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特許7214010静電荷像現像用トナー粒子及び静電荷像現像用トナー組成物
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  • 特許-静電荷像現像用トナー粒子及び静電荷像現像用トナー組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-19
(45)【発行日】2023-01-27
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー粒子及び静電荷像現像用トナー組成物
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/093 20060101AFI20230120BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
G03G9/093
G03G9/087 331
G03G9/087 325
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021561408
(86)(22)【出願日】2020-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2020043601
(87)【国際公開番号】W WO2021106844
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2019212354
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄大
(72)【発明者】
【氏名】八束 いく子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 隆之
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-057575(JP,A)
【文献】特開2012-037629(JP,A)
【文献】特開2009-301026(JP,A)
【文献】特開平10-293420(JP,A)
【文献】特開2018-017884(JP,A)
【文献】特開2017-116712(JP,A)
【文献】特開2018-031866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー母粒子と、トナー母粒子を被覆する樹脂皮膜とを含む静電荷像現像用トナー粒子であって、
前記静電荷像現像用トナー粒子は、酸化セリウム粒子を含まず、
前記樹脂皮膜は、前記トナー母粒子表面の一部を被覆し、
前記トナー母粒子は、表面に凹部を有し、
前記凹部は、深さが50nm~500nmである凹部を含み、
前記樹脂皮膜は、厚みが10nm以上50nm未満である皮膜(A)部と、厚みが50nm以上500nm以下である皮膜(B)部とからなり
前記静電荷像現像用トナー粒子の断面の外周部における前記樹脂皮膜により被覆されている周長を100%とした場合に、前記皮膜(A)部の総和が前記樹脂皮膜の40~70%、前記皮膜(B)部の総和が前記樹脂皮膜の30~60%であり、
前記皮膜(B)部が、前記凹部上に存在し、
前記樹脂皮膜の被覆率は、80%以上、96%以下であり、
前記トナー母粒子は、結着樹脂を含み、
前記結着樹脂は、ガラス転移温度が40℃以上70℃以下、軟化点が70℃以上130℃以下であり、
前記樹脂皮膜は、樹脂微粒子から形成され、
前記樹脂微粒子は、ガラス転移温度が50~100℃、軟化点が100℃以上250℃以下であることを特徴とする、静電荷像現像用トナー粒子。
なお静電荷像現像用トナー粒子の断面の外周部における樹脂皮膜により被覆されている周長及び樹脂皮膜の被覆率は、以下の手順で測定する。
(1)透過型電子顕微鏡を用い、無作為に選択した10個の静電荷像現像用トナー粒子について、一つの静電荷像現像用トナー粒子の断面が全て一枚の画像に含まれるように写真撮影し、得られた画像の、静電荷像現像用トナー粒子の断面の外周部全体の長さと、樹脂皮膜により外周部の被覆されている部分の長さを測定する。
(2)樹脂皮膜により外周部の被覆されている周長を静電荷像現像用トナー粒子の断面の外周部全体の長さで除して得られる静電荷像現像用トナー粒子1個の被覆率として計算する。
(3)10個の静電荷像現像用トナー粒子について得られた被覆率の平均値を樹脂被膜の被覆率とする。
【請求項2】
前記皮膜(B)部は、複数の樹脂層が積層した樹脂層であることを特徴とする、請求項1に記載の静電荷像現像用トナー粒子。
【請求項3】
前記皮膜(B)部は、前記複数の樹脂層の積層方向が、トナー母粒子の表面から離隔する方向であることを特徴とする、請求項2に記載の静電荷像現像用トナー粒子。
【請求項4】
前記静電荷像現像用トナー粒子の平均粒径は、3~15μmであることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー粒子。
【請求項5】
前記樹脂微粒子は、粒子径の標準偏差が0.15以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー粒子。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー粒子を含む、静電荷像現像用トナー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
静電荷像現像用トナー粒子及び静電荷像現像用トナー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法は複写機、プリンタ、ファクシミリ等における画像形成方法の一手段として広く使用されている。電子写真法による一般的な画像形成は、帯電ブレードや帯電ブラシ等を用いて一様に帯電させた光導電性絶縁体(感光体)上にレーザー光やLED光などを照射して静電潜像を形成し、この静電潜像に静電荷像現像用トナー(以下、単にトナーと記す場合も同じ意味である)を静電的に付着させてトナー画像を形成する現像工程と、トナー画像を被記録媒体などの記録媒体に転写する転写工程と、転写されたトナー画像を熱媒体との接触や赤外線照射等により記録媒体上で溶融したのち放熱させて固定する定着工程とを有する。
【0003】
このようなトナーに関して、省電力の観点で低い温度域で良好な定着性を得ること、高温での保存安定性の向上のため、及び、耐ブロッキング性の向上のため、低融点の結着樹脂を用いたトナー母粒子を、トナー母粒子の結着樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも高いTgを示す樹脂からなる樹脂皮膜により被覆するコア-シェル構造のトナーが使用されている。
【0004】
また、樹脂皮膜が均質な膜となっている場合に、前記定着工程において、トナーに圧力がかかっても、樹脂皮膜が容易に破壊されない場合があり、被記録媒体上にトナーを良好に定着させにくいという課題があった。そのため、特許文献1では、前記樹脂皮膜の内部に、前記トナー母粒子の表面に対して略垂直方向の、前記樹脂微粒子同士の界面に由来するクラックが観察される静電荷像現像用トナーにより、容易に樹脂皮膜が破壊されることで、被記録媒体などへの定着性が向上し、さらに耐熱保存性に優れることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-026126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている発明の静電荷像現像用トナーは、シェル層の内部に、トナーコア粒子の表面に対して略垂直方向のクラックが形成されることにより、被記録媒体などへの定着性、及び耐熱保存性に優れたトナーを得ることが可能である。このため、樹脂微粒子をトナーコア粒子の表面にクラックが生じる状態で配列させる必要があり、トナーコア粒子の表面に凹凸が存在していると、トナーコア粒子の表面に対して略垂直方向のクラックが形成できないため、被記録媒体などへの定着性、及び耐熱保存性に優れたトナーを得ることができないおそれがあった。また、クラックはトナーコア粒子の染み出しに繋がり、耐熱保管性の低下するおそれがあり、このデメリット防止のため、樹脂微粒子の粒径を大きくして(粒径100nm)、染み出しを防止する必要が考えられる。従って、トナー設計の自由度が小さく、適用可能な画像形成装置が限定されるというデメリットを有している。さらに、製造過程において、球状化処理が不可欠となり、製造コストが高くなるおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明は、凹部を含むトナー母粒子を用いて、樹脂微粒子の粒径に影響を受けづらく、より定着性、及び、耐熱保存性に優れた静電荷像現像用トナー粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の静電荷像現像用トナー粒子は特定の凹部を含むトナー母粒子と、特定の構造を有する樹脂皮膜を有することを特徴とする。即ち、本発明は下記の通りである。
本発明(1)は、
トナー母粒子と、トナー母粒子を被覆する樹脂皮膜とを含む静電荷像現像用トナー粒子であって、
前記トナー母粒子は、表面に凹部を有し、
