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特許7213891白内障を処置するのに使用するための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】白内障を処置するのに使用するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/45 20060101AFI20230120BHJP
   A61K 31/7076 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 27/12 20060101ALI20230120BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20230120BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230120BHJP
   A61K 31/661 20060101ALI20230120BHJP
   A61K 31/66 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
A61K38/45 ZNA
A61K31/7076
A61P27/12
A61K33/06
A61P43/00 121
A61K31/661
A61K31/66
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020562841
(86)(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2019051961
(87)【国際公開番号】W WO2019149648
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】18154064.2
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514185611
【氏名又は名称】ユニベルシテイト ゲント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT GENT
【住所又は居所原語表記】Sint-Pietersnieuwstraat 25, B-9000 Gent, Belgium
(73)【特許権者】
【識別番号】514185600
【氏名又は名称】ブイアイビー ブイゼットダブリュ
【氏名又は名称原語表記】VIB VZW
【住所又は居所原語表記】Rijvisschestraat 120, B-9052 Gent, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ファン アーケン,エリザベト
(72)【発明者】
【氏名】デランへ,ヨリス
(72)【発明者】
【氏名】カルワルト,ニコ
(72)【発明者】
【氏名】ファン シー,ロェス
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/078953(WO,A1)
【文献】特表2011-510908(JP,A)
【文献】国際公開第03/093311(WO,A1)
【文献】特表2015-501156(JP,A)
【文献】Diabetes, 2000, Vol.49, pp.1627-1634
【文献】Biotechnology & Biotechnological Equipment, 2010, Vol.24, No.3, pp.1928-1935
【文献】Investigative Ophthalmology & Visual Science, 2003, Vol.44, p.2345, ARVO Annual Meeting
【文献】BMC technology, 2009, Vol.9, No.70, pp.1-14
【文献】International Journal of Molecular Sciences, 2021, Vol.22, Article No.381, pp.1-22
【文献】Ryan, D., et al., Regeneration of cofactors for enzyme biocatalysis in enzyme technology, Enzyme technology, 2006, pp.85-103
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 31/33-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物における白内障を処置するのに使用するための、フルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物。
【請求項2】
該組成物が、硝子体内への注射によって投与される、請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
マグネシウムイオンをさらに含む、請求項1または2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
アデノシン三リン酸再生系をさらに含み、ここでアデノシン三リン酸再生系は、1)ホスホエノールピルビン酸およびピルビン酸キナーゼ、2)アセチルリン酸および酢酸キナーゼ、3)リン酸クレアチンおよびクレアチンキナーゼ、ならびに4)ポリリン酸およびポリリン酸キナーゼからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
ヒトまたは動物における白内障を処置するのに使用するための、フルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸再生系を含む組成物であって、ここでアデノシン三リン酸再生系は、1)ホスホエノールピルビン酸およびピルビン酸キナーゼ、2)アセチルリン酸および酢酸キナーゼ、3)リン酸クレアチンおよびクレアチンキナーゼ、ならびに4)ポリリン酸およびポリリン酸キナーゼからなる群から選択される、前記組成物
【請求項6】
該組成物が、硝子体内への注射によって投与される、請求項5に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
マグネシウムイオンをさらに含む、請求項5または6に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
