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特許7214080新型コロナウイルス感染症の予防又は治療のための抗ウイルス剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】新型コロナウイルス感染症の予防又は治療のための抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/17 20060101AFI20230123BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230123BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230123BHJP
【FI】
A61K36/17
A61P31/14
A23L33/105
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022517226
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2021036413
(87)【国際公開番号】W WO2022071576
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2020167897
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」「感染初期のCOVID-19患者の重症化を防止する新規生薬エキス製剤の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】597128004
【氏名又は名称】国立医薬品食品衛生研究所長
(73)【特許権者】
【識別番号】510318332
【氏名又は名称】学校法人松山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】595132360
【氏名又は名称】株式会社常磐植物化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003665
【氏名又は名称】株式会社ツムラ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】花輪 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】日向 須美子
(72)【発明者】
【氏名】小田口 浩
(72)【発明者】
【氏名】合田 幸広
(72)【発明者】
【氏名】日向 昌司
(72)【発明者】
【氏名】上間 匡
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】内山 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】天倉 吉章
(72)【発明者】
【氏名】好村 守生
(72)【発明者】
【氏名】楊 金緯
(72)【発明者】
【氏名】溝口 和臣
【審査官】鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-131536(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111358892(CN,A)
【文献】国際公開第2015/076286(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0501831(KR,B1)
【文献】YAKUGAKU ZASSHI, 2017, Vol.137, No.2, pp.167-171
【文献】J. Ethnopharmacol., 2021.6 Epub., Vol.278, #114303
【文献】Analytical & Bioanalytical Chemistry, 2021.2 Epub., Vol.413, No.11, pp.2995-3004
【文献】小川恵子,特別寄稿 COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂 ver 2),一般社団法人日本感染症学会ホームページ, お知らせ, 2020.4, [retrieved on 2021-10-22],<https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/news/gakkai/covid19_tokubetu2_0421.pdf>
【文献】J. Nat. Med., 2016, Vol.70, pp.571-583
【文献】Chem. Pharm. Bull., 2020.2, Vol.68, pp.140-149
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/17
A61P 31/14
A23L 33/105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドを除いたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤であって、
該エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、麻黄の熱水抽出液/または熱水抽出物の水溶液を酸性陽イオン交換樹脂に通液し、吸着されずに通過した画分を集めることにより得られるものであり、エフェドリンアルカロイドの含量が0.23%以下である、前記抗ウイルス剤。
【請求項2】
医薬品製剤又は漢方製剤の形態である、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
食品の形態である、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
新型コロナウイルスの増殖を抑制する、請求項1~のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のACE2への結合を阻害する、請求項1~のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを含む新型コロナウイルス感染症の予防のための食品であって、
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、麻黄の熱水抽出液/または熱水抽出物の水溶液を酸性陽イオン交換樹脂に通液し、吸着されずに通過した画分を集めることにより得られるものであり、エフェドリンアルカロイドの含量が0.23%以下である、前記食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麻黄エキス、麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドを除いたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(Ephedrine alkaloids-free Ephedra Herb extract: EFE)、及び/又は、麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界的な感染拡大が生じており、その予防法及び治療法の確立が喫緊の課題となっている。このような背景から、様々な既存の医薬品からCOVID-19の治療に有効であるものを早急に見出す研究が進められている。しかしながら、コロナウイルス以外のウイルスに対して有効性が確認されている薬剤であっても、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して有効であるかは、容易に予想できず、感染機構に基づいた分子レベルや細胞レベルでの評価実験によって有効性を検証する必要がある。
【0003】
現在までに、日本国内で承認されている治療薬を以下の表に示す(非特許文献1:新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第5.3版, 2021年8月29日/日刊薬業 2021年9月27日)。抗体医薬品のロナプリーブとゼビュディ以外は、中等症以上の患者に対する治療薬である。ロナプリーブとゼビュディは、点滴静注のため、治療できる医療機関に制限があり、薬価も10万円以上すると言われており、抗体のために増産も難しい。このため、自宅療養中の軽症者に安全かつ安価に投与できる経口治療薬が求められている。
【0004】
【表1】
【0005】
漢方薬は、複数の生薬を組み合わせた漢方処方のエキスであり、伝統的に様々な疾病の治療に用いられてきた。漢方薬の適用は、現代医学とは異なる漢方医学的概念に基づいて処方されている。したがって、COVID-19に対する漢方治療が期待されている。このような背景から、漢方医学的概念に加え、これまでの知見を踏まえ、いくつかの漢方薬が候補薬として提案されている(非特許文献2、非特許文献3)。しかしながら、具体的なエビデンスは無く、可能性の提示に留まっている。また、中国で伝統的に使用されている複数の生薬のエキスである中医薬、清肺排毒湯について、候補薬となることが提案されている(非特許文献2、非特許文献4)。しかしながら、清肺排毒湯は抗ウイルス剤としての作用機序は不明であり、すべての生薬、あるいは、特定の複数の生薬の組み合わせで効果を示すのか、特定の生薬エキス単独でも有効であるかについては報告されていない。
【0006】
上述したように、生薬は漢方薬等の伝統薬として用いられている。生薬は、路地での栽培、あるいは、自生しているものを収穫し、乾燥して用いている。したがって、同じ種であっても、採取季節や天候等の不確定因子の影響を受け、成分含量が変動することがある。抗ウイルス作用を有する生薬や漢方薬等を経験的に用いることは可能であるが、採取されたロットの力価は不確定であるため、効能効果を標榜した医薬品として提供するためには、適切な試験を実施し、適切な規格に適合していることを確認しなければならない。
【0007】
麻黄は、日本薬局方に収載されている医薬品であり、その薬効は、ほとんど全てエフェドリンアルカロイドに起因するものと信じられてきた。しかし、発明者らは、麻黄に、エフェドリンアルカロイドに依存しない有用な薬効を見出だし、副作用の原因物質であるエフェドリンアルカロイドを選択的に除去することで、安全性の高い医薬品として麻黄エキスを提供できるとの発想に至り、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの抗がん・抗転移薬、疼痛抑制薬、抗インフルエンザウイルス薬としての用途を示してきた(特許文献1、非特許文献5)。さらに、発明者は、重量平均分子量45,000以上の麻黄由来高分子縮合型タンニンがこれらの薬効に関与していることを明らかにしている(特許文献2、非特許文献6)。
【0008】
このように、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、麻黄由来高分子縮合型タンニンは、いくつかの薬効を有することが示されているが、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用は報告がない。また、これまでの知見から抗新型コロナウイルス作用を示すか、当業者であっても不明であった。
【0009】
しかし、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、麻黄由来高分子縮合型タンニンが、抗コロナウイルス作用を有していることが明らかとなれば、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗コロナウイルス剤として提供できる。また、主たる薬効成分を定量する方法を開発することで、麻黄エキスやエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスだけでなく、経験的に新型コロナウイルス感染症の治療に用いられている麻黄を含有する漢方薬についても、構成生薬として用いている麻黄の抗ウイルス作用を担保した医薬品として提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2015/076286(特願2015-549167号)
【文献】特開2019-131536号
【非特許文献】
【0011】
【文献】新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第5.3版, 2021年8月29日
【文献】渡辺賢治、金成俊、柴山周乃、劉建平、賈立群、金、顔宏融、[緊急寄稿]新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割、週刊日本医事新報 5008号、p44(2020年04月18日発行)
【文献】小川恵子、(特別寄稿)COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂第2版)、(一財)日本感染症学会ウエブサイト、http://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=147
【文献】有田龍太郎、▲高▼山真、石沢興太、石井正、中国における COVID-19 に対する清肺排毒湯の報告、(一財)日本感染症学会ウエブサイト、http://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=147
【文献】Oshima N, Yamashita T, Hyuga S, Hyuga M, Kamakura H, Yoshimura M, Maruyama T, Hakamatsuka T, Amakura Y, Hanawa T, Goda Y, Efficiently prepared ephedrine alkaloids-free Ephedra Herb extract: a putative marker and antiproliferative effects. J Nat Med. 2016; 70: 554-62.