前記凹部は、深さが50~500nmである凹部を含み、
前記樹脂皮膜は、厚みが10nm以上50nm未満である皮膜(A)部と、厚みが50nm以上500nm以下である皮膜(B)部を有しており、
前記皮膜(B)部が、前記凹部上に存在していることを特徴とする、静電荷像現像用トナー粒子である。
本発明(2)は、
前記皮膜(B)部は、複数の樹脂層が積層した樹脂層であることを特徴とする、前記発明(1)の静電荷像現像用トナー粒子である。
本発明(3)は、
前記皮膜(B)部は、前記複数の樹脂層の積層方向が、トナー母粒子の表面から離隔する方向であることを特徴とする、前記発明(2)の静電荷像現像用トナー粒子である。
本発明(4)は、
前記静電荷像現像用トナー粒子に含まれる前記樹脂皮膜に対する、前記樹脂皮膜に含まれる前記皮膜(B)部の総和の割合が、30~60%であることを特徴とする、前記発明(1)~(3)のいずれかの静電荷像現像用トナー粒子である。
本発明(5)は、
前記静電荷像現像用トナー粒子の平均粒径は、3~15μmであることを特徴とする、前記発明(1)~(4)のいずれかの静電荷像現像用トナー粒子である。
本発明(6)は、
前記発明(1)~(5)のいずれかの静電荷像現像用トナー粒子を含む、静電荷像現像用トナー組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の凹凸を有するトナー母粒子を用い、樹脂微粒子の粒径に影響を受けづらく、より定着性、及び、耐熱保存性に優れた静電荷像現像用トナー粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、複数の静電荷像現像用トナー粒子断面の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、単に化合物名を示した場合には、そのすべての異性体を含むものとする。
【0012】
本発明において、単に、「トナー」と示した場合には、静電荷像現像用トナー粒子を含むトナー組成物を示す。
【0013】
<<<静電荷像現像用トナー粒子>>>
本発明において、静電荷像現像用トナー粒子は、単にトナー粒子と記載する場合がある。
【0014】
本発明の静電荷像現像用トナー粒子は、トナー母粒子と、トナー母粒子を被覆する樹脂皮膜とを含む。
【0015】
本発明の静電荷像現像用トナー粒子の平均粒径は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されないが、例えば、3~15μmとすることができ、3~12μmが好ましく、3~10μmがより好ましい。静電荷像現像用トナー粒子の平均粒径がかかる範囲にあることで、製造が比較的容易であり、印刷の際にトナー粒子の使用量を抑制し、鮮明な印刷が得られるという効果を得ることができる。
なお、トナー粒子の平均粒子径とは、体積平均粒子径であり、市販の装置、例えば、コールターカウンターを用いて測定可能である。
【0016】
本発明にかかるトナー母粒子は、その表面に凹部を有しており、凹部の深さが、50~500nmである。
【0017】
本発明にかかる樹脂皮膜は、厚みが10nm以上50nm未満である皮膜(A)部と、厚みが50nm以上500nm以下である皮膜(B)部を有している。
【0018】
皮膜(B)部は、トナー母粒子の凹部上に存在している。
【0019】
以下に、本発明の静電荷像現像用トナー粒子の構成について詳述する。
【0020】
<<静電荷像現像用トナー粒子の構成>>
図1に静電荷像現像用トナー粒子断面の説明図を例示した。以下に図1に基づいて詳述する。図1は、静電荷像現像用トナー粒子10の一つを拡大した写真であり、静電荷像現像用トナー粒子10について、トナー母粒子11が、樹脂皮膜12に被覆されており、トナー母粒子11の表面には、凹部13、凸部14及び平坦部15が存在している(一例のみ表示)。凹部13には、皮膜(B)部16が形成されていることを示している。また、凸部14及び平坦部15付近には皮膜(A)部17が形成されている。
【0021】
<トナー母粒子>
本発明にかかるトナー母粒子は、静電荷像現像用トナー粒子のコア材となり、樹脂皮膜に被覆される。
【0022】
トナー母粒子の形状は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されず、球形や一般的に球形とされる形状に限られない。トナー母粒子の円形度は0.90~0.96であって、好ましくは0.92~0.96である。トナー母粒子の円形度がかかる範囲にある場合には、製造時のトナー母粒子の流動性が優れるため、樹脂微粒子がトナー母粒子に均一に付着できるとともに、多くの凹部を有するため、本発明にかかる静電荷像現像用トナー粒子の原料として好ましい。
【0023】
なお、円形度は、円形度=π・(粒子像の面積と等しい円の直径)/(粒子像の周囲長)で表されるもので、フロー式粒子像分析装置(例えば、Sysmex社製、商品名:FPIA-2000)により求めることができる。
【0024】
本発明にかかるトナー母粒子は、表面に凹部を有する。凹部の深さは、50nm~500nmであり、好ましくは100nm~400nmである。凹部の深さがかかる範囲にある場合には、後述する樹脂皮膜の皮膜(B)部を、凹部上に50~500nmの厚みで形成することができる。この皮膜(B)部が存在することで、トナー粒子の耐熱保管性が優れたものとなる。
【0025】
また、トナー母粒子は、表面に凸部、平坦部を有する。凸部とは、凸部の頂点の曲率半径(又は、頂点が角度を有する場合は、角度を形成する平面に内接する内接球の半径)が、凸部を含むトナー母粒子に含まれる最も長い直線の長さを直径とする球の半径よりも短いものとする。また、平坦部とは、平面のみだけでなく、平坦部の曲率半径が、平坦部を含むトナー母粒子に含まれる最も長い直線の長さを直径とする球の半径よりも同一、又は、大きいものとする。
【0026】
ここで、凹部の深さとは、凹部と隣接する凸部の頂点の接平面、又は、凹部と隣接する平坦部の凹部内壁と平坦部の交点近傍の平坦部の表面を凹部の深さの基準平面とし、基準平面と凹部の最底部からの距離の最も短いものとする。即ち、凹部の最底部から、該凹部が隣接する最も低い(凹部の最底部からの距離が最も短い)基準平面に対し垂直となる直線距離とする。トナー母粒子又はトナーを切片化したサンプルのTEM画像から上記の基準に基づき算出する。
【0027】
また、一つの凹部と、別の凹部が、凸部又は平坦部を介して近接している場合には、該凸部の頂点の接平面又は平坦部の表面は、凹部の深さの基準平面に含まないものとする。例えば、二つの凹部が、「W」型のように形成されている場合に、「W」の真ん中の凸部は基準平面を形成する凸部には含まないものとする。即ち、「W」の真ん中の凸部が端部よりも低い場合には、「W」状の凹部は、二つの凹部が結合した大きな凹部とみなすものとする。
【0028】
ここで、凹部の開口形状は特に限定されない。即ち、円形、楕円形のような幾何学的な形状に限られず、不規則な直線部や曲線部を含む周形状とすることができる。また、深さ方向の形状も特に限定されず、円錐形状、球形状のような幾何学的な形状に限られず、不規則な直線部や曲線部を含む立体形状とすることができる。
【0029】
凹部の開口部の大きさ(開口径、又は、開口部の最小長さ)は、特に限定されないが、後述する樹脂皮膜を形成する樹脂微粒子が内部に侵入できる大きさがあればよい。例えば、下限値として10nm以上、20nm以上、30nm以上、50nm以上とすることができる。上限値としては特に限定されないが、1000nm以下、800nm以下、600nm以下、500nm以下とすることができる。凹部内の内壁(底部を含む)に樹脂微粒子が衝突することで、樹脂微粒子が押しつぶされて、層状となる。その後、さらに別の樹脂微粒子が層状となった樹脂微粒子上に衝突し、溶融して単層となるか、積層されて積層構造となる。これを繰り返すことで、凹部上に皮膜(B)部が形成される。ここで凹部上とは、完全に凹部内に存在する場合に限られず、皮膜(B)部の一部又は全部が凹部上に存在することを示す。
【0030】
本発明にかかるトナー母粒子に含まれる凹部の数は、特に限定されず、少なくとも1つ以上あればよい。トナー母粒子に含まれる全ての凹部の開口面積の総和が、トナー母粒子の表面積の20%以上となることが好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。トナー母粒子に含まれる全ての凹部の開口面積の総和がかかる範囲にある場合には、被記録媒体との定着性に優れ、及び、耐熱保存性に優れた静電荷像現像用トナー粒子を得ることが可能となる。
【0031】
本発明にかかるトナー母粒子は、結着樹脂を含む。トナー母粒子に含まれる結着樹脂は、従来からトナー用の結着樹脂として用いられている樹脂であれば特に限定されない。結着樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、N-ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂のような熱可塑性樹脂を挙げることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。これらのうち、結着樹脂中の着色剤の分散性、トナーの帯電性、被記録媒体に対する定着性の面から、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。以下、ポリスチレン系樹脂、及び、ポリエステル樹脂について説明する。
