(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】海上乗り物用油圧調整システムおよび海上用の乗り物
(51)【国際特許分類】
B63H 20/08 20060101AFI20230120BHJP
F15B 15/28 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
B63H20/08 500
F15B15/28 J
(21)【出願番号】P 2021020501
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】10 2020 202 147.3
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518097316
【氏名又は名称】ハーヴェー ハイドローリック エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン オステルリエド
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン マイアー
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ロイダー
(72)【発明者】
【氏名】ポール フランツ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ミューラー
【審査官】塩澤 正和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0157531(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0148674(US,A1)
【文献】米国特許第6311572(US,B1)
【文献】米国特許第3956973(US,A)
【文献】特開2019-049489(JP,A)
【文献】特開2011-246052(JP,A)
【文献】特表2008-536145(JP,A)
【文献】米国特許第4757244(US,A)
【文献】中国特許出願公開第106197242(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/08,25/42
F15B 15/28
G01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上用の乗り物のための油圧調整システムであって、少なくとも1つの油圧部品(10)を備え、
前記油圧部品(10)は、少なくとも1つのピストン(20)と少なくとも1つのシリンダ(30)とを備えた油圧シリンダピストンユニットとして構成され、
前記ピストン(20)は、前記シリンダ(30)内に少なくとも1つの作動室を形成するために、前記シリンダ(30)内に少なくとも部分的に収容され、
前記ピストン(20)は前記シリンダ(30)に対して移動可能であり、この移動中に前記少なくとも1つの作動室の容積が変化し、
前記シリンダ(30)は、少なくとも1つの入口(36)と、少なくとも1つの出口(36)とを有し、前記入口および前記出口は、前記少なくとも1つの作動室を別の油圧部品に接続するように構成されており、
前記ピストン(20)は、凹部を備えたピストンロッド(24)を有し、前記ピストンロッド(24)には、前記凹部内をピストンロッドの長手方向に沿って延びる磁気ロッド(24a)が設けられており、前記磁気ロッド(24a)は、螺旋状の磁界方向を有し、前記磁気ロッド(24a)の螺旋状の磁界方向は、磁気ロッドの長手方向に対してほぼ垂直な面内を延び、かつ磁気ロッド(24a)の長手方向に沿って磁気ロッド(24a)の周りを延びており、
前記油圧部品(10)は、センサ装置(40)を有し、
前記センサ装置(40)は、走査領域を有し、前記センサ装置は、この走査領域で磁界方向を測定するものであり、
前記センサ装置(40)は、前記ピストン(20)の全ストローク経路にわたって、前記ピストンロッド(24)の磁気ロッド(24a)の少なくとも一部が前記センサ装置(40)の走査領域内に位置するような態様で配置されており、
前記センサ装置(40)は、センサユニット(44)と処理ユニット(46)とを有し、前記センサユニット(44)は、前記走査領域内の磁界方向に関する測定結果を前記処理ユニット(46)に送信するように構成されており、
前記処理ユニット(46)は、前記センサユニット(44)によって得られた測定結果を処理し、出力するように構成されている、海上乗り物用油圧調整システム。
【請求項2】
