(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】FRET法における被検物質蛍光センサーの固定用無機系繊維シート
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20230123BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
G01N33/543 511P
G01N33/543 575
G01N21/64 F
(21)【出願番号】P 2018179893
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】505116781
【氏名又は名称】学校法人東日本学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】谷村 明彦
(72)【発明者】
【氏名】小島 理恵
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 皓平
(72)【発明者】
【氏名】川部 雅章
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-120120(JP,A)
【文献】特開2015-232558(JP,A)
【文献】特開2007-218593(JP,A)
【文献】特開2006-170658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 1/00- 1/44
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質と特異的に結合可能な被検物質結合部と、第1の蛍光物質とを含む被検物質蛍光センサーを使用し、
第2の蛍光物質で標識した被検物質と、前記被検物質蛍光センサーとを反応させるか、あるいは、被検物質と、前記被検物質と競合して前記被検物質結合部と結合可能で、且つ第2の蛍光物質で標識した競合物質と、前記被検物質蛍光センサーとを反応させ、
前記第1蛍光物質と前記第2蛍光物質との相互作用により発生する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のシグナルを分析することにより、前記被検物質を分析するFRET法において、
前記FRET法において使用する、前記被検物質蛍光センサーを固定するための無機系繊維シート
であって、
前記無機系繊維シートを構成する繊維は、
シリカ繊維の表面の一部あるいは全面を前記シリカ以外の他の金属酸化物が被覆している無機系繊維である、
前記FRET法において使用する、前記被検物質蛍光センサーを固定するための無機系繊維シート。
【請求項2】
ESCA分析により測定される
前記無機系繊維シートを構成する無機系繊維の繊維表面における、珪素原子(atomic%)に占める前記金属酸化物由来の金属原子(atomic%)の比率が、0.00よりも大きく0.70以下である、請求項1に記載の無機系繊維シート。
【請求項3】
請求項1に記載のFRET法において、無機系繊維シートに固定化された被検物質蛍光センサーに含まれる第1蛍光物質と第2蛍光物質との相互作用により発生する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のシグナルを分析することにより、被検物質を分析する方法
であって、
前記無機系繊維シートを構成する繊維は、
シリカ繊維の表面の一部あるいは全面を前記シリカ以外の他の金属酸化物が被覆している無機系繊維である、
前記被検物質を分析する方法。
【請求項4】
請求項1に記載のFRET法において、被検物質蛍光センサーを固定するための担体として無機系繊維シートを使用する方法
であって、
前記無機系繊維シートを構成する繊維は、
シリカ繊維の表面の一部あるいは全面を前記シリカ以外の他の金属酸化物が被覆している無機系繊維である、
前記無機系繊維シートを使用する方法。
【請求項5】
(1)被検物質と特異的に結合可能な被検物質結合部と、第1の蛍光物質とを含む被検物質蛍光センサー、及び(2)前記被検物質蛍光センサーを担持する無機系繊維シートを含む、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)分析装置
であって、
前記無機系繊維シートを構成する繊維は、
シリカ繊維の表面の一部あるいは全面を前記シリカ以外の他の金属酸化物が被覆している無機系繊維である、
前記蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して被検物質を分析するFRET法に用いる被検物質蛍光センサーを固定するための無機系繊維シートに関する。
なお、本明細書における「分析」には、被検物質の量を定量的又は半定量的に決定する「測定」と、被検物質の存在の有無を判定する「検出」との両方が含まれる。
【背景技術】
【0002】
FRETを利用して被検物質を分析する方法が公知である(特許文献1)。FRETとは、蛍光エネルギー供与体であるドナーチャネル(ドナー分子あるいはドナー蛍光分子)および蛍光エネルギー受容体であるアクセプターチャネル(アクセプター分子あるいはアクセプター蛍光分子)という2つの蛍光物質が近接した位置に存在する場合において、ドナーチャネルを光励起することによりそのエネルギーがアクセプターチャネルへ無輻射的に移動し、アクセプターチャネルが発光する非放射的なエネルギー移動現象をいう。
【0003】
FRET法では、被検物質と特異的に結合可能な被検物質結合部と、第1の蛍光物質とを有する被検物質蛍光センサーを使用することにより、試料中の被検物質の有無や量を分析することができる。
例えば、非競合FRETでは、試料中の被検物質をあらかじめ第2の蛍光物質で標識しておき、前記試料と被検物質蛍光センサーとを反応させる。試料中に被検物質が存在すると、被検物質が被検物質蛍光センサーの被検物質結合部に結合するため、2つの蛍光物質が近接し、この状態でドナー蛍光物質を光励起すると、FRET現象によりアクセプター蛍光物質の蛍光が生じるため、試料中の被検物質の有無や量を分析することができる。
【0004】
一方、競合FRETでは、被検物質を含む可能性のある試料の他に、前記被検物質と競合して被検物質蛍光センサーの被検物質結合部と結合可能で、且つ第2の蛍光物質で標識した競合物質を用意する。試料と競合物質と被検物質蛍光センサーとを反応させると、試料中の被検物質が競合物質と競合しながら、被検物質蛍光センサーの被検物質結合部に結合する。競合物質と被検物質蛍光センサーの結合では、2つの蛍光物質が近接し、この状態でドナー蛍光物質を光励起すると、FRET現象によりアクセプター蛍光物質の蛍光が生じる。一方、蛍光物質を有さない被検物質と被検物質蛍光センサーの結合ではFRET現象が起こらない。被検物質結合部に結合する競合物質の量は、試料中の被検物質の量と逆相関するため、前記蛍光を分析することにより、試料中の被検物質の有無や量、および、被検物質結合部への結合に対する被検物質と競合物質との競合の程度を分析することができる。
【0005】
FRET法では、被検物質蛍光センサーを適当な担体に固定して使用することが可能であるが、前記担体としては、ガラス板等の平板、アガロース等の粒子、天然又は合成繊維等が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガラス板などの平板担体は、被検物質蛍光センサーを固定化するための反応場が少なく、検出レンジが狭いという欠点がある。
代表的な粒子担体であるアガロース粒子では、粒子内部への蛍光物質の染み込みが発生し、バックグラウンドが高くなる欠点がある。また、個々の粒子上でのシグナルは、特殊装置で検出する必要があった。
繊維からなる固定化用担体の検討は少なく、例えば、気相におけるFRET法においてセルロースエステル等の有機系繊維を用いることが公知である(特開2010-14637号公報)が、蛍光物質などのFRET法で使用する試薬類が意図せず有機系繊維と反応するおそれや有機系繊維へ浸透するおそれがあり、意図せずFRET法を用いた分析の検出レンジが狭くバックグランドが高くなるなど精度が下がることがあった。
【0008】
従って、本発明の課題は、FRET法に用いる被検物質蛍光センサーを固定化するための担体であって、検出レンジが広く、バックグランドが低いデータを取得することのできる固定化用担体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下の本発明により解決することができる:
[1]被検物質と特異的に結合可能な被検物質結合部と、第1の蛍光物質とを含む被検物質蛍光センサーを使用し、
第2の蛍光物質で標識した被検物質と、前記被検物質蛍光センサーとを反応させるか、あるいは、被検物質と、前記被検物質と競合して前記被検物質結合部と結合可能で、且つ第2の蛍光物質で標識した競合物質と、前記被検物質蛍光センサーとを反応させ、
前記第1蛍光物質と前記第2蛍光物質との相互作用により発生する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のシグナルを分析することにより、前記被検物質を分析するFRET法において、
前記FRET法において使用する、前記被検物質蛍光センサーを固定するための無機系繊維シート。
[2]無機系繊維シートを構成する無機系繊維が、
シリカ繊維と前記シリカ以外の金属酸化物を有すると共に、前記シリカ繊維の表面に前記金属酸化物が存在している、無機系繊維であって、ESCA分析により測定される無機系繊維表面における、珪素原子(atomic%)に占める前記金属酸化物由来の金属原子(atomic%)の比率が、0.00よりも大きく0.70以下である、[1]の無機系繊維シート。
[3]前記[1]のFRET法において、無機系繊維シートに固定化された被検物質蛍光センサーに含まれる第1蛍光物質と第2蛍光物質との相互作用により発生する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のシグナルを分析することにより、被検物質を分析する方法。
[4]前記[1]のFRET法において、被検物質蛍光センサーを固定するための担体として無機系繊維シートを使用する方法。