【文献】Yoshimura M, Amakura Y, Hyuga S, Hyuga M, Nakamori S, Maruyama T, Oshima N, Uchiyama N, Yang J, Oka H, Ito H, Kobayashi Y, Odaguchi H, Hakamatsuka H, Hanawa T, Goda Y, Quality Evaluation and Characterization of Fractions with Biological Activities in Ephedra Herb Extract and Ephedrine Alkaloids-Free Ephedra Herb Extract. Chem Pharm Bull. 2020; 68(2): 140-149.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明には、既存薬や医薬品候補組成物の抗コロナウイルス作用について、コロナウイルスの感染機構に基づいた分子レベルや細胞レベルでの評価実験による検証が必要である。
【0014】
本発明者らは、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いることができる有用な組成物として、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、麻黄由来高分子縮合型タンニンについて、新型コロナウイルスの感染機構に基づいた分子レベルや細胞レベルでの評価実験を行った結果、抗新型コロナウイルス作用を有することを見出し、さらに、抗新型コロナウイルス作用の主成分である高分子縮合型タンニンをゲル浸透クロマトグラフィーで分離する技術で有効性を担保する方法を見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、代表的な態様として、以下の(1)~(11)を提供するものである。
(1)麻黄エキスを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤。
(2)麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドを除いたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤。
(3)麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤。
(4)医薬品製剤又は漢方製剤の形態である、上記の抗ウイルス剤。
(5)食品の形態である、(2)又は(3)に記載の抗ウイルス剤。
(6)エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスまたは麻黄由来高分子縮合型タンニンを含む飲食物を経口的に摂取させることを含む、新型コロナウイルス感染症の予防のための方法(望ましくは、医療行為を除く)。
(7)麻黄エキスまたはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスまたは麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分として含有する医薬品を対象に投与することを含む、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療のための方法。
(8)高分子縮合型タンニンをゲル浸透クロマトグラフィーで定量することにより、上記(1)~(5)に記載の組成物の抗ウイルス剤としての有効性を担保する方法。
(9)麻黄エキスが高分子縮合型タンニンを0.01%以上含む、(1)の抗ウイルス剤。
(10)エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスが高分子縮合型タンニンを0.01%以上含む、(2)の抗ウイルス剤。
(11)他のCOVID-19治療薬を対象に投与することをさらに含む、(6)または(7)の方法。
【発明の効果】
【0016】
本願発明により、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)、及び、高分子縮合型タンニンを抗新型コロナウイルス剤として提供できることが明らかとなった。また、抗新型コロナウイルス作用の主成分が分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンであることが明らかとなり、抗ウイルス剤としての有効性を担保するゲル浸透クロマトグラフィーによる定量法が確立できた。
【0017】
既に述べたように、COVID-19の患者に安全かつ安価に投与できる経口治療薬が求められている。2021年9月現在、世界で開発中の経口治療薬を以下の表に示す。
【0018】
【表2】
【0019】
EFE以外の治療薬はRNAポリメラーゼ阻害剤とメインプロテアーゼ阻害剤であり、EFEと同じ作用機序の経口治療薬はない。EFEはロナプリーブ及びゼビュディと同じ作用機構で、SARS-CoV2のスパイクタンパク質に結合して、宿主細胞への結合を阻止する。上の表の経口治療薬がEFEよりも先に医薬品化されても、作用機序が異なるため、EFEとの併用も可能である。また、経口治療薬は患者が自宅で服用するために、安全性が最も重要であるが、EFEは副作用成分を除去しているため安全性が高い。さらにロナプリーブやゼビュディよりも安価に供給でき、EFEの作用機序から、医療従事者、濃厚接触者や、ワクチン接種ができない者に対する予防的投与が可能であると考えられる。最近、EFEがSARS-CoV-2の変異株に対しても有効であることが明らかになった。実施例で示すように、EFEはSARS-CoV-2の様々な変異株の感染を阻害する。したがって、新たに出現する変異への脅威にも対応が可能である。
【0020】
FEFの有効成分は高分子縮合型タンニンの混合物(麻黄由来高分子縮合型タンニン)であると考えられ、多様な構造と多様な分子量を有している。発明者らは、理論に拘束される意図はないが、このように多様な構造と多様な分子量を持つことが、麻黄エキスまたはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)または麻黄由来高分子縮合型タンニンの様々な薬効(抗がん・抗転移薬、疼痛抑制薬、抗インフルエンザウイルス薬としての用途)の理由であろうと考えている。本発明者らは、EFEおよび麻黄由来高分子縮合型タンニンがインフルエンザウイルスの感染阻害作用を奏することを確認している。インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスの構造の差異の方が、新型コロナウイルスの変異よりも大きいが、どちらのウイルスも阻害できることを考えると、EFEや麻黄由来高分子縮合型タンニンは、将来的に出現する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異に対しても幅広く対応可能であると期待される。
【0021】
以上のことから、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び/又は、麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分とする医療用または一般用医薬品である抗新型コロナウイルス剤を新型コロナウイルス感染症の治療に用いることで、入院管理を必要とせず、自宅や宿泊施設療養中の感染初期の軽症患者の重症化を抑制することが可能である。
【0022】
また、抗新型コロナウイルス剤を一般用医薬品として提供できるため、医療従事者や濃厚接触者がセルフメディケーションによる早期の予防的治療が可能となる。さらに、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスや麻黄由来高分子縮合型タンニンは、副作用成分であるエフェドリンアルカロイドを含まないため、食薬区分上、食品としての利用が可能であるため、新型コロナウイルス感染症の予防を期待した保健機能食品として提供することもできる。
【0023】