該フルクトサミン-3-キナーゼが、組換えフルクトサミン-3-キナーゼである、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
該組換えフルクトサミン-3-キナーゼが、Pichia pastorisにおける組換え産生によって得られる、請求項8に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
Pichia pastorisにおける組換え産生によって得られる該組換えのフルクトサミン-3-キナーゼが、配列番号1または配列番号2によって与えられるとおりのアミノ酸配列を有する、請求項8に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
白内障の該処置が、水晶体タンパク質の、該水晶体の透明化および軟化をもたらす脱糖化を伴う、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、ヒトまたは動物における白内障の非外科処置に関する。本発明は、具体的に言うと、水晶体クリスタリン(lens crystallins)の脱糖化(deglycation)をもたらす脱糖化酵素(deglycating enzyme)およびその補因子(単数または複数)の投与に関する。よって、本発明は、現行の手術法と比較してより容易かつより廉価である白内障の最小限侵襲タイプの処置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
白内障は世界規模の公衆衛生問題である。平均余命の全体的増加に起因して、白内障の有病率は、先進工業国と第三世界国との両方において上昇している。世界中で推計9千5百万の人々が白内障を患っている(1)。白内障は今もなお(発展途上)世界において失明の主な原因である(世界保健機関(WHO)によると2千万の人々が患っている)(2)。2012年、ベルギーだけで120,000を超える白内障手術が実施されており、この数は今もなお年々増加している。現在の白内障の外科処置は相対的に高くつき、かつ開業している眼科医は多くの発展途上国において少数であるところ、より大勢の患者にとって利用しやすい良心的な価格の(affordable)白内障予防または処置への需要が高まっている。西欧諸国において、白内障は、超音波水晶体乳化吸引術と呼ばれる外科的介入によって、熟練した眼科医によって処置される(3)。この方法は、超音波によって眼内の白内障水晶体(cataractous lens)をフラグメント化すること(fragmentation)、および後者をシリコーンまたはアクリルの新しい水晶体移植片(lens implant)によって置き換えることからなる。
【0003】
しかしながら、この手術手技の主な欠点は、高い財務費用(外科手術用機械装置(surgical machinery)(費用40,000~50,000ユーロ)、手術用顕微鏡(費用50,000~70,000ユーロ)、水晶体移植片を作るための機械装置(15,000~20,000ユーロ)、日帰り(one-day)外科手術における片目あたりの外科手術につき1,500ユーロと2,500ユーロとの間の国民健康保険による償還、眼科執刀医の数年もの長期間習得(long learning curve)、視力を脅かす術後眼内炎のリスク、およびその後(ほとんどの患者にとっては良心的な価格ではない1,000~1,500ユーロの費用が掛かる多焦点レンズが移植されない限り)老眼鏡がなおも必要であることである。当面(At the time being)、現処置ストラテジーを改善する余地はわずかしかなく、移植された水晶体の品質を改善することに主に焦点が当てられている。
【0004】
水晶体(crystalline lens)は、目(eye)の中の透き通った両凸の構造体である。α-、β-、およびγ-クリスタリンは、水晶体の乾燥総質量の>90%を構成する(make up)(4)。極めて低いタンパク質代謝回転に起因して、クリスタリンは、身体の中で最も長寿命のタンパク質に属し、したがって加齢とともに糖化が進行しやすい。タンパク質の糖化の過程で、グルコースおよびフルクトースなどの代謝的に重要な糖は、一級アミン基(アミノ末端およびリシンのε-アミノ基)と反応し、次いで再配置しさらに反応し得る付加体を形成し、最終的にタンパク質間の架橋に繋がるが、これはしばしば、これらのタンパク質を不活性化させるか、またはこれらのタンパク質を天然にある細胞の分解機構(degradation machinery)に対して耐性にさせる。これらの最終糖化産物(Advanced Glycation End products)(AGEs)が形成されるこの過程はまた、より一般に「メイラード」反応としても知られており、前記反応は事実上、極めて複雑であり、一連の反応として未だに全く完全には理解されていない。水晶体タンパク質(lens proteins)の非酵素的糖化および酸化的損傷は、水晶体タンパク質の構造および安定性を変更させること、ならびにタンパク質の架橋、凝集、および不溶化を誘導することによる白内障の形成を担う主要因子である。Dillonら(5)は、水晶体タンパク質(lenticular protein)の糖化におけるメイラード反応の果たし得る役割を強調した。長い半減期のせいで、α-クリスタリンは不可逆的な翻訳後修飾を経て、前記翻訳後修飾のうち糖化は、とくに老化(ageing)および糖尿病において顕著である。
【0005】
近年、広範囲の(large spectrum of)AGEsが液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析で定量化された。AGEsは、水晶体の透明度に影響を及ぼす構造上の変化を誘導する。若年患者からの目の水晶体において、クリスタリンのリシン残基はうち1.3%しか糖化されておらず、一方老人において、この値は年齢50歳にて2.7%から約4.2%まで増加する。メイラード反応が進んだ段階において、糖残基は、水晶体の他のタンパク質とさらに架橋し得る。事実上、タンパク消化後の白内障から単離された褐色色素は、メイラード反応の産物と同様のUV線吸収スペクトル、蛍光励起スペクトル、およびクロマトグラフ保持時間(retention timing)を有する(6)。高血糖症において慢性的に上がったグルコース濃度がAGEsの産生を加速させるところ、糖尿病患者(diabetic patients)におけるAGEsの割合はさらにいっそう多い(substantial)。それに付随して、糖尿病患者における白内障の有病率は、非糖尿病患者(non-diabetics)より5倍高い。白内障は実に、若い人であっても糖尿病患者の主要な合併症である:<54歳の糖尿病患者のうち23~26%は白内障を示すが、同じ年齢群と比較すると非糖尿病の個体は4~7%である。このパーセンテージは年齢とともに増加する:55~64歳の年齢群の人において、白内障は、糖尿病患者の54~70%および非糖尿病個体の31~45%において検出され得る(7)。
