(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】二軸延伸フィルムの高速製造のためのポリマー、それから製造されたフィルム及び物品
(51)【国際特許分類】
C08F 10/06 20060101AFI20230120BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230120BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20230120BHJP
C08K 5/524 20060101ALI20230120BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20230120BHJP
C08K 5/109 20060101ALI20230120BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
C08F10/06
B32B27/32 Z
C08L23/12
C08K5/524
C08K5/13
C08K5/109
C08J5/18 CES
(21)【出願番号】P 2021538031
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(86)【国際出願番号】 RU2018000904
(87)【国際公開番号】W WO2020139119
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】513322589
【氏名又は名称】パブリック・ジョイント・ストック・カンパニー・“シブール・ホールディング”
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ・アンドレエヴナ・サマロヴァ
(72)【発明者】
【氏名】リュドミラ・ボリソヴナ・シャバリナ
(72)【発明者】
【氏名】イリナ・ゲンナジエヴナ・リジコヴァ
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-030008(JP,A)
【文献】特開平10-158319(JP,A)
【文献】特開2001-329011(JP,A)
【文献】特開平02-256633(JP,A)
【文献】特開2014-024979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/00 - 10/14
B32B 27/32
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸フィルムを製造するためのポリプロピレンであって、
前記ポリプロピレンが、以下の特性:
- ポリマー中の冷キシレン可溶性画分(XCS)の量が、4.0~6.0質量%の範囲内であり、ここで、50,000g/モル以上の分子量を有する冷キシレン可溶性画分の割合は、少なくとも60質量%である一方、1,500~50,000g/モルの範囲の分子量を有する冷キシレン可溶性画分の割合は40質量%を超えないこと;及び
- ポリマー中のへプタン可溶性画分(HS)の量が、2.5~3.5質量%の範囲内であり、ここで、50,000g/モル以上の分子量を有するへプタン可溶性画分の割合は、少なくとも60質量%である一方、1,500~50,000g/モルの範囲の分子量を有するへプタン可溶性画分の割合は40質量%を超えないこと
(ここで、キシレン可溶性画分(XCS)及びヘプタン可溶性画分(HS)の分子量は、ISO16014-4-2012:低温法に準拠した低温GPC法によって測定した値である)
を有する、ポリプロピレン。
【請求項2】
4~7の分子量分布を有する、請求項1に記載のポリプロピレン。
【請求項3】
5~7の分子量分布を有する、請求項2に記載のポリプロピレン。
【請求項4】
前記ポリプロピレンが、87~89%のアイソタクチックペンタッド(mmmm)分率を有する、請求項1に記載のポリプロピレン。
【請求項5】
前記ポリプロピレンが、少なくとも1つの抗酸化剤及び少なくとも1つの酸吸収剤を含む安定剤を含有する、請求項1に記載のポリプロピレン。
【請求項6】
前記ポリプロピレンが、安定剤として、少なくとも1つのフェノール系抗酸化剤及び少なくとも1つの亜リン酸エステル抗酸化剤を含有する、請求項5に記載のポリプロピレン。
【請求項7】
前記ポリプロピレンが、酸吸収剤としてハイドロタルサイトを含有する、請求項5又は6に記載のポリプロピレン。
【請求項8】
前記ポリプロピレンが、ポリプロピレン1トン当たり1~3kgの安定剤、
又はポリプロピレン1トン当たり1.2~2.5kgの安定剤、
又はポリプロピレン1トン当たり1.2~1.5kgの安定剤を含有する、請求項5に記載のポリプロピレン。
