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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】フィルム引張要素
(51)【国際特許分類】
   A61C 5/90 20170101AFI20230120BHJP
   A61C 19/00 20060101ALI20230120BHJP
   A61C 13/107 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
A61C5/90
A61C19/00 L
A61C13/107
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020203418
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2021094386
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2020-12-08
(31)【優先権主張番号】19215633.9
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596032878
【氏名又は名称】イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ シュミッド
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス エンギスト
(72)【発明者】
【氏名】フランク ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】エーザー アティリム
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-515011(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第03329919(DE,A1)
【文献】特開2006-280960(JP,A)
【文献】特表2005-511232(JP,A)
【文献】特表2017-522954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/90
A61C 19/00
A61C 13/107
A61B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口唇リング(14)と前庭リング(16)を備えていてそれらの間あるいはそれらを超えてフィルム(12)が延在し、その際前記フィルム(12)とさらにリングが弾力的に変形可能であるフィルム引張要素であって、前記フィルム(12)が少なくとも1箇所にそれぞれ1個のアタッチメント(24,26)を備え、そのアタッチメントを起点にして少なくとも1本の弾力性ベルト(20,22)が延在し、前記弾力性ベルトが前庭リング(16)および/または口唇リング(14)の一部分(28,30)上に引張可能あるいはそこに被せることが可能で、また前記弾力性ベルトによって前記フィルム(12)を半径方向内側に引張可能であり、かつ少なくとも1本の弾力性ベルトを前記フィルムの周りに環状に引張可能であることを特徴とするフィルム引張要素。
【請求項2】
フィルム(12)が少なくとも2箇所の相互に対向する位置上にそれぞれ1個のアタッチメント(24,26)を備えることを特徴とする請求項1に記載のフィルム引張要素。
【請求項3】
複数アタッチメント間に少なくとも1本の弾力性ベルト(20,22)が延在することを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム引張要素。
【請求項4】
フィルム(12)と弾力性ベルト(20,22)がリングに比べて弾力的であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項5】
フィルム(12)と弾力性ベルト(20,22)の弾性率がリングの弾性率に比べて80ないし99%の小ささであることを特徴とする請求項4に記載のフィルム引張要素。
【請求項6】
相互に補完して円になるよう引張可能な2本の弾力性ベルト(20,22)を設けることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項7】
