(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】排ガス浄化用組成物
(51)【国際特許分類】
B01J 23/68 20060101AFI20230120BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20230120BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230120BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20230120BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
B01J23/68 A ZAB
B01J35/10 301J
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2019553730
(86)(22)【出願日】2018-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2018037064
(87)【国際公開番号】W WO2019097878
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2017222177
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 道隆
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 覚史
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/093600(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/079721(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0023188(US,A1)
【文献】特表2016-505376(JP,A)
【文献】国際公開第2009/130869(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/86
B01D 53/94
F01N 3/00 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウムとマンガンからなる複合酸化物と、Al
2O
3とを含有する排ガス浄化用組成物であって、下記式1及び式2を満た
し、前記複合酸化物は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径D50が0.01μm以上3μm以下である、排ガス浄化用組成物。
式1:SSA維持率(%)>-61.54×(Y-Mn-O比率)+75.55
式2:SSA維持率(%)>45
前記式1及び式2において、SSA維持率とは、耐久後比表面積/初期比表面積×100(%)で表される。
ここで、初期比表面積とは、排ガス浄化用組成物を、500℃、1時間の加熱処理に供し、その後加熱を行わずに測定した比表面積(m
2/g)である。一方、耐久後比表面積とは、排ガス浄化用組成物を、500℃、1時間の加熱処理後、更に980℃、25時間の加熱処理に供した後に測定した比表面積(m
2/g)である。
また、Y-Mn-O比率は、排ガス浄化用組成物における前記複合酸化物とAl
2O
3との合計質量に対する前記複合酸化物の質量割合であり、イットリウムとマンガンからなる複合酸化物をY-Mn-Oとしたときに、Y-Mn-O/(Y-Mn-O+Al
2O
3)で表される。
【請求項2】
Y-Mn-O比率が0.1以上0.9以下である、請求項1に記載の排ガス浄化用組成物。
【請求項3】
Al
2O
3がθ-アルミナである、請求項1
又は2に記載の排ガス浄化用組成物。
【請求項4】
Ag、Mn、Ni、Pt、Pd、Rh、Au、Cu、Fe、Coから選ばれる少なくとも一種の元素から選ばれる触媒活性成分を含む、請求項1~
3の何れか1項に記載の排ガス浄化用組成物。
【請求項5】
Ag及び/又はMnを含む、請求項
4に記載の排ガス浄化用組成物。
【請求項6】
イットリウムとマンガンからなる複合酸化物(Y-Mn-O)とAl
2O
3とを含有する排ガス浄化用組成物であって、該複合酸化物は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径D50が、