[5](1)被検物質と特異的に結合可能な被検物質結合部と、第1の蛍光物質とを含む被検物質蛍光センサー、及び(2)前記被検物質蛍光センサーを担持する無機系繊維シートを含む、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)分析装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の[1]の無機系繊維シートによれば、表面積が大きいため、検出レンジが広い固定化用担体を提供することができる。また、本発明の無機系繊維シートによれば、蛍光物質などのFRET法で使用する試薬類が意図せず繊維と反応するのを抑制でき、繊維へ浸透するのを抑制できるため、意図せずFRET法を用いた分析の検出レンジが狭くバックグランドが高くなるなど精度が下がることを抑制できる。その結果、精度の高いデータを取得できる固定化用担体を提供することができる。
【0011】
また、本発明の好適態様である[2]の無機繊維シートによれば、構造の安定性をより高めることができ、更には、より良好なハンドリング性を達成することができるため、FRET法に用いる被検物質蛍光センサーを固定化するために、より適した担体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1で調製したFAM蛍光修飾ペプチド付加Al被覆シリカ繊維不織布と、比較例1で調製したFAM蛍光修飾ペプチド付加アガロースビーズにおける、蛍光観察像(上図)と、同視野における透過像(下図)である。
【
図2】実施例4で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【
図3】実施例4で調製した無機系繊維不織布における、繊維表面の電子顕微鏡写真である。
【
図4】実施例5で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【
図5】実施例6で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【
図6】実施例7で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【
図7】実施例8で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【
図8】比較例3で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【
図9】超音波処理を施し乾燥した後の実施例4で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【
図10】超音波処理を施し乾燥した後の実施例5で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【
図11】超音波処理を施し乾燥した後の実施例6で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【
図12】超音波処理を施し乾燥した後の実施例7で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【
図13】超音波処理を施し乾燥した後の実施例8で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【
図14】超音波処理を施し乾燥した後の比較例3で調製した無機系繊維不織布における、不織布表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の無機系繊維シート又は本発明に用いることのできる無機系繊維シート(以下、本発明における無機系繊維シートと称します)は、FRET法に用いる被検物質蛍光センサーを固定化するための担体として用いることができる。本明細書においてFRET法とは、FRETを利用して被検物質を分析する方法を意味し、例えば、液相や気相における非競合FRET法あるいは競合FRET法であることができる。
【0014】
より具体的には、例えば、被検物質と特異的に結合可能な被検物質結合部と、第1の蛍光物質とを含む被検物質蛍光センサーを使用し、第2の蛍光物質で標識した被検物質と、前記被検物質蛍光センサーとを反応させるか、あるいは、被検物質と、前記被検物質と競合して前記被検物質結合部と結合可能で、且つ第2の蛍光物質で標識した競合物質と、前記被検物質蛍光センサーとを反応させ、前記第1蛍光物質と前記第2蛍光物質との相互作用により発生する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のシグナルを分析することにより、前記被検物質を分析するFRET法を挙げることができる。
【0015】
本発明における無機系繊維シートに固定する前記被検物質蛍光センサーは、(1)被検物質と特異的に結合可能な被検物質結合部と、(2)第1の蛍光物質とを含む。
前記「被検物質結合部」は、試料中に含まれる可能性のある被検物質(すなわち、分析対象物質)と特異的に結合可能な物質であれば、特に限定されるものではなく、被検物質と被検物質結合部との組合せとしては、例えば、抗原とそれに特異的な抗体(又は抗原認識部位を有する抗体断片)との組合せ、抗体と抗体結合タンパク質(例えば、プロテインA、プロテインG、プロテインL等)との組合せ、受容体とそのリガンドとの組合せ、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジンとの組合せ、酵素とその基質との組合せ、ヒスチジン残基と金属イオン(例えば、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛等)との組合せ等を挙げることができる。
【0016】
本発明で用いることのできる「蛍光物質」(第1の蛍光物質および第2の蛍光物質を含む)としては、FRETにおけるドナーチャネル(ドナー分子)またはアクセプターチャネル(アクセプター分子)となり得る蛍光物質であれば特に限定されず、そのような蛍光物質としては、例えば、蛍光タンパク質やタンパク質蛍光標識物質を挙げることができる。そのような蛍光タンパク質としては、例えば、CFP、YEP、GFP、RFP、BFP、DsRedなどの蛍光タンパク質を挙げることができ、これら蛍光タンパク質の変異体などを利用してもよい。そのような変異体としては、ECFP、EYFP、EGFP、ERFP、EBFPおよびこれらの円順列置換体(円順列変異体)などを挙げることができる。
【0017】
また、「タンパク質蛍光標識物質」としては低分子蛍光物質を挙げることができ、例えば、ドナーチャネル(ドナー分子)としての低分子蛍光物質である1,5-IAEDANS、IAANS、MIANSなどのナフタレン誘導体;ピレンマレイミド、ピレンヨードアセタミドなどのピレン誘導体;CPM、DCIA、DACIA、DACM(N-(7-Dimethylamino-4-methylcoumarinyl)maleimide)、MDCC、IDCCなどのクマリン誘導体;フルオロセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセインマレイミド、5-ヨードアセタミドフルオレセイン、5-ブロモメチルフルオレセイン、オレゴングリーン488マレイミド、オレゴングリーン488ヨードアセタミドなどのフロレセイン誘導体;アレクサ488マレイミド、アレクサ532マレイミド、アレクサ546マレイミド、アレクサ568マレイミド、アレクサ594マレイミド、アレクサ555マレイミドなどのアレクサ誘導体;BODIPY493/503ブロモメチル、BODIPY499/508マレイミド、BODIPY507/545ヨードアセタミド、BODIPY530/550ヨードアセタミドなどのBODIPY誘導体;テトラメチルローダミンマレイミド、テトラメチルローダミンヨードアセタミド、ローダミンレッドマレイミドなどのローダミン誘導体;テキサスレッドマレイミド、テキサスレッドヨードアセタミドなどのテキサスレッド誘導体;などを挙げることができ、アクセプターチャネル(アクセプター分子)としての低分子蛍光物質であるフルオロセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセインマレイミド、5-ヨードアセタミドフルオレセイン、5-ブロモメチルフルオレセイン、オレゴングリーン488マレイミド、オレゴングリーン488ヨードアセタミドなどのフロレセイン誘導体;アレクサ488マレイミド、アレクサ532マレイミド、アレクサ546マレイミド、アレクサ568マレイミド、アレクサ594マレイミド、アレクサ555マレイミド、アレクサ633マレイミド、アレクサ647マレイミド、アレクサ660マレイミド、アレクサ680マレイミドなどのアレクサ誘導体;BODIPY493/503ブロモメチル、BODIPY499/508マレイミド、BODIPY507/545ヨードアセタミド、BODIPY530/550ヨードアセタミド、BODIPY577/618マレイミド、BODIPY630/650マレイミドなどのBODIPY誘導体;テトラメチルローダミンマレイミド、テトラメチルローダミンヨードアセタミド、ローダミンレッドマレイミドなどのローダミン誘導体;テキサスレッドマレイミド、テキサスレッドヨードアセタミドなどのテキサスレッド誘導体;などを挙げることができる。また、FAM(カルボキシフルオレセインハイドレート)なども使用できる。
【0018】
第1の蛍光物質と被検物質結合部との結合、すなわち、被検物質蛍光センサーの調製は、選択した蛍光物質と被検物質結合部との組合せに従って、それ自体公知の結合方法を適宜選択することができ、例えば、第1の蛍光物質は、被検物質結合部に含まれる、もしくは修飾されたアミノ基、SH基、アルデヒド基、カルボキシル基、水酸基などに化学結合させることができる。また、第1の蛍光物質にNHSエステル(アミン反応性)、イソシアナート(アミン反応性)、マレイミド(SH反応性)、ヒドラジド(アルデヒド反応性)などが含まれる場合、アミノ酸配列構造を有する被検物質結合部への結合が容易となり好ましい。
また第1の蛍光物質として蛍光タンパク質を用いる場合は、被検物質結合部をコードする遺伝子のいずれかの部位に蛍光タンパク質の遺伝子を付加あるいは挿入したキメラタンパク質遺伝子を作製し、その遺伝子を用いて細胞に被検物質蛍光センサーを発現させてもよい。
【0019】
本発明で用いることのできる「競合物質」は、被検物質と競合して被検物質結合部と結合可能であれば、特に限定されるものではなく、被検物質あるいはそれらのアナログ等を挙げることができる。