【0006】
酵素フルクトサミン-3-キナーゼは、グルコースのタンパク質一級アミン基との初期縮合産物のための天然の細胞の修復能の一環を構成する(constitute)ことが長く知られていた(8)。補基質としてのATPにとってのその要件は、働くのに細胞状況を要することを意味し、このことが潜在的な治療的使用に関して調査する意欲を削いだ。より重要なことに、最終糖化産物(AGEs)に対する酵素作用は、未知である。
【0007】
目の硝子体(vitreous body)は、既に過去10年を通して広範に示されているとおり、網膜疾患の処置において治療剤を含有するための理想的なリザーバである。抗血管内皮成長因子抗体(ラニビズマブ、ベバシズマブ)、血管内皮成長因子デコイ(decoy)受容体(アフリベルセプト)は、2006年以来、黄斑浮腫および糖尿病網膜症に起因する出血、網膜静脈閉塞症、加齢性黄斑変性症、病的近視の処置のために硝子体(vitreous)中へ定型的に注射されている(9)。硝子体は、眼水晶体(eye lens)と網膜との間に位置付けられており、本質的に、98%超の水および2%ヒアルロン酸、コラーゲンII型およびIX型、フィブロネクチン、フィブリリン、ならびにオプチシン(opticin)を含有する無細胞の粘弾性ゲルからなる(10)。
【0008】
しかしながら、フルクトサミン-3-キナーゼなどの脱糖化酵素(deglycating enzyme)およびその要求される補因子(単数または複数)の-硝子体内への単回注射を介する-局部適用が、最終糖化産物および架橋された構造体の崩壊をもたらし、このことが水晶体の透明化(clearing)および軟化に、ひいては白内障の処置に繋がるであろうかどうかは、完全に未知である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図の簡単な記載
図1図1は、本発明の態様に従って脱糖化酵素を硝子体内へ注射するための系を説明するものである。
【0010】
図2a図2aは、フルクトサミン-3キナーゼおよび塩化マグネシウム/アデノシン三リン酸の硝子体内への注射での終夜の処置を受けて観察されたヒツジの、ブタの、およびウマの水晶体の肉眼的変化を示す。非処置の(左図)およびフルクトサミン-3-キナーゼ処置の(右図)眼水晶体が示される。
【0011】
図2b図2bは、マウス水晶体における肉眼的変化を示す。フルクトサミン-3-キナーゼ処置を受け、水晶体の幾何学的形状における著明な変化(x/y軸の比率によって描かれる)が観察される。処置を受け、球状の幾何学的形状は回復する。
【0012】
図3図3は、本発明の態様に従ってフルクトサミン-3キナーゼでの酵素処置を受けたウマ眼水晶体の機械的特性における変化を説明するものである。非処置(破線)および処置(実線)のウマ眼水晶体の伸長率が示される。
【0013】
図4図4は、組換えフルクトサミン-3キナーゼでの硝子体内へのin vivo処置を受けたob/obマウス水晶体の赤外スペクトル変化に基づく主成分(principle component)分析を示す。12.5μg/mLの組換えフルクトサミン-3キナーゼ、2.5mM ATP、および0.5mM MgCl2の混合物が各マウスの右目(R)に注射されたのに対して、左目(L)には生理食塩水が注射された。24hインキュベーション後、マウスはサクリファイスされて目が眼球除去された(enucleated)。水晶体が解剖されて、近赤外分光法でのスペクトル変化について分析された。矢印は、生理食塩水で処置された各マウスの目(C、薄い灰色)と、フルクトサミン-3キナーゼで処置された各マウスの反対側の目(T、濃い灰色)との間の差を指し示す。この実験に使用されたすべてのマウスがob/obマウスであった。
【0014】
図5図5は、in vitroでの糖化および組換えフルクトサミン-3キナーゼでの処置を受けたマウス水晶体の赤外スペクトル変化に基づく主成分分析を示す。この実験についてはwt/wtマウスが使用された。8.33μg/mLの組換えフルクトサミン-3キナーゼ、3.33mM ATP、および1.33mM MgCl2の混合物が各マウスの右目(R)に注射されたのに対して、左目(L)には生理食塩水が注射された。24hインキュベーション後にマウスはサクリファイスされて目が眼球除去された。水晶体が解剖され、以下のとおりに処置された:C(円):in vitroで糖化されていない(対照);GL(四角):in vitroで10%グルコース溶液中37℃にて48h糖化された;dGL(三角形):8.33μg/ml 組換えフルクトサミン-3キナーゼ、3.33mM ATP、および1.33mM MgCl2を含有する50μlの溶液でのin vitro処置によって37℃にて2h脱糖化された;dGL16(菱形):8.33μg/ml 組換えフルクトサミン-3キナーゼ、3.33mM ATP、および1.33mM MgCl2を含有する50μlの溶液でのin vitro処置によって37℃にて16h脱糖化された。L:左目;R:右目。1375~1515nm(7272~6600cm-1)および1650~1730nm(6060~5780cm-1)でのスペクトルが統合された。
【0015】
図6図6は、ヒト水晶体フラグメントのフルクトサミン-3キナーゼ処置の際の脱糖化を示す。7名の白内障患者のヒト水晶体フラグメントのプールが等分され、脱イオン水(対照)または8.33μg/ml 組換えフルクトサミン-3キナーゼ、3.33mM ATP、および1.33mM MgCl2を含有する溶液(FN3K処置)のいずれかで37℃にて2時間処置された。水晶体組織のフルクトサミン含量がニトロブルーテトラゾリウム試薬を使用してアッセイされた。510nm、530nm、および550nmでの吸光度がShimadzu UV-1800分光光度計を使用して記録された。
【0016】