さらに、麻黄を含有する漢方薬をはじめ、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、高分子縮合型タンニンについて、抗新型コロナウイルス剤としての有効性を担保する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】新型コロナウイルス感染細胞に対するエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加によるウイルスコピー数の影響を示すグラフである。VeroE6/TMPRSS2細胞における新型コロナウイルスのN1 RNAコピー数について、コントロール条件(黒丸)及びエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加条件(三角)の挙動を示す。 x軸:ウイルス接種後の経過時間 y軸:SARS-CoV-2 RNAコピー数。
図2】新型コロナウイルス変異株に対するエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの感染阻害効果を示す。
図3】新型コロナウイルスの感染に関連するスパイクタンパク質のS1ドメインに対するエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス成分の結合を示すセンサーグラムである。実測値(実線)にフィッティングする結合モデルによる予測値(破線)を示した。
図4】新型コロナウイルス感染に関わるスパイクタンパク質に対する麻黄由来高分子縮合型タンニンの結合を示すセンサーグラムである。400 nM、200 nM、及び100 nM高分子縮合型タンニンについて、各実測値(実線)にフィッティングする結合モデルによる予測値(各破線)を示した。
図5】麻黄由来高分子縮合型タンニン(EMCT)による新型コロナウイルスのスパイクタンパク質とACE2の結合阻害作用を示すグラフである。50%結合阻害濃度(IC50)は、4パラメーターロジスティック回帰の結果(実線)、3 μg/mLと算出された。
図6】MHV感染5日目の右肺のウイルス量を示す。
図7】MHV感染5日目の呼吸状態を示す。
図8】プロアントシアニジンAタイプ及びプロアントシアニジンBタイプの構造及びその構成ユニットの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療用の抗ウイルス剤として、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、麻黄由来高分子縮合型タンニンを使用すること、及び、これらを有効成分として含む医薬品や食品等の組成物を提供する。
【0026】
麻黄エキスの製造
本発明に用いられる麻黄エキスは、マオウ科植物Ephedra sinica Stapf、Ephedra intermedia Schrenk et C. A. MeyerまたはEphedra equisetina Bunge (Ephedraceae)の地上茎を用いる。生、乾燥もしくは地上茎を加工したものを利用できる。麻黄エキスの抽出工程は、周知の方法のいずれかに基づいて行なうことができる。抽出溶媒としては、水または温水、熱水、アルコール系溶媒、およびアセトンなどその他の有機溶媒を用いることができる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールなどを例示することができる。これらの溶媒は単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0027】
抽出溶媒の量は麻黄の乾燥重量に対して、2-100重量部、4-50重量部、または8―25重量部であることが好ましい。抽出温度は4-98℃が好ましい。抽出時間は30分-2時間が好ましい。抽出方法は攪拌抽出、浸漬抽出、向流抽出、超音波抽出、超臨界抽出などの任意の方法で行うことができる。一態様において、抽出溶媒は水であり、そして、麻黄エキスは、麻黄の熱水抽出液および/または熱水抽出物であることができる。麻黄の熱水抽出液および/または熱水抽出物は、麻黄の乾燥原料に対して、2-100重量部、4-50重量部、または8-25重量部、または約10重量部の熱水(例えば、約95℃)で、30分-2時間抽出することにより得られる。
【0028】
得られた抽出液、または抽出液を濾過し得られた濾液、もしくは濾液を濃縮した濃縮液、濃縮液を乾燥して得られる乾燥物は、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスあるいは麻黄由来高分子縮合型タンニンの製造の原料として用いることができる。
【0029】
また、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤を用途としての麻黄エキス原薬や漢方薬原料エキスとして用いる場合、後述の分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを0.01%以上含むことが好ましく、0.1%以上含むことがさらに好ましい。そのような、分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを0.01%以上または0.1%以上含むことが示された麻黄エキスも本発明の範囲内である。
【0030】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造
本発明に用いられるエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、麻黄エキスを原料とし、陽イオン交換クロマトグラフィーによってエフェドリンを除去し、濃縮乾燥を経て、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを得ることができる。
【0031】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドを除いたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスであり、エフェドリンアルカロイド(エフェドリンとプソイドエフェドリンの合計)を0.23%以下の量で含むものが好ましく、より好ましくはエフェドリンアルカロイドを0.023%以下の量で含むものであり、さらに好ましくは0.05ppm(検出限界)以下の量で含む。
【0032】
日本薬局方では、麻黄は生薬の乾燥物に対し,総アルカロイド(エフェドリン及びプソイドエフェドリン)を0.7%以上含むと規定されており、この量は麻黄エキスで換算した場合、約2.3%~3.5%以上含むものと計算されるので、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは麻黄エキスと明確に区別される。
【0033】
なお、上記の麻黄エキス中の総アルカロイド含量の換算は、「漢方の主張―現代科学と漢方製剤」(成川一郎、p162-163、(株)健友館、1991年発行)及び参考例1から求められる。日本薬局方の麻黄から麻黄エキスを作製すると、麻黄に含まれるエフェドリンアルカロイドは、ほぼ全て麻黄エキスへ移行する。しかし、麻黄から得られる麻黄エキスの収率は20%から30%になるため、麻黄エキスに含まれる総アルカロイドは、3.3倍~5倍に濃縮される。したがって、日本薬局方で規定される麻黄の総アルカロイドである「0.7%以上」を3.3倍~5倍にした数値2.3%~3.5%以上が麻黄エキスの総アルカロイドの規定値となる。本発明に用いられるエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、エフェドリンアルカロイド含量を、麻黄エキスの10分の1以下とすることで、エフェドリンアルカロイドの副作用の出現の可能性が極めて少ないであろうと考えられる。
【0034】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造に適した陽イオン交換カラムは、エフェドリンアルカロイドの除去効率に応じ、充填剤を選択することができる。エフェドリンアルカロイド含量が0.23%以下のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造には、弱酸性陽イオン交換樹脂WK20、強酸性陽イオン交換樹脂SK104、SK110、SK1B、UBK530、PK216、IR120B、FPC3500、1060Hの中からカラム充填剤として選択することができる。エフェドリンアルカロイド含量が0.023%以下のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス製造には、弱酸性陽イオン交換樹脂WK20、強酸性陽イオン交換樹脂SK104、SK110、SK1B、UBK530、PK216、IR120B、1060Hの中からカラム充填剤として選択することができる。さらに、エフェドリンアルカロイド含量が0.05ppm以下のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造には、強酸性陽イオン交換樹脂PK216をカラム充填剤として選択できるほか、強酸性陽イオン交換樹脂SK1B、IR120Bも選択することができる。