【0020】
第2の蛍光物質による被検物質の標識化、あるいは、第2の蛍光物質による競合物質の標識化は、選択した蛍光物質と被検物質又は競合物質との組合せに従って、それ自体公知の標識化方法を適宜選択することができ、例えば、先述した、第1の蛍光物質と被検物質結合部との結合方法を用いることができる。
【0021】
例えば、非競合FRET法では、第2の蛍光物質で標識した被検物質と、被検物質蛍光センサーとを接触させた後、あるいは、例えば、競合FRET法では、被検物質と、第2の蛍光物質で標識した競合物質と、被検物質蛍光センサーとを接触させた後、ドナーチャネルとして機能する第1の蛍光物質または第2の蛍光物質のいずれか一方を励起させることのできる励起光、すなわち、所望の光源を用いて、ドナーチャネルの励起極大波長又はその近傍の波長を含む範囲の光を照射する。光源としては、ブロードな紫外光や可視光をフィルターや分光器を用いて所望の波長範囲とした光源の他、レーザーなどの単色光を用いてもよい。
例えばCFPやDACMをドナーとして用いる場合のレーザー光源としては、ヘリウムカドミウムレーザー(442nm)の他、ブルーダイオードレーザー(405nm)、アルゴンイオンレーザー(457nm)、LD励起固体レーザー(diode-pumped solid-state laser)(430nm)などを用いることができ、二光子励起法の場合は800nm付近のパルスレーザーを用いることができる。
なお、レーザー光源の波長は蛍光物質を励起できるよう適宜調整できるものであり、使用する蛍光物質にあわせて上述したよりも長波長のレーザー光源を採用してもよい。
【0022】
FRETのシグナル、すなわち、蛍光は、ドナーチャネル及び/又はアクセプターチャネルの蛍光極大波長又はその近傍の波長を含む範囲(例えば200~800nmの範囲)となるよう適宜調整できるものであり、FRETによるそれらの蛍光強度の変化を測定することにより分析することができる。更に、試料中の被検物質の定量は、常法に従って、既知濃度の被検物質を用いて予め検量線を作成しておくことで算出することができる。
【0023】
本発明においては、これまで説明したFRET法に用いる被検物質蛍光センサーを固定化するための担体(以下、センサー固定化用担体と称することがある)として、無機系繊維シートを使用する。
無機系繊維シートとしては、無機系繊維からなるシート状の繊維構造体を用いることができ、前記繊維構造体としては、例えば、繊維ウェブ、不織布、織物、編物等を挙げることができるが、空隙率や繊維間距離などの諸構成や諸物性を調整し易く、また、反応溶液などが不必要に溜まる繊維の交点が少なくできるため、検出レンジが広くバックグランドが低いデータを取得することのできる固定化用担体を実現し易いことから、無機系繊維不織布が好ましい。前記無機系繊維不織布は、公知の静電紡糸法、好ましくは、ゾルゲル法と中和紡糸法とを組み合わせた静電紡糸法、例えば,特開2010-185164号公報に記載の製造方法により製造することができる。
【0024】
無機系繊維シートの構成繊維の材料としては、例えば、SiO2、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、CeO2、FeO、Fe3O4、Fe2O3、VO2、V2O5、SnO2、CdO、LiO2、WO3、Nb2O5、Ta2O5、In2O3、GeO2、PbTi4O9、LiNbO3、BaTiO3、PbZrO3、KTaO3、Li2B4O7、NiFe2O4、SrTiO3などを挙げることができ、これらの一成分の酸化物から構成されていても、二成分以上の酸化物から構成されていても良い。例えば、SiO2-Al2O3の二成分から構成することができる。
【0025】
本発明において、センサー固定化用担体として使用する無機系繊維シートは、シート状の繊維構造体であるため、表面積が大きく、検出レンジが広い固定化用担体を提供することができる。また、無機系繊維からなるため、担体への蛍光物質の染み込みを抑制することができ、バックグランドの低いデータを取得できる固定化用担体を提供することができる。
【0026】
本発明において、センサー固定化用担体として使用する無機系繊維シートは、無機系繊維からなるシート状の繊維構造体である限り、特に限定されるものではないが、無機系繊維シートを構成する無機系繊維が、「シリカ繊維と前記シリカ以外の金属酸化物を有すると共に、前記シリカ繊維の表面に前記金属酸化物が存在している、無機系繊維であって、ESCA分析により測定される無機系繊維表面における、珪素原子(atomic%)に占める前記金属酸化物由来の金属原子(atomic%)の比率が、0.00よりも大きく0.70以下である」という構成を備えると、無機系繊維同士の交点に他の金属酸化物が水掻き状に存在していない無機系繊維シートを提供でき、その結果、構造の安定性をより高めることができ、更には、より良好なハンドリング性を達成することができるため、FRET法に用いる被検物質蛍光センサーを固定化するために、より適した担体を提供することができる。
【0027】
無機系繊維を構成可能なシリカ繊維とは、繊維構成物の質量に占める珪素酸化物であるシリカの含有量が50mass%以上である繊維のことを指すものである。シリカ繊維に占めるシリカの含有量が多いほど、無機系繊維に構造の安定性やハンドリング性の向上をもたらすことができるため、シリカ繊維が実質的にシリカのみから構成されているのが好ましい。なお、シリカ繊維に含まれているシリカの百分率は、後述するESCA分析方法へ供することによって算出できる。
【0028】
具体的には、シリカ繊維をX線光電子分光分析装置(JPS-9010MK、JEOL(登録商標))へ供し、全元素スキャンを行った後、検出された元素と存在が予想される元素についてナロースキャンを行うことで、珪素原子(atomic%)と、他の原子(atomic%)の測定値の比率を元に、算出することができる。
【0029】
また、シリカ繊維を構成するシリカの結晶状態は適宜選択でき、結晶質や非晶質あるいは結晶質と非晶質が混在する態様であっても良い。特に、シリカ繊維が非晶質のシリカ(以降、アモルファスシリカと称することがある)を含んでいると、シリカ繊維が柔軟性に優れるものとなり好ましい。
【0030】
シリカ繊維の繊維長は適宜選択できるが、短繊維や長繊維、あるいは、実質的に繊維長を測定することが困難な程度の長さの繊維長を有する連続繊維であることができる。柔軟性に優れた無機系繊維あるいは無機系繊維シートを提供できることから、シリカ繊維の繊維長は連続長であるのが好ましい。連続長を有するシリカ繊維は、後述する直接紡糸法を用いて調製することができる。
【0031】
シリカ繊維の繊維径は適宜選択できる。柔軟性やハンドリングに優れ、表面積が大きく、検出レンジが広くなるように、シリカ繊維の繊維径は3μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのが好ましい。なお、繊維径の下限値も適宜選択するが、100nm以上であるのが現実的である。
【0032】
本発明でいう「繊維長」および「繊維径」は、繊維あるいは繊維を含有する測定対象物を撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定できる。繊維の繊維長が長すぎて測定が困難である場合には、5000倍より低い倍率の電子顕微鏡写真をもとに測定することができる。また、繊維の繊維径が細過ぎて測定が困難である場合には、5000倍よりも高い倍率の電子顕微鏡写真をもとに測定することができる。なお、繊維の断面形状が非円形である場合には、断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
また、上述のようにして測定した50点の繊維における、各繊維径の算術平均値を「平均繊維径」とし、各繊維長の算術平均値を「平均繊維長」とする。
【0033】
後述する無機系繊維シートは、シリカ繊維を含み構成されたシリカ繊維シートを用いて調製することができる。
【0034】
シリカ繊維シートの目付と厚さは適宜選択できる。シリカ繊維シートの目付は、最も面積の広い面(主面)の面積と重量を測定し、該主面1m2当たりの重量に換算した値を目付とする。また、シリカ繊維シートの主面からもう一方の主面に向けて、主面上へ30g/cm2の荷重を付加した時の、両主面間の長さを高精度デジタル測長機で測定し、その長さを厚さとする。
【0035】
シリカ繊維シートの空隙率は適宜選択できるが、センサー固定化用担体として好適に使用できる無機系繊維シートを提供できるように、その空隙率は70%以上の高い空隙率(嵩高)を有するのが好ましい。好ましい空隙率は75%以上であり、より好ましくは80%以上であり、更に好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。上限は特に限定するものではないが、形態安定性の点から99.9%以下であるのが好ましい。
【0036】
なお、「空隙率」は次の式から算出することができる。
P=[1-Wf/(V×SG)]×100
ここで、Pは空隙率(%)、Wfは繊維重量(g)、Vは体積(cm3)、SGは繊維の比重(g/cm3)をそれぞれ表す。
例えば、不織布のように厚さが均一なシートの場合、次の式から算出することができる。
P=[1-Wn/(t×SG)]×100
ここで、Pは空隙率(%)、Wnは目付(g/m2)、tは厚さ(μm)、SGは繊維の比重(g/cm3)をそれぞれ表す。
【0037】
他の金属酸化物を構成可能な金属の種類は、用途に応じ適宜選択できるものであるが、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
【0038】
そして、他の金属酸化物の具体例として、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、CeO2、FeO、Fe3O4、Fe2O3、VO2、V2O5、SnO、SnO2、SnO3、ZnO、CdO、LiO2、WO3、Nb2O5、Ta2O5、In2O3、GeO2、PbTi4O9、LiNbO3、BaTiO3、PbZrO3、KTaO3、Li2B4O7、NiFe2O4、SrTiO3などを挙げることができる。なお、他の金属酸化物は一成分から構成されていても二成分以上の多成分から構成されていても良い。
【0039】