前記処理ユニット(46)は、アナログ及び/又はデジタル信号を、電圧、CAN信号及び/又はパルス幅変調信号の形態で出力するように構成される、請求項1に記載の油圧調整システム。
【請求項3】
前記センサ装置(40)は、前記磁気ロッド(24a)に対して、前記処理ユニット(46)によって出力される予測測定結果が、所定の範囲の値に及ぶように較正される、請求項1または2に記載の油圧調整システム。
【請求項4】
前記センサ装置(40)は、前記処理ユニット(46)によって出力される予測測定結果が線形プロファイルを示すように、前記磁気ロッド(24a)に対して線形化されている、請求項1~3のいずれかに記載の油圧調整システム。
【請求項5】
前記処理ユニット(46)は、9×11mmのサイズを有する回路基板の形態で提供される、請求項1~4のいずれかに記載の油圧調整システム。
【請求項6】
前記センサユニット(44)は、磁気抵抗センサ及び/又はホールセンサを含む、請求項1~5のいずれかに記載の油圧調整システム。
【請求項7】
前記磁気ロッド(24a)の螺旋状の磁界方向は、一定の螺旋ピッチを有する、請求項1~6のいずれかに記載の油圧調整システム。
【請求項8】
前記磁気ロッド(24a)の螺旋状の磁界方向は、連続的又は不連続的に変化する螺旋ピッチを有する、請求項1~6のいずれかに記載の油圧調整システム。
【請求項9】
前記磁気ロッド(24a)は、少なくとも微細測定セクションと、粗測定セクションとを有し、前記粗測定セクションは、前記微細測定セクションよりも大きな領域であり、
前記磁気ロッド(24a)の螺旋状の磁界方向は、前記粗測定セクションよりも前記微細測定セクションの方がより小さな螺旋ピッチを有している、請求項8に記載の油圧調整システム。
【請求項10】
前記センサ装置(40)は、前記シリンダ(30)のハウジング(34)の上方端に固定されて前記ピストン(20)を少なくとも部分的に取り囲むように構成されたC字状の支持体(42)を備え、
前記
C字状の支持体(42)は、前記センサユニット(44)および前記処理ユニット(46)を受入れる受入れ領域を有し、
前記処理ユニット(46)が前記センサユニット(44)の測定に影響を与えないようにするために、前記センサ装置(40)の走査領域が前記C字状
の支持体(42)の内側に位置し、
前記C字状の支持体(42)は、前記センサ装置(40)の走査領域内の磁界を歪ませたり、変形させたり、または弱めたりしない材料を用いている、請求項1~9のいずれかに記載の油圧調整システム。
【請求項11】
前記
C字状の支持体(42)は、少なくとも1つの取付開口(42a、42b)を有し、少なくとも1つの取付部材(50,52)が前記取付開口を通過しており、
前記取付部材(50,52)は、前記
C字状の支持体(42)を前記シリンダ(30)のハウジング(34)に固定するために、前記シリンダ(30)のハウジング(34)に形成された少なくとも1つの対応する係合領域に係合している、請求項10に記載の油圧調整システム。
【請求項12】
前記油圧調整システムは、トリムチルト装置として構成される、請求項1~11のいずれかに記載の油圧調整システム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の油圧調整システムを少なくとも1つを備える、海上用の乗り物。
【請求項14】
前記乗り物は、船外機を備えたジェットスキーまたはボートである、請求項13に記載の海上用の乗り物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に車両の油圧調整システム、特に海上で用いるために提供される油圧部品に関する。さらに、本発明はこのような油圧部品を備えた油圧調整システム及びその油圧調整システムを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
トリムピボット装置とも呼ばれる、いわゆるトリムチルト装置は、船舶などの海上車両に特に使用される油圧調整システムである。それらは、適用分野に応じて、それぞれ設けられた駆動装置の異なる部品を移動させるために使用される。船外機を有するボートでは、例えば、トリムチルト装置は、船外機のチルト(傾斜)運動又はピボット(旋回)運動、及びトリム(前後傾斜)運動を制御するために使用される。船外機のチルト運動中に、モーターは、休止位置と動作位置との間を移動する。休止位置では、船外機のプロペラは、水面のすぐ下、又は多少水面から上方にある。動作位置では、船外機のプロペラは、水中に位置する。この目的のために、通常、シリンダピストンユニットの形態の大型のチルト油圧部品が設けられ、これはトリムチルト装置の中央に配置される。