0.01μm以上3μm以下であり、且つAl
2O
3のD50の70%以下である、排ガス浄化用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマンガンとイットリウムからなる複合酸化物(以下「Y-Mn-O」ともいう)を含む排ガス浄化用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車やバイク(鞍乗型車両ともいう)等のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中にはHC、CO等の有害成分が含まれている。従来、これらの有害成分を浄化して無害化する目的で酸化触媒が用いられている。このような酸化触媒として、Pt、Pd、Rh等の貴金属とアルミナ、セリア、ジルコニア又はこれらの複合酸化物とを任意に組み合わせたものが使用されている。
【0003】
また近年、マンガンとイットリウムからなる複合酸化物を担体とした排気浄化用触媒が報告されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/093599号
【文献】特開2013-233541号公報
【文献】米国特許出願公開第2017/0028387号明細書
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1~3に記載の触媒はいずれも、ディーゼルエンジン向けのものである。ディーゼルエンジンの排ガス温度は150~400℃であるのに対し、ガソリンエンジンの排ガスは350~700℃であるといわれており、一般に、ガソリンエンジンの排ガスはディーゼルエンジンの排ガスよりも高温である。この点に関し、特許文献1~3に記載の触媒は、ガソリンエンジンの排ガスによる高温での耐久性、特に900℃以上1150℃以下程度のより高い温度での熱耐久性において改善の余地があった。
【0006】
本発明の課題は、高温の排ガスに対する耐久性に優れる排ガス浄化用組成物を提供することにある。
【0007】
本発明は、イットリウムとマンガンからなる複合酸化物と、Al2O3とを含有する排ガス浄化用組成物であって、下記式1及び式2を満たす、排ガス浄化用組成物を提供するものである。
式1:SSA維持率(%)>-61.54×(Y-Mn-O比率)+75.55
式2:SSA維持率(%)>45
前記式1及び式2において、SSA維持率とは、耐久後比表面積/初期比表面積×100(%)で表される。
ここで、初期比表面積とは、排ガス浄化用組成物を、500℃、1時間の加熱処理に供し、その後加熱を行わずに測定した比表面積(m2/g)である。一方、耐久後比表面積とは、排ガス浄化用組成物を、500℃、1時間の加熱処理後、更に980℃、25時間の加熱処理に供した後に測定した比表面積(m2/g)である。
また、Y-Mn-O比率は、排ガス浄化用組成物における前記複合酸化物とAl2O3との合計質量に対する前記複合酸化物の質量割合であり、イットリウムとマンガンからなる複合酸化物をY-Mn-Oとしたときに、Y-Mn-O/(Y-Mn-O+Al2O3)で表される。
【0008】
また本発明は、前記排ガス浄化用組成物と触媒活性成分とを含む排ガス浄化触媒であって、
前記触媒活性成分がAg、Mn、Ni、Pt、Pd、Rh、Au、Cu、Fe及びCoから選ばれる少なくとも一種の元素を含む、排ガス浄化触媒を提供するものである。
【0009】
また本発明は、イットリウムとマンガンからなる複合酸化物とAl2O3とを含有する排ガス浄化用組成物であって、該複合酸化物は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径D50が、Al2O3のD50の70%以下である、排ガス浄化用組成物を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例及び比較例について、SSA維持率をY-Mn-O比率に対してプロットしたグラフである。
【
図2】実施例及び比較例について、HC浄化率をY-Mn-O比率に対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本実施形態の排ガス浄化用組成物は、イットリウムとマンガンからなる複合酸化物(以下「Y-Mn-O」とも記載する)及びAl2O3を含む。本実施形態の排ガス浄化用組成物において、Y-Mn-O及びAl2O3はいずれも粉末状である。本実施形態の排ガス浄化用組成物は例えば粉末状の形態を有していてもよく、或いはスラリー状であってもよい。