本発明でいうシリカ繊維の表面に他の金属酸化物が存在しているとは、シリカ繊維の表面の一部あるいは全面に、他の金属酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在している、および/または、他の金属酸化物がシリカ繊維の表面に、繊維状、針状、粒子状などの態様をなし存在していることを意味する。
【0040】
シリカ繊維の表面に他の金属酸化物が存在する態様は適宜選択できるが、繊維表面から他の金属酸化物が脱落し難く、また、繊維表面全体で均一的に他の金属酸化物に由来する機能が発揮された無機系繊維を提供できることから、シリカ繊維の表面の一部あるいは全面に、他の金属酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在しているのが好ましい。
【0041】
シリカ繊維の表面に存在する他の金属酸化物の態様は、無機系繊維を撮影した100000倍の電子顕微鏡写真をもとに判断することができる。
なお、後述するESCA分析方法によって算出された珪素原子(atomic%)に占める他の金属酸化物由来の金属原子(atomic%)の比率が、0.00よりも高い無機系繊維あるいは無機系繊維シートを撮影した電子顕微鏡写真において、シリカ繊維の表面の一部あるいは全面に、他の金属酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在している、および/または、他の金属酸化物がシリカ繊維の表面に、繊維状、針状、粒子状、シリカ繊維同士の交点やシリカ繊維間に存在する水掻き状などの態様をなし存在しているのが確認できない場合には、シリカ繊維の表面の一部あるいは全面に、他の金属酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在していると判断する。
【0042】
シリカ繊維の内部と表面に存在する他の金属酸化物の質量およびその質量比率は、適宜選択できるが、繊維表面全体で均一的に他の金属酸化物に由来する機能が発揮された無機系繊維を提供できるように、他の金属酸化物は主としてシリカ繊維の表面に存在しているのが好ましい。
つまり、シリカ繊維の内部に存在する他の金属酸化物の質量よりも、シリカ繊維の表面に存在する他の金属酸化物の質量の方が多い無機系繊維であるのが好ましく、実質的にシリカ繊維表面のみに他の金属酸化物が存在してなる無機系繊維であるのが好ましい。
実質的にシリカ繊維表面のみに他の金属酸化物が存在している無機系繊維は、例えば、後述する「無機系繊維の製造方法」の項目で説明する方法によって調製できる。
【0043】
本発明にかかるESCA分析とは、無機系繊維あるいは無機系繊維シートの表面にX線を照射し、生じた光電子のエネルギーを測定することで、無機系繊維の表面に存在する元素を分析する方法である。
具体的には、以下の測定方法によって、無機系繊維の表面に存在する元素を分析できる。
(ESCA分析)
無機系繊維をX線光電子分光分析装置(JPS-9010MK、JEOL(登録商標))へ供し、全元素スキャンを行った後、検出された元素と存在が予想される元素についてナロースキャンを行うことで、「Si:無機系繊維の表面に存在する珪素原子(atomic%)」、および、「M:無機系繊維の表面に存在する他の金属酸化物由来の金属原子(換言すれば珪素以外の金属原子、atomic%)」の各々の測定値を求める。
そして、得られた測定値からM/Siを算出することで、珪素原子(atomic%)に占める他の金属酸化物由来の金属原子(atomic%)の比率(以降、M/Si比率と称することがある)を算出する。なお、M/Si比率は算出結果の小数点第3位を四捨五入した値である。
【0044】
M/Si比率が低いほど、繊維表面に占める他の金属酸化物が少ないことを意味しており、M/Si比率が高いほど、繊維表面に占める他の金属酸化物が多いことを意味する。
繊維表面に占める他の金属酸化物が少ないほど、柔軟性に優れる、および/または、脆くない無機系繊維であるものの、繊維表面に占める他の金属酸化物が少な過ぎると、他の金属酸化物の存在による無機系繊維の機能が発揮され難くなる恐れがある。
そのため、M/Si比率は0.01~0.70であるのが好ましく、0.03~0.60であるのが好ましく、0.05~0.50であるのが好ましい。
【0045】
無機系繊維はその用途に応じて、例えば、無機系繊維の内部や表面に、ポリマーなどの有機化合物や別の金属といった他の組成物を備えていてもよいが、構造の安定性をより高めることができ、更には、より良好なハンドリング性を達成することができ、その結果、センサー固定化用担体として好適に使用できる無機系繊維シートを提供できることから、無機系繊維は実質的にシリカ繊維と他の金属酸化物のみで構成されているのが好ましい。
【0046】
無機系繊維の繊維径は適宜選択できる。無機系繊維の繊維径が細いほど表面積が大きく、検出レンジが広い固定化用担体を提供できることから、無機系繊維の繊維径は3μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのが好ましい。なお、繊維径の下限値も適宜選択するが、100nm以上であるのが現実的である。
【0047】
本発明における無機系繊維は、温度80℃の水中といった過酷な条件下においても、無機系繊維から他の金属酸化物が脱落し難いなど、より構造の安定性に優れる無機系繊維であるのが好ましい。なお、ここでいう水とは、蒸留水を指す。
具体的には、「A:無機系繊維のM/Si比率」に占める、「B:該無機系繊維を温度80℃の水中に30分間浸漬した後の無機系繊維をESCA分析へ供し算出されるM/Si比率」の各々の測定値から、100×B/Aを算出することで算出された百分率(%、以降、残存百分率と称することがある)の値が高い無機系繊維であるのが好ましい。なお、残存百分率は算出結果の小数点第1位を四捨五入した値である。
このような無機系繊維を含むことで、温度80℃の水中といった過酷な条件下においても無機系繊維から他の金属酸化物が脱落し難いなど、より構造の安定性に優れる無機系繊維シートを提供できるため、FRET法に用いる被検物質蛍光センサーを固定化するために、更により適した担体を提供することができる。
【0048】
残存百分率が高い無機系繊維であるほど過酷な条件下においても構造の安定性に優れる無機系繊維であり、また、過酷な条件下においても構造の安定性に優れた無機系繊維シートを提供できることから、残存百分率は10%以上であるのが好ましく、15%以上であるのが好ましく、20%以上であるのが好ましく、25%以上であるのが好ましく、特に、30%以上であるのが好ましく、35%以上であるのが好ましく、40%以上であるのが好ましく、45%以上であるのが好ましく、50%以上であるのが好ましく、55%以上であるのが好ましく、60%以上であるのが好ましく、65%以上であるのが好ましく、70%以上であるのが好ましく、75%以上であるのが好ましく、80%以上であるのが好ましく、85%以上であるのが好ましく、90%以上であるのが好ましい。
【0049】
本発明における無機系繊維シートは、無機系繊維からなるシート状の繊維構造体であり、好適にはこれまで説明した無機系繊維を備えたシートである。
無機系繊維シートを構成する無機系繊維の平均繊維径は、柔軟性に優れ、また、センサー固定化担体として好適に使用できるよう、3μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのが好ましい。なお、平均繊維径の下限値も適宜選択するが、100nm以上であるのが現実的である。
【0050】
無機系繊維シートの目付と厚さは適宜選択できる。なお、無機系繊維シートの目付は、最も面積の広い面(主面)の面積と重量を測定し、該主面の1m2当たりの重量に換算した値を目付とする。また、無機系繊維シートの主面からもう一方の主面に向けて、主面上へ30g/cm2の荷重を付加した時の、両主面間の長さを高精度デジタル測長機で測定し、その長さを厚さとする。
【0051】
無機系繊維シートの空隙率は適宜選択できるが、センサー固定化用担体として好適に使用できるように、その空隙率は70%以上の高い空隙率(嵩高)を有するのが好ましい。好ましい空隙率は75%以上であり、より好ましくは80%以上であり、更に好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。上限は特に限定するものではないが、形態安定性の点から99.9%以下であるのが好ましい。
【0052】
本発明における前記無機系繊維によって、無機系繊維同士の交点に他の金属酸化物が水掻き状に存在していない無機系繊維シートを提供できる。
なお、本発明では、以下の方法で他の金属酸化物が水掻き状で存在しているか否かを目視で判断する。
(1)無機系繊維シートの、5000倍の電子顕微鏡写真を撮影する。
(2)撮影した電子顕微鏡写真中で無機系繊維同士が交差している部分において、交差している各無機系繊維のうち、繊維径の大きい方の無機系繊維の繊維径(C繊維径)を算出する。
(3)該各繊維同士が交差している部分において、各繊維の繊維径方向における端部同士が重なっている点を中心として、C繊維径の2倍の長さの半径を有する円を電子顕微鏡写真上に描画する。
(4)電子顕微鏡写真中の繊維同士が交差している部分全てにおいて、(2)~(3)のようにして電子顕微鏡写真上に円を描画する。
(5)描画した円の円周とその中心点(各繊維の繊維径方向における端部同士が重なっている点)、そして、各繊維の繊維径方向における端部に囲まれた、最小面積を有する範囲全てに金属酸化物が存在している場合、無機系繊維シートに他の金属酸化物が水掻き状に存在していると判断する。
【0053】
あるいは、以下の方法で他の金属酸化物が水掻き状で存在しているか否かを判断する。
(1)無機系繊維シートの、5000倍の電子顕微鏡写真を撮影する。
(2)撮影した電子顕微鏡写真中で無機系繊維同士が交差せず隣り合い存在している部分において、両無機系繊維同士の間に膜状をなす態様で他の金属酸化物が存在しているか確認する。
両無機系繊維同士の間に膜状をなす態様で他の金属酸化物が存在している場合、無機系繊維シートに他の金属酸化物が水掻き状に存在していると判断する。
【0054】
また、それ以外の場合、無機系繊維シートに他の金属酸化物が水掻き状に存在していないと判断する。
【0055】
次に、本発明における無機系繊維の製造方法を説明する。
(無機系繊維の製造方法)
本発明における無機系繊維の製造方法は適宜選択できるが、例えば、