トリム運動は、最終的には船外機のプロペラを動作位置で微調整し、効率の観点から、船外機のプロペラを船体に対して最適に位置合わせするために使用される。また、これにより、乗り心地が向上するとともに、キャビテーションが減少するため、プロペラの寿命が著しく長くなる。このようなトリム運動の必要性は、特に、それぞれの荷重、重量分布及びボートの速度に依存する水線に対する船体の向きが変化することに起因する。この場合、トリム運動は、通常チルト運動の方向に沿って行われる。この目的のために、トリムチルト装置は、一般的に、中央のチルト油圧部品に隣接するシリンダピストンユニットの形態で、(大規模なチルト油圧部品と比較して)2つのより小さなトリム油圧部品を備える。したがって、大まかなチルト運動は、主にチルト油圧ユニットによって行われ、一方で、トリム運動は、基本的にトリム油圧部品によって制御される。
【0003】
最後に、トリムチルト装置は、少なくとも1つのステアリング油圧部品を備えることができる。これを介して、船外機が駆動されている間、進行方向に影響を与えるために、チルト運動の方向を横切る船外機のプロペラの大まかな位置合わせが行われる。このような実施形態では、少なくとも1つの更なるトリム油圧部品を設けて、操舵運動の方向における船外機のプロペラの位置合わせを微調整することもできる。
【0004】
このようなトリムチルト装置は、例えばWO01/98142A1に開示されている。
【0005】
ここでは、船外機を有するボートのためのトリムチルト装置のみを参照しているが、このような又は少なくとも同様のトリムチルト装置は、駆動及び/又はステアリング装置の様々な構成要素を移動又は整列させるために、船内機又はジェットスキーを有するボートのような他の車両においても使用される。船外機を有するボートでは、トリムチルト装置が船外機全体を動かすのに対し、船内機を有するボートでは通常、プロペラ自体のみが動かされ、場合によってはそれに結合された舵と一緒に動かされる。一方、ジェットスキーでは、トリムチルト装置がジェットスキーを駆動するウォータージェットを偏向させて、ジェットスキーの進行方向及び/又は推進効率に影響を及ぼすバッフル及び/又は舵を規則的に移動させる。
【0006】
位置決め移動、即ち、特にトリムチルト運動は、定期的に自動又はシステム制御され、もはや手動ではなく、それはそれぞれの位置決め移動の精度を著しく向上させる。あるいは、トリムチルト装置の現在の位置を反映する特定の信号を、トリムチルト装置のユーザに出力する装置を提供することもできる。ただし、そのためには、トリムチルト装置に、移動又は調整する部品の現在の向きを決定する適切なセンサ装置が必要である。しばしば過酷な環境条件の観点から、特に湿気及び塩分を伴う海洋分野において、ロバスト性及び信頼性の観点から、このようなセンサデバイスに対する非常に高い要求が存在する。また、チルト運動は比較的粗く、チルト運動に続くトリム運動は、比較的繊細であることに留意されたい。
【0007】
これに鑑みて、公知のトリムチルト装置には、少なくとも1つのアナログセンサ装置が恒常的に設けられている。アナログセンサ装置の使用は、全体の設計の安定性を高めることを目的としている。コストを節約するために、センサ装置は比較的大まかなセンサ装置として構成される。なぜなら、移動する部品の非常に大まかな動きのみを監視する必要があるためである。
【0008】
このような構成は、トリムチルト装置のトリム運動及びピボット運動を監視するのにかなり適していることが証明されているが、まだ改善の余地がある。
【0009】
一方で、提供されるセンサ装置の数が多いと、形成されるトリムチルト装置のコストが増加し、その信頼性に悪影響を与えることが知られている。提供されるセンサ装置の1つが故障すると、トリムチルト装置を正しく制御できなくなるためである。これは、特に、海上における定期的に厳しい環境条件を考慮すると、かなりの関連性がある。有害な環境影響からより良好に保護されるために、センサ装置は、トリムチルト装置のそれぞれの油圧部品内に恒久的に設置される。しかし、同時に、これはそれぞれのセンサ装置にアクセスし、それを交換、点検又は保守することをより困難にする。さらに、それぞれのセンサ装置による正確な方向を決定するために、較正のためのリファレンスラン(reference run)が必要になることがよくある。これは、時間を費やし、ユーザにとって費用がかかる。最後に、アナログ測定信号出力は、干渉場等のような外部の影響を常に受けやすく、また、非常に限定された範囲にしか使用することができない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、上述の欠点の少なくともいくつかを克服する、上述の用途に特に適した油圧部品を提供することである。さらに、本発明の目的は、上述の欠点の少なくともいくつかが克服された、対応する調整システム及び車両を提供することである。
