(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】分析システム及びその分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20230120BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20230120BHJP
【FI】
G01N21/64 F
C12Q1/686 Z
(21)【出願番号】P 2020081838
(22)【出願日】2020-05-07
【審査請求日】2020-05-07
(32)【優先日】2019-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】516067494
【氏名又は名称】クレド ダイアグノスティックス バイオメディカル プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼ 盈達
(72)【発明者】
【氏名】歐 育誠
(72)【発明者】
【氏名】陳 依希
(72)【発明者】
【氏名】陳 冠穎
(72)【発明者】
【氏名】陳 璽元
(72)【発明者】
【氏名】劉 育佑
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特許第6521056(JP,B2)
【文献】特開2016-133429(JP,A)
【文献】特開平07-128260(JP,A)
【文献】特開平08-235242(JP,A)
【文献】特表2009-515153(JP,A)
【文献】特開2012-052985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/74
G01J 3/00-G01J 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から放出される光ビームによって励起される分析物からの第1蛍光信号を測定することによって第1データ(DTr)を取得するステップと、
以下のサブステップ
(i) 前記第1データ(DTr)に時間領域又は周波数領域においてノイズ除去アルゴリズムを実行するか又はローパスフィルタによって、第2データ(DTf)を取得する、ステップと、
(ii) 前記第2データ(DTf)の一部を抽出して、前記光源から放出される光ビームによって引き起こされる干渉を低減し又は他の光源の干渉帯域を回避し、第3データ(DTp)を取得する、ステップと、
(iii) 式DTn(λ)=(DTp(λ)-min(DTp))/(max(DTp)-min(DTp))によって、前記第3データ(DTp)を正規化して、第4データ(DTn)を取得するステップであって、ここで、
max(DTp)は第3データ(DTp)の最大強度値を意味し、
min(DTp)は、第3データ(DTp)の最小強度値を意味し、
DTp(λ)は、ある波長における第3データ(DTp)の強度値を意味し、
DTn(λ)は、前記波長における第4のデータ(DTn)の強度値を意味する、ステップと、
を含むデータ処理ステップを実行するステップであって、前記サブステップ(i)乃至(iii)の順序は入れ替え可能である、ステップと、
少なくとも1つの基準(BS1、BS2、BS3)にしたがって前記第4データ(DTn)への曲線フィッティングを行い、前記少なくとも1つの基準(BS1、BS2、BS3)に対応する少なくとも1つの係数を生成する、ステップであって、前記少なくとも1つの基準(BS1、BS2、BS3)のうちの1つに対応する関数パターンは前記関数パターンの局所最大値に対して非対称性を有する、曲線フィッティングを行うステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記第1データは、励起された前記分析物からの前記第1蛍光
信号の強度と波長との関係であり、
各前記少なくとも1つの基準は、それぞれ、励起された既知の物質からの第2蛍光
信号の強度と波長との関係である、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1波長インターバルにおける前記関数パターンの定積分は、第2波長インターバルにおける前記関数パターンの定積分未満であり、次式で表され
【数1】
ここで、前記第1波長インターバルの下限はL1で表され、前記関数パターンの第1低強度点に対応し、
前記第1波長インターバルの上限はU1で表され及び前記第2波長インターバルの下限はL2で表され、ともに、前記関数パターンの局所最大値に対応し、
前記第2波長インターバルの上限はU2で表され、前記関数パターンの第2低強度点に対応し、
前記第1低強度点及び前記第2低強度点は、ノイズレベル又は検出限界より低く、
前記少なくとも1つの基準はBS1として表され、BS1(λ)は特定の波長における前記少なくとも1つの基準に対応する強度値である、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記曲線フィッティングは、最小二乗法、多重線形回帰法、主成分分析法、点別相互相関法、最小絶対偏差回帰法、及び/又は、ウェーブレット変換方法、にしたがって行われる、