【0012】
Y-Mn-Oとしては、マンガン及びイットリウムを含有する複合酸化物であればよい。例えばYMn2O5、Y1-xAxMn2-zBzO5(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Cu又はRuであり、0.5≧x≧0であり、1≧z≧0である)、YMnO3、Y1-xAxMn1-zBzO3(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Cu又はRuであり、0.5≧x≧0であり、1≧z≧0である)及びY2Mn2O7からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を挙げることができる。中でも、酸化活性を良好なものとする観点からすると、YMn2O5、及び、Y1-xAxMn2-zBzO5(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Cu又はRuであり、0.5≧x≧0であり、1≧z≧0である)からなる群から選択される一種又は二種の混合物が好ましく、その中でもYMn2O5が好ましい。
【0013】
YMn2O5は、その製造方法に限定はない。YMn2O5の製造方法の例としては、WO2012/093599号パンフレットに記載されている方法と同様の方法が挙げられる。すなわち、原料としてY2O3及びMnO2をY/Mnの原子比が1/2となるように秤取し、ボールミル等を用いて好ましくは3時間以上粉砕・混合する。その後、大気雰囲気下、好ましくは800℃以上1100℃以下、より好ましくは850℃以上950℃以下で好ましくは1時間以上24時間以下、より好ましくは4時間以上10時間以下焼成することにより複合酸化物YMn2O5を得る方法(以下、製法1ともいう)を挙げることができる。
【0014】
またイットリウムとマンガンとを含む溶液に沈殿剤を添加して、Y/Mnの原子比が1/2となるように含有される前駆体を得て、これを乾燥させ、焼成することにより複合酸化物YMn2O5を得る方法(以下、製法2ともいう)も挙げることができる。イットリウムとマンガンとを含む溶液は、イットリウム化合物及びマンガン化合物を溶媒に溶解して得ることができる。この際に、イットリウム化合物の一部をLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiから選ばれる元素の化合物に置き換えたり、マンガン化合物の一部をCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Cu又はRuから選ばれる元素の化合物に置き換えてもよい。
イットリウム化合物としては、イットリウムの硝酸塩やシュウ酸塩、酢酸塩、アンミン錯体塩、塩化物が挙げられる。マンガン化合物としては、マンガンの硝酸塩やシュウ酸塩、酢酸塩、アンミン錯体塩、塩化物が挙げられる。沈殿剤としては、アンモニア水、水酸化ナトリウム等の塩基性物質が挙げられる。沈殿時に過酸化水素等の酸化剤を用いることが好ましい。
【0015】
或いは、硝酸イットリウムの水溶液に、過マンガン酸カリウム及び塩化マンガン(II)を、Y/Mnのモル比が1/2、Mn2+とMn7+のモル比が7:3となるように混合させた後、水酸化ナトリウム溶液を添加し、得られた混合物を水熱処理して、YMn2O5を得る方法(以下、製法3ともいう)も挙げることができる。
【0016】
本実施形態の排ガス浄化用組成物がY-Mn-Oを含むことは、例えば、排ガス浄化用組成物をX線回折測定に供することにより確認できる。例えば排ガス浄化用組成物がYMn2O5を含む場合は、線源としてCuKα線を用いた排ガス浄化用組成物のX線回折測定において、2θ=28度以上30度以下、30度以上32度以下、及び33度以上35度以下の範囲にそれぞれYMn2O5の(121)面、(211)面、(130)面に由来するピークが観察される。
【0017】
本発明者は、Y-Mn-Oを含有する組成物の高温耐久性について鋭意検討した。その結果、Y-Mn-OにAl2O3を組み合わせた組成物において、高温耐久試験前後の比表面積の維持率がY-Mn-O含有率に対して特定の関係を満たす組成物は、高温耐久性が高いことを見出した。
【0018】
より具体的には、本実施形態の組成物は、下記式1及び式2を満たすことが好ましい。
