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特許7213811新規なステープルペプチドおよびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】新規なステープルペプチドおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/54 20060101AFI20230120BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230120BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20230120BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230120BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20230120BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20230120BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20230120BHJP
【FI】
C07K7/54 ZNA
C07K19/00
C07K7/08
A61P29/00
A61P37/06
A61P31/04
A61P31/06
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P25/00
A61P1/04
A61P3/10
A61P35/00
A61P9/00
A61P31/12
A61P31/10
A61P33/00
A61K45/00
A61K38/12
A61K38/08
C12N15/54
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019534149
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 EP2017084309
(87)【国際公開番号】W WO2018115400
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】16306788.7
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(73)【特許権者】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】513096967
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ユニヴェルシテール・ドゥ・モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE MONTPELLIER
(73)【特許権者】
【識別番号】592236234
【氏名又は名称】アンスティテュー・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル・(イ・エヌ・エス・ウ・エール・エム)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE (I.N.S.E.R.M.)
(73)【特許権者】
【識別番号】518456029
【氏名又は名称】エコール・ナシオナル・シュペリウール・ドゥ・シミー・ドゥ・モンペリエ - ウエヌエスセエム
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NATIONALE SUPERIEURE DE CHIMIE DE MONTPELLIER - ENSCM
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ギョーム・ラコンド
(72)【発明者】
【氏名】ミュリエル・アンブラール-コシル
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・マルティネス
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・ヨルゲンセン
(72)【発明者】
【氏名】フロランス・アパラリー-セシャン
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・デュロー-リシャール
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-515172(JP,A)
【文献】Cell Communication and Signaling,2014年,12:77,pp. 1-19
【文献】Nature,2010年,Vol. 465, No. 7300,pp. 885-890
【文献】Scientific Reports,2016年11月23日,6:37267,pp. 1-12
【文献】Journal of Medical Chemistry,2015年,Vol. 58,pp. 96-110
【文献】Frontiers in Immunology,2014年,Vol. 5, Article 553,pp. 1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの大環状分子形成リンカー、および
(i)ヒト配列IRAK2 54-71(配列番号:1)に対して少なくとも65%、70%、80%、90%、または95%の配列同一性および5-7、9-11、14-15位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(ii)ヒト配列IRAKM 66-83(配列番号:2)に対して少なくとも70%、80%、90%、または95%の配列同一性および5-7、9-11、13-14位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列;
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、IRAK2/IRAK4相互作用を阻害することができる、10~30個のアミノ酸からなるペプチド模倣大環状分子であって、
α-ヘリックス、ならびにiおよびi+3位置、またはiおよびi+4位置、またはiおよびi+7位置において大環状分子形成リンカーによって架橋された少なくとも2つの天然または非天然アミノ酸を含み、
同一性パーセントが、同一位置の数/重複位置の総数×100として計算される、ペプチド模倣大環状分子。
【請求項2】
大環状分子形成リンカーが、飽和または不飽和の炭化水素鎖を含む、請求項1に記載のペプチド模倣大環状分子。
【請求項3】
大環状分子形成リンカーが、アルキレン、アルケニレン、およびアルキニレンからなる群から選択される炭化水素鎖を含む、請求項2に記載のペプチド模倣大環状分子。
【請求項4】
該炭化水素鎖の-CH2-基が、アミド官能基-NH-CO-で置き換えられている、請求項2に記載のペプチド模倣大環状分子。
【請求項5】
大環状分子形成リンカーによって架橋された2つの天然または非天然アミノ酸が、iおよびi+4位置にある、請求項1~4のいずれか1つに記載のペプチド模倣大環状分子。
【請求項6】
配列番号:3(IRAK2 S1):Ac-X-REL-X-WWWGBRQA-NH2
配列番号:4(IRAK2 S2):Ac-RREL-X-WWW-X-BRQA-NH2
配列番号:5(IRAKM S1):Ac-KSG-X-REL-X-WSWAQK-NH2
配列番号:6(IRAKM S2):Ac-RREL-X-WSW-X-QK-NH2
配列番号:10(IRAK2-JMV6650) Ac-VSI-X-REL-X-WWWGBRQA-NH2
配列番号:11(IRAKM-JMV6649) Ac-KSG-X-REL-X-WSWAQKNKTI-NH2
ここで、末端オレフィンを有する非天然アミノ酸Xは、大環状分子形成リンカーによって架橋される;または
配列番号:12(IRAK2-JMV6651):Ac-K-REL-D-WWWGBRQA-NH2
配列番号:13(IRAK2-JMV6652):Ac-VSI-K-REL-D-WWWGBRQATV-NH2
配列番号:14(IRAKM-JMV6653):Ac-KSG-K-REL-D-WSWAQK-NH2
配列番号:15(IRAKM-JMV6654):Ac-KSG-K-REL-D-WSWAQKNKTI-NH2
ここで、天然アミノ酸リシン(K)およびアスパラギン酸(D)は、大環状分子形成リンカーによって架橋される;
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれか1つに記載のペプチド模倣大環状分子。
【請求項7】
非天然アミノ酸Xが、(S)-2-(4'-ペンテニル)アラニンである、請求項6に記載のペプチド模倣大環状分子。
【請求項8】
さらに、少なくとも1つのスペーサーを含む、請求項1~7のいずれか1つに記載のペプチド模倣大環状分子。
【請求項9】
さらに、少なくとも1つの細胞浸透性ペプチドを含む、請求項1~8のいずれか1つに記載のペプチド模倣大環状分子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つに記載の少なくとも1つのペプチド模倣大環状分子、および少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項11】
抗炎症化合物、細胞標的化合物、および/またはリポソームの構成化合物、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの追加の成分および/または活性成分を含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1つに記載のペプチド模倣大環状分子と、請求項11に記載の少なくとも1つの追加の成分および/または活性物質とを含む組み合わせ剤。
【請求項13】
薬物としての使用のための、請求項1~9のいずれか1つに記載のペプチド模倣大環状分子、または請求項10もしくは11に記載の医薬組成物、または請求項12に記載の組み合わせ剤。
【請求項14】
炎症の予防または治療における使用のための、請求項1~9のいずれか1つに記載のペプチド模倣大環状分子、または請求項10もしくは11に記載の医薬組成物、または請求項12に記載の組み合わせ剤。
【請求項15】
結核、敗血症、髄膜炎、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、2型糖尿病、がん、心血管疾患、または細菌、ウイルス、寄生虫または真菌を含む病原微生物によって引き起こされる病気から選択される急性および慢性炎症性疾患を含む感染症または自己免疫疾患の予防または治療における使用のための、請求項1~9のいずれか1つに記載のペプチド模倣大環状分子、または請求項10もしくは11に記載の医薬組成物、または請求項12に記載の組み合わせ剤。
【請求項16】
