IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ケイエーシステムの特許一覧 ▶ 株式会社タイカの特許一覧

特許7214108フィラメント供給装置、3Dプリンタおよびフィラメント供給方法
<>
  • 特許-フィラメント供給装置、3Dプリンタおよびフィラメント供給方法 図1
  • 特許-フィラメント供給装置、3Dプリンタおよびフィラメント供給方法 図2
  • 特許-フィラメント供給装置、3Dプリンタおよびフィラメント供給方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】フィラメント供給装置、3Dプリンタおよびフィラメント供給方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/321 20170101AFI20230123BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20230123BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230123BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20230123BHJP
   B33Y 40/00 20200101ALI20230123BHJP
【FI】
B29C64/321
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y40/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019062450
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020157714
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】519111040
【氏名又は名称】株式会社ケイエーシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】306026980
【氏名又は名称】株式会社タイカ
(74)【代理人】
【識別番号】100153970
【弁理士】
【氏名又は名称】久納 誠司
(72)【発明者】
【氏名】新谷 健
(72)【発明者】
【氏名】安藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】増田 政彦
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-501136(JP,A)
【文献】特開2016-055637(JP,A)
【文献】特開2016-203633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B22F 1/00-12/90
B23K 9/00-10/02
B28B 1/30
B33Y 10/00-99/00
B65H 16/00-16/10
B65H 20/00-20/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマを材料とする熱可塑性材料からなるフィラメントをプリンタヘッドに供給し、該フィラメントを溶解させて前記プリンタヘッドから出力させることで立体造形を実現する3Dプリンタのうち、前記フィラメントを前記プリンタヘッドまで到達させる供給経路の一部をなすフィラメント供給装置であって、
前記フィラメントを前記プリンタヘッドよりも上方の位置から該プリンタヘッドに向けて搬送する搬送手段と、
前記搬送手段に搬送される前記フィラメントが前記プリンタヘッドに至るまでの供給経路において、該供給経路を搬送される前記フィラメントの表面に、該表面における摩擦係数および粘着性のいずれか一方または両方を低減させるための表面処理剤を付与する表面処理手段と、
前記プリンタヘッドより上方に配置される部材であり、前記搬送手段に搬送される前記フィラメントを所定の長さにわたって支持する支持領域が形成された支持部と、を備え、
前記表面処理手段は、前記支持部の支持領域に沿って搬送される前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与して、
前記支持部は、前記フィラメントの供給経路に沿って延びる溝が前記支持領域として形成されており、
前記表面処理手段は、前記支持領域と近接した位置まで表面処理剤を導入し、該表面処理剤を前記支持領域に向けて放出する管状の導入路によって、前記支持領域に沿って搬送される前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与する、