各弾力性ベルト(20,22)が前庭リング(16)の一部分上に被せることが可能あるいは引張可能であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項8】
アタッチメント(24)が前庭リング(16)から離れるように延在し、前庭リング(16)から離間した支承基礎(40)上で弾力性ベルト(20,22)をガイドして支承することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項9】
アタッチメント(24)がフィルム引張要素(10)に沿って前庭リング(16)から離れるように延在することを特徴とする請求項8に記載のフィルム引張要素。
【請求項10】
アタッチメント(24)がそれの遠位端で弾力性ベルト(20,22)をガイドして支承することを特徴とする請求項8または9に記載のフィルム引張要素。
【請求項11】
アタッチメント(24,26)がフィルム引張要素(10)上に形成されるかおよび/または同じ材料から形成され、またアタッチメント(24)が口唇リング(14)と前庭リング(16)の間の離間距離の間に延在することを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項12】
アタッチメント(24)が口唇リング(14)と前庭リング(16)の間の離間距離の一部にわたって延在することを特徴とする請求項11に記載のフィルム引張要素。
【請求項13】
アタッチメント(24)が口唇リング(14)と前庭リング(16)の間の離間距離の60%未満にわたって延在することを特徴とする請求項12に記載のフィルム引張要素。
【請求項14】
アタッチメント(24)が口唇リング(14)と前庭リング(16)の間の離間距離の10ないし45%にわたって延在することを特徴とする請求項12に記載のフィルム引張要素。
【請求項15】
アタッチメント(24)が口唇リング(14)と前庭リング(16)の間の離間距離の約30%にわたって延在することを特徴とする請求項12に記載のフィルム引張要素。
【請求項16】
アタッチメント(24,26)がフィルム引張要素(10)上に一体的に形成されることを特徴とする請求項11ないし15のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項17】
弾力性ベルト(20)が平型あるいは平型の楕円形の断面形を有していて幅がフィルム引張要素(10)に沿って延在するか、および/または弾力性ベルト(20,22)が前庭リング(16)上に被せられた状態においてフィルム引張要素(10)に沿ってそれの外側に延在し、フィルム引張要素を半径方向内側に予加圧することを特徴とする請求項1ないし16のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項18】
弾力性ベルト(20,22)が元の長さの1.2倍以上の破断することがない延伸特性を有することを特徴とする請求項1ないし17のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項19】
弾力性ベルト(20,22)が元の長さの少なくとも2倍の破断することがない延伸特性を有することを特徴とする請求項18に記載のフィルム引張要素。
【請求項20】
弾力性ベルト(20,22)が元の長さの10倍ないし50倍の破断することがない延伸特性を有することを特徴とする請求項18に記載のフィルム引張要素。
【請求項21】
前庭リング(16)から開始してフィルム引張要素(10)の延長内に突出縁部がフィルム引張要素から離れるように延在し、アタッチメント(24,26)が前記突出縁部上に取り付けられることを特徴とする請求項1ないし20のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項22】
弾力性ベルト(20,22)が前庭リング(16)上に被せられた状態においてフィルム引張要素(10)を半径方向内側に収縮させることを特徴とする請求項1ないし21のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項23】
弾力性ベルト(20,22)が前庭リング(16)上に被せられた状態においてフィルム引張要素(10)をそれの直径の10ないし30%分半径方向内側に収縮させることを特徴とする請求項22に記載のフィルム引張要素。
【請求項24】
フィルム引張要素内に緩衝ひだを形成することを特徴とする請求項22または23に記載のフィルム引張要素。
【請求項25】