ペプチド模倣大環状分子が、炎症性疾患の診断前、診断中および/または診断後に投与される、請求項13~15のいずれか1つに記載の使用のための、請求項1~9のいずれか1つに記載のペプチド模倣大環状分子、または請求項10もしくは11に記載の医薬組成物、または請求項12に記載の組み合わせ剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IRAK2およびIRAKM(IRAK3とも呼ばれる)およびIRAK4のタンパク質結合領域に由来する、ステープルペプチドとも呼ばれる新規なペプチド模倣大環状分子、およびその使用、特に炎症経路の阻害剤としてのその使用を提供する。
本明細書で使用される「IRAK」という用語は、刺激時にインターロイキン受容体(IL-R)と会合するようになるインターロイキン受容体関連キナーゼを意味する。IRAK遺伝子は、転写因子NF-κBのインターロイキンによるアップレギュレーションに部分的に関与している。
【背景技術】
【0002】
Toll様受容体(TLR)によるシグナル伝達は、多くの病原性微生物に対する宿主防御の中心であり、そしてまた慢性炎症性疾患などのヒトの疾患の大きな負担の根底にある。
【0003】
炎症性疾患および自己免疫疾患は、世界中の何百万もの人々の生活に影響を及ぼし、そして特定の治療的介入を必要とする重要な公衆衛生問題である。TLRシグナル伝達経路は、感染症および炎症性疾患、ならびに癌において研究されてきた。このシグナル伝達経路を標的とすることは、関節リウマチ、多発性硬化症およびクローン病などの自己免疫疾患、ならびに2型糖尿病、感染症、敗血症、癌および心血管疾患などの炎症性シグナルの調節解除に関連する他の一般的な疾患に関連しうる。
【0004】
したがって、TLRによるシグナル伝達のメカニズムおよび調節は、新規かつ特異的な抗炎症療法の開発にとってかなり興味深いものである(O’Neillら、Nat. Rev. Immunol. 2007)。
【0005】
TLR活性化は、多タンパク質複合体、すなわち「ミドソーム(Myddosome)」複合体の集合を促進し、核因子-κB(NF-κB)を活性化し、そして炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β、IL-6など)の産生をもたらす一連の下流のシグナル伝達物質相互作用を誘導する。ミドソームは、MYD88、IRAK4およびIRAK2のいくつかの分子を含むオリゴマー構造である。(Linら、Nature 2010)。
【0006】
現在、大手製薬グループが、IRAK4キナーゼ活性の阻害に取り組んでいる。いくつかの化合物は前臨床段階にある(Chaudharyら、Journal of Medicinal Chemistry、2015)。
【0007】
しかしながら、炎症性サイトカインの産生を阻止することは治療上の目標として十分に認められているが、炎症性サイトカイン(IL1-β、TNF-αおよびIL6)の産生をそれらの分泌の上流で阻止する戦略によって、この経路を阻害する市販の薬物は現在ない。さらに、IRAK2およびIRAKMは、偽キナーゼであり、したがって、それらの活性を通常のキナーゼ阻害剤戦略によって阻害することはできない。Zhouとその同僚(Hao Zhouら、The EMBO Journal(2013)32、583-596)は、IRAKMが、IRAK2としてMyd88-IRAK4と相互作用することを実証した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、それ故、サイトカインTNFα、IL-6およびIL1βの産生のシグナル伝達TLR経路を阻害し得る新規化合物が必要とされている。
【0009】
本発明者らは、IRAK2/IRAK4相互作用を阻害し、したがって「ミドソーム」組み立ておよび炎症性メディエータの下流産生を妨げる、ステープルペプチドとも呼ばれる特定の大環状ペプチドを設計した。
【0010】
本発明の独創性は、炎症性疾患および感染性疾患が体内で発生したらすぐに治療することであり、現在提案されていない新しい目的に向かって行動するものである。実際、今日利用可能な唯一の有効な抗TNFα治療は、アダリムマブ、インフリキシマブまたはエタネルセプトなどのモノクローナル抗体である。しかし、抗体は、重度のプロセシングを受けており、上流の炎症経路を遮断することができない。
【0011】
したがって、ステープルペプチドを介してIRAK-2とIRAK-4との相互作用を阻害することは、戦略的な代替選択である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概略
本発明は、TLRおよびIL1Rを介して活性化される炎症経路を阻害するIRAK2およびIRAKMおよびIRAK4のタンパク質結合領域に由来する特異的ペプチド模倣大環状分子に関する。本発明はさらに、これらのペプチド模倣大環状分子の製造方法、炎症、特に急性または慢性の炎症性疾患の予防または治療おける使用のための、それらを含有する医薬組成物、ならびに単独で、または抗炎症性もしくは細胞標的化合物から選択される追加の化合物と組み合わせた、その使用に関する。
【0013】
本発明による定義
本発明による用語「ペプチド模倣大環状分子」または「架橋ポリペプチド」または「ステープルペプチド」は、複数のペプチド結合によって結合された複数のアミノ酸残基、ならびに、同じ分子内の、第1の天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸残基(または類似体)と第2の天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸残基(または類似体)との間に大環状分子を形成する少なくとも1つの大環状分子形成リンカーを含む化合物を意味する。
【0014】
ペプチド模倣大環状分子は、大環状分子形成リンカーが第1のアミノ酸残基(または類似体)のα炭素を第2のアミノ酸残基(または類似体)のα炭素に結合させる実施態様を含む。
【0015】
ペプチド模倣大環状分子の文脈において言及される場合の「対応する未架橋ポリペプチド」または「直鎖ペプチド」は、大環状分子と同じ長さであり、大環状分子に対応する野生型配列の等価な天然アミノ酸を含むポリペプチドに関すると理解される。
【0016】
本発明による用語「ペプチド」または「ポリペプチド」は、共有結合(たとえば、アミド結合)によって連結された2つ以上の天然に存在するアミノ酸または天然に存在しないアミノ酸を包含する。本発明によるペプチドは、一般に、8~30アミノ酸の長さを有する。
【0017】
本発明による用語「アミノ酸」は、アミノ基とカルボキシル基の両方を含む分子を意味する。適切なアミノ酸として、これらに限定されないが、天然に存在するアミノ酸のD-異性体およびL-異性体の両方、ならびに有機合成または他の代謝経路によって調製された天然に存在しないアミノ酸が挙げられる。本明細書で使用されるアミノ酸という用語は、これらに限定されないが、α-アミノ酸、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、およびアミノ酸類似体を含む。
【0018】
本発明による用語「天然に存在するアミノ酸」は、天然に合成されるペプチド中に一般的に見出される20個のL-アミノ酸、すなわちアラニン(AlaまたはA)、アルギニン(ArgまたはR)、アスパラギン(AsnまたはN)、アスパラギン酸(AspまたはD)、システイン(CysまたはC)、グルタミン酸(GluまたはE)、グルタミン(GluまたはQ)、グリシン(GlyまたはG)、ヒスチジン(HisまたはH)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、リシン(LysまたはK)、メチオニン(MetまたはM)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、セリン(SerまたはS)、トレオニン(ThrまたはT)、トリプトファン(TrpまたはW)、チロシン(TyrまたはY)、およびバリン(ValまたはV)のL-異性体のいずれか1つを意味する。酸化に敏感な天然に存在するアミノ酸の場合、ペプチド模倣体中のアミノ酸は、保存的アミノ酸置換で置き換えられる;たとえば、メチオニン(M)は、その生物学的活性に影響を与えることなく、ノルロイシン(Nle)によって置き換えられる。
【0019】
本発明による用語「アミノ酸類似体」または「非天然アミノ酸」は、アミノ酸と構造的に類似しており、かつ、ペプチド模倣大環状分子の形成においてアミノ酸と置換することができる分子を示す。一例として、オルニチンは、リシンの類似体である。
【0020】
アミノ酸類似体は、限定されないが、本明細書で定義されるように、アミノ基とカルボキシル基との間に1個以上の追加のメチレン基(を含むたとえば、α-アミノβ-カルボキシ酸)ことを除いて、またはアミノ基またはカルボキシ基を同様の反応性基で置換する(たとえば、第一級アミンを第二級または第三級アミンで置換するか、またはカルボキシ基をエステルで置換する)ことを除いて。アミノ酸と構造的に同一である化合物を含む。
【0021】
本発明による「非天然アミノ酸」という用語は、天然で合成されたペプチド中に一般に見いだされる20個のアミノ酸のうちの1つではないが、代わりに、化学合成または天然アミノ酸の化学修飾によって生成されるアミノ酸を意味する。
【0022】
本発明による用語「非必須」アミノ酸残基は、その本質的な生物学的または生化学的活性(たとえば、受容体結合または活性化)を無効にするか、または実質的に無効にすることなく、ポリペプチドの野生型配列から改変され得る残基である。本発明による用語「必須」アミノ酸残基は、ポリペプチドの野生型配列から改変された場合に、ポリペプチドの必須の生物学的または生化学的活性を無効にするかまたは実質的に無効にする残基である。
【0023】
「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換される置換である。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野で定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(たとえば、K、R、H)、酸性側鎖(たとえば、D、E)、非荷電極性側鎖(たとえば、G、N、Q、S、T、Y、C)、非極性側鎖(たとえば、A、V、L、I、P、F、M、W)、β分岐型側鎖(たとえば、T、V、I)および芳香族側鎖(たとえば、Y、F、W、H)を有するアミノ酸を包含する。したがって、たとえば、ポリペプチド中の予測される非必須アミノ酸残基が、同じ側鎖ファミリーからの他のアミノ酸残基で置換されるのが好ましい。許容される置換の他の例は、等価体考察(たとえば、メチオニンに対するノルロイシン)または他の特性(たとえば、フェニルアラニンに対する2-チエニルアラニン)に基づく置換である。
【0024】
用語「生物学的活性」は、本発明の大環状分子の構造的および機能的特性を包含する。生物学的活性は、たとえば、構造安定性、α-ヘリックス性、標的に対する親和性、タンパク質分解に対する耐性、細胞透過性、細胞内安定性、インビボ安定性、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0025】
本発明による用語「i」、「i+3」、「i+4」および「i+7」は、ステープルの形成時に互いに共有結合するようになるペプチド内のアミノ酸の位置を示す。「i」位置は、ペプチドのアミノ末端に最も近いアミノ酸の位置を示す。「i+3」位は、「i」位の3アミノ酸下流(カルボキシ末端に向かって3アミノ酸)であり、「i+4」位は、「i」位の4アミノ酸下流(カルボキシ末端に向かって4アミノ酸)であり、「i+7」位は、「i」位の7アミノ酸下流である。ステープルが形成されると、i位のアミノ酸とi+3位、i+4位またはi+7位のアミノ酸との間に共有結合が形成される。本発明による用語「らせん安定性」は、円偏光二色性によって測定される、本明細書に提供されるペプチド模倣大環状分子によるらせん構造の維持を意味する。