【請求項9】
前記ポリプロピレンが、
0質量%以上0.010質量%未満のステアリン酸カルシウムを
含む、請求項1に記載のポリプロピレン。
【請求項10】
冷キシレン可溶性画分(XCS)の量が、4.5~5.5質量%の範囲内である、請求項1に記載のポリプロピレン。
【請求項11】
50,000g/モル以上の分子量を有する冷キシレン可溶性画分(XCS)の割合が、少なくとも65質量
%、
又は少なくとも70質量%である、請求項1に記載のポリプロピレン。
【請求項12】
1,500~50,000g/モルの分子量を有するへプタン可溶性画分(HS)の割合が、25質量
%を超えず、
又は15質量%を超えない、請求項1に記載のポリプロピレン。
【請求項13】
50,000g/モル以上の分子量を有するへプタン可溶性画分(HS)の割合が、少なくとも65質量
%、
又は少なくとも70質量%である、請求項1に記載のポリプロピレン。
【請求項14】
ポリプロピレンを含む少なくとも1つの層を含むフィルムであって、
前記ポリプロピレンが、以下の特性:
- ポリマー中の冷キシレン可溶性画分(XCS)の量が、4.0~6.0質量%の範囲内であり、ここで、50,000g/モル以上の分子量を有する冷キシレン可溶性画分の割合は、少なくとも60質量%である一方、1,500~50,000g/モルの範囲の分子量を有する冷キシレン可溶性画分の割合は40質量%を超えないことと;
- ポリマー中のへプタン可溶性画分(HS)の量が、2.5~3.5質量%の範囲内であり、ここで、50,000g/モル以上の分子量を有するへプタン可溶性画分の割合は、少なくとも60質量%である一方、1,500~50,000g/モルの範囲の分子量を有するへプタン可溶性画分の割合は40質量%を超えないこと
(ここで、キシレン可溶性画分(XCS)及びヘプタン可溶性画分(HS)の分子量は、ISO16014-4-2012:低温法に準拠した低温GPC法によって測定した値である)
を有する、フィルム。
【請求項15】
前記ポリプロピレンが、4~7の分子量分布を有する、請求項14に記載のフィルム。
【請求項16】
前記ポリプロピレンが、5~7の分子量分布を有する、請求項15に記載のフィルム。
【請求項17】
前記ポリプロピレンが、87~89%のアイソタクチックペンタッド(mmmm)分率を有する、請求項14に記載のフィルム。
【請求項18】
前記ポリプロピレンが、少なくとも1つの抗酸化剤及び少なくとも1つの酸吸収剤を含む安定剤を含有する、請求項14に記載のフィルム。
【請求項19】
前記ポリプロピレンが、前記安定剤として、少なくとも1つのフェノール系抗酸化剤及び少なくとも1つの亜リン酸エステル抗酸化剤を含有する、請求項18に記載のフィルム。
【請求項20】
前記ポリプロピレンが、酸吸収剤としてハイドロタルサイトを含有する、請求項18又は19に記載のフィルム。
【請求項21】
前記ポリプロピレンが、ポリプロピレン1トン当たり1~3kg、
又はポリプロピレン1トン当たり1.2~2.5kg、
又はポリプロピレン1トン当たり1.2~1.5kgの安定剤を含有する、請求項17に記載のフィルム。
【請求項22】
前記ポリプロピレンが、
0質量%以上0.010質量%未満のステアリン酸カルシウムを
含む、請求項14に記載のフィルム。
【請求項23】
前記ポリプロピレン中の冷キシレン可溶性画分の量が、4.5~5.5質量%の範囲内である、請求項14に記載のフィルム。
【請求項24】
50,000g/モル以上の分子量を有する冷キシレン可溶性画分の割合が、少なくとも65質量
%、
又は少なくとも70質量%である、請求項14に記載のフィルム。
【請求項25】
1,500~50,000g/モルの分子量を有するへプタン可溶性画分の割合が、25質量%を超えず、
又は15質量%を超えない、請求項14に記載のフィルム。
【請求項26】
前記フィルムが、共押出しによって製造される、請求項14に記載のフィルム。
【請求項27】
前記フィルムが、二軸延伸フィルムである、請求項14に記載のフィルム。
【請求項28】
請求項14~27のいずれか一項に記載のフィルムの、物品の製造のための使用。
【請求項29】
