(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】マルチルーメンインプラント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/07 20130101AFI20230120BHJP
【FI】
A61F2/07
(21)【出願番号】P 2019547769
(86)(22)【出願日】2017-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017079148
(87)【国際公開番号】W WO2018091442
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-10-16
(31)【優先権主張番号】102016122223.2
(32)【優先日】2016-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】321014676
【氏名又は名称】ステンタル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】テサレク,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】オブラドヴィッチ,ミリサフ
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-512755(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0176911(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0065385(US,A1)
【文献】特表2015-505493(JP,A)
【文献】特表2009-512498(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0138202(US,A1)
【文献】特開平08-047503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位部(2)および遠位部(3)に分岐する実質的に管状の構成要素(1)、および標的血管中に前記近位部(2)を固定するための少なくとも1つのステント(8)を備えた、ヒトおよび動物の血管系/体で用いるためのマルチルーメンインプラントであって、
前記管状構成要素(1)が、前記遠位部(3)において、それぞれルーメン(4、5)を備える少なくとも2つの分岐(6、7)に分岐するよう設計され、
前記管状構成要素(1)の前記近位部(2)が、前記遠位部(3)上に少なくとも部分的に折り畳まれ、前記ステント(8)が、折り畳み(9)の内側に少なくとも部分的に配置され、
前記管状構成要素(1)の前記遠位部(3)上に折り畳まれた前記管状構成要素(1)の前記近位部(2)の長さが、前記ステント(8)と
同じ長さであ
るかまたは前記ステント(8)より長く、前記分岐(6、7)が、前記ステント(8)の内側に少なくとも部分的に配置される
ことを特徴とする、マルチルーメンインプラント。
【請求項2】
前記管状構成要素(1)が、前記遠位部(3)において主ルーメン(4)および複数の副ルーメン(5)に分岐することを特徴とする、請求項1に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項3】
前記副ルーメン(5)が、前記主ルーメン(4)より小さい直径を有することを特徴とする、請求項2に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項4】
前記ステント(8)が、前記管状構成要素(1)の前記近位部(2)の内側に配置されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項5】
前記ステント(8)が、前記管状構成要素(1)の前記近位部(2)の外側に配置され、前記管状構成要素(1)の前記近位部の第1の部分が、前記ステント(8)の前記近位部の周りに少なくとも部分的に遠位で外側に誘導されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項6】
前記管状構成要素(1)の前記近位部(2)が、前記ステント(8)より長く、前記ステント(8)を超えて遠位に突出する前記近位部(2)の部分が、前記ステント(8)上で内側に折り畳まれることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項7】
前記管状構成要素(1)の前記遠位部(3)の前記ルーメン(4、5)が、遠位方向(12)でテーパになることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項8】