【0035】
また、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤を用途としてのエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス原薬として用いる場合、後述の分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを0.01%以上含むことが好ましく、0.1%以上含むことがさらに好ましい。そのような、分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを0.01%以上または0.1%以上含むことが示されたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスも本発明の範囲内である。
【0036】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造において、クロマトグラフィーの具体的な実施方法は、当業者に周知な方法のいずれかによる。乾燥方法は、減圧乾燥、凍結乾燥、スプレー乾燥などの任意の方法で行うことができる。必要な場合にはデキストリンなどの賦形剤を入れてもよい。
【0037】
麻黄由来高分子縮合型タンニンの製造
本発明の麻黄由来高分子縮合型タンニンは、分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンで、プロアントシアニジンAタイプ及びプロアントシアニジンBタイプの重合したプロアントシアニジンである。より詳細には、前記高分子縮合型タンニンは、エクステンションユニットとして、カテコールタイプ又はピロガロールタイプのフラバン 3-オールが主にプロアントシアニジンBタイプで縮合し、その一部にプロアントシアニジンAタイプの縮合型タンニンユニットを含み、さらにターミナルユニットとして、カテコールタイプ又はピロガロールタイプのフラバン 3-オールを主に含み、ピロガロールタイプとカテコールタイプを、4~5:1の比率で含む(図8)。ここで、分子量は、GPC用標準ポリスチレンを標準物質として換算した分子量である。
【0038】
本発明の麻黄由来高分子縮合型タンニンは、麻黄エキスあるいはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを原料とし、カラムクロマトグラフィーによって、水とアルコール、あるいは、水とアセトンとの混合溶媒を用いて、アルコールもしくはアセトン濃度を高くしながら順次溶出して得ることができる。分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを含む抽出分画物から溶媒を留去し、乾燥させたものを原薬として用いることができる。
【0039】
具体的には、麻黄エキス又はエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを水に溶解したものを、極性の低い有機溶媒から極性の高い有機溶媒を用いて順次分配し、得られる水エキスをカラムクロマトグラフィーによって、水とメタノール、エタノール又はアセトンから選択される有機溶媒との混合溶媒を用いて、有機溶媒濃度を高くしながら順次溶出し、得られる各分画の分子量を測定して、分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを含む抽出分画物を得る。
【0040】
極性の低い有機溶媒の例としては、ヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル等が挙げられ、極性の高い有機溶媒の例としては、n-ブタノール、エタノール、メタノール、水等が挙げられる。分画に用いるカラムクロマトグラフィーでは、Diaion HP-20等のスチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤、あるいは、LH-20等、その他の芳香族系合成吸着剤を用いることができる。各分画の分子量測定は、粘度法、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、質量分析法、浸透圧法等を用いることができる。
【0041】
さらに具体的には、麻黄エキス又はエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを水で溶解したもの、あるいは、これらのエキスを、酢酸エチル、水飽和n-ブタノールで順次分配して得た水エキスを以下のクロマトグラフィーの出発材料とする。これらのエキスについて、Diaion HP-20カラムクロマトグラフィーを用いて、H2O、20%MeOH、40%MeOH、MeOHの順で順次溶出して分画し、H2O分画物、20%MeOH分画物、40%MeOH分画物、MeOH分画物の各分画物を得る。このうち、20%MeOH分画物、40%MeOH分画物、MeOH分画物として、分子量10,000~500,000の麻黄由来高分子縮合型タンニンを得ることができる。
【0042】
本発明の麻黄由来高分子縮合型タンニンは、20%MeOH分画物、40%MeOH分画物、MeOH分画物を単独で、又は任意の組合せで用いることにより調製できる。分画物中に、上述の分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを10%以上含むことが好ましく、40%以上含むことがさらに好ましい。
【0043】
別の方法として、本発明の麻黄由来高分子縮合型タンニンは、麻黄エキス又はエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを水で溶解したもの、あるいは、上述する水エキスをSephadex LH-20カラムクロマトグラフィーを用いて、50%MeOH、次いで80%MeOHで洗浄後、70%アセトン分画物として、麻黄由来高分子縮合型タンニンを得ることができる。
【0044】
麻黄由来高分子縮合型タンニンの製造において、クロマトグラフィーの具体的な実施方法は、当業者に周知な方法のいずれかによる。また、クロマトグラフィーで得られた麻黄由来高分子縮合型タンニンを含む溶液、もしくは、減圧乾燥、凍結乾燥、スプレー乾燥などの任意の方法で乾燥して得られた粉末を原薬として用いることができる。また、デキストリンなどの賦形剤を添加した後、上記の方法で乾燥させることで、粉末としての物性を改善した原薬を調製することも可能である。
【0045】
医薬品および治療方法
本発明の一態様において、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、あるいは、麻黄由来高分子縮合型タンニンを、抗新型コロナウイルス剤の有効成分として用いることができる。
【0046】
麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、あるいは、麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分として含有する医薬品製剤を、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療のために、そのような予防又は治療を必要とする対象に投与することができる。したがって、対象は、軽症または重症の患者のみならず、感染の疑いのある人であってもよい。
【0047】
本発明の医薬品製剤の投与方法は特に限定されるものではないが、経口投与可能な剤形が好ましい。本発明の医薬用組成物は種々の剤形とすることができる。
【0048】
例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができるが、これらに限定されない。また、製剤には薬剤的に許容できる種々の担体を加えることができる。
【0049】
例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、コーティング剤、ビタミンC、抗酸化剤を含むことができるが、これらに限定されない。
【0050】
麻黄は漢方薬の構成生薬として幅広く用いられていることから、麻黄を含有する漢方薬、及び、麻黄を、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスに置き換えた漢方薬を抗コロナウイルス薬として提供できる。
【0051】
食品