図7図7は、16μg/ml FN3K、4mM MgCl2、および生理食塩水中0mM、0.125mM、0.25mM、もしくは2.5mM ATPの溶液これ自体、または20μM ホスホクレアチン(Sigma)とウサギ筋肉からの0.5mg/ml クレアチンキナーゼ(Sigma)とからなるATP再生系で補充された前記溶液のいずれかで処置されたヒト白内障水晶体フラグメントプール試料を示す。検出された365nmピーク(励起ビーム)が、測定された各条件において等しく高かったことから、蛍光スペクトルが365nm励起強度の集まり(set)とともに記録された。これによってスペクトルの比較が可能になった。図7Aは、充分なATP(0.25~2.5mM)または限られたATP(0.125mM)で補充されたFN3Kでの処置の際、糖化された蛍光の化合物が減少したことを示す。図7Bは、2つの独立した実験において、ATP再生系(CK-PC)の不在下または存在下で、限られた(0.125mM)ATPで補充されたFN3K処置試料の蛍光が減少したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の詳細な記載
本発明は、フルクトサミン-3-キナーゼおよびその補因子(単数または複数)の、硝子体内への単回注射などの投与が、高度に(heavily)糖化されて架橋された水晶体の「浄化(cleaning)」をもたらし、およびそれらの機械的特性に影響を及ぼすという驚くべき知見に関する。換言すれば、後者の投与/注射は水晶体の光透過率を回復させ、よって白内障を処置するかまたは白内障の発症を予防するために使用され得る。
【0018】
よって、本発明は、第1の場合において、ヒトまたは動物における白内障を処置するのに使用するためのフルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸を含む組成物に関する。
本発明はさらに、ヒトまたは動物における白内障を処置するのに使用するためのフルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸を含む組成物に関し、ここで該組成物は、硝子体内への注射によって投与される。
【0019】
本発明はさらに、マグネシウムイオンおよび/またはアデノシン三リン酸再生系をさらに含む、上に記載のとおりの使用のための組成物に関する。
本発明はさらに、ヒトまたは動物における白内障を処置するのに使用するためのフルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸再生系を含む組成物に関する。
【0020】
本発明はさらに、ヒトまたは動物における白内障を処置するのに使用するためのフルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸再生系を含む組成物に関し、ここで該組成物は、硝子体内への注射によって投与される。
本発明はさらに、マグネシウムイオンをさらに含む、上に記載のとおりの使用のためのフルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸再生系を含む組成物に関する。
【0021】
用語「フルクトサミン-3-キナーゼ」は-例えば-Brenda酵素データベース(www.brenda-enzymes.org)における酵素2.7.1.171として分類される酵素に関する。後者の酵素は、非酵素的に糖化されたタンパク質から炭水化物を除去するためのATP依存系の一部であり、以下の反応:ATP+[タンパク質]-N6-D-フルクトシル-L-リシン=ADP+[タンパク質]-N6-(3-O-ホスホ-D-フルクトシル)-L-リシンを触媒する。より具体的に言うと、用語「フルクトサミン-3-キナーゼ」は-非限定例として-受託番号を有するヒトフルクトサミン-3-キナーゼまたは国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)参照配列番号:NP_071441.1(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_071441を参照)に関する。用語「フルクトサミン-キナーゼ」が、上に記載のとおりの酵素に関するが、それらの機能的フラグメントおよびバリアントにも関することは、さらに明確なはずである。用語「機能的フラグメントおよびバリアント」は、天然に存在する酵素のフラグメントおよびバリアントに関する。実に、酵素の多くの用途につき、一部分のタンパク質でも、酵素による効果を獲得するのに充分なこともある。同じことは、バリアント(すなわち、1以上のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されているが、機能は保持しているタンパク質、または改善された機能さえも示す前記タンパク質)、とりわけ(また組換え酵素に関して、さらなる記載もなされている)酵素活性に最適化された酵素のバリアントに適用される。よって、用語「フラグメント」は、NCBI参照配列番号:NP_071441.1を有するヒトフルクトサミン-3-キナーゼの309アミノ酸配列より少ないアミノ酸を含有しつつ該酵素活性を保持する酵素を指す。かかるフラグメントは-例えば-Cおよび/またはN末端にてアミノ酸総数の10%以下の欠失をもつタンパク質であり得る。よって、用語「バリアント」は、NCBI参照配列番号:NP_071441.1を有するヒトフルクトサミン-3-キナーゼの309アミノ酸配列と、少なくとも50%配列同一性を有する、好ましくは少なくとも51~70%配列同一性を有する、より好ましくは少なくとも71~90%配列同一性を有する、または最も好ましくは少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98、もしくは99%配列同一性を有しつつ該酵素活性を保持するタンパク質を指す。
【0022】
ゆえに、相同分子種(orthologues)、またはNCBI参照配列番号:NP_071441.1を有するヒトフルクトサミン-3-キナーゼ以外の、アミノ酸レベルにて少なくとも50%の同一性をもちつつ該酵素活性を有する属および種の遺伝子も、本発明の一部である。アミノ酸配列同一性のパーセンテージは、2つの配列をアライメントし、同一アミノ酸をもつ位置の数をその配列のより短い方のアミノ酸数で除し×100をして同定することによって決定される。後者「バリアント」はまた、酵素活性を有するタンパク質の能力は保持されるように、保存的置換および/または修飾のみの点で、NCBI参照配列番号:NP_071441.1を有するタンパク質とも異なることがある。「保存的置換」は、タンパク質化学の当業者がタンパク質の性質が実質的に変化しないことを期待し得るように、あるアミノ酸が、同様の特性を有する別のアミノ酸に置換されている置換である。一般に、以下の群のアミノ酸は保存的変化を表す:(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr;(2)cys、ser、tyr、thr;(3)val、ile、leu、met、ala、phe;(4)lys、arg、his;および(5)phe、tyr、trp、his。