請求項14~27のいずれか一項に記載のフィルムを含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、特に二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムを調製するためのポリプロピレンに関する。特許請求したポリプロピレンの構造的特性により、プレートアウト形成をすることなく、またフィルム製造プロセスを容易にすることが知られている滑り添加剤(例えば、金属ステアレート)を使用することなく、BOPPフィルムを調製するプロセスの速度を450m/分以上にまで高めることができる。本発明は、その少なくとも1つの層がポリプロピレンを含むBOPPフィルムにも関する。本発明によるフィルムは、食品の包装、粘着テープ、ラベルなどを含む包装を製造するのに適している。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは、その組成や製造方法に依存して様々に特性が変化する可能性があるため、高品質の柔軟な包装を製造するための一般的な材料である。特に、二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムは、食品及び非食品製品の包装の製造、個別又は複数ユニットの包装に使用される。ここで、これらの包装は、透明化、金属化、マット化、又は(フィラーの色に応じて)着色化され得る。加えて、BOPPフィルムは、ラベル、粘着テープ等の製造に使用される。
【0003】
原則として、BOPPフィルムの主成分は、87~89%のアイソタクチック性(isotacticity)を有するアイソタクチックポリプロピレンである(アイソタクチック性は、C13NMR分析によるアイソタクチックペンタッド[mmmm]分率によって決定される。)。アイソタクチック高分子の構造に特定の数の欠陥が存在することが、ポリマーのより高い配向能力に寄与する。ポリプロピレンのより高い配向能力は、次に、プロセス速度を上げ、フィルム生産量を増やすことを可能にする。
【0004】
ポリマー中のキシレン可溶性画分の増加が、ポリマーの配向能力の改善をもたらすことも知られている。しかし、同時に、先行技術では、そのようなポリマーの加工プロセス中に多数の低分子量画分が放出され、次いで、それらの燃焼、及びそれらが装置上に堆積されてプレートアウトを形成することがもたらされることが知られている。 後者は特に、クリーニングのための頻繁な機器の停止につながり、それが機器の稼働停止期間の増加をもたらす。
【0005】
欧州特許第2143116号から、耐熱フィルムが知られている。そのフィルムの少なくとも1つの層は、0.5~15g/10分のメルトフローレート及び3.5質量%未満の冷キシレン可溶性画分値;0.5~0.85の範囲のX線回折によって決定される結晶化度及び94質量%を超えるキシレン及びヘプタン不溶性画分含有率を有するポリプロピレンを含有する。このフィルムはさらに、異相統計共重合体(インパクト共重合体)を含有する第2の層を少なくとも含み、この異相統計共重合体は、0.5~15.0g/10分のメルトフローレート及び120~170℃の融点を有する。このフィルムは、冷キシレン可溶性(XCS)画分の含有量が少ないため、高い引裂強度、衝撃強度、及び耐パンク性を特徴とする。欧州特許第2143116号で提案されているこの解決法の欠点は、冷キシレン可溶性画分の含有量が少ないため、ポリプロピレンのプロセス速度が遅いことである。
【0006】
欧州特許第0925912号から、高金属接着フィルム及び金属化フィルムが知られている。そのコア層は、88%以上、好ましくは90%以上のアイソタクチックペンタッド[mmmm]分率を有し、Mw/Mnが2~6の範囲である、アイソタクチックポリプロピレンでできている。しかし、同時に、アイソタクチックポリプロピレンの他の特性(特定の分子量を有する画分及びキシレン及びヘプタンに溶解性を有する画分の含有率)は開示されていない。プロセス速度も特定されていない。
【0007】
また、欧州特許第0831994号から、BOPPフィルムを製造する方法が知られている。このフィルムのコア層は、少なくとも10%のアタクチック度を有するポリプロピレンを含有するか、又は、5%未満のアタクチック度を有するアイソタクチックポリマーと、アタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、エチレン-プロピレンコポリマー、プロピレンターポリマー、ポリブテン、又は線状低密度ポリエチレンポリマーとの混合物を含むポリマー組成物を含有するかのいずれかである。10%以上のアタクチック度を有するポリプロピレン又はポリマー組成物を使用することにより、高い引裂き抵抗を有するBOPPフィルムを得ることができる。アイソタクチックポリプロピレンの特性に対するその他の要求は全くない。したがって、特定の分子量を有する画分並びにキシレン及びヘプタンに特定の溶解度を有する画分の含有率は、フィルムの加工プロセスにおいて使用するためのポリプロピレンの適合性を決定するための重要な指標とは見なされていない。
【0008】
したがって、規制文書に従って要求される程度のフィルム強度特性を維持しながら、少なくとも450m/分の速度での加工プロセス(processing)を可能にする、BOPPフィルムの製造で使用するためのポリプロピレンの構造的特性の完全な組み合わせについては、未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許第2143116号