フィラメント供給装置。
【請求項2】
前記支持部は、前記支持領域における一部が下方へ変位した凹状となっており、
前記表面処理手段は、前記支持領域のうち、凹状となっている領域より前記搬送手段側に位置する上流領域に向けて表面処理剤を放出する導入路によって、前記支持領域に沿って搬送される前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与する、
請求項に記載のフィラメント供給装置。
【請求項3】
前記表面処理手段は、前記支持領域のうち、凹状となっている領域より前記搬送手段側に位置する上流領域に向けて表面処理剤を放出する導入路、および、凹状となっている領域より前記プリンタヘッド側に位置する下流領域に向けて表面処理剤を放出する導入路それぞれによって、前記支持領域に沿って搬送される前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与する、
請求項または請求項に記載のフィラメント供給装置。
【請求項4】
熱可塑性エラストマを材料とする熱可塑性材料からなるフィラメントをプリンタヘッドに供給し、該フィラメントを溶解させて前記プリンタヘッドから出力させることで立体造形を実現する3Dプリンタであって、
前記フィラメントを前記プリンタヘッドよりも上方の位置から該プリンタヘッドに向けて搬送する搬送手段と、
前記搬送手段に搬送される前記フィラメントが前記プリンタヘッドに至るまでの供給経路において、該供給経路を搬送される前記フィラメントの表面に、該表面における摩擦係数および粘着性のいずれか一方または両方を低減させるための表面処理剤を付与する表面処理手段と、を備え、
前記搬送手段および前記表面処理手段が前記フィラメントの供給源から前記プリンタヘッドに至る供給経路の一部をなし、
さらに、
当該3Dプリンタにおいて前記プリンタヘッドより上方に配置される部材であり、前記搬送手段により搬送される前記フィラメントを所定の長さにわたって支持する支持領域が形成された支持部、を備え、
前記支持部は、前記フィラメントの供給経路に沿って延びる溝が前記支持領域として形成されており、
前記表面処理手段は、前記支持領域と近接した位置まで表面処理剤を供給し、該表面処理剤を前記支持領域に向けて放出する管状の導入路によって、前記支持領域に沿って搬送される前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与する、
3Dプリンタ。
【請求項5】
熱可塑性エラストマを材料とする熱可塑性材料からなるフィラメントをプリンタヘッドに供給し、該フィラメントを溶解させて前記プリンタヘッドから出力させることで立体造形を実現する3Dプリンタにおいて、前記フィラメントを前記プリンタヘッドまで到達させる方法であって、
前記フィラメントを前記プリンタヘッドよりも上方の位置から該プリンタヘッドに向けて搬送する搬送手順と、
前記搬送手順にて搬送される前記フィラメントが前記プリンタヘッドに至るまでの供給経路において、該供給経路を搬送される前記フィラメントの表面に、該表面における摩擦係数および粘着性のいずれか一方または両方を低減させるための表面処理剤を付与する表面処理手順と、を有
前記フィラメントは、カートリッジに巻き付けられて前記供給経路を形成しており、
前記表面処理手順では、前記カートリッジに巻き付けられた状態でフィラメント表面に表面処理剤を付与して、
前記搬送手順では、前記表面処理手順にて表面処理剤が付与された前記フィラメントを前記プリンタヘッドよりも上方の位置から該プリンタヘッドに向けて搬送する、
フィラメント供給方法。
【請求項6】
前記フィラメントが巻き付けられた前記カートリッジを前記3Dプリンタに取り付ける取付手順、を有しており、
前記表面処理手順では、前記カートリッジに巻き付けられる前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与して、
前記取付手順では、前記表面処理手順の後にカートリッジを3Dプリンタに取り付ける、
請求項に記載のフィラメント供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメントを溶解させてプリンタヘッドから出力させることで立体造形を実現する3Dプリンタにおいて、フィラメントをプリンタヘッドまで到達させる供給経路の一部をなすフィラメント供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から硬質な熱可塑性材料からなるフィラメントをプリンタヘッドに供給し、このプリンタヘッド内で加熱により溶解させたフィラメントを出力することで立体造形を実現する熱溶解積層方式(FDM方式)の3Dプリンタが活用され、他方式の3Dプリンタに比べてコストパフォーマンスにも優れることから、近年では家庭用としても広く普及が進んできている。