本発明のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスや麻黄由来高分子縮合型タンニンは、副作用成分であるエフェドリンアルカロイドを含まないため、食品としての利用が可能である。したがって、本発明のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、麻黄由来高分子縮合型タンニンは、食品に含有させることができる。例えば、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを原材料に配合することにより、様々な食品の形態とすることができる。食品として、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;飴、キャンディー、チュアブル、ゼリー、ガム、チョコレート等の菓子類;顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤など種々の形態の健康食品、機能性表示食品や栄養補助食品が挙げられる。
【0052】
食品としては、一般的な食品であっても、特に機能表示を伴わない健康補助食品、栄養補助食品等(いわゆるサプリメント)であっても、機能表示付きの食品(例えば、保健機能食品)であってもよい。食品は特別の用途に適する旨の表示(いわゆるヘルスクレーム)を付した食品であってもよいが、医薬として摂取されるものは含まない。ヘルスクレームの例としては、特定の疾病リスク(例えば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患するリスク)を低減する旨の表示であることができる。
【0053】
このような食品には、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスや麻黄由来高分子縮合型タンニンの他に、カルシウム等の無機成分、種々のビタミン類、オリゴ糖、キトサン等の食物繊維、大豆抽出物等のタンパク質、レシチンなどの脂質、ショ糖、乳糖等の糖類を加えることができる。
【0054】
新型コロナウイルス感染症の予防のために、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスまたは麻黄由来高分子縮合型タンニンを含む飲食物を経口的に摂取させることも、本発明の一態様である。このような行為は、医療行為としてではなく実施されることが望ましいと思われる。
【0055】
高分子縮合型タンニンの定量
本発明は、分子量の範囲を特定した麻黄由来高分子縮合型タンニンの含量を定量することも包含する。例えば、原料生薬である麻黄、麻黄エキス原薬、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス原薬、及び、高分子縮合型タンニン原薬について、高分子縮合型タンニンは、抗新型コロナウイルス作用の指標成分とすることができる。
【0056】
すなわち、上述の医薬品原料や原薬のみならず、食品など、組成物中の高分子縮合型タンニン含有量を定量し、含有量の規格を満たしていることを確認する試験を設定することにより、それらの組成物の抗新型コロナウイルス剤としての有効性を担保することが可能である。さらに、麻黄湯や葛根湯などの麻黄を含有する漢方薬についても、同様な規格と試験方法を設定することにより、それらの組成物の抗新型コロナウイルス剤としての有効性を担保することが可能である。
【0057】
高分子縮合型タンニンの定量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により行う。具体的な方法は、実施例7に記載の方法で例示されるが、これに限定されない。例えば、試料溶液及び高分子縮合型タンニン標準物質溶液のピーク面積AT及びASから、試料1 mg中の高分子縮合型タンニンの量(mg)を算出することができる。
【0058】
上述したように、GPC分析は、原料生薬である麻黄の受入試験、各種原薬及び食品の有効成分の含量規格の試験方法として用いることができる。
【0059】
高分子縮合型タンニンの定量は、液体はそのまま、固体は任意の溶媒で溶液とすることで測定試料として用いることができるが、高分子縮合型タンニン含量が少ない組成物や夾雑物を多く含む組成物については、本明細書に記載した高分子縮合型タンニンの調製方法、すなわち、抽出方法やカラムクロマトグラフィー等を前処理方法として用いることで、定量が可能となり、定量の感度、精度、直線性等を改善できる場合もある。
【0060】
一態様において、麻黄エキスまたはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを調製し、得られた麻黄エキスまたはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスについて、分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを定量し、高分子縮合型タンニン含量が0.01%以上である麻黄エキスまたはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを、抗新型コロナウイルス剤の原薬として使用する。
【0061】
援用
本発明の開示には、非特許文献5(Oshima N, Yamashita T, Hyuga S, Hyuga M, Kamakura H, Yoshimura M, Maruyama T, Hakamatsuka T, Amakura Y, Hanawa T, Goda Y, Efficiently prepared ephedrine alkaloids-free Ephedra Herb extract: a putative marker and antiproliferative effects. J Nat Med. 2016; 70: 554-62)および非特許文献6(Yoshimura M, Amakura Y, Hyuga S, Hyuga M, Nakamori S, Maruyama T, Oshima N, Uchiyama N, Yang J, Oka H, Ito H, Kobayashi Y, Odaguchi H, Hakamatsuka H, Hanawa T, Goda Y, Quality Evaluation and Characterization of Fractions with Biological Activities in Ephedra Herb Extract and Ephedrine Alkaloids-Free Ephedra Herb Extract. Chem Pharm Bull. 2020; 68(2): 140-149)に記載された事項を援用する。
【0062】
これより本発明を以下の実施例で詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0063】
実施例1:エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの新型コロナウイルス感染阻害作用
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加により、新型コロナウイルス感受性細胞であるVeroE6/TMPRSS2細胞での新型コロナウイルスの増殖等に抑制効果が出現するかを検討した。
【0064】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加濃度は、事前にVeroE6/TMPRSS2細胞に対してエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの毒性が観察されない最高濃度を確認し、50 μg/mLとした。比較対照としてエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを添加しないコントロール群を同時に検討した。
【0065】
新型コロナウイルスの感染評価は、VeroE6TMPRSS2細胞に新型コロナウイルスを感染させ、一定時間培養した後、RNAを抽出し、PCR法によりウイルスのRNA量として定量し、標準物質の検量線からコピー数を求めた。
【0066】