式1:SSA維持率(%)>-61.54×(Y-Mn-O比率)+75.55
式2:SSA維持率(%)>45
前記式1及び式2において、SSA維持率とは、耐久後比表面積/初期比表面積×100(%)で表される。
【0019】
ここで、初期比表面積とは、排ガス浄化用組成物を、500℃、1時間の加熱処理に供し、その後500℃以上の加熱を行わずに測定した比表面積(m2/g)である。室温から500℃までの昇温速度は5℃/分とし、500℃から室温までの冷却は自然降温とする。次いで、冷却後の排ガス浄化用組成物について比表面積の測定を行う。
一方、耐久後比表面積とは、排ガス浄化用組成物を、上述した500℃、1時間の加熱処理後、更に980℃、25時間の加熱処理に供した後に測定した比表面積(m2/g)である。500℃から980℃までの昇温速度は5℃/分とし、980℃から室温までの冷却は自然降温とする。次いで、冷却後の排ガス浄化用組成物について比表面積の測定を行う。
【0020】
本実施形態の排ガス浄化用組成物は、500℃以上の加熱処理を未だ受けていないものであってもよく、500℃以上の加熱処理を既に受けたものであってもよい。つまり、排ガス浄化用組成物が既に500℃以上の加熱処理を受けているものであっても、更に、500℃、1時間の加熱処理に供し、その後加熱を行わずに測定した比表面積(m2/g)と、500℃、1時間の加熱処理後、更に980℃、25時間の加熱処理に供した後に測定した比表面積(m2/g)とから算出されるSSA維持率が前記式1及び式2を満たす場合、本発明の排ガス浄化用組成物に該当する。
【0021】
500℃での加熱及び980℃での加熱は、いずれも大気中で行う。また比表面積(m2/g)はBET1点法で測定され、例えば、後述する実施例に記載の方法にて測定される。
【0022】
また、Y-Mn-O比率は、排ガス浄化用組成物におけるY-Mn-OとAl2O3との合計質量に対するY-Mn-Oの質量割合(Y-Mn-O/(Y-Mn-O+Al2O3))をいう。
Y-Mn-O比率は、例えば、排ガス浄化用組成物をアルカリ溶解等で溶解し、得られた溶液をICP発光分光分析法に供することにより測定することができる。
【0023】
式1及び式2を満たす排ガス浄化用組成物が高温での熱耐久性に優れる理由を、本発明者は以下のように考えている。従来のY-Mn-Oを含有する排ガス浄化用組成物は、高温にさらされることにより、Y-Mn-O粒子同士が焼結して比表面積が低下し、そのことに起因して、排ガス浄化性能が劣化していた。
これに対し本発明は、Al
2O
3をY-Mn-Oと混合させると、Al
2O
3がY-Mn-O粒子間において仕切り材として作用しうることに着目したものである。Al
2O
3がY-Mn-O粒子間において仕切り材として作用することで、排ガス浄化用組成物が高温にさらされてもY-Mn-Oの焼結が抑制され、比表面積の低下が抑制され、排ガス浄化性能の劣化が抑制される。
後述する実施例における
図1に示されている通り、Al
2O
3とY-Mn-Oとの混合物中のY-Mn-O比率が大きいほど、SSA維持率は低い傾向にある。本発明では、SSA維持率を一定以上(45%を超える範囲)としたことで、Y-Mn-O比率が大きすぎる等の理由でY-Mn-O粒子同士が焼結してしまうことを防止できる。
また、SSA維持率が45%を超える範囲とした場合においても、SSA維持率が、Y-Mn-O比率に基づく所定値よりも大きい場合は、Y-Mn-Oの焼結が効果的に抑制されている。
以上の理由からAl
2O
3を含有し、高温耐久試験時のSSA維持率が45%を超え、更にY-Mn-Oの比率に基づく式1の右辺を超えた組成物は、排ガス浄化作用に優れるものとなる。Al
2O
3によるこのような効果が十分に発揮されるためには、Y-Mn-Oの粒径、例えばレーザー回折散乱式粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径D50を、Al
2O
3のD50の70%以下にすることが望ましい。本発明者は、Y-Mn-Oの粒径よりも大径のAl
2O
3を用いることで、Y-Mn-O同士の接触確率を低下させ、高温状態でのY-Mn-Oの焼結を効果的に防止して、比表面積の低下を抑制し、耐熱性を向上させることができると考えている。また前記のY-Mn-Oの粒径とAl
2O
3の粒径との関係を満たすことで上記式1及び式2を満たす排気ガス浄化用組成物が得やすくなる。
【0024】