(1)シリカ繊維を紡糸する工程、
(2)シリカ繊維に金属イオン溶液を付与する工程、
(3)金属イオン溶液を付与したシリカ繊維から、金属イオン溶液を除去する工程、
を備える、無機系繊維の製造方法を採用できる。
【0056】
まず、(1)シリカ繊維を紡糸する工程について説明する。
シリカ繊維を紡糸する方法は適宜選択できるが、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、遠心力を用いて紡糸する方法、特開2011-012372号公報などに記載の随伴気流を用いて紡糸する方法、特開2005-264374号公報などに記載の静電紡糸法の一種である中和紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法など公知の方法により得ることができる。
【0057】
特に、静電紡糸法を用いてシリカ繊維を調製すると、平均繊維径が細いと共に繊維径の均一なシリカ繊維やシリカ繊維シートを調製でき好ましい。特に、静電紡糸法の一種である中和紡糸法を用いると、空隙率が高く嵩高のシリカ繊維シートを調製でき、センサー固定化用担体として好適に使用可能な無機系繊維シートを提供できるため好ましい。
静電紡糸法を採用する場合には、使用する紡糸溶液として、シリカアルコキシドが縮重合した縮合物を含む紡糸溶液(特には、後述する「紡糸溶液の曳糸性有無の判断方法」の項目において、曳糸性を有すると判断された紡糸溶液)を用いることで、繊維径が均一かつ細いシリカ繊維を調製できるため好ましい。
【0058】
なお、「曳糸性」の判定は、以下に示す条件で実際に静電紡糸を行い、以下の判断基準により判定することができる。
(紡糸溶液の曳糸性有無の判断方法)
アースしたアルミ板に対し、水平方向に配置した金属ノズル(内径:0.4mm)から曳糸性を判断する紡糸溶液(固形分濃度:20~50wt%)を押出する(押出量:0.5~1.0g/hr)と共に、ノズルに電圧を印加(電界強度:1~3kV/cm、極性:プラス印加又はマイナス印加)し、ノズルの先端に溶液の固化を生じさせることなく、1分間以上、連続して紡糸し、アルミ板上に極細繊維不織布を形成することを試みる。
この形成した極細繊維の走査電子顕微鏡写真を撮り、観察し、液滴がなく、極細繊維の平均繊維径(50点の算術平均値)が5μm以下、アスペクト比が100以上の極細繊維不織布を製造できる条件が存在する場合には、その溶液は「曳糸性あり」と判断する。
これに対して、前記条件(すなわち、固形分濃度、押出量、電界強度、及び/又は極性)を変え、いかに組み合わせても、液滴がある場合、一定した繊維形態でない場合、あるいは、アスペクト比が100未満の場合(例えば、粒子状)で、前記極細繊維不織布を製造できる条件が存在しない場合には、その溶液は「曳糸性なし」と判断する。
【0059】
紡糸溶液を調製するため使用するシリカアルコキシドは、一般式SiR2m(OR1)4-mで表され、R1、R2はそれぞれ独立したアルキル基を表し、mは0~2の整数をそれぞれ表す。なお、アルキル基R1、R2は同一でも異なっていても良く、R1、R2は炭素数4以下のアルキル基であるのが好ましく、例えば、メチル基CH3、エチル基C2H5、プロピル基C3H7、イソプロピル基i-C3H7、ブチル基C4H9、イソブチル基i-C4H9等の低級アルキル基を例示できる。
また、加水分解反応及び縮重合反応が起こりうる部位を有する限り、このようなシリカアルコキシドはメチル基やエポキシ基で有機修飾されていても良い。
【0060】
シリカアルコキシドは安定化するために、溶媒で希釈することができる。このような安定化のための溶媒としては、シリカアルコキシドを溶解することができ、かつ水と均一に混合できるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの脂肪族の低級アルコール、ジメチルホルムアミド、水などを挙げることができる。なお、これらの混合溶媒とすることもできる。
【0061】
シリカアルコキシドが縮重合した縮合物を形成するための反応液には、加水分解のための水を含有している。なお、シリカアルコキシドの構造、求めるシリカ繊維やシリカ繊維シートの態様によって、最適な水の量が異なるため、反応液における水の含有量は特に限定されるものではないが、例えば、テトラエトキシシランを用いて、シリカ繊維を得る場合には、水の量がアルコキシドの4倍(モル比)を超えると、曳糸性を有する紡糸溶液を得ることが困難になるため、アルコキシドの4倍(モル比)以下であるのが好ましい。
【0062】
また、シリカアルコキシドが縮重合した縮合物を形成するための反応液には、加水分解反応が円滑に進行するように、触媒を含んでいることができる。シリカアルコキシドの構造、求めるシリカ繊維やシリカ繊維シートの態様によって、最適な触媒が異なるため、特に限定するものではないが、例えば、塩酸、硝酸、水酸化ナトリウム、アンモニアなどを挙げることができる。より具体的には、曳糸性を有する前記紡糸溶液を得るためには、酸性の触媒を用いるのが好ましい。
【0063】
更に、反応液は、例えばシリカアルコキシドを安定化させるキレート剤、シランカップリング剤、圧電性などの各種機能を付与することができる化合物、接着性改善、柔軟性、有機化合物(例えば、ポリメチルメタクリレート)、あるいは染料などの添加剤を含んでいることができる。なお、これらの添加剤は、加水分解を行う際、又は加水分解後に添加することもできる。
【0064】
更に、反応液は無機系又は有機系の微粒子を含んでいることができる。無機系微粒子としては、例えば、酸化チタン、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化珪素、活性炭、金属(例えば、白金)を挙げることができ、有機系微粒子として、色素又は顔料などを挙げることができる。微粒子の粒径や形状は目的とするシートの形やサイズなどによるため、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選定することができる。このような微粒子を含んでいることによって、最終的に得られる無機系繊維や無機系繊維シートに、例えば、光学機能、多孔性、吸着機能などの付加機能を付与することができる。
【0065】
シリカアルコキシドが縮重合した縮合物は、前述のような反応液を加熱し、加水分解反応を進行させることによって得ることができる。なお、加熱は反応液を構成する溶媒の沸点以下の温度で行なうのが好ましい。例えば、溶媒が水の場合には、100℃未満の温度で加熱して加水分解反応を進行させることができる。なお、あまり温度が低すぎても加水分解反応が進行しにくいため、10℃以上であるのが好ましい。
【0066】
このようにして形成した縮合物を含む反応液は、紡糸できるように粘度が0.1ポイズ以上であるのが好ましく、0.5ポイズ以上であるのがより好ましく、1ポイズ以上であるのが更に好ましい。なお、繊維径が3μm以下の細繊維を紡糸する場合には、細径化できるように、100ポイズ以下であるのが好ましく、20ポイズ以下であるのがより好ましく、10ポイズ以下であるのが更に好ましく、5ポイズ以下であるのが更に好ましい。
なお、ノズルを使用する場合には、ノズル先端部分における雰囲気を反応液の溶媒と同様の溶媒ガス雰囲気とすることにより、100ポイズを超える場合であっても紡糸可能な場合がある。
【0067】
上述のようにして紡糸して得られるシリカ繊維は、例えば、布帛(織物、編物、不織布、繊維ウェブなど)の態様で得ることができる。
【0068】
このように形成したシリカ繊維に熱処理を実施してもよい。熱処理を施すことによって、一般的にシラノール基の縮合反応が進み、シリカ繊維やシリカ繊維シート全体の強度を高めることができる。例えば、シリカ繊維シートが布帛からなる場合には、熱処理によって、強度が向上するとともに保形性に優れる布帛を提供できる。なお、熱処理条件は、柔軟性に優れたシリカ繊維あるいはシリカ繊維シートを提供することができるよう適宜選択するが、例えばオーブン、焼結炉等を用いて実施することができ、その温度は200℃以上であることができ、300℃以上であることができる。上限値は特に限定するものではないが、熱処理温度があまりにも高温であると、シリカ繊維に含まれているアモルファスシリカの結晶化がおこる恐れがある。そのため、非特許文献(Journal of the Ceramic Society of Japan 105 [5] 385-390 (1997))などに開示されているように、熱処理温度が600℃から1200℃の範囲であれば、純水なシリカは結晶化を示さないことが知られていることから、アモルファスシリカの結晶化を防止して柔軟性に優れたシリカ繊維あるいはシリカ繊維シートを提供できるよう、シリカ繊維の加熱温度は1200℃以下であるのが好ましく、1000℃以下であるのが好ましい。
【0069】
また、上述のようにして調製したシリカ繊維シートへ、特開2013-194341号公報に記載されているようなシリカゾル溶液(接着剤)を付与し加熱処理へ供することで、シリカ繊維の交点を接着剤由来のシリカで接着したシリカ繊維シートを調製できる。
なお、この際の加熱処理条件も上述と同様の理由から、その温度は200℃以上であることができ、300℃以上であることができ、また、1200℃以下であるのが好ましく、1000℃以下であるのが好ましい。
【0070】
次いで、(2)シリカ繊維に金属イオン溶液を付与する工程について説明する。
上述のようにして調製したシリカ繊維あるいはシリカ繊維シートに対して、金属イオン溶液を付与する。ここでいう金属イオン溶液とは、本発明に係る他の金属酸化物を構成し得る金属のイオンを有する溶液である。具体的には金属イオン溶液として、金属無機塩(塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩など)又は金属有機塩(アセテート、クエン酸塩など)などを、水もしくは、水を主成分とし、水に可溶な、例えばアルコールを含む溶媒に溶解させた溶液を使用でき、金属イオン溶液として金属カチオン溶液を使用するのが好ましい。
【0071】
シリカ繊維あるいはシリカ繊維シートに金属イオン溶液を付与する方法は適宜選択できるが、スプレーなどを用いて金属イオン溶液を散布あるいは塗布する方法、金属イオン溶液中に浸漬する方法などを採用することができる。
【0072】