VeroE6/TMPRSS2細胞を10%FBS-DMEMで5x105個/mLとなるように懸濁し、48ウエルプレート3枚に1ウエルあたり200μL播種し、CO2インキュベーターで24時間培養した。エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加群は、50μg/mL エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加無血清DMEMに交換、コントロール群は、無血清DMEMに交換し、1時間 、CO2インキュベーターで保温した。各ウエルにMOI (Multiplicity of Infection)=0.03となるように新型コロナウイルス(SARS-CoV-2,JPN/TY/WK-521株)を接種し、1時間、CO2インキュベーター内で保温した。無血清DMEMで2回洗浄し、無血清DMEMを加えた。1枚のプレートはそのまま回収し(0時間)、他の2枚のプレートは、ウイルス接種後4時間、及び24時間、CO2インキュベーター内で保温した。各プレートについて、培地も含めて細胞を全量からRNAを抽出し、米国CDCのSARS-CoV-2-N1をプローブとしたRT-PCRを実施した。米国CDCのN遺伝子プラスミドを用いて検量線を作成し、ウイルスのコピー数を求めた(表A)。
【0067】
【表3】
【0068】
その結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを添加していないコントロール群では、アッセイ開始時点(0時間)で約10,000コピーのWK-521のRNAが検出され、4時間で約400倍、24時間で約20,000倍に増加していた。一方、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加群 においては、アッセイ開始時点(0時間)で約2,000コピーのWK-521のRNAが検出され、4時間で約25倍、24時間で約130倍に増加していた(図1)。
【0069】
アッセイ開始時点のWK-521のコピー数が、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加により20%まで低下したことから、コロナウイルスの感染初期段階が抑制されていることが確認された。また、経時的なウイルス増殖率についても、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加により著しく抑制されており、24時間後のウイルスコピー数は、コントロールのコピー数に対して0.17%と、極めてわずかな量に留まっていた。これらの結果から、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、新型コロナウイルスの感染初期や感染段階のウイルス増殖に対して抑制効果を示すことが明らかになった。
【実施例2】
【0070】
実施例2:新型コロナウイルス変異株に対する感染阻害効果
2019年武漢での発生以降、各国で変異株が報告されている中で特にWHOが感染拡大等について懸念すべき変異株として英国、南アフリカ、ブラジルに由来するAlpha, Beta, Gamma株等を指定し監視対象としている。これら変異株は2020年以降日本国内に侵淫し、当初の流行株WK-521近縁株に置き換わっていることから、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加により、新型コロナウイルス感受性細胞であるVeroE6/TMPRSS2細胞での新型コロナウイルス変異株の増殖等に抑制効果が出現するかを検討した。表Bに、実施例1および2において用いた新型コロナウイルス国内分離株を示す。
【0071】
【表4】
【0072】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加濃度は、事前にVeroE6/TMPRSS2細胞に対してエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの毒性が観察されない最高濃度を確認し、50 μg/mLとした。比較対照としてエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを添加しないコントロール群を同時に検討した。
【0073】
新型コロナウイルスの感染評価は、VeroE6/TMPRSS2細胞に各株を感染させ、一時間培養した後、RNAを抽出し、PCR法によりウイルスのRNA量として定量し、標準物質の検量線からコピー数を求めた。24時間後の培養上清中の感染性ウイルスの力価を求めた。
【0074】
VeroE6/TMPRSS2細胞を10%FBS-DMEMで2x104個/wellとなるように懸濁し、96ウエルプレートに播種し、CO2インキュベーターで24時間培養した。エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加群は、50μg/mL エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加無血清DMEMに交換、コントロール群は、無血清DMEMに交換し、3時間 、CO2インキュベーターで保温した。各ウエルにMOI (Multiplicity of Infection)=0.03となるようにSARS-CoV-2各変異株を接種し、2時間、CO2インキュベーター内で保温した。無血清DMEMで1回洗浄し、無血清DMEMを加えた。ウイルス感染後2時間(input)および24時間の時点で培地も含めて細胞を全量からRNAを抽出し、米国CDCのSARS-CoV-2-N1をプローブとしたRT-PCRを実施した。米国CDCのN遺伝子プラスミドを用いて検量線を作成し、ウイルスのコピー数を求めた。
【0075】
24時間培養後の感染性ウイルスの力価は、培養上清25μLを採取し、10倍階段希釈列を作成したのち、96ウェルプレートに播種しておいたVeroE6/TMPRSS2細胞へ感染させ、4日間培養後に、細胞変性効果(CPE: Cytopathic effect)を顕微鏡下で確認し、CPE出現したウェル数、希釈倍数から算出した。
【0076】
その結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを添加していないコントロール群では、24時間培養後に、平均2.3x107copies/well、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加群 においては、平均5.8x105copies/wellとなり、コントロール群に比較して約2.5%と、RNA増殖が著しく抑制されていた(図2:各変異株の24時間後のN遺伝子コピー数)。
【0077】
24時間培養後の培養上清中の感染性ウイルスは、コントロール群では平均4.9x105 TCID50/mLとなったのに対して、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加群においては、平均1.8x104 TCID50/mLとなり、コントロール群100に対して添加群では平均約3.7%と、感染性ウイルスの産生も著しく抑制されていた。これらの結果から、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、新型コロナウイルスの各種変異株においても、ウイルス増殖に対して抑制効果を示すことが明らかになった。
【実施例3】
【0078】
実施例3:新型コロナウイルス感染に関わるスパイクタンパク質に対するエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス成分の結合能
新型コロナウイルスが標的細胞に結合する時、ウイルスのスパイクタンパク質が標的細胞の受容体分子に結合する。エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの成分が新型コロナウイスルのスパイクタンパク質に結合すれば、ウイルスと標的細胞の結合が阻害される。そこで、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの成分が新型コロナウイスルのスパイクタンパク質に対する結合能について、分子間相互作用解析装置を用いて検討した。
【0079】
分子間相互作用解析装置は、BIACORE(GE Healthcare)を用いた。遺伝子組換えの手法で作製された新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のS1ドメイン(組換えS1)をセンサーチップCM5にアミンカップリング法で約500 RU固定化した。エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスをHEPESバッファー(0.01 M HEPES pH 7.4, 0.15 M NaCl, 3 mM EDTA, 0.005% (v/v) SurfactantP20)に溶解し、200 μg/mLとなるように調整し,試料溶液とした。流速30 μL/minで試料溶液を60秒間アプライした後、120秒間 HEPESバッファーで洗浄した。組換えS1を固定化したフローセルのレスポンスから固定化していないフローセルのレスポンスを差し引いたセンサーグラムを得た結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの成分が組換えS1に強く結合していることが明らかとなった(図3)。