請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記光源は、レーザ光源であり、
前記光源の帯域幅は、前記少なくとも1つの基準のうちの1つの帯域幅の10分の1より小さく、
前記光源の帯域幅は、半値全幅によって画定される、
請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記光源は、10度以下の放射角の発光ダイオード(LED)光源である、
請求項1記載の方法。
【請求項7】
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応が分析物上で行われる、
請求項1記載の方法。
【請求項8】
分析システムであって、
プログラムコードを記憶するための記憶装置と、
前記プログラムコードを実行するための処理回路であって、請求項1乃至7いずれか1項記載の方法が前記プログラムコードへとコンパイルされる、処理回路と、
を有する、分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.技術分野
本発明は、分析システム及び分析方法に関し、より詳しくは、分析精度及び分析効率が高く、小型化に有益な分析システム及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.背景技術
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のデオキシリボ核酸(DNA)増幅反応は、分子生物学における重要な技術である。リアルタイムPCRでは、DNA増幅とDNA増幅反応の定量分析とを同じ分析物容器内で同時に行う。DNA増幅後の定量分析では、分析物によって励起される蛍光シグナルを異なる光経路に分離し、バンドパスフィルターによってフィルタリングされた異なる周波数帯のシグナルを分析する。しかし、隣接する周波数帯域のシグナルは、溶液濃度又は温度によって変化するクロストークを引き起こし、それによって分析精度及び分析効率に影響を及ぼす。さらに、広帯域のキセノン光で分析物を励起する励起効率は低い。したがって、広帯域のキセノン光は、低濃度の分析物の検出又は種々の分析物の検出に有利ではない。キセノンランプのキセノン光の光学系は複雑でかさばる。
【発明の概要】
【0003】
したがって、本発明の目的は、分析精度が高く、分析効率が高く、また、小型化に有益な、分析システム及び分析方法を提供することである。本発明は、分析方法を開示する。分析方法は、第1データを取得するステップと、少なくとも1つの基準(basis)にしたがって第1データへの曲線フィッティングを行い、少なくとも1つの基準に対応する少なくとも1つの係数を生成する、ステップを含む。少なくとも1つの基準のうちの1つに対応する関数パターンは非対称性を有する。本発明は、分析システムをさらに開示する。分析システムは、プログラムコードを記憶するための記憶装置と、プログラムコードを実行するための処理回路と、を有し、プログラムコードへとコンパイルされる分析方法は、第1データを取得するステップと、少なくとも1つの基準にしたがって第1データへの曲線フィッティングを行い、少なくとも1つの基準に対応する少なくとも1つの係数を生成する、ステップと、を含む。少なくとも1つの基準のうちの1つに対応する関数パターンは非対称性を有する。本発明のこれら及び他の目的は、様々な図面及びイラストに示される好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読んだ後、当業者には疑いなく明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】本発明の一実施形態による分析システムの概略を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態による分析方法のフローチャートを示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態による、
図2の分析方法のノイズを取り除くステップの概略を示す図である。
【
図4】本発明の一実施例による
図2の分析方法の部分的抽出ステップの概略を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態による、
図2の分析方法に採用される基準の概略を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態による、
図2の分析方法の曲線フィッティングステップの概略を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態による分析システムの概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明の一実施形態による分析システム10の概略図である