【0023】
バリアントは、例えば、上に定義されるとおりの酵素活性、酵素の2次構造および疎水性親水性指標となる性質に最小限の影響しか及ぼさないアミノ酸の欠失または付加によって修飾された本明細書に記載のとおりのタンパク質と同様(またはこれとの代替)であってもよい。
用語「アデノシン三リン酸」(ATP)および「マグネシウムイオン」は、後者の酵素の周知の補因子に関する。
【0024】
用語「アデノシン三リン酸生成系」は、ADPまたはAMPからATPを再生するための数種の酵素的なおよび全細胞ベースの方法に関し、これらは-例えば-Woodyer R. D.ら(2006)によって記載されている(11)。とりわけ、後者の用語は、一般的にADPからATPの再生において使用される以下の4酵素を指す:1)ピルビン酸キナーゼによって触媒されるカップリング反応における、ホスホエノールピルビン酸(phosphoenolpyruvate)の使用、2)酢酸キナーゼとカップリングされたアセチルリン酸(acetylphosphate)、3)クレアチンキナーゼとカップリングされたリン酸クレアチン、および4)ポリリン酸キナーゼとカップリングされたポリリン酸(polyphosphate)。好ましくは、用語「ATP生成系」は、二次エネルギー供給源としてのホスホクレアチン、およびそのリン酸基をADPへ移してATPを再生するためのクレアチンキナーゼの利用を指す。よって、後者のATP生成系の利用は、硝子体中へ注射された混合物に存在するATPの濃度を限定するが、これもまたさらに記載されたとおりである。
【0025】
用語「白内障を処置する」は、処置された対象の視力を改善するために、光透過率を回復するか、および/または水晶体の弾性などの機械的特性を改善することに関する。後者の用語はまた、水晶体の光透過率および/または機械的特性のさらなる劣化を予防することにも関することがある。換言すれば、処置という用語は、水晶体タンパク質の、該水晶体の透明化および軟化をもたらす脱糖化を伴う。
用語「動物」はまた、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、またはマウスなどのいずれの動物にも関することもある。
【0026】
用語「硝子体内への注射による投与」は、本発明の化合物の、目の硝子体中への注射に関する。硝子体内への注射技法は、制御された無菌条件下で使用される。適正な麻酔が注射に先立ち与えられる。動物の目の処置につき、一般の麻酔は-例えば-イソフルレン5%での吸入麻酔によって使用される。ヒトの処置につき、局部麻酔点眼薬が使用され得る。32ゲージ針は、より小さい動物(小さい齧歯類の動物など)の目における注射のために使用され得、ヒトの目ならびにウマおよびブタなどのより大きな動物の目においては30ゲージ針が使用され得る。すべての種において、強膜は、45°~90°の角度にて貫通される。マウスにおいて-例えば-強膜は、角膜輪部(limbus)から1~1.5ミリメートルにて貫通され得、ヒトにおいて強膜は、角膜輪部から3~5ミリメートルにて貫通され得る。針は、硝子体に到達するまで強膜および脈絡膜を通過する。針は水晶体にも網膜にも触れない。本発明の組成物はそれ自体が送達され得、針は即時に引き抜かれる。
【0027】
しかしながら、該治療的に有効な量を硝子体内へ注射すること-これは投与の好ましい形である-の他に、点眼薬またはゲルなどの外用、アデノ随伴ウイルスもしくは他のウイルスの使用による脈絡上の送達、網膜下の送達、遺伝子治療による送達、または硝子体(vitreous)、目もしくは目の付属器のどこにでも補給する実現性(possibility)の有無にかかわらず移植片などの他の内服用など-これらに限定されないが-の投与の他の手段もまた想定され得ることは、明確なはずである。
【0028】
よって、本発明は-換言すれば-白内障の処置(または予防)を、これを必要とする対象においてする方法に関し、ここで該方法は、該対象の目のガラス体における治療的に有効な量の化合物の注射(または投与)を含み、前記化合物は、フルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸、あるいは、フルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸生成系、あるいは、フルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸およびアデノシン三リン酸生成系、あるいは、フルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸およびマグネシウムイオン、あるいは、フルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸およびアデノシン三リン酸生成系およびマグネシウムイオン、あるいは、フルクトサミン-3-キナーゼおよびアデノシン三リン酸生成系およびマグネシウムイオンを含む。
【0029】
用語「治療的に有効な量」は、5μl(マウスの片目への注射につき)から50μl(ウシの(bovine)片目への注射につき)までに及ぶ量に関し、約4,17と12.5μg/mlとの間のフルクトサミン-3-キナーゼ、2.50と4,17mMとの間のATP、および1.00と1.67mMとの間のMgCl2に及ぶ治療的用量から採られる。後者の治療的用量は、25μg/ml フルクトサミン-3-キナーゼの溶液を、5mM ATP/2mM MgCl2の新たな溶液と、1:1、1:2、1:3、または1:5で混合することによって得られ得る。
【0030】
本発明はさらに、上に指し示されたとおりの組成物に関し、ここで該フルクトサミン-3-キナーゼは、組換えフルクトサミン-3-キナーゼである。用語「組換え」は、フルクトサミン-3-キナーゼをコードする組換えDNAの、細菌または酵母細胞などの生細胞の内部での発現の成果として得られたフルクトサミン-3-キナーゼを指す。実践者らはさらに、Sambrook et al. Molecular Cloning: A laboratory Manual, 4th ed., Cold Spring Harbor press, Plainsview, New York (2012)およびAusubel et al. Current Protocols in Molecular Biology (supplement 114), John Wiley & Sons, New York (2016)を対象にする(directed to)。
【0031】