【発明の概要】
【0011】
これらの目的は、添付の独立請求項によって解決される。本発明の様々な対象の有利なさらなる実施形態は、添付の従属請求項から明らかである。
【0012】
第1の実施形態によれば、本発明は、車両用の油圧部品に関する。特に、油圧部品は、海上で用いるために構成されている。油圧部品は、少なくとも1つのピストンと、少なくとも1つのシリンダとを備える油圧シリンダピストンユニットとして構成される。ピストンは、シリンダ内に少なくとも1つの作動室を形成するために、シリンダ内に少なくとも部分的に収容される。ピストンは、シリンダに対して移動可能であり、この移動は、少なくとも1つの作動室の容積を変化させている。シリンダは、少なくとも1つの入口と、少なくとも1つの出口とを有し、少なくとも1つの作動室を更なる油圧部品に接続するように構成される。ピストンは、測定部を備えたピストンロッドを備え、測定部にわたって延在する螺旋状の磁場方向を有する磁気ロッドは、ピストンロッド内に設けられている。油圧部品は、センサ装置をさらに含み、センサ装置は、センサ装置が磁場方向を測定する走査領域を有する。センサ装置は、ピストンのストローク経路全体にわたって、ピストンロッドの磁気ロッドの少なくとも一部がセンサ装置の走査領域内に存在するように構成される。センサ装置は、センサ部と処理部とを有し、センサ部は、走査領域内の磁界方向に関する測定結果を処理部に送信するように構成される。処理ユニットは、センサ部によって得られた測定結果を処理し、出力するように構成される。
【0013】
センサ装置の走査領域内のピストンとシリンダとの間の相対的な位置の関数として変化する磁場方向を測定することは、ピストンとシリンダとの間の相対的な移動、結果的に油圧部品の移動状態を監視する特に信頼できる方法である。これは特に、測定値が非接触で記録されることに起因し、このことはセンサ装置のそれぞれの構成要素が外部環境の影響に対して、特に適切にカプセル化できる(encapsulated)ことを意味する。提供された処理ユニットでの測定結果の迅速な処理により、センサ装置の測定結果を受信し、利用する制御システムのようなシステムに油圧部品又はそれが出力する信号の簡単な適合を可能にする。この状況では、処理ユニットによって出力される信号は、油圧部品の要求に応じて、アナログ信号とデジタル信号の両方とすることができる。さらに、提供される処理ユニットは、測定結果の初期の前処理又は準備を可能にし、これは、それぞれの測定結果のその後の利用を大幅に容易にし、改善する。したがって、全体的な精度を3~10倍改善することができる。処理ユニットはまた、処理に必要なデータ、プログラム等が記憶されるか又は記憶される内部メモリを既に含むことができる。
【0014】
有利には、処理ユニットは、特に電圧、CAN信号又はパルス幅変調信号の形で、アナログ及び/又はデジタル信号を出力するように構成される。アナログ信号は、特に処理が容易である。デジタル信号は、特に用途が広く、アナログ信号よりもかなり多くの情報を含むことができる。パルス幅変調信号は、このようなデジタル信号を設計するための特に簡単で実用的な方法である。
【0015】
また、センサ装置が、提供される特定の磁気ロッドに合わせて較正されている場合にも有利である。これは、センサ装置と磁気ロッドとの様々な組合せにより、同じ相対移動に対して(特に、それぞれの値の範囲に関して)様々な測定結果を出力することができるので、特に有利である。これは、各磁性ロッドがある程度個別であるため、2本の磁性ロッドの構造が同じであるにも関わらず、異なる値が出力されるためである。この較正は、独自に整合させた一対のセンサ装置及び磁気ロッドを生成し、これは最終的に正確な結果を得ることができる。
【0016】
有利には、較正によって、最終的に処理ユニットによって測定結果が得られ、所定の範囲の値に及ぶ。例えば、出力された測定結果が電圧値の形である場合には、電圧範囲、すなわち測定結果が及ぶ範囲が増加する。これにより、測定結果のために利用可能な値の全範囲を完全に、又は少なくとも可能な限り完全に使用することが可能になる。これは、信号の増幅を効果的に表す。または、測定結果を圧縮して、指定した値の範囲内に完全に収めることできる。これにより、最高値を確実に解決し、ノイズを効果的に抑制することができる。例えば、いわゆる2点較正を、対応する較正に使用することができる。このような較正は、特に簡単で効果的である。
【0017】