【0003】
FDM方式の3Dプリンタにおいては、フィラメントをプリンタヘッドに安定して供給することが重要であり、種々の提案がなされている。例えば、溶解時の熱が供給経路の上流側に位置するフィラメントまで軟化させ、フィラメントの安定供給が妨げられるという課題に対して、プリンタヘッドに冷却機構を設けて必要な硬度が保てるようにする提案(特許文献1参照)や、ヘッドの目詰まりの不具合や造形品質の改善として、ヘッドに向かう移送経路にかけてフィラメント供給方向とは逆方向(上流側)に乾燥した空気を送り、水分や湿気を排出させることで、フィラメントの移送路において大気中の水分あるいは材料に含有されている水分を低減させる(特許文献2参照)、といったものがあるといったものがある。
【0004】
また、近年のFDM方式の普及とともに柔らかい材料での造形の需要が高まってきた。従来のフィラメントとしては、ABS、PCやPLAをはじめとした硬質な材料が一般的であったが、FDM方式で使用できる硬度としては、シェアA硬度で70程度まで対応できるようになってきた(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-086814号公報
【文献】特開2018-108714号公報
【文献】特開2016-203633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、FDM方式の3Dプリンタにおいては、従来よりも硬度の低い柔軟な熱可塑性材料で形成したフィラメントは、そのままプリンタヘッドに供給しようとすると不具合が発生しやすくなる。
【0007】
例えば、ゴム系フィラメントでは、伸縮変形しやすいことに加え、供給経路を構成する材質と接触したときの表面摩擦抵抗が大きく、また、エラストマなどの材料では、可塑剤などの影響で表面に粘着性を有している場合が多く、このようなフィラメントをそのままプリンタヘッドに供給しようとすると、供給経路との摩擦抵抗が大きくなったり、プリンタヘッドのギアへの貼り付きが発生してフィラメントが変形して詰まったり、意図しない伸縮によって引き戻されたりといった不具合が発生しやすくなり、プリンタヘッドへの安定供給が困難であった。そのため、柔軟な3Dプリンタによる柔軟な造形物を安定的に品質良く得るには、他方式の高価な3Dプリンタでしか実現することが困難であった。
【0008】
このように、これまでのFDM方式の3Dプリンタでは、エラストマのような硬度の低い柔軟な熱可塑性材料をフィラメントとして用いることができず、硬質な立体造形物を造形することしかできないという課題があった。
【0009】
本願発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、硬度の低い柔軟な熱可塑性材料からなるフィラメントによる立体造形を実現するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための第1局面は、硬度の低い柔軟な熱可塑性材料からなるフィラメントをプリンタヘッドに供給し、該フィラメントを溶解させて前記プリンタヘッドから出力させることで立体造形を実現する3Dプリンタのうち、前記フィラメントを前記プリンタヘッドまで到達させる供給経路の一部をなすフィラメント供給装置であって、前記フィラメントを前記プリンタヘッドよりも上方の位置から該プリンタヘッドに向けて搬送する搬送手段と、前記搬送手段に搬送される前記フィラメントが前記プリンタヘッドに至るまでの供給経路において、該供給経路を搬送される前記フィラメントの表面に、該表面における摩擦係数および粘着性のいずれか一方または両方を低減させるための表面処理剤を付与する表面処理手段と、を備えるフィラメント供給装置である。
【0011】
この局面のフィラメント供給装置では、その表面に表面処理剤を付与して摩擦係数の低下や粘着性が低減したフィラメントが上方からプリンタヘッドへと供給されることで、フィラメントと供給経路との摩擦力の発生や貼り付きによってフィラメントが変形して詰まったり、意図しない伸縮によって引き戻されたりといった不具合を発生しにくくすることができる。これにより、熱可塑性エラストマのような硬度の低い柔軟な熱可塑性材料をフィラメントとして用いた立体造形の実現が可能となる。
【0012】
この局面においては、以下に示す第2局面のようにしてもよい。
【0013】
第2局面において、前記プリンタヘッドより上方に配置される部材であり、前記搬送手段に搬送される前記フィラメントを所定の長さにわたって支持する支持領域が形成された支持部、を備え、前記表面処理手段は、前記支持部の支持領域に沿って搬送される前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与する。