【0032】
ポリスチレン系樹脂は、スチレンの単独重合体でもよく、スチレンと共重合可能な他の共重合モノマーとの共重合体とすることができる。スチレンと共重合可能な他の共重合モノマーの具体例としては、p-クロルスチレン;ビニルナフタレン;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンのようなエチレン不飽和モノオレフィン類;塩化ビニル、臭化ビニル、弗化ビニルのようなハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル、酪酸ビニルのようなビニルエステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ドテシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-クロルエチル、アクリル酸フェニル、α-クロルアクリル酸メチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸ブチルのような(メタ)アクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミドのような他のアクリル酸誘導体;ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルのようなビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、メチルイソプロペニルケトンのようなビニルケトン類;N-ビニルピロール、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリデンのようなN-ビニル化合物等を挙げることができる。これらの共重合モノマーは、2種以上を組み合わせてスチレン単量体と共重合できる。
【0033】
ポリエステル樹脂は、2価又は3価以上のアルコール成分と2価又は3価以上のカルボン酸成分との縮重合や共縮重合によって得られるものを使用することができる。ポリエステル樹脂を合成する際に用いられる成分としては、以下のアルコール成分やカルボン酸成分を挙げることができる。
【0034】
2価又は3価以上のアルコール成分の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールのようなジオール類;ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールAのようなビスフェノール類;ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンのような3価以上のアルコール類を挙げることができる。
【0035】
2価又は3価以上のカルボン酸成分の具体例としては、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、或いはn-ブチルコハク酸、n-ブテニルコハク酸、イソブチルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n-オクチルコハク酸、n-オクテニルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、イソドデセニルコハク酸のようなアルキル又はアルケニルコハク酸のような2価カルボン酸;1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5-ベンゼントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、エンポール三量体酸のような3価以上のカルボン酸を挙げることができる。これらの2価又は3価以上のカルボン酸成分は、酸ハライド、酸無水物、低級アルキルエステルのようなエステル形成性の誘導体とすることができる。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数1から6のアルキル基を意味する。
【0036】
本発明のトナーが、磁性1成分トナーとして用いられる場合、結着樹脂として、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、及びエポキシ基(グリシジル基等)からなる群より選択される1以上の官能基を分子内に有する樹脂を使用することができる。これらの官能基を分子内に有する結着樹脂を用いることにより、結着樹脂中での磁性粉、電荷制御剤等の分散性を向上させることができる。なお、これらの官能基の有無は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて確認することができる。また、樹脂中のこれらの官能基の量は、滴定等の公知の方法により測定することができる。
【0037】
結着樹脂としては、被記録媒体に対する定着性が良好であることから熱可塑性樹脂を用いることが好ましいが、熱可塑性樹脂単独で使用するだけでなく、熱可塑性樹脂に架橋剤や熱硬化性樹脂を添加することができる。架橋剤や熱硬化性樹脂を添加して、結着樹脂内に、一部架橋構造を導入することにより、トナーの定着性を低下させることなく、トナーの耐熱保存性、耐久性等を向上させることができる。なお、熱硬化性樹脂を用いる場合は、ソックスレー抽出器を用いて抽出される結着樹脂の架橋部分量(ゲル量)は、結着樹脂の質量に対して、10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0038】
熱可塑性樹脂とともに使用できる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やシアネート系樹脂が好ましい。好適な熱硬化性樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリアルキレンエーテル型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、シアネート樹脂を挙げることができる。これらは、単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0039】
結着樹脂のガラス転移温度(Tg)は、40℃以上70℃以下が好ましい。ガラス転移温度が高すぎる場合、トナーの低温定着性が低下する傾向がある。ガラス転移温度が低すぎる場合、トナーの耐熱保存性が低下する傾向がある。
【0040】
結着樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、結着樹脂の比熱の変化点から求めることができる。より具体的には、測定装置としてセイコーインスツルメンツ株式会社製示差走査熱量計DSC-6200を用い、結着樹脂の吸熱曲線を測定することで結着樹脂のガラス転移温度を求めることができる。測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用する。測定温度範囲25℃以上200℃以下、昇温速度10℃/分で常温常湿下にて測定して得られた結着樹脂の吸熱曲線より結着樹脂のガラス転移温度を求めることができる。
【0041】
結着樹脂の軟化点は、70℃以上130℃以下であることが好ましく、80℃以上120℃以下がより好ましい。ポリエステルの軟化点は、JIS K7196:1991「熱可塑性プラスチックフィルム及びシートの熱機械分析による軟化温度試験方法」に準拠した方法により測定することができる。
【0042】
結着樹脂の質量平均分子量(Mw)は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。典型的には、結着樹脂の質量平均分子量(Mw)は、20,000以上300,000以下が好ましく、30,000以上2,000,000以下がより好ましい。なお、結着樹脂の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン樹脂を用いて予め作成しておいた検量線を用いて求めることができる。
【0043】
また、結着樹脂がポリスチレン系樹脂である場合、結着樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー等により測定される分子量分布上で、低分子量領域と、高分子量領域とにそれぞれピークを有するのが好ましい。具体的には、低分子量領域のピークを分子量3,000以上20,000以下の範囲に有するのが好ましく、高分子量領域のピークを分子量300,000以上1,500,000以下の範囲に有するのが好ましい。また、このような分子量分布のポリスチレン系樹脂について、数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)は、10以上が好ましい。結着樹脂が、分子量分布において、低分子量領域のピークと高分子量領域のピークをこのような範囲に有することで、低温定着性に優れ、高温オフセットを抑制できるトナーを得ることができる。
【0044】
本発明にかかるトナー母粒子には、シリカ、酸化チタン、アルミナ、カーボン、磁性粉(鉄粉)などのその他添加剤を含むことができる。
【0045】
<樹脂皮膜>