【文献】欧州特許第0925912号
【文献】欧州特許第0831994号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、BOPPフィルムを得るためにポリプロピレンの延伸(二軸配向)プロセスの効率を高めることを可能にするポリプロピレンの構造的特性の組み合わせを決定することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の技術的結果は、ポリプロピレンであって、その構造的特性により、少なくとも450m/分の速度でフィルムを加工処理することを可能にするポリプロピレンを、フィルム組成物に使用することによる、BOPPフィルムを得るプロセスの生産性の向上にある。
【0012】
本発明の技術的結果は、フィルムの製造プロセスにおいて、ダイ上にプレートアウトが形成されないことも含む。
【0013】
さらなる技術的結果は、透明、マット、充填、汎用等の幅広いフィルムを得る可能性、及び、金属化層、印刷などの層状コーティングを適用する可能性にある。
【0014】
本発明の課題は、ポリプロピレンであって、以下の特性:
- ポリマー中の冷キシレン可溶性画分(XCS)の量が、4.0~6.0質量%の範囲内であり、ここで、50,000g/モル以上の分子量を有する冷キシレン可溶性画分の割合は、少なくとも60質量%である一方、1,500~50,000g/モルの範囲の分子量を有する冷キシレン可溶性画分の割合は40質量%を超えないこと;及び
- ポリマー中のへプタン可溶性画分(HS)の量が、2.5~3.5質量%の範囲内であり、ここで、50,000g/モル以上の分子量を有するへプタン可溶性画分の割合は、少なくとも60質量%である一方、1,500~50,000g/モルの範囲の分子量を有するへプタン可溶性画分の割合は40質量%を超えないこと
を有するポリプロピレンを、フィルムに導入することによって解決され、その技術的結果が達成された。
【0015】
本発明者らは、特定の分子量値によって特徴付けられるキシレン可溶性及びヘプタン可溶性画分の特定の含有率が、二軸延伸フィルムを製造するためのプロセス速度を増加させることを、ポリプロピレンの配向の改善することによって可能にすることを見出した。何らの特定の理論に拘束されることも望まないが、本発明者らは、成形ダイに対するプレートアウト形成の増加の悪影響を低減し、ポリプロピレンの配向能力を保持するために、ポリプロピレンが、特定の含有率の低分子量(1,500~50,000g/モル)成分及び高分子量(50,000g/モル以上)成分を有するXSおよびHS画分を特定の量で含有していなければならないと考えている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明によるポリプロピレンから調製したBOPPフィルムを示す。
【
図2】実施例3で調製したBOPPフィルムを示す。
【
図3】実施例4で調製したBOPPフィルムを示す。
【
図4】実施例5で調製したBOPPフィルムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下は、本発明の様々な態様及び実施態様の詳細な説明である。
【0018】
フィルムの調製に使用されることとなるポリプロピレンは、以下の特性:
- 冷キシレン可溶性画分(以下、「XCS」と称する。)の含有率が、2.5~4.0質量%の範囲内、好ましくは4.0~6.0質量%の範囲内であること;及び
- へプタン可溶性画分(以下、「HS」と称する。)の含有率が、2.5~3.5質量%の範囲内であること
によって特徴付けられる。
【0019】
BOPPフィルムの製造に使用されることとなる特許請求の範囲に記載のポリプロピレンの独特な特性は、XCS画分の分子量が主として1,500~50,000g/モルの範囲であるのに対し、50,000g/モルを超える分子量を有するXCS画分の量が40質量%を超えない、好ましくは30質量%を超えない、より好ましくは20質量%を超えないことである。
【0020】
BOPPフィルムの製造に使用される特許請求の範囲に記載のポリプロピレンの別の本質的な特性は、50,000g/モルを超える分子量を有するHS画分の割合が少なくとも60質量%、好ましくは少なくとも65質量%、最も好ましくは、少なくとも70質量%であることであり、1,500~50,000g/モルの分子量を有するHS画分の割合は、40質量%を超えない、好ましくは25質量%を超えない、より好ましくは15質量%を超えないことである。
【0021】