シリカ繊維あるいはシリカ繊維シートと金属イオン溶液が接触している時間(例えば、金属イオン溶液中への浸漬時間)や、使用する金属イオン溶液の濃度や温度(処理温度)は適宜選択するが、前記時間が長すぎたり、金属イオン溶液の濃度が高すぎたり、処理温度が高すぎると、無機系繊維のM/Si比率が0.70よりも高くなるおそれがある。また、前記時間が短かすぎたり、金属イオン溶液の濃度が低すぎたり、処理温度が低すぎると、他の金属酸化物の存在による無機系繊維の機能が意図する程度に発揮されない恐れがある。そのため、処理時間は1分~72時間であるのが好ましく、1時間~48時間であるのが好ましく、3時間~24時間であるのが好ましい。金属イオン溶液の濃度は、0.1mmol/L~50mmol/L未満であるのが好ましく、0.5mmol/L~40mmol/Lであるのが好ましく、1mmol/L~30mmol/Lであるのが好ましい。また、処理温度は10℃~50℃であるのが好ましく、15℃~40℃であるのが好ましく、20℃~30℃であるのが好ましい。
【0073】
そして、(3)金属イオン溶液を付与したシリカ繊維から、金属イオン溶液を除去する工程について説明する。
上述のようにして調製した、金属イオン溶液を付与したシリカ繊維あるいはシリカ繊維シートから、余剰な金属イオン溶液を除去する。除去方法は適宜選択できるが、溶媒で洗浄する方法、サクションするなどによって金属イオン溶液を吸引除去する方法などを採用することができる。
【0074】
洗浄に使用できる溶媒は適宜選択できるが、金属イオン溶液に含まれている溶媒と同じ溶媒を用いると、効果的に余剰な金属イオン溶液を除去でき好ましい。このときの溶媒の温度は、無機系繊維あるいは無機繊維シートの構造安定性やハンドリング性が意図せず低下しないよう適宜選択する。
【0075】
次いで、例えば、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機などの加熱機へ供し加熱する、室温雰囲気下や減圧雰囲気下に静置するなどして、無機系繊維あるいは無機繊維シートに残留している洗浄に使用した溶媒を除去してもよい。溶媒を除去する際の加熱温度は溶媒が揮発可能な温度であると共に、無機系繊維あるいは無機繊維シートの構造安定性やハンドリング性が意図せず低下しないよう、加熱温度の上限温度を選択する。
【0076】
上述の工程を備える製造方法によって無機系繊維を製造することができるが、更に、上述の工程の後に、
(4)無機系繊維を少なくとも80℃以上で加熱する工程、
へ供しても良い。
この工程を備える製造方法によって、温度80℃の水中といった過酷な条件下においても、無機系繊維から他の金属酸化物が脱落し難いなど、より構造の安定性に優れる無機系繊維あるいは無機繊維シートを製造することができる。
【0077】
無機系繊維を加熱する方法は適宜選択でき、例えば、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機などの加熱機を使用することができる。
無機系繊維が加熱される温度(加熱温度)は無機系繊維の構成や物性、無機系繊維あるいは無機繊維シートを構成している他の金属酸化物の種類などにより適宜選択するが、一例として、他の金属酸化物がアルミニウムの酸化物である場合、加熱温度は201℃以上が好ましく、250℃以上が好ましく、300℃以上が好ましい。上限値は特に限定するものではないが、熱処理温度があまりにも高温であると、無機系繊維を構成しているシリカ繊維に含まれているアモルファスシリカの結晶化がおこる恐れがある。そのため、無機系繊維の加熱温度は1200℃以下であるのが好ましく、1000℃以下であるのが好ましい。また、他の金属酸化物の結晶構造などが意図しないものに変化することがないよう、加熱温度の上限温度を適宜選択するのが好ましい。
【0078】
上述の製造方法を用いることで、構造の安定性をより高めることができ、更には、より良好なハンドリング性を達成することができ、その結果、FRET法に用いる被検物質蛍光センサーを固定化するために、より好適に使用可能な無機系繊維や無機系繊維シートを提供することができ、更に、繊維径が細いことで繊維表面積が広く、検出レンジが広い無機系繊維や無機系繊維シートを提供することができる。
【0079】
センサー固定化用担体と被検物質蛍光センサーとの結合は、選択した無機系繊維シートと被検物質蛍光センサーとの組合せに従って、それ自体公知の結合方法を適宜選択することができ、例えば、センサー固定化担体に被検物質蛍光センサーを直接化学結合させる方法や、末端に被検物質蛍光センサーと化学結合可能な官能基を有する化合物、例えば、シランカップリング剤やホスホン酸誘導体などを修飾した後、センサー固定化担体を間接的に化学結合させる方法がある。各々の結合過程では、触媒を用いてもよい。
また、プラズマ方法、エキシマ方法、紫外線照射法などを用いることによって、無機性繊維の表面を改質・活性化させ、被検物質蛍光センサーを結合してもよい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例、比較例、試験例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0081】
(実施例1)
紡糸工程及び繊維の集積工程
金属化合物としてのテトラエトキシシラン、溶媒としてのエタノール、加水分解のための水、及び触媒として1規定の塩酸を、1:5:2:0.003のモル比で混合し、温度78℃で10時間の還流操作を行い、次いで、溶媒をロータリーエバポレーターにより除去して濃縮した後、温度60℃に加熱して、粘度が2ポイズのゾル溶液を形成した。得られたゾル溶液を紡糸液として用い、中和紡糸法を用いてゲル状シリカ繊維ウエブを作製した。
なお、前記中和紡糸法は、特開2005-264374号公報の実施例8と同じ紡糸条件で実施した。詳細を以下に示す。
紡糸ノズル:内径0.4mmの金属製注射針(先端カット)
紡糸ノズルと対向電極との距離:200mm
対向電極及びイオン発生電極(両電極を兼ねる):ステンレス板(誘起電極)上に厚さ1mmのアルミナ膜(誘電体基板)を溶射し、その上に直径30μmのタングステンワイヤ(放電電極)を10mmの等間隔で張った沿面放電素子(タングステンワイヤ面を紡糸ノズルと対向させると共に接地し、ステンレス板とタングステンワイヤ間に交流高電圧電源により50Hzの交流高電圧を印加)
第1高電圧電源:-16kV
第2高電圧電源:±5kV(交流沿面のピーク電圧:5kV、50Hz)
気流:水平方向25cm/sec、鉛直方向15cm/sec
紡糸室内の雰囲気:温度25℃、湿度40%RH以下
連続紡糸時間:30分以上
【0082】
ゲル状シリカ繊維ウエブの熱処理工程
得られたゲル状シリカ繊維ウエブを、電気炉へ供し500℃で熱処理することにより、シリカ繊維ウエブ(目付:8g/m2)を作製した。
【0083】
繊維間の接着工程
繊維間接着のために用いる接着用無機系ゾル溶液として、金属化合物としてテトラエトキシシラン、溶媒としてエタノール、加水分解のための水、及び触媒として硝酸を、1:7.2:7:0.0039のモル比で混合し、温度25℃(室温)、攪拌条件300rpmで15時間反応させた。反応後、酸化ケイ素の固形分濃度が0.25%となるようにエタノールで希釈し、シリカゾル希薄溶液とした。
得られたシリカ繊維ウエブを前記シリカゾル希薄溶液に浸漬した後、吸引により余剰のシリカゾル希薄溶液を除去することにより、シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを作製した。
シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを110℃の雰囲気中に30分保持することで、残留するシリカゾル希薄溶液に含まれる溶媒を乾燥除去させた。続いて、電気炉へ供し500℃で熱処理することによりシリカ繊維の交点をシリカゾル希薄溶液由来のシリカで接着させ、シリカ繊維不織布を作製した。
【0084】
シリカ繊維不織布のAl被覆工程
シリカ繊維不織布をH2SO4:30%H2O2=3:1の混合溶液中に室温で30分間浸漬することによりピラニア処理を実施した後、純水で洗浄した。
続いて、濃度がNaClおよびAlCl3ともに1mmol/Lの水溶液(温度:25℃)を用意し、NaOHを加え水溶液をpH7に調整した。そして該水溶液へ、ピラニア処理を実施したシリカ繊維不織布を室温で24時間浸漬した。その後、シリカ繊維不織布を引き上げ、精製水で洗浄して25℃で乾燥することで、アルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するシリカ繊維不織布(以下、Al被覆シリカ繊維不織布と称する)を調製した。
【0085】
Al被覆シリカ繊維不織布の蛍光標識工程
繊維表面にカルボキシル基を導入するために、前記Al被覆シリカ繊維不織布を、ホスホン酸誘導体である10-CDPA(10-carboxydecylphosphonic acid)の1mmol/L濃度のメタノール溶液に浸漬し、室温で一晩処理した後、メタノール洗浄を行い、120℃、3時間の熱処理を行うことにより、COOH基付与Al被覆シリカ繊維不織布を調製した。
【0086】
カルボキシル基-アミノ基間架橋剤(カルボン酸活性化試薬および脱水縮合剤の組合せ)として、100mmol/LのEDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride):100mmol/LのNHS(N-hydroxysuccinimide)=1:1の混合緩衝溶液(pH 4.5)を、前記COOH基付与Al被覆シリカ繊維不織布に付与し、室温で10分間処理した後、純水洗浄を行った。
続いて、洗浄したCOOH基付与Al被覆シリカ繊維不織布に対し、純水を用いて1mg/mLの濃度に調整したFAM蛍光修飾ペプチド(30個のアミノ酸から構成されるペプチドであって、蛍光色素はFAM(Fluorescein)である)を添加して、室温で2時間処理した後、純水で洗浄することにより、FAM蛍光修飾ペプチド付加Al被覆シリカ繊維不織布を調製した。
なお、得られたFAM蛍光修飾ペプチド付加Al被覆シリカ繊維不織布の繊維表面におけるESCA分析によるAl/Si比は0.14であった。
【0087】
(比較例1)
直径50~120μmのアガロースビーズ(有機物担体:抗DYKDDDDKタグ抗体ビーズ)を用意した。そして、用意したアガロースビーズに1%ウシ血清アルブミンを含むハンクス・ヘペス緩衝液を付与して30分間処理した後、同緩衝液を用いてアガロースビーズを洗浄した。