歯科治療用のフィルム引張要素であることを特徴とする請求項1ないし24のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、請求項1,11,13ならびに15前文に記載のフィルム引張要素に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のフィルム引張要素は古くから知られている。例えば特許文献1を参照することができる。その種のフィルム引張要素は患者の口腔への自由なアクセスを保証すべきものである。そのため、楕円形あるいは円形に配置され、2本のリングの間、すなわちいわゆる口唇リングといわゆる前庭リングとの間に延在するフィルムが設けられる。フィルムはリングのうち片方の上に摺動可能に取り付けることもできる。
【0003】
フィルムは弾力性であるため患者の口唇の輪郭に適合して同時に口唇を遮蔽する。
【0004】
口唇リングも前庭リングもフィルム引張要素と比べて比較的硬質である。従ってフィルム引張要素をそれらのリングの間で引張し、その際フィルム引張要素がいわば患者の口腔を拡張する。
【0005】
勿論、患者の口腔の解剖学的要件、特に前庭および口唇領域の要件は個々の患者の間で顕著に異なる。そのことは、周知の解決方式においてフィルム引張要素の弾力性によって考慮する必要がある。その際フィルムは患者の前庭から口唇の収縮部を超えて外側まで延在し、その際比較的に大きな口唇リングが発生する応力をより良好に分散させる。
【0006】
特に口腔内、すなわち前庭リングの内部において、前庭リングがしばしば患者の顎骨に当たるため、形成される圧力がしばしば患者にとって不快に感じられる。
【0007】
そのため特許文献2により、小帯を計算に入れて発生する圧力を緩和する予荷重コルセットを形成することが知られている。
【0008】
そのことによって旧来の解決方式に比べると大きな改善が達成されるが、基本的にさらに改善が必要とされる。
【0009】
従来使用されていたフィルム引張要素の別の問題点は、患者によって大きく異なる唇に作用する圧力である。
【0010】
そのことは一方で患者の開口に対する両方のリングの大きさの比に相関し、他方では勿論使用される材料に相関する。
【0011】
特に顎骨ならびに小帯に対する過度の圧力は不快に感じられる。一方でフィルム引張要素の引張機能は主に半径方向外側に作用する応力によって形成される。
【0012】
従って個々の患者の多様な解剖学的状況に対応するために、一般的に複数のサイズのフィルム引張要素が備蓄される。
【0013】
フィルムは極めて弾力性でなければならないため、しばしばエラストマあるいは軟質シリコン等の適宜な材料が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第03/51185号(A1)パンフレット
【文献】欧州特許出願公開第3160381号(A1)明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って本発明の目的は、より良好な装着性を可能にする請求項1、11、13あるいは15前文に記載のフィルム引張要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の課題は本発明に従って請求項1、11、13あるいは15によって解決される。従属請求項によって好適な追加構成が定義される。
【0017】
本発明に係るフィルム引張要素は、フィルムの周りあるいはフィルムに沿って環状に延在する特殊な弾力性ベルトによって両方のリングの間の領域内でフィルムを半径方向内側に引張することを特徴とする。勿論、この弾力性ベルトはフィルム引張要素の間隔保持機能に対して逆行するものである。しかしながら、装着された状態において前記弾力性ベルトが口唇の外側と内側の間の移行領域に接合するか口唇の内側に接合する。
【0018】
従って引張力が前庭リングに作用してその前庭リングを歯槽堤および唇小帯から離間するように引張する。そのため、前庭リングが圧力に対して比較的鈍感な口唇と頬の柔軟組織の1箇所に平行に接合する。
【0019】
口唇リング上に比べて前庭リング上においてより大きく弾力性ベルトが延在することはそれらの大きさの比によるものでもあり;一般的に口唇リングの直径は前庭リングの直径よりも例えば10%ないし20%大きくなる。
【0020】
本発明に係るフィルム引張要素によって装着快適性が著しく改善される。フィルムは内側に向かって引張され、そのため前庭リングがより突出して口腔内に進入し、それによってフィルム引張要素の挿入が容易になる。顎骨に対する圧力が減少し、それによって従来は患者の口から前庭リングを除去して補助器具を使わずに所要の処置を続行する原因となっていた疼痛反応が緩和される。