前記分岐(6、7)が、遠位で環状補強材(10、11)を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項9】
前記管状構成要素(1)が、クランプ、接着/グルーイング、裁縫または溶接により前記ステント(8)に固定されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項10】
前記管状構成要素(1)が、ePTFEで作製されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項11】
ePTFEで作製される前記管状構成要素(1)が、電解紡糸により製造されることを特徴とする、請求項10に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項12】
前記ステント(8)が、自己膨張ステントであることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項13】
前記ステント(8)が、バルーン膨張ステントであることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のマルチルーメンインプラント。
【請求項14】
請求項1から13に記載のインプラント、およびその移植のためのバルーンカテーテルおよび/またはカテーテルを備えるキット。
【請求項15】
前記インプラントの前記分岐(6、7)を遠位に位置する血管に接続するためにそれぞれの数のステントグラフトをさらに備えることを特徴とする、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近位部および遠位部に分岐する実質的に管状の構成要素、および標的血管中に近位部を固定するための少なくとも1つのステントを備える、ヒトおよび動物の血管系で用いるためのマルチルーメンインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
動脈瘤は、ヒト血管系の最も一般的な病理の1つである。動脈瘤は、血管壁で生じる隆起または膨隆である。はっきりした原因は非常に困難でありうるが、一般的に、血管壁の罹患部がまず弱まり、その後、それに作用する絶え間ない血圧によって大きくなると言われる。
【0003】
概して、動脈瘤は、体の全ての領域においておよび血管系の全ての場所において生じうる。それにもかかわらず、血管構造のみの理由で動脈瘤の形成が予定されるヒト体内の特定の部位がある。これには、例えば、いわゆる分岐部(bifurcations)と称される全ての血管分岐位置が含まれる。
【0004】
動脈瘤が患者の健康にもたらす危険に関して2つの態様がある。他方、動脈瘤自体は、例えば他の血管または器官に圧力を与える場合に問題となりうる。これは痛みを生じうるおよび/または身体および器官の他の部分の供給不足を生じうる。例えば、脳が影響を受けると、多かれ少なかれ深刻な神経欠損が生じる。
【0005】
他方、動脈瘤の破裂が生じうる、すなわち、動脈瘤は引き裂かれる傾向にもある。これは、動脈瘤が脳内に位置する場合または多量の血液を運搬または誘導する大血管上に位置する場合に、患者にとって特に危険である。脳内で動脈瘤破裂が生じる場合に脳出血が起こり得、これによって、血管のサイズおよび出血の重症度に依存して軽度から最も深刻な神経損傷が生じ得、最悪の場合、そのような脳出血によって、患者の死さえももたらされうる。例えば腹部動脈瘤または胸部動脈瘤の破裂の場合など、動脈瘤が患者の身体の大血管上で破裂する場合、非常に短い時間内に致命的な失血が生じうる。
【0006】
数年前まで、多くの動脈瘤は開腹外科治療を必要としていたが、一方、動脈瘤の低侵襲的かつ血管内の治療のために広範な代わりの治療オプションおよび医療用具が現在は利用できる。
【0007】
好ましい低侵襲的で血管内の動脈瘤治療オプションの1つは、ステントグラフトの設置である。ステントグラフトは、ステント骨組みおよび被層を備え、これらは組み合わされると管状のインプラントを生じる。動脈瘤の治療のために、そのようなステントグラフトは、ステントグラフトを介して血管の健康な部分を動脈瘤の領域内の血管と連結することにより、動脈瘤の領域をブリッジし、その後動脈瘤の領域内の血液はステントグラフを貫流する。一方では、動脈瘤の破裂がこのようにして防がれ、他方では、血液は最早動脈瘤を通過しないので動脈瘤が他の組織上に与えていた圧力が大きく除去される。
【0008】
単純な管状要素の形状のそのようなステントグラフトの設置は、側枝が動脈瘤の領域内に病変血管を残す場合に特に問題となる。この場合、ステントグラフトの移植によって、この領域の側枝が動脈瘤自体と同様に血液供給から遮断される。したがって、側枝を介して潅流される領域および/または器官は、血液供給から遮断される。