センサ装置が特定の提供された磁気ロッドに関して線形化される場合には、特に有利である。これは、処理ユニットが予期されたように、処理ユニットによって出力される(ピストンロッドのストロークを示す)測定値が実質的に線形プロファイルを示すように、試験行程に基づいてプログラムされることを意味する。これにより、出力測定結果が、ヒステリシス効果や非線形性などの副次的影響が測定結果に及ぼす望ましくない影響を打ち消すことが可能になる。特に、線形化後、実際に処理部により出力される測定結果は、実質的に線形プロファイルを示している。このような線形プロファイルによる測定結果は、ピストンロッドの実際の一般的な直線的なストロークを再現するのに特に適している。
【0018】
好ましい実施形態では、処理ユニットは、特に9×11mmのサイズを有する回路基板の形態で提供される。このような回路基板は、特に省スペースの方法で配置することができ、比較的低い干渉場を有し、厳しい環境条件下でも非常に信頼性が高い。特に回路基板のサイズが小さいので、設置スペースを節約できる。
【0019】
好ましくは、センサ部は、磁気抵抗センサ及び/又はホールセンサを有する。このようなセンサの変形例は、特に信頼性があり、今日では比較的安価に入手することもできる。
【0020】
また、磁性ロッドの螺旋状の磁場方向が一定の螺旋ピッチを有する場合にも有利である。このような設計は、特に単純であり、したがって、安価に入手することができる。さらに、異常又は不正確な測定結果が得られた場合に必要となるエラー解析の場合には、ピストンロッドの磁性ロッドの磁化が正しいかどうかをチェックしたり、修正したりすることが特に容易である。最後に、このような配置では、センサ部のアナログ測定結果を相対的な位置に複雑に変換する必要がない。これらは直接的に関連しているからである。
【0021】
あるいは、磁気ロッドの螺旋状の磁場方向が変化させた、すなわち、一定ではない螺旋ピッチを有する可能性がある。換言すれば、螺旋状の磁場方向の螺旋ピッチは、磁性ロッドに沿って変化する。特に、螺旋ピッチは、連続的に又は不連続的に変化する。これにより、磁気ロッドに沿って様々なサブセクションを形成し、これらのサブセクションに関する情報に基づいて、ピストンとシリンダとの間の相対的な動きも監視又は検証することが可能になる。
【0022】
磁気ロッドが少なくとも1つの微細測定部及び1つの粗測定部を有する場合には、特に有利である。粗測定部は、微細測定部よりも大きく、特に微細測定部の2倍、5倍、又はさらには10倍の大きさである。磁性ロッドの螺旋状の磁場方向の螺旋ピッチは、粗測定部よりも微細測定部の方が小さく、特に、粗測定部の螺旋ピッチよりも0.75倍、0.5倍、又はさらには0.25倍小さい。これにより、シリンダに対するピストンの相対移動の全範囲を、異なる測定精度で異なるサブ範囲に分割することが可能となる。特に、磁気ロッドは、粗測定部を囲む2つの微細測定部を有する。下端位置の近傍におけるシリンダに対するピストンの相対運動を特に細かく監視することができ、その結果、対応する精度で制御することもできるということを意味する。これにより、ピストンが下端位置に当たらないようにすることができる。さらに、油圧部品がトリムチルト装置のチルト油圧部品として使用される場合、油圧部品は特に、一般にピストンの下端位置に隣接するトリミング範囲において、特に正確に制御される。これは、トリミング工程にとって特に重要である。一方、ピボット運動の間は、粗測定部に沿った大雑把なモニタリングで十分である。これは最終的に、シリンダに対するピストンの相対的な動きを、特に迅速に監視する結果となる。
【0023】
有利には、センサ装置がシリンダのハウジング、特にシリンダのハウジングの上端に固定され、ピストンを少なくとも部分的に取り囲むように構成されたC字状の支持体をさらに備える。特に、支持体は、センサ部の走査領域がC字状の支持体内部に位置するように、また、処理部がセンサ装置の測定に極力影響を与えないように、センサ部及び処理部が設けられた受信領域を有する。
【0024】
特に、支持体は、センサ装置の走査領域内の磁界を歪ませたり、変形させたり、及び/又は弱めたりしない材料を有することができる。支持体のC形状は、それが油圧部品のピストンの周りで把持することを可能にし、従って、特に信頼性のある方法でセンサ装置をシリンダに取り付けることを可能にする。センサ部及び処理部を支持体の受信領域内に設けることによって、センサ部及び処理部は、特に環境上の悪影響から効率的に保護される。これは、特に頑丈で信頼性のある構成を提供する。
【0025】