【0021】
本発明に係る弾力性ベルトはフィルム上に浮遊式に取り付けることが好適である。1個、より好適には2個のアタッチメントを使用して取り付ける。アタッチメントは前庭リングからフィルムに沿って延在するが、弾力性ベルトがその箇所でも前庭リングから離間するようにする。
【0022】
弾力性ベルトは前庭リングの一部の上に被せることができる程度に弾力的である。1本の円形の弾力性ベルトを設けるか、あるいは補完的に円を形成する2本の弾力性ベルトを設ける。その場合個々の弾力性ベルトを対応する前庭リングの一部にそれぞれ被せることができる。
【0023】
弾力性ベルトはフィルム引張要素上の任意の場所に固定することが可能である。固定は例えばフィルムと弾力性ベルトの間の2点で実施することができる。しかしながら、相互に対向する2個のアタッチメントを前庭リングから突出させ、それを例えば前庭リングから約1cm離間した位置の溶着点によってフィルムに固定することが極めて好適であると判明した。
【0024】
好適な構成形態によれば、前庭リングから離間した接続位置でアタッチメントをフィルム引張要素と結合する。
【0025】
一方、弾力性ベルトをフィルムの部分円上のみに取り付けることも可能であり、その場合本発明の所要の効果も部分的なものとなる。
【0026】
好適な構成形態によれば、弾力性ベルトが前庭リング上に被せられた状態において前庭リングに隣接するアタッチメント上に比べてアタッチメントからより離間した接続位置でフィルム引張要素をより大きく半径方向内側に牽引する。
【0027】
好適な構成形態によれば、弾力性ベルトがアタッチメントと略等しい(すなわち±30%)厚みを有するが、アタッチメントの幅は各弾力性ベルトの幅の2倍から10倍、特に約3倍である。
【0028】
好適な構成形態によれば、それぞれ2本の弾力性ベルトがリングの接戦方向に数mm離間して同じアタッチメント上に支承されそこから反対側のアタッチメントまで延在する。
【0029】
本発明の好適な構成形態によれば、弾力性ベルトは被せられていない状態において緩慢あるいは最小限に引張されていて、すなわち最大引張力の顕著に10%未満の引張力でアタッチメント間に延在する。
【0030】
本発明の別の好適な構成形態によれば、弾力性ベルトとアタッチメントを相互に一体的にするか、および/または同じ材料から形成する。
【0031】
弾力性ベルトは少なくとも大部分フィルムから半径方向外側に延在することが好適である。前庭リングの一部分上に被せることを可能にし、またその前庭リングと共にフィルムを半径方向内側に引張可能にすることが好適である。少なくとも1箇所、好適には少なくとも2箇所の接続位置上で弾力性ベルトがフィルムおよび/または前庭リングおよび/または口唇リングと結合される。
【0032】
弾力性ベルトの厚みと幅は必要に応じて広範囲に調節することができる。例えば、弾力性ベルトが円形、楕円形、正方形、長方形、またはその他の任意の断面形を有することができる。
【0033】
平型の断面形の場合、すなわち幅に比べて厚みが小さい場合極めて良好にフィルムに合着する。
【0034】
弾力性ベルトがフィルムの外側に接合することが好適であり、特にフィルムのリング延伸分の半分よりも顕著に大きく接合することが好適である。
【0035】
弾力性ベルトから前庭リングへの距離はフィルムあるいは弾力性ベルトがリングと結合される位置においてより小さく例えば1mmないし15mmであり、またそこから離れた位置、例えば口腔内に配置された際に側方に延在する位置においてより大きくなり、リング間の距離の半分まであるいはそれよりさらに大きくなる。
【0036】
弾力性ベルトは製造に際してリング上に被せられてそのまま出荷される。それに代えて、リング上に被せることを顧客が実行することも可能である。
【0037】
例えば四角形あるいは正方形の断面を有する市販のゴムベルトを使用し、それを少なくとも1箇所の位置上、特に小帯上でフィルムおよび/またはリングと結合し、さらにそれをフィルムの周りに環状に延在させることも可能である。
【0038】
弾力性ベルトはそれが延在する位置においてフィルムの直径を縮小させフィルムを凝縮させる。
【0039】
別の構成形態によれば、弾力性ベルトの断面形と引張力をそれの延長にわたって変化させ、それによって口唇の解剖学的形状を模擬させる。
【0040】
例えば、側方領域において引張力より高く設定し、上方および下方領域においてより低く設定することができる。
【0041】