【0014】
この局面のフィラメント供給装置では、支持部の支持領域で支持されて搬送されるフィラメントに表面処理剤を付与し、これをプリンタヘッド側へと供給することができる。
【0015】
上記各局面においては、以下に示す第3局面のようにしてもよい。
【0016】
第3局面において、前記支持部は、前記フィラメントの供給経路に沿って延びる溝が前記支持領域として形成されており、前記表面処理手段は、前記支持領域と近接した位置まで表面処理剤を導入し、該表面処理剤を前記支持領域に向けて放出する管状の導入路によって、前記支持領域に沿って搬送される前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与する。
【0017】
この局面のフィラメント供給装置では、支持領域たる溝に沿って搬送されるフィラメントに向けて表面処理剤を放出することにより、フィラメント表面へと直接的に表面処理剤を付与することに加え、残留した表面処理剤を支持領域に滞留させることができる。これにより、支持領域との間にも表面処理剤を介在させた状態でフィラメントが搬送されるようになるため、フィラメントの全周にわたって好適に表面処理剤を付与することが可能となる。
【0018】
この局面においては、以下に示す第4局面のようにしてもよい。
【0019】
第4局面において、前記支持部は、前記支持領域における一部が下方へ変位した凹状となっており、前記表面処理手段は、前記支持領域のうち、凹状となっている領域より前記搬送手段側に位置する上流領域に向けて表面処理剤を放出する導入路によって、前記支持領域に沿って搬送される前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与する。
【0020】
この局面のフィラメント供給装置では、支持領域の一部が凹状となっており、この凹状となっている領域の上流領域に向けて表面処理剤が放出される。これにより、支持領域の凹状となっている領域に表面処理剤が落下して滞留しやすくなるため、フィラメントへとより確実に表面処理剤を付与できるようになる。
【0021】
この局面においては、以下に示す第5局面のようにしてもよい。
【0022】
第5局面において、前記表面処理手段は、前記支持領域のうち、凹状となっている領域より前記搬送手段側に位置する上流領域に向けて表面処理剤を放出する導入路、および、凹状となっている領域より前記プリンタヘッド側に位置する下流領域に向けて表面処理剤を放出する導入路それぞれによって、前記支持領域に沿って搬送される前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与する。
【0023】
この局面のフィラメント供給装置では、支持領域の凹状となっている領域の上流領域だけでなく、下流領域に向けても表面処理剤が放出されるため、この下流領域においてもフィラメントへと追加的に表面処理剤を付与することができる。
【0024】
また、上記課題を解決するための第6局面は、硬度の低い柔軟な熱可塑性材料からなるフィラメントをプリンタヘッドに供給し、該フィラメントを溶解させて前記プリンタヘッドから出力させることで立体造形を実現する3Dプリンタであって、前記フィラメントを前記プリンタヘッドよりも上方の位置から該プリンタヘッドに向けて搬送する搬送手段と、前記搬送手段に搬送される前記フィラメントが前記プリンタヘッドに至るまでの供給経路において、該供給経路を搬送される前記フィラメントの表面に、該表面における摩擦係数および粘着性のいずれか一方または両方を低減させるための表面処理剤を付与する表面処理手段と、を備え、前記搬送手段および前記表面処理手段が前記フィラメントの供給源から前記プリンタヘッドに至る供給経路の一部をなす3Dプリンタである。
【0025】
この局面は、以下に示す第7局面のようにしてもよい。
【0026】
第7局面は、当該3Dプリンタにおいて前記プリンタヘッドより上方に配置される部材であり、前記搬送手段により搬送される前記フィラメントを所定の長さにわたって支持する支持領域が形成された支持部、を備え、前記支持部は、前記フィラメントの供給経路に沿って延びる溝が前記支持領域として形成されており、前記表面処理手段は、前記支持領域と近接した位置まで表面処理剤を供給し、該表面処理剤を前記支持領域に向けて放出する管状の導入路によって、前記支持領域に沿って搬送される前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与する。
【0027】