このような実施形態において、支持体は、少なくとも1つの取付部材が案内される少なくとも1つの取付口を有し、取付部材は支持体をハウジングに固定するために、シリンダのハウジングに形成された少なくとも1つの対応する係合領域に係合することが好ましい。これにより、支持体、ひいてはセンサ装置をシリンダのハウジングに、特に簡単で信頼性のある方法で固定することが可能となる。さらに、これにより、特に不具合が検出された場合には、シリンダからセンサ部及び処理部と共に支持体の取外し及び交換が容易になる。
【0026】
好ましくは、油圧部品を海上で用いるために、車両の油圧調整システムのためのチルト油圧部品として構成される。このような油圧部品は、対応する調節システムのチルト油圧部品として使用することができることを意味する。
【0027】
本発明の第2の実施形態は車両、特に船舶用の油圧調整システムに関し、油圧調整システムは、上述した油圧部品のうちの少なくとも1つを含む。このような実施形態では、それぞれの油圧部品の利点が対応する油圧調整システムに移される。
【0028】
好ましくは、油圧調整システムは、トリムチルト装置である。特に、このようなシステムでは、トリムの動きはまた、チルトユニットのピストンの動きを引き起こす。その結果、チルト油圧部品のピボット運動に基づいて、トリム運動も監視することができる。したがって、傾斜油圧部品のみを、上述の方法で設ける必要がある。他方、トリム油圧部品はセンサ装置なしで形成することができ、これは油圧調整システム全体の信頼性を高め、そのコストを低減する。
【0029】
本発明の第3の実施形態は、特に海上で用いられる車両に関し、車両は、上述の油圧調整システムの少なくとも1つを備える。これにより、対応する車両にそれぞれの油圧調整システムの利点を伝えることができる。
【0030】
有利な実施形態では、車両がジェットスキー又はボート、特に船外機を有するスポーツボートである。このような実施形態では、それぞれの油圧部品又は油圧調整システムの利点が特に重量がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明の好ましい実施形態を、添付の図面を参照してより詳細に説明する。
【
図1】例示的な実施形態による油圧部品の斜視図を示す。
【
図2】シリンダが設けられていない
図1の油圧部品の斜視図を示す。
【
図3】
図2の油圧部品の斜視図を示し、油圧部品の他の部品は省略されている。
【
図4】
図3の油圧部品の斜視図を示し、ここではピストンロッドのいくつかの追加された部品は省略されている。
【
図5】
図4の油圧部品の斜視図であり、C字状の支持体及び対応する取付部材は省略されている。
【
図6】上述した図のセンサ装置の斜視図を下から示した図である。
【
図7】螺旋状の磁場方向を有するピストンロッドを含む例示的な油圧部品の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1に示すように、本発明の例示的な実施形態によれば、油圧部品10はピストン20とシリンダ30とを含み、これらは共に油圧シリンダピストンユニットを形成する。また、油圧部品10は、センサ装置40を備えている。センサ装置40は、ピストン20がシリンダ30から突出するシリンダ30のハウジング34の端部に取り付けられている。ピストン20は、ボート(図示せず)の船外機のような、移動すべき部品に機械的に取り付けられるように構成されたピストンヘッド22を含む。シリンダ30は、ボート(図示せず)の船体のような支持部品に機械的に取り付けられるようになっているシリンダベース32を含んでいる。ここで、ピストンヘッド22及びシリンダベース32の両方にはそれぞれピボット軸受22a,32aが設けられている。これらのピボット軸受22a,32aは、それに機械的に結合されたそれぞれの部品に対する油圧部品の回転運動を可能にする。さらに、シリンダ30には、ここでは、組み合わされた出入り口部36が設けられている。組み合わされた出入り口部36は、ポンプユニット(図示せず)からシリンダ30内に形成された作動室に作動液を供給するために、又は作動室から作動液を排出するために使用される。ここでは組み合わされた出入り口部36が設けられているが、2つの別個のポートが設けられてもよいことは勿論である。
【0033】
図2では、
図1の油圧部品10が油圧部品10の内部構造を図示するために、シリンダ30が省略して示されている。
【0034】
ピストンヘッド22に加えて、ピストン20は、ピストンロッド24、ピストン端部26、及びピストンロッド24に対して移動可能に設けられた固定要素28も含む。
【0035】