【0026】
用語「アルキレン」は、二価アルキル(すなわち、-R-)を意味する。
【0027】
用語「アルケニル」は、1つ以上の炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐鎖である炭化水素鎖を意味する。アルケニル部分は、示された数の炭素原子を含む。たとえば、C2-C10は、その基がその中に2-10個(両端値を含む)の炭素原子を有することを示す。
【0028】
用語「アルキニル」は、1つ以上の炭素-炭素三重結合を有する直鎖または分岐鎖である炭化水素鎖を意味する。
【0029】
発明の詳細な開示
ペプチド模倣大環状分子(ステープルペプチド)
本発明のステープルペプチドは、ペプチド中の2つのアミノ酸の側鎖間に共有結合を含む。ペプチドステープリングは、ペプチドを特定の立体配座に物理的に拘束するために(たとえば、ペプチドをその天然のαらせん状態に物理的に拘束するために)使用することができる。これは、標的分子と相互作用するのに必要な天然構造を保持するのを助けること、細胞浸透を高めること、および/またはタンパク質分解からペプチドを保護することによって、ペプチドの薬理学的特性を高めることができる。
【0030】
本発明のステープルペプチドの設計は、Myd88/IRAK4/IRAK2複合体の相互作用の阻害に基づいている。このタンパク質複合体は、いったん形成されると、NF-κB経路の活性化を通じて、IL-1β、TNFα、IL-6などのいくつかの炎症性サイトカインの合成を誘導する(図1)。Myd88/IRAK4/IRAK2複合体の結晶学的研究およびAla-scan仮想スクリーニングは、我々が、IRAK2 54-71と名付けた、IRAK2中のα-ヘリックスの存在を明らかにし、これは、IRAK4表面と相互作用する。IRAK4とIRAK2との間のこの相互作用は、Myd88/IRAK4/IRAK2複合体の活性に必須である。採用された戦略は、IRAK2αヘリックスを模倣し、これらのペプチドが複合体内のIRAK2タンパク質に置き換わることができ、それによってその形成および炎症性サイトカインの下流産生が阻害されるかどうかを調べるために、この配列のステープルペプチドを開発することであった、
【0031】
文献の詳細な研究(Duら、Cell Commun Signal. 2014)は、IRAKM(IRAK3)タンパク質が、IRAK2を置き換えることによって複合体Myd88/IRAK4/IRAK2を阻害する天然タンパク質であることを示した。IRAKMに関する結晶学的データの欠如により、このタンパク質がIRAK2 54-71のα-ヘリックスのものと同一のアミノ酸を有するかどうかを調べるために、IRAK2とIRAKMとの間の配列アラインメントを実施した。この研究は、50%のアミノ酸がこのα-ヘリックス内に保存されていることを示した。そこで、我々は、IRAKMのステープルペプチドも合成し、それをIRAKM 66-83と命名した。
【0032】
配列は、以下のように定義される:
IRAK2 54-71:VSITRELLWWWGMRQATV(配列番号:1)
IRAKM 66-83:KSGTRELLWSWAQKNKTI(配列番号:2)
【0033】
rIRAK2 54-71(配列番号:1)の5-6、9-11、13-15位、好ましくは、14-15位のアミノ酸、およびIRAKM 66-83(配列番号:2)のそれぞれ5-6、9-11、13-15位、好ましくは、13-14位のアミノ酸は、必須であり、これは、該アミノ酸の修飾がα-ヘリックス中のそれらの官能性または活性および構造に影響を与えることを意味する。結果として、アミノ酸位置の重要性を考慮して、本発明に従って設計されたステープルペプチドを調製した。
【0034】
合成戦略およびステープル留め位置を確立した後、いくつかのペプチドを合成した。それらに沿って、それらの活性を説明するために6つのペプチドを選択した:IRAK2およびIRAKMのα-ヘリックスの2つの類似の直鎖状配列、およびこれらの配列由来の4つのステープルペプチド。生物学的試験において陰性対照ステープルペプチドを有するように追加のペプチドを合成した。我々がMock Sと命名したこのペプチドは、IRAK2 54-71(配列番号:1)およびIRAKM 66-83(配列番号:2)の配列には対応しないランダムなステープルペプチドである。
【0035】
該配列を以下の第1表に示した。
第1表
【表1】
【表2】
酸化に感受性である13位のメチオニン「M」は、保存的アミノ酸置換であるノルロイシン「B」に置き換えられている。
【0036】
配列番号:12~配列番号:15についての別の実施態様では、リシン(K)は、オルニチンによって置き換えられてもよく、および/またはアスパラギン酸(D)は、グルタミン酸(E)によって置き換えられてもよい。
【0037】
本発明では、IRAK2 S1は、IRAK2-JMV6645とも命名される。
本発明では、IRAK2 S2は、IRAK2-JMV6646とも命名される。
本発明では、IRAKM S1は、IRAKM-JMV6647とも命名される。
本発明では、IRAKM S2は、IRAKM-JMV6648とも命名される。
【0038】
「S5」として表されるアミノ酸は、1つの二重結合を含むすべて炭素のiからi+4への架橋剤によって結合されたアルファ-Me S5-ペンテニル-アラニンオレフィンアミノ酸である。
「Ac」は、アセチルを表す。
「B」は、アミノ酸ノルロイシンを表す。
【0039】
これらのステープルペプチドは、以下の第2a表および第2b表にも表される:
第2a表
【表3】
【0040】
第2b表
【表4】
【表5】
【0041】
タンパク質に由来する小さいαヘリックスセグメント内の共有側鎖~側鎖間結合(ステープリング)は、それらがそれらの本来の状況から切り取られたときにこれらのオリゴペプチドによって溶液中に示されるヘリックス特性をほとんどまたは全く圧倒しない。したがって、「ステープル」としての短い炭化水素鎖の組み込みは、らせん性、タンパク質分解に対する耐性、および細胞透過性を高めることが示されている(Lauら、Chem. Soc. Rev. 2015、44、91-102;WalenskyおよびBird、J. Med. Chem.、2014、57、6275-6288;GuerlavaisおよびSawyer、Annual reports in Med. Chem.、2014、49、331-345)。その結果、ペプチド模倣大環状分子は、それらの対応する非架橋(たとえば、直鎖)ペプチド模倣大環状分子またはステープルペプチドと比較して、改善された医薬特性を有する。これらの改善された特性として、改善されたバイオアベイラビリティおよびインビボ安定性(耐加水分解性)が挙げられる。
【0042】
本発明による場合のように、ステープルペプチドを用いてペプチドをその天然のαヘリックス状態に物理的に拘束する場合、ペプチドのi位とi+3位の間、またはペプチドのi位とi+4位の間、またはペプチドのi位とi+7位の間にステープルを形成することが望ましい。これは、アルファヘリックスが形成されると、i、i+3、i、i+4、およびi+7位におけるアミノ酸のアミノ酸側鎖がヘリックスの同じ面に配置されるためである。
【0043】
iとi+3、iとi+4、およびiとi+7位の間にステープルを有するステープルペプチドの例を、図2Aに表す。
【0044】
本発明の第一の目的は、少なくとも1つの大環状分子形成リンカー、および
(i)ヒト配列IRAK2 54-71(配列番号:1)に対して約50%、60%、70%、80%、90%、または95%の配列同一性および5-6、9-11、13-15位、好ましくは、14-15位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(ii)ヒト配列IRAKM 66-83(配列番号:2)に対して約50%、60%、70%、80%、90%、または95%の配列同一性および5-6、9-11、13-15位、好ましくは、13-14位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列;
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド模倣大環状分子であり、ここで、ペプチド模倣大環状分子は、α-ヘリックスおよび大環状分子形成リンカーによって架橋された少なくとも2つの天然または非天然アミノ酸を含む。
【0045】
特定の実施態様では、ペプチド模倣大環状分子は、少なくとも1つの大環状分子形成リンカー、および
(i)ヒト配列IRAK2 54-71(配列番号:1)に対して約50%、60%、70%、80%、90%、または95%の配列同一性および5-7、9-11、14-15位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(ii)ヒト配列IRAKM 66-83(配列番号:2)に対して約50%、60%、70%、80%、90%、または95%の配列同一性および5-7、9-11、13-14位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列;
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、ここで、ペプチド模倣大環状分子は、α-ヘリックスおよび大環状分子形成リンカーによって架橋された少なくとも2つの天然または非天然アミノ酸を含む。
【0046】
配列同一性は、当該技術分野で公知の方法による配列アラインメントによって計算される。
【0047】
2つのアミノ酸配列の同一性パーセントを決定するために、それらの配列を最適な比較のために整列させる。たとえば、第二のアミノ酸配列との最適なアラインメントのために、第一のアミノ酸配列の配列にギャップを導入することができる。次に、対応するアミノ酸位置のアミノ酸残基を比較する。第一の配列中の位置が第二の配列中の対応する位置と同じアミノ酸残基で占められている場合、分子はその位置で同一である。2つの配列間の同一性パーセントは、それらの配列によって共有される同一位置の数の関数である。したがって、同一性%=同一位置の数/重複位置の総数×100である。
【0048】
この比較において、配列は同じ長さであっても異なる長さであってもよい。比較ウィンドウを決定するための配列の最適アラインメントは、Smith and Waterman(J. Theor. Biol.、1981)の局所相同性アルゴリズムによって、NeedlemanおよびWunsch(J. Mol. Biol、1972)の相同性アラインメントアルゴリズムによって、PearsonおよびLipman(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、1988)の方法による類似検索によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装(GAP、BESTFIT、FASTA and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0、Genetic Computer Group、575、Science Drive、Madison、Wisconsin)によって、あるいは、たとえば、BLAST[2]などの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して、実施することができる。そのようなソフトウェアを使用するとき、例えばギャップペナルティまたはエクステンションペナルティのためのデフォルトパラメータが使用されるのが好ましい。さまざまな方法によって生成された最適アラインメント(すなわち、比較ウィンドウにわたって最高の割合の同一性もたらす)が選択される。