その場合フィルムは上方および下方に比べて側方においてより強く凝縮する。結果として最初は円形であったフィルム引張要素が少なくともフィルムの領域において平坦な楕円形の断面形を有するようになる。
【0042】
そのための前提条件は、弾力性ベルトが複数の位置で、特に側方においてもフィルムと結合されることである。
【0043】
側面図において複数の弾力性ベルトを並行してフィルムの周りで環状に延在させることも可能である。それらの弾力性ベルトは等しい弾力性および引張力を有することができるが、必要に応じて異なった引張力を有することも可能である。
【0044】
例えば、中央の弾力性ベルトが最も大きな引張力を有し、その中央の弾力性ベルトと各リングとの間に延在する弾力性ベルトがより小さな引張力を有するようにすることができる。
【0045】
例えば前述した弾力性ベルトの複数配置によって、口唇形状あるいは口唇に似せた形状に自動的にフィルムを予加圧することが好適である。
【0046】
弾力性ベルトを形成するためにフィルム材料あるいはフィルムに類似する材料を使用することも可能である。その種のベルトは0.05ないし1mmの厚みと3ないし8mmの幅を有することができる。好適には0.3mmの厚みと5mmの幅である。
【0047】
ベルトをフィルム上に被覆することもでき、それによってフィルムの周囲全体にわたって結合が形成され、ベルトが強固にフィルムに結合される。
【0048】
フィルムを複数の層を有する層状フィルムとして形成することも可能である。1つの層によって弾力性ベルトを形成することができ、好適にはリング間の略中央あるいは幾らか前庭リング側にずらして形成する。
【0049】
弾力性ベルトをリング間の中央に延在するフィルムの隆起部として形成することもできる。その隆起部は連続的とするかあるいはこぶを有することもでき、また強力な引張力のため本発明に係る収縮を形成する。
【0050】
断面で見たフィルムの形状は弾力性ベルトとそれの層のために口唇形状に近くなり、それによってフィルム引張要素の口腔内への挿入も大幅に容易になる。
【0051】
典型的な利点は、本発明に係るフィルムの収縮部に作用する弾力性ベルトによってフィルム引張要素の挿入性が顕著に改善されることである。
【0052】
本発明によれば、弾力性ベルトを前庭リングの一部上に被せ得ることが好適である。それに代えて、口唇リング上に被せるかあるいはそのリングの一部上に被せることもできる。2個のアタッチメントによって該当するリングと結合することが好適であるが、リングより顕著に弾力的なものとすることが好適である。解放された状態においてベルトはリングより短くなる。弾力性のためベルトを容易にリングの周囲に引張するかまたは移動させることができる。
【0053】
ベルトを作用させるために例えば1本あるいは2本の指で単純にベルトを持ち上げて該当する前庭リングの一部の上に引張しすなわち被せる。そのことは工場内で機械支援によって実施することもできる。
【0054】
好適な構成形態によれば、解放された状態において前庭リングの相互に対向する位置の間に柔軟なコードのように延在する2本の弾力性ベルトを備える。この形態でフィルム引張要素が製造される。
【0055】
前庭リングの相互に対向する位置から2本のアタッチメントが上下に延在し、各アタッチメントが弾力性ベルトの2つの端部の支承基礎に接続する。
【0056】
接続位置が前庭リングと支承基礎の間に存在することが好適である。
【0057】
前庭リングの突出縁部がアタッチメントの接戦方向の接続位置上に窪み形成された緩衝を備えることが好適である。
【0058】
好適な構成形態によれば、アタッチメントが折り曲げられ、前庭リングから約0.5cmないし12mm離れて例えばレーザ溶接、超音波溶接、接着、縫い付け、あるいはその他の結合方法によってフィルムに固着される。
【0059】
それによって第一に弾力性ベルトに圧力がかけられる。それにもかかわらず弾力性ベルト内の圧力は弾力性ベルトが決して破断し得ない程度に小さいものとなる。
【0060】
弾力性ベルトを作用させるために右側のベルトを前庭リングの右部分上で折り曲げるかあるいは被せ、左側の弾力性ベルトは左部分上で折り曲げるか被せる。
【0061】
両方の弾力性ベルトが共に外側からフィルムに接合してフィルムを半径方向内側に予加圧する円を形成する。前記の予加圧は前庭リングから短い距離、例えば1cmの距離で実施されるが、その前庭リングからの距離はアタッチメントからの距離の増加に従って増加し、すなわち弾力性ベルトは口唇リングと前庭リングの間で中央方向に向かって最もエネルギーの少ない位置に移動する。
【0062】