前記の観点から、Y-Mn-Oは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径D50が、Al2O3のD50の50%以下であることがより好ましく、30%以下であることが更に好ましく、10%以下であることが更に一層好ましい。一方、下限値としては、0.1%以上とすることが好ましく、1%以上とすることがより好ましい。
【0025】
前記の耐熱性向上効果をより一層高める点から、Y-Mn-OのD50は、6μm以下であることが好ましく、3μm以下であることが更に好ましく、2μm以下であることが更に一層好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。また、基材への密着性の点からY-Mn-OのD50は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることが特に好ましい。
【0026】
前記の粒径のY-Mn-Oは、Y-Mn-Oを粉砕、又は粉砕及び分級して調製することができる。例えばYMn2O5であれば、前記の製法1及び2で得られたYMn2O5を粉砕又は粉砕及び分級することで得ることができる。粉砕は、湿式粉砕であっても乾式粉砕であってもよい。湿式粉砕である場合は、水やエタノール等の公知の溶媒を用いることができる。また分級は、ろ紙やメンブレンフィルター等を用いればよい。或いは、製法3によれば、水熱処理に供する液のpHを調整することで前記の粒径範囲のYMn2O5を得ることができる。
【0027】
Y-Mn-OのD50はレーザー回折散乱式粒度分布測定法による積算体積50%粒径であり、例えばレーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(マイクロトラック・ベル社製「MicrotoracSDC」)を用い、サンプル粉末を水性溶媒に投入し、40%の流速中、40Wの超音波を360秒間照射した後、レーザー回折散乱式粒度分布計(マイクロトラック・ベル社製「マイクロトラックMT3300EXII」)を用いて測定される。測定条件は、粒子屈折率1.5、粒子形状真球形、溶媒屈折率1.3、セットゼロ30秒、測定時間30秒、2回測定の平均値として求める。水性溶媒としては、純水を用いることが好ましい。
【0028】
前記の耐熱性向上効果をより一層高める点から、Al2O3のD50は、4μm以上であることが好ましく、5μm以上であることが更に好ましく、6μm以上であることが更に一層好ましく、7μm以上であることが特に好ましい。Al2O3の入手しやすさや基材への密着性の点から、Al2O3のD50は、15μm以下であることが好ましく、13μm以下であることが特に好ましい。
【0029】
Al2O3のD50はレーザー回折散乱式粒度分布測定法による積算体積50%粒径であり、例えばレーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(マイクロトラック・ベル社製「Microtorac SDC」)を用い、サンプル粉末を水性溶媒に投入し、40%の流速中、40Wの超音波を360秒間照射した後、レーザー回折散乱式粒度分布計(マイクロトラック・ベル社製「マイクロトラックMT3300EXII」)を用いて測定される。測定条件は、粒子屈折率1.5、粒子形状真球形、溶媒屈折率1.7、セットゼロ30秒、測定時間30秒、2回測定の平均値として求める。水性溶媒としては、純水を用いることが好ましい。
【0030】
Al2O3としては、γ-アルミナの他、β-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ等が挙げられ、いずれを用いることもできるが、特にθ-アルミナを用いることが、Y-Mn-Oと組み合わせたとき排ガス浄化用組成物の比表面積を維持しつつ高熱への耐久性向上効果が高いため好ましい。
【0031】
式1及び式2を満たす排ガス浄化用組成物の製造しやすさや排ガス浄化作用を高める点から、Y-Mn-O比率は、0.1以上0.9以下が好ましく、0.2以上0.8以下がより好ましく、0.3以上0.7以下が更に好ましく、0.4以上0.7以下が特に好ましく、0.4以上0.6以下が最も好ましい。
【0032】
排ガス浄化用組成物は、排ガス浄化作用を高める点、及び製造しやすさの点から、初期比表面積が45m2/g以上85m2/g以下であることが好ましく、50m2/g以上75m2/g以下であることがより好ましい。また、排ガス浄化作用を効率良く発揮させる観点から、耐久後比表面積が25m2/g以上であることが好ましく、30m2/g以上であることがより好ましい。