へプタン可溶性及びキシレン可溶性画分において(50,000g/モルを超えない分子量を有する)低分子量成分の割合が増加すると、フィルムの機械物理的特性の低下、並びに、フィルムプロセス中の、紡糸口金上へのプレートアウトの形成の増加がもたらされる。
【0022】
好ましくは、ポリプロピレンの分子量分布は4~7であり、より好ましくは5~7である。
【0023】
好ましくは、ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド[mmmm]の含有率は、87~89%である。
【0024】
本発明は、高いプロセス速度(少なくとも450m/分)でBOPPフィルムを調製するためのポリマーを提供し、これは、一般式MgCl2/TiCl4/D1/D2/の担持されたチーグラー・ナッタチタン-マグネシウム触媒を使用して得ることができる。式中、テトラハロゲン化チタンがハロゲン化マグネシウムに担持されており、D1は内部電子供与体、D2は外部電子供与体、トリエチルアルミニウム(TEA)は助触媒である。
【0025】
D1として、チーグラー・ナッタ触媒の供与体(ドナー)として従来技術から知られている任意の化合物を使用する。この化合物は、以下の官能基の少なくとも1つを含む:アルコール、アミノ、アミド、又はエステル基。内部ドナーの具体例には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及びブタノール;ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、及びトリエチルアミン;ホルムアミド及びアセトアミド、C1-C20安息香酸アルキルエステル、脂肪族モノカルボン酸のC1-C8アルキルエステル、1,8-ナフチルジエステル;マロン酸エステル、コハク酸エステル、及びグルタル酸エステルが含まれるが、これらに限定されない。しかし、本発明では、第4世代のチーグラー・ナッタ触媒(ドナーとしてフタル酸エステル化合物を含む)、及びフルオレン化合物に代表される内部電子供与体を使用することは推奨されない。
【0026】
D2として、次の式:RnSi(OR)4-nで表される有機ケイ素化合物を使用することができる。式中、Rは炭化水素ラジカル、ORはアルコキシ基、Rは炭化水素基、nは0<n<4の整数である。本発明で使用することができるこの式で表される有機ケイ素化合物の例には、以下が含まれる:ジイソプロピルジメトキシシラン、tert-ブチルメチルジメトキシシラン、tert-ブチルメチルジエトキシシラン、tertアミルメチルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、tert-ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、2-メチルシクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、トリシクロペンチルメトキシシラン、ジシクロペンチルメチルメトキシシラン、ジシクロペンチルエチルメトキシシラン、及びシクロペンチルジメチルエトキシシラン。
【0027】
ポリプロピレンの特性(キシレン可溶性画分及びヘプタン可溶性画分の割合及びそれらの分子量分布)が、触媒系に用いられる外部電子供与体の性質及び量の両方に依存することは当業者に知られている。好ましくは、外部電子供与体を、2~180の範囲の助触媒(Co)の外部電子供与体(ED)に対するモル比[Co/ED比]で添加する。
【0028】
記述した触媒及びその調製方法のより具体的な例は、欧州特許第2221320号、欧州特許第2638080号、欧州特許第2951215号に開示されている。
【0029】
本発明のポリプロピレンは、上述した触媒の存在下でのプロピレンの気相又は懸濁重合によって得ることができる。使用する重合方法のいずれにおいても、触媒系の構成要素(触媒、助触媒、及び場合により外部電子供与体)を、それらを重合反応器に添加する前に互いに接触させることができる。助触媒として、アルキル-Al化合物、例えば、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアミンアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム等を使用することができる。
【0030】
チーグラー・ナッタ触媒を使用する重合は、一般に、50~80℃の範囲、好ましくは65~75℃の範囲の温度、及び0.1~5.0MPaの範囲、好ましくは0.5~3.5MPaの範囲の操作圧力で実施される。
【0031】
好ましくは、製造されたフィルムの物理機械的特性を維持するために、ASTM D 1238に準拠して決定される、使用されるポリマーのメルトフローインデックス(MFI230℃/2.16kg)は、少なくとも3g/10分であるべきである。