油圧部品10を組み立てた状態では、作動室は、シリンダ30のハウジング34、シリンダベース32、及びピストン端部26によって閉じ込められる。その結果、組み合わされた出入り口部36を通って作動室に作動液が導入されると、ピストン20又はピストンロッド24が、シリンダ30から上昇又は延長する。作動液が作動室から排出される場合、ピストン20又はピストンロッド24をシリンダ30内に下降又は後退させる結果となる。固定要素28は、シリンダ30上のピストン20を案内し、ピストン20とシリンダ30との間の軸方向相対運動を安定させる役割を果たす。
【0036】
油圧部品10のより正確な作動を可能にするために、固定要素28は、シリンダ30のハウジング34、ピストン端部26及び固定要素28の間に追加の作動室を形成するためのシール要素としてさらに形成することができる。この場合、シリンダには、この追加の作動室を、作動油の供給及び廃棄するユニットに接続するための追加の出入り口部(図示せず)を有する。次に、追加の作動室には、ピストン20とシリンダ30との間の相対的な動きをより正確かつ安定して制御することができるように、作動液が常に供給されるか、又は一次作動室とは反対方向の油圧作動油から開放される。
【0037】
図3は、
図1の油圧部品10を示しており、シリンダ30の他にピストン端部26及び固定要素28をさらに省略し、センサ装置40が明瞭に見えるようにしている。
【0038】
ここで明らかに分かるように、本実施形態では、センサ装置40がC字状の支持体42を有する。これは、ここでは2つの取付口42a,42bを備えている。取付口42a,42bは、段付きスルーホールとして形成され、対応する取付部材50,52を受け入れるのに適している。ここでは図示していないが、シリンダ30のハウジング34は、その上端に2つの係合部を有する。これらは、取付部材50,52を受け入れるようになっており、それによって、センサ装置40をシリンダ30のハウジング34に取り外し可能に固定する。したがって、シリンダ30に対するピストン20の相対移動も同時に、センサ装置40に対するピストン20又はピストンロッド24の相対移動を引き起こす。ここで、取付部材50,52はボルトねじとして構成されるが、センサ装置40をシリンダ30に固定するための他の設計も考えられるのであろう。
【0039】
図4に示すように、ピストンロッド24は、ピストンロッド24の長手方向に沿って磁気ロッド24aが設けられた凹部を有する。磁気ロッド24aは、磁気ロッド24aの長手方向に略垂直な平面内に常に延び、磁気ロッド24aの長手方向に沿って磁気ロッド24aの周りを走る螺旋状の磁場方向を有する。
図7に、ピストン20のピストンロッド24に圧入された、螺旋状の磁場方向を有する磁気ロッド(図示せず)を有するピストン20と、対応するシリンダ30とを有する油圧部品10の例を示す。この磁気ロッド24aとそれによって生成される磁界は、ピストンロッド24の測定部を規定する。
【0040】
ピストンロッド24から延びる矢印によって
図7に示されるように、磁気ロッド24aの螺旋状の磁場方向、及びその結果としてピストンロッド24の螺旋ピッチは、測定部にわたって一定であってもよい。
【0041】
あるいは、磁気ロッド24a、結果的にはピストンロッド24の螺旋状の磁場方向の螺旋ピッチは、特に連続的又は不連続的に、測定部にわたって変化してもよい。この場合、磁気ロッド24aが少なくとも1つの範囲、特に2つの範囲、すなわち少なくとも1つの微細測定部と粗測定部とに分割されると特に有利である。この場合、粗測定部は、提供された微細測定部の各々よりも大きく、特に著しく大きくなければならない。(1つ又は複数の)微細測定部では、螺旋状の磁場方向が粗測定部よりも小さい螺旋ピッチを有する。
【0042】
これにより、特定の移動範囲におけるシリンダ30に対するピストン20又は磁気ロッド24aの移動を特に詳細にモニタリングすることができる。
【0043】
また、ここでは、C字状の支持体に設けられた2本の位置合わせピン42c,42dを参照する。これらは、センサ装置40がシリンダ30に取り付けられたときに、シリンダ30のハウジング34に設けられた対応する取付開口部に挿入される役割を果たす。これにより、シリンダ30にセンサ装置40を取付部材50,52で取り付ける前に、シリンダ30に対してセンサ装置40を適切に位置合わせすることが容易になる。
【0044】
また、
図5については、
図4と比較して、支持体42及び取付部材50,52を省略している。これにより、センサ装置40及びこれに接続された処理部46に設けられたセンサ部44を識別することができる。センサ部44は、特定の走査領域における磁界方向を測定するように適合されている。この目的のために、センサ部44は、例えば、磁気抵抗センサ及び/又はホールセンサを有する。この場合、センサ部44は、ピストンロッド24内の磁気ロッド24aがセンサ部44の走査領域内に少なくとも部分的に存在し、シリンダ30に対するピストン20の全ストローク移動にわたってセンサ装置40の走査領域内に存在するように配置される。