より具体的に言うと、本発明は、Pichia pastorisにおける組換え産生によって得られる(obtainable)組換えフルクトサミン-3-キナーゼに関し、さらにいっそう具体的に言うと、ここでPichia pastorisにおける組換え産生によって得られる該組換えフルクトサミン-3-キナーゼは、配列番号1または配列番号2によって与えられるとおりのアミノ酸配列を有する。配列番号1は、N末で切断可能なHISタグ、およびHis6タグとタンパク質コード配列との間にカスパーゼ3で切断可能なAsp-Glu-Val-Asp(DEVD)リンカー(タグをきれいに除去することが可能である)をもつ構築物である。配列番号2は、配列番号1の切断されたバージョンである。
【0032】
配列番号1および配列番号2のアミノ酸配列(ならびにそれら夫々をコードする核酸配列、配列番号3および配列番号4)は、以下のとおりである:
配列番号1:
タイプ:アミノ酸1-文字(下線:His6タグ、斜字体:リンカー、太字下線:カスパーゼ切断部位)
【化1】
【0033】
配列番号3:
タイプ:DNA(下線:His6タグ、斜字体:リンカー、太字下線:カスパーゼ切断部位)
【化2】
【0034】
配列番号2(=N末HISタグ除去後のFN3K):
タイプ:アミノ酸1-文字
EQLLRAELRTATLRAFGGPGAGCISEGRAYDTDAGPVFVKVNRRTQARQMFEGEVASLEALRSTGLVRVPRPMKVIDLPGGGAAFVMEHLKMKSLSSQASKLGEQMADLHLYNQKLREKLKEEENTVGRRGEGAEPQYVDKFGFHTVTCCGFIPQVNEWQDDWPTFFARHRLQAQLDLIEKDYADREARELWSRLQVKIPDLFCGLEIVPALLHGDLWSGNVAEDDVGPIIYDPASFYGHSEFELAIALMFGGFPRSFFTAYHRKIPKAPGFDQRLLLYQLFNYLNHWNHFGREYRSPSLGTMRRLLK*
【0035】
配列番号4:
タイプ:DNA
GAACAGTTGTTGAGAGCTGAGTTGAGAACTGCTACTTTGAGAGCTTTTGGTGGTCCAGGTGCTGGTTGTATTTCTGAGGGTAGAGCTTACGATACTGACGCTGGTCCAGTTTTCGTTAAGGTTAACAGAAGAACTCAGGCTAGACAGATGTTCGAGGGTGAAGTTGCTTCTTTGGAGGCTTTGAGATCCACTGGTTTGGTTAGAGTTCCAAGACCAATGAAGGTTATCGACTTGCCAGGTGGTGGTGCTGCTTTTGTTATGGAACACTTGAAGATGAAGTCCTTGTCCTCCCAGGCTTCTAAGTTGGGTGAACAAATGGCTGACTTGCACTTGTACAACCAGAAGTTGAGAGAAAAGTTGAAAGAGGAAGAGAACACTGTTGGTAGAAGAGGTGAAGGTGCTGAGCCACAATACGTTGACAAGTTCGGTTTCCACACTGTTACTTGTTGTGGTTTCATCCCACAGGTTAACGAGTGGCAAGATGACTGGCCAACTTTCTTCGCTAGACACAGATTGCAAGCTCAGTTGGACTTGATCGAGAAGGACTACGCTGACAGAGAAGCTAGAGAATTGTGGTCCAGATTGCAGGTTAAGATCCCAGACTTGTTCTGTGGTTTGGAGATCGTTCCAGCTTTGTTGCACGGTGATTTGTGGTCTGGTAACGTTGCTGAAGATGACGTTGGTCCAATTATCTACGACCCAGCTTCTTTCTACGGTCACTCTGAATTCGAGTTGGCTATCGCTTTGATGTTCGGTGGTTTCCCAAGATCCTTCTTCACTGCTTACCACAGAAAGATCCCAAAGGCTCCAGGTTTCGACCAGAGATTGTTGTTGTACCAGTTGTTCAACTACTTGAACCATTGGAACCACTTCGGTAGAGAGTACAGATCTCCATCCTTGGGTACTATGAGAAGATTGTTGAAGTAA
【0036】
実に本発明は-加えて-、Pichia pastorisにおける組換え産生によって得られ、かつ配列番号1および2によって与えられるとおりのアミノ酸配列を有する組換えフルクトサミン-3-キナーゼが、白内障を処置するのに好ましい酵素であるという知見にも関する。実に、後者の酵素は、1)Pichiaにおけるそれらの産生が-例えば-E. coliにおける産生と比較して、酵素のより高い収率をもたらしたこと、2)酵素が、SDS page上で分析されたとき、より高い純度を有したこと、および3)硝子体内への注射の最中に眼の炎症を招くことが知られている内毒素の存在(ref)が回避され得ること、から好ましい。
【0037】
以下の例は、本発明をより良好に説明するために提供されるものであって、本発明の範囲を限定するものとして考えるべきではない。
【0038】

例1:フルクトサミン-3-キナーゼの組換え産生
Pichia pastoris発現にコドン最適化された、ヒトフルクトサミン-3-キナーゼ(受託番号または国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)参照配列番号:NP_071441.1(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein /NP_071441を参照)を有する)(配列番号1)をコードする遺伝子を、Claes, K.ら(“Modular Integrated Secretory System Engineering in Pichia Pastoris To Enhance G-Protein Coupled Receptor Expression”, ACS Synthetic Biology 5, no.10(October 21、2016): 1070-75)に従って、pKai61 P. pastoris発現ベクター中へクローニングした。コードされた遺伝子は、フレーム中、カスパーゼ3切断部位(DEVD)とともにN末His6タグ(MHHHHHH)を含有し、発現はメタノール誘導性AOX1プロモーターの制御下にある。プラスミドは、細菌細胞ならびに酵母細胞における選択のためにゼオシン耐性マーカーを含有する。P. pastoris(株NRRL Y-11430)への形質転換前に、ゲノム中への安定した組込み(integration)のために内在性のAOX1遺伝子座における相同組換えが促進されるよう、AOX1プロモーターにおいてベクターを線形化した。
【0039】