【0080】
これらの結果より、麻黄エキスやエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの成分が、新型コロナウイルスの感染に重要な役割を果たしているスパイクタンパク質のS1ドメインに強く結合することで、新型コロナウイルスの感染を抑制するものと考えられた。
【実施例4】
【0081】
実施例4:新型コロナウイルス感染に関わるスパイクタンパク質に対する麻黄由来高分子縮合型タンニンの結合
新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に対し、麻黄エキスあるいはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの活性成分と考えられる麻黄由来高分子縮合型タンニンが結合するか、分子間相互作用解析装置を用いて検討した。
【0082】
分子間相互作用解析は、実施例3に記載した装置及びセンサーチップを用い、同様の条件で検討した。麻黄由来高分子縮合型タンニンをHEPESバッファーに溶解し、40 μg/mL、20 μg/mL、10 μg/mLとなるように調整し,試料溶液とした。流速30 μL/minで試料溶液を60秒間アプライした後、120秒間 HEPESバッファーで洗浄した。組換えS1を固定化したフローセルのレスポンスから固定化していないフローセルのレスポンスを差し引いたセンサーグラムを得た。その結果、麻黄由来高分子縮合型タンニンが組換えS1に濃度依存的に結合していることが明らかとなった(図4)。麻黄由来高分子縮合型タンニンの平均分子量は約100,000であることから、各試料の濃度を、400 nM、200 nM、100 nMとみなし、センサーグラムに対するカーブフィッティング法を用いて麻黄由来高分子縮合型タンニンと組換えS1の結合モデルを速度論的に解析した結果、解離定数KDは30.7 nMと算出され、麻黄由来高分子縮合型タンニンは新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に結合阻害剤として十分機能しうる結合能を有することが明らかとなった。
【0083】
これらの結果より、麻黄エキスやエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの成分である麻黄由来高分子縮合型タンニンが、新型コロナウイルスの感染に重要な役割を果たしているスパイクタンパク質のS1ドメインに強く結合することが明らかとなり、麻黄エキスやエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス と同様に、麻黄由来高分子縮合型タンニンが新型コロナウイルスの感染を抑制する抗ウイルス剤となり得ると考えられた。
【実施例5】
【0084】
実施例5: 新型コロナウイルスのスパイクタンパク質とACE2の結合阻害作用
新型コロナウイルスのスパイクタンパク質が宿主細胞のACE2に結合することが、感染の第一段階であることが明らかとなっている。実施例4で示した、麻黄エキスあるいはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの活性成分と考えられる麻黄由来高分子縮合型タンニンが、スパイクタンパク質に結合することで、ACE2への結合を阻害するか、酵素標識したスパイクタンパク質を用いて検討した。
【0085】
96穴マイクロプレートに組換えACE2細胞外ドメイン(スパイクタンパク質との結合ドメイン)を固定化し、ビオチン化組換えスパイクタンパク質レセプター結合ドメイン(S1-RBD)を添加し、リン酸緩衝液で洗浄した後、アビジン化HRPとHRPの基質を添加反応させることで、ACE2へのスパイクタンパク質の結合量を測定するアッセイを用いて検討した。麻黄由来高分子縮合型タンニンを、最終濃度が、20 μg/mL、10 μg/mL、5 μg/mL、2.5 μg/mL、1.25 μg/mLとなるように、ビオチン化組換えS1-RBDとともに添加し、ACE2へのスパイクタンパク質の結合量を測定した。その結果、麻黄由来高分子縮合型タンニンの添加濃度依存的に、組換えS1-RBDのACE2への結合量が低下していることが明らかとなった(図5)。得られたシグモイド曲線について4パラメーターロジスティック回帰を行った結果、50%結合阻害濃度(IC50)は、3 μg/mLと算出され、麻黄由来高分子縮合型タンニンは新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のACE2への結合を阻害することが明らかとなった。
【0086】
これらの結果より、麻黄エキスやエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの成分である麻黄由来高分子縮合型タンニンが、新型コロナウイルスの感染の第一段階を阻害することが明らかとなり、麻黄エキスやエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスと同様に、麻黄由来高分子縮合型タンニンが新型コロナウイルスの感染を抑制する抗ウイルス剤となり得ると考えられた。
【実施例6】
【0087】
実施例6: マウスコロナウイルス感染モデルに対するEFEの経口投与による効果
ニドウイルス目コロナウイルス科に属するマウスコロナウイルス(Murine hepatitis virus: MHV)を経鼻感染させたマウスを用いて、EFEのin vivo効果について評価した。MHVはマウスに対して肺炎を発症させることが報告されている(Albuquerque, N., et al., J Virol., 80, 10382-10394, 2006)。
【0088】
マウス(BALB/c Cr Slc、雌性)にMHV(MHV-1/ATCC VR-261)を経鼻接種し、接種1時間後からEFEを6日間経口投与した。非感染群及び感染対称群は注射用水を投与した。感染群へのEFEの投与は700 mg/kg×2回/日投与[EFE 700×2(1400)]、700 mg/kg×1回/日投与(EFE 700)、350 mg/kg×2回/日投与 [EFE 350×2(700)]とした。各群10匹のマウスを用いた。接種後5日目に右肺を採取しプラークアッセイによるウイルス量測定と呼吸状態を観察した。動物実験はツムラおよび日本バイオリサーチセンターの動物実験委員会で承認され厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針に従って行われた。
【0089】
MHV接種後5日目において、右肺及び肝臓のウイルスプラーク数は感染対照群と比較し全てのEFE投与群において有意な減少が認められた。右肺のウイルスプラーク数は感染対照群では1622.3±271.9 (×10<SUP>2</SUP>PFU/g)、EFE 700×2(1400)群で96.1±10.7、EFE 700群で250.1±67.9、EFE 350×2(700)群で 417.5±121.5であった(図6)。また感染対照群で観察された呼吸不整が全てのEFE投与群で改善傾向を示した(図7)。
【0090】
以上の結果から、EFEは経口投与により肺で薬効発現することが明らかになった。
【実施例7】
【0091】
実施例7:高分子縮合型タンニンの定量法
参考例8に示したGPCを用いた高分子縮合型タンニンの定量法について、カラム長を2倍に増加させることで夾雑物との分離能を高めた定量法を確立した。この定量法を用い、麻黄エキス3ロットについて、高分子縮合型タンニン含量を算出した結果、0.03~0.69%(平均0.36%)であった。また、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス1ロットについて、高分子縮合型タンニン含量を算出した結果、0.49%であった。
【0092】
定量法
試料及び高分子縮合型タンニン標準物質を精密に量り、約10.0 mg/mL となるよう移動相に溶解し試料溶液及び高分子縮合型タンニン標準物質溶液とした。試料溶液及び高分子縮合型タンニン標準物質溶液について、次の条件でGPCを行い、データ処理ソフトウェアLabSolutions GPCを用い、試料及び高分子縮合型タンニン標準物質のピーク面積AT及びASを測定した。