続いて、洗浄したアガロースビーズに対し、同緩衝液を用いて1μMの濃度に調整したFAM蛍光修飾ペプチド(30個のアミノ酸から構成されるペプチドであって、蛍光色素はFAM(Fluorescein)である)を添加して、室温で1時間処理した後、同緩衝液で洗浄することにより、FAM蛍光修飾ペプチド付加アガロースビーズを調製した。
【0088】
(試験例1)
実施例1で調製したFAM蛍光修飾ペプチド付加Al被覆シリカ繊維不織布、比較例1で調製したFAM蛍光修飾ペプチド付加アガロースビーズについて、共焦点レーザー顕微鏡(ニコン C1 システム;顕微鏡:ニコン ECLIPSE TE2000E;レンズ:Plan Apo VC ×60 oil(NA=1.4))を用いて、FAMの蛍光を励起する励起光(励起波長(Ex):488nm)を照射したときに放出されるFAMの蛍光(蛍光波長(Em):500~540nm)を観察した。
【0089】
結果を
図1に示す。
図1の上図は蛍光観察像であり、
図1の下図は同視野における透過像であり、各像の一辺は21.2μmである。
担体内部への蛍光色素の染み込みの程度は、比較例1のアガロースビーズからなる有機物担体では、染み込み長が5μmと染み込みが顕著であったが、実施例1のシリカ繊維不織布からなる無機物担体では、染み込み長が繊維径よりも浅い1μm未満であり、染み込みが抑制されていた。担体への染み込みが発生すると、バックグランドが高くなることがあり、本発明における無機系繊維シートは、FRET分析に用いる被検物質蛍光センサーを固定する担体用途に適することが確認された。
【0090】
(実施例2)
実施例1で用いたFAM蛍光修飾ペプチドに代えて、実施例1で使用したペプチドをDACMで修飾したDACM蛍光修飾ペプチドを用いたこと以外は、実施例1の操作に従って、DACM蛍光修飾ペプチド付加Al被覆シリカ繊維不織布を調製した。
更に、実施例1で用いたFAM蛍光修飾ペプチドに代えて、実施例1で使用したペプチドをFAM及びDACMで同時に修飾した二重蛍光修飾ペプチドを用いたこと以外は、実施例1の操作に従って、二重蛍光修飾ペプチド付加Al被覆シリカ繊維不織布を調製した。
【0091】
(参考例1)
また、後述する測定に使用するため、実施例1で用いたFAM蛍光修飾ペプチドに代えて、実施例1および実施例2で使用したペプチド(蛍光色素は修飾されていない)を用いたこと以外は、実施例1の操作に従って、非蛍光のペプチド付加Al被覆シリカ繊維不織布を調製した。
【0092】
(比較例2)
実施例1および実施例2のシリカ繊維不織布の調製工程において行った処理と同様の処理を、石英ガラス板の主面(面積:0.3cm2、円形)に対して施すことで、FAM蛍光修飾ペプチド付加Al被覆石英ガラス板、DACM蛍光修飾ペプチド付加Al被覆石英ガラス板、二重蛍光修飾ペプチド付加Al被覆石英ガラス板を調製した。
更に、参考例1のシリカ繊維不織布の調製工程において行った処理と同様の処理を、石英ガラス板の主面(面積:0.3cm2、円形)に対して施すことで、非蛍光のペプチド付加Al被覆石英ガラス板を調製した。
【0093】
(試験例2)
実施例1および実施例2ならびに参考例1において調製した、各種ペプチド付加Al被覆シリカ繊維不織布、比較例2で調製した各種ペプチド付加Al被覆石英ガラス板について、蛍光プレートリーダー(コロナ電気社製、SH-9000)を用いて、Ex/Em=390nm/450nm、390nm/520nm、490nm/520nmで蛍光測定を行った。なお、蛍光測定条件は、温度37℃、フォトマル高圧high、測定感度×10、半値幅5nmで行った。
そして、測定により得られた(表1)記載の各シグナル強度から、以下の算出方法に基づき、担体として無機系繊維シートを用いた実施例、および、担体として石英ガラス板を用いた比較例における、各FRETシグナル強度を算出した。
【0094】
【表1】
そして、No.11のシグナル強度から(A+B+No.2)を引いた値を、FRETシグナル強度とした。
【0095】
なお、FAMの励起波長(Ex)/蛍光波長(Em、検出波長)は490nm/520nm、DACMの励起波長(Ex)/蛍光波長(Em、検出波長)は390nm/450nmであるため、Ex390nm/Em520nmの測定条件では、本来、蛍光検出されないが、FRET現象が発生するため、FAMが励起され、FAM蛍光が検出される。
また、本試験系は、非競合FRETを想定したFRET測定の簡易評価系であるが、担体に固定する被検物質蛍光センサー部分に2種類の蛍光物質を設けることにより、必ずFRETが生じる構成とし、非競合FRETの代替評価も行えたものである。
【0096】
結果を表2に示す。表2に示す結果はN=5の平均である。なお、算出結果は、担体を直上から見た主面面積:0.3cm2の円形範囲に換算した結果で比較している。
実施例2のシリカ繊維不織布からなる無機系繊維シートは、比較例2の石英ガラス板からなる担体と比較して、約10倍のシグナル強度を示し、更に、繊維シートであるため、取扱い性にも優れていた。本発明における無機系繊維シートは、FRET分析に用いる被検物質蛍光センサーを固定する担体用途に適することが確認された。
なお、担体の違いによるFRET効率の優位な差異は認められなかった。
【0097】
【0098】
(実施例3)
実施例1においてAl被覆を行わないこと以外は、実施例1の操作に従って、FAM蛍光修飾ペプチド付加シリカ繊維不織布を調製した。
【0099】
(試験例3)
実施例3で調製したFAM蛍光修飾ペプチド付加シリカ繊維不織布と、実施例1で調製したFAM蛍光修飾ペプチド付加Al被覆シリカ繊維不織布を、それぞれ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、4℃で6日間保管したところ、繊維シート表面のFAM蛍光修飾ペプチドの残存割合は、前者(Al被覆なし)が47%であり、後者(Al被覆あり)が65%であった。
この結果から、本発明における無機系繊維シートの好適態様である、シリカ以外の金属酸化物がシリカ繊維の表面に存在する無機系繊維シートは、FRET分析に用いる被検物質蛍光センサーを固定する担体用途に、より適することが確認された。
【0100】
(実施例4)
濃度がNaClおよびAlCl
3ともに1mmol/Lの水溶液(温度:25℃)を用意し、NaOHを加え水溶液をpH7に調整した。そして該水溶液へ、実施例1において調製したシリカ繊維不織布を室温で24時間浸漬した。その後、シリカ繊維不織布を引き上げ、精製水で洗浄して25℃で乾燥することで、アルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在してなる無機系繊維不織布(平均繊維径:800nm、目付:8g/m
2、空隙率:95%、M/Si比率:0.17、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していない)を調製した。
実施例4で調製した不織布表面の、5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図2に図示した。また、前記不織布を構成する無機系繊維表面の、100000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図3に図示した。
【0101】
また、無機系繊維不織布を構成している無機系繊維の破損し易さを確認することで、無機系繊維および無機系繊維不織布の構造の安定性を評価するため、調製した無機系繊維不織布へ次の超音波処理を施した。
調製した無機系繊維不織布を蒸留水中に浸漬し、蒸留水中で無機系繊維不織布へ超音波(100kHz)を2分間作用させた。そして、超音波を作用させた無機系繊維不織布を蒸留水中から引き上げ、室温雰囲気下で乾燥した。
このようにして超音波処理を施した後の、無機系繊維不織布表面の5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図9に図示した。
【0102】
(実施例5)
濃度がNaClおよびAlCl
3ともに5mmol/Lの水溶液(温度:25℃)を用いたこと以外は、実施例4と同様にしてアルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在してなる無機系繊維不織布(平均繊維径:800nm、目付:8g/m
2、空隙率:95%、M/Si比率:0.25、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していない)を調製した。
実施例5で調製した不織布表面の、5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図4に図示した。
【0103】
また、無機系繊維不織布を構成している無機系繊維の破損し易さを確認することで、無機系繊維および無機系繊維不織布の構造の安定性を評価するため、調製した無機系繊維不織布へ次の超音波処理を施した。
調製した無機系繊維不織布を蒸留水中に浸漬し、蒸留水中で無機系繊維不織布へ超音波(100kHz)を2分間作用させた。そして、超音波を作用させた無機系繊維不織布を蒸留水中から引き上げ、室温雰囲気下で乾燥した。
このようにして超音波処理を施した後の、無機系繊維不織布表面の5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図10に図示した。
【0104】
(実施例6)
濃度がNaClおよびAlCl
3ともに10mmol/Lの水溶液(温度:25℃)を用いたこと以外は、実施例4と同様にしてアルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在してなる無機系繊維不織布(平均繊維径:800nm、目付:8g/m
2、空隙率:95%、M/Si比率:0.27、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していない)を調製した。
実施例6で調製した不織布表面の、5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図5に図示した。
【0105】
また、無機系繊維不織布を構成している無機系繊維の破損し易さを確認することで、無機系繊維および無機系繊維不織布の構造の安定性を評価するため、調製した無機系繊維不織布へ次の超音波処理を施した。