本発明にかかる樹脂皮膜は、樹脂微粒子が集合して形成されている。樹脂皮膜は、樹脂微粒子をトナー母粒子に衝突させることで、変形、付着させ皮膜を形成する。
【0046】
本発明にかかる樹脂皮膜は、トナー母粒子の全表面又は表面の一部を被覆している。トナー母粒子表面を被覆する樹脂皮膜の被覆率は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されないが、例えば、80%以上とすることができ、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。樹脂皮膜の被覆率がかかる範囲にあることで、被記録媒体との定着性に優れ、及び、耐熱保存性に優れた静電荷像現像用トナー粒子を得ることが可能となる。
【0047】
静電荷像現像用トナー粒子の被覆率は、無作為に選択した静電荷像現像用トナー粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて、一つの粒子の断面が全て一枚の画像に含まれるように写真撮影(例えば、倍率を1万倍とする)する、得られた画像の静電荷像現像用トナー粒子の断面の外周部の被覆されている長さを測定し、得られた画像の静電荷像現像用トナー粒子の断面の外周部全体の長さで除することで静電荷像現像用トナー粒子1個の被覆率を計算する。同じ測定を10個の静電荷像現像用トナー粒子について行い、その平均値を被覆率とする。
【0048】
本発明にかかる樹脂皮膜は、厚みが10nm以上50nm未満である皮膜(A)部と、厚みが50nm以上500nm以下である皮膜(B)部を含む。皮膜(B)部は、トナー母粒子に含まれる凹部上に存在する。
【0049】
皮膜(A)部は、主に、トナー母粒子の凹部以外の部分(凸部又は平坦部)に形成される。樹脂微粒子がトナー母粒子の凹部以外の部分(凸部又は平坦部)に衝突した場合には、樹脂微粒子が皮膜を形成し、厚み方向に成長するが、むき出しのままとなり、さらに連続して樹脂微粒子が衝突した場合に、ある一定以上の厚みの皮膜は衝突により削られることとなり、10nm以上50nm未満の厚みの皮膜(A)部となる。
【0050】
皮膜(A)部は、樹脂微粒子が軟化・溶融して単層の皮膜を形成していてもよいし、複数の樹脂層が積層していてもよい。
【0051】
皮膜(B)部は、トナー母粒子の凹部上部に形成される。樹脂微粒子がトナー母粒子の凹部の内壁部(底部含む)に衝突した場合には、樹脂微粒子が皮膜を形成し、皮膜は厚み方向に成長する。凹部では、形成された皮膜が凹部の内壁に保護されるため、樹脂微粒子が連続して衝突することを制限する。このため、皮膜が凹部の深さ以上の厚みになるまでは、皮膜の厚みが継続して成長し、皮膜(B)部となる。皮膜(B)部の厚みが凹部の深さ以上となると、樹脂微粒子の衝突にさらされ、凹部内から著しくはみ出す厚みの皮膜は衝突により削られることとなり、凹部の深さと同等の50以上500nm以下の厚みの皮膜(B)部となる。
【0052】
皮膜(B)部の厚みは、50~500nmであればよく、その少なくとも一部がトナー母粒子の凹部の内部に存在していればよい。
【0053】
皮膜(B)部は、樹脂微粒子が軟化・溶融して単層の皮膜を形成していてもよいし、複数の樹脂層が積層していてもよい。皮膜(B)部が、複数の樹脂層が積層したものである場合には、積層方向が、トナー母粒子の表面から離隔する方向とすることができる。
【0054】
1つの静電荷像現像用トナー粒子において、皮膜(B)部の総和は、樹脂皮膜全体の10~80%とすることができ、30~60%が好ましい。皮膜(B)部の総和の樹脂皮膜全体に対する割合(占有率)が、かかる範囲にある場合には、被記録媒体との定着性に優れ、及び、耐熱保存性に優れた静電荷像現像用トナー粒子を得ることが可能となる。
【0055】
静電荷像現像用トナー粒子における皮膜(B)部の総和の樹脂皮膜全体に対する割合(占有率)の被覆率は、無作為に選択した静電荷像現像用トナー粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて、一つの粒子の断面が全て一枚の画像に含まれるように写真撮影(例えば、倍率を1万倍とする)し、得られた画像の静電荷像現像用トナー粒子の断面の外周部に含まれる皮膜(B)部の長さを測定し、得られた画像の静電荷像現像用トナー粒子の断面における被覆全体の外周部の長さで除することで求めることができる。同じ測定を10個の静電荷像現像用トナー粒子について行い、その平均値を皮膜(B)部の総和の樹脂皮膜全体に対する割合(占有率)の被覆率とする。
【0056】
樹脂微粒子の形状は特に限定されないが、球状であることが好ましい。ここで「球状」とは、真球状である場合に限られず、略球状を含み、一般に球状とされる形状であればよい。例えば、長径をLとし、短径をSとした場合の、アスペクト比(L/S)が、1~2の楕円球も含むものとする。樹脂微粒子が、球状である場合には、トナー母粒子の凹部内の内壁に、樹脂微粒子が衝突した場合に、対称性が高いため、均一な樹脂層が形成することができる。均一な樹脂層が形成されると、積層状態が良好となり、トナー母粒子内において、皮膜(B)部が十分な厚みを有することが可能となり、静電荷像現像用トナー粒子は、耐熱保管性が優れたものとなる。
【0057】
本発明にかかる樹脂皮膜を形成する樹脂微粒子は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されない。所定の構造の樹脂皮膜を形成しやすいことから、樹脂皮膜を形成する樹脂微粒子は、不飽和結合を有するモノマーの重合体が好ましい。また、樹脂微粒子は、ソープフリー乳化重合により合成可能な樹脂が好ましい。ソープフリー乳化重合で樹脂微粒子を製造すれば、粒子径が揃っており、界面活性剤を含まないか、殆ど含まない樹脂微粒子を調製できるからである。樹脂微粒子の粒子径の標準偏差(ばらつき)については後述する。
【0058】
不飽和結合を有するモノマーの種類は、樹脂皮膜として十分な物理的性質を有する樹脂を合成可能であれば特に限定されない。不飽和結合を有するモノマーとしては、ビニル系単量体が好ましい。ビニル系単量体に含まれるビニル基は、α位をアルキル基により置換されていてもよい。また、ビニル系単量体に含まれるビニル基は、ハロゲン原子により置換されていてもよい。ビニル基が有していてもよいアルキル基は、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。また、ビニル基が有していてもよいハロゲン原子は、塩素原子、又は臭素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0059】
ビニル系単量体は、含窒素極性官能基を有するものであってもよく、フッ素置換された炭化水素基を有するものであってもよい。樹脂を製造する際に、含窒素極性官能基を有するビニル系単量体を用いる場合、得られる樹脂に正帯電性を付与することができる。また、樹脂を製造する際に、フッ素置換された炭化水素基を有するビニル系単量体を用いる場合、得られる樹脂に負帯電性を付与することができる。樹脂皮膜の材質として、上記の正帯電性の樹脂、又は負帯電性の樹脂を用いる場合、トナー母粒子中に電荷制御剤を配合しないか、トナー母粒子中への電荷制御剤の配合量を減らしても、所望する帯電量に帯電可能なトナーを得ることができる。
【0060】
ビニル系単量体のうち、含窒素極性官能基、及びフッ素置換された炭化水素基を持たない単量体の具体例としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、p-エトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロロスチレン、3,4-ジクロロスチレンのようなスチレン類;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンのようなエチレン性不飽和モノオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、フッ化ビニルようなのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニルようなのビニルエステル類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸フェニル、α-クロロアクリル酸メチルのような(メタ)アクリル酸エステル類;アクリロニトリルのような(メタ)アクリル酸誘導体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルのようなビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトンのようなビニルケトン類;ビニルナフタリン類を挙げることができる。これらの中でも、スチレン類が好ましく、スチレンがより好ましい。これらのモノマーは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0061】
含窒素極性官能基を持つビニル系単量体の例としては、N-ビニル化合物や、アミノ(メタ)アクリル系単量体や、メタクリロニトリル(メタ)アクリルアミドを挙げることができる。N-ビニル化合物の具体例としては、N-ビニルピロール、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、及びN-ビニルピロリドンのようなN-ビニル化合物を挙げることができる。また、アミノ(メタ)アクリル系単量体の好適な例としては、下式で表される化合物を挙げることができる。