【0032】
特に、ポリプロピレンは、例えば、米国特許第8178633号、欧州特許第2726517号等に記載されている方法に従って、調製することができる。
【0033】
例として挙げたポリプロピレンのこれらの製造方法により、上記の特性の達成が可能になるが、これらの方法だけには限定されない。特定された特性を有するポリプロピレンは、従来技術から知られている他の方法で得ることができる。
【0034】
好ましくは、ポリプロピレンは、抗酸化剤及び酸吸収剤の混合物を少なくとも含む安定剤を含む。従来技術から知られている任意の抗酸化剤を抗酸化剤として使用することができ、好ましくは亜リン酸エステル抗酸化剤とフェノール抗酸化剤との混合物を使用する。酸吸収剤として、ステアリン酸金属のクラスからの吸収剤を除く、従来技術から知られている任意の酸吸収剤を使用することができる。さらに、他の既知の添加剤をさらに使用して、ポリプロピレンがプロセス中及び動作中にその特性を保持できるようにすることができる。ポリプロピレンに添加される安定剤の量は、ポリプロピレン1トン当たり1~3kg、好ましくはポリプロピレン1トン当たり1.2~2.5kg、より好ましくはポリプロピレン1トン当たり1.2~1.5kgである。
【0035】
本発明によるポリプロピレンは、ステアリン酸カルシウムを実質的に含まない。ステアリン酸カルシウムは、酸と相互作用するとステアリン酸に転化する。ステアリン酸はフィルムの表面に容易に移動し、金属化フィルムの製造を不可能にする。「実質的に含まない」という表現は、0.010質量%未満、好ましくは0.005質量%未満、最も好ましくは0.001質量%未満の含有率を意味する。
【0036】
特定したポリプロピレンは、従来技術から知られている任意の配合物の任意のフィルム層の、主要な成分としても追加の成分としても使用することができる。フィルムの正確な構造(層の数及び順序)及び層の内容物は、フィルム及びそれで作られた製品に対する要求次第である。
【0037】
本発明のポリプロピレンに加えて、フィルムは、他のポリオレフィン並びに官能性ポリマーを含み得る。ポリオレフィンとして、α-オレフィンのコポリマー及びターポリマー、具体的には、プロピレン及びエチレンのコポリマー、プロピレン及びブテンのコポリマー、プロピレン、エチレン及びブテンのターポリマー等が使用される。以下の化合物が官能性ポリマーとして使用される:エチレンと、ビニルアルコール、ポリビニリデンクロライドとのコポリマー;ビニリデンクロライド、ポリエステル、ポリアミド(フィルムに防ガス及び/又は防臭特性を付与するため)のコポリマー;エチレン及びα-オレフィンのインターポリマー(接着剤を使用しない紙-フィルムのラミネーション用);無水マレイン酸ホモポリプロピレン(共押出フィルムにおける接着層)等。
【0038】
本発明の第1の実施態様において、フィルムは、粘着テープ等のベースとしての包装紙の製造を目的とし、各層が上記の特性を有するポリプロピレンと、帯電防止物質及び/又は固結防止物質及び/又は抗酸化剤とからなる、多層ポリプロピレンフィルムである。ブロッキング防止剤は、二酸化ケイ素(SiO2)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等であり、酸化防止剤はフェノール系酸化防止剤である。
【0039】
本発明の第2の実施態様では、フィルムは、接着剤を含まないフィルム-紙のラミネーションが意図されたものであり、少なくとも以下を含む:上述した特性を有するポリプロピレンを含有するコア層、及び以下を含む機能化層:エチレン-ブテンコポリマー、エチレン-オクテンコポリマー、エチレン-ブテン-オクテンターポリマー、グラフト化マレイン酸無水物で修飾されたエチレン-ブテンコポリマー、グラフト化マレイン酸無水物で修飾されたエチレン-オクテンコポリマー、グラフト化マレイン酸無水物によって修飾されたエチレン-ブテン-オクテンターポリマー、若しくはそれらの混合物、又は、列記したコポリマー及び/又はターポリマー、修飾コポリマー及び/又はターポリマーのいずれかから形成された混合物、並びに水素化石油樹脂とのブレンド。
【0040】
本発明の第3の実施態様では、フィルムはバリアフィルムであり、少なくとも以下の層を含む:上述した特性を有するプロピレンポリマーの1つの層、及び、ポリアミド、エチレン、及びビニルアルコールのコポリマー等によって代表されるガスバリア材料の層。変性ポリオレフィンの層(例えば、無水マレイン酸で修飾されたプロピレンポリマーの層)を場合により使用して、上述した特性を満たすプロピレンポリマーの層とガスバリア材料の層との間の接着を改善することができる。
【0041】
