調製したポリアミド酸高分子。
【0055】
PTFE微細粉末FLUON TL-171E-Asahi Chemical Industryから入手され、融点が332℃である。
【0056】
PTFE微細粉末Zonyl(登録商標)-Zonyl(登録商標)MP-1600に対応するPTFEの水性分散液であり、融点が328℃、低融点FEP法の本発明のメルトフローレートにより、メルトフローレートが0である。Chemours社製である。
【0057】
低融点FEP-HFP含有量が16重量パーセント、融点が240~260℃、メルトフローレートが37.7g/10分の低融点TFE/HFP共重合体の水性分散液を噴霧乾燥させることで得られる粉末である。ASTM D-1238の方法により、上記例の低融点FEP高分子のメルトフローレートを、温度297℃、及び、荷重2,060gで測定した。Chemours社製である。
【0058】
標準的なFEPはChemours製のTE-9827製品であり、水性分散液は、固体を60%含み、融点が260℃、MFR1グラム/10分である。ASTM D-1238の方法により、メルトフローレートを、温度297℃、及び、荷重2,060gで測定した。
【0059】
青色分散液-市販の青色色素の水性分散液である。
【0060】
比較例1-青色1コート
以下の成分を混合、粉砕することによって、以下の配合物を調製した。
【0061】
【表1】
【0062】
ステンレス鋼パネルをアセトン及びイソプロパノールで洗浄してから、400℃で30分間オーブン内で熱処理した。次いで、噴霧コーティングにより、基材を比較用フッ素重合体コーティング組成物でコーティングし、115~150℃で15~20分間乾燥させた。更に、下表で記載されるように、パネルを異なる温度で30分間焼成した。乾燥フィルムの厚さは、4~10マイクロメートルである。
【0063】
試験結果から、コーティングを343℃以下で30分間焼成すると、コーティングが、完全には硬化しなかったことが示された。接着性が良好であったが、MEK摩擦試験により、色落ちして、フッ素重合体コーティング組成物の粒子は、均一で滑らかなコーティングを形成するための融合が不十分であること、更に、摩擦試験の比較的低い磨耗を通じ、こうした粒子は、コーティング表面から綿布に放出されていることが、示された。低MFR標準FEP TE-9827が、十分にメルトフローを起こさず、更に、現焼成条件下で、粒子は均一な平滑フィルムの形成に融合すると考えられるので、摩擦係数は高かった。こうした標準的なFEPの十分に焼成されたコーティングが形成されるには、焼成温度は、少なくとも363℃を必要とする。コーティングは、低摩擦係数を実現し、MEK摩擦試験に合格した。更に、この最低焼成温度では、コーティングは、良好な青色を維持できず、代わりに、緑色に変色した。この最低ベーキング温度では、このような高温に耐えられないニチノールなどの高温に敏感なワイヤのコーティングには適さない。
【0064】
比較例1の結果
【0065】
【表2】
【0066】
実施例1-2-青色1コート
以下の成分を混合、粉砕することによって、以下の配合物を調製した。
【0067】
【表3】
【0068】
ステンレス鋼パネルをアセトン及びイソプロパノールで洗浄してから、400℃で30分間オーブン内で熱処理した。次いで、噴霧コーティングにより、各基材を、実施例1、又は、実施例2のフッ素重合体コーティング組成物でコーティングし、115~150℃で15~20分間乾燥させた。次に、基材を329℃で30分間、更に焼成し、基材上で厚さが4~10マイクロメートルのコーティングを得た。パネルを以下の特性について試験した。
【0069】
実施例1及び実施例2コーティング観察
【0070】
【表4】
【0071】
結果から、FEPが標準FEPから低融点FEPに変化すると、329℃で低い摩擦係数が得られ、更に、パネルは、耐変色性試験実行時に、青色(コーティング)を損なわないことが実証された。実施例1のコーティングされたパネル上でMEK摩擦試験を実施した際のライトブルーの色落ちから、実施例1のコーティングが完全には硬化していないことが示された。低融点FEP(実施例2)の量が増加すると、コーティングは、同じ焼成条件下で完全に焼成され、更に、望ましく低い摩擦係数が得られた。
【0072】
実施例3-青色1コート