図1を参照されたい。分析システム10は、蛍光シグナルをリアルタイムで検出及び分析するために利用される。分析システム10は、光源100、光学素子110、130、分析物120、検出器140、処理回路150、及び記憶装置160を含む。光源100によって放射される光ビームLBは、光学素子110によって分析物120へ方向付けられ、分析物120は励起されて蛍光シグナルFS (第1蛍光シグナルとも称される)を生成する。蛍光シグナルFSは、光学素子130によって検出器140へ方向付けられることができる。検出器140は、蛍光シグナルFSを受信し、蛍光シグナルFSの(光)強度と波長との関係を測定し、自ら測定したデータDTrを処理回路150に出力する。データDTrはスペクトルデータであってもよい。処理回路150は、プログラムコードにコンパイルされた分析方法にしたがって、検出器140から送信されたスペクトルデータを分析することができる。記憶装置160は、スペクトルデータ、分析方法のプログラムコード、又は他の情報を記憶するように構成されることができる。
【0006】
簡単に述べると、分析物120は、少なくとも1つの既知の物質を含むことができる。光源100によって放出される光ビームLBは、蛍光シグナルFSが放出されるように分析物120中の既知の物質を励起することができる。既知の各物質から励起される蛍光シグナル(第2蛍光シグナルとも称される)の波長と(光)強度との間の関係が既知であるため、処理回路150は、分析物120から励起される蛍光シグナルFSの波長と(光)強度との間の関係を分析して、分析物120内の各既知物質の濃度を特定することができる。
【0007】
さらに、
図2~
図6を併せて参照されたい。
図2は、本発明の一実施形態による分析方法20のフローチャートである。
図3は、本発明の一実施形態による、
図2の分析方法20のノイズを取り除くステップの概略図である。
図4は、本発明の一実施例による、
図2の分析方法20の部分的抽出ステップの概略図である。
図5は、本発明の一実施形態による、
図2の分析方法20で採用される基準BS1~BS3の概略図である。
図6は、本発明の一実施形態による、
図2の分析方法20の曲線フィッティングステップの概略図である。分析方法20は、プログラムコードにコンパイルされることができ、
図1の処理回路150によって実行されることができる。
【0008】
分析方法20は、以下のステップを含むことができる:
【0009】
ステップ200:開始
【0010】
ステップ202:データDTrを取得する
【0011】
ステップ204:データDTrからノイズを取り除いてデータDTfを取得するデータ処理ステップを行う
【0012】
ステップ206:データDTfの一部を抽出してデータDTpを取得する他のデータ処理ステップを行う
【0013】
ステップ208:データDTpを正規化してデータDTnを取得する他のデータ処理ステップを行う
【0014】
ステップ210:少なくとも1つの基準BS1~BS3にしたがってデータDTnへの曲線フィッティングを行い、少なくとも1つの基準BS1~BS3に対応する少なくとも1つの係数を生成し、少なくとも1つの基準BS1~BS3のうちの1つに対応する関数パターンは非対称性を有する
【0015】
ステップ212:終了
【0016】
詳しくは、ステップ202において、処理回路150は、検出器140によって送信されたデータDTrを受信する。データDTrは、光ビームLBによって励起される分析物120の蛍光シグナルFSの(光)強度と波長との間の関係を含むスペクトルデータであることができる。
【0017】
ステップ204は、後続のデータ分析精度を改善するためにノイズ除去ステップを含むことができる。すなわち、処理回路150は、データDTrからノイズ(例えば、バックグラウンドノイズ)を取り除き、データDTrをデータDTfに変換するためのデータ処理ステップを実行することができる。いくつかの実施形態では、処理回路150は、時間領域又は周波数領域においてノイズ除去アルゴリズムを実行することができる。いくつかの実施形態において、ノイズ除去は、ローパスフィルタによって実行されてもよいが、これに限定されない。いくつかの実施形態において、ノイズ除去は、ハードウェアフィルタによって実行されてもよい。あるいは、ノイズ除去アルゴリズムは、ノイズ除去を達成するためのソフトウェアフィルタによって実行されてもよいが、これに限定されない。
図3に示すように、データDTfに対応する関数パターンは、データDTrに対応する関数パターンと比較すると、より滑らかな曲線である。
【0018】
ステップ206は、部分的抽出ステップを含み、光源100から放出される光ビームLBによって引き起こされる干渉を低減するか、又は他の光源の干渉帯域を回避する(又は取り除く)ことができる。すなわち、処理回路150は、データDTfの波長インターバルの一部を抽出し、データDTfをデータDTpに変換するためのデータ処理ステップを実行することができる。したがって、処理回路150は、全ての波長インターバル又は特定の波長インターバルについてのスペクトルデータを分析することができる。いくつかの実施形態において、部分的抽出ステップは、ハードウェア又はソフトウェアによって実行されてもよいが、これに限定されない。
図4に示すように、データDTfに対応する関数パターンは、右側でのみデータDTpに対応する関数パターンとオーバーラップする。
【0019】