CH2=C(R1)-(CO)-X-N(R2)(R3)
(式中、R1は水素又はメチル基を示す。R2及びR3は、それぞれ水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を示す。Xは-O-、-O-Q-又は-NHを示す。Qは炭素数1~10のアルキレン基、フェニレン基、又はこれらの基の組合せを示す。)
【0062】
上記式中、R2及びR3の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基(ラウリル基)、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基(ステアリル基)、n-ノナデシル基、及びn-イコシル基を挙げることができる。
【0063】
上記式中、Qの具体例としては、メチレン基、1,2-エタン-ジイル基、1,1-エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、プロパン-1,1-ジイル、プロパン-1,2-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、及びベンジル基に含まれるフェニル基の4位から水素を除いた二価基を挙げることができる。
【0064】
上記式で表されるアミノ(メタ)アクリル系単量体の具体例としては、例えば、N,N-ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、2-(N,N-メチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、4-(N,N-ジメチルアミノ)ブチル(メタ)アクリレート、p-N,N-ジメチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p-N,N-ジエチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p-N,N-ジプロピルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p-N,N-ジ-n-ブチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p-N-ラウリルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p-N-ステアリルアミノフェニル(メタ)アクリレート、(p-N,N-ジメチルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリレート、(p-N,N-ジエチルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリレート、(p-N,N-ジ-n-プロピルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリレート、(p-N,N-ジ-n-ブチルアミノフェニル)メチルベンジル(メタ)アクリレート、(p-N-ラウリルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリレート、(p-N-ステアリルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、3-(N,N-ジエチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、p-N,N-ジメチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p-N,N-ジエチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p-N,N-ジ-n-プロピルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p-N,N-ジ-n-ブチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p-N-ラウリルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p-N-ステアリルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、(p-N,N-ジメチルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミド、(p-N,N-ジエチルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミド、(p-N,N-ジ-n-プロピルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミド、(p-N,N-ジ-n-ブチルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミド、(p-N-ラウリルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミド、(p-N-ステアリルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
【0065】
フッ素置換された炭化水素基を持つビニル系単量体は、含フッ素樹脂の製造に使用されるものであれば特に限定されない。フッ素置換された炭化水素基を有するビニル系単量体の具体例としては、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロアミルアクリレート、1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルアクリレートのようなフルオロアルキル(メタ)アクリレート類、トリフルオロクロルエチレン、フッ化ビニリデン、三フッ化エチレン、四フッ化エチレン、トリフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロペン、ヘキサフルオロプロピレンを挙げることができる。これらの中でも、フルオロアルキル(メタ)アクリレート類が好ましい。
【0066】
不飽和結合を有するモノマーの付加重合方法は本発明の目的を阻害しない範囲で限定されず、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合のような任意の方法を選択できる。これらの製造方法の中では、粒子径のそろった樹脂微粒子を得やすいことから、乳化重合法が好ましい。
【0067】
以上説明したビニル系単量体の重合に使用できる重合開始剤としては過硫酸カリウム、過酸化アセチル、過酸化デカノイル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリルのような公知の重合開始剤を使用できる。これらの重合開始剤の使用量は、モノマーの総質量に対して0.1質量%以上15質量%以下が好ましい。
【0068】
上記のビニル系単量体の重合方法は本発明の目的を阻害しない範囲で限定されず、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合のような任意の方法を選択できる。これらの製造方法の中では、粒子径のそろった樹脂微粒子を得やすいことから、乳化重合法が好ましい。
【0069】
樹脂微粒子を乳化重合法により製造する方法としては、乳化剤(界面活性剤)を使用しないソープフリー乳化重合法が好ましい。ソープフリー乳化重合法では、水相で発生した開始剤のラジカルが水相にわずかに溶けているモノマーを結合させてゆき、重合が進むにつれて、不溶化した樹脂微粒子の粒子核が形成される。ソープフリー乳化重合法によれば、粒度分布の幅が狭い樹脂微粒子が得られ、また、樹脂微粒子の平均粒子径を10~100nmの範囲に制御しやすい。このため、ソープフリー乳化重合法によれば、粒子径が均一な樹脂微粒子が得られる。
【0070】
ソープフリー乳化重合法で得られる粒子径の均一な樹脂微粒子を用いることで、トナー母粒子に対する樹脂微粒子の付着力のバラツキを減らすことによって、厚さが均一であり均質な樹脂皮膜を形成できる。また、ソープフリー乳化重合法により製造される樹脂微粒子は、乳化剤(界面活性剤)を用いることなく形成されるので、ソープフリー乳化重合法により得られる樹脂微粒子を用いることにより、湿気による影響を受けにくい樹脂皮膜を形成できる。
【0071】
樹脂微粒子は、必要に応じて、前述の着色剤、及び電荷制御樹脂等を含有するように調製することができる。樹脂微粒子に十分な量の電荷制御剤を含有させる場合には、トナー母粒子に電荷制御剤を含有させなくてもよい。
【0072】
樹脂微粒子のガラス転移温度(樹脂微粒子を構成する樹脂のガラス転移温度)は、特に限定されないが、例えば、50~100℃とすることができ、好ましくは50~80℃である。ガラス転移温度がかかる範囲にある場合には、低温域でトナーを被記録媒体上に定着しやすく、高温で保存する場合にトナーの凝集が起こり難い(耐熱保管性が高い)。
【0073】