調製した無機系繊維不織布を蒸留水中に浸漬し、蒸留水中で無機系繊維不織布へ超音波(100kHz)を2分間作用させた。そして、超音波を作用させた無機系繊維不織布を蒸留水中から引き上げ、室温雰囲気下で乾燥した。
このようにして超音波処理を施した後の、無機系繊維不織布表面の5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図11に図示した。
【0106】
(実施例7)
濃度がNaClおよびAlCl
3ともに30mmol/Lの水溶液(温度:25℃)を用いたこと以外は、実施例4と同様にしてアルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在してなる無機系繊維不織布(平均繊維径:800nm、目付:8g/m
2、空隙率:95%、M/Si比率:0.33、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していない)を調製した。
実施例7で調製した不織布表面の、5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図6に図示した。
【0107】
また、無機系繊維不織布を構成している無機系繊維の破損し易さを確認することで、無機系繊維および無機系繊維不織布の構造の安定性を評価するため、調製した無機系繊維不織布へ次の超音波処理を施した。
調製した無機系繊維不織布を蒸留水中に浸漬し、蒸留水中で無機系繊維不織布へ超音波(100kHz)を2分間作用させた。そして、超音波を作用させた無機系繊維不織布を蒸留水中から引き上げ、室温雰囲気下で乾燥した。
このようにして超音波処理を施した後の、無機系繊維不織布表面の5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図12に図示した。
【0108】
(実施例8)
濃度がNaClおよびAlCl
3ともに40mmol/Lの水溶液(温度:25℃)を用いたこと以外は、実施例4と同様にしてアルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在してなる無機系繊維不織布(平均繊維径:800nm、目付:8g/m
2、空隙率:95%、M/Si比率:0.45、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していない)を調製した。
実施例8で調製した不織布表面の、5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図7に図示した。
【0109】
また、無機系繊維不織布を構成している無機系繊維の破損し易さを確認することで、無機系繊維および無機系繊維不織布の構造の安定性を評価するため、調製した無機系繊維不織布へ次の超音波処理を施した。
調製した無機系繊維不織布を蒸留水中に浸漬し、蒸留水中で無機系繊維不織布へ超音波(100kHz)を2分間作用させた。そして、超音波を作用させた無機系繊維不織布を蒸留水中から引き上げ、室温雰囲気下で乾燥した。
このようにして超音波処理を施した後の、無機系繊維不織布表面の5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図13に図示した。
【0110】
(比較例3)
濃度がNaClおよびAlCl
3ともに50mmol/Lの水溶液(温度:25℃)を用いたこと以外は、実施例4と同様にしてアルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在してなる無機系繊維不織布(平均繊維径:800nm、目付:8g/m
2、空隙率:93%、M/Si比率:0.71、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在している)を調製した。
比較例3で調製した不織布表面の、5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図8に図示した。
【0111】
また、無機系繊維不織布を構成している無機系繊維の破損し易さを確認することで、無機系繊維および無機系繊維不織布の構造の安定性を評価するため、調製した無機系繊維不織布へ次の超音波処理を施した。
調製した無機系繊維不織布を蒸留水中に浸漬し、蒸留水中で無機系繊維不織布へ超音波(100kHz)を2分間作用させた。そして、超音波を作用させた無機系繊維不織布を蒸留水中から引き上げ、室温雰囲気下で乾燥した。
このようにして超音波処理を施した後の、無機系繊維不織布表面の5000倍の電子顕微鏡写真を撮影し
図14に図示した。
【0112】
(実施例9)
実施例4で調製した無機系繊維不織布を、80℃の水中に30分間浸漬した。
その後、水中から引き上げ25℃で乾燥することで、アルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在してなる無機系繊維不織布(平均繊維径:800nm、目付:8g/m2、空隙率:95%、M/Si比率:0.04、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していない)を調製した。
なお、残存百分率は24%であった。
【0113】
(実施例10)
実施例4で調製した無機系繊維不織布を、温度200℃に設定した電気炉に供給し3時間熱処理を行い、アルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在してなる無機系繊維不織布(平均繊維径:800nm、目付:8g/m2、空隙率:95%、M/Si比率:0.16、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していない)を調製した。
【0114】
(実施例11)
実施例10で調製した無機系繊維不織布を用いたこと以外は、実施例9と同様にしてアルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在してなる無機系繊維不織布(平均繊維径:800nm、目付:8g/m2、空隙率:95%、M/Si比率:0.05、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していない)を調製した。
なお、残存百分率は31%であった。
【0115】
(実施例12)
実施例4で調製した無機系繊維不織布を、温度300℃に設定した電気炉に供給し3時間熱処理を行い、アルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在してなる無機系繊維不織布(平均繊維径:800nm、目付:8g/m2、空隙率:95%、M/Si比率:0.14、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していない)を調製した。
【0116】
(実施例13)
実施例12で調製した無機系繊維不織布を用いたこと以外は、実施例9と同様にしてアルミニウムの酸化物がシリカ繊維の表面を被覆するように存在してなる無機系繊維不織布(平均繊維径:800nm、目付:8g/m2、空隙率:95%、M/Si比率:0.13、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していない)を調製した。
なお、残存百分率は93%であった。
【0117】
実施例4~13と比較例3を比較した結果、実施例の無機系繊維不織布にはいずれも、アルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していないものであったのに対し、比較例3の無機系繊維不織布にはアルミニウムの酸化物が水掻き状に存在していた。
また、実施例と比較例3で調製した無機系繊維不織布に対し超音波処理を施し乾燥した後の、各無機系繊維不織布表面の5000倍の電子顕微鏡写真を確認した結果、実施例の無機系繊維および無機系繊維不織布には、アルミニウムの酸化物の剥落や破損は認められなかった。一方、比較例3の無機系繊維および無機系繊維不織布には、アルミニウムの酸化物の剥落や破損が生じた箇所が認められた。このことから実施例で調製した無機系繊維で構成された無機系不織布は、構造の安定性に優れるものであることが判明した。
【0118】
そのため、実施例4~13の無機系繊維不織布は、繊維径が3μm以下であるなど繊維径の細い場合であったとしても、構造の安定性に劣るという問題や、ハンドリング性が悪いという問題を改善し、FRET分析に用いる被検物質蛍光センサーを固定する担体用途に、より適することが確認された。
【0119】
また、実施例4と実施例9~13の結果から、以下のことが判明した。
実施例10と実施例11を比較した結果、実施例10で調製した無機系繊維不織布の残存百分率は31%であり、温度80℃の水中という過酷な条件下においても無機系繊維不織布(無機系繊維)から他の金属酸化物が脱落し難いものであった。
更に、実施例12と実施例13を比較した結果、実施例12で調製した無機系繊維不織布の残存百分率は93%と高く、温度80℃の水中という過酷な条件下においてもより無機系繊維不織布(無機系繊維)から他の金属酸化物が脱落し難いものであった。
一方、実施例4と実施例9を比較した結果、実施例4で調製した無機系繊維不織布の残存百分率は24%であり、温度80℃の水中という過酷な条件下において無機系繊維不織布(無機系繊維)から他の金属酸化物が脱落し易いものであった。
【0120】
そのため、実施例10および実施例11で調製した無機系繊維不織布を構成する無機系繊維は、より構造の安定性に優れる無機系繊維であり、前記無機系繊維不織布は、FRET分析に用いる被検物質蛍光センサーを固定する担体用途に、より適することが確認された。
【0121】
更に、実施例に係る無機系繊維を構成するシリカ繊維は、その製造工程で1200℃を超える温度で加熱されることなく製造された。そのため、実施例に係る無機系繊維は、アモルファスシリカを含んでいるシリカ繊維を備えていることで、より柔軟性に優れていると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明における無機系繊維シートは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して被検物質を分析するFRET法に用いる被検物質蛍光センサーを固定するための担体として利用することができる。