ステップ208は、後続のデータ分析効率を改善するための正規化ステップを含むことができる。すなわち、処理回路150は、データDTpを正規化し、データDTpをデータDTnに変換するためのデータ処理ステップを実行することができる。いくつかの実施形態において、処理回路150は、データDTpの(光)強度に対して正規化アルゴリズムを実行することができ、例えば、最大(光)強度は正規化されることができる。いくつかの実施形態において、正規化は、DTn(λ)=(DTp(λ)-min(DTp))/(max(DTp)-min(DTp))として表すことができ、ここで、max(DTp)は、データDTpの最大(光)強度値であり、min(DTp)は、データDTpの最小(光)強度値である。さらに、DTp(λ)及びDTn(λ)は、それぞれ、特定の波長におけるデータDTp及びDTnの(光)強度値である。
【0020】
ステップ210において、処理回路150は、基準BS1~BS3にしたがってデータDTn (第1のデータとも呼ばれる)への曲線フィッティングを行い、基準BS1~BS3に係数を生成することができる。基準BS1~BS3はそれぞれスペクトルデータである。基準BS1~BS3は、それぞれ、励起さていれる1つの既知の物質からの蛍光シグナル(第2蛍光シグナルとも称される)の波長と(光)強度との間の関係を提供する。
図6に示すように、データ成分BS1w~BS3wは、それぞれ、励起されている分析物120中の既知の物質からの蛍光シグナルの波長と(光)強度との関係を表す。特定の波長におけるBS1wからBS3wまでのデータ成分の光強度の合計は、その波長におけるデータDTnの(光)強度に等しい。データ成分BS1w(又はデータ成分BS2w、BS3w)の基準BS1(又は基準BS2、BS3)に対する比率は、基準BS1(又は基準BS2、BS3)に対応する係数である。換言すれば、DTn(λ)=BS1w(λ)+BS2w(λ)+BS3w(λ)=c1*BS1(λ)+c2*BS2(λ)+c3*BS3(λ)であり、ここでBS1w(λ)~BS3w(λ)は、それぞれ特定の波長におけるデータ成分BS1w~BS3wに対応する(光)強度値である。BS3(λ)に対するBS1(λ)は、それぞれ特定の波長のBS3に対する基準BS1に対応する(光)強度値である。また、c1~c3は、それぞれBS1~BS3に対応する係数である。処理回路150は、光ビームLBによって励起される分析物120中の既知の各物質からの蛍光シグナルの波長と(光)強度との間の関係(詳しくは、
図6に示されるデータ成分BS1~BS3)を、基準BS1~BS3に対応する係数にしたがって特定し、したがって分析物120中の既知の物質のそれぞれの係数を特定する。
【0021】
ステップ210により、データ成分BS1w~BS3wの間の距離が比較的近い場合(例えば、BS1w~BS3wの任意の2つのデータ成分の局所最大値に対応する波長間の差が小さい場合、又はクロストークが激しい場合)であっても、任意の2つの異なる既知の物質の励起効率の差異が大きい場合であっても、又は既知の物質の濃度若しくは励起効率が低い場合であっても、既知の各物質のデータ成分BS1w~BS3wを効果的に分析することができる。いくつかの態様において、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、分析物120内で起こり、処理回路150は、分析物120中の既知の各物質の濃度を特定し、DNA増幅後の量を計算する。蛍光シグナルFSは、リアルタイムPCRのDNA増幅反応において、分析物120の試薬によって励起される(DNAの2本鎖に結合される)蛍光シグナルであり得る。この場合、DNA増幅後の量は、基準BS1~BS3に対応する係数に基づいて算出することができる。
【0022】
いくつかの実施態様において、曲線フィッティングは、最小二乗法、多重線形回帰法、主成分分析法、点別相互相関法、最小絶対偏差回帰法、及び/又は、ウェーブレット変換法にしたがって行われる。いくつかの実施形態において、基準BS1~BS3の(光)強度は、個別に正規化されており、例えば、各基準BS1~BS3の最大(光)強度は正規化されている。いくつかの実施形態において、
図5に示すように、基準BS1(又は基準BS2、BS3)に対応する関数パターンは、非対称性を有し得る。いくつかの実施形態において、
図5に示すように、第1波長インターバルの基準BS1(又は基準BS2、BS3)の関数パターンの定積分は、第2波長インターバルの関数パターンの定積分より小さくてもよい。それは、次のように表すことができる:
【0023】
【数1】
ここで、L1は、第1波長インターバルの(積分)下限であり、関数パターンの第1低強度点に対応する。U2は、第2波長間隔の(積分)上限であり、関数パターンの第2低強度点に対応する。低強度点の関数値は、分光器のノイズレベル又は検出限界より低い場合がある。U1とL2は、それぞれ、第1波長インターバルの(積分)上限と第2波長インターバルの(積分)下限である。U1とL2は、どちらも、関数パターンの局所最大値に対応する。いくつかの実施形態において、基準BS1(又は基準BS2、BS3)に対応する関数パターンは、1つより多い局所最大値を有することができる。いくつかの実施形態において、基準BS1(又は基準BS2、BS3)に対応する関数パターンは、実験又は理論計算によって、例えば、特定の既知の物質の励起スペクトル又は発光スペクトルの測定によって、特定することができる。