樹脂微粒子を構成する樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、樹脂微粒子を構成する樹脂の比熱の変化点から求めることができる。
【0074】
樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。典型的には、樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点は100℃以上250℃以下が好ましく、110℃以上240℃以下がより好ましい。また、樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点は、トナー母粒子に含まれる結着樹脂の軟化点よりも高いのが好ましく、10~140℃高いのがより好ましい。樹脂微粒子を構成する樹脂の温度特性をこのような範囲とすることで、樹脂微粒子がトナー母粒子に埋め込まれる際に、樹脂微粒子のトナー母粒子と接触する部分が変形しにくいため、樹脂皮膜の内表面に、樹脂皮膜に変化する前の樹脂微粒子の形状に由来する凸部が形成されやすい。
【0075】
樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点は、フローテスターにより測定することができる。以下、フローテスターによる樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点の測定方法について説明する。
【0076】
樹脂微粒子の平均粒子径は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されないが、例えば、10~100nmとすることができ、好ましくは20~80nm、より好ましくは20~50nmである。樹脂微粒子の平均粒径がかかる範囲にある場合には、トナー母粒子の凹部に侵入し、内壁部と衝突することで、皮膜(B)部を形成しやすくなり、凝集しにくい。
【0077】
樹脂微粒子の平均粒子径は、走査顕微鏡を用いて撮影した電子顕微鏡写真から、50個以上の樹脂微粒子の粒子径を測定して、個数平均粒径を測定することで、算出することができる。
【0078】
上述したように個々の樹脂微粒子の粒子径を揃えること、即ち、樹脂微粒子の粒子径の標準偏差(ばらつき)を低減することが重要である。樹脂微粒子の粒子径の標準偏差は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されないが、例えば、0.15以下であることが好ましく、0.14以下であることがより好ましい。樹脂微粒子の粒子径の標準偏差の下限値は0.0である。樹脂微粒子の粒子径の標準偏差が、かかる範囲にある場合には、同じ平均粒子径の樹脂微粒子であっても、樹脂微粒子個々の粒子径のばらつきが小さく、また、樹脂微粒子同士の凝集度合いが小さいため、樹脂微粒子はトナー母粒子の凹部に入り込みやすく、皮膜(B)部を形成しやすくなる。樹脂微粒子の粒子径の標準偏差は、公知の粒子測定機器によって測定することができる。
【0079】
樹脂微粒子の粒子径の標準偏差は、樹脂微粒子の粒子径をそろえることが容易な重合方法を用いること以外にも、(1)樹脂微粒子を篩にかけ、所定の粒子径よりも大きな粒子及び小さい粒子を除去する方法、(2)超音波を印加することによって凝集した樹脂微粒子の凝集体を解く方法、などによって調整することができる。
【0080】
樹脂微粒子を構成する樹脂の質量平均分子量(Mw)は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。典型的には、質量平均分子量は20,000以上1,500,000以下が好ましい。樹脂微粒子を構成する樹脂の質量平均分子量(Mw)は、従来知られる方法に従って、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定できる。
【0081】
<その他>
本発明の静電荷像現像用トナー粒子は、トナー母粒子の表面に樹脂皮膜を形成した後に、所望の外添剤により処理することができる。
【0082】
外添剤の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来からトナー用に使用されている外添剤から選択することができる。外添剤の具体例としては、シリカや、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムのような金属酸化物を挙げることができる。これらの外添剤は、単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用できる。外添剤の粒子径は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、典型的には0.01μm以上1.0μm以下が好ましい。
【0083】
外添剤の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。外添剤の使用量は、典型的には、トナー母粒子の表面に樹脂皮膜を形成して製造したトナー粒子の全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましい。外添剤の使用量が過少であると、トナーの疎水性が低下しやすい。その結果、高温高湿環境下において空気中の水分子の影響を受けやすくなり、トナーの帯電量の極端な低下に起因した形成画像の画像濃度の低下、及びトナーの流動性の低下等の問題が起こりやすくなる。また、外添剤の使用量が過多であると、トナーの過度のチャージアップにより画像濃度低下を招くおそれがある。
【0084】
本発明の静電荷像現像用トナー粒子は、所望のキャリアと混合して、2成分現像剤となる静電荷像現像用トナー組成物(以下、単に2成分現像剤と表現する場合がある)として使用することもできる。2成分現像剤を調製する場合、キャリアとして磁性キャリアを用いるのが好ましい。
【0085】
本発明の静電荷像現像用トナー粒子を2成分現像剤とする場合の好適なキャリアとしては、キャリア芯材が樹脂により被覆されたものを挙げることができる。
【0086】
キャリア芯材としては、例えば、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、コバルトのような粒子や、これらの材料とマンガン、亜鉛、アルミニウム等との合金の粒子、鉄-ニッケル合金、鉄-コバルト合金のような粒子、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、ニオブ酸リチウムのようなセラミックスの粒子、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、ロッシェル塩のような高誘電率物質の粒子、樹脂中に上記磁性粒子を分散させた樹脂キャリアを挙げることができる。
【0087】
キャリアを被覆する樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、スチレン-(メタ)アクリル系共重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、アミノ樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0088】
キャリアの粒子径は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、電子顕微鏡により測定される粒子径で、20μm以上200μm以下が好ましく、30μm以上150μm以下がより好ましい。
【0089】
キャリアの見掛け密度は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。見掛け密度は、キャリアの組成や表面構造によって異なるが、典型的には、2400kg/m以上3000kg/m以下が好ましい。
【0090】
本発明の静電荷像現像用トナーを2成分現像剤として用いる場合、トナーの含有量は、2成分現像剤の質量に対して、1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下が好ましい。2成分現像剤におけるトナーの含有量をかかる範囲とすることにより、形成画像の画像濃度を所望する濃度に維持したり、トナー飛散の抑制によって画像形成装置内部のトナーによる汚染や転写被記録媒体等へのトナーの付着を抑制したりできる。
【0091】
<<静電荷像現像用トナー粒子の製造方法>>
以上説明した静電荷像現像用トナーの製造方法は、トナー母粒子と樹脂皮膜とが、それぞれ所定の構造となるように形成される限り特に限定されない。また、必要に応じて、樹脂皮膜で被覆されたトナー母粒子の表面に、外添剤を付着させる外添処理を施すことができる。以下に、静電荷像現像用トナーの好適な製造方法として、トナー母粒子の製造方法と、樹脂皮膜の形成方法と、外添処理方法とを詳述する。
【0092】
<トナー母粒子の製造方法>
トナー母粒子を製造する方法は、結着樹脂中に着色剤、離型剤、電荷制御剤、磁性粉のような任意の成分を良好に分散できる限り特に限定されない。トナー母粒子の好適な製造方法の具体例としては、結着樹脂と、その他添加剤とを混合機等により混合した後、一軸又は二軸押出機等の混練機により結着樹脂と結着樹脂に配合される成分とを溶融混練し、冷却された混練物を粉砕・分級する方法が挙げられる。トナー母粒子の平均粒子径は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、一般的には2μm以上15μm以下が好ましい。また、トナー母粒子の混錬物を粉砕したのち、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、球形化処理を施すことができる。