本発明の他の実施態様は、当業者には明らかであり、本発明の説明において詳細に開示しない。例えば、添加剤は、有効量、すなわち、所望の機能特性を提供するか、又は最終的なフィルムのパラメーター及び/又は機能性を改善する量で、配合物に含めることができる。特に、添加剤の例には、以下が含まれるが、これらに限定されない:抗固結、帯電防止、及び滑り効果を提供する添加剤、並びに酸化防止剤及び中和剤、技術的添加剤、核剤、UV照射の影響を低減する添加剤、及び紫外線吸収剤、染料、充填剤、増粘剤、炭化水素樹脂をベースとする改質剤等。
【0042】
フィルムの合計厚さは、その使用目的に応じて広範囲にわたって変化する。好ましい実施態様では、フィルムは、2~100μm、好ましくは5~50μm、より好ましくは10~30μmの合計厚さを有する。
本発明のフィルムは、ポリプロピレンを他のポリマーと共押出しし、続いて延伸することによって得られる。機械方向でのフィルムの配向値は4.5~5.5であり、横方向では最高で10までである。
【0043】
延伸後の本発明に従って調製されたフィルムは、以下の手順による加工にかけることができる。
1.フィルムの表面にエンボス加工する。
2.フィルムの表面を、(例えばプラズマ処理、コロナ処理、火炎処理によって)活性化/改質して、印刷に適したものとする。
3.調製したフィルムを、織布又は不織布材料、特に紙、ホイル又は他のフィルム上にラミネートする。
4.金属層の堆積(例えば、金属蒸気の凝縮に基づく真空技術によるアルミニウム層の堆積)。
5.フィルムの片面又は両面上に接着剤層を適用し、接着性フィルムを得る。
【0044】
場合により、処理したフィルムを使用して、本発明によるBOPPフィルムを使用する包装、金属化包装、ラベル、バッグ、粘着テープ及び他の物品等の最終製品を製造する。具体的な例には、欧州特許第2197669号、国際公開第2017/077184号で特定されているラベルの作成、特に米国特許第9108391号で開示されているバッグの作成、例えば国際公開第2016/205381号で示されている食品包装の製造、欧州特許第0925912号で説明されている金属化フィルムの製造が含まれるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0045】
[試験方法]:
1.メルトフローインデックス(MFI)は、ASTMD1238に従って測定した。
2.沸騰ヘプタン/アイソタクチック画分中の可溶性画分の質量分率は、国家標準規格(National State Standard)26996-86に従って測定した。
3.p-キシレンに可溶な画分の質量分率は、ISO16152に従って測定した。
4.ポリプロピレン試料、及びプロピレンとエチレンとの統計的共重合体試料の分子量分布(MWD)の測定は、ISO 16014-4-2012:高温法に従ってAgilent PL-GPC 220システムでのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって行った。溶解温度は150℃、溶媒は1,2,4-トリクロロベンゼンであった。
5.試料からのキシレン可溶性(XCS)物質及びヘプタン可溶性(HS)物質の分子量特性の測定は、ISO16014-4-2012:低温法に準拠したAgilent1200液体クロマトグラフ(Agilent社製)での低温GPC法に準拠して行った。測定した溶解温度は40℃であり、溶媒はテトラヒドロフランであった。
6.ポリプロピレン試料の微細構造、アイソタクチック度、及びペンタッド比は、Bruker Avance III 400 MHz NMR分光計での炭素核の高分解能核磁気共鳴分光法(13C NMR)によって決定した。研究目的で、250μgの試料を140℃に加熱しながら2.5mlのトリクロロベンゼンに溶解した。13С核のスキャン数は16,000である。測定温度は140℃であった。
【0046】
本発明を、以下の実施例によってより詳細に説明する。本発明を説明するための例を提供するものであり、その範囲を限定するものではない。
【0047】
[実施例1]
3.0g/10分(230℃及び2.16kg)のMFIを有するプロピレンポリマーを、65~75℃の温度及び2.2MPaの操作圧力で気相技術によって得た。触媒として、ジイソブチルジメトキシシランを外部電子供与体として使用したことを除いて欧州特許第0361493号の実施例6と同じ方法で調製した触媒を使用した。
【0048】