【0049】
特定の実施態様では、ペプチド模倣大環状分子は、少なくとも1つの大環状分子形成リンカー、およびヒト配列IRAK2 54-71(配列番号:1)に対して少なくとも70%の配列同一性および5-7、9-11、14-15位のアミノ酸と100%の同一性、またはヒト配列IRAKM 66-83(配列番号:2)に対して少なくとも70%の配列同一性および5-6、9-11、13-15位、好ましくは、13-14位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0050】
アミノ酸の位置は、参照された配列の配列番号に従って決定される。
【0051】
もう1つの実施態様では、ペプチド模倣大環状分子は、少なくとも1つの大環状分子形成リンカー、およびヒト配列IRAK2 54-71(配列番号:1)に対して少なくとも80%の配列同一性および5-7、9-11、14-15位のアミノ酸と100%の同一性、またはヒト配列IRAKM 66-83(配列番号:2)に対して少なくとも80%の配列同一性および5-6、9-11、13-15位、好ましくは、13-14位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0052】
もう1つの実施態様では、ペプチド模倣大環状分子は、少なくとも1つの大環状分子形成リンカー、およびヒト配列IRAK2 54-71(配列番号:1)に対して少なくとも90%の配列同一性および5-7、9-11、14-15位のアミノ酸と100%の同一性、またはヒト配列IRAKM 66-83(配列番号:2)に対して少なくとも90%の配列同一性および5-6、9-11、13-15位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0053】
特定かつ好ましい実施態様では、ペプチド模倣大環状分子は、少なくとも1つの大環状分子形成リンカー、およびヒト配列IRAK2 54-71(配列番号:1)に対して65%~90%の配列同一性および5-7、9-11、14-15位のアミノ酸と100%の同一性、またはヒト配列IRAKM 66-83(配列番号:2)に対して65%~90%の配列同一性および5-6、9-11、13-15位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0054】
特定かつ好ましい実施態様では、ペプチド模倣大環状分子は、少なくとも1つの大環状分子形成リンカー、およびヒト配列IRAK2 54-71(配列番号:1)に対して68%~90%の配列同一性および5-7、9-11、14-15位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0055】
特定かつ好ましい実施態様では、ペプチド模倣大環状分子は、少なくとも1つの大環状分子形成リンカー、およびヒト配列IRAKM 66-83(配列番号:2)に対して70%~90%の配列同一性および5-6、9-11、13-14位のアミノ酸と100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0056】
IRAK2 54-71(配列番号:1)の5-6、9-11、13-15位、好ましくは、14-15位のアミノ酸および別に、IRAKM 66-83(配列番号:2)の5-6、9-11、13-14位のアミノ酸は、上記ペプチド模倣大環状分子の生物活性のための必須のアミノ酸である。
【0057】
IRAK2 54-71(配列番号:1)の5-7、9-11、14-15位のアミノ酸および別に、IRAKM 66-83(配列番号:2)の5-7、9-11、13-14位のアミノ酸は、上記ペプチド模倣大環状分子の生物活性のための必須のアミノ酸であるみなされてもよい。
【0058】
(a)ラクタム架橋、(b)炭化水素架橋、(c)金属イオンクリップ、(d)水素結合サロゲート、および(e)複素環架橋などの数種類のペプチドステープルまたは大環状リンカーが挙げられる。これらの種類のステープルのいずれか、または当技術分野において公知の他のペプチドステープルは、本明細書に記載のペプチドのいずれかと共に使用することができる。
【0059】
ラクタム架橋は、グルタミン酸またはアスパラギン酸およびペプチドのリシン(またはその類似体オルニチン)残基から形成されうる。グルタミン酸またはアスパラギン酸およびリシン残基は、ペプチドの天然配列中に存在しうる。あるいは、ペプチドの所望の位置でのグルタミン酸、アスパラギン酸および/またはリシン(またはその類似体オルニチン)のアミノ酸置換は、ペプチド合成中に所望の位置に導入することができる。
【0060】
特定の実施態様では、ラクタム架橋は、リシンおよびアスパラギン酸残基を用いて形成される。
特定の実施態様では、1つ以上の置換は、位置iでのリシン誘導体残基による置換、および位置i+3または位置i+4または位置i+7、好ましくは、位置i+4でのアスパラギン酸誘導体による置換を含みうる。
【0061】
炭化水素架橋(たとえば、オレフィン架橋)は、ペプチド中の2つのアリルグリシン残基の間に形成されうる。2つのアリルグリシン残基をペプチドの所望の位置に導入することができ、次いで、炭化水素架橋を当技術分野で公知の標準的な方法を用いて形成することができる。アリルグリシン残基が炭化水素架橋の形成に使用される場合、置換が、ペプチドのi位およびi+4位で行われるのが好ましい。
【0062】
もう1つの特定の実施態様では、炭化水素架橋は、炭化水素架橋は、アラニン誘導体S5、R8、および/またはR5を使用して形成することもでき、たとえば「S5-オレフィンアミノ酸」は、(S)-a-(2'-ペンテニル)アラニンであり、「R8オレフィンアミノ酸」は、(R)-a-(2'-オクテニル)アラニンであり、および「R5-オレフィンアミノ酸」は、(R)-a-(2'-ペンテニル)アラニンである。
【0063】
特定の実施態様では、1つ以上の置換は、位置iにおけるアラニン誘導体R5残基による置換および位置i+3におけるアラニン誘導体S5による置換を含みうる。
【0064】
もう1つの実施態様では、1つ以上の置換は、位置iにおけるアラニン誘導体R8残基による置換および位置i+4およびi+7のうちの1つにおけるアラニン誘導体S5による置換を含みうる。
【0065】
金属イオンクリップでは、架橋は、金属イオン(たとえば、レニウム、ルテニウム、またはパラジウムイオン)への配位結合によって形成される。
【0066】
水素結合サロゲートでは、炭化水素架橋は、ペプチドのアミノ末端窒素原子とアミノ酸側鎖との間に形成される。
【0067】
本発明の特定の実施態様では、ラクタム架橋または炭化水素架橋が、大環状リンカーとして用いられる。
【0068】
本発明の好ましい実施態様では、大環状分子形成リンカーは、飽和または不飽和の、そして任意に置換された炭化水素鎖を含む。
【0069】
炭化水素鎖は、6~20個の炭素原子、好ましくは、6~14個の炭素原子を含みうる。
【0070】
特定の実施態様では、上で定義したような炭化水素鎖の-CH2-基は、アミド官能基-NH-CO-で置き換えられている。
【0071】
好ましい実施態様では、炭化水素鎖は不飽和であり、これは二重結合を含むことを意味する。
【0072】
特定の実施態様では、炭化水素鎖は、置換されていてもよい。特に、ジヒドロキシ化合物は、二重鎖から製造することができ、これらのジヒドロキシ化合物は置換されてもよい。
【0073】
特定の実施態様では、大環状分子形成リンカーは、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、およびそれらから誘導されるもの、好ましくは、アルキレンからなる群から選択される炭化水素鎖を含む。
【0074】
特定の実施態様では、大環状分子形成リンカーは、-CH2-基がアミド官能基-NH-CO-で置き換えられている飽和または不飽和、特に飽和炭化水素鎖を含む。
【0075】
特定の実施態様では、大環状分子リンカーは、ラクタム架橋であり、これは上で定義したような炭化水素鎖からなり、ここで、-CH2-基は、アミド官能基-NH-CO-で置き換えられている。
【0076】
いくつかの実施態様では、少なくとも1つの大環状分子形成リンカーは、6~14個の炭素原子、たとえば、9、10、11または12個の炭素原子を有する直鎖アルケニルである。
【0077】
特定の実施態様では、大環状分子形成リンカーによって架橋された2つの天然または非天然アミノ酸は、少なくとも3個のアミノ酸(iおよびi+3)、4個のアミノ酸(iおよびi+4)、または7個のアミノ酸(iおよびi+7)、好ましくは、4個のアミノ酸(iおよびi+4)によって隔てられる。
大環状分子形成リンカーによって架橋された2つの天然または非天然アミノ酸が、iおよびi+3位置、またはiおよびi+4位置、またはiおよびi+7位置、好ましくは、iおよびi+4位置にあると言われるのが好ましい。
【0078】
特定の実施態様では、大環状分子形成リンカーは、配列IRAK2 54-71(配列番号:1)の4位(i)および8位(i+4)においてアミノ酸を連結する。
もう1つの特定の実施態様では、大環状分子形成リンカーは、配列IRAKM 66-83(配列番号:2)の4位(i)および8位(i+4)においてアミノ酸を連結する。
【0079】
もう1つの特定の実施態様では、大環状分子形成リンカーは、配列IRAK2 54-71(配列番号:1)の8位(i)および12位(i+4)においてアミノ酸を連結する。
もう1つの特定の実施態様では、大環状分子形成リンカーは、配列IRAKM 66-83(配列番号:2)の8位(i)および12位(i+4)においてアミノ酸を連結する。
【0080】
ステープルペプチド配列およびアミノ酸位置を図2Bに表す。
【0081】
特定の実施態様では、本発明のペプチド模倣大環状分子は、それぞれ独立して1つの大環状分子形成リンカーによって架橋された少なくとも2対の天然または非天然アミノ酸を含む。
【0082】
たとえば、ペプチドは、第1の位置i、第1の位置i+3、第1の位置i+4、および/または第1の位置i+7における1つ以上の第1の置換(ここで、1つ以上の第1の置換は、第1の位置iにおけるアミノ酸と、第1の位置i+3、第1の位置i+4または第1の位置i+7におけるアミノ酸との間の共有結合の形成を可能にする);および第2の位置i、第2の位置i+3、第2の位置i+4、および/または第1の位置i+7における1つ以上の第2の置換(ここで、1つ以上の第2の置換は、第2の位置iにおけるアミノ酸と、第2の位置i+3、第2の位置i+4または第2の位置i+7におけるアミノ酸との間の共有結合の形成を可能にする)を含みうる。
【0083】