【0093】
<樹脂皮膜の形成方法>
樹脂皮膜は、樹脂微粒子を用いて形成される。そして、より具体的には、樹脂微粒子を、トナー母粒子の表面に衝突させ、トナー母粒子の表面に付着させて、樹脂微粒子の表面を被覆する樹脂微粒子層を形成する工程により形成されている。
【0094】
樹脂微粒子により樹脂皮膜を形成させる方法としては、公知の方法を用いることが可能であり、乾式条件又は湿式条件で、トナー母粒子と樹脂微粒子とを混合できる混合装置を用いた方法とすることができる。具体例には、トナー母粒子の表面に樹脂微粒子を付着させつつ、表面に樹脂微粒子が付着したトナー母粒子に対して機械的外力を与えることができる混合装置を用いて、トナー母粒子の表面に樹脂皮膜を形成させる方法が挙げられる。機械的外力としては、混合装置内の狭小な空間をトナー母粒子が高速で移動する際に、トナー母粒子同士のずりや、トナー母粒子と、装置内壁、ローター、又はステーター等との間に生じるずりによって、トナー母粒子に与えられる剪断力や、トナー母粒子同士の衝突又はトナー母粒子の装置内壁等との衝突等によって、トナー母粒子に与えられる撃力が挙げられる。
【0095】
より具体的には、混合装置内で、トナー母粒子と、樹脂微粒子とを、混合することによって、トナー母粒子の表面に、樹脂微粒子を衝突させ、付着させる。トナー母粒子の凹部上に付着した樹脂微粒子(皮膜上になっている場合もある)は、凹部上で、後続する樹脂微粒子とさらに衝突し、凹部上から排出されることなく、衝突のエネルギーによる溶融により一体化、又は、積層され、50nm以上500nm以下の皮膜に厚膜化する(皮膜(B)部)。一方、トナー母粒子の凹部以外に付着した樹脂微粒子は、後続する樹脂微粒子が、先に付着した皮膜に対して、付着と、研削を繰り返して、10nm以上50nm未満の皮膜を形成する(皮膜(A)部)。
【0096】
上記方法では、機械的外力が強いと、樹脂微粒子の変形が大きくなりすぎるため、樹脂皮膜表面を形成できない場合がある。樹脂皮膜の形成に用いる装置や材質によって、所定の凹凸を有する樹脂皮膜を形成するための条件は異なるが、樹脂微粒子により被覆されたトナー母粒子に与えられる機械的外力が強くなりすぎないように、段階的に運転条件を変更し、各条件で得られるトナーの樹脂皮膜の構造を確認することによって、種々の装置についての、所定の樹脂皮膜を形成するための好適な条件を定めることができる。
【0097】
樹脂微粒子の使用量は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されない。樹脂微粒子の使用量は、典型的には、トナー母粒子100質量部に対して1質量部以上20質量部以下が好ましく、3質量部以上15質量部以下がより好ましい。樹脂微粒子の使用量がかかる範囲にある場合には、トナー母粒子の表面を全て被覆することができ、高温保存時に凝集しづらくすることができ、耐熱保存性が向上する。
【0098】
樹脂微粒子によりトナー母粒子を被覆しつつ、樹脂微粒子により被覆されたトナー母粒子に対して機械的外力を与えることができる装置としては、例えば、ハイブリダイザーNHS-1(株式会社奈良機械製作所製)、コスモスシステム(川崎重工業株式会社製)、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)、マルチパーパスミキサー(日本コークス工業株式会社製)、コンポジ(日本コークス工業株式会社製)、メカノフュージョン装置(ホソカワミクロン株式会社製)、メカノミル(岡田精工株式会社製)、ノビルタ(ホソカワミクロン株式会社製)等が挙げられる。
【0099】
<外添処理方法>
外添剤による静電荷像現像用トナー粒子の処理方法は特に限定されず、従来知られている方法に従って静電荷像現像用トナー粒子を処理できる。具体的には、外添剤の粒子が静電荷像現像用トナー粒子中に埋没しないように処理条件を調整し、ヘンシェルミキサーやナウターミキサーのような混合機によって、外添剤による静電荷像現像用トナー粒子の処理を行うことができる。
【0100】
<<静電荷像現像用トナー粒子の用途>>
以上説明した、本発明の静電荷像現像用トナー粒子は、定着性、及び耐熱保存性に優れているので、種々の画像形成装置において好適に使用できる。
【実施例
【0101】
<<<静電荷像現像用トナー粒子の製造>>>
各実施例及び比較例の静電荷像現像用トナー粒子は、以下の方法で調整した。各実施例及び比較例に用いた樹脂微粒子の粒子径及び粒子径の標準偏差を表2に示した。また、作製した各実施例及び比較例の静電荷像現像用トナー粒子における、皮膜(A)部の被覆率、皮膜(B)部の被覆率及び静電荷像現像用トナー粒子を覆う樹脂皮膜全体の被覆率(静電荷像現像用トナー粒子におけるトナー母粒子を被覆する樹脂皮膜の被覆率)を表2に示した。なお、これらの数値の測定は、上述の方法を用いて行った。
【0102】
<<実施例1>>
トナー母粒子原料(ポリエステル樹脂、ワックス、カーボンブラック、電荷制御剤)を表1に記載の重量部で混合し、市販の押出機で熱溶融混練処理を行った。処理後の混合物をハンマーミルで粗粉砕の後、ジェットミルで微粉砕し、気流分級機で平均粒子径を8μmに分級してトナー母粒子を得た。得られたトナー母粒子は、50nm以上500nm以下の凹部を有していた。
得られたトナー母粒子と、樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂:平均粒子径40nm、粒子径の標準偏差0.11)を攪拌した後、混合装置内でトナー母粒子に対してスチレンアクリル樹脂を衝突させ、得られた粒子にシリカを外添し、本発明にかかるトナー粒子を得た。得られたトナー母粒子の深さが50nm以上500nm以下である凹部上には、皮膜(B)部が形成されているものが含まれていることが確認された。実施例1のトナー粒子は、皮膜(B)部の割合(皮膜(B)部の被覆率)が、樹脂皮膜全体に対して35%であった。各実施例及び比較例の皮膜(B)部の被覆率の測定は上述した方法で測定した。また、樹脂皮膜のうち、前記皮膜(B)部以外は、全て皮膜(A)部であった。さらに、皮膜(B)部は、樹脂が層状に積層した樹脂皮膜であり、積層方法としては、トナー母粒子の表面から離隔する方向に積層されていた。
【0103】
<<実施例2>>
樹脂微粒子(アクリル樹脂)を8重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2のトナー粒子を得た。実施例2のトナー粒子は、皮膜(B)部の割合が、樹脂皮膜全体に対し56%であった。また、樹脂皮膜のうち、前記皮膜(B)部以外は、全て皮膜(A)部であった。さらに、皮膜(B)部は、樹脂が層状に積層した樹脂皮膜であり、積層方法としては、トナー母粒子の表面から離隔する方向に積層されていた。
【0104】
<<実施例3>>
トナー母粒子原料(ポリエステル樹脂)をスチレンアクリル樹脂に変更し、各原料の重量部を表1に記載の値に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3のトナー粒子を得た。実施例3のトナー粒子は、皮膜(B)部の割合が、樹脂皮膜全体に対して35%であった。また、樹脂皮膜のうち、前記皮膜(B)部以外は、全て皮膜(A)部であった。さらに、皮膜(B)部は、樹脂が層状に積層した樹脂皮膜であり、積層方法としては、トナー母粒子の表面から離隔する方向に積層されていた。
【0105】
<<実施例4>>
樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂)をアクリル樹脂(平均粒子径40nm、粒子径の標準偏差0.12)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例4のトナー粒子を得た。実施例4のトナー粒子は、皮膜(B)部の割合が、樹脂皮膜全体に対して35%であった。また、樹脂皮膜のうち、前記皮膜(B)部以外は、全て皮膜(A)部であった。さらに、皮膜(B)部は、樹脂が層状に積層した樹脂皮膜であり、積層方法としては、トナー母粒子の表面から離隔する方向に積層されていた。
【0106】
<<実施例5>>
樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂)の重量部を表1に記載の値に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5のトナー粒子を得た。実施例5のトナー粒子は、皮膜(B)部の割合が、樹脂皮膜全体に対して70%であった。また、樹脂皮膜のうち、前記皮膜(B)部以外は、全て皮膜(A)部であった。さらに、皮膜(B)部は、樹脂が層状に積層した樹脂皮膜であり、積層方法としては、トナー母粒子の表面から離隔する方向に積層されていた。
【0107】
<<実施例6>>
粒子径の標準偏差を篩によって低減させた樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂:平均粒子径40nm、粒子径の標準偏差0.06)を用いた以外は、実施例1と同様にして本発明にかかるトナー粒子を得た。実施例1のトナー粒子は、皮膜(A)部及び皮膜(B)部との割合は共に50%であった。