実施例2のコーティングについて、焼成温度を更に下げることを試みた場合、コーティングは、30分後、287℃で完全には硬化しないことが分かり、これは、MEK摩擦耐変色性試験の実施時に、一部の細かい青色が薄まることがパネルから示されることにより、立証された。
【0073】
次に、比較的融点の低いFEPを含有する以下の実施例3の組成物を、調製した。これにより、287℃の比較的低い温度、かつ、30分の焼成時間で完全に硬化して、均一で滑らかなコーティングになる組成物が得られた。
【0074】
実施例3組成物
【0075】
【表5】
【0076】
ステンレス鋼パネルをアセトン及びイソプロパノールで洗浄してから、400℃で30分間オーブン内で熱処理した。次いで、噴霧コーティングにより、基材をそれぞれ、実施例2、又は、実施例3のフッ素重合体コーティング組成物でコーティングし、115~150℃で15~20分間乾燥させた。次に、各コーティングされた基材を、287℃で30分間、更に焼成し、基材上で厚さが4~10マイクロメートルのコーティングを得た。パネルを以下の特性について試験した。
【0077】
実施例2及び実施例3コーティング観察
【0078】
【表6】
【0079】
ステンレス鋼ワイヤをアセトン及びイソプロパノールで洗浄してから、400℃で30分間オーブン内で熱処理した。ニチノールワイヤをアセトン及びイソプロパノールで洗浄してから、65℃で30分間オーブン内で熱処理した。両ワイヤを、噴霧コーティングにより、実施例3のフッ素重合体コーティング組成物でコーティングした。コーティングされたワイヤを、115~130℃で15~20分間乾燥させてから、240℃で30分間硬化させた。
【0080】
コーティングされたステンレス鋼ワイヤとニチノールワイヤが全て、生理食塩水浸漬(3時間浸漬)試験に合格し、コーティングがワイヤ用コーティングとして優れた耐食性を有することが示された。
【0081】
実施例4-緑色1コート
以下の成分を混合及び粉砕することによって、以下の配合物を調製した。
【0082】
【表7】
【0083】
ステンレス鋼とワイヤを、アセトン及びイソプロパノールで洗浄してから、400℃で30分間オーブン内で熱処理した。次いで、噴霧コーティングにより、基材を実施例4のフッ素重合体コーティング組成物でコーティングし、115~150℃で15~20分間乾燥させた。次に、基材を240℃で30分間、更に焼成し、各基材で厚さが4~10マイクロメートルのコーティングを得た。
【0084】
ニチノールワイヤをアセトン及びイソプロパノールで洗浄してから、65℃で30分間オーブン内で熱処理し、更に、噴霧コーティングにより、実施例4のフッ素重合体コーティング組成物でコーティングした。コーティングされたニチノールワイヤを、115~130℃で15~20分間乾燥させた。次いで、コーティングされたニチノールワイヤを、240℃で30分間更に硬化させた。
【0085】
コーティングされたパネルは、PWA-CH接着試験、及び、IPAとMEK摩擦試験の双方に合格した。これらから、コーティングが約240℃で完全に焼成され、滑らかなステンレス鋼基材へと良好に接着できることが実証された。コーティング表面は、非常に滑らかで滑りやすかった。
【0086】
コーティングされたステンレス鋼ワイヤとニチノールワイヤは共に、生理食塩水浸漬(3時間浸漬)試験に合格し、コーティングがワイヤ用コーティングとして優れた耐食性を有することが示された。
【0087】
実施例5及び比較例2-5(C2~C5)
以下の配合物を、以下の成分を混合及び粉砕することによって調製した(表数値は重量パーセントである):
【0088】
【表8】
【0089】
ステンレス鋼パネルをアセトン及びイソプロパノールで洗浄してから、400℃で30分間オーブン内で熱処理した。次いで、噴霧コーティングにより、基材をそれぞれ、実施例5、又は、比較例2~5のフッ素重合体コーティング組成物でコーティングし、115~150℃で15~20分間乾燥させた。次に、各コーティングされた基材を、287℃で30分間、更に焼成し、基材上で厚さが4~10マイクロメートルのコーティングを得た。パネルを以下の特性について試験した。
【0090】
【表9】
【0091】
これらの結果は、本低融点FEPが、驚くべきことに、しかも、効率的に接着に寄与していることを示す。比較例C3及びC4は、低融点FEPを含まず、接着できなかった。本発明のFEP/PTFE組成物(実施例5)の比較例C2、C5が実施例5よりも高い動摩擦係数であるので、比較例C2、C5のFEPのみの配合物からは、動摩擦係数が低くなるという結果が得られなかった。