このような実施態様では、少なくとも1つの大環状分子形成リンカーは、第1および第2の大環状分子形成リンカーを含み、ここで、第1の大環状分子形成リンカーは、第1および第2のアミノ酸を連結し、ここで、第2の大環状分子形成リンカーは、第3および第4のアミノ酸を連結し、ここで、第1のアミノ酸は、第2のアミノ酸の上流にあり、第2のアミノ酸は、第3のアミノ酸の上流にあり、および第3のアミノ酸は、第4のアミノ酸の上流にある。少なくとも1つの大環状分子形成リンカーは、2、3、4、5、6、または7個のアミノ酸によって分離される第1および第2の大環状分子形成リンカーを含んでもよい。いくつかの実施態様では、少なくとも1つの大環状分子形成リンカーは、4または5個のアミノ酸で分離される第1および第2の大環状分子形成リンカーを含む。
【0084】
好ましい実施態様では、本発明のペプチド模倣大環状分子は、
配列番号:3(IRAK2 S1-JMV6645):Ac-X-REL-X-WWWGBRQA-NH2
配列番号:4(IRAK2 S2-JMV6646):Ac-RREL-X-WWW-X-BRQA-NH2
配列番号:5(IRAKM S1-JMV6647):Ac-KSG-X-REL-X-WSWAQK-NH2
配列番号:6(IRAKM S2-JMV6648):Ac-RREL-X-WSW-X-QK-NH2
配列番号:10(IRAK2-JM6650):Ac-VSI-X-REL-X-WWWGBRQA-NH2
配列番号:11(IRAKM-JM6649):Ac-KSG-X-REL-X-WSWAQKNKTI-NH2
ここで、非天然アミノ酸Xは、オレフィンによって終了され、大環状分子形成リンカーによって架橋される;または
配列番号:12(IRAK2-JMV6651):Ac-K-REL-D-WWWGBRQA-NH2
配列番号:13(IRAK2-JMV6652):Ac-VSI-K-REL-D-WWWGBRQATV-NH2
配列番号:14(IRAKM-JMV6653):Ac-KSG-K-REL-D-WSWAQK-NH2
配列番号:15(IRAKM-JMV6654):Ac-KSG-K-REL-D-WSWAQKNKTI-NH2
ここで、天然アミノ酸リシン(K)およびアスパラギン酸(D)は、大環状分子形成リンカーによって架橋される;
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0085】
配列番号:12~配列番号:15のための代替の実施態様において、リシン(K)は、オルニチンによって置き換えられてもよく、および/またはアスパラギン酸(D)は、グルタミン酸(E)によって置き換えられてもよい。
好ましい実施態様では、非天然アミノ酸Xは、(S)-2(4-ペンテニル)アラニン(S5で表される)またはその誘導体である。
【0086】
もう1つの好ましい実施態様では、大環状分子形成リンカーによって架橋される天然アミノ酸は、リシンおよびアスパラギン酸残基である。
【0087】
以下の好ましい立体配置は、アラニン誘導体S5、R8、および/またはR5を使用してペプチド中に炭化水素架橋を作製するために使用することができる:
- 第1の実施態様では、1つ以上の置換基は、位置iおよびi+4においてアラニン誘導体S5残基による置換を含みうる;
- もう1つの実施態様では、1つ以上の置換基は、位置iにおいてアラニン誘導体R8による置換、および位置i+7においてアラニン誘導体S5による置換を含みうる;
- もう1つの実施態様では、1つ以上の置換基は、位置iにおいてアラニン誘導体R5残基による置換、および位置i+3においてアラニン誘導体S5による置換を含みうる。
【0088】
このような立体配置を図2Aに示す。
【0089】
i位のアミノ酸が、i+3、i+4またはi+7位置のアミノ酸に共有結合しているのが好ましい。
好ましい実施態様では、1つ以上の置換は、位置にiおよびi+4おけるアラニン誘導体S5残基による置換を含む。
【0090】
特定の実施態様では、非天然アミノ酸であるアルファ-Me S5 -ペンテニル-アラニンオレフィンアミノ酸(S5)は、1つの二重結合を含む全炭素i~i+4架橋剤によって連結される。
【0091】
本発明のペプチド模倣大環状分子は、一般に、8~30個のアミノ酸、好ましくは、10~20個のアミノ酸を含む。
【0092】
本発明のステープルペプチドはまた、本発明のペプチドの機能的に等価な変異体または類似体を含みうる。これには、本明細書に記載のペプチドの配列と比較して、1つ以上の保存的または非保存的アミノ酸置換を有するペプチドを有するペプチドが含まれる。置換が、保存的置換であり、ペプチドの生物学的または構造的性質に悪影響を及ぼさないのが好ましい。アミノ酸置換は、一般に、アミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、たとえば、それらの疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づいてもよい。したがって、保存的アミノ酸変化は、元々存在していたものと同じタイプでありうる特定の位置におけるアミノ酸変化を意味する;すなわち、疎水性アミノ酸を疎水性アミノ酸に交換し、塩基性アミノ酸を塩基性アミノ酸に交換するなど。保存的置換の例として、イソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニンなどの非極性(疎水性)残基の別のものへの置換;アルギニンとリシンの間、グルタミンとアスパラギンの間、グリシンとセリンの間など1つの極性(親水性)残基の別のものへの置換;リシン、アルギニンまたはヒスチジンなどの塩基性残基の別のものへの置換、あるいはアスパラギン酸またはグルタミン酸などの酸性残基の別のものへの置換;イソロイシン、ロイシンまたはバリンなどの分岐鎖アミノ酸の置換;フェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファンなどの芳香族アミノ酸の別のものへの置換;が挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
このような保守的な変化の例は当業者にはよく知られており、そして本発明の範囲内である。保存的置換はまた、得られるペプチドが本発明のペプチドと生物学的に機能的等価であるという条件で、非誘導体化残基の代わりに化学的誘導体化残基の使用を含みうる。
【0094】
本明細書に記載のステープルペプチドはいずれも、さまざまな化学的修飾を含むことができる。
たとえば、いずれのペプチドもそのカルボキシ末端でアミド化することができる。
あるいは、または、さらに、任意のペプチドをそのアミノ末端でアセチル化することができる。
【0095】
これらの修飾は、ペプチドの全体的な電荷を減少させ、末端アセチル化/アミド化が天然タンパク質のより近い模倣物を生成するので、安定性を増加させることができる。したがって、これらの修飾はペプチドの生物学的活性を高めることができる。
【0096】
本明細書に記載のペプチドのいずれに対しても他の修飾を加えることができる。たとえば、ペプチドは、リン酸化、グリコシル化、PEG化、脂質化、セルロースもしくは修飾セルロース、またはそれらの組み合わせで官能化することができる。
【0097】
特定の好ましい実施態様では、本発明のステープルペプチドは、標的のより良い認識および改善された阻害効率を得るために、天然配列により近い配列から設計される。
本明細書に記載のいずれのペプチドも、検出可能な標識をさらに含みうる。検出可能な標識は、ビオチン、磁気標識、常磁性標識、放射性標識、蛍光標識、放射線不透過性標識、酵素、およびそれらの組み合わせでありうる。
【0098】
好ましい実施態様では、本発明のペプチド模倣大環状分子は、さらに、少なくとも1つのスペーサーを含む。
スペーサーは、その細胞標的化または浸透を改善するために、ステープルペプチドと追加のペプチドとの間に存在してもよい。
「細胞ターゲティングまたはステープルペプチドの浸透を改善するための追加のペプチド」として、Tat、ペネトラチンまたはPep1などの細胞浸透性ペプチドを挙げることができる。
【0099】
特定の実施態様では、本発明のペプチド模倣大環状分子は、さらに、少なくとも1つの細胞浸透性ペプチドを含む。
【0100】
ペプチド模倣大環状分子の製造方法
ペプチド模倣大環状分子の形成をもたらすためのさまざまな方法が当該分野で公知である。たとえば、本発明のペプチド模倣大環状分子の製造は、Yuら(Chem. Soc. Rev.、2015、44、91)に記載されている。
【0101】
ペプチド合成は、固相条件、AmphiSpheres リンクアミド(Agilent)、およびFmoc主鎖保護基化学を用いて手動で実施することができる。天然のFmoc保護アミノ酸(Iris biotech)、非天然アミノ酸S5、R5およびR8または天然アミノ酸Lys(K)およびAsp(D)のカップリングのために、アミノ酸の当量およびカップリング試薬の特定のモル比を用いた。合成ペプチドのN末端は、アセチル化されたが、C末端は、アミノ化された。
【0102】
本明細書に記載のペプチド模倣前駆体およびペプチド模倣大環状分子の好ましい製造方法は、固相ペプチド合成(SPPS)を使用する。C末端アミノ酸は、リンカー分子との酸不安定結合を介して架橋ポリスチレン樹脂に結合する。この樹脂は、合成に使用される溶媒に不溶であり、過剰の試薬および副生成物を洗い流すのを比較的簡単かつ迅速にする。N末端はFmoc基で保護されており、これは酸中で安定であるが塩基により除去可能である。側鎖官能基は、必要に応じて塩基安定性、酸不安定基で保護される。
【0103】
前駆体ポリペプチドへの非天然アミノ酸S5、R5およびR8の組み込み後、末端オレフィンをメタセシス触媒と反応させて、ペプチド模倣大環状分子を形成させる。
【0104】
そのような実施態様では、大環状化試薬または大環状分子形成試薬は、限定されないが、安定化後期遷移金属カルベン錯体触媒、たとえば、第VIII族遷移金属カルベン触媒を含むメタセシス触媒である。たとえば、このような触媒は、+2の酸化状態、電子計数16および5配位のRuおよびOs金属中心である。さまざまな触媒が、Grubbsら、Acc. Chem. Res. 1995、28、446-452;Yuら、Nature 2011、479、88;およびPeryshkovら、J. Am. Chem. Soc. 2011、133、20754に開示されている。
【0105】
いくつかの実施態様では、接触工程は、プロトン性溶媒、水性溶媒、有機溶媒、およびそれらの混合物からなる群から選択される溶媒中で行われる。たとえば、溶媒は、H20、THF、THF/H2O、tBuOH/H20、DMF、DIEA、CH3CNもしくはCH2Cl2、ClCH2CH2Clまたはそれらの混合物からなる群から選択されうる。特定の実施態様では、DMFが用いられる。ペプチドは、標準的方法によって、精製され、特徴決定される。
【0106】
特定の実施態様では、本発明のペプチド模倣大環状分子の製造方法は、少なくとも以下の工程を含む:
(i)保護基を含む複数のペプチドを提供すること(各ペプチドは固体支持体に固定化されている);
(ii)脱保護試薬を固定化ペプチドに曝露して、固定化ペプチドの少なくとも一部から保護基を除去すること;
(iii)脱保護試薬の少なくとも一部を除去すること;
(iv)保護アミノ酸残基を溶媒、好ましくは、DMFに可溶化すること;
(v)カップリング試薬、好ましくは、HATUを使用すること;
(vi)塩基試薬、好ましくは、DIEAを使用すること;