【0009】
側枝を血流から遮断しないためには、ステントグラフトリードを介してそれらを供給する必要がある。最新技術において、可能な解決策を提供する多くの技術が知られる。今日、確立されているのは主にカスタム・メイドまたはモジュラーインプラントであり、これは各々の患者の要求に合うよう調整される。そのようなカスタム・メイド製品およびまたモジュラーシステムは高価である。特別なカスタム・メイド製品は人の手で個々に作製される必要があるので、その製造には時間がかかる。他方、モジュラーシステムは、処置の過程で患者の中で外科医によって非常に高い頻度で組み立てられる。
【0010】
例えば、特許文献1(Cook Medical Technologies LLC)には、本体およびリングからなり、それぞれの血管構造に特定の態様でモジュール式に適合できる、伸縮ステントグラフトが開示される。また、特許文献2(Cook Medical Technologies LLC)には、側枝を可能な限り広範囲にインプラントに接続できるようにするためのステントグラフト中の特別な窓の配置が開示される。さらに、特許文献3(Aortic Innovations Surena LLC)には、さまざまのステントグラフトシステムが特許請求され、そのモジュラーデザインによって、インプラントの迂回する(diverting)分岐が所定の長手経路において患者の血管組織に適合することが可能となる。
【0011】
これらのシステムは全て、不利点と関連する。概して、移植は、経験豊富な外科医を必要として、多くの場合、処置の過程で患者の体内に正しくモジュール設計されたインプラントを構築するために、システムに関連するトレーニングさえ必要である。
【0012】
さらに、カスタムメイド、すなわちニーズに合わせたシステムの移植はまた、外科医に大きな挑戦を示す。主枝へのインプラントの解剖的に正確な適合および側枝へのアクセスは、外科医が、インプラントを患者の生体組織中に非常に正確に取り付けることを必要とする。血管は全く剛性ではなく互いに位置を変えうるので、剛体モデルにおいて非常に簡単に見えることは、実際には非常に困難なことである。
【0013】
完全に組み立てられているかまたはモジュラーデザインであるそのような複合システムを用いることの結果は、患者および外科チームにとって長くしたがってストレスの多い処置時間であり、その上、装置の故障の可能性が増加する。
【0014】
さらに、最新技術のシステムは通常、単一の処置の過程で完全に移植される必要がある。計画されてまたは患者の状態への反動での段階的な移植は、ほとんど確実に除外される、または少なくともそれなりの危険がある、なぜならば、完全に移植されたシステムのみが所望の結果を生じるからである。このため、外科医は、一部の工程を後日に延期することによって処置中の患者の状態の悪化に対処することはとてもできない。同様に、最初から数日間に亘って行われるように処置の計画を行うことは通常不可能である。
【0015】
また、既知のシステムのアクセス可能性は、設計の構成の結果としてしばしば制限される。その複雑さのために、これらのシステムは、概して、折り畳んだ状態でも非常に大きい直径を有し、したがって、それに相応して大きいイントロデューサシース(introducer sheaths)を介してのみ挿入される必要がある。通常、これによってシステムはアームを介して導入されることが妨げられる。同様に、例えば側枝を連結するための逆行性アクセス(retrograde access)は通常、設計に関する理由のために既知のシステムでは不可能である。
【0016】
従来のシステムの別の不利点は、マイグレーション(migration)(プロテーゼの移動)を介した漏出、いわゆるエンドリーク(endoleak)、組織損傷または上方および下方のシーリング部分における病変の進行を発達させうるということである。関連する是正措置は、著しく複雑であり得、たいていは手術によって開腹してのみ行うことができる。
【0017】
従来のシステムの別の決定的な不利点は、特定の状況に合わせる必要があるということである。従来のシステムは、部分的にモジュール設計であっても、ほとんどの場合、特別な場合の要求に適するために依然として手動で作製される必要がある。通常、これには通日または時に数週間かかり、例外的な場合には利用できるまで数か月を必要としうる。少なからず、そのような移植に伴う緊急時対応はしたがって不可能であり、適切な移植のための待機時間内に患者の回避できる死につながるかもしれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】欧州特許第2749251号明細書
【文献】欧州特許第2081515号明細書