【0033】
排ガス浄化用組成物はY-Mn-Oの焼結を防止して耐熱性に優れたものとする観点から、SSA維持率(%)が、「-61.54×(Y-Mn-O比率)+75.55(%)」の式より与えられる値との差が1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることが特に好ましい。特に、SSA維持率(%)が、「-61.54×(Y-Mn-O比率)+75.55(%)」の式より与えられる値との差が3%以上であり、かつ、初期比表面積が50m2/g以上であると、初期活性だけでなく耐熱性に特に優れたものとなる。
【0034】
排ガス浄化用組成物は、Y-Mn-O、Al2O3以外に他の化合物を含有していてもよい。他の化合物として、Ag、Mn、Ni、Pt、Pd、Rh、Au、Cu、Fe、Coから選ばれる少なくとも一種の触媒活性成分を含有すると、排ガス浄化用組成物の酸素吸蔵性を高いものにすることができ、排ガス浄化作用が高くなる点で好ましい。これら触媒活性成分を含有する、排ガス浄化用組成物を以下排ガス浄化用触媒ともいう。触媒活性成分は、排ガス浄化用触媒において金属として存在していてもよく、金属酸化物として存在していてもよい。例えば、排気ガス浄化用組成物及び触媒において通常、Y-Mn-O等の担体に担持されているMnはMnOxの形態で存在しており、Y-Mn-O等の担体に担持されているAgはメタルの状態で存在している。
排ガス浄化用触媒は、触媒活性成分として特にAg、Mn、Pt、Pd及びRhから選ばれる少なくとも一種を含有することが、より一層排ガス浄化作用を高める点で好ましい。特に、触媒活性成分が高価なPt、Pd及びRhのような貴金属ではなくAg及びMnから選ばれる少なくとも一種であると、近年求められている省貴金属の排ガス浄化用触媒に即した技術として有用である。また、触媒活性成分は、Y-Mn-O及び/又はAl2O3の表面に担持されていてもよいし、或いは、Y-Mn-O及びAl2O3と混合状態となっていてもよい。
【0035】
排ガス浄化用触媒において、触媒活性成分は合計でY-Mn-O及びAl2O3の合計量に対して0.1質量%以上30質量%以下であることが、排ガス浄化作用の耐熱性が高まる点や排ガス浄化用組成物の製造コストの点で好ましい。この観点から、触媒活性成分は合計でY-Mn-O及びAl2O3の合計量に対して1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。また、これら触媒活性成分は排ガス浄化用触媒において2種以上含有されていてもよく、2種以上の金属種を組み合わせる場合としては貴金属と貴金属以外の金属との組み合わせが、コストや性能等から好ましく挙げられ、両者の質量比としては例えば金属換算で前者:後者=1:0.01以上1:10以下であることが好ましく、1:0.1以上1:1以下であることがより好ましい。なお、貴金属以外の金属どうしの組み合わせにおいては、例えばAgとMnとの組み合わせの場合には両者の質量比としては例えば金属換算で前者:後者=10:1以上1:10以下であることが好ましい。
【0036】
触媒活性成分の量は、排ガス浄化用触媒をアルカリ溶解等で溶解して得られる溶液中のAg、Mn、Ni、Pt、Pd、Rh、Au、Cu、Fe、Co等の量をICP発光分光分析法で測定することにより得られる。特に触媒活性成分としてのMnの量は、排ガス浄化用触媒をアルカリ溶解等で溶解して得られる溶液中のY及びMnの量をICP発光分光分析法で測定し、X線回折測定に基づいて得られるY-Mn-OにおけるY:Mn比率に基づいて溶液中のMnの量から担体のMn量を差し引くことにより測定できる。
【0037】
更に、排ガス浄化用組成物及び触媒は、これを基材に担持させるためのバインダーを含んでいてもよい。バインダーとしては、アルミナゾル、ジルコニアゾル等の無機系粉末が用いられる。バインダーを用いる場合、その含有量は、排ガス浄化用組成物及び触媒中、5質量%以上20質量%以下であることが、排ガス浄化用組成物及び触媒の排ガス浄化作用及び密着強度を損なわない観点から好ましい。
【0038】