安定した組込み体(integrants)を、1%グリセロールで補充されたBMY緩衝複合培地(10g/L 酵母抽出物、20g/L ペプトン、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)、13.4g/L YNB(アミノ酸なし))中28℃にて振盪させながら成長させた。48時間の成長後、組換え発現を、1%メタノールで補充されたBMY培地へ移すことによって誘導した。48時間の発現後、培養物を遠心分離し、上清を捨て、ペレットを液体窒素中で瞬間冷凍させて(flash frozen)-20℃にて保管した。
【0040】
ペレットを解凍し、タンパク質抽出のための洗浄緩衝液に再懸濁した。Pichia pastoris細胞を、0.5mmガラスまたはシリカ/ジルコニウムビーズを使用して機械的に破壊した。透明になった上清を、His6タグ付けされたフルクトサミン-3-キナーゼにつき、Ni2+親和性クロマトグラフィー、これに続くゲル濾過によって精製した。FN3K試料緩衝液(20mM トリス-HCl(pH 8.0)、150mM NaCl、1mM DTT)に溶離されたタンパク質を、SDS-PAGEならびにHis6タグおよびヒトFN3K(Thermofisher)に対する抗体を用いるウェスタンブロッティングによって組換えヒトフルクトサミン-3-キナーゼと同定した。酵素活性を、1デオキシ1モルホリノDフルクトース基質(R&D Systems)を用いるキナーゼ活性アッセイにおいて確認した。フルクトサミン-3-キナーゼのアリコートを液体窒素中で瞬間冷凍させて-20℃にて保管した。
【0041】
例2:フルクトサミン-3キナーゼの硝子体内への注射での終夜の処置を受けて観察されたブタ、ヒツジ、およびウマの水晶体の肉眼的変化。
同じ動物の2個の目を取り出し比較して、できるだけ同等な最良の素材であるものを用いた。ブタ、ヒツジ、およびウマの目を新鮮な死体から取り出し、注射前に氷上で研究室(lab)まで輸送した。一方の目に、8.33μg/ml 組換えフルクトサミン-3 キナーゼ、3.33mM ATP、および1.33mM MgCl2を含有する50μlの溶液を注射し、他方の目に50μl 生理食塩水を注射した。次いで全ての目をNaCl(0.9%)中37℃にて24時間保管し、水晶体を顕微鏡下で解剖した。解剖の最中、水晶体嚢を除去し、ならびに線維(fibers)を小帯および水晶体にて、NaCl(0.9%)で濯ぐことで黒色色素細胞、血液細胞、およびデブリを除去し、これによって水晶体の色が認識される最大限の比較および近赤外分光法による測定が可能になった。水晶体はまた、組織学的研究のためにも調製された。図2aに示されるとおり、処置された目の褪色および混濁(cloudy)から透明への推移が生じた。図3はさらに、同じ力を加えた際の伸長率は、非処置の水晶体と比較すると、処置された水晶体の方がより高いことを実証する。
【0042】
例3:マウスにおいて処置を受けた脱糖化のモニタリング。
36~38週齢からのwt/wtおよびob/obマウスを、外科手術(surgical procedure)の最中、吸入麻酔(イソフルレン5%)で麻酔した。同じ動物の両目の一方に5マイクロリットル フルクトサミン-3キナーゼ(例2における実験と同じ調製)を、もう一方に5マイクロリットル NaCl(0.9%)を注射した。24時間後にマウスをサクリファイスし両目を眼球除去した。図2bに描かれるとおり、フルクトサミン-3キナーゼでの処置は、水晶体の幾何学的形状の正常化をもたらした(生理学的な球状の形状が回復した)。処置されたおよび対照の全水晶体の近赤外(NIR)スペクトルを、7本の400μmファイバー(fibers)の固定化リフレクション(reflection)プローブ、InGaAs検出器、およびハロゲンランプを備えたNIR分光計(FCR-7UVIR400-2-BXリフレクションプローブをもつAvaSpecNIR256-2.5-HSC、Avantes)を使用して、オフラインで(off-line)記録した。糖化がタンパク質の近赤外スペクトルにおいてスペクトルシフトをもたらすところ、クリスタリンの脱糖化に起因してNIRスペクトルにおける特定のピークの先鋭化およびスペクトルのバリエーションを観察することは可能である。これによって我々は、フルクトサミン-3-キナーゼで処置された糖尿病患者の(diabetic)水晶体を非処置の前記水晶体から区別することが可能になる。図4に、反対側の対照水晶体(C)および処置された水晶体(T)の結果を示す。このプロットは、非侵襲NIRモニタリングの使用によって我々が非破壊的な形で処置を査定することができることを上手に説明する。
【0043】
例4:ヒト水晶体フラグメントの脱糖化
ヒト水晶体フラグメントが白内障外科手術の最中の超音波水晶体乳化吸引術を受け、得られた。外科手術後、水晶体フラグメントを含有する保存流体(conservation fluid)を、室温にて10分3000rpmにて遠心分離した。遠心分離を受けた上清を除去した。7名の白内障患者のペレットを、相当量の水晶体フラグメントを得るためにプールし、次いでこれらを等分することができた。150μl 水晶体懸濁液アリコートへ、我々は、100μl 脱イオン水(対照)または8.33μg/ml 組換えフルクトサミン-3キナーゼ、3.33mM ATP、および1.33mM MgCl2を含有する100μlの溶液(処置)のいずれかを37℃にて2時間加えた。その後、1mlのニトロブルーテトラゾリウム試薬を、水晶体組織のフルクトサミン含量をアッセイするために加え、試料を10mmキュベット中37℃にて1hインキュベートした。510nm、530nmおよび550nmでの吸光度を、Shimadzu UV-1800分光光度計を使用して記録した。510nmおよび550nmでの吸光度に基づくベースラインの補正後、530nmでの吸光度は、37℃での2時間のフルクトサミン-3キナーゼ処置後に、30%低減したフルクトサミン含量を示した。
【0044】
例5:マウス水晶体の糖化および脱糖化のin vitroでのモニタリング
マウス水晶体の近赤外スペクトルにおける変化は、in vitroでの糖化および組換えフルクトサミン-3キナーゼでの処置の際に観察される。wtマウスの両目を取り出して眼球除去した。マウス眼水晶体をin vitroで10%グルコース溶液中37℃にて48h糖化し、その後8.33μg/ml 組換えフルクトサミン-3キナーゼ、3.33mM ATP、および1.33mM MgCl2を含有する50μlの溶液中37℃にて16時間浸漬することによって脱糖化した。糖化を、糖化の前後ならびに処置から2時間後および16時間後の近赤外スペクトルを記録することによってモニタリングした。1375~1515nm(7272~6600cm-1)および1650~1730nm(6060~5780cm-1)にて統合されたスペクトルの主成分分析は、in vitro糖化の際に左へポピュレーションシフト(population shift)し(図5)、フルクトサミン-3キナーゼ処置の際に反対方向へシフトしたことを示す。シフトは酵素とのインキュベーション時間に依存し、さらにまた、おそらくその脱糖化効果を指し示している。