緩く予設置されたフィルム引張要素がその位置で弾力性ベルトによって半径方向内側に予加圧される。他方でより小さくなった直径によって余剰材料が発生するため柔軟なループが形成される。
【0063】
そのループは高度な弾力性を有するため他方で緩衝作用を成し、敏感な口唇皮膚上で極めて快適になる。
【0064】
本発明の好適な構成形態によれば、フィルムが少なくとも2箇所の相互に対向する位置上でそれぞれ1個のアタッチメントを備える。
【0065】
本発明の別の好適な構成形態によれば、フィルムと弾力性ベルトがリングに比べて80ないし99%小さな弾性率を有する。
【0066】
本発明の別の好適な構成形態によれば、アタッチメントが前庭リングからフィルム引張要素に沿って離れるように延在し、遠位端で弾力性ベルトをガイドして支承する。
【0067】
本発明の別の好適な構成形態によれば、アタッチメントが口唇リングと前庭リングの間でそれらの間の離間距離の一部にわたって延在し、特に60%未満、より好適には10ないし45%、極めて好適には約30%にわたって延在する。
【0068】
本発明の別の好適な構成形態によれば、アタッチメントが各弾力性ベルトの幅の約3倍の幅を有する。
【0069】
本発明の別の好適な構成形態によれば、弾力性ベルトが元の長さの少なくとも2倍、特に好適には10倍ないし50倍の破断することがない延伸特性を有する。
【0070】
本発明の別の好適な構成形態によれば、弾力性ベルトとフィルム引張要素がそれらの直径の10ないし30%分半径方向内側に収縮し、特に緩衝ひだをフィルム引張要素内に形成する。
【0071】
本発明の別の好適な構成形態によれば、弾力性ベルトが半径方向内側に締め付け可能であるとともに少なくとも2箇所の接続位置でフィルムあるいはリングと結合されるかあるいは結合可能である。
【0072】
本発明の別の側面によれば、口唇リングと前庭リングを備えていてそれらの間あるいはそれらを超えてフィルムが延在する、特に歯科治療用のフィルム引張要素が提供される。フィルムとさらにリングも弾力的に変形可能である。フィルムは前庭リング上あるいは口唇リング上で折り曲げられる。その際フィルムは両方のリングあるいは少なくとも一方のリングと強固に結合される。その強固な結合を実施することによって初めて本発明に係る弾力性ベルトの効力を機能させることができる。その弾力性ベルトは、両方のリングから離間していてそれら両リングの間の領域内に延在する折り曲げられたフィルムの末端上でフィルムに沿って延在する。前記弾力性ベルトによってリングの間にある位置でフィルムを半径方向内側に引張可能である。それによって装着快適性が驚くほど改善される。
【0073】
この解決方式の好適な構成形態によれば、弾力性ベルトをフィルムの環状の隆起部としてそのフィルムの折り曲げ端部上に形成するか、および/または弾力性ベルトが解放された状態においてリングよりも小さな直径を有するようにする。
【0074】
本発明の別の側面によれば、口唇リングと前庭リングを備えていてそれらの間あるいはそれらを超えてフィルムが延在する、特に歯科治療用のフィルム引張要素が提供され、その際前記フィルムとさらにリングが弾力的に変形可能である。前記のフィルムは両方のリングと強固に結合され、また両方のリングから離間するとともにそれら両リングの間でかつ実質的にそれらリングと平行に少なくとも1本の弾力性ベルトが、好適には一体的に延在し、その弾力性ベルトによってリング間にある位置でフィルムを半径方向内側に引張可能である。
【0075】
この解決方式の好適な構成形態によれば、弾力性ベルトに沿って特に相互に規則的な間隔で延在するこぶを備えるようにして弾力性ベルトを形成する。
【0076】
本発明の別の側面によれば、口唇リングと前庭リングを備えていてそれらの間あるいはそれらを超えてフィルムが延在する、特に歯科治療用のフィルム引張要素が提供され、その際前記フィルムとさらにリングが弾力的に変形可能である。フィルムの半径方向外側に少なくとも1本の弾力性ベルトが延在し、その弾力性ベルトを前庭リングおよび/または口唇リングの一部上に引張させることが可能であるとともにその弾力性ベルトによってフィルムを半径方向内側に引張可能である。前記弾力性ベルトは少なくとも1箇所、好適には少なくとも2箇所の接続位置でフィルムあるいはリングと結合可能であるかあるいは結合される。
【0077】
本発明のその他の詳細、特徴、ならびに利点は、添付図面を参照しながら以下に記述する実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】本発明に係るフィルム引張要素の一実施形態を示した立体図である。