これら局面の3Dプリンタであれば、上記フィラメント供給装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0028】
また、上記課題を解決するための第8局面は、硬度の低い柔軟な熱可塑性材料からなるフィラメントをプリンタヘッドに供給し、該フィラメントを溶解させて前記プリンタヘッドから出力させることで立体造形を実現する3Dプリンタにおいて、前記フィラメントを前記プリンタヘッドまで到達させる方法であって、前記フィラメントを前記プリンタヘッドよりも上方の位置から該プリンタヘッドに向けて搬送する搬送手順と、前記搬送手順にて搬送される前記フィラメントが前記プリンタヘッドに至るまでの供給経路において、該供給経路を搬送される前記フィラメントの表面に、該表面における摩擦係数および粘着性のいずれか一方または両方を低減させるための表面処理剤を付与する表面処理手順と、を有する、フィラメント供給方法である。
【0029】
この局面のフィラメント供給方法であれば、上記フィラメント供給装置または3Dプリンタによって、熱可塑性エラストマのような硬度の低い柔軟な熱可塑性材料からなるフィラメントをプリンタヘッドに供給するのに好適である。
【0030】
この局面は、以下に示す第9局面のようにしてもよい。
【0031】
第9局面において、前記フィラメントは、カートリッジに巻き付けられて前記供給経路を形成しており、前記表面処理手順では、前記カートリッジに巻き付けられた状態でフィラメント表面に表面処理剤を付与して、前記搬送手順では、前記表面処理手順にて表面処理剤が付与された前記フィラメントを前記プリンタヘッドよりも上方の位置から該プリンタヘッドに向けて搬送する、フィラメント供給方法としてもよい。
【0032】
この局面は、以下に示す第10局面のようにしてもよい。
【0033】
第10局面において、前記フィラメントが巻き付けられた前記カートリッジを前記3Dプリンタに取り付ける取付手順、を有しており、前記表面処理手順では、前記カートリッジに巻き付けられる前記フィラメントの表面に表面処理剤を付与して、前記取付手順では、前記表面処理手順の後にカートリッジを3Dプリンタに取り付ける。
【0034】
これら局面のフィラメント供給方法であれば、カートリッジの状態でフィラメントに表面処理剤を付与できるので、カートリッジからプリンタヘッドまでの従来の供給経路を変更することなく、上記フィラメント供給方法の作用効果が得られる。これにより、熱可塑性エラストマのような硬度の低い柔軟な熱可塑性材料からなるフィラメントをプリンタヘッドに供給するのに好適である。
【0035】
なお、上記局面では、カートリッジに巻き付けられるフィラメントに表面処理剤を付与すればよく、その付与タイミングについては、フィラメントをカートリッジに巻き付ける工程の前後いずれかまたは両方のタイミング、この工程と並行するタイミングのいずれのタイミングであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本実施形態の3Dプリンタを示す概念図
図2】本実施形態のフィラメント供給装置を示す正面図
図3】本実施形態における支持部を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
【0038】
(1)全体構成
【0039】
3Dプリンタ1は、図1に示すように、硬度の低い柔軟な熱可塑性材料からなるフィラメント100をプリンタヘッド10に供給し、このフィラメント100を溶解させてプリンタヘッド10から出力させることで立体造形を実現する装置であり、プリンタヘッド10の他、フィラメント100の供給源となるカートリッジ20、溶解したフィラメント100を堆積させるステージ30、フィラメント100をプリンタヘッド10まで到達させる供給経路の一部をなすフィラメント供給装置2など備える。
【0040】
プリンタヘッド10は、その先端(本実施形態では図1における下端)に向けてフィラメント100を送り出す一対のギア11、一方のギア11を回転駆動するモータ13、ギア11により送り出されたフィラメント100を加熱により溶解させるヒータ15、溶解されたフィラメント100を送出するノズル17、を備えている。なお、このプリンタヘッド10は、図示されない変位機構によりステージ30に対して相対的に変位可能に取り付けられている。
【0041】
カートリッジ20は、回転可能に保持された円筒形状の部材であり、この円筒形状の外周に沿ってフィラメント100が巻回されている。このフィラメント100は、例えば、オレフィン系、スチレン系、塩化ビニル系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマを材料とするものが用いられ、硬度の目安としてA硬度80(JIS K6253)以下であると本発明の効果がより効果的である。