【文献】国際特許出願公開第2014/197743号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、処置前の調整または個別設定を必要とせずに、一般的な用途および接続の可能性によって、複数の患者および様々の臨床像の治療に適切なマルチルーメンインプラントを提供することにある。そのようなシステムはまた、緊急事態に適しており、すぐに利用できるように病院に保管できる。
【0020】
本発明の別の目的は、折り畳まれた状態でできる限り小さい直径を有するマルチルーメンインプラントの提供であり、したがってこれは小さい直径のイントロデューサシースを介して導入でき、大腿部のアクセスの他に、特に腕のアクセスを標準的な手法として用いることができる。
【0021】
本発明のさらなる目的は、通常利用できるアクセサリーと適合するマルチルーメンインプラントを提供することにある。特に、インプラントを継続する脈管系に接続する目的でできるだけ多くの利用可能な従来の被覆ステントおよびステントグラフトを用いることが可能である。同様に、段階的な処置もまた可能となる。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、できるだけ簡単な態様で設計できかつ非常に容易に移植されるシステムを提供することにある。これによって、システムの費用および故障率、並びに、処置の所要時間および危険が最小限になる。
【0023】
本発明の課題はまた、元のシステムとは完全に独立したシールを提供しそれ自体の固着方法を提供することにより、異常のある場合に従来のシステムにおいて是正措置を取るのに適切なインプラントを提供し、例えばエンドグラフト(endograft)のすでに配置されたプロテーゼ構成要素が体内に残ることを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明により提案されるインプラントは、従来のインプラントとは概念的に明らかに異なる、求められる目的を達成するためのアプローチを遂行する。従来のインプラントは、損傷された血管領域の生体組織を再生する、いわば修復される領域の上皮を提供しようとする。したがって、上記に説明されるように、これらのインプラントは、個別に作製され、できる限り正確に移植されなければならない。他方、本発明によるインプラントは、ある種のディストリビュータインサートと考えられ、原則として、そのルーメンは、被覆されたステントを用いて治療される血管に個別に連結できる。
【0025】
この目的は、請求項1に記載される性質を特徴とするマルチルーメンインプラントによって達成される。各場合における有利な実施形態は、添付の請求項の主題である。請求項にそれぞれ含まれる任意の特徴および性質は、随意的かつ技術的に理に適った態様で互いに組み合わされて、本発明のさらなる実践または方法を明らかにしてもよいことに留意すべきである。
【0026】
提示される本発明の第1の実施形態において、インプラントは、実質的に管状の構成要素および血管における管状構成要素の固体のために用いられる少なくとも1つのステントからなる。
【0027】
管状構成要素は、近位部および遠位部を形成するよう構成され、遠位部は少なくとも2つのルーメンに分岐する。本出願において、遠位なる用語は常に、血流の方向を指す構造の部分を示し、これに対して、近位なる用語は、血流の方向に対向する部分を示す。
【0028】
管状構成要素は、ある種のグローブとしておよびそれに比較して想像できる。そのような比較において、管状構成要素の近位部は、手のひらを取り囲むグローブの部分に実質的に対応し、一方、管状構成要素の遠位部は、グローブの指に実質的に対応し、指に対応するインプラントの遠位分岐は、末端が開いているまたはその端部で開放可能である。
【0029】
好ましい実施形態において、近位ルーメンは、1つの主ルーメンおよび4つの副ルーメンの5つのルーメンに遠位で分岐するが、他の再分岐が容易に考えられ、難なく理解できる。本発明により提案されるインプラントは、フィンガーグローブのプロポーション、寸法または他の性質に類似する実施形態に限定されるものでは全くない。
【0030】
管状構成要素は、少なくとも1つのステントを用いて、標的の血管中の動脈瘤の上流で管状構成要素の近位部の内側または外側に固定されてもよい。管状構成要素は、さらなる手段により、例えば、クランプ、溶接、接着、裁縫または他の既知の技術により、ステントに取り付けられてもよい。国際出願公開第2012/084202号明細書に開示されるような、クランプ状の結合が特に好ましい。管状構成要素の近位部が、2つのステントの間に位置し、必要であれば、以下に説明されるように一方または両方のステントにさらに取り付けられる、実施形態を提供することも考えられる。
【0031】