排ガス浄化用組成物及び触媒は、触媒活性成分及びバインダーに加えて、Y-Mn-O及びAl2O3以外の成分を含有していてもよい。Y-Mn-O及びAl2O3以外の成分としては、例えばTiO2、SiO2、ゼオライト、MgO、MgAl2O4、CeO2、ZrO2、CeO2-ZrO2複合酸化物などが挙げられる。また、排ガス浄化用組成物及び触媒中、Y-Mn-O及びAl2O3以外の成分(但し、触媒活性成分及びバインダーを除く)の量は50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0039】
Y-Mn-O及びAl2O3を含む排ガス浄化用組成物の調製方法には特に限定なく、Y-Mn-O及びAl2O3を粉末同士で混合させてもよく、或いは、スラリーの状態で混合させてもよい。
Y-Mn-O及びAl2O3に触媒活性成分を含有させた排ガス浄化用触媒の調製法としては、例えば、Y-Mn-O及びAl2O3を含有する粉末やスラリーに触媒活性成分を混合させる方法が挙げられる。
また触媒活性成分を硝酸塩やシュウ酸塩、酢酸塩、アンミン錯体塩、塩化物等として含有する溶液にY-Mn-O及びAl2O3を浸漬させたスラリーを得て、これを乾燥させ、焼成させて、Y-Mn-O及びAl2O3に触媒活性成分を担持させてもよい。
前記の各スラリーや溶液における溶媒としては、水等を用いることができる。
前記の各スラリーを、触媒支持体に塗布し、乾燥させ、焼成することで、触媒を触媒支持体上に担持されている触媒層として用いることができる。焼成は大気雰囲気下で450℃以上600℃以下、1時間以上3時間以下行うことが好ましい。
【0040】
前記の触媒支持体は、例えば、セラミックス又は金属材料からなる。また、触媒支持体の形状は、特に限定されるものではないが、一般的にはハニカム形状、板、ペレット、DPF又はGPF等の形状であり、好ましくはハニカム、DPF又はGPFである。また、このような触媒支持体の材質としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、ムライト(3Al2O3-2SiO2)、コージェライト(2MgO-2Al2O3-5SiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスや、ステンレス等の金属材料を挙げることができる。
【0041】
以上の通り、触媒層として形成された本実施形態の排ガス浄化用組成物や触媒は、900℃以上1150℃以下程度の高温に曝されても、安定した触媒能を示す。このような排ガス浄化用組成物は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなど化石燃料を動力源とする内燃機関の排ガス浄化用組成物として、安定した高い排ガス浄化性能を発揮することができる。特に本実施形態の排ガス浄化用組成物は、その高い耐熱性から、自動車やバイク等のガソリンエンジンから排出される排ガスを浄化するために用いられることが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0043】
〔実施例1〕
(1)YMn2O5の合成
イットリウム化合物として硝酸イットリウム水溶液(和光純薬工業社製)を用い、マンガン化合物として硝酸マンガン六水和物(和光純薬工業社製)を用い、塩基として25質量%アンモニア水(和光純薬工業社製)を用いた。硝酸イットリウムと硝酸マンガンの混合水溶液に、アンモニア水と30質量%過酸化水素水(和光純薬工業社製)を両者の合計に対して10倍(体積基準)量の水と混合した水溶液を撹拌条件下徐々に添加して共沈させた。この時のY、Mn及びアンモニア、過酸化水素のモル比は1:2:10:3であった。添加終了後、1時間程度撹拌しつつ熟成を行い、一晩静置し、反応生成物を濾別した。濾別した固形分は純水により洗浄した。洗浄後の固形分を120℃で一晩乾燥させた。その後、破砕し、800℃で5時間焼成を行った。乾燥及び焼成は大気中で行った。
【0044】
(2)YMn2O5の粉砕、分級
(1)で得られたYMn2O5を水に分散させ、ボールミルで粉砕した。粉砕して得られたスラリーを孔径約1μmのろ紙でろ過した。得られたスラリーを100℃で加熱し、水分を減少させることにより、基材塗布に適した濃度に調整した。スラリー中のYMn2O5の含有率は20質量%であった。レーザー回折散乱式粒度分布計(マイクロトラック・ベル社製「MT3300EXII」)により上述の方法(水性溶媒:水)にて測定したYMn2O5のD50は0.158μmと測定された。
【0045】
(3)触媒スラリーの調製