【0042】
本実施形態では、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、アミン変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体及びスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体の3種のブロック共重合体を含有するスチレン系熱可塑性エラストマとして、アスカーC(SRIS0101規格)40の硬度、1.46の動摩擦係数といった物性を示すものが採用されている。
【0043】
フィラメント供給装置2は、図2に示すように、カートリッジ20から供給されたフィラメント100をプリンタヘッド10よりも上方の位置からプリンタヘッド10に向けて搬送する搬送手段40と、搬送手段40に搬送されるフィラメント100を支持する支持部50と、搬送手段40に搬送されたフィラメント100の表面に表面処理剤を付与する表面処理手段60と、を備える。
【0044】
これらのうち、搬送手段40は、フィラメント100の供給経路に沿ってカートリッジ20からフィラメント100を引出して搬送する一対のギア41、一方のギア41を回転駆動するモータ43、を備える。本実施形態では、支持部50がプリンタヘッド10およびカートリッジ20よりも上方に配置され、この支持部50に搬送手段40が備え付けられることにより、プリンタヘッド10よりも上方の位置からプリンタヘッド10に向けてフィラメント100が搬送される構成となっている。
【0045】
また、支持部50は、起立した板状部材として構成されたものであり、その上部側に、カートリッジ20から供給されたフィラメント100を所定の長さにわたって支持する支持領域51が形成されている。本実施形態では、図3に示すように、フィラメント100の供給経路に沿って延びる溝が支持領域51として形成されている。
【0046】
この支持部50は、支持領域51における一部が下方へ変位した凹状となっており、この凹状となっている凹状領域51bを挟んで、搬送手段40側に位置する上流領域51uと、プリンタヘッド10側に位置する下流領域51dとに分かれている。これらの領域51b、51u、51dは、それぞれ曲面をなしており、凹状領域51bが他の領域よりも大きな曲率半径の曲面をなしている。
【0047】
この支持部50は、3Dプリンタ1筐体内において、プリンタヘッド10およびカートリッジ20それぞれよりも上方に配置されたフレーム70の上面に固定される。フレーム70との固定は、支持部50の下端から板状に拡がる面と交差する方向に突出する固定片53を介したネジ止めにより実現される。
【0048】
なお、支持部50における凹状領域51bのうち、最も低い位置には、支持部50を上下方向に貫通する貫通孔55が形成されており、凹状領域51bに放出された表面処理剤が必要以上に滞留しないよう、ここから外部に排出できるように構成されている。
【0049】
また、表面処理手段60は、支持領域51と近接した位置まで表面処理剤を導入し(図2の矢印参照)、この表面処理剤を支持領域51に向けて放出する管状の導入路61、63によって、この支持領域51に沿って搬送されるフィラメント100の表面に表面処理剤を付与する。本実施形態では、支持領域51の上流領域51uに向けて表面処理剤を放出する導入路61、および、支持領域51の下流領域51dに向けて表面処理剤を放出する導入路63により、それぞれの領域に表面処理剤を放出するように構成されている。各導入路61、63への表面処理剤の導入は、これらに接続されたポンプ80により実施される(図1参照)。
【0050】
また、各導入路61、63への表面処理剤の導入量は、フィラメント100表面が全体的に表面処理剤でコーティングされる程度の導入量が設定されており、上流領域51uに対応する導入路61への導入量の方が、下流領域51dに対応する導入路73への導入量よりも多くなるように調整されている。
【0051】
(2)3Dプリンタ1におけるフィラメント供給手順
【0052】
以上説明した3Dプリンタ1では、フィラメント100をプリンタヘッド10よりも上方の位置からプリンタヘッドに供給する搬送手順と、搬送手順にて搬送されるフィラメントがプリンタヘッドに至るまでの供給経路において、フィラメントの表面に表面処理剤を付与する表面処理手順を経て供給され、このフィラメント100を溶解させてプリンタヘッド10から出力させることで立体造形を実現する。この立体造形に際してのフィラメント供給は、より詳しくは以下の手順で行われる。
【0053】