BOPPフィルムは5層フィルムであり、その各層は上記のポリプロピレン、及び抗酸化剤〔例えば、ヒンダードフェノール系抗酸化剤であるペンタエリスリトールテトラオキシ(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(Irganox 1010)及びリン含有抗酸化剤であるトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(Irgafos 168)等〕、及び酸吸収剤としてのハイドロタルサイトを、ポリプロピレン1トン当たり1.35kgの安定剤の量で含む。フィルムを、ポリプロピレンの連続押出し、段階的な配向、熱硬化、及びフィルムスラブの冷却によって調製した。各押出機(層数に対応する5つの押出機)内で可塑化された溶融材料をダイ(ヘッド)で組み合わせ、コンフルエントをスロットダイから冷却ドラム(シャフト)にスラブの形態で流動させ、次にこのスラブを、水浴を通過させることにより冷却した。次に、フィルムスラブを加熱シリンダー上で100~115℃に再加熱し、ローラー上で機械方向に元の長さの6倍まで伸ばした。機械方向に引き伸ばされたフィルムをオーブンに入れ、再び空気で最高で170~180℃にまで加熱し、横方向に元の幅の10倍に引き伸ばした。合計膜厚は20μmであり、外層は0.9μm、中間層は2.5μm、コア層は13.2μmであった。使用したポリプロピレンの特性及びフィルムのプロセス速度を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
ポリプロピレンが表1中の実施例2に示す特性を有し、フィルムが5層でありその各層がポリプロピレンからなることを除いて、BOPPフィルムを実施例1と同様に調製した。フィルムのプロセス速度を表1に示す。
【0050】
[実施例3(比較)]
BOPPフィルムを、内部電子供与体としてフタル酸ジブチルを含むチーグラー・ナッタ触媒を使用してポリプロピレンを調製したことと、そのポリプロピレンが表1の比較実施例3に示す特性を有していたことを除いて、実施例1と同様に調製した。フィルムのプロセス速度を表1に示す。
【0051】
[実施例4(比較)]
BOPPフィルムを、内部電子供与体として9,9-ビスメトキシメチルフルオレンを含むチーグラー・ナッタ触媒を使用して調製したポリプロピレンを使用したこと、及びそのポリプロピレンが表1の比較実施例4に示す特性を有することを除いて、実施例1と同様に調製した。フィルムのプロセス速度を表1に示す。
【0052】
[実施例5(比較)]
BOPPフィルムを、助触媒(Co)の外部電子供与体(ED)に対するモル比[Co/ED比]が(低いXCSを達成するために)40である助触媒及び外部電子供与体を含むチーグラー・ナッタ触媒を使用して調製したポリプロピレンを使用したこと、及びそのポリプロピレンが表1の比較実施例5に示す特性を有することを除いて、実施例1と同様に調製した。フィルムのプロセス速度を表1に示す。
【0053】
[実施例6(比較)]
BOPPフィルムを、内部電子供与体としてフタル酸イソブチルを含むチーグラー・ナッタ触媒を使用してポリプロピレンを調製したことと、そのポリプロピレンが表1の比較実施例6に示す特性を有していたことを除いて、実施例1と同様に調製した。フィルムのプロセス速度を表1に示す。
【0054】
【0055】
表1から、冷キシレン可溶性画分の含有率が4~6質量%である場合には、ポリプロピレンのプロセス速度が非常に速い(450m/分)ことが分かる。しかし、低分子量(1,500~50,000g/モル)及び高分子量(50,000g/モル以上)の画分の特定の確立された含有率を維持するという要件を満たさない場合には、物理機械的特性の大幅な低下、及びダイ表面上への低分子量画分の急激な堆積、それに続く燃焼がもたらされ、それにより、洗浄メンテナンスのために頻繁に機器の稼働を停止する必要に迫られる。同時に、低分子量画分の含有量の要件を満たす場合(実施例6)には、プレートアウト形成(アモルファス炭素の堆積)の時間が延長され得る(しかし、この実施例6の場合には、プロセス速度が380m/分に限られている)。
【0056】
したがって、450m/分以上の高いプロセス速度を達成し、フィルムの高い物理機械的特性を確実にし、プレートアウト形成の程度を低減するためには、以下の特性の組み合わせを観察する必要がある:
- ポリマー中の冷キシレン可溶性画分(XCS)の量が、4.0~6.0質量%の範囲内であること;
- ポリマー中のヘプタン可溶性画分(HS)の量が、2.5~3.5質量%の範囲内であること;
- ポリマー中の50,000g/モル以上の分子量を有する冷キシレン可溶性画分(XCS)の割合が、少なくとも60質量%であること;
- ポリマー中の1,500~50,000g/モルの分子量を有する冷キシレン可溶性画分(XCS)の割合が、40質量%以下であること;
- ポリマー中の50,000g/モル以上の分子量を有するヘプタン可溶性画分(HS)の割合が、少なくとも60質量%であること;及び
- ポリマー中の1,500~50,000g/モルの分子量を有するヘプタン可溶性画分(HS)の割合が、40質量%以下であること。