【0093】
GPC条件
カラム:TSK-gel Super AW4000(6.0 I.D. x 150 mm x 2本)(東ソー)
移動相:99.5% N,N-ジメチルホルムアミド, 0.5% 3 Mギ酸アンモニウム水溶液
カラム温度:30℃
流速:0.3 mL/min
測定波長:280 nm
ピーク面積測定範囲:12分~18分
計算式
試料1 mg当たりの高分子縮合型タンニン量(mg)= AT/AS x CS/CT
AT:試料のピーク面積
AS:標準物質のピーク面積
CT:試料濃度(mg/mL)
CS:高分子縮合型タンニン標準物質濃度(mg/mL)
参考例:
既に述べたように、発明者らは、以前、エフェドリンアルカロイドに依存しない疼痛抑制作用などの薬理効果を有する、麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドが選択的に除去されたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造法を確立した(特許文献1、非特許文献5)。また、発明者らは、麻黄エキスまたはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを原料として得られる新規活性成分である麻黄由来高分子縮合型タンニンの製造法を確立した(特許文献2、非特許文献6)。これらの事項を、以下の参考例により説明する。なお、詳細な試験条件や具体的なデータについては、特許文献1(WO2015/076286)および特許文献2(特開2019-131536号)の実施例の記載を援用する。
【0094】
参考例1:麻黄エキスの作製
麻黄の乾燥原料をミキサーにより粉砕し、その粉砕物50gに500mLの水を加え、攪拌しながら、95℃、1時間抽出した。固液分離し、抽出液を3000rpmにて10分間遠心分離を行った。得られた上清液を60℃にて減圧濃縮したと、60℃で一晩減圧乾燥を行い、麻黄エキスとして9.6gを得た。
【0095】
参考例2:イオン交換クロマトグラフィーの充填剤の検討
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造に適したイオン交換クロマトグラフィーの充填剤を決定するために検討を行った。麻黄エキスを各種イオン交換樹脂で処理した後に、エキスに含まれるエフェドリンアルカロイドをTLC及びHPLCで解析した。検討したイオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂13種類、両性イオン交換樹脂1種類、陰イオン交換樹脂8種類の計22種類である。その結果、エフェドリンアルカロイド除去に適したイオン効果樹脂は、陽イオン交換樹脂であることがわかった。そこで、弱酸性陽イオン交換樹脂WK10、WK11、WK20、WK40L、FPC3500、強酸性陽イオン交換樹脂SK104、SK110、SK1B、UBK530、UBK12、PK216、IR120B、1060Hを用いて、麻黄エキスを処理した後のエキスに含まれるエフェドリンアルカロイド含量をHPLCにより定量した。その結果を下記の表に示す。
【0096】
【表5】
【0097】
参考例3:イオン交換樹脂SK1BまたはIR120Bによるエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの作製
麻黄の乾燥原料をミキサーにより粉砕し、その粉砕物50gに500mLの水を加え、攪拌しながら、95℃、1時間抽出した。固液分離し、抽出液を3000rpmにて10分間遠心分離を行い、得られた上清液を25mLの強酸型陽イオン交換樹脂SK1B(三菱化学製)または強酸型陽イオン交換樹脂IR120B(オルガノ社製)に通液させた。通過液を5%のNaHCO3でpH=5.2まで調整し、60℃にて減圧濃縮したと、60℃で一晩減圧乾燥を行い、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスとして6.3gを得た。
【0098】
参考例4:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による麻黄エキス(参考例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(参考例3)に含まれるエフェドリンの含量比較
麻黄エキス(参考例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(参考例3)のHPLC分析から得られた結果を以下の表に示す。これらの結果から、強酸型陽イオン交換樹脂SK1B、あるいはIR120Bを用いたカラムクロマトグラフィーによって、麻黄エキスからエフェドリンアルカロイド(エフェドリン及びプソイドエフェドリン)を検出限界(0.05ppm)以下まで除去できることがわかった。
【0099】
【表6】
【0100】
参考例5:麻黄エキス(参考例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(参考例3)の組成成分の比較
3次元高速液体クロマトグラフィー(3D-HPLC)により麻黄エキスとエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの組成成分を比較した結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスにおいてはエフェドリンアルカロイドのピークが消失したが、他の成分のパターンは麻黄エキスとほぼ同じであった(データは示さない)。
【0101】
また、LC/MSにより麻黄エキスとエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの組成成分を比較した結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスにおいては、l-ephedrine、pseudoephedrine、methylephedrine、norephedrineの各ピークが消失していることを確認した(データは示さない)。
【0102】
参考例6:麻黄由来高分子縮合型タンニン調製
エフェドリン除去麻黄エキス(1.0354 g)について、Sephadex LH-20カラム(1.1 cm x 40 cm、Cytiva)に添加し、50% メタノール(MeOH)、次いで80%MeOHで溶出後、70%アセトンで溶出した。70%アセトン溶出物を凍結乾燥し、高分子縮合型タンニン(125.5 mg)を得た。
【0103】
参考例7:高分子縮合型タンニン標準物質の調製
高分子縮合型タンニン約100 mgを精密に量り、50%ジメチルホルムアミド溶液10 mLを正確に加え、完全に溶解した。この溶液について、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析した結果、重量平均分子量は85642で、低分子量域にピークが確認されないことを確認し、高分子縮合型タンニン標準物質溶液(10.0 mg/mL)とした。
【0104】
参考例8:GPCによる高分子縮合型タンニン含量の評価
麻黄エキス3ロットについて、下記の条件でGPC試験を実施し、高分子縮合型タンニン含量を算出した結果、2.84 mg/mLであった。
【0105】
GPC試験法
試料を精密に量り、約10.0 mg/mL となるよう50%ジメチルホルムアミド溶液に溶解し試料溶液とした。試料溶液及び高分子縮合型タンニン標準物質溶液について、次の条件でGPCを行い、データ処理ソフトウェアChromato-PRO-GPCを用い、試料溶液及び高分子縮合型タンニン標準物質溶液のピーク面積AT及びAS、並びに、重量平均分子量を算出した。
【0106】
GPC条件
カラム:TSK-gel Super AW4000(6.0 I.D. x 150 mm)(東ソー)
移動相:99.5% N,N-ジメチルホルムアミド, 0.5% 3Mギ酸アンモニウム水溶液
カラム温度:30℃
流速:0.3 mL/min
測定波長:280 nm
ピーク面積測定範囲:5分~10分
試料溶液1 mL中の高分子縮合型タンニンの量(mg)= AT/AS x 10.00
AT:試料のピーク面積
AS:標準物質のピーク面積
10.00:標準物質溶液1 mL中の高分子縮合型タンニンの量(mg)
図1
図2
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図8