まず、搬送手順として、カートリッジ20から引き出したフィラメント100を、フィラメント供給装置2経由でプリンタヘッド10へと到達させ、このプリンタヘッド10のギア11で挟持させる。フィラメント100は、フィラメント供給装置2を経由させる際、搬送手段40のギア41で挟持させ、支持領域51の上面に沿わせて支持させた状態でプリンタヘッド10にまで到達させる。このとき、フィラメント供給装置2とプリンタヘッド10との間に位置するフィラメント100は、プリンタヘッド10の変位量に応じてある程度弛ませておく。
【0054】
この状態において、プリンタヘッド10のギア11とフィラメント供給装置2のギア41とを同程度の搬送量(又は搬送速度)となるように動作させることで、フィラメント100をプリンタヘッド10よりも上方の位置からプリンタヘッド10に向けて搬送する。
【0055】
こうしてフィラメント100の搬送が開始される際には、表面処理手順として、ポンプ80による表面処理剤の導入も開始させておくことにより、表面処理手段60による表面処理剤の導入および放出を行う。こうして、プリンタヘッド10に至るまでの供給経路(本実施形態では支持領域51)において、この供給経路を搬送されるフィラメント100の表面に表面処理剤を付与する。
【0056】
上述した表面処理剤は、表面の粘着性や摩擦係数を低下させるべくフィラメント100表面に付与されるものであり、フィラメント100の材料である熱可塑性エラストマとの関係で、濡れ性が良好、フィラメント100に吸収されにくい、仮に吸収されたとしても造形物の物性への影響が小さい、プリンタヘッド10での溶解時に揮発しやすい、といった条件を満たすことが好ましい。具体的には、フッ素系・シリコーン系の表面処理剤やオイルなどの液体材料だけでなく、フィラメント100表面に付与可能な材料からなるものであれば、粉体材料を用いることができる。
【0057】
表面処理剤として用いることのできる液体材料のオイルとしては、例えば、鉱物油(パラフィン、ワセリン、ミネラルオイル等)、動植物油(菜種オイル、ヒマシ油、サラダ油、鯨脂等)、合成油(シリコーンオイル等)などが考えられる。また、粉体材料としては、アクリル樹脂(PMMA)粒子、ゼオライト粒子、球状・針状のシリカ粒子、タルク(滑石)粒子などが考えられる。本実施形態では、上記条件の観点から、シリコーン系の表面処理剤が採用されている。
【0058】
(3)表面処理剤による摩擦係数及び粘着性の低減
【0059】
本願出願人は、上述したスチレン系熱可塑性エラストマからなるフィラメント100にシリコーン系の表面処理剤を付与した場合の摩擦係数の低減度合いを試験しており(試験速度100mm/min、荷重50g、摩擦子として大理石ボールφ7mmによるJIS K7125準拠の摩擦摩耗試験)、これによると、動摩擦係数が0.025にまで改善されたことが確認されている。
【0060】
また、表面の粘着性の低減度合いの試験(斜角度20deg、環境温度23°Cによる傾斜式ボールタック試験:JISZ0237)では、表面処理剤を付与することによって、ボールNo.4の状態からボールNo.1以下に低減されることが確認されている。
【0061】
(4)変形例
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0063】
例えば、上記実施形態においては、搬送手段40が支持部50に備え付けられている構成を例示したが、この搬送手段40は、支持部50から独立した部材として離れた位置に設けられた構成としてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、フィラメント100の供給経路に沿って延びる溝が支持領域51として形成されている構成を例示したが、支持部50の上部に供給経路に沿って延びる面として支持領域51が形成された構成としてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、支持部50の支持領域51が板状部材の上部側に形成された溝である構成を例示したが、この支持領域51は、板状部材の側面に形成された溝としてもよいし、支持部50を供給経路に沿って貫通する孔として構成してもよい。
【0066】
上記実施形態では、フィラメント100の材料(スチレン系熱可塑性エラストマ)との関係でシリコーン系の表面処理剤が採用されている構成を例示したが、表面処理剤としては、上述した条件を満たすものであればよく、フィラメント100の材料に応じて、シリコーン系以外の表面処理剤を採用できることはいうまでもない。
【0067】