図2図1のフィルム引張要素を示した上面図である。
図3】前庭リングの一部上に被せられた弾力性ベルトを有する図1および図2に係るフィルム引張要素を示した立体図である。
図3a】前庭リングの一部上に被せられた弾力性ベルトを有する図1および図2に係るフィルム引張要素を示した上面図である。
図4図3の部分拡大図である。
図5図3の部分平面図である。
図6】本発明に係るフィルム引張要素の別の実施形態を示した詳細図である。
図7】本発明に係るフィルム引張要素の別の実施形態を示した側面図である。
図8】本発明に係るフィルム引張要素の別の実施形態を示した側面図である。
図9a】本発明に係るフィルム引張要素の別の実施形態を示した断面図である。
図9b】本発明に係るフィルム引張要素の別の実施形態を示した立体図である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
図1に示されたフィルム引張要素10は、口唇リング14と前庭リング16の間に延在するフィルム12を有する。
【0080】
両方のリングは硬質であるが、弾力的に変形することができる。
【0081】
フィルムはいわば環状あるいは被覆状に延在し、前庭リング16および口唇リング14のいずれの内部にも材料は存在しない。
【0082】
この実施形態において口唇リング14が周知の方式で前庭リング16よりいくらか大きくなる。
【0083】
前庭リング16を横断して少なくとも1本の弾力性ベルト20が延在する。図示された実施形態において弾力性ベルト20と平行に延在する別の弾力性ベルト22がさらに設けられる。
【0084】
ベルト20および22は相当に広く相互に離間しており、従って半月型の切れ目が形成される。
【0085】
両方の弾力性ベルトの固定はアタッチメント24および26上で実施され、各弾力性ベルト20および22がそれぞれ両方のアタッチメント24および26の間に延在する。
【0086】
アタッチメント24および26は前庭リング16に固定され、図示された実施例において追加的にフィルム12に結合される。
【0087】
弾力性ベルト20および22は、フィルム12と同じ材料から形成し高度に弾力的にすることが好適である。
【0088】
弾力性ベルトは、対応する前庭リングの隣接部分、すなわち右側の弾力性ベルト20を前庭リング16の右側部分28と左側の弾力性ベルト22を同左側部分30上に容易に被せることができる程度に弾力的である。
【0089】
両方のベルト20および22を前庭リング16上に被せると、それらが実質的に円形を形成する。
【0090】
図2および図3により、アタッチメント24および26をどのように形成するかが示されている。各アタッチメントは、両方のアタッチメント24および26が相互に対向するようにして突起のように前庭リング上に固定される。
【0091】
さらに各アタッチメントは部分的にフィルム12を超えて半径方向外側に延在する。
【0092】
アタッチメント24は位置36上で超音波溶接によってフィルム12に結合され、またアタッチメント26は対向する位置で結合される。
【0093】
それらの両方の位置は顕著に前庭リングから離間する。しかしながら、アタッチメント24あるいは26は前記の位置36をいくらか超えて支承基礎40まで延在する(図4)。この支承基礎40はアタッチメント24あるいは26の遠位端上にあり、またそこから弾力性ベルト20,22が延在し、特に相互に拡散するように延在する(図5)。
【0094】
そこで弾力性ベルト20,22が図2の位置で折り曲げられ、フィルム引張要素10の開口端を横断し前庭リング16上に延在する。
【0095】
しかしながら、両方の弾力性ベルト20および22を緊張させ前庭リング16上に引張するかあるいは被せることも可能である。その状態は図3に示されている。この状態において右側の弾力性ベルト20は、前庭リング16の右側部分28上に掛かるまで相当上方に引き上げられる。その部分のいくらか後方で再び解放され、すなわち再度収縮して図3の形態となる。
【0096】
この形態において弾力性ベルト20がフィルム12を半径方向内側に引張する。そのことが実施される位置はアタッチメント24,26の長さ、特に接続位置36の位置によって決定される。
【0097】
その位置でフィルム20がループ50を形成し、それが追加的に緩衝の機能を成す。
【0098】
弾力性ベルト20は自動的にエネルギーが最も弱い位置、すなわち口唇リング14、前庭リング16、フィルム12および弾力性ベルト20の間の圧力が均衡を保持する位置に滑動する。