(2)で調製したYMn2O5含有スラリーに硝酸銀(和光純薬工業社製)及び硝酸マンガン六水和物(和光純薬工業社製)を加え撹拌しよく溶解させ、更にAl2O3(θ-アルミナ、上述の方法(水性溶媒:水)にて測定したD50を表1に記載)を加え撹拌しよく分散させた。その後、アルミナバインダーを添加し、更に撹拌してよく分散させ、触媒スラリーを得た。硝酸銀、硝酸マンガン六水和物、YMn2O5、Al2O3、バインダーの配合比率は、触媒としたときの硝酸銀由来の銀量、硝酸マンガン六水和物由来のMn量並びにYMn2O5、Al2O3及びバインダーの各量が表1に記載の量となるように調整した。
なお、表1中のAgは硝酸銀由来の銀量、表1中のMnは硝酸マンガン由来のMn量を示す。
【0046】
(4)ハニカムへのコート
コージェライト製ハニカム(Φ25.4mm×L30mm)を(3)で得た触媒スラリーに浸漬させ、余剰のスラリーをエアブローで吹き飛ばし、ハニカム1L当たり200gの触媒スラリー層を形成させた(ここでいうハニカムの体積は、ハニカム内の空隙を含めた体積である)。これを120℃で3時間乾燥した後、空気中、500℃で1時間焼成して、ハニカム上に形成された触媒層として、実施例1の排ガス用触媒を得た。
【0047】
〔実施例2~4、比較例1~7〕
YMn2O5、Al2O3の使用量を、触媒としたときのYMn2O5、Al2O3の量が表1に示す量となるように変更した。また実施例3、比較例7については、(2)YMn2O5の粉砕、分級において実施例1と同様の孔径のろ紙を使用して、D50が0.152μmであるYMn2O5を得、これを用いた。また、比較例2~6については、(2)YMn2O5の粉砕、分級において実施例1と同様の孔径のろ紙を使用して、ろ紙上に残ったYMn2O5を回収することで、D50が6.964μmであるYMn2O5を得、これを用いた。これらの点以外は、実施例1と同様とした。
【0048】
【0049】
前記実施例1~4、比較例1~7で得られた触媒の活性を下記方法にて評価した。
〔評価方法〕
評価1.SSA維持率の測定
1) 比表面積測定用のサンプル作製
前記各実施例及び比較例において、前記の(3)で調製した触媒スラリーを固形分で3g分取し、120℃で3時間乾燥させた。
得られた乾燥物を500℃×1時間大気中で焼成した。昇温速度及び冷却条件は上述した通りとした。
2) 加熱処理及びBET比表面積測定
1)で焼成した粉末について、980℃×25時間の条件で、大気中で加熱処理を行った。昇温速度及び冷却条件は上述した通りとした。
加熱処理前後のサンプルについて、カンタクローム社製QUADRASORB SIを用いて前記方法にてBET比表面積を測定した。
前記各実施例及び比較例について求めたSSA維持率を表2に示す。表2には、Y-Mn-O比率、初期SSA、Y-Mn-O比率から算出される「-61.54×(Y-Mn-O比率)+75.55」の値を併せて示す。
【0050】
【0051】
評価2.触媒活性の測定
各実施例及び比較例の(4)で作製したハニカム触媒について、980℃×25時間、大気中で加熱処理を行った後、下記性能比較を行った。
C
5H
12、CO、CO
2、O
2、NO、H
2O及びN
2バランスから成り、A/F=14.6となる下記表3記載の組成の模擬排ガスを、100℃から610℃まで20℃/minで昇温させ、SV=10,000h
-1となるように前記ハニカム触媒に流通させて、出口ガス成分をCO/HC/NO分析計(堀場製作所製MOTOR EXHAUST GAS ANALYZER MEXA9100)を用いて測定した。測定したHC(炭化水素)浄化率を表4に示す。表4にはY-Mn-O比率と式1、式2への適合性についても併せて示す。また、
図1に、実施例1~4、比較例1~7について、Y-Mn-O比率とSSA維持率とをプロットしたグラフを記載する。更に、
図2として、実施例1~4、比較例1~7について、Y-Mn-O比率と模擬排ガスが600℃でのHC浄化率とをプロットしたグラフを記載する。
【0052】
【0053】
【0054】
図1より、比較例2~6の排ガス浄化用組成物のSSA維持率は、前記式1の関数とほとんど一致していることが判る。これに対し、実施例1~4の排ガス浄化用組成物のSSA維持率は式1の関数から得られる値を上回っており、且つ45%を上回っていることが判る。また
図2より、各実施例の排ガス浄化用組成物は、各比較例に比べて、高いHC浄化率を示すことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、高温の排ガスに対する耐久性に優れた排ガス浄化用組成物及び排ガス浄化用触媒が提供される。