【0024】
注目すべきことに、
図1に示される分析システム10は、本発明の例示的な実施形態であり、当業者は、変更及び修正を容易に行うことができる。例えば、本発明の一実施形態による分析システム70の概略図である
図7を参照されたい。分析システム70の構造は、分析システム10の構造と類似している。したがって、以下の説明においては、同一の数字及び表記は同一の構成要素を示しており、類似の部分は重複して詳述されていない。分析システム10の光学コンポーネント110、130及び検出器140は、分析システム70の光学コンポーネント710、730及び検出器740として実装されてもよい。
【0025】
具体的には、光源100は、高(光)強度及び狭帯域の光源であることができる。その結果、データ成分BS1w~BS3w間の距離が比較的近い場合(例えば、BS1w~BS3wの任意の2つのデータ成分の局所最大値に対応する波長間の差が小さい場合、又はクロストークが激しい場合)であっても、任意の2つの異なる既知の物質の励起効率の差異が大きい場合であっても、又は既知の物質の濃度若しくは励起効率が低い場合であっても、既知の各物質は、効果的に励起されることができる。例えば、いくつかの実施形態において、光源100の(光)強度は、10ミリワット(mW)/平方ミリメートル(ミリメートル、mm2)から500ミリワット/平方ミリメートル(すなわち、500mW/mm2)の範囲であり得る。したがって、光源100は、比較的高い(光)強度の光源である。いくつかの実施形態において、光源100の(瞬間的な)出力パワーは、1ミリワット(mW)から500ミリワットの範囲であってもよいが、それに限定されない。
【0026】
いくつかの実施形態では、光源100の波長範囲(又は帯域幅)は、励起されている少なくとも1つの既知の物質からの蛍光シグナルの波長範囲(又は帯域幅)の10分の1未満である。したがって、光源100は、比較的狭い帯域の光源である。波長範囲(又は帯域幅)は、半値全幅(FWHM)によって画定されてもよい。いくつかの実施形態では、
図6に示すように、光源100の波長範囲WR1は、基準BS1(又は基準BS2、BS3)の波長範囲WR2よりも小さい。例えば、光源100の波長範囲WR1は、基準BS1(又は基準BS2、BS3)の波長範囲WR2の10分の1未満である。いくつかの実施形態において、光源100の波長範囲は、0.1ナノメートル(nm)から2ナノメートルの範囲であってもよいが、それに限定されない。いくつかの実施形態において、光源100は、レーザ光源であってもよい。さらに、光源100は、ダイオードレーザ光源、又はファブリペロー(FP)半導体レーザ、単一周波数半導体レーザ、分布帰還レーザ(DFB)、又は垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)等の半導体レーザ光源であってもよいが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態において、光源100は、1つ以上の半導体レーザ光源を含む半導体レーザ光源セットであってもよく、半導体レーザ光源の全部又は一部は、異なる中心波長を有してもよい。いくつかの実施形態では、光源100は、10度以下の放射角を有する発光ダイオード光源でもよいが、それに制限されない。いくつかの実施形態では、光源100は、1つ以上の発光ダイオード光源を含む発光ダイオード光源セットであってもよく、発光ダイオード光源の全部又は一部は、異なる中心波長を有してもよい。いくつかの実施形態において、光源100の中心波長は、405ナノメートルから660ナノメートルの範囲であってもよいが、これに限定されない。
【0027】
分析物120は、少なくとも1つの反応体又は試薬を含むことができ、試薬は、少なくとも1つの蛍光プローブ又は蛍光色素を含むことができるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、蛍光プローブ又は蛍光色素は、FAM、VIC、HEX、ROX、CY3、CY5、CY5.5、JOE、TET、SyBR、Texas Red、TAMRA、NED、Quasar705、Alexa488、Alexa546、Alexa594、Alexa633、Alexa643、Alexa680、又は他の蛍光プローブ若しくは蛍光色素であり得る。いくつかの実施形態において、蛍光プローブ又は蛍光色素の中心波長は、340ナノメートル~850ナノメートルの範囲であるが、これらに限定されない。さらに、分析物120は、分析物容器内に保持されることができる。
【0028】