これに関連して、管状構成要素の近位部にのみ位置するのではなく遠位領域中にまたはさらに遠位領域の端部を超えて伸長するステントを提供する実施形態を用いることが考えられる。このようにして、例えば、管状構成要素の近位部の多少長い第1の部分はステントによって被覆されないかもしれず、したがって、この第1の部分は、ステントの近位端の周りで内側または外側に折り畳まれてもよい。
【0032】
しかしながら、好ましい実施形態は、管状構成要素の近位部が、管状構成要素の遠位部の周りに少なくとも部分的に折り畳まれるものである。特に好ましい実施形態において、管状構成要素の固定のためのステントは、管状構成要素の近位部および遠位部の元の外側の間に作成される折り畳みまたは折り重なり(foldover)に位置する。
【0033】
上記で明らかにされる意味において別の好ましい実施形態は、遠位部上に折り重ねられる管状構成要素の近位部を提供し、折り重ねられる近位部の長さは、そのように作成される折り畳み中に位置するステントの長さを超える。このように、ステントを超えて遠位に突出する近位部の部分は、ステントの遠位端の周りで内側に折り畳まれ、ついでステントは、両端で管状構成要素の近位部により覆われてもよい。
【0034】
管状構成要素の遠位部は、少なくとも2つのルーメンに分岐し、それによって、ルーメンの数は任意であり、分岐の数は例えば潅流される血管の数に応じて選択されてもよい。しかしながら、好ましい実施形態では5つの分岐が配置される。
【0035】
特に好ましいのは、より長い直径を有する1つの主ルーメンおよびより短い直径を有する4つの副ルーメンを備える実施形態である。それでもやはり、直径は基本的に任意であり、インプラントの使用目的に適するように選択できる。インプラントを胸動脈および腹部で使用する場合、近位部の直径は、5~45mm、好ましくは20~42mmの範囲であり、主ルーメンについて可能な直径は、3~30mm、好ましくは12~25mmの範囲であり、副ルーメンについては2~12mm、好ましくは4~10mmの直径を用いてもよい。脳の領域でインプラントを用いることが意図される場合、近位部の直径は、2~15mm、好ましくは2~8mmの範囲であり、主ルーメンについて可能な直径は、1~5mm、好ましくは2~4mmの範囲であり、副ルーメンについては1~4mm、好ましくは2~3mmの直径を用いてもよい。インプラントが冠動脈領域で適用される場合、近位部の直径は、2~8mm、好ましくは4~6mmの範囲であり、主ルーメンについて可能な直径は、2~6mm、好ましくは3~5mmの範囲であり、副ルーメンについては2~5mm、好ましくは2~3mmの直径を用いてもよい。
【0036】
上述の実施形態の他に、実施形態に合計が5より多いまたは少ないルーメンを提供すること、およびさらに、実施形態が2以上の主ルーメンかつ4より多いまたは少ない副ルーメンを有することも考えられる。
【0037】
分岐後のインプラントの領域を通る断面を考える場合、ルーメンの偏心分布を有する実施形態を用いることが好ましく、この場合、最大ルーメンによる分岐は横断面図における一方の面に位置し、より小さいルーメンの1つ以上の分岐は他方の面に配置される。しかしながら、管状構成要素の遠位部における分岐の分布は予め定められるものではなく、例えば、1つの分岐が中央領域に位置し他の分岐が中央ルーメンの周りに一様にまたは不均一に分布する実施形態を用いることも考えれられる。
【0038】
好ましい実施形態において、個々の分岐は同じ長さを有するが、分岐が異なる長さとなる他の実施形態もまた考えられる。概して、分岐が、インプラントの固定のためのステントによりほぼ遠位で終了することが好ましい。しかしながら、ステントが遠位で分岐に達するまたは分岐がステント骨組みから遠位に突出することが考えられる。
【0039】
インプラントの分岐は、被覆されたステント、いわゆるステントグラフトを介してインプラントの遠位に位置委する血管に連結され、この態様で動脈瘤領域をブリッジする結果となり、動脈瘤中への血流を防ぎ動脈瘤上の圧力を和らげる。同時に、遠位に位置する血管は、ステントを介して意図的に血液を供給される。
【0040】
管状構成要素の遠位分岐を、それぞれ血液を供給される血管に連結するステントのより良好な固定のために、好ましい実施形態における遠位分岐は、完全にまたは各分岐の所定の長さに亘って、その端部に向かって円錐状にテーパとなってもよい。
【0041】
遠位分岐においてステントを固定するためのさらなる手段が、特に遠位領域において、リング状または他の強化材または補強材の形態で考えられる。他方、これによって、ステントグラフトの安定した取付けが確実となり、この補強材によって、ステントグラフトの移植中に遠位分岐が引き裂かれる危険も低減される。
【0042】
遠位部の分岐は、好ましくは互いに自由に伸びるが、グループが都合がよいと考えられる場合、分岐の一部またはすべてが互いに結合される実施形態もまた考えられる。分岐はまた、インプラントを所定の位置に固定するのに役立つステントに、または、管状構成要素の近位部の周りの折り畳み部に、追加でまたは代替的に取り付けられてもよい。