【0099】
図3に示されているこの位置は患者の装着感を極めて良くするために最適であるが、それにも関わらず確実な口腔の遮蔽が達成される。
【0100】
図3aと図2を比較すると、弾力性ベルト20を作用させた際にフィルム12が半径方向においてより小さな開口直径を有して半径方向内側に予加圧されることが理解される。
【0101】
図4により、図3に示された弾力性ベルト20の位置が詳細に示されている。支承基礎40は溶接が実施される接続位置36から見ていくらか口唇リング14方向にずれている。
【0102】
そこから弾力性ベルト20が延在していて半径方向外側からフィルム12に接合する。
【0103】
正確な位置は前庭リング16への距離を決定するアタッチメント24の長さによって、また接続位置36の位置によって決められる。それに代えて、適宜に長いアタッチメントによって口唇リング14から始まる弾力性ベルト20のガイドを達成することも可能である。
【0104】
図5にはアタッチメント24が上面図によって示されている。アタッチメント24はフィルム12と弾力性ベルト20および22と同じ材料から形成される。支承基礎40は弾力性ベルト20および22から形成されたリングを略円形にすることを可能にする。
【0105】
アタッチメント24が弾力性ベルト20および22の約3倍の幅を有することが理解される。弾力性ベルト20および22は、フィルム12に良好に接合できるように平型の楕円形断面を有することが好適である。
【0106】
図6には本発明の別の実施形態が示されている。この実施形態においては本発明に係る弾力性ベルト20がフィルム12に内蔵される。従って弾力性ベルトがフィルムに沿って環状の隆起部として環状のフィルムの周囲全長にわたって延在する。
【0107】
加えて、前記の隆起部20はフィルム12に比べてより高い引張力を有する。このことは、フィルムが口唇に適合するように延在しすなわち口唇の湾曲形状に近似するような収縮を隆起部20の位置に有することにつながる。
【0108】
断面で外側から見て、フィルムが弾力性ベルト20と共に凹型の湾曲を形成し、その湾曲が口唇を優しく包含して同時に前庭リングが顎骨から外れるように作用する。
【0109】
図7の実施形態において、フィルム12が前庭リング16と口唇リング14の間に引張される。この実施形態によれば、フィルム12内に周回状に弾力性ベルト20が埋入される。弾力性ベルト20は前庭リング16と口唇リング14の間の略中央領域に延在する。すなわちいわば隆起部として形成され、好適には図7の断面図から理解されるように菱形の断面形を有する。
【0110】
この解決方式において、弾力性ベルト20がフィルム12を半径方向内側に引張する。口唇に対して半径方向外側に作用する圧力は、フィルム引張要素10の装着快適性が改善する程度に削減される。
【0111】
図8の実施形態において、弾力性ベルト20が周回状に配置されたこぶ52から形成される。そのこぶはその部分で材料を補強するように作用し、従ってここでも弾力性ベルト20の半径方向内側への引張によって口唇の負担軽減が達成される。
【0112】
図9aおよび図9bの実施形態において、フィルム12が前庭リング16を超えて延長される。そのフィルムは、環状に形成された弾力性ベルト20で終端となる。
【0113】
そのようにして形成されたフィルム延長部54も前庭リング16に被せることができる。従って、弾力性ベルト20がフィルム延長部54の末端で前庭リング16と口唇リング14の間の中央領域を半径方向内側に押圧し、それによっても所要の口唇の負担軽減が達成されて装着快適性が向上する。
【0114】
弾力性ベルト20の開口56の直径は必要に応じて広範囲に調節することができる。弾力性ベルト20がより厚く形成される場合は、開口56の直径が削減され、またフィルム延長部54が弾力性ベルト20を含めて前庭リング16に被せられるためさらにフィルム12の中央領域の直径も削減される。
【0115】
弾力性ベルト20は被せることができるように形成されるが、それに代えて弾力性ベルト20を単にフィルム12の中央領域に引張することも可能であることが理解される。
【符号の説明】
【0116】
10 フィルム引張要素
12 フィルム
14 口唇リング
16 前庭リング
20,22 弾力性ベルト
24,26 アタッチメント
28 右側部分
30 左側部分
36 位置
40 支承基礎
52 こぶ
54 フィルム延長部
56 開口
図1
図2
図3
図3a
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b