(vii)活性化アミノ酸残基の少なくとも一部が固定化ペプチドに結合して新たに結合したアミノ酸残基を形成するように、保護アミノ酸残基およびカップリング試薬を固定化ペプチドに曝露すること;および
(viii)固定化ペプチドに結合しない活性化アミノ酸残基の少なくとも一部を除去すること;
(ix)ペプチド模倣大環状分子を生成するメタセシス反応のために最終的な直鎖状ポリペプチドをグラブス触媒試薬に曝露すること;
(x)最終的なペプチド模倣大環状分子を最終的脱保護のための開裂剤に曝露すること;
(xi)好ましくは95%を超える純度を得るための、最終的ペプチド模倣大環状分子の沈殿、精製および凍結乾燥。
【0107】
ラクタム架橋を有するステープルペプチドの製造の場合、ペプチド模倣大環状分子を生成するメタセシス反応のために最終的直鎖ポリペプチドをグラブス触媒試薬に曝露する工程(ix)は、脱保護の工程(ix)aに続く環化の工程(ix)bに置き換えられる。
【0108】
組成物および組み合わせ剤
本発明のもう1つの目的は、少なくとも1つの上記のペプチド模倣大環状分子、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。
医薬組成物は、アジュバントまたは追加の成分をさらに含みうる。アジュバントまたは追加の成分は、1つ以上のペプチドの生物学的活性を増強することができる。
【0109】
特定の実施態様では、医薬組成物は、少なくとも1つのペプチド模倣大環状分子、ならびに抗炎症化合物、代謝拮抗化合物、細胞標的化合物、好ましくは、マクロファージ標的化合物、および/またはリポソームの構成化合物、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの追加の成分および/または活性成分を含む。
【0110】
「抗炎症化合物」として、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)およびグルココルチコイド(ステロイド系抗炎症薬)が挙げられる。
【0111】
「代謝拮抗化合物」として、リウマチ性多発性関節炎に使用されるメトトレキサートを挙げることができる。
【0112】
特定の実施態様では、少なくとも1つのペプチド模倣大環状分子は、リポソームまたは脂質製剤中で提供されうる。
医薬組成物は、注射(たとえば、筋肉内注射、皮下注射、静脈内注射、または腹腔内注射)、経口投与、局所投与、経皮投与、鼻腔内投与、または吸入用に製剤化することができる。
【0113】
好ましい実施態様では、医薬組成物は注射用、特に静脈内注射用に製剤化することができる。
薬学的に許容される担体は、当業者に周知であり、たとえば、滅菌食塩水、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストリン、寒天、ペクチン、植物油、脱イオン水およびそれらの混合物が挙げられる。
【0114】
医薬組成物は、1つ以上の安定剤を含みうる。たとえば、安定剤は、炭水化物(たとえば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、スクロース、デキストリン、グルコース、またはそれらの組み合わせ)、アルブミンもしくはカゼインなどのタンパク質、および/または緩衝剤(たとえば、アルカリ性リン酸塩)を含みうる。
【0115】
本発明のもう1つの目的は、上で定義したようなペプチド模倣大環状分子と、上で定義したような少なくとも1つの追加の成分および/または活性物質とを含む組み合わせ剤である。ペプチド模倣大環状分子および追加の成分は、同時使用、順次使用または連続使用のために調製されうる。
追加の成分および/または活性成分は上記に定義されている。
【0116】
本明細書で提供されるペプチド模倣大環状分子はまた、それらの薬学的に許容される誘導体またはプロドラッグを含む。
「薬学的に許容される誘導体」とは、レシピエントへの投与時に(直接的または間接的に)本発明の化合物を提供することができる、本発明の化合物の薬学的に許容される塩、エステル、エステルの塩、プロドラッグまたは他の誘導体を意味する。
いくつかの薬学的に許容される誘導体は、ペプチド模倣大環状分子の水溶解度または能動輸送を増加させる化学基を含む。
【0117】
医薬製剤は、好ましくは単位剤形でありうる。単位剤形は、包装された製剤でありえ、包装は、錠剤、カプセル剤、およびバイアルまたはアンプル中の粉末などの、別々の量の製剤を含む。
【0118】
本発明の組成物がペプチド模倣大環状分子と1つ以上の追加の治療薬または予防薬との組み合わせを含む場合、化合物と追加の薬剤の両方は、単剤療法レジメンで通常投与される投与量の約1-100%、より好ましくは約5-95%の投与量レベルで存在すべきである。いくつかの実施態様では、追加の薬剤は、複数回投与計画の一部として、本発明の化合物とは別に投与される。あるいは、これらの薬剤は、単一の剤形の一部であり、単一の組成物中で本発明の化合物と混合される。
【0119】
適当な投与経路として、経口投与、静脈内投与、直腸投与、エアロゾル投与、非経口投与、眼内投与、肺投与、経粘膜投与、経皮投与、経膣投与、耳投与、経鼻投与、および局所投与が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、ほんの一例として、非経口送達として、筋肉内注射、皮下注射、静脈内注射、髄内注射、ならびに髄腔内注射、直接脳室内注射、腹腔内注射、リンパ内注射、および鼻腔内注射が挙げられる。
【0120】
1つの例として、ペプチド模倣大環状分子は、標的薬物送達システム、たとえば、リポソーム、好ましくはカチオン性リポソーム中で送達される。好ましい実施態様では、ペプチド模倣大環状分子は、単核食細胞系(MPS)に取り込まれ、炎症を起こした組織または器官を標的とする。
【0121】
特定の実施態様では、適当な投与経路として、静脈内投与が挙げられる。
【0122】
用途
本発明はさらに、薬物としての使用のための、本発明による上記のペプチド模倣大環状分子、または医薬組成物もしくは組み合わせ剤に関する。
【0123】
特定の実施態様では、本発明は、炎症、特に、急性または慢性炎症の予防または治療における使用のための、本発明による上記のペプチド模倣大環状分子、または医薬組成物もしくは組合せに関する。
【0124】
好ましい実施態様では、本発明は、感染症または自己免疫疾患、特に、結核、敗血症、髄膜炎、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、2型糖尿病、がん、心血管疾患、または細菌,ウイルス,寄生虫または真菌などの病原微生物によって引き起こされる病気などの急性および慢性炎症性疾患の予防または治療における使用のための、本発明による上記のペプチド模倣大環状分子、または医薬組成物もしくは組合せに関する。
【0125】
投与経路
実施例においてさらに説明されるように、本発明のペプチド模倣大環状分子は、効率的であり、そして「同時」、「予防的」または「治療的」条件におけるそれらの使用に応じた特定の効率さえも有する。
【0126】
「同時」条件とは、本発明のペプチド模倣大環状分子が、効率的であり、炎症の急性期中または慢性期中に、さらにより効率的であることを意味する。炎症の急性期は、炎症のマーカーの検出によって予測することができ、そして本発明のペプチド模倣大環状分子は、炎症の急性期中または慢性炎症中に有利に使用される。
【0127】
「予防的」条件は、本発明のペプチド模倣大環状分子が、効率的であり、炎症の前に、さらにより効率的であることを意味する。炎症は、炎症マーカーの検出によって予測され、本発明のペプチド模倣大環状分子は、前記急性炎症期の前、たとえば、炎症の少なくとも12時間前、好ましくは、8時間前、特に、4時間前に有利に使用される。
【0128】
「治療的」条件とは、本発明のペプチド模倣大環状分子が、効率的であり、炎症の診断後に、さらにより効率的であることを意味する。炎症は、炎症マーカーの検出によって予測され、本発明のペプチド模倣大環状分子は、炎症の開始後、たとえば、炎症の少なくとも4時間後、特に、8時間後、および12時間後でさえも、有利に使用される。
【0129】
したがって、本発明のもう1つの目的は、炎症、特に急性または慢性の炎症の予防または治療に使用するための、本発明のペプチド模倣大環状分子、またはそれを含有する医薬組成物、またはペプチド模倣大環状分子と、炎症性化合物、細胞標的化合物、好ましくは、マクロファージ標的化合物、および/またはリポソームの構成化合物、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される追加の成分および/または活性物質との組み合わせ剤であり、ここで、ペプチド模倣大環状分子は、炎症性疾患の診断前、診断中および/または診断後に投与される。
【0130】
特定の実施態様では、本発明の「IRAK2」型のペプチド模倣大環状分子、すなわち、配列番号:3(IRAK2 S2 JMV6645)、配列番号:4(IRAK2 S2 JMV6646)、および配列番号:10(IRAK2-JM6650)が、同時および/または治療的条件で有利に使用されうる。
【0131】
もう1つの特定の実施態様では、本発明の「IRAKM」型のペプチド模倣大環状分子、すなわち、 配列番号:5(IRAKM S1 JMV6647)、配列番号:6(IRAKM S2 JMV6648)、および配列番号:11(IRAKM-JM6649)が、同時および/または予防的条件で有利に使用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
図1】TRL経路のスキーム
図2A】ペプチド模倣大環状分子またはステープルペプチドの表現
図2B】ステープルペプチド配列およびアミノ酸の位置の表現
図3】ステープルペプチドIRAK2 S1による小胞体ストレスの阻害。図3Aは、ツニカマイシンで処理した後のRNA IRAK2およびIRAK1の発現動態を表す;図3Bは、ERストレスの重要な遺伝子の発現を表す;図3Cは、ERストレスの遺伝子発現の阻害に対するIRAK2-S1ペプチドの用量反応効果を表す;図3Dは、IRAK2-S1ペプチドの特異性を表す。
図4】ステープルペプチドIRAK2-S1による、マクロファージ分化の間に単球により産生されるIL-1βの誘導の阻害。図4Aは、単球によって産生されたIL-1β RNAの発現レベルを表す;図4Bは、上清中のIL-1βのタンパク質レベルを表す。
図5】ステープルペプチドIRAK2-S1およびIRAKM-S1による炎症性サイトカインのLPS誘導の阻害。
図6】LPS刺激の3つの異なる条件を表す:単球のLPS刺激およびステープルペプチドの添加が同時に行われる条件(同時条件:A)、ステープルペプチドがLPS刺激の6時間前(予防的条件:B)または6時間後(治療的条件:C)に加えられる場合。
図7】同時(同時条件:7A)、LPS刺激の6時間前(予防的条件:7B)または後(治療的条件:7C)のステープルペプチドの添加による、単球のLPS刺激条件後のIL-6およびTNFα発現の阻害を表す。
図8】「同時」条件でのステープルペプチドIRAK2-JMV6649およびIRAKM-JMV6650の有効性の評価。
図9】「予防的」条件(9A)および「治療的」条件(9B)における新規ステープルペプチドIRAK2-JMV6649およびIRAKM-JMV6650の有効性の評価。
【発明を実施するための形態】
【0133】
以下の非限定的実施例は、本発明をさらに説明するために提供される。