光学素子710及び730は、光ビームのビーム幅を調整するために利用されることができ、例えば、光ビームを収束又は発散させることができる。あるいは、光学素子710及び730は、光ビームのビーム方向を調整するためにさらに利用されてもよい。いくつかの実施形態では、光学素子710又は730は、少なくとも1つの収束レンズを含んでもよいが、それに限定されない。いくつかの実施形態において、光学素子710又は730は、両凸レンズ、平凸レンズ、二重レンズ、非球面レンズ、色消しレンズ、収差レンズ、フレネルレンズ、平凹レンズ、両凹レンズ、正/負メニスカスレンズ、軸索プリズム、(屈折率)分布レンズ、マイクロレンズアレイ、レンチキュラーレンズ、回折光学素子、放物面鏡、ホログラフィック光学素子、又は光導波路素子のうちの少なくとも1つを含み得る。いくつかの実施形態では、光学素子710又は光学素子730は、分析システム70から取り除かれ又は省略されることができる。
【0029】
いくつかの実施形態において、検出器740は分光器であってもよい。いくつかの実施形態において、検出器740は、分析システム70の小型化を容易にするための小型分光器であってもよい。例えば、検出器740は、マイクロ電気機械システム(MEMS)基準の分光器であるが、これに限定されるものではない。いくつかの実施形態において、検出器740の波長範囲は、340ナノメートルから850ナノメートルの範囲であってもよいが、それに限定されない。
【0030】
処理回路150は、プログラムコードにコンパイルされた分析方法20にしたがって、検出器140から送信されたスペクトルデータを分析することができる。いくつかの実施形態では、処理回路150は、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ、又は特定用途向け集積回路(ASIC)であってもよい。いくつかの実施形態では、処理回路150は、(複数の)所定の時間インターバルの間にオン又はオフされる光源100を制御することができる。さらに、光源100がオンにされると、検出器140は、蛍光シグナルFSを同期して検出する。いくつかの実施形態において、処理回路150は、光源100の作動電流を操作することによって、又は、光路スイッチを制御することによって、(複数の)所定の時間インターバルの間にオン又はオフにされるべき光源100を制御することができる。光路スイッチは、機械的な光路スイッチ又は電子的な光路スイッチであってもよい。
【0031】
いくつかの実施形態において、記憶装置160は、プログラムコードを記憶するための任意のデータ記憶装置(又は回路)であってもよい。処理回路150は、記憶装置160を介してプログラムコードを読み出して実行することができる。例えば、記憶装置160は、加入者識別モジュール(SIM)、読出専用メモリ(ROM)、フラッシュメモリ、ランダムアクセスメモリ(RAM)、ハードディスク、光データ記憶装置、不揮発性記憶装置、非一時的コンピュータ読取り可能媒体であってもよいが、これらに限定されない。
【0032】
さらに、分析方法20は、本発明の例示的な実施形態であり、当業者は、置換及び変更を容易に行うことができる。例えば、分析方法20のステップ204、206、又は208は任意であってもよい。低ノイズの場合、分析方法20のステップ204を省略することができ、ステップ206でデータDTrの一部を抽出することができ、データDTpを取得することができる。他の光源からの干渉がない場合、分析方法20のステップ206は省略することができ、ステップ208でデータDTfの一部を抽出することができデータDTnを取得することができる。正規化が不要な場合、分析方法20のステップ208は省略することができ、ステップ210でデータDTpへの曲線フィッティングを行うことができる。同様に、ステップ204又はステップ206が省略された場合、曲線フィッティングは、データDTr又はデータDTfに対して行われ得る。さらに、ステップ204、ステップ206、又はステップ208の順序は、交換可能であることができる。
【0033】
以上をまとめると、本発明は、広帯域のキセノンランプを採用せず、代わりに、高強度及び狭帯域の光源100を使用する。したがって、本発明は、低濃度の分析物120を検出し、リアルタイム検出の要件を満たすように分析システム10の複雑さ及びサイズを低減することができる。さらに、本発明は、分析物120から励起される蛍光シグナルFSを異なる光経路に分離せず、異なる光経路における蛍光シグナルFSを異なる周波数帯のシグナルにフィルタリングしない。その代わりに、本発明は、蛍光シグナルFSに対応するデータDTnに曲線フィッティングを行って、励起される分析物120中の既知の各物質からの蛍光シグナルの波長と強度との間の関係(詳しくはデータ成分BS1w~BS3w)を特定するために基準BS1~BS3に対応する係数を生成し、このことにより、分析物120中の既知の各物質の濃度を特定する。その結果、クロストークが発生したとしても、あるいは、2つの異なる既知の物質の励起効率の差が大きかったとしても、既知の各物質を、効果的に、励起し分析することができ、分析精度及び分析効率を改善することができる。さらに、本発明は、(複数の)データ処理ステップの手段によって、信号対雑音比(SNR)を改善することができる。
【0034】
当業者は、本発明の教示を保持しつつ、装置及び方法の多くの変更及び置換を行うことができることを容易に理解するであろう。したがって、上記の開示は、添付の特許請求の範囲の範囲によってのみ限定されるものと解釈されるべきである。