【0043】
管状構成要素のための材料として、最新技術に既知の任意の生理学的に適合性の材料、主にePTFEを用いてもよく、この材料は電解紡糸により処理されてもよい。
【0044】
1つまたは複数のステントについて、管状構成要素の恒久的な固定を保証し吸収可能ではない、最新技術において既知の全ての材料を用いてもよい。ニッケル-チタン合金のような、バルーン膨張を生じさせることができる合金および形状記憶材料がこの目的に適切である。
【0045】
通常、本発明により提示されるインプラントは、血管部位における動脈瘤の近位端に配置される。この場合、インプラントは、分配ディスクまたは構成要素の機能を遂行し、これによって、血液が遠位分岐のルーメンのみを通って流れることが可能となる。動脈瘤の領域をブリッジする目的で、管状構成要素の遠位分岐は、被覆ステントを介して、インプラントの遠位に位置する血管に連結される。
【0046】
この技術によって、インプラントの配置がインプラントの遠位に位置する血管への血流を最初は妨げないという事実により、段階的に処置を行うことも可能となる。このようにして、インプラント自体を、例えば第1の処置において所定の位置に配置することができ、血管は後に1つまたは複数のさらなる処置において接続される。
【0047】
その上、従来のインプラントでは実現が困難または不可能である時代に逆行するアクセスを、血管およびインプラントの分岐を互いに連結するために行ってもよい。
【0048】
一般的適合性の結果として、本発明が提示するマルチルーメンインプラントはまた、マイグレーション(プロテーゼの移動)、組織損傷または上方および下方のシーリング部分における病変の進行により、漏出、いわゆるエンドリークを発達させた配置済みシステムの修復を可能とする。移植済みプロテーゼパーツは、マルチルーメンインプラントが完全に独立したシール効果およびそれ自身の固定システムを提供するので、体内に残ってもよい。
【0049】
しかしながら、本発明のよるインプラントによって、様々の他の利点が提供される。これらはまた、製造コスト、およびしたがって、保険制度の費用、患者の安全性、改良されたスケジューリング、有用性、製品の安全性および関連処置の安全性にも関する。
【0050】
インプラントは、その一般的適合性のために、5つの遠位に配置されたルーメンへの標準化によって相応により低いユニットコストでより大量に製造することができ、したがって、個別のインプラントよりも著しく費用効果が高い。
【0051】
本発明のインプラントはその柔軟な接続オプションのために一般的に使用可能なので、診療所に在庫で保存することができ、したがって、緊急事態に用いることもできる。時に長い待ち時間を伴う個々に調整された製品は、したがって不要である。
【0052】
本発明のインプラントは、移植が容易であり、予め準備されたり患者の血管系で組み立てられたりする必要がない。基本的に、移植は通常のステントの挿入と同じように行われる。分岐の血管への接続のために特別な知識は必要とされず、ステントグラフトの通常の配置に対応する。
【0053】
従来のインプラントと比較して、本発明のインプラントが真っ直ぐであることによって、処置の過程で受けうるまたは前の作製、処理および調製作業の結果でありうる、装置の故障が生じることが少なくなる。
【0054】
最後だからといって重要でないということではなく、本発明のプロセスの簡単さ-患者における血管およびインプラントのアセンブリの複雑な連結が排除される-によって、処置の時間およびしたがって自動的に手術に関連する合併症の危険が低減されるので、実際の処置の安全性の態様が改良されるであろう。
【0055】
本発明並びに技術的環境が、図面に基づいて十分に詳細に以下に記載される。図面は、本発明の特に好ましい実施形態のバリエーションを示すことに留意すべきである。しかしながら、本発明は、示される実施形態のバリエーションに限定されると解釈されるべきではない。技術的に便宜な範囲で、本発明は、特に、請求項においておよび本発明に関する説明および関連する図面に述べられる技術的特徴の任意の随意的な組合せを含む。
【0056】
本発明の説明が、以下の図面により提供される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図2】本発明により提案されるインプラントの第1の実施形態の略図
【
図3a】本発明のインプラントの第2の実施形態をよりよく理解するための、遠位部上への近位部の折り畳みの略図
【
図3b】本発明のインプラントの第2の実施形態をよりよく理解するための、遠位部上への近位部の折り畳みの略図
【
図4a】本発明のインプラントの第2の実施形態をよりよく理解するための、遠位部上への近位部のさらなる折り畳みおよびステントの位置の略図