【0108】
<<実施例7>>
粒子径の標準偏差を篩によって低減させた樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂:平均粒子径40nm、粒子径の標準偏差0.147)を用いた以外は、実施例1と同様にして本発明にかかるトナー粒子を得た。実施例1のトナー粒子において、樹脂皮膜全体に対する皮膜(A)部及び皮膜(B)部の割合は、67%及び33%であった。
【0109】
<<実施例8>>
粒子径の標準偏差を篩によって低減させた樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂:平均粒子径40nm、粒子径の標準偏差0.135)を用いた以外は、実施例1と同様にして本発明にかかるトナー粒子を得た。実施例1のトナー粒子において、樹脂皮膜全体に対する皮膜(A)部及び皮膜(B)部の割合は、66%及び34%であった。
【0110】
<<比較例1>>
樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂)の重量部を表1に記載の値に変更した以外は、実施例1と同様にしてトナー粒子を得た。比較例1のトナー粒子は、樹脂微粒子が少ないため、皮膜(B)部が形成されなかった(すなわち50nm以上の樹脂皮膜が形成されなかった)。
【0111】
<<比較例2>>
実施例1と同様にして得たトナー母粒子100重量部に対して、メチロールメラミンが1重量部、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体が4重量部となるように、攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコに、イオン交換水を加え、ウォーターバスを用いてフラスコの内温を30℃に保持し、攪拌した。フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内の水溶液のpHを4に調整した。pHを調整した後、メチロールメラミン水溶液(固形分濃度80質量%)、及びスチレン-アクリル酸ブチル共重合体(疎水性熱可塑性樹脂)の微粒子分散液を加えて混合液を調製した。
上記混合液の中に実施例1の手法で得たトナー母粒子100重量部を加えた。混合物を撹拌後70℃まで昇温し、2時間撹拌を続けた。その後フラスコ内の水溶液のpHを7に調整するため、水酸化ナトリウムを加えて反応を停止させた。フラスコ内を常温まで冷却し、樹脂被覆層を持ったトナー分散液を得た。
得られたトナー分散液を濾過し、トナーケーキを得た。得られたトナーケーキは、水による洗浄処理と、洗浄されたトナーケーキを乾燥する乾燥処理を行った。乾燥したトナー表面に外添剤を付着させる外添処理を経て、重合法による樹脂皮膜形成工程を利用したトナーが製造した。
比較例2のトナー粒子の断面を観測したところ、ほぼ均一な樹脂被覆層が形成されており、樹脂皮膜の厚さが100nmであるトナーが得られた(即ち、皮膜(A)部が形成されていなかった)。さらに、樹脂皮膜は、単層の樹脂層であった。
【0112】
<<比較例3>>
メチロールメラミン水溶液が2重量部、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体が8重量部となるように変更した以外は比較例2と同様にして、比較例3のトナー粒子を得た。比較例3で得られたトナー粒子の断面には、ほぼ均一な樹脂皮膜が形成されており、樹脂層の厚さは250nmであるトナーが得られた(即ち、皮膜(A)部が形成されていなかった)。さらに、樹脂皮膜は、単層の樹脂層であった。
【0113】
<<比較例4>>
樹脂皮膜材料を使用せず、得られたトナー母粒子に対してシリカを外添した以外は実施例1と同様にして、比較例4のトナー粒子を得た。
【0114】
<<比較例5>>
実施例1の樹脂微粒子を、粒子径の標準偏差が大きい樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂:平均粒子径38nm、粒子径の標準偏差0.19)に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー粒子を得た。得られたトナー粒子において、皮膜(B)部は形成されておらず、皮膜(A)部だけが形成されていた。
【0115】
<<比較例6>>
実施例1の樹脂微粒子を、粒子径の標準偏差が大きい樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂:平均粒子径41nm、粒子径の標準偏差0.23)に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー粒子を得た。比較例と同様に得られたトナー粒子において、皮膜(B)部は形成されておらず、皮膜(A)部だけが形成されていた。
【0116】
<<物性値測定>>
各実施例及び比較例の原料について、以下の測定方法により各物性値を測定した。結果を表1に示した。
<ガラス転移温度Tgの測定方法>
原料であるトナー母粒子及び樹脂微粒子を約10mg計量してアルミ製セルに入れて、示差走査熱量測定装置(セイコー電子工業社製 SSC-5200)に載置し、1分間に50ミリリットルのNガスを吹き込んだ。そののち、20~150℃の間を1分間あたり10℃の割合で昇温させ、次に150℃から20℃に急冷させる過程を2回繰り返し、2回目の吸収熱量を測定し、そのピークの温度をガラス転移温度とした。各実施例及び比較例の原料についても、同様に測定するものとする。
【0117】
<軟化点測定>
軟化点をフロー軟化点として、以下の測定装置、測定条件で測定した。フロー軟化点は、測定装置のプランジャーの降下開始から終了までの移動距離の中間の温度として測定した。得られた各試料を2.0g計量し、ダイに投入し測定した。
測定機:島津製作所製 高化式フローテスターCF-500
測定条件:プランジャー:1cm
ダイの直径 :1mm
ダイの長さ :1mm荷重 :20KgF
予熱温度 :50~80℃
予熱時間 :300sec
昇温速度 :6℃/min
【0118】
<粒子径の標準偏差>
樹脂微粒子の粒子径の標準偏差は、樹脂微粒子をEP水で2.5wt%に希釈したものを10分間超音波分散し、レーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-2300によって測定した。
【0119】
<<<評価>>>
各実施例及び比較例の評価を以下の方法で行った。結果を表1に示した。
【0120】
<<耐熱保管性>>
各実施例及び比較例のトナー粒子10gを、それぞれ容量200mLのポリ容器に投入し、50℃に設定された恒温恒湿器(エスペック株式会社製「PH―3KT」)に50時間静置させ、取り出した。次に、目開き150μm、目開き75μm、目開き45μmの3種類の篩を順にパウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製 PT―S)に取り付けた後、目開き150μmの篩上にトナー粒子2gを投入した。レオスタッド目盛り2、時間10秒の条件で、トナー粒子を篩別し、篩上に残留したトナーの重量を測定し、下記式からa、b、c、及び、凝集度を算出した。
また、上記手法にて静置温度を50℃から室温(25℃)に変更したトナー粒子についても凝集度を算出した。得られ二つの凝集度の差異を耐熱保管性とした。
凝集度(質量%)=a+b+c
a=(目開き150μmの篩上の残存トナー重量/2)×100
b=(目開き75μmの篩上の残存トナー重量/2)×100×(3/5)
c=(目開き45μmの篩上の残存トナー重量/2)×100×(1/5)
評価基準は、以下とした。
◎:二つの凝集度の差が5%以下
○:二つの凝集度の差が5%超10%以下
×:二つの凝集度が10%超
【0121】
<<定着性>>
表層がテフロン(登録商標)で形成された熱定着ロールと、表層がシリコーンゴムで形成された圧力定着ロールが対になって回転する定着機をロール圧力が1Kg/cm及びロールスピードが50mm/secになるように調節し、該熱定着ロールの表面温度を段階的に変化させて、各表面温度において上記未定着画像を有した転写紙のトナー像の定着をおこなった。
前記定着機の熱定着ロールの表面温度を120℃に設定し、前記未定着画像が形成された転写紙のトナー像の定着をおこなった。そして、形成された定着画像の画像濃度を、反射濃度計(マクベス社製、商品名:RD―914)を使用して測定した後、該定着画像に対して綿パッド(ダイニック社製商品名PPCパッド)による摺擦を施し、ついで同様にして画像濃度を測定した。得られた測定値から下記式によって定着強度を算出し定着性の評価を行った。
定着強度(%)=(摺擦後の定着画像の画像濃度/摺擦前の定着画像の画像濃度)×100
評価基準は、以下とした。
◎:定着強度が80%以上
○:定着強度が70%以上80%未満
△:定着強度が60%以上70%未満
×:定着強度が60%未満
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【符合の説明】
【0124】
10 静電荷像現像用トナー粒子
11 トナー母粒子
12 樹脂皮膜
13 凹部
14 凸部
15 平坦部
16 皮膜(B)部
17 皮膜(A)部
図1