【0045】
例6:フルクトサミン-3キナーゼおよびATP生成系の硝子体内への注射での終夜の処置を受けて観察された、ブタ、ヒツジ、およびウマの水晶体の肉眼的変化。
注射された混合物に存在するATPの濃度を限られたものにするために-例えば-二次エネルギー供給源としてのホスホクレアチンおよびそのリン酸基をADPへ移してATPを再生するクレアチンキナーゼを使用するATP再生系を採用する(11,12,13)。
【0046】
フルクトサミン-3-キナーゼ活性を、0.1~1000μMの範囲のATPの存在下、10倍過剰のホスホクレアチン(Sigma-Aldrich, The Netherlands)の有りまたは無しで測定する。ATPを再生するために、500μg/ml クレアチンキナーゼ(組換えヒトクレアチンキナーゼBB(Biotechne R&D Systems Europe, UK)またはウサギ筋肉クレアチンキナーゼ(Sigma)など)を加える。1-デオキシ-1-モルホリノ-D-フルクトース基質(DMF、Biotechne R&D Systems Europe, UK)を用いるin vitroマイクロ力価キナーゼ活性アッセイ(R&D Systems)において、FN3K活性後に放出されたADPを、ホスファターゼによって遊離のホスファートへ変換させ、放出されたホスファートを測定した。4μg/ml FN3Kの存在下のホスファートの放出は、加えられたATP濃度(0.04~2.4mM)に依存した。しかしながら、20μM ホスホクレアチン(Sigma)およびウサギ筋肉からの0.5mg/ml クレアチンキナーゼ(Sigma)からなるATP再生系を混合物へ加えた場合、ホスファート放出が減少したが、これはATP再生系の活性を指し示している。基質N-α-ヒプリル(hippuryl)-N-ε-プシコシル(psicosyl)リシン(14)を用いるFN3KについてのHPLCベースの活性アッセイは、FN3K活性に要求されるATP濃度がATP再生系の添加の際に低下することを実証する。
【0047】
ATP再生系の使用がヒト水晶体におけるFN3K処置を増強することを実証するために、20のヒト白内障水晶体を超音波水晶体乳化吸引術によってフラグメント化してプールした。ヒト白内障水晶体フラグメントプール試料を、生理食塩水中の16μg/ml FN3K、4mM MgCl2、および0mM、0.125mM、0.25mM、もしくは2.5mM ATPの溶液これ自体、または20μM ホスホクレアチン(Sigma)とウサギ筋肉からの0.5mg/ml クレアチンキナーゼ(Sigma)とからなるATP再生系で補充された前記溶液のいずれか(これらを使用に先立ちFavreら(15)に従って20mM DTT中で活性化させた)で処置した。蛍光スペクトルを、7本の400μmファイバーの固定化リフレクションプローブおよびLLS-365高出力LED光源を備えたFlame-S-VIS-NIR-ES分光計(QR400-7-VIS-BX PremiumリフレクションプローブをもつFlame-S-VIS-NIR-ES、OceanOptics)を使用してオフラインで記録した。検出された365nmピーク(励起ビーム)が、測定された各条件において等しく高くなるように、励起強度を設定したことで、スペクトルの比較が可能になった。455nmおよび490nmでの蛍光ピークはFN3K処置の際に低下したが(図7A)、これは糖化された化合物が減少したことを指し示している。しかしながら、ATP濃度が限られている場合(0.125mM)、蛍光の減少も限られた。ATP再生系の添加の際(図7B左)、この効果は覆され、455nmおよび490nmでの蛍光が、充分な(0.25~2.5mM)ATPが加えられたFN3K処置試料と同様のレベルまで減少した一方で、後者の蛍光レベルは、ATP再生系の添加の際に変化しなかった。独立して繰り返された実験において(図7B右)、同様のATP再生系に誘導される蛍光の減少が、限られたATP濃度(0.125mM)でのFN3K処置の際に観察された。これらの結果は、ATP濃度が限られている場合、白内障ヒト水晶体フラグメントのFN3K処置が、-例えば-20μM ホスホクレアチン(Sigma)および0.5mg/ml クレアチンキナーゼからなるATP-再生系の添加によって増強され得ることを指し示している。
【0048】
ATPに対するフルクトサミン-3-キナーゼのKMが、使用される基質(DMF 対 フルクトサミンなどの天然の基質(16、17))および硝子体腔内(intravitreal space)から水晶体へ拡散する要件とともに変動し得ることを考慮して、HEPES緩衝生理食塩水(pH 8.0)中1~1000μM ATPおよび10倍過剰のホスホクレアチン、50μg/ml クレアチンキナーゼ、ならびに1mM MgCl2を含有する反応混合物において、12.5μg/ml フルクトサミン-3-キナーゼを硝子体内に注射する。
【0049】
畜牛(cattle)水晶体の肉眼的変化は、上述の処置混合物での終夜の処置を受けて観察される。同じ動物の2個の目を取り出し比較して、できるだけ同等の最良の素材であるものを用いる。目を新鮮な死体から取り出し、注射前に氷上で研究室まで輸送する。一方の目に、上に記載のとおりの反応混合物中、最終濃度の12.5μg/ml フルクトサミン-3-キナーゼを注射するのに対し、もう一方の目には、同じ反応混合物であるがフルクトサミン-3-キナーゼが割愛されたものを注射する。全ての目を、滅菌された0.9%NaCl中37℃にて24時間インキュベートし、水晶体を顕微鏡下で解剖する。解剖の最中、水晶体嚢を除去し、ならびに線維(fibers)を小帯および水晶体にて、滅菌された0.9%NaClで濯ぐことで黒色色素細胞、血液細胞、およびデブリを除去し、これによって、水晶体の色が認識される最大限の比較および近赤外分光法による測定が可能になった。水晶体はまた、組織学的研究のためにも調製される。
【0050】
参考文献
【表1】
【0051】
【表2】
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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