【0045】
シリンダ30に対するピストン20の移動のために、磁場の方向は、センサ部44の走査領域内の磁気ロッド24aの特定の磁化を介して変化する。これは測定結果を介してセンサ部44によって記録され、センサ部44はそれに接続された処理部46に直接送信する。
【0046】
ここで、特に小型の回路基板の形態で構成される処理部46は、センサ部44の測定結果を受信して処理し、次いでここでケーブル48を介して出力するように構成される。この実施形態では、回路基板のサイズはわずか9×11mmであるが、可能であればさらに小さくすることができる。有線出力に加えて、無線のバリエーションも当然考えられる。しかし、今回の場合、ケーブル48は、処理された測定結果を出力するだけでなく、処理部46に電力を供給するためにも使用される。特に有利な実施形態では、シリンダ30のハウジング34がケーブル48がシリンダ30に沿って案内されるケーブルダクト(図示せず)を有することができる。これは、特に強固であるだけでなく、特にスペースを節約する全体構成にもつながる。
【0047】
特に、処理部46は、センサ部44から得られた測定結果をアナログ及び/又はデジタル信号として出力する。適当な信号構成の例は、電圧、CAN信号及び/又はパルス幅変調信号である。
【0048】
さらに、センサ装置40は、特別に設けられた磁気ロッド24aに対して較正される。特に、これは、期待されるように処理部46によって出力される全ての測定結果が、所定の値の範囲に及ぶことを保証する。換言すれば、測定結果は、利用可能な値の全範囲にわたって広がるように引き伸ばされ又は圧縮される。これにより、伸長又は圧縮のどちらが発生するかに応じて、信号の増幅又はノイズの低減が効果的に行われる。特に、この較正は、2点の較正の手段によって行うことができる。このような較正は、特に単純かつ機能的である。
【0049】
これに代えて、またはこれに加えて、センサ装置40は、設けられた特定の磁気ロッド24aに対して線形化されてもよい。換言すれば、処理ユニットは、これらが特別に意図された磁気ロッド24aに対して可能な限り直線的なプロファイルを有するように、測定値を適応させるようにプログラムされる。特に、期待通りに処理部によって出力された測定値は、線形プロファイルを有する。これにより、ヒステリシス、非線形性などの副作用の望ましくない影響が打ち消される。これに対応して出力された測定結果は特に分析と処理が容易である。
【0050】
較正と線形化の両方で、一対のセンサ装置と磁気ロッドの一致するペアが生成され、これは特に良好な測定結果をもたらす。必要なステップは、通常、工場で、つまり油圧部品の送達の前に実行される。
【0051】
特に
図6に示すように、センサ部44及び処理部46は、支持体42の内部、特に下方の受け入れ領域に設けられている。したがって、油圧部品10を組み立てた状態では、高感度のセンサ部44及び高感度の処理部46が、厳しい環境影響から特に良好に保護される。この保護をさらに改善するために、センサ部44及び処理部46は、適切な充填化合物によって取り囲まれてもよい。この充填化合物は、センサ部44、処理部46、ケーブル48及び支持体42の間の接着剤としても同時に働くことができる。
【0052】
この実施形態を介して、外部環境の影響に特に耐性があり、同時に、シリンダ30に対するピストン20の相対的な動きを特に正確かつ確実に監視することができる油圧部品10が得られる。
【0053】
これにより、このような油圧部品10は、海上車両の油圧調整システム、例えば船外機を備えたスポーツボートのトリムチルト装置のためのチルト油圧部品として特に好適となる。このような用途では、別個のセンサ装置を持たない油圧部品をトリム油圧部品に有利に使用することができる。
【0054】
上述したように、本発明は更に、対応する油圧調整システム及びこのような油圧調整システムを有する車両に関する。
【符号の説明】
【0055】
10 油圧部品、20 ピストン、22 ピストンヘッド、22a ピボット軸受、24 ピストンロッド、24a 磁気ロッド、26 ピストン端部、28 固定要素、30 シリンダ、32 シリンダベース、32a ピボット軸受、34 ハウジング、36 出入り口部、40 センサ装置、42 支持体、42a,42b 取付口、42c,42d 位置合わせピン、44 センサ部、46 処理部、48 ケーブル、50,52 取付部材。