また、上記実施形態では、表面処理剤の付与を滴下方式としているが、刷毛塗りやロールコーター塗布、噴霧塗布などとしてもよいし、表面処理剤が充填された容器内を通過させるディッピング(浸漬)方式としてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、フィラメント100を引き出して搬送する過程で表面処理剤を塗布する形態であるが、フィラメント100が巻き付けられているカートリッジ20までを供給経路として、このフィラメント100がカートリッジ20から引き出される前の状態で表面処理剤が付与されてもよい。
【0069】
さらに3Dプリンタ1にカートリッジ20が取り付けられる前の状態でフィラメント100に表面処理剤が付与されていてもよく、カートリッジ20にフィラメント100を巻き付ける工程の前後いずれかまたは両方のタイミングや、巻き付ける工程の後のタイミグで表面処理剤を付与すればよい。表面処理剤が付与されたフィラメント100を有したカートリッジ20を3Dプリンタ1に組込めば、カートリッジ20からプリンタヘッド10までの従来の供給経路を変更することなく、上記フィラメント100の搬送方法と同じ作用効果が得られる。
【0070】
このとき、取付手順として、表面処理手順の後に、フィラメント100が巻き付けられたカートリッジ20を3Dプリンタ1に取り付けることとしてもよい。
【0071】
(5)作用,効果
【0072】
本願出願人は、硬度の低い柔軟な熱可塑性材料で形成したフィラメントによる立体造形を実現するにあたり、これまでの3Dプリンタが、安定供給のためにフィラメントに一定の硬度が必要とされていることに着目した。
【0073】
エラストマなどの硬度の低い柔軟な熱可塑性材料でフィラメントを形成したとしても、この種のフィラメントが伸びやすいことはもちろん、供給経路を構成する材質と接触したときの表面摩擦抵抗が大きかったり、可塑剤などの影響で表面の粘着性が大きくなってしまうことから、プリンタヘッドへの供給過程で供給経路との摩擦や貼り付きにより変形して詰まったり、意図しない伸縮によって引き戻されたりといった不具合が発生するためである。
【0074】
つまり、これまでの3Dプリンタでは、エラストマのような硬度の低い柔軟な熱可塑性材料をフィラメントとして用いることができないため、FDM方式では硬質な立体造形物を造形することしかできなかった。本願出願人は、このような課題解決に向けて創意工夫を施した結果、上記のような構成に想到するに至っている。
【0075】
上述した構成では、その表面に表面処理剤を付与して摩擦係数の低下したフィラメント100が上方からプリンタヘッド10へと供給されることで、フィラメント100と供給経路との摩擦や貼り付きで変形して詰まったり、意図しない伸縮によって引き戻されたりといった不具合を発生しにくくすることができる。これにより、熱可塑性エラストマのような硬度の低い柔軟な熱可塑性材料をフィラメントとして用いた立体造形の実現が可能となり、他の方式の高価な3Dプリンタを用いなくてもFDM方式の3Dプリンタで柔軟な立体造形物を得ることができる。
【0076】
また、上記構成においては、支持部50の支持領域51で支持されて搬送されるフィラメント100に表面処理剤を付与し、これをプリンタヘッド10側へと供給することができる。
【0077】
また、上記構成においては、支持領域51たる溝に沿って搬送されるフィラメント100に向けて表面処理剤を放出することにより、フィラメント100表面へと直接的に表面処理剤を付与することに加え、残留した表面処理剤を支持領域51に滞留させることができる。これにより、支持領域51との間にも表面処理剤を介在させた状態でフィラメント100が搬送されるようになるため、フィラメント100の全周にわたって好適に表面処理剤を付与することが可能となる。
【0078】
また、上記構成においては、支持領域51の一部が凹状となっており、この凹状となっている領域51bの上流側にある領域51uに向けて表面処理剤が放出される。これにより、支持領域51の凹状となっている領域51bに表面処理剤が落下して滞留しやすくなるため、フィラメント100へとより確実に表面処理剤を付与できるようになる。
【0079】
また、上記構成においては、支持領域51の凹状となっている領域51bの上流側にある領域51uだけでなく、下流側にある領域51dに向けても表面処理剤が放出されるため、この下流領域51dにおいてもフィラメント100へと追加的に表面処理剤を付与することができる。
【符号の説明】
【0080】
1…3Dプリンタ、2…フィラメント供給装置、10…プリンタヘッド、11…ギア、13…モータ、15…ヒータ、17…ノズル、20…カートリッジ、30…ステージ、40…搬送手段、41…ギア、43…モータ、50…支持部、51…支持領域、51b…凹状領域、51d…下流領域、51u…上流領域、53…固定片、55…貫通孔、60…表面処理手段、61…導入路、63…導入路、70…フレーム、80…ポンプ、100…フィラメント。
図1
図2
図3