【実施例1】
【0134】
ステープルペプチドIRAK2およびIRAKMの調製および特性決定
1.1 炭化水素架橋を有するステープルペプチドの合成
IRAK2およびIRAKMステープルペプチドの合成は、手動でSPPS方法論によって行われる。合成スケールは、0.4 mmol/gで装填された40-RAM Amphisphereリンクアミド樹脂を用いて0.1 mmolであり、そして過剰の5当量が、保護されたアミノ酸のために使用される。すべての保護されたアミノ酸ならびにカップリング剤O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-yl)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)を、予めDMFに溶解して、濃度0.5Mの原液を作る。樹脂を最初に6mlのDMF中で15分間ボルテックス撹拌下で膨潤させる。DMFを濾過により除去した後、1分間ボルテックスしながら20%ピペリジン/DMF溶液(6ml)を添加することによりFmoc基の脱保護を行った。これを2回行う。樹脂をDMFで3回洗浄する。
【0135】
所望のアミノ酸(1ml、0.5mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(0.164ml、1mmol)およびHATUカップリング剤(1ml、0.5mmol)を連続して加え、ボルテックス撹拌下で5分間撹拌する。2回のカップリングの間に、この操作を、DMF洗浄により2回行う。アミノ酸S5((S)-a-(2'-ペンテニル)アラニン)に関しては、1時間の攪拌時間により単純なカップリングを行う。Fmocのこの脱保護およびアミノ酸のカップリングを、予想される線状配列が得られるまで繰り返す。線状ペプチドが合成されると、2時間ボルテックスしながら、DCE(6ml)中の第1世代のグラブス触媒(0.04mmol)を使用して、メタセシス反応を開始する。この反応を、各メタセシス反応の間にDCM洗浄により2回行う。
【0136】
ペプチドがステープルされると、最終Fmoc基の脱保護を行い、DMF中のDIEA(1/1/8)の存在下で、無水酢酸の溶液を用いてアセチル化反応を10分間行う。ペプチドの最終切断を、トリフルオロ酢酸、トリイソプロピルシランおよび水(95/2.5/2.5)の溶液(10ml)の存在下で行う。ろ過後、溶液を濃縮し、ジエチルエーテルに溶解する。沈殿物を遠心分離し、母液をデカントする。これを2回行う。沈殿物を水中に取り、凍結乾燥して完全に脱保護されたペプチドを得る。凍結乾燥したら、0.1%TFAの存在下、アセトニトリル/水溶出下の分取逆相HPLCでペプチドを精製する。このようにして、ステープルペプチドが、好ましくは95%を超える純度で得られる。
【0137】
1.2 ラクタム架橋を有するステープルペプチドの合成
IRAK2およびIRAKMラクタムペプチドの合成は、手動でSPPS方法論によって行われる。合成スケールは、0.4 mmol/gで装填された40-RAM Amphisphereリンクアミド樹脂を用いて0.1 mmolであり、そして過剰の5当量が保護されたアミノ酸のために使用される。すべての保護されたアミノ酸ならびにカップリング剤O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-yl)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)を、予めDMFに溶解して、濃度0.5Mの原液を作る。樹脂を最初に6mlのDMF中で15分間ボルテックス撹拌下で膨潤させる。DMFを濾過により除去した後、1分間ボルテックスしながら20%ピペリジン/DMF溶液(6ml)を添加することによりFmoc基の脱保護を行った。これを2回行う。樹脂をDMFで3回洗浄する。
所望のアミノ酸(1ml、0.5mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(0.164ml、1mmol)およびHATUカップリング剤(1ml、0.5mmol)を連続して加え、ボルテックス撹拌下で5分間撹拌する。2回のカップリングの間に、この操作を、DMF洗浄により2回行う。アミノ酸fmoc-L-Lys(アリルオキシカルボニル)-OHおよびFmoc-L-Asp(Oall)-OHに関しては、1時間の攪拌時間により単純なカップリングを行う。Fmocのこの脱保護およびアミノ酸のカップリングを、予想される線状配列が得られるまで繰り返す。線状ペプチドが合成されると、30分間のボルテックスを2回行いながら、DCE(6ml)中のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.04 mmol)およびフェニルアラニン(2 mmol)を使用して、アリルオキシカルボニルとアリルの脱保護を開始する。この反応を、各脱保護反応の間にDCM洗浄により2回行う。脱保護後、ラクタムは、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(0.100ml、0.6mmol)およびHATUカップリング剤(0.6 ml、0.3 mmol)で実現される。
【0138】
ペプチドがステープルされると、最終Fmoc基の脱保護を行い、DMF中のDIEA(1/1/8)の存在下で、無水酢酸の溶液を用いてアセチル化反応を10分間行う。ペプチドの最終切断を、トリフルオロ酢酸、トリイソプロピルシランおよび水(95/2.5/2.5)の溶液(10ml)の存在下で行う。ろ過後、溶液を濃縮し、ジエチルエーテルに溶解する。沈殿物を遠心分離し、母液をデカントする。これを2回行う。沈殿物を水中に取り、凍結乾燥して完全に脱保護されたペプチドを得る。凍結乾燥したら、0.1%TFAの存在下、アセトニトリル/水溶出下の分取逆相HPLCでペプチドを精製する。このようにして、ステープルペプチドが、好ましくは95%を超える純度で得られる。
【0139】
1.3 特性決定
架橋化合物の精製は、逆相C18カラム(Waters)での高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(PLC2250、Gilson)によって達成され、純粋な化合物が得られた。純粋な生成物の化学組成は、LC/MS質量分析(Waters 2790 HPLCシステムと接続されたMicromass ZQ)およびアミノ酸分析(Beckman System Gold High Performance Liquid Chromatograph)によって確認された。
【0140】
結果を以下の第3表に示す:
第3表
【表6】
【実施例2】
【0141】
IRAK2標的上のステープルペプチドの特異性および効率の評価
2.1. 小胞体ストレス(ERストレス)の活性化
細胞内では、大部分の分泌タンパク質および膜タンパク質は、小胞体内で合成され、そこで輸送される前に折り畳まれ、組み立てられる。特定の条件下では、異常なコンホメーションのタンパク質が小胞体(ER)に蓄積し、ストレス(ERストレス)およびUPR(展開タンパク質応答)を誘導する。ERストレスはまた、NF-κB転写因子および炎症遺伝子(炎症性サイトカイン)の転写をさまざまな方法で活性化することによって炎症反応に寄与する。UPR応答は、標的遺伝子の転写の活性化および翻訳の徹底的な阻害を包含し、これは折りたたみおよび分解能力を増大させ、そして小胞体における新しいタンパク質の到達を制限する。研究は、IRAK2分子が、小胞体ストレスの誘導(Benosmabら、PLoS One 2013)と、IRAK4と直接相互作用することによるTLR(Toll様受容体)後期が仲介する抗ウイルス反応の両方に不可欠であること(カワゴエら、Nature Immunol 2008)を示す。
【0142】
ステープルペプチドIRAK2の認識の特異性を評価するために、本発明者らは、ツニカマイシン(0.1μg/ml)で8時間および24時間処理することによってヒト単球細胞株THP-1にERストレスを誘導した。
【0143】
THP-1細胞を、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシンおよびL-グルタミンを添加したRPMI 1640中で培養した(300,000細胞/ウェル)。細胞を0.1 μg/mlのツニカマイシンで30分間、8時間または24時間処理した。ペプチドを4%DMSOに可溶化し、1~20μMの範囲の濃度で使用した。全細胞RNAをmiRNeasyキット(Qiagen)を用いて抽出し、遺伝子の発現レベルをTaqmanアッセイ(Lifetechnology)技術を用いたRT-qPCRにより測定した。
【0144】
我々は、IRAK2が、IRAK1と比較して、8時間で発現される主なキナーゼであることを示した(図3A)。CHOP、BIPおよびGRP94遺伝子の発現の測定により、文献による予想通り、8時間でのERストレスの活性化が確認された(図3B)。この研究では、ペプチドIRAK2 Li、IRAKM Li、IRAK2 S1、IRAK2 S2(線状ペプチドはLi、ステープルペプチドはS1およびS2)を試験した。ステープルペプチドIRAK2 S1およびツニカマイシンによる単球の同時処理は、用量依存的にCHOP、GRP94およびBIPの発現を遮断したが、このことは、ERストレスの阻害を示唆する(図3C)。20μMのステープルペプチド濃度では、対照ステープルペプチド(Mock S)は効果がないので、この阻害は特異的であった(図3D)。我々の結果は、IRAK2-S1ステープルペプチドがIRAK4と特異的に相互作用し、そしてERストレスの活性化効果を阻害することを示唆している。
【0145】
2.2 マクロファージ分化の誘導
PMA(ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート)による単球THP-1の刺激は、マクロファージにおけるそれらの分化を誘導する。これは、特定のTLR(2および4)の発現の誘導、IRAKファミリーのメンバー、NF-kB経路の活性化および炎症性サイトカインIL-1βの分泌と関連している。干渉IRAK1、IRAK2およびIRAK4に対するRNAを使用して、以前の研究は、mRNAレベルおよびタンパク質レベルの両方で、IL-1βの発現の減少を示した(Tiwariら、Journal of Immunology 2011)。
【0146】
我々は、THP-1単球を0.1μg/ mlのPMAで48時間刺激して、マクロファージへの分化を誘導し、20μMのステープルペプチド(IRAK2-S1またはMock-S)で処理した。
【0147】
THP-1細胞を、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシンおよびL-グルタミンを添加したRPMI 1640中で培養した(300,000細胞/ウェル)。細胞を0.1 μg/mlのPMAで48時間処理した。ペプチドを4%DMSOに可溶化し、20μMで使用した。ペプチドはPMAと一緒に添加される。全細胞RNAをmiRNeasyキット(Qiagen)を用いて抽出し、IL-1βの発現レベルをTaqmanアッセイ(Lifetechnology)技術を用いたRT-qPCRにより測定した。
【0148】