【
図4b】本発明のインプラントの第2の実施形態をよりよく理解するための、遠位部上への近位部のさらなる折り畳みおよびステントの位置の略図
【
図5】本発明により提案されるインプラントの第2の実施形態の略図
【
図6a】本発明に従ったインプラントの第2の実施形態による横断面図
【
図6b】本発明に従ったインプラントの第2の実施形態による縦断面図
【
図7a】遠位ルーメンの可能な分布オプションの略図
【
図7b】遠位ルーメンの可能な分布オプションの略図
【
図7c】遠位ルーメンの可能な分布オプションの略図
【
図7d】遠位ルーメンの可能な分布オプションの略図
【
図8a】血液を通過するステントのより良好な固定のための分岐の遠位端の可能な構成を示す図
【
図8b】血液を通過するステントのより良好な固定のための分岐の遠位端の可能な構成を示す図
【
図8c】血液を通過するステントのより良好な固定のための分岐の遠位端の可能な構成を示す図
【
図8d】血液を通過するステントのより良好な固定のための分岐の遠位端の可能な構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0058】
図1は、本発明に従ったインプラントの管状構成要素の略図を示し、このインプラントは、近位部2および遠位部3に分岐される。近位(p)単一-ルーメンの管状構成要素1は、少なくとも2つのルーメン4、5に遠位(d)で分岐し、好ましい実施形態は、1つの主ルーメン4および4つの副ルーメン5を備える、あるいは、同様に1つの大きい分岐6および4つのより小さい分岐7を備える。
【0059】
この略図に示される相対的な比率は、単に個々のパーツが容易に認識できるようにする目的で選択される。したがって、近位部2の遠位部3に対する割合並びにここの遠位ルーメン4および5の割合または分岐6および7の長さは、図面に示されるものと異なりうる。
【0060】
図2は、
図1に示される管状構成要素1を示し、管状構成要素1を確保または固定するためのステントが、近位部2内の血管中に配置される。この実施形態において、ステント8は、遠位部3まで達する。便宜であると考えられる場合、管状構成要素1の近位端は、ステント8を超えて突出してもよく、近位部2のルーメン内にステントの近位端上に内側に折り畳まれてもよい。
【0061】
図3aおよび3bは、第1の好ましい構成における、管状構成要素1の近位部2の配置を示す。この場合、近位部2は、遠位部3上に折り畳まれ、遠位部3は最終的に少なくとも部分的に近位部2により覆われる。
【0062】
図4aおよび4bは、
図3aおよび3bに示されるように、近位部2の折り畳みに基づく第1の好ましい実施形態の2つのバリエーションを示す。ここに示されるバリエーション4aおよび4bは、ステント8の長さにおいて異なり、ステント8は折り畳まれた構成要素により形成される折り畳み9に位置するが、折り畳みから異なる程度で遠位に(d)突出し、より大きい程度4aまたはより小さい程度4bで遠位部3上に突出する。
【0063】
図5は、
図3aおよび3bに示されるように、近位部2上の折り畳みに基づく好ましい実施形態を示す。近位部2は、分岐6、7の端部まで遠位に(d)折り畳まれる。ステント8は、そのように作製される折り畳み9内に含まれる。
【0064】
図6は、
図5に示されるインプラントの好ましい実施形態による、断面6aおよび縦断面6bを示す。破線はステント8を示し、点線は遠位部3を示し、実線は管状構成要素1の近位部2を示す。
【0065】
図7は、インプラントによる断面の略図を示し、遠位ルーメン4、5の異なる分布および配置が示される。主ルーメン4は、中央に(a、b)または偏心して(c、d)配置されてもよい。副ルーメン5は、主ルーメン4の周り(a、b)またはその一方の面上(c、d)に配置されてもよい。断面図において、主ルーメン4は、円形(a、c)または楕円(b、d)でもよい。副ルーメン5が楕円形を有する実施形態も考えられる。好ましい実施形態は、
図7cに示される。
【0066】
図8は、遠位分岐6、7を潅流される各血管に接続するステントのより良好な固定のための、遠位分岐6、7の遠位端dのための様々の設計オプションを示す。この目的のためにおよび好ましい実施形態において、遠位分岐は、全体に(a)または遠位先端において(d)端部12に向かって円錐状にテーパしてもよく、先端において、環状の補強材10または遠位に完全に補強された構造11(c)を有してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 管状構成要素
2 近位部
3 遠位部
4 主ルーメン
5 副ルーメン
6 主分岐
7 副分岐
8 ステント
9 折り畳み
10 環状補強材
11 環状補強材
12 テーパ
p 近位
d 遠位