RNAの抽出後、我々はRT-qPCRによりIL-1βのRNAの発現レベルを定量した(図4A)。ELISA法を用いて、処理したTHP-1の上清中のサイトカイン分泌を測定した(図4B)。IRAK2-S1ペプチドは、20μMでIL-1βの発現および産生を遮断することができた。この濃度では、ペプチドは細胞の生存率や形態に影響を及ぼさないように思われる。
【0149】
2.3 エンドトキシンに対する反応の誘導
炎症は、感染および/または組織損傷に反応して主に先天性免疫細胞によって採用される複雑な生理学的状態である。適応は、過剰な炎症を調節し、エンドトキシンショックに対する宿主の防御として機能するために存在する。そのような保護メカニズムの典型的な例の1つはエンドトキシン耐性である。低濃度のエンドトキシン(LPS)に曝露された細胞または生物が、エンドトキシンによる新たな刺激に反応することができない一過性の低応答状態に入るという現象;言い換えれば、それらはエンドトキシンに対する一種の「耐性」を発症する。この現象は、単球およびマクロファージに対してインビトロで、ならびに動物モデルおよびヒトにおいてインビボの両方で観察されている(Biswas SKら、Trends in Immunology、2009)。耐性条件下では、IRAK-M(またはIRAK-3)は単球で過剰発現し(Escollら、BBRC、2003)、Toll様受容体依存性MyD88(TLR2、TLR4、TLR7/8、およびTLR9)の活性化を負に調節する。LPSに対する寛容性のインビトロTHP-1モデルにおける低応答は、LPSの2回の連続刺激後のTNFαおよびIL-6の発現低下、低濃度での第1の用量、続いて18時間後の強い用量によって特徴付けられる。天然のミドソーム阻害剤IRAK-Mの作用を模倣したステープルペプチド、THP1ステープルIRAK-2ペプチドへの単球の曝露は、LPS耐性の条件を再現すると予想される。
【0150】
THP-1細胞を、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシンおよびL-グルタミンを添加したRPMI 1640中で培養した(300,000細胞/ウェル)。細胞をTNFαについては6時間、IL-6およびIL-1βについては24時間、0.1 μg/mlのLPSで処理した。ペプチドを4%DMSOに可溶化し、5および20μMで使用した。ペプチドはLPSと一緒に添加した。培養上清中のサイトカインの測定は、特異的ELISAキット(eBioscience)を用いて実施した。
【0151】
図5は、LPS刺激(0.1 μg/ml)後にTHP1細胞によって分泌されたIL-1β、TNFαおよびIL-6炎症性サイトカインのELISAアッセイを示す。ステープルペプチドIRAK2-S1による細胞の処理は、3つのサイトカインの発現を用量依存的に減少させた(図5A)。THP-1を、IRAK2-S1と50%の配列相同性を有するステープルペプチドIRAKM-S1で処理すると、3つのサイトカインの発現を阻害する同様の作用が生じた(図5B)。
【0152】
これらの異なる機能的研究は、本発明のステープルペプチドが、MyD88/IRAK4/IRAK2複合体を阻害し、炎症性サイトカインTNFα、IL-6およびIL-1bの産生を減少させることによるTRL経路のモジュレーターであることを示す。
【実施例3】
【0153】
3つの異なる条件(同時、治療的、または予防的処置)後のステープルペプチドIRAK2-S1およびIRAK-M-S1の有効性の評価
先の実施例は、ステープルペプチドが天然のミドソーム阻害剤IRAK-Mの作用を模倣することを示す。実際に、LPS刺激の6時間後のステープルペプチドIRAK2-S1およびIRAKM-S1へのTHP1単球の曝露は、LPS耐性条件、すなわちIL-6およびTNFαサイトカイン産生の阻害を再現したことが実証されている。本実施例は、異なる実験設定がより良い有効性を明らかにすることができるかどうかを研究する。本実施例は、異なる実験設定が、よりよい有効性を明らかにすることができるかどうかを研究する。LPS刺激の3つの異なる条件を比較した:単球のLPS刺激とステープルペプチドの付加が同時に行われる条件(同時条件:A)、ステープルペプチドがLPS刺激の6時間前(予防条件:B)または6時間後(治療条件:C)に添加される状態(図6)。
【0154】
試験した全ての条件について、THP-1細胞を、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシンおよびL-グルタミンを添加したRPMI中で培養した(300,000細胞/ウェル)。THP-1を0.1μg/mLのLPSで24時間処理し、ステープルペプチドIRAK2-S1およびIRAKM-S1を1~20 μMで使用し、条件Aについては同時に、条件BについてはLPSの6時間前に、条件CについてはLPSから6時間後に添加した。培養上清中のサイトカインの定量は、特異的IL-6およびTNFαELISA(eBioscience)を用いて実施した。
【0155】
結果を、図7に示し、そして、以下に開示する:
・「同時」条件(7A):試験した2つのペプチドについて、TNFαおよびIL-6発現の用量反応阻害が観察された。ペプチドIRAK2-S1およびIRAKM-S1は、10および20μMでTNFαおよびIL-6サイトカインの分泌を有意に阻害し、20μMでIRAKM-S1に対してより大きな効果を有し、これは、それぞれ最大95%および90%でTNFαおよびIL-6の発現を阻害する。しかしながら、この濃度では、ペプチドMock-S対照は、15~20%の範囲でTNFαおよびIL-6の非特異的阻害を誘導する(図7A)。IRAKM-S1は、単球による炎症性サイトカイン産生を減少させるために、IRAK2-S1よりも効率的であるように思われる。
【0156】
・「予防的」条件(7B):TNFαおよびIL-6発現レベルの用量反応阻害がIRAKM-S1について観察され、これは、20μMでTNFα(95%)およびIL-6(90%)の分泌を有意に阻害する。この濃度では、IRAK2-S1はTNFαおよびIl-6の発現を15~20%だけ阻害する。IRAK2-S1について、10μMではサイトカイン発現の阻害は観察されなかった(図7B)。IRAK2-S1とは異なって、ステープルペプチドIRAKM-S1は、TLR4結合後のTHP-1単球における炎症性サイトカインの発現に対して予防的効果を示した。
【0157】
・「治療的」条件(7C):TNFα発現レベルの用量反応阻害がIRAK2-S1について観察され、これは10および20μMでそれぞれ30%および70%までTNFα分泌を有意に阻害した。20μMで、IRAKM-S1は、TNFα発現を15~20%だけ阻害する。IRAKM-S1について、10μMではサイトカイン発現の阻害は観察されなかった(図7C)。最後に、両方のステープルペプチドについて、この条件ではIL-6の発現レベルに対する効果は観察されなかった(図7C)。IRAKM-S1とは異って、ステープルペプチドIRAK2-S1は、TLR4結合後のTHP-1単球におけるTNFαの発現に対して治療的効果を示した。
【0158】
これらの結果は、IRAKM-S1が、治療的条件よりも、同時および予防的条件において、より効率的であることを実証した。IRAK2-S1は、予防的条件よりも、同時および治療的条件においてより効率的である。当業者は、治療されるべき状態および/または障害を考慮して、そして、各ステープルペプチドの効率および挙動に基づいて、前記ステープルペプチドの投与ルーチンを適合させることができるであろう。
【実施例4】
【0159】
新規ステープルペプチドIRAKM-JMV6649およびIRAK2-JMV6650の評価
3つの異なる条件下(同時、治療的、および予防的処置)で、新しいステープルペプチドIRAKM-JMV6649およびIRAK2-JMV6650の、天然配列であるIRAKM 66-83およびIRAK2 54-71に対するマッチングについてのインビトロ有効性を評価し、IRAK-M-S1およびIRAK2-S1と比較した。試験した全ての条件について、THP-1単球を、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシンおよびL-グルタミンを添加したRPMI中で培養した(300,000細胞/ウェル)。THP-1を0.1μg/mLのLPSで24時間処理し、ステープルペプチドIRAK2-S1、IRAK2-JMV6650、IRAKM-S1およびIRAKM-JMV6649を10~20 μMで使用し、「同時」条件については同時に、「予防的」条件についてはLPSの6時間前に、「治療的」条件についてはLPSから6時間後に添加した。ELISA(eBioscience)を用いて、単球培養上清中のIL-6およびTNFαの定量を実施した。
【0160】
「同時」条件についての結果を図8に示し、そして、以下に開示する:
「同時」条件:20μMで、IRAKM-JMV6649は、ペプチドIRAKM-S1と比較して、IL-6の分泌を70%以上減少させるが、TNFα発現に対する相加的な阻害効果を示さなかった(図8A)。JMV6650修飾によるIRAK2ペプチドのこれ以上の有効性は、観察されなかった(図8B)。
【0161】
「予防的」および「治療的」条件についての結果を図9に示し、そして、以下に開示する:
「予防的」条件:IRAKM-JMV6649ペプチドは、10μMで60%および20μMで80%のさらなる阻害により、IRAKM-S1ペプチドよりもIL-6発現の阻害を誘導する。TNFα発現の阻害は、修飾ペプチドIRAKM-JMV6649の方が大きく、10 μMで20%を達成する(図9A)。JMV6650修飾によるIRAK2ペプチドのこれ以上の有効性は観察されなかった(データは示さず)。
【0162】
「治療的」条件:新規なペプチドは、サイトカイン発現に対して有意な追加の阻害を示さなかった。IRAK2-JMV6650は、IRAK2-S1よりも効率的にTNFα産生を減少させる傾向があるが、それは有意ではなかった。そして、それはIL-6発現に対して20μMでIRAK2-S1として作用する。IRAKM-JMV6649は、IRAKM-S1と比べて、20 μMでTNFαおよびIL6発現の阻害を増加させる傾向を有するが、やはりそれは有意ではなかった(図9B)。
【0163】
これらの結果は、IRAKMペプチド配列における化学的修飾が、「同時」および「予防的」条件処置下での単球によるIL-6発現の阻害のための利益を提供することを実証した。IRAK2ペプチドの配列にもたらされたものは、試験された全ての治療条件において有意な利益をもたらさなかった。
【0164】
すべての結果は、本発明のステープルペプチドが、効率的であるが、行動の特異性を有すること、すなわち、それらのうちのいくつかは、予防的条件(炎症の診断前)においてより効率的であり、および/または、同時条件(炎症中)においてより効率的であり、および/または、治療的条件(炎症の診断後)においてより効率的であることを実証した。ステープルペプチドIRAK2-JMV6650およびIRAKM-JMV6649は、IRAK2-S1またはIRAKM-S1と同程度に効率的であり、IRAK2 54-71およびIRAKM 66-83の天然配列と一致させるためのそれらのAcおよびNH2末端の修飾は、それらの効率に